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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) B23K
管理番号 1101028
審判番号 不服2001-15274  
総通号数 57 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 1992-10-19 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2001-08-30 
確定日 2004-08-05 
事件の表示 平成 3年特許願第 83575号「A1-Si-Ti3元合金ろう材」拒絶査定不服審判事件〔平成 4年10月19日出願公開、特開平 4-294890〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本願は、特許法第30条第1項適用を申請した平成3年3月22日の出願であって、平成13年7月23日付けで拒絶査定がなされ、平成13年8月30日に審判請求がなされ、その後前置審査において平成14年1月7日付けで拒絶理由が通知されたが、これに対し、請求人から何ら応答がなかったものである。

2.本願補正発明
本願の請求項1乃至請求項3に係る発明は、平成13年9月27日付け手続補正書で補正された明細書の特許請求の範囲に記載されたとおりのものであるところ、本願の請求項1に係る発明は、次のとおりである(以下、「本願補正発明1」という)。
「セラミックス同士をろう接するろう材であって、Tiを0.1〜2.0wt%、Siを0.07〜12.0wt%含み、残部はAlと不可避的不純物とからなることを特徴とするAl-Si-Ti3元合金ろう材(ただし、Ti 1.0wt%以下およびSi 0.16〜0.51wt%、または、Ti 0.19〜0.47wt%およびSi 10.0wt%以下の範囲を除く)。」

3.当審の判断
3-1.特許法第30条第1項適用の適否について
本願は、特許法30条第1項適用を申請してなされたものであり、そして、新規性の喪失の例外の規定の適用を受けるための証明書に添付された刊行物は、日本金属学会1990年秋期(第107回)大会において配布された「日本金属学会講演概要 1990年秋期(第107回)大会 P.409」というものである。
しかしながら、上記刊行物は、その発行日が表紙に記載のとおり「平成2年9月10日 発行」であるから、本願出願日の平成3年3月22日の6月以前に頒布されたものであることが明らかである。また、審判請求人(本願出願人)は、上記「日本金属学会講演概要」の刊行物が本願出願日の6月以内に学会員等に印刷配布されたものであるとも明らかにしていない。
してみると、本出願は、上記刊行物への発表によって本願発明の新規性が喪失してから6月以内になされたものではないから、上記刊行物への発表という事実をもっては特許法第30条第1項の適用を受けることはできない。
また、審判請求から30日以内になされた平成13年9月27日付け手続補正書で補正された請求項1に係る発明は、上記2.に示すとおり、上記刊行物に記載された組成範囲を除くものであり、したがって、このように補正された発明は、上記刊行物に記載された発明であるとは云えず、特許法第30条第1項でいう「特許法第29条第1項各号の一に該当するに至った発明」にはあたらないから、この理由によっても、本願は、特許法第30条第1項の適用を受けることはできない。
3-2.進歩性について
(1)引用例の記載事項
本願は、上記刊行物への発表という事実をもっては特許法第30条第1項の適用を受けることはできないから、前置審査における平成14年1月7日付け拒絶理由通知において引用された上記刊行物、すなわち引用例1(「日本金属学会講演概要 1990年秋期(第107回)大会」平成2年9月10日、日本金属学会発行、P.409)は、本願出願前に頒布された刊行物として取り扱うこととする。そして、平成14年1月7日付け拒絶理由通知において引用された引用例1乃至3には、それぞれ次の事項が記載されている。
(i)引用例1:「日本金属学会講演概要 1990年秋期(第107回)大会」平成2年9月10日 日本金属学会発行、P.409
(1a)「目的:アルミニウムによる窒化けい素のろう接に際して、少量のけい素及びチタンはろう接体の信頼性と強度を高くする。添加量が多くなるとろう自身が硬く、脆くなり、好ましくない。けい素とチタンが接合に影響する仕組みは異なるので、この2つの合金元素の各々の特性を生かせば、ろう接体の信頼性と強度をさらに上げられる可能性があると考えられ、本研究ではけい素とチタンの複合添加の影響について調べた。」
(1b)「実験方法:用いた4種類のアルミニウム合金の組成を図1に示し、窒化けい素は東芝セラミックス製FFX-200である。2つの13×16×20mmの大きさの窒化けい素の間に厚さ0.2mmのアルミニウム合金薄板を挟み、1073Kと1173Kの2つの温度で15分間,1.33mPa真空中で接合を行った。接合した試料から曲げ試験片を切り出し、4点曲げ強度を測定した。」
(1c)「結果:図1にろう接体の曲げ強度のWeibull分布を示す。Al-0.28wt%Si-0.19wt%Ti合金ろうを用いて、1073Kと1173Kでろう接した接合体は強度がそれぞれ360MPaと430MPaとなり、Weibull係数が7と17と高くなる。これはAl-Si、Al-Ti2元合金のろう接体より遙かに高い。けい素とチタンを複合したろうはろう接によい結果をもたらした。」
(ii)引用例2:「日本金属学会講演概要 1988年春期(第102回)大会」昭和63年3月15日、日本金属学会発行、P.350
(2a)「目的:窒化ケイ素とアルミニウムを接合する場合、アルミニウムに含まれている合金元素が接合強度にどのような影響を持っているのかまだ明らかでない。本研究では合金元素としてMg,Siを選びその影響について調べた。」
(2b)「方法:用いたアルミニウム合金はSiを0.06,0.33,1.00,10.6mass%、Mgを0.11,0.50mass%含んだ6種類であり、窒化ケイ素セラミックスは東芝セラミックス製で、焼結助剤としてAl2O3とY2O3を含んだものである。2つの13×16×200mmの大きさの窒化ケイ素セラミックスの間に厚さ0.2mmのアルミニウム合金薄板を挟み、1073Kで15分間、1.33×10-3Paの真空中で接合を行なった。接合した試料から曲げ試験片を切り出し、4点曲げ強度を測定した。強度が変化する原因を調べるために、破断面をSEMで観察した。」
(2c)第1図には、純Al、2種類のAl-Mg合金及び4種類のAl-Si合金についてそれらのろう接体の曲げ強度に対する信頼性の関係が示されている。
(iii)引用例3:「日本金属学会講演概要 1989年春期(第104回)大会」平成元年3月20日、日本金属学会発行、P.152
(3a)「「目的:窒化ケイ素とろう材としてのアルミニウムとの接合は、内部応力の低減を軟質金属のアルミニウムが兼ねる点で有利である。この接合体の信頼性を高めるには、複合体の強度のWeibull係数におよぼすろう材の組成について検討する必要がある。本研究ではアルミニウム合金に含まれる合金元素としてのチタンの影響について調べた。」
(3b)「方法:用いたアルミニウム合金はチタンを0.07,0.48,0.82mass%含んだ3種類であり、窒化ケイ素は東芝セラミックス製である。2つの13×16×20mmの大きさの窒化ケイ素の間に厚さ0.2mmのアルミニウム合金薄板を挟み、1073Kと1173Kの2つの温度で15分間、1.33×10-3Paの真空中で接合を行なった。接合した試料から曲げ試験片を切り出し、4点曲げ強度を測定した。また、SEMで・・・接合界面を分析した。」
(3c)第1図には、ろう接体のWeibull分布を調べるために1073Kにおける純Al、3種類のAl-Ti合金及び1173Kにおける3種類のAl-Ti合金について、それらの曲げ強度に対する信頼性の関係が示されている。
(2)対比・判断
引用例1には、Al-Si-Ti3元合金ろうによる窒化けい素セラミックスの接合」と題して、「実験方法:用いた4種類のアルミニウム合金の組成を図1に示し、窒化けい素は東芝セラミックス製FFX-200である。2つの13×16×20mmの大きさの窒化けい素の間に厚さ0.2mmのアルミニウム合金薄板を挟み、1073Kと1173Kの2つの温度で15分間,1.33mPa真空中で接合を行った。接合した試料から曲げ試験片を切り出し、4点曲げ強度を測定した。」(上記(1b)参照)と記載されているから、引用例1には、「窒化けい素をろう付けする4種類のアルミニウム合金ろう材」が記載されていることは明らかであり、そして、図1には、この4種類のアルミニウム合金ろう材の組成として、Al-0.19%Si-0.20%Ti、Al-0.16%Si-0.37%Ti、Al-0.28%Si-0.19%Ti及びAl-0.51%Si-0.47%Tiが記載されているから、これら記載の中から、「Al-0.28%Si-0.19%Ti」のアルミニウム合金ろう材を選択して本願補正発明1の記載ぶりに則って整理すると、引用例1には、「窒化けい素同士をろう接するろう材であって、Al-0.28%Si-0.19%TiのAl-Si-Ti3元合金ろう材」という発明(以下、「引例1発明」という)が記載されていると云える。
そこで、本願補正発明1と引例1発明とを対比すると、引例1発明の「窒化けい素」は、本願補正発明1の「セラミックス」に相当し、引例1発明も、不可避不純物を当然含有するものであるから、両者は、「セラミックス同士をろう接するろう材であって、残部Alと不可避的不純物を含有するAl-Si-Ti3元合金ろう材」という点で一致し、次の点で相違していると云える。
相違点:本願補正発明1は、その成分組成が「Tiを0.1〜2.0wt%、Siを0.07〜12.0wt%(ただし、Ti 1.0wt%以下およびSi 0.16〜0.51wt%、または、Ti 0.19〜0.47wt%およびSi 10.0wt%以下の範囲を除く)」であるのに対し、引例1発明は、Al-0.28%Si-0.19%Tiである点。
次に、この相違点について検討する。
本願補正発明1では、「Ti 1.0wt%以下およびSi 0.16〜0.51wt%、または、Ti 0.19〜0.47wt%およびSi 10.0wt%以下の範囲を除く」と規制しているが、本願明細書には、この範囲を除く根拠やその臨界的な効果について何ら記載されておらず、単に引用例1等に記載の具体例をその組成範囲から形式的に除いただけのものであるから、本願補正発明1の上記相違点は、引用例1のその余の3種類の具体的な組成をも参考にすれば容易に想到することができたと云うべきである。
さらに言及するならば、引用例2には、セラミックス同士をろう接するAl-Si2元合金において、そのSi含有量を0.06%、0.33%、1.00%及び10.6%とした具体例が記載され、「微量のSiは接合強度に良い影響を与える。」とも記載されている。また、引用例3にも、セラミックス同士をろう接するAl-Ti2元合金において、そのTiを0.07%、0.48%及び0.82%とした具体例が記載され、Al-Si2元合金と同様に、Tiを含んだAl合金について「これは界面の接合強度が強くなったことを示唆している。」とも記載されている。
このように、セラミックス同士をろう接する2元系Al合金ろう材において、TiやSiを一定量含有すればその接合強度の強化等に有効であることが既に知られたことであり、しかも、本願補正発明1の「Ti 0.19〜0.47wt%およびSi 10.0wt%以下の範囲を除く」範囲内のTi及びSiの含有量、すなわちSi 10.6%及びTi 0.82%という具体的な含有量についても、引用例2及び引用例3にそれぞれ例示されているのであるから、本願補正発明1の上記相違点は、引用例1に記載の具体的な組成と引用例2及び引用例3の具体例とを参考にすれば当業者であれば容易に想到することができたと云うべきである。
そして、本願補正発明1において「Tiを0.1〜2.0wt%、Siを0.07〜12.0wt%(ただし、Ti 1.0wt%以下およびSi 0.16〜0.51wt%、または、Ti 0.19〜0.47wt%およびSi 10.0wt%以下の範囲を除く)。」とした点にその臨界的な意義を認めることができないことは前示のとおりであるから、本願補正発明1の効果も、当業者が容易に予想することができる程度のものであることは明らかである。
したがって、本願補正発明1は、上記引用例1に記載された発明に基づいて、又は引用例1乃至引用例3に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。

4.むすび
以上のとおり、本願は、少なくとも本願補正発明1が特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、その余の発明について検討するまでもなく、拒絶されるべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2004-06-08 
結審通知日 2004-06-08 
審決日 2004-06-21 
出願番号 特願平3-83575
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (B23K)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 小川 進小川 進  
特許庁審判長 沼沢 幸雄
特許庁審判官 平塚 義三
酒井 美知子
発明の名称 A1-Si-Ti3元合金ろう材  
代理人 小松 高  
代理人 和田 憲治  
代理人 萩原 康司  

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