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審決分類 審判 全部申し立て 発明同一  B41M
管理番号 1101078
異議申立番号 異議2002-72168  
総通号数 57 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 1993-03-19 
種別 異議の決定 
異議申立日 2002-09-04 
確定日 2003-12-04 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第3262568号「水性記録用インク組成物を用いた記録方法」の請求項1ないし3に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 訂正を認める。 特許第3262568号の請求項1ないし3に係る特許を取り消す。 
理由 I.手続の経緯
本件特許第3262568号の請求項1ないし3に係る発明は、平成3年9月9日に出願され、平成13年12月21日にその設定登録がなされ、その後、コニカ株式会社より特許異議の申し立てがなされ、平成14年10月30日付けで取消理由通知がなされ、その指定期間内である平成15年1月9日に訂正請求がなされたものである。

II.訂正の適否についての判断
1.訂正の内容
(1).訂正事項a
特許請求の範囲の【請求項1】中の、「有機溶剤」との記載を、「有機溶剤(但し、炭素数1〜4の1級アルコールを含まない)」と訂正する。

(2).訂正事項b
発明の詳細な説明の【0018】中の、「有機溶剤」との記載を、「有機溶剤(但し、炭素数1〜4の1級アルコールを含まない)」と訂正する。

(3).訂正事項c
発明の詳細な説明の【0026】中の、「メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール等直鎖」との記載を、「炭素数1〜4の1級アルコールを除く、直鎖」と訂正する。

(4).訂正事項d
発明の詳細な説明の【0028】中の、「1・2・6-ヘキサトルオール」及び「1・3-ジメチル-2-イミダゾリジノン」との記載を、それぞれ、「1,2,6-ヘキサトルオール」及び「1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノン」と訂正する。

2.訂正の目的の適否、新規事項の追加の有無、及び特許請求の範囲の拡張または変更の存否
(1).訂正事項aについて
訂正事項aは、特許請求の範囲の請求項1において、「有機溶剤」として、「有機溶剤(但し、炭素数1〜4の1級アルコールを含まない)」と、炭素数1〜4の1級アルコールを除く有機溶剤に特定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とする訂正に該当する。また、該訂正は、新規事項の追加には該当しないし、特許請求の範囲を拡張あるいは変更するものでもない。

(2).訂正事項b及びcについて
訂正事項b及びcは、上記訂正事項aの訂正に伴って生じた特許請求の範囲と、発明の詳細な説明との不整合箇所を、発明の詳細な説明において正すものであるから、明りょうでない記載の釈明を目的とする訂正に該当し、また、該訂正は、新規事項の追加には該当しないし、特許請求の範囲を拡張あるいは変更するものでもない。

(3).訂正事項dについて
訂正事項dは、化合物の名称中には通常「,」が用いられており、「,」とするところを「・」とした、明らかな誤記であるから、誤記の訂正を目的とする訂正に該当し、また、該訂正は、願書に添付された明細書に記載された事項の範囲内の訂正であって、新規事項の追加には該当しないし、特許請求の範囲を拡張あるいは変更するものでもない。

3.むすび
以上のとおりであるから、上記訂正請求は、特許法等の一部を改正する法律(平成6年法律第116号)附則第6条第1項の規定によりなお従前の例によるとされる、平成11年改正前の特許法第120条の4第3項において準用する平成6年法律第116号による改正前の特許法第126条第1項ただし書、第2項の規定に適合するので、当該訂正を認める。

III.本件発明
上記II.のとおり、本件明細書の訂正請求は認められるので、本件特許発明は、訂正請求書に添付された全文訂正明細書の特許請求の範囲の請求項1ないし3に記載された次のとおりのもの(以下、「本件発明1」ないし「本件発明3」という。)である。
「【請求項1】 駆動周波数3kHz以上として駆動し、インク吐出ノズル解像度を180ドット/インチ以上とし、インク滴をノズルより吐出させて該インク滴を被記録体に付着させて記録を行う水性記録用インク組成物を用いた記録方法において、
前記インクが着色剤と、有機溶剤(但し、炭素数1〜4の1級アルコールを含まない)と、ポリオキシエチレンアセチレングリコール類の非イオン性界面活性剤とを含み、
25℃における表面張力が35dyn/cm以下で、20℃における粘度が20mPa・sec以下である水性記録用インク組成物を用い、かつ1ドット当りのインク吐出量が0.1μg以下とすることを特徴とする水性記録用インク組成物を用いた記録方法。
【請求項2】 前記インク中に含まれる有機溶剤が、エチレンオキサイド基をその構造中に含み、平均分子量1000以下のアルコール系溶剤の中から、1種以上選ばれることを特徴とする請求項1記載の水性記録用インク組成物を用いた記録方法。
【請求項3】 前記インク中に含まれる有機溶剤の添加量が、インク全重量に対し10重量%以上であることを特徴とする請求項1記載の水性記録用インク組成物を用いた記録方法。」

IV.取消理由1の概要
当審で通知した取消理由1の概要は、以下のとおりである。
本件発明1ないし3は、先願1ないし先願2に記載された発明であるから、特許法第29条の2の規定により、特許を受けることができない。

先願1〔特願平3-12486号(特開平4-239068号公報参照)、特許異議申立人コニカ株式会社が提示した甲第1号証。〕
先願2〔特願平3-12487号(特開平4-239067号公報参照)、特許異議申立人コニカ株式会社が提示した甲第2号証。〕
実験成績証明書〔コニカ株式会社技術センター IJTセンター 佐藤直樹作成、特許異議申立人コニカ株式会社が提示した甲第3号証。〕
技術資料〔「サーフィノール400シリーズ」第1〜3頁、日信化学工業株式会社、昭和51年6月発行、特許異議申立人コニカ株式会社が提示した甲第7号証。〕
参考文献〔「アセチレノールEシリーズ」のパンフレット、川研ファインケミカル株式会社、特許異議申立人コニカ株式会社が提示した参考資料1〕

V.先願等に記載された事項
先願1には次の事項が記載されている。
(1a)「色材、水、水溶性溶剤及びアセチレンアルコール又はその誘導体を必須成分として含有するインクにおいて、上記インク中の揮発性成分を除いた残りの不揮発性成分の混合物の粘度が2cps以上1,200cps未満(25℃)であることを特徴とするインク。」(特許請求の範囲の請求項1)
(1b)「【発明が解決しようとしている問題点】そこで、本発明の目的は、上記普通紙対応型インクジェット記録に用いられるインクとして必要な性能である、印字性能(定着性、OD、印字品位)、信頼性(固着特性)及び吐出特性(吐出安定性、吐出速度、周波数応答性、初期吐出特性)の全ての性能に優れたインク、高速記録を可能とするインクジェット記録方法及びかかるインクを用いた機器を提供することにある。」(【0006】)
(1c)「実施例1
ジエチレングリコール 10部
グリセリン 6部
エチルアルコール 3.5部
C.I.フードブラック2 1.75部
下記染料A 1.05部
下記染料B 0.7部
アセチレンアルコールエチレンオキシド付加物(商品名:
アセチレノールEH、川研ファインケミカルズ製) 0.15部
酢酸リチウム 0.1部
水 76.75部
(不揮発性成分の粘度500cps(25℃))
・・・・・上記の各成分をビーカーにて混合し・・・・・本発明のインクとした。このインクを使用して、熱エネルギーの作用によりインクを吐出させるキヤノン製インクジェットプリンター(解像度360DPI、インク吐出量50pl)で普通紙印字を行った。」(【0027】〜【0029】)
(1d)「実施例4
ジエチレングリコール 10部
グリセリン 6部
エチルアルコール 3.5部
C.I.ダイレクトイエロー86 2部
アセチノールEH 0.15部
酢酸リチウム 0.1部
水 78.25部
(不揮発性成分の粘度300cps(25℃))
実施例5
ジエチレングリコール 10部
グリセリン 6部
エチルアルコール 3.5部
C.I.ダイレクトブルー199 2.5部
アセチノールEH 0.15部
酢酸リチウム 0.1部
水 77.75部
(不揮発性成分の粘度300cps(25℃))」(【0032】〜【0033】)
(1e)「上記実施例1〜6のインクを使用して普通紙印字を行ったところ、いずれの紙に対しても定着性は15秒以内と優れていた。又、ODはいずれの紙に対しても1.3以上と高濃度の印字であった。更に印字品位についても紙の凹凸の影響もなく、真円に近いドットが得られた為良好であった。・・・・・又、吐出速度は12m/sと大きく周波数応答性は5KHzと優れていた。」(【0038】)
〔尚、【0027】の実施例1には、「アセチレンアルコールエチレンオキシド付加物(商品名:アセチレノールEH、川研ファインケミカルズ製)」と記載されていて、上記「アセチノールEH」は、「アセチレノールEH」の誤記と認める。〕
以上の記載から、先願1には、次の発明が記載されている。
「実施例4及び5に記載されたインク(摘記事項(1d)参照)を用い、インクジェットプリンター(解像度360DPI、インク吐出量50pl)により、周波数応答性は5KHzで、普通紙に記録する、インクジェット記録方法」(以下、「先願1発明」という。)

先願2には次の事項が記載されている。
(2a)「オリフィス先端と電気・熱変換体等の液滴発生手段とを結ぶ線上におけるヘッド構成部品が少なくとも2種以上で形成されているインクジェット記録用ヘッドに使用されるインクであって、色材、水及びHLB値が10〜20の界面活性剤を必須成分として含有することを特徴とするインク。」(特許請求の範囲の請求項1)
(2b)「【発明が解決しようとしている問題点】そこで、本発明の目的は、上記普通紙対応型インクジェット記録に用いられるインクとして必要な性能である、印字性能(定着性、OD、印字品位)、信頼性(固着特性)及び吐出特性(吐出安定性、吐出速度、周波数応答性、初期吐出特性)の全ての性能に優れたインク、高速記録を可能とするインクジェット記録方法及びかかるインクを用いた機器を提供することにある。」(【0006】)
(2c)「実施例1
ジエチレングリコール 7部
C.1.フードブラック2 3部
エチルアルコール 3部
N-ヒドロキシエチル-p-トルエンスルホンアミド 5部
アセチレンアルコールエチレンオキシド付加物(商品名:アセチレ
ノールEH、川研ファインケミカルズ製、HLB値17) 0.05部
水 1.95部
・・・・・このインクを使用して、熱エネルギーの作用によりインクを吐出させるキヤノン製インクジェットプリンター(解像度400DPI、インク吐出量24pl、低コスト型ヘッド)で普通紙印字を行った。・・・・・又、吐出速度は12m/sと大きく周波数応答性は5KHzと優れていた。」(【0027】)
(2d)「実施例4
ジエチレングリコール 10部
グリセリン 6部
C.1.フードブラック2 3部
エチルアルコール 3.5部
アセチノールEH 0.15部
水 77.35部
このインクを使用して普通紙印字を行ったところ、いずれの紙に対しても定着性は15秒以内と優れていた。又、ODはいずれの紙に対しても1.3以上と高濃度の印字であった。更に印字品位についても紙の凹凸の影響もなく、真円に近いドットが得られた為良好であった。・・・・又、吐出速度は12m/sと大きく周波数応答性は5KHzと優れていた。」(【0030】)〔尚、【0027】の実施例1には、「アセチレンアルコールエチレンオキシド付加物(商品名:アセチレノールEH、川研ファインケミカルズ製、HLB値17)」と記載されていて、上記「アセチノールEH」は、「アセチレノールEH」の誤記と認める。〕
以上の記載から、先願2には、次の発明が記載されている。
「実施例4に記載されたインク(摘記事項(2d)参照)を用い、インクジェットプリンター(解像度400DPI、インク吐出量24pl)により、周波数応答性は5KHzで、普通紙に記録する、インクジェット記録方法」(以下、「先願2発明」という。)

実験成績証明書には次の事項が記載されている。
「実験方法及び結果 表面張力の測定は自動表面張力計・・・を用い、粘度の測定は振動式粘度計・・・を用いて行った。
特開平4-239067号公報 実施例4の追試・・・・・
(結果)
表面張力 34.8mN/m
粘度(25℃) 1.8mPa・s
特開平4-239068号公報 実施例4の追試・・・・・
(結果)
表面張力 33.5mN/m
粘度 1.7mPa・s
特開平4-239068号公報 実施例5の追試・・・・・
(結果)
表面張力 34.8mN/m
粘度 1.7mPa・s」

技術資料には、次の事項が記載されている。
「サーフィノール400シリーズは,サーフィノール104(2,4,7,9-テトラメチル-5-デシン-4,7-ジオール)にエチレンオキサイドを付加した液状非イオン界面活性剤で,下記の構造式で示されます。アセチレン結合を持つ特異な分子構造のために,他のアセチレン・グリコールと同じく,優れた濡れ(湿潤力),消泡あるいは低起泡性,金属の酸化防止効果を持っていますが,さらに非イオン界面活性剤中でも抜群の耐アルカリ性を持っています。

サーフィノール400シリーズには,エチレンオキサイドの付加モル数によりサーフィノール440,サーフィノール465,サーフィノール485の3種類があります。」

参考文献には、次の事項が記載されている。
「アセチレノールEシリーズは、アセチレノールE-O(2,4,7,9-テトラメチル-5-デシン-4,7-ジオール)にエチレンオキサイドを付加した液状非イオン界面活性剤で、下記の構造式で示されます。アセチレン結合を持つ特異な分子構造のために、他のアセチレン・グリコールと同じく優れた濡れ(湿潤力)、消泡力、あるいは低気泡性、金属の酸化防止効果を持っています。さらに非イオン界面活性剤中でも抜群の耐アルカリ性を持っています。

アセチレノールEシリーズには、エチレンオキサイドの付加モル数によりアセチレノールEL、アセチレノールEHの2種類があります。」

VI.対比・判断
1.本件発明1について
1-1.先願1に対して
〔対比〕
本件発明1と先願1発明とを対比すると、先願1発明の「周波数応答性は5KHz」、「解像度360DPI」、「インクジェット記録方法」、「インク吐出量50pl」(注:インクの比重を1とすると、50pl=0.05μg)は、それぞれ本件発明1の「駆動周波数3kHz以上として駆動」、「インク吐出ノズル解像度を180ドット/インチ以上」、「インク滴をノズルより吐出させて該インク滴を被記録体に付着させて記録を行う記録用インク組成物を用いた記録方法」、「1ドット当りのインク吐出量が0.1μg以下」に相当するから、両者は、
「駆動周波数3kHz以上として駆動し、インク吐出ノズル解像度を180ドット/インチ以上とし、インク滴をノズルより吐出させて該インク滴を被記録体に付着させて記録を行う記録用インク組成物を用いた記録方法において、1ドット当りのインク吐出量が0.1μg以下とする記録方法。」
の点で一致する。
一方、インクとして、本件発明1が、
(ア)「着色剤と、有機溶剤(但し、炭素数1〜4の1級アルコールを含まない)と、ポリオキシエチレンアセチレングリコール類の非イオン性界面活性剤とを含み」、
(イ)「25℃における表面張力が35dyn/cm以下で、20℃における粘度が20mPa・sec以下」、
(ウ)「水性記録用インク組成物」、
としているのに対し、先願1発明は、上記(ア)〜(ウ)の様な規定をしていない(実施例4及び5で具体的にインクの組成は示されている)点で一応相違するので、以下に検討する。

〔(ア)について〕
(着色剤)
先願1発明の色材である、「C.I.ダイレクトイエロー86」(実施例4)、「C.I.ダイレクトブルー199」(実施例5)は、本件発明1の「着色剤」に相当することは明らかであるから、「着色剤」を含む点で両者に差異はない。

(有機溶剤(但し、炭素数1〜4の1級アルコールを含まない))
「有機溶剤(但し、炭素数1〜4の1級アルコールを含まない)」として、本件明細書の段落番号【0026】には、「エチレンオキサイド基を有する平均分子量1000以下のアルコール系有機溶剤としては、炭素数1〜4の1級アルコールを除く、直鎖、およびイソペンチルアルコール、3-エチル-1-ブタノール等分岐の1価のアルコール、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ポリエチレングリコール#200、#300、#400、#600等グリコール類、およびそれらのモノエーテル化物、モノエステル化物が使用できる。」と記載されている。
一方、先願1の実施例4及び5に記載されたインクは、上記本件の「有機溶剤(但し、炭素数1〜4の1級アルコールを含まない)」として例示された「ジエチレングリコール」を10部(全体で100部)含んでいるから、両者は、「有機溶剤(但し、炭素数1〜4の1級アルコールを含まない)」を含む点で差異はない。
なお、本件訂正の意図するところが「インクが・・・を含む(但し、炭素数1〜4の1級アルコールを含まない)」、すなわち、インクに「炭素数1〜4の1級アルコールを含まない」ということだとしても、次の理由により、有機溶剤の点で、両者に、実質的な差異があるとすることはできない。
すなわち、本件のインクに含むことができる有機溶剤として、出願当初の明細書では、段落番号0026に、エチルアルコール等の「炭素数1〜4の1級アルコール」も例示され、「炭素数1〜4の1級アルコール」を排除するものではなかったし、「有機溶剤(但し、炭素数1〜4の1級アルコールを含まない)」以外に、「炭素数1〜4の1級アルコール」を含まないものが、「有機溶剤(但し、炭素数1〜4の1級アルコールを含まない)」及び「炭素数1〜4の1級アルコール」の両方を含むものと比べて優れていることを示す実施例(比較例を含めて)は記載されていないし、それを示唆する記載もない。また、インクジェット記録用のインクに用いる水溶性の有機溶剤として、エチルアルコール(炭素数1〜4の1級アルコール)等のアルコール類及びジエチレングリコール、トリエチレングリコール等の多価アルコール類は従来よりよく知られていた(必要とあれば、特開昭56-5871号公報(特許異議申立人コニカ株式会社が提示した甲第5号証)特に3頁、特開昭61-57383号公報特に6頁、特開昭61-68287号公報特に3〜4頁、等参照)ものと認められるから、有機溶剤として、「炭素数1〜4の1級アルコール」を含まない、とすることは、周知の材料のなかでの限定に過ぎず、課題解決のための具体化手段における微差であると認められる。したがって、両者に実質的な差異はない。

(ポリオキシエチレンアセチレングリコール類の非イオン性界面活性剤)
「ポリオキシエチレンアセチレングリコール類の非イオン性界面活性剤」に関し、本件明細書の段落番号【0027】には、「ポリオキシエチレンアセチレングリコール類」としては、サーフィノール104、サーフィノール465等が挙げられる旨記載され、実施例は全て、サーフィノール104(実施例1-2)、サーフィノール465(実施例1-1、1-3、1-4)を用いた例である。
ところで、上記技術資料「サーフィノール400シリーズ」第1〜3頁、によれば、サーフィノール104、サーフィノール465は、次の一般式で示されるものである。

一方、先願1の実施例4、5に記載されたインクは、「アセチレノールEH」(なお、「アセチノールEH」と記載されているが、「アセチレノールEH」の誤記と認める。)を用いているが、参考資料1によれば、「アセチレノールEH」は、本件発明の実施例で使用されている「サーフィノール」と同じ上記一般式で示されるものであることは明らかである。
してみると、先願1発明も、「ポリオキシエチレンアセチレングリコール類の非イオン性界面活性剤」を含んでおり、この点で、両者に差異はない。

〔(イ)について〕
上記実験成績証明書によれば、先願1の実施例4、5に記載されたインクは、表面張力:33.5mN/m(実施例4)、34.8mN/m(実施例5)、粘度:1.7mPa・s(実施例4及び5)であり、そして、mN/m=dyn/cmであるから、本件発明1の、表面張力が35dyn/cm以下、及び粘度(25℃)が20mPa・s以下を満足しているものと認められ、両者に実質的な差異はない。

〔(ウ)について〕
先願1の発明のインク(記録用インク組成物)は、インク全量100重量部のうち、水を78.25重量部(実施例4)ないし77.75重量部(実施例5)用いていて、「水性」であることは明らかであるから、「水性」の点で、両者に差異はない。

〔まとめ〕
よって、本件発明1は、先願1に記載された発明と同一である。

1-2.先願2に対して
〔対比〕
本件発明1と先願2発明とを対比すると、先願2発明の「周波数応答性は5KHz」、「解像度400DPI」、「インクジェット記録方法」、「インク吐出量50pl」(注:インクの比重を1とすると、24pl=0.024μg)は、それぞれ本件発明1の「駆動周波数3kHz以上として駆動」、「インク吐出ノズル解像度を180ドット/インチ以上」、「インク滴をノズルより吐出させて該インク滴を被記録体に付着させて記録を行う記録用インク組成物を用いた記録方法」、「1ドット当りのインク吐出量が0.1μg以下」に相当するから、両者は、
「駆動周波数3kHz以上として駆動し、インク吐出ノズル解像度を180ドット/インチ以上とし、インク滴をノズルより吐出させて該インク滴を被記録体に付着させて記録を行う記録用インク組成物を用いた記録方法において、1ドット当りのインク吐出量が0.1μg以下とする記録方法。」
の点で一致する。
また、インクとして、本件発明1が、「1-1.先願1に対して」の項で述べたように、(ア)〜(ウ)の様な規定をしているのに対し、先願2発明は、上記(ア)〜(ウ)の様な規定をしていない(実施例4で具体的にインクの組成は示されている)点で一応相違するので、以下に検討する。

〔(ア)について〕
先願2の「C.I.フードブラック2」は、本件発明1の「着色剤」に相当する。
また、着色剤以外の、ジエチレングリコールを10部(全体で100部)及びアセチレノールEH(アセチノールEHと誤記されている)を用いている点で先願1発明のインクと差異はないから、「1-1.先願1に対して」の項で述べたのと同じ理由により、本件発明1と先願2発明とは、(ア)の点で差異はない。

〔(イ)について〕
また、上記実験成績証明書によれば、先願2の実施例4に記載されたインクは、表面張力:34.8mN/m、粘度(25℃):1.8mPa・sであり、そして、mN/m=dyn/cmであるから、本件発明1の、表面張力が35dyn/cm以下、及び粘度(25℃)が20mPa・s以下を満足しているものと認められ、両者に実質的な差異はない。

〔(ウ)について〕
先願2の実施例4に記載されたインク(記録用インク組成物)は、インク全量100重量部のうち、水を77.35重量部(実施例4)用いるものであるから、「水性」であり、両者に差異はない。

〔まとめ〕
よって、本件発明1は、先願2に記載された発明と同一である。

2.本件発明2、3について
本件発明2及び3は、どちらも本件発明1を引用して記載し、更に本件発明2が、有機溶剤として、「エチレンオキサイド基をその構造中に含み、平均分子量1000以下のアルコール系溶剤の中から1種選ばれる」点を特定し、また、本件発明3が、インク中に含まれる有機溶剤の添加量として、「インク全重量に対して10重量%以上」に特定している。
しかしながら、「本件発明1について」の項で述べたように、本件発明1は先願1及び2に記載された発明と同一であるし、先願1及び2の実施例に記載されたインクで用いている「ジエチレングリコール」は、本件の、「エチレンオキサイド基をその構造中に含む、平均分子量1000以下のアルコール系溶剤」(段落番号0026参照)であり、また、ジエチレングリコールを、インクの全量100重量部に対して10重量部、すなわち、インク全重量に対して10重量%以上用いているから、これらの点でも両者に実質的な差異はない。
したがって、本件発明2及び3も、上記先願1ないし先願2に記載された発明と同一である。

VII.むすび
以上のとおり、本件請求項1〜3に係る発明は、その出願日前の特許出願であって、その出願後に出願公開がされた、先願1ないし先願2の願書に最初に添付された明細書に記載された発明と同一であると認められ、しかも、本件出願の発明者が先願1ないし先願2に係る上記の発明をした者と同一であるとも、また、本件出願の時にその出願人が先願1ないし先願2の出願人と同一であるとも認められないから、本件請求項1〜3に係る発明は、特許法第29条の2の規定により特許を受けることができない。
したがって、本件発明についての特許は、特許法第113条第2項に該当し、取り消されるべきものである。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
水性記録用インク組成物を用いた記録方法
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】 駆動周波数3kHz以上として駆動し、インク吐出ノズル解像度を180ドット/インチ以上とし、インク滴をノズルより吐出させて該インク滴を被記録体に付着させて記録を行う水性記録用インク組成物を用いた記録方法において、
前記インクが着色剤と、有機溶剤(但し、炭素数1〜4の1級アルコールを含まない)と、ポリオキシエチレンアセチレングリコール類の非イオン性界面活性剤とを含み、
25℃における表面張力が35dyn/cm以下で、20℃における粘度が20mPa・sec以下である水性記録用インク組成物を用い、かつ1ドット当りのインク吐出量が0.1μg以下とすることを特徴とする水性記録用インク組成物を用いた記録方法。
【請求項2】 前記インク中に含まれる有機溶剤が、エチレンオキサイド基をその構造中に含み、平均分子量1000以下のアルコール系溶剤の中から、1種以上選ばれることを特徴とする請求項1記載の水性記録用インク組成物を用いた記録方法。
【請求項3】 前記インク中に含まれる有機溶剤の添加量が、インク全重量に対し10重量%以上であることを特徴とする請求項1記載の水性記録用インク組成物を用いた記録方法。
【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】
本発明は、液体インクを用いて記録を行うインクジェットプリンタに供する水性記録用インク組成物を用いた記録方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
インクジェット記録用インクとしては、着色剤を水性媒体中に溶解、または分散したもの等が挙げられ、記録ヘッドとの関係を含めて以下に示す特性が一般的に要求されている。
【0003】
(1)印字物の品質が高いこと
(2)インクの保存安定性が高いこと
(3)印字物の保存性(耐光性及び耐水性)が高いこと
(4)印字装置の印字速度に対応したインクの周波数応答性が良いこと。
【0004】
(5)インクが被記録物で速やかに乾燥すること
(6)印字中もしくは印字中断後の再起動時でノズルの目詰まりが生じないこと。
【0005】
(7)安全性が高いこと等。
【0006】
上記種々の要求特性を満足させるため、従来から水性染料等の着色剤を検討したものが特開昭59-93765、特開昭60-243175公報等に、溶媒として有機溶剤を検討したものが特開昭56-149475、特開昭56-163168公報等に、界面活性剤等の添加剤を検討したものが特開昭56-5781、特開昭63-139964公報等に、さらにインク粘度、表面張力、pH等のインク物性等を検討したものが特開昭53-61412、特開昭62-116676公報等に記載されておりかなりの効果がみられている。
【0007】
【発明が解決しようとする課題】
しかし前記従来のインクを使用するにあたり、現在強く要求される特性として以下の3点が注目され、かつ鋭意検討されている。
【0008】
すなわち
(1)さらなる高速記録に対応するインクと記録方法の開発
(2)普通紙に対するカラー記録用インクと記録方法の開発
(3)低コスト化実現のためのインクと記録方法の開発
である。
【0009】
まず第1に印字速度の向上に関しては、大部分が吐出ヘッドの構成等メカニズム面からの検討が中心であり、インク面からの検討はあまりなされていないのが現状である。
【0010】
一般に、インク粘度が小さくなるにつれて周波数応答性は向上していくが、3kHz以上の駆動条件においては吐出安定性の劣化が顕著であり、吐出安定性を確保しながら、周波数応答性を向上させるのは困難であった。
【0011】
第2に繊維が露呈している被記録体、例えばコピー用紙、ボンド紙、再生紙の様な普通紙に対しカラー記録を行う場合、被記録体上のインク量が単色印字に比べ多くなるので、インクが繊維に沿ってにじんだり、乾燥性の悪化が問題となっていた。この問題に関しては従来主にインク面からの検討が中心であった。
【0012】
第3にノズル目詰まりに関し、従来からインク組成中の保湿成分の添加量を増加させることで、インクの乾燥を防ぎ、また乾燥したとしても固化するのを防ぐ手法がとられてきた。しかしながら、同時に被記録体上での乾燥性、定着性も悪化し、目詰まりに十分な保湿成分をインク中に添加できず、インク吸引、または圧縮ポンプ、ノズルキャップ、ノズル洗浄機構等を付加させ信頼性を確保していたため、インパクトドット方式等の単純なインク吐出システムに比べ、コスト低下が困難であった。
【0013】
このように上記特性を満足させるためには、インク組成物と記録方法の両面から検討していく必要がある。
【0014】
そこで、本発明はこのような課題を解決するもので、その一つの目的は、新規の水性記録用インク組成物を用いた記録方法を提供することにある。
【0015】
本発明のもう一つの目的は、周波数応答性の優れた、高速記録が可能な水性記録用インク組成物を用いた記録方法を提供することにある。
【0016】
本発明のもう一つの目的は、普通紙の様な特別な表面処理の無い被記録体に対し、素早く乾燥し、高品位な印字物を与える水性記録用インク組成物を用いた記録方法を提供することにある。
【0017】
さらに本発明のもう一つの目的は、目詰まりを防止し、信頼性確保のためにメカニズム面の機構が少なくなく、記録装置の低コスト化が実現できる水性記録用インク組成物を用いた記録方法を提供することにある。
【0018】
【課題を解決するための手段】
本発明の水性記録用インク組成物を用いた記録方法は、駆動周波数3kHz以上として駆動し、インク吐出ノズル解像度を180ドット/インチ以上として、インク滴をノズルより吐出させて、該インク滴を被記録体に付着させて記録を行う記録方法において、前記インクが少なくとも着色剤と、有機溶剤(但し、炭素数1〜4の1級アルコールを含まない)と、ポリオキシエチレンアセチレングリコール類の非イオン性界面活性剤を含み、25℃における表面張力が35dyn/cm以下、20℃における粘度が20mPa・sec以下である水性記録用インク組成物を用い、1ドット当りのインク吐出量が0.1μg以下とすることを特徴とする。
【0019】
また、前記インク中に含まれる有機溶剤が、エチレンオキサイド基をその構造中に含み、平均分子量1000以下のアルコール系溶剤の中から、1種以上選ばれる、その添加量が、インク全重量に対し10重量%以上であることを特徴とする。
【0020】
【作用】
本発明をさらに詳細に説明すると、本発明に用いる水性記録用インク組成物は、印字するための着色剤と、それを溶解、分散させるための溶媒とを必須成分とし、さらに添加剤としてエチレンオキサイド基をその構造中に含む平均分子量1000以下のアルコール系有機溶剤と、ポリオキシエチレンアセチレングリコール類の非イオン性界面活性剤を少なくとも1種含有してなる。エチレンオキサイド基を構造中に有するアルコール系有機溶剤は、非イオン性界面活性剤のインク中における溶解性を向上させ、また保湿性にも優れることから、インク全重量に対し10重量%以上添加することで、ノズル目詰まり防止に大きく寄与すると同時に、着色剤も含めたインクの均一性が、向上するので、印字におけるムラがなくなり、色相が落ち着いた印象を与え、結果的に光学濃度も大きくなる。ただしその平均分子量が1000を越えるものは、保湿効果が低下するので目詰まり防止効果も低下してしまう。
【0021】
次にポリオキシエチレンアセチレングリコール類の非イオン性界面活性剤は、イオン性界面活性剤に比べ、泡立ちが少なくインクの表面張力を低下させ、被記録体に対する濡れ性を改善させるので、速乾性が付与できる。このため前記有機溶剤の添加量をノズル目詰まりに重点をおいて設定しても、速乾性が犠牲にならない。さらに吐出ヘッド内においても、25℃における表面張力を35dyn/cm以下、20℃における粘度を20mPas以下に設定することで、ヘッド構成材質との濡れ性が良くなり、インク流路抵抗が軽減され、ノズルからの吐出、およびインク供給孔からのインク供給等、周波数応答性が向上し高速記録に対応できる。
【0022】
従来このような低表面張力インクは、被記録体上でのインクにじみによる印字品質の劣化が問題とされていたが、インク吐出ノズル解像度を180ドット/インチ以上として、1ドット当りのインク吐出量が0.1μg以下のインク滴をノズルより吐出させる記録方法によって大きく改善される。
【0023】
【実施例】
以下、本発明に用いられる水性記録用インク組成物に、使用することができる材料に関して、詳細に説明する。
【0024】
まず本発明に用いられる水性インク組成物に使用できる着色剤としては、直接染料、酸性染料、塩基性染料、食用染料、反応染料、分散染料、建染染料、可溶性建染染料、反応性染料、油性染料、有機顔料、無機顔料等が挙げられる。これら着色剤の添加量は、着色剤の種類、溶媒成分の種類、インクに対し要求されている特性等に依存して決定されるが、一般にはインク全重量に対し0.2〜20重量%、好ましくは0.5〜10重量%の範囲とされる。
【0025】
インク組成物用溶媒としては、低粘度であること、安全性に優れること、取扱が容易であること、コストが安いこと、臭気が無いこと等の理由より主に水が用いられているが、インク中に不要なイオンの混入を防止するためイオン交換水を用いる。
【0026】
また前記イオン交換水と混合して用いるエチレンオキサイド基を有する平均分子量1000以下のアルコール系有機溶剤としては、炭素数1〜4の1級アルコールを除く、直鎖、およびイソペンチルアルコール、3-エチル-1-ブタノール等分岐の1価のアルコール、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ポリエチレングリコール#200、#300、#400、#600等グリコール類、およびそれらのモノエーテル化物、モノエステル化物が使用できる。これらアルコール系有機溶剤の添加量は、その種類、インクに要求される特性により種々考えられ、インク全重量に対し10重量%以上なら良いが、低引火点の溶剤を添加する場合は、高濃度になるとインク全体としての引火点も下降するので、安全性の面から20重量%以下が、また高粘度の溶剤の場合はインク全体の粘度の上昇を抑えるため70重量%以下が好ましい。またこれらは、単独でも混合しても使用できる。
【0027】
次に、本発明に用いることができるインク組成物用の非イオン性界面活性剤としては、ポリオキシエチレンアセチレングリコール類を用いる。ポリオキシエチレンアセチレングリコール類としては、具体的には、サーヒノール104、サーヒノール465等を挙げることができる。ポリオキシエチレンアセチレングリコール類を単独、または混合して添加し、インク組成物として25℃における表面張力を35dyn/cm以下に調整する。通常添加量としては、用いるポリオキシエチレンアセチレングリコール類の性能によるが、インク全重量に対し0.001〜5重量%が、さらには0.01〜2重量%が好ましい。
ポリオキシエチレンアセチレングリコール類以外の非イオン性界面活性剤、例えば、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル等エーテル類、ポリオキシエチレン脂肪酸エステル等エステル類、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレン共重合体、ポリオキシエチレンアルキルアミンエーテル、脂肪酸ジエタノールアミド等含窒素類等をポリオキシエチレンアセチレングリコール類と併用することもできる。
【0028】
また諸特性の向上を目的として、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド等のアミド類、アセトン、ジアセトンアルコール等ケトン類、およびケトアルコール類、テトラヒドロフラン、ジオキサン、γーブチロラクトン等エーテル類、グリセリン、1,2,6-ヘキサントリオール等3価のアルコール類、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、スルホラン、2-ピロリドン、N-メチル-2-ピロリドン、1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノン等インク中に添加し使用できる。これらの有機溶剤の場合も、単独、または混合して用いることができる。
【0029】
さら粘度調整剤、表面張力調整剤、pH調整剤としてにゼラチン、カゼイン等のタンパク質、アラビアゴム等の天然ゴム、サボニン等のグルコキシド、メチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシメチルセルロース等のセルロース誘導体、リグニンスルホン酸塩、セラック等の天然高分子、ポリアクリル酸塩、スチレンーアクリル酸共重合物塩、ビニルナフタレンーアクリル酸共重合物塩、スチレンーマレイン酸共重合物塩、ビニルナフタレンーマレイン酸共重合物塩、β-ナフタレンスルホン酸ホルマリン縮合物のナトリウム塩、ポリリン酸等の陰イオン性高分子、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン等、これらの内1種、または2種以上を混合して用いることができる。これら添加剤の添加量はインク全重量に対し、0.001〜2重量%が好ましく、さらに好ましくは0.01〜1重量%である。
【0030】
また安息香酸、ジクロロフェン、ヘキサクロロフェン、ソルビン酸、p-ヒドロキシ安息香酸エステル、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)等を防カビ剤、防腐剤、防錆剤、の目的で含有することができる。さらに消泡剤や、尿素、チオ尿素、エチレン尿素等含有することができる。
【0031】
本発明に用いられる水性記録用インク組成物の作製方法は、着色剤に染料等を用いた溶解系インクの場合は40℃〜80℃に加熱し、スクリューで等で攪拌、混合、溶解させることで簡便に作製できる。また顔料等を用いた分散系インクの場合の分散方法は、従来から用いられている顔料微細分散法、例えばボールミル、サンドミル、アトライター、ロールミル、アジテータ、ヘンシェルミキサ、コロイドミル、超音波ホモジナイザー、パールミル、湿式ジェットミル等によってこちらも簡便に作製することができる。
【0032】
また溶解、または分散後のゴミ、粗大粒子、混裁物を除去するために、フィルターを用いて加圧、または減圧濾過処理を1回以上の工程で行う、あるいは遠心分離機を用いて遠心分離処理を単独、もしくは濾過処理と組み合わせて行うのがよい。
【0033】
最後に本発明のインク吐出装置であるが、従来から用いられている圧電素子の振動エネルギーを利用したもの、ヒーターから発生する熱エネルギーを利用したもの等が使用できる。これらのインク吐出装置を、周波数3kHz以上で駆動し、180ドット/インチ以上の密度でインク吐出ノズルを設ける。漢字等の文字を高品位に印字するためには、180ドット/インチ以上の解像度が必要であり、この解像度で実用的な記録速度を得るためには、3kHz以上の駆動周波数が必要である。
【0034】
このようなインク吐出装置でインク吐出量を0.1μg/dot以下にするためには、インク吐出ノズル径、インク吐出流路サイズ、インク供給路サイズ等のインク吐出ヘッドの構造を、インク組成物の粘度、表面張力等物性値を考慮して設定する。さらに圧電素子、ヒーターに印加する電圧、パルス波形等電気的な最適化をはかることなどで得ることができる。
【0035】
以下実施例により本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。尚、文中%とあるのは、すべてインク全重量に対する各成分の重量%である。
【0036】
(実施例1)
下記表1に示す成分を混合して60℃で2時間攪拌、溶解した後、0.8μm径のメンブランフィルタ(アドバンテック社登録商標)を用い、2kg/cm2の圧力で加圧濾過し、本発明のインク組成物1-1〜1-4を得た。
表中の数値で特に記載のないものは重量%を示している。
【0037】
こうして得られたインク組成物について、HLV-ST形表面張力計(協和界面科学登録商標)を用いて25℃における表面張力を、B形粘度計(東京計器登録商標)1号ロータを用いて20℃における粘度を測定した。
【0038】
また吐出ノズル径40μm、圧電素子駆動電圧80V、駆動周波数3kHz、解像度180ドット/インチ、インク吐出量0.1μgに調整した試作24ノズルインクジェット評価機を用いて、PPC用紙(ゼロックス社登録商標PPC用紙)、再生紙(本州製紙登録商標やまゆり)、ボンド紙(ミード社登録商標ギルバートボンド25%コットン紙)、上質紙(王子製紙登録商標OK上質紙L)にべた、アルファベット文字等を印字し下記に示すテスト1〜7の評価を行った。評価結果を表1に示す。
【0039】
(テスト1)文字印字サンプル目視による印字品質評価。
評価結果は、次のように分類した。
にじみが肉眼で観察されない・・・・・・・・・・・・・・◎
にじみは見られるが文字は認識できる・・・・・・・・・・△
文字が認識できない・・・・・・・・・・・・・・・・・・×
【0040】
(テスト2)Macbeth TR-927型(Kollomorgan社登録商標)光学濃度計(アパーチャーサイズ4mm)によるべた印字部分の濃度評価。
評価結果は、次にように分類した。
O.D.値1.3以上・・・・・・・・・・・・・・・・・◎
O.D.値1.1以上1.3未満・・・・・・・・・・・・△
O.D.値1.1未満・・・・・・・・・・・・・・・・・×
【0041】
(テスト3)100g/cm2の圧力でべた印字部分を木綿布で擦り、印字汚れが発生しなくなるまでの時間を調査する速乾性評価。
評価結果は、次のように分類した。
2秒以内で印字物汚れが観察されない・・・・・・・・・・◎
15秒以内で印字物汚れが観察されない・・・・・・・・・△
30秒後でも印字物汚れが観察される・・・・・・・・・・×
【0042】
(テスト4)文字印字部分を、印字終了5分後指で擦り、印字汚れを目視で観察する指触性評価。
評価結果は、次のように分類した。
印字物汚れが観察されない・・・・・・・・・・・・・・・◎
若干印字物汚れが発生するが、文字は判別できる・・・・・△
印字物汚れで文字が判別できない・・・・・・・・・・・・×
【0043】
(テスト5)36時間常温での連続印字中のドット抜けの有無を調査する、連続吐出安定性評価。
評価結果は、次のように分類した。
36時間以内にドット抜け10回以内発生・・・・・・・・◎
24時間以内にドット抜け10回以内発生・・・・・・・・△
1時間以内にドット抜け10回以上発生・・・・・・・・・×
【0044】
(テスト6)駆動周波数を6kHzとし、テスト5と同様の評価を行った。
評価結果の分類は、テスト5に準じる。
【0045】
(テスト7)駆動周波数を10kHzとし、テスト5と同様の評価を行った。
評価結果の分類は、テスト5に準じる。
【0046】
【表1】

【0047】
(比較例1〜3)
第2表に示す組成で、実施例1と同様の方法でインクを調製し、インク組成物を得た。インク調製後、実施例1と同様の評価機を用いてテスト1〜7の評価を行った。結果も併せて第2表に示す。
【0048】
【表2】

【0049】
比較例1のように、陰イオン性界面活性剤であるネオコールYSK(第一工業製薬社登録商標)を用いたインクは、インクの泡立ちがひどく、周波数応答性、吐出安定性に劣るので、テスト5〜7が×の結果となった。
【0050】
また比較例2のように界面活性剤にエパン740(第一工業製薬社登録商標)を1重量%添加したが、表面張力が35dyn/cm以下にならなかったものは、インクの拡がりが不十分で、各ドットがつながらず被覆率が低下するので光学濃度が低下し、速乾性にも悪影響をおよぼした。さらにヘッド構成材との濡れ性も不十分のため、ドット抜けを発生させ、また周波数応答性にも劣る結果となった。
【0051】
比較例3においても、粘度が20mPas以上になるとテスト3、4の速乾性が悪化し、ドット抜けを発生させた。
【0052】
すなわち本発明に用いられるインク組成物は、25℃における表面張力が35dyn/cm以下、20℃における粘度が20mPa・sec以下でなければならず、さらにこれらの構成を達成させるため、非イオン性界面活性剤、好ましくは、ポリオキシエチレンアセチレングリコール類を用いてインク濡れ性を向上させ、有機溶剤、好ましくは、エチレンオキサイド基をその構造中に含む平均分子量1000以下のアルコール系溶剤を1種以上含有させ、その添加量がインク全重量に対し10重量%以上であることに妥当性を見いだせる。
【0053】
すなわち本発明は、実施例に示すインク組成物を用いたとしても、吐出インク量が大きくなるとにじみが大きくなり、被記録紙の種類によっては印字品質劣化をまねくので、吐出インク量は、駆動周波数3kHz以上として駆動し、インク吐出ノズル解像度を180ドット/インチ以上として記録を行う記録方法において、1ドット当りのインク吐出量を0.1μg以下とするのが妥当である。
【0054】
【発明の効果】
以上本発明によれば、新規の水性記録用インク組成物を用いた記録方法を提供することができるという効果を有する。
【0055】
また本発明によれば、周波数応答性の優れた、高速記録が可能な水性記録用インク組成物を用いた記録方法を、提供することができるという効果を有する。
【0056】
また本発明によれば、普通紙の様な特別な表面処理の無い被記録体に対し、素早く乾燥し、高品位な印字物を与える水性記録用インク組成物を用いた記録方法、を提供することができるという効果を有する。
【0057】
さらに本発明によれば、目詰まりを防止し、信頼性確保のためにメカニズム面の機構がなく、記録装置の低コスト化が実現できる水性記録用インク組成物を用いた記録方法を、提供することができるという効果を有する。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2003-10-14 
出願番号 特願平3-229019
審決分類 P 1 651・ 161- ZA (B41M)
最終処分 取消  
特許庁審判長 矢沢 清純
特許庁審判官 秋月 美紀子
六車 江一
登録日 2001-12-21 
登録番号 特許第3262568号(P3262568)
権利者 セイコーエプソン株式会社
発明の名称 水性記録用インク組成物を用いた記録方法  
代理人 萩原 亮一  
代理人 萩原 亮一  
代理人 内田 明  
代理人 内田 明  
代理人 加藤 公清  
代理人 加藤 公清  

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