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審決分類 審判 一部無効 4項(5項) 請求の範囲の記載不備 訂正を認める。無効としない C08L
審判 一部無効 1項3号刊行物記載 訂正を認める。無効としない C08L
審判 一部無効 2項進歩性 訂正を認める。無効としない C08L
管理番号 1101793
審判番号 無効2003-35114  
総通号数 58 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 1997-01-28 
種別 無効の審決 
審判請求日 2003-03-26 
確定日 2004-06-21 
訂正明細書 有 
事件の表示 記当事者間の特許第3150285号発明「テトラフルオロエチレン誘導体類の重合物に基づくポリマーブレンドの加工助剤としての使用法」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 訂正を認める。 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、各自の負担とする。 
理由 [1]手続の経緯
本件特許第3150285号は、平成8年4月19日(優先権主張、平成7年(1995年)4月28日、フランス国)に出願された特願平8-97972号の出願に係り、平成13年1月19日に設定の登録がなされたものであり、本件無効審判の請求を受けて、平成15年10月21日付けで訂正請求がなされたものである。
なお、請求人に対し、訂正請求書と答弁書の各副本を送付し、弁駁書の提出を求めたが、請求人からは指定期間内に何らの応答もなされていない。

[2]訂正前の本件特許に対する請求人の主張の概要
訂正前の本件特許に対し、請求人は、下記甲第1号証〜甲第16号証を提示し、本件請求項1〜4に係る発明は甲第1号証に記載された発明であり、本件請求項2に係る発明は甲第1号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり、本件請求項1〜4に係る発明は甲第7〜9号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり、そして、本件明細書には記載の不備があるから、本件請求項1〜4に係る特許は、特許法第29条第1項第3号若しくは同条第2項の規定に違反してされたものであり、そして同法第36条第4項の規定を満足しない出願に対してされたものであって、これら理由により、本件請求項1〜4に係る特許は無効とされるべきである旨、主張している。

甲第1号証:特開昭60-258263号公報
甲第2号証:欧州特許出願公開第0166187 A2号公報フロント頁
甲第3号証:特開平9-95583号公報
甲第4号証:「英和プラスチック工業辞典」(株)工業調査会、1973 年9月25日発行、775頁
甲第5号証:「プラスチックス」45巻11号(株)工業調査会、平成6 年11月1日発行、67〜69,78頁
甲第6号証:「新ポリマー製造プロセス」(株)工業調査会、1994年 6月10日発行、205〜238頁
甲第7号証:特開平2-274711号公報
甲第8号証:特開平5-117472号公報
甲第9号証:特公昭39-14067号公報
甲第10号証:「プラスチックス」35巻11号(株)工業調査会、昭和5 9年11月1日発行、92〜99頁
甲第11号証:「1995年版プラスチック成形材料商取引便覧」化学工業 日報社、1994年9月28日発行、105,139,20 3,471,651頁
甲第12号証:「プラスチックスエージ」27巻8月号(株)プラスチック ス・エージ、昭和56年8月1日発行、68〜73頁
甲第13号証:「成形加工」13巻8号(社)プラスチック成形加工学会、 2001年8月20日発行、544〜548頁
甲第14号証:「プラスチックが身近になる本」(株)シーエムシー、20 01年10月31日発行、154〜158頁
甲第15号証:「塩ビとポリマー」21巻11号、(株)ポリマー工業研究 所、昭和56年11月10日発行、19〜24頁
甲第16号証:「高分子辞典」(株)朝倉書店、昭和51年11月20日発 行、637頁

[3]本件訂正請求
[3-1]訂正事項
(i)訂正事項a
請求項1における「ポリ塩化ビニル樹脂、塩素化ポリ塩化ビニル樹脂、ポリオレフィン、スチレン基質樹脂およびこれらの混合物用の」を「ポリ塩化ビニル樹脂、塩素化ポリ塩化ビニル樹脂およびこれらの混合物の」に訂正する。
(ii)訂正事項b
請求項1における「加工助剤」を「溶融速度を増加させる加工助剤」に訂正する。
[3-2]訂正の適否について
訂正事項aは、請求項1において、被加工樹脂として「ポリ塩化ビニル樹脂、塩素化ポリ塩化ビニル樹脂、ポリオレフィン、スチレン基質樹脂およびこれらの混合物用」としていたものを「ポリ塩化ビニル樹脂、塩素化ポリ塩化ビニル樹脂およびこれらの混合物」として「ポリオレフィン、スチレン基質樹脂」に係るものを削除するものであるから、訂正前の明細書に記載した事項の範囲内で特許請求の範囲の減縮をするものである。
訂正事項bは、請求項1において、単に「加工助剤」としていたものを「溶融速度を増加させる加工助剤」と限定するものであるが、訂正前の明細書には、「本発明による発見として、ポリ塩化ビニル樹脂、塩素化ポリ塩化ビニル樹脂、ポリオレフィン、スチレン基質樹脂およびこれらの混合物用の加工助剤として、スチレン/アクリロニトリルのコポリマーとテトラフルオロエチレンの重合物の混合物を使用することが特に効果的であることが証明され、特に樹脂やポリマーの他の特性を損なうことなく融解時間を顕著に短縮した。」(段落【0006】)等の記載がなされていることから、やはり訂正前の明細書に記載した事項の範囲内で特許請求の範囲の減縮をするものである。
そして、かかる訂正により実質上特許請求の範囲が拡張若しくは変更されるものでもない。
また、本件審判請求の対象とされていない請求項5及び6に係る発明については、請求項1の訂正により、実質上特許請求の範囲が減縮されることになるが、これら発明については、後記するように出願の際独立して特許を受けることができない発明とすることはできない。
したがって、本件訂正請求は特許法第134条第2項ただし書第1号に掲げる事項を目的とし、かつ、同条第5項で準用する同法第126条第2〜4項の規定に適合するものである。

[4]本件発明
本件請求項1〜6に係る発明は、訂正された明細書の特許請求の範囲の請求項1〜6に記載された次のとおりのもの(以下、順次「本件第1発明」、「本件第2発明」・・・「本件第6発明」という。)である。
「【請求項1】 ポリ塩化ビニル樹脂、塩素化ポリ塩化ビニル樹脂およびこれらの混合物の融解速度を増加させる加工助剤としてのポリマーブレンドの使用法において、ポリマーブレンドがテトラフルオロエチレン誘導体類の重合物の粒子を含み、これらの粒子がポリアルキル(メタ)アクリレート、ポリビニルアセテート、スチレン/アクリロニトリルコポリマーおよびスチレン/アクリロニトリル/アルキル(メタ)アクリレートコポリマーから成る群から選ばれるポリマーまたはコポリマーによって完全にまたは部分的にカプセル封じされており、上記のブレンドの使用量は加工される樹脂またはポリマーの100重量部当たりテトラフルオロエチレンの重合物の含有量が0.05〜20重量部になるような量であることを特徴とする使用法。
【請求項2】 ポリマーブレンドの比率が加工される樹脂および/またはポリマーの100重量部当たりテトラフルオロエチレンの重合物の量が0.5〜5重量部に相当するような量であることを特徴とする請求項1記載の使用法。
【請求項3】 ポリマーブレンド中でテトラフルオロエチレンの重合物の比率がブレンドの総重量当たり0.01〜80重量%を示すことを特徴とする請求項1または2記載の使用法。
【請求項4】 ポリマーブレンド中でテトラフルオロエチレンの重合物の比率がブレンドの総重量当たり0.05〜70重量%を示すことを特徴とする請求項3記載の使用法。
【請求項5】テトラフルオロエチレンの重合物のラテックスの存在下でのスチレンとアクリロニトリルモノマーの乳化重合によってポリマーブレンドが得られることを特徴とする請求項1記載の使用法。
【請求項6】スチレンとアクリロニトリルモノマーの重合がラジカル法によって行われることを特徴とする請求項5記載の使用法。」

[5]当審の判断
以下、本件第1〜第4発明について、請求人の主張に基づき、その特許の無効理由の存否を検討し、本件第5、第6発明について、独立特許要件の有無を検討する。

[5-1]甲号証各刊行物の記載事項
(イ)甲第1号証には、「I.平均粒子直径(d50)0.05〜30μm及び固体含有量20〜60重量%を有する有機熱可塑性重合体の分散体(A)を分散体中に認め得る粒子の凝集を起こさせずに平均粒子直径(d50)0.05〜30μm及び固体含有量30〜70重量%を有するテトラフルオロエチレン重合体の分散体(B)と混合してテトラフルオロエチレン重合体0.01〜40重量%及び有機基体重合体99.99〜60重量%を含む混合した分散体を生成させ、
II:工程Iで生成させた混合した分散体を凝固中に認め得る量の30μmより大きい粒径を有するテトラフルオロエチレン重合体粒子を生成させずに20〜120℃の温度範囲内及び7〜2のpH値で粉末粒子の組成物を生成させて凝固させ、そして
III:工程IIで生成させた凝固物を50〜150℃の温度で乾燥させて高度に分散したテトラフルオロエチレン重合体を含む粉末組成物を生成させることからなる、有機可塑性重合体及びフッ素含有量65〜76重量%を有する高度に分散した、粒状のテトラフルオロエチレン重合体を含む粉末状重合体混合物の製造方法。」(特許請求の範囲第1項)の発明が記載され、「次の重合体が分散体Aに殊に適している:スチレン、メチルメタクリレート、塩化ビニルの均質重合体並びにアクリロニトリル、メタクリロニトリル・・・からの少なくとも1つの単量体を含むその共重合体、並びに例えばポリブタジエン・・・からなる系に属するジエン単量体ゴムまたは・・・アクリロニトリル/ブタジエン共重合体ゴム・・・または単量体例えばスチレン、α-メチルスチレン、アクリロニトリル、メチルメタクリレート、塩化ビニルもしくは酢酸ビニルまたはその混合物からなるアルキルアクリレートゴムからのグラフト共重合体。」(3頁左上欄〜右上欄)、「また本発明は通常の熱可塑性成形組成物を用いる際の特性を改善するためのこのものにおける添加剤としての本発明による粉末組成物の使用に関するものである。この場合に、・・・粒状の高度に分散した状態でテトラフルオロエチレン重合体を含む本発明による粉末組成物を加える結果として、極めて広範囲の特性が認め得る程に改善され;かくてこの添加物は成形製品が着火した際に滴下防止剤(anti-drip agent)として作用する。しかしながら、テトラフルオロエチレン重合体の存在にもかかわらず、表面特性に障害は存在しない。更に、離型挙動、衝撃値及び加熱下での形状安定性が顕著に改善される。この粉末組成物はABS、PVC、ポリカーボネート、ポリアミド及びポリアルキレンカルボン酸エステル、特にABS、ビスフェノールAポリカーボネート、ポリカプロアミド(ナイロン6)、ポリヘキサメチレンジアミノアジポイミド(ナイロン66)、ポリエチレンテレフタレート及びポリブチレンテレフタレートからなる系に属する熱プラスチックに対する添加物として顕著に適している。」(3頁左下欄〜右下欄)との記載がなされ、実施例においては、、テトラフルオロエチレン重合体をABS樹脂中に分散化させた分散体を、芳香族ポリカーボネートに導入したものについて、その具体的実施法とその結果が記載されている。
(ロ)甲第2号証は、欧州特許出願の公開パンフレットのフロントページであり、そこには、「優先権:29.05.84 DE3420002」と記載されている。
(ハ)甲第3号証は、優先権主張日が本件のそれと一致する、本件特許権者自身の出願の公開公報であり、そこには、「 ポリマーブレンドであって、該ポリマーブレンドは、乳化重合し得る単量体又は単量体混合物の重合で得られる重合体又は共重合体によって全体的又は部分的に封入されたテトラフルオロエチレン誘導体の群を含む重合物粒子を含んでいて、しかも該ポリマーブレンドは、該ブレンドの粒子同士を連結する網状構造を形成するテトラフルオロエチレン重合物フィラメントを実質的に含んでいないことを特徴とするポリマーブレンド。」(請求項1)の発明が記載され、段落【0019】には、「【実施例】次に本発明を実施例によってさらに説明する。
実施例1-3 スチレン-アクリロニトリル(SAN)共重合体によって封入されたテトラフルオロエチレン重合物粒子を含む本発明の新規ポリマーブレンドを、半連続式乳化重合法を用いて製造した。」との記載がなされている。
(ニ)甲第4号証には、「processing aid 加工助剤」について、「プラスチック材料の混練、押出、圧延などの機械的作業を容易にし、併せて製品の外観,特性値などを改善するために用いる配合剤、例えば硬質PVC加工におけるアクリル樹脂。」と記載されている。
(ホ)甲第5号証には、「高分子加工助剤」と題して記載され、「高分子加工助剤とは,熱可塑性樹脂に少量添加することにより熱可塑性樹脂本来の物理的・化学的性質を損なうことなく,その加工成形性を大幅に向上させることを目的に使用される高分子の添加剤であり,・・・PVCのゲル化促進や溶融弾性の付与,金属面への粘着防止などの効果により加工性・生産性だけでなく外観性も含めて製品の品質を向上させる働きがある。」(67頁左欄)と記載されている。
(ヘ)甲第6号証には、ABS樹脂について記載され、その製造プロセスとして「ABS樹脂の3成分の1つであるブタジエンをまず乳化重合してある大きさのポリブタジエンの粒子を製造する。このブタジエンラテックスの存在下にスチレンとアクリロニトリルの樹脂成分モノマーを乳化させグラフト重合させる。生成物は図・・・に示したようにゴムのまわりにゴムと樹脂成分モノマーがグラフト重合した重合体と,樹脂成分モノマーだけの共重合体の混合物となる。」(211頁)と記載されている。
(ト)甲第7号証には、「テトラフルオロエチレンから誘導される繰り返し単位99〜100重量%およびテトラフルオロエチレンと共重合しうる含フッ素オレフィンから誘導される繰り返し単位0〜1重量%から成る重合体を芯部とし、
(a)一般式:
CH2=CXCOORf
[式中、Xはメチル基、フッ素原子またはトリフルオロメチル基、Rfはフルオロアルキル基またはフルオロ(アルコキシアルキル)基を表す。]
で示される少なくとも1種のα-置換アクリル酸エステル60〜100モル%および
(b)該α-置換アクリル酸エステル(a)と共重合しうる単量体から誘導される繰り返し単位0〜40モル%からなり、ガラス転移温度が50℃以上である重合体を殻部とする
平均粒径0.05〜1.0μmの複合コロイド状粒子を含む含フッ素樹脂水性分散体。」(特許請求の範囲第1項)の発明が記載され、「他方、本発明の粉末はオルガノゾルとしての利用の他、熱可塑性・熱硬化性樹脂またはエラストマーとのブレンドすることによって難燃性、非粘着性、摺動性、撥水撥油性、電気特性、耐汚染性、耐蝕性、耐候性などを向上させる改質剤、あるいは白色顔料としても使用できる。
例えば、メタクリル酸エステル、アクリル酸エステル、スチレン等またはこれらと共重合可能な単量体との共重合体のような無色できわめて透明性が優れている樹脂への白色顔料としてのブレンドや、ポリアセタール、ポリカーボネート、ポリエーテルケトン、全芳香族ポリエステル、ポリエチレンテレフタレート、ポリフェニレンスルフィド、ナイロン、ポリフェニレンオキシド、ポリブチレンテレフタレート、ポリスルホン、ポリイミド等のエンジニアリングプラスチックの改質剤として、従来のPTFE粉末よりも優れたブレンド性を発揮する。」(8頁左下欄〜右下欄)と記載されている。
(チ)甲第8号証には、「(A)塩化ビニル系樹脂100重量部に対して(B)分子量50万〜2,000万のポリテトラフルオロエチレンを0.01〜20重量部含有することを特徴とする加工性の改良された塩化ビニル系樹脂組成物。」(特許請求の範囲)についての発明が記載され、発明の効果として、「本発明は、塩化ビニル系樹脂に特定分子量のポリテトラフルオロエチレンを添加することにより、加工時の弾性が向上し、射出成形における製品外観、ブロー成形におけるパリソンのドローダウン防止および真空成形における深絞り性等が顕著に改良され、従来の技術では不可能であった塩化ビニル系樹脂の成形加工が可能となり、その用途拡大に有用である。」段落【0014】と記載されている。
(リ)甲第9号証には、「ポリ塩化ビニルならびにその共重合体を主体とせるポリ塩化ビニル混和物100重量部に乳化重合四弗化エチレン樹脂粉末0.5〜10.0重量部を添加混練してなるポリ塩化ビニル組成物。」(特許請求の範囲)の発明が記載され、目的として「より優れた弾性を示し、かつ引裂抵抗、耐摩耗性ならびに耐熱性の大なるものを得んとするにある。」(1頁左欄)ことが記載されている。
(ヌ)甲第10号証には、「PVC改質剤」について、「PVCはその融解温度(加工温度)と分解温度が近接していて,その加工は他の一般樹脂に比べて難しいことが知られている。この加工性を改良するために,アクリル系ポリマーを主体とする高分子系加工助剤(・・・)が用いられるのが一般的になってきている。」(92頁左欄)と、その必要性が説明されている。
(ル)甲第11号証は、プラスチックの商取引上のデータ集であり、塩化ビニル樹脂の性状として「白色粉末」(203頁)と記載されている。
(ル)甲第12号証には、塩化ビニル樹脂に対するアクリル系ポリマーの添加効果が記載され、「特にMMAを主成分とするランダム共重合体,あるいは多相構造をもつ高分子加工助剤は,PVCのもつ透明性,力学的性質を損なわずにゲル化速度を効率的に増大させるところに大きな特徴を有する。」(68頁)と記載されている。
(ヲ)甲第13号証には、「PVC(ポリ塩化ビニル)」について記載され、その「4.2 PVCの構造と物性」では、「成形加工のプロセスは,この粒子構造の崩壊・溶融過程と考えることもできる。特に一次粒子への崩壊と該粒子間の融着(ゲル化状態と表現される)によって衝撃強度などの特性が変化するため,現在でもゲル化状態の把握が種々議論されている。」(546頁左欄)と記載されている。
(ワ)甲第14号証には、PVCのゲル化について「PVCの場合のゲル化は通常使っているゲルとはだいぶ概念が違っていて,次のように定義するのが適切であろうかと考えます。すなわち,ゲル化(gelation)とは,「加熱や混練によってグレインが崩壊し1次粒子からさらにより小さな粒子単位へと微細化し,しかもその最小単位の粒子どうしが融着している現象または状態」というものです。」(156頁)と説明されている。
(カ)甲第15号証には、「加工性の優れた改質PVC(HFP)」と題しての記載があり、「I ゲル化特性 ゲル化特性の評価方法はプラスチコーダーが最もよく利用されている。ジャケット温度,ロール式ミキサー回転数を変数として混練りトルクの経時変化を調べると,PVC粒子が崩壊してローターへの巻き付きが開始するとトルクは上昇し,最大ピークを経た後に定状トルク状態になる。この最大トルクになる時間がゲル化時間の目安として採用されている。」(19〜20頁)との記載がなされている。
(ヨ)甲第16号証には、「ペレット」について説明され、製造方式としての、コールドカット法、ホットカット法、シートカット法のそれぞれについて説明がなされている。

[5-2]無効理由I(甲第1号証記載の発明に基づく無効理由)について
甲第1号証には、平均粒子直径(d50)0.05〜30μm及び固体含有量20〜60重量%を有する有機熱可塑性重合体の分散体(A)を分散体中に認め得る粒子の凝集を起こさせずに平均粒子直径(d50)0.05〜30μm及び固体含有量30〜70重量%を有するテトラフルオロエチレン重合体の分散体(B)と混合してテトラフルオロエチレン重合体0.01〜40重量%及び有機基体重合体99.99〜60重量%を含む混合した分散体を生成させ、これを凝固・乾燥させることからなる、高度に分散したテトラフルオロエチレン重合体を含有する重合体粉末組成物の製造法の発明が記載され、分散体Aとして殊に適している重合体として、スチレン、メチルメタクリレート、塩化ビニルの均質重合体並びにアクリロニトリル、メタクリロニトリメル、N-置換されたマレインイミド・・・アルキルメタクリレートまたはアルキルアクリレートの系からの少なくとも1つの単量体を含むその共重合体、並びに例えばポリブタジエン・・・EPDMゴム(・・・)または単量体例えばスチレン、α-スチレン、アクリロニトリル、メチルメタクリレート、塩化ビニルもしくは酢酸ビニルまたはその混合物からなるアルキルアクリレートゴムからのグラフト共重合体、等多数が示されている。
また、粉末組成物が添加剤として使用される重合体としては、ABS、PVC、ポリカーボネート、ポリアミド等が例示され、PVCも確かに記載されてはいる。
しかしながら、甲第1号証には、成形加工の態様が列記された他の樹脂と大きく異なるポリ塩化ビニル樹脂(甲第12号証〜甲第14号証参照)あるいは塩素化ポリ塩化ビニル樹脂(以下「ポリ塩化ビニル樹脂等」という。)に対し該粉末組成物を用いることのより具体的記載は一切なく、まして、ポリテトラフルオロエチレン粒子をカプセル封じする樹脂として、本件発明で規定する特定のポリマーを用いたポリマーブレンドを塩化ビニル樹脂等に適用し、その融解速度の増加を図ることは、甲第1号証には、全く記載の無い事項といわざるを得ない。
他方、本件第1発明は、本件明細書の記載によれば、その採用する構成によりポリ塩化ビニル樹脂等の融解速度の増加において一定の効果を奏し得たものと認めることができる。
したがって、本件第1発明が甲第1号証に記載された発明とすることはできないばかりか、該記載された発明に基づき当業者が容易に発明をすることができたものとすることもできない。
本件第2発明は、本件第1発明において、ポリマーブレンドの使用比率をより限定するものであり、本件第3、第4発明は、本件第1若しくは第2発明において、ポリマーブレンド中のテトラフルオロエチレン重合物の比率を限定するものであるから、本件第1発明と同様、甲第1号証に記載された発明とも、また、該発明に基づき当業者が容易に発明をすることができたものともすることはできない。

[5-3]無効理由II(甲第7号証〜甲第9号証記載の発明に基づく無効理由)について
甲第7号証には、「テトラフルオロエチレンから誘導される繰り返し単位99〜100重量%およびテトラフルオロエチレンと共重合しうる含フッ素オレフィンから誘導される繰り返し単位0〜1重量%から成る重合体を芯部とし、
(a)一般式:
CH2=CXCOORf
[式中、Xはメチル基、フッ素原子またはトリフルオロメチル基、Rfはフルオロアルキル基またはフルオロ(アルコキシアルキル)基を表す。]
で示される少なくとも1種のα-置換アクリル酸エステル60〜100モル%および
(b)該α-置換アクリル酸エステル(a)と共重合しうる単量体から誘導される繰り返し単位0〜40モル%からなり、ガラス転移温度が50℃以上である重合体を殻部とする
平均粒径0.05〜1.0μmの複合コロイド状粒子を含む含フッ素樹脂水性分散体。」の発明が記載され、この分散体を凝固、乾燥して得られる粉末の使用に関しては、「他方、本発明の粉末はオルガノゾルとしての利用の他、熱可塑性・熱硬化性樹脂またはエラストマーとのブレンドすることによって難燃性、非粘着性、摺動性、撥水撥油性、電気特性、耐汚染性、耐蝕性、耐候性などを向上させる改質剤、あるいは白色顔料としても使用できる。例えば、メタクリル酸エステル、アクリル酸エステル、スチレン等またはこれらと共重合可能な単量体との共重合体のような無色できわめて透明性が優れている樹脂への白色顔料としてのブレンドや、ポリアセタール、ポリカーボネート、ポリエーテルケトン、全芳香族ポリエステル、ポリエチレンテレフタレート、ポリフェニレンスルフィド、ナイロン、ポリフェニレンオキシド、ポリブチレンテレフタレート、ポリスルホン、ポリイミド等のエンジニアリングプラスチックの改質剤として、従来のPTFE粉末よりも優れたブレンド性を発揮する。」(8頁左下欄〜右下欄)と記載されているだけで、ポリ塩化ビニル樹脂に適用することについては全く記載がない。
他方、甲第8号証には、「(A)塩化ビニル系樹脂100重量部に対して(B)分子量50万〜2,000万のポリテトラフルオロエチレンを0.01〜20重量部含有することを特徴とする加工性の改良された塩化ビニル系樹脂組成物。」についての発明が記載され、また、甲第9号証には、「ポリ塩化ビニルならびにその共重合体を主体とせるポリ塩化ビニル混和物100重量部に乳化重合四弗化エチレン樹脂粉末0.5〜10.0重量部を添加混練してなるポリ塩化ビニル組成物。」の発明が記載され、
すなわち、甲第8、第9号証には、本件第1発明が前提とする、ポリ塩化ビニル樹脂に対し、無処理のポリテトラフルオロエチレンを添加する発明が記載されているにすぎず、そのいずれにも、本件第1発明の特徴とするPTFEを部分的にせよカプセル封じして用いることの記載はない。
上記のとおり、甲第7号証には、PTFEを部分的にカプセル封じしたものを用いることは記載されているが、その適用対象としてポリ塩化ビニル系樹脂は全く認識されておらず、これを、甲第8、第9号証記載の発明におけるポリテトラフルオロエチレン(ここにおいては、ポリテトラフルオロエチレンは、ポリ塩化ビニル樹脂特有の課題を解決するために添加されている。)として用いることを動機付ける記載をこれら刊行物に見出すことはできない。
したがつて、本件第1発明が甲第7号証〜甲第9号証の記載に基づき当業者が容易に発明をすることができたものとすることはできない。
本件第2〜第4発明は、本件第1発明を直接もしくは間接的に引用し、これをより限定するものであるから、本件第1発明と同様甲第7号証〜甲第9号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとすることはできない。

[5-4]無効理由III(明細書の記載不備)について
請求人は、甲第4、第5、第10〜第16号証の記載事項を引用して本件明細書につき、
(i)本件発明の課題は、融解時間の短縮であるところ、この課題は、塩 化ビニル樹脂に特有のものであり、「加工される樹脂」が、ポリオレフィ ン、スチレン基質樹脂の場合、「加工助剤としての使用法」については、 課題、解決手段、作用効果は本件明細書に記載されていない、
(ii)一般に「加工助剤」とは樹脂の加工性や製品の外観や特性値を向 上させるために添加される助剤すべてをいうところ、本件明細書の実施 例においては、ゲル化時間の短縮が記載されているのみで、「加工され る樹脂」をポリ塩化ビニル樹脂に限ってみても、「加工助剤」が滑性タイ プ、表面光沢調整タイプである場合の「加工助剤としての使用法」につい て、課題、解決手段、作用効果は本件明細書に記載されていない、
点で、本件明細書には特許法第36条第4項に規定する要件を満足しない記載の不備があることを主張している。
よつて、検討するに、本件明細書は上記のとおり訂正され、その結果「加工される樹脂」からは、「ポリオレフィン、スチレン基質樹脂」が削除され、「加工助剤」に関しては、「融解速度を増加させる」との限定が付されることとなった。
したがって、請求人が主張する明細書の記載不備は、訂正後の明細書にはもはや存在しないものと認められる。

[5-5]独立特許要件について
本件第5、第6発明は、本件第1発明を引用し、これをより限定するものである。
したがって、本件第1発明に無効理由が存在しないことは上記で検討したとおりであるから、本件第5、第6発明についても、その出願の際、独立して特許受けることができない発明とすることはできない。

[6]むすび
以上のとおりであるから、本件訂正請求は適法なものとして認めることができ、訂正後の本件請求項1〜4に係る発明について、請求人の提示する証拠及び主張する理由によっては、その特許を無効とすることはできない。
そして、審判に関する費用に関しては、本件の事情に鑑み各自の負担とすべきである。
よって、結論のとおり審決する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
テトラフルオロエチレン誘導体類の重合物に基づくポリマーブレンドの加工助剤としての使用法
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】 ポリ塩化ビニル樹脂、塩素化ポリ塩化ビニル樹脂およびこれらの混合物の融解速度を増加させる加工助剤としてのポリマーブレンドの使用法において、ポリマーブレンドがテトラフルオロエチレン誘導体類の重合物の粒子を含み、これらの粒子がポリアルキル(メタ)アクリレート、ポリビニルアセテート、スチレン/アクリロニトリルコポリマーおよびスチレン/アクリロニトリル/アルキル(メタ)アクリレートコポリマーから成る群から選ばれるポリマーまたはコポリマーによって完全にまたは部分的にカプセル封じされており、上記のブレンドの使用量は加工される樹脂またはポリマーの100重量部当たりテトラフルオロエチレンの重合物の含有量が0.05〜20重量部になるような量であることを特徴とする使用法。
【請求項2】 ポリマーブレンドの比率が加工される樹脂および/またはポリマーの100重量部当たりテトラフルオロエチレンの重合物の量が0.5〜5重量部に相当するような量であることを特徴とする請求項1記載の使用法。
【請求項3】 ポリマーブレンド中でテトラフルオロエチレンの重合物の比率がブレンドの総重量当たり0.01〜80重量%を示すことを特徴とする請求項1または2記載の使用法。
【請求項4】 ポリマーブレンド中でテトラフルオロエチレンの重合物の比率がブレンドの総重量当たり0.05〜70重量%を示すことを特徴とする請求項3記載の使用法。
【請求項5】 テトラフルオロエチレンの重合物のラテックスの存在下でのスチレンとアクリロニトリルモノマーの乳化重合によってポリマーブレンドが得られることを特徴とする請求項1記載の使用法。
【請求項6】 スチレンとアクリロニトリルモノマーの重合がラジカル法によって行われることを特徴とする請求項5記載の使用法。
【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】
本発明の主題は、テトラフルオロエチレン誘導体類の重合物(以後はテトラフルオロエチレンの重合物と称する)に基づくブレンドをポリ塩化ビニル樹脂、塩素化ポリ塩化ビニル樹脂、ポリオレフィン、スチレン基質樹脂およびこれらの混合物、特に硬質樹脂のための加工助剤として使用することであり、詳しくは、テトラフルオロエチレンの重合物とポリアルキル(メタ)アクリレート、ポリビニルアセテート、スチレン/アクリロニトリルコポリマーおよびスチレン/アクリロニトリル/アルキル(メタ)アクリレートコポリマーから成る群から選ばれるポリマーまたはコポリマーとに基づくブレンドを加工助剤として使用することである。
【0002】
【従来の技術】
特に硬質ポリ塩化ビニル樹脂は液状の溶融相では加工されず、物理的ゲル相の形態で加工される。これは、ポリ塩化ビニル樹脂を効果的に溶融するためには260℃を越える温度に達しなければならず、この温度では樹脂は既に分解しているという事実による。
【0003】
ゲル状物を適切に処理するには、一般に特殊設計のスクリューを用いる押し出しによって得られるかなり大きい剪断力を作用させる必要がある。粉体状からゲル状への移行(「融解」とも称される)は、可塑剤の使用(軟質配合物用)や加工助剤の配合(硬質配合物の場合)によって促進される。
「融解」が促進されている状況を測定する簡便な手段は、「ブラベンダー・プラスチコーダー」(Brabender Plasticorder)と呼ばれる機器によってトルクを測定することである。この融解はトルク測定中にピークによって明示される。
【0004】
ポリ塩化ビニル樹脂、塩素化ポリ塩化ビニル樹脂、ポリオレフィン、スチレン基質樹脂およびこれらの混合物に対して、数多くの加工助剤がこれまでに使用されており、この中には、例えば、ゼネラル・エレクトリック・スペシャルティ・ケミカルズ(General Electric Specialty Chemicals)社よりブレンデックス(BLENDEX)(登録商標)869の商品名で市販されている加工助剤のようなスチレン/アクリロニトリルコポリマー、ゼネラル・エレクトリック・スペシャルティ・ケミカルズ社よりミックスチャーEX(MixtureEX)(登録商標)590の商品名で市販されているメチルメタクリレート/スチレン/アクリロニトリルコポリマー、ローム・アンド・ハース(ROHM & HAAS)社よりパラロイド(PARALOID)(登録商標)K125の商品名で市販され、バーロッチャー(BARLOCHER)社よりバロラピッド(BARORAPID)(登録商標)10Fの商品名で市販されている商品のようなポリメチルメタクリレートがある。また、特許第WO9105021号では、ポリテトラフルオロエチレンのようなフルオロポリマーをポリ塩化ビニル樹脂用の加工助剤として使用することが提案されている。
【0005】
【発明の目的】
しかし、ポリ塩化ビニル樹脂、塩素化ポリ塩化ビニル樹脂、ポリオレフィン、スチレン基質樹脂およびこれらの混合物の機械的特性を損なうことなく融解速度を増加させる加工助剤を見出だすことが更に一層望ましいであろう。
【0006】
【発明の概要】
本発明による発見として、ポリ塩化ビニル樹脂、塩素化ポリ塩化ビニル樹脂、ポリオレフィン、スチレン基質樹脂およびこれらの混合物用の加工助剤として、スチレン/アクリロニトリルのコポリマーとテトラフルオロエチレンの重合物の混合物を使用することが特に効果的であることが証明され、特に樹脂やポリマーの他の特性を損なうことなく融解時間を顕著に短縮した。
【0007】
ポリ塩化ビニル樹脂および塩素化ポリ塩化ビニル樹脂は周知の物質であり、なかんずく、「ビニルおよび関連ポリマー」(Vinyl and related polymers),Schildknecht,John Wiley & Sons,Inc.,New York,1952に記載されている。
ポリオレフィンは周知のポリマーとコポリマーであり、これらは、なかんずく、例えば低密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン、線状低密度ポリエチレンのようなポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブチレン、ポリブタジエンおよびEPDMゴムのようなジエンエラストマーを含む。
【0008】
本発明に使用されるスチレン基質樹脂の中には、ポリスチレン、ポリ(α-メチルスチレン)のようなポリ(α-アルキルスチレン)、ポリフエニレンオキシド、スチレン/アクリロニトリルコポリマーやアクリロニトリル/ブタジエン/スチレンコポリマー、ブタジエン/スチレンコポリマーのようなハイインパクトポリスチレン(HIPS)およびこれらの混合物を列挙できる。
【0009】
本発明に使用されるスチレン基質樹脂は、上記のポリマーやコポリマーと例えばポリカーボネートのような他のポリマーとの混合物も含む。
本発明に使用できるテトラフルオロエチレン重合物に基づくブレンドは、この種のあらゆるブレンド、即ち、ポリアルキル(メタ)アクリレート、ポリ(ビニルアセテート)、スチレン/アクリロニトリルコポリマーおよびスチレン/アクリロニトリル/アルキル(メタ)アクリレートコポリマーから成る群から選ばれるポリマーやコポリマーの中に完全にまたは部分的にカプセル封じされているテトラフルオロエチレンの重合物の粒子を含む組成物から成る。
【0010】
本発明に使用できるブレンドに於いて、テトラフルオロエチレンの重合物として、ポリテトラフルオロエチレン、テトラフルオロエチレン/ヘキサフルオロプロピレンコポリマーおよび共重合可能な少量のエチレン性不飽和モノマーとテトラフルオロエチレンとのコポリマーを使用できる。これらのポリマーは、既知であって、なかんずく、「ビニルおよび関連ポリマー」(Vinyl and related polymers),Schildknecht,John Wiley & Sons,Inc.,New York,1952,484〜494ページ、および「フルオロポリマー」(Fluoropolymers),Woll,Wiley-Interscience,John Wiley & Sons,Inc.,New York,1972,に記載されている。
【0011】
本発明による加工助剤として利用されるブレンドに使用されるポリアルキル(メタ)アクリレートには、炭素原子数が1ないし4のポリアルキルアクリレートとメタクリレートを列挙できる。好ましくは、ポリメチルアクリレートまたはメタクリレートが使用される。
本発明に使用されるポリマーブレンドに使用され得るスチレン/アクリロニトリルコポリマーは、商業的に入手可能な周知のコポリマーである。
【0012】
スチレン/アクリロニトリル/アルキル(メタ)アクリレートコポリマーもまた周知の商業的に入手可能なコポリマーである。スチレン/アクリロニトリル/メチルメタクリレートコポリマーが特に推奨される。
スチレン/アクリロニトリルコポリマーとテトラフルオロエチレンの重合物とのポリマーブレンドは、ラテックス共沈降法(共凝固や共凝集とも呼ばれる)、気相沈降法のような各種の方法によって、あるいはまたテトラフルオロエチレンの重合物のラテックスの中でのスチレンとアクリロニトリルモノマーの乳化重合によって得てもよい。また、好ましくは、乳化重合はラジカル法によって行われる。
【0013】
SANとTFE重合物のポリマーブレンド中でのテトラフルオロエチレンの重合物の比率は、広範囲に変動することができ、一般にブレンドの総重量当たり0.01〜80重量%、好ましくは0.05〜70重量%、である。
特に推奨されるTFE重合物に基づくポリマーブレンドは、ラジカル法によって、乳化重合、つまり、ポリテトラフルオロエチレンのラテックスの中での乳化重合によって製造されたブレンドである。この乳化重合は、不連続的、半連続的あるいは連続的に実施し得る。いったんカプセル封じポリマーが重合されると、次に乾燥してポリマーブレンドの粉体を得る。
【0014】
本発明で使用されるエマルションとは、エマルションのみあるいはエマルション/サスペンションを意味する。
カプセル封じポリマーまたはコポリマーの重合反応媒質中にテトラフルオロエチレンの重合物のラテックスを最初から直ぐ導入する、即ち、重合が始まる前に導入することが可能であり、また重合反応中に、即ち、一般にモノマーの90%以上が重合あるいは共重合される前に導入することも可能である。
【0015】
一般に、テトラフルオロエチレンの重合物のラテックスは、20〜80重量%の固形分を含み、このラテックスの粒子サイズは0.05〜20μm(レーザー回折によって測定)、好ましくは0.1〜1μmである。
この推奨されるポリマーブレンドは、自由に流動し、粘着を起こさず、更に、ブレンド粒子を連結し合う網状組織を形成するようなテトラフルオロエチレンの重合物のフィラメントを実質的に含有しない粉体を形成する。
【0016】
本発明で特に推奨されるポリマーブレンドは、SANとテトラフルオロエチレン重合物のブレンドであり、より一層好ましくはSANとポリテトラフルオロエチレンのブレンドである。
加工助剤として使用されるテトラフルオロエチレン重合物に基づくポリマーブレンドが本発明によって加工される樹脂中に占める比率は、広範囲に変動することができ、混合物中で、テトラフルオロエチレンの重合物の重量が加工される樹脂および/またはポリマー100重量部当たり一般に0.05〜20重量部、好ましくは0.5〜5重量部、になるような比率である。
【0017】
【実施例の記載】
乳化重合によるSAN/PTFEブレンドの製造例
スチレン/アクリロニトリル(SAN)コポリマーによってカプセル封じされたテトラフルオロエチレンの重合物の粒子を含む新しいポリマーブレンドを、半連続式乳化重合方法を用いて製造した。
重合
スチレン/アクリロニトリルコポリマーによってカプセル封じされたPTFE粒子(PTFE/SAN)から成る新しいブレンドは下記の方式によって製造された。
【0018】
15リットルの反応器を温度60℃で使用し、毎分120回転の撹拌をした。SANコポリマーは、ラジカル開始剤としての第一鉄イオン/クメンヒドロペルオキシド(CHP)レドックス系を、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)キレート化剤と還元剤としてのヒドロキシメタンスルフィン酸ナトリウム二水化物(SFS)に組み合わせて使用することによって製造された。t-ドデシルメルカプタン(TDM)を連鎖移動剤として使用した。テトラフルオロエチレンの重合物のラテックスは、石鹸による該重合物の溶液の形態で導入された。石鹸系は、獣脂脂肪酸(TFA)であった。反応器には、上記の石鹸/テトラフルオロエチレン重合物から成る液の全量を最初に装入し、そして、全ての他の溶液(SFS/EDTA溶液、FeSO4溶液およびモノマー/TDM溶液)の15重量%を装入した後に、開始剤の供給を開始した。次に、ある時間をかけてCHP開始剤のみを導入した後で、全ての他の溶液の供給を開始した。ひとたび供給が完結すると直ちに、反応器を温度60℃で撹拌し最長が180分間の後重合工程とした。テトラフルオロエチレン重合物/SANの新しいブレンドが得られた。
【0019】
製造方法と得られたブレンドの詳細は下の表1に示した。



各実施例について、転換率(固形分を基準としての)とpHを時間の関数として観察した。
【0020】
結果を表2に示す。

凝固と乾燥
得られたポリマーブレンドを酸溶液(水に対して2部の硫酸)中に導入し、激しく撹拌しながら95℃に加熱した。固形分含有率は15重量%であった。ブレンドのラテックスの導入は約10分間で完結した。得られたスラリーはこの温度で20分間撹拌し続けてから、遠心分離をした。得られた粉体は55℃で30分間で再びペースト状にした。ペーストの固形分含有率は18%であった。遠心分離処理の後、得られた粉体を流動床式乾燥機によって60℃で約2時間乾燥した。最終水分含有率0.3〜0.4%を持つ自由に流動する粉体が得られた。
【0021】
得られたブレンドの粒子サイズは下の表3に示した。

比較例A〜Nおよび実施例1〜9
以下の例で、別に表示がない限り、量は重量部で表示されている。
【0022】
下の表4に表示の比率で、各種の既知の加工助剤並びにSANとテトラフルオロエチレン重合物のポリマーブレンドを、滑剤と安定剤を含むポリ塩化ビニル樹脂と混合した。使用されたSAN/PTFE混合物は、全て、前記のようにPTFEラテックスの中で、表示の比率、即ち、50/50、60/40および70/30を用いて乳化重合によって製造された。
【0023】
全ての組成物について、融解時間、融解ピークのブラベンダー・トルク、高原域のブラベンダー・トルク、融解物の伸び、融解物の引っ張り強度、ダイスウェリングおよびメトラスタット(Metrastat)黄変時間を測定した。その結果は、下の表5に示した。




1Loxiol G15はヘンケル(HENKEL)社から市販されている脂肪酸エステルの混合物である。
2AC316 A waxはアライドケミカルズ(ALLIED CHEMICALS)社から市販されている酸化ポリエチレンワックスである。
3Loxiol G30はヘンケル(HENKEL)社から市販されている脂肪酸エステルの混合物である。
4Mixtureex 869はゼネラル・エレクトリック・スペシャルティ・ケミカルズ社より市販されている重量平均分子量6×106のSANコポリマーである。
5Mixtureex 590はゼネラル・エレクトリック・スペシャルティ・ケミカルズ社より市販されているMMA/SANコポリマーである。
6乳化重合で得られたSAN


表5から、SANとテトラフルオロエチレンの重合物のポリマーブレンドを加工助剤として使用すると、融解速度がかなり増加することが明白である。
【0024】
この種のブレンドを使用すると、ポリテトラフルオロエチレンやスチレン/アクリロニトリルコポリマー単独を使用する場合に比較して融解速度が増加するが、この事実はブレンドの形態でこの二種のポリマーを使用すると相乗作用があることを明白に示す。
更に、ポリ塩化ビニル樹脂の加工助剤としてSANとテトラフルオロエチレン重合物のポリマーブレンドを使用すると、既知の加工助剤を使用する場合に比較して、融解物の強度がかなり増加する。
【0025】
その結果、ポリ塩化ビニル樹脂の加工助剤としてSANとテトラフルオロエチレン重合物のポリマーブレンドを使用すると、ポリ塩化ビニル樹脂の熱安定性に大きな影響を及ぼすことなく、特性の特異な組み合わせ、即ち、極めて迅速な融解速度と非常に高い融解物強度の組み合わせを得ることが可能になる。
本発明によるポリマーブレンドの加工助剤としての使用は、硬質ポリ塩化ビニル樹脂発泡体の製造に特に有利であることがわかる。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
審理終結日 2004-01-20 
結審通知日 2004-01-23 
審決日 2004-02-09 
出願番号 特願平8-97972
審決分類 P 1 122・ 121- YA (C08L)
P 1 122・ 113- YA (C08L)
P 1 122・ 532- YA (C08L)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 藤本 保  
特許庁審判長 柿 崎 良 男
特許庁審判官 佐 野 整 博
中 島 次 一
登録日 2001-01-19 
登録番号 特許第3150285号(P3150285)
発明の名称 テトラフルオロエチレン誘導体類の重合物に基づくポリマーブレンドの加工助剤としての使用法  
代理人 柳井 則子  
代理人 高橋 詔男  
代理人 松本 研一  
代理人 松本 研一  
代理人 棚井 澄雄  
代理人 志賀 正武  

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