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審決分類 審判 全部申し立て 特39条先願  C01D
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  C01D
審判 全部申し立て 2項進歩性  C01D
管理番号 1102803
異議申立番号 異議2003-71016  
総通号数 58 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 1993-11-22 
種別 異議の決定 
異議申立日 2003-04-16 
確定日 2004-06-30 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第3343936号「非晶質リチウムイオン伝導性固体電解質並びにその合成法」の請求項1ないし3に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 訂正を認める。 特許第3343936号の請求項1、2に係る特許を維持する。 
理由 1.手続の経緯
特許第3343936号の請求項1乃至3に係る発明は、平成4年5月12日に特許出願され、平成14年8月30日に特許権の設定登録がなされ、その後、請求項1乃至3に係る特許について特許異議申立人滝口賢一郎より特許異議申立てがなされ、取消理由が通知され、その指定期間内である平成15年11月18日に訂正請求がなされたものである。

2.訂正の適否についての判断
2-1.訂正の内容
平成15年11月18日になされた訂正請求は、願書に添付された明細書(以下、「特許明細書」という。)を訂正請求書に添付された明細書(以下、「訂正明細書」という。)のとおりに訂正することを求めるもので、その内容は以下のとおりである。
a.特許明細書の請求項1を、「一般式aLi3 PO4 ・bLi2 S・cX(a+b+c=1、XはSiS2 ,GeS2 ,P2 S5 ,B2 S3 のうち少なくともP2S5を含む、少なくとも一種の硫化物)で表され、組成比a、b、c、が0<a≦0.1かつb≧0.5かつc≧0.3をみたすことを特徴とする非晶質リチウムイオン伝導性固体電解質。」と訂正する。
b.特許明細書の請求項2を削除する。
c.特許明細書の請求項3を、請求項2に繰り上げると共に「Li3 PO4 とLi2 SとX(XはSiS2 ,GeS2 ,P2S5 ,B2 S3 のうち少なくともP2S5を含む、少なくとも一種の硫化物)の混合物を溶融し、その後急冷することを特徴とする請求項1記載の非晶質リチウムイオン伝導性固体電解質の合成法。」と訂正する。
d.特許明細書【0009】段落の「XはSiS2 ,GeS2 ,P2 S5 ,B2S3 のうち少なくとも一種の硫化物)で表され、組成比a、b、c、がa<0.3かつb>0.3かつc>0.2をみたす」を、「XはSiS2 ,GeS2 ,P2 S5 ,B2 S3 のうち少なくともP2S5を含む、少なくとも一種の硫化物)で表され、組成比a、b、c、が0<a≦0.1かつb≧0.5かつc≧0.3をみたす」と訂正する。
e.特許明細書【0011】及び【0057】段落(訂正明細書【0010】及び【0055】段落)の「XはSiS2 ,GeS2 ,P2 S5 ,B2 S3 のうち少なくとも一種の硫化物」を、「XはSiS2 ,GeS2 ,P2 S5 ,B2 S3 のうち少なくともP2S5を含む、少なくとも一種の硫化物」と訂正する。
f.特許明細書【0054】段落(訂正明細書【0053】段落)の「XがSiS2 ,GeS2 ,P2 S5 ,B2 S3 であるものについて説明を行ったが、」を、「XがP2 S5 であるものについて説明を行ったが、」と訂正し、「XとしてSiS2 とGeS2 の混合物など、SiS2,GeS2 ,P2 S5 ,B2 S3 から選ばれる複数の硫化物の混合物」を「XとしてSiS2 ,GeS2 ,B2 S3 から選ばれる複数の硫化物との混合物」と訂正する。
g.特許明細書【0055】段落(訂正明細書【0054】段落)の「XはSiS2 ,GeS2 ,P2 S5 ,B2 S3 のうち少なくとも一種の硫化物)で表されるリチウムイオン伝導性固体電解質において、その組成比a、b、cをa<0.3、b>0.3、c>0.2とすることで」を、「XはSiS2 ,GeS2 ,P2 S5 ,B2 S3 のうち少なくともP2S5を含む、少なくとも一種の硫化物)で表されるリチウムイオン伝導性固体電解質において、組成比a、b、cを0<a≦0.1かつb≧0.5かつc≧0.3とすることで」と訂正する。
h.特許明細書【0018】、【0026】、【0031】、【0036】、【0043】段落(訂正明細書【0017】、【0025】、【0030】、【0035】、【0042】段落)の「実施例1」を、「参考例1」と訂正する。
i.特許明細書【0025】、【0030】、【0040】、【0044】、【0047】、【0053】段落(訂正明細書【0024】、【0029】、【0039】、【0043】、【0046】、【0052】段落)の「本発明」を、「本参考例」と訂正する。
j.特許明細書【0026】、【0046】段落(訂正明細書【0025】、【0045】段落)の「実施例2」を、「参考例2」と訂正する。
k.特許明細書【0036】、【0052】段落(訂正明細書【0035】、【0051】段落)の「実施例4」を、「参考例4」と訂正する。
l.特許明細書【0041】、【0045】、【0048】、【0051】段落(訂正明細書【0040】、【0044】、【0047】、【0050】段落)の「実施例5」を、「参考例5」と訂正する。
m.特許明細書【0045】段落(訂正明細書【0044】段落)の「実施例6」を、「参考例6」と訂正する。
n.特許明細書【0051】段落(訂正明細書【0050】段落)の「実施例8」を、「参考例8」と訂正する。
o.特許明細書【0010】、【0056】、【0058】段落を削除する。
p.特許明細書【0018】、【0026】、【0036】、【0041】、【0045】、【0051】段落(訂正明細書【0017】、【0025】、【0035】、【0040】、【0044】、【0050】段落)の「本発明による」を削除する。
2-2.訂正の目的の適否、新規事項の有無、及び拡張・変更の存否
訂正事項aは、以下の2つの訂正事項を含むものである。
a-1.特許明細書の請求項1に記載の「XはSiS2 ,GeS2 ,P2 S5 ,B2 S3 の少なくとも一種の硫化物」を、「XはSiS2 ,GeS2 ,P2 S5 ,B2 S3 のうち少なくともP2S5を含む、少なくとも一種の硫化物」と訂正する。
a-2.特許明細書の請求項1に記載の「a<0.3かつb>0.3かつc>0.2」を、「0<a≦0.1かつb≧0.5かつc≧0.3」と訂正する。
そして、訂正事項a-1及びa-2は、Xで表される硫化物を少なくともP2S5を含むものに減縮すると共にa,b,cの範囲を減縮するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とする訂正に該当すると云える。また、訂正事項a-1及びa-2は、特許明細書【0031】〜【0035】段落の実施例3及び【0048】〜【0050】段落の実施例7の記載、並びに、【0012】段落の【作用】の項の記載に基づくものであるから、特許明細書に記載された事項の範囲内で明細書の記載を訂正するものであると云える。さらに、訂正事項a-1及びa-2は、本件の請求項1に係る発明の課題に変更を及ぼすというものでもないので、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。
訂正事項bは、請求項2を削除するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とする訂正に該当すると云え、新規事項の追加に該当せず、しかも実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。
訂正事項cは、特許明細書の請求項3を請求項2とし、引用する請求項を請求項1のみとすると共に、「XはSiS2 ,GeS2 ,P2 S5 ,B2 S3 の少なくとも一種の硫化物」を、「XはSiS2 ,GeS2 ,P2 S5 ,B2 S3 のうち少なくともP2S5を含む、少なくとも一種の硫化物」と訂正するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とする訂正に該当すると云える。また、この訂正事項cは、訂正事項aについて記載したとおり、特許明細書の記載に基づくものであって、新規事項の追加に該当せず、しかも実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。
訂正事項d乃至pは、訂正事項a乃至cによる特許請求の範囲の訂正に伴い発明の詳細な説明の記載を訂正するものであるから、明りょうでない記載の釈明に該当する。また、この訂正事項d乃至pは、特許明細書の記載に基づくものであって、新規事項の追加に該当せず、しかも実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。
2-3.むすび
以上のとおりであるから、上記訂正は、特許法等の一部を改正する法律(平成6年法律第116号。以下「平成6年改正法」という。)附則第6条第1項の規定によりなお従前の例によるとされる、特許法第120条の4第3項において準用する平成6年改正法による改正前の特許法第126条第1項ただし書及び第2項の規定に適合するので、当該訂正を認める。

3.特許異議申立てについて
3-1.本件発明
特許第3343936号の請求項1及び2に係る発明(以下、「本件発明1」及び「本件発明2」という。)は、訂正明細書の特許請求の範囲の請求項1及び2に記載された次のとおりのものである。
「【請求項1】一般式aLi3 PO4 ・bLi2 S・cX(a+b+c=1、XはSiS2 ,GeS2 ,P2 S5 ,B2 S3 のうち少なくともP2S5を含む、少なくとも一種の硫化物)で表され、組成比a、b、c、が0<a≦0.1かつb≧0.5かつc≧0.3をみたすことを特徴とする非晶質リチウムイオン伝導性固体電解質。
【請求項2】Li3 PO4 とLi2 SとX(XはSiS2 ,GeS2 ,P2S5 ,B2 S3 のうち少なくともP2S5を含む、少なくとも一種の硫化物)の混合物を溶融し、その後急冷することを特徴とする請求項1記載の非晶質リチウムイオン伝導性固体電解質の合成法。」
3-2.異議申立の理由の概要
特許異議申立人は、証拠として下記の甲第1乃至6号証を参考資料1と共に提出し、次の主張をしている。
主張1:特許明細書の請求項1乃至3に係る発明は、甲第1、3、4、5号証に記載された発明であるか、甲第1乃至5号証に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許明細書の請求項1乃至3に係る発明の特許は、特許法第29条第1項第3号又は同条第2項の規定に違反してされたものであるから、取り消すべきものである。
主張2:特許明細書の請求項1に係る発明は、甲第6号証の請求項2に係る発明と同一であり、特許明細書の請求項1に係る発明の特許は、特許法第39条第1項の規定に違反してされたものであるから、取り消すべきものである。
甲第1号証:特開昭62-8452号公報
甲第2号証:“Materials Chemistry and Physics”,18(1987)1-17
甲第3号証:“Solid State Ionics”,38(1990)217-224
甲第4号証:“Solid State Ionics”,18&19(1986)351-355
甲第5号証:“Solid State Ionics”,17(1985)147-154
甲第6号証:特許第3184517号公報
参考資料1:特開昭62-82665号公報
3-3.主張1について
3-3-1.甲第1乃至5号証に記載された事項
(1)当審が取消理由で通知した刊行物1である甲第1号証(以下、「刊行物1」という。)には、「リチウムカチオン伝導性ガラス質固状電解質」という名称の発明について、以下の事項が記載されている。
1-ア.「1.下記の組成物のガラス質リチウムカチオン導体を有し、
aX,bLi2S,Y
ここに、XはP2S5およびSiS2から成るグループから選ばれ、
aは約0.5乃至約2、
bは0.25乃至2、また
Yは少なくとも1種の酸素含有リチウム化合物とし、
またここに、前記組成物は25℃において少なくとも0.75×10-4ohm-1cm-1のイオン伝導率を有する三元固状電解質。
2.YはLi2CO3,Li2O,LiOH,Li2SiO3,Li2SO4およびLi4SiO4から成るグループから選定された特許請求の範囲第1項記載の固状電解質。」(特許請求の範囲 第1及び2項)
1-イ.「本明細書においてガラス質とはガラス(非結晶)状態を意味し、また融解状態から急速に冷却されたので結晶の形成が防止された物質を意味するものとする。」(第3頁右下欄9〜12行)
1-ウ.「P2S5ベースガラス質組成物を作るには、P2S5、Li2Sおよびリチウム化合物を700〜850℃の温度で一緒に融解し、次に焼きもどしし、次に約100℃の温度で焼鈍する。所望ならば、最初に成分P2S5とLi2Sとを加熱し、次にリチウム化物を添加する事ができる。」(第4頁右上欄15行〜同頁左下欄1行)
1-エ.「本発明において使用される好ましいリチウム化合物は、Li2CO3、Li2SiO3、LiOHおよびLi4SiO4である。Li2CO3、Li2SiO3およびLi4SiO4はネットワーク形成剤であってドーパントではないと考えられるので、これらは最も好ましいリチウム化合物である。ネットワーク形成剤は、ネットワーク形成剤のアニオン、すなわちO=、S=などがネットワーク形成剤のカチオンの間にブリッジを形成する結果、長大なネットワークを形成する事により不規則組織の巨大分子ネットワークを形成する化合物である。」(第4頁左下欄4〜15行)
(2)当審が取消理由で通知した刊行物2である甲第2号証(以下、「刊行物2」という。)には、「急冷法により作製したリチウムイオン伝導性ガラス」という表題の下、以下の事項が記載されている。
2-ア.「本論文では、Li+イオンを多量に含有し、急冷により調製されたリチウムイオン伝導性ガラスのガラス形成、ガラス構造、熱的性質、密度及びイオン伝導性につき検討する。」(第1頁 要約の4〜7行)
2-イ.「現在まで、Li+イオンを含有する幾つかの組成系で液体急冷法によりガラス形成が試みられ、そのガラス形成領域が決定された。それらの特性を表1に列挙する。これらの組成系はIとIIの二つの系列に分かれる。系列Iの組成系は、表1の上側半分に示されているが、SiO2、B2O3、P2O5の様な所謂「ガラス形成材」を通常含有している。これらのガラス形成は通常の冷却手法でも幾らかの組成範囲で可能であるが、液体急冷法による事によりそのガラス化範囲は著しく拡大する。系列Iとは対照的に、ガラス形成は系列IIの組成系に於いて液体急冷法により最初報告されている。
図2に、一方の成分としてLi2Oを含有している2成分系ガラス形成領域を示す。上側半分の4成分は系列Iに、他方は系列IIに各々属している。・・・図中の四角で囲っただけの部分は、通常のガラス作製法によってもガラス形成する領域を示し、一方、斜線部は液体急冷法によってガラスが得られる領域を示している。Li2O-WO3、Li2O-Nb2O5、Li2O-Al2O3の様に、ガラス形成剤を含まない組成系(系列II)に於いてさえ、広いガラス形成領域が見られる。SiO2、B2O3、P2O5、GeO2のガラス形成剤を含有する組成系(系列I)に於いては、図中の矢印で示したオルト-オキソ塩組成の近くまで、液体急冷法によりガラス化領域は拡大する。例えば、Li2O-SiO2組成系に於いて、ガラス形成の限界は一般的手法ではLi2O量40モル%であるが、リチウムオルトケイ酸塩(Li4SiO4)組成に対応するLi2O量66.7モル%まで拡大する。」(第3頁13行〜同頁末行)として、第4頁には表1が、第5頁には図2が記載されている。
2-ウ.「2種類のリチウムオルト-オキソ塩を含んでいる組成系に於いて、ガラスが形成されている。図3には、6種類のリチウムオルト-オキソ塩(即ち、Li3BO3、Li4SiO4、Li4GeO4、Li3PO4、Li2SO4、Li2WO4)から選んだ2種類を含有する15通りの組成系に於けるガラス生成状況が示されている。」(第4頁1〜4行)として、第5頁には図3が記載されている
(3)当審が取消理由で通知した刊行物3である甲第3号証(以下、「刊行物3」という。)には、「B2S3-Li2S,P2S5-Li2S及びB2S3-P2S5-Li2Sガラス系の合成と特性」という表題の下、以下の事項が記載されている。
3-ア.第219頁の表1には、0.25〜0.5B2S3-0.5〜0.75Li2Sのうち5種、0.30〜0.5P2S5-0.5〜0.70Li2Sのうち4種、0.03〜0.30B2S3-0.03〜0.30P2S5-0.67Li2Sのうち4種について、σ25(mS/cm)が記載されている。
3-イ.「ガラス化に対して最も大きいx値((1-x)B2S3-xLi2S)である0.75以下において、最も高いイオン伝導度、および最も低い活性化エネルギーが見られた事は注目すべきである。この事は他のガラス組成系にて、イオン伝導度がガラス形成領域の限界近くの微結晶化が始まると考えられる領域で低下する事と同様である。この結晶相は小さすぎてX線回折ではとらえる事はできなかったが、最近、このx=0.75組成の500MHzNMR解析結果から、結晶化の開始を示す小さい鋭いピークが見られた。」(第220頁右欄1〜10行)
(4)当審が取消理由で通知した刊行物4である甲第4号証(以下、「刊行物4」という。)には、「双ロール急冷法により調製されたリチウム伝導性硫化けい素ガラスの電気的特性」という表題の下、以下の事項が記載されている。
4-ア.「こうして10-4〜10-3(Ω.cm)-1の範囲の伝導率を有するガラスを得ることかできた。極く最近、Li2SiS3ガラス(純粋かつLiI,LiBrでドープされた)についての研究が報告された。著者によるとこのようなガラスの利点は、P2S5の揮発性の故にLi2S-P2S5に対し不可能な大気圧力下で調製ができるという点にある。これらのドープされたガラスの伝導率は6.4×10-4(Ω.cm)-1に達する。」(第351頁右欄第2〜13行)
4-イ.第352頁右欄の表1には、0.3〜0.6Li2S0.4〜0.7SiS2のうち4種が記載されている。
4-ウ.第354頁の表3には双ロール装置で調製されたxLi2S(1-x)SiS2のうちLi2Sのモル分率が0.3〜0.66の5つの試料についてσ25℃(Ω.cm)-1が記載されている。
(5)当審が取消理由で通知した刊行物5である甲第5号証(以下、「刊行物5」という。)には、「リチウム伝導性ガラスの電気的特性に対する急冷の効果」という表題の下、以下の事項が記載されている。
5-ア.「冷却速度の影響を検討するために急冷された通常のガラス類の電気的特性を比較したところ、結果は酸化物ガラスと硫化物ガラスとでは全く異なり、急冷は酸化物ガラスには余り大きな影響を与えないが、硫化物ガラスに対しては活性化エネルギー及び指数関数係数値の重大な減少が認められる。」(要約の3〜6行)
5-イ.「3.2 xLi2S(1-x)GeS2ガラス
x=0.2からx=0.7までの8種の組成で検討を行った。以前の結果と一致して、X線回折結果では出発物質はx=0.5組成まで非晶質となっていた。液体急冷装置を使用する事により、・・・x=0.63組成までガラス化領域を広げる事ができた。Li2Sがさらに過剰な組成(x=0.66)では部分的に結晶化した。
そのイオン伝導度は全ての組成で確定した。リチウムを多く含む試料は、その幾何学的構造により、大変低い抵抗値を示し、高い温度(100℃以上)において正確な結果を得る事が不可能となった。図4に、液体急冷法によるガラス試料の1ogσと1/Tとの関係を示す。得られた直線は活性化伝導機構の特徴的なものである。このイオン伝導度の特性値を、いくつかの組成で従来手法の試料において得られた値と比較して、表4と図5にまとめる。ガラス試料に於いては、Li含有量が高くなるに従い、イオン伝導度は高くなっている。結晶化が始まると、そのイオン伝導度は低下する。即ち、x=0.66とx=0.7の試料のイオン伝導度は、x=0.63の試料より低くなっている。ガラス状態ではLi含有量増加と共に活性化エネルギーは減少するが、結晶化の開始でまた増大し始める。指数関数係数値は全ての液体急冷法による試料で概ね同等であった。」(第150頁右欄下から6行〜第152頁左欄5行)として、特に、第151頁の表4には、Li2Sのモル分率が0.2〜0.7の8つのLi2S-GeS2についてσ25℃Ω-1cm-1が記載されている。
3-3-2.対比、判断
(1)本件発明1について
上記3-3-1で摘記した記載事項1-ア〜エ及び発明の名称からみて、刊行物1には「リチウムカチオン伝導性ガラス質固状電解質」について記載されており、記載事項1-イからみて、上記「ガラス質」とは「ガラス(非晶質)状態」、すなわち「非晶質」な状態を意味することは明らかである。また、記載事項1-アにおける「aX,bLi2S,Yの組成物」を一般式で表すと、a’Xb’Li2SxY(a’+b’+x=1)で表されると云えるが、刊行物1を検討しても、「aX,bLi2S,Yの組成物」におけるYの組成範囲は記載されておらず、XがP2S5のときの該組成物の具体例も記載されていないため、XがP2S5のときの組成比a’、b’、xは不明であると云わざるを得ない。よって、記載事項ア〜エを総合すると、刊行物1には、下記の発明が記載されていると云える。
「一般式a’Xb’Li2SxY(a’+b’+x=1、XはP2S5およびSiS2から成るグループから選ばれ、YはLi2CO3,Li2O,LiOH,Li2SiO3,Li2SO4およびLi4SiO4から成るグループから選定された少なくとも1種の酸素含有リチウム化合物)で表され、XがP2S5のとき組成比a’、b’、xが不明である非晶質リチウムカチオン伝導性三元固状電解質。」
本件発明1と刊行物1に記載された発明を対比すると、後者における「リチウムカチオン」は前者における「リチウムイオン」に相当し、後者における「固状」は前者における「固体」に相当する。また、後者における「a’」は前者における「c」に相当し、後者における「b’」は前者における「b」に相当し、後者における「x」は前者における「a」に相当する。そして、後者における「X」は、XがP2S5である点で、前者における「X」と一致するから、両者は、
「一般式aY ・bLi2 S・cX(a+b+c=1、XはP2S5)で表される非晶質リチウムイオン伝導性固体電解質。」
で一致し、次の点で相違する。
(i)前者は、YがLi3 PO4であるのに対し、後者は、YがLi2CO3,Li2O,LiOH,Li2SiO3,Li2SO4およびLi4SiO4から成るグループから選定された少なくとも1種の酸素含有リチウム化合物である点。
(ii)前者は、YがLi3 PO4であることを前提として、組成比a、b、c、が0<a≦0.1かつb≧0.5かつc≧0.3をみたすのに対し、後者はかかる特定がない点。
そこで、これらの相違点についてまとめて検討する。
刊行物1には、記載事項1-ウに、上記非晶質リチウムイオン伝導性固体電解質の製造方法として、P2S5、Li2Sおよび酸素含有リチウム化合物を700〜850℃の温度で一緒に融解することが記載されている。ところで、特許異議申立人は、この製造方法によりその電解質中にLi2PO4が生成する旨、更に主張する。しかし、刊行物1に記載されるこの製造方法は、P2S5、Li2Sおよび酸素含有リチウム化合物から成る三元非晶質リチウムイオン伝導性固体電解質を得るための一つの方法として示されるものであって、他の成分を生成することまでは意図するものではなく、したがって、この製造方法において、反応条件によっては、Li3 PO4等の他の成分が偶々生成されることがあるとしても、その場合は、刊行物1に記載された発明には含まれないものである。そもそも、特許異議申立人は、この製造方法の反応については、出発原料が刊行物1のものと異なる反応式等を提示するだけであって、当該製造方法において、Li3PO4が生成すると認めるに足る合理的根拠は示されていない。
したがって、刊行物1に記載された発明が、上記相違点(i)に係る本件発明1の構成要件である「YがLi3 PO4であること」の要件を具備するとは到底云えない。そして、上記相違点(ii)に係る本件発明1の構成要件は、相違点(i)に係る本件発明1の構成要件であるYがLi3 PO4であることを前提とするものであるから、刊行物1に記載された発明が、上記相違点(ii)に係る本件発明1の構成要件を具備するとも云えない。
よって、本件発明1は、刊行物1に記載された発明であるとは云えない。
さらに、上記相違点について刊行物2乃至5の記載を検討すると、刊行物2には、急冷法により作製したリチウムイオン伝導性ガラスについて記載されているが、このリチウムイオン伝導性ガラスは、Li2Oと他の酸化物から成るもの又はリチウムオルト-オキソ塩から成るもののみであって、刊行物2には、Li2 Sと他の硫化物とから成るリチウムイオン伝導性ガラスに関する記載はない。
刊行物3乃至5には、Li2 Sと他の1種又は2種の硫化物とから成るガラス質のリチウムイオン伝導性固体電解質が記載されているが、かかる固体電解質の一成分としてLi3 PO4 を加えることは記載されておらず、かかる事項を示唆する記載もない。
したがって、本件発明1は、刊行物3、4、5に記載された発明であるとは云えず、また、刊行物2乃至5に記載された事項により、上記相違点(i)及び(ii)に係る本件発明1の構成要件を想到することは、当業者にとって容易なことであるとも云えない。
そして、本件発明1は、Li2S・X擬2成分系リチウムイオン固体電解質に第3成分としてLi3 PO4 を加えたことによりガラス化が容易となると共に、組成比を上記の如く定めたことにより高いイオン伝導性を示すリチウムイオン固体電解質とすることができるという、明細書に記載された効果を奏するものである。
よって、本件発明1は、刊行物1,3,4,5に記載された発明であるとも、刊行物1乃至5に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるとも云えない。
なお、参考資料1の記載を検討しても、上記の判断を変更する必要を認めない。
(2)本件発明2について
本件発明2は、本件発明1の非晶質リチウムイオン伝導性固体電解質の合成法に係るものであるから、少なくとも上記(1)で述べた理由と同じ理由で、刊行物1,3,4,5に記載された発明であるとも、刊行物1乃至5に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるとも云えない。
3-4.主張2について
当審が取消理由で通知した本願の出願の日前の出願である甲第6号証の出願(特願平2-335901号)の請求項2に係る発明は以下のとおりのものである。
「【請求項2】リン酸リチウム(Li3PO4)の存在量が1〜5モル%である請求項1に記載のリチウムイオン伝導性固体電解質。」
なお、請求項1は以下のとおりである。
「【請求項1】一般式Li2S-X(ただし、XはSiS2,GeS2,B2S3のうち少なくとも一種の硫化物を表わす)で表されるリチウムイオン伝導性硫化物ガラスに、リン酸リチウム(Li3PO4)からなる高温リチウムイオン伝導性化合物を存在させたリチウムイオン伝導性固体電解質。」
上述のとおり訂正請求が容認されたことにより、本件発明1において、「XはSiS2 ,GeS2 ,P2 S5 ,B2 S3 のうち少なくともP2S5を含む、少なくとも一種の硫化物」となった。
これにより、本件発明1においては、Xが少なくともP2S5を含む、少なくとも一種の硫化物であるのに対し、上記先願発明においては、XがP2S5ではない点で、両者は同一とは云えないものとなった。
したがって、本件発明1は甲第6号証の請求項2に係る発明と同一であるとは云えない。
3-5.むすび
以上のとおりであるから、特許異議申立ての理由及び証拠によっては本件発明1及び2についての特許を取り消すことはできない。
また、他に本件発明1及び2についての特許を取り消すべき理由を発見しない。
したがって、本件発明1及び2についての特許は拒絶の査定をしなければならない特許出願に対してされたものと認めない。
よって、特許法等の一部を改正する法律(平成6年法律第116号)附則第14条の規定に基づく、特許法等の一部を改正する法律の施行に伴う経過措置を定める政令(平成7年政令第205号)第4条第2項の規定により、上記のとおり決定する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
非晶質リチウムイオン伝導性固体電解質並びにその合成法
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】 一般式aLi3PO4・bLi2S・cX(a+b+c=1、XはSiS2,GeS2,P2S5,B2S3のうち少なくともP2S5を含む、少なくとも一種の硫化物)で表され、組成比a、b、c、が0<a≦0.1かつb≧0.5かつc≧0.3をみたすことを特徴とする非晶質リチウムイオン伝導性固体電解質。
【請求項2】 Li3PO4とLi2SとX(XはSiS2,GeS2,P2S5,B2S3のうち少なくともP2S5を含む、少なくとも一種の硫化物)の混合物を溶融し、その後急冷することを特徴とする請求項1記載の非晶質リチウムイオン伝導性固体電解質の合成法。
【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、全固体電池、コンデンサ、固体エレクトロクロミック表示素子等の固体電気化学素子の電解質として利用されるリチウムイオン伝導性固体電解質に関するものである。
【0002】
【従来の技術】近年、リチウムイオン伝導性固体電解質を用いたリチウム電池の全固体化に関する研究が盛んに行われている。
【0003】この様なリチウムイオン伝導性固体電解質の一つとしてLi2S・X(XはSiS2,GeS2,P2S5,B2S3のうち少なくとも一種の硫化物)系硫化物ガラスが存在する。
【0004】Li2S・X系硫化物ガラスは、XがSiS2のLi2S・SiS2系において最も高い伝導率の値を有し、その値は、5×10-4S/cm程度である。
【0005】また、さらに高いイオン伝導性を得るために、これら硫化物ガラスにヨウ化リチウム(LiI)あるいはリン酸リチウム(Li3PO4)を添加した擬3成分系ガラスの提案が行われている。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】これら各種の固体電解質の提案は、そのイオン伝導性を向上させることを目的としている。伝導率は可動イオンの濃度と移動度の積に比例するため、固体電解質の伝導率を向上させるためには可動イオンの濃度を上げることが必要となる。例えばLiS2・X(XはSiS2,GeS2,P2S5,B2S3のうち少なくとも一種の硫化物)2成分系ガラスではLi2S成分を増やすことにより伝導率が向上する。
【0007】しかしながら、これらの系でのガラス化領域は限られており、Li2Sの組成比を大きくするとガラス形成が不可能となり逆に伝導率が低下する結果となる。
【0008】本発明は、以上の課題を解決し、より高いリチウムイオン伝導性を有する固体電解質とその合成法を提供することを目的とする。
【0009】
【課題を解決するための手段】本発明の非晶質リチウムイオン伝導性固体電解質は、一般式aLi3PO4・bLi2S・cX(a+b+c=1、XはSiS2,GeS2,P2S5,B2S3のうち少なくともP2S5を含む、少なくとも一種の硫化物)で表され、組成比a、b、c、が0<a≦0.1かつb≧0.5かつc≧0.3をみたすことを特徴とする。
【0010】また、前記非晶質リチウムイオン伝導性固体電解質は、Li3PO4とLi2SとX(XはSiS2,GeS2,P2S5,B2S3のうち少なくともP2S5を含む、少なくとも一種の硫化物)の混合物を溶融し、その後急冷することにより合成するのが好ましい。
【0011】
【作用】LiS2・X(XはSiS2,GeS2,P2S5,のうち少なくとも一種の硫化物)擬2成分系ガラスに第3成分としてLi3PO4を加えることで、可動イオンであるリチウムイオンの濃度が大きなものとなり、伝導率が向上する。またさらに、Li3PO4の成分であるPO43-はガラスネットワーク形成能を有することから、2成分系ではガラス化が不可能であったLi2S成分が多い組成領域でもガラス化が可能となる。
【0012】一般式aLi3PO4・bLi2S・cX(a+b+c=1、XはSiS2,GeS2,P2S5,B2S3のうち少なくとも一種の硫化物)を主成分とするリチウムイオン伝導性固体電解質では、組成比a、b、cがa<0.3かつb>0.3かつc>0.2をみたす組成領域でガラス化が可能となり、高いイオン伝導性を示す非晶質リチウムイオン伝導性固体電解質を得ることができる。
【0013】さらにこの組成領域の中でも、組成比a、b、cがa≦0.1かつb≧0.5かつc≧0.3をみたす組成領域で可動イオンの濃度が高いものとなり、伝導率が極大を示すことから、特に好ましく用いられる。
【0014】aLi3PO4・bLi2S・cX(a+b+c=1)を主成分とする化合物において、XがSiS2であるときガラス化が容易にできることから、XとしてSiS2が特に好ましく用いられる。
【0015】また、擬3成分系硫化物ガラスを作製するには、一般に擬2成分系ガラスを母材として作製し、これに第3成分を混合、溶融し、ガラスを作製するといった2段階のプロセスをとる方法が一般的であるが、Li3PO4・Li2S・X(XはSiS2,GeS2,P2S5,B2S3のうち少なくとも一種の硫化物)擬3成分系ガラスを作製するには、PO43-がガラスネットワーク形成に寄与するために、このような2段階のプロセスをとる必要はなく、材料を一度に混合し、溶融した後、急冷することで合成の際の工数を簡略化することができる。
【0016】
【実施例】以下、本発明を具体的実施例により詳細に説明するが、本発明は、これら実施例に限定されるものではない。
【0017】(参考例1)非晶質リチウムイオン伝導性固体電解質の内、Li3PO4・Li2S・SiS2で表される非晶質リチウムイオン伝導性固体電解質を以下の方法で合成した。
【0018】母材としてLi2S・SiS2系硫化物ガラスを合成し、これにLi3PO4を添加して、aLi3PO4・bLi2S・cSiS2(a+b+c+=1)を合成した。
【0019】先ず、Li2S・SiS2系硫化物ガラスの合成法を示すと、硫化リチウム(Li2S)と硫化珪素(SiS2)を所定の組成となるように混合した材料粉末をガラス状カーボン坩堝にいれ、これを、アルゴン気流中950°Cで1.5時間溶融し反応させた後、液体窒素中に投入して急冷し、Li2S・SiS2を合成し母材とした。
【0020】次に、これらの母材を粉砕し、これにリン酸リチウム(Li3PO4)をaLi3PO4・bLi2S・cSiS2(a+b+c=1)の所定の組成となるように加えて混合し、得られた材料粉末をガラス状カーボン坩堝にいれ、これを、アルゴン気流中950°Cで1.5時間溶融し反応させた後、液体窒素中に投入して急冷し、aLi3PO4・bLi2S・cSiS2(a+b+c=1)リチウムイオン伝導性固体電解質を合成した。
【0021】合成の結果、生成物がガラス化する組成領域とガラス化しない組成領域がみられた。ガラス化範囲は図1に示すように、a<0.3、b>0.3、c>0.2の範囲であり、Li2S・SiS2擬2成分系ではガラス化しない組成、例えば0.65Li2S・0.35SiS2に対し、リン酸リチウムを加えて0.05Li3PO4・(0.65Li2S・0.35SiS2)とすることによりガラス化が可能であることがわかった。
【0022】以上のようにして合成した固体電解質のイオン伝導率を、交流インピーダンス法により測定した。
【0023】測定の結果、a≦0.1、b≧0.5、c≧0.3の組成領域で特に高い伝導率を示し、2×10-4〜7×10-4S/cmであった。伝導率が最大となる組成は、0.03Li3PO4・0.63Li2S・0.34SiS2であった。
【0024】以上のように、本参考例によると、Li2S・SiS2擬2成分系ではガラス化しなかった組成もリン酸リチウムを加えることによりガラス化が可能となり、また、よりイオン伝導率の大きな固体電解質とすることができる。
【0025】(参考例2)非晶質リチウムイオン伝導性固体電解質の内、Li3PO4・Li2S・GeS2で表される非晶質リチウムイオン伝導性固体電解質を、SiS2にかえてGeS2を用いた以外は参考例1と同様の方法で合成した。
【0026】合成の結果、生成物がガラス化する組成領域とガラス化しない組成領域が見られた。ガラス化範囲は図2で示すように、a<0.3、b>0.3、c>0.2の範囲であり、Li2S・GeS2擬2成分系ではガラス化しない組成、例えば0.65Li2S・0.35GeS2に対し、リン酸リチウムを加えて0.05Li3PO4・(0.65Li2S・0.35GeS2)とすることによりガラス化が可能であることがわかった。
【0027】以上のようにして合成した固体電解質のイオン伝導率を、交流インピーダンス法により測定した。
【0028】測定の結果、a≦0.1かつb≧0.5かつc≧0.3の組成領域で特に高い伝導率を示し、1×10-4〜3×10-4S/cmとなった。伝導率が最大となる組成は、0.03Li3PO4・0.63Li2S・0.34GeS2であった。
【0029】以上のように、本参考例によると、Li2S・GeS2擬2成分系ではガラス化しなかった組成もリン酸リチウムを加えることによりガラス化が可能となり、また、よりイオン伝導率の大きな固体電解質とすることができる。
【0030】(実施例3)本発明による非晶質リチウムイオン伝導性固体電解質の内、Li3PO4・Li2S・P2S5で表される非晶質リチウムイオン伝導性固体電解質を、SiS2にかえてP2S5を用いた以外は参考例1と同様の方法で合成した。
【0031】合成の結果、生成物がガラス化する組成領域とガラス化しない組成領域が見られた。ガラス化範囲は図3で示すように、a<0.3、b>0.3、c>0.2の範囲であり、Li2S・P2S5擬2成分系ではガラス化しない組成、例えば0.65Li2S・0.35P2S5に対し、リン酸リチウムを加えて0.05Li3PO4・(0.65Li2S・0.35P2S5)とすることによりガラス化が可能であることがわかった。
【0032】以上のようにして合成した固体電解質のイオン伝導率を、交流インピーダンス法により測定した。
【0033】測定の結果、a≦0.1、b≧0.5、c≧0.3の組成領域で特に高い伝導率を示し、2×10-4〜4×10-4S/cmとなった。伝導率が最大となる組成は、0.03Li3PO4・0.65Li2S・0.32P2S5であった。
【0034】以上のように、本発明によると、Li2S・P2S5擬2成分系ではガラス化しなかった組成もリン酸リチウムを加えることによりガラス化が可能となり、また、よりイオン伝導率の大きな固体電解質とすることができる。
【0035】(参考例4)非晶質リチウムイオン伝導性固体電解質の内、Li3PO4・Li2S・B2S3で表される非晶質リチウムイオン伝導性固体電解質を、SiS2にかえてB2S3を用いた以外は参考例1と同様の方法で合成した。
【0036】合成の結果、生成物がガラス化する組成領域とガラス化しない組成領域が見られた。ガラス化範囲は図4で示すように、a<0.3、b>0.3、c>0.2の範囲であり、Li2S・B2S3擬2成分系ではガラス化しない組成、例えば0.65Li2S・0.35B2S3に対し、リン酸リチウムを加えて0.05Li3PO4・(0.65Li2S・0.35B2S3)とすることによりガラス化が可能であることがわかった。
【0037】以上のようにして合成した固体電解質のイオン伝導率を、交流インピーダンス法により測定した。
【0038】測定の結果、a≦0.1、b≧0.5、c≧0.3の組成領域で特に高い伝導率を示し、1×10-4〜3×10-4S/cmとなった。伝導率が最大となる組成は、0.03Li3PO4・0.53Li2S・0.44B2S3であった。
【0039】以上のように、本参考例によると、Li2S・B2S3擬2成分系ではガラス化しなかった組成もリン酸リチウムを加えることによりガラス化が可能となり、また、よりイオン伝導率の大きな固体電解質とすることができる。
【0040】(参考例5)非晶質リチウムイオン伝導性固体電解質の内、Li3PO4・Li2S・SiS2で表される非晶質リチウムイオン伝導性固体電解質を以下の方法で合成した。
【0041】所定の組成となるように、リン酸リチウム(Li3PO4)と硫化リチウム(Li2S)と硫化珪素(SiS2)を混合した材料粉末をガラス状カーボン坩堝にいれ、これを、アルゴン気流中950°Cで1.5時間溶融し反応させた後、液体窒素中に投入して急冷し、aLi3PO4・bLi2S・cSiS2(a+b+c=1)リチウムイオン伝導性固体電解質を合成した。
【0042】合成の結果、ガラス化領域や伝導率の特性は、参考例1で示した場合とほぼ同様となった。
【0043】以上のように、本参考例によると、母材の合成工程を経ることなしに、高いイオン伝導率を示すリチウムイオン伝導性固体電解質を得ることができる。
【0044】(参考例6)非晶質リチウムイオン伝導性固体電解質の内、Li3PO4・Li2S・GeS2で表される非晶質リチウムイオン伝導性固体電解質を、SiS2にかえてGeS2を用いた以外は参考例5と同様の方法で合成した。
【0045】合成の結果、ガラス化領域や伝導率の特性は、参考例2で示した場合とほぼ同様となった。
【0046】以上のように、本参考例によると、母材の合成工程を経ることなしに、高いイオン伝導率を示すリチウムイオン伝導性固体電解質を得ることができる。
【0047】(実施例7)本発明による非晶質リチウムイオン伝導性固体電解質の内、Li3PO4・Li2S・P2S5で表される非晶質リチウムイオン伝導性固体電解質をSiS2にかえてP2S5を用いた以外は参考例5と同様の方法で合成した。
【0048】合成の結果、ガラス化領域や伝導率の特性は、実施例3で示した場合とほぼ同様となった。
【0049】以上のように、本発明によると、母材の合成工程を経ることなしに、高いイオン伝導率を示すリチウムイオン伝導性固体電解質を得ることができる。
【0050】(参考例8)非晶質リチウムイオン伝導性固体電解質の内、Li3PO4・Li2S・B2S3で表される非晶質リチウムイオン伝導性固体電解質を、SiS2にかえてB2S3を用いた以外は参考例5と同様の方法で合成した。
【0051】合成の結果、ガラス化領域や伝導率の特性は、参考例4で示した場合とほぼ同様となった。
【0052】以上のように、本参考例によると、母材の合成工程を経ることなしに、高いイオン伝導率を示すリチウムイオン伝導性固体電解質を得ることができる。
【0053】尚、本発明の実施例においては、一般式Li3PO4・Li2S・Xで表される固体電解質として、XがP2S5であるものについて説明を行ったが、XとしてSiS2,GeS2 ,B 2S3から選ばれる複数の硫化物との混合物を用いても同様の結果が得られることはいうまでもなく、本発明はLi3PO4・Li2S・XにおけるXとして単一の硫化物に限定されるものではない。
【0054】
【発明の効果】一般式aLi3PO4・bLi2S・cX(a+b+c=1、XはSiS2,GeS2,P2S5,B2S3のうち少なくともP2S5を含む、少なくとも一種の硫化物)で表されるリチウムイオン伝導性固体電解質において、その組成比a、b、cを0<a≦0.1かつb≧0.5かつc≧0.3とすることで、高いイオン伝導性を示す非晶質リチウムイオン伝導性固体電解質を得ることができる。
【0055】また、Li3PO4とLi2SとX(XはSiS2,GeS2,P2S5,B2S3のうち少なくともP2S5を含む、少なくとも一種の硫化物)の混合物を溶融し、その後急冷することで、母材の合成工程を経ることなしに高いイオン伝導性を示す前記非晶質リチウムイオン伝導性固体電解質を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】aLi3PO4・bLi2S・cSiS2擬3成分系のガラス化領域を示す三成分組成図
【図2】aLi3PO4・bLi2S・cGeS2擬3成分系のガラス化領域を示す三成分組成図
【図3】aLi3PO4・bLi2S・cP2S5擬3成分系のガラス化領域を示す三成分組成図
【図4】aLi3PO4・bLi2S・cB2S3擬3成分系のガラス化領域を示す三成分組成図
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2004-06-08 
出願番号 特願平4-118690
審決分類 P 1 651・ 4- YA (C01D)
P 1 651・ 121- YA (C01D)
P 1 651・ 113- YA (C01D)
最終処分 維持  
前審関与審査官 平塚 政宏  
特許庁審判長 多喜 鉄雄
特許庁審判官 野田 直人
岡田 和加子
登録日 2002-08-30 
登録番号 特許第3343936号(P3343936)
権利者 松下電器産業株式会社
発明の名称 非晶質リチウムイオン伝導性固体電解質並びにその合成法  
代理人 岩橋 文雄  
代理人 坂口 智康  
代理人 岩橋 文雄  
代理人 内藤 浩樹  
代理人 内藤 浩樹  
代理人 坂口 智康  

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