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審決分類 |
審判 全部申し立て 2項進歩性 C08L 審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載 C08L |
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管理番号 | 1102820 |
異議申立番号 | 異議2003-70910 |
総通号数 | 58 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許決定公報 |
発行日 | 1996-01-09 |
種別 | 異議の決定 |
異議申立日 | 2003-04-14 |
確定日 | 2004-06-11 |
異議申立件数 | 4 |
訂正明細書 | 有 |
事件の表示 | 特許第3334338号「ポリ乳酸系樹脂組成物」の請求項1ないし3に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 |
結論 | 訂正を認める。 特許第3334338号の請求項1ないし3に係る特許を取り消す。 |
理由 |
1.手続きの経緯 本件特許第3334338号の発明は、平成6年6月21日に特願平6-139023号として特許出願され、平成14年8月2日にその特許権の設定登録がなされたものであり、その後、三浦 倫子、東レ株式会社、福永 順子及び菅野 司より特許異議の申立てがあり、平成15年10月27日付けで取消理由通知がなされ、その指定期間内である平成15年12月24日に特許異議意見書と訂正請求書が提出されたものである。 2.訂正請求についての判断 2-1.訂正の内容 (1)訂正事項a 特許請求の範囲第1項及び第2項において、「平均粒度が5μm以下のタルク」を「平均粒径が1μm以上5μm以下のタルク」と訂正する。 (2)訂正事項b 段落【0004】の「平均粒径が5μm以下のタルク」を「平均粒径が1μm以上5μm以下のタルク」と訂正する。 (3)訂正事項c 段落【0002】の「また、CeO2 等の無機ゲルマニウム化合物を触媒とする・・・」を「また、GeO2 等の無機ゲルマニウム化合物を触媒とする・・・」と訂正する。 (4)訂正事項d 段落【0014】の「以上のように、特定の粒度のタクル及び/又は窒化ホウ素を・・・」を「以上のように、特定の粒度のタルク及び/又は窒化ホウ素を・・・」と訂正する。 2-2.訂正の目的の適否、訂正の範囲の適否及び拡張・変更の存否 (1)訂正事項aは、訂正前の明細書の「・・・本発明におけるタルクは特に限定されるものではないが・・・。粒度の上限は好ましくは4μm以下、特に好ましくは3μm以下であり、粒度の下限は通常0.3μm以上好ましくは1μm以上である。」(段落【0011】)との記載に基づいてタルクの粒度範囲をより限定したものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。 (2)訂正事項b 訂正事項bは、訂正事項aにより訂正された請求項1及び2の記載に整合するように発明の詳細な説明の対応箇所の記載を訂正するものであるから、明りょうでない記載の釈明を目的とするものである。 (3)訂正事項c Ceはセリウムの元素記号であるから「Ce2 O」が無機ゲルマニウム化合物として例示されたものとすると不合理であり、これは、「Ge2 O」とすべきところを元素記号の表記を誤って「CeO2 」とした誤記と解するのが自然であるから、「Ce2 O」を「Ge2 O」に改める訂正事項cは、誤記の訂正を目的とするものである。 (4)訂正事項d 「タクル」が「タルク」の誤記であることは、訂正前の明細書の「平均粒度が5μm以下のタルク及び/又は平均粒度が30μm以下の窒化ホウ素・・・」(請求項1)等の記載から明らかであるから、「タクル」を「タルク」に改める訂正事項dは、誤記の訂正を目的とするものである。 そして、上記訂正事項a〜dはいずれも、願書に添付した明細書に記載した事項の範囲内においてされたものであり、実質上特許請求の範囲を拡張又は変更するものではない。 2-3.むすび 以上のとおりであるから、上記訂正は、特許法等の一部を改正する法律(平成6年法律第116号)附則第6条第1項の規定によりなお従前の例によるとされる、特許法第120条の4第3項において準用する平成6年法律第116号による改正前の特許法第126条第1項ただし書き、第2項及び第3項の規定に適合するので、当該訂正を認める。 3.本件発明 訂正後の本件請求項1〜3に係る発明(以下、「本件発明1」〜「本件発明3」という。)は、上記のように訂正された明細書(以下、「訂正明細書」という。)の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1〜3に記載された事項により特定される次のとおりのものである。 「【請求項1】 平均粒度が1μm以上5μm以下のタルク及び/又は平均粒度が30μm以下の窒化ホウ素からなる無機粒子を0.5〜5重量%含有することを特徴とする数平均分子量が1万〜10万のポリ乳酸系樹脂組成物。 【請求項2】 無機粒子が、平均粒度が1μm以上5μm以下のタルクであることを特徴とする請求項1に記載のポリ乳酸系樹脂組成物。 【請求項3】 無機粒子が、平均粒度が30μm以下の窒化ホウ素であることを特徴とする請求項1に記載のポリ乳酸系樹脂組成物。」 4.特許異議申立についての判断 4-1.特許異議申立人の主張 (1)特許異議申立人 三浦 倫子は、甲第1号証及び参考資料1及び2を提出して、本件請求項1及び2に係る発明は、甲第1号証に記載された発明であるから特許法第29条第1項第3号に該当し、また、本件請求項3に係る発明は、甲第1号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明することができたものであるから特許法第29条第2項の規定に違反するので、いずれも特許を受けることができない、と主張している。 (2)特許異議申立人 東レ株式会社は、甲第1号証、甲第2号証の1〜5及び甲第3号証の1〜4を提出して、本件請求項1及び2に係る発明は、甲第1号証に記載された発明であるから特許法第29条第1項第3号に該当し、また、甲第1号証に記載された発明及び甲第2号証の1〜5、甲第3号証の1、3、4に示されるような周知技術に基づいて当業者が容易に発明することができたものであるから特許法第29条第2項の規定に違反するので、特許を受けることができない、と主張している。 (3)特許異議申立人 福永 順子は、甲第1〜4号証及び参考資料1を提出して、本件請求項1〜3に係る発明は、甲第1〜4号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明することができたものであるから特許法第29条第2項の規定に違反するので、特許を受けることができない、と主張している。 (4)特許異議申立人 菅野 司は、甲第1号証、甲第2号証及び参考資料1〜4を提出して、本件請求項1及び2に係る発明は、甲第1号証に記載された発明であるから特許法第29条第1項第3号に該当し、また、本件請求項1及び2に係る発明は甲第1、2号証に記載された発明に基づいて、本件請求項1及び3に係る発明は甲第1号証に記載された発明に基づいて、それぞれ当業者が容易に発明することができたものであるから特許法第29条第2項の規定に違反するので、本件請求項1〜3に係る発明は特許を受けることができない、と主張している。 (註:上記(1)〜(4)における「請求項」とは、訂正前の請求項を指す。) 4-2.判断 4-2-1.取消理由 当審において平成15年10月27日付けで通知した取消理由は、 (1)本件請求項1及び2に係る発明は、刊行物1に記載された発明であるから特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない、 (2)本件請求項1及び2に係る発明は、刊行物1及び2に記載された発明に基づいて、また、本件請求項1及び3に係る発明は、刊行物1及び3に記載された発明に基づいて、それぞれ当業者が容易に発明することができたものであるから、特許法第29条第2項の規定に違反し、特許を受けることができない、 というものであり、引用した刊行物等は以下のとおりである。 (註:上記(1)、(2)における「請求項」とは、訂正前の請求項を指す。) <刊行物等> 刊行物1:国際公開第94/07941号パンフレット(1994.4.14)(特許異議申立人 菅野 司が提出した甲第1号証、同、三浦 倫子の提出した甲第1号証、同、福永 順子の提出した甲第4号証) 刊行物2:特開平5-57763号公報(特許異議申立人 菅野 司の提出した甲第2号証) 刊行物3:特開平6-157878号公報(特許異議申立人 福永 順子の提出した甲第2号証) 参考資料1:特表平7-504227号公報(特許異議申立人 菅野 司が提出した参考資料1) 参考資料2:「ULTRATALKTM 609」のパンフレット,BARRETTS MINERALS INC.(同、参考資料2) 参考資料3:特開昭60-101118号公報(同、参考資料3) 参考資料4:特表平4-504731号公報(同、参考資料4) 4-2-2.刊行物の記載内容 刊行物1 (1-1)「発明の要約 本発明によって、アモルファス及び半結晶性の生分解性フィルムが提供される。フィルムは、溶融安定性のラクチド組成物からなり、該組成物は、数平均分子量が少なくとも10,000のポリラクチドポリマ一鎖を有し、該ポリマーは、メソラクチドを含むラクチド混合物の重合反応生成物である。アモルファスフィルムのために、ラクチド混合物は少なくとも約1重量%より多くのメソラクチドを含み、残りのラクチドはL-ラクチド、D-ラクチド及びそれらの混合物であってもよい。そのポリマーは、それがアモルファスなので、ポリラクチド1グラム当たり約10ジュールより少ない正味(net)の溶融吸収熱を表す。半結晶フィルムのためには、ラクチド混合物は、約15重量%より少ないメソラクチドを含み、残りのラクチドはL-ラクチド、D-ラクチド及びそれらの混合物であることができ、全ラクチド混合物は、少なくとも約85%以上のL-ラクチドかD-ラクチドのどちらかを含む。アモルファス及び半結晶ポリマーの両方とも約2重量%より少ない濃度の残留ラクチドと、付加的に約1,000,000分の2,000部より少ない濃度の水を含む。フィルムの製造方法もまた提供される。」(第9頁第6行〜同第30行) (1-2)「ラクチドポリマーは、実質的にアモルファス型か半結晶型どちらかの状態であることができる。種々の用途に利用するためには、半結晶型のポリマーであることが好ましい。半結晶フィルムは優れた耐熱性を有する。」(第22頁第9行〜同第12行) (1-3)「結晶化速度(rate)を増大させる方法は4つある。一つは・・・。結晶化速度を増大させる第2の方法は例28で詳細に述べられているとおり、核化剤を加えることである。結晶化を誘導する第3の方法は・・・。」(第23頁第4〜12行) (1-4)「好ましい組成物において、核化剤は重合反応の間に混合してもよい。核化剤は選ばれた可塑剤、微細な鉱物粒子、有機化合物、有機酸やイミドの塩、及び、ポリラクチドの成型温度以上の融点を持つ微細な結晶ポリマー粒子を含んでいても良い。有用な核化剤の例としては、タルク、サッカリンのナトリウム塩、ケイ酸カルシウム、安息香酸ナトリウム、チタン酸カルシウム、窒化ホウ素、銅フタロシアニン、アイソタクテイックポリプロピレン、結晶ポリラクチド及びポリブチレンテレフタレートがある。」(第30頁第12〜23行) (1-5)「 例28 核化剤の評価 ポリ(ラクチド)の脱揮された試料は単軸押出機で種々の核化剤となり得るものと配合された。候補となる核化剤は5重量%程の僅かのレベルで添加された。・・・。このテストにより肯定的な結果は結晶化速度を増加させる潜在的な可能性を表している。第2の加熱(冷却されたサンプルの)結晶化の増大する添加剤は++と評価された、最初の加熱でだけ効果を示した添加剤は+と評価された、そして、如何なる効果も示さなかった添加剤は0である。 表28 添加剤.....................................................効果 無し.........................................................0 タルク,MP1250(Pfizer).....................++ ・・・ 窒化ホウ素................................................+ ・・・ タルク,Microtuff-F(Pfizer)............++ タルク,Ultratalc(Pfizer).................++ ・・・ 」(第80頁第27行〜第81頁第31行、但し表は抜粋) (1-6)「 例31 ポリラクチドの結晶化速度へのタルクの効果 およそ91%のL-ラクチドと9%のメソラクチドの組成をもつラクチド混合物から、連続パイロットプラントで製造されたポリラクチドを、二軸押出機で乾燥、脱揮した。その後、ポリマーを再び乾燥し、タルク(ウルトラタルク 609、ファイザー製)を2〜21重量%の範囲で混合した。混合したポリラクチドの試料をDSCの装置に配置し、2分間で60℃から200℃への第1加熱過程(first upheat)、90℃への急冷却過程(quench)、15分間90℃に保持する過程、及び、つづいて冷却し、そして60℃から200℃への第2の加熱過程(second upheat)からなる熱処理プログラムで処理した。第1の加熱過程及び急冷は、各々の試料をアモルファスにするためであり、結晶化の発熱が90℃の等温過程の間で測定され、そして、第2の加熱過程は、等温でのアニーリング過程の間に形成される結晶領域の溶融吸収熱を直接測定することにより等温の発熱を確認するために行なわれる。 以下の表は、種々のタルク添加量における時間の関数として結晶化の程度(タルクなしの状態を基準とする)を示す。結果は、タルクがポリラクチドの結晶化速度を著しく増加させることを示す。」(第85頁第9〜33行) (1-7)「 表32 時間に対する発熱(J/gm of PLA) 第2加熱(J/gm) サンプル 2min.・・15min. PLA ........................0...........0................0 PLA+2wt%talc......0.1 ・・ 7.9.........10.0 PLA+6wt%talc......0.5 ・・17.2.........21.2 PLA+11wt%talc......0.8・・27.3.........28.2 PLA+21wt%talc......2.3・・27.6.........26.2 」(第86頁、抜粋) 刊行物2 (2-1)「【請求項1】結晶核剤含有の結晶性熱可塑性樹脂組成物を射出成形した後、超音波照射によりゲート部を切断する事を特徴とする射出成形品の製造方法。 【請求項2】結晶性熱可塑性樹脂組成物中の結晶核の含有量が0.1〜2.0重量%である請求項1記載の製造方法。 【請求項3】 結晶性熱可塑性樹脂組成物がポリエステル系樹脂組成物である請求項1又は2記載の製造方法。 【請求項4】結晶核剤が、タルクである請求項1、2又は3記載の製造方法。」(特許請求の範囲) (2-2)「本発明で使用される結晶性熱可塑性樹脂とは示差熱分析法の昇温法により熱分析した時に明確な融解熱のピークを有する熱可塑性樹脂をいい、具体的にはポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンテレフタレート等の結晶性熱可塑性ポリエステル樹脂、ナイロン6,ナイロン66等の結晶性熱可塑性ポリアミド、ポリオキシメチレン、ポリフェニレンスルフィッド、高密度ポリエチレン、高密度ポリプロピレン等が挙げられ、好ましくは・・・が挙げられる。中でも・・・等の結晶性熱可塑性ポリエステル樹脂が好ましい。」(段落【0008】) (2-3)「本発明で使用される結晶核剤としては、結晶性熱可塑性樹脂の結晶化を促進させる事が可能な通常の結晶核剤を用いる事ができ、具体的には・・・タルク、・・・TiO2 等の顔料等がある。・・・。中でも良好な射出成形品が得られる点からタルクが好ましい。」(段落【0009】) (2-4)「本発明で使用する結晶核剤は、通常、平均粒径0.1〜8μmのものが使用されるが結晶化速度を高める点から中でも平均粒径1〜5μmのものが好ましく使用出来る。」(段落【0010】) (2-5)「本発明で使用される結晶核剤の使用量としては、結晶化の促進が良好な点、及び良好な機械的強度が得られる点から含有率が0.001〜10重量%となる範囲が好ましく、中でも0.1〜2重量%となる範囲が好ましい。」(段落【0011】) 刊行物3 (3-1)「3-ヒドロキシブチレート単位97〜85モル%および4-ヒドロキシブチレート単位3〜15モル%からなるポリエステル共重合体99.5〜97wt%と、粒径5〜50μmの窒化ホウ素粒子0.5〜3wt%とからなることを特徴とするポリエステル共重合体組成物。」(特許請求の範囲の請求項1) (3-2)「本発明は3-ヒドロキシブチレート単位・・・と4-ヒドロキシブチレート単位・・・からなるポリエステル共重合体組成物に関する。詳しくは成形性の改善された生分解性ポリエステル共重合体組成物に関する。」(段落【0001】) (3-3)「本発明における窒化ホウ素粒子は特に限定されないが、粒径が5〜50μmであることが必要である。粒径が5μmより小さい場合は結晶化速度の向上効果が不十分であり、また50μmより大きい場合には、共重合体内での粒子の均一な分散が困難なため好ましくない。」(段落【0012】) (3-4)「 表-1 組成 窒化ホウ素 窒化ホウ素 Tc ピーク面積 .....[4HB含有率].... 粒径 ...... 添加量 .......(モル%)......(μm)....(wt%)..(℃)..(J/g) 実施例 1........9.2......7〜10.......2.0.....83.....43 2........9.2.....35〜45......2.0......80.....44 ・・・ 比較例 1........9.2......-............0..........-........0 2........9.2.....1〜2.........2.0......53......41 ・・・」(第3頁【0017】表1、抜粋) 4-2-3.対比、判断 本件発明1は、「平均粒度が1μm以上5μm以下のタルク及び/又は平均粒度が30μm以下の窒化ホウ素からなる無機粒子を0.5〜5重量%含有することを特徴とする数平均分子量が1万〜10万のポリ乳酸系樹脂組成物」に係るものであり、無機粒子が、 (イ)タルクからなる場合、 (ロ)窒化ホウ素からなる場合、及び (ハ)タルクと窒化ホウ素からなる場合 の3つの場合が包含されているが、この内、(イ)は本件発明2、(ロ)は本件発明3にほかならない。 そこで、以下、(イ)及び(ロ)の場合について、それぞれ本件各発明と刊行物に記載された発明とを対比、検討する。 (イ)無機粒子がタルクからなる場合(本件発明1及び2) (i)特許法第29条第1項違反(第3号に該当)について 刊行物1には、数平均分子量が少なくとも10,000のポリラクチドポリマ一鎖を有する溶融安定性のラクチド組成物からなるアモルファス及び半結晶性の生分解性フィルム(摘示記載(1-1))が記載されており、その結晶化速度を増大させるために核化剤を加えること(摘示記載(1-3))が記載され、有用な核化剤としてタルクが例示(摘示記載(1-4))され、更に、核化剤としてのタルクの評価及びタルクをポリラクチドに添加した実施例(摘示記載(1-5)〜(1-7))も示されている。 この「ポリラクチド」のラクチドとは乳酸2分子が脱水エステル化した環状のジエステルのことであり(必要ならば、「化学大辞典 9 縮刷版」,共立出版株式会社,1993.6.1,p.512「ラクチド」の項 参照。)、ポリラクチドとはそれの重合体、即ち環状のジエステルが開環重合した重合体を意味するものである。一方、本件発明1及び2におけるポリ乳酸もまた、本件訂正明細書の記載(段落【0005】)によればラクチドを開環重合させて得たものを含む(この他に、乳酸のD、L、ラセミ体等を直接重縮合させたものや、これ等とラクチドなどの混合物等も含む。)ものであるから、刊行物1に記載された「ラクチド組成物」と本件発明1の「ポリ乳酸系樹脂組成物」とは、互いに、成分及び数平均分子量(ともに1万以上)が一致する樹脂を用いたものということができる。 また刊行物1に記載されたタルクが無機粒子であることは言うまでもないことであり、このタルクの添加量(配合量)についても、刊行物1にはタルクをポリラクチドの試料に5重量%添加した例28(摘示記載(1-5))や2wt%添加した例31(摘示記載(1-6))が記載されているのであるから、この添加量は、本件発明1及び2の「0.5〜5重量%」という範囲と一致する。 そうすると、本件発明1及び2と刊行物1に記載された発明とは、ともに 「タルクからなる無機粒子を0.5〜5重量%含有する数平均分子量が1万〜10万のポリ乳酸系樹脂組成物」 である点で一致するが、本件発明1及び2ではタルクについて「平均粒度が1μm以上5μm以下」と限定しているのに対して、刊行物1にはタルクの平均粒度についての明確な数値の記載がない点で、相違が認められる。 しかし、刊行物1の例28及び例31では具体的に使用したタルクとして、Ultratalc(ファイザー)(摘示記載(1-5))、Ultratalc 609(ファイザー)(摘示記載(1-6))等の商品名が挙げられ、参考資料2(「ULTRATALCTM609」と題するBARRETTS MINERALS INC.のパンフレット)にはUltratalc 609の粒度分布について、0.9μm以下が57%、0.8μm以下が50%であること、及び平均粒度が「<0.9micron」であることが記載されており、同参考資料に記載された「Ultratalc 609」に関するデータは、商品名及び型番が一致するところから、刊行物1に記載された「Ultratalc 609」の特性を示すものと認められる。(なお、特許異議申立人 三浦 倫子の提出した参考資料1(「Products for Paint and Coatings」と題するSPECIALTY MINERALS INC.のインターネットホームページからのプリント)にも、Ultratalc 609のメヂアン粒径は0.9μmであることが記載されている。) 一方、本件発明1及び2において「平均粒度が1μm以上5μm以下」と規定したことについて本件訂正明細書には「5μmを越えるとポリ乳酸内での均一な分散が難しいためか、添加の効果が少ない。粒度の上限は好ましくは4μm以下、特に好ましくは3μm以下であり、粒度の下限は通常0.3μm以上好ましくは1μm以上である。」(段落【0011】)と記載されており、粒度の下限については1μm以上が「好ましい」とされているのみであって、当該記載及び実施例等の記載からは「1μm」についての臨界的意義は認められない。 もっとも、この点について特許権者は、特許異議意見書で、「本件発明において、タルクが平均粒径1μm未満の微粒子である場合には、粒子間の凝集が起こり、ポリ乳酸系樹脂中での分散性が低下し、結果として、結晶化速度の改良を達成することが困難となること、更に、表面積の増大を伴って吸湿性が増し、特に加水分解性の大きい脂肪族ポリエステル樹脂、就中、ポリ乳酸系樹脂において、加水分解が生じ易くなって、機械的物性の低下を伴うこと、等、本件発明における前述の「優れた機械的物性を有し、かつ十分な結晶化速度を有するボリ乳酸系樹脂組成物を提供する」との日的を達成することが困難となるのであって、本件発明におけるタルクの平均粒径「1μm以上」と、刊行物1記載のタルクの平均粒径「<0.9micron」との間には、実質的な差異が存在するのである。」と主張するが、これを裏付ける客観的資料が本件訂正明細書中に見出せないことは上述のとおりであり、このような主張は採用することができない。 そして、本件発明1における「1μm」及び「5μm」という上限値及び下限値はともに一位の数字で表現されており、これらは、平均粒径の測定値を少数点以下一位(十分の一位)で四捨五入等により概算して一位の有効数字としたものについて数値範囲を規定したものと解するのが自然であって、下限値の「1μm」には0.8μm及び0.9μmが実質的に包含されるのであるから、刊行物1に記載されたUltratalc 609の平均粒度は、本件発明1及び2における範囲と一致するものというべきである。 したがって、本件発明1及び2は、刊行物1に記載された発明である。 (ii)特許法第29条第2項違反について 仮に本件発明1及び2が刊行物1に記載された発明でないとしても、以下に述べるように、本件発明1及び2は本件の特許出願前に頒布された刊行物1及び2に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。 即ち、刊行物2には、その請求の範囲の請求項1に「結晶核剤含有の結晶性熱可塑性樹脂組成物を射出成形した後、超音波照射によりゲート部を切断する事を特徴とする射出成形品の製造方法」(摘示記載(2-1))が記載されており、この結晶核剤が添加される結晶性熱可塑性樹脂としてはポリエステル樹脂を始めポリアミド、ポリオキシメチレン、ポリフェニレンスルフィド、高密度ポリエチレン、高密度ポリプロピレン等の各種の樹脂が挙げられている。また、結晶核剤については就中タルクが好ましい(摘示記載(2-3))とされ、結晶核剤の粒径について「結晶化速度を高める点から中でも平均粒径1〜5μmのものが好ましく使用できる」(摘示記載(2-4))ことが記載されている。 そして、刊行物1に記載された発明において、ポリエステル樹脂の一種であるポリラクチドに結晶化速度を増大させるための核化剤(即ち、結晶核剤)としてタルクを配合する際に、この刊行物2の記載を参酌して、タルクの粒径を本件発明1及び2における「1μm以上5μm以下」の範囲内とすることは、当業者が容易に想到し得たものというべきである。 なお、この点について特許権者は特許異議意見書で、刊行物2のポリブチレンテレフタレートなどのポリエステルは結晶温度が高く、それに較べてポリ乳酸は結晶化温度がはるかに低く、両者は技術分野を異にし両刊行物を湊合するこはできない旨主張するが、刊行物2記載の発明においてタルクが添加される対象となる樹脂はポリブチレンテレフタレートのようなものに限らず結晶性熱可塑性樹脂であれば広く各種の樹脂、例えば高密度ポリエチレンのようなものまでも対象としているのであるから、刊行物1記載の発明において結晶性ポリラクチドに添加するタルクの粒径を考える上で、刊行物2の記載を参考にすることができないとする理由はない。 以上のとおりであるから、本件発明1及び2は、刊行物1及び2に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明することができたものである。 (ロ)窒化ホウ素を使用する場合(本件発明1及び3) (i)特許法第29条第2項違反について 刊行物1には、数平均分子量が少なくとも10,000のポリラクチドポリマ一鎖を有する溶融安定性のラクチド組成物からなるアモルファス及び半結晶性の生分解性フィルム(摘示記載(1-1))が記載されており、その結晶化の割合を増大させる方法として窒化ホウ素などの核化剤を添加配合することが記載されており(摘示記載(1-4)、(1-5))、窒化ホウ素の核化剤としての評価が「+」であることも記載されている(摘示記載(1-5))。また、この窒化ホウ素の添加量(配合量)についても、刊行物1には5重量%添加した例28(摘示記載(1-5))が記載されており、窒化ホウ素が無機粒子であることは言うまでもないことである。 そうすると、刊行物1に記載された発明と本件発明1及び3とは、ともに 「窒化ホウ素からなる無機粒子を0.5〜5重量%含有する数平均分子量が1万〜10万のポリ乳酸系樹脂組成物」 である点で一致するが、本件発明1及び3では窒化ホウ素について「平均粒度が30μm以下」と限定しているのに対して、刊行物1には窒化ホウ素の平均粒度についての明確な数値の記載がない点で、相違が認められる。 そこでこの相違点について検討すると、刊行物3にはその特許請求の範囲に、「3-ヒドロキシブチレート単位97〜85モル%および4-ヒドロキシブチレート単位3〜15モル%からなるポリエステル共重合体99.5〜97%と、粒径5〜50μmの窒化ホウ素粒子0.5〜3twt%とからなることを特徴とするポリエステル共重合体組成物」(摘示記載(3-1))が記載されており、このポリエステル共重合体は、「本発明は3-ヒドロキシブチレート単位・・・と4-ヒドロキシブチレート単位・・・からなるポリエステル共重合体組成物に関する。詳しくは成形性の改善された生分解性ポリエステル共重合体組成物に関する。」(摘示記載(3-2))と記載されているように、生分解性のものであり、本件発明1及び3や刊行物1に記載されたポリ乳酸(ポリラクチド)と同類の脂肪族オキシ酸の重合体である。 そして、刊行物3に記載された発明において添加される窒化ホウ素は「・・・本発明における窒化ホウ素粒子は特に限定されないが、粒径が5〜50μmであることが必要である。粒径が5μmより小さい場合は結晶化速度の向上効果が不充分であり、また50μmより大きい場合には、共重合体内での粒子の均一な分散が困難なため好ましくない。」(摘示記載(3-3))と記載されているように、本件発明1及び3における窒化ホウ素や刊行物1に記載された窒化ホウ素と同様、結晶化速度を向上させるものであり、粒径7〜10μmの窒化ホウ素を用いた実施例(摘示記載(3-4))も示されている。 してみれば、刊行物3に記載された発明と刊行物1に記載された発明とは技術的な親近性があり容易に結びつけて考えることのできるものであり、刊行物3に記載された窒化ホウ素の粒径を参考にして、刊行物1に記載された発明における核化剤としての窒化ホウ素の粒径を本件発明1及び3における「30μm以下」の範囲内とすることは、当業者が容易に想到し得たことというほかはない。 よって、本件発明1及び3は刊行物1及び3に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明することができたものである。 3.むすび 以上のとおりであるから、本件発明1及び2は特許法第29条第1項第3号に該当し、また、本件発明1〜3は同条第2項の規定に違反するので、本件発明1〜3は特許を受けることができない。 したがって、本件発明1〜3についての特許は拒絶の査定をしなければならない特許出願に対してされたものと認める。 よって、特許法等の一部を改正する法律(平成6年法律第116号)附則第14条の規定に基づく、特許法の一部を改正する法律の施行に伴う経過措置を定める政令(平成7年政令第205号)第4条第2項の規定により、上記のとおり決定する。 |
発明の名称 |
(54)【発明の名称】 ポリ乳酸系樹脂組成物 (57)【特許請求の範囲】 【請求項1】 平均粒度が1μm以上5μm以下のタルク及び/又は平均粒度が30μm以下の窒化ホウ素からなる無機粒子を0.5〜5重量%含有することを特徴とする数平均分子量が1万〜10万のポリ乳酸系樹脂組成物。 【請求項2】 無機粒子が、平均粒度が1μm以上5μm以下のタルクであることを特徴とする請求項1に記載のポリ乳酸系樹脂組成物。 【請求項3】 無機粒子が、平均粒度が30μm以下の窒化ホウ素であることを特徴とする請求項1に記載のポリ乳酸系樹脂組成物。 【発明の詳細な説明】 【0001】 【産業上の利用分野】 本発明はポリ乳酸系樹脂組成物に関する。更に詳しくは生分解性があり、成形性に優れたポリ乳酸系樹脂組成物に関する。 【0002】 【従来の技術】 ポリ乳酸は、生分解性の高分子として注目され、例えば、縫合糸等の医用材料、医薬、農薬、肥料等の徐放性材料等多方面に利用されている。更には生分解性汎用プラスチックとして容器やフィルム等の包装材料としても期待されている。これら用途のためには一般的に成形性および機械的物性が高いことが好ましい。そのため、高分子量のこれらポリマーを得るために、従来は乳酸からラクチドを製造し、これらを開環重合して高分子量のポリ乳酸を製造していた。この方法では高分子量のポリマーが得られるが2段反応であり、ラクチドを得るために多大な労力がかかり、経済的とはいえなかった。一方、乳酸を直接重縮合反応させる方法は、経済的であるが、その反面、高分子量化できないという欠点があり、工業化されていない。例えば、高分子量化の試みとして重縮合触媒としてスズ化合物を用い、重縮合時に流動パラフィンを添加させる方法(特開昭62-64823)等も提案されているが、工業的利用を考えた場合には必ずしも充分な分子量とはいえない。また、GeO2等の無機ゲルマニウム化合物を触媒とすることも提案されている(特開平5-43665号公報)が、得られるポリマーの色調及び分子量の点で必ずしも充分とは言えなかった。 また、これらの製造方法で高分子量のポリ乳酸を製造しても、ポリ乳酸の結晶化速度が遅いため、成形性に問題があり、一般的な射出成形等を採用することが困難であるという問題点があった。 【0003】 【発明が解決しようとする課題】 本発明の目的は、優れた機械的物性を有し、かつ十分な結晶化速度を有するポリ乳酸系樹脂組成物を提供することにある。 【0004】 【課題を解決するための手段】 本発明は上述の目的を達成するためになされたものであり、その要旨は、平均粒度が1μm以上5μm以下のタルク及び/又は平均粒度が30μm以下の窒化ホウ素からなる無機粒子を0.5〜5重量%含有することを特徴とする数平均分子量が1万〜10万のポリ乳酸系樹脂組成物に存する。 以下、本発明につき、詳細に説明する。 本発明のポリ乳酸系樹脂組成物におけるポリマー成分としては、ポリ乳酸あるいは、乳酸から誘導される繰り返し単位と乳酸と共重合しうる他の共重合成分から誘導される繰り返し単位とを有する共重合体が挙げられる。 【0005】 本発明におけるポリ乳酸としては特に限定されるものではないが、例えば、乳酸のD、L、ラセミ体等を直接重縮合させたものあるいはラクチドを開環重合させたもの、あるいはこれらの混合物等が挙げられる。これらのポリ乳酸の分子量は、充分な機械的強度を得るために数平均分子量として通常1万以上好ましくは3万以上である。上限としては製造方法の問題および成形性の低下の恐れがあるので数平均分子量として通常10万以下好ましくは7万以下である。 【0006】 上記ポリ乳酸の製造方法を直接重縮合する方法を例にして説明する。 原料の乳酸はD、L、ラセミ体等特に限定なく使用でき、その形態も特に限定されないが、溶融状態で反応を行なうことが好ましく、そのため、高濃度の乳酸水溶液が好ましい。使用する触媒は通常のポリエステル重合触媒が使用可能であるが、好ましくはアンチモン系、スズ系触媒、ゲルマニウム系触媒、チタン系触媒が挙げられる。特に好ましいのは重合速度、着色の点から酸化ゲルマニウムやテトラエトキシゲルマニウム、テトラブトキシゲルマニウム等のゲルマニウムアルコキシド等のゲルマニウム系触媒である。 【0007】 触媒の反応系への添加は重縮合反応以前であるば、特に限定されるものではないが、好ましくは原料仕込み時に原料中に分散させた状態で、あるいは原料仕込み後減圧開始時に分散処理した状態で添加する方法である。 触媒の使用量は使用するモノマー量に対して0.01〜3重量%より好ましくは0.05〜1.5重量%である。 【0008】 重合条件としては重合温度が150〜260℃、好ましくは180〜230℃の範囲であり、反応時間は2時間以上、好ましくは4時間以上、更に好ましくは10時間以上が重合度を挙げるためには好ましい。しかし、あまり長時間ではポリマーの着色、劣化の問題等が生じるため、4〜15時間である。減圧度は50mmHg以下、好ましくは30mmHg以下である。 【0009】 本発明における乳酸から誘導される繰り返し単位と乳酸と共重合しうる他の共重合成分から誘導される繰り返し単位とを有する共重合体における他の共重合体成分としては脂肪族ジオール、脂肪族ジカルボン酸等が挙げられる。 脂肪族ジオールとして直鎖アルキレン基の両末端に水酸基を有するものが好ましく、具体的にはエチレングリコール、1,3-プロパンジオール、1,4-ブタンジオール、1,5-ペンタンジオール、1,6-ヘキサンジオール等が挙げられる。得られる共重合体の物性からは特に1,4-ブタンジオールが好ましい。 【0010】 脂肪族ジカルボン酸としては特に限定されないが、直鎖アルキレン基の両末端にカルボン酸基を有するものが好ましく、具体的にはシュウ酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸等が挙げられる。得られる共重合体の物性からは特にコハク酸が好ましい。 上述の2成分の組成比は脂肪族ジオールと脂肪族ジカルボン酸のモル比が実質的に等しく添加することが必要であり、これにより、分子量の増大、機械的物性の改良が行えるため特に好ましい。その他の共重合体成分としてはヒドロキシ安息香酸等の芳香族オキシカルボン酸類、ビスフェノールA等の芳香族ジオール類、テレフタル酸、イソフタル酸等の芳香族ジカルボン酸、あるいは3官能以上の脂肪族ポリオール、脂肪族ポリカルボン酸等を導入することも可能である。 【0011】 本発明における無機粒子としては、タルク及び/又は窒化ホウ素が挙げられる。 本発明におけるタルクは特に限定されるものではないが、例えば、タルク鉱石を選鉱、公知の方法で分級したものなどがあげられる。この場合、平均粒度が5μm以下である。5μmを越えるとポリ乳酸内での均一な分散が難しいためか、添加の効果が少ない。粒度の上限は好ましくは4μm以下、特に好ましくは3μm以下であり、粒度の下限は通常0.3μm以上好ましくは1μm以上である。この場合の添加量は通常0.5〜5重量%、好ましくは1〜3重量%である。0.5重量%未満では結晶化速度の向上効果が少なく、5重量%を越えると破断強度等の機械的物性の低下がある。 【0012】 本発明における窒化ホウ素は特に限定されるものではないが、例えば、尿素、ジシアンジアミド、塩化アンモニウム等をホウ酸に添加し、アンモニア中で高温で還元窒化し、公知の方法で分級することなどによって得られる。この場合、平均粒度は30μm以下である。30μmを越えるとポリ乳酸内での均一な分散が難しいためか、添加の効果が小さい。粒度の上限は通常30μm以下、好ましくは20μm以下であり、粒度の下限は通常1μm以上、好ましくは2μm以上である。この場合の添加量は0.5〜5重量%、好ましくは1〜3重量%である。0.5重量%未満では結晶化速度の向上効果が少なく、5重量%を越えると破断強度等の機械的物性の低下がある。 尚、ここでいう平均粒度とはレーザー法、光透過法、JIS篩法などで粒子の粒度分布を求め、累積分布が50%に対応する粒径を意味する。 【0013】 無機粒子のポリ乳酸あるいは乳酸系共重合体への添加については公知の方法が特に限定なく採用できる。例えば、混練機等を使用する方法、マスターバッチの方法、重合前に添加する方法、ポリ乳酸等のポリマーを溶媒を用いて溶液としてから混合し、溶媒を除去する方法等が可能である。この場合の溶媒としてはポリ乳酸あるいは乳酸系共重合体を溶解するものが使用でき、例えば、四塩化炭素、クロロホルム等のハロゲン化炭化水素、テトラハイドロフラン等が挙げられる。 【0014】 以上のように、特定の粒度のタルク及び/又は窒化ホウ素を数平均分子量が1万〜10万のポリ乳酸あるいは乳酸系共重合体に0.5〜5重量%配合することにより、結晶核剤として作用しポリマーの結晶化速度が増大し、成形性及び機械的物性に優れたポリ乳酸系組成物が得られる。本発明のポリ乳酸系組成物は結晶化速度が向上するため、射出成形、押し出し成形、圧縮成形等の通常の成形方法が採用でき、破断強度、伸度等の機械的強度にも優れており、通常の汎用プラスチックあるいはエンジニアリングプラスチックと同様の種々の用途に使用可能である。 【0015】 また、本発明のポリ乳酸系組成物には、本発明の効果を損なわない範囲において、他のポリアミド、ポリエステル、ポリオレフィン等の重合体を配合でき、通常の汎用プラスチック、エンジニアリングプラスチックに用いられるのと同様の着色剤、安定剤、充填剤、難燃剤等の添加剤を使用することも可能である。 更に本発明のポリ乳酸系組成物を用いた成形品は通常の成形品と同様に帯電防止、酸化防止や染色等の表面処理も可能である。 【0016】 【実施例】 以下に本発明を実施例によりさらに具体的に説明するが、本発明はその要旨を越えない限りこれら実施例に限定されるものではない。 測定法: 数平均分子量: 5mgのサンプルを5gのTHFに溶解し、東ソー製GPC HLC-8020を用いてポリスチレン換算により測定した。 カラムには、PLgel 5μ MIX-Cを使用した。 【0017】 Tc及びΔH: Tcは、降温時に検出される結晶化に伴う発熱ピークである。成形性の面から、融溶後、冷却により結晶化しやすくするためには、Tcはより高いことが好ましい。また、ピーク面積ΔHは、結晶化に伴う発熱量であり、この値が大きい程、結晶性が良好となる。成形性の点ではΔHは大きい方が好ましい。 溶液粘度(ηsp/c): ポリマー0.125gをフェノール/トリクロロエタン(1/1wt%)混合溶媒25mlに溶解し、自動粘度測定器により30℃で測定した。 【0018】 実施例1〜5 ポリ乳酸(数平均分子量3万2千)のクロロホルム溶液4wt%に表-1に示す粒径のミクロンホワイト(タルク粒子 林化成製)又はショービーエヌUHP(窒化ホウ素粒子 昭和電工製)を加え、均一に分散させた。次いで、該溶液からクロロホルムを室温で揮発、さらに80℃で8時間以上真空乾燥して、各サンプルを得た。各サンプルをDSC TA2000(DSC装置 Dupont社製)で昇温温度速度16℃/分で測定しTc及びΔHを求めた。その結果を表-1に示した。 【0019】 比較例1 実施例1において核剤を加えない以外は実施例1と全く同様にしてサンプルを得、実施例1と同様にしてTc及びΔHを求めた。その結果を表-1に示した。 【0020】 比較例2 実施例1において核剤として表-1に示す平均粒度が40μmのBN(窒化ホウ素)粒子を用いる以外は実施例1と全く同様にしてサンプルを得、実施例1と同様にしてTc及びΔHを求めた。その結果を表-1に示した。 【0021】 【表1】 *平均粒度測定方法 実施例1〜3 遠心沈降式自動粒度分布測定装置CAPA-300により測定 4 光透過法により測定 5 レーザー法により測定 比較例2 JIS篩法により測定 【0022】 【発明の効果】 本発明によって得られたポリ乳酸系樹脂組成物は、生分解性があり、結晶化速度が高く成形性に優れており、しかも充分満足できる機械的物性を有する。 |
訂正の要旨 |
審決(決定)の【理由】欄参照。 |
異議決定日 | 2004-04-23 |
出願番号 | 特願平6-139023 |
審決分類 |
P
1
651・
121-
ZA
(C08L)
P 1 651・ 113- ZA (C08L) |
最終処分 | 取消 |
前審関与審査官 | 森川 聡 |
特許庁審判長 |
井出 隆一 |
特許庁審判官 |
佐野 整博 船岡 嘉彦 |
登録日 | 2002-08-02 |
登録番号 | 特許第3334338号(P3334338) |
権利者 | 三菱化学株式会社 |
発明の名称 | ポリ乳酸系樹脂組成物 |
代理人 | 長谷川 曉司 |
代理人 | 長谷川 曉司 |