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審決分類 |
審判 全部申し立て 2項進歩性 B41J |
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管理番号 | 1102925 |
異議申立番号 | 異議2001-72148 |
総通号数 | 58 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許決定公報 |
発行日 | 1998-03-17 |
種別 | 異議の決定 |
異議申立日 | 2001-08-01 |
確定日 | 2004-09-07 |
異議申立件数 | 1 |
事件の表示 | 特許第3133282号「プリンタのインクタンク」の請求項1に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 |
結論 | 特許第3133282号の請求項1に係る特許を取り消す。 |
理由 |
1.手続きの経緯 本件特許第3133282号は、特願昭59-102843号の新たな出願である特願平5-330062号を、新たな出願とした特願平7-317225号を、更に新たな出願として平成10年3月17日に出願されたものであって、平成12年11月24日に特許の設定登録がなされ、その後平成13年8月1日に高瀬二三子から特許異議の申立がなされ、取消理由が通知され特許異議意見書が提出されたものである。 2.本件特許にかかる発明 本件特許発明は、明細書及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1に記載された以下のものである。 【請求項1】タンク本体と蓋体とインク含浸用の多孔質体とにより構成され、前記タンク本体に設けられたインク供給口を介して記録ヘッドにインクを供給するインクカーリッジにおいて、イエロー、シアン、及びマゼンタの各インクを含浸したそれぞれの多孔質体を、前記イエロー、シアン、及びマゼンタの各インクを記録ヘッドに供給するインク供給口に接するように同一のタンク本体に収容して構成されたインクカートリッジ 3.異議申立の概要 本件異議申立の概要は、次のとおりである。 本件特許明細書は、平成12年8月4日付の手続き補正によってその要旨を変更したものであるから、本件特許の出願は特許法第40条第1項の規定により、平成12年8月4日の手続補正の日にしたものとみなされるものであり、このことを前提とすれば、本件特許発明は、本件特許の出願の前に頒布された甲第1号証刊行物である特開昭60-245562号公報、及び甲第2号証刊行物である特開昭56-8266号公報に記載された発明に基づいて当該技術分野に属するものが容易に発明をすることができたものであるから、本件発明についての特許は、特許法29条第2項の規定に違反してされたものである。したがって本件発明についての特許は、特許法第113条第2項に該当し、取り消されるべきものである。 4.判断 4-1本件特許の出願日について 本件は、上述したように平成10年3月17日に新たにされた特許出願であるが、この新たにされた特許の出願日は、適法にされたものであれば、もとの特許出願の時の昭和59年5月22日にされたものとみなされるが、仮に上記手続補正によってその明細書の要旨が変更されたものであるときは、その特許出願は、その手続補正の日になされたものとみなされる。 そこで、上記の手続き補正によって本件特許の要旨が変更され、そのことによって本件特許の出願は、もとの特許出願の時にされたものとみなされた時と異なる時になされたものとみるべきか否かについて判断する。 (1)本件特許明細書及び本件特許出願の最初に添付した明細書の記載事項 本件特許明細書の特許請求の範囲の請求項1には、「イエロー、シアン、及びマゼンタの各インクを含浸したそれぞれの多孔質体」が記載されている。 一方、本件特許出願の最初に添付した明細書(以下、「当初明細書」という)には、インクタンクに充填された多孔質部材に含浸したインクは、黒、赤、緑、青である旨(当初明細書の段落【0006】、段落【0007】)が記載されている。 (2)当初明細書の記載と本件特許明細書の記載の比較 本件の請求項1に記載されているイエロー、シアン、及びマゼンタの各インクを含浸したそれぞれの多孔質体は、平成12年8月4日付けの手続補正の際に、補正で加入されたものであり、最初に添付した明細書には、どこにもこの点の構成は開示されていない。 しかしながら、請求人は「平成12年8月4日付けの手続き補正による「イエロー、シアン、及びマゼンタのインク」の補正は単純な誤記の訂正、もしくは不明瞭な記載の釈明に該当する補正である」(特許異議意見書第2頁第16〜18行)と主張しているが、当初明細書には、「本実施例では、4色のカラープリンタプロッタ用ヘッドを用いており、黒、赤、緑、青のインク系とそれぞれに対応して各色に対して一本の記録用のワイヤを備えている。」(当初明細書段落【0006】)を参酌すると、当初明細書にはプロッタに使用するインクであることが前提とされており、そのプロッタのヘッドに黒、赤、緑、青のインクを備えていることが明示されている。一般にプロッタであれば、黒、赤、緑、青のインクを用いることは、ごく普通のことである(実願昭57-134218号(実開昭59-38094号)のマイクロフィルム、実願昭56ー151248号(実開昭58-55946号)のマイクロフィルム参照)。故に請求人が特許異議意見書で弁明している、「「黒、赤、緑、青のインク系」など印刷時の発色でインクを規定するよりは、インクの色自体でインクを規定する方が好ましいと判断し補正を行った。」(特許異議意見書第2頁第6〜8行)、「「イエロー、シアン、及びマゼンタのインク」の補正は、単純な誤記の訂正、もしくは不明瞭な記載の釈明に該当する補正である」と主張する点は、合理的理由に乏しく、当初明細書の全趣旨及び、当該技術分野の周知技術からみても明らかに当初明細書に記載された技術的範囲から逸脱するものであり、請求人の主張は、採用することは、できない。 (4)要旨変更の有無 上記(1)、(2)及び(3)から要旨変更の有無を判断すると、本件明細書の請求項1に記載された「イエロー、シアン、及びマゼンタの各インクを含浸したそれぞれの多孔質体」は、当初明細書のどこにも記載されていなく、また当初明細書及び図面の記載から自明の事項とも認められないので当初明細書の要旨を変更するものと認められる。 (5)本件特許の出願日の認定 したがって、本件特許に係る出願の出願日は、もとの特許出願の時にしたものとみなすか否かの検討をするまでもなく、特許法第40条1項の規定により、手続補正がされた、平成12年8月4日にしたものとみなされる。 4-2本件特許発明の進歩性の有無について (1)刊行物記載の発明 当審が先に通知した取消理由で引用した本件の出願前に頒布された刊行物である特開昭60-245562号公報(特許異議申立人の高瀬二三子が提出した甲第1号証、以下、「引用刊行物1」という) には以下の事項が記載されている。 「インクタンク2は、タンク本体40とタンク本体40の中空部に充てんされたインク含浸部材である多孔質部材60と釜50とから成る。タンク本体の底面40aの前方にはインク供給口41が、前壁面段差部43には、空気口42がそれぞれ開口されている。」(公報第3頁右上欄第15〜20行)、 「ヘッド上部に着脱可能に配置されたインクタンク2を有する。インクタンク2は黒インク用インクタンク2bとカラーインク用に内部が3分割されたタンク2aとの2体構造になっている。」(公報第2頁左下欄第17〜20行)、 「インクはインクタンク2内に充てんされた多孔質材からなるインク含浸部材60に含浸されている。インク供給ガイド12は軸方向に延びるインク誘導溝12bを有しこのインク誘導溝12bとタンク充てん材60が接している。」(公報第2頁右下欄第1〜5行)。 これらの記載を含む明細書及び図面の記載からみて、引用刊行物1には、「タンク本体と蓋とインク含浸部材である多孔質部材とにより構成され、前記タンク本体に設けられたインク供給口を介してヘッドにインクを供給するインクタンクにおいて、赤、緑、青のインク系の各インクを含浸したそれぞれの多孔質材を、前記赤、緑、青の各インクをヘッドに供給するインク供給口に接するようにカラーインク用に内部から3分割されたタンクに収容して構成されたインクカートリッジ」の技術的事項が記載されていると認めることが出来る。 また、同じく当審が先に通知した取消理由で引用した本件の出願前に頒布された刊行物である特開昭56-8266号公報(特許異議申立人の高瀬二三子が提出した甲第2号証、以下、「引用刊行物2」という)には、以下の事項が記載されている。 「記録坦体に多色表示するのに多数のインクプリントヘッド、例えばマゼンタ色、黄色およびシアン色のインク小滴を射出し」(公報第2頁左下欄第5〜7行)、「インクタンク14〜16にはマゼンタ、黄、シアンの色を有するインクM,Y,Cが入れてある」(公報第4頁右上欄第2〜4行)。 (2)対比判断 以上の認定に基づいて本件発明と引用刊行物1に記載された発明を比較すると、 引用刊行物1に記載された発明の「蓋」、「インク含浸部材である多孔質部材」、「ヘッド」、「インクタンク」、「多孔質部材」及び「カラー用に内部が3分割されたタンク」が、それぞれの機能に照らしそれぞれ本件発明の「蓋体」、「インク含浸用の多孔質体」、「記録ヘッド」、「インクカートリッジ」、「多孔質体」および「同一のタンク本体に収容して構成されたインクカートリッジ」に相当するものと認められるから、両者は、タンク本体と蓋体とインク含浸用の多孔質体とより構成され、前記タンク本体に設けられたインク供給口を介して記録ヘッドにインクを供給するインクカートリッジにおいて、赤、緑、青のインク系の各インクを含浸したそれぞれの多孔質体を、前記赤、緑、青の各インクを記録ヘッドに供給するインク供給口に接するように同一のタンク本体に収容して構成されたインクカートリッジである点において一致し、多孔質体に含浸させるインクが、本件発明は、イエロー、シアン及びマゼンタであるのに対して、引用刊行物に記載された発明は、赤、緑、青である点で両者は相違している。 この相違点を検討するため、本件発明と引用刊行物2記載の発明とを比較すると、本件発明のインクカートリッジと引用刊行物2記載のインクタンクは、プリンタに用いるものであり、技術分野を等しくするものであって、共にプリンターヘッドにインクを供給するものである点で、両者は基本的に共通している。 そうすると、引用刊行物2には、本件発明と技術分野を等しくするプリンタのインクに関する技術内容として、前述したように、プリンタにイエロー、シアン、及びマゼンタを用いるという前記相違点に関する、本件発明と軌を一にする技術的事項が示されているから、刊行物1記載の発明において、本件発明が採用している前記相違点の構成を採るようにすることは、当業者が容易に想到しえることといえる。 そして、本件発明の作用効果は引用刊行物1記載の発明及び引用刊行物2記載の発明から期待でき、予測できる程度のものである。 従って本件発明は、これらの引用刊行物1及び2に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたのもと認める。 5.むすび 以上のとおり、本件発明は、引用刊行物1記載の発明及び引用刊行物2記載の発明に基づいて当業者が容易に発明することができたものであるから、本件発明についての特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、特許法第113条第2項に該当し、取り消されるべきものである。 |
異議決定日 | 2003-02-12 |
出願番号 | 特願平9-243574 |
審決分類 |
P
1
651・
121-
Z
(B41J)
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最終処分 | 取消 |
前審関与審査官 | 吉村 尚、名取 乾治 |
特許庁審判長 |
佐田 洋一郎 |
特許庁審判官 |
六車 江一 中村 圭伸 |
登録日 | 2000-11-24 |
登録番号 | 特許第3133282号(P3133282) |
権利者 | セイコーエプソン株式会社 |
発明の名称 | プリンタのインクタンク |
代理人 | 西川 慶治 |
代理人 | 木村 勝彦 |