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審決分類 審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  G01N
審判 全部申し立て 2項進歩性  G01N
管理番号 1104331
異議申立番号 異議2003-71755  
総通号数 59 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 1996-11-22 
種別 異議の決定 
異議申立日 2003-07-09 
確定日 2004-07-24 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第3365885号「ヒト酸化リポタンパク質の測定法」の請求項1ないし12に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 訂正を認める。 特許第3365885号の請求項1ないし12に係る特許を維持する。 
理由 I.手続の経緯
本件特許第3365885号の請求項1ないし12に係る発明の出願は、平成7年4月28日に出願され、平成14年11月1日にその発明について特許権の設定登録がなされた。
その後、申立人乾佳子により特許異議の申立てがなされ、取消理由通知がなされ、その指定期間内である平成16年4月6日付けで訂正請求がなされたものである。

II.本件訂正の適否についての検討
1.訂正の内容
本件訂正請求は、本件特許明細書を訂正請求書に添付した訂正明細書のとおりに訂正しようとするものであって、その訂正の内容は次のとおりである。

<訂正事項a>
特許請求の範囲の請求項1〜4の、
「【請求項1】血漿中の酸化リポタンパク質を固相に直接固定化することなく、リン脂質の酸化により生成する抗原を認識する抗体を用いて血漿中の酸化リポタンパク質を測定することを特徴とする酸化リポタンパク質の測定法。
【請求項2】血漿および/またはこれより分離したリポタンパク質画分を固相に直接固相化することなく、リン脂質の酸化により生成する抗原を認識する抗体と接触させることを特徴とする酸化リポタンパク質の測定法。
【請求項3】血漿中の酸化リポタンパク質を固相に直接固定化することなく、リン脂質の酸化により生成する抗原を認識する抗体とリポタンパク質を認識する抗体とを用いて血漿中の酸化リポタンパク質を測定することを特徴とする特定の酸化リポタンパク質の測定法。
【請求項4】血漿および/またはこれより分離したリポタンパク質画分を固相に直接固定化することなく、リン脂質の酸化により生成する抗原を認識する抗体と接触させ、当該抗体と結合した酸化リポタンパク質をさらに当該リポタンパク質を認識する抗体と接触させることを特徴とする酸化リポタンパク質の測定法。」との記載を、
「【請求項1】血漿中の酸化リポタンパク質を固相に直接固定化することなく、リン脂質の酸化により生成する抗原を認識する抗体とリポタンパク質を認識する抗体とを用いて血漿中の各種の酸化リポタンパク質を別々に評価できるようにすることを特徴とする各酸化リポタンパク質の測定法。
【請求項2】血漿および/またはこれより分離したリポタンパク質画分を固相に直接固定化することなく、リン脂質の酸化により生成する抗原を認識する抗体と接触させ、当該抗体と結合した酸化リポタンパク質をさらにリポタンパク質を認識する抗体と接触させ、血漿中の各種の酸化リポタンパク質を別々に評価できるようにすることを特徴とする各酸化リポタンパク質の測定法。
【請求項3】血漿中の酸化リポタンパク質を固相に直接固定化することなく、リン脂質の酸化により生成する抗原を認識する抗体と特定のリポタンパク質を認識する抗体とを用いて血漿中の特定の酸化リポタンパク質を測定することを特徴とする特定の酸化リポタンパク質の測定法。
【請求項4】血漿および/またはこれより分離したリポタンパク質画分を固相に直接固定化することなく、リン脂質の酸化により生成する抗原を認識する抗体と接触させ、当該抗体と結合した酸化リポタンパク質をさらに特定のリポタンパク質を認識する抗体と接触させることを特徴とする特定の酸化リポタンパク質の測定法。」と、訂正する。

<訂正事項b>
特許請求の範囲の請求項10の引用項についての、「請求項3〜8のいずれかに記載の酸化リポタンパク質の測定法。」との記載を、「請求項1〜8のいずれかに記載の酸化リポタンパク質の測定法。」と、そして、請求項12の引用項についての、「請求項3〜11のいずれかに記載の酸化リポタンパク質の測定法。」との記載を、「請求項1〜11のいずれかに記載の酸化リポタンパク質の測定法。」と訂正する。

2.訂正の目的の適否、新規事項追加の有無、及び特許請求の範囲の実質上の拡張又は変更の存否
(1)訂正事項aについて
請求項1および2において、使用する抗体を、「リン脂質の酸化により生成する抗原を認識する抗体」から、「リン脂質の酸化により生成する抗原を認識する抗体とリポタンパク質を認識する抗体」に訂正し、「血漿中の酸化リポタンパク質を測定するようにすることを特徴とする酸化リポタンパク質の測定法」を、「血漿中の各種の酸化リポタンパク質を別々に評価できるようにすることを特徴とする各酸化リポタンパク質の測定法」と訂正することは、使用する抗体、及び測定方法をさらに限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。また、請求項2における「固相化」を「固定化」と訂正することは、誤記の訂正を目的とするものである。
また、請求項3および4について、測定対象の「酸化リポタンパク質」を「特定の酸化リポタンパク質」に、そして「リポタンパク質を認識する抗体」を「特定のリポタンパク質を認識する抗体」にそれぞれ訂正することは、測定対象、及び使用する抗体を特定のものに限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮かつ明りょうでない記載の釈明を目的とするものである。

(2)訂正事項bについて
「リン脂質の酸化により生成する抗原を認識する抗体」と「リポタンパク質を認識する抗体」との2種類の抗体を用いることは、訂正前の請求項3に特定されていた事項であるから、請求項1〜2に係る発明がそれら2種類の抗体を使用するものに訂正され、かつ「血漿中の各種の酸化リポタンパク質を別々に評価できるようにすることを特徴とする各酸化リポタンパク質の測定法」と減縮されたことに伴い、請求項10および12において引用する請求項について、請求項1〜2を含むように訂正することも、特許請求の範囲の減縮かつ明りょうでない記載の釈明を目的とするものである。

(3)そして、上記訂正事項a、bは、特許明細書の【0016】、【0022】、そして【0050】以降の実施例の項に記載されているもので、願書に添付された明細書に記載された事項の範囲内のものである。また、上記訂正事項a、bは、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は、変更するものでもない。
なお、訂正後の請求項5〜12は、減縮された請求項1〜4を引用するものであることから、これらの請求項についても実質的に特許請求の範囲の減縮を目的とする訂正がなされたことになるが、これらの実質的な訂正もまた、新規事項の追加には該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものでもない。

3.訂正事項の検討結果
以上のとおりであるから、上記訂正は、特許法第120条の4第3項において準用する平成6年法律第116号による改正前の特許法第126条第1項ただし書、第2項及び第3項の規定に適合するので、当該訂正を認める。

III.特許異議申立についての判断
1.本件発明
上記のとおり訂正が認められるので、本件請求項1ないし12に係る発明は、上記訂正明細書の特許請求の範囲の請求項1ないし12に記載された事項により特定される次のとおりのものである。(以下、それぞれ、「本件発明1」、「本件発明2」・・・という。)
「【請求項1】血漿中の酸化リポタンパク質を固相に直接固定化することなく、リン脂質の酸化により生成する抗原を認識する抗体とリポタンパク質を認識する抗体とを用いて血漿中の各種の酸化リポタンパク質を別々に評価できるようにすることを特徴とする各酸化リポタンパク質の測定法。
【請求項2】血漿および/またはこれより分離したリポタンパク質画分を固相に直接固定化することなく、リン脂質の酸化により生成する抗原を認識する抗体と接触させ、当該抗体と結合した酸化リポタンパク質をさらにリポタンパク質を認識する抗体と接触させ、血漿中の各種の酸化リポタンパク質を別々に評価できるようにすることを特徴とする各酸化リポタンパク質の測定法。
【請求項3】血漿中の酸化リポタンパク質を固相に直接固定化することなく、リン脂質の酸化により生成する抗原を認識する抗体と特定のリポタンパク質を認識する抗体とを用いて血漿中の特定の酸化リポタンパク質を測定することを特徴とする特定の酸化リポタンパク質の測定法。
【請求項4】血漿および/またはこれより分離したリポタンパク質画分を固相に直接固定化することなく、リン脂質の酸化により生成する抗原を認識する抗体と接触させ、当該抗体と結合した酸化リポタンパク質をさらに特定のリポタンパク質を認識する抗体と接触させることを特徴とする特定の酸化リポタンパク質の測定法。
【請求項5】リン脂質の酸化により生成する抗原を認識する抗体が、担体に固相化されている請求項1〜4のいずれかに記載の酸化リポタンパク質の測定法。
【請求項6】リン脂質の酸化により生成する抗原を認識する抗体が、ホスファチジルコリンの酸化により生成する抗原を認識するものである請求項1〜4のいずれかに記載の酸化リポタンパク質の測定法。
【請求項7】リン脂質の酸化により生成する抗原を認識する抗体が、粥状硬化病巣のホモジュネートで適当な哺乳動物及び/または哺乳動物の抗体産生担当リンパ球を免役し、該動物の抗体産生リンパ球とミエローマ細胞を融合させ、形成された抗ヒト粥腫抗体産生細胞融合細胞群を単離し、該細胞群の中から酸化したリポタンパク質と特異的に反応するものとして選別された融合細胞が産生するものである請求項1〜4のいずれかに記載の酸化リポタンパク質の測定法。
【請求項8】リン脂質の酸化により生成する抗原を認識する抗体が、ハイブリドーマセルラインFOH1a/DLH3(受託番号FERM BP-7171)により生産されるものである請求項1〜4のいずれかに記載の酸化リポタンパク質の測定法。
【請求項9】該リポタンパク質を認識する抗体が、抗アポB抗体であり、酸化リポタンパク質が酸化低密度リポタンパク質(LDL)である請求項3〜8のいずれかに記載の酸化リポタンパク質の測定法。
【請求項10】該リポタンパク質を認識する抗体が、抗Lp(a)抗体であり、酸化リポタンパク質が酸化Lp(a)である請求項1〜8のいずれかに記載の酸化リポタンパク質の測定法。
【請求項11】血漿および/またはこれより分離したリポタンパク質画分を希釈して用いる請求項1〜10のいずれかに記載の方法。
【請求項12】該測定が、サンドイッチELISA法である請求項1〜11のいずれかに記載の測定法。」

2.申立ての理由及び当審における取消理由の概要
(1)特許異議申立人乾佳子は、証拠として本願出願日前に頒布されたことが明らかな刊行物である下記の甲第1号証ないし甲第3号証を提出し、訂正前の本件請求項1、2、5、11、12に係る発明は、甲第1号証に記載された発明であるから特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであり、また、訂正前の本件請求項1ないし12に係る発明は、甲第1号証ないし甲第3号証に記載された発明及び技術的事項に基づいて当業者が容易になし得た発明であるから特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、したがってこれらの発明の特許は取り消すべきものである、と主張している。


甲第1号証:Clinica Chimica Acta 218(1993)pp.97-103
甲第2号証:特開平4-173096号公報
甲第3号証:The Journal of Biological Chemistry Vol.269,
No.21,(1994),pp.15274-15279

(2)当審において通知した取消しの理由の趣旨は、訂正前の本件請求項1ないし12に係る発明は、下記の刊行物1ないし5に記載された発明及び技術的事項に基づいて当業者が容易になし得た発明であるから特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、したがってこれらの発明の特許は取り消すべきものである、というものである。


刊行物1:Clinica Chimica Acta 218(1993)pp.97-103(上記甲第
1号証と同じ)
刊行物2:特開平4-173096号公報(上記甲第2号証と同じ)
刊行物3:The Journal of Biological Chemistry Vol.269,No.2
1,(1994),pp.15274-15279(上記甲第3号証と同じ)
刊行物4:Journal of Lipid Research,Vol.35,1994,pp.669-
677(本件特許明細書に引用されている文献)
刊行物5:Free Radical Biology & Medicine,Vol.7,pp.209-
217,1989(本件特許明細書に引用されている文献)

3.刊行物に記載された事項
(イ)刊行物1
刊行物1は、「サンドイッチELISAによる血漿酸化変性低密度リポタンパク質の定量」と題する論文に係るものであり、ヒトの血漿低密度リポタンパク質(LDL)を銅で酸化した酸化LDL(OxLDL)をウサギに投与して得られた血清からのポリクローナル抗体と、マウスにOxLDLを投与して作成したモノクローナル抗体とを使用し、血液サンプル及びPBS中の標準抗原の連続希釈液について、モノクローナル抗体を固相化したサンドイッチELISAで測定して、冠状動脈心臓病の患者グループと健康なドナーのグループについて血漿OxLDLの量を測定することが記載されているとともに、リポタンパク質(a)(Lp(a))についても、具体的測定方法は記載されていないものの、血漿OxLDLのレベルと対比するために測定した結果が記載されている(「2.材料および方法」、「3.結果」の項参照)。
使用したポリクローナル抗体は免疫拡散法で酸化したLDLとのみ反応し、未変性のLDLとは反応せず、モノクローナル抗体も免疫拡散法またはELISAで未変性のLDLと反応しないものであったこと(「3.結果」の項参照)、そして、酸化LDLは粥状硬化症病巣にのみ存在するので、アテローム性動脈硬化性心臓血管疾患(ASCVD)の診断に手助けとなり得ること(「1.イントロダクション」の項)が記載されている。

(ロ)刊行物2
刊行物2には、「ヒトマロンジアルデヒド化低比重リポタンパクを認識するモノクローナル抗体」(請求項1)、および、この抗体を使用したマロンジアルデヒド化低比重リポタンパクの測定法(請求項3)が記載されており、サンドイッチELISAについて、「従って、ヒトMDA化LDLの測定の特異性を高めるために、ヒトMDA化LDL及びLDLを構成しているヒトアポBを認識する抗体とのサンドイッチ酵素免疫測定法を用いるのが好ましい。すなわち、(還元型)ヒトMDA化LDLを認識するモノクローナル抗体及びヒトアポB認識抗体の何れか一方を不溶性担体に固定し、他方を酵素で標識し、これらを被検体と接触させてサンドイッチ酵素免疫測定を行ってヒトMDA化LDLを測定するものである。」という記載がある(公報第3頁左上欄13行〜右上欄3行)。

(ハ)刊行物3
刊行物3は、「酸化リポタンパク質に対するモノクローナル抗体が粥状硬化病巣の泡沫細胞を認識する」と題する論文に係るものであり、粥状硬化病巣のホモジュネートを抗原として用い、マウスから得られたモノクローナル抗体FOH1a/DLH3が、酸化LDLを認識し、粥状硬化病巣の泡沫細胞を認識すること、酸化LDLと反応するが、未変性のLDL、アセチル化LDLおよびマロンジアルデヒド処理したLDLとは反応せず、酸化高密度リポタンパク質と交差反応することが記載されている(第15274頁左欄、第15276頁、図1参照)。
また、そのモノクローナル抗体は、ホスファチジルコリン(PC)が鉄イオン誘発性過酸化反応で処理された場合に生成する抗原を認識する抗体であり、リン脂質の酸化により生成するエピトープを認識するものであることが記載されている(第15274頁左欄、第15276頁右欄参照)とともに、該抗体が、インビトロにおける酸化LDLの存在を調べるのに良いツールとなるであろうことも記載されている(「ディスカッション」の項の第15279頁左欄最終段落参照)。

(ニ)刊行物4
刊行物4は、「生体内を循環する酸化LDLの生化学的特性および細胞毒性」と題する論文に係るものであり、高コレステロール血症および正常コレステロールのカニクイザルを使用し、電気的陰性LDL(LDL-)の酸化された性質を確認しさらに明らかにするために、キャピラリーガスクロマトグラフイーによってLDL-および未変性LDL(n-LDL)を定量し、血漿LDLには95%のn-LDLと5%の酸化変性LDL(LDL-)が含まれることが示されている(第669頁、左欄「要約」の項、第671頁、図1参照)とともに、全血漿LDL中のLDL‐サブフラクションが、高コレステロール血症から単離されたLDLのアテローム症の一因となりうることが示唆されることが記載されている(同「要約」の項参照)。
また、血漿中には酸化されたLDLと変性されていないLDLが存在し、血漿中のLDLのリン脂質は酸化されやすいことが知られていたことが記載されている(特に671頁以下の「結果」の項の図1,図2についての記載、674頁右欄の「ディスカッション」の項の冒頭部分参照)。

(ホ)刊行物5
刊行物5は、「化学ルミネセンス-HPLC分析法によるヒト血漿中の過酸化リン脂質の定量」と題する論文に係るものであり、血漿中からクロロホルム-メタノールにて脂質を抽出したところ、ホスファチジルコリンの酸化物(PCOOH)、すなわち酸化されたリン脂質が存在し、また、LDL、VLDLに多いことが記載されている(特に211頁左欄以下のIV.項、VI.項、図5等参照)。

4.本件発明と引用刊行物記載の発明との対比・検討
〔特許法第29条第1項について〕
(1)本件発明1について
本件発明1と上記刊行物1に記載されたサンドイッチELISAによるヒト血漿中の酸化LDLの定量法とを対比すると、両者は、血漿中の酸化リポタンパク質を固相に直接固定化することなく、2種類の抗体を使用して測定する酸化リポタンパク質の測定法である点で共通している。しかし、使用する2種類の抗体が、本件発明1では、「リン脂質の酸化により生成する抗原を認識する抗体とリポタンパク質を認識する抗体」であって、これらの抗体を用いることにより「血漿中の各種の酸化リポタンパク質を別々に評価できるようにすることを特徴とする各酸化リポタンパク質の測定法」であるのに対し、刊行物1記載の発明では、ヒトの血漿LDLを銅で酸化した酸化LDL(OxLDL)をウサギに投与して得られた血清からのポリクローナル抗体と、マウスにOxLDLを投与して腹水の状態で作成したモノクローナル抗体とを使用して酸化LDLを測定する方法であって、各種の酸化リポタンパク質を別々に評価することについては開示されていない。
したがって、本件発明1と上記刊行物1記載の発明とは、抗体の種類とそれらを用いた測定法において相違するものであるから、本件発明1は刊行物1に記載された発明であるとすることはできない。

(2)本件発明2について
本件発明2も、本件発明1と同様、「リン脂質の酸化により生成する抗原を認識する抗体とリポタンパク質を認識する抗体」とを使用し、測定される酸化リポタンパク質について、「血漿中の各種の酸化リポタンパク質を別々に評価できるようにすることを特徴とする各酸化リポタンパク質の測定法」であるから、本件発明1について前記(1)で検討したのと同様の理由により、本件発明2は刊行物1に記載された発明であるとすることはできない。

(3)本件発明5について
本件発明5は、本件発明1ないし4を引用するものであり、本件発明1あるいは2を引用するものについては、本件発明1あるいは2について前述したのと同様の理由により、刊行物1に記載された発明であるとすることはできず、本件発明3あるいは4を引用するものについても刊行物1に記載された発明であるとすることはできない。

(4)本件発明11について
本件発明11は、本件発明1ないし10を引用するものであり、本件発明1、2、5のいずれかを引用するものについては、本件発明1、2、5について前述したのと同様の理由により、刊行物1に記載された発明であるとすることはできず、本件発明3、4、6ないし10のいずれかを引用するものについても刊行物1に記載された発明であるとすることはできない。

(5)本件発明12について
本件発明12は、本件発明1ないし11を引用するものであり、本件発明1、2、5、11のいずれかを引用するものについては、本件発明1、2、5、11について前述したのと同様の理由により、刊行物1に記載された発明であるとすることはできず、本件発明3、4、6ないし10のいずれかを引用するものについても刊行物1に記載された発明であるとすることはできない。

〔特許法第29条第2項について〕
(1)本件発明1について
(1-1)本件発明1と刊行物1記載の発明との対比
本件発明1と刊行物1に記載されたサンドイッチELISAによるヒト血漿中の酸化LDLの定量法とを対比すると、両者は、血漿中の酸化リポタンパク質を固相に直接固定化することなく、2種類の抗体を使用して測定する酸化リポタンパク質の測定法である点で共通するものの、使用する2種類の抗体が、本件発明1では、「リン脂質の酸化により生成する抗原を認識する抗体とリポタンパク質を認識する抗体」であって、これらの抗体を用いることにより「血漿中の各種の酸化リポタンパク質を別々に評価できるようにすることを特徴とする各酸化リポタンパク質の測定法」であるのに対し、刊行物1記載の発明では、ヒトの血漿LDLを銅で酸化した酸化LDL(OxLDL)をウサギに投与して得られた血清からのポリクローナル抗体と、マウスにOxLDLを投与して腹水の状態で作成したモノクローナル抗体とを使用して酸化LDLを測定する方法であって、各種の酸化リポタンパク質を別々に評価することについては開示されていない点で相違する。

(1-2)相違点についての検討
刊行物1記載の発明においては、使用されているモノクローナル抗体について、酸化LDLと反応し未変性LDLとは反応しないということが確認されているだけで、酸化LDLのどのような部位を認識するモノクローナル抗体であるのか、そのモノクローナル抗体のエピトープについては何ら記載も示唆もない。そして、他の酸化リポタンパク質との反応性についても、何ら記載されていない。
一方、刊行物3には、リン脂質の酸化により生成する抗原を認識するマウスモノクローナル抗体FOH1a/DLH3が、酸化LDLを認識し、酸化HDLと交差反応をすることは記載されているが、該抗体と他のカイロミクロン、VLDL,Lp(a)などのリポタンパク質が酸化した酸化リポタンパク質との反応について、何ら記載も示唆もされていない。しかも、刊行物1には、酸化LDLの測定についても、「インビトロにおける酸化LDLの存在を調べるのに良いツールとなるであろう」と記載されているにとどまり、ヒト血漿中の酸化LDLを該モノクローナル抗体とインビトロで反応させたことも記載されていない。
そして、酸化LDLの定量について記載されている刊行物1では、サンドイッチELISA法で使用されている2種類の抗体の組合せは、銅酸化されたLDLを抗原として得られたマウスモノクローナル抗体とウサギからのポリクローナル抗体との組合せであって、前記相違点に挙げられ本件発明1を特徴づけている、「リン脂質の酸化により生成する抗原を認識する抗体とリポタンパク質を認識する抗体」とを用いて「血漿中の各種の酸化リポタンパク質を別々に評価できるようにする各酸化リポタンパク質の測定法」という構成について、何ら教示するものではない。
さらに、酸化ではなくヒトマロンジアルデヒド化されたヒトMDA化LDLの測定における特異性を高めるための、ヒトMDA化LDLを認識するモノクローナル抗体とヒトMDA化LDL及びLDLを構成しているヒトアポBを認識する抗体とを用いたサンドイッチ酵素免疫測定法の採用を奨める刊行物2の記載や、血漿中のLDLではリン脂質だけでなくタンパク質も酸化しやすいことが記載されている刊行物4、および血漿中に酸化されたリン脂質が存在することが記載されている刊行物5の記載を勘案してみても、前記相違点の構成を当業者が容易に想到できたものとすることはできない。
そして、本件発明1は、前記相違点の構成を備えることにより、特異性が高く高感度で個々のリポタンパク質毎の酸化度を識別可能であり、定量化が可能な血液中の酸化LDLの測定を、ELISA法のような簡便な、それ故多数の臨床検体について測定可能な形で提供し得るという明細書記載の効果を奏するものであると認められる。
したがって、本件発明1は刊行物1〜5に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものとすることはできない。

(2)本件発明2について
本件発明2も、本件発明1と同様、「リン脂質の酸化により生成する抗原を認識する抗体とリポタンパク質を認識する抗体」とを使用し、測定される酸化リポタンパク質について、「血漿中の各種の酸化リポタンパク質を別々に評価できるようにすることを特徴とする各酸化リポタンパク質の測定法」であるから、本件発明1について前記(1)で検討したのと同様の理由により、刊行物1〜5に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものとすることはできない。

(3)本件発明3について
(3-1)本件発明3と刊行物1記載の発明との対比
本件発明3と刊行物1に記載されたサンドイッチELISAによるヒト血漿中の酸化LDLの定量法とを対比すると、酸化LDLは特定の酸化リポタンパク質であるから、両者は、血漿中の酸化リポタンパク質を固相に直接固定化することなく、2種類の抗体を使用して血漿中の特定の酸化リポタンパク質を測定する特定の酸化リポタンパク質の測定法である点で一致するものの、使用する2種類の抗体が、本件発明3では、「リン脂質の酸化により生成する抗原を認識する抗体と特定のリポタンパク質を認識する抗体」であるのに対し、刊行物1記載の発明では、ヒトの血漿LDLを銅で酸化した酸化LDL(OxLDL)をウサギに投与して得られた血清からのポリクローナル抗体と、マウスにOxLDLを投与して腹水の状態で作成したモノクローナル抗体とを使用し、酸化LDLを測定する方法である点で相違する。

(3-2)相違点についての検討
刊行物1記載の発明においては、使用されているモノクローナル抗体について、酸化LDLと反応し未変性LDLとは反応しないということが確認されているだけで、酸化LDLのどのような部位を認識するモノクローナル抗体であるのか、そのモノクローナル抗体のエピトープについて何ら記載も示唆もない。
また、該モノクローナル抗体と組み合わせて使用されるポリクローナル抗体についても、モノクローナル抗体を得るための抗原として使用した銅酸化LDLを抗原とするポリクローナル抗体であって、酸化されていないリポタンパク質を認識する抗体ではない。
一方、刊行物3には、リン脂質の酸化により生成する抗原を認識するマウスモノクローナル抗体FOH1a/DLH3が、酸化LDLを認識し、酸化HDLと交差反応をすることは記載されているが、血漿中の酸化LDLの測定については、「インビトロにおける酸化LDLの存在を調べるのに良いツールとなるであろう」と記載されているにとどまり、ヒト血漿中の酸化LDLを該モノクローナル抗体とインビトロで反応させたことは記載されていない。
また、刊行物2には、ヒトマロンジアルデヒド化されたヒトMDA化LDLの測定において、測定の特異性を高めるために、ヒトMDA化LDLを認識するモノクローナル抗体とヒトMDA化LDL及びLDLを構成しているヒトアポBを認識する抗体とを用いたサンドイッチ酵素免疫測定法の採用が好ましいことが記載されているが、血漿中のLDLではリン脂質だけでなくタンパク質も酸化しやすいことが刊行物4に記載されている。そうすると、酸化ではなくヒトマロンジアルデヒド化されたヒトMDA化LDLの測定の場合には、MDA化LDLと他のMDA化されたものとの識別に、ヒトMDA化LDL及びLDLを構成しているヒトアポBを認識する抗体が、ヒトMDA化LDLのサンドイッチ酵素免疫測定法に使用できるとしても、酸化LDLのサンドイッチ免疫測定法において、他の酸化されたリポタンパク質との識別に、刊行物3記載のリン脂質の酸化により生成する抗原を認識する抗体と組み合わせて使用できることまで、教示や示唆されているものとは認められない。
さらに、ヒト血漿中に酸化されたリン脂質が存在することが記載されている刊行物5の記載を勘案してみても、前記相違点の構成を当業者が容易に想到できたものとすることはできない。
そして、本件発明3は、前記相違点の構成を備えることにより、特異性が高く高感度で個々のリポタンパク質毎の酸化度を識別可能であり、定量化が可能な血液中の酸化LDLの測定を、ELISA法のような簡便な、それ故多数の臨床検体について測定可能な形で提供し得るという明細書記載の効果を奏するものであると認められる。
したがって、本件発明3は刊行物1〜5に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものとするこはできない。

(4)本件発明4について
本件発明4も、本件発明3と同様、「リン脂質の酸化により生成する抗原を認識する抗体と特定のリポタンパク質を認識する抗体」とを使用する特定の酸化リポタンパク質の測定法」であるから、本件発明3について前記(3)で検討したのと同様の理由により、刊行物1〜5に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものとすることはできない。

(5)本件発明5ないし12について
本件発明5ないし12は、いずれも、本件発明1ないし4のいずれかを直接あるいは間接的に引用するものであり、本件発明5ないし12は、本件発明1ないし4について前述したのと同様の理由により、刊行物1〜5に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明できたものとすることはできない。

IV.むすび
したがって、特許異議申立ての理由及び証拠によっては、本件請求項1ないし12に係る発明の特許を取り消すことはできない。
また、他に本件請求項1ないし12に係る発明の特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、本件請求項1ないし12に係る発明の特許は、拒絶の査定をしなければならない特許出願に対してされたものと認めないから、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
ヒト酸化リポタンパク質の測定法
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】 血漿中の酸化リポタンパク質を固相に直接固定化することなく、リン脂質の酸化により生成する抗原を認識する抗体とリポタンパク質を認識する抗体とを用いて血漿中の各種の酸化リポタンパク質を別々に評価できるようにすることを特徴とする各酸化リポタンパク質の測定法。
【請求項2】 血漿および/またはこれより分離したリポタンパク質画分を固相に直接固定化することなく、リン脂質の酸化により生成する抗原を認識する抗体と接触させ、当該抗体と結合した酸化リポタンパク質をさらにリポタンパク質を認識する抗体と接触させ、血漿中の各種の酸化リポタンパク質を別々に評価できるようにすることを特徴とする各酸化リポタンパク質の測定法。
【請求項3】 血漿中の酸化リポタンパク質を固相に直接固定化することなく、リン脂質の酸化により生成する抗原を認識する抗体と特定のリポタンパク質を認識する抗体とを用いて血漿中の特定の酸化リポタンパク質を測定することを特徴とする特定の酸化リポタンパク質の測定法。
【請求項4】 血漿および/またはこれより分離したリポタンパク質画分を固相に直接固定化することなく、リン脂質の酸化により生成する抗原を認識する抗体と接触させ、当該抗体と結合した酸化リポタンパク質をさらに特定のリポタンパク質を認識する抗体と接触させることを特徴とする特定の酸化リポタンパク質の測定法。
【請求項5】 リン脂質の酸化により生成する抗原を認識する抗体が、担体に固相化されている請求項1〜4に記載の酸化リポタンパク質の測定法。
【請求項6】 リン脂質の酸化により生成する抗原を認識する抗体が、ホスファチジルコリンの酸化により生成する抗原を認識するものである請求項1〜4に記載の酸化リポタンパク質の測定法。
【請求項7】 リン脂質の酸化により生成する抗原を認識する抗体が、粥状硬化病巣のホモジュネートで適当な哺乳動物及び/または哺乳動物の抗体産生担当リンパ球を免役し、該動物の抗体産生リンパ球とミエローマ細胞を融合させ、形成された抗ヒト粥腫抗体産生細胞融合細胞群を単離し、該細胞群の中から酸化したリポタンパク質と特異的に反応するものとして選別された融合細胞が産生するものである請求項1〜4に記載の酸化リポタンパク質の測定法。
【請求項8】 リン脂質の酸化により生成する抗原を認識する抗体が、ハイブリドーマセルラインFOH1a/DLH3(受託番号FERMBP-7171)により生産されるものである請求項1〜4に記載の酸化リポタンパク質の測定法。
【請求項9】 該リポタンパク質を認識する抗体が、抗アポB抗体であり、酸化リポタンパク質が酸化低密度リポタンパク質(LDL)である請求項3〜8のいずれかに記載の酸化リポタンパク質の測定法。
【請求項10】 該リポタンパク質を認識する抗体が、抗Lp(a)抗体であり、酸化リポタンパク質が酸化Lp(a)である請求項1〜8のいずれかに記載の酸化リポタンパク質の測定法。
【請求項11】 血漿および/またはこれより分離したリポタンパク質画分を希釈して用いる請求項1〜10のいずれかに記載の方法。
【請求項12】 該測定が、サンドイッチELISA法である請求項1〜11のいずれかに記載の測定法。
【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】
本発明は、ヒト酸化リポタンパク質の測定法に関するものである。詳しく述べると、本発明は、血液成分を酸化リン脂質を認識する抗体と接触させ、該抗体の試料に対する反応性を測定することによって血液成分中に含まれる酸化リポタンパク質を測定することを特徴とする血液中のヒト酸化リポタンパク質の測定法に関するものである。本発明はまた、上記測定法を用いて心筋梗塞や狭心症などの冠動脈系疾患、脳梗塞や脳血管系痴呆などの脳動脈系疾患、あるいは腎症、糖尿病性腎症などの腎動脈系疾患および末梢動脈閉塞症のような末梢動脈系疾患などの各種循環器系疾患を診断する方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
動脈硬化症は大動脈、冠状動脈、脳動脈及び頚動脈などの筋型動脈に多く発生し、狭心症、心筋梗塞、脳梗塞などの主因となる疾患である。その原因として血清コレステロールの上昇、血小板凝集、内皮傷害などが提唱されているが、その成因はほとんど解析されていないのが現状である。
【0003】
変性リポタンパク質の一つである酸化リポタンパク質と粥状硬化病巣の進展との関連性が、スタインバーグ(Steinberg)らにより指摘されて以来、動脈硬化の進展における酸化リポタンパク質の問題は脚光を浴びるようになっている(例えばSteinberg,D.,Parthasarathy,S.,Carew,T.E.,Khoo,J.C.,and Witztum,J.L.,(1989)N.Engl.J.Med.320:915)。
【0004】
スカベンジャー受容体など酸化を受けたリポタンパク質に対する受容体の存在が明らかにされ、酸化LDLが、これらの受容体を介して細胞内に取り込まれることによって、泡沫細胞となり粥腫形成のイニシエーションが起こるという仮説、また酸化LDLが内皮細胞を傷害することで、血小板の粘着凝集や、白血球の集結、血漿成分の血管内への浸潤がおこり、これらが引き金になって、平滑筋細胞の遊走や増殖を引き起こすといった仮説が提唱されている。
【0005】
酸化LDLが病巣に確かに蓄積しているかどうかについては、例えば1988年にハーバーランド(Haberland)等がマロンジアルデヒドで修飾したLDLに対する抗体;抗MDA-LDL抗体により動脈硬化病巣部が染色されることを示し(Herberland,M.E.,Fong,D.,and Cheng,L.,(1988)Science241:215)、また1989年にイラ-ハーテュアラ(YLa-Herttuala)等は、やはり抗MDA-apoB抗体によるイムノブロッティング法により、病巣部から抽出されたアポB(apoB)を検索し、酸化変性を受けたLDLが確かに病巣部から抽出されたと報告している(Yla-Herttuala,S.,Parinski,W.,Rosenfeld,M.E.,Parthasarathy,S.,Carew,T.E.,Butler,S.,Witztum,J.L.,and Steinberg,D.,(1989)J.Clin.Invest.84:1086)。しかしここで用いられた抗体はマロンジアルデヒドを用いて人工的に修飾したLDLを抗原として得られたものであるが、LDLの酸化生成物だけでなく他の酸化蛋白、例えば酸化アルブミンなどとも交叉反応を示すという性質を有している。
【0006】
しかるに、粥状硬化病巣のホモジネートを抗原としてハイブリドーマを作成し、その中から、酸化LDLを特異認識する抗体を産生するハイブリドーマを選択すると、特異性の高いモノクロナル抗体が得られることが開示されている(Itabe,H.,Takeshima,E.,Iwasaki,H.,Kimura,J.,Yoshida,Y.,Imanaka,T.,Takano,T.,(1994)J.Biol.Chem.269(21):15274)。この抗体は、クローンFOH1a/DLH3が産生することから、FOH1a/DLH3と名付けられているが、同抗体が、酸化リポタンパク質と特異的に反応し、正常なリポタンパク質、マロンジアルデヒド化LDL、アセチル化LDLなどとは、交叉反応を示さないことや、同抗体の認識するエピトープは、リポタンパク質の構成成分であるフォスファチジルコリンというリン脂質が酸化されたときに生成することが開示されている。また、同抗体が、ヒト粥状硬化病巣内の泡沫細胞を特異的に認識する抗体であることも開示されている。
【0007】
一方、これまでの研究ではLDLの酸化は、血管組織への沈着後の二次的な化学修飾によって引き起こされると考えられているが、炎症部位で発生する活性酵素などにより循環血液中に酸化変成を受けたリポタンパク質が存在する可能性もある。実際に、ヒト血液あるいはそのLDL画分から脂質を抽出し、その中に過酸化リン脂質の存在を立証し、心虚血、糖尿病や肝炎などの疾患時に上昇するとする報告がある(Miyazawa,T.,(1989)Free Radical Biology7:209、Hodis,H.N.,Kramsch,D.M.,Avogaro,P.,Bittolo-Bon,G.,Cazzolato,G.,Hwang,J.,Peterson,H.,and Sevanian,A.,(1994)J.Lipids Res.35:669)。しかしながら、その測定法は複雑であり、多数の臨床検体を測定して、血中酸化リポタンパク質の臨床診断的な意義を明らかにするには不向きであるため、血液中の酸化リポタンパク質と疾病との関りについては未だ明確になっていない現状である。酸化LDLが粥状効果病巣の進展と深く関わっているならば、循環血液中の酸化LDL等の酸化リポタンパク質を高感度にかつ定量的に検出することが、病態進展の早期診断に役立つことは明らかであり、そのような方法の開発は強く望まれていた。
【0008】
【発明が解決しようとする課題】
従って、本発明は、新規なヒト酸化リポタンパク質の測定法を提供することを目的とする。本発明はさらに、比較的簡単な手順により、循環血液中の酸化LDL等の酸化リポタンパク質を高感度にかつ定量的に検出するヒト酸化リポタンパク質の測定法を提供することを目的とするものである。本発明はまた、血液中のヒト酸化リポタンパク質を測定することにより、心筋梗塞や狭心症などの冠動脈系疾患、脳梗塞や脳血管系痴呆などの脳動脈系疾患、あるいは腎症、糖尿病性腎症などの腎動脈系疾患、末梢動脈閉塞症のような末梢動脈系疾患などを含む、粥状硬化症を主因とする各種循環器系疾患を診断する方法を提供することを目的とするものである。
【0009】
【課題を解決するための手段】
上記諸目的は、リン脂質の酸化により生成する抗原を認識する抗体を用いて血漿中の酸化リポタンパク質を測定するヒト酸化リポタンパク質の測定法によって達成される。
【0010】
本発明はまた、抗体が、ペプチドの共存下にホスファチジルコリンの酸化により生成する抗原を認識するものであるヒト酸化リポタンパク質の測定法である。本発明はまた、リン脂質の酸化により生成する抗原を認識する抗体が、粥状硬化病巣のホモジネートで適当な哺乳動物及び/または哺乳動物の抗体産生担当リンパ球を免疫し、該動物の抗体産生リンパ球とミエローマ細胞を融合させ、形成された抗ヒト粥腫抗体産生融合細胞群を単離し、該細胞群の中から酸化したヒトリポタンパク質と特異的に反応するものとして選別された融合細胞が産生するものであるヒト酸化リポタンパク質の測定法である。本発明はまた、抗体が、ハイブリドーマセルラインFOH1a/DLH3(受託番号FERM P-14153)により産生されるものであるヒト酸化リポタンパク質の測定法である。本発明はさらに、血漿および/またはこれより分離したリポタンパク質画分を至適な濃度に希釈した後、リン脂質の酸化により生成する抗原を認識する抗体と接触させ、当該抗体と結合した酸化リポタンパク質をさらに当該リポタンパク質を認識する抗体と接触させることを特徴とするヒト酸化リポタンパク質の測定法である。本発明はさらに、リン脂質の酸化により生成する抗原を認識する抗体が、担体に固相化されていることを特徴とするヒト酸化リポタンパク質の測定法である。
【0011】
【作用】
上記したような問題を解決するためには、エピトープが明確でかつ酸化LDLに対する特異性が高く、また各種のリポタンパク質を別々に定量する方法が必要である。本発明者らは、粥状硬化病巣を抗原として得られた抗体FOH1a/DLH3は、リン脂質の酸化により生成するエピトープを認識し、酸化リポタンパク質へ特異的に結合する性質を有することを明らかにした(特許出願番号平6-51,209号、Itabe,H.,Takeshima,E.,Iwasaki,H.,Kimura,J.,Yoshida,Y.,Imanaka,T.,Takano,T.,(1994)J.Biol.Chem.269(21):15274))。
【0012】
本発明者らは、このような抗体について鋭意研究を進めた結果、このような抗体こそが、上記した要求される測定法を提供できる最も優れた抗体であることを発見し、本発明に至ったものである。
【0013】
すなわち、上記したように、酸化リポタンパク質を高感度にかつ定量的に検出することは、リン脂質の酸化により生成する抗原を認識する抗体を用いることによって行ない得るものである。特に、その抗体が、実際に粥状硬化病巣を適当な動物に感作させて得られたものである場合、また、その認識するエピトープがペプチドの共存下にホスファチジルコリンの酸化により生成する構造に由来する場合、その効果はより確実になる。
【0014】
このような抗体が上記課題を解決するに優れていることは以下のような性質を持つ抗体が得られることによる。このような抗体の抗原は、実際にヒト組織中で起こるリポタンパク質の生成によって発現し、しかも血漿蛋白質の中でペプチドとリン脂質を両方備えたリポタンパク質の酸化によって生じる可能性が非常に高い。ハイブリドーマFOH1a/DLH3の産生する抗体は、まさにその性質を備えている。
【0015】
なお、このような抗体を用いて測定する場合、血漿および/または血清を直接抗体と接触させることで目的は達成されるが、後述するサンドイッチELISA法などを用いる場合、その測定法に起因する非特異的な吸着などを防ぐため、前もって試料を適当な方法(例えば、超遠心分離)により、あらかじめリポタンパク質画分まで分画して用いてもよい。
【0016】
第二に、このような抗体は、その認識するエピトープがアポ蛋白に依存しないため、血液中の異なるリポタンパク質の酸化物を別々に評価するための方法を提供することができる。このためには、酸化リン脂質特異抗体と当該リポタンパク質特異的な抗体の2種類の組み合わせによることが必要である。この際、どちらかの抗体をプラスチックプレートやガラスビーズなどの平板状または球状等の担体に固相化した、いわゆるサンドイッチELISA法とするのが簡便である。
【0017】
この際、どちらかの抗体を固相化するかに制限はないが、酸化リン脂質を認識する抗体の抗体価が高い場合、そちらを固相化した方が抗原を濃縮でき、高感度化できる点で有利である。実施例には、ハイブリドーマFOH1a/DLH3の産生する抗体を固相化して作製したELISA法の例を示すが、本発明がこの実施例に限定されるものではないことはいうまでもないことである。
【0018】
第三に、このような抗体を用いることによって、実施例に示すように、例えば、人工的に作製した酸化LDLを標準物質として用いることにより、その値を、例えば、LDL蛋白1μg当たりの酸化LDLのng量などの形で定量的に評価することができる。
【0019】
このように、特異性が高く、高感度で、個々のリポタンパク質毎の酸化度を識別可能であり、定量化が可能な血液中の酸化LDLの測定をELISA法のような簡便な、それ故、多数の臨床検体について測定可能な形で提供し得たのは、本発明が初めてのことである。
【0020】
以下、本発明を実施態様に基づきより詳細に説明する。
【0021】
本発明の測定法は、被験体の血液成分を上記したようなリン脂質の酸化により生成する抗原を認識する抗体と接触させ、該抗体と特異的に反応した抗原量を定量することにより血液中に含まれる酸化リポタンパク質を特徴とするものである。測定は、RIA法、ELISA法、イムノブロット法、免疫沈降法等の公知の方法に基づき行なうことができる。
【0022】
さらに、前記したように本発明に係る上記したようなリン脂質の酸化により生成する抗原を認識する抗体が認識するエピトープがアポ蛋白に依存しないため、当該リポタンパク質に特異的な抗体を組合せることにより、血液中の異なるリポタンパク質の酸化物を別々に評価することできる。このようなリポタンパク質に特異的な抗体としては、特にカイロミクロン、VLDL、LDL、HDL2、HDL3、Lp(a)などの1つないし2つ以上を認識する抗体を用いることができる。特にこの中で、酸化LDLの評価は、酸化LDLと粥状硬化症との関連から重要であるが、これに加えて最近、動脈硬化の独立した危険因子として注目されているLp(a)(例えば,、Scanu,A.M.,Lawn,R.M.,and Berg,K.,(1991)Lipoprotein(a)and atherogenesis,Ann,Int.Med.115:209-218)の酸化変成の有無を評価することは重要である。これらのリポタンパク質に対する抗体は市販品として、あるいは公知の手法により容易に入手ないし調製可能である。このように血液中の異なるリポタンパク質の酸化物を別々に評価する場合には、上記したような酸化リン脂質特異抗体とリポタンパク質特異抗体のいずれか、望ましくは抗体価が高い方を、平板状または球状等に固相化することが望ましく、特にサンドイッチELISA法を用いることが好ましい。例えば、固相化において用いられる担体としては、多穴プレートなどのプレートやビーズといったこれらの分野において常用されるプラスチック製ないしガラス製の器具等が例示できる。
【0023】
被測定試料としての血液成分は、被験体より採血、好ましくはヘパリン等の抗凝固剤を添加して採血して得た血液試料を、遠心分離法等の常法に基づき成分分離して得られた血漿ないし血清成分である。また、測定法に起因する非特異的吸着を抑制し、より高精度の測定とするために、この血漿成分をさらに超遠心分離により分離してリポタンパク質画分としてもよい。
【0024】
また、測定に当っては、このような血漿および/またはリポタンパク質画分を、至適な濃度に希釈する。その濃度は測定条件によっても左右されるため一概には規定できないが、例えば、0〜500μg/ml、より好ましくは0〜100μg/mlへと希釈する。希釈媒体としては、特に限定されるものではないが、例えば、生理食塩水、EDTAを含むリン酸緩衝液(PBS)等が用いられ得る。
【0025】
至適な濃度とされた血漿および/またはリポタンパク質画分と上記したような酸化リン脂質特異抗体との接触は、このような血液成分中に含まれる酸化リン脂質と酸化リン脂質特異抗体との特異的反応が十分に進行するものであればよく特に限定されるものではないが、例えば、4〜30℃、より好ましくは25℃の下、1〜24時間、より好ましくは1〜2時間程度静置反応させることが望ましい。また、その際の酸化リン脂質特異抗体の濃度としては、血液試料中に存在すると思われるリン脂質の量よりも十分に過飽和な量であればよく、またこの抗体の抗体価、測定方法のタイプによっても左右されるが、例えば、血漿1μg当りに存在する酸化LDL量が0〜1ng程度であると想定される場合にあって、酸化リン脂質特異抗体として後述するようなDLH3抗体を用いる場合、当該血漿1μg当りに0.2〜1.0μg、より好ましくは0.5μg前後であることが望ましい。
【0026】
次に本発明の測定法において用いられるリン脂質の酸化により生成する抗原を認識する抗体について詳述する。
【0027】
このような抗体を得る方法としては、特に限定されるものではないが、好ましくは以下に述べるように粥状硬化病巣を適当な動物に感作する方法であり、一般的な細胞融合法に基づき次のような手法により得られるハイブリドーマセルラインにより産生される。
【0028】
ハイブリドーマ作製に用いられる動物種としては、特に限定されるものではなく、従来使用されているマウス、ラット、ハムスター等が使用可能であるが、特に入手および取扱いの容易性からBalb/cマウスが好ましく、主にこれらの動物の脾細胞が用いられる。また、ヒトのリンパ節細胞や末梢リンパ球を用いることもできる。
【0029】
これらの動物に対する免疫用の抗原は、粥状硬化病巣より調製される。例えば、動脈硬化症患者の死亡直後における剖検あるいはバイパス手術等において取出された病変血管を入手し、この病変血管から粥状硬化病巣を含む血管部を切出し、緩衝液中で血管外膜部を剥離除去した後、病巣の内膜と中膜部(intima and media)をホモジナイザーを用いて冷却下、好ましくは氷冷下にホモジナイズし、静置後得られる上清を抗原液とする。さらに必要に応じて、静置後に遠心処理を行ない、得られたペレットに緩衝液を加えて同様の操作を行ない、得られる上清を前の上清と合せて抗原液とすることもできる。このようにして調製された抗原液は、例えばアルゴン等の不活性ガスで置換の後、使用直前まで凍結保存することが望ましい。
【0030】
次いで、このようにして調製された粥状硬化病巣のホモジェネートからなる抗原を、所定蛋白(抗原)濃度として、前記したような動物種に免疫する。なおこの際、必要に応じて、フロイント完全アジュバント、フロイント不完全アジュバント等のアジュバントを添加してもよい。
【0031】
投与量は、動物種によって左右されるが、マウスの場合、初回免疫で2.0〜60μg(蛋白)/匹、より好ましくは40μg(蛋白)/匹程度である。
【0032】
さらに、初回免疫の後、例えば、2週間および4週間程度の間隔で、初回免疫と同量ないしそれ以下の蛋白量で、追加免疫を行なうことが望ましい。
【0033】
最終免疫の後、2〜3日後に免疫動物から採血し、ELISA(enzyme-linke dimmunosorbent assay)法、イムノブロット法等の検定法により、血清抗体価上昇の確認を行ない、抗体価上昇の認められた免疫動物をスクリーニングする。
【0034】
スクリーニングされた免疫動物から脾細胞、あるいはリンパ節などから抗体産生細胞を採取し、約37℃に加温したRPMI培地、DMEM培地等の維持培地で洗浄、懸濁し、生細胞数を計測する。
【0035】
一方、HGPRT(hypoxanthine-guanine phosphoribosyl transferase)欠損株の腫瘍細胞を、胎児ウシ血清(FCS)添加RPMI培地、FCS添加DMEM培地等の増殖培地において増殖させ、対数増殖期になるように培養しておく。なお、HGPRT欠損株の腫瘍細胞としては、例えば、P3/X63-Ag8(X63)(カッコ内は略名以下同じ)、P3/NSI-1-Ag4-1(NS-1)、P3/X63-Ag8.U1(P3/U1)、Sp2/O-Ag14(Sp2/O)、FO、210.RCY3.Ag1.2.3.(Y3)、U-266AR1(SKO-007)、LICR-LON-HMy2(HMy2)、8226AR/NIP4-1(NP41)などの公知の腫瘍細胞を、使用する動物種に応じて用いることができる。対数増殖期にある腫瘍細胞を、前記抗体産生細胞の細胞数に対して腫瘍細胞の細胞数が1:1〜1:10となるように調整し、約37℃に加温したRPMI培地、DEME培地等の維持培地で洗浄して細胞融合を阻害するFCS成分を除去する。
【0036】
そして、細胞数を調整された抗体産生細胞と腫瘍細胞を、例えばガラスチューブ等の容器内で混和し、遠心してペレットを得、上清をなるべく除去する。なお、この操作を含めて以下の操作は、20〜37℃、より好ましくは約37℃の温度条件下で行なうことが望ましい。
【0037】
次いで、得られたペレットに対して、0〜37℃、より好ましくは約37℃に加温された細胞凝集性媒体を、ペレットをほぐしながら、ゆっくりと添加する。細胞凝集性媒体としては、ポリエチレングリコール(PEG)、リゾレシチン、グリセロールオレイン酸エステルなどの化合物、あるいは不活化されたセンダイウィルス(HVJ)、麻疹ウィルス、ニューカッスル病ウィルス等のパラミクソウィルスなどが使用可能であるが、このうち特にPEGが好ましい。PEGを使用する場合には、例えば、RPMI培地、DMEM培地等で、その平均分子量にもよるがPEG4000の場合は45〜50重量%程度の濃度に希釈して用いることが望ましい。
【0038】
細胞凝集性媒体の添加後、さらに1〜2分間程度攪拌した後、RPMI培地等の維持培地を、2〜3回に別けてゆっくりと添加する。
【0039】
その後、PEG等の細胞凝集性媒体を除去するため、例えば800〜1200×g、3〜5分間という弱い条件で遠心し、上清を除去する。
【0040】
続いて、得られたペレットをほぐしながら、FCS添加HAT培地等の選択培地を、脾臓細胞濃度が1×106〜1×107細胞/mlとなるように、ゆっくりと添加し、96穴プレートのような多穴プレートの各ウェルに分注し、温度約37℃、CO2濃度約7%、湿度100%の条件下で培養する。なお、培養期間中、細胞の状態にもよるが、2〜3日程度の間隔で、液替えを行なう。なお、培地条件としては、上記に例示したようなものに限定されるものではなく、これ以外にも、例えば、最初にFCS添加RPMI培地等の増殖培地をペレットに添加し、培養開始後、選択培地を各ウェルに添加するといった態様とすること等も可能である。融合しなかった細胞は、3日目あたりから急速に死滅しはじめ、7日程度で完全に死滅する。一方、融合に成功した細胞、すなわち、ハイブリドーマはこのころよりコロニーを形成しはじめる。ハイブリドーマコロニーの形成が認められたウェルより次に述べるようなスクリーンニングを開始し、必要に応じて24穴プレート等のより大きなプレートに継代していく。
【0041】
スクリーニングは、RIA法、ELISA法、イムノブロット法等によって行なうことができるが、このうち好ましくはELISA法である。抗原としては、CuSO4と3時間以上反応させることにより得られた酸化LDLを使用する。必要に応じて、未変性のLDLを併用してもよい。特に好ましくはホスファチジルコリンの酸化により生成する抗原であり、これをペプチドの共存下に認識するものが望ましい。各アッセイ法に基づき、ハイブリドーマコロニーの形成が認められたウェルから採取した培養上清を、スクリーニングし、酸化LDLとの反応で陽性(かつ未変性LDLとの反応で陰性)となる細胞株を選択する。
【0042】
そして、スクリーニングで陽性となったウェルから直ちにクローニングを行なう。クローニングは、限界希釈法(limiting dilution)、単個細胞マニピュレーション法(single cell manipulation)などを用いて行なうことができるが、限界希釈法の方が技術的に容易であるため好ましい。
【0043】
クローニングした細胞が再び増殖してきたら、上記と同様にしてスクリーニングを行ない、再度クローニングを繰り返し、未変性LDLとは反応せず、酸化LDLとのみ反応する高産生細胞株を同定する。
【0044】
なお、得られたハイブリドーマの保存法としては、特に限定されるものではないが、例えば、凍結保存用のバイアルになるべく多くの細胞、例えば1×107〜2×107個程度を、90%FCS、10%ジメチルスルフォキシド(DMSO)1〜2ml程度に懸濁して、液体窒素中に凍結保存する方法が適当である。
【0045】
Balb/cマウスを用いて上記したような細胞融合操作により、未変性のLDLとは反応せず、酸化LDLとのみ反応する細胞株を得ることができることが、前述の論文(Itabe,H.,Takeshima,E.,Iwasaki,H.,Kimura,J.,Yoshida,Y.,Imanaka,T.,Takano,T.,(1994)J.Biol.Chem.269(21):15274)に開示されている。特に、同論文に記載されている抗体FOH1a/DLH3は、マロンジアルデヒド修飾LDL(MDA-LDL)、アセチル化LDL(AcLDL)とは、反応しない点で、特に好ましいモノクローナル抗体である。この抗体を産生するマウス-マウス ハイブリドーマセルライン FOH1a/DLH3は、工業技術院生命工学工業技術研究所に寄託し、受託番号FERM P-14153を付与されている。
【0046】
モノクローナル抗体FOH1a/DLH3は、LDLを銅イオンを用いて人工的に酸化したLDLに反応するが、未変性のLDLには反応せず、他の方法(たとえばマロンジアルデヒド化や、アセチル化など)でLDLを修飾したものにも反応しない。また他の血清蛋白質たとえばアルブミンやグロブリンを酸化させたものにも反応しない。しかし、LDLとは異なるリポタンパク質である高比重リポタンパク質質(HDL)を酸化したものには反応する。
【0047】
しかしながら、本発明に係るリン脂質の酸化により生成する抗原を認識する抗体を得る方法としては、上記のごとき粥状硬化病巣を適当な動物に感作する方法に限定されるものではなく、これ以外にも例えば酸化LDLを免疫源とする方法、アポタンパク質あるいは、その構成ペプチドの一部の共存下で、リン脂質を酸化させたものを免疫源とする方法などが考えられる。
【0048】
なお、本発明の測定方法、ないし測定方法に用いられる抗体を産生するハイブリドーマを得るにおいて必要とされる人工的な酸化リポタンパク質の生成条件としては、次のようなものが考えられる。すなわち、ヒト正常血清から、例えば遠心沈降法などによりリポタンパク質分画を得、この分画を必要により透析、脱塩によって精製処理した後、蛋白濃度0.1〜1mg/ml、より好ましくは0.2mg/ml、CuSO4濃度2.5〜25μM、より好ましくは5μMの割合で、リポタンパク質分画にCuSO4を添加し、約37℃の下に、3〜24時間反応させるものである。
【0049】
【実施例】
次に、実施例を示して本発明による酸化リポタンパク質のサンドイッチELISA分析法をより具体的に説明する。
【0050】
実施例1
酸化LDLのサンドイッチELISA分析法
(1)ヒト血漿中のLDL画分の調製
ヘパリン採血で得られたヒト血漿に最終濃度で0.25mMとなるようにEDTAを加えて、その0.75mlずつを超遠心分離用試験管(1〜4ml容)に採り、0.3mM EDTAを含む0.15M NaClを250μl重層して185,000×gにて10℃で2.5時間遠心する。上層150μlを捨て、下層750μlを分取して、KBr溶液(50w/v%)150μlを加えて、比重1.063とする。超遠心分離用試験管(1〜4ml容)の底に比重調整した血漿を移して244,000×gにて10℃で16時間遠心する。上層の橙色バンド(約100〜150μl)を注意深く回収し、0.25mM EDTAを含むPBSに対して4℃、6時間(3リットルを2時間間隔で2回交換)透析する。得られたLDL試料は、蛋白質およびコレステロールの定量を行なう。
【0051】
(2)サンドイッチELISA分析
プレートにPBSで希釈下DLH3抗体および非免疫マウスIgM抗体(各0.6μg/ウェル)を加えて、室温で2時間放置する。続けて、1%BSA-TBS溶液(pH7.4)200μを加えて、室温で2時間放置してブロッキングする。ブロッキング溶液を捨て、そのまま酸化LDL標準品およびヒトLDL画分を分注(酸化LDL標準品は0.1〜20ng LDL蛋白質/ウェル、ヒトLDL画分は2μg LDL蛋白質/ウェル)し、4℃,18時間放置する。0.05% ツィーン20-TBS(pH7.4)で3回洗浄した後、5,000倍希釈ヒツジ抗ヒトアポB抗体(Bindind Site社)100μlを加えて、室温で2時間放置する。0.05% ツィーン20-TBS(pH7.4)で3回洗浄した後、2%スキムミルク-TBSで2,000倍に希釈したアルカリホスファターゼ標識ロバ抗ヒツジIgG抗体(ケミコン(Chemicon)社製)100μlを加え、室温で2時間放置した後、0.05% ツィーン20-TBS(pH7.4)で3回洗浄した。0.1%p-ニトロフェニルリン酸溶液(pH8.8)100μlを加えて発色させ、10〜60分後の405nmの吸光度を測定する。
(3)ヒト血漿(健常人および腎透析患者)を用いた分析結果
化LDLを標準品とした典型的な検量線および臨床検体について分析した結果を図1および図2にそれぞれ示した。
【0052】
実施例2
酸化Lp(a)のサンドイッチELISA分析法
(1)ペルオキシダーゼ標識抗Lp(a)抗体の調製
ヘパリン採血で得たヒト血漿に最終濃度で0.25mMとなるようにEDTAを加え、0.3mM EDTA を含む0.15M NaCl 250μlを重層して 105,000×g にて8℃で20時間遠心する。上層を捨て、下層に予め乳鉢で粉末化したKBrを加えて、4℃にて泡立てないようにして溶解し、比重を1.125に調製し105,000×g にて8℃で20時間遠心する。上層の橙色バンドを注意深く回収しバイオゲルA-5mを用いて1MNaCl,2mMEDTA,10mMリン酸緩衝液を展開溶媒として、ゲル濾過する。得られた各フラクションをテルモ株式会社製Lp(a)測定キットにより測定しLp(a)画分を回収する。この画分をファルマシア製リジンセファロース4Bにかけ、吸着画分を0.2Mε-アミノカプロンサンを含む緩衝液により溶出させ、0.25mM EDTAを含むPBSに対して透析して、Lp(a)画分を得た。得られたLp(a)0.5mgをウサギに免疫して抗血清を作成した。得られた抗Lp(a)血清をファルマシア製プロテインGカラムを用いて、IgGに精製し、別に調製した、LDLカラムを通して、抗LDL抗体を除去し、抗Lp(a)抗体とした。精製した抗Lp(a)抗体をマレイミド法を用いてペルオキシダーゼで標識した。
【0053】
(2)ヒト血漿中のリポプロテイン画分の調製
ヘパリン採血で得たヒト血漿に最終濃度で0.25 mMとなるようにEDTAを加え、その0.75mlずつを超遠心分離用試験管(1ml容)に採り、0.3mM EDTA を含む0.15M NaClを250μl重層して185,000×g にて10℃で2.5時間遠心する。上層150μlを捨て、下層750μlを分取して予め乳鉢で粉末化したKBr(70.0mg)を加えて、4℃にて泡立てないようにして溶解する。超遠心分離用試験管(1ml容)の底に比重調整した血漿(d=1.12)を移して244,000×gにて10℃で16時間遠心する。上層の橙色バンド(約100〜150μl)を注意深く回収し、0.25mM EDTAを含むPBSに対して4℃、6時間(3リッターを2時間間隔で2回交換)透析する。得られたリポプロテイン画分は、タンパク質およびコレステロールの定量を行う。
【0054】
(3)サンドイッチELISA分析
プレ-トにPBSで希釈した部分精製したFOH1a/DLH3抗体および非免疫ラットIgM 抗体(各0.6μg/well)を加えて、室温で2時間放置する。続けて、1%BSA-TBS溶液(pH7.4)200μlを加えて室温で2時間放置してブロッキングする。ブロッキング溶液を捨て、そのまま酸化Lp(a)標準品およびヒトリポプロテイン画分を分注し(酸化Lp(a)標準品は0.1〜10ng/well、ヒトリポプテイン画分はPBS20倍希釈液)、室温で2時間放置する。0.05%Tween20-TBS(pH7.4)で3回洗浄した後、2% スキムミルク溶液で2000倍希釈したペルオキシダーゼ標識抗Lp(a)ポリクローナル抗体100μlを加えて、室温で1時間放置する。0.05%Tween20-TBS(pH7.4)で3回洗浄した後、o-フェニレンジアミン 3mg/mlを含む0.03%過酸化水素水100μlを加えて発色させ、10〜15分後に2N硫酸 50μlで反応を停止させて492nmの吸光度を測定する。
【0055】
(4)ヒト血漿(腎血管系疾患患者)を用いた分析結果
酸化Lp(a)を標準品とした典型的な検量線および臨床検体について分析した結果を図3および図4にそれぞれ示した。
【0056】
【発明の効果】
以上述べたように本発明は、血液成分と酸化リン脂質を認識する抗体を接触させ、該抗体の該試料に対する反応性を測定することを特徴とする血液中の酸化リポタンパク質の検出法に関し、また、その検出法を用いて、粥状硬化症を主因とする各種循環器系疾患を診断する方法に関するものである。このような循環器系疾患としては、心筋梗塞や狭心症などの冠動脈系疾患、脳梗塞や脳血管系痴呆などの脳動脈系疾患、あるいは腎症、糖尿病性腎症などの腎動脈系疾患、末梢動脈閉塞症のような末梢動脈系疾患まで、全ての循環器系疾患がある。実施例に示すように、本発明により、糖尿病性腎症により血液透析に移行した患者の血液中に高濃度の酸化LDL及び酸化Lp(a)が検出され、このような疾患と酸化LDL酸化Lp(a)の因果関係が明確になった。しかし、本発明の効果は、これに限定されるものではなく、およそ酸化リポタンパク質が関与する全ての疾患が適用になるのであり、その疾患の範囲は、本発明を用いた今後の臨床的検討により拡大するものであることはいうまでもない。
【図面の簡単な説明】
【図1】 本発明の実施例1において得られた酸化LDLを標準品とした検量線、
【図2】 本発明の実施例1において臨床検体について分析した結果を示すグラフ、
【図3】 本発明の実施例2において得られた酸化Lp(a)を標準品とした検量線、
【図4】 本発明の実施例2において臨床検体について分析した結果を示すグラフ。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2004-07-05 
出願番号 特願平7-106153
審決分類 P 1 651・ 113- YA (G01N)
P 1 651・ 121- YA (G01N)
最終処分 維持  
前審関与審査官 竹中 靖典  
特許庁審判長 鐘尾 みや子
特許庁審判官 秋月 美紀子
長井 真一
登録日 2002-11-01 
登録番号 特許第3365885号(P3365885)
権利者 株式会社ベッセルリサーチ・ラボラトリー
発明の名称 ヒト酸化リポタンパク質の測定法  
代理人 八田 幹雄  
代理人 幸 芳  
代理人 八田 幹雄  
代理人 田村 弥栄子  
代理人 宇谷 勝幸  
代理人 栗原 弘幸  
代理人 山本 健二  
代理人 藤井 敏史  
代理人 野上 敦  
代理人 高島 一  
代理人 宇谷 勝幸  
代理人 齋藤 悦子  
代理人 奈良 泰男  
代理人 野上 敦  
代理人 土井 京子  
代理人 奈良 泰男  
代理人 谷口 操  
代理人 藤井 敏史  
代理人 齋藤 悦子  

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