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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  C21D
管理番号 1104338
異議申立番号 異議2001-72189  
総通号数 59 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 1993-10-19 
種別 異議の決定 
異議申立日 2001-08-10 
確定日 2004-07-23 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第3134134号「軸受部品の製造方法」の請求項1、2に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 訂正を認める。 特許第3134134号の請求項2に係る特許を取り消す。 同請求項1に係る特許を維持する。 
理由 1.手続の経緯
本件特許第3134134号の発明は、平成4年12月2日(優先権主張平成3年12月3日)に特許出願され、平成12年12月1日にその発明について特許権の設定登録がなされ、その後、その特許について、日本精工株式会社より特許異議の申立てがなされ、特許請求の範囲の請求項1及び2に係る特許に対して取消理由通知がなされ、その指定期間内である平成14年4月1日に訂正請求がなされたものである。
2.訂正の適否についての判断
ア.訂正の内容
訂正事項a
特許明細書の【特許請求の範囲】の【請求項1】に
「浸炭鋼より所定の形状に形成された加工済軸受部品素材に浸炭焼入処理を施す工程と、110〜130℃で1時間以上保持する予備焼戻し処理を施す工程と、サブゼロ処理を施す工程と、本焼戻し処理を施す工程とを含み、表面硬さをロックウェルC硬さで63〜67、表面残留オーステナイト量を20%以上25%未満とする軸受部品の製造方法。」とあるのを、
「浸炭鋼より所定の形状に形成された加工済軸受部品素材に、浸炭を行なった後に焼入れ温度に降温して保持し、ついで焼入れする浸炭焼入処理を施す工程と、110〜130℃で1時間以上保持する予備焼戻し処理を施す工程と、-80〜-50℃で1時間以上保持するサブゼロ処理を施す工程と、140〜175℃で2時間以上保持する本焼戻し処理を施す工程とを含み、表面硬さをロックウェルC硬さで63〜67、表面残留オーステナイト量を20%以上25%未満とする軸受部品の製造方法。」と訂正する。
訂正事項b
特許明細書の【特許請求の範囲】の【請求項2】に
「浸炭鋼より所定の形状に形成された加工済軸受部品素材に浸炭焼入処理を施す工程と、2次焼入処理を施す工程と、本焼戻し処理を施す工程とを含み、表面硬さをロックウェルC硬さで63〜67、表面残留オーステナイト量を20%以上25%未満とする軸受部品の製造方法。」とあるのを、
「浸炭鋼より所定の形状に形成された加工済軸受部品素材に、浸炭を行なった後に焼入れ温度に降温して保持し、ついで焼入れする浸炭焼入処理を施す工程と、2次焼入処理を施す工程と、本焼戻し処理を施す工程とを含み、表面硬さをロックウェルC硬さで63〜67、表面残留オーステナイト量を20%以上25%未満とする軸受部品の製造方法。」と訂正する。
訂正事項c
特許明細書の段落番号【0006】に
「【課題を解決するための手段】
この発明による第1の軸受部品の製造方法は、浸炭鋼より所定の形状に形成された加工済軸受部品素材に浸炭焼入処理を施す工程と、110〜130℃で1時間以上保持する予備焼戻し処理を施す工程と、サブゼロ処理を施す工程と、本焼戻し処理を施す工程とを含み、表面硬さをロックウェルC硬さで63〜67、表面残留オーステナイト量を20%以上25%未満とするものである。
上記第1の製造方法において、予備焼戻し処理の処理温度が110℃よりも低温であれば不安定なオーストナイトが多くなり、後のサブゼロ処理工程で残留オーステナイトが分解し、最終的に表面残留オーステナイト量を20%以上にできなくなる。また、130℃よりも高温であれば残留オーステナイトが安定化し、後のサブゼロ処理工程において残留オーステナイトが分解しにくくなり、最終的に表面残留オーステナイト量を25%未満とすることができなくなる。また、上記第1の製造方法において、サブゼロ処理を、-50〜-80℃で1時間以上保持することにより行うのがよい。この処理温度が-50℃よりも高温であれば残留オーステナイトが分解、減少しにくくなり、最終的に表面残留オーステナイト量を25%未満にすることができなくなる。また、-80℃よりも低温であれば残留オーステナイトが分解、減少し易くなり、最終的に表面残留オーステナイト量を20%以上にすることができなくなる。また、本焼戻し処理を、140〜175℃に2時間以上保持することにより行うのがよい。この処理温度が140℃よりも低温であれば最終的な表面硬さがHRC67を越えてしまって靭性が低下する。また、175℃よりも高温であれば最終的な表面硬さがHRC63未満となり、傷が付き易くなるとともに耐摩耗性が低下する。
この発明による第2の軸受部品の製造方法は、浸炭鋼より所定の形状に形成された加工済軸受部品素材に浸炭焼入処理を施す工程と、2次焼入処理を施す工程と、本焼戻し処理を施す工程とを含み、表面硬さをロックウェルC硬さで63〜67、表面残留オーステナイト量を20%以上25%未満とするものである。」とあるのを、
「【課題を解決するための手段】
この発明による第1の軸受部品の製造方法は、浸炭鋼より所定の形状に形成された加工済軸受部品素材に、浸炭を行なった後に焼入れ温度に降温して保持し、ついで焼入れする浸炭焼入処理を施す工程と、110〜130℃で1時間以上保持する予備焼戻し処理を施す工程と、-80〜-50℃で1時間以上保持するサブゼロ処理を施す工程と、140〜175℃で2時間以上保持する本焼戻し処理を施す工程とを含み、表面硬さをロックウェルC硬さで63〜67、表面残留オーステナイト量を20%以上25%未満とするものである。
上記第1の製造方法において、予備焼戻し処理の処理温度が110℃よりも低温であれば不安定なオーストナイトが多くなり、後のサブゼロ処理工程で残留オーステナイトが分解し、最終的に表面残留オーステナイト量を20%以上にできなくなる。また、130℃よりも高温であれば残留オーステナイトが安定化し、後のサブゼロ処理工程において残留オーステナイトが分解しにくくなり、最終的に表面残留オーステナイト量を25%未満とすることができなくなる。また、上記第1の製造方法において、サブゼロ処理を、-50〜-80℃で1時間以上保持することにより行うのがよい。この処理温度が-50℃よりも高温であれば残留オーステナイトが分解、減少しにくくなり、最終的に表面残留オーステナイト量を25%未満にすることができなくなる。また、-80℃よりも低温であれば残留オーステナイトが分解、減少し易くなり、最終的に表面残留オーステナイト量を20%以上にすることができなくなる。また、本焼戻し処理を、140〜175℃に2時間以上保持することにより行うのがよい。この処理温度が140℃よりも低温であれば最終的な表面硬さがHRC67を越えてしまって靭性が低下する。また、175℃よりも高温であれば最終的な表面硬さがHRC63未満となり、傷が付き易くなるとともに耐摩耗性が低下する。
この発明による第2の軸受部品の製造方法は、浸炭鋼より所定の形状に形成された加工済軸受部品素材に、浸炭を行なった後に焼入れ温度に降温して保持し、ついで焼入れする浸炭焼入処理を施す工程と、2次焼入処理を施す工程と、本焼戻し処理を施す工程とを含み、表面硬さをロックウェルC硬さで63〜67、表面残留オーステナイト量を20%以上25%未満とするものである。」と訂正する。
訂正事項d
特許明細書の段落番号【0038】に
「表2中、熱処理条件Aは、930℃に5時間保持して浸炭を行なった後に850℃の焼入れ温度に降温して0.5時間保持し、焼入れする通常の浸炭焼入れ処理と、120℃に1時間保持した後に空冷する予備焼戻し処理と、-70℃に2時間保持した後に空冷するサブゼロ処理と、160℃に2時間保持した後に空冷する本焼戻し処理を上記順序で行ったものである。」とあるのを、
「表2中、熱処理条件Aは、930℃に5時間保持して浸炭を行なった後に850℃の焼入れ温度に降温して0.5時間保持し、焼入れする通常の浸炭焼入れ処理と、120℃に1時間保持した後に空冷する予備焼戻し処理と、-70℃に2時間保持した後に空冷するサブゼロ処理と、160℃に2時間保持した後に空冷する本焼戻し処理を上記順序で行ったものである。これは請求項1の発明の実施例である。」と訂正する。
訂正事項e
特許明細書の段落番号【0039】に
「熱処理条件Bは、浸炭焼入れ処理の後、予備焼戻し処理を行う前に、830℃に30分間保持して焼入する2次焼入処理を行うことを除いては、熱処理条件Aと同じである。」とあるのを、
「熱処理条件Bは、浸炭焼入れ処理の後、予備焼戻し処理を行う前に、830℃に30分間保持して焼入する2次焼入処理を行うことを除いては、熱処理条件Aと同じである。これは請求項2の発明の実施例である。」と訂正する。
訂正事項f
特許明細書の段落番号【0040】に
「熱処理条件Dは、予備焼戻し処理およびサブゼロ処理を行わなかった点、ならびに本焼戻し処理の保持温度を180℃にした点を除いて、熱処理条件Aと同じである。」とあるのを、
「熱処理条件Dは、予備焼戻し処理およびサブゼロ処理を行わなかった点、ならびに本焼戻し処理の保持温度を180℃にした点を除いて、熱処理条件Aと同じである。これは比較例である。」と訂正する。
訂正事項g
特許明細書の段落番号【0041】に
「熱処理条件Eは、予備焼戻し処理およびサブゼロ処理を行わなかった点、ならびに本焼戻し処理の保持温度を180℃にした点を除いて、熱処理条件Bと同じである。」とあるのを、
「熱処理条件Eは、予備焼戻し処理およびサブゼロ処理を行わなかった点、ならびに本焼戻し処理の保持温度を180℃にした点を除いて、熱処理条件Bと同じである。これは請求項2の発明の実施例である。」と訂正する。
訂正事項h
特許明細書の段落番号【0050】に
「熱処理条件Fは、サブゼロ処理の温度を-60℃にした点を除いて、熱処理条件Aと同じである。」とあるのを、
「熱処理条件Fは、サブゼロ処理の温度を-60℃にした点を除いて、熱処理条件Aと同じである。これは請求項1の発明の実施例である。」と訂正する。
訂正事項i
特許明細書の段落番号【0051】に
「熱処理条件Gは、予備焼戻し処理およびサブゼロ処理を行わなかった点、ならびに本焼戻し処理の保持温度を180℃にした点を除いて、熱処理条件Aと同じである。」とあるのを、
「熱処理条件Gは、予備焼戻し処理およびサブゼロ処理を行わなかった点、ならびに本焼戻し処理の保持温度を180℃にした点を除いて、熱処理条件Aと同じである。これは比較例である。」と訂正する。
訂正事項j
特許明細書の段落番号【0052】に
「熱処理条件Hは、930℃に5時間保持して浸炭を行なった後に850℃の焼入れ温度に降温して0.5時間保持し、焼入れする通常の浸炭焼入れ処理と、プレスに保持した状態で900〜950℃に加熱した後すぐに急冷するプレス焼入法による2次焼入処理と、160℃に2時間保持した後に空冷する本焼戻し処理を上記順序で行ったものである。」とあるのを、
「熱処理条件Hは、930℃に5時間保持して浸炭を行なった後に850℃の焼入れ温度に降温して0.5時間保持し、焼入れする通常の浸炭焼入れ処理と、プレスに保持した状態で900〜950℃に加熱した後すぐに急冷するプレス焼入法による2次焼入処理と、160℃に2時間保持した後に空冷する本焼戻し処理を上記順序で行ったものである。これは請求項2の発明の実施例である。」と訂正する。
訂正事項k
図面の【図8】を添付の図面【図8】のとおり訂正する。
イ.訂正の目的の適否、新規事項の有無及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否
訂正事項aは、特許明細書の段落【0006】に記載のサブゼロ処理条件及び本焼戻し処理条件並びに【0038】に記載の浸炭焼入処理条件に基づいて、特許請求の範囲の請求項1に記載の浸炭焼入れ処理条件、サブゼロ処理条件及び本焼戻し処理条件を限定するものであり、また、訂正事項bは、特許明細書の段落【0038】、【0039】及び【0052】に記載の浸炭焼入処理条件に基づいて、特許請求の範囲の請求項2に記載の浸炭焼入処理条件を限定するものであるから、訂正事項a及びbはいずれも特許請求の範囲の減縮に該当する。訂正事項cは、訂正後の請求項1及び2の記載と発明の詳細な説明の記載との整合を図るものであるから、訂正事項cは、明りょうでない記載の釈明に該当する。訂正事項d〜jは特許明細書の段落【0038】〜【0041】、【0050】〜【0052】に記載の熱処理条件A,B,D,E,F,G及びHがそれぞれ請求項1又は2に係る発明の実施例か、比較例かを明らかにするものであるから、訂正事項d〜jは、明りょうでない記載の釈明に該当する。訂正事項kは図8においてNo.1及びNo.5の直線の傾きを各直線のそばの数字で示された傾きに訂正するものであるから、訂正事項kは誤記の訂正に該当する。更に、訂正事項a〜kは、特許明細書に記載された事項の範囲内において訂正するものであるから、新規事項の追加に該当せず、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでない。
ウ.むすび
以上のとおりであるから、上記訂正は、特許法第120条の4第2項及び同条第3項で準用する第126条第2及び3項の規定に適合するので、当該訂正を認める。
3.特許異議の申立ての理由及び取消理由の概要
特許異議申立人日本精工株式会社は、証拠として、甲第1〜4号証を提出し、本件特許の請求項1に記載の発明は甲第1〜4号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり、同請求項2に記載の発明は甲第1号証に記載された発明であるか又は甲第1〜3号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり、同請求項1に記載の発明は特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができないものであり、また、同請求項2に記載の発明は特許法第29条第第1又は2項の規定により、特許を受けることができないものであるから、同請求項1及び2に記載の発明に係る特許は取り消すべきである旨主張しており、また、特許異議の申立ての理由と同趣旨で取消理由通知がなされた。
4.本件発明
前記2.の項で示したように上記訂正が認められるから、本件特許の請求項1及び2に係る発明(以下、請求項1及び2に係る発明をそれぞれ「本件発明1」、「本件発明2」という。)は、訂正明細書の特許請求の範囲の請求項1及び2に記載された事項により特定される次のとおりのものである。
「【請求項1】 浸炭鋼より所定の形状に形成された加工済軸受部品素材に、浸炭を行なった後に焼入れ温度に降温して保持し、ついで焼入れする浸炭焼入処理を施す工程と、110〜130℃で1時間以上保持する予備焼戻し処理を施す工程と、-80〜-50℃で1時間以上保持するサブゼロ処理を施す工程と、140〜175℃で2時間以上保持する本焼戻し処理を施す工程とを含み、表面硬さをロックウェルC硬さで63〜67、表面残留オーステナイト量を20%以上25%未満とする軸受部品の製造方法。
【請求項2】 浸炭鋼より所定の形状に形成された加工済軸受部品素材に、浸炭を行なった後に焼入れ温度に降温して保持し、ついで焼入れする浸炭焼入処理を施す工程と、2次焼入処理を施す工程と、本焼戻し処理を施す工程とを含み、表面硬さをロックウェルC硬さで63〜67、表面残留オーステナイト量を20%以上25%未満とする軸受部品の製造方法。」
5.引用刊行物記載の発明
当審が通知した取消理由で引用した刊行物1(特開昭64-55423号公報、甲第1号証と同じ)には、
「内輪、外輪及びその間で転動する転動体とから成り、前記内輪及び外輪のうち少なくとも一つが、浸炭熱処理されている転がり軸受において、前記内外輪のうち少なくとも1つは、0.1から0.7wt%の炭素を含む炭素鋼からなり、軌道表面層の残留オーステナイト量が20〜45vol%であり、・・・ことを特徴とする転がり軸受。」(特許請求の範囲の請求項2)、
「従って、本発明の目的は、上述の従来の転がり軸受の欠点を解消すると共に、クリーンな潤滑下で軸受を使用する場合においても従来の軸受と同等以上の寿命を有し、且つ異物混入潤滑下で軸受を使用する場合においては従来の軸受に比べて長寿命であり、また両潤滑下においても高信頼性を有する転がり軸受を提供することである。」(第2頁左下欄第12〜19行)、
「異物混入潤滑下の寿命について更に詳細にプロットしたグラフが第7図であり、第7図からはっきりと分かるように、転がり疲れ寿命L10及びL50は共に、残留オーステナイトが20vol%と45vol%との間の範囲aで良好な寿命を示し、就中25vol%から40vol%との間の範囲bで更に良好な寿命が得られることが分かる。」(第4頁右上欄第17〜左下欄第3行)、
「クリーンな潤滑下での従来の浸炭鋼軸受と同等以上の寿命を得るためには、転動体についてはHRCが63以上有ることが望ましく、また内外輪についてはHRCが58以上必要である。」(第4頁左下欄第17行〜右下欄第1行)、
「本発明の各実施例における熱処理条件を次に説明する。・・・ダブル焼入れは、第11図のグラフに示すようにRXガス+エンリッチガスの雰囲気で、先ず、熱処理温度930±5℃で浸炭熱処理を行ない、続いて830〜870℃で加熱処理を行ない、その後油焼入れした。」(第7頁左下欄第1〜10行)、
「実施例1から5においては内外輪共に、0.2wt%のCを含む炭素鋼の表面層に浸炭熱処理を施して、表面層の残留オーステナイトγRを31vol%にしており」(第7頁左下欄第16〜21行)と記載され、また、第11図には、熱処理温度930±5℃で浸炭熱処理を行なった後該温度から焼入れ、次いで、830〜870℃に加熱後油焼入れし、160℃で2時間加熱し焼戻しすることが示されており(第10頁第11図)、これらの記載事項によれば、刊行物1には、炭素鋼の転がり軸受内外輪を所定温度で浸炭を行なった後該温度から焼入れ、次いで、油焼入れし、焼戻しすることにより、軌道表面層の残留オーステナイト量を20〜45vol%とし、内外輪の硬さをHRC58以上とすることが記載されている。
同刊行物2(特開平4-26752号公報、甲第2号証と同じ)には、
「軌道輪及び転動体とを備えた転がり軸受において、前記軌道輪及び転動体の少なくとも一つは、炭化物形成元素を含有し、転がり表面層の残留オ-ステナイト量(γRvol%)が20〜45vol%、且つ、・・・前記転がり表面硬さ(Hv)が前記残留オーステナイト量(γRvol%)に対し、
-4.7×(γRvol%)+920≦Hv≦-4.7×(γRvol%)+1020
の範囲にある合金鋼、から構成されてなることを特徴とする転がり軸受。」(特許請求の範囲の請求項1)、
「本発明は、このような課題を解決するために、転がり表面層の残留オーステナイト量と表面硬さとの最適な関係を見いだし、さらに、転がり表面層に存在する炭化物、炭窒化物の平均粒径を最適な値にすることで、異物混入潤滑下ばかりではなくクリーンな潤滑下でも、従来品よりも長寿命な転がり軸受を提供することを目的とする。」(第2頁右上欄第19行〜左下欄第5行)、
「転がり表面層の残留オーステナイト量(γRvol%);20〜45vol%
潤滑油中等に混入する異物により、転がり表面層に圧痕が発生する。この圧痕のエッジ部分に発生しやすいクラックは残留オーステナイトと密接な関係がある。・・・この残留オーステナイトを所望の割合で転がり表面層に存在させると圧痕のエッジ部分における応力集中を緩和することができ、クラックの発生を抑制することができる。また、転がり表面層における残留オーステナイトは、転動時に圧痕を通過する部材(例えば、転動体に対して軌道輪)の相対通過回数が所定数を過ぎると、表面に加わる変形エネルギーによりマルテンサイト変態し、硬化するという効果により、異物混入潤滑下での転がり軸受の寿命を向上することができる。これらの効果を最大限発揮する転がり表面層における残留オーステナイト量は、第2図に示すように、20〜45vol%である。」(第2頁右下欄第12行〜第3頁左上欄第11行)、
「転がり表面層の硬さ(Hv);転がり表面層の残留オーステナイト量(γRvol%)に対し、
-4.7×(γRvol%)+920≦Hv≦-4.7×(γRvol%)+1020・・・・・(1)
前記本発明では、各残留オーステナイト量に対応する硬さ範囲を上記(1)の範囲内にした。(1)の関係において、硬さが前記下限値より小さいと、耐疲労性が低下し、異物混入潤滑下及びクリーンの潤滑下でも寿命が低下する。一方、硬さを前記上限値より大きくすることは困難である。そこで、(1)のような関係を得たのである。」(第4頁左上欄第19行〜右上欄第10行)、
「以上説明したように本発明によれば、・・・微細炭化物の析出強化により、残留オーステナイトの存在による表面硬さの低下を補償するものであり、しかも残留オーステナイト量と表面硬さの関係を最適な範囲にすることにより、異物混入潤滑下ばかりでなくクリーン(「クレーン」は「クリーン」の誤記と認める。)な潤滑下でも長寿命な転がり軸受を提供することができるという効果を達成することができる。」(第6頁右下欄第1〜8行)と記載され、
同刊行物3(特開平2-277764号公報、甲第3号証と同じ)には、
「内輪、外輪及び転動体からなる転がり軸受において、当該内輪、外輪及び転動体の少なくとも一つが、・・・合金鋼からなり、該合金鋼に浸炭・・・熱処理が施され、・・・且つ当該表層部における残留オーステナイト量が10〜25vol%であることを特徴とする転がり軸受。」(特許請求の範囲請求項1)、
「軸受寿命の延長が望まれている今日では、より厳しい条件例えば、軸受潤滑油中に混入する異物により、転動体及び内外輪に損傷が生ずることもあり、上記従来の軸受硬さでは不十分の場合が生じていた。・・・従来の転がり軸受にも増して長寿命な転がり軸受を提供することを目的とする。」(第2頁左下欄第5行〜右下欄第14行)、
「本発明の特徴である残留オーステナイトの作用及びその存在量の臨界的意義について説明する。異物混入潤滑下で軸受を使用する場合、異物との繰り返し接触により内外輪及び転動体の各転動表面には、凹状の圧痕が発生する。この圧痕にはエッジ部分が存在する。残留オーステナイトは、軟らかく、例えばHv300ぐらい・・・であり、低炭素マルテンサイトのように単に硬さが低いのとは異なり、加工誘起変態しながらマルテンサイト化、即ち硬化する。したがって、軸受表層部に適量存在した残留オーステナイトは、転動時に圧痕を通過する相手部材(例えば、転動体に対する軌道輪)の相対通過回数の所定数を過ぎると、表面に加わる変形エネルギによりマルテンサイト化して硬化する。その過程において、潤滑油中に混入した異物による圧痕のエッジ部に集中する転がり荷重を緩和して、マイクロクラックの発生を防止して寿命を向上する。軸受用素材の異物混入潤滑下試験における寿命は、第1図のグラフに示される軸受寿命と残留オーステナイトγR(vol%)との関係から明らかなように、応力繰り返し数で示される寿命L10は残留オーステナイト量の変化に応じて変化する。すなわち、残留オーステナイト量が40%以下の範囲では量が増すにつれて異物混入潤滑下での寿命は長くなる。」(第5頁右上欄第1行〜左下欄第8行)、
「軸受の長寿命化を達成する上で表面硬さは、HRC65〜70を有することが望ましいが、・・・微細な炭化物を上記範囲内で軸受の表層部に存在させることにより、表面硬さをHRC65〜70の高硬度の軸受を得ることができる。」(第6頁左上欄第12行〜右上欄第2行、摘示イ)、
「本発明に係わる転がり軸受によれば、内輪、外輪及び転動体の少なくとも一つの表層部に適量の微細炭化物を形成して表面硬さを向上すると共に、表層部に適量の残留オーステナイトを存在させて異物が混入した潤滑下でのマイクロクラックの発生を防止する。従って、・・・異物混入の潤滑下で軸受を使用する場合は、従来の軸受に比べて遙かに長寿命となる。」(第9頁右下欄第4〜14行、摘示ロ)と記載され、
同刊行物4(日本鉄鋼協会編「鋼の熱処理 改訂5版」(平成元年1月30日)丸善、第80〜85頁、甲第4号証と同じ)には、
「サブゼロ処理(深冷処理)は鋼を常温以下の適当な温度に冷却する処理で、主として焼入れした鋼に存在する残留オーステナイトをマルテンサイトに変態させることを目的としている。」(第81頁左欄第8〜11行)、
「サブゼロ処理は大部分焼入れ直後に行なわれるが、サブゼロ処理によるマルテンサイトの増加のため体積の膨張がおこり・・・、部品に亀裂の発生する恐れのある場合には、100〜130℃の低温焼もどし後サブゼロ処理するものもある。」(第81頁右欄第18〜22行)と記載されている。
6.対比・判断
(1)本件発明1について
本件発明1は、「一般に、軸受を金属粉、鋳物砂などのHRCが58〜63程度である異物が混入した汚れ油中で使用すると、その寿命は計算寿命の1/5〜1/10以下になる」(特許明細書段落0002)との従来の技術の問題点を背景として、「汚れ油中でも寿命が長くかつ寿命のばらつきの少ない軸受部品の製造方法を提供する」(特許明細書段落0005)ことを目的とするものである。
本件発明1と刊行物1〜4に記載のものを対比する。
刊行物1には、炭素鋼の転がり軸受内外輪を浸炭焼入れ後、油焼入れし、焼戻しすることにより、軌道表面層の残留オーステナイト量を20〜45vol%とし、内外輪の硬さをHRC58以上とすることにより軸受の異物混入潤滑下での寿命を長寿命とすることが記載されているが、刊行物1には、本件発明1の構成要件である、軸受部品素材に浸炭を行なった後に焼入れ温度に降温して保持し、ついで焼入れする浸炭焼入処理を施す工程と、110〜130℃で1時間以上保持する予備焼戻し処理を施す工程と、-80〜-50℃で1時間以上保持するサブゼロ処理を施す工程と、140〜175℃で2時間以上保持する本焼戻し処理を施す工程とを含む熱処理を行うことが記載も示唆もされていない。
刊行物2には、異物混入潤滑下において長寿命な転がり軸受とするために、転がり軸受の軌道輪の転がり表面層の残留オ-ステナイト量(γRvol%)を20〜45vol%とし、転がり表面硬さ(Hv)が前記残留オーステナイト量(γRvol%)に対し、
-4.7×(γRvol%)+920≦Hv≦-4.7×(γRvol%)+1020
の範囲とすることが記載され、刊行物3には、長寿命な転がり軸受とするために、浸炭を施し、表層部における残留オーステナイト量を10〜25vol%、表面硬さをHRC65〜70とした転がり軸受が記載され、また、刊行物4には、亀裂の発生する恐れのある場合には、100〜130℃の低温焼もどし後サブゼロ処理することが記載されているが、刊行物2〜4のいずれにも、本件発明1の構成要件である、軸受部品素材に浸炭を行なった後に焼入れ温度に降温して保持し、ついで焼入れする浸炭焼入処理を施す工程と、110〜130℃で1時間以上保持する予備焼戻し処理を施す工程と、-80〜-50℃で1時間以上保持するサブゼロ処理を施す工程と、140〜175℃で2時間以上保持する本焼戻し処理を施す工程とを含む熱処理を行うことが記載も示唆もされていない。
以上のとおり、刊行物1〜4のいずれにも、本件発明1の構成要件である、軸受部品素材に、浸炭を行なった後に焼入れ温度に降温して保持し、ついで焼入れする浸炭焼入処理を施す工程と、110〜130℃で1時間以上保持する予備焼戻し処理を施す工程と、-80〜-50℃で1時間以上保持するサブゼロ処理を施す工程と、140〜175℃で2時間以上保持する本焼戻し処理を施す工程とを含む熱処理を行うことが記載も示唆もされていない以上、刊行物1〜4に記載のものから本件発明1を構築できたものとすることができない。
そして、本件発明1は、請求項1に記載の事項により、「製造された軸受部品を用いた軸受を汚れ油中において使用した場合にも、その寿命を向上させることができる。しかも、製造された軸受部品を用いた軸受の寿命のばらつきの度合いが小さくなり、実際の使用にあたって都合が良い。」(特許明細書段落0057)という特許明細書に記載のとおりの顕著な作用効果を奏するものと認められる。
以上のことから、本件発明1は、刊行物1〜4に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとすることができない。
(2)本件発明2について
本件発明2と刊行物1に記載の発明を対比する。
浸炭鋼として炭素鋼が使用されることは本件出願前周知のことである(例えば、金属材料技術研究所編「図解 金属材料技術用語辞典」(昭和63年11月20日)日刊工業新聞社p.263、大和久重雄編「アグネ 金属術語辞典」(1966年3月25日)アグネp.148参照)から、刊行物1に記載の「炭素鋼」は本件発明2の「浸炭鋼」に相当し、刊行物1に記載の「転がり軸受内外輪」、「軌道」及び「内外輪」は本件発明2の「所定の形状に形成された加工済軸受部品」に相当し、刊行物1に記載の浸炭焼入れ後の「油焼入れ」及び油焼入れ後の「焼戻し」はそれぞれ本件発明2の「2次焼入処理」、「本焼戻し処理」に相当し、また、刊行物1に記載の「HRC」は本件発明2の「ロックウェルC硬さ」に相当するから、両者は、浸炭鋼より所定の形状に形成された加工済軸受部品素材に、浸炭焼入処理を施す工程と、2次焼入処理を施す工程と、本焼戻し処理を施す工程とを含む軸受部品の製造方法である点で一致し、浸炭焼入れに関し、本件発明2は、浸炭を行なった後に焼入れ温度に降温して保持し、ついで焼入れするのに対し、刊行物1に記載のものは、浸炭を行なった後該温度から焼入れする点(相違点1)及び本件発明2は、軸受部品素材の表面硬さをロックウェルC硬さで63〜67、表面残留オーステナイト量を20%以上25%未満とするのに対し、刊行物1に記載のものは、軸受部品の硬さをロックウェルC硬さで58以上とし、軸受部品の表面層の残留オーステナイト量を20〜45%とする点(相違点2)で相違する。
これらの相違点について検討する。
相違点1について、
浸炭焼入れとして、浸炭を行なった後に焼入れ温度に降温して保持し、ついで焼入れすることは、本件特許の出願前周知のものである(例えば、日本鉄鋼協会編「鋼の熱処理 改訂5版」(昭和44年10月1日)丸善p.334〜336、特開平2-115344号公報、特開平1-108347号公報参照)から、浸炭焼入れにあたり周知のものを採用し、浸炭を行なった後に焼入れ温度に降温して保持し、ついで焼入れするようなことは、当業者が任意に想到しうることである。
相違点2について、
刊行物1に記載のものにおいて、内外輪の硬さは、内外輪の表面硬さといえるから、刊行物1に記載のものは、長寿命の軸受とするために軸受部品の表面硬さをロックウェルC硬さで58以上とするものであって、本件発明2のものの表面硬さの値を包含するものであり、また、刊行物3には、表面硬さを向上すると共に表層部に適量の残留オーステナイトを存在させることにより異物混入潤滑下での軸受を長寿命化させること及び軸受の長寿命化を達成する上で表面硬さはロックウェルC硬さで65〜70を有することが望ましいことが記載されている(摘示イ、ロ)から、表面硬さの値として刊行物1に記載の表面硬さの範囲内のものである刊行物3に記載のものを採用し、靭性が低下する表面硬さの値を規制する程度のことは、当業者が任意に想到しうるものである。
更に、刊行物1には、表面残留オーステナイト20〜45%のとき異物混入潤滑下で良好な寿命を示すことが記載されているから、表面残留オーステナイト量として刊行物1に記載のものを採用し、軸受の寿命のばらつきの度合いが大きくなる表面残留オーステナイト量を規制する程度のことは、当業者が任意に想到しうるものである。
そして、刊行物1及び3に記載のものは、異物混入潤滑下で使用する場合において従来の軸受けに比べて長寿命であるというものであるから、本件発明2が刊行物1及び3に記載のものから予想できない格別の効果を生じるものとすることができない。
以上のことから、本件発明2は、軸受の製造にあたり刊行物1及び3に記載のものを適用し、浸炭焼入れ条件、表面硬さ及び表面残留オーステナイト量を限定したにすぎず、この程度のことは、当業者が任意に想到しうるものである。
7.むすび
以上のとおり、本件発明2は、刊行物1及び3に記載の発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件発明2についての特許は特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。
また、本件発明1についての特許は、特許異議の申立ての理由及び証拠によっては取り消すことができず、他に取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
軸受部品の製造方法
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】 浸炭鋼より所定の形状に形成された加工済軸受部品素材に、浸炭を行なった後に焼入れ温度に降温して保持し、ついで焼入れする浸炭焼入処理を施す工程と、110〜130℃で1時間以上保持する予備焼戻し処理を施す工程と、-80〜-50℃で1時間以上保持するサブゼロ処理を施す工程と、140〜175℃で2時間以上保持する本焼戻し処理を施す工程とを含み、表面硬さをロックウェルC硬さで63〜67、表面残留オーステナイト量を20%以上25%未満とする軸受部品の製造方法。
【請求項2】 浸炭鋼より所定の形状に形成された加工済軸受部品素材に、浸炭を行なった後に焼入れ温度に降温して保持し、ついで焼入れする浸炭焼入処理を施す工程と、2次焼入処理を施す工程と、本焼戻し処理を施す工程とを含み、表面硬さをロックウェルC硬さで63〜67、表面残留オーステナイト量を20%以上25%未満とする軸受部品の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】
この発明は、軸受部品の製造方法、さらに詳しくは、ロックウェルC硬さ(以下、HRCと称する)が58〜63程度である異物が混入した汚れ油中で使用される軸受に用いるのに適した軸受部品の製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
一般に、軸受を金属粉、鋳物砂などのHRCが58〜63程度である異物が混入した汚れ油中で使用すると、その寿命は計算寿命の1/5〜1/10以下になる。
【0003】
そして、異物が混入した汚れ油中で使用した場合の寿命を向上する目的で、本出願人は、先に、浸炭鋼よりなり、表面硬さがロックウェルC硬さで63〜66、表面残留オーステナイト量が25〜50%で、かつ浸炭層中に二次炭化物が析出していないことを特徴とする軸受用鋼を提案した(特開平2-115344号参照)。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
ところが、上記従来の軸受用鋼からなる部品を用いた軸受の場合、寿命にばらつきが生じ、実際に使用するには不都合な場合がある。
【0005】
この発明の目的は、上記の問題を解決し、汚れ油中でも寿命が長くかつ寿命のばらつきの少ない軸受部品の製造方法を提供することにある。
【0006】
【課題を解決するための手段】
この発明による第1の軸受部品の製造方法は、浸炭鋼より所定の形状に形成された加工済軸受部品素材に、浸炭を行なった後に焼入れ温度に降温して保持し、ついで焼入れする浸炭焼入処理を施す工程と、110〜130℃で1時間以上保持する予備焼戻し処理を施す工程と、-80〜-50℃で1時間以上保持するサブゼロ処理を施す工程と、140〜175℃で2時間以上保持する本焼戻し処理を施す工程とを含み、表面硬さをロックウェルC硬さで63〜67、表面残留オーステナイト量を20%以上25%未満とするものである。
上記第1の製造方法において、予備焼戻し処理の処理温度が110℃よりも低温であれば不安定なオーストナイトが多くなり、後のサブゼロ処理工程で残留オーステナイトが分解し、最終的に表面残留オーステナイト量を20%以上にできなくなる。また、130℃よりも高温であれば残留オーステナイトが安定化し、後のサブゼロ処理工程において残留オーステナイトが分解しにくくなり、最終的に表面残留オーステナイト量を25%未満とすることができなくなる。また、上記第1の製造方法において、サブゼロ処理を、-50〜-80℃で1時間以上保持することにより行うのがよい。この処理温度が-50℃よりも高温であれば残留オーステナイトが分解、減少しにくくなり、最終的に表面残留オーステナイト量を25%未満にすることができなくなる。また、-80℃よりも低温であれば残留オーステナイトが分解、減少し易くなり、最終的に表面残留オーステナイト量を20%以上にすることができなくなる。また、本焼戻し処理を、140〜175℃に2時間以上保持することにより行うのがよい。この処理温度が140℃よりも低温であれば最終的な表面硬さがHRC67を越えてしまって靭性が低下する。また、175℃よりも高温であれば最終的な表面硬さがHRC63未満となり、傷が付き易くなるとともに耐摩耗性が低下する。
この発明による第2の軸受部品の製造方法は、浸炭鋼より所定の形状に形成された加工済軸受部品素材に、浸炭を行なった後に焼入れ温度に降温して保持し、ついで焼入れする浸炭焼入処理を施す工程と、2次焼入処理を施す工程と、本焼戻し処理を施す工程とを含み、表面硬さをロックウェルC硬さで63〜67、表面残留オーステナイト量を20%以上25%未満とするものである。
【0007】
上記第2の製造方法において、2次焼入処理を、プレス焼入法により800℃以上に加熱した後すぐに急冷して焼入することによって行うのがよい。さらに、2次焼入処理は、800〜850℃に0.5時間以上加熱保持した後急冷して焼入することにより行ってもよい。また、本焼戻し処理を、140〜175℃に2時間以上保持することにより行うのがよい。
【0008】
上記2つの軸受部品の製造方法において、得られた軸受部品の表面硬さをHRC63〜67に限定したのは、HRC63未満であると表面硬さが十分ではなく、この軸受部品を用いた軸受を異物が混入した汚れ油中で使用した場合に、軸受部品の表面に剥離起点となる異物による圧痕等の傷がつき易くなるとともに耐摩耗性が低下して軸受の寿命が短くなり、HRC67を越えると靭性が低下するからである。この表面硬さはHRC64以上が好ましい。
【0009】
また、上記2つの軸受部品の製造方法において、得られた軸受部品の表面残留オーステナイト量を20%以上25%未満と限定したのは、20%未満であると靭性が低下するとともに亀裂進展速度が速くなって軸受の寿命が低下し、25%以上になると軸受の寿命のばらつきの度合いが大きくなるとともに、表面硬さが低下するからである。表面残留オーステナイト量の上限値は24.5%であることが好ましい。
【0010】
さらに、上記2つの軸受部品の製造方法において、得られた軸受部品の表層部のマトリックス相中の炭素量は0.8重量%以上であることが好ましい。0.8重量%未満であると強度が低下し、軸受の寿命が低下するおそれがあるからである。なお、表層部とは表面から50μm程度の深さまでの部分をいうものとする。
【0011】
【作用】
この発明の2つの軸受部品の製造方法によれば、浸炭鋼よりなり、表面硬さがロックウェルC硬さで63〜67、表面残留オーステナイト量が20%以上25%未満である軸受部品を簡単に製造することができる。そして、製造された軸受部品を用いた軸受を汚れ油中で使用した場合も寿命が長くなる。すなわち、表面硬さが大きいので剥離起点となる異物による傷がつきにくくなるとともに、残留オーステナイト量が多いので亀裂の進展を抑制できる。さらに、表面残留オーステナイト量が20%以上25%未満であるから、軸受の寿命のばらつきの度合いを小さくすることができる。
【0012】
【実施例】
以下、この発明の実施例を、図面を参照して説明する。この実施例は、この発明を円すいころ軸受の軌道輪を製造するのに適用したものである。
【0013】
図1において、円すいころ軸受は、大つば(1a)および小つば(1b)を有する内輪(1)と、外輪(2)と、円すい形打抜き保持器(3)と、保持器(3)に保持された複数の円すいころ(4)とよりなる。
【0014】
内外両輪(1)(2)は、たとえばC0.1〜1.0wt%程度含むJIS SCr420材や、SAE5120材等の浸炭鋼よりなり、かつ表面硬さがHRC63〜67、表面残留オーステナイト量が20%以上25%未満となされている。円すいころ(4)は、たとえばJIS SUJ2またはSAE52100等の軸受鋼よりなる。
【0015】
内外両輪(1)(2)の表面硬さの下限値がHRC63であれば、円すいころ軸受を異物が混入した汚れ油中で使用した場合の内外両輪(1)(2)の軌道面への圧痕の発生および耐摩耗性の低下を防止できる。内外両輪(1)(2)の軌道面に圧痕が発生すると、これが剥離起点となるとともに、圧痕の周囲に形成される盛り上がり部により、ころ(4)に表面剥離が発生して軸受の寿命が短くなる。
【0016】
内外両輪(1)(2)の表面硬さの下限値をHRC63とする理由は、本発明者の行った次のような実験の結果から判明したことである。
【0017】
すなわち、図2に示すように、ビッカース圧子を使用し、押し込み荷重を一定にしで圧痕(10)を形成した場合、その周囲に盛り上がり部(11)が形成されるが、その盛り上がり部(11)の高さ(h)と、表面硬さ(HRC)との関係は図3に示す通りとなり、表面硬さが小さくなる程盛り上がり部(11)の高さ(h)が高くなる。また、盛り上がり部(11)の高さ(h)と軸受の寿命との関係は図4に示す通りとなり、盛り上がり部(11)の高さ(h)が高くなると、寿命が短くなる。図4の結果は、2枚の円板を用意するとともに一方の円板表面の同心円上にビッカース圧子により複数の圧痕を形成し、2枚の円板間に複数のボールを介在させ、両円板にスラスト荷重を掛けながら円板を回転させ、ボールを圧痕が形成された同心円上で転動させることにより得られたものである。図4中、○は圧痕以外の部分で剥離が発生したことを示す。また、図4中△は圧痕部分で剥離が発生したことを示し、□はボールに剥離が発生したことを示す。図3および図4から明らかなように、表面硬さがHRC63未満であれば、圧痕(10)の周囲の盛り上がり部(11)の高さ(h)が高くなり、その結果軸受の寿命が低下する。また、図3から明らかなように、HRCが63未満であると、上記高さ(h)は2〜3μmの範囲に集中し、これは図4から見て、圧痕起点剥離の生じ易い高さとなる。
【0018】
また、図5は、汚れ油中で軸受の寿命試験を行ったさいの、内外両輪(1)(2)の表面硬さ(HRC)と試験後の軌道面の表面粗さ(中心線平均粗さRa)との関係を示す。なお、試験前の軌道面の表面粗さは中心線平均粗さ(Ra)で0.1μmである。図5から明らかなように、表面硬さがHRC63未満の場合、試験後の表面粗さが大きくなっており、これにより耐摩耗性が低下していることがわかる。なお、表面硬さはHRC64以上であることが好ましい。
【0019】
図3〜図5に基いて、内外両輪(1)(2)の軌道面の表面硬さの下限値をHRC63とすることの理由が理解できるであろう。
【0020】
内外両輪(1)(2)の表面残留オーステナイト量を25%未満、好ましくは24.5%以下とすると、軸受の寿命のばらつきの度合いが小さくなるとともに、表面硬さの低下を防止できる。
【0021】
内外両輪(1)(2)の表面残留オーステナイト量を25%未満とする上記の理由は、本発明者の行った次のような実験の結果から判明したことである。
【0022】
すなわち、本発明者が寿命試験を行って、ワイブル確率紙にプロットしたワイブル分布の回帰直線の傾きと、表面残留オーステナイト量(γR)との関係を調べた結果、図6に示す通りとなり、表面残留オーステナイト量が25%以上になると、上記傾きが小さくなって軸受の寿命のばらつきの度合いが大きくなり、実際の使用に不都合であることが判明したからである。なお、図6中、試料A〜Eの残留オーステナイト量(γR:%)と上記傾きは、表1の通りである。
【0023】
【表1】

【0024】
また、図7は、図4に示す結果を得るのと同様な方法で試験を行ったさいの盛り上がり部(10)の高さ(h)と応力繰り返し数(n)との関係を示す。なお、図7中の○は円板の表面硬さ(HRC)62.2、表面残留オーステナイト量が16.9%であり、□は円板の表面硬さ(HRC)62.9、表面残留オーステナイト量が31.5%である。図7から、圧痕(10)の周囲に形成された盛り上がり部(11)の高さ(h)は、軸受の使用により経時的に変化し、徐々に小さくなるが、残留オーステナイト量が多いと、応力繰り返し数が多くなってもある程度以上は小さくならないことがわかる。残留オーステナイト量が多いと盛り上がり部(11)の高さ(h)が小さくならないのは、盛り上がり部(11)が加工硬化を起こすことに起因する。
【0025】
図6および図7に基いて、内外両輪(1)(2)の軌道面の表面残留オーステナイト量を25%未満とすることの理由が理解できるであろう。
【0026】
また、内外両輪(1)(2)の表層部のマトリックス相中の炭素量は、0.8重量%以上にすることが好ましい。0.8重量%未満であると強度が低下し、軸受の寿命が低下するおそれがあるからである。なお、表層部とは表面から50μm程度の深さまでの部分をいうものとし、この部分のマトリックス相中の炭素量が0.8重量%以上であれば、強度低下を防止できる。すなわち、寿命の低下に繋がる表層剥離は、表面から10μm程度の深さで起るものであるが、表面から50μm程度の深さまでの表層部のマトリックス相中の炭素量が0.8重量%以上であると強度が大きくなり、表層剥離の発生を抑制できる。
【0027】
内外両輪(1)(2)の製造方法は、浸炭鋼より所定の形状に形成した加工済軸受部品素材に、浸炭焼入処理を施し、ついで予備焼戻し処理を行なった後にサブゼロ処理を行ない、さらに本焼戻し処理を行うものである。
【0028】
浸炭焼入処理は、900〜950℃に所定時間保持することにより行われる。浸炭焼入処理後の表面硬さは(HRC)55〜65、残留オーステナイト量は30〜65%程度となる。予備焼戻し処理は、110〜130℃で1時間以上保持することにより行われる。サブゼロ処理は、-50〜-80℃で1時間以上保持することにより行われる。サブゼロ処理後の表面硬さ(HRC)は63〜68、残留オーステナイト量は20〜25%程度となる。
【0029】
また、内外両輪(1)(2)の他の製造方法は、上記と同様な浸炭焼入処理を施した後、2次焼入処理を行い、さらに上記と同様な予備焼戻し処理およびサブゼロ処理を行なった後に、本焼戻し処理を行うものである。この2次焼入処理は、800〜850℃に0.5時間以上加熱保持した後、たとえば油冷により焼入することによって行われる。
【0030】
本焼戻し処理は、140〜175℃に2時間以上保持することにより行われる。
【0031】
このような方法によれば、所望の残留オーステナイト量が得られる。すなわち、予備焼戻し処理を行なわないでサブゼロ処理を行なった場合、オーステナイトが分解してマルテンサイトになり易く、残留オーステナイト量が少なくなるが、予備焼戻しを行なうことにより、浸炭焼入処理後の不安定な残留オーステナイトが安定化し、サブゼロ処理を行なってもマルテンサイトになりにくくなる。
【0032】
なお、上記方法において、サブゼロ処理の処理温度を適宜調整することにより、予備焼戻し処理を施す必要がなくなる場合もある。
【0033】
内外両輪(1)(2)のさらに他の製造方法は、上記と同様な浸炭焼入処理を施した後、2次焼入処理を行い、さらに上記と同様な本焼戻し処理を行うものである。この方法の場合、2次焼入処理は、プレスに保持した状態で900〜950℃に加熱した後すぐに急冷するプレス焼入法により行われる。また、この2次焼入処理は、800〜850℃に0.5時間以上加熱保持した後、たとえば油冷により焼入することによっても行われる。2次焼入処理後の表面硬さ(HRC)は63〜68、残留オーステナイト量は20〜25%程度となる。
【0034】
このような方法によれば、本焼戻し処理の前の2次焼入処理により、残留オーステナイトの安定化と硬さの増加が得られる。
【0035】
ころ(4)は、たとえばJIS SUJ2またはSAE52100を用いて所定の形状に形成した後、800〜850℃に0.5時間以上保持して焼入する普通焼入処理を行い、ついで-50〜-80℃に1時間以上保持した後空冷するサブゼロ処理を行い、その後140〜180℃に2時間以上保持した後空冷する焼戻し処理を行うことにより形成される。ころ(4)の表面硬さは内外両輪(1)(2)と同程度のHRC63〜67となっているのがよい。
【0036】
以下、この発明のさらに具体的な実施例について、比較例とともに説明する。
【0037】
まず、炭素含有量が0.2重量%であるSAE5120材を用いて円すいころ軸受用内外両輪素材をつくり、この内外両輪の素材に種々の熱処理を施して、表2に示すように、表面硬さ(HRC)および表面残留オーステナイト量の異なるNo.1〜6の6種類の内外両輪を用意した。
【0038】
表2中、熱処理条件Aは、930℃に5時間保持して浸炭を行なった後に850℃の焼入れ温度に降温して0.5時間保持し、焼入れする通常の浸炭焼入れ処理と、120℃に1時間保持した後に空冷する予備焼戻し処理と、-70℃に2時間保持した後に空冷するサブゼロ処理と、160℃に2時間保持した後に空冷する本焼戻し処理を上記順序で行ったものである。これは請求項1の発明の実施例である。
熱処理条件Bは、浸炭焼入れ処理の後、予備焼戻し処理を行う前に、830℃に30分間保持して焼入する2次焼入処理を行うことを除いては、熱処理条件Aと同じである。これは請求項2の発明の実施例である。
熱処理条件Dは、予備焼戻し処理およびサブゼロ処理を行わなかった点、ならびに本焼戻し処理の保持温度を180℃にした点を除いて、熱処理条件Aと同じである。これは比較例である。
熱処理条件Eは、予備焼戻し処理およびサブゼロ処理を行わなかった点、ならびに本焼戻し処理の保持温度を180℃にした点を除いて、熱処理条件Bと同じである。これは請求項2の発明の実施例である。
一方、JIS SUJ2材を用いて円すいころの素材をつくり、この素材に、830℃に30分間保持して焼入する普通焼入処理と、-70℃に2時間保持した後に空冷するサブゼロ処理と、170℃に2時間保持した後に空冷する本焼戻し処理とを上記順序で行なった熱処理を施した。
【0039】
そして、No.1〜6の内外両輪と、上記熱処理条件で製造されてこれらの内外両輪と同等の表面硬さを有するころとにより円すいころ軸受を組立て、潤滑油1リットル中に高速度鋼粉1.06gを混入させて寿命試験を行い、B10寿命を求めた。その結果も、表面硬さ(HRC)、残留オーステナイト量および表層部のマトリックス中の炭素量とともに表2に示す。
【0040】
【表2】

【0041】
表2の結果から明らかなように、No.1〜4および6の内外両輪を用いた軸受は、No.5の内外両輪を用いた軸受の寿命に比べて長くなっていることが判る。
【0042】
また、図8に、No.1および5の内外両輪を用いた軸受の試験データをワイブル確率紙にプロットしたワイブル分布を示す。なお、図8において、各直線のそばの数字は各直線の傾きを示す。
【0043】
この結果から明らかなように、No.1の内外両輪を用いた軸受は、No.5の内外両輪を用いた軸受の寿命に比べて長くなっていることが判る。また、No.1の内外両輪を用いた軸受の試験データのワイブル分布の直線の傾きは、No.5の内外両輪を用いた軸受の試験データのワイブル分布の直線の傾きよりも大きく、寿命のばらつきの度合いが小さくなっていることが判る。
【0044】
次に、炭素含有量が0.2重量%であるSAE5120材を用いて円すいころ軸受用内外両輪素材をつくり、この内外両輪の素材に種々の熱処理を施して、表3に示すように、表面硬さ(HRC)および表面残留オーステナイト量(γR:%)の異なるNo.7〜71の65種類の内外両輪を用意した。
【0045】
ここで、内輪は、表3中に示す熱処理条件F、Gで製造した。外輪は、表3中に示す熱処理条件H、Gで製造した。
【0046】
熱処理条件Fは、サブゼロ処理の温度を-60℃にした点を除いて、熱処理条件Aと同じである。これは請求項1の発明の実施例である。
熱処理条件Gは、予備焼戻し処理およびサブゼロ処理を行わなかった点、ならびに本焼戻し処理の保持温度を180℃にした点を除いて、熱処理条件Aと同じである。これは比較例である。
熱処理条件Hは、930℃に5時間保持して浸炭を行なった後に850℃の焼入れ温度に降温して0.5時間保持し、焼入れする通常の浸炭焼入れ処理と、プレスに保持した状態で900〜950℃に加熱した後すぐに急冷するプレス焼入法による2次焼入処理と、160℃に2時間保持した後に空冷する本焼戻し処理を上記順序で行ったものである。これは請求項2の発明の実施例である。
【表3】

【0047】
一方、JIS SUJ2材を用いて円すいころの素材をつくり、この素材に、830℃に30分間保持して焼入する普通焼入処理と、-60℃に2時間保持した後に空冷するサブゼロ処理と、170℃に2時間保持した後に空冷する本焼戻し処理とを上記順序で行なった熱処理を施して(熱処理条件X)、円すいころを製造した。また、上記素材に、830℃に30分間保持して焼入する普通焼入処理と、180℃に2時間保持した後に空冷する本焼戻し処理とを上記順序で行なった熱処理を施して(熱処理条件Y)、円すいころを製造した。
【0048】
そして、No.7〜26の内外両輪と、熱処理条件Xで製造されてこれらの内外両輪と同等の表面硬さを有するころとにより円すいころ軸受を組立てた。また、No.27〜46の内外両輪と、熱処理条件Yで製造されてこれらの内外両輪と同等の表面硬さを有するころとにより円すいころ軸受を組立てた。そして、これらの軸受を使用して、アキシアル荷重13.7kN、ラジアル荷重20.6kNとし、潤滑油1リットル中に平均粒径27μm、最大粒径50μm、硬さHRC65の異物0.55gと、平均粒径125μm、最大粒径150μm、硬さHRC60の異物0.55gとを混入させて寿命試験を行った。試験データをワイブル確率紙にプロットしたワイブル分布を図9に示す。図9中○はNo.7〜26の軌道輪を用いたものを示し、×はNo.27〜46の軌道輪を用いたものを示す。
【0049】
また、上記寿命試験において、No.7〜16およびNo.27〜36の内外両輪の軌道面に試験後に発生した圧痕の軌道面全体に占める面積率と試験時間の関係を調べた。その結果を図10に示す。図10中○はNo.7〜16の内外両輪を用いたものを示し、×はNo.27〜36の内外両輪を用いたものを示す。
【0050】
次に、表3のNo.47〜50の内輪を使用し、これらの内輪と軸とのはめあい力を変え、温度120℃において所定時間保持し、内輪の寸法変化率(Δd/d)を調べた。Δd=試験後内径-試験前内径、d=試験前内径である。その結果を図11に示す。
【0051】
次に、表3中のNo.51〜61の内輪を使用し、大つばの圧壊荷重を測定した。荷重の方向は軸線方向とし、荷重速度は1kN/秒で行った。その結果を表4に示す。
【0052】
【表4】

【0053】
次に、表3中のNo.62〜66の内外両輪と、JIS SUJ2材からなりかつ上記熱処理条件Xで熱処理が施されて製造された円すいころとによって円すいころ軸受を組立た。一方、No.67〜71の内外両輪と、JIS SUJ2材からなりかつ上記熱処理条件Yで熱処理が施されて製造された円すいころとによって円すいころ軸受を組立た。
【0054】
そして、これらの軸受に、循環給油で30分間なじみ運転した後、運転および給油を停止して5分間放置し、ついで無給油で再運転して焼き付きに至るまでの時間を測定した。なお、アキシアル荷重3.9kN、回転数5885rpm、油温135℃として行った。その結果を図12に示す。
【0055】
図11および12、ならびに表4の結果から、内外両輪の表面硬さが大きくなり、かつ残留オーステナイト量が少なくなった場合にも、軸受の軌道輪としての寸法変化率、靭性、焼き付き時間等の性能は低下しないことが判る。
【0056】
上記実施例においては、この発明の方法により製造された軸受部品が円すいころ軸受の内外両輪に適用されているが、これに限定されるものではない。
【0057】
【発明の効果】
この発明によれば、上述のように、製造された軸受部品を用いた軸受を汚れ油中において使用した場合にも、その寿命を向上させることができる。しかも、製造された軸受部品を用いた軸受の寿命のばらつきの度合いが小さくなり、実際の使用にあたって都合が良い。
【図面の簡単な説明】
【図1】
この発明の1具体例を示し、この発明の方法により製造された軸受部品を内外両輪に適用した円すいころ軸受の部分縦断面図である。
【図2】
軌道面にビッカース圧子で圧痕を形成した状態を示す部分拡大断面図である。
【図3】
軌道面にビッカース圧子で圧痕を形成したときの圧痕の周囲の盛り上がり部の高さと、表面硬さとの関係を示すグラフである。
【図4】
圧痕の周囲の盛り上がり部の高さと、軸受の寿命との関係を示すグラフである。
【図5】
汚れ油中で軸受の寿命試験を行ったさいの、内外両輪の表面硬さと、試験後の表面粗さとの関係を示すグラフである。
【図6】
ワイブル確率紙にプロットしたワイブル分布の回帰直線の傾きと、表面残留オーステナイト量との関係を示すグラフである。
【図7】
圧痕の周囲の盛り上がり部の高さと、応力繰り返し数との関係を示すグラフである。
【図8】
No.1および5の内外両輪を使用した軸受を用いて寿命試験を行ったさいの、ワイブル確率紙にプロットしたワイブル分布の回帰直線の傾きと、表面残留オーステナイト量との関係を示すグラフである。
【図9】
No.7〜46の内外両輪を使用した軸受を用いて寿命試験を行ったさいの、ワイブル確率紙にプロットしたワイブル分布の回帰直線の傾きと、表面残留オーステナイト量との関係を示すグラフである。
【図10】
No.7〜16および27〜36の内外両輪を使用した軸受の、圧痕面積率と、試験時間との関係を示すグラフである。
【図11】
No.47〜50の内外両輪を使用した軸受の、内輪の寸法変化率と、試験時間との関係を示すグラフである。
【図12】
No.62〜71の内外両輪を使用した軸受の、焼き付き発生時間を示すグラフである。
【符号の説明】
1 内輪
2 外輪
【図面】

 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2002-07-02 
出願番号 特願平4-323218
審決分類 P 1 651・ 121- ZD (C21D)
最終処分 一部取消  
特許庁審判長 三浦 悟
特許庁審判官 平塚 義三
中村 朝幸
登録日 2000-12-01 
登録番号 特許第3134134号(P3134134)
権利者 光洋精工株式会社
発明の名称 軸受部品の製造方法  
代理人 清末 康子  
代理人 岸本 瑛之助  
代理人 渡辺 彰  
代理人 栗宇 百合子  
代理人 清末 康子  
代理人 小栗 昌平  
代理人 高松 猛  
代理人 岸本 瑛之助  
代理人 日比 紀彦  
代理人 萩野 平  
代理人 渡辺 彰  
代理人 本多 弘徳  
代理人 日比 紀彦  
代理人 添田 全一  

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