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審決分類 審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  C08L
審判 全部申し立て 2項進歩性  C08L
管理番号 1104359
異議申立番号 異議2003-70710  
総通号数 59 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 1995-03-07 
種別 異議の決定 
異議申立日 2003-03-17 
確定日 2004-07-26 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第3325091号「多孔質フィルムの製造方法」の請求項1に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 訂正を認める。 特許第3325091号の請求項1に係る特許を維持する。 
理由 I.手続の経緯
特許第3325091号の請求項1に係る発明は、平成5年8月31日に特許出願され、平成14年7月5日にその発明について特許権の設定登録がなされ、その後、東レ株式会社より、請求項1に係る発明の特許に対し特許異議の申立がなされ、請求項1に係る特許に対し取消の理由が通知され、その指定期間内である平成15年12月26日付けで特許異議意見書とともに訂正請求書が提出され、再度、請求項1に係る特許に対し取消の理由が通知され、平成16年6月9日付けで平成15年12月26日付けの訂正請求書が取り下げられるとともに同日付けで新たに訂正請求書が提出されたものである。
II.訂正請求について
1.訂正の内容
(1)訂正事項a
請求項1
「(a)ポリオレフィン樹脂 100重量部
(b)ポリカーボネート樹脂 20〜100重量部
(c)熱可塑性エラストマー 5〜50重量部
よりなる樹脂組成物を、フィルム状に成膜し、少なくとも一軸方向に延伸することを特徴とする多孔質フィルムの製造方法。」を
「(a)ポリエチレンまたはエチレン-αオレフィン共重合体から選ばれるポリオレフィン樹脂 100重量部
(b)ポリカーボネート樹脂 20〜100重量部
(c)熱可塑性エラストマー 5〜50重量部
よりなる樹脂組成物を、(a)ポリオレフィン樹脂の融点以上で、且つ(b)ポリカーボネート樹脂のガラス転移温度以下の温度でフィルム状に押出成形し、少なくとも一軸方向に延伸することを特徴とする多孔質フィルムの製造方法。」と訂正する。
(2)訂正事項b
明細書段落【0006】及び明細書段落【0007】中の「ポリオレフィン樹脂」を、それぞれ「ポリエチレンまたはエチレン-αオレフィン共重合体から選ばれるポリオレフィン樹脂」と訂正する。
明細書段落【0006】中の「配合することで、」を「配合し、特定の成膜温度でフィルム状に押出成形することで、」と訂正する。
明細書段落【0007】中の「フィルム状に成形し、」を「(a)ポリオレフィン樹脂の融点以上で、且つ(b)ポリカーボネート樹脂のガラス転移温度以下の温度でフィルム状に押出成形し、」と訂正する。
明細書段落【0008】中の「本発明に用いられるポリオレフィン樹脂は、公知のものが何ら制限されることなく使用される。」を「本発明に用いられるポリオレフィン樹脂は、ポリエチレンまたはエチレン-αオレフィン共重合体から選ばれるものである。」と訂正する。
明細書段落【0008】中の「例えば、ポリエチレン、・・・・・等が挙げられる。」を削除する。
明細書段落【0008】中の「このうち、ポリエチレンやエチレン-αオレフィン共重合体を用いるのが最も好ましい。」を削除する。
明細書段落【0008】中の「ここで、」を「また、」と訂正する。
明細書段落【0018】中の「本発明において、前記各成分・・・・・押出成形を採用するのが好ましい。」を「本発明において、前記各成分からなる樹脂組成物をフィルム状に成形する方法は、インフレダイやTダイ等を用いた押出成形が採用される。」と訂正する。
明細書段落【0019】中の「ポリオレフィン樹脂」を「ポリエチレンまたはエチレン-αオレフィン共重合体」と訂正する。
2.訂正の目的の適否、訂正の範囲の適否及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否
訂正事項aは、(a)成分であるポリオレフィン樹脂を「ポリエチレンまたはエチレン-αオレフィン共重合体から選ばれるポリオレフィン樹脂」により具体的に限定するものであり、また、フィルムの成形温度及び成形方法を「(a)ポリオレフィン樹脂の融点以上で、且つ(b)ポリカーボネート樹脂のガラス転移温度以下の温度でフィルム状に押出成形し」と具体的に限定するものであるから、訂正事項aは、特許請求の範囲の減縮を目的とする訂正に該当する。
訂正事項bは、特許請求の範囲の訂正に伴ない、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載との整合を図るためのものであり、明りょうでない記載の釈明を目的とする訂正に該当する。
そして、上記各訂正事項は、いずれも、明細書に記載された事項の範囲内の訂正であり、実質的に特許請求の範囲を拡張し、または変更するものではない。
3.むすび
以上のとおり、上記訂正は、特許法等の一部を改正する法律(平成6年法律第116号)附則第6条第1項の規定によりなお従前の例によるとされる、特許法第120条の4第3項において準用する平成6年法律第116号による改正前の特許法第126条第1項ただし書、第2項及び第3項の規定に適合するので、当該訂正を認める。
III.訂正後の請求項1に係る発明
訂正後の請求項1に係る発明は、訂正明細書の特許請求の範囲の請求項1に記載された、次のとおりのものである。
「【請求項1】
(a)ポリエチレンまたはエチレン-αオレフィン共重合体から選ばれるポリオレフィン樹脂 100重量部
(b)ポリカーボネート樹脂 20〜100重量部
(c)熱可塑性エラストマー 5〜50重量部
よりなる樹脂組成物を、(a)ポリオレフィン樹脂の融点以上で、且つ(b)ポリカーボネート樹脂のガラス転移温度以下の温度でフィルム状に押出成形し、少なくとも一軸方向に延伸することを特徴とする多孔質フィルムの製造方法。」
IV.特許異議申立について
1.特許異議申立の概要
特許異議申立人 東レ株式会社は、甲第1号証(特開平5-132571号公報)、甲第2号証(特公昭46-40119号公報)を提出して、訂正前の請求項1に係る発明は、前記甲第1号証に記載された発明であるから、あるいは、前記甲第1号証、甲第2号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、訂正前の請求項1に係る発明の特許は、特許法第29条第1項あるいは第2項の規定に違反してされたものであり、取り消されるべき旨主張している。
2.特許異議申立についての判断
(1)甲号証に記載された事項
◆甲第1号証には、以下の事項が記載されている。
「【請求項1】結晶性ポリプロピレン65〜93重量%と、該結晶性ポリプロピレンに非相溶性で熱変形温度が120℃以上の熱可塑性樹脂5〜20重量%と、該結晶性ポリプロピレンに相溶性で融解温度が140℃以下の樹脂2〜15重量%とからなり、フィルム厚み30μmにおける光学濃度が0.35以上であることを特徴とする白色二軸延伸ポリオレフィンフィルム。
【請求項2】結晶性ポリプロピレンに非相溶性で熱変形温度が120℃以上の熱可塑性樹脂が、重量平均分子量(MW)40000以下のポリカーボネート樹脂であることを特徴とする請求項1に記載の白色二軸延伸ポリオレフィンフィルム。
【請求項3】結晶性ポリプロピレンに相溶性で融解温度が140℃以下の樹脂が、エチレン-α-オレフィン、エチレン-α,β-不飽和カルボン酸エステル共重合体から選ばれた一種又は二種以上の樹脂であることを特徴とする請求項1に記載の白色二軸延伸ポリオレフィンフィルム。」(特許請求の範囲)
「【0001】【産業上の利用分野】本発明は、白色二軸延伸ポリオレフィンフィルムに関する。更に詳しくは、白くて光学濃度が高く隠蔽性に優れ、また耐衝撃性、水蒸気バリア性に優れ、さらにヒートシール性をも有した白色二軸延伸ポリオレフィンフィルムに関するものである。」(2頁1欄27行〜32行)
「【0007】本発明の該PPに非相溶性な熱可塑性樹脂の熱変形温度・・・は120℃であることが必要であり、・・・。熱変形温度が120℃より低い場合は、非相溶性樹脂によるボイド形成が不十分で、隠蔽性の発現が困難となるので好ましくない。
【0008】非相溶性樹脂として具体的には、・・・この中でも重量平均分子量(以下Mwと略称する)40000以下のポリカーボネート樹脂(以下PCと略称する)がPPとの分散性が良く、化学的安定性に優れるので好ましい。
【0009】本発明のPCは、芳香族ポリカーボネートであり、・・・。また、該PCの熱変形温度は120℃以上、好ましくは130℃以上である。熱変形温度が120℃より低い場合は、ボイド形成が不十分で、隠蔽性の発現が困難となるので好ましくない。また、本発明のPCのMwは40000以下が好ましい。Mwが40000を越えると該PPへの分散性が悪化して、光学濃度むらができて隠蔽性が不十分となり、耐衝撃性、水蒸気バリア性も悪化するので好ましくない。また、溶融特性として、メルトフローインデックスが1〜50g/10分であることが、該PPへの分散性が良くて光学濃度が高くなり好ましい。
【0010】本発明のフィルム中に含まれる非相溶性樹脂の含有量は、5〜20重量%であることが必要であり、特に10〜15重量%であることが望ましい。非相溶性樹脂の含有量が本発明の範囲未満では、フィルムの白色度と光学濃度が不十分となる。また、この範囲を越えると、本発明のフィルムの耐衝撃性と水蒸気バリア性が悪化する。
【0011】本発明のフィルム中に含まれる該PPと相溶性で融解温度が140℃以下の樹脂は、エチレン-α-オレフィン共重合体、・エチレン-α,β-不飽和カルボン酸エステル共重合体から選ばれた一種又は二種以上の樹脂からなるものである。この中でエチレン-プロピレンランダム共重合体、・・・好ましい。
【0012】本発明のフィルム中に含まれる該PPと相溶性の樹脂の融解温度は、140℃以下であることが必要である。140℃を越えると、該PCの該PPへの分散性が悪化して製膜安定性に劣り、また、耐衝撃性、水蒸気バリア性も悪化する。
【0013】本発明のフィルム中に含まれる該PPと相溶性で融解温度が140℃以下の樹脂の含有量は、2〜15重量%であることが必要であり、特に5〜10重量%であることが望ましい。該相溶性樹脂の含有量が2重量%未満では、耐衝撃性と水蒸気バリア性が悪化する。また、この範囲を越えると、フィルムの光学濃度が不十分となる。」(2頁2欄28行〜3頁3欄39行)
「【0021】次に本発明の白色ポリオレフィンフィルムの製造方法について述べるが、これに限定されるものではない。
【0022】結晶性PPと熱変形温度が120℃以上の非相溶性樹脂と融解温度が140℃以下の相溶性樹脂のそれぞれ特定範囲の混合物からなるA層樹脂を押出機に供給し、270℃以上、好ましくは280℃〜300℃の温度で溶融してT型口金でシート状に押出成形し、該シートを20〜100℃、好ましくは40〜80℃の温度のドラムに巻き付けて冷却固化する。次いで、該シートを90℃〜130℃の温度に加熱した周速差をつけたロール間で長手方向に4〜6倍に延伸し、ただちに室温に冷却する。このときの延伸温度は次の横延伸性が悪化しない下限の温度、100〜120℃の範囲がフィルムの光学濃度が高くなるので好ましい。該延伸フィルムをテンターに導いて、150〜165℃の温度で幅方向に5〜10倍に延伸し、次いで幅方向に2〜20%の弛緩を与えつつ、160〜170℃の温度で熱固定して巻取る。」(3頁4欄29行〜47行)
◆甲第2号証には、以下の事項が記載されている。
「本発明は細胞の開いた構造と低い見掛密度を特徴とする新規なフィルムを結晶性重合体から製造する方法に関する。特に、本発明は最適な孔の大きさ分布を示す細胞の開いた構造を有する新規なフィルムの製法に関する。
多孔組成物は2つの一般型があり、その一つの型は孔が互いに連絡していないで、フォーム又は細胞状プラスチックスを構成しているものであり、他の型は構造の表面から表面へ延びることのできる曲がりくねった通路によって、孔が本質的に互に連絡しているものである。本発明の微孔構造は後者の型のものである。」(1頁1欄33行〜2欄6行)
「本発明の最大の望む利用性、例えば最大ガス透過性、染着性など、最適の孔の大きさなどを達成するためには、フィルムをもとの長さの30〜120%に延伸するのが特に好ましく、又もとの長さの約50〜100%に延伸するのが最も好ましい。」(4頁7欄29行〜34行)
「本発明の先駆体フィルム製品の形成に適した装置の型は技術でよく知られている。例えば、浅いチャンネル・メータリング・スクリューとコートハンガー・ダイ型を備えたふつうのフィルム押出機が満足である。・・・。この型の装置を使って、フィルムを約20:1〜1000:1、・・・の延伸比で押出すことができる。・・・ポリプロピレンは約180〜260℃、好ましくは195〜225℃の融解温度で押出せる。ポリエチレンは約175〜225℃の融解温度で押し出せるが、・・・で押出すことができる。」(5頁10欄13行〜33行)
「本発明の実施態様は次の通りである。
(1)フィルムの原料である重合体の実際の密度よりも低い見掛け密度と、孔の実質上すべてが構造の表面から表面に本質的に互に連絡している微孔構造と、上記構造を構成している孔の大きさの最適分布とを特徴として最大透過性を有する重合体のフィルム。
・・・・・
(4)重合体が少なくとも40%の結晶度を有する上記(1)のフィルム。
(5)重合体がポリプロピレンである上記(4)のフィルム。
・・・・・
(7)重合体がポリエチレンである上記(4)のフィルム。
・・・・・
(9)少なくとも40%の結晶度を有し25℃で50%のひずみから少なくとも60%の弾性回復を有する重合体から透過性フィルムの製造において、上記フィルムをその全長の150%以下に延伸し、張力下に上記フィルムを150℃以下でアニーリングすることからなる製法。
(10)フィルムを約30〜約100%の延伸まで延伸する上記(9)の方法。
(11)重合体がポリプロピレンで延伸を220°F以下で行う上記(9)の方法。
・・・・・
(13)重合体がポリエチレンで、延伸を約200°F以下で行う上記(9)の方法。
・・・・・」(8頁16欄31行〜9頁18欄11行)
(2)判断
(i)訂正後の請求項1に係る発明について
訂正後の請求項1に係る発明は、
「(a)ポリエチレンまたはエチレン-αオレフィン共重合体から選ばれるポリオレフィン樹脂 100重量部
(b)ポリカーボネート樹脂 20〜100重量部
(c)熱可塑性エラストマー 5〜50重量部
よりなる樹脂組成物を、(a)ポリオレフィン樹脂の融点以上で、且つ(b)ポリカーボネート樹脂のガラス転移温度以下の温度でフィルム状に押出成形し、少なくとも一軸方向に延伸することを特徴とする多孔質フィルムの製造方法。」を構成とするものである。
一方、甲第1号証には、白くて光学濃度が高く隠蔽性に優れ、機械的強度、耐衝撃性、水蒸気バリア性、製膜性に優れた白色二軸延伸ポリオレフィンフィルムを提供することを目的とするものであって、結晶性ポリプロピレン65〜93重量%と、該結晶性ポリプロピレンに非相溶性で熱変形温度が120℃以上の熱可塑性樹脂(重量平均分子量40000以下のポリカーボネート樹脂)5〜20重量%と、該結晶性ポリプロピレンに相溶性で融解温度が140℃以下の樹脂(エチレン-プロピレンランダム共重合体)2〜15重量%とからなる白色二軸延伸ポリオレフィンフィルムおよびその製造方法が記載されている。
しかしながら、甲第1号証に記載された発明は、本件訂正後の請求項1で採用する(a)成分に相当する樹脂として結晶性ポリプロピレンを用いており、該結晶性ポリプロピレンは本件訂正後の請求項1の(a)成分であるポリエチレンまたはエチレン-αオレフィン共重合体から選ばれるポリオレフィン樹脂とは明らかに異なる樹脂である。しかも、該結晶性ポリプロピレンの融点は168〜170℃(特許異議申立人提出の参考資料2:「ポリプロピレン樹脂」日刊工業新聞社 昭和37年3月30日発行 第50〜57頁参照)であり、一方、該結晶性ポリプロピレンに配合される非相溶性で熱変形温度が120℃以上の熱可塑性樹脂であるポリカーボネート樹脂のガラス転移温度は145〜150℃(特許異議申立人提出の参考資料1:「ポリカーボネート樹脂」日刊工業新聞社 昭和44年9月30日発行 第110〜117頁参照)であるから、結晶性ポリプロピレンの融点は当然にポリカーボネート樹脂のガラス転移温度よりも高いものとなり、本件訂正後の請求項1に係る発明の「(a)ポリオレフィン樹脂の融点以上で、且つ(b)ポリカーボネート樹脂のガラス転移温度以下の温度でフィルム状に押出成形し」という構成は、甲第1号証に記載された発明おいては設定不可能な構成となることは明らかである。
そうすると、甲第1号証には、訂正後の請求項1に係る発明が記載されているということはできない。
また、甲第2号証には、ポリプロピレン、ポリエチレン等の重合体を押出成形するとともに延伸巻き取り処理、アニーリング処理、延伸処理、熱セット処理を順次行い微孔フィルムを製造する方法が記載されており、押出条件、延伸条件を調整することにより孔の連通構造、最適な孔の大きさ分布が得られることが記載されている。
しかしながら、甲第2号証には、本件訂正後の請求項1に記載されている(a)ポリエチレンまたはエチレン-αオレフィン共重合体から選ばれるポリオレフィン樹脂、(b)ポリカーボネート樹脂、(c)熱可塑性エラストマーよりなる樹脂組成物を原料として用いる点、更には、該樹脂組成物を(a)ポリオレフィン樹脂の融点以上で、且つ(b)ポリカーボネート樹脂のガラス転移温度以下の温度でフィルム状に押出成形するとともに、少なくとも一軸方向に延伸し多孔質フィルムを得る点については何等記載も示唆もされていない。
そうすると、甲第2号証には、訂正後の請求項1に係る発明が記載されているということはできない。
また、上記のとおり甲第1、2号証には、(a)、(b)、(c)各成分からなる樹脂組成物を(a)ポリオレフィン樹脂の融点以上で、且つ(b)ポリカーボネート樹脂のガラス転移温度以下の温度でフィルム状に押出成形する点については記載も示唆もないのであるから、これらの記載を総合的に判断しても、訂正後の請求項1に係る発明の構成は、甲第1、2号証に記載された発明から当業者が容易に発明をすることができたとすることはできず、該構成をとることにより、訂正後の請求項1に係る発明により得られたフィルムは、ポリカーボネート樹脂の分散性及びフィルムの延伸性とも良好で、フィルムの外観や水蒸気等の気体透過性さらに耐水性とも優れるという効果を奏するものである。
してみると、訂正後の請求項1に係る発明は、甲第1、2号証に記載された発明から当業者が容易に発明をすることができた、とすることもできない。
V.むすび
以上のとおりであるから、特許異議申立の理由及び証拠によっては、訂正後の請求項1に係る各発明の特許を取り消すことはできない。
また、他に訂正後の請求項1に係る各発明の特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
多孔質フィルムの製造方法
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)ポリエチレンまたはエチレン-αオレフィン共重合体から選ばれるポリオレフィン樹脂
100重量部
(b)ポリカーボネート樹脂 20〜100重量部
(c)熱可塑性エラストマー 5〜50重量部
よりなる樹脂組成物を、(a)ポリオレフィン樹脂の融点以上で、且つ(b)ポリカーボネート樹脂のガラス転移温度以下の温度でフィルム状に押出成形し、少なくとも一軸方向に延伸することを特徴とする多孔質フィルムの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】
本発明は、気体透過性のある多孔質フィルムに関し、詳しくは、ポリオレフィン樹脂、ポリカーボネート樹脂及び熱可塑性エラストマーを混合して成膜延伸する多孔質フィルムの製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
ポリオレフィン樹脂をマトリックス樹脂とする多孔質フィルムは、一般に気体透過性を有す一方で、耐水性を有し、かかる性能が要求される種々の分野において頻繁に使用されている。従来、こうした多孔質フィルムの製造方法としては、▲1▼フィルムに機械的若しくは電気的に穿孔する方法、▲2▼可溶性のフィラーを添加してフィルムに成膜しその後フィラーを溶出させて多孔化する方法、▲3▼フィラーを添加したフィルムを少なくとも一軸に延伸して多孔フィルムとする方法、相溶性の小さい2種類の樹脂を溶融混練することによりマトリックス樹脂に該樹脂と非相溶性の樹脂粒子が分散するフィルムを成膜し、次いで該フィルムを少なくとも一軸に延伸して多孔化させる方法等が知られ、生産性等の点から、主に▲3▼のフィラー添加フィルムを延伸する方法が行なわれている。
【0003】
しかしながら、このフィラー添加フィルムを延伸する方法では、用途によってはフィラーの脱落が問題となる。また、無機フィラーを使用した場合には、この問題に加えて、容易に絶縁破壊が起こることや、フィルム燃焼後の灰分が多い等の問題が生じ、得られる多孔質フィルムの使用が限定される。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
一方、▲4▼の相溶性の低い2種類の樹脂を混練成膜して延伸する方法は、上記フィラーの添加に起因する種々の問題が生じず、また、フィルムの生産性も良好なため、有用な多孔質フィルムの製造方法として期待されている。ところが、かかる方法は、樹脂の溶融混練において、マトリックス樹脂に分散される樹脂(以下分散樹脂と称する)の分散性が不十分であったり、該分散樹脂が凝集して過度に粒子径の大きな粒子を形成し易い。また、マトリックス樹脂と分散樹脂粒子との界面の剥離性が悪いために、フィルムの延伸が均一に行えないことも多々生じる。そのため、該方法では、得られるフィルムに形成される孔は十分に細密化されず、結果として該フィルムは、気体透過性や耐水性において満足できる性状を有していないものとなり易い。こうしたことから、ポリオレフィン樹脂とポリエステル樹脂とを混練する際にポリエステルエラストマーを添加してポリエステル樹脂の分散性を上げる方法(特開昭64-26655号公報)等が提案されているが、該方法によってもマトリックス樹脂への分散樹脂の分散性は依然として十分ではなく、得られる多孔質フィルムは耐水圧等の耐水性能において今一歩満足できないものである。
【0005】
こうした背景から、マトリックス樹脂への分散樹脂の分散性に優れ、また、フィルムの延伸性等にも優れ、良好な気体透過性や耐水性能を有す多孔質フィルムを製造できる方法の開発が望まれていた。
【0006】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、前述の欠点を解消する方法を鋭意検討した。その結果、ポリエチレンまたはエチレン-αオレフィン共重合体から選ばれるポリオレフィン樹脂、ポリカーボネート樹脂の組合せに、さらに熱可塑性エラストマーを配合し、特定の成膜温度でフィルム状に押出成形することで、ポリカーボネート樹脂の分散性やフィルムの延伸性が著しく向上し、得られる多孔質フィルムの気体透過性や耐水性が良好なものとなることを見いだし、本発明を完成するに至った。
【0007】
すなわち本発明は、
(a)ポリエチレンまたはエチレン-αオレフィン共重合体から選ばれるポリオレフィン樹脂
100重量部
(b)ポリカーボネート樹脂 20〜100重量部
(c)熱可塑性エラストマー 5〜50重量部
よりなる樹脂組成物を、(a)ポリオレフィン樹脂の融点以上で、且つ(b)ポリカーボネート樹脂のガラス転移温度以下の温度でフィルム状に押出成形し、少なくとも一軸方向に延伸することを特徴とする多孔質フィルムの製造方法である。
【0008】
本発明に用いられるポリオレフィン樹脂は、ポリエチレンまたはエチレン-αオレフィン共重合体から選ばれるものである。ここで、上記共重合成分とするαオレフィンとしては、例えばエチレン、プロピレン、ヘキセン、オクテン等が挙げられる。また、ポリエチレンは、線形低密度ポリエチレン、低密度ポリエチレン、中密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン等の如何なるものであっても良い。
【0009】
ポリカーボネート樹脂としては、公知のものが何等制限されることなく使用される。好適には芳香族ポリカーボネートを使用するのが好ましい。具体的には、ビスフェノールA及びその誘導体を出発原料とするポリビスフェノールAカーボネートやポリテトラクロルビスフェノールAカーボネート、またその共重合体、例えばジオキシジアリールアルカンとの共重合体等が挙げられる。
【0010】
これらポリカーボネート樹脂は、溶融混練した260℃における粘度が、ポリオレフィン樹脂のそれの粘度の1〜100倍好ましくは3〜30倍であるのが好ましい。この粘度においてポリカーボネート樹脂は、ポリオレフィン樹脂中に微細な球状粒子として分散し易く、その結果、フィルムを延伸する際の該分散粒子とポリオレフィン樹脂との間の界面剥離性が最も良好になり、また、生成する孔が微細なものになり易い。こうしたポリカーボネート樹脂の260℃における粘度は、一般には1×104〜1×106Pa・S好ましくは3×104〜3×105Pa・Sから採択される。
【0011】
ポリカーボネート樹脂の添加量は、ポリオレフィン樹脂100重量部に対して、20〜100重量部、好ましくは30〜60重量部である。ポリカーボネート樹脂の添加量が20重量部より少ない時には、生成する微細孔が少な過ぎるために連通孔とならず、気体もしくは液体の透過性が得られない。一方、ポリカーボネート樹脂の配合量を増やすことにより、生成する孔の数は多くなり気体透過性は大きくなるが、過度に増加させすぎると剥離界面が増加するため、延伸の均一性が低下してくる。こうしたことから、ポリカーボネート樹脂の添加量が100重量部を超えた場合には、50μm以下の厚みのフィルムを成膜することが困難であるばかりでなく、延伸工程においてフィルムの破断が頻発して実用的でない上に、得られたフィルムの耐水性も十分ではなくなり好ましくない。
【0012】
本発明に用いられる熱可塑性エラストマーは、公知のものが何等制限されることなく使用される。こうしたエラストマーは、曲げ初期弾性率が10〜200MPa好ましくは10〜100MPaの性状にある弾性体を用いるのが好ましい。また、ポリカーボネート樹脂の融点以上の温度において熱安定性に優れるものを用いるのが好ましい。本発明においては、マトリックス樹脂のポリオレフィン樹脂と分散樹脂のポリカーボネート樹脂の組み合わせに、さらにこの熱可塑性エラストマーを配合することにより、該熱可塑性エラストマーがポリカーボネート樹脂の分散性やフィルムの延伸性等に相乗的に作用し、かかる物性を著しく向上させる。従って、本発明によれば、極めて良好な気体透過性や耐水性等を有する多孔質フィルムを得ることが可能になる。
【0013】
本発明において、上記熱可塑性エラストマーを具体的に示せば、エチレン-プロピレン共重合体やエチレン-プロピレン-ジエン共重合体等をブレンド成分、ブロック共重合成分或いはグラフト共重合成分として弾性が付与されたポリオレフィン系熱可塑性エラストマー;ソフトセグメントがポリアルキレンオキサイドやポリラクトン等からなるポリエステル系熱可塑性エラストマー;ソフトセグメントがポリアルキレンオキサイド、ポリラクトン、直鎖状ポリエステルなどからなるポリウレタン系熱可塑性エラストマー;ポリスチレン系熱可塑性エラストマー;ポリアミド系熱可塑性エラストマー;ポリブタジエン系熱可塑性エラストマー;ホリフルオロカーボン系熱可塑性エラストマーなどが挙げられる。このうちポリオレフィン系熱可塑性エラストマー或いはポリエステル系熱可塑性エラストマーを用いるのが最も好ましい。
【0014】
これら熱可塑性エラストマーの添加量は、ポリオレフィン100重量部に対して、5〜50重量部添加するのが適当である。熱可塑性エラストマーの添加量が、5重量部以下の場合その効果はほとんど期待できず、逆に50重量部を上回った場合ポリオレフィン樹脂とポリカーボネート樹脂の界面が剥離することなく延伸されて、十分な気体透過性が得られない。
【0015】
本発明においては、上記ポリオレフィン樹脂、ポリカーボネート樹脂及び熱可塑性エラストマーの各成分の他に、さらに液状界面活性剤を配合することは、本発明の効果を一層向上させる上で好ましい。本発明において液状界面活性剤とは、無極性部分と親水性部分をあわせもった液状有機化合物のことであり、例えば、エーテル部分の繰り返し単位が5〜20程度のポリエーテルエステルやポリエーテルエーテル、末端に水酸基やアミノ基等を有するアルキル基と結合したポリシロキサン、末端に水酸基やアミノ基等を有する液状ポリオレフィン、低分子量液状ポリエステル等が挙げられる。
【0016】
液状界面活性剤の添加量については、ポリオレフィン樹脂100重量部に対して、1〜10重量部添加するのが好ましい。添加量が、1重量部以下の場合その効果はほとんど期待できず、逆に10重量部を上回った場合混練の際に樹脂に十分なせん断がかからないためにポリカーボネート樹脂の分散性の向上効果が十分に発揮されなかったり、該液状界面活性剤が得られたフィルムの表面にブリードアウトするようになることがある。
【0017】
本発明においては、必要に応じて製造されるフィルムに種々の性質を付与するため、それに適した添加剤を添加することができる。例えば、酸化防止剤、紫外線吸収剤及びカーボンブラック等の耐候剤、アンチブロッキング剤、難燃剤、顔料、着色剤、艶消し剤、帯電防止剤、酵素、消臭剤、香料、農薬等が挙げられる。このほかにも、本発明の特徴を損なわない限り、必要に応じて別の成分を添加してよい。
【0018】
本発明において、前記各成分からなる樹脂組成物をフィルム状に成形する方法は、インフレダイやTダイ等を用いた押出成形が採用される。なお、本発明で用いる樹脂組成物、特に分散樹脂成分であるポリカーボネート樹脂の粘度が高いものである組成物は、各成分を混練する際にダイスエルをおこし易い。従って、本発明において、樹脂組成物の各成分を混練する場合には、押出機前半部は全成分の融点以上の温度にし、一方、押出機先端部はポリカーボネート樹脂のガラス転移温度以下でかつポリオレフィン樹脂の融点以上の温度となるような負の温度勾配をつけて混練するのが好ましい。このように負の温度勾配をつけての混練は、ポリカーボネート樹脂の再凝集を防ぐという面からも効果的である。
【0019】
次に、得られた混練物を先端にダイスのついた押出機により、ポリエチレンまたはエチレン-αオレフィン共重合体の融点以上ポリカーボネート樹脂のガラス転移温度以下で、フィルム状に押出す。なお、本発明においてフィルム成膜の工程は、必ずしも混練工程と二回に分けて押出機を通す必要は無く、混練の押出機の先端にダイスをつけて直接成形してもよい。
【0020】
本発明では、こうして得られた未延伸フィルムを、ポリオレフィン樹脂の種類に応じて通常の延伸温度範囲好ましくは10〜200℃の温度で少なくとも一軸方向に延伸する。延伸に際しては、低倍率で予備延伸することが好ましく、この予備延伸は通常、MD方向に1.2倍程度行えば十分である。
【0021】
延伸倍率は、特に制限されるものではないが、得られるフィルムの引き裂き強度や耐水性を勘案すれば、面積倍率で1.5〜10倍の範囲にすることが好ましく、この範囲からポリカーボネート樹脂の配合量や必要とする気体透過性によって適当な倍率を選定するのが好適である。本発明においては、面積倍率2〜5倍において、延伸の均一性が最も良好になる。従って、本発明では、かかる程度の延伸倍率で延伸を行い且つポリカーボネートの配合量により気体透過性をコントロールすれば、気体透過性と機械物性及び耐水性の最もバランスがよく熱収縮率の小さいフィルムを得ることができ好ましい。
【0022】
【発明の効果】
このようにして得られたフィルムは、ポリカーボネート樹脂の分散性及びフィルムの延伸性ともよく、フィルムの外観や水蒸気等の気体透過性さらに耐水性とも優れている。
【0023】
本発明により得られたフィルムは、以上のような優れた性質を持っているため、気体透過性と耐水性を必要とする用途に好適に使用される。例えば、シップ薬や貼り薬等の貼布薬器材、紙おむつ等の衛生材料、なま物の包装や乾燥剤の包装等の各種包装材料、手袋やウェア等の簡易衣料、シーツや手術着等の衣料分野、その他建築用資材、土木用資材が挙げられる。特に、貼布薬器材や衛生材料等の用途については、無機フィラーに由来するフィルムのpHの偏りや燃焼後の灰分がほとんど無いため、最適である。
【0024】
【実施例】
以下、本発明をさらに具体的に説明するために実施例を示すが、本発明はこれらの実施例になんら限定されるものではない。
【0025】
なお、実施例及び比較例により示すフィルム物性は下記の方法により測定した。
【0026】
透湿度:JIS-Z-208に準ずる。(40℃,90RH%)
最大孔径(Dmax):ASTM-F-316に準ずる。
【0027】
耐水圧:JIS-L-1092に準ずる。
【0028】
また、以下の実施例で用いた樹脂は、次の通りである。
【0029】
(a)ポリオレフィン樹脂
・260℃における粘度が1×104Pa・Sの線状低密度ポリエチレン(LLDPE):ウルトゼックス1520L(三井石油化学製)
・260℃における粘度が7×103Pa・Sのエチレン-ブテン共重合体(ULDPE):タフマーA4090(三井石油化学製)
(b)ポリカーボネート樹脂:
・260℃における粘度が7×104Pa・SのポリビスフェノールAカーボネート樹脂(PC):パンライトK1300(帝人化成製)
(c)熱可塑性エラストマー
・曲げ初期弾性率が90MPaのポリオレフィン系熱可塑性エラストマー(TPO):ミラストマー8030(三井石油化学製)
・曲げ初期弾性率が35MPaのポリエステル系熱可塑性エラストマー(TPEE):ハイトレル3548(三井デュポンポリケミカル製)
(d)液状界面活性剤
・ポリエチレングリコールモノオレエート系液状界面活性剤:MYO-10(日光ケミカルズ製)
・末端水酸化ポリブタジエン系液状界面活性剤:GI-1000(日本曹達製)
(e)ポリエステル樹脂(PEst)
・C700N(帝人化成製)
実施例1〜7及び比較例1〜4
第1表に示すような配合の樹脂をスーパーミキサーで5分間混合した後、先端に向かって負の温度勾配をつけて160〜260℃に設定した二軸押出機を用いてストランド状に押出し、ペレット状に切断した。
【0030】
得られたペレットを、スクリュー径30mmφ、L/D=24の押出機に取り付けたリップ間隙1mmのダイスより150〜170℃で押出し、内部を約30℃の冷却水が循環する直径100mmφの冷却ロールを接触せしめ、1m/分で引き取って厚さ約30μmのフィルム状物を得た。
【0031】
得られたフィルムを、ロール延伸機を用いMD方向に延伸し、その後必要に応じてさらに上記延伸方向と直角方向に延伸した。得られた多孔質フィルムの透湿度、最大孔径及び耐水圧の各値を表2に示した。
【0032】
【表1】

【0033】
【表2】

 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2004-07-02 
出願番号 特願平5-215767
審決分類 P 1 651・ 113- YA (C08L)
P 1 651・ 121- YA (C08L)
最終処分 維持  
前審関与審査官 森川 聡  
特許庁審判長 宮坂 初男
特許庁審判官 佐野 整博
舩岡 嘉彦
登録日 2002-07-05 
登録番号 特許第3325091号(P3325091)
権利者 株式会社トクヤマ
発明の名称 多孔質フィルムの製造方法  

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