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審決分類 審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  C08L
審判 全部申し立て 2項進歩性  C08L
審判 全部申し立て 特36 条4項詳細な説明の記載不備  C08L
審判 全部申し立て 5項1、2号及び6項 請求の範囲の記載不備  C08L
管理番号 1104366
異議申立番号 異議2003-73045  
総通号数 59 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2001-10-31 
種別 異議の決定 
異議申立日 2003-12-12 
確定日 2004-08-09 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第3417480号「樹脂組成物及びそれからなる光学材料」の請求項1ないし7に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 訂正を認める。 特許第3417480号の請求項1ないし5に係る特許を維持する。 
理由 (1)手続の経緯
本件特許3417480号の発明は、平成4年3月3日に出願された特願平4-80330号の一部を新たな出願としてなされたものであり、平成15年4月11日にその特許の設定登録がなされ、その後、森田峰代より特許異議の申立てがなされ、それに基づく取消理由通知がなされ、それに対して、その指定期間内である平成16年6月21日付けで、特許異議意見書とともに訂正請求書が提出されたものである。
(2)訂正の適否についての判断
ア、訂正の内容
訂正事項a:特許請求の範囲の訂正
a-1、請求項2及び3を削除し、請求項1の
「【請求項1】 熱可塑性飽和ノルボルネン系樹脂及びそれと非相溶である配合剤からなり、配合剤の量が熱可塑性飽和ノルボルネン系樹脂100重量部に対して、0.001〜0.8重量部である熱可塑性飽和ノルボルネン系樹脂組成物。」を、
「【請求項1】 熱可塑性飽和ノルボルネン系樹脂及びそれと非相溶である配合剤からなる熱可塑性飽和ノルボルネン系樹脂組成物であって、
(1)配合剤が、芳香族ビニル系モノマーと共役ジエン系モノマーの共重合体またはその水素添加物からなるゴム質重合体であり、
(2)ゴム質重合体の配合割合が、熱可塑性飽和ノルボルネン系樹脂100重量部に対して、0.001〜0.8重量部であり、かつ、
(3)ゴム質重合体が樹脂組成物中にミクロドメインを形成して分散しており、該樹脂組成物から形成された厚さ3mmの板状成形品の400〜700nmでの光線透過率が80%以上である
ことを特徴とする熱可塑性飽和ノルボルネン系樹脂組成物。」と訂正する。
a-2、請求項4の
「【請求項4】 高温下での耐湿性に優れる請求項1、2、または3記載の熱可塑性飽和ノルボルネン系樹脂組成物。」を、
「【請求項2】 該樹脂組成物から形成された成形品が121℃で30分の加圧スチーム滅菌処理において、透明性が実質的に低下しない、高温下での耐湿性に優れる請求項1記載の熱可塑性飽和ノルボルネン系樹脂組成物。」と訂正する。
a-3、請求項5の
「【請求項5】 請求項1、2、3、または4記載の樹脂組成物からなる光学材料。」を、
「【請求項3】 請求項1または2記載の樹脂組成物からなる光学材料。」と訂正する。
a-4、請求項6の
「【請求項6】 請求項1、2、3、または4記載の樹脂組成物からなる容器。」を、
「【請求項4】 請求項1または2記載の樹脂組成物からなる容器。」と訂正する。
a-5、請求項7の
「【請求項7】 請求項1、2、3、または4記載の樹脂組成物からなるフィルム又はシート。」を、
「【請求項5】 請求項1または2記載の樹脂組成物からなるフィルムもしくはシート。」と訂正する。
訂正事項b:発明の詳細な説明の訂正
b-1、特許明細書の段落【0008】の
「【課題を解決するための手段】かくして本発明によれば、熱可塑性飽和ノルボルネン系樹脂及びそれと非相溶である配合剤からなり、配合剤の量が熱可塑性飽和ノルボルネン系樹脂100重量部に対して、0.001〜0.8重量部である熱可塑性飽和ノルボルネン系樹脂組成物及びそれからなる光学材料が提供される。」を、
「【課題を解決するための手段】
かくして本発明によれば、熱可塑性飽和ノルボルネン系樹脂及びそれと非相溶である配合剤からなる熱可塑性飽和ノルボルネン系樹脂組成物であって、
(1)配合剤が、芳香族ビニル系モノマーと共役ジエン系モノマーの共重合体またはその水素添加物からなるゴム質重合体であり、
(2)ゴム質重合体の配合割合が、熱可塑性飽和ノルボルネン系樹脂100重量部に対して、0.001〜0.8重量部であり、かつ、
(3)ゴム質重合体が樹脂組成物中にミクロドメインを形成して分散しており、該樹脂組成物から形成された厚さ3mmの板状成形品の400〜700nmでの光線透過率が80%以上である
ことを特徴とする熱可塑性飽和ノルボルネン系樹脂組成物及びそれからなる光学材料が提供される。」と訂正する。
b-2、特許明細書の段落【0015】中に記載の
「熱可塑性飽和ノルボルネン系樹脂中にミクロドメインを形成して分散できるものであれば、特に限定されないが、有機高分子化合物が好ましく、特にガラス転移温度が40℃以下のゴム質重合体が好ましい。」を、
「熱可塑性飽和ノルボルネン系樹脂中にミクロドメインを形成して分散できるものであり、ガラス転移温度が40℃以下のゴム質重合体が好ましい。」と訂正する。
b-3、特許明細書の段落【0016】の
「本発明のゴム質重合体の例としては、………などの熱可塑性エラストマーが挙げられる。」を、
「本発明のゴム質重合体の例としては、スチレン・ブタジエン・スチレン・ゴム、スチレン・イソプレン・スチレン・ゴム、スチレン・エチレン・ブタジエン・スチレン・ゴムなどの芳香族ビニル系モノマー・共役ジエンのランダム共重合体、これらの水素添加物;スチレン・ブタジエン・スチレン・ゴム、スチレン・イソプレン・スチレン・ゴム、スチレン・エチレン・ブタジエン・スチレン・ゴムなどの芳香族ビニル系モノマー・共役ジエンの直鎖状または放射状ブロック共重合体、それらの水素添加物などのスチレン系熱可塑性エラストマーが挙げられる。」と訂正する。
b-4、特許明細書の段落【0017】の
「これらの中でも、芳香族ビニル系モノマーと共役ジエン系モノマーの共重合体、………およびこれらの水素添加物、スチレン・ブタジエン・ランダム共重合体などが挙げられる。」を、
「芳香族ビニル系モノマーと共役ジエン系モノマーの共重合体、及びその水素添加物は、熱可塑性飽和ノルボルネン系樹脂との分散性が良く、好ましい。芳香族ビニル系モノマーと共役ジエン系モノマーの共重合体はブロック共重合体でもランダム共重合体でも良い。耐候性の点から芳香環以外の部分を水添しているものがより好ましい。具体的には、スチレン・ブタジエンブロック共重合体、スチレン・ブタジエン・スチレン・ブロック共重合体、スチレン・イソプレン・ブロック共重合体、スチレン・イソプレン・スチレン・ブロック共重合体、およびこれらの水素添加物、スチレン・ブタジエン・ランダム共重合体などが挙げられる。」と訂正する。
b-5、特許明細書の段落【0023】の
「なお、ミクロドメインはゴム質重合体を配合剤とする場合には、………特に0.2μm以下となることが好ましい。」を、
「なお、ミクロドメインはゴム質重合体を配合剤とする場合には、ほぼ球形となり、粒子間での粒径のばらつきは小さい。通常、直径0.3μm以下、好ましくは0.2μm以下である。この粒径であれば、後述のようにゴム質重合体を添加による熱可塑性飽和ノルボルネン系樹脂組成物の透明性の低下は小さく、問題とならない。」と訂正する。
b-6、特許明細書の段落【0026】の
「本発明の樹脂組成物の透明性は、………さらには90%以上にすることも可能である。」を、
「本発明の樹脂組成物の透明性は、ゴム質重合体の屈折率、添加量、ミクロドメインの直径、分散状態などによって異なるが、通常、厚さ3mmの板状成形品の400〜700nmの光線透過率は、屈折率、添加量、分散状態を調整することにより、80%以上、さらには90%以上にすることも可能である。」と訂正する。
イ、訂正の適否
訂正事項aは、特許請求の範囲に関する訂正であり、訂正a-1は、請求項2及び3を削除し、請求項1における配合剤を特定のゴム質重合体に限定し、ミクロドメインを形成して分散するともに、光線透過率を限定するものであるから、特許請求の範囲を減縮するものと認められ、また、特定のゴム質重合体とすることについては、特許明細書の段落【0016】及び【0017】、ミクロドメインを形成して分散することについては、同じく段落【0007】及び【0015】、光線透過率については、同じく【0026】などの記載に基づくものであるから、願書に添付した明細書の範囲内の訂正と認められる。
訂正a-2は、「高温下での耐湿性に優れる」ことを限定するものであり、特許明細書の段落【0030】及び実施例1の記載に基づくものであるから、願書に添付した明細書の範囲内において、特許請求の範囲を減縮するものと認める。
訂正a-3〜a-5は、請求項2及び3を削除したことにより、請求項及び引用する請求項を繰り上げたものであるから、明りょうでない記載の釈明に相当し、願書に添付した範囲内における訂正と認められる。
上記訂正事項b(訂正b-1〜b-6)は、発明の詳細な説明における訂正であり、特許請求の範囲の訂正である訂正事項aに伴い、特許請求の範囲との整合性をはかるための、明りょうでない記載の釈明を目的とするものと認められ、上記訂正事項aと同様に、願書に添付した明細書の範囲内の訂正と認められる。
また、上記訂正事項a及びbは、実質的に特許請求の範囲を拡張又は変更するものではない。
以上のとおりであるから、上記訂正は、特許法等の一部を改正する法律(平成6年法律第116号)附則第6条第1項の規定によりなお従前の例によるとされる、特許法第120条の4第3項で準用する平成6年法律第116号による改正前の特許法第126条第1項ただし書、第2項及び第3項の規定に適合するので、当該訂正を認める。
(3)特許異議の申立てについての判断
ア、申立て理由の概要
特許異議申立人は、甲第1号証(特開昭63-273655号公報)及び参考資料(「プラスチック材料活用事典」、産業調査会事典出版センター)を提出し、訂正前の請求項1〜7に係る発明は、甲第1号証に記載された発明であるか、あるいは、甲第1号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第1項あるいは同条第2項の規定に違反し、また、明細書の記載に不備があり、特許法第36条第4項及び第5項に規定する要件を満たさない出願に対して特許されたものであるから、訂正前の請求項1〜7に係る発明の特許は取り消されるべきものであると主張している。
イ、訂正明細書の請求項1〜5に係る発明
訂正明細書の請求項1〜5に係る発明(以下、それぞれ「本件発明1」〜「本件発明5」という。)は、その特許請求の範囲の請求項1〜5に記載された事項により特定される次のとおりのものと認める。
「【請求項1】 熱可塑性飽和ノルボルネン系樹脂及びそれと非相溶である配合剤からなる熱可塑性飽和ノルボルネン系樹脂組成物であって、
(1)配合剤が、芳香族ビニル系モノマーと共役ジエン系モノマーの共重合体またはその水素添加物からなるゴム質重合体であり、
(2)ゴム質重合体の配合割合が、熱可塑性飽和ノルボルネン系樹脂100重量部に対して、0.001〜0.8重量部であり、かつ、
(3)ゴム質重合体が樹脂組成物中にミクロドメインを形成して分散しており、該樹脂組成物から形成された厚さ3mmの板状成形品の400〜700nmでの光線透過率が80%以上である
ことを特徴とする熱可塑性飽和ノルボルネン系樹脂組成物。
【請求項2】 該樹脂組成物から形成された成形品が121℃で30分の加圧スチーム滅菌処理において、透明性が実質的に低下しない、高温下での耐湿性に優れる請求項1記載の熱可塑性飽和ノルボルネン系樹脂組成物。
【請求項3】 請求項1または2記載の樹脂組成物からなる光学材料。
【請求項4】 請求項1または2記載の樹脂組成物からなる容器。
【請求項5】 請求項1または2記載の樹脂組成物からなるフィルムもしくはシート。」
ウ、引用刊行物等に記載された事項
当審が通知した取消理由に引用された刊行物は、上記甲第1号証の特開昭63-273655号公報(以下、「刊行物1」という。)であり、刊行物1及び特許異議申立人が提出した参考資料1には、次の記載が認められる。
a、刊行物1
「(1)(A)エチレン成分および下記一般式〔I〕または〔II〕で表わされる環状オレフイン成分からなり、135℃のデカリン中で測定した極限粘度〔η〕が0.05ないし10dl/gの範囲にあり、軟化温度(TMA)が70℃以上である環状オレフイン系ランダム共重合体、および
(B)エチレン成分および下記一般式〔I〕または〔II〕で表わされる環状オレフイン成分からなり、135℃のデカリン中で測定した極限粘度〔η〕が0.01ないし5dl/gの範囲にあり、軟化温度(TMA)が70℃未満である環状オレフイン系ランダム共重合体、
から形成され、下記(A)成分/(B)成分の重量比が100/0.1ないし100/10の範囲にあることを特徴とする環状オレフイン系ランダム共重合体組成物。
(以下、一般式〔I〕及び〔II〕及びその説明を省略)」(特許請求の範囲請求項1)
「本発明は、透明性、耐熱性、耐湿性、耐薬品性などの性能に優れ、精密成形性に優れかつ情報記録膜の密着性に優れた環状オレフイン系重合体組物および該環状オレフイン系重合体組成物からなる情報記録用基板に関する。」(第2頁左下欄2〜6行)
「本発明の組成物において、該環状オレフイン系ランダム共重合体〔A〕/該環状オレフイン系ランダム共重合体〔B〕の重量比は100/0.1ないし100/10、好ましくは100/0.3ないし100/7、とくに好ましくは100/0.5ないし100/5の範囲である。該〔A〕成分/〔B〕成分の重量比が100/0.1より小さくなると、組成物の精密成形性および情報記録膜の苛酷な条件下での密着性の改善効果が不充分であり、100/10より大きくなると、成形物の透明性が悪くなつたり、表面の平滑性が低下するため、情報記録用材料としての性能が低下する。」(第10頁左上欄7〜17行)
「本発明の環状オレフイン系ランダム共重合体組成物は透明性、耐熱性、耐熱老化性、耐溶剤性、誘電特性および機械的特性に優れ、精密成形性に優れており、本発明の環状オレフイン系ランダム共重合体組成物から成形された情報記録基板は情報記録膜との密着性に優れている。」(第11頁左下欄2〜7行)
b、参考文献1
参考文献1には、環状ポリオレフィンが、PMMAと同様に低波長での透明性に優れ耐熱性にも優れており、次世代の高密度光メディアに対しては有望な材料といえると記載されている。
エ、対比・判断
a、特許法第29条第1項及び第2項違反について
本件発明1と刊行物1に記載された発明とを対比すると、両者は、熱可塑性飽和ノルボルネン系樹脂及びそれと非相溶である配合剤からなる熱可塑性飽和ノルボルネン系樹脂組成物であって、配合剤がゴム質重合体であり、その配合割合において重複する熱可塑性飽和ノルボルネン系樹脂組成物である点で一致し、本件発明1では、ゴム質重合体として、芳香族ビニル系モノマーと共役ジエン系モノマーの共重合体またはその水素添加物からなるゴム質重合体であり、かつ、ゴム質重合体が樹脂組成物中にミクロドメインを形成して分散しており、該樹脂組成物から形成された厚さ3mmの板状成形品の400〜700nmでの光線透過率が80%以上であるとするのに対し、刊行物1では、ゴム質重合体が環状オレフィン系ランダム共重合体であり、さらに、ゴム質重合体がミクロドメインを形成して分散していることも、光透過率についても記載がない点(以下、「相違点」という。)で相違するものと認められる。
上記相違点について検討する。
刊行物1には、本件発明1で特定する芳香族ビニル系モノマーと共役ジエン系モノマーの共重合体またはその水素添加物からなるゴム質重合体については、何ら記載がなく、示唆も認められない。
そして、本件発明1は、上記特定のゴム質重合体を使用し、それがミクロドメインを形成して分散し、さらに上記特定の光透過率を有することにより、特許明細書記載の接着性を有し、透明性に優れるという作用効果を奏するものと認められる。
よって、本件発明1は、参考文献1を参照しても、刊行物1に記載された発明でもなく、また、刊行物1に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとすることもできない。
本件発明2は、本件発明1を引用し、高温下での耐湿性に優れるとするものであるから、本件発明1と同様の理由により、刊行物1に記載された発明でもなく、また、刊行物1に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとすることもできない。
本件発明3〜5は、本件発明1及び2を引用し、それぞれ、光学材料、容器、フィルムもしくはシートとするものであるから、本件発明1と同様の理由により、刊行物1に記載された発明でもなく、また、刊行物1に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとすることもできない。
b、特許法第36条第4項及び5項違反について
特許異議申立人は、(a-1)配合剤の量について、(a-2)配合剤の種類と量との関係について、(a-3)用語「配合剤」について、及び、(a-4)用語「非相溶である配合剤」及び「高温下での耐湿性に優れる」についての4つの点について明細書の不備を主張している。
しかしながら、特許権者によって、上記のとおり、配合剤として特定のゴム質重合体に限定し、また、ミクロドメインを形成して分散していることを明りょうにする訂正により、もはや特許異議申立人の主張する明細書の記載不備はなく、特許法第36条第4項及び5項違反は解消されたものと認める。
(4)むすび
以上のとおりであるから、本件特許異議申立人の提出した証拠方法によっては、本件特許を取り消すことができない。
また、他に本件特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
樹脂組成物及びそれからなる光学材料
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】 熱可塑性飽和ノルボルネン系樹脂及びそれと非相溶である配合剤からなる熱可塑性飽和ノルボルネン系樹脂組成物であって、
(1)配合剤が、芳香族ビニル系モノマーと共役ジエン系モノマーの共重合体またはその水素添加物からなるゴム質重合体であり、
(2)ゴム質重合体の配合割合が、熱可塑性飽和ノルボルネン系樹脂100重量部に対して、0.001〜0.8重量部であり、かつ、
(3)ゴム質重合体が樹脂組成物中にミクロドメインを形成して分散しており、該樹脂組成物から形成された厚さ3mmの板状成形品の400〜700nmでの光線透過率が80%以上である
ことを特徴とする熱可塑性飽和ノルボルネン系樹脂組成物。
【請求項2】 該樹脂組成物から形成された成形品が121℃で30分の加圧スチーム滅菌処理において、透明性が実質的に低下しない、高温下での耐湿性に優れる請求項1記載の熱可塑性飽和ノルボルネン系樹脂組成物。
【請求項3】 請求項1または2記載の樹脂組成物からなる光学材料。
【請求項4】 請求項1または2記載の樹脂組成物からなる容器。
【請求項5】 請求項1または2記載の樹脂組成物からなるフィルムもしくはシート。
【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、熱可塑性飽和ノルボルネン系樹脂から成る樹脂組成物及びそれからなる光学材料に関し、さらに詳しくは、接着性に優れた熱可塑性飽和ノルボルネン系樹脂組成物及びそれからなる光学材料に関する。
【0002】
【従来の技術】
従来から光学材料に用いられる樹脂としてポリメチルメタクリレート(PMMA)やポリカーボネート(PC)が知られている。しかし、PMMAは透明性に優れているが、耐熱性、耐湿性などの点で問題があり、また、PCは耐熱性、耐湿性はPMMAよりも優れているが、複屈折が大きいなどの問題があり、透明性、耐熱性、耐湿性、低複屈折性などの全てに優れた熱可塑性飽和ノルボルネン系樹脂が光学材料として注目されている。
【0003】
しかし、熱可塑性飽和ノルボルネン系樹脂には接着剤、着色するための塗料、保護コート用または微細構造形成用の紫外線硬化型塗料、各種の無機膜、有機膜との接着性が低いという問題があった。接着性を改良する方法として、接着性を改良することを目的として、各種のプライマー処理や薬品、活性エネルギー線処理が検討されているが、成形品の製造工程、加工工程にこれらの処理を加えることは生産効率の点で好ましくない。
【0004】
そこで、熱可塑性飽和ノルボルネン系樹脂を変性したり、配合剤を加えたりして、接着性を改良することが検討されている。
【0005】
例えば、熱可塑性飽和ノルボルネン系樹脂にゴム質重合体を1〜40重量%グラフト重合することが知られている(特開平3-54220号)が、このような方法は生産効率の点で好ましくない。また、得られた樹脂も必ずしも透明ではなかった。
【0006】
また、熱可塑性飽和ノルボルネン系樹脂にゴム質重合体を1〜50重量%添加した組成物が金属との接着性がよくなること、この組成物を透明にするためには樹脂との屈折率の差が小さいゴム質重合体を用いればよいことが知られていた(特開平3-112646号)。しかし、熱可塑性ノルボルネン系樹脂にゴム質重合体を多量に添加するとガラス転移温度(Tg)が低下するという問題があった。
【0007】
【発明が解決しようとする課題】
本発明者らは、鋭意研究の結果、熱可塑性飽和ノルボルネン系樹脂に配合剤を微小なミクロドメインとして分散させることにより、各種の塗料や膜との接着性が改良でき、透明性などの外観も良好であることを見い出し、本発明を完成するに到った。
【0008】
【課題を解決するための手段】
かくして本発明によれば、熱可塑性飽和ノルボルネン系樹脂及びそれと非相溶である配合剤からなる熱可塑性飽和ノルボルネン系樹脂組成物であって、
(1)配合剤が、芳香族ビニル系モノマーと共役ジエン系モノマーの共重合体またはその水素添加物からなるゴム質重合体であり、
(2)ゴム質重合体の配合割合が、熱可塑性飽和ノルボルネン系樹脂100重量部に対して、0.001〜0.8重量部であり、かつ、
(3)ゴム質重合体が樹脂組成物中にミクロドメインを形成して分散しており、該樹脂組成物から形成された厚さ3mmの板状成形品の400〜700nmでの光線透過率が80%以上である
ことを特徴とする熱可塑性飽和ノルボルネン系樹脂組成物及びそれからなる光学材料が提供される。
【0009】
(熱可塑性飽和ノルボルネン系樹脂)
本発明の熱可塑性ノルボルネン系樹脂は、特開平3-14882号や特開平3-122137号などで公知の樹脂であり、具体的には、ノルボルネン系単量体の開環重合体、その水素添加物、ノルボルネン系単量体の付加型重合体、ノルボルネン系単量体とオレフィンの付加型重合体などが挙げられる。
【0010】
ノルボルネン系単量体も、上記公報や特開平2-227424号、特開平2-276842号などで公知の単量体であって、例えば、ノルボルネン、そのアルキル、アルキリデン、芳香族置換誘導体およびこれら置換または非置換のオレフィンのハロゲン、水酸基、エステル基、アルコキシ基、シアノ基、アミド基、イミド基、シリル基等の極性基置換体、例えば、2-ノルボルネン、5-メチル-2-ノルボルネン、5,5-ジメチル-2-ノルボルネン、5-エチル-2-ノルボルネン、5-ブチル-2-ノルボルネン、5-エチリデン-2-ノルボルネン、5-メトキシカルボニル-2-ノルボルネン、5-シアノ-2-ノルボルネン、5-メチル-5-メトキシカルボニル-2-ノルボルネン、5-フェニル-2-ノルボルネン、5-フェニル-5-メチル-2-ノルボルネン等;ノルボルネンに一つ以上のシクロペンタジエンが付加した単量体、その上記と同様の誘導体や置換体、例えば、1,4:5,8-ジメタノ-1,2,3,4,4a,5,8,8a-2,3-シクロペンタジエノナフタレン、6-メチル-1,4:5,8-ジメタノ-1,4,4a,5,6,7,8,8a-オクタヒドロナフタレン、1,4:5,10:6,9-トリメタノ-1,2,3,4,4a,5,5a,6,9,9a,10,10a-ドデカヒドロ-2,3-シクロペンタジエノアントラセン等;シクロペンタジエンの多量体である多環構造の単量体、その上記と同様の誘導体や置換体、例えば、ジシクロペンタジエン、2,3-ジヒドロジシクロペンタジエン等;シクロペンタジエンとテトラヒドロインデン等との付加物、その上記と同様の誘導体や置換体、例えば、1,4-メタノ-1,4,4a,4b,5,8,8a,9a-オクタヒドロフルオレン、5,8-メタノ-1,2,3,4,4a,5,8,8a-オクタヒドロ-2,3-シクロペンタジエノナフタレン等;等が挙げられる。
【0011】
ノルボルネン系単量体の重合は公知の方法でよく、必要に応じて、水素添加することにより、熱可塑性ノルボルネン系樹脂水素添加物とすることができる。
【0012】
なお、本発明においてはノルボルネン系単量体を公知の方法で開環重合させる場合には、本発明の効果を実質的に妨げない範囲において開環重合可能な他のシクロオレフィン類を併用することができる。このようなシクロオレフィンの具体例としては、例えば、シクロペンテン、シクロオクテン、5,6-ジヒドロジシクロペンタジエンなどのごとき反応性の二重結合を1個以上有する化合物が例示される。
【0013】
本発明で使用する熱可塑性飽和ノルボルネン系樹脂の数平均分子量は、トルエン溶媒によるGPC(ゲル・パーミエーション・クロマトグラフィ)法で測定して、10,000〜200,000、好ましくは20,000〜150,000、より好ましくは25,000〜120,000である。数平均分子量が小さすぎると機械的強度が劣り、大きすぎると成形性が悪くなる。
【0014】
また、ノルボルネン系単量体の開環重合体を水素添加する場合、水素添加率は耐熱劣化性、耐光劣化性などの観点から、90%以上、好ましくは95%以上、より好ましくは、99%以上とする。
【0015】
(配合剤)
本発明の配合剤とは熱可塑性飽和ノルボルネン系樹脂と非相溶性のものであって、熱可塑性飽和ノルボルネン系樹脂中にミクロドメインを形成して分散できるものであり、ガラス転移温度が40℃以下のゴム質重合体が好ましい。なお、ブロック共重合したゴム質重合体などでガラス転移温度が2点以上ある場合があるが、その場合は、最も低いガラス転移温度が40℃以下であれば本発明のガラス転移温度が40℃以下のゴム質重合体として用いることができる。
【0016】
本発明のゴム質重合体の例としては、スチレン・ブタジエン・スチレン・ゴム、スチレン・イソプレン・スチレン・ゴム、スチレン・エチレン・ブタジエン・スチレン・ゴムなどの芳香族ビニル系モノマー・共役ジエンのランダム共重合体、これらの水素添加物;スチレン・ブタジエン・スチレン・ゴム、スチレン・イソプレン・スチレン・ゴム、スチレン・エチレン・ブタジエン・スチレン・ゴムなどの芳香族ビニル系モノマー・共役ジエンの直鎖状または放射状ブロック共重合体、それらの水素添加物などのスチレン系熱可塑性エラストマーが挙げられる。
【0017】
芳香族ビニル系モノマーと共役ジエン系モノマーの共重合体、及びその水素添加物は、熱可塑性飽和ノルボルネン系樹脂との分散性が良く、好ましい。芳香族ビニル系モノマーと共役ジエン系モノマーの共重合体はブロック共重合体でもランダム共重合体でも良い。耐候性の点から芳香環以外の部分を水添しているものがより好ましい。具体的には、スチレン・ブタジエンブロック共重合体、スチレン・ブタジエン・スチレン・ブロック共重合体、スチレン・イソプレン・ブロック共重合体、スチレン・イソプレン・スチレン・ブロック共重合体、およびこれらの水素添加物、スチレン・ブタジエン・ランダム共重合体などが挙げられる。
【0018】
また、本発明の配合剤は、それを添加する熱可塑性飽和ノルボルネン系樹脂の屈折率との差が好ましくは0.02以下、より好ましくは0.015以下、特に好ましくは0.01以下の屈折率を有するものである。屈折率の差が大きいものを混合すると、多量に添加した場合に不透明となりやすい。熱可塑性飽和ノルボルネン系樹脂の種類が異なれば屈折率も異なるが、例えば、ゴム質重合体はモノマーの比率を変化させたり、主鎖の不飽和結合の数を水素添加などにより変化させることにより、連続的に屈折率を変えることが可能である。用いる熱可塑性飽和ノルボルネン系樹脂の屈折率に応じて、適当な屈折率を有するゴム質重合体を選択することが好ましい。
【0019】
(添加)
本発明においては配合剤は熱可塑性飽和ノルボルネン系樹脂に適量添加して、熱可塑性飽和ノルボルネン系樹脂中でミクロドメインを形成し、分散させる。添加量が多すぎれば、樹脂組成物のガラス転移温度が大きく低下し、ミクロドメインは形成されないか、凝集してしまうため分散しない。添加量が少なすぎれば、本願の効果が得られない。例えば、ゴム質重合体を配合剤とする場合には、熱可塑性飽和ノルボルネン系樹脂100重量部に対して、ゴム質重合体である配合剤は0.001〜0.8重量部、好ましくは0.003〜0.6重量部、より好ましくは0.005〜0.4重量部の割合で添加する。
【0020】
添加する方法は配合剤が熱可塑性飽和ノルボルネン系樹脂中でミクロドメインを形成して十分に分散する方法であれば、特に限定されない。例えば、ゴム質重合体を配合剤とする場合には、ミキサー、二軸混練機などで樹脂温を溶融状態で混練する方法、適当な溶剤に溶解して分散させて凝固法、キャスト法、または直接乾燥法により溶剤を除去する方法などがある。
【0021】
混練する場合には、樹脂温度がTg+50℃〜Tg+150℃の温度で、十分にシェアをかける。樹脂温度が低すぎると粘度が高くなり混練が困難であり、高すぎると樹脂やゴム質重合体が劣化し、粘度や融点の差により両者がうまく混練できない。
【0022】
例えば、ラボプラストミル(東洋精機製)を用いる場合、二軸異方向ミキサーモードで回転数20〜30rpmで、フィード・レートを調節して滞留時間を1〜10分程度にして混練すれば、通常、熱可塑性飽和ノルボルネン系樹脂中にゴム質重合体を直径0.3μm以下のミクロドメインを形成して分散させることができる。通常、二軸混練機においては、L/Dを25以上、好ましくは30以上にし、滞留時間を1〜10分程度にする。滞留時間が長いほど、ミクロドメインを形成しやすいが、樹脂やゴム質重合体が劣化しやすいので、用いる樹脂、ゴム質重合体、混練に用いる装置の組み合せによって、予備的に混練して、その組み合せにあった回転数、滞留時間等を決めなければならない。
【0023】
なお、ミクロドメインはゴム質重合体を配合剤とする場合には、ほぼ球形となり、粒子間での粒径のばらつきは小さい。通常、直径0.3μm以下、好ましくは0.2μm以下である。この粒径であれば、後述のようにゴム質重合体を添加による熱可塑性飽和ノルボルネン系樹脂組成物の透明性の低下は小さく、問題とならない。
【0024】
(添加剤)
本発明で用いる熱可塑性飽和ノルボルネン系樹脂には、所望により、各種添加剤を添加してもよい。樹脂に用いられる添加剤は樹脂と相溶性のあるものであり、フェノール系やリン系などの老化防止剤、耐電防止剤、紫外線吸収剤などがある。溶液流延法でシートを成形する場合には、表面粗さを小さくするため、レベリング剤の添加も好ましい。レベリング剤は、例えば、フッ素系ノニオン界面活性剤、特殊アクリル樹脂系レベリング剤、シリコーン系レベリング剤など塗料用レベリング剤を用いることができ、それらの中でも溶媒との相溶性の良いものが好ましく、添加量は、通常は5〜50,000ppm、好ましくは10〜20,000ppmである。
【0025】
(熱可塑性飽和ノルボルネン系樹脂組成物)
本発明の熱可塑性飽和ノルボルネン系樹脂組成物は、熱可塑性飽和ノルボルネン系樹脂のマトリックス中に配合剤が通常、直径0.3μm以下、好ましくは0.2μm以下のミクロドメインを形成して分散している。情報ディスクや赤外線センサーなどの情報処理につかわれる単色光の波長は300nm〜1000nm程度、人間に見える可視光は400nm〜800nm程度である。これらの光の波長よりも配合剤の直径が小さく、0.3μm以下、特に0.2μm以下のミクロドメインを形成していれば光が散乱しにくいため、熱可塑性飽和ノルボルネン系樹脂組成物は、透明性に優れる。
【0026】
本発明の樹脂組成物の透明性は、ゴム質重合体の屈折率、添加量、ミクロドメインの直径、分散状態などによって異なるが、通常、厚さ3mmの板状成形品の400〜700nmの光線透過率は、屈折率、添加量、分散状態を調整することにより、80%以上、さらには90%以上にすることも可能である。
【0027】
また、本発明の熱可塑性飽和ノルボルネン系樹脂組成物の成形品は、耐熱性、耐薬品性、誘電特性、剛性はゴム質重合体の添加量が少ないため、添加しない熱可塑性飽和ノルボルネン系ポリマーと実質的に同じである。
【0028】
樹脂組成物の成形方法は特に限定されない。目的に応じて、射出成形法、ブロー成形法、インジェクションブロー成形法、回転成形法、真空成形法、押出成形法、カレンダー成形法、溶液流延法などが可能である。
【0029】
本発明の樹脂組成物の成形品は、ゴム質重合体を添加しない熱可塑性飽和ノルボルネン系樹脂と比較して、接着においては、フェノール系接着剤、ポリエステル系接着剤、エポキシ系接着剤、シリコーン系接着剤等の熱硬化性接着剤、ポリ酢酸ビニル系接着剤、ポリビニルアルコール系接着剤、ポリ塩化ビニル系接着剤、ニトロセルロース系接着剤等の熱可塑性樹脂接着剤、ブタジエンアクリロニトリルゴム系接着剤やネオプレン系接着剤等の接着剤など;塗装においては、エナメル等の油性ペイント、速乾ニスやアルコール溶性フェノール樹脂ワニス等の酒精塗料、エチルセルロースラッカー等のセルロース塗料、ビニル樹脂ワニス等の合成樹脂塗料、合成ゴムラテックス塗料等の水性塗料、塩化ゴム塗料等のゴム系塗料等の塗料と;ハードコート層や保護コート層の形成においては、メラミン系、アルキッド系、ウレタン系、アクリル系等の熱硬化型有機系コート剤、多官能アクリル系紫外線硬化型有機系コート剤、シリコーン系コート剤等のコート剤など;スタンパー等の微細構造を塗布した塗料に転写するいわゆる2P法においては、紫外線硬化型アクリル系塗料や反応硬化型エポキシ系塗料など;光学ディスク等に成形した場合においては、真空蒸着法やスパッタリング法などによって蒸着したニッケル、アルミニウム、金等の反射率の高い金属からなる金属反射膜やTb-Fe-Co系合金等からなる光磁気記録膜など;などとの接着性に優れている。
【0030】
また、本発明の樹脂組成物は、熱可塑性飽和ノルボルネン系ポリマーに比べて高温下での耐湿性に優れている。熱可塑性飽和ノルボルネン系ポリマーは耐熱性、耐湿性に優れているが、その成形品は、例えば、オートクレーブによる121℃の加圧スチーム滅菌などの高温高湿処理においては、透明性が低下することがあった。それに対し、本発明の樹脂組成物の成形品は、透明性の低下は実質的に認められない。
【0031】
本発明の樹脂組成物の用途としては、このような性質を活かせる、例えば、スチームアイロンの水タンク、電子レンジ用の部品や容器、プリント配線基板、高周波回路基板、導電性の透明性または非透明のシート、スピーカーの振動板、半導体製造用キャリア、照明器具のカバーや飾りつけ、電線の被覆材、絶縁フィルム、コンデンサーフィルム、電子素子の封止材などの電気分野;食品包装用フィルム、義歯床材料、各種薬品容器、食品容器、化粧品容器、活栓、血液などの機器検査用セル、医療用チューブ、血液や輸液のバッグ、耐薬品性のコーティング、ディスポーザーブルのシリンジや容器などの食品医療用途;カメラ部品、各種計器・機器類のハウジングや容器などの工業部品;各種シート、ヘルメット、プロテクター、眼鏡のノーズガードなどの日用雑貨;風防ガラスや窓ガラスの代替などの分野に広く応用できるほか、さらに特にその透明性を活かして、光磁気ディスク、色素系ディスク、音楽用コンパクトディスク、画像音楽同時録再型ディスクなどの情報ディスク基板;カメラ、VTR、複写機、OHP、プロジェクションTV、プリンターなどに使われる撮像系または投影系のレンズやミラーレンズ;情報ディスクやバーコードなどの情報をピックアップするためのレンズ;自動車ランプやメガネ・ゴーグルのレンズ;光ファイバーやそのコネクターなどの情報転送部品;光カードなどのディスク以外の形状の情報記録の基板、液晶基板、位相差フィルム、偏光フィルム、導光板、保護防湿フィルムなどの情報記録、情報表示分野のフィルムやシートなどの光学材料として好適である。
【0032】
【実施例】
以下に参考例、実施例、及び比較例を挙げて本発明をさらに具体的に説明する。なお、碁盤目剥離試験は次のようにして行った。
【0033】
成形した板に形成されたアルミニウム膜や塗膜膜の上から、カッターにより1mm間隔でタテ、ヨコ各11本の切れ目を入れて1mm四方の碁盤目を100個作り、セロハン粘着テープ(積水化学社製)を貼り、粘着テープを90°方向に剥す。試験結果は、剥離しなかった目の数を%で表して示す。
【0034】
実施例1
ZEONEX 280(日本ゼオン株式会社製熱可塑性飽和ノルボルネン系樹脂、ガラス転移温度140℃、30℃における屈折率1.5241)のペレット100重量部に対して0.2重量部のフェノール系老化防止剤ペンタエリスリチル-テトラキス(3-(3,5-ジ-ターシャリーブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート)と0.2重量部のスチレン・エチレン・ブタジエン・スチレン・ブロック共重合体(旭化成工業株式会社製タフテックH1051、クラム状、30℃における屈折率1.5173)を混合し、二軸混練機(東洋精機製、ラボプラストミル、異方向、樹脂温度180℃、スクリュー回転数50rpm)で混練した。トルクは徐々に低下し、混練開始から4分でほぼ一定となり、さらに続けて10分間混練した。
【0035】
組成物の塊を取り出し、熱プレス(樹脂温度200℃、300kgf/cm2、3分)で20mm×15mm、厚さ3.0mmの板を成形した。この板は透明で、400〜700nmでの光線透過率は最小で90.1%であった。この板に真空蒸着法により厚さ100nmのアルミニウム膜を形成し、碁盤目剥離試験にかけたところ、100%で良好な接着性を示した。
【0036】
この板を約0.05μmの厚さにスライスし、四酸化ルテニウムでポリスチレン部分を染色し、透過型電子顕微鏡により観察したところ、ゴム質重合体は樹脂のマトリックス中で直径約0.02μmのほぼ球状のミクロドメイン構造をとっていた。このペレットのガラス転移温度は140℃であった。
【0037】
同じ混練した樹脂の塊を樹脂温260℃でインジェクションブロー成形し、筒状部分の平均厚み3mm、内容積100mlの円筒状細口ビンを成形した。容器は透明で、一部を切り出して、ヘイズメータでヘイズを測定したところ0.5%であった。
【0038】
この容器を100℃の沸騰水中で30分間加熱、121℃のスチーム下で30分加熱、85℃・90%RHで48時間放置したが、いずれの場合も目視および50倍の倍率の顕微鏡観察で、外観の変化は認められなかった。
【0039】
実施例2
ZEONEX 280のペレット100重量部に対して0.2重量部のフェノール系老化防止剤ペンタエリスリチル-テトラキス(3-(3,5-ジ-ターシャリーブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート)と0.3重量部のスチレン・エチレン・ブタジエン・スチレン・ブロック共重合体(旭化成工業株式会社製タフテックH1051)を混合し、二軸混練機(東芝機械製、TEM-35B、同方向、スクリュー径37mmΦ、L/D=31.1、樹脂温度235℃、スクリュー回転数150rpm、滞留時間約2分、処理速度10kg/hr)で混練しストランド状に押し出し、ストランドカッターで切ってペレットとした。
【0040】
このペレットを約0.05μmの厚さにスライスし、四酸化ルテニウムでポリスチレン部分を染色し、透過型電子顕微鏡により観察したところ、ゴム質重合体は樹脂のマトリックス中で直径約0.01μmのほぼ球状のミクロドメイン構造をとっていた。このペレットのガラス転移温度は139℃であった。
【0041】
このペレットを用いて、樹脂温度270℃で射出成形し、50mm×50mm、厚さ3.0mmの板を作成した。この板の400〜700nmでの光線透過率は最小で90.5%であった。この板にアクリルラッカー系黒色遮光塗料(関西ペイント社製、アクリック#1000(A))をスプレー塗布し、50℃のエアオーブン中で30分乾燥し、厚さ約0.15mmに塗装した。塗装膜を碁盤目剥離試験にかけたところ、100%の良好な接着性を示した。
【0042】
実施例3
0.3重量部のスチレン・エチレン・ブタジエン・スチレン・ブロック共重合体に代えて0.7重量部のスチレン・イソプレン・スチレン・ブロック共重合体(日本ゼオン株式会社製、Quintac3421、ペレット状、30℃における屈折率1.5276)を用いる以外は実施例2と同様にペレットとした。
【0043】
実施例1と同様に染色し、観察したところ、直径約0.19μmのほぼ球状のミクロドメイン構造をとっていることが分かった。このペレットのガラス転移温度は130℃であった。
【0044】
実施例2と同様に厚さ3.0mmの板を作成したところ、400〜700nmでの光線透過率は最小で90.2%であった。この板に真空蒸着法により厚さ100nmのアルミニウム膜を形成し、碁盤目剥離試験にかけたところ、100%で良好な接着性を示した。
【0045】
比較例1
ゴム質重合体を混合しないこと以外は実施例1と同様のペレットを用い、射出成形して3.0mmの板を作成したところ、400〜700nmでの光線透過率は最小で90.8%であった。実施例1と同様にアルミニウム膜を形成し、碁盤目剥離試験にかけたところ、86%の接着性を示した。
【0046】
比較例2
ゴム質重合体を0.5重量部の代わりに8重量部を混合し、実施例3と同様に混練した。混練機のトルクは徐々に低下し、一定のトルクになった10分後に混練を終了した。
【0047】
この組成物を実施例1と同様に染色し、観察したところ、部分的には、直径約0.25μmの球状のミクロドメインと、それが凝集して2〜5μm程度の球状の粒子となっているものが認められた。
【0048】
この組成物を、実施例3と同じ条件で20mm×15mm、厚さ3.0mmの板を成形した。実施例1と同様にアルミニウム膜を形成し、碁盤目剥離試験にかけたところ、100%の良好な接着性を示した。しかし、この板は目視でも濁っており、400〜700nmでの光線透過率は30〜42%しがなかった。
【0049】
比較例3
ZEONEX 280のペレット100重量部に対して0.2重量部のフェノール系老化防止剤ペンタエリスリチル-テトラキス(3-(3,5-ジ-ターシャリーブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート)を混合し、2軸混練機(東洋精機製、ラボプラストミル、異方向、樹脂温度180℃、スクリュー回転数50rpm)で混練した。3分間混練したところで、スチレン・エチレン・ブタジエン・スチレン・ブロック共重合体(旭化成工業株式会社製タフテックH1051、実施例2で使用したものと同じ)3.0重量部を加え、さらに1分間混練した。
【0050】
この混練物を実施例3と同様に板に成形し、染色し、観察したところ、ゴム質重合体は約1μmの厚さの層状になっており、均一に分散していなかった。
【0051】
実施例1と同様に射出成形して3.0mmの板を作成したところ、400〜700nmでの光線透過率は最小で72%であった。実施例1と同様にアルミニウム膜を形成したところ、表面に斑状に模様ができた。碁盤目剥離試験にかけたところ、54%の接着性を示した。
【0052】
【発明の効果】
これらの結果から、本発明の樹脂組成物は、各種の塗料や膜との接着性、透明性に優れ、光学材料として用いることができることが判る。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2004-07-20 
出願番号 特願2001-75995(P2001-75995)
審決分類 P 1 651・ 113- YA (C08L)
P 1 651・ 121- YA (C08L)
P 1 651・ 534- YA (C08L)
P 1 651・ 531- YA (C08L)
最終処分 維持  
前審関与審査官 森川 聡  
特許庁審判長 松井 佳章
特許庁審判官 大熊 幸治
佐野 整博
登録日 2003-04-11 
登録番号 特許第3417480号(P3417480)
権利者 日本ゼオン株式会社
発明の名称 樹脂組成物及びそれからなる光学材料  
代理人 西川 繁明  
代理人 西川 繁明  

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