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審決分類 |
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載 B32B 審判 全部申し立て 2項進歩性 B32B |
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管理番号 | 1104395 |
異議申立番号 | 異議2000-72818 |
総通号数 | 59 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許決定公報 |
発行日 | 1992-08-27 |
種別 | 異議の決定 |
異議申立日 | 2000-07-19 |
確定日 | 2004-07-26 |
異議申立件数 | 1 |
訂正明細書 | 有 |
事件の表示 | 特許第3001654号「耐候性透明積層フィルム」の請求項1ないし3に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 |
結論 | 訂正を認める。 特許第3001654号の請求項1ないし2に係る特許を維持する。 |
理由 |
1.経緯 本件特許第3001654号の請求項1ないし3に係る発明についての出願は、平成3年1月24日に特許出願され、平成11年11月12日にその特許権の設定登録がなされ、その後田中美子(以下、「申立人」という。)より特許異議の申立てがなされ、平成12年12月13日付けで取り消し理由が通知され、その指定期間内である平成13年2月16日に訂正請求がなされると同時に、特許異議意見書が提出され、再度、平成14年6月17日付けで取り消し理由が通知され、その指定期間内である平成14年8月22日に訂正請求がなされると同時に、平成13年2月16日付でした訂正請求の取下書及び特許異議意見書が提出され、平成15年5月13日付けで訂正拒絶理由が通知され、その指定期間内である平成15年7月8日に訂正請求書の手続補正書及び特許異議意見書が提出され、平成15年7月14日付で手続補正指令がなされ、その指定期間内である平成15年8月4日に手続補正書(方式)が提出され、さらに、平成16年4月6日付けで取り消し理由が通知され、その指定期間内である平成16年6月16日に訂正請求がなされると同時に、平成14年8月22日付でした訂正請求の取下書及び特許異議意見書が提出されたものである。 2.訂正の適否 (1)訂正の内容 訂正事項a-1 願書に添付した明細書の特許請求の範囲の請求項1(以下、「旧請求項1」という。)を削除する。 訂正事項a-2 願書に添付した明細書の特許請求の範囲の請求項2(以下、「旧請求項2」という。)を請求項1とし、次のように訂正する。 【請求項1】フッ素系透明樹脂層と厚さが100μ以下のヒートシール可能な透明樹脂層との間に、厚さが100〜5,000Åの透明なケイ素酸化物薄膜層を積層配置し、ケイ素酸化物薄膜層はフッ素系透明樹脂層の表面に形成されており、ケイ素酸化物薄膜層とヒートシール可能な透明樹脂層との間には必要に応じて透明接着剤層が設けられ、そして、フッ素系透明樹脂層に紫外線吸収剤を添加して紫外線遮断機能を付与したことを特徴とする耐候性透明積層フィルム。 訂正事項a-3 願書に添付した明細書の特許請求の範囲の請求項3(以下、旧請求項3」という。)を請求項2とし、次のように訂正する。 【請求項2】フッ素系透明樹脂層と厚さが100μ以下のヒートシール可能な透明樹脂層との間に、厚さが100〜5,000Åの透明なケイ素酸化物薄膜層を積層配置し、ケイ素酸化物薄膜層はフッ素系透明樹脂層とヒートシール可能な透明樹脂層との間に位置する他の透明樹脂層の表面に形成されており、フッ素系透明樹脂層側に位置させたケイ素酸化物薄膜層とフッ素系透明樹脂層との間には透明接着剤層が設けられ、ヒートシール可能な透明樹脂層側に位置させた他の透明樹脂層とヒートシール可能な透明樹脂層との間には必要に応じて透明接着剤層が設けられ、そして、フッ素系透明樹脂層、ヒートシール可能な透明樹脂層、又は、ケイ素酸化物薄膜層とフッ素系透明樹脂層との間に設けられた透明接着剤層のいずれか1層以上に紫外線吸収剤を添加して紫外線遮断機能を付与したことを特徴とする耐候性透明積層フィルム。 訂正事項b-1 訂正事項a-1ないしa-3による訂正に伴い、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載との整合を図るため、明細書の発明の詳細な説明の段落【0005】の「本発明の要旨は、フッ素系透明樹脂層と……耐候性透明積層フィルムに存する。」を、「本発明の要旨は、フッ素系透明樹脂層と厚さが100μ以下のヒートシール可能な透明樹脂層との間に、厚さが100〜5,000Åの透明なケイ素酸化物薄膜層を積層配置し、ケイ素酸化物薄膜層はフッ素系透明樹脂層の表面に形成されており、ケイ素酸化物薄膜層とヒートシール可能な透明樹脂層との間には必要に応じて透明接着剤層が設けられ、そして、フッ素系透明樹脂層に紫外線吸収剤を添加して紫外線遮断機能を付与したことを特徴とする耐候性透明積層フィルムに存する。又、本発明の要旨は、フッ素系透明樹脂層と厚さが100μ以下のヒートシール可能な透明樹脂層との間に、厚さが100〜5,000Åの透明なケイ素酸化物薄膜層を積層配置し、ケイ素酸化物薄膜層はフッ素系透明樹脂層とヒートシール可能な透明樹脂層との間に位置する他の透明樹脂層の表面に形成されており、フッ素系透明樹脂層側に位置させたケイ素酸化物薄膜層とフッ素系透明樹脂層との間には透明接着剤層が設けられ、ヒートシール可能な透明樹脂層側に位置させた他の透明樹脂層とヒートシール可能な透明樹脂層との間には必要に応じて透明接着剤層が設けられ、そして、フッ素系透明樹脂層、ヒートシール可能な透明樹脂層、又は、ケイ素酸化物薄膜層とフッ素系透明樹脂層との間に設けられた透明接着剤層のいずれか1層以上に紫外線吸収剤を添加して紫外線遮断機能を付与したことを特徴とする耐候性透明積層フィルムに存する。」と訂正する。 訂正事項c-1 明細書の発明の詳細な説明の段落【0029】、同段落【0030】、同段落【0031】、同段落【0031】、及び同段落【0035】に記載された「厚味」を、それぞれ「厚み」に訂正する。 (2)訂正の目的の適否、新規事項の有無及び拡張・変更の存否 訂正事項a-1は、請求項を削除するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。 訂正事項a-2は、 (イ)旧請求項2での引用項としての「請求項第1項記載の」の意味する旧請求項1の「フッ素系透明樹脂層とヒートシール可能な透明樹脂層との間に厚さが100〜5,000Åの透明なケイ素酸化物薄膜層と所望により他の透明樹脂層とを必要に応じて透明接着剤層を介して積層配置し、そして、ケイ素酸化物薄膜層を除く少なくとも1層に紫外線遮断機能を付与した」における「ヒートシール可能な透明樹脂層」を、「厚さが100μ以下のヒートシール可能な透明樹脂層」と訂正すること、 (ロ)同じく、「フッ素系透明樹脂層とヒートシール可能な透明樹脂層との間に厚さが100〜5,000Åの透明なケイ素酸化物薄膜層と所望により他の透明樹脂層とを必要に応じて透明接着剤層を介して積層配置し、そして、ケイ素酸化物薄膜層を除く少なくとも1層に紫外線遮断機能を付与した」における、「ケイ素酸化物薄膜層と所望により他の透明樹脂層とを必要に応じて透明接着剤層を介して積層配置し、」を、「ケイ素酸化物薄膜層を積層配置し、」とすると共に、「ケイ素酸化物薄膜層とヒートシール可能な透明樹脂層との間には必要に応じて透明接着剤層が設けられ、」を加入し、訂正すること、 (ハ)同じく「フッ素系透明樹脂層とヒートシール可能な透明樹脂層との間に厚さが100〜5,000Åの透明なケイ素酸化物薄膜層と所望により他の透明樹脂層とを必要に応じて透明接着剤層を介して積層配置し、そして、ケイ素酸化物薄膜層を除く少なくとも1層に紫外線遮断機能を付与した」における、「ケイ素酸化物薄膜層を除く少なくとも1層」を、「少なくともフッ素系透明樹脂層に」と訂正すること、 (ニ)同じく「フッ素系透明樹脂層とヒートシール可能な透明樹脂層との間に厚さが100〜5,000Åの透明なケイ素酸化物薄膜層と所望により他の透明樹脂層とを必要に応じて透明接着剤層を介して積層配置し、そして、ケイ素酸化物薄膜層を除く少なくとも1層に紫外線遮断機能を付与した」における、「紫外線遮断機能を付与した」を、「紫外線吸収剤を添加して紫外線遮断機能を付与した」と訂正すること、からなるものであるが、 (イ)は、旧請求項2に記載された「ヒートシール可能な透明樹脂層」の厚さを、明細書の段落【0008】の「従って、ヒートシール可能な透明樹脂層の厚さは、100μ以下の範囲から適宜選択するのが好ましい。」の記載に基づいて、100μ以下に特定したものであり、 (ロ)は、旧請求項2に記載された、耐候性透明積層フィルムの積層構造を、明細書の段落【0009】の「透明なケイ素酸化物薄膜層(SO薄膜層)は、フッ素系透明樹脂層とヒートシール可能な透明樹脂層との間に設けられる。」の記載、段落【0017】の「フッ素系透明樹脂層、ヒートシール可能な透明樹脂層、SO薄膜層を表面に有する他の透明樹脂層を互いに積層するには、……透明接着剤を用いるドライラミネート法が好適に用いられる。また、例えば、SO薄膜層を表面に有するフッ素系透明樹脂層のSO薄膜層側にヒートシール可能な透明樹脂層を積層する場合においては、透明接着剤を使用することなく、押出ラミネート法を採用することもできる。」の記載、及び、段落【0022】の「図1に示す透明積層フィルムは、SO薄膜層(2)を表面に有するフッ素系透明樹脂層(1)のSO薄膜層側に、透明接着剤層(4)を介してヒートシール可能な透明樹脂層(3)を積層した2層構造である。」の記載に基づいて、フッ素系透明樹脂層と、このフッ素系透明樹脂層の表面に設けられたケイ素酸化物薄膜層と、このケイ素酸化物薄膜層の上に、必要に応じて透明接着剤層を介して、設けられたヒートシール可能な透明樹脂層からなるものに限定したものであり、 (ハ)は、旧請求項2に記載された紫外線遮断機能を付与した層を、明細書の段落【0019】の「フッ素系透明樹脂層、ヒートシール可能な透明樹脂層、接着剤層のいずれか1層以上に紫外線遮断機能を付与する。」の記載、及び、段落【0029】の実施例1における「紫外線遮断機能を有する透明なポリフッ化ビニル(PVF)フィルム」の記載に基づいて、フッ素系透明樹脂層に特定したものであり、 (ニ)は、旧請求項2に記載された「紫外線遮断機能を付与した」の、紫外線遮断機能を付与する手段を、明細書の段落【0019】の「紫外線吸収剤を添加して紫外線遮断機能を付与する。」の記載に基づいて、紫外線吸収剤を添加するものに特定したものである。 訂正事項a-3は、 (ホ)旧請求項3での引用項としての「請求項第1項記載の」の意味する旧請求項1の「フッ素系透明樹脂層とヒートシール可能な透明樹脂層との間に厚さが100〜5,000Åの透明なケイ素酸化物薄膜層と所望により他の透明樹脂層とを必要に応じて透明接着剤層を介して積層配置し、そして、ケイ素酸化物薄膜層を除く少なくとも1層に紫外線遮断機能を付与した」における、「ヒートシール可能な透明樹脂層」を、「厚さが100μ以下のヒートシール可能な透明樹脂層」と訂正すること、 (へ)同じく「フッ素系透明樹脂層とヒートシール可能な透明樹脂層との間に厚さが100〜5,000Åの透明なケイ素酸化物薄膜層と所望により他の透明樹脂層とを必要に応じて透明接着剤層を介して積層配置し、そして、ケイ素酸化物薄膜層を除く少なくとも1層に紫外線遮断機能を付与した」における、「ケイ素酸化物薄膜層と所望により他の透明樹脂層とを必要に応じて透明接着剤層を介して積層配置し、」を、「ケイ素酸化物薄膜層を積層配置し、」とすると共に、「フッ素系透明樹脂層側に位置させたケイ素酸化物薄膜層とフッ素系透明樹脂層との間には透明接着剤層が設けられ、ヒートシール可能な透明樹脂層側に位置させた他の透明樹脂層とヒートシール可能な透明樹脂層との間には必要に応じて透明接着剤層が設けられ、」を加入し、訂正すること、 (ト)同じく「フッ素系透明樹脂層とヒートシール可能な透明樹脂層との間に厚さが100〜5,000Åの透明なケイ素酸化物薄膜層と所望により他の透明樹脂層とを必要に応じて透明接着剤層を介して積層配置し、そして、ケイ素酸化物薄膜層を除く少なくとも1層に紫外線遮断機能を付与した」における、「ケイ素酸化物薄膜層を除く少なくとも1層に」を、「フッ素系透明樹脂層、ヒートシール可能な透明樹脂層、又は、ケイ素酸化物薄膜層とフッ素系透明樹脂層との間に設けられた透明接着剤層のいずれか1層以上に」と訂正すること、 (チ)同じく「フッ素系透明樹脂層とヒートシール可能な透明樹脂層との間に厚さが100〜5,000Åの透明なケイ素酸化物薄膜層と所望により他の透明樹脂層とを必要に応じて透明接着剤層を介して積層配置し、そして、ケイ素酸化物薄膜層を除く少なくとも1層に紫外線遮断機能を付与した」における、「紫外線遮断機能を付与した」を、「紫外線吸収剤を添加して紫外線遮断機能を付与した」と訂正すること、からなるものであるが、 (ホ)は、旧請求項3に記載された「ヒートシール可能な透明樹脂層」の厚さを、明細書の段落【0008】の「従って、ヒートシール可能な透明樹脂層の厚さは、100μ以下の範囲から適宜選択するのが好ましい。」の記載に基づいて、100μ以下に特定したものであり、 (ヘ)は、旧請求項3に記載された、耐候性透明積層フィルムの積層構造を、明細書の段落【0009】の「透明なケイ素酸化物薄膜層(SO薄膜層)は、フッ素系透明樹脂層とヒートシール可能な透明樹脂層との間に設けられる。」の記載、段落【0017】の「フッ素系透明樹脂層、ヒートシール可能な透明樹脂層、SO薄膜層を表面に有する他の透明樹脂層を互いに積層するには、……透明接着剤を用いるドライラミネート法が好適に用いられる。」の記載、段落【0008】の「ヒートシール可能な透明樹脂層は、フィルムとして積層してもよいし、また、押出ラミネート法で形成してもよい。」の記載、段落【0023】の「図2に示す透明積層フィルムは、……SO薄膜層(2)を表面に有する透明な中間樹脂層(5)を使用した例である。すなわち、中間樹脂層(5)のSO薄膜層側に、透明接着剤層(4)を介してフッ素系透明樹脂層(1)を積層し、非SO薄膜層側に、透明接着剤層(4)を介してヒートシール可能な透明樹脂層(3)を積層した3層構造である。」の記載に基づいて、フッ素系透明樹脂層の表面に、透明接着剤層を介して、他の透明樹脂層の表面に設けられたケイ素酸化物薄膜層を積層し、他の透明樹脂層の他の表面側に、必要に応じて透明接着剤層を介して、ヒートシール可能な透明樹脂層を設けたものに限定したものであり、 (ト)は、旧請求項3に記載された紫外線遮断機能を付与した層を、明細書の段落【0019】の「フッ素系透明樹脂層、ヒートシール可能な透明樹脂層、接着剤層のいずれか1層以上に紫外線遮断機能を付与する。」の記載に基づいて、フッ素系透明樹脂層、ヒートシール可能な透明樹脂層、接着剤層のいずれか1層以上に特定したものであり、 (チ)は、旧請求項3に記載された「紫外線遮断機能を付与した」の、紫外線遮断機能を付与する手段を、明細書の段落【0019】の「紫外線吸収剤を添加して紫外線遮断機能を付与する。」の記載に基づいて、紫外線吸収剤を添加するものに特定したものである。 訂正事項b-1は、訂正事項a-1ないしa-3による特許請求の範囲の訂正に対応して、発明の詳細な説明の記載を整合させるものである。 訂正事項c-1は、「厚味」が味付けに関する用語であることからみて、明らかな誤記の訂正である。 したがって、訂正事項a-1ないしa-3は、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、訂正事項b-1は、明りょうでない記載の釈明を目的とするものであり、訂正事項c-1は、明らかな誤記の訂正を目的とするものである。 さらに、これらの訂正は、願書に添付した明細書及び図面に記載した事項の範囲内においてなされたものであり、実質上特許請求の範囲を拡張又は変更するものではない。 (3)むすび 以上のとおりであるから、上記訂正は、特許法等の一部を改正する法律(平成6年法律第116号)附則第6条第1項の規定によりなお従前の例によるとされる、平成11年改正前の特許法第120条の4第3項において準用する平成6年法律第116号による改正前の特許法第126条第1項ただし書、第2項及び第3項の規定に適合するので、当該訂正を認める。 3.特許異議申立について (1)請求項1ないし2に係る発明 上記のとおり訂正請求は認められるので、本件請求項1ないし2に係る発明(以下、「本件発明1」ないし「本件発明2」という)は、願書に添付された明細書及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲に記載された下記のとおりのものと認められる。 【請求項1】フッ素系透明樹脂層と厚さが100μ以下のヒートシール可能な透明樹脂層との間に、厚さが100〜5,000Åの透明なケイ素酸化物薄膜層を積層配置し、ケイ素酸化物薄膜層はフッ素系透明樹脂層の表面に形成されており、ケイ素酸化物薄膜層とヒートシール可能な透明樹脂層との間には必要に応じて透明接着剤層が設けられ、そして、フッ素系透明樹脂層に紫外線吸収剤を添加して紫外線遮断機能を付与したことを特徴とする耐候性透明積層フィルム。 【請求項2】フッ素系透明樹脂層と厚さが100μ以下のヒートシール可能な透明樹脂層との間に、厚さが100〜5,000Åの透明なケイ素酸化物薄膜層を積層配置し、ケイ素酸化物薄膜層はフッ素系透明樹脂層とヒートシール可能な透明樹脂層との間に位置する他の透明樹脂層の表面に形成されており、フッ素系透明樹脂層側に位置させたケイ素酸化物薄膜層とフッ素系透明樹脂層との間には透明接着剤層が設けられ、ヒートシール可能な透明樹脂層側に位置させた他の透明樹脂層とヒートシール可能な透明樹脂層との間には必要に応じて透明接着剤層が設けられ、そして、フッ素系透明樹脂層、ヒートシール可能な透明樹脂層、又は、ケイ素酸化物薄膜層とフッ素系透明樹脂層との間に設けられた透明接着剤層のいずれか1層以上に紫外線吸収剤を添加して紫外線遮断機能を付与したことを特徴とする耐候性透明積層フィルム。 (2)特許異議申立の概要 申立人は、甲第1号証(特開昭63-99581号公報)及び甲第2号証(特開昭60-201652号公報)を提出して、訂正前の請求項1ないし2に係る発明は甲第1号証に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号の規定に該当し、訂正前の請求項1ないし3に係る発明は甲第1号証及び甲第2号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項第3号の規定に該当するので、訂正前の請求項1ないし3に係る特許は特許法第113条第1項第2号の規定により取り消されるべき旨を、主張している。 (3)甲各号証の記載 甲第1号証には、 1-1)「(1)受光面が高分子樹脂フィルムより成る太陽電池モジュ-ルにおいて、高分子樹脂フィルムが、可視部光線透過率80%以上で、かつ、充填材と易接着化のための表面処理を施した事を特徴とする大陽電池モジュ-ル。 (2)高分子樹脂フィルムに、金属または金属酸化物、または無機酸化物の被膜を形成させることによる表面処理を施した事を特徴とする特許請求の範囲第(1)項記載の太陽電池モジュ-ル。」(特許請求の範囲)、 1-2)「第1図の太陽電池モジュ-ルは、その上部より、耐候性かつ高光線透過率を有する高分子樹脂フィルム(1)、充填剤(2)、それぞれの素子間がリ-ド線及びハンダ付けにより配線された太陽電他素子(3)、充填材(2)、金属板(4)構成されている。」(2頁右上欄2行-6行) 1-3「本発明は、上部の耐候性かつ高光線透過率を有するプラスチックフィルム(1)に特徴を有するものであり、このフィルム(1)につき以下詳細に説明する。……。例えば、パ-フルオロアルコキシ樹脂、……、塩化-3フッ化エチレン樹脂、……から選ばれるフッ素樹脂フィルムのほか、……、又は、紫外線吸収剤(例えば、ベンゾフェノンやベンゾトリアゾ-ルなど)を含浸又は練り込んだポリエチレンテレフタレ-トから選ばれる1種のフィルムまたはこれらの複合フィルムがある。」(2頁右上欄18行-左下欄19行)、 1-4)「充填材は、……、エチレン-酢酸ビニル共重合体(以下、「EVA」と呼ぶ)よりなるシートが通常用いられている。そのため、上記透明かつ耐候性フィルムと充填材を、そのままの状態で熱接着させる事は難しい。本発明においては、充填材と易接着性を得るため、透明かつ耐候性フィルムに下記の表面処理をすることが特徴である。まず、金属をスパッタリングや蒸着等の手法を用いて、被膜形成する方法である。……。本発明者らは、耐候性ポリエステルフィルム(東レ(株)製ルミラ-Q-37;厚さ38μ)の片面に、Alを30Åの厚さでスパッタリングし、Al被膜面に充填材であるEVAシ-トを重ね、順次、太陽電池素子、EVAシ-ト、金属板の順に重ね、130℃ 5分間lkg/cm2 の熱圧で加熱接着させ、その後、150℃、30分間EVAの硬化処理を行った。」(2頁右下欄2行-3頁左上欄4行)、 1-5)「また、金属酸化物、あるいは、無機酸化物の表面処理としては、二酸化ケイ素(SiO2 )の蒸着処理方法を用いた。ここで、二酸化ケイ素は、酸化ケイ素(SiO)に比較し、透明性が非常に高いため、1000Å程度の膜厚としても、十分な透明性は得られる。具体的には、二酸化ケイ素被膜を500Åの厚さで、塩化-3フッ化フィルム上に蒸着し、上述した方法及び加熱接着を行なった。その結果、EVAシ-トとの接着強度を測定したところ、5kg/15mm以上で材質被断した。」(3頁左上欄7-17行)、 1-6)「なお、上記のいずれの表面処理を施した場合においても可視部(特に550nm)における光線透過率は、80%以上であり、十分透過性を有することか測定される。」(3頁右上欄10-13行)、 1-7)「従来の上部透明ガラスに代替した耐候性かつ透明フィルムを用いる事により、このフィルムが充填材と強固に接着し、これにより、軽量簡易で従来と同等の発電効果を持つ太陽電池を作成する事が可能であった。」(3頁左下欄1-5行)が記載されている。 甲第2号証には、 2-1)「(1)150℃以下の温度では溶融軟化しない耐熱性、耐候性樹脂フィルムの内面に、少なくとも、電気絶縁性ガラス状防湿皮膜をその両面に蒸着した耐熱性フィルムを積層した積層体から成る太陽電池モジュ-ル用裏面保護シ-ト。 (2)電気絶縁性ガラス状防湿皮膜が酸化ケイ素を主成分とする特許請求の範囲第(1)項記載の太陽電池モジュ-ル用裏面保護シ-ト。 (3)電気絶縁性ガラス状防湿皮膜の内面に接着性樹脂層を設けて成る特許請求の範囲第(1)項又は第(2)項記載の太陽電池モジュ-ル用裏面保護シ-ト。 (4)接着性樹脂層が、ガラス及び金属に対する接着性を有し、150℃未満好ましくは120℃以下で溶融軟化する樹脂層である特許請求の範囲第(3)項記載の太陽電池モジュ-ル用裏面保護シ-ト。」(特許請求の範囲)、 2-2)「従来一般に太陽電池モジュ-ルは第1図に示す如く上部透明材料(9)がモジュ-ル全体の構造的支持体となったもので、例えばガラス板等の上部透明材料(9)と、塗装鋼板、あるいはAl箔をサンドイッチしたフッ化ビニルシ-ト等の裏面保護シ-ト(11)の間に、相互に配線した単結晶シリコン等よりなる太陽電池素子(7)を挿入し、更に急激な外気条件の変化による素子の損傷防止や電気絶縁性の為に、上部透明材料と下部基板用材料の間を、シリコ-ン樹脂等の充填材(8)で充填し、更に全体をアルミニウム、ステンレス等の枠体(10)を用いて封入固定したものである。 更に近年従来の石油を中心にしたエネルギ-に代替するものとして、太陽光発電の早期実用化が強く求められ、モジュールに使用する充填材(8)も液状のシリコ-ン樹脂からシ-ト状のブチラ-ル樹脂、更にはより低コストなエチレン-酢酸ビニル共重合体樹脂シ-トに変わり、モジュ-ル複合方法も熱プレスのみといった形へ急ピッチで進んでいる。」(1頁右欄10行-2頁左上欄15行) 2-3)「本発明は、……、本来ガラス層に対して接着性の良い接着性樹脂の層を、ガラス状防湿皮膜の保護層及び従来別々であった充填材の役割を担うものとして最内部に設けらることにより、太陽電池モジュール製造作業における大巾な工程短縮、充填材シートの薄膜化等のコストダウンを目的としたものである。」(2頁左下欄5-16行)、 2-4)「第3図は本発明の太陽電池モジュ-ル用裏面保護シ-トの一実施例を示す断面図てあり、耐熱性・耐候性樹脂フィルム(3)、ガラス状防湿皮膜(4)(4′)をその両面に蒸着した耐熱性樹脂フィルム(5)、接着性樹脂層(6)から構成されている。 耐熱性・耐候性樹脂フィルム(3)は、……例えば……フッ素樹脂フィルムのほか、……又は紫外線吸収剤(例えば、ベンゾフェノンやベンゾトリアゾ-ルなど)を含浸又は練り込んだポリエチレンテレフタレ-トから選ばれる一種のフィルムまたはこれらの複合フィルムがあり」(3頁左上欄16行-左下欄5行)、 2-5)「電気絶縁性ガラス状防湿皮膜(4)(4′)をその両面に蒸着した耐熱性樹脂フィルム(5)は、太陽電池モジュール外部から内部へ湿気が侵入して太陽電池素子や内部配線等の部品が劣化することを防止するために設けられるものである。ガラス状防湿皮膜(4)(4′)は蒸着適性、連続皮膜形成性、防湿性及びコストの点を考慮して、酸化ケイ素を主成分とする無機質皮膜か適当てある。……。蒸着皮膜の厚さは、防湿性の点で少なくとも200Å以上必要であるが、1000Å以上になると皮膜にクラックか発生しやすくかえって防湿性を損なう結果となるので、500〜700Åが好ましい。また、蒸着を行なう耐熱性樹脂フィルム(5)としては、……接着適性面で特に制限はなく、……フッ素樹脂フィルムの他、……ポリエチレンテレフタレ-……等よりなるフィルムが挙げられる。」(3頁左下欄13行-右下欄20行)、 2-6)「接着性樹脂層(6)は、保護シ-ト最内面に配されることにより、……従来は裏面保護シ-トとは別々であった充填剤と同様の機能を有するものであり、それ自身が太陽電池素子表面のガラス質及び金属質への接着性を有し、150℃未満、好ましくは120℃以下の温度で溶融軟化する樹脂から成るものである。具体的にはポリビニルブチラール、エチレン-酢酸ビニル共重合体……樹脂が使用され、その厚さは太陽電池モジュールの裏面クッション材としての効果を有効に発揮するために50μ以上であることが好ましい。」(4頁右上欄第10行-18行)が記載されている。 (4)申立人の主張する理由についての判断 [本件発明1について] 甲第1号証には、1-1)ないし1-7の記載から、透明かつ耐光性の塩化-3フッ化エチレン樹脂フィルムの表面に厚さが500Åの透明なケイ素酸化物被膜層を蒸着し、この被膜層面に充填剤であるEVAシートを重ね、順次、太陽電池素子、EVAシート、金属板の順に重ね、加熱接着する太陽電池モジュ-ルの製法が記載されていると認められる。 本件発明1と甲第1号証に記載された発明(以下、「甲1発明」という。)とを対比すると、甲1発明の塩化-3フッ化エチレン樹脂フィルムは、本件発明1のフッ素系透明樹脂層に相当し、甲1発明のEVAシートは、太陽電池素子の受光面側に設けられるものであることからみて透明であり、加熱接着されるものであることからみてヒートシール可能な樹脂層であると認められので、本件発明1のヒートシール可能な透明樹脂層に相当し、甲1発明の透明なケイ素酸化物被膜層は本件発明1の透明なケイ素酸化物薄膜層に相当するから、 両者は、フッ素系透明樹脂層とヒートシール可能な透明樹脂層との間に、厚さが500Åの透明なケイ素酸化物薄膜層を積層配置し、ケイ素酸化物薄膜層はフッ素系透明樹脂層の表面に形成されている積層構造を有している点で共通しているが、 (a)本件発明1はヒートシール可能な透明樹脂層の厚さが100μ以下であるのに対し、甲1発明はEVAシートの厚みを特定していない点、 (b)本件発明1はフッ素系透明樹脂層に紫外線吸収剤を添加して紫外線遮断機能を付与したものであるのに対し、甲1発明はこのような機能を付与していない点、 (c)本件発明1は、フッ素系透明樹脂層とケイ素酸化物薄膜層とヒートシール可能な透明樹脂層とを積層した耐候性透明積層フィルムであるのに対し、甲1発明は、フッ素系透明樹脂層である塩化-3フッ化エチレン樹脂層とケイ素酸化物被膜層との積層体とヒートシール可能な透明樹脂層に相当するEVAシートとが別体であり、塩化-3フッ化エチレン樹脂フィルムの表面に厚さが500Åの透明なケイ素酸化物被膜層を蒸着し、この被膜層面に充填剤であるEVAシートを重ね、順次、太陽電池素子、EVAシート、金属板の順に重ね、加熱接着した太陽電池モジュ-ルの部分構造である点、 の3点で相違していると認められる。 相違点(a)について検討する。 甲第2号証の2-6)には、太陽電池モジュ-ル用裏面保護シ-トにおける接着性樹脂層の厚さは太陽電池モジュールの裏面クッション材としての効果を有効に発揮するために50μ以上であることが好ましいことが記載されているものの、甲1発明は、太陽電池モジュ-ルの表面層すなわち受光面側の層に係るものであり(1-1)参照)、太陽電池モジュールの裏面クッション材としての効果を有効に発揮するために接着剤層の厚さを50μ以上とすると同様の必要性が、太陽電池モジュ-ルの表面層における充填剤であるEVAシートにおいても存在するものとはただちには認められない。 そして、本件発明1は、相違点(a)に係る技術的事項をその要件とすることにより、明細書の段落【0008】に記載から明らかなように、ヒートシール可能な透明樹脂層の層断面からの水分の侵入を防止するという効果を奏するものと認められる。 したがって、本件発明1は、相違点(b)及び相違点(c)について検討するまでもなく、甲第1号証に記載された発明とはいえず、また、甲第1号証及び甲第2号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものともいえない。 [本件発明2について] 本件発明2も、その構成に欠くことのできない事項として、ヒートシール可能な透明樹脂層の厚さが100μ以下であるという要件を有すものであるから、[本件発明1について]の検討において述べたと同様の理由により、甲第1号証に記載された発明とはいえず、また、甲第1号証及び甲第2号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものともいえない。 4.まとめ 以上のとおりであるから、特許異議申立の理由及び証拠によっては、請求項1ないし2に係る特許を取り消すことはできない。 また、他に請求項1ないし2に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり決定する。 |
発明の名称 |
(54)【発明の名称】 耐候性透明積層フィルム (57)【特許請求の範囲】 【請求項1】 フッ素系透明樹脂層と厚さが100μ以下のヒートシール可能な透明樹脂層との間に、厚さが100〜5,000Åの透明なケイ素酸化物薄膜層を積層配置し、ケイ素酸化物薄膜層はフッ素系透明樹脂層の表面に形成されており、ケイ素酸化物薄膜層とヒートシール可能な透明樹脂層との間には必要に応じて透明接着剤層が設けられ、そして、フッ素系透明樹脂層に紫外線吸収剤を添加して紫外線遮断機能を付与したことを特徴とする耐候性透明積層フィルム。 【請求項2】 フッ素系透明樹脂層と厚さが100μ以下のヒートシール可能な透明樹脂層との間に、厚さが100〜5,000Åの透明なケイ素酸化物薄膜層を積層配置し、ケイ素酸化物薄膜層はフッ素系透明樹脂層とヒートシール可能な透明樹脂層との間に位置する他の透明樹脂層の表面に形成されており、フッ素系透明樹脂層側に位置させたケイ素酸化物薄膜層とフッ素系透明樹脂層との間には透明接着剤層が設けられ、ヒートシール可能な透明樹脂層側に位置させた他の透明樹脂層とヒートシール可能な透明樹脂層との間には必要に応じて透明接着剤層が設けられ、そして、フッ素系透明樹脂層、ヒートシール可能な透明樹脂層、又は、ケイ素酸化物薄膜層とフッ素系透明樹脂層との間に設けられた透明接着剤層のいずれか1層以上に紫外線吸収剤を添加して紫外線遮断機能を付与したことを特徴とする耐候性透明積層フィルム。 【発明の詳細な説明】 【0001】 【産業上の利用分野】 本発明は、耐候性透明積層フィルムに関するものであり、詳しくは、防湿性を兼備したヒートシール可能な耐候性透明積層フィルムに関するものである。 【0002】 【従来の技術】 工業部品の中には、透明性を損なわずして紫外線および水分からの保護を必要とするものが少なくない。 例えば、太陽電池には、ガラス板で封止したシリコン単結晶やアモルファスシリコンが使用されている。そして、軽量化や破損防止などの観点から、プラスチックフィルムによる封止方法が検討され、太陽電池の裏面用の封止フィルムには、既に、フッ素系フィルムとアルミ箔との積層フィルムの使用が提案されている。しかしながら、表面用の封止フィルムには、透明性、耐候性、防湿性が必要である。 【0003】 また、EL素子は、消費電力の少ない面状発光体としてLCDディスプレイのバックライトや照明用などに使用されているが、最近では、乗用車のエンブレムとしても使用され始めている。しかしながら、EL素子は、高温多湿の条件下あるいは屋外における紫外線照射下では比較的短期間に発光輝度が低下するという問題があり、従って、現在、封止フィルムとして使用されているPCTFEフィルムより高度の耐候性と防湿性を有する透明封止フィルムの出現が切望されている。 【0004】 【発明が解決しようとする課題】 本発明は、上記実情に鑑みなされたものであり、その目的とするところは、優れた耐候性と防湿性とを有し、ヒートシールが可能な透明積層フィルムを提供することにある。 【0005】 【課題を解決するための手段】 すなわち、本発明の要旨は、フッ素系透明樹脂層と厚さが100μ以下のヒートシール可能な透明樹脂層との間に、厚さが100〜5,000Åの透明なケイ素酸化物薄膜層を積層配置し、ケイ素酸化物薄膜層はフッ素系透明樹脂層の表面に形成されており、ケイ素酸化物薄膜層とヒートシール可能な透明樹脂層との間には必要に応じて透明接着剤層が設けられ、そして、フッ素系透明樹脂層に紫外線吸収剤を添加して紫外線遮断機能を付与したことを特徴とする耐候性透明積層フィルムに存する。又、本発明の要旨は、フッ素系透明樹脂層と厚さが100μ以下のヒートシール可能な透明樹脂層との間に、厚さが100〜5,000Åの透明なケイ素酸化物薄膜層を積層配置し、ケイ素酸化物薄膜層はフッ素系透明樹脂層とヒートシール可能な透明樹脂層との間に位置する他の透明樹脂層の表面に形成されており、フッ素系透明樹脂層側に位置させたケイ素酸化物薄膜層とフッ素系透明樹脂層との間には透明接着剤層が設けられ、ヒートシール可能な透明樹脂層側に位置させた他の透明樹脂層とヒートシール可能な透明樹脂層との間には必要に応じて透明接着剤層が設けられ、そして、フッ素系透明樹脂層、ヒートシール可能な透明樹脂層、又は、ケイ素酸化物薄膜層とフッ素系透明樹脂層との間に設けられた透明接着剤層のいずれか1層以上に紫外線吸収剤を添加して紫外線遮断機能を付与したことを特徴とする耐候性透明積層フィルムに存する。 【0006】 以下、本発明を詳細に説明する。 先ず、フッ素系透明樹脂層について説明する。 本発明においては、フッ素系透明樹脂としては、ポリフッ化ビニル(PVF)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリ塩化三フッ化エチレン(PCTFE)又はこれらのコポリマー若しくは四フッ化エチレンとのコポリマー(PFA、FEP)等の透明なフッ素系樹脂が使用される。そして、フッ素系透明樹脂層の厚さは、特に制限はないが、太陽電池やEL素子の封止用としては10〜300μの範囲から選択される。フッ素系樹脂は、一般的に表面が濡れ難く接着剤による他フィルムとの積層は困難とされているが、例えば、表面をプラズマ処理することにより可能となる。 【0007】 次に、ヒートシール可能な透明樹脂層について説明する。 本発明においては、ヒートシール可能な透明樹脂としては、低密度ポリエチレン、エチレン-酢酸ビニル共重合体、ポリプロピレン、エチレン-アクリル酸塩共重合体(アイオノマー)等の透明な熱可塑性樹脂の一般的なものを使用できる。特に、太陽電池やEL素子の封止用などの高度な防湿用途には、シール面からの透湿を防ぐ意味から、エチレン-アクリル酸共重合(EAA)、エチレン-エチルアクリレート(EEA)が好ましい。 【0008】 ヒートシール可能な透明樹脂層は、フィルムとして積層してもよいし、また、押出ラミネート法で形成してもよい。そして、ヒートシール可能な透明樹脂層は、一般には防湿性が差程よくなく、これが厚すぎると層断面から水分が浸入し易くなる。従って、ヒートシール可能な透明樹脂層の厚さは、100μ以下の範囲から適宜選択するのが好ましい。 【0009】 次に、透明なケイ素酸化物薄膜層について説明する。 透明なケイ素酸化物薄膜層(SO薄膜層)は、フッ素系透明樹脂層とヒートシール可能な透明樹脂層との間に位置するように設けられる。 具体的には、例えば、フッ素系透明樹脂層の表面にSO薄膜層を形成し、これが外面に位置しないようにフッ素系透明樹脂層とヒートシール可能な透明樹脂層とを積層する。 【0010】 また、フッ素系透明樹脂層とヒートシール可能な透明樹脂層以外の他の透明樹脂層の表面にSO薄膜層を形成し、これをフッ素系透明樹脂層とヒートシール可能な透明樹脂層との間に位置させて積層してもよい。そして、上記の他の透明樹脂層としては、例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリプロピレン、ポリエチレン、ナイロン、ポリカーボネート、メチルメタアクリレートなどのフィルムが使用され、未延伸、一軸あるいは二軸延伸されたフィルムのいずれであってもよい。特に、強度、価格等の点から、二軸延伸ポリエチレンテレフタレートフィルムが好適に使用される。 【0011】 他の透明樹脂層の表面にSO薄膜層を形成して使用する場合、SO薄膜層を有する樹脂層は1層だけでもよいが、2層以上にすることにより、より高度で安定した防湿性能が得られる。 【0012】 フッ素系透明樹脂層とヒートシール可能な透明樹脂層との間に設けられたSO薄膜層は、各層によって保護される結果、例えば、ヒートシール時に破壊されることもなく、高い防湿性能を安定して発揮し得る。 【0013】 SO薄膜層の形成は、一酸化ケイ素、二酸化ケイ素またはそれらの混合物等を蒸着原料として、真空蒸着法、スパッタリング法またはイオンプレーティング法のいずれかの方法により行うことができる。その外にも、蒸着原料としてケイ素、一酸化ケイ素、二酸化ケイ素またはそれらの混合物を用い、酸素ガスを供給しながら行なう反応蒸着法も採用することができる。 【0014】 SO薄膜層の形成に先立って、被蒸着フィルムとの間の接着強度を高めるため、アンカーコート剤を使用することも可能である。好適なアンカーコート剤としては、イソシアネート系、ポリエチレンイミン系、有機チタン系などの接着促進剤およびポリウレタンポリエステル系などの接着剤を挙げることができる。また、アンカーコート剤として、ポリエチレン系、ポリエステル系、ポリアミド系の無溶剤タイプの接着剤を使用してもよい。 【0015】 なお、SO薄膜層は、10重量%以下であればその中に不純物として、カルシウム、マグネシウム又はそれらの酸化物等が混入していても、目的とする防湿性能の極端な低下は認められない。 【0016】 SO薄膜層の厚さは、100〜5,000Åの範囲とする必要がある。SO薄膜層の厚さが100Å未満の場合は防湿性能が不十分であり、また、5,000Åを越える場合は、蒸着フィルムにカールが発生して問題となったり、SO薄膜層自体に亀裂や剥離が生じ易いので好ましくない。 【0017】 次に、上記の各層の積層方法について説明する。 フッ素系透明樹脂層、ヒートシール可能な透明樹脂層、SO薄膜層を表面に有する他の透明樹脂層を互いに積層するには、ウレタン系、アクリル系、ポリエステル系などの透明接着剤を用いるドライラミネート法が好適に用いられる。また、例えば、SO薄膜層を表面に有するフッ素系透明樹脂層のSO薄膜層側にヒートシール可能な透明樹脂層を積層する場合などにおいては、透明接着剤を使用することなく、押出ラミネート法を採用することもできる。この場合、ヒートシール可能な透明樹脂層が積層されるSO薄膜層側には、アンカーコート剤を塗布するのが好ましい。 【0018】 本発明の透明積層フィルムは、以上のように構成されるが、全体の厚さは、強度、柔軟性、経済性などの点から、30〜1,100μの範囲が好ましく、より好ましくは50〜350μの範囲である。 【0019】 また、本発明の積層フィルムは、ケイ素酸化物薄膜層を除く少なくとも1層に紫外線遮断機能を付与することが必要である。 すなわち、フッ素系透明樹脂層は、一般には、それ自身優れた耐候性を有して着色劣化することは少ないが、フッ素系透明樹脂層の積層によるのみでは、紫外線の透過防止が十分ではない。そこで、本発明においては、封止される内部の素子および積層される各層を紫外線による劣化から保護するため、フッ素系透明樹脂層、ヒートシール可能な透明樹脂層、接着剤層のいずれかの1層以上に紫外線吸収剤を添加して紫外線遮断機能を付与する。 【0020】 紫外線遮断機能の付与は、フッ素系透明樹脂層または封止フィルムとして使用した際に外側層となる層に対して行うのが好ましい。そして、使用する紫外線吸収剤としては、特に制限はなく、ベンゾフェノン系、ベンゾトリアゾール系などの市販のものが挙げられる。 【0021】 次に、本発明に係る透明積層フィルムの層構造の具体例について説明する。 図1〜図3は、本発明に係る透明積層フィルムの層構造例を示す断面略図である。 【0022】 図1に示す透明積層フィルムは、SO薄膜層(2)を表面に有するフッ素系透明樹脂層(1)のSO薄膜層側に、透明接着剤層(4)を介してヒートシール可能な透明樹脂層(3)を積層した2層構造である。 【0023】 図2に示す透明積層フィルムは、図1に示す透明積層フィルムと異なり、SO薄膜層(2)を表面に有する透明な中間樹脂層(5)を使用した例である。 すなわち、中間樹脂層(5)のSO薄膜層側に、透明接着剤層(4)を介してフッ素系透明樹脂層(1)を積層し、非SO薄膜層側に、透明接着剤層(4)を介してヒートシール可能な透明樹脂層(3)を積層した3層構造である。 【0024】 図3に示す透明積層フィルムは、図2に示す透明積層フィルムと異なり、SO薄膜層(2)を表面に有する透明な中間樹脂層(5)及び(6)を使用した例である。 すなわち、中間樹脂層(5)のSO薄膜層側に、透明接着剤層(4)を介してフッ素系透明樹脂層(1)を積層し、中間樹脂層(6)の非SO薄膜層側に、透明接着剤層(4)を介してヒートシール可能な透明樹脂層(3)を積層する。そして、中間樹脂層(5)の非SO薄膜層側に、透明接着剤層(4)を介して中間樹脂層(6)のSO薄膜層側を積層した4層構造である。 【0025】 【実施例】 以下、本発明を実施例および比較例により更に詳細に説明するが、本発明は、その要旨を越えない限り、以下の実施例に限定されるものではない。 また、以下の諸例において、得られたフィルムの透湿度、透明性、耐候性の測定方法は次の通りであり、SO薄膜層の厚さは、水晶式膜厚計によって測定した値である。 なお、以下の諸例において得られた積層フィルムの構成および物性測定の結果は、表-1及び表-2にまとめて示した。 【0026】 (1) 透湿度(gr/m2・24H) 所定の防湿フィルムから、内寸が100×100mmの3方シール(シール巾10mm)の袋を作成し、袋中に300grの乾燥済みの塩化カルシュウムを充填し、残りの一辺をシールした塩化カルシュウム充填袋を40℃×90%RHの条件下に静置し、経時的な重量増を追跡し、経時日数と重量増の傾配から透湿度を求めた。 【0027】 (2) 透明性 耐候性テストにかける前のフィルムの全光線透過率を日本電色工業製の色差計1001DPで測定し、フィルムの透明性とした。 【0028】 (3) 耐候性 フッ素系樹脂層面にスガ試験機製のサンシャインウェザオメーターにより5000HR紫外線を照射した後、フィルムの全光線透過率を日本電色工業製の色差系1001DPで測定し、UV照射前の全光線透過率からの低下率を耐候性とした。 【0029】 実施例1 紫外線遮断能を有する透明なポリフッ化ビニル(PVF)フィルム(デュポンジャパン製テドラー100BG30UT、厚み25μ)の片面に、5×105Torrの真空下、電子ビーム加熱方式で純度99.9%の一酸化ケイ素(SiO)を加熱蒸発させて厚さ1,000ÅのSO薄膜層を形成させた。 ウレタン系接着剤を用い、上記フィルムのSO薄膜層に厚さ50μのエチレンエチルアクリレートの無延伸フィルムを積層し、透明積層フィルムを得た(図1のフィルム構成)。 【0030】 実施例2 2軸延伸ポリエチレンテレフタレートの透明フィルム(PET)(厚み12μ)の片面に実施例1と同様にして厚さ1,000ÅのSO薄膜層を形成させた。 ウレタン系接着剤を用い、上記フィルムのSO薄膜層側に実施例1で用いたのと同種のPVFフィルムを積層し、非SO薄膜層側に実施例1で用いたのと同種のEEAフィルムを積層し、透明積層フィルムを得た(図2のフィルム構成)。 【0031】 実施例3 2軸延伸ポリエチレンテレフタレートの透明フィルム(PET)(厚み12μ)の片面に実施例1と同様にして厚さ1,000ÅのSO薄膜層を形成させた。 ウレタン系接着剤を用い、上記フィルムのSO薄膜層側にポリ塩化三フッ化エチレン(PCTFE)フィルム(ダイキン工業製ネオフロンDF-0025、厚み25μ)を積層し、非SO薄膜層側に実施例1で用いたのと同種のEEAフィルムを積層し、透明積層フィルムを得た(図2のフィルム構成)。 なお、夫々のフィルムの積層に用いたウレタン系接着剤にはベンゾトリアゾール系の紫外線吸収剤を接着剤固形分(ウレタン系接着剤と紫外線吸収剤の合計量)に対して20wt%添加して積層フィルムに紫外線遮断能を付与した。 【0032】 実施例4 実施例2において、SO薄膜層を有するPETフィルムをPVFとEEAの間に2枚積層した以外は、実施例2と同様にして積層フィルムを得た(図3のフィルム構成)。 【0033】 実施例5 実施例1において、SO薄膜層の厚さを100Åとした以外は、実施例1と同様にして積層フィルムを得た(図1のフィルム構成)。 【0034】 実施例6 実施例2において、SO薄膜層の厚さを100Åとした以外は、実施例2と同様にして積層フィルムを得た(図2のフィルム構成)。 【0035】 比較例1 実施例1において、紫外線遮断能を有するPVFフィルムに代えて紫外線遮断能を有しないPVFフィルム(デュポンジャパン製テドラー100BG30TR、厚み25μ)を用い、SO薄膜層の形成を行わなかった以外は、実施例1と同様にして積層フィルムを得た。 【0036】 比較例2 実施例1において、紫外線遮断能を有するPVFフィルムに代えて紫外線遮断能を有しないPVFフィルム(比較例1と同種のもの)を用い、SO薄膜層の厚さを50Åとした以外は、実施例1と同様にして積層フィルムを得た(図1のフィルム構成)。 【0037】 比較例3 実施例2において、紫外線遮断能を有するPVFフィルムに代えて紫外線遮断能を有しないPVFフィルム(比較例1と同種のもの)を用い、SO薄膜層の厚さを50Åとした以外は、実施例2と同様にして積層フィルムを得た(図2のフィルム構成)。 【0038】 【表1】 【0039】 【表2】 【0040】 【発明の効果】 以上説明した本発明によれば、優れた耐候性と防湿性とを有し、ヒートシールが可能な透明積層フィルムが提供され、本発明の耐候性透明積層フィルムは、特に、太陽電池やEL素子用の保護フィルムとして好適である。 【図面の簡単な説明】 【図1】 本発明に係る透明積層フィルムの層構造例を示す断面略図である。 【図2】 本発明に係る透明積層フィルムの層構造例を示す断面略図である。 【図3】 本発明に係る透明積層フィルムの層構造例を示す断面略図である。 【符号の説明】 1・・・・・フッ素系透明樹脂層 2・・・・・透明なケイ素酸化物薄膜層 3・・・・・ヒートシール可能な透明樹脂層 4・・・・・接着剤層 5,6・・・透明な中間樹脂層 |
訂正の要旨 |
審決(決定)の【理由】欄参照。 |
異議決定日 | 2004-07-06 |
出願番号 | 特願平3-24055 |
審決分類 |
P
1
651・
121-
YA
(B32B)
P 1 651・ 113- YA (B32B) |
最終処分 | 維持 |
前審関与審査官 | 中島 庸子 |
特許庁審判長 |
高梨 操 |
特許庁審判官 |
石井 克彦 鴨野 研一 |
登録日 | 1999-11-12 |
登録番号 | 特許第3001654号(P3001654) |
権利者 | 三菱化学株式会社 |
発明の名称 | 耐候性透明積層フィルム |
代理人 | 長谷川 曉司 |
代理人 | 長谷川 曉司 |