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審決分類 審判 全部申し立て 5項1、2号及び6項 請求の範囲の記載不備  C09D
審判 全部申し立て 特36 条4項詳細な説明の記載不備  C09D
管理番号 1104403
異議申立番号 異議2003-70965  
総通号数 59 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 1996-12-10 
種別 異議の決定 
異議申立日 2003-04-15 
確定日 2004-07-23 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第3334435号「ボールペン用水性顔料インキ」の請求項1に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 訂正を認める。 特許第3334435号の請求項1に係る特許を取り消す。 
理由 1.手続の経緯
本件特許第3334435号の請求項1に係る発明は、平成7年5月31日の出願であって、平成14年8月2日に特許権の設定登録され、その後、株式会社サクラクレパスから特許異議の申立てがなされ、取消しの理由が通知され、再度取消しの理由が通知され、その指定期間内である平成15年12月2日に訂正請求がなされ、特許権者に審尋がなされ、回答書が提出されたものである。

2.訂正の適否についての判断
(ア)訂正の内容
訂正請求は、本件特許明細書を訂正請求書に添付した訂正明細書のとおりに訂正しようとするものであって、その訂正の内容は次の(a)、(b)のとおりである。
(a)特許請求の範囲の請求項1に、「粘度が6000〜50000センチポイズ(E型粘度計、stローター、25℃)」とあるのを、「E型粘度計、stローターで測定可能な回転数における粘度が6000〜50000センチポイズ(25℃)」と訂正する。
(b)明細書段落【0006】に、「粘度が6000〜50000センチポイズ(E型粘度計、stローター、25℃)」とあるのを、「E型粘度計、stローターで測定可能な回転数における粘度が6000〜50000センチポイズ(25℃)」と訂正する。

(イ)訂正の目的の適否、新規事項の有無及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否
上記訂正事項(a)は、E型粘度計、stローターによる測定の際の回転数を特定するものであるが、もともと、E型粘度計は、回転数を8とおりに切り替えられるようになっていて、いずれかの回転数を選択して測定するものであり、その中から25℃において6000〜50000センチポイズの粘度が測定可能な回転数を選択することに限定したものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。そして、この限定は、E型粘度計の構造に基づく8とおりの回転数のうち、当然選択されるべき特定範囲の粘度が測定可能な回転数を採用するものであるから、新規事項を追加するものではなく、実質的に特許請求の範囲を拡張し又は変更するものでもない。
また、上記訂正事項(b)は、発明の詳細な説明の記載を特許請求の範囲の訂正に整合させるものであるから、明りょうでない記載の釈明を目的とするものであり、新規事項を追加するものではなく、実質的に特許請求の範囲を拡張又は変更するものでもない。

(ウ)むすび
以上のとおりであるから、上記訂正は、特許法第120条の4第3項において準用する平成6年法律第116号による改正前の特許法第126条第1項ただし書及び第2項の規定に適合するので、当該訂正を認める。

3.特許異議の申立てについての判断
(ア)本件発明
前述のように、本件訂正は適法なものであるので、本件の請求項1に係る発明は、上記訂正に係る訂正明細書の特許請求の範囲請求項1に記載された次のとおりのものである。
「【請求項1】酸化チタンと、樹脂粒子と、増粘性水溶性樹脂と、結合剤と、水とを少なくとも含み、E型粘度計、stローターで測定可能な回転数における粘度が6000〜50000センチポイズ(25℃)であり、インキ中の固形分比率が15〜30体積%であるボールペン用水性顔料インキ。」
(以下、「本件発明」という。)

(イ)当審で通知した取消しの理由
当審で通知した2回目の取消しの理由の概略は、次の2点の理由により、訂正前の本件特許明細書は、その記載が不備のため、平成6年法律第116号による改正前の特許法第36条第4項、第5項及び第6項に規定する要件を満たしていない、というものである。
(1)本件発明のボールペン用水性顔料インキは、粘度が「6000〜50000センチポイズ(E型粘度計、stローター、25℃)」(特許請求の範囲)と特定されており、「インキ粘度が6000センチポイズより低い場合、顔料の沈降分離が大きくなり、特に、上向きに放置された場合の筆跡濃度が極端に低くなり、50000センチポイズより高い場合、インキの吐出性が低く、書き難くなる。」(本件特許明細書段落【0011】)とあるように、所期の目的を達成するために特定の粘度範囲にあることが必要とされる。
しかし、本件発明のインキは、増粘性水溶性樹脂を成分とすることから非ニュートン流体のインキであるが、非ニュートン流体を回転粘度計であるE型粘度計で測定すると、その測定時のローターの回転数によりみかけ粘度が変化するので、ローターの回転数が特定されなければインキの粘度が所期の目的を達成するための臨界的な粘度(6000センチポイズ及び50000センチポイズ)を一義的に定めることができない。
そうしてみると、本件発明のボールペン用水性顔料インキにおいて、測定時におけるE型粘度計のローターの回転数の特定は発明の構成に欠くことができない事項であると認められるが、当該事項が特許請求の範囲に記載されていない。
(2)本件発明のボールペン用水性顔料インキは、「インキ粘度が6000センチポイズより低い場合、顔料の沈降分離が大きくなり、特に、上向きに放置された場合の筆跡濃度が極端に低くなり、50000センチポイズより高い場合、インキの吐出性が低く、書き難くなる。」ことから、粘度を「6000〜50000センチポイズ(E型粘度計、stローター、25℃)」と特定するものであり、実施例1と比較例1、実施例3と比較例3のおのおのがこの効果の確認のためのものと考えられる。
ところで、本件発明のインキはニュートン流体ではないので、実施例1と比較例1、実施例3と比較例3の粘度を個々に対比するにあたってローターの回転数の特定は必要な条件である。
しかしながら、本件特許明細書中には、ローターの回転数についてなんらの記載もないので、実施例1と比較例1、実施例3と比較例3のおのおのの粘度をそのまま対比することができず、本件発明のインキにおける粘度「6000センチポイズ」及び「50000センチポイズ」が臨界的な意義を有するものであると認めることができない。
したがって、本件特許明細書の発明の詳細な説明に、当業者が容易に実施をすることができる程度に、その発明の目的、構成及び効果を記載しているとすることができない。

(ウ)本件特許権者の主張
本件特許権者は、上記取消しの理由に対し、意見書(平成15年12月2日付け)において、次の(i)、(ii)の主張をしている。
(i)「『E型粘度計、stローター』にて測定できる回転数は無限ではなく、0.5rpm〜100rpmの間であります。言うなれば、本件の特許請求の範囲は、『E型粘度計、stローター、25℃』という条件の元で、『最大の粘度値が6000センチポイズに満たないインキ及び最小の粘度値が50000センチポイズを超えるインキ』を範囲に含まないとするものであります。本件の特許請求の範囲の記載は、『E型粘度計、stローター(25℃)』という記載で粘度の測定条件を特定しており、この条件で所期の目的を達成するための臨界的な粘度の範囲は一義的に定まるので、本件の特許請求の範囲の記載は、発明の構成に欠くことができない事項が記載されていることは明らかです。」(第4頁6〜16行)
(ii)「明細書の各実施例、比較例に記載した粘度値は、E型粘度計、stローターによる測定では、回転数によって精度の期待できる測定範囲が決まっていることと(また、一般的な測定常識では、測定限界近傍の測定値を取り上げるべきではないと思料されます。)、また、本件の明細書に記載の各実施例、比較例は回転数が高いと低い粘度の測定値が得られる傾向にあることから、実施例1及び比較例1のインキでは、回転数2.5rpm、5rpm、10rpmでの測定値の最大値を、実施例3及び比較例3のインキでは、回転数0.5rpm、lrpmでの測定値の最小値を記載したものであります。実施例1のインキでは、各回転数における得られた粘度値の最大値が8000センチポイズであり、6000センチポイズ〜50000センチポイズの範囲に該当する粘度値が得られるインキであり、比較例1のインキでは、各回転数における得られた粘度値の最大値が4500センチポイズであり、6000センチポイズ〜50000センチポイズの範囲に該当する粘度値が得られないインキであります。また、実施例3のインキでは、各回転数における得られた粘度値の最小値が40000センチポイズであり、6000センチポイズ〜50000センチポイズの範囲に該当する粘度値が得られるインキであり、比較例3のインキでは、各回転数における得られた粘度値の最小値が54000センチポイズであり、6000センチポイズ〜50000センチポイズの範囲に該当しない粘度値が得られるインキであります。
そして、そのように、各実施例、比較例において、測定可能ないずれかの粘度測定値が6000センチポイズ〜50000センチポイズに合致するものでは、筆記線も鮮明で、上澄みも認められなく、これに対して粘度測定値が上記範囲に合致しないものでは、酸化チタンの沈降による上澄みが認められる(比較例1)か、筆跡がかなり黒ずんだ(比較例3)が得られており、5000センチポイズ、60000センチポイズの数値の臨界的意義について示されています。よって、本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載は、当業者が容易に実施することができる程度に、その発明の目的、構成及び効果を記載しているものと確信致します。」(第4頁25行〜第5頁25行)

また、当審での審尋に対する回答書(平成16年5月7日付け)では、「E型粘度計、stローター」の回転数に対する測定可能範囲として次のように主張している。
「『E型粘度計、stローター』の回転数に対する測定可能範囲は、各回転数の換算乗数にE型粘度計の目盛値の最大値である100を乗じた値が上限値となり、この最大値の10%の値が下限値(添付参考資料を参照ください)となります。
各回転数における換算乗数と上限値、下限値は次の通りです。

よって、実施例1及び比較例1について「回転数2.5rpm、5rpm、10rpmでの測定値の最大値」を採用しているのは、実施例1及び比較例1についての粘度の測定結果が『E型粘度計、stローターで測定可能な回転数における粘度』を超えているのでlrpmでの測定値を採用していないのであり・・・ます。」(第2頁22行〜第3頁7行)と主張している。
回答書に添付の参考資料(JIS-K5600-2-3)には、コーンプレート又は同心円円筒形粘度計による粘度の測定の際の目盛の読みについて、「高度の正確な読みが必要であれば、読みは目盛の最初の10%以上で行う。」(第2頁、7.1.2の備考)と記載されている。

(エ)当審の判断
(a)理由(1)について
訂正前の請求項1には粘度について、「6000〜50000センチポイズ(E型粘度計、stローター、25℃)」と記載されていたが、訂正により、「E型粘度計、stローターで測定可能な回転数における粘度が6000〜50000センチポイズ(25℃)」とされ、これにより粘度は、「E型粘度計、stローター」の固有の8とおりの回転数、すなわち、0.5、1、2.5、5、10、20、50、100rpmのいずれかの回転数のうち、測定試料の粘度を測定可能な回転数で測定することにより求められるとされた。
しかし、上記本件特許権者の主張(ii)に「回転数2.5rpm、5rpm、10rpmでの測定値」とあるように、ある試料の粘度測定において測定可能な回転数は複数あり、本件発明のインキのような非ニュートン流体の場合、それぞれの回転数で測定される粘度は異なるので、6000センチポイズまたは50000センチポイズをまたいで粘度が測定されることが有り得る。
そうしてみると、上記訂正された特許請求の範囲においても、依然として、本件発明のインキが所期の目的を達成するための臨界的な粘度を一義的に定めることができない。
したがって、本件特許明細書の特許請求の範囲は、特許を受けようとする発明の構成に欠くことができない事項のみが記載されているとすることができない。

なお、本件特許権者は、「本件の特許請求の範囲は、『E型粘度計、stローター、25℃』という条件の元で、『最大の粘度値が6000センチポイズに満たないインキ及び最小の粘度値が50000センチポイズを超えるインキ』を範囲に含まないとするものであります。」と主張するが、特許請求の範囲及び発明の詳細な説明の記載を検討しても、そのようにしか解せないとされるものではなく、E型粘度計、stローター、25℃という条件の元で、測定可能な回転数において測定される複数の粘度が、「いずれかが6000〜50000センチポイズの範囲にある」とも「いずれも6000〜50000センチポイズの範囲にある」とも解することができるので、本件特許権者の上記主張は採用できない。

(b)理由(2)について
上記したように、訂正により、測定試料の粘度が測定可能な回転数での測定によって求められると特定されたが、ある試料の粘度測定において測定可能な回転数は複数あり、それぞれの回転数で測定される粘度は異なるので、本件特許明細書の実施例1と比較例1、実施例3と比較例3において、測定の際の回転数が不明であるため、粘度をそのまま対比することができず、本件発明のインキにおける粘度「6000センチポイズ」及び「50000センチポイズ」の臨界的な意義を確認することができない。
したがって、本件特許明細書の発明の詳細な説明には、依然として、当業者が容易に実施をすることができる程度に、その発明の目的、構成及び効果が記載されているとすることができない。

なお付言するならば、本件特許権者は、実施例1及び比較例1のインキでは、回転数2.5rpm、5rpm、10rpmでの測定値の最大値を、実施例3及び比較例3のインキでは、回転数0.5rpm、lrpmでの測定値の最小値を記載したものと主張する。しかし、「E型粘度計、stローター」が、複数の回転数で測定可能であるとしても、測定可能な回転数で測定される複数の粘度を採用すること、さらには、粘度の最大値、最小値を採用することについて、本件特許明細書にはなんら記載されるものではない。
また、実施例1及び比較例1のインキで、回転数2.5rpm、5rpm、10rpmの測定値を採用しているのは、審尋に対する回答書の記載からすると、回答書の表の下限値を採用したことによると認められる。この下限値の設定は、添付の参考資料の「高度の正確な読みが必要であれば、読みは目盛の最初の10%以上で行う」との記載を根拠とするものであるが、あくまで「高度の正確な読みが必要」であることを前提にするもので、本件発明が特に高度の正確さを要するものとは考えられないこと、さらには、本件特許権者の出願に係る甲第1号証(特開平6-287499号公報)において、「粘度が6000〜100000センチポイズ(E型粘度計、stローター、1rpm、25℃)であるボールペン用水性白色顔料インキ」(特許請求の範囲)とあるように、6000センチポイズ程度の粘度は回転数1rpmでも測定できることからすれば、実施例1及び比較例1で、「回転数2.5rpm、5rpm、10rpm」のみを採用していること自体妥当なこととすることはできない。

4.むすび
以上のとおりであるから、本件発明に係る特許出願は、平成6年法律第116号による改正前の特許法第36条第4項、第5項及び第6項に規定する要件を満たしていない。
したがって、本件発明についての特許は拒絶の査定をしなければならない特許出願に対してされたものと認める。
よって、特許法等の一部を改正する法律(平成6年法律第116号)附則第14条の規定に基づく、特許法等の一部を改正する法律の施行に伴う経過措置を定める政令(平成7年政令第205号)第4条第2項の規定により、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
ボールペン用水性顔料インキ
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】 酸化チタンと、樹脂粒子と、増粘性水溶性樹脂と、結合剤と、水とを少なくとも含み、E型粘度計、stローターで測定可能な回転数における粘度が6000〜50000センチポイズ(25℃)であり、インキ中の固形分比率が15〜30体積%であるボールペン用水性顔料インキ。
【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】
本発明は、インキ収容室に直接インキを充填する型のボールペンに用いる、酸化チタンと、樹脂粒子とを含むインキであって、特に黒画用紙のような目の粗い暗色紙への筆記を良好にしたボールペン用水性顔料インキに関する。
【0002】
【従来の技術】
従来、白色顔料を着色剤として用いたインキとしては、特開平4-258677号公報に記載されたインキがある。このインキは酸化チタンなどの隠蔽材と、樹脂エマルジョンなどの結合剤と水とより少なくともなり、粘度が数10〜数100センチポイズであって、修正液やマーキングペンに使用できる。
上記インキは、着色剤として比重の大きな酸化チタンを使用しているために、短期間で酸化チタンが沈降してしまうので、使用前に撹拌して、沈降した酸化チタンを再分散してから使用するものである。
【0003】
上記のインキに対し、使用前の撹拌による酸化チタンの再分散を不要とした水性白色顔料インキも提案されている。例えば、特開昭59-217776号公報は、(A)酸化チタン100重量部当りケイ酸アルミニウム系顔料5〜100重量部を配合した混合顔料と、(B)炭素-炭素二重結合を有する不飽和化合物モノマーと不飽和カルボン酸モノマーとの共重合体であって酸価30〜500を有するものとを、(A)成分と(B)成分との重量比が20:1ないし1:2になる割合で含有する水性分散液からなる水性顔料組成物を要旨とするものであるが、発明の詳細な説明の中に、ポリアクリル酸ソーダを使用して粘度を10000センチポイズとしたインキが開示されている。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
上記、特開平4-258677号公報に記載されているようなインキをボールペンに使用した場合、使用前に撹拌して沈降した酸化チタンを再分散することが出来ないので筆記が不能になってしまう。特に、インキ粘度が数10〜数100センチポイズであると、酸化チタンの沈降物は再分散不可能なハードケーキ化し易いため実用化がほとんど不可能である。
【0005】
また、特開昭59-217776号公報に記載されているポリアクリル酸ソーダを使用して粘度を10000センチポイズとしたインキであっても、ポリアクリル酸ソーダのような増粘剤を使用しただけでは酸化チタンの沈降を遅くすることは出来ても、防止することは出来ない。
更に、このインキではインキ中の固形分(酸化チタン及びケイ酸アルミニウム系顔料などのように水に対して不溶解なもの)が低い(12体積%)ため、黒画用紙の様な目の粗い暗色紙に筆記した場合、紙の中に顔料が浸透してしまい筆跡が薄くなってしまうという問題が発生する。
【0006】
【課題を解決するための手段】
本発明は、酸化チタンと、樹脂粒子と、増粘性水溶性樹脂と、結合剤と、水とを少なくとも含み、E型粘度計、stローターで測定可能な回転数における粘度が6000〜50000センチポイズ(25℃)であり、インキ中の固形分比率が15〜30体積%であるボールペン用水性顔料インキを要旨とする。
【0007】
以下、詳細に説明する。
酸化チタンは、着色剤または隠蔽材として使用するものであり、ルチル型、アナターゼ型などの各種の酸化チタンが使用できる。市販の酸化チタンとしては、タイトーンSR-1、同R-650、同R-3L、同A-110、同A-150、同R-5N(以上、堺化学工業(株)製)、タイペークR-580、同R-930、同A-100、同A-220、同CR-58(以上、石原産業(株)製)、クロノスKR-310、同KR-380、同KR-480、同KA-10、同KA-20、同KA-30(以上、チタン工業(株)製)、タイピュアR-900、同R-931(デュポン・ジャパン・リミテッド社製)、チタニックスJR-300、同JR-600A、同JR-800、同JR-801(以上、テイカ(株)製)等が挙げられる。
【0008】
樹脂粒子は、インキ中の固形分の平均比重を小さくし、酸化チタンの沈降を防止するとともに、酸化チタンの紙への浸透を防止するために使用するものであって、材質としてはポリエチレン、ポリプロピレン、塩化ビニル、ポリメタクリレート、ベンゾグアナミン、ナイロン等が挙げられ、形状としては球状のもの、異形のものや中空のものなどが挙げられる。また、染料などで着色したものも使用できる。
市販の樹脂粒子としては、MP-1000(ポリメチルメタクリレート、綜研化学(株)製)、エポスターS(メラミン・ホルムアルデヒド縮合物、日本触媒化学工業(株)製)ナイロンSP(ナイロン、東レ(株)製)、塩化ビニル#121(塩化ビニル、日本ゼオン(株)製)などが挙げられる。中空の樹脂粒子としては、MH5055(固形分30%)(日本ゼオン(株)製)、SX863(A)(固形分20%)、SX864(B)(固形分40%)、SX865(B)(固形分48%)(以上、日本合成ゴム(株)製)、ローペイクOP-62(固形分42.5%)、同OP-84J(固形分37.5%)、同OP-91(固形分27.5%)(以上、ローム・アンド・ハース・ジャパン(株)製)などが挙げられる。
染料などで着色した樹脂粒子としては、SW-11(レッド・オレンジ、色調、以下同じ)、SW-12(グリーン)、SW-13(レッド)、SW-14(オレンジ)、SW-15(レモン・イエロー)、SW-16(オレンジ・イエロー)、SW-17(ピンク)、SW-27(ローズ)、SW-37(ルビン)、SW-47(バイオレット)、SW-18(ブルー)(以上、シンロイヒ(株)製)、LUMIKOL NKW-2101(レッドオレンジ)、同NKW-2102(グリーン)、同NKW-2103(レッド)、同NKW-2104(オレンジ)、同NKW-2108(ブルー)、同NKW-2117(ピンク)、同NKW-2127(ローズ)、同NKW-2137(ルビン)、同NKW-2167(バイオレット)(以上、不揮発分51〜54%)(以上、日本蛍光化学(株)製)などが挙げられる。
上記、樹脂粒子は1種又は2種以上混合して使用可能である。
【0009】
増粘性水溶性樹脂は、インキの粘度を調整するために使用するもので、少量の添加量で効果を発現するものである。具体的には、ポリビニルピロリドン、ポリエチレンオキサイド、ポリアクリル酸塩、メチルビニルエーテル無水マレイン酸共重合体といった合成系(共)重合物や、ナトリウムカルボキシメチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース等のセルロース系高分子や、グァーガム、キサンタンガム、ウエランガム、ラムザンガム、ローカストビーンガム等の天然系高分子の外、水添ヒマシ油、ポリカルボン酸アミド等のゲル化剤といったものが挙げられる。これらの増粘性水溶性樹脂は1種又は2種以上混合しても使用できる。
その使用量は、本ボールペン用水性顔料インキが適切な粘度(6000〜50000センチポイズ)を示すように設定されるが、ボールペン用水性顔料インキ全量に対し0.1〜2.0重量%が好ましい。
【0010】
結合材は、インキの塗膜を紙面に定着させるために使用するものである。具体的には、スチレン-アクリル酸共重合体のアルカリ金属塩、アミン塩、アンモニウム塩、α-メチルスチレン-アクリル酸共重合体のアルカリ金属塩、アミン塩、アンモニウム塩、スチレン-アクリル酸エステル-アクリル酸共重合体のアルカリ金属塩、アミン塩、アンモニウム塩の外、アクリル系樹脂、酢酸ビニル系樹脂、スチレン-ブタジエン共重合物などの水不溶性樹脂などが挙げられる。尚、水不溶性樹脂は、当然、水性エマルジョンの形態で使用する。
その使用量はボールペン用水性顔料インキ全量に対し3〜20重量%が好ましい。
【0011】
本発明のボールペン用水性顔料インキは、6000〜50000センチポイズであることが必要である。これはボールペン用インキとして書き易さに優れ、インキ吐出が良好であり、十分な筆跡濃度を保証するためである。インキ粘度が6000センチポイズより低い場合、顔料の沈降分離が大きくなり、特に、上向きに放置された場合の筆跡濃度が極端に低くなり、50000センチポイズより高い場合、インキの吐出性が低く、書き難くなる。
【0012】
更に、インキ中の固形分比率は15〜30体積%であることが必要である。これは目の粗い黒画用紙のようなものに筆記した場合にでも、十分な筆跡濃度を保証するためである。固形分比率が15体積%以下では、目の粗い黒画用紙のような浸透しやすい紙に筆記した場合、顔料が紙中に浸透し筆跡が薄くなってしまい、30体積%以上では、インキがボールペンチップに目詰まりしやすく、筆記不能になり易い。
本発明でいう固形分とは、酸化チタン及び樹脂粒子のような水に不溶解性物質を指し、後述する着色顔料や体質顔料を使用する場合には、これらも含まれる。但し、上記、水性エマルジョンの形態で使用する、アクリル系樹脂、酢酸ビニル系樹脂、スチレン-ブタジエン共重合物などの水不溶性樹脂は含まない。
固形分中において、酸化チタンは40体積%以上が好ましい。
なお、固形分比率は式1により算出するが、固形分の体積は、インキに使用した水不溶解性物質各々の和であり、水不溶解性物質各々の体積の値は、使用量(重量)を比重で割った値である。
固形分比率=固形分の体積/インキの体積 (式1)
【0013】
上記成分以外、筆記具用水性インキに用いられる種々の添加剤を適宜必要に応じて使用することもできる。例えば、インキの蒸発防止のためにエチレングリコール、プロピレングリコール、グリセリン等の水溶性有機溶剤及びソルビット、キシリット等の糖アルコールや、防腐剤や、筆記感を向上するためにポリエチレングリコール、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレングリコール等の潤滑剤や、無機顔料、有機顔料といった着色材や、体質顔料などが挙げられる。
【0014】
本発明のボールペン用水性顔料インキを製造するに際しては、種々の方法が採用できるが、例えば上記各成分を配合し、これをボールミル、サンドグラインダー、スピードラインミル、三本ロールミル等の分散機により混合分散すれば容易に得られる。
【0015】
【作用】
水不溶解物が酸化チタンのみであるボールペン用インキは、酸化チタンの沈降を完全には防止することが困難であり、沈降によって生じる凝集体がボールペンのボールの回転により破壊されない強固なものになるため、インキに経時的に分離が発生したり、筆記不能となったりする。
本発明のボールペン用水性顔料インキは、比重が酸化チタンの1/3〜1/5の樹脂粒子を併用することにより、インキ中の固形分の全体の比重が下がり、酸化チタンの沈降の抑制効果が大きく、また、樹脂粒子が酸化チタンと共に沈降することにより凝集体の中に取り込まれ、強固な凝集体の生成を防止する。
しかも、本発明のボールペン用水性顔料インキは、粘度が6000〜50000センチポイズであるので、顔料が紙中に浸透しにくく、更に、固形分比率を15〜30体積%としたので、たとえ紙中に固形分が少量浸透しても筆跡濃度の低下は少ない。その為、黒画用紙のような目の粗い暗色紙に筆記しても鮮明な筆跡が得られる。
【0016】
【実施例】
実施例1
タイピュアR900(酸化チタン) 100重量部
MP-1000(樹脂粒子) 30重量部
ジャガーHP60(ガーガム誘導体、三晶(株)製)の3重量%水溶液
25重量部
ジョンクリルJ61J(スチレン-アクリル共重合体アンモニウム塩、固形分30.6%、ジョンソンポリマー(株)製)
10重量部
エチレングリコール 10重量部
グリセリン 10重量部
TL10(非イオン系界面活性剤、日光ケミカルズ(株)製) 2重量部
水 160重量部
上記各成分中、ジャガーHP60の3重量%水溶液以外の各成分を混合し、ボールミルで24時間分散処理を行った後、ジャガーHP60の3重量%水溶液を加えて1時間撹拌を行い、粘度8000センチポイズ、固形分16.6体積%(酸化チタン9.0体積%、樹脂粒子7.6体積%)のボールペン用顔料インキを得た。
【0017】
実施例2
クロノスKR380(酸化チタン) 100重量部
LUMIKOL NKW2108(樹脂粒子、固形分53重量%)
40重量部
ケルザンAR(キサンタンガム)の6重量%水溶液 25重量部
ジョンクリルJ61J(スチレンーアクリル共重合体アンモニウム塩)
20重量部
エチレングリコール 10重量部
グリセリン 10重量部
TL10(非イオン系界面活性剤) 3重量部
水 132重量部
上記各成分中、LUMIKOL NKW2108、ケルザンARの6重量%水溶液以外の各成分を混合し、ボールミルで24時間分散処理を行った後、LUMIKOL NKW2108、ケルザンARの6重量%水溶液を加えて1時間撹拌を行い、粘度20000センチポイズ、固形分15.7体積%(酸化チタン9.3体積%、樹脂粒子6.4体積%)のボールペン用顔料インキを得た。
【0018】
実施例3
タイピュアR900(酸化チタン) 100重量部
MP-1000(樹脂粒子) 8重量部
ケルザンAR(キサンタンガム)の6重量%水溶液 45重量部
ジョンクリルJ711(アクリル系エマルジョン、固形分42%、ジョンソンポリマー(株)製)
14重量部
PO20(糖アルコール、固形分75% 東和化成工業(株〉製))
10重量部
TL10(非イオン系界面活性剤、前述) 2重量部
水 81重量部
上記各成分中、ケルザンARの6重量%水溶液以外の各成分を混合し、ボールミルで24時間分散処理を行った後、ケルザンARの6重量%水溶液を加えて1時間撹拌を行い、粘度40000センチポイズ、固形分16.5体積%(酸化チタン13.2体積%、樹脂粒子3.0体積%)のボールペン用顔料インキを得た。
【0019】
実施例4
タイピュアR931(酸化チタン) 85重量部
エポスターS(樹脂粒子) 46重量部
ケルザンT(キサンタンガム、三晶(株)製)の3重量%水溶液
10重量部
ジョンクリルJ711(前述) 14重量部
エチレングリコール 10重量部
グリセリン 10重量部
PO20(糖アルコール、前述) 10重量部
TL10(非イオン系界面活性剤、前述) 2重量部
水 167重量部
上記各成分中、ケルザンTの3重量%水溶液以外の各成分を混合し、ボールミルで24時間分散処理を行った後、ケルザンTの3重量%水溶液を加えて1時間撹拌を行い、粘度8000センチポイズ、固形分19.3体積%(酸化チタン8.7体積%、樹脂粒子10.6体積%)のボールペン用顔料インキを得た。
【0020】
実施例5
タイピュアR900(酸化チタン) 100重量部
LUMIKOL NKW2108(樹脂粒子、固形分53%) 40重量部
ケルザンAR(キサンタンガム)の6重量%水溶液 22重量部
ジョンクリルJ711(アクリル系エマルジョン、前述) 14重量部
エチレングリコール 10重量部
グリセリン 10重量部
PO20(糖アルコール、前述) 10重量部
TL10(非イオン系界面活性剤、前述) 2重量部
水 70重量部
上記各成分中、LUMIKOL NKW2108、ケルザンAR以外の各成分を混合し、ボールミルで24時間分散処理を行った後、LUMIKOL NKW2108、ケルザンARを加えて1時間撹拌を行い、粘度20000センチポイズ、固形分20.7体積%(酸化チタン12.3体積%、樹脂粒子8.4体積%)のボールペン用顔料インキを得た。
【0021】
実施例6
タイピュアR900(酸化チタン) 100重量部
SX863(P)(樹脂粒子、固形分20%、日本合成ゴム(株)製)
27重量部
ジャガーHP60(ガーガム誘導体)の3重量%水溶液 15重量部
ジョンクリルJ61J(アクリルースチレン共重合体アンモニウム塩、固形分30.6%、前述)
20重量部
エチレングリコール 10重量部
グリセリン 10重量部
PO20(糖アルコール、前述) 10重量部
TL10(非イオン系界面活性剤、前述) 2重量部
水 86重量部
上記各成分中、ジャガーHP60の3重量%水溶液以外の各成分を混合し、ボールミルで24時間分散処理を行った後、ジャガーHP60の3重量%水溶液を加えて1時間撹拌を行い、粘度10000センチポイズ、固形分28.1体積%(酸化チタン11.4体積%、樹脂粒子16.9体積%)のボールペン用顔料インキを得た。
【0022】
実施例7
タイピュアR900(酸化チタン) 100重量部
SX863(P)(中空樹脂粒子、固形分20%) 12重量部
ケルザンAR(キサンタンガム)の6重量%水溶液 15重量部
ジョンクリルJ61J(アタリルースチレン共重合体アンモニウム塩、固形分30.6%、前述)
20重量部
PO20(糖アルコール、前述) 10重量部
TL10(非イオン系界面活性剤、前述) 2重量部
水 50重量部
上記各成分中、ケルザンARの6重量%水溶液以外の各成分を混合し、ボールミルで24時間分散処理を行った後、ケルザンARの6重量%水溶液を加えて1時間撹拌を行い、粘度10000センチポイズ、固形分29.1体積%(酸化チタン17.5体積%、樹脂粒子11.6体積%)のボールペン用顔料インキを得た。
【0023】
比較例1
実施例1においてジャガーHP60の3重量%水溶液を20重量部にし、水を155重量部にした他は実施例1と同様になして、粘度4500センチポイズ、固形分16.6体積%(酸化チタン9.0体積%、樹脂粒子7.6体積%)のボールペン用顔料インキを得た。
【0024】
比較例2
実施例2においてケルザンAR6%水溶液を30重量部にし、水を170重量部にした他は実施例2と同様になして、粘度20000センチポイズ、固形分13.5体積%(酸化チタン8.0体積%、樹脂粒子5.5体積%)のボールペン用顔料インキを得た。
【0025】
比較例3
実施例3においてケルザンARの6重量%水溶液を50重量部、水を86重量部にした他は実施例3と同様になして、粘度54000センチポイズ、固形分16.2重量%(酸化チタン13.2体積%、樹脂粒子3.0体積%)のボールペン用顔料インキを得た。
【0026】
比較例4
実施例6において、水を56重量部にした他は実施例1と同様になして粘度13000センチポイズ固形分33.1重量%(酸化チタン13.3体積%、樹脂粒子19.8体積%)のボールペン用顔料インキを得た。
【0027】
比較例5
実施例2においてLUMIKOL NKW2108を除き、KR380(酸化チタン)を168重量部、水を150重量部にした他は実施例2と同様なして粘度20000センチポイズ、固形分15.7体積%のボールペン用顔料インキを得た。
【0028】
実施例1〜7及び比較例1〜5で得られたボールペン用顔料インキを、直径0.8mmのボール(材質:超硬)を用いたボールペンチップをポリプロピレン製筒体の一端に嵌め込んだボールペンの筒体に充填し、筒体のもう一端にインキ逆流防止体を充填してボールペンを作製した。まず、このボールペンで黒画用紙(リンテック(株)、ニューカラー カラーNo.418)に手書きで筆記し、筆記線の鮮明さを観た。次に、このボールペンを上向き及び下向きの状態で50℃、湿度30%の条件下で4週間放置し、上向き放置のボールペンでは筆記性を、下向き放置のボールペンでは上澄みの有無を評価した。
【0029】
筆記線の鮮明さ
◎:白い紙に筆記したときと同様の鮮明さ
○:筆跡が若干黒ずむ
△:筆跡がかなり黒ずむ
【0030】
筆記性評価
螺旋筆記型筆記試験機にて100m筆記に要したインキの体積を測定した。
筆記速度:5cm/sec
筆記荷重:100g
測定単位:cc/100m
【0031】
上澄み有無評価
ボールペンの筒体を目視判定し、インキ逆流防止体の下(インキの部分)の上澄みの有無を観察した。
結果を表1に示す。
【0032】
【表1】

【0033】
比較例は、酸化チタンの沈降が発生したため、筆記性の評価において、初めは透明なインキ(上澄み)が吐出した。
【0034】
【発明の効果】
以上、詳細に説明したように、本発明によるボールペン用顔料インキは、目の粗い黒画用紙に筆記しても筆記線が鮮明で、長期間保管した後においてもインキの吐出が良好であり、顔料の経時的分離もなく良好なものである。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2004-05-31 
出願番号 特願平7-156819
審決分類 P 1 651・ 531- ZA (C09D)
P 1 651・ 534- ZA (C09D)
最終処分 取消  
特許庁審判長 板橋 一隆
特許庁審判官 井上 彌一
後藤 圭次
登録日 2002-08-02 
登録番号 特許第3334435号(P3334435)
権利者 ぺんてる株式会社
発明の名称 ボールペン用水性顔料インキ  
代理人 宮崎 伊章  

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