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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  C02F
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  C02F
管理番号 1104408
異議申立番号 異議2003-72549  
総通号数 59 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 1995-11-28 
種別 異議の決定 
異議申立日 2003-10-17 
確定日 2004-07-17 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第3399636号「逆浸透膜モジュ-ルによる海水淡水化での海水の前処理方法」の請求項1ないし3に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 訂正を認める。 特許第3399636号の訂正後の請求項1ないし3に係る特許を維持する。 
理由 1.手続の経緯
本件特許第3399636号の請求項1〜3に係る発明についての出願は、平成6年5月16日に特許出願され、平成15年2月21日にその特許の設定登録がなされたところ、東レ株式会社(以下、「申立人」という)より特許異議の申立てがなされ、取消理由通知がなされ、その指定期間内の平成16年3月8日に訂正請求がなされ、その後、当審より申立人に審尋がなされたが、何ら応答がなかったものである。
2.訂正の適否
2-1.訂正の内容
本件訂正の内容は、本件特許明細書を訂正請求書に添付された訂正明細書のとおり、すなわち次の訂正事項a乃至cのとおりに訂正しようとするものである。
(1)訂正事項a
特許請求の範囲の請求項1に記載の「銅イオン濃度1ppb以上」を、「銅イオン濃度5ppb以上」と訂正する。
(2)訂正事項b
特許請求の範囲の請求項2に記載の「銅イオン濃度1ppb以上」を、「銅イオン濃度5ppb以上」と訂正する。
(3)訂正事項c
明細書中の「銅イオン濃度1ppb以上の供給水をpH4以下とすることを特徴とする構成、並びに同方法において、銅イオン濃度1ppb以上でpH4以上の供給水に銅イオン封鎖剤を添加することを特徴とする構成である。」(本件特許掲載公報第2頁第4欄第33〜36行)を、「銅イオン濃度5ppb以上の供給水をpH4以下とすることを特徴とする構成、並びに同方法において、銅イオン濃度5ppb以上でpH4以上の供給水に銅イオン封鎖剤を添加することを特徴とする構成である。」と訂正する
2-2.訂正の目的の適否、新規事項の有無及び拡張変更の存否
(1)上記訂正事項a、bについて
上記訂正事項a、bは、銅イオンの下限を5ppbに限定するのであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とする訂正に該当する。
そして上記訂正事項a、bは、明細書中の「通過海水の銅イオン濃度が5ppb以上となる場合に、本発明の適用効果が大である」(本件特許掲載公報第2頁第4欄第44〜45行)の記載からみて、願書に添付した明細書に記載した事項の範囲内においてなされたものであり、また実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。
(2)上記訂正事項cについて
上記訂正事項cは、上記訂正事項a、bによって訂正された特許請求の範囲の記載と明細書の記載を整合させるためになされた訂正であるから、明りょうでない記載の釈明を行うことを目的とする訂正に該当し、また願書に添付した明細書に記載した事項の範囲内においてなされた訂正であり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。
2-3.まとめ
以上のとおりであるから、上記訂正は、特許法等の一部を改正ずる法律(平成6年法律第116号)附則第6条第1項の規定によりなお従前の例によるとされる、特許法第120条の4第3項において準用する平成6年法律第116号による改正前の特許法第126条第1項ただし書、第2項の規定に適合するので、当該訂正を認める。

3.特許異議申立てについて
3-1.取消理由通知の概要
当審の取消理由通知の概要は、「請求項1に係る発明は刊行物1に記載された発明であるか、または刊行物1に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり、また請求項2に係る発明は刊行物2に記載された発明であるか、または刊行物2に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり、また請求項3に係る発明は、刊行物1、2に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、請求項1、2に係る発明の特許は、特許法第29条第1項第3号、同条第2項の規定に違反してされたものであり取り消されるべきものであり、また請求項3に係る発明の特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり取り消されるべきものである」というものである。
3-2.本件訂正発明
特許権者が請求した上記訂正は、上述したとおり、認容することができるから、訂正後の本件請求項1〜3に係る発明は、訂正明細書の特許請求の範囲の請求項1〜3に記載された事項により特定される次のとおりのものである(以下、「本件訂正発明1〜3」という。)。
「【請求項1】海水を、脱塩素のために重亜硫酸ナトリウムを添加したうえで逆浸透膜モジュールに供給して淡水化する方法において、銅イオン濃度5ppb以上の供給水をpH4以下とすることを特徴とする逆浸透膜モジュールによる海水淡水化での海水の前処理方法。
【請求項2】海水を、脱塩素のために重亜硫酸ナトリウムを添加したうえで逆浸透膜モジュールに供給して淡水化する方法において、銅イオン濃度5ppb以上でpH4以上の供給水に銅イオン封鎖剤を添加することを特徴とする逆浸透膜モジュールによる海水淡水化での海水の前処理方法。
【請求頃3】請求項1又は2において、銅イオンに代え、スズイオンまたはコバルトイオンとした海水淡水化での海水の前処理方法。」
3-3.刊行物の記載内容
(1)刊行物1:「5th International Symposium on Fresh Water from the Sea」Vol.4 p397〜408(1976):申立人の提出した甲第1号証
(a)「飲料水は原海水から逆浸透システムによって直接生産されてきた。浮遊物や微生物によって生じるファウリングを制御する方法をレビューする。」(第397頁Abstractの欄、訳文、以下同じ)
(b)「本論文は、海水を処理するROでの膜ファウリングの制御方法に関し、・・・」(第397頁第2段落)
(c)「原海水の全体的なpHは約8である。海水処理におけるROにとって、pH低減は次のような有益な効果をうむ。:・微生物の活動を低減する。・重炭酸塩の濃縮が低減されるので炭酸塩スケールが生成しにくくなる。・pHを低減することで、溶解しにくい第2鉄の状態への鉄の酸化を防ぐことができるため、鉄の堆積が低減される。オーシャンシテイ海水は、アルミニウムの凝固を避けるためにpH5以上に保たれた。pH5以上ならば、アルミニウムイオンの溶解性はpHに依存しない。」(第399頁pH Loweringの欄)
(d)第400頁の第2図には、pHが1から7.5までの海水中の有機生命体の殺菌率が示されており、pH3以下では100%となることが示されている。
(e)「塩素処理 塩素処理は、テストセル(1)の実験によって、性能安定性に貢献することが判明してきた。・・・遊離している塩素はポリアミド膜に対して有害で、化学的もしくは活性炭素で除去されなければならない。 炭素処理・・・ 化学的な脱塩素処理 ・・・重亜硫酸ナトリウムは、炭素に比べて、技術的にも効果的で、経済的にも魅力があるものである。」(第400頁Microbiological Foulingの欄)
(f)「・・・pH5〜6の範囲での海水中のバクテリアの殺菌の程度は、96.5〜99.5%の範囲で変動するが、この殺菌方法は絶対的ではないので、微生物に起因するファウリングを制御するために、断続的な生物静力学的(biostatic)ショック処理を行い、バクテリアの成長を制御することが重要である。もともとバクテリア濃度が高い比較的暖かな海水の場合は特に重要である。」(第403頁第2段落)
(g)「オーシャンシティー海水のテストでは主に3つの方法が効果的であることが判明した。ホルムアルデヒド 温水(50℃) 重亜硫酸ナトリウム B-10透過体を使ったテストでは、温水(50℃)、300ppmホルムアルデヒド、500ppm重亜硫酸ナトリウムを1日2回30分間供給したところ技術的に効果があった。重亜硫酸ナトリウムは、飲料水の生産を中断せずにRO運転中に付与できるので最も実用的である。」(第403頁 Biostatics Shock Treatmentsの欄)
(2)刊行物2:特開昭56-21604号公報:申立人の提出した甲第2号証
(a)「多孔性支持体膜上に・・・半透性薄膜を設けた複合膜を用いて液体を分離するに際して、被処理原液に亜硫酸塩、重亜硫酸塩およびまたは亜硫酸ガスならびに重金属イオンの封鎖剤を添加することを特徴とする半透性複合膜による液体分離法。」(特許請求の範囲第1項)
(b)「本発明は特定の半透性複合膜を用いて逆浸透法により被処理原液を液体分離する方法に関する。・・・逆浸透膜を用いた分離技術が注目され、工業用水や海水などから有用物を回収したり純水を製造する試みが為され、ようやく工業的に採用されるに至っている。」(第1頁左欄第13〜19行)
(c)「しかしながら、一般に海水あるいは工業用水などを被処理原液とする液体分離法においては.該海水あるいは工業用水中に含まれる微生物や藻類または貝類などが逆浸透装置に被処理原液を供給するための管内に付着、蓄積するのを防止する必要があり、そのために、該海水または工業用水中には塩素が混入され、海水や工業用水中の微生物、藻類、貝類に起因するトラブルを防止するのが普通である。しかるに、前記フルフリルアルコールを主成分とする架橋重合体を障壁層とする複合膜によって塩素含有被処理原液を長期間に亘って処理すると、その卓越した選択的分離能が低下してくるという工業上の問題があった。」(第2貢左上欄第4〜16行)
(d)「本発明の特徴は・・・海水や工業用水などの被処理原液中に亜硫酸塩、重亜硫酸塩および/または亜硫酸ガスおよび重金属イオン封鎖剤を添加するものである。ここで・・・重亜硫酸塩としては重亜硫酸ナトリウム、・・・などを例示できるが、好ましくは重亜硫酸ソーダ(SBS)がよい。また、重金属イオン封鎖剤としては、鉄、銅、ニッケル、マンガンなどの遷移金属イオンに配位するもの、例えば、エチレンジアミンテトラ酢酸(EDTA)、・・・等があり、好ましくは、アミノ基とカルボン酸基を含むキレート配位子を有するEDTA、蓚酸などの多塩基酸、クエン酸などのヒドロキシ酸がよい。」(第3頁右上欄第11行〜左下欄13行)
(e)「本発明によって、FA系複合膜の選択分離能が長期間に亘って低下せず、安定した液体分離が可能になる理由は十分明らかではない。しかしながら、FA系複合膜は被処理原液中に亜硫酸塩および/または重亜硫酸ならびに重金属イオン封鎖剤を添加しなければ、該被処理原液中に塩素が含有されていなくてもその選択分離能が低下することを考えると被処理原液中の溶存酸素の起因する膜の劣化が生じると考えられる。」(第3頁右下欄第4〜12行)
(f)「さらに驚くべきことには、本発明においては、必ずしも被処理原液中の溶存酸素に見合う量の亜硫酸塩および/または重亜硫酸塩を添加しなくても重金属イオン封鎖剤が共存すれば、FA系複合膜の膜性能の低下を顕著に抑制できるという点であり、したがって、亜硫酸塩および/または重亜硫酸塩の添加量を可及的に少なくすることができる。」(第4頁第3〜10行)
(g)「3.5%の塩化ナトリウム、500ppmのエチレンジアミン四酢酸ナトリウム(EDTA)、30ppmの重亜硫酸ナトリウムを含む水溶液をpH6.5に調整して、逆浸透膜の評価原水とし、循環方式でスルホン化ポリフルフリルフルコール系逆浸透膜(・・・)の性能を連続的に測定した。24時間後の性能は、食塩排除率99.37%、造水量0.30m3/m2・日であった。測定を2000時間継続して、評価したところ、食塩排除率99.58%、造水量0.29m3/m2・日とほとんど変化しなかった」(第4頁右上欄第7〜19行)
3-4.対比・判断
(1)本件訂正発明1について
上記(1)(a)(b)から明らかなように、刊行物1には、原海水から逆浸透システムで脱塩し飲料水を製造する際の膜のファウリングを制御する種々の方法について記載されているが、上記(1)(e)には、海水を「塩素処理」し、その後「重亜硫酸ナトリウム」で「脱塩素処理」することが記載されており、また、上記(1)(c)には、pH8の原海水のpHを低減することにより微生物の活動を低減させる等の効果を生むことが記載されており、さらに上記(1)(f)には、バクテリアの殺菌のためにpH5〜6にすることが記載されている。
これらの方法のどれとどれとを併用するかは記載されていないが、上記方法を併用するとして、本件訂正発明1の記載ぶりに則って整理すると、刊行物1には「原海水を、脱塩素のために重亜硫酸ナトリウムを添加したうえで、逆浸透システムに供給して飲料水を製造する方法において、バクテリアの殺菌のためにpH5〜6にする、逆浸透システムによる原海水からの飲料水製造での膜のファウリングを制御する方法」という発明(以下、「刊行物1発明」という)が記載されていると云える。
そこで、本件訂正発明1と刊行物1発明とを対比すると、刊行物1発明の「逆浸透システム」、「膜のファウリングを制御する方法」は、本件訂正発明1の「逆浸透膜モジュール」、「海水の前処理方法」にそれぞれ相当するから、両者は、「海水を、脱塩素のために重亜硫酸ナトリウムを添加したうえで逆浸透膜モジュールに供給して淡水化する方法における、海水の前処理方法」という点で一致し、次の点で相違していると云える。
相違点:本件訂正発明1では、海水の前処理方法が「銅イオン濃度5ppb以上の供給水をpH4以下とする」のであるのに対して、刊行物1発明では、バクテリアの殺菌のためにpH5〜6にする点
上記相違点について検討する。
刊行物1には、pH低減について記載されており、第400頁の第2図にpHと海水中での有機生命体の殺菌率との関係が記載されており、とりわけpH3以下で殺菌率100%であることが記載されているが(上記(1)(d))、同時にpH5以下にすることの弊害や、pH5以上で行うこと(上記(1)(c)(f))が明記してある以上、前処理として「pH4以下とする」ことは示唆されていないと云うべきである。
ましてや、その際の海水の銅イオン濃度が5ppb以上であることについては記載も示唆もされていない。また通常の海水の銅イオン濃度が5ppb以上であることが云えるわけでもない。
そして、上記相違点により、本件訂正発明1は、「銅イオンが多量に含有されているとき(5ppb以上)に発生する酸化還元電位の異常上昇並びに残留塩素の発生を、抑制乃至は防止でき、残留塩素による膜の酸化分解を防止して膜モジュールの初期の阻止性能を安定に保持できる」という明細書記載の効果を奏する。
したがって、本件訂正発明1は、刊行物1に記載された発明とすることはできないし、また刊行物1に記載された発明に基づいて当業者が容易に想到することができたものであるとすることはできない。
(2)本件訂正発明2について
刊行物2の上記(2)(a)には、「複合膜を用いて液体を分離するに際して、被処理原液に重亜硫酸塩ならびに重金属イオンの封鎖剤を添加することを特徴とする半透性複合膜による液体分離法」が記載されており、また上記(2)(b)には、この液体分離法には逆浸透膜を用いて海水から純水を製造することが含まれることが記載されており、また上記(2)(c)には、この場合の被処理原液である海水には塩素が混入されていることが記載されており、また上記(2)(d)には、重亜硫酸塩として重亜硫酸ナトリウムが記載されており、また重金属イオン封鎖剤として銅などの遷移金属イオンに配位するものであることが記載されている。
これら記載を本件訂正発明2の記載ぶりに則って整理すると、刊行物2には「塩素が混入された海水から逆浸透膜を用いて純水を製造する方法において、重亜硫酸ナトリウムならびに銅イオン封鎖剤を添加する海水の前処理方法」という発明(以下、「刊行物2発明」という)が記載されていると云える。
そこで、本件訂正発明2と刊行物2発明とを対比すると、両者は「海水を、逆浸透膜モジュールに供給して淡水化する方法において、海水の前処理方法」という点で一致し次の点で相違している。
相違点:本件訂正発明2では、前処理として「脱塩素のために重亜硫酸ナトリウムを添加したうえで、銅イオン濃度5ppb以上でpH4以上の供給水に銅イオン封鎖剤を添加する」のに対して、刊行物2発明では、重亜硫酸ナトリウムならびに銅イオン封鎖剤を添加する点
次にこの相違点を検討すると、刊行物2には、重亜硫酸ナトリウムを脱塩素のために添加することは記載されていないが、結果として重亜硫酸ナトリウムは脱塩素の役割も果たしているものと云えるし、また海水のpHは記載されていないが、通常の海水のpHは中性に近く4以上であるものと云える。
そうすると、上記相違点は、本件訂正発明2では「銅イオン濃度5ppb以上」であるのに対して、刊行物2発明では、その点が不明であるという点にある。
この点については上記(1)で述べたように、「銅イオン濃度5ppb以上」が通常の海水の銅イオン濃度ということは云えない。
そして本件訂正発明2は、上記(1)で述べた効果を奏する。
したがって、本件訂正発明2は、刊行物2に記載された発明とすることはできないし、また刊行物2に記載された発明に基づいて当業者が容易に想到することができたものであるとすることはできない。
(3)本件訂正発明3について
本件訂正発明3は、請求項2又は3を引用したものであり、銅イオンに代えスズイオンまたはコバルトイオンとしたものであるが、刊行物1、2には、スズイオン、コバルトイオンの濃度について記載も示唆もされていないから、本件訂正発明3は、刊行物1、2に記載された発明に基づいて当業者が容易に想到することができたものであるとすることはできない。
4.むすび
以上のとおり、特許異議申立ての理由及び証拠方法によっては、訂正後の本件請求項1〜3に係る発明の特許を取り消すことはできない。
また、他に訂正後の本件請求項1〜3に係る発明の特許を取り消すべき理由を発見しない。
したがって、訂正後の本件請求項1〜3に係る発明についての特許は拒絶の査定をしなければならない特許出願にされたものと認めない。
よって、特許法等の一部を改正する法律(平成6年法律第116号)附則第14条の規定に基づく、特許法等の一部を改正する法律の施行に伴う経過措置を定める政令(平成7年政令第205号)第4条第2項の規定により、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
逆浸透膜モジュールによる海水淡水化での海水の前処理方法
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】海水を、脱塩素のために重亜硫酸ナトリウムを添加したうえで逆浸透膜モジュールに供給して淡水化する方法において、銅イオン濃度5ppb以上の供給水をpH4以下とすることを特徴とする逆浸透膜モジュールによる海水淡水化での海水の前処理方法。
【請求項2】海水を、脱塩素のために重亜硫酸ナトリウムを添加したうえで逆浸透膜モジュールに供給して淡水化する方法において、銅イオン濃度5ppb以上でpH4以上の供給水に銅イオン封鎖剤を添加することを特徴とする逆浸透膜モジュールによる海水淡水化での海水の前処理方法。
【請求項3】請求項1又は2において、銅イオンに代え、スズイオンまたはコバルトイオンとした海水淡水化での海水の前処理方法。
【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】
本発明は、逆浸透膜モジュールを使用して海水を淡水化する場合に用いる海水の前処理方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
逆浸透膜モジュールを使用して海水を淡水化する場合、原海水中には膜に悪影響を及ぼす物質が含まれているから、原海水を前処理し、これらの物質を除去したうえで逆浸透膜モジュールに供給することが必要である。
【0003】
この場合、前処理ラインでの微生物の繁殖を塩素発生剤の添加により防止し、特に、ポリアミド系等の合成高分子膜の場合、膜モジュールの直前で還元剤、通常、重亜硫酸ナトリウムの添加により脱塩素処理を行い、残留塩素による膜の酸化分解を防止することが公知である。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、本発明者等においては、かかる前処理ラインでは、ライン中に銅イオン発生源が存在すると、例えば、海水供給ポンプの材質に銅合金が使用されていると、上記還元剤の添加にもかかわらず、膜への供給水の酸化還元電位が原海水の酸化還元電位よりも著しく高くなって、残留塩素も重亜硫酸ナトリウムの添加前より逆に増加することを観察しており、かかるもとでは、上記合成高分子膜の酸化分解による阻止性能の低下が避けられない。
【0005】
近来、銅イオンを含む実海水に重亜硫酸ナトリウムを添加すると酸化還元電位が上昇し、特に、塩素発生剤(次亜塩素酸ナトリウム)を添加しない場合でも、残留塩素の発生が観られることが報告されている〔Desalination&Water Treatment Japan,P255〜262(1993)〕。
【0006】
しかしながら、この報告では、酸化還元電位上昇の原因が明らかにされておらず、解決手段の達成にまで至っていない。
本発明者等の実験結果によれば、NaCl水溶液に銅イオンと重亜硫酸ナトリウムを添加しても、その酸化還元電位は重亜硫酸ナトリウムのみを添加したときの酸化還元電位と実質的に異ならない(事実、純水を溶媒とする3.5%NaCl水溶液を使用し、重亜硫酸ナトリウムの添加量を11ppmとし、銅イオン400ppb添加ありとなしのそれぞれの場合の酸化還元電位を測定したところ、銅イオン添加ありの場合は293mV、添加なしの場合は283mVであり、実質的な差異は認められない)。
【0007】
周知の通り、実海水中には、多種類の物質、代表的には、NaCl、NaHCO3、KCl、Na2SO4、MgCl2、CaCl2等が含有されている。
而るに、従来においては、上記銅イオン存在下での重亜硫酸ナトリウムの添加による酸化還元電位の上昇とこれらの物質との関係が、明らかにされていない。
【0008】
そこで、本発明者等においては、この関係を明確にすべく種々実験を行い、上記銅イオン存在下での重亜硫酸ナトリウムの添加による酸化還元電位の上昇は、NaClとNaHCO3との共存下のみにおいて発生することを見出した。
【0009】
すなわち、(1)NaCl水溶液(濃度3.5%)、(2)NaHCO3水溶液(濃度146ppm)、(3)NaCl+NaHCO3水溶液(NaCl濃度3.5%,NaHCO3濃度146ppm)、(4)モデル海水(成分は、純水、NaCl、NaHCO3、KCl、Na2SO4、MgCl2、CaCl2等)、(5)NaHCO3無しのモデル海水、並びに(6)実海水のそれぞれに、銅イオン(400ppb)並びに重亜硫酸ナトリウム(11ppm)を添加して酸化還元電位(mV)並びに残留塩素量(O-トリジン法による、単位はppm)を測定したところ、それぞれ、(1)293mV,0ppm、(2)256mV,0ppm、(3)516mV,0.4ppm、(4)556mV,0.3ppm、(5)308mV,0ppm、(6)409mV,0.3ppmであり、(6)の実海水と同等の酸化還元電位並びに残留塩素量のものは、(3)並びに(4)の場合であり、この事実から、NaClとNaHCO3との共存下だけにおいて、銅イオン存在下での重亜硫酸ナトリウムの添加による酸化還元電位の上昇が生じることが明らかである。
【0010】
従来、逆浸透膜モジュールを使用して海水を淡水化する場合の前処理として、上記した塩素発生剤の添加、脱塩素処理のほか、鉄、マンガン、シリカ、カルシウム、マグネシウム等のイオンの膜面析出(スケーリング)を防止するためにpHを調整すること(pH6.5〜7程度)、あるいは、カルシウムイオンをキレート化合物にして溶解型に変えること等も公知であるが、本発明者等においては、これらの前処理方法を、単に、上記した、銅イオン存在下での重亜硫酸ナトリウムの添加により酸化還元電位が上昇するケースに併用しても、酸化還元電位の上昇の抑制並びに残留塩素発生の抑制を満足に達成し難いことを確認済みである。
【0011】
本発明の目的は、逆浸透膜モジュールによる海水の淡水化において、原海水を、塩素発生剤の添加や重亜硫酸ナトリウムによる還元処理等の前処理を行って膜モジュールに供給する場合、前処理ライン中に銅イオン発生源が存在しても、上記重亜硫酸ナトリウムによる還元を良好に行い得、残留塩素の発生を確実に防止できる海水の前処理方法を提供することにある。
【0012】
【課題を解決するための手段】
本発明に係る、逆浸透膜モジュールによる海水淡水化での海水の前処理方法は、海水を、脱塩素のために重亜硫酸ナトリウムを添加したうえで逆浸透膜モジュールに供給して淡水化する方法において、銅イオン濃度5ppb以上の供給水をpH4以下とすることを特徴とする構成、並びに同方法において、銅イオン濃度5ppb以上でpH4以上の供給水に銅イオン封鎖剤を添加することを特徴とする構成である。
【0013】
本発明が適用される海水の前処理ラインは、微生物の繁殖を防止するために塩素発生剤(例えば、次亜塩素酸ナトリウム)を添加し、残留塩素によって膜が酸化分解するのを防止するために重亜硫酸ナトリウムを添加して還元により脱塩素処理し、その途中に銅イオン発生源(例えば、ポンプ、配管部材が銅合金である場合)が存在するラインであり、特に、その銅イオン発生源によって、通過海水の銅イオン濃度が5ppb以上となる場合に、本発明の適用効果が大である(海水には、通常1ppb程度の銅イオンが含有されているが、5ppb以上になると、重亜硫酸ナトリウム添加海水の酸化還元電位が添加前の海水の酸化還元電位より高くなることを確認している)。
【0014】
本発明は、膜が塩素によって酸化分解され易い合成高分子膜である逆浸透膜モジュール、例えば、膜がポリアミド系膜である逆浸透膜モジュールを使用する場合に、特に、好適に適用され、膜モジュールの形式は、スパイラル型、中空糸膜型、管状型、プレート&フレーム型の何れであってもよい。
【0015】
本発明において、pHの5以下好ましくは4以下への調整は、硫酸、塩酸等の酸の注入により行うことができる。
【0016】
本発明において、銅イオン封鎖剤には、銅イオンに配位して安定な錯イオンをつくるキレート剤を使用でき、例えば、無機物としては、ヘキサメタリン酸ソーダで代表される縮合リン酸塩、有機物としてはエチレンジアミン4酢酸、ニトリロ3酢酸、フミン酸等を挙げることができる。添加量は、例えば、エチレンジアミン4酢酸の場合、銅イオン1ppbに対し、1/4〜1/40ppmとされ、ヘキサメタリン酸ソーダの場合、銅イオン1ppbに対し、0.1〜1ppmとされる。
【0017】上記した銅イオン存在下での重亜硫酸ナトリウム添加による酸化還元電位の上昇現象並びに残留塩素の発生現象は、スズイオンまたはコバルトイオンの場合においても生じるが、銅イオンの場合に較べ、現象の程度が軽度である。従って、pHの調整は4以下の4近傍とすることができ、また、キレート剤を使用する場合は、その添加量を上記銅イオンに対する割合よりも少なくすることができる。
【0018】
【作用】
既述した通り、逆浸透膜モジュールを使用しての海水淡水化での前処理において、銅イオンの存在下、還元剤である重亜硫酸ナトリウムの添加にもかかわらず、酸化還元電位が異常に上昇する原因は、海水中にNaClとNaHCO3とが共存することにある。
【0019】
図1は、酸化還元電位(ORP)のNaHCO3濃度依存性を示し、純水に一定量のNaCl(3.5%)と(1〜1500ppm)範囲のNaHCO3を溶解させたモデル液に、銅イオン(400ppb)と重亜硫酸ナトリウム(11ppm)を添加したときの酸化還元電位の測定結果であり、NaHCO3濃度100ppb近傍で酸化還元電位がピークを達し、NaHCO3濃度が減少するに従い、実海水の酸化還元電位(280mV)に近づいている。
【0020】
酸化還元電位Eは、
E=E0+(RT/nF)In(α1/α2) ▲1▼
で与えられ(ただし、E0は標準電極電位、Rは気体定数、Tは絶対温度、nは反応に関与する電子の数、Fはファラデー定数、α1は酸化体の活動度、α2は還元体の活動度である)、pHが低くなる程、酸化体の活動度α1が大となり、還元体の活動度α2が小となるから、通常、酸化還元電位Eは低pHになる程、高くなるが、図1に示すNaHCO3濃度に依存する酸化還元電位のもとでは、pHが4以下になると重炭酸イオンが存在しなくなって、酸化還元電位の上昇現象が急になくなる。
【0021】
而るに、請求項1記載の発明においては、前処理水に銅イオンが通常の海水以上に含まれていても、pHが4以下に調整されるから、酸化還元電位の上昇現象が排除される(なお、pHを5以下に調整する場合でも、従来のファリング、スケーリング防止のためのpH調整(6.5〜7)の場合に較べ、酸化還元電位の上昇を有効に抑制できる)。
【0022】
他方、pHが4または5以上であっても、銅イオンの反応性を封鎖すれば、酸化還元電位の異常上昇は排除できる。
【0023】
図2は、キレート剤添加による酸化還元電位(ORP)の上昇抑制効果を示し、純水に一定量のNaCl(3.5%)とNaHCO3(11ppm)を加えたモデル液に、異なる銅イオン濃度のもとでキレート剤を添加したときの酸化還元電位の測定結果であり、a100はエチレンジアミン4酢酸を100ppm添加した場合を、a10は同じく10ppm添加した場合を、b100はヘキサメタリン酸ソーダを100ppm添加した場合を、b50は同じく50ppm添加した場合を、b10は同じく10ppm添加した場合を、cは無添加の場合をそれぞれ示している。
【0024】
而るに、請求項2記載の発明においては、pHが4以上であっても、銅イオン封鎖剤の数10ppmの添加により銅イオンの反応性が封鎖されるから、酸化還元電位の上昇現象が排除される(従来、海水の前処理として、カルシウムイオンをキレート化合物にし溶解型に変化させることが公知であるが、海水のカルシウム含有量は、400mg/Lにも達し、数10ppm程度の少量のキレート剤の添加では、用をなさない)。
【0025】
【実施例】
〔実施例1〕
純水にNaClを濃度3.5%で、NaHCO3を濃度146ppmで溶解したモデル水(pH7.30)のpHを塩酸の添加により3.56に調整し、この調整水を、CuSO4を400ppbの銅イオン濃度とするように、更に、重亜硫酸ナトリウムを濃度11ppmとするようにそれぞれ添加しつつ逆浸透膜モジュールに供給した。
【0026】
〔実施例2〕
純水にNaClを濃度3.5%で、NaHCO3を濃度146ppmで溶解したモデル水(pH7.30)を、CuSO4を400ppbの銅イオン濃度とするように、更に、ヘキサメタリン酸ソーダを濃度10ppmとするように、更に重亜硫酸ナトリウムを濃度11ppmとするようにそれぞれ添加しつつ逆浸透膜モジュールに供給した。
【0027】
〔実施例3〕
実施例2に対し、ヘキサメタリン酸ソーダの添加濃度を100ppmとした以外、実施例2に同じとした。
【0028】
〔実施例4〕
純水にNaClを濃度3.5%で、NaHCO3を濃度146ppmで溶解したモデル水(pH7.30)を、CuSO4を400ppbの銅イオン濃度とするように、更に、エチレンジアミン4酢酸を濃度10ppmとするように、更に重亜硫酸ナトリウムを濃度11ppmとするようにそれぞれ添加しつつ逆浸透膜モジュールに供給した。
【0029】
〔実施例5〕
実施例4に対し、エチレンジアミン4酢酸の添加濃度を100ppmとした以外、実施例4に同じとした。
【0030】
〔比較例〕
純水にNaClを濃度3.5%で、NaHCO3を濃度146ppmで溶解したモデル水(pH7.30)を、CuSO4を400ppbの銅イオン濃度とするように、更に、重亜硫酸ナトリウムを濃度11ppmとするようにそれぞれ添加しつつ逆浸透膜モジュールに供給した。
【0031】
これらの実施例並びに比較例において、逆浸透膜モジュールの非透過側流出水の酸化還元電位を測定したところ、比較例においては612mVにも達し酸化還元電位の異常上昇が認められたが、実施例1では316mV、実施例2では390mV、実施例3では238mV、実施例4では232mV、実施例5では243mVに過ぎず、何れの実施例においても酸化還元電位を充分に低く抑制できた。
【0032】
【発明の効果】
本発明によれば、海水を逆浸透膜モジュールにより淡水化する場合、微生物の繁殖防止のために注入した塩素を逆浸透膜モジュールの直前で、重亜硫酸ナトリウムの添加により脱塩素処理する海水の前処理において、銅イオンが多量に含有されているとき(5ppb以上)に発生する酸化還元電位の異常上昇並びに残留塩素の発生を、pHの調整や少量のキレート剤の添加等に抑制乃至は防止でき、残留塩素による膜の酸化分解を防止して膜モジュールの初期の阻止性能を安定に保持できる。
【図面の簡単な説明】
【図1】
海水前処理における酸化還元電位の重炭酸ナトリウム濃度依存性を示す図表である。
【図2】
請求項2記載の発明におけキレート剤による酸化還元電位上昇抑制効果を示す図表である。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2004-06-23 
出願番号 特願平6-126858
審決分類 P 1 651・ 113- YA (C02F)
P 1 651・ 121- YA (C02F)
最終処分 維持  
前審関与審査官 真々田 忠博  
特許庁審判長 石井 良夫
特許庁審判官 野田 直人
金 公彦
登録日 2003-02-21 
登録番号 特許第3399636号(P3399636)
権利者 日東電工株式会社
発明の名称 逆浸透膜モジュ-ルによる海水淡水化での海水の前処理方法  
代理人 尾崎 雄三  
代理人 鈴木 崇生  
代理人 梶崎 弘一  
代理人 梶崎 弘一  
代理人 谷口 俊彦  
代理人 尾崎 雄三  
代理人 鈴木 崇生  
代理人 谷口 俊彦  
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