• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 一部申し立て 5項1、2号及び6項 請求の範囲の記載不備  G09B
審判 一部申し立て 特36 条4項詳細な説明の記載不備  G09B
審判 一部申し立て 2項進歩性  G09B
管理番号 1104491
異議申立番号 異議2003-72930  
総通号数 59 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 1993-12-07 
種別 異議の決定 
異議申立日 2003-12-02 
確定日 2004-09-13 
異議申立件数
事件の表示 特許第3412164号「経路表示装置」の請求項1、2に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 特許第3412164号の請求項1ないし2に係る特許を維持する。 
理由 第1.手続きの経緯

本件特許第3412164号に係る出願は、平成4年5月21日に特許出願され、平成15年3月28日にその発明について特許の設定登録がなされ、その後、鈴木久より特許異議の申立てがなされ、取消理由通知がなされたものである。

第2.本件発明

特許第3412164号の請求項1及び2に係る発明は、特許請求の範囲の請求項1及び2に記載された次のとおりのものである(以下、本件発明1及び2という。)。

【請求項1】道路地図等を記憶した地図メモリと、
ドライバによる目的地の設定に応じて、地図メモリから出発地と目的地とを含む範囲の地図データを検索する地図検索手段と、
地図検索手段により読み出された地図データに基づいて出発地と目的地との間の最適経路を計算する最適経路計算手段と、
地図検索手段により検索された地図を表示するための地図表示データを、前記最適経路計算手段により計算された最適経路が重畳された形で作成する地図表示データ作成手段と、
地図表示データ作成手段により作成された地図表示データを所定の縮尺で表示する画面表示手段とを有する経路表示装置において、
前記地図表示データ作成手段は、ドライバの指示により、最適経路計算手段により計算された最適経路に沿った一連の地図表示データを作成し、
前記画面表示手段は、地図表示データ作成手段により作成された一連の地図表示データを出発地から目的地に至るまで滑らかにスクロールさせながら表示させ、かつ、最適経路が高速道路に沿っている場合であればスクロールの速度を自動的に速くし、最適経路が高速道路に沿っていない場合であればスクロールの速度を自動的に遅くするものであることを特徴とする経路表示装置。

【請求項2】道路地図等を記憶した地図メモリと、
ドライバによる目的地及び経由地の設定に応じて、地図メモリから出発地と経由地と目的地とを含む範囲の地図データを検索する地図検索手段と、
地図検索手段により読み出された地図データに基づいて
出発地から経由地を通って目的地に至る最適経路を計算する最適経路計算手段と、
地図検索手段により検索された地図を表示するための地図表示データを、前記最適経路計算手段により計算された最適経路が重畳された形で作成する地図表示データ作成手段と、
地図表示データ作成手段により作成された地図表示データを所定の縮尺で表示する画面表示手段とを有する経路表示装置において、
前記地図表示データ作成手段は、ドライバの指示により、最適経路計算手段により計算された最適経路に沿った一連の地図表示データを作成し、
前記画面表示手段は、地図表示データ作成手段により作成された一連の地図表示データを、経由地付近以外の地図表示データであれば、滑らかにスクロールさせながら表示し、経由地付近の地図表示データであれば、スクロール速度を遅めるか暫くスクロールを止めて表示することを特徴とする経路表示装置。

第3.特許異議申立てについての判断
1.申立の理由の概要
特許異議申立人鈴木久は、
(1)本件発明1及び2は、甲第1号証(特開平2-278118号公報、以下「刊行物1」という)、甲第2号証(特開平3-39780号公報、以下「刊行物2」という)、甲第3号証(特開昭59-212709号公報、以下「刊行物3」という)及び甲第4号証(特開平4-45476号公報、以下「刊行物4」という)に記載された発明に基づき、当業者が容易になし得たものであり、特許法第29条第2項の規定に違反してなされたもので、本件特許は、拒絶の査定をしなければならない特許出願に対してされたものであるから、特許法等の一部を改正する法律(平成6年法律第116号)附則第14条の規定に基づく、特許法等の一部を改正する法律の施行に伴う経過措置を定める政令(平成7年政令第205号)第4条第2項の規定により、取り消すべきである。
(2)本件特許に係る明細書の発明の詳細な説明には、どのようなタイミングで最適経路にそった地図をスクロールさせて表示するかについての記載がなく、発明の詳細な説明には、当業者が本件特許発明を容易に実施できる程度に発明の構成が記載されていないので、本件特許は平成6年法律第116号による改正前の特許法第36条第4項に規定する要件を満たしていない。したがって、本件特許は、拒絶の査定をしなければならない特許出願に対してされたものであるから、特許法等の一部を改正する法律(平成6年法律第116号)附則第14条の規定に基づく、特許法等の一部を改正する法律の施行に伴う経過措置を定める政令(平成7年政令第205号)第4条第2項の規定により、取り消すべきである。

(3)本件特許に係る明細書の特許請求の範囲第1項には、「最適経路が高速道路に沿っていない場合であればスクロールの速度を自動的に遅くする」と記載されているが、この点は発明の詳細な説明には記載されておらず、本件特許は平成6年法律第116号による改正前の特許法第36条5項第1号に規定する要件を満たしていない。したがって、本件特許は、拒絶の査定をしなければならない特許出願に対してされたものであるから、特許法等の一部を改正する法律(平成6年法律第116号)附則第14条の規定に基づく、特許法等の一部を改正する法律の施行に伴う経過措置を定める政令(平成7年政令第205号)第4条第2項の規定により、取り消すべきである。

旨主張している。

2.当審の判断
(1)前記1.(2)の第36条第4項について
【発明の詳細な説明】の段落【0004】の【発明が解決しようとする課題】には、「ところで、最適経路が計算された場合、最適経路を把握しておくことは運転にあたって重要なことであるので、走行前などにドライバに表示して確認させることができれば好ましい。」と記載され、段落【0005】には「ドライバが,計算された最適経路の詳細を容易に確認することのできる経路表示装置を提供することを目的とする。」と記載されており、本件特許発明は事前にドライバ等に経路を容易に確認することを目的としていることは明らかである。この目的を達成するために請求項1及び2において、「地図表示データ作成手段により作成された一連の地図表示データ」を「滑らかにスクロールさせながら表示」させることを構成要件としており、一方、車両などの移動体速度は構成要件としていない。故に、請求項1及び2に係る発明は、ドライバ等が事前に経路を確認するため、移動体速度とは関係なく地図データがスクロールできる表示装置を前提としていることは明らかである。そして、移動体速度とは関係なく地図データをスクロールできる表示装置に採用される技術として、滑らかにスクロールできる画像処理技術、すなわち人間の目で見て飛び飛びの動きを感じさせないようなスムーズな動きをさせることができる画像処理技術は、本件特許の出願時に一般に採用される技術である(以上のことは、特許権者も特許異議意見書で主張している。)。
したがって、【実施例】のスクロールに関する記載である段落【0024】において、「表示制御部23は、最適経路fに沿った地図1b,1c,・・・・をメモリドライブ16を通して地図メモリ15から得、画面にスクロールさせながら次々に表示していく。」としか記載がなく、その他の箇所において、スクロールのタイミングなどの具体的記載がないからといって、当業者が本件特許発明を容易に実施できる程度に発明の構成が記載されていないと言うことはできない。

(2)前記1.(3)の第36条第5項第1号について
【発明の詳細な説明】の【実施例】において、高速道路のスクロール速度に関する記載は、主として段落【0025】の「なお、経路誘導処理部28は、スクロールしている時に各主要ポイントを通過すると主メモリ27の所定領域に保持しておいた前記データを参照し、・・・また、当該ポイントが高速道路のインターチェンジであれば、スクロール速度を上げるよう指令する。」の記載である。一方、特許請求の範囲第1項には、「最適経路が高速道路に沿っている場合であればスクロールの速度を自動的に速くし、最適経路が高速道路に沿っていない場合であればスクロールの速度を自動的に遅くする」と記載され、前記【0025】の記載から高速道路に沿っている場合にスクロール速度を速くすることは把握できるにしろ、【0025】には高速道路に沿っていない場合にスクロール速度を遅くするとの直接的記載はなく、その他の【実施例】の部分にも当該直接的記載は見当たらない。しかしながら、スクロール中に経路が高速道路上となった時にスクロール速度を上げ、その後、高速道路以外の部分、例えば国道などの一般道にさしかかってもスクロール速度が相変わらず速いままだとドライバが経路確認を行いにくいことは自明な事項であり、また、ドライバが最適経路の詳細を容易に確認することが発明の目的であることを参酌すると、発明の詳細な説明において、高速道路に沿わなくなった時、速くした速度分だけもとの速度に戻し通常の速度とすることは実質的に記載されているということができる。したがって前記特許請求の範囲第1項の「最適経路が高速道路に沿っていない場合であればスクロールの速度を自動的に遅くする」との記載は、高速道路に沿っている場合に自動的に速くした速度を、速くした分だけもとの速度に戻すものであると解するのが自然であり、通常のスクロール速度より遅い速度にすることを意味するものではない(以上のことは、特許権者も特許異議意見書で主張している。)。
したがって、特許請求の範囲第1項の「最適経路が高速道路に沿っていない場合であればスクロールの速度を自動的に遅くする」との点が、発明の詳細な説明には記載されていないと言うことはできない。

(3)前記1.(1)の第29条第2項について
ア.刊行物に記載された発明
(ア)刊行物1:甲第1号証(特開平2-278118号公報)には、
a.「ノードとリンクとの組合わせからなる経路計算、表示用の第1の地図データと、位置検出用の詳細な第2の地図データとを記憶した地図メモリと、運転者による目的地の設定に応じて、地図メモリから第1の地図データを読出して、現在地から目的地までの推奨経路を算出する推奨経路算出手段と、走行に伴なう距離変化量、方位変化量および第2の地図データに基づいて車両位置を検出する車両位置検出手段とを有し、車両位置、推奨経路を上記第1の地図データに対応する道路地図に重ねて画面表示して運転者を誘導する経路誘導装置において、
上記第2の地図データには道路幅データが付属しており、かつ、次に接近する分岐点付近の第2の地図データを読出し、このデータを基に分岐点の形状を拡大した分岐点拡大形状図を編集する編集手段と、上記位置検出手段からの車両位置データに基づいて分岐点への接近を検出したときに、分岐点拡大形状図を画面に表示させる表示制御手段とを具備することを特徴とする経路誘導装置。」(特許請求の範囲第1項)
b.「この経路誘導装置は、方位センサ、距離センサ、地図メモリ、コンピュータを車両に搭載し、走行開始前あるいは走行途中において、運転者による目的地設定入力に応じて、地図メモリから現在地と目的地とを含む経路計算、表示用の地図データ(以下「第1の地図データ」という)を読出し、現在地から目的地までの推奨経路をコンピュータにより自動的に算出しておき、」(第2頁左上欄第14行-右上欄第1行)
c.「第2図は経路誘導装置の概略構成を示す。経路誘導装置は、コンソール(11)と、表示器(12)と、方位センサ(13)と、距離センサ(14)と、第1の地図データ、第2の地図データ等を格納している地図メモリ(15)と、地図メモリ(15)からデータを読出すメモリドライブ(16)と、距離センサ(14)により検出される走行距離、および方位センサ(13)により検出される走行方向変化量をそれぞれ積算し、積算データとメモリドライブ(16)により読出した第2の地図データとの比較に基いて車両位置を検出するロケータ(17)と、第1の地図データを利用した誘導経路の算出、所定範囲の道路地図の検索・読出、運転者を誘導するためのグラフィック表示用データの生成、表示器(12)、音声出力装置(18)の制御、およびロケータ(17)の制御等の種々の演算制御を行うコントローラ(19)とを有している。
コンソール(11)は、この経路誘導装置の起動・停止や画面上のカソール移動、画面上に表示されている道路地図のスクロール等をさせるキー入力ボード(図示しない)を有している。」(第3頁左上欄第9行-右上欄第9行)
d.「表示器(12)には、CRT、液晶パネル等の画面上に透明のタッチパネルが取付けられている。そして、表示器(12)はコントローラ(19)から供給される初期設定メニューを表示し、運転者は、画面の表示位置にタッチして、推奨経路の選定基準(例えば、最短時間経路、最短距離経路、右折左折の少ない道路、道幅の広い道路)、地図の倍率、目的地等を入力する。即ち、コントローラ(19)と運転者との対話を仲介している。尚、上記目的地入力は、コンソール(11)のキーを操作して入力してもよい。この外、道路地図の地名欄、有名施設欄、予め運転者が登録しておいた地点等の地点データを選択して入力してもよい。また途中経過地点を運転者自身で指定することが可能である。」(第3頁右下欄第18行-第4頁左上欄第11行)
e.「経路誘導処理部(28)は、現在地と目的地に関する情報を経路計算処理部(29)へ送信し、経路計算処理部(29)は、上記初期画面で設定された選択基準に従った計算法を採用して、現在地から目的地までの推奨経路を算出し(以上ステップ2)、それとともに推奨経路に沿った分岐点を決定する(ステップ3)。経路誘導処理部(28)は、決定された推奨経路情報を主メモリ(27)に蓄えるとともに、その一枚を地図上に表示する(ステップ4)。推奨経路は第5図(A)のように表示される。現在地は第5図(A)にAで、目的地位置は×で示される。決定された分岐点は、画面上で第5図(B)のa〜d点のよう表示される(但し、分岐点の表示は省略してもよい)。
上記のようにして推奨経路計算した後、自動車は走行を開始する。表示制御部(23)は、車両位置座標を基準にした地図をメモリドライブ(16)を通して地図メモリ(15)から得、画面に道路地図を表示させ、表示地図は自動車の走行に従って次々に更新されていく。」(第4頁右下欄第8行-第5頁左上欄第7行)

(イ)刊行物2:甲第2号証(特開平3-39780号公報)には、
a.「供給される表示情報信号に応じた画像の表示をなす表示手段と、
複数の地域に各々対応する複数の地図データ群が記憶された記憶媒体から前記地図データ群を読み取る読取手段と、
車両の現在地を認識しつつその現在地の地点座標を示す地点データ群を得る現在地認識手段と、
車両が一定距離だけ走行する毎に前記地点データ群を収集して記憶手段に順次記憶する地点データ収集手段と、
車両の走行軌跡の表示指令及び走行軌跡を辿る表示速度の設定をなす入力手段と、
前記表示指令に応答して前記記憶手段の記憶地点データ群に基づいて前記表示手段によって走行軌跡を表示する走行軌跡表示手段とを備え、
前記走行軌跡表示手段は、
前記表示指令に応答して前記記憶手段の記憶地点データ群をその記憶順又はその逆順に前記入力手段による設定表示速度に応じた周期で順次読み出すべく制御する地点データ読出し制御手段と、
前記記憶手段からの読出地点データ群による地点座標を中心とした地図データ群を前記記憶媒体から抽出すべく制御しかつこの抽出地図データ群及び前記読出地点データ群を前記表示手段に前記表示情報信号として供給する表示制御手段とからなることを特徴とする車載ナビゲーション装置。」(特許請求の範囲第1項)
b.「近年、地図の道路上の各点を数値化して得られる地図データをCD-ROM等の記憶媒体に記憶しておき、車両の現在地を認識しつつその現在地を含む一定範囲の地域の地図データ群を記憶媒体から読み出して車両の現在地周辺の地図としてディスプレイ上に映し出すとともに、その地図上に車両の現在地を示す自車位置を自動表示させる車載ナビゲーション装置が開発され、実用化されつつある。
かかる車載ナビゲーション装置を用いた車両走行の際に、その走行軌跡データをメモリに記憶保持しておき、必要時にその記憶データに基づいて走行軌跡をディスプレイ上に表示することにより、過去の走行ルートあるいは逆の道順を確認したり、次回に同じルートを走行する際の手助けとなり、非常に便利である。」(第2頁左上欄第2行-第17行)
c.「本発明による車載ナビゲーション装置においては、車両の現在地を認識しつつその現在地の地点座標を示す地点データ群を車両が一定距離だけ走行する毎に収集して記憶手段に順次記憶しておき、車両の走行軌跡の表示指令に応答して記憶手段の記憶地点データ群をその記憶順又はその逆順に予め設定された表示速度に応じた周期で順次読み出し、この読出地点データ群による地点座標を中心とした地図データ群を記憶媒体から抽出すべく制御しかつこの抽出地図データ群及び読出地点データ群を表示手段に供給することにより、読み出される地点データ群による地点座標を中心として一定範囲の地域の地図を順次表示しつつ走行軌跡を表示する構成となっている。」(第2頁右上欄第3行-第16行)
d.「表示装置16は、CRT等のディスプレイ17と、V(Video)-RAM等からなるグラフィックメモリ18と、システムコントローラ5から送られてくる地図データをグラフィックメモリ18に画像データとして描画しかつこの画像データを出力するグラフィックコントローラ19と、このグラフィックコントローラ19から出力される画像データに基づいてディスプレイ17上に地図を表示すべく制御する表示コントローラ20とから構成されている。入力装置21は走行軌跡の表示指令をなす軌跡キーや走行軌跡を辿る表示速度の加速及び減速を指令する速度UPキー及びDOWNキーを含むキーボード等からなり、使用者によるキー入力により走行軌跡の表示指令や走行軌跡を辿る表示速度の加速又は減速指令等の各種の指令をシステムコントローラ5に対して発する。
次に、CPU7によって実行される走行ルート情報としての走行軌跡データの収集の処理手順について第2図のフローチャートにしたがって説明する。なお、本サブルーチンは、一定距離da走行毎に車両の現在地を認識しつつその現在地を含む一定範囲の地域の地図データ群をCD-ROMから読み出して車両の現在地周辺の地図としてディスプレイ17上に映し出すとともに、その地図上に車両の現在地を示す自車位置を表示させる処理等をなすメインルーチン(図示せず)の実行中において所定のタイミングで呼び出されて実行されるものとする。
CPU7は先ず、距離センサ3の出力データに基づいて車両が一定距離db(≧da)だけ走行したか否かを判断し(ステップS21)、一定距離だけ走行していれば、車両の現在地認識によって求められた現在地の地点座標及びその座標を含む地図番号等の地点データ群を、RAM9内のリングバッファの書込みアドレスポインタで指定されたアドレス領域に格納し(ステップS22)、続いて書込みアドレスポインタを1データ群分だけ進める(ステップS23)。
この処理が車両の一定距離db走行毎に繰り返されることにより、リングバッファにはその記憶容量に応じた数の地点データ群が走行軌跡データとして順次記憶されることになり、」(第3頁右上欄第14行-右下欄第14行)
e.「次に、入力装置21におけるキー入力によって走行軌跡の表示指令がなされた際にCPU7によって実行される走行軌跡の表示の処理手順について第3図のフローチャートにしたがって説明する。
CPU7は入力装置21からのキー入力指令に応答して先ず、読出しアドレスポインタを走行軌跡の例えば始点の地点データ群が格納されているアドレスにセットし(ステップS31)、その地点データ群をリングバッファから読み出し(ステップS32)、続いてその読出地点データ群による地点座標を中心とする一定範囲の地域の地図データ群をバッファメモリ(例えば、グラフィックメモリ18)から得てその地図及び地点座標をカーソルでディスプレイ17上に表示すべく表示装置16を制御し(ステップS33)、しかる後読出しアドレスポインタを1データ群分だけ進める(ステップS34)。
続いて、CPU7は読出しアドレスポインタが書込みアドレスポインタと一致したか否かを判断し(ステップS35)、両ポインタが不一致であれば、次に読出しアドレスポインタが先の区切りポインタと一致するか否かを判断する(ステップS36)。読出しアドレスポインタが書込みアドレスポインタとも区切りポインタとも不一致であれば、走行軌跡の表示が最終走行地点まで行なわれていない訳であるから、待機モードで所定時間だけ待機し(ステップS37)、しかる後プログラムはステップS32に移行する。ステップS37の待機モードで所定時間だけ待機するのは、当該時間の周期で地図をスクロールするためであり、この待機モードの処理手順については後述する。
以上の処理の繰返しにより、リングバッファから順に地点データ群が読み出され、ディスプレイ17上にはこの地点データ群による地点の座標位置が中心となるように地図がステップS37の待機モードで設定される周期でスクロールされて走行軌跡が表示されることになる。」(第4頁左上欄第3行-右下欄第19行)
f.「続いて、先述した待機モードの処理手順について第4図のフローチャートにしたがって説明する。
CPU7は先ず、タイマーカウンタに初期値をセットし(ステップS41)、続いて入力装置21から走行軌跡を辿る表示速度の加速又は減速を指令するキー入力があるか否かを判断する(ステップS42)。加速又は減速を指令するキー入力があれば、CPU7はキー入力の例えば入力時間に応じた量だけタイマーカウンタの初期値を増加又は減少せしめ(ステップS43)、しかる後単位時間だけ待機する(ステップS44)。加速又は減速を指令するキー入力がなければ、プログラムは直接ステップS44に移行する。単位時間だけ待機した後、CPU7はタイマーカウンタのカウント値Nを“1"だけカウントダウンし(ステップS45)、続いてそのカウント値Nが0か否かを判断し(ステップS46)、N≠0であればプログラムはステップS42に戻り、N=0であればプログラムは第3図のステップS32に戻る。
この待機モードの処理によれば、入力装置21におけるキー入力によって表示速度の加速又は減速指令をなすことにより、走行軌跡を表示する際の地図のスクロール周期を変化させて走行軌跡を辿る表示速度を自由に設定できるため、バッファメモリに格納されている多数の地点データ群による走行軌跡のうち特定の区間の走行軌跡を重点的に表示する場合に便利となる。」(第4頁左下欄第5行-右下欄第11行)

との記載がある。

(ウ)刊行物3:甲第3号証(特開昭59-212709号公報)には、
a.「車両の走行距離を検出する走行距離検出器と、車両の進行方位を検出する方位検出器と、地図情報を記憶した地図メモリと、二次元の画面を有する表示器と、上記地図メモリの記憶している地図を上記表示器に表示すると共に、上記走行距離検出器によって得られた走行距離と上記方位検出器によって得られた進行方位とに基づいて車両の現在位置を演算し、この車両の現在位置を示すマークを上記表示器に表示した地図に重ねて表示する制御回路とから成る走行情報表示装置において、上記制御回路は演算した車両の現在位置と上記地図メモリの記憶内容とを比較して車両の走行している道路を検出する手段と、この道路に応じて予め上記地図メモリに記憶した縮尺を設定する手段とを備え、上記設定した縮尺で上記表示器に地図を表示させることを特徴とする走行情報表示装置。」(特許請求の範囲第1項)
b.「このような装置において、表示器に表示された地図は山間地の道路や高速道路などのように渋滞なく走行できる場合は縮尺を小さく、市街地などのように道路が密集している地域を渋滞しながら走行する場合は縮尺を大きくした方が実用性は高いが、使用者にとっては、走行する状況に合わせて縮尺を切り替えるための所定の操作をしなければならない煩わしさがあった。」(第1頁右下欄第19行-第2頁左上欄第6行)
c.「ステップS10では、ステップS8で算出した地図4a上における車両3の現在位置(u,v)が、同じく地図4aで定めた市街地道路d,e,fにあるか、それ以外の道路a,b,cにあるかを判別する。この判断は、地図メモリ4に記憶されているメモリM27〜M41によって定まる市街地道路d,e,fと車両3の現在位置とを比較することにより行われる。」(第4頁右上欄第1行-第8行)

との記載がある。

(エ)刊行物4:甲第4号証(特開平4-45476号公報)には、
a.「複数の地図データを記憶する地図データ記憶部(1)と、移動体の移動速度データをもとに検知された移動距離データおよび該移動体の現在の方位データを用いて前記移動体の現在位置を予め定められた時間間隔により演算する現在位置演算部(2)と、該演算された現在位置に応じて前記地図データ記憶部(1)から選択される地図データを前記現在位置に合わせて地図表示データを生成する地図表示データ生成部(3)とを有するロケーション装置において、
前記移動速度データの大小に応じて、前記現在位置演算部(2)による前記現在位置を演算する時間間隔をそれぞれ小さくまたは大きく設定する可変時間間隔設定部(4)を備えることを特徴とするロケーション装置。」(特許請求の範囲第1項)
b.「走行車等の移動体の移動速度データをもとに検知された・・・移動体が高速に移動している場合でもロケーション地図上でのスムーズな地図スクロールが可能となる。」(第2頁左上欄第3行-第20行)
c.「上記のとおり、従来のロケーション装置において・・・地図の動きが不連続になってスムーズな地図スクロールが行えないという問題が生じてくる。」(第3頁左上欄第6行-第20行)
d.「さらに、地図表示データ生成部3を・・・サンプリング時間設定データメモリ22も付設されている。」(第4頁左上欄第12行-右上欄第3行)
e.「さらに、メインCPU7によりCD装置10から・・・9画面分の画像データがメモリブロックとして一度に記憶される。」(第4頁右上欄第20行-左下欄第9行)
f.「第5図は第3図における地図スクロール手順を説明するための・・・一連の地図スクロール動作は走行車が停止するまで繰り返される(ステップf)。」(第4頁左下欄第16行-右下欄第20行)

との記載がある。

イ.対比、判断
(ア)本件発明1と上記刊行物1ないし4に記載された各発明とを対比すると、前記各刊行物に記載された発明は、本件発明1の構成に欠くことのできない事項である「最適経路が高速道路に沿っている場合であればスクロールの速度を自動的に速くし、最適経路が高速道路に沿っていない場合であればスクロールの速度を自動的に遅くする」との構成を備えていない。
すなわち、刊行物1記載の発明は、推奨経路を算出する推奨経路算出手段を備えているが、推奨経路を事前に確認するための構成や、スクロール速度を自動的に変化させる構成を備えていない。
また、刊行物2記載の発明は、記憶された走行軌跡データに基づき地図データ群を抽出し、一定範囲の地域の地図を順次表示しつつ走行軌跡を表示するもので、必要時に走行軌跡が表示でき、過去の走行ルートや逆の道順を確認できるものではあるが、出発地と目的とから算出された最適経路を確認するものではない。また、刊行物2記載の発明は、地図のスクロール周期を変化させて走行軌跡を辿る表示速度を自由に設定できるものではあるが、表示速度の加速又は減速指令は使用者によるキー入力によるもので、自動的に表示速度が変わるものではない。さらに刊行物2には、最適経路が高速道路に沿っていればスクロールの速度を自動的に速くすることを示唆する記載がないばかりか、走行軌跡が高速道路に沿っていれば自動的に表示速度を速くするような構成の記載さえも見当たらない。
また、刊行物3記載の発明は、車両の現在地に基づき車両の走行している道路を検出して、自動的に地図の縮尺を変更するもので、事前に最適経路を確認するものではなく、またスクロール速度を自動的に変化させる構成を備えていない。
また、刊行物4記載の発明は、移動体の移動速度に基づき、現在位置演算のサンプリング速度や地図表示データの更新速度を変えるもので、最適経路を事前に確認するたものものではない。本件発明1が、ドライバ等が事前に経路を確認するため、移動体速度とは関係なく地図データがスクロールできる表示装置を前提としていることは、前記2(1)で述べたとおりである。

そして、「最適経路が高速道路に沿っている場合であればスクロールの速度を自動的に速くし、最適経路が高速道路に沿っていない場合であればスクロールの速度を自動的に遅くする」との構成を備えることで、「一連のスクロール時間を短縮することができる」という効果を奏するものであり、したがって、本件発明1が上記刊行物1ないし4に記載された各発明に基づいて当業者が容易に発明することができたものとはいえない。

(イ)本件発明2と上記刊行物1ないし4に記載された各発明とを対比すると、前記各刊行物に記載された発明は、本件発明2の構成に欠くことのできない事項である「経由地付近以外の地図表示データであれば、滑らかにスクロールさせながら表示し、経由地付近の地図表示データであれば、スクロール速度を遅めるか暫くスクロールを止めて表示する」との構成を備えていない。
すなわち、刊行物1記載の発明は、推奨経路を算出する推奨経路算出手段を備えているが、推奨経路を事前に確認するための構成や、スクロール速度を自動的に変化させる構成を備えていない。
また、刊行物2記載の発明は、記憶された走行軌跡データに基づき地図データ群を抽出し、一定範囲の地域の地図を順次表示しつつ走行軌跡を表示するもので、必要時に走行軌跡が表示でき、過去の走行ルートや逆の道順を確認できるものではあるが、出発地と目的とから算出された最適経路を確認するものではない。また、刊行物2記載の発明は、地図のスクロール周期を変化させて走行軌跡を辿る表示速度を自由に設定できるものではあるが、表示速度の加速又は減速指令は使用者によるキー入力によるもので、自動的に表示速度が変わるものではない。さらに刊行物2には、経由地が設定可能な構成の記載も、またそれを示唆する記載も見当たらない。
また、刊行物3記載の発明は、車両の現在地に基づき車両の走行している道路を検出して、自動的に地図の縮尺を変更するもので、事前に最適経路を確認するものではなく、またスクロール速度を自動的に変化させる構成を備えていない。
また、刊行物4記載の発明は、移動体の移動速度に基づき、現在位置演算のサンプリング速度や地図表示データの更新速度を変えるもので、最適経路を事前に確認するたものものではない。本件発明2が、ドライバ等が事前に経路を確認するため、移動体速度とは関係なく地図データがスクロールできる表示装置を前提としていることは、前記2(1)で述べたとおりである。

そして、「経由地付近以外の地図表示データであれば、滑らかにスクロールさせながら表示し、経由地付近の地図表示データであれば、スクロール速度を遅めるか暫くスクロールを止めて表示する」との構成を備えることで、「ドライバは、経由地付近の状況をゆっくりと確認することができる」という効果を奏するものであり、したがって、本件発明2が上記刊行物1ないし4に記載された各発明に基づいて当業者が容易に発明することができたものとはいえない。

3.むすび
以上のとおりであるから、特許異議申立の理由及び証拠によっては、本件の請求項1及び2に係る発明の特許を取り消すことはできない。
また、他に本件の請求項1及び2に係る発明の特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2004-08-26 
出願番号 特願平4-128893
審決分類 P 1 652・ 531- Y (G09B)
P 1 652・ 121- Y (G09B)
P 1 652・ 534- Y (G09B)
最終処分 維持  
前審関与審査官 佐々木 芳枝  
特許庁審判長 大野 覚美
特許庁審判官 村上 哲
安池 一貴
登録日 2003-03-28 
登録番号 特許第3412164号(P3412164)
権利者 住友電気工業株式会社
発明の名称 経路表示装置  
代理人 川崎 実夫  
代理人 稲岡 耕作  

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ