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審決分類 審判 一部申し立て 2項進歩性  B28B
管理番号 1105909
異議申立番号 異議2003-71034  
総通号数 60 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 1996-12-10 
種別 異議の決定 
異議申立日 2003-04-21 
確定日 2004-08-28 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第3336574号「セラミックグリーンシートの積層体とその製造方法」の請求項1、2に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 訂正を認める。 本件特許異議の申立てを却下する。 
理由 1.手続の経緯
特許第3336574号の請求項1ないし請求項4に係る発明についての出願は、平成7年5月29日に特許出願され、平成14年8月9日にその特許権の設定登録がなされ、その後、その請求項1及び請求項2に係る発明の特許につき、山科 朱美子及び雨山 範子より特許異議の申立てがなされ、取消しの理由が通知され、その指定期間内である平成16年6月26日に訂正請求がなされたものである。

2.訂正の適否についての判断
2-1.訂正の内容
平成16年6月26日に提出された訂正請求書による訂正の内容は、以下の通りである。
訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1及び請求項2を削除する。
訂正事項2
特許請求の範囲の請求項3の
「【請求項3】 バインダーの溶剤の高濃度蒸気雰囲気が溶剤の飽和蒸気濃度の80%以上であることを特徴とする請求項2に記載のセラミックグリーンシートの積層体の製造方法。」
という記載を、
「【請求項1】 印刷面側のセラミック粉末(4)のバインダー(5)中の分散密度が非印刷面側のセラミック粉末(4)の分散密度より高いセラミックグリーンシートの印刷面に印刷ペーストを用いてパターン(8)を印刷し、このセラミックグリーンシートを複数積層したセラミックグリーンシートの積層体を製造する方法であって、キャリアフィルム(3)の上に、バインダー(5)にセラミック粉末を分散させたセラミックスラリーを塗布した後、セラミック層(7)の印刷面となる側を上にしてバインダー(5)の溶剤の飽和蒸気濃度の80%以上の高濃度蒸気雰囲気においてセラミックスラリーの層を加熱処理し、その後、前記セラミックグリーンシートの印刷面に印刷ペーストを用いてパターン(8)を印刷し、このセラミックグリーンシートを複数積層することを特徴とするセラミックグリーンシートの積層体の製造方法。」
と訂正する。
訂正事項3
特許請求の範囲の請求項4の
「【請求項4】 バインダーの溶剤の高濃度蒸気雰囲気におけるセラミックスラリーの層の熱処理温度が80℃以上であることを特徴とする請求項2または3に記載のセラミックグリーンシートの積層体の製造方法。」
という記載を
「【請求項2】 バインダーの溶剤の高濃度蒸気雰囲気におけるセラミックスラリーの層の熱処理温度が80℃以上であることを特徴とする請求項1に記載のセラミックグリーンシートの積層体の製造方法。」と訂正する。
訂正事項4
発明の名称を、「セラミックグリーンシートの積層体とその製造方法」から、「セラミックグリーンシートの積層体の製造方法」と訂正する。
訂正事項5
明細書の段落【0001】の
「【産業上の利用分野】
本発明は、積層チップコンデンサーや積層チップインダクター等の積層電子部品を製造するためのセラミックグリーンシートの積層体とそれを製造する方法に関する。」
という記載を
「【産業上の利用分野】
本発明は、積層チップコンデンサーや積層チップインダクター等の積層電子部品を製造するためのセラミックグリーンシートの積層体を製造する方法に関する。」
と訂正する。
訂正事項6
明細書の段落【0007】の
「このようなセラミックグリーンシートを使用して積層体を作ると、積層精度が悪くなり、上下のセラミックの印刷パターンがずれて、特性のバラツキが生じる。例えば、積層セラミックコンデンサーであれば静電容量のバラツキが起こり、積層セラミックインダクターであれば、インダクタンスのバラツキが生じる。また、積層体の層間剥離等のデラミネーションも起こりやすくなる。
本発明は従来のセラミックグリーンシートの積層体における前記のような課題に鑑み、印刷ペーストによるセラミック層のシートアタックが生じにくいセラミックグリーンシートの積層体とそれを製造する方法を提供することを目的とする。」
という記載を
「このようなセラミックグリーンシートを使用して積層体を作ると、積層精度が悪くなり、上下のセラミックの印刷パターンがずれて、特性のバラツキが生じる。例えば、積層セラミックコンデンサーであれば静電容量のバラツキが起こり、積層セラミックインダクターであれば、インダクタンスのバラツキが生じる。また、積層体の層間剥離等のデラミネーションも起こりやすくなる。
本発明は従来のセラミックグリーンシートの積層体における前記のような課題に鑑み、印刷ペーストによるセラミック層のシートアタックが生じにくいセラミックグリーンシートの積層体を製造する方法を提供することを目的とする。」
と訂正する。
訂正事項7
明細書の段落【0012】の
「このような手段による得られたセラミックグリーンシートでは、セラミック層7の印刷面側のバインダー5が非印刷面側より少なくなるので、印刷ペーストを用いてその印刷面に内部電極等のパターンを印刷しても、印刷ペーストの溶剤によるバインダー5の侵食が少なく、いわゆるシートアタックが起りにくい。このため、印刷パターン部分の伸びが起こり難く、印刷パターンの変形等が生じ難くなる。
他方、セラミック層7の非印刷面側ではバインダー5の濃度が高くなるため、密着性が良くなり、積層した時の層間剥離等が起こり難くなり、いわゆるデラミネーション等の構造欠陥が生じ難くなる。
従って、前記セラミックグリーンシートの印刷面に印刷ペーストを用いてパターン8を印刷し、このセラミックグリーンシートを複数積層した本発明によるセラミックグリーンシートの積層体は、積層精度がよく、またデラミネーション等の構造欠陥が生じにくい。」
という記載を
「このような手段により得られたセラミックグリーンシートでは、セラミック層7の印刷面側のバインダー5が非印刷面側より少なくなるので、印刷ペーストを用いてその印刷面に内部電極等のパターンを印刷しても、印刷ペーストの溶剤によるバインダー5の侵食が少なく、いわゆるシートアタックが起りにくい。このため、印刷パターン部分の伸びが起こり難く、印刷パターンの変形等が生じ難くなる。
他方、セラミック層7の非印刷面側ではバインダー5の濃度が高くなるため、密着性が良くなり、積層した時の層間剥離等が起こり難くなり、いわゆるデラミネーション等の構造欠陥が生じ難くなる。
従って、前記セラミックグリーンシートの印刷面に印刷ペーストを用いてパターン8を印刷し、このセラミックグリーンシートを複数積層した本発明によるセラミックグリーンシートの積層体は、積層精度がよく、またデラミネーション等の構造欠陥が生じにくい。」
と訂正する。
2-2.訂正の目的の適否、新規事項の有無及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否
訂正事項1は、特許請求の範囲の訂正であって、具体的には、特許請求の範囲の請求項1及び請求項2を削除するものであるから、訂正事項1の訂正は、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、かつ、願書に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものである。
訂正事項2は、特許請求の範囲の訂正であって、具体的には、特許請求の範囲の請求項3について、以下の訂正(2-1)乃至訂正(2-3)の訂正をするものである。
訂正(2-1)特許請求の範囲の「請求項3」を「請求項1」と訂正する。
訂正(2-2)「バインダーの溶剤の高濃度蒸気雰囲気が」という記載を「印刷面側のセラミック粉末(4)のバインダー(5)中の分散密度が非印刷面側のセラミック粉末(4)の分散密度より高いセラミックグリーンシートの印刷面に印刷ペーストを用いてパターン(8)を印刷し、このセラミックグリーンシートを複数積層したセラミックグリーンシートの積層体を製造する方法であって、キャリアフィルム(3)の上に、バインダー(5)にセラミック粉末を分散させたセラミックスラリーを塗布した後、セラミック層(7)の印刷面となる側を上にしてバインダー(5)の」と訂正する。
訂正(2-3)「であることを特徴とする請求項2に記載の」という記載を、「の高濃度蒸気雰囲気においてセラミックスラリーの層を加熱処理し、その後、前記セラミックグリーンシートの印刷面に印刷ペーストを用いてパターン(8)を印刷し、このセラミックグリーンシートを複数積層することを特徴とする」と訂正する。
そして、上記訂正(2-1)乃至訂正(2-3)は、訂正事項1により、特許請求の範囲の請求項1及び請求項2が削除されたことに伴って、請求項3を独立請求項としたものであるから、明りょうでない記載の釈明を目的とするものであり、かつ、願書に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものである。
訂正事項3は、特許請求の範囲の訂正であって、具体的には、特許請求の範囲の請求項4について、以下の訂正(3-1)及び訂正(3-2)の訂正をするものである。
訂正(3-1)特許請求の範囲の「請求項4」を「請求項2」と訂正する。
訂正(3-2)「請求項2又は3に記載の」という記載を「請求項1に記載の」と訂正する。
そして、上記訂正(3-1)及び訂正(3-2)は、訂正事項1により、特許請求の範囲の請求項1及び請求項2が削除され、訂正事項2により、特許請求の範囲の請求項3が請求項1と訂正されたことに伴ってなされたものであるから、明りょうでない記載の釈明を目的とするものであり、かつ、願書に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものである。
訂正事項4は、発明の名称の訂正であって、具体的には、「積層体とその製造方法」という記載を「積層体の製造方法」と訂正するものであるが、これは、訂正事項1乃至訂正事項3により、特許請求の範囲の訂正がされたことに伴ってなされたものであるから、明りょうでない記載の釈明を目的とするものであり、かつ、願書に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものである。
訂正事項5及び訂正事項6は、発明の詳細な説明の訂正であって、具体的には、いずれも、「セラミックグリーンシートの積層体とそれを製造する方法」という記載を「セラミックグリーンシートの積層体を製造する方法」と訂正するものであるが、これは、訂正事項1乃至訂正事項3により、特許請求の範囲の訂正がされたことに伴ってなされたものであるから、明りょうでない記載の釈明を目的とするものであり、かつ、願書に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものである。
訂正事項7は、発明の詳細な説明の訂正であって、具体的には、「このような手段による得られた」という記載を「このような手段により得られた」と訂正するものであるから、誤記の訂正を目的とするものであり、かつ、願書に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものである。
そして、これらの訂正は、実質上特許請求の範囲の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。
2-3.むすび
以上のとおりであるから、上記訂正請求書による訂正は、特許法等の一部を改正する法律(平成6年法律第116号)附則第6条第1項の規定によりなお従前の例によるとされる、特許法第120条の4第3項において準用する平成6年法律第116号による改正前の特許法第126条第1項ただし書、第2項及び第3項の規定に適合するので、当該訂正を認める。

3.特許異議申立についての判断
平成16年6月26日に提出された訂正請求書による訂正は、上記のとおり、認められるものである。
そして、請求項1及び請求項2に係る発明は、訂正の結果削除され、特許異議の申立ての対象が存在しないので、この特許異議の申立ては、不適法な申立てであって、その補正ができないものである。
したがって、本件特許異議の申立ては、特許法第120条の6第1項で準用する同法第135条の規定によって却下すべきものである。
よって、結論の通り却下する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
セラミックグリーンシートの積層体の製造方法
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】 印刷面側のセラミック粉末(4)のバインダー(5)中の分散密度が非印刷側面側のセラミック粉末(4)の分散密度より高いセラミックグリーンシートの印刷面に印刷ペーストを用いてパターン(8)を印刷し、このセラミックグリーンシートを複数積層したセラミックグリーンシートの積層体を製造する方法であって、キャリアフィルム(3)の上に、バインダー(5)にセラミック粉末を分散させたセラミックスラリーを塗布した後、セラミック層(7)の印刷面となる側を上にしてバインダー(5)の溶剤の飽和蒸気濃度の80%以上の高濃度蒸気雰囲気においてセラミックスラリーの層を加熱処理し、その後、前記セラミックグリーンシートの印刷面に印刷ペーストを用いてパターン(8)を印刷し、このセラミックグリーンシートを複数積層することを特徴とするセラミックグリーンシートの積層体の製造方法。
【請求項2】 バインダーの溶剤の高濃度蒸気雰囲気におけるセラミックスラリーの層の熱処理温度が80℃以上であることを特徴とする請求項1に記載のセラミックグリーンシートの積層体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】
本発明は、積層チップコンデンサーや積層チップインダクター等の積層電子部品を製造するためのセラミックグリーンシートの積層体を製造する方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
積層電子部品の最も代表的な例である積層セラミックコンデンサーは、内部電極を有する誘電体セラミック層が多数積み重ねられ、内部電極が積層体の端面に交互に引き出されている。そして、これらの内部電極が引き出された積層体の端面に外部電極が形成されている。
【0003】
このような積層セラミックコンデンサの従来の製造方法は、誘電体セラミック粉末を有機バインダーに分散させたセラミックスラリーを、ポリエチレンテレフタレートフィルム等のキャリアフィルム上にロールコーター等で塗布し、その後塗布したセラミックスラリーを乾燥することにより、薄いセラミック層からなるセラミックグリーンシートを作る。次に、スクリーン印刷法等により、このセラミックグリーンシートの上に導電ペーストで内部電極パターンを印刷する。そして、この内部電極パターンが印刷されたグリーンシートを所定の大きさに裁断した後、これを所定の順序で積層し、さらにその両側に内部電極パターンが印刷されてないグリーンシートを複数枚積み重ねる。こうして得られた積層体を内部電極が端面に露出するようにしてチップ状に切断し、これを焼成する。これにより、焼結された積層体が得られる。そして、この焼結された積層体の内部電極が露出した端面に導電ペーストを塗布し、これを焼き付けて外部電極を形成する。これにより、積層チップコンデンサが完成する。
【0004】
前記セラミックグリーンシートの製造工程では、数百〜千センチポイズ程度の粘度に調整されたセラミックスラリーが使用され、これがキャリアフィルム上に塗布された後乾燥される。この乾燥工程では、全長が十数mに及ぶトンネル炉が使用され、セラミックスラリーを塗布したキャリアフィルムをこのトンネル炉に導入し、加熱、乾燥する。セラミックグリーンシートにヒビやブリスター(気泡)が発生するのを防止するため、トンネル炉は内部が複数のゾーンに分けられ、入口から奥に進むに従って次第に温度が高くなり、最高温度に達した後、出口付近で降温され、その後引き出される。また、トンネル炉はバインダー中の溶剤の蒸発を促し、乾燥効率を高めるため絶えず換気されており、溶剤の蒸気濃度は20%以下に抑えられている。そして、加熱温度は最高120℃前後に達する。
【0005】
【発明が解決しようとしている課題】
多くの回路部品が小型化される中で、前記のような積層セラミックコンデンサや積層セラミックインダクター等の積層電子部品についても、小型化、大容量化が要求されている。このようなコンデンサを歩留り良く製造するためには、前記のグリーンシートに精度良くパターンを印刷し、これを精度良く積層する技術が必要である。
【0006】
ところが、前記のようなセラミックグリーンシートの上に、導電ペースト等の印刷ペーストを使用して、内部電極等のパターンを印刷すると、印刷ペーストに含まれる溶剤がセラミックグリーンシートに含まれるバインダー成分を溶かし、セラミックグリーンシートのパターンが印刷された部分が膨潤して延び、皺が出来たり印刷パターンの変形等が生じる。このような現象は、いわゆるシートアタックと呼ばれている。
【0007】
このようなセラミックグリーンシートを使用して積層体を作ると、積層精度が悪くなり、上下のセラミックの印刷パターンがずれて、特性のバラツキが生じる。例えば、積層セラミックコンデンサーであれば静電容量のバラツキが起こり、積層セラミックインダクターであれば、インダクタンスのバラツキが生じる。また、積層体の層間剥離等のデラミネーションも起こりやすくなる。
本発明は従来のセラミックグリーンシートの積層体における前記のような課題に鑑み、印刷ペーストによるセラミック層のシートアタックが生じにくいセラミックグリーンシートの積層体を製造する方法を提供することを目的とする。
【0008】
【課題を解決するための手段】
すなわち、本発明では、前記の目的を達成するため、セラミックグリーンシートの積層体を構成するセラミック層7の印刷面側のセラミック粉末4のバインダー5中の分散密度が非印刷面側のセラミック粉末4の分散密度より高くしたものである。
例えば、セラミック層7の印刷面がキャリアフィルム3に接したのと反対側の面であることが多いが、その場合はその面側のセラミック粉末4の分散密度を、キャリアフィルムに接した側のセラミック粉末4の分散密度より高くする。
【0009】
【0010】
このようなセラミックグリーンシートの積層体を製造する方法は、次の通りである。まず、キャリアフィルム3の上に、バインダー5にセラミック粉末を分散させたセラミックスラリーを塗布し、乾燥するに当り、キャリアフィルム3上にセラミックスラリーを塗布した後、セラミック層7の印刷面となる側を上にしてバインダー5の溶剤の高濃度蒸気雰囲気においてセラミックスラリーの層を加熱処理する。
例えば、飽和蒸気濃度の80%以上の溶剤蒸気雰囲気において、80℃以上の温度で加熱処理する。
その後、前記セラミックグリーンシートの印刷面に印刷ペーストを用いてパターン8を印刷し、このセラミックグリーンシートを複数積層し、セラミックグリーンシートの積層体を得る。
【0011】
【作用】
前記本発明によるセラミックグリーンシートの積層体の製造方法において、キャリアフィルム3上にセラミックスラリーを塗布した後、バインダー5の溶剤の高濃度蒸気雰囲気においてセラミックスラリーの層を加熱処理すると、加熱温度の割にはバインダー5に含まれる溶剤が蒸発しにくい。従って、セラミックスラリーの表面から僅かずつバインダー5の溶剤が蒸発するが、同時に、高温によりキャリアフィルム上に塗布されたセラミックスラリーの中では対流が起る。この対流により、セラミックスラリーに均一に分散したセラミック粉末4がセラミックスラリーの層の中で上昇し、セラミック層7の印刷面となる上面側に集まる。従って、セラミックスラリーの層の下側より上側でセラミック粉末4のバインダー5中への分散密度が高くなる。そして、この状態でキャリアフィルム3上に塗布されたセラミックスラリーが次第に乾燥され、セラミックグリーンシートを構成するセラミック層7となる。これにより、セラミック層7の印刷面側のセラミック粉末4のバインダー5中の分散密度が非印刷面側のセラミック粉末4の分散密度より高いセラミックグリーンシートが得られる。
【0012】
このような手段により得られたセラミックグリーンシートでは、セラミック層7の印刷面側のバインダー5が非印刷面側より少なくなるので、印刷ペーストを用いてその印刷面に内部電極等のパターンを印刷しても、印刷ペーストの溶剤によるバインダー5の侵食が少なく、いわゆるシートアタックが起りにくい。このため、印刷パターン部分の伸びが起こり難く、印刷パターンの変形等が生じ難くなる。
他方、セラミック層7の非印刷面側ではバインダー5の濃度が高くなるため、密着性が良くなり、積層した時の層間剥離等が起こり難くなり、いわゆるデラミネーション等の構造欠陥が生じ難くなる。
従って、前記セラミックグリーンシートの印刷面に印刷ペーストを用いてパターン8を印刷し、このセラミックグリーンシートを複数積層した本発明によるセラミックグリーンシートの積層体は、積層精度がよく、またデラミネーション等の構造欠陥が生じにくい。
【0013】
【実施例】
次に、図面を参照しながら、本発明の実施例について具体的且つ詳細に説明する。
図1に示すように、本発明によるセラミックグリーンシートの積層体を製造するためのセラミックグリーンシートは、ポリエチレンテレフタレートフィルム等のキャリアフィルム3上に形成された薄いセラミック層7からなる。このセラミック層7は、例えば積層セラミックコンデンサーを製造するためのものであれば、チタン酸バリウム等の誘電体からなるセラミック粉末4をバインダー5に分散したものであり、また積層セラミックインダクターを製造するためのものであれば、フェライト等の磁性体からなるセラミック粉末4をバインダー5に分散したものである。
【0014】
図1(c)において、符号6は印刷及び裁断時の位置決め等のため、キャリアフィルム3に一定の間隔で設けた位置決め孔である。
このようなセラミックグリーンシートを構成するセラミック層7の表面には、印刷ペーストを用い、図2(a)で示すような複数の積層電子部品の内部電極等のパターン8が縦横に配列されて同時に印刷される。その後、図2(b)で示すようにこのセラミックグリーンシートが所定の形状に裁断され、さらに図2(c)で示すように積層され、圧着される。その後、この積層体が裁断され、個々の積層電子部品のための積層チップに分割される。この積層チップは、焼成された後、例えばその両端等の表面に外部電極用の導電ペーストが印刷され、焼き付けられる。これにより積層電子部品が完成する。
【0015】
このようにして作られる積層電子部品である積層セラミックコンデンサは、例えば、図3に示すような層構造を有する。すなわち、内部電極15、16を有する誘電体層11、11…が図6で示す順序に積層され、さらにその両側に内部電極が形成されてない誘電体層17、18が複数層積み重ねられる。そして、このような積層体の内部電極15、16が露出した端面に図示されてない外部電極が形成される。
従って、前述のセラミックグリーンシートの積層工程では、このような層構造となるようにセラミックグリーンシートが積層されることは言うまでもない。
【0016】
他方、図4は積層チップインダクターの積層構造を示す概念図である。磁性体層21、21…は、周回状の内部電極35a、35b、35c、35d、35e、35fを有する。磁性体層21、21…の内部電極35a、35b、35c、35d、35e、35fの一端部に当たる位置に、スルーホール32、32…が設けられ、そこににスルーホール導体33、33…が形成されている。
【0017】
必要とするコイルの巻数により、内部電極35a、35b、35c、35dを有する磁性体層21、21…を適当な組数だけ順次積層される。さらにこれら磁性体層21、21…の両側には、導体35aに代えて、内部導体引出し部25、26を各々有する内部電極35e、35fが各々印刷された磁性体層23、24が積層される。ここで、磁性体層21、21…が積層された状態では、上下の磁性体層21、21…の内部電極35a、35b、35c、35dの端部は、前記スルーホール32、32…を介して順次接続され、積層体の内部にコイル状に連なった一連の導体が形成される。さらにその両側に内部電極を有しない磁性体層27、28が積層される。
【0018】
なお、内部電極のパターンやその接続構造が異なるが、コンデンサーとインダクターとを組み合わせたLCフィルターや共振器等の複合部品、或は内部に回路パターンを形成した多層回路基板からなる混成集積回路等も同様にして製造される。
図1(a)に、このような積層電子部品を製造するための本発明によるセラミックグリーンシートの内部構造を模式的に示す。既に述べた通り、セラミックグリーンシートは、キャリアフィルム3の上にバインダー5にセラミック粉末4を分散させたセラミックスラリーを塗布し、乾燥することにより形成されたセラミック層7からなる。図1(a)に示されたように、このセラミック層7にはバインダー5中にセラミック粉末4が分散しているが、セラミック層7の印刷面側のセラミック粉末4のバインダー5中への分散密度は、非印刷面側のセラミック粉末4の分散密度より高くなっている。より具体的には、前記セラミック層7の印刷面がキャリアフィルム3に接したのと反対側の面であるため、図1(a)において、セラミック層7の上側のセラミック粉末4のバインダー5中への分散密度が、キャリアフィルム3に接した下面側のセラミック粉末4の分散密度より高くなっている。
【0019】
既に述べた通り、このようなセラミックグリーンシートでは、印刷ペーストを用いてセラミック層7の印刷面に内部電極等のパターンを印刷しても、印刷ペーストの溶剤によるシートアタックが起りにくい。このため、印刷パターン部分の伸びが起こり難く、印刷パターンの変形等が生じ難くい。また、セラミックグリーンシートを積層した時の層間剥離等が起こり難くなり、いわゆるデラミネーション等の構造欠陥が発生し難くなる。
【0020】
このようなセラミックグリーンシートは、次のようにして作られる。まず微細化したセラミック粉末と有機バインダーとを混練してスラリーを作り、これをロールコータ等によってベースフィルム上に均一な厚さで薄く展開し、乾燥することにより作られる。
この場合に、キャリアフィルム3上にセラミックスラリーを塗布した後、直ちにセラミックスラリーを乾燥することなく、セラミック層7の印刷面となる側を上にしてセラミックスラリーの溶剤の高濃度蒸気雰囲気においてセラミックスラリーの層を加熱処理する。これと同時またはその後に、セラミックスラリーの層からバインダーの溶剤を蒸発させ、乾燥する。
【0021】
既に述べた通り、キャリアフィルム3上に塗布したセラミックスラリーの乾燥は、通常トンネル炉で行うが、例えば、トンネル炉の最初のゾーンを、飽和蒸気濃度の80%以上の溶剤蒸気雰囲気において、80℃以上の温度とし、その後通常の乾燥ゾーン、つまり低溶剤蒸気雰囲気下での乾燥に移るようにする。或は、トンネル炉の入口と出口の通気を極力抑制することで、その全体のゾーンを、飽和蒸気濃度の80%以上の溶剤蒸気雰囲気において、80℃以上の温度としてセラミックグリーンシートの乾燥を行ってもよい。
【0022】
このようなセラミックグリーンシートの製造方法では、溶剤の高濃度蒸気雰囲気のため、加熱温度の割にはセラミックスラリー中のバインダー5に含まれる溶剤の蒸発は緩慢である。このためセラミックスラリーの表面から僅かずつバインダー5の溶剤が蒸発する程度となる。同時に、高温によりキャリアフィルム3上に塗布されたセラミックスラリーの中で対流が起る。この対流により、セラミックスラリーに均一に分散したセラミック粉末4がセラミックスラリーの層の中で上昇し、セラミック層7の印刷面となる上面側に集まり、セラミック粉末の濃度勾配が形成される。その後、キャリアフィルム上に塗布されたセラミックスラリーが乾燥され、セラミックグリーンシートを構成するセラミック層7となるので、前記のセラミック粉末の濃度勾配が固定され、セラミック層7の印刷面側のセラミック粉末4の分散密度が非印刷面側のセラミック粉末4の分散密度より高いセラミックグリーンシートが得られる。
【0023】
トンネル炉内の空気中の溶剤濃度を飽和溶剤濃度の80%未満とした場合、キャリアフィルム上に塗布されたセラミックスラリーからの溶剤の蒸発が速くなるため、加熱温度によっては前述のようなセラミック粉末の濃度勾配が生じ難くなる場合もある。また、加熱温度が80℃未満の場合、キャリアフィルム3上の塗布されたセラミックスラリー内での対流が起こりにくくなるため、トンネル炉内の空気中の溶剤濃度によっては、やはり前述のようなセラミック粉末の濃度勾配が生じ難くなる場合もある。従って、トンネル炉の少なくとも初めのゾーンは、飽和蒸気濃度の80%以上の溶剤蒸気雰囲気とし、加熱温度を80℃以上の温度とすることが望ましい。
【0024】
次に本発明の具体例について説明すると、まずロールコーターでポリエチレンテレフタレートフィルムからなるキャリアフィルム上にセラミックスラリーを均一な厚みで薄く塗布し、その後このキャリアフィルムをトンネル炉に導入し、その上に塗布したセラミックスラリーを乾燥し、セラミックグリーンシートを製作した。使用したバインダーの溶剤は、トルエンとアルコールが7:3の割合からなる有機溶剤である。
【0025】
ここで、トンネル炉ではセラミックグリーンシートの入口と出口部分を絞り、全体のゾーン雰囲気の溶剤濃度を溶剤飽和濃度の85%とし、加熱温度を80℃とした。なお、製作したセラミックグリーンシートの厚みは70μmであり、これを何れも同じ方法と条件で10ロット作った。
このようにして得られたセラミックグリーンシートを使用し、前述のような既知の方法により、ターン数5回、標準縦横寸法2.1mm、長さ2.5mmの積層セラミックインダクターを製造した。
【0026】
こうして得られた積層セラミックインダクターを破断し、その断面を顕微鏡観察したところ、積層体の各層においてセラミック粉末の密度勾配が見られた。また、これらの積層セラミックインダクター500個について、それらの各層の延び、積層精度、インダクタンス値L、Q値及びデラミネーション等の構造欠陥の発生率を測定した。その結果を表1に示す。
また、比較のため、トンネル炉内のセラミックグリーンシートの入口と出口部分を絞らず、第一ゾーン雰囲気の溶剤濃度を溶剤飽和濃度の10%以下とし、加熱温度を40℃とし、最高加熱温度を80℃としてキャリアフィルムに塗布したセラミックスラリーを乾燥した以外は、前記と同様にしてセラミックグリーンシートを作り、これから積層セラミックインダクターを作った。
【0027】
こうして得られた積層セラミックインダクターを破断し、その断面を顕微鏡観察したところ、積層体の各層においてセラミック粉末の密度勾配は見られなかった。また、これらの積層セラミックインダクター500個について、それらの各層の延び、積層精度、インダクタンス値L、Q値及びデラミネーション等の構造欠陥の発生率を測定し、その結果を表1に示した。
この表1から明かなように、本発明の実施例は、比較例に比べて層の伸び及び積層精度が小さく、インダクタンス値L及びQ値のバラツキが小さくなっていることが分かる。また、構造欠陥も発生していない。
【0028】
【表1】

【0029】
さらに、前記のセラミックグリーンシートの製造方法において、トンネル炉の全体のゾーン雰囲気の溶剤濃度を溶剤飽和濃度の70〜95%と5%の段階で変え、同時にその加熱温度を70〜120℃と10℃の段階で変え、セラミックグリーンシートを作り、それから同様にして積層セラミックインダクターを製造した。この積層セラミックインダクターを断面し、その各層にセラミック粉末の分散密度勾配が見られるか否かを調べた。なお、前記ゾーン雰囲気の溶剤濃度は、トンネル炉の入口と出口のダンパーの調整により制御した。この結果、積層セラミックインダクターの断面の各層にセラミック粉末の分散密度勾配が明確に見られるのを○、セラミック粉末の分散密度勾配が不明確ないしは見られないものを×で表2に示した。
【0030】
【表2】

【0031】
この表2の結果から明かな通り、炉の溶剤雰囲気濃度が飽和溶剤濃度の75%では、乾燥温度が70℃と低くなければ、セラミックグリーンシートのセラミック粉末の分散密度勾配が生じないことが分かる。他方、加熱温度を70℃とすると、炉の溶剤雰囲気濃度を飽和溶剤濃度の90%以上と高くしないと、セラミックグリーンシートのセラミック粉末の分散密度勾配が生じないことが分かる。これらの場合、セラミックスラリー中に含まれる溶剤の蒸発が緩慢過ぎるため、生産性の低下をもたらすことになる。換言すると、乾燥時の溶剤蒸気雰囲気を飽和蒸気濃度の80%以上、加熱温度を80℃以上とした場合が安定してセラミックグリーンシートのセラミック粉末の分散密度勾配が生じ、セラミックスラリーの溶剤の乾燥の速さも適当であるため、望ましいということができる。
【0032】
なお、以上は積層セラミックインダクターを製造する場合の具体例であったが、他の積層電子部品、例えば積層セラミックコンデンサーを製造する場合も同様にして効果が見られる。すなわち、積層セラミックコンデンサーの製造に本発明を適用した場合は、静電容量値のバラツキが少なくなる等の効果が得られる。前記の溶剤雰囲気濃度や加熱温度の条件は、積層セラミックコンデンサー等の他の積層電子部品の製造の場合も同様である。
【0033】
【発明の効果】
以上説明した通り、本発明によれば、印刷ペーストを使用してセラミックグリーンシートに内部電極等のパターンを印刷するときの、印刷ペーストによるシートアタックが生じにくいので、印刷時のシートの延びがない。このため、高い積層精度を有する積層体が得られる。しかもこの積層体は、デラミネーション等の構造欠陥の発生も少ない。これにより、特性が安定し、不良率の少ない積層電子部品が製造できるという効果が得られる。
【図面の簡単な説明】
【図1】
本発明によるセラミックグリーンシートの積層体を得るためのセラミックグリーンシートのセラミック粉末の分布を示す概念図、同セラミックグリーンシートの要部断面図及び同セラミックグリーンシートの部分斜視図である。
【図2】
前記のようなセラミックグリーンシートを使用して積層電子部品を製造するための積層体を作る過程を示す平面図と完成した積層体の斜視図である。
【図3】
前記のようなセラミックグリーンシートを使用して作られる積層セラミックコンデンサーの層構造を示す分解斜視図である。
【図4】
前記のようなセラミックグリーンシートを使用して作られる積層セラミックインダクターの層構造を示す分解斜視図である。
【符号の説明】
3 キャリアフィルム
4 セラミック粉末
5 バインダー
7 セラミック層
8 パターン
9 積層体
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2004-08-09 
出願番号 特願平7-155387
審決分類 P 1 652・ 121- XA (B28B)
最終処分 決定却下  
前審関与審査官 近野 光知  
特許庁審判長 多喜 鉄雄
特許庁審判官 金 公彦
西村 和美
登録日 2002-08-09 
登録番号 特許第3336574号(P3336574)
権利者 太陽誘電株式会社
発明の名称 セラミックグリーンシートの積層体の製造方法  
代理人 北條 和由  
代理人 北條 和由  

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