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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  C07C
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  C07C
管理番号 1105947
異議申立番号 異議2003-71631  
総通号数 60 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 1994-01-18 
種別 異議の決定 
異議申立日 2003-06-24 
確定日 2004-08-23 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第3360689号「フッ素化ビニルエーテルの製造方法」の請求項1ないし6に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 訂正を認める。 特許第3360689号の請求項1ないし6に係る特許を維持する。 
理由 1.手続の経緯
本件特許3360689号の請求項1〜6に係る発明についての出願は、平成4年6月26日に特許出願され、平成14年10月18日にその特許権の設定登録がなされ、その後、旭硝子株式会社より特許異議の申立てがなされ、取消理由の通知がなされ、その指定期間内である平成16年7月9日に訂正請求がなされたものである。

2.訂正の適否についての判断

2-1.訂正事項
訂正事項a
請求項1における「フッ素化カルボン酸金属塩の分解温度以下で反応させ、しかる後に、この反応によって得られる前記フッ素化カルボン酸金属塩を分解温度以上にして分解させ」を「フッ素化カルボン酸金属塩の分解温度以下で反応させて、対応する前記フッ素化カルボン酸金属塩を得、しかる後に、分解温度以上に温度を上げることにより、前記反応によって得られる前記フッ素化カルボン酸金属塩を分解させ」と訂正する。
訂正事項b
請求項3における「酸ハロゲン化物と金属塩又は金属酸化物とを50〜200 ℃で反応させ、フッ素化カルボン酸金属塩を180〜280 ℃で分解させる」を「酸ハロゲン化物と金属塩又は金属酸化物とをフッ素化カルボン酸金属塩の分解温度以下である50〜200 ℃で反応させて、対応する前記フッ素化カルボン酸金属塩を得、しかる後に、このフッ素化カルボン酸金属塩を分解温度以上である180〜280 ℃で分解させる」と訂正する。
訂正事項c
本件特許公報段落番号[0010]における「フッ素化カルボン酸金属塩の分解温度以下で反応させ、しかる後に、この反応によって得られる前記フッ素化カルボン酸金属塩を分解温度以上にして分解させ」を「フッ素化カルボン酸金属塩の分解温度以下で反応させて、対応する前記フッ素化カルボン酸金属塩を得、しかる後に、分解温度以上に温度を上げることにより、前記反応によって得られる前記フッ素化カルボン酸金属塩を分解させ」と訂正する。

2-2.訂正の目的の適否、新規事項の有無及び拡張・変更の存否
上記訂正事項aはフッ素化カルボン酸金属塩の分解温度以下で反応させた後、フッ素化カルボン酸金属塩を分解温度以上にして分解する際に、温度を上げることを追加するものであるが、かかる事項は、分解温度以下での反応から分解温度以上での分解に移行する際に、温度を上げることを明らかにするものであり、明りょうでない記載の釈明を目的とするものである。このことは、本件特許公報の「フッ素化カルボン酸ハロゲン化物等の酸ハロゲン化物(以下、フッ素化カルボン酸フルオリドを代表例として説明することがある。)を対応する金属塩の分解温度以下で金属化合物と反応させ、対応する金属塩を得、しかるのち、分解温度以上に温度を上げることにより、効率良く、しかも高純度でフッ素化ビニルエーテルを得る」(段落番号[0011])、「上記の反応で得られる金属塩はそのまま、または別の反応装置にて熱分解温度まで加熱することにより、容易に目的とする、高純度のビニルエーテルが高収率で得られる。熱分解温度は当該塩の熱分解温度により決定されるが、熱分解温度が高くなると、好ましくない分解反応が起こり易くなる。好ましくは300℃以下、特に好ましくは180〜280℃である。」(段落番号[0020])及び「目的とするビニルエーテルに対応するフッ素化カルボン酸フルオリドを蒸留によって精製し・・・これを予め脱水した金属塩と50〜200℃、特に90〜180℃(更に好ましくは100〜150℃)で反応せしめ、・・・徐々に昇温し、・・・さらに熱分解を続ける事により、驚くほど高純度のビニルエーテルが得られる。」(段落番号[0023])との記載に基づくものであるから、新規事項の追加に該当せず、実質的に特許請求の範囲を拡張又は変更するものではない。
上記訂正事項bは、酸ハロゲン化物と金属塩又は金属酸化物とを反応させる際の50〜200℃なる温度がフッ素化カルボン酸金属塩の分解温度以下であること、反応により対応するフッ化カルボン酸金属塩を得ること、及びフッ化カルボン酸金属塩を分解させるときの180〜280℃なる温度が分解温度以上であることを追加するものであるが、これらの事項は、各々、酸ハロゲン化物と金属塩又は金属酸化物とを反応させる際の50〜200℃なる温度がフッ素化カルボン酸金属塩の分解温度以下であること、反応により得られる物質がフッ化カルボン酸金属塩であること、及び分解させるときの180〜280℃なる温度が分解温度以上であること明らかにするものであり、明りょうでない記載の釈明を目的とするものである。このことは、上述の本件特許公報の記載(段落番号[0011]、[0020]及び[0023])に基づくものであるから、新規事項の追加に該当せず、実質的に特許請求の範囲を拡張又は変更するものではない。
上記訂正事項cは、上記訂正事項aによる特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明との整合を図るものであるから、明りょうでない記載の釈明を目的とするものであって、新規事項の追加に該当せず、実質的に特許請求の範囲を拡張又は変更するものではない。

2-3.むすび
したがって、上記訂正は、特許法第120条の4第3項において準用する平成6年法律第116号による改正前の特許法第126条第1項ただし書、第2項の規定に適合するので、当該訂正を認める。

3.特許異議の申立てについての判断

3-1.申立ての理由の概要
特許異議申立人旭硝子株式会社は、甲第1号証(特開昭52-78827号公報)、甲第2号証(特開昭52-78826号公報)、甲第3号証(米国特許第3114778号明細書)及び甲第4号証(米国特許第3291843号明細書)を提示し、請求項1及び3に係る発明は、甲第4号証に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであり、請求項1〜6に係る発明は、甲第1〜4号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、したがって本件請求項1〜6に係る発明の特許は取り消されるべきと主張している。

3-2.当審で通知した取消しの理由の概要
当審で通知した取消しの理由の概要は、特許異議申立人の主張と同趣旨である。

3-3.本件発明
上記2.で示したように、上記訂正が認められるから、本件の請求項1〜6に係る発明は、上記訂正に係る訂正明細書の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1〜6に記載された以下のとおりのもの(以下、「本件発明1〜6」という。)である。
「【請求項1】一般式I:Rf-O-CF(CF2X)COY
〔但し、この一般式中、Rf:Rf’-(OCF(CF2X)CF2)l-又はRf’-(OCXYCF2CF2)m- である(Rf’は炭素原子数1〜4の過フッ化アルキル基又はCX’Y’Z’(CF2)n-であって、X’、Y’は水素原子、フッ素原子、塩素原子又は臭素原子、Z’は水素原子、フッ素原子、塩素原子、臭素原子又はヨウ素原子、n=0〜4である。X、Yはフッ素原子、塩素原子、臭素原子又はヨウ素原子である。l=0〜4である。m=1〜4である。)。X、Y:前記したものと同じである。〕で表わされる酸ハロゲン化物と、
一般式II:MxAy又はMxOy
(但し、この一般式中、M:金属原子である。A:炭酸残基又は硫酸残基である。O:酸素原子である。x:A又はOの価数である。y:Mの価数である。)で表わされる金属塩又は金属酸化物とを、溶媒の不存在下で、
一般式III:(Rf-O-CF(CF2X)COO)yMx
(但し、この一般式中、Rf、X、M、x、yは前記したものと同じである。)で表わされるフッ素化カルボン酸金属塩の分解温度以下で反応させて、対応する前記フッ素化カルボン酸金属塩を得、しかる後に、分解温度以上に温度を上げることにより、前記反応によって得られる前記フッ素化カルボン酸金属塩を分解させ、
一般式IV:Rf-O-CF=CF2(但し、この一般式中、Rfは前記したものと同じである。)で表わされるフッ素化ビニルエーテルを得る、フッ素化ビニルエーテルの製造方法。
【請求項2】蒸留した酸ハロゲン化物と加熱脱水した金属塩又は金属酸化物とを反応させる、請求項1に記載した製造方法。
【請求項3】酸ハロゲン化物と金属塩又は金属酸化物とをフッ素化カルボン酸金属塩の分解温度以下である50〜200 ℃で反応させて、対応する前記フッ素化カルボン酸金属塩を得、しかる後に、このフッ素化カルボン酸金属塩を分解温度以上である180〜280℃で分解させる、請求項1又は2に記載した製造方法。
【請求項4】酸ハロゲン化物と金属塩又は金属酸化物との反応、及びフッ素化カルボン酸金属塩の分解反応を攪拌条件下で行なう、請求項1〜3のいずれかに記載した製造方法。
【請求項5】酸ハロゲン化物に対して金属塩又は金属酸化物を過剰に使用する、請求項1〜4のいずれかに記載した製造方法。
【請求項6】酸ハロゲン化物と金属塩又は金属酸化物との反応でフッ素化カルボン酸金属塩を得た後、未反応成分及び不純物を留去する、請求項1〜5のいずれかに記載した製造方法。」

3-3.刊行物の記載事項
特許異議申立人が証拠として提示した甲第1号証〜甲第4号証(以下、「刊行物1〜刊行物4」という。)には、それぞれ、以下の事項が記載されている。

刊行物1:特開昭52-78827号公報
(ア)「一般式MOOC(CF(CF3)OCF2)n(Rf)mCO2R(但し、式中のMはアルカリ金属、nは1〜5の整数、mは0又は1、Rfは炭素数1〜10個の二官能性パーフルオロ化基、Rはアルキル基を示す)で表わされるエステル基含有フルオロカルボン酸アルカリ金属塩を熱分解せしめることを特徴とする一般式CF2=CFOCF2(CF(CF3)OCF2)n-1(Rf)mCO2R(但し、式中のn,m,Rf,及びRは前記に同じ)で表わされるエステル基含有フルオロビニルエーテルの製造法。」(特許請求の範囲)
(イ)「本発明において、出発原料として用いる前記一般式で表されるエステル基含有フルオロカルボン酸アルカリ金属塩(以下、特定エステル基含有塩と略称することがある)は、本出願人が別に出願中の方法、即ちエステル基含有フルオロ酸フッ化物とアルカリ金属炭酸塩との反応などにより、容易に入手され得る。例えば、FOC(CF(CF3)OCF2)n(Rf)mCO2Rとアルカリ金属炭酸塩とを60〜90℃程度の温度で反応させることにより、MOOC(CF(CF3)OCF2)n(Rf)mCO2Rが良好な収率で得られる。」(2頁右上欄下から2行〜左下欄9行)
(ウ)「熱分解温度は、100〜300℃が採用され得るが、好ましくは120〜200℃が採用される。」(3頁左上欄13〜15行)
(エ)「本発明者は、エステル基含有フルオロビニルエーテルを円滑有利に且つ収率良く製造し得る方法を提供すべく、種々の研究、検討を重ねた結果、次の様な興味深い知見を得るに至った。即ち、一端にMOOC-CF(CF3)OCF2-基を有し且つ他端に-CO2Rなるエステル基を有するフルオロ化合物は、比較的低温で熱分解可能であり、驚くべきことにエステル基を失うことなく、MOOC-CF(CF3)OCF2-基がフルオロビニルエーテル基(CF2=CFOCF2-基)に転化せしめられ、有用なエステル基含有フルオロビニルエーテルを高収率で与えるということを見出したものである。」(2頁左上欄6〜17行)
(オ)「実施例2 C2H5OC(=O)CF2CF2CF2OCF(CF3)COF17.0gと炭酸カリウム8.3gとの反応で得られた23.0gのC2H5OC(=O)CF2CF2CF2OCF(CF3)COOKとフッ化カリウム、炭酸カリウムの混合固体を、そのまま実施例1と同様の装置で、減圧度2〜4mmHg、反応温度150〜155℃で3時間加熱撹拌しながら反応を行った。ドライアイス中のトラップに13.3gの液体を捕集した。これを実施例1と同様に蒸留し、9.2gのエチルパーフルオロ-5-オキサ-6-ヘプテノエイトを得た。」(3頁右下欄12行〜4頁左上欄2行)

刊行物2:特開昭52-78826号公報
(カ)「一般式FOCACO2R(但し、式中のAは炭素数1〜25個の二官能性パーフルオロ化基、Rはアルキル基を示す)で表わされるエステル基含有フルオロ酸フッ化物をアルカリ金属炭酸塩と反応せしめて、一般式MOOCACO2R(但し、式中のA及びRは前記に同じであり、Mはアルカリ金属を示す)で表わされるエステル基含有フルオロカルボン酸アルカリ金属塩を生成せしめることを特徴とするエステル基含有フルオロカルボン酸アルカリ金属塩の製法。」(特許請求の範囲)
(キ)「本発明方法によつて得られる特定フルオロカルボン酸塩は、種々の反応中間体として有用な新規化合物である。例えば、KOOCCF(CF3)OCF2CF2CF2CO2CH3などを熱分解することにより、エステル基含有ビニルエーテル(CF2=CFOCF2CF2CF2CO2CH3など)を容易に合成できる。」(1頁右下欄5〜11行)
(ク)「本発明における原料酸フッ化物の特定フルオロカルボン酸塩への変換は、溶媒の存在下或いは溶媒を存在させずに、アルカリ金属炭酸塩を作用させることにより進行せしめられる。」(3頁右上欄2〜5行)

刊行物3:米国特許第3114778号明細書
(ケ)「・・・パーフルオロ-2-プロポキシプロピオニルフルオリドは300℃、接触時間10分間で乾燥硫酸カリウムの小球の反応床を通過させることで脱ハロカルボニルされる。単離された主生成物は沸点35-36℃のパーフルオロプロピルパーフルオロビニルエーテルである。」(2〜3欄Example I)
(コ)「・・・容器を-80℃まで冷却し、空にした。その後、60gのパーフルオロイソブチリルフルオリドと43gのヘキサフルオロプロピレンエポキシドを加えた。・・・液状の生成物である蒸留物より沸点が76〜78℃のパーフルオロ-2-イソブトキシプロピオニルフルオリドが得られた。・・・パーフルオロ-2-イソブトキシプロピオニルフルオリドは実施例1の手順に従ってパーフルオロイソブチルパーフルオロビニルエーテルに変換される。」(4欄Example VI)

刊行物4:米国特許第3291843号明細書
(サ)「フッ素化された酸フロリドは金属塩に変換され、つぎに脱炭酸されることによってフルオロオレフィンに導かれると理解される。」(2欄45〜47行)
(シ)「炭酸ナトリウムを用いるこの発明の好ましい方法では、反応は次のように進行するであろう。RfCOF+Na2CO3→RfOC(O)OC(O)ONa+NaF RfC(O)OC(O)ONa→RfCOONa+CO2」(2欄63〜末行)
(ス)「・・・管は・・・の炭酸ナトリウムの小球で満たされる。反応床は、300℃へ加熱し18時間にわたって反応床に窒素流(標準状態で毎分500cc)を通過させることにより乾燥され・・・窒素はパーフルオロ-2-プロポキシプロピオニルフルオリドの流れによって置換される・・・粗生成物から蒸留によって分離されたものは、沸点35〜36℃のパーフルオロプロピルパーフルオロビニルエーテルである。」(6欄Example VIII)

3-4.対比・判断

(特許法第29条第1項第3号について)
上記摘記事項(ス)からみて、刊行物4には、パーフルオロ-2-プロポキシプロピオニルフルオリドと炭酸ナトリウムとを溶媒の不存在下で300℃で反応させて、パーフルオロプロピルパーフルオロビニルエーテルを製造する方法に関する発明が記載されている。

本件発明1と刊行物4に記載された発明とを対比する。本件発明1の一般式I、II及びIVの化合物はそれぞれ刊行物4に記載された発明のパーフルオロ-2-プロポキシプロピオニルフルオリド、炭酸ナトリウム及びパーフルオロプロピルパーフルオロビニルエーテルに相当する。また、上記摘記事項(サ)及び(シ)からみて、刊行物4に記載された発明において、反応中に本件発明1の一般式IIIの化合物に相当するフッ素化カルボン酸金属塩が得られ、それが分解して一般式IVの化合物が生成しているものといえる。

そうすると、本件発明1と刊行物4に記載された発明とは、
一般式Iで表わされる酸ハロゲン化物と、一般式IIで表わされる金属塩又は金属酸化物とを、溶媒の不存在下で反応させて、一般式IIIで表わされるフッ素化カルボン酸金属塩を得、前記フッ素化カルボン酸金属塩を分解させ、一般式IVで表わされるフッ素化ビニルエーテルを得る、フッ素化ビニルエーテルの製造方法である点で一致する。しかしながら、本件発明1が上記酸ハロゲン化物と上記金属塩又は金属酸化物との反応を上記フッ素化カルボン酸金属塩の分解温度以下で行い、該フッ素化カルボン酸金属塩が得られた後に分解温度以上に温度を上げて、該フッ素化カルボン酸金属塩を分解するものであるのに対し、刊行物4に記載された発明では、一定温度で反応を行うものである点で相違する。

したがって、本件発明1は刊行物4に記載された発明とはいえず、本件発明1は特許法第29条第1項第3号に該当するものではない。

また、本件発明3は本件発明1における分解温度以下の温度及び分解温度以上の温度を限定するに過ぎないものであるから、本件発明1と同様の理由により、刊行物4に記載された発明とはいえず、本件発明3は特許法第29条第1項第3号に該当するものではない。

(特許法第29条第2項について)
上記摘記事項(ア)〜(ウ)、(オ)からみて、刊行物1には、FOC(CF(CF3)OCF2)n(Rf)mCO2Rとアルカリ金属炭酸塩とを60〜90℃程度の温度で反応させることにより、MOOC(CF(CF3)OCF2)n(Rf)mCO2Rを得、その後、該金属塩を溶媒の不存在下で100〜300℃の熱分解温度で熱分解して一般式CF2=CFOCF2(CF(CF3)OCF2)n-1(Rf)mCO2Rで表されるエステル基含有フルオロビニルエーテルを製造する方法に関する発明が記載されている。

そこで、本件発明1と刊行物1に記載された発明とを対比する。刊行物1に記載された発明のFOC(CF(CF3)OCF2)n(Rf)mCO2R、MOOC(CF(CF3)OCF2)n(Rf)mCO2R及びCF2=CFOCF2(CF(CF3)OCF2)n-1(Rf)mCO2Rは、各々、酸ハロゲン化物、フッ素化カルボン酸金属塩及びフッ素化ビニルエーテルであるといえる。また、本件発明1の一般式IIの化合物は、刊行物1に記載された発明のアルカリ金属炭酸塩に相当する。さらに、熱分解は分解であるということができ、100〜300℃が熱分解温度であるから、60〜90℃は分解温度以下であり、100〜300℃は分解温度以上である。

したがって、本件発明1と刊行物1に記載された発明とは、酸ハロゲン化物と一般式IIで表わされる金属塩とを、フッ素化カルボン酸金属塩の分解温度以下で反応させて、対応する前記フッ素化カルボン酸金属塩を得、しかる後に分解温度以上に温度を上げることにより、前記反応によって得られる前記フッ素化カルボン酸金属塩を分解させ、フッ素化ビニルエーテルを得る、フッ素化ビニルエーテルの製造方法である点で一致し、(i)本件発明1の一般式I、III及びIVで表される化合物と刊行物1に記載された発明の酸ハロゲン化物、フッ素化カルボン酸金属塩及びフッ素化ビニルエーテルとは、刊行物1に記載された発明の前記化合物がさらにCO2Rなるエステル基を有するものである点、及び(ii)本件発明1は全ての反応を溶媒の不存在下で行うのに対し、刊行物1に記載された発明では、フッ素化カルボン酸金属塩からフッ素化ビニルエーテルへの反応は溶媒の不存在下で行うものの、酸ハロゲン化物と一般式IIで表される金属塩とを反応させてフッ素化カルボン酸金属塩を得る反応を溶媒の存在、不存在のいずれで行うか不明である点で相違する。

上記相違点(i),(ii)について検討する。

相違点(ii)について
刊行物2には、エステル基含有フルオロ酸フッ化物(上記酸ハロゲン化物に相当)をアルカリ金属炭酸塩(上記一般式IIで表される金属塩に相当)と反応させてエステル基含有フルオロカルボン酸金属塩(上記フッ素化カルボン酸金属塩に相当)を得る反応を溶媒の不存在下で行うことが記載されているから(上記摘記事項(カ)〜(ク)参照)、上記刊行物1に記載された発明において酸ハロゲン化物と前記金属塩とを反応させてフッ素化カルボン酸金属塩を生成する反応を溶媒の不存在下に行うことによって、全ての反応を溶媒の不存在下に行うことに格別の創意を要したものとはいえない。

相違点(i)について
上記摘記事項(エ)によれば、刊行物1に記載の製造方法は、エステル基含有フルオロビニルエーテルの製造方法に関するものであって、エステル基を含有しないフルオロ化合物についての反応性については示唆するものではない。また、刊行物1には「驚くべきことにエステル基を失うことなく」と記載されており(上記摘記事項(エ)参照)、エステル基が関与する反応ではないことを示唆しているが、刊行物1に記載された反応がエステル基の関与しない反応であるにしても、化合物の反応性は個々の化合物によって異なるものであるから、エステル基を有しない化合物において刊行物1に記載の反応と同様の反応が進行するかは不明であるから、エステル基を有しない上記一般式Iの化合物において同様の反応が進行することが刊行物1において示唆されていると直ちにいうことはできない。そして、本件発明1は効率良く、しかも高純度でフッ素化ビニルエーテルを得ることができるという本件明細書記載の効果を奏するものであり(本件特許公報段落番号[0025]参照)、このことは、本願明細書記載の実施例と比較例との比較において、実施例のものが目的物の留分の割合が高いことからも確認されるところであって、かかる効果は刊行物1及び2に記載された発明から予測されるものではない。
そうしてみると、本件発明1は刊行物1及び2記載された発明から当業者が容易に発明をすることができたものではない。

また、上記摘記事項(ケ)及び(コ)によれば、刊行物3は、フッ素化カルボン酸フルオリドを重合によって得た後にこれを精製蒸留すること、該フッ素化カルボン酸フルオリドを硫酸カリウムの存在下で300℃という一定の温度で反応させることでフッ素化ビニルエーテルを得ることを記載するのみであり、上述のように、刊行物4には、一般式Iの化合物と一般式IIの化合物とを反応させて、一般式IIIの化合物とし、さらにこれを分解して一般式IVの化合物とする反応が記載されているものの、当該反応は一般式IIIの化合物を分解する際に温度を上げることを示唆するものではないから、刊行物1〜4を総合勘案しても本件発明1が容易に想到し得たものとすることはできない。

したがって、本件発明1は刊行物1〜4に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものということはできないから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるとすることはできない。

また、本件発明2〜6はいずれも本件発明1の構成を含み、さらに限定を付す発明であるから、本件発明1と同様の理由により、刊行物1〜4に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものということはできず、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるとすることはできない。

4.むすび
以上のとおりであるから、特許異議の申立ての理由及び証拠によっては、本件発明1〜6についての特許を取り消すことはできない。
また、他に本件発明1〜6についての特許を取り消すべき理由を発見しない。
したがって、本件発明1〜6についての特許は拒絶の査定をしなければならない特許出願に対してされたものと認めない。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
フッ素化ビニルエーテルの製造方法
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式I:
Rf-O-CF(CF2X)COY
〔但し、この一般式中、
Rf:Rf’-(OCF(CF2X)CF2)1-
又はRf’-(OCXYCF2CF2)m-である
(Rf’は炭素原子数1〜4の過フッ化アルキル基又はCX’Y’Z’(CF2)n-であって、X’、Y’は水素原子、フッ素原子、塩素原子又は臭素原子、Z’は水素原子、フッ素原子、塩素原子、臭素原子又はヨウ素原子、n=0〜4である。
X、Yはフッ素原子、塩素原子、臭素原子又はヨウ素原子である。
l=0〜4である。
m=1〜4である。)。
X、Y:前記したものと同じである。〕
で表わされる酸ハロゲン化物と、
一般式II:
MxAy又はMxOy
(但し、この一般式中、
M:金属原子である。
A:炭酸残基又は硫酸残基である。
O:酸素原子である。
x:A又はOの価数である。
y:Mの価数である。)
で表わされる金属塩又は金属酸化物とを、溶媒の不存在下で、
一般式III:
(Rf-O-CF(CF2X)COO)yMx
(但し、この一般式中、Rf、X、M、x、yは前記したものと同じである。)
で表わされるフッ素化カルボン酸金属塩の分解温度以下で反応させて、対応する前記フッ素化カルボン酸金属塩を得、しかる後に、分解温度以上に温度を上げることにより、前記反応によって得られる前記フッ素化カルボン酸金属塩を分解させ、
一般式IV:
Rf-O-CF=CF2
(但し、この一般式中、Rfは前記したものと同じである。)
で表わされるフッ素化ビニルエーテルを得る、フッ素化ビニルエーテルの製造方法。
【請求項2】
蒸留した酸ハロゲン化物と加熱脱水した金属塩又は金属酸化物とを反応させる、請求項1に記載した製造方法。
【請求項3】
酸ハロゲン化物と金属塩又は金属酸化物とをフッ素化カルボン酸金属塩の分解温度以下である50〜200℃で反応させて、対応する前記フッ素化カルボン酸金属塩を得、しかる後に、このフッ素化カルボン酸金属塩を分解温度以上である180〜280℃で分解させる、請求項1又は2に記載した製造方法。
【請求項4】
酸ハロゲン化物と金属塩又は金属酸化物との反応、及びフッ素化カルボン酸金属塩の分解反応を攪拌条件下で行なう、請求項1〜3のいずれかに記載した製造方法。
【請求項5】
酸ハロゲン化物に対して金属塩又は金属酸化物を過剰に使用する、請求項1〜4のいずれかに記載した製造方法。
【請求項6】
酸ハロゲン化物と金属塩又は金属酸化物との反応でフッ素化カルボン酸金属塩を得た後、未反応成分及び不純物を留去する、請求項1〜5のいずれかに記載した製造方法。
【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】
本発明は、含フッ素合成樹脂やゴム等として工業的に有用なフッ素化ビニルエーテルの製造方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
フッ素化ビニルエーテルは、テトラフルオロエチレン(TFE)や他の共重合可能なモノマーと共重合させることにより、工業的に有用な樹脂やゴム(具体的には、TFEとの共重合体であるPFA樹脂やパーフルオロゴム、変性PTFE、さらに他のモノマーとの共重合体であるゴム等)の原料として知られている。このフッ素化ビニルエーテルは、特開昭63-132851号等に記載されている方法により得られる事が知られている。
【0003】
例えば、HFPO(ヘキサフルオロプロピレンオキシド)をテトラグライムのような溶媒の存在下でCsFのような触媒で重合させることにより得られるフッ素化エーテルカルボン酸フルオリドを原料として、これをNaOHと反応させて得られたNa塩を熱分解させることにより得られることが知られている。
【0004】
HFPOの重合条件も種々検討されているが、得られたフッ素化エーテルカルボン酸フルオリドからビニルエーテルを得る工程も種々検討されている。
【0005】
例えば、ある文献(米国特許第3132123号)では、金属酸化物や金属塩を充填した塔を300度くらいに加熱し、そこへフッ素化カルボン酸フルオリドを通過(通常ガス状、不活性ガス:N2等をキャリヤーとして用いる。)せしめることにより、効果的に目的とするフッ素化ビニルエーテルが得られるとしている。しかし、実際にはこの反応は温度の制御が難しく、その結果、好ましくない不純物が生成したりするため、収率や純度が思うように上がらない。反応箇所での局所的昇温が好ましくない分解反応を起こすものと思われ、また炭化物が生成して金属化合物の表面を覆うために反応率が下がるものと考えられる。このため、その後に精留する前に水洗するなどの洗浄工程を必要とする。また反応管に金属化合物を充填したり、また反応残渣を除いたりするのは作業としてはかなり困難なものである。
【0006】
また、他の文献(特開昭63-132851号)によれば、テトラグライム等の溶媒中で炭酸ナトリウムなどのアルカリと反応させると、比較的低い温度(室温〜100度)で目的のフッ素化ビニルエーテルが得られるとしている。しかしこの方法では、溶媒のテトラグライムや炭酸ナトリウムに含まれる水分により、好ましくない副生物(フッ素化ビニルエーテルのフッ化水素付加体)を大量に生成する。また、反応後の溶媒は生成したフッ化ナトリウム等が懸濁しており、繰り返しの使用には限度があり、有機廃液として廃棄されることになり、資源節約、環境保護の面からも好ましくない。
【0007】
また、フッ素化カルボン酸フルオリドをNaOH等で中和し、得られた塩を乾燥させ、さらに熱分解温度以上に上げることにより、目的のフッ素化ビニルエーテルが得られるとしている。しかし、この塩の乾燥が結構困難で、フッ素化カルボン酸の種類によっても乾燥状態が変り、また乾燥が不十分であると既述した好ましくない副生物が生成する。
【0008】
これを避けるため、フッ素化カルボン酸を一旦メタノールと反応させ、フッ素化カルボン酸のメチルエステルとし、蒸留により純度を上げ、水分を除去し、これをメタノールに溶解させたNaOHと反応させ、乾燥させることにより、乾燥を容易にし、好ましくない副生物を減らすことができるが、この工程は他の方法に比べて工程が長く、またアルコールを使用するために火災の危険が多くなり、設備上の対応が必要などの欠点がある。
【0009】
【発明が解決しようとする課題】
本発明者は、上記の欠点を解消し、効率良く、純度の高いフッ素化ビニルエーテルを得る方法を鋭意研究した結果、本発明を完成させた。
【0010】
【課題を解決するための手段】
即ち、本発明は、
一般式I:
Rf-O-CF(CF2X)COY
〔但し、この一般式中、
Rf:Rf’-(OCF(CF2X)CF2)1-
又はRf’-(OCXYCF2CF2)m-である
(Rf’は炭素原子数1〜4の過フッ化アルキル基又はCX’Y’Z’(CF2)n-であって、X’、Y’は水素原子、フッ素原子、塩素原子又は臭素原子、Z’は水素原子、フッ素原子、塩素原子、臭素原子又はヨウ素原子、n=0〜4である。
X、Yはフッ素原子、塩素原子、臭素原子又はヨウ素原子である。
l=0〜4である。
m=1〜4である。)。
X、Y:前記したものと同じである。〕
で表わされる酸ハロゲン化物と、
一般式II:
MxAy又はMxOy
(但し、この一般式中、
M:金属原子である。
A:炭酸残基又は硫酸残基である。
O:酸素原子である。
x:A又はOの価数である。
y:Mの価数である。)
で表わされる金属塩又は金属酸化物とを、溶媒の不存在下で、
一般式III:
(Rf-O-CF(CF2X)COO)yMx
(但し、この一般式中、Rf、X、M、x、yは前記したものと同じである。)
で表わされるフッ素化カルボン酸金属塩の分解温度以下で反応させて、対応する前記フッ素化カルボン酸金属塩を得、しかる後に、分解温度以上に温度を上げることにより、前記反応によって得られる前記フッ素化カルボン酸金属塩を分解させ、
一般式IV:
Rf-O-CF=CF2
(但し、この一般式中、Rfは前記したものと同じである。)
で表わされるフッ素化ビニルエーテルを得る、フッ素化ビニルエーテルの製造方法に係るものである。
【0011】
本発明の主旨は、フッ素化カルボン酸ハロゲン化物等の酸ハロゲン化物(以下、フッ素化カルボン酸フルオリドを代表例として説明することがある。)を対応する金属塩の分解温度以下で金属化合物と反応させ、対応する金属塩を得、しかるのち、分解温度以上に温度を上げることにより、効率良く、しかも高純度でフッ素化ビニルエーテルを得ることにある。
【0012】
このフッ素化ビニルエーテルを得る反応は、対応するフッ素化カルボン酸の金属塩を水分の少ない条件で得ることにあるが、溶媒を用いた場合(多くの場合、極性溶媒が用いられる。)、溶媒中の水分の除去が問題となる。またこれを避けて、直接、熱分解温度以上で反応させようとすると、既述したように好ましくない分解反応がおこり、収率や純度が下がる。
【0013】
しかながら、本発明者は、原料として、蒸留したフッ素化カルボン酸フルオリドを用いると、原理的に水分を含まず、また炭酸カリウムなどの化合物は熱をかけることにより(減圧やキャリヤーガスを併用してもよい。)、容易に乾燥できることから、これらのみを用いてビニルエーテルを得ることを検討した。その結果、フッ素化カルボン酸フルオリドが100℃程度の温度で炭酸カリウムなどの金属塩と溶媒無しに容易に反応し、対応するフッ素化カルボン酸の金属塩を与えることを見い出した。
【0014】
即ち、蒸留した酸フルオリドと加熱脱水した炭酸カリウムとから、直接、実質上水分を含まないフッ素化カルボン酸塩が得られることを見い出した。これは、従来では、酸フルオリドがこのように容易に反応することは報告されておらず、驚きであった。しかも、この反応が生成した金属塩の分解温度以下で反応し、かつほとんど定量的に反応することもはじめてわかった。
【0015】
この反応は静置した状態でも良く反応する(始めは表面で反応するのであろうが、未反応の酸フルオリドが生成した金属塩を溶解することにより反応がさらに進行するものと推定される。炭酸塩等の場合、このときに炭酸ガスを生成することがさらに固体の反応を促進することも考えられる。)が、攪拌したほうが良いのは言うまでもない。攪拌する方法は種々考え得るが、反応開始前に固体を効率良く乾燥させること、生成した金属塩の性状(粘性の有無等)、さらにまたそのまま熱分解させる場合等ではさらに熱分解温度まで昇温させることなどを考え合わせて決定されるべきである。
【0016】
酸フルオリドと金属塩との反応は等モルが好ましいが、反応の性質上、金属塩を過剰に用いるのがよい。金属塩の量が等モルより少ないと、未反応の酸フルオリドが残り、収率や純度が悪くなる。金属塩の量が多いぶんには何等差し支えない。実際2倍量以上仕込んでおき、全反応を金属塩の追加無しに2度行なうようなことも可能である。
【0017】
反応の圧力は減圧から加圧まで適用し得るが、反応に用いる酸フルオリドの沸点により制限を受ける。沸点が比較的高いものは大気圧でも十分反応できるが、沸点の低いものは反応温度を適当に保つために加圧が必要な場合も有り得る。また反応に関与しない第三物質を共存させて反応することも可能であるが、その場合、第三物質の水分には注意を払わなければならない。
【0018】
本発明に使用する上記一般式Iの酸ハロゲン化物において、Rf’としてはメチル、エチル、プロピル、ブチルの各アルキル基のペルフルオロ化物が挙げられるが、有用な酸ハロゲン化物としては、HFPOのオリゴマー〔CF3CF2CF2O(CF(CF3)CF2O)nCF(CF3)COF:n=0〜4:HFPOnと略称〕
をはじめ、
CF3CF2CF2O-(CF2CF2CF2O)nCF(CF3)COF:n=0〜4
CH3CF2CF2O-(CF(CF3)CF2O)nCF(CF3)COF:n=0〜2
などが有用である。
【0019】
また、本発明に使用する上記一般式IIの金属塩又は金属酸化物としては、アルカリ金属又はアルカリ土類金属の炭酸塩(例えば炭酸ナトリウム、炭酸カリウム)や硫酸塩(例えば硫酸ナトリウム、硫酸カリウム)、酸化物(例えば酸化マグネシウム、酸化カルシウム)が挙げられる。
【0020】
上記の反応で得られる金属塩はそのまま、または別の反応装置にて熱分解温度まで加熱することにより、容易に目的とする、高純度のビニルエーテルが高収率で得られる。熱分解温度は当該塩の熱分解温度により決定されるが、熱分解温度が高くなると、好ましくない分解反応が起こり易くなる。好ましくは300℃以下、特に好ましくは180〜280℃である。K塩やNa塩等は特に好ましい。
【0021】
熱分解時の圧力は特に限定されないが、減圧とすることにより、生成物を蒸気として留出させることが出来るので好ましい。もちろん、大気圧或いは加圧下で行ない、反応が終了した後で或いは減圧として留出させる、或はろ過により生成物を分離する方法もありうる。
【0022】
さらに、本発明の方法の良いところは、フッ素化カルボン酸フルオリドはえてして沸点の近い不純物を含み易く、また対応するビニルエーテルも沸点が近いことからこの不純物をそのまま生成したビニルエーテルに持ち込み易いが、一旦金属塩とした後、減圧にすることにより、容易にこの種の不純物を留去することができる事である。また、若干含まれる水分により微量のフッ化水素付加体も生成するが、これは熱分解反応の初期に起こるのみで、熱分解の初期の成分を留去すれば、後から生成するビニルエーテルは実質的にフッ化水素付加体を含まないものである。
【0023】
すなわち、目的とするビニルエーテルに対応するフッ素化カルボン酸フルオリドを蒸留によって精製し(重合(オリゴメリゼーション)によって得られたものは分布を持つため、蒸留は必須の工程である。)、これを予め脱水した金属塩と50〜200℃、特に90〜180℃(更に好ましくは100〜150℃)で反応せしめ、しかる後減圧にして反応しない成分を留去し、徐々に昇温し、熱分解の初期の留分も留去することにより、予め含まれていた不純物も、フッ化水素付加体も事実上完全に除去され、さらに熱分解を続ける事により、驚くほど高純度のビニルエーテルが得られる。こうして得られたビニルエーテルは精留にかけるだけで、水洗やアルカリ洗浄等の特別な洗浄操作を必要とせずに重合反応に使用できる。
【0024】
また、この反応の副生物は微量の不純物の他は炭酸ガスとフッ化カリウム等の金属フッ化物のみである。炭酸ガスはガスとなって留去され、アルカリ除害設備により除去され、金属フッ化物、とくにフッ化カリウム等は再び資源として使用する事も可能である。
このように本発明の方法はあらゆる面で従来の方法に勝るものであることが伺える。
【0025】
【発明の作用効果】
本発明によれば、液状又はガス状のフッ素化カルボン酸ハロゲン化物を対応する金属塩の分解温度以下で金属化合物と溶媒の不存在下で反応させ、対応する金属塩を得、しかるのち、分解温度以上に温度を上げることにより、効率良く、しかも高純度でフッ素化ビニルエーテルを得ることができる。
【0026】
【実施例】
以下、本発明の実施例を示すが、本発明がこれらの実施例に限定されるものでないことはもちろんである。
【0027】
実施例1
還流冷却器を付けた内容積100mlのフラスコに無水炭酸カリウム15gを入れ、N2通気下に油浴で200℃に加熱して乾燥させた。一旦100℃以下に冷却した後、ヘキサフルオロプロピレンオキシド(HFPO)のオリゴメリゼーションにより得られたHFPO260gを手早く滴下した。
【0028】
この内容物を油浴にて徐々に昇温していくと、100℃位でガスを発生しながら激しく反応しだし、始め液体と白色の粉末だった物が、白色のグリース状の物に変化していった。反応が収まった後、これをさらに加熱していくと、180℃を越えたあたりから再びガスの発生が認められ、グリース状物から液体が生成するのが認められた。減圧にすることにより、生成した液体を効率良く捕集することができた。
【0029】
減圧で捕集しながら、さらに加熱を続けると、留分は53.2g得られ、対応するフッ素化ビニルエーテルの純度は92.7%であり、フッ化水素付加体は0.77%であった。残りはHFPOの数が少ない同族体と、若干の未反応の原料であった。分析はガスクロマトグラフによった。カラムはSE-30とUCONOILを併用し、生成物にメタノールを加えて分析したものとの対比により、未反応物の定量を行なった(以下、同様)。
【0030】
実施例2
圧力計と窒素及び真空、ガス抜き口を備えたヘッダー及び、熱媒をヒーターにより加熱できるジャケットとを備えた内容積5lの横型二軸攪拌反応槽(ニーダー)に無水炭酸カリウム930gを仕込み、HFPO1を2713g手早く仕込んだ。
【0031】
この反応槽を攪拌しながら加熱し、130℃に保った。発生するガスを捕集すると、およそ100l程であった。このガスは、赤外線吸収により微量の酸フルオリドを含む炭酸ガスであることを確認した。
【0032】
およそ2時間程でガスの発生が終り、さらに加熱して200℃とし、減圧にして100mmHgに保った。このとき捕集させた留分38gは初留とし、さらに温度を230℃として熱分解を行った。熱分解は順調に進行し、留分はほぼ一定の速度で得られた。この留分を主留1、2、3とし、それぞれ562g、850g、714g得られた。これらを分析すると(数字は%:以下、同様)、
【0033】

であった。また反応残渣を回収すると、灰色の粒状〜粉末状の固体799gを得た。
【0034】
実施例3
実施例2と同様にして無水炭酸カリウム579.6gを仕込み、HFPO3を2591.6g手早く仕込んだ。実施例2と同様にして130℃で2時間反応させた後、200℃で減圧にし、初留82.4gを得た。さらに加熱して230℃とし、20mmHgの減圧に保ち、発生する蒸気をドライアイス/メタノール浴で捕集した。これらを主留1、2とした。これらを分析すると、
【0035】

であった。また、残渣は547gであった。
【0036】
実施例4
反応機のヘッダーにさらに酸フルオリドの滴下管を、抜き出し口にドライアイス還流冷却器を備え、さらに反応機の攪拌軸のシール部を窒素ガスで封止出来るようにして、実施例2と同様にして無水炭酸カリウム579.6gを仕込み、窒素ガスを通じながら200℃に加熱し、1時間保った。100℃まで冷却してHFPO2を2591.4g滴下管より滴下した。滴下終了後、130℃とし、2時間反応させて実施例2と同様に昇温、減圧し、留分を得た。分析結果は、
【0037】

であった。残渣は569.7gであった。
【0038】
実施例5
実施例4と同様にして無水炭酸カリウム560gを仕込み、窒素ガスを通じながら200℃に加熱し、2時間保った。その後130℃とし、HFPO2を2670g滴下管より3時間かけて滴下した。発生するガスは、ドライアイスで冷却した還流冷却管を通して放出した。その後、実施例4と同様に昇温、減圧とし留分を得た。分析結果は、
【0039】


であった。
【0040】
比較例1
直径2.4cm、長さ30cmの硝子製反応管に無水炭酸カリウム30gを充填し、ヒーターを巻き付けて加熱し、250℃として窒素ガスを流して乾燥させた。反応管の下に内容積100mlのフラスコを付け、200℃に加熱しながら、HFPO2を100g徐々に滴下させ、蒸発させ、窒素ガスを流して反応管にHFPO2の蒸気を流した。反応管からでてくるガスをドライアイス/メタノールで捕集した。得られた留分の量と捕集された液体の量、その組成は、
【0041】

であった。
【0042】
比較例2
220gのHFPO2にメタノールを加え、メチルエステルとし、単蒸留により水分を除き、これをメタノールに溶かしたNaOHでケン化した。これを加温してメタノールを留去した後、粘凋な液体をステンレス製の平皿に移し、100℃で乾燥させた。これをセパラブルフラスコに移し、加熱して留分を捕集した。留分は146.2g得られ、その組成は、
【0043】

であった。
【0044】
参考例1
無水炭酸カリウムを6gとする以外は実施例1と同様にして、留分44.9gを得た。その組成は、
【0045】

であった。
【0046】
実施例6
無水炭酸カリウムを1020gとし、HFPO2を1960gとする以外は実施例5と同様にして反応させた後、さらにもう一度同じ量のHFPO2を反応させた。各々の組成は、
【0047】

であった。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2004-08-03 
出願番号 特願平4-193104
審決分類 P 1 651・ 113- YA (C07C)
P 1 651・ 121- YA (C07C)
最終処分 維持  
特許庁審判長 板橋 一隆
特許庁審判官 冨永 保
後藤 圭次
登録日 2002-10-18 
登録番号 特許第3360689号(P3360689)
権利者 ダイキン工業株式会社
発明の名称 フッ素化ビニルエーテルの製造方法  
代理人 逢坂 宏  
代理人 逢坂 宏  

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