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審決分類 審判 全部申し立て 判示事項別分類コード:533  C01F
審判 全部申し立て 2項進歩性  C01F
管理番号 1105950
異議申立番号 異議2003-71169  
総通号数 60 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 1993-02-09 
種別 異議の決定 
異議申立日 2003-05-12 
確定日 2004-08-23 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第3342705号「記録シート用塗布液」の請求項1ないし3に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 訂正を認める。 特許第3342705号の訂正後の請求項1ないし3に係る特許を維持する。 
理由 1.訂正の適否
1-1.訂正の内容
本件訂正の内容は、本件特許明細書を訂正請求書に添付された訂正明細書のとおり、すなわち次の訂正事項aのとおりに訂正しようとするものである。
(1)訂正事項a
明細書の段落【0013】を、「本発明のように、1次粒子が凝集しやすいアルミナゾルの場合、アルミナ水和物の凝集体を解膠しても、2次粒子の直径が1000nm以上のゾルが得られやすい。あるいは、解膠剤の選定によっては、1次粒子が単分散に近い形で分散したゾルは得られるが、この場合、上述のように多孔質層は緻密なものになってしまう。」と訂止する。
1-2.訂正の目的の適否、新規事項の有無及び拡張変更の存否
(1)上記訂正事項aについて
上記訂正事項aは、詳細にみると、「・・・2次粒子の直径が1000nm以上のゾルが得られるに過ぎない。」を「・・・2次粒子の直径が1000nm以上のゾルが得られやすい。」と訂正したものであり、明細書の他の箇所の記載に整合させて、1000nm未満のゾルが得られる可能性を否定しない記載にしたのであるから、明りょうでない記載の釈明を目的とする訂正に該当する。
明細書には、280nmという1000nm未満のゾルが記載されていること(本件特許掲載公報第3頁第6欄第38行)や、段落【0013】の訂正個所の次の文脈に「解膠剤の選定」によっては「1次粒子が単分散に近い形で分散」すると、1000nm未満の場合が記載されていること(本件特許掲載公報第2頁第4欄第37〜38行)から、願書に添付した明細書に記載した事項の範囲内においてなされたものであり、また実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。
1-3.まとめ
以上のとおりであるから、上記訂正は、特許法等の一部を改正ずる法律(平成6年法律第116号)附則第6条第1項の規定によりなお従前の例によるとされる、特許法第120条の4第3項において準用する平成6年法律第116号による改正前の特許法第126条第1項ただし書、第2項の規定に適合するので、当該訂正を認める。
2.特許異議申立てについて
2-1.取消理由通知の概要
当審の取消理由通知の概要は、(1)請求項1〜3に係る発明は、刊行物1〜3に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、請求項1〜3に係る発明の特許は特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり取り消されるべきものであり、(2)本件明細書は記載不備であるから、請求項1〜3に係る発明の特許は特許法第36条第4項及び第5項の規定に違反してされたものであり取り消されるべきものである、というものである。
2-2.本件発明
特許権者が請求した上記訂正は、上述したとおり、認容することができるから、訂正後の本件請求項1〜3に係る発明は訂正明細書の特許請求の範囲の請求項1〜3に記載された次のとおりのものである(以下、「本件発明1〜3」という。)。
「【請求項1】(010)面に垂直な方向の結晶厚さが60〜150Åのベーマイト1次粒子が凝集してなる2次粒子を含むコロイド溶液であって、レーザー法による平均粒子直径が50nm超であり、かつ、250nm以下であるアルミナゾル、を含む記録シート用塗布液。
【請求項2】前記アルミナゾルが、溶媒を除去してキセロゲルにしたときの平均細孔半径が40Å以上で、かつ、細孔半径が100Å以下の細孔容積が0.3cc/g以上である請求項1に記載の記録シート用塗布液。
【請求項3】 前記アルミナゾルに、バインダーを混合する、請求項1または2に記載の記録シート用塗布液。」
2-3.特許法第29条第2項違反について(上記2-1.(1))
2-3-1.刊行物の記載内容
(1)刊行物1:特開平3-143678号公報:特許異議申立人山口雅行(以下、「申立人」という)の提出した甲第1号証
(a)「・・・特に発色性が高く、色ムラのない記録の出来るオーバーヘッドプロジェクター等の用紙に最適な透明な記録用材料に係るものである。」(第2頁左上欄第11〜14行)
(b)「前記吸着能が20〜100mg/gを有する物質の好ましい例としては、擬ベーマイトが挙げられる。そしてかかる擬ベーマイトとしては、後述する実施例に示した如き触媒化成工業(株)から市販されている商品名「カタライドAS-3」に代表されるようなAl2O3固形分に換算して7重量%を含有するアルミナゾルを・・・用いることにより、とりわけ高画質を得ることができる。」(第3頁左上欄第3〜14行)
(c)「実施例1 アルミナゾル100(日産化学社製)5部(固形分)、ポリビニルアルコールPVA117(クラレ社製)1部(同)、および水から成る固形分約10%のコート液を調整し・・・」(第3頁右下欄第15〜19行)
(d)「比較例1 実施例1におけるアルミナゾル100に代えて擬ベーマイトゾルカタライドAS-3(触媒化成)を用いてシートを作成した。(第4頁左上欄第16〜19行)
(e)第4頁表に、比較例1のヘイズが20.0、解像性が△、鮮明性が△であることが記載されている。
(2)刊行物2:「化学工業テクニカルレポート13 新技術の工業化法」社団法人化学工業協会 第159〜164頁(昭和62年6月30日):申立人の提出した甲第2号証
(a)「アルミナ、シリカ、チタニア等の多孔質無機酸化物は触媒や吸着剤として古くから利用されており、その表面積、細孔容積、細孔分布等の細孔構造が活性、選択性あるいは吸着性能に影響を与えていることは良く知られている。また、最近ではカラー情報紙の顔料、溶融炭酸塩燃料電池の電解質板、微生物あるいは酵素の固定化担体、CO/H2の分離膜等の非常に広範囲な技術分野でこれら多孔質無機酸化物が利用されつつあり、これらの分野においても細孔構造を制御し最適化することが求められている。ここでは重質油水素化処理用触媒担体の製造を目的として当社が開発したpHスウイング(PHS)法によるアルミナ触媒担体の細孔構造制御法について擬ベーマイトの基本微粒子の状態と細孔構造との関係で紹介する。」(第159頁第1〜9行)
(b)「一般に、擬ベーマイト微粒子はpH8〜10の領域で生成される。しかし、同時により小さな無定形水酸化アルミニウムも生成し、粒子サイズの不揃いな混合物になる。通常、このような不揃いな粒子は熟成等の操作によって均一化されるが、PHS法ではpHを無定形水酸化アルミニウムを溶解するpH領域にスウイングする事で、擬ベーマイト微粒子をそのまま残しながら無定形水酸化アルミニウムを積極的に溶解し無くしている。また、溶解された無定形水酸化アルミニウムは次のアルカリ性側にpHがスウイングされた際に擬ベーマイト微粒子の成長に使われる。」(第160頁第9〜19行)
(c)第161頁表1(代表サンプルの物性値)には、サンプルEが平均細孔直径28.0nm、細孔容積1.08ml/g、擬ベーマイトの(020)面での結晶サイズ8.5nmであることが記載されている。
(3)刊行物3:特開平2-276670号公報:申立人の提出した甲第3号証
(a)「1.透明な基材上に多孔質のインク受容層を設けた記録用シートにおいて、インク受容層が主として擬ベーマイトよりなり、そのインク受容層の半径40〜100Å未満を有する細孔の全容積が0.1以上0.4cc/g未満であることを特徴とする記録用シート。」(請求項1)
(b)「3.インク受容層の半径10〜40Å未満を有する細孔の全容積が0.2〜1.0cc/g、半径100〜1000Åを有する細孔の全容積が0.1cc/g以下である請求項(1)の記録用シート。」(請求項3)
(c)「実施例 擬ベーマイトゾルカタライドAS-3(触媒化成社製)5部(固形分)、ポリビニルアルコールPVA117(クラレ社製)1部(固形分)および水からなる固形分約10%のコート液を調整し」(第3頁左下欄第11〜15行)
(d)「比較例1 AS-3の代わりに擬ベーマイトゾルカタライドAS-2(触媒化成社製)を用いた以外は実施例1と同様な方法でシートを得た。」(第3頁右下欄第1〜4行)
(d)第4頁表には、比較例1のインク吸収層を構成する多孔質材料が擬ベーマイトであること、インク吸収層の細孔容積が10〜40Å未満が0.35ml/g、40〜100Å未満が0.03ml/g、100〜1000Åが0.04ml/gであることや、ヘイズが10.1であることや、色濃度が1.04であることや、解像度が1であることが記載されている。
2-3-2.対比・判断
(1)本件発明1について
刊行物1の上記(1)(c)には「アルミナゾル100(日産化学社製)5部(固形分)、ポリビニルアルコールPVA117(クラレ社製)1部(同)、および水から成る固形分約10%のコート液」が記載されている。
上記(1)(d)には、アルミナゾル100に代えて擬ベーマイトゾルカタライドAS-3(触媒化成)を用いることが記載されているから、刊行物1には「擬ベーマイトゾルカタライドAS-3(触媒化成)5部(固形分)、ポリビニルアルコールPVA117(クラレ社製)1部(同)、および水から成る固形分約10%のコート液」という発明(以下、「刊行物1発明」という)が記載されていると云える。
そこで、本件発明1と刊行物1発明とを対比すると、刊行物1発明の「コート液」は、本件発明1の「記録シート用塗布液」に相当するから、両者は、「記録シート用塗布液」という点で一致し次の点で相違していると云える。
相違点:本件発明1では、塗布液が、(010)面に垂直な方向の結晶厚さが60〜150Åのベーマイト1次粒子が凝集してなる2次粒子を含むコロイド溶液であって、レーザー法による平均粒子直径が50nm超であり、かつ、250nm以下であるアルミナゾル、を含むのに対して、刊行物1発明では、擬ベーマイトゾルカタライドAS-3(触媒化成)を含む点
次にこの相違点を検討する。
刊行物1には、インク受容層に擬ベーマイトが好ましいことは記載されているが(上記(1)(b))、コート液として使用する擬ベーマイトゾルカタライドAS-3(触媒化成)の1次粒子の結晶厚さや、2次粒子の平均粒子直径が記載も示唆もされていないから、刊行物1には上記相違点の塗布液は記載も示唆もされていないと云える。なお、刊行物1において、細孔容積が記載されている実施例2ではテストカレンダーロールにかけているからテストカレンダーロールにかけていない場合に比べて擬ベーマイトの特性が変化していると解されるので、テストカレンダーロールにかけていない比較例1のシートをみると、ヘイズが20.0、解像性が△、鮮明性が△であることは記載されているが、平均細孔半径、細孔容積は記載されていない(上記(1)(e))。
してみると、刊行物1において、キセロゲルにしたときに本件発明2の平均細孔半径、細孔容積を持つことは明らかでないので、この面からも、刊行物1には上記相違点の塗布液は記載も示唆もされていないと云える。また、申立人が提出した甲第4号証(特開平3-281383号公報)の実施例1においてカタライドAS-3(触媒化成社製)を使用したときのシートの平均細孔半径が33Åであることが記載されているが、この数値は本件発明2の数値範囲外である。
刊行物2には、擬ベーマイト微粒子の粒径は不明であるものの、擬ベーマイト微粒子を構成する擬ベーマイト1次粒子の(010)面に垂直な方向の結晶厚さが本件発明1の数値範囲内である擬ベーマイト1次粒子から構成される擬ベーマイト微粒子が記載されていると云える(上記(2)(c))。
しかしながら、この擬ベーマイト微粒子は、重質油水素化処理用触媒担体の製造を目的として開発されたものであるから(上記(2)(a))、刊行物2には上記相違点の塗布液は記載も示唆もされていないと云える。なお、刊行物2に「カラー情報紙の顔料」という用途の例示があるが、この用途は、多孔性無機酸化物の細孔構造を制御する必要のある用途の一つとして単に例示されているにすぎず、この例示をもって、刊行物2の擬ベーマイト微粒子をカラー情報紙の顔料として使用することが示唆されているとは云えない。
また、刊行物3の上記(3)(c)、(d)には、「擬ベーマイトゾルカタライドAS-2(触媒化成社製)5部(固形分)、ポリビニルアルコールPVA117(クラレ社製)1部(固形分)および水からなる固形分約10%のコート液」が記載されているが、擬ベーマイトゾルカタライドAS-2(触媒化成)の1次粒子の結晶厚さや、2次粒子の平均粒子直径が記載も示唆もされていないから、刊行物3には上記相違点の塗布液は記載も示唆もされていないと云える。なお、刊行物3の擬ベーマイトゾルカタライドAS-2(触媒化成)を使用したときののシート(比較例1)をみると、細孔容積が10〜40Å未満が0.35ml/g、40〜100Åが0.03ml/g、100〜1000Åが0.04ml/gであることや、ヘイズが10.1、色濃度が1.04であり、解像度が1であることは記載されているが、平均細孔半径は記載されていない(上記(3)(d))。
してみると、刊行物3において、キセロゲルにしたときに本件発明2の平均細孔半径を持つことは明らかでないので、この面からも、刊行物3には上記相違点の塗布液は記載も示唆もされていないと云える。また、申立人が提出した甲第4号証(特開平3-281383号公報)の実施例4においてアルミナゾルカタライドAS-2(触媒化成社製)を使用したときのシートの平均細孔半径が21Åであることが記載されているが、この数値は本件発明2の数値範囲外である。
そして、本件発明1は、この相違点を具備することにより「インクの吸収性に優れた透明な多孔質層を形成することができる」という明細書記載の効果を奏する(本件特許掲載公報第4頁第8欄第6〜7行)。
したがって、本件発明1は、刊行物1〜3に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとすることはできない。
(2)本件発明2について
本件発明2は、請求項1を引用しさらに限定した発明であるから、上記(1)と同じ理由で、刊行物1〜3に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとすることはできない。
(2)本件発明3について
本件発明3は、請求項1又は2を引用しさらに限定した発明であるから、上記(1)と同じ理由で、刊行物1〜3に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとすることはできない。
2-4.特許法第36条違反について(上記2-1.(2))
記載不備を具体的に列挙すると、
(1)本件明細書段落【0013】の「解膠しても、1000nm以上」という記載と、解膠後の粒子径280μm(段落【0027】)の記載とは相反している、
(2)本件明細書段落【0013】の「1次粒子が単分散」という記載と、段落【0010】の「凝集し2次粒子を形成している」という記載とは相反している、
(3)本件実施例2のヘイズ値と比較例のヘイズ値との関係を考慮すると、本件発明の目的の「特に良好」な数値的水準が不明確である、
(4)本件明細書にはヘイズの測定方法が規定されていない、
(5)本件発明のベース基材のヘイズ値は1.3〜1.5と推定されるから、本件発明のインク受容層のヘイズ値は実施例1で0.1〜0.3、実施例2で0.8〜1.0、比較例で1.3〜1.5となり、甲第1号証の実施例1のインク受容層のヘイズ値0.8と一致し、本件発明の効果は従来技術と同じである、
(6)本件の比較例の結晶厚さ80Å、平均細孔半径65Å、細孔容積0.75cc/gは、それぞれ本件請求項1、2の数値範囲内に入るから、本件発明の結晶厚さ、平均細孔半径、細孔容積の限定は格別の技術的意義を与えるものではない、
(7)2次粒子は凝集しやすいため粒子直径を小さくできたとしても徐々にその直径を増大させ初期の状態に戻ることが予測され、つまり塗布液状態で2次粒子直径が異なっていても、インク受容層になった時点で同一のインク吸収性等を示すと認定され、ヘイズだけが異なる技術的根拠がない、換言すると凝集を止めるための技術的示唆が開示されていない、
(8)請求項1の塗布液はアルミナゾルを一部だけ含んでいればよいから、残りのアルミナゾルの平均粒子直径によっては本件発明を特定できない、
(9)レーザー法による平均粒子直径の測定方法が不明である、
(10)本件明細書段落【0008】では1次粒子の結晶厚さが150Åを超えるとヘイズが大きくなるとしているのに、段落【0025】で1次粒子は光の散乱に寄与しないとしていて記載が矛盾しており、結晶厚さの技術的意義が不明である、
(11)結晶厚さの下限「60Å」や、平均粒子直径の「50nm超」の臨界的意義が不明である、
(12)平均細孔半径、細孔容積が実施例に示されておらず、臨界的意義及び根拠が不明である、というものである。

上記(1)について
上記訂正により、本件明細書段落【0013】では、「・・・2次粒子の直径が1000nm以上のゾルが得られやすい。」と訂正された。この結果、1000nm未満のゾルが得られる可能性を否定しない記載になったので、相反しているとは云えない。
上記(2)について
本件明細書段落【0013】には、「1次粒子が単分散」の前の文脈に「解膠剤の選定によっては」と記載されており、解膠剤次第という条件によって全ての場合に単分散としておらず、また、段落【0010】には、「凝集し2次粒子を形成している」の前の文脈に「ほとんどの」と記載されており、全ての場合に2次粒子を形成しているとはしていないから、相反しているとは云えない。
上記(3)について
実施例2のヘイズ値は2.3であり、比較例のヘイズ値は2.8であるから、実施例の方が効果を奏していることは明らかであり、記載不備とは云えない。
上記(4)について
平成16年7月23日付け特許異議意見書に添付された参考文献2のJIS K7105の6.4項にヘイズ値の測定方法が明記されているとおり、ヘイズ値の測定方法は当業者にとって技術常識であるものと云える。
上記(5)について
本件発明の効果はインク吸収層の透明性とインク吸収性で検討しなければならない(本件特許掲載公報第2頁第3欄第18行)。ヘイズ値は透明性に関連するが、インク吸収性に関連する解像性を検討すると、甲第1号証(刊行物1)の実施例1は、甲第1号証では、解像性が○とされているが、同じ例が記載してある甲第3号証(刊行物3)の比較例2では、解像度がゼロとなっており、同じく同じ例が記載してある甲第4号証(特開平3-281383号公報)の比較例1では、解像度が0となっており、効果を奏しているとは云えない。してみると、ヘイズ値だけから、本件発明の効果が従来技術の水準と云うことはできない。
上記(6)について
本件発明の結晶厚さ、平均細孔半径、細孔容積が本件明細書の比較例に記載されているが、本件発明1は結晶厚さと平均粒子直径の組み合わせに技術的意義があり、本件発明2は、請求項1を引用しさらに平均細孔半径と細孔容積の組み合わせに技術的意義があるのであるから、本件発明に技術的意義がないとは云えない。
上記(7)について
本件明細書では、解膠剤として「酢酸」が記載されており(本件特許掲載公報第3頁第6欄第34行)、申立人の提出した証拠、とりわけ甲第1、3〜5号証には、解膠剤(酢酸)について何も開示されていないから、酢酸によって安定した2次粒子の形成が不可能であるとは云えず、その結果、安定した2次粒子の粒子径の差異によりインク受容層の特性に差異が生ずることも否定できない。何よりも、本件の実施例、比較例でヘイズ値が異なっていることはインク受容層の特性に差異があることを示しており、初期の状態に戻っていないことを示していると云える。
上記(8)について
本件発明の記録シート塗布液においてアルミナゾル以外にバインダーを含むことは明らかであり(本件特許掲載公報第3頁第5欄第40行〜第6欄第3行)、請求項1の「含む」という記載はアルミナゾル以外の物質を含むことを指していることは明らかである。
上記(9)について
本件明細書段落【0011】でレーザー法による測定について説明されており、平成16年7月23日付け特許異議意見書添付参考文献3の記載からみてレーザー法は粒子径の測定方法として普通に行われている測定方法と云えるから、記載不備とするほどのことではない。
上記(10)について
正確には、本件明細書段落【0025】では「1次粒子はあまり光の散乱には寄与しないものと考えられる」と記載されており、「あまり」ということは完全に寄与しないということではなく、また段落【0008】では「多孔質層のヘイズが大きくなるおそれがある」と記載されており、「おそれ」ということで断定したわけではないから、両者の記載に矛盾はなく、1次粒子の結晶厚さは技術的意義があるものと云える。
上記(11)について
60Å以上や、50nm超の実施例が記載されているから、記載不備とするほどのことではない。
上記(12)について
平均細孔半径や細孔容積の数値範囲の技術的意義については本件明細書に記載されているから(本件特許掲載公報第2頁第4欄第21〜33行)、記載不備とするほどのことではない。

また、その他の特許異議申立理由及び証拠方法は、本件発明の特許を取り消すべき理由として採用することができない。

3.むすび
以上のとおり、特許異議申立ての理由及び証拠方法によっては、訂正後の本件請求項1〜3に係る発明の特許を取り消すことはできない。
また、他に訂正後の本件請求項1〜3に係る発明の特許を取り消すべき理由を発見しない。
したがって、訂正後の本件請求項1〜3に係る発明についての特許は拒絶の査定をしなければならない特許出願にされたものと認めない。
よって、特許法等の一部を改正する法律(平成6年法律第116号)附則第14条の規定に基づく、特許法等の一部を改正する法律の施行に伴う経過措置を定める政令(平成7年政令第205号)第4条第2項の規定により、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
記録シート用塗布液
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(010)面に垂直な方向の結晶厚さが60〜150Åのベーマイト1次粒子が凝集してなる2次粒子を含むコロイド溶液であって、レーザー法による平均粒子直径が50nm超であり、かつ、250nm以下であるアルミナゾル、を含む記録シート用塗布液。
【請求項2】
前記アルミナゾルが、溶媒を除去してキセロゲルにしたときの平均細孔半径が40Å以上で、かつ、細孔半径が100Å以下の細孔容積が0.3cc/g以上である請求項1に記載の記録シート用塗布液。
【請求項3】
前記アルミナゾルに、バインダーを混合する、請求項1または2に記載の記録シート用塗布液。
【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】
本発明は、記録シート用塗布液に関する。
【0002】
【従来の技術】
近年、各種学会、会議等のプレゼンテーション用として、従来のスライドプロジェクターにかわり、オーバーヘッドプロジェクター(以下OHPという)が用いられる機会が多くなっている。これらの透明なシートの印字、印刷は基材であるシートそれ自体に吸収性が無いため、一般の紙面上に行う印刷に比べ、印刷の速度や乾燥の面で特別な配慮が必要である。
【0003】
例えば、OHPシートは、透明性とインク吸収性を兼ね備えたものであることが必要である。本発明者は、特開平2-276670号などにおいて、基材上に擬ベーマイトの多孔質層を有する記録シートを提案している。この記録シートでは、擬ベーマイト層がインクの吸収層となる。この層は、ベーマイト粒子を含むアルミナゾルをポリビニルアルコール等のバインダーとともに、基材上に塗布し、乾燥することによって得られる。ベーマイト粒子の大きさを適当なものとした場合は、透明でかつ吸収性の優れた、多孔質層が得られる。
【0004】
アルミナゾルは、アルミン酸ナトリウム等の水溶液に硫酸アルミニウム水溶液等を加えて中和し、得られた凝集物に酸などを加えて解膠することによって製造されている。あるいは、アルミニウムのイソプロポキシドを加水分解して得られるアルミナ水和物を解膠して製造する方法も知られている。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
擬ベーマイト多孔質層は、インク中の色素について高い吸着性を有し、かつ、ベーマイト粒子が細かくそろったものを選択すれば透明性の良好なものが得られる。しかし、アルミナゾルを塗布乾燥して得られる多孔質層においては、吸収性の高いものほど、光の散乱が大きくなるという傾向があった。本発明は、インク吸収層の透明性とインク吸収性のいずれもが、特に良好な多孔質層を製造することのできる新規な記録シート用塗布液を提供することを目的とする。
【0006】
【課題を解決するための手段】
本発明は、(010)面に垂直な方向の結晶厚さが60〜150Åのベーマイト1次粒子が凝集してなる2次粒子を含むコロイド溶液であって、レーザー法による平均粒子直径が50nm超であり、かつ、250nm以下であるアルミナゾル、を含む記録シート用塗布液を提供する。
【0007】
本発明におけるアルミナゾルは、実質的に1次粒子が凝集してできた2次粒子からなるコロイド溶液である必要がある。1次粒子が単分散したようなゾルの場合、基材に塗布して得られる多孔質層が比較的緻密なものになり、記録シートに必要な吸収性を有さない。このような凝集状態は、希薄なコロイド溶液をコロジオン膜等に滴下して乾燥させたものを、透過型電子顕微鏡で観察することにより確認することができる。また、2次粒子を形成していない1次粒子が、部分的に含まれていてもよい。
【0008】
1次粒子の(010)面に垂直な方向の結晶厚さは、60Å以上であることが必要で、この厚さが60Å未満の場合は、多孔質層に形成される細孔半径が小さくなり、インク中に含まれる色素を十分吸収できなくなるので好ましくない。この厚さが、70〜100Åである場合は、さらに好ましい。150Åを超える場合は、多孔質層のヘイズが大きくなるおそれがあるので好ましくない。
【0009】
ベーマイトは、斜方晶系に属する結晶で、層状の結晶構造を有する。層は、(010)面に平行である。1次粒子径は、粉末X線回折分析の(020)面のピークの回折角度2θと半値幅Bから、シェラーの式(t=0.9λ/Bcosθ)を使って求めることができる。この式において、λはX線の波長である。
【0010】
本発明におけるアルミナゾルは、レーザー法で測定したときの平均粒子直径が250nm以下であることが必要である。ベーマイト粒子からなるアルミナゾルの場合、ほとんどのベーマイト粒子は凝集して2次粒子を形成しているので、この平均粒子直径は実質的に2次粒子の大きさを表す。レーザー法で測定したときの平均粒子直径が、250nmを超える場合は、基材に塗布したときの散乱(ヘイズ)が大きくなるので不適当である。この平均粒子直径が小さいほど多孔質層のヘイズが小さくなるが、50nm以下の場合は、多孔質層の吸収性が不十分になるおそれがあるので好ましくない。レーザー法による平均粒子直径が100〜150nmの場合は、多孔質層のヘイズが少なく、かつ、多孔質層のインク吸収性も十分あるので好ましい。
【0011】
レーザー法による粒子径の測定は、ブラウン運動している液体中の粒子に、He-Neレーザー光を照射して、レーリー散乱により光が散乱され粒子の運動によりドップラーシフトするという原理に基づく光散乱法によるものである。
【0012】
本発明においては、アルミナゾルから溶媒を除去して得たキセロゲルが、平均細孔径が40Å以上であることが好ましい。平均細孔半径が40Åに満たない場合は、インク中の色素のうち分子の大きなものを十分吸収しないおそれがあるので、好ましくない。より好ましい平均細孔半径は、50〜70Åである。さらに、このキセロゲルにおいて、細孔半径が100Å以下の細孔容積が0.3cc/g以上であることが好ましい。この細孔容積が0.3cc/g未満の場合は、インク吸収量が不足するおそれがあるので好ましくない。細孔半径が100Å以下の細孔容積が0.4〜0.8cc/gである場合は、さらに好ましい。なお、本発明における細孔径分布の測定は、窒素吸脱着法による。
【0013】
本発明のように、1次粒子が凝集しやすいアルミナゾルの場合、アルミナ水和物の凝集物を解膠しても、2次粒子の直径が1000nm以上のゾルが得られやすい。あるいは、解膠剤の選定によっては、1次粒子が単分散に近い形で分散したゾルは得られるが、この場合、上述のように多孔質層は緻密なものになってしまう。
【0014】
1次粒子が凝集しやすいアルミナゾル2次粒子に、機械的手段で強い力を与えることにより分散処理して2次粒子の大きさを小さくすることができる。ここで、分散とは、2次粒子を破砕してより細かくする操作であるが、1次粒子の粒子径については変化をもたらさない。
【0015】
分散処理の方法は、特に限定されることなく種々の方法が採用される。例えば、ゾルに機械的撹拌により強い剪断力を与えるタイプの分散機を用いることができる。この場合、剪断だけでなく、キャビテーション等の機構を併用することもできる。特に、超音波振動子を利用した分散装置は、アルミナゾルに有効で、短い時間で2次粒子の微細化が可能であるので好ましい。
【0016】
分散装置としては、高速に回転するタービンとステーターで構成され、タービンはステーター内部の放射状バッフルの内周を、精密かつ均等な間隙を保ちながら高速に回転し、強力な剪断力、衝撃、乱流の働きにより分散する装置が使用できる。また、コロイド溶液中に集中的に強力な超音波エネルギーを発生して、特にキャビテーションによって生じる、衝撃的、瞬間的な高圧の働きにより分散する装置も使用できる。
【0017】
分散処理は、アルミナゾルを上記のような分散装置に通して行う。アルミナ水和物の凝集物を解膠する際に、解膠と分散処理を同時に行うこともできる。
【0018】
アルミナ水和物の凝集物を製造する方法は、特に限定されず、無機化合物から合成する方法も有機アルミニウム化合物から合成する方法のいずれも採用できる。特に、アルミニウムのアルコキシドを加水分解する方法は、1次粒子径の大きなベーマイトを得ることが容易なので好ましい。
【0019】
本発明におけるアルミナゾルは、基材上に塗布して乾燥することにより、擬ベーマイトの多孔質層を形成することができる。擬ベーマイトは、インク中の色素吸着性が高く、溶媒の吸収性が高いので、このような多孔質層は、記録シートに好ましく使用することができる。以下、本発明におけるアルミナゾルを用いて記録シートを製造するのに好ましい方法を説明する。
【0020】
基材としては特に限定されず、種々のものを使用することができる。具体的には、ポリエチレンテレフタレート、ポリエステルジアセテート等のポリエステル系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ETFE等のフッ素系樹脂など種々のプラスチックあるいは各種ガラスを好ましく使用することができる。また、アルミナ水和物層の接着強度を向上させる目的で、コロナ放電処理やアンダーコート等を行うこともできる。基材に透明なものを使用した場合は、OHP用などにも好適に使用できる透明な記録シートが得られる。基材が不透明であっても、色濃度が高く、にじみやかすれのない、きれいな印刷が可能である。
【0021】
アルミナゾルだけでは、擬ベーマイト多孔質層の機械的強度が不足するおそれがあるので、アルミナゾルにバインダーを混合して基材に塗布するのが好ましい。バインダーとしては、でんぷんやその変性物、ポリビニルアルコールおよびその変性物、SBRラテックス、NBRラテックス、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシメチルセルロース、ポリビニルピロリドン等の有機物を用いることができる。
【0022】
バインダーの使用量は、擬ベーマイトの5〜50重量%程度を採用するのが好ましい。バインダーの使用量が、5重量%未満の場合は、擬ベーマイト層の強度が不十分になるおそれがあり、逆に50重量%を超える場合は、色素の吸着性が不十分になるおそれがあるのでそれぞれ好ましくない。
【0023】
基材上に塗布する手段は、例えば、ベーマイトゾルにバインダーを混合してスラリー状とし、ロールコーター、エアナイフコーター、ブレードコーター、ロッドコーター、バーコーター、コンマコーターなどを用いて塗布し、乾燥する方法を採用することができる。
【0024】
擬ベーマイト多孔質層の厚さは、用途に応じて適宜選択されるが、一般には0.5〜50μmを採用するのが好ましい。多孔質層の厚さが0.5μmに満たない場合は、色素を十分吸着しないおそれがあり、50μmを超える場合は、多孔質の透明性が損なわれたり層の強度が低下するおそれがあるので、それぞれ好ましくない。
【0025】
【作用】
アルミナゾルを基材上に塗布して得られた多孔質層においては、1次粒子はあまり光の散乱には寄与しないものと考えられる。ヘイズは、2次粒子間の空隙の部分の散乱に大きく影響されるものと推定される。このようにして形成された多孔質層は、インクの吸収性が高く、かつ、透明性が高い。分散処理を施さず、2次粒子の直径が大きなアルミナゾルを塗布して得られた多孔質層に比べると、特にヘイズが少ない点で優れている。
【0026】
【実施例】
実施例1
容量2000ccのガラス製反応器(セパラブルフラスコ、撹拌羽根、温度計付き)に、イオン交換水810gとイソプロピルアルコール675gを仕込み、マントルヒーターにより液温を75℃に加熱した。撹拌しながらアルミニウムイソプロポキシド306.4gを添加し、液温を75〜78℃に保持しながら20時間加水分解を行った。次いで、イソプロピルアルコールを留去しながら95℃まで昇温し、酢酸9gを添加して95℃で40時間解膠した。さらにこの液を濃縮し、固形分濃度15%の白色のアルミナゾルを得た。
【0027】
このゾルをレーザー法で測定した平均粒子直径は280nmであった。このゾルの乾燥物は、粉末X線回折によると、擬ベーマイトであった。窒素吸脱着法で測定したところ、10〜100Åの半径の細孔容積は0.75cc/gで、平均細孔半径は65Åであった。ベーマイト粒子の(010)面に垂直な方向の結晶厚みは80Åであった。
【0028】
このゾル10重量部(固形分)、ポリビニルアルコール3重量部(固形分)および水からなる、固形分約10重量%の塗布液を調製し、ポリエチレンテレフタレートフィルム(厚さ100μm)にバーコーターを用いて、乾燥時の厚さが5μmになるように塗布乾燥して、記録シートを得た。このシートのヘイズは2.8であった。
【0029】
次に、上述のアルミナゾルを、超音波ホモジナイザー(日本精機社製;US-600T)により20分間分散処理した。透明性の良好なアルミナゾルが得られた。このゾルのレーザー法による、平均粒子直径は、85nmであった。同様に塗布したところ、ヘイズは1.6であった。
【0030】
実施例2
実施例1の合成アルミナゾル3リットルを、タービンとステーターからなる分散機(特殊機化工業社製;O型)を用いて、7000rpmで1時間処理したところ、レーザー法による平均粒子直径180nmのアルミナゾルを得た。同様にポリエチレンテレフタレートフィルム上に塗布したところ、ヘイズは2.3であった。
【0031】
【発明の効果】
本発明におけるアルミナゾルは、基材上に塗布したときにインクの吸収性に優れた透明な多孔質層を形成することができる。特にヘイズが低いという特長を有する。本発明において、アルミナゾルを基材上に塗布して得られる記録シートは、色素の吸収性、定着性が良好で、かつ、透明性も良好である。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2004-08-03 
出願番号 特願平3-214442
審決分類 P 1 651・ 121- YA (C01F)
P 1 651・ 533- YA (C01F)
最終処分 維持  
前審関与審査官 平塚 政宏安齋 美佐子  
特許庁審判長 大黒 浩之
特許庁審判官 中村 泰三
野田 直人
登録日 2002-08-23 
登録番号 特許第3342705号(P3342705)
権利者 旭硝子株式会社
発明の名称 記録シート用塗布液  

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