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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  A61M
管理番号 1105982
異議申立番号 異議2002-72566  
総通号数 60 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 1995-10-09 
種別 異議の決定 
異議申立日 2002-10-17 
確定日 2004-10-13 
異議申立件数
事件の表示 特許第3300155号「医療用ガイドワイヤの先端部付形方法」の請求項1ないし3に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 特許第3300155号の請求項1ないし3に係る特許を取り消す。 
理由 1.本件発明
特許第3300155号(平成6年3月23日出願、平成14年4月19日設定登録。)の請求項1ないし3に係る発明(以下、「本件発明1ないし3」という。)は、特許明細書及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1ないし3に記載された次のとおりのものである。
(本件発明1)
「【請求項1】 金属の芯線と、その外周に装着された金属コイルとを有する医療用ガイドワイヤの先端を所望の形状に付形する方法において、前記芯線がステンレス、炭素鋼から選ばれた材質からなり、前記コイルがステンレス、プラチナ、プラチナ合金、金、タングステンから選ばれた材質からなるものであって、前記医療用ガイドワイヤの先端を、型内に挿入して所望の形状に保持させ、加熱処理することを特徴とする医療用ガイドワイヤの先端部付形方法。」
(本件発明2)
「【請求項2】 前記加熱処理を400〜600℃で30〜300分行う請求項1記載の医療用ガイドワイヤの先端部付形方法。」
(本件発明3)
「【請求項3】 前記医療用ガイドワイヤの先端を、内面に線状凹部を形成した前記型内に挿入した後に蓋板を被せて所望の形状に保持させ、加熱処理する請求項1又は2記載の医療用ガイドワイヤの先端部付形方法。」

2.引用刊行物記載の発明
(1)先の取消理由通知において刊行物1として引用した特開昭59-67968号公報(以下、「引用刊行物1」という。)には、図面と共に以下の事項が記載されている。
・事項a.「従来のガイドワイヤーを第1図(a)及び(b)に示す。第1図(a)のガイドワイヤーWは直線型であり先端部が曲がっていない。第1図(b)のガイドワイヤーWは先端部がJ型に曲がつている。いずれのガイドワイヤーもステンレス製のコイルスプリングからなる外管10と該外管10内を通され両端を該外管10の両端と溶接により固着されたステンレス製の芯体30とからなり」(公報第2頁左下欄第9〜17行)
・事項b.「血管が大きく蛇行していたり血管壁にコレステロールや脂肪分などが多く体積している患者に対しては、第1図(b)のガイドワイヤーWが用いられるのである。しかしながら、第1図(b)のガイドワイヤーは第1図(a)のガイドワイヤーに比べて製造単価が高くなるほか、特にセルデインガー針のカテーテルハブへ導入する際、J型の先端部を直線状に強制する必要がある。このため、第2図に示すようにガイドワイヤーWは直管状のガイドインサーターGを被嵌しており、ケースCより引き出して第3図に示すようにカテーテルハブH内に挿入する際・・・ガイドワイヤーWのJ型の先端部を直線状にしてガイドインサーターGをカテーテルハブHに嵌合し、そしてガイドワイヤーWをカテーテルK内に導入していくという操作が必要である。」(公報第2頁右下欄第19行〜第3頁左上欄第18行)
・また、第1図(a)(b)には、芯体30の外周に装着されたコイルスプリングからなる外管10の構造、及び、ガイドワイヤーWの先端がJ型に付形された態様が示されている。
上記の記載事項及び図示内容を総合すると、引用刊行物1には、
「ステンレス製の芯体30と、その外周に装着されたステンレス製のコイルスプリングからなる外管10とを有すると共に、該芯体30は該外管10内を通され両端を該外管10の両端と溶接により固着した構成のガイドワイヤーWの先端部をJ型に付形するガイドワイヤーWの先端部付形方法」の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されているものと認められる。

(2)同じく、刊行物2として引用した特開昭52-91767号公報(以下、「引用刊行物2」という。)には、図面と共に以下の事項が記載されている。
・事項c.「本発明は直線的なパイプを彎曲管に加工するための熱間金属パイプ彎曲型に関するものである。」(公報第1頁左下欄第14〜16行)
・事項d.「使用に際しては、上述の如く集成した型を台板Aと共に加熱炉内に収容し固定した後、鋼管の場合には約600℃で型全体を加熱しつつ、溝1A・2Aにより形成された円溝内にパイプPを芯金を介し徐々に挿入して押し進めてやる」(公報第2頁左上欄第3〜7行)

(3)同じく、刊行物3として引用した「塑性加工学」(株式会社養賢堂、昭和48年4月20日発行、以下、「引用刊行物3」という。)には、以下の事項が記載されている。
・事項e.「このように加工によって硬化した金属が加熱によって軟化する過程は,図5.19に示すような三つの段階に分けることができる.第1段階は比較的低温でおこり,加工によって生じた残留応力がしだいに減少する.また,電気抵抗などの物理的性質がもとの状態にもどってゆく.これを回復(recovery)という.」(第221頁第8〜12行)

3.対比・判断
(3-1)本件発明1について
本件発明1と引用発明とを対比すると、引用発明の「ステンレス製の芯体30」、「ステンレス製のコイルスプリングからなる外管10」及び「ガイドワイヤーW」は、その作用・機能からみて、それぞれ、本件発明1の「金属の芯線」、「金属コイル」及び「医療用ガイドワイヤ」に相当している。
また、引用発明における「J型」は、本件発明1における「所望の形状」の一種と捉え得るものであり、さらに、引用発明における「ステンレス製の芯体30」及び「ステンレス製のコイルスプリングからなる外管10」は、本件発明1における「芯線がステンレス、炭素鋼から選ばれた材質からなり、コイルがステンレス、プラチナ、プラチナ合金、金、タングステンから選ばれた材質からなるもの」に相当することは明らかである。
したがって、両者は、
「金属の芯線と、その外周に装着された金属コイルとを有する医療用ガイドワイヤの先端を所望の形状に付形する方法において、前記芯線がステンレス、炭素鋼から選ばれた材質からなり、前記コイルがステンレス、プラチナ、プラチナ合金、金、タングステンから選ばれた材質からなる医療用ガイドワイヤの先端部付形方法。」
である点で一致しており、下記の点で相違している。
[相違点]
医療用ガイドワイヤの先端を所望の形状に付形するに際し、本件発明1は、「医療用ガイドワイヤの先端を、型内に挿入して所望の形状に保持させ、加熱処理する」方法を採用しているのに対し、引用発明は、具体的な付形方法が明確にされていない点。
そこで、上記の相違点について検討する。
本件発明1において、「医療用ガイドワイヤの先端を、型内に挿入して所望の形状に保持させ、加熱処理する」ようにした点の技術的意義は、本件特許明細書の段落【0014】の「本発明・・・の目的は、ガイドワイヤの先端部を所望の形状に付形でき、しかもカテーテルに通しても曲げた形状が良好に維持されるようにした医療用ガイドワイヤの先端部付形方法を提供することにある。」なる記載、及び、段落【0020】の「芯線及びコイルの先端部が塑性変形するとともに、上記残留応力も減少する。このため、ガイドワイヤの先端部を所望の形状に形成でき、その形状はカテーテル等を通して引き伸ばしても維持され、元の形状に戻ってしまうことはない。」なる記載によれば、医療用ガイドワイヤの先端部を所望の形状に付形すると共に曲げた形状を良好に維持するとの目的を達成するために、型を用いて変形に必要な力を加えて塑性変形させると共に、加熱によって素材内部に蓄積された残留応力を減少させることにあるものと解される。
しかしながら、医療用ガイドワイヤにおいて、所望の形状に付形されたガイドワイヤの先端部に一時的な外力が加わったとしても該所望の形状を維持させることは、引用刊行物1にも開示されている(「事項b.」参照)と共に、熟知された課題というべきであるところ、引用刊行物2に事項c.及び事項d.として記載されているように、型を用いて素材を加熱しながら変形に必要な力を加え所望の形状に塑性変形させるようにした金属の付形方法自体は周知の技術であり、また、引用刊行物3に記載の事項e.からも明らかなように、熱間加工において、「加工によって生じた残留応力が次第に減少する」ことは技術常識であるから、上記の課題の下に、医療用ガイドワイヤの先端を所望の形状に付形するにあたり、「医療用ガイドワイヤの先端を、型内に挿入して所望の形状に保持させ、加熱処理する」ことは、当業者であれば容易に想到し得たものと認められる。
なお、特許権者は、平成15年9月16日付け特許異議意見書の第6頁第12〜24行において、「ガイドワイヤの先端部の付形方法としては、i)芯線を曲げ形成して、直線状のコイルに挿入して固定し、芯線の復元力で付形する方法、ii)芯線とコイルをそれぞれ曲げ形成して、芯線をコイルに挿入して固定する方法、iii)芯線をコイルに挿入して固定し、その状態で両者を同時に曲げ形成する方法などが考えられます。
本件発明では、芯線をステンレス、炭素鋼から選ばれた材質とし、コイルをステンレス、プラチナ、プラチナ合金、金、タングステンから選ばれた材質とすることにより、上記iii)の方法を採用して熱処理により両者を同時に曲げ形成することが可能になりました。このため、芯線をコイルに挿入し、芯線とコイルとの端部を固着し、固着箇所を研磨するなどの作業を、芯線とコイルとが直線状態で行うことができ、製造作業性が著しく向上します。また、芯線だけを付形した場合と比べると、コイルによる戻りがないので、目的とする形状に正確に付形することができます。」と主張しているのでこの点につきさらに検討する。
一般に、曲線状の部材と直線状の部材との間の挿入作業よりは、直線状の部材同士での挿入作業の方が容易であり効率的であることは明らかである。
そして、引用発明は、ステンレスの芯線(「ステンレス製の芯体30」が相当)とステンレスのコイル(「ステンレス製のコイルスプリングからなる外管10」が相当)との端部を固着した構成を有するものであり、この構成のものは引用刊行物2に記載の技術をそのまま適用できることが明らかである。
そうすると、引用発明において、作業性を考慮して上記iii)の方法を採用することは、それを阻害する格別の要因が何等見出せない以上、当業者が必要に応じて適宜採択し得る設計的事項というべきであり、コイルによる戻りがなく、目的とする形状に正確に付形することができるとの効果も、上記iii)の方法の採用に伴い当然予測される程度のものにすぎない。

そして、本件発明1の全体構成によって奏される効果も、上記各引用刊行物の記載内容から、当業者が予測し得る範囲内のものである。

以上のとおりであるので、本件発明1は、上記各引用刊行物に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。

(3-2)本件発明2について
本件発明2は、本件発明1に、「加熱処理を400〜600℃で30〜300分行う」という構成をさらに付加するものである。
この付加された加熱処理の数値範囲の臨界的意義については、本件特許明細書中に何ら説明されていないため把握し難いところではあるが、引用刊行物2には、加熱処理の温度を「約600℃」とした例が記載されていると共に、上記付加された加熱処理の温度及び時間の数値範囲は、金属の残留応力除去のために一般的に想定され得る温度範囲及び時間に含まれると解されるため、加熱処理を上記の数値範囲に限定することは、単なる設計的事項にすぎないものというべきである。
したがって、上記(3-1)での検討内容を踏まえれば、本件発明2も、上記各引用刊行物に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。

(3-3)本件発明3について
本件発明3は、本件発明1又は2に、医療用ガイドワイヤの先端を、「内面に線状凹部を形成した型内に挿入した後に蓋板を被せて」所望の形状に保持させ、加熱処理するという、型に係る構成をさらに付加するものである。
ところで、一般に線状金属の成型用の型として、内面に線状凹部を形成した型と蓋板とを組み合わせて構成したものは、例えば実願昭54-83697号(実開昭56-1730号)のマイクロフィルム(第6〜8図の従来例参照)にも見られるように周知のものであり、また、医療用ガイドワイヤの先端を所望の形状に付形する際に使用する型として、上記周知の型に特定したことにより、当業者が予測し得ない格別の効果が生ずるとも認められないから、本件発明3で付加された構成とすることは、当業者が必要に応じて適宜採用し得る設計的事項にすぎないものというべきである。
したがって、上記(3-1)及び(3-2)での検討内容を踏まえれば、本件発明3は、上記各引用刊行物に記載された発明及び周知の構成に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。

4.むすび
以上のとおりであるから、本件発明1ないし3は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、本件発明1ないし3についての特許は、拒絶の査定をしなければならない特許出願に対してされたものと認める。
よって、特許法等の一部を改正する法律(平成6年法律第116号)附則第14条の規定に基づく、特許法等の一部を改正する法律の一部の施行に伴う経過措置を定める政令(平成7年政令第205号)第4条第2項の規定により、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2004-08-20 
出願番号 特願平6-76579
審決分類 P 1 651・ 121- Z (A61M)
最終処分 取消  
前審関与審査官 松永 謙一北村 英隆  
特許庁審判長 田中 秀夫
特許庁審判官 一色 貞好
岡田 孝博
登録日 2002-04-19 
登録番号 特許第3300155号(P3300155)
権利者 株式会社パイオラックス
発明の名称 医療用ガイドワイヤの先端部付形方法  
代理人 岡 賢美  
代理人 松井 茂  
代理人 長谷 真司  

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