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審決分類 審判 全部申し立て 特36 条4項詳細な説明の記載不備  C08J
審判 全部申し立て 5項1、2号及び6項 請求の範囲の記載不備  C08J
管理番号 1105985
異議申立番号 異議2003-71868  
総通号数 60 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 1996-10-29 
種別 異議の決定 
異議申立日 2003-07-24 
確定日 2004-10-13 
異議申立件数
事件の表示 特許第3370207号「導電性ポリスチレン系樹脂組成物」の請求項1ないし3に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 特許第3370207号の請求項1ないし3に係る特許を取り消す。 
理由 I.手続の経緯
特許第3370207号の請求項1〜3に係る発明についての出願は、平成7年4月6日に特許出願され、平成14年11月15日にその発明について特許権の設定登録がなされ、その後、特許異議の申立がなされ、取消の理由が通知され、その指定期間内である平成16年1月20日付けで特許異議意見書とともに訂正請求書が提出され、その後訂正拒絶理由通知がなされ、その指定期間内である平成16年4月19日付けで特許異議意見書とともに訂正請求書が提出され、当該訂正請求書について却下理由通知がなされ、それに対し特許権者から何らの応答もなされなかったため、平成16年4月19日付け提出の訂正請求書に係る手続は平成16年6月29日付けで手続却下の決定がなされたものである。
II.訂正請求について
1.平成16年4月19日付け訂正請求書に対する手続却下の適否について
平成16年4月19日付け訂正請求書は、訂正請求書の提出できる期間以外の提出に係るものであるから、平成15年改正前の特許法第120条の6第1項の規定によって準用する同法第133条の2第1項の規定により却下すべきものである。
2.平成16年1月20日付け訂正請求書について
(1)訂正の内容
訂正事項a
請求項1に記載の「、かつ、ポリスチレンおよび/またはスチレン系ブロックコポリマーからなる希釈樹脂を」を「、次いで、ポリスチレンおよび/またはスチレン系ブロックコポリマーからなる希釈樹脂を」と訂正し、
請求項1に記載の「導電性ポリスチレン系樹脂組成物。」を「導電性ポリスチレン系樹脂組成物の製造方法。」と訂正し、
請求項2に記載の「導電性ポリスチレン系樹脂組成物。」を「導電性ポリスチレン系樹脂組成物の製造方法。」と訂正し、
請求項3に記載の「導電性ポリスチレン系樹脂組成物。」を「導電性ポリスチレン系樹脂組成物の製造方法。」と訂正する。
訂正事項b
発明の名称「導電性ポリスチレン系樹脂組成物」を「導電性ポリスチレン系樹脂組成物の製造方法」と訂正する。
訂正事項c
明細書段落【0001】に記載の「導電性ポリスチレン樹脂組成物に係り、特に、樹脂中の導電性付与剤量を任意に調整し得る導電性ポリスチレン系樹脂組成物に関する。」を「導電性ポリスチレン樹脂組成物の製造方法に係り、特に、樹脂中の導電性付与剤量を任意に調整し得る導電性ポリスチレン系樹脂組成物の製造方法に関する。」と訂正する。
訂正事項d
明細書段落【0008】に記載の「樹脂中の導電性付与剤量を任意に調整された導電性ポリスチレン樹脂組成物を提供することにある。」を「樹脂中の導電性付与剤量を任意に調整された導電性ポリスチレン樹脂組成物の製造方法を提供することにある。」と訂正する。
訂正事項e
明細書段落【0009】に記載の「上述の目的を達成するため、本発明の導電性ポリスチレン系樹脂組成物によれば、」を「上述の目的を達成するため、本発明の導電性ポリスチレン系樹脂組成物の製造方法によれば、」と訂正し、
明細書段落【0009】に記載の「、かつ、ポリスチレンおよび/またはスチレン系ブロックコポリマーからなる希釈樹脂を」を「、次いでポリスチレンおよび/またはスチレン系ブロックコポリマーからなる希釈樹脂を」と訂正する。
(2)訂正の適否について
訂正事項aについて検討する。
訂正事項aは、特許請求の範囲の請求項1〜3に記載された発明について「導電性ポリスチレン系樹脂組成物」を「導電性ポリスチレン系樹脂組成物の製造方法」と訂正するものであり、明りょうでない記載の釈明を目的とし、その根拠となる明細書の記載は明細書段落【0029】および【0037】実施例1の記載によるものであるとする。
しかしながら、「導電性ポリスチレン系樹脂組成物」に係る発明を「導電性ポリスチレン系樹脂組成物の製造方法」の発明に訂正することは、発明の範疇を変えるもので、実質上特許請求の範囲を変更するものであるから、よって、訂正事項aについては訂正は認められない。
(3)むすび
以上のとおりであるから、上記訂正は、特許法等の一部を改正する法律(平成6年法律第116号)附則第6条第1項の規定によりなお従前の例によるとされる、特許法第120条の4第3項において準用する平成6年法律第116号による改正前の特許法第126条第2項の規定に適合しないので、当該訂正は認められない。
III.本件発明
請求項1〜3に係る発明は、特許明細書の請求項1〜3に記載された、次のとおりのものである。
「【請求項1】ポリスチレンおよび/またはスチレン系ブロックコポリマー100重量部と、導電性付与剤15〜150重量部とからなるマスターバッチにパラフインを前記マスターバッチ100重量部に対して0.5〜10重量部添加し、かつ、ポリスチレンおよび/またはスチレン系ブロックコポリマーからなる希釈樹脂を前記マスターバッチ100重量部に対して20〜150重量部の範囲内の所望量を添加して樹脂中の導電性付与剤量を任意に調整してなる導電性ポリスチレン系樹脂組成物。
【請求項2】請求項1の導電性付与剤がカーボンブラックである請求項1の導電性ポリスチレン系樹脂組成物。
【請求項3】請求項1の導電性付与剤が炭素繊維、金属繊維、金属酸化物および黒鉛の群から選択される請求項1の導電性ポリスチレン系樹脂組成物。」
IV.特許異議申立について
1.特許異議申立の概要
特許異議申立人 関家悦子は、甲第1号証(特許第3370207号公報[本件特許])、甲第2号証(新村出 編「広辞苑」株式会社岩波書店 1998年11月11日第5版 第522頁の「かつ」の項)、甲第3号証(判例工業所有権法(第二期版)1357の47頁〜1357の53頁(東京高等裁判所平成3年(行ケ)288号、平成5年12月21日判決))、甲第4号証(審決取消訴訟判決集(40)第30頁〜第35頁(東京高等裁判所平成3年(行ケ)288号、平成5年12月21日判決))を提出して、請求項1〜3に係る発明は、明細書の記載が不備であるから、請求項1〜3に係る発明の特許は、特許法第36条に規定する要件を満たさない特許出願に対してされたものであるから取り消されるべきであり、また、請求項1〜3に係る発明は、未完成発明であるから、請求項1〜3に係る発明の特許は、特許法第29条第1項柱書の規定に違反してされたものであるから、取り消されるべき旨主張している。
2.取消理由通知の概要
当審が平成15年11月11日に通知した取消の理由の概要は、請求項1〜3に係る発明は、特許異議申立書に記載の理由、即ち、特許請求の範囲に記載の特許を受けようとする発明については、発明の詳細な説明に記載された発明が記載されているということができないから、明細書の記載に不備があり、請求項1〜3に係る発明の特許は、特許法第36条第4項、第5項及び第6項に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである、というものである。
3.判断
本件明細書の記載が、特許法第36条に規定する要件を満たしているかどうかについて検討する。
(1)請求項1〜3に係る発明について
(イ)本件明細書には、以下の記載がなされている。
「【請求項1】ポリスチレンおよび/またはスチレン系ブロックコポリマー100重量部と、導電性付与剤15〜150重量部とからなるマスターバッチにパラフインを前記マスターバッチ100重量部に対して0.5〜10重量部添加し、かつ、ポリスチレンおよび/またはスチレン系ブロックコポリマーからなる希釈樹脂を前記マスターバッチ100重量部に対して20〜150重量部の範囲内の所望量を添加して樹脂中の導電性付与剤量を任意に調整してなる導電性ポリスチレン系樹脂組成物。
【請求項2】請求項1の導電性付与剤がカーボンブラックである請求項1の導電性ポリスチレン系樹脂組成物。
【請求項3】請求項1の導電性付与剤が炭素繊維、金属繊維、金属酸化物および黒鉛の群から選択される請求項1の導電性ポリスチレン系樹脂組成物。」(特許請求の範囲)
「【0025】なお、本発明では、前記マスターバッチの構成成分にさらにパラフインを加えることにより、加工性、導電性、成形性、後述の希釈樹脂との相溶性が良好となり、成形品の外観、物性も向上する。このパラフインとしては、公知のものが使用できるが、特に好ましく、具体的にはハイホワイト350(日本石油)等が挙げられる。
【0026】このパラフインの使用量はマスターバッチを構成する成分の合計100重量部に対し、さらに、0.5〜10部、好ましくは2〜8部、さらに好ましくは、2〜6部である。パラフインの使用量が0.5部未満の場合は効果が小さく、10部を越える場合はカーボンブラックの分散不良および加工性に悪影響を与えるので好ましくない。
【0027】本発明のマスターバッチは、その他本発明の目的を妨げない範囲において、可塑剤、光安定剤、帯電防止剤、充填剤、着色剤等の任意の添加剤を包含させることができる。
【0028】本発明にかかるマスターバッチは上述成分を混合機等で充分に混合し、練肉して樹脂中に導電性付与剤を均等に分散することにより得られる。
【0029】導電性ポリスチレン系樹脂組成物の調製
本発明の導電性ポリスチレン系樹脂組成物は上述によって調製されたマスターバッチに、ポリスチレンおよび/またはスチレン系ブロックコポリマーの希釈樹脂を添加、混合し、樹脂中の導電性付与剤量を任意に調整することにより得られる。」(明細書段落【0025】〜【0029】)
「【0035】
【発明の実施例】以下、本発明を実施例によって詳述する。
【0036】
【実施例】なお、本実施例において、スチレン単重合体をGPPSと、合成ゴム等で改質したスチレン重合体をHIPSと、スチレン-ブタジエン-スチレンブロックコポリマーをSBS、スチレン-イソプレン-スチレンロックコポリマーをSISと、スチレン-エチレン・ブチレン-スチレンロックコポリマーをSEBSと、スチレン-エチレン・プロピレン-スチレンロックコポリマーをSEPSとそれぞれ略称する。
【0037】実施例1
GPPS50部およびSBS50部にカーボンブラック(DBP吸油量110ml/100g)110部および流動パラフイン10部を添加し、バンバリーミキサーで混練りした。この混練り物をペレット化しマスターバッチを得た。次に、上記マスターバッチ100部にGPPS80部を混合したものを、射出成形機(日本製鋼所製)にて成形し、板状成形物、アイゾット衝撃試験用成形物を得た。
【0038】実施例2
実施例1におけるマスターバッチ100部にGPPS40部、SBS40部を混合したものを実施例1と同様に成形して成形物を得た。
【0039】実施例3
実施例1におけるマスターバッチ100部にHIPS80部を混合したものを、実施例1と同様に成形して成形物を得た。
【0040】実施例4
HIPS70部、SBS30部にカーボンブラック(DBP吸油量110ml/100g)100部、流動パラフイン10部を添加し、バンバリーミキサーで混練りした。この混練り物をペレット化し、マスターバッチを得た。次に、このマスターバッチ100部にHIPS70部を混合し、実施例1と同様に成形し、成形物を得た。
【0041】実施例5
SBS100部、カーボンブラック(DBP吸油量100ml/100g)100部および流動パラフイン10部をバンバリーミキサーで混練りした。この混練り物をペレット化し、マスターバッチを得た。次に、上記マスターバッチ100部にGPPS70部を混合したものを、実施例1と同様に射出成形した。
【0042】実施例6
SBSのかわりにSISを使用する以外は実施例3と同様に行った。
【0043】実施例7
SBSのかわりにSEBSを使用する以外は実施例3と同様に行った。
【0044】実施例8
SBSのかわりにSEPSを使用する以外は実施例3と同様に行った。」(明細書段落【0035】〜【0044】)
「【0047】
【発明の効果】以上のとおり、本発明のマスターバッチを用いることにより、低コストで、かつ成形の際、任意のカーボンブラック濃度に調整できるポリスチレン系樹脂組成物成形物を得ることができる。」(明細書段落【0047】)
(ロ)以上の明細書の記載を参照し、請求項1〜3に係る発明が、発明の詳細な説明に記載されたものであるか否かについて検討する。
(i)請求項1〜3に係る発明では、請求項1の記載からして「マスターバッチ」は、ポリスチレンおよび/またはスチレン系ブロックコポリマーと導電性付与剤の2種類の材料から構成されるものを示していることは明らかである。
これに対して、発明の詳細な説明に具体的に記載されている「マスターバッチ」は、実施例1〜8の記載からして、ポリスチレンおよび/またはスチレン系ブロックコポリマーと導電性付与剤およびパラフインの3種類の材料から構成されるものをマスターバッチとして使用し、このマスターバッチを用いることにより表1で示されるような優れた性能を有する導電性ポリスチレン系樹脂組成物を得ているものである。
そして、発明の詳細な説明の他の記載(明細書段落【0025】〜【0029】)を参酌しても、マスターバッチはポリスチレンおよび/またはスチレン系ブロックコポリマーと導電性付与剤およびパラフインの3種類の材料から構成されるものを示しているとしか解されない。
特に、明細書段落【0025】の「なお、本発明では、前記マスターバッチの構成成分にさらにパラフインを加えることにより、加工性、導電性、成形性、後述の希釈樹脂との相溶性が良好となり、成形品の外観、物性も向上する。このパラフインとしては、公知のものが使用できるが、特に好ましく、具体的にはハイホワイト350(日本石油)等が挙げられる。」との記載、明細書段落【0029】の「本発明の導電性ポリスチレン系樹脂組成物は上述によって調製されたマスターバッチに、ポリスチレンおよび/またはスチレン系ブロックコポリマーの希釈樹脂を添加、混合し、樹脂中の導電性付与剤量を任意に調整することにより得られる。」との記載からすると、パラフインはマスターバッチの構成成分の1種として添加されるものであって、マスターバッチに対して希釈樹脂が添加、混合される前にあらためて添加されるものではない。
そうすると、2種類の材料から構成されるマスターバッチを必須の構成要件とする請求項1〜3に係る発明は、発明の詳細な説明にその構成および効果が記載されたものであるとはいえない。
(ii)請求項1〜3に係る発明では、請求項1の記載からして「希釈樹脂の添加」については「マスターバッチにパラフインを前記マスターバッチ100重量部に対して0.5〜10重量部添加し、かつ、ポリスチレンおよび/またはスチレン系ブロックコポリマーからなる希釈樹脂を前記マスターバッチ100重量部に対して20〜150重量部の範囲内の所望量を添加して」と記載されており、パラフインとともに希釈樹脂を添加することは記載されているものの、希釈樹脂の添加順序については何等特定されていない。
これに対し、発明の詳細な説明には、「希釈樹脂の添加」については、パラフインの添加後に希釈樹脂を添加する場合のみが具体的に記載(実施例1〜8)されており、該添加順序により構成される導電性ポリスチレン系樹脂組成物のみが、表1で示されるような性能を有するものと解される。
そうすると、パラフインの添加後に希釈樹脂を添加する場合以外(希釈樹脂の添加後にパラフインを添加する場合、パラフインと希釈樹脂を同時に添加する場合)の順序で添加混合された導電性ポリスチレン系樹脂組成物については、発明の詳細な説明に、当業者が容易にその実施をすることができる程度に発明の目的、構成、効果が記載されているものとはいえない。
V.むすび
以上のとおり、請求項1〜3に係る発明は、その明細書の記載が不備であり、特許法第36条第4項、第5項及び第6項に規定する要件を満たさない特許出願に対してされたものであり、請求項1〜3に係る発明の特許は拒絶の査定をしなければならない特許出願に対してされたものと認められるから、特許法等の一部を改正する法律(平成6年法律第116号)附則第14条の規定に基づく、特許法等の一部を改正する法律の施行に伴う経過措置を定める政令(平成7年政令第205号)第4条第2項の規定により取り消されるべきものである。
よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2004-08-25 
出願番号 特願平7-104617
審決分類 P 1 651・ 531- ZB (C08J)
P 1 651・ 534- ZB (C08J)
最終処分 取消  
前審関与審査官 森川 聡  
特許庁審判長 宮坂 初男
特許庁審判官 船岡 嘉彦
佐野 整博
登録日 2002-11-15 
登録番号 特許第3370207号(P3370207)
権利者 大日精化工業株式会社
発明の名称 導電性ポリスチレン系樹脂組成物  
代理人 高梨 憲通  
代理人 産形 和央  
代理人 藤野 育男  
代理人 岡部 正夫  
代理人 染谷 仁  
代理人 臼井 伸一  

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