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審決分類 審判 全部無効 2項進歩性 無効としない B60N
審判 全部無効 特36 条4項詳細な説明の記載不備 無効としない B60N
審判 全部無効 特174条1項 無効としない B60N
審判 全部無効 5項1、2号及び6項 請求の範囲の記載不備 無効としない B60N
管理番号 1107615
審判番号 無効2003-35514  
総通号数 61 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 1996-04-09 
種別 無効の審決 
審判請求日 2003-12-10 
確定日 2004-11-26 
事件の表示 上記当事者間の特許第3371345号発明「エアコン吹き出し口のルーバーに対する物品取付具」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。 
理由 1.手続の経緯
本件特許第3371345号の請求項1乃至3に係る発明は、平成6年9月28日に特許出願され、平成14年11月22日にその発明についての特許権の設定登録がされたものである。

2.本件発明について
本件特許の請求項1乃至3に係る発明は、特許明細書及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1乃至3に記載された次のとおりのものである。
「【請求項1】 取付基部と、この取付基部から互いに離間して対向するよう前方に延びる一方の辺及び他方の辺と、上記一方の辺の遊端に形成されエアコン吹き出し口のルーバー後縁を包着可能としたフック部と、上記一方の辺のフック部における先端湾曲部と上記他方の辺の先端間に形成され前記他方の辺が前記一方の辺から離間する方向に撓んでルーバーを受け入れるエアコン吹き出し口のルーバー挿入口とより成り、上記他方の辺を一方の辺より薄肉としたことを特徴とするエアコン吹き出し口のルーバーに対する物品取付具。
(以下、「本件特許発明1」という。)
【請求項2】 上記他方の辺の先端に上記一方の辺から離間する方向に斜めに前方に延びる部分が形成されている請求項1記載のエアコン吹き出し口のルーバーに対する物品取付具。
(以下、「本件特許発明2」という。)
【請求項3】 上記取付基部が棒状であり、その軸方向に互いに離間した、上記軸方向と直角方向に延びる2以上の溝を有し、この溝を有する部分が、被冷暖物ホルダーに形成した孔内に係合される請求項1または2記載のエアコン吹出口のルーバーに対する物品取付具。
(以下、「本件特許発明3」という。)」

3.請求人の主張
審判請求人は、下記(3-1)の証拠及び下記(3-2)の無効理由から、「請求項1乃至3に係る発明についての登録を無効とする。審判費用は被請求人の負担とする。との審決を求める。」(請求の趣旨)と主張する。
(3-1)証拠
甲第1号証の1:本件特許に係る拒絶査定に対する審判請求書
甲第1号証の2:本件特許に係る平成11年12月20日付けの意見書
甲第2号証:実願平3-38318号(実開平5-26621号のCD-ROM)
甲第3号証の1:実願平2-53460号(実開平4-11733号のマイクロフィルム)
甲第3号証の2:実願平4-84505号(実開平6-36967号のCD-ROM)
甲第3号証の3:実願平3-110396号(実開平6-50967号のCD-ROM)
甲第4号証:実願昭56-157729号(実開昭58-63419号のマイクロフィルム)
甲第5号証:実願平4-93572号(実開平6-53287号のマイクロフィルム)
甲第6号証:実願平5-8399号(実開平6-61571号のCD-ROM)
甲第7号証:実願平5-7741号(実開平6-61572号のCD-ROM)
(3-2)無効理由
審判請求人の主張する無効理由の概要は次のとおりである。
本件特許は、特許法第17条第2項の規定に違反に違反してなされたものであり(理由1)、特許法第36条第4項の規定に違反してなされたものであり(理由2)、同条第5項第2号の規定に違反してなされたものであり(理由3)、特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものである(理由4)から、特許法第123条第1項第1号乃至第2号又は第4号の規定により無効にすべきものである。
(3-2-1)理由1(特許法第17条第2項違反)
a.平成12年4月3日付けの手続補正書により補正された特許請求の範囲請求項1の「他方の辺を一方の辺より薄肉とした」の補正は、願書に最初に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内のものではない。
b.平成12年7月17日付けの手続補正書により補正された特許請求の範囲請求項1の「上記一方の辺の遊端に形成されエアコン吹き出し口のルーバー後縁を包着可能としたフック部」の補正は、願書に最初に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内のものではない。
(3-2-2)理由2(特許法第36条第4項違反)
本件特許の出願の願書に添付した明細書又は図面(以下、「特許明細書等」という。)の発明の詳細な説明には、発明の効果として、「ルーバー12の面」を「斜め上方に傾ければ」「上記物品取付具4を上記ルーバー12から取り外すことができるようになる。」(段落【0014】)との記載があるが、上記特許明細書等の図面の第8及び第9図において、ルーバー12の面を斜め上方に傾けることにより、上記物品取付具4を上記ルーバー12から取り外すことは不可能といえるから、上記特許明細書等の発明の詳細な説明には、当業者が請求項1に係る発明を実施することができる程度に、その発明の目的、構成及び効果を記載してあるものでない。
(3-2-3)理由3(特許法第36条第5項第2号違反)
a.本件特許にあっては、「薄肉片のみが外側に撓む」構成は、本件特許に欠くことができない事項であるが、本件特許明細書の特許請求範囲の請求項1には、薄肉片のみが外側に撓むことは規定されておらず、請求項1に係る発明は、発明の構成に欠くことができない事項のみを記載したものといえない。
b.上記(3-2-2)に記載したように特許明細書等の段落【0014】の記載は、不明りょうであるから、本件特許を特定するために必要な事項である「ルーバーを傾斜することで簡単に取り外すことができる点」点に関して、上記段落【0014】の記載を前提とする請求項1に係る発明は、発明の構成に欠くことができない事項のみを記載したものといえない。
c.請求項1に記載の「薄肉」とは、他方の辺及び一方の辺のどの部分を比較して薄肉か不明で、薄肉の部位が特定されておらず、しかも、本件特許明細書等の図面の図6には、一方の辺の厚みは均一ではなく一方の辺の遊端側に向かって先細りとなる構成が示され、さらに、一方の辺を構成するフック部の先端の厚みは、他方の辺の厚みより薄くなっているため、請求項1に係る発明における「他方の辺を一方の辺より薄肉とした」の記載は、発明の構成に欠くことができない事項のみを記載したものといえない。
d.請求項1に係る発明における「上記一方の辺の遊端に形成されエアコン吹き出し口のルーバー後縁を包着可能としたフック部と」にいう「包着」の文言は、技術用語として当該技術分野において一般的に使用されているものでなく、特許明細書等にも「包着」の用語の説明もないため、請求項1に係る発明における「上記一方の辺の遊端に形成されエアコン吹き出し口のルーバー後縁を包着可能としたフック部と、」の記載は、発明の構成に欠くことができない事項のみを記載したものといえない。
(3-2-4)理由4(特許法第29条第2項違反)
(3-2-4-1)a.第1の理由
(3-2-4-1-1)a-1.本件特許発明1に対して
本件特許発明1は、甲第2号証に記載された発明、甲第3号証の1乃至3に記載された発明及び甲第4号証に記載された発明から当業者が容易に発明をすることができたものである。
(3-2-4-1-2)a-2.本件特許発明2に対して
本件特許発明2は、甲第2号証に記載された発明、甲第3号証の1乃至3に記載された発明、甲第4号証に記載された発明及び甲第6号証に記載された発明から当業者が容易に発明をすることができたものである。
(3-2-4-1-3)a-3.本件特許発明3に対して
本件特許発明3は、甲第2号証に記載された発明、甲第3号証の1乃至3に記載された発明、甲第4号証に記載された発明、甲第6号証に記載された発明及び甲第7号証に記載された発明から当業者が容易に発明をすることができたものである。
(3-2-4-2)b.第2の理由
(3-2-4-2-1)b-1.本件特許発明1に対して
本件特許発明1は、甲第6号証に記載された発明から当業者が容易に発明をすることができたものである。
(3-2-4-2-2)b―2.本件特許発明2に対して
本件特許発明2は、甲第6号証に記載された発明及び甲第2号証に記載された発明から当業者が容易に発明をすることができたものである。
(3-2-4-2-3)b-3.本件特許発明3に対して
本件特許発明3は、甲第6号証に記載された発明、甲第2号証に記載された発明及び甲第7号証に記載された発明から容易に発明をすることができたものである。

4.本件特許発明1乃至3に係る特許の無効理由の存否について
(4-1)上記(3-2-1)の理由1について
(4-1-1)a.について
本件特許に係る願書に最初に添付した明細書又は図面(以下、「当初明細書等」という。)には、「他方の辺を一方の辺より薄肉とした」点に関して、直接的にそれを示す記載はないが、上記当初明細書等の特許請求の範囲請求項1には、「一方の辺及び他方の薄肉辺」との記載があり、さらに続けて、該「他方の薄肉辺」を受けた「他方の辺」との記載がある。
また、上記当初明細書等の段落【0015】には、「図7,図8に示すようにエアコン吹き出し口11のルーバー12の端面に上記物品取付具4をその他方の薄肉辺6bの傾斜部分8を当て押し込むと上記他方の薄肉辺6bが上記一方の辺6aから離間する方向に撓み、」との記載があり、同じく上記当初明細書等の図面の図7には、該「他方の薄肉片」に当たる6bで示される部位が該「一方の辺」に当たる6aで示される部位よりも、全体的に薄肉であることが示されている。
そして、上記当初明細書等の記載事項及び図面の図示内容に加え、一方の辺と他方の辺を有する部材において、両辺の間に扁平状のものを挿入すれば、肉厚が薄い辺が撓むというよく知られた技術常識からみて、該請求項1の「一方の辺」と該「他方の辺」のうち、該「他方の辺」のみを「他方の薄肉片」とする意味は、該請求項1において、単に「他方の辺」が「薄肉」であることを規定したものではなく、「他方の辺」の肉厚を、「一方の辺」の肉厚よりも「薄」いものとしたものであることは明らかである。
してみると、上記当初明細書等には、「他方の辺を一方の辺より薄肉とした」点が記載されていたに等しいといえることから、上記「他方の辺を一方の辺より薄肉とした」ことは、新規事項といえない。
なお、審判請求人は、上記第6図において、「一方の辺」を構成するフック部の一方の辺の遊端側に向って先細りとなる構成について、その先端の厚みは、他方の辺の厚みより薄くなっているものしか示されていない。それにも拘わらず、(本件特許明細書の)請求項1における該「他方の辺を一方の辺より薄肉とした」の記載では、出願当初の開示範囲ではないもの、例えば、他方の辺を「厚みが均一である一方の辺」より薄肉としたものを含むこととなるので、該「他方の辺を一方の辺より薄肉とした」点は新規事項である旨主張するが、上記「他方の辺を一方の辺より薄肉とした」ことにおける辺の肉の厚さと薄さの意義は、本件特許明細書の段落【0014】に「上記ルーバー12の面を手動によって斜め上方に傾ければ相対的に物品取付具4の上記辺6bが上記辺6aから離間する方向に撓むようになるから」との記載にある「撓む」ことをもたらす、上記辺6bと上記辺6aの「肉」の厚さと薄さについてのものであることが明らかであるから、そのような意味での厚さと薄さに実質的に関与しないフック部の先端の先細り部の厚さを問題とする必要はないことから、そのフック部の先端の先細り部の薄さを問題として、上記「他方の辺を一方の辺より薄肉とした」ことを新規事項とすることはできない。
したがって、上記a.の「他方の辺を一方の辺より薄肉とした」補正は、願書に最初に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内においてされたものであるから、本件特許発明1乃至3に係る特許は、特許法第17条第2項に規定する要件を満たさない特許出願に対してされたものであるとすることはできない。
(4-1-2)b.について
本件当初明細書等には、「上記一方の辺の遊端に形成されエアコン吹き出し口のルーバー後縁を包着可能としたフック部」点に関して、このうち「包着」について、直接的な記載はないが、上記当初明細書等の段落【0015】には、「フック部7により上記ルーバー12に上記物品取付具が固定される。」との記載があり、さらにその固定の態様について、図面の図6を考慮しつつ図8をみると、図8には、「フック部7を含む一方の辺6aと他方の辺6bの両方の辺で、それらのルーバー挿入口を除くほぼ全面でルーバーに接しつつ、特にフック部7によりルーバーの後縁をつつむようにして、ルーバー12を固定している」点が示されている。
ここで、上記「包着」なる語は、技術用語としても、一般用語としても通常、使用されていない語ではあるので、「包」と「着」の意味を含む複合語とすると、「包」の意味の「包む」等と「着」の意味の「くっつく」等を併せ含む意味を有するものといえる。
そして、フック7部がルーバー12後縁を包み、かつルーバー12後縁にくっつく態様が図8に示されていることは明らかであり、上記の意味に限定される「包着」の語を使用して図8に示されているフック部7とルーバー12後縁の関係を「フック部7がルーバー12後縁を包着している」と表現することは可能であり、一方の辺の遊端に形成されているフック部を上記のように「上記一方の辺の遊端に形成されエアコン吹き出し口のルーバー後縁を包着可能としたフック部」と規定したことは、上記当初明細書等に記載されているに等しい事項といえることから、上記「上記一方の辺の遊端に形成されエアコン吹き出し口のルーバー後縁を包着可能としたフック部」は、新規事項といえない。
したがって、本件特許発明1乃至3に係る特許は、特許法第17条第2項に規定する要件を満たさない特許出願に対してされたものであるとすることはできない。
(4-2)上記(3-2-2)の理由2について
請求人が、物品取付具4をルーバー12から取り外すことが不可能と主張する根拠は、図8及び図9に示される実施例について、図面に示された物品取付具の各部位の位置的あるいは寸法的限定を前提にしてのものであるが、当業者においては、上記特許明細書等の段落【0014】を読めば、特許請求の範囲の請求項1乃至3に記載の物品取付具の取り外し方の概略及び要点は把握できるものであり、たとえ、図8及び図9に多少の不備があり、図面のとおりの物品取付具の各部位の位置的あるいは寸法的限定では、取り外すことが困難と考えられる場合でも、当業者が段落【0014】で把握した取り外し方の概略及び要点に基づき、該請求項1乃至3に記載された物品取付具の構成中、物品取付具を構成する各部位の位置的あるいは寸法的条件を当業者が適宜、設定し直すことによって取り外すことができる条件を見出すことは容易といえるから、本件特許明細書及び図面には、当業者が容易にその実施をすることができる程度に、その発明の構成等が記載されているものといえる。
したがって、本件特許発明1乃至3に係る特許は、特許法第36条第4項に規定する要件を満たさない特許出願に対してされたものとすることはできない。
(4-3)上記(3-2-3)の理由3について
(4-3-1)a.について
上記特許明細書等の請求項1には、「上記一方の辺のフック部における先端湾曲部と上記他方の辺の先端間に形成され前記他方の辺が前記一方の辺から離間する方向に撓んでルーバーを受け入れるエアコン吹き出し口のルーバー挿入口」との記載及び「他方の辺を一方の辺より薄肉としたこと」との記載があり、それによって、「物品取付具」の「一方の辺」と「他方の辺」についての構成が規定されている。
そして、この構成により、上記特許明細書等に記載の「ルーバーに押し込むことにより簡単に取付けでき」るという作用効果を達成するものである。
なお、審判請求人は「薄肉辺のみが外側に撓む」構成が特許請求の範囲に記載されていないことを不備の理由としているが、他方の辺を一方の辺より薄肉とすることにより、他方の辺が一方の辺から離間する方向に撓むことが技術常識であることを参酌すれば、上記特許明細書等からみて、本件特許の目的、作用効果を奏するに際し、他方の辺6bのみが撓み、一方の辺は全く撓まないことまで要求されているものとはいえないと考えることが妥当といえる。
したがって、上記請求項1の構成は、その作用効果を達成するに必要な程度の具体性をもって記載されているものと認められる。
(4-3-2)b.について
ルーバーを傾斜することで簡単に取り外すことができることは、上記(4-2)で説示したとおり、上記特許明細書等の請求項1に記載の構成により奏することができるものであるから、上記請求項1の構成は、その作用効果を達成するに必要な程度の具体性をもって記載されているものと認められる。
(4-3-3)c.について
上記特許明細書等には、「物品取付具4をエアコン吹き出し口11のルーバー12に固定せしめる場合には、図7,図8に示すようにエアコン吹き出し口11のルーバー12の端面に上記物品取付具4をその他方の薄肉辺6bの傾斜部分8を当て押し込むと上記他方の薄肉辺6bが上記一方の辺6aから離間する方向に撓み」(段落【0012】)等、物品取付具4をルーバー12に固定する、或いはルーバー12を取り外す際には、上記他方の薄肉辺6bが上記一方の辺6aから離間する方向に撓む旨の記載がある。
また、「他方の辺を一方の辺より薄肉」とすれば、他方の辺が一方の辺から離間する方向に撓むことは技術常識である。
上記のことを考慮すると、上記請求項1に記載された「一方の辺」と「他方の辺」で問題とされる辺の肉厚は、請求項1の「前記他方の辺が前記一方の辺から離間する方向に撓んでルーバーを受け入れる」との記載における他方の辺の撓みに関係するものであることは明らかである。
そして、上記したような他方の辺が一方の辺から離間する方向に撓むことは、主に、他方の辺と一方の辺が分岐した根元部分に近い辺の肉厚が関係することも技術常識といえるから、上記請求項1の「一方の辺」が、上記特許明細書等の図面の図6に示されているような該「一方の辺」の先端に位置する「フック部」に、他方の辺の肉厚より薄い肉厚部分が示されているような構成であっても、物品取付具をルーバーに固定する、或いはルーバーを取り外す際には、他方の薄肉辺が上記一方の辺から離間する方向に撓むものといえる。
してみると、上記請求項1の「上記他方の辺を一方の辺より薄肉とした」構成は、上記特許を参酌すれば、撓みに関係する辺の肉厚に関して「上記他方の辺を一方の辺より薄肉とした」構成を意味することは明らかであるので、この記載が不明瞭とはいえない。
(4-3-4)d.について
上記(4-1-2)で説示したとおり、「包」の意味の「包む」等と「着」の意味の「くっつく」を併せ含む意味を有するものといえ、具体的に「ルーバー後縁を包着可能としたフック部」を、上記特許明細書等の図面の8図に示されたフック7部がルーバー12後縁を包む意味での「包」と、同じく図面の8図に示されたルーバー12後縁にくっつく意味での「くっつく」すなわち「着」を併せ含む意味であることは明らかであり、上記請求項1の「ルーバー後縁を包着可能としたフック部」の構成は、上記特許明細書等の図面の8図に示された態様を例とする上記「包着」の意味で「包着」可能とされたルーバー後縁とフック部の位置関係を規定したものといえるから、この記載が不明瞭とはいえない。
(4-3-5)まとめ
上記のことから、本件特許発明1乃至3に係る特許は、特許法第36条第5項第2号に規定する要件を満たさない特許出願に対してされたものであるとすることはできない。
(4-4)上記(3-2-4)の理由4について
(4-4-1)刊行物記載事項について
(4-4-1-1)甲第2号証(以下、「刊行物1」という。)
本件特許の出願日前に公知の刊行物である刊行物1には、次の事項が記載されている。
(4-1-1-1―1)
「【課題を解決するための手段】
そこで、本願は横幅寸法の異なるルーパーにも、確実に取り付けることができように、クリップを、垂直な取付部と、その上下縁より対向状に延びて遊端部側で互いに接近するように傾斜した上下片とから構成し、その上下片の遊端部に、夫々内面で膨出する第1屈曲部と第2屈曲部を設けると共に、取付部からの第1屈曲部と第2屈曲部までの距離を異ならしめたことを特徴とするもので、好ましくは上下片のいづれが一方に、第1屈曲部に続いて外面に湾曲する湾曲部を介して上下幅の中心線を越えて屈曲するもう一つの第1屈曲部を設け、かつ、いづれか他方に、上下幅の中心線を越えて前記湾曲部の位置に対向する屈曲部を設けると共に、上下片の先端部を夫々外向きに傾斜させて成るものである。」(明細書、第4頁第27行〜第5頁第6行)
(4-1-1-1―2)
「【実施例】
以下図面に基づいて本願の実施例を詳述すると、図1は飲料水容器Pを収納した容器ホルダの総体斜視図を示しており、該容器ホルダは上面が開口された有底筒体状のホルダ本体1と、このホルダ本体1の後部を嵌合保持し、かつ、後面で横方向に延びる横桟2の左右位置にクリップ3,3を取り付けた保持部材4とから構成されている。
【0007】
前記クリップ3は、図2乃至5で示すように、長尺な弾性金属板を中央部で折曲して取付部10と、その上下縁より対向状に延びて遊端部が互いに接近するように傾斜し、かつ、先端が先細状に刑成された上下片11,12から成り、前記取付部10が前記保持部材4の横桟2に止具5によって回動可能に止着される。前記上片11の遊端部には、内面側に膨出する第1屈曲部13aと、それに続いて外面側に大きく湾曲する湾曲部14を介して上下幅の中心線Nを越えて内面側に膨出する他の第1屈曲部13bとが設けてあると共に、その先端が外向きに傾斜してある。また前記下片12の遊端部には、前記第1屈曲部13aと13bとの間の湾曲部14に対向して上下幅の中心線Nを越えて内面側に膨出する第2屈曲部15が設けてあると共に、その先端が外向きに傾斜してある。
【0008】
しかして、最も横幅寸法Lが短いルーパーA1にクリップ3を装着するときは、図3で示すように、上下片11,12間にルーパーA1が介在されて挟持されると共に、その側縁が、取付部10に最も近い一方の第1屈曲部13aに係止する。また横幅寸法が中間のルーパーA2にクリップ3を装着するときは、図4で示すように、ルーパーA2の側縁が取付部10からの距離が中間にある第2屈曲部13bに係止すると共に、一方の第1屈曲部13aと下片12とにより挟持され、さらに横幅寸法が最も長いルーパーA3にクリップ3を装着するときは、図5で示すように、ルーパーA3の側縁が、取付部10より最も遠い他方の第1屈曲部13bに係止すると共に、一方の第1屈曲部13aと第2屈曲部15とにより挟持されて、クリップ3がルーパーA1乃至A3より外れる惧れはない。
【0009】
なお上記に第1屈曲部と第2屈曲部とが互いに相互間で対向するように上片11と下片12とに夫々複数隔設してもよいことは勿論である。」(明細書、第5頁第17行〜第6頁第18行)
(4-4-1-1-3)
図面の第3図には、使用状態の側面図が示されており、図面の第5図には、使用状態のさらに他の側面図が示されている。
(4-4-1-1-4)
上記(4-4-1-1-1)乃至(4-4-1-1-2)の記載事項及び上記(4-4-1-1-3)の図示内容等を総合すると、刊行物1には、下記の発明(以下、「刊行物1発明」という。)が記載されているものと認められる。
「横幅寸法の異なるルーパーにも、確実に取り付けることができるように、クリップを、垂直な取付部と、その上下縁より対向状に延びて遊端部側で互いに接近するように傾斜した上下片とから構成し、その上下片の遊端部に、夫々内面で膨出する第1屈曲部と第2屈曲部を設けると共に、取付部からの第1屈曲部と第2屈曲部までの距離を異ならしめたことを特徴とするもので、その具体的態様が下記のとおりのクリップ。

弾性金属板からなる取付部10と、その上下縁から対向状に延びて遊端部が互いに接近する弾性金属板からなる上片11と弾性金属板からなる下片12と、上記上片11には、その遊端部に内面側に膨出する第1屈曲部13aと、それに続いて外面側に大きく湾曲する湾曲部14を介して内面側に膨出する第2屈曲部13bとが設けられ、上記下片12には、その遊端部に内面側に膨出する第2屈曲部15が設けられ、横幅寸法が異なるルーパーA1乃至A3の側縁を、上記上片11の上記第1屈曲部13a、上記第2屈曲部13b又は上記下片12の上記第2屈曲部15に係止するとともに、冷暖器噴出口の上記ルーパーA1乃至A3を上記上片11の上記第1屈曲部13a或いは上記第2屈曲部13bと上記下片12の上記第2屈曲部13bあるいは上記下片12とにより挟持することができ、上記上片11と上記下片12の先端が外向きに傾斜してなる長尺な弾性金属板を中央部で折曲してなるクリップ。」
(4-4-1-2)甲第3号証の1(以下、「刊行物2」という。)について
本件特許の出願日前に公知の刊行物である刊行物2には、次の事項が記載されている。
(4-4-1-2-1)
「網(メッシュ)作りの缶立て1の上部に缶立てを固定するためのフック2を設ける。」(実用新案登録請求の範囲請求項1)
(4-4-1-2-2)
「第2図に示すように缶立てを固定するためのフック(2)の先端をエアー吹き出し口の風向き調整盤に引っ掛け網(メッシュ)作りの缶立て(1)を固定する。」(明細書、第3頁第3行〜第6行)
(4-4-1-2-3)
図面の第2図には、使用状態を示す側面(断面)図が示されている。
(4-4-1-3)甲第3号証の2(以下、「刊行物3」という。)について
本件特許の出願日前に公知の刊行物である刊行物3には、次の事項が記載されている。
(4-4-1-3-1)
「(イ)保存性の良いシート1を袋状に設ける。
(ロ)その上に開閉のできるフタ3を設けた気流性を考慮した本体2を設けそれに、エアコン吹き出し口に付けるための取り付け金具4を設ける。
以上の如く構成された自動車内の保存ケース。」(実用新案登録請求の範囲請求項1)
(4-4-1-3-2)
図面の第1図には、本発明の一部断面の斜視図が示されている。
(4-4-1-4)甲第3号証の3(以下、「刊行物4」という。)について
本件特許の出願日前に公知の刊行物である刊行物4には、次の事項が記載されている。
(4-4-1-4-1)
「一端に保持部を備えた支持ブラケットと、支持ブラケットの適所から突設され、ルーバに係止する係止部を備えた係止手段と、保持部に対して移動可能であるバネ受け板と、バネ受け板を保持部から離反する方向に付勢する付勢手段とから成ることを特徴とする車両用ホルダー等の支持機構。」(実用新案登録請求の範囲請求項1)
(4-4-1-4-2)
「【0012】
次に、ルーバへの取付操作について図3、図5、図6及び図7を参照して説明すると、エアコンディショナー吹出口、或いは換気口等に複数の水平方向に延びるルーバRが設けられており、バネ受け板4をルーバRの車室側端に押しつけるようにして保持部1の前端を持ち上げるようにすると、ルーバRの車室側端がコイルスプリング5を圧縮してバネ受け板4が搖動され、バネ受け板4の上端が支持ブラケット2の縦壁部11に近づくようにバネ受け板4が枢軸6周りに回動され、フック3はルーバRの間に十分深く挿入されてフック3の先端の係止部30がルーバRの車室外側端に係合される(図5参照)。
なお、フック3を挿入する際に、バネ受け板4の上端を手で抑えて支持ブラケット2の縦壁部11側にバネ受け板4を回動させても良いことは勿論であり、またフック3に対して移動自在で、バネ受け板4が傾くことができれば良いものであるから、バネ受け板4の挿通孔41,41を上端が開放した切欠溝(例えば、U字形)としても良い。
【0013】
フック3の先端の係止部30がルーバRの車室外側端に係合された状態で保持部1の前端を下方に下げて保持部1を水平状態にし(図3および図6参照)、バネ受け板4の抑止を解除すると、バネ受け板4はコイルスプリング5の復元力によりルーバRの車室側端に押しつけられ、フック3の先端の係止部30がルーバRの車室外側端に係合しているから、フック3がルーバRの上面に接触して抑えることになり、コイルスプリング5のバネ力が強くなくても確実に固定保持することができるとともに、バネ受け板4には通気開口42が設けられているから、ルーバRの間から吹き出す送風の邪魔にならないものである。さらに、支持ブラケット2の縦壁部11にも通気用の開口を設けると、冷房運転時には該開口を通るエアコンからの吹出風が保持部1内に置かれたものに当たって冷却することができる。」(明細書、第7頁第13行〜第8頁第9行)
(4-4-1-4-3)
図面の第5図には、車両用ホルダーの支持機構の取付作業時の状態を示す側面図が示されており、同じく第7図には、車両用ホルダーの支持機構の取付完了時の状態を示す側面図が示されている。
(4-4-1-5)甲第4号証(以下、「刊行物5」という。)について
本件特許の出願日前に公知の刊行物である刊行物5には、次の事項が記載されている。
(4-4-1-5-1)
「従来,ループ状の索状部材とフック部との係合構造は,例えば第1図に示すように,フック部2を有する係合部材4にフック部2の開口6を板ばね部材8が覆うように板ばね部材8の一端が溶着されて構成されていた。索状部材10を係合部材4に係合させる場合は、板ばね部材8に開口部6が開くように外力を加えた状態で索状部材10をフック部に係合させ、上記外力を除去することにより成されるものである。」(明細書、第1頁第12行〜第2頁第1行)
(4-4-1-5-2)
図面の第1図には、従来構造の斜視図が示されている。
(4-4-1-6)甲第5号証(以下、「刊行物6」という。)について
本件特許の出願日前に公知の刊行物である刊行物6には、次の事項が記載されている。
(4-4-1-6-1)
「【請求項1】自動車車室内のエアコンディショナー吹出口に設けられたルーバーへ物品を取り付けるための装置であって、
前記ルーバーの長手方向に沿い、かつ、前記物品への取付部を有する桟部材と、前記桟部材に対してルーバーの前後方向に移動可能にして取り付けられ、後端に上向き爪部を有してルーバーの下面と奥端を受ける後当て部材と、前記後当て部材をルーバーの前後方向前方へ移動させる前進手段と、
からなり、前記後当て部材の上向き爪部と桟部材とにより、ルーバーの前後方向に可変長のルーバー保持部が設けられていることを特徴とする自動車エアコンディショナー吹出口への物品取付装置。」(実用新案登録請求の範囲請求項1)
(4-4-1-6-2)
「【実施例】
つぎに本考案を図1から図8に示す実施例に基づいて詳細に説明する。なお、図9に示す従来例と構成が重複する部分は同符号を付してその説明を省略する。すなわち、本考案における物品取付装置1は、図1から図5に示すように、ホルダー本体bの開口c側に位置する桟部材2と、この桟部材2の所定位置に桟部材2の前面から上端縁にかけて断面略L型材8aを配置することによって後方に突出してなる張り出し部材8と、この張り出し部材8から下方にほぼルーバーAの厚さ分の位置にあって前記桟部材2と断面略L型材8aとを貫通するように配置されてルーバーAの前後方向に移動可能に設けられるとともに、桟部材2の長孔2aを通ってこの桟部材2の長手方向に移動可能とした後当て部材9と、この後当て部材9をルーバーAの前後方向前方に押し出すように移動させる前進手段10とからなるものである。
【0010】
図3と図4に示すように、上記後当て部材9は後端を上方に曲げ起こすようにしてなる上向き爪部11を備える。そして上記前進手段10は桟部材2の前面側に位置して後当て部材9の上記貫通部分に設けられたばね10aからなるもので、このばね10aにより前記後当て部材9が前方側に付勢されて移動するようになっており、前記上向き爪部11と上記張り出し部材8を有する桟部材2とで図5に示すようにルーバーAを前後方向から保持するルーバー保持部12が形成されている。このようにルーバー保持部12はルーバーAを前後方向から保持するとともに、張り出し部材8がルーバーAの上面を、後当て部材9がルーバーAの下面をそれぞれ受けるようになり、この物品取付装置1がルーバーAに確実に取り付けられ、すなわちカップホルダーaがルーバーAに確実に取り付けられる。
なお、図4にしめすように後当て部材9の軸部分に設けた突条9aを断面略L型材の挿通孔8bに案内させて、後当て部材9が軸回りに回転しないように設けられている。
【0011】
図6から図8は第2の実施例を示している。この第2の実施例は第1の実施例とでは前進手段10の構成が異なっている。すなわち、後当て部材9における上記桟部材2を貫通する部分には螺子部10bが設けられているとともに、桟部材2の前面側にはこの螺子部10bに螺着して回転自由なナット体10cが配置され、このナット体10cと前記螺子部10bとで前進手段10が構成されており、ナット体10cの一方向の回転操作により後当て部材9が前方に移動するようになる。
【0012】
上記した構造によってこの第2の実施例においても上記第1の実施例と同様に、ルーバーAの前後方向に可変長のルーバー保持部12が形成され、物品取付装置1の締付操作(ナット体10cの締付回転操作)によって後当て部材9が前進して奥行幅寸法が異なる各種のルーバーを保持することができるように設けられている。」(明細書第7頁第18行〜第8頁第28行)
(4-4-1-6-3)
図面の第5図には、第1の実施例においてルーバーを挟み込んだ状態を示す説明図が示されている。
(4-4-1-7)甲第6号証(以下、「刊行物7」という。)について
本件特許の出願日前に公知の刊行物である刊行物7には、次の事項が記載されている。
(4-4-1-7-1)
「【請求項1】 清涼飲料水等のドリンク容器を支持する支持皿およびこの支持皿に一体あるいは固定的に取付けられた後方に開口部が形成され、前方に透孔が形成された支持体とからなるドリンクホルダ―本体と、このドリンクホルダ―本体に取付けられた後方へ突出し、自動車のエアコンの吹出し口のガイド板に着脱可能に取付けることができる取付け具と、前記ドリンクホルダ―本体に取付けられ、前記エアコンからの送風が通過する透孔を有する芳香剤を収納することができる芳香剤収納ケ―スとを備えたことを特徴とするドリンクホルダ―。」(実用新案登録請求の範囲請求項1)
(4-4-1-7-2)
「図1ないし図7の本考案の第1の実施例において、1は清涼飲料水等の缶や瓶等の大・小のドリンク容器2が収納支持されるドリンクホルダ―本体で、このドリンクホルダ―本体1は合成樹脂材で成形された前記大・小のドリンク容器2を支持する段部3を有する支持皿4と、この支持皿4と一体成形された後方に開口部5が形成され、前方に格子状の透孔6が形成された支持体7と、この支持体7の上面に嵌合固定された合成樹脂材製の上縁板8とから構成されている。(明細書、第8頁第17行〜第22行)
(4-4-1-7-3)
「13は前記ドリンクホルダ―本体1に取付けられた自動車のエアコンの吹出し口14のガイド板15に着脱可能に取付けることができる取付け具で、この取付け具13はコ字状で、両先端部が前記支持体7の凹部10、10および前記上縁板8のカバ―板12、12との間の隙間16、16に挿入される支持板17と、この支持板17の両先端部に形成された上下方向の弾性を持たせるための切欠溝18、18と、前記支持板17の先端部の上面に前記係合部11、11と任意の位置で係合する係合片19、19と、前記支持板17の先端部寄りの内壁面に突出形成された前記長孔9、9とそれぞれスライド可能に係合する係合ピン20、20と、前記支持板17の後端部にカシメピン21、21等で取付けられた前記ガイド板15に挟着固定する挟着片22、22とから構成されている。」(明細書、第9頁第1行〜第10行)
(4-4-1-7-4)
「しかる後、自動車のエアコンの吹出し口14のガイド板15に取付け具13の挟着片22、22を図1に示すように挟着させるとともに、ドリンクホルダ―本体1を押込むことにより、ガイド板15の先端部との間に大きな隙間が生じることなく、ドリンクホルダ―本体1をガイド板15に取付けることができる。…中略…次に図8ないし図16に示す本考案の異なる実施例につき説明する。(明細書、第10頁第6行〜第22行)
(4-4-1-7-5)
図面の図1乃至7には、第1の実施例が、図8乃至10には、第2の実施例が、図11乃至13には、第3の実施例が、図14乃至16には、第4の実施例がそれぞれ示されており、それらの図から、挟着片22の基部から2つの挟着辺部が互いに対向するように延び、遊端側で接触している態様、挟着片部22、22が上記遊端部側でガイド板15を挟着してなる態様及び、挟着片22の2つの挟着辺部の先端が外向きに傾斜してなる態様が読みとれる。
(4-4-1-7-6)
上記(4-4-1-7-1)乃至(4-4-1-7―4)の記載事項及び上記(4-4-1-7-5)の図示内容等を総合すると、刊行物7には、下記の発明(以下、「刊行物7発明」という。)が記載されているものと認められる。
「基部と、その基部から対向状に延び遊端側で互いに接触している一方の挟着辺部22と他方の挟着辺部22を備える挟着片22であって、上記挟着片部22、22が上記遊端部側でガイド板15を挟着固定するものであり、上記挟着辺部22、22の各先端が外向きに傾斜してなる上記挟着片22。」
なお、上記刊行物7発明の認定に当たって、上記刊行物7では、全体としての挟着片22とその2つの部分である挟着片22、22を区別せず挟着片22としているので、2つの部分である挟着片22,22を「挟着片部22」として全体を表現した「挟着片22」と区別した。
(4-4-1-8)甲第7号証(以下、「刊行物8」という。)について
本件特許の出願日前に公知の刊行物である刊行物8には、次の事項が記載されている。
(4-4-1-8-1)
「【請求項1】 吹出口に対応して保温または保冷をするドリンクなどに風を通す形状の縫いぐるみ部から設けられる自動車のヒーター・エアコン吹出口取付用ドリンクホルダー。」(実用新案登録請求の範囲請求項1)
(4-4-1-8-2)
「ドリンクホルダー1にはホールドフック10を設け、このホールドフック10を自動車のヒーター・エアコンのルーバー11に引掛け、吹出口3に対面支持する。
【0016】
ドリンクホルダー1aは、この考案ドリンクホルダーの第2の実施例であって、図12〜図14に示すように、芯枠12を、例えば合成樹脂により設け、これを縫いぐるみ部2に接着するものであって、芯枠12の一部は外面に露出して吹出口3と対応し、下縁に外止13を夫々設けた連結溝14を左右櫛歯状に設け、フック連結部を構成している。」(明細書、第7頁第5行〜第13行)
(4-4-1-8-3)
「ホールドフック10aは、この考案ホールドフックの第2の実施例であって、図14に示すように、前記外止13と連結溝14とからなるフック連結部に連結するもので、基端に前後に所要の間隔で係合部15を設け、この係合部15の係合位置を選択することにより吹出口3の形状およびその内方のルーバー11の各種巾に適合できるように設けている。」(明細書、第7頁第24行〜第28行)
(4-4-1-8-4)
図面の図14には、芯枠とホールドフックとの連結例が、図15には、同じくホールドフックと自動車のヒーター・エアコン吹出口への取り付け状態を示す側面図が示されている。
(4-4-1-8-5)
上記(4-4-1-8-1)乃至(4-4-1-8―3)の記載事項及び上記(4-4-1-8-4)の図示内容等を総合すると、刊行物8には、下記の発明(以下、「刊行物8発明」という。)が記載されているものと認められる。
「基端に、外止13と連結溝14とからなるフック連結部に連結するための前後に所要の間隔に設けられた係合部15を備え、ヒーター・エアコン側に、そのルーバー11に引掛けるホールドフック10aを備えるホールドフック10」
(4-4-2)対比・判断
(4-4-2-1)上記(3-2-4-1)a.の第1の理由について
(4-4-2-1-1)a-1.について
本件特許発明1と上記刊行物1発明を対比すると、後者の「取付部10」は前者の「取付基部」に、以下、順に、「その上下縁から対向状に延びて遊端部が互いに接近する」は「この取付基部から互いに」「対向するように前方に延びる」に、「冷暖器噴出口」は「エアコン吹き出し口」に、「ルーパーAA1乃至A3」は、「ルーバー」に、「ルーパーAA1乃至A3の側縁」は「ルーバー後縁」に、「クリップ」は「物品取付具」に、それらの機能及び構造からみて、相当する。
また、後者の「上片11」又は「下片12」のいずれかは、前者の「一方の辺」に相当するが、その場合、前者の「一方の辺」に相当しない余の「上片11」又は「下片12」は後者の「他方の辺」に相当する。
さらに、後者の「クリップ」と「ルーパーA1乃至A3」の関係は、相対的移動の関係にあり、後者の「ルーパーA1乃至A3」に対し「クリップ」を移動させれば、「外向きに傾斜してなる」部位が外側に開いて「ルーパーA1乃至A3」を受け入れることは明らかであるし、後者の「クリップ」は、「長尺な金属板を中央部で折曲し」たものであり、「上片11」と「下片12」とにより「ルーパーA1乃至A3」を「挟持することができる」ものであるから、「上片11」の先端と「下片12」の先端は「挟持する」際或いは逆に「挟持」状態から開く際に撓むものであることは明らかであり、後者は、「上片11」と「下片12」が撓んで「上記上辺11と上記下辺12の先端が外向きに傾斜してなる」部位を介して「ルーパーA1乃至A3」を受け入れる構成を有するから、前者の「撓んでルーバーを受け入れるエアコン吹き出し口のルーバー挿入口」の構成を備えるものといえる。
さらにまた、前者の「包着可能としたフック部」と後者の「係止する」「屈曲部13a」等の屈曲部は、「留めることが可能が留め部」という概念で共通する。
上記のことを考慮すると、上記刊行物1発明の「クリップ」が備える上記構成と、本件特許発明1の「上記一方の辺のフック部における先端湾曲部と上記他方の辺の先端間に形成され前記他方の辺が前記他方の辺が前記一方の辺から離間する方向に撓んでルーバーを受け入れるエアコン吹き出し口のルーバー挿入口」の構成とは、「一方の辺の先端及び/又は他方の辺の先端が、相手となる辺から離間する方向に撓んでルーバーを受け入れるエアコン吹き出し口のルーバー挿入口」という点で共通するといえる。
したがって、両者は「取付基部と、この取付基部から互いに対向するよう前方に延びる一方の辺及び他方の辺と、上記一方の辺の先端及び/又は上記他方の辺の先端が、相手となる辺から離間する方向に撓んでルーバーを受け入れるエアコン吹き出し口のルーバー挿入口とより成り、前記一方の辺にルーバー後縁を留めることを可能とした留め部を形成したエアコン吹き出し口のルーバーに対する物品取付具。」において一致し、下記の点で相違している。
【相違点1】:一方の辺に形成したルーバー後縁を留めることを可能とした留め部の具体的態様が、本件特許発明1では、上記一方の辺の遊端に形成されエアコン吹き出し口のルーバー後縁を包着可能としたフック部であるのに対し、刊行物1発明では、上片11或いは下片12に形成され、ルーパーAA1乃至A3の側縁を係止する屈曲部13a、13b又は15である態様となっている点。
【相違点2】:上記一方の辺及び上記他方の辺の具体的態様が、本件特許発明1では、上記他方の辺を上記一方の辺より薄肉としたものであるのに対し、刊行物1発明では、上片11及び下片12が長尺な弾性金属板を中央部で折曲してなる態様となっている点。
【相違点3】:取付基部から互いに対向するよう前方に延びる一方の辺及び他方の辺の具体的態様が、本件特許発明1では、一方の辺及び他方の辺が、取付基部から互いに離間して対向するよう前方に延びる態様であるのに対し、本件特許発明1では、上下片11,12が取付部10の上下縁から対向状に延びて遊端部が互いに接近する態様となっている点。
【相違点4】:エアコン吹き出し口のルーバーに対する物品取付具が備える上記一方の辺の先端及び/又は上記他方の辺の先端が、相手となる辺から離間する方向に撓んでルーバーを受け入れるエアコン吹き出し口のルーバー挿入口の具体的態様について、本件特許発明1では、上記一方の辺のフック部における先端湾曲部と上記他方の辺の先端間に形成され前記他方の辺が前記一方の辺から離間する方向に撓んでルーバーを受け入れる態様であるのに対し、刊行物1発明では、上片11と下片12が撓んで上記上片11と上記下片12の先端が外向きに傾斜してなる部位を介してルーパーA1乃至A3を受け入れる態様となっている点。

上記相違点について検討する。
【相違点1】について
先ず、上記刊行物2乃至4の記載事項を整理する。
上記刊行物2及び刊行物4には、それらの図面を参酌すると、エアコン吹き出し口のルーバー後縁を包むように構成したフック部を備える物品取付具に相当する技術が実質的に記載されており、上記相違点1の一部の、エアコン吹き出し口のルーバー後縁を包着可能としたフック部を備える態様に相当する点が記載されているものといえる。
刊行物3には、エアコン吹き出し口に取り付ける保存ケースの技術が記載されている。
次に、これらの各刊行物記載事項の整理を踏まえて、刊行物1発明に上記刊行物2乃至4に記載の技術を適用する点について検討すると、刊行物1発明は、「横幅寸法の異なるルーパーにも、確実に取り付けることができるように」するという課題を達成するために、上記「留め部」に対応する屈曲部をその上下片の遊端部に、少なくとも2箇所、第1屈曲部と第2屈曲部として設けたものであり、具体的態様としては、上記上片11の第1屈曲部13aと第2屈曲部13b、上記下片12の第2屈曲部15が設けられたものである。
そして、上記刊行物2乃至4のうち、上記刊行物2及び刊行物4から、上記相違点3に相当する「エアコン吹き出し口のルーバー後縁を包着可能としたフック部」が周知の技術であるとしても、この周知技術を上記刊行物1発明の「屈曲部」に適用すると、少なくとも上下2箇所の「屈曲部」に上記「エアコン吹き出し口のルーバー後縁を包着可能としたフック部」を形成することとなる。
また、刊行物1発明は、その上記上片11、上記下片12は、いずれも弾性金属板からなり上記取付部10の上下縁から対向状に延びて遊端部が互いに接近するものであり、上記各屈曲部等において上記ルーパーA1乃至A3を挟持するものであるうえ、上記「横幅寸法の異なるルーパーにも、確実に取り付けることができるように」するという課題を達成するためには、刊行物1の図3,図4及び図5からも窺えるように「屈曲部」はルーパーの横幅寸法に対し、殆ど隙間なく接近する位置に設けられるものといえるから、適用する上記周知の「フック部」もルーパーの横幅寸法に合わせて、ルーパーとの相対移動を実質的に阻む位置に設けられるものといえる。
そうすると、上記刊行物1発明に上記周知技術を適用したものは、上記上片11と上記下片12にそれぞれ1乃至2の「エアコン吹き出し口のルーバー後縁を包着可能としたフック部」を形成したものとなり、また、弾性金属板からなる上記上片11と上記下片12が互いに接近するし、かつルーパーを挟着するものであるから、適用した「フック部」等が、ルーパーとの相対移動を実質的に阻むものであるから、ルーパーを受け入れることが、著しく困難になるとともに、たとえ、受け入れたとしてもルーパーを取り出すことはそれ以上に困難なものとなることは明らかである。
なお、本件特許発明1の「他方の辺」の撓みは「一方の辺から離間する方向」の撓みであるから、上記刊行物1発明の上記上片11、上記下片12の挟着の方向とは反対方向であるし、一方の辺及び他方の辺が、取付基部から互いに離間して対向するよう前方に延びる態様を前提とするものであるので、上記のような問題は生じないといえる。
また、刊行物1発明の上記上片11或いは上記下片12のいずれかの屈曲部のみに上記周知技術の、エアコン吹き出し口のルーバー後縁を包着可能としたフック部、を適用するものを想定すると、そうしたものは、刊行物1発明の本来の課題を達成することができなくなるのは明らかであるから、この適用には、適用阻害要因が存するものといえるが、たとえ適用したとしても、一方の辺への「フック部」の設置によってルーパーの受け入れが妨げられるとともに、上記したものと同様、互いに接近する弾性金属板からなる上片11と上記下片12の挟着と上記フック部の包着に加え、ルーパーとの相対移動が阻まれているものであるから、ルーパーの受け入れ、ルーパーからの取り出しが困難なことは同様である。
したがって、刊行物1発明の上記上辺11、上記下片12による挟着とフック部の形成による包着は両立しないといえる。
上記のことから、当業者が、刊行物1発明及び上記刊行物2及び刊行物4に記載のような周知技術から上記相違点1に係る本件特許発明1の構成とすることは困難なことといえる。
【相違点2】について
上記刊行物5には、フックに関する技術が記載されており、フック部2を有する係合部材4に関し、フック部2の開口6を板ばね部材8が覆うように板ばね部材8の一端が溶着され、索状部材10を該係合部材4に係合させる場合は、該板ばね部材8に開口部6が開くように外力を加えた状態で索状部材10をフック部2に係合させ、外力を除去することにより成される技術が記載されており、図面の第1図に、該板ばね部材8の肉厚がフック部2のそれよりも薄肉であることが示されている。
そして、フックに関する技術に限っていえば、上記刊行物5の「フック部2」は本件特許発明1の「一方の辺」に、同様に「板ばね部材8」は「他方の辺」に、それらの機能及び構成からみて相当する。
したがって、上記刊行物5には、索状部材を係合部材に係合させるフックに関し、フックの他方の辺をフック部を備える一方の辺より薄肉とした点が記載されているものといえる。
しかし、上記刊行物5に記載のフックは、索状部材を対象するものであり、本件特許発明1の一方の辺が備えるフック部が対象とするエアコン吹き出し口のルーバーとは対象物品が大きく異なるうえ、その取付の態様も、対象物品を係合するものであって、本件特許発明1のフック部のように対象物品を包着するものではない。
また、上記刊行物5に記載のような対象物品を係合するためのフックにあっては、一般的に、係合しても主構成部が変形されないように、その主構成部の材料は剛性の高い材料のものが選択されることが通常であり、本件特許発明1の「一方の辺」に相当する上記刊行物5の「フック部」の剛性は高いものといえるから、板ばね部材が開いて、索状部材を受け入れる現象は、板ばね部材が本来有するばね弾性に負うものであり、本件特許発明1の「一方の辺」に相当する「フック部」に対して、本件特許発明1の「他方の辺」に相当する「板ばね部材」が薄肉であるとの肉厚差に専ら負うものとはいえない。
これに対して、本件特許発明1は、「一方の辺」と「他方の辺」について、上記相違点2に係る規定に加え、上記相違点4に関する「前記他方の辺が前記一方の辺から離間する方向に撓んでルーバーで受け入れる」点を併せて規定していることから、上記相違点4に係る「前記他方の辺が前記一方の辺から離間する方向に撓んでルーバーで受け入れる」規定は、上記相違点2の「他方の辺を上記一方の辺より薄肉とした」構成により達成されてなるものと解することが妥当であり、少なくとも上記刊行物5の「板ばね部材」のように特別のばね性を備えた薄肉辺でなければ達成できないものとは、その具体的構成が異なるものといえる。
したがって、上記刊行物1発明と上記刊行物5に記載のもので、技術分野と対象物品、取付の態様及び具体的構成が異なることから、上記刊行物1発明に対する上記刊行物5の適用は困難なことといえる。
ここで、上記刊行物5に依らずに、「他方の辺を上記一方の辺より薄肉とした」構成が一般的に周知技術だとして、上記刊行物1発明に該周知技術を適用して「他方の辺を上記一方の辺より薄肉とした」構成に変更するとしても、上記刊行物1発明は、「横幅寸法の異なるルーパーにも、確実に取り付けることができるように」する課題を有し、それを、長尺な弾性金属板を中央部で折曲してなる態様を基本とする構成で達成しているにもかかわらず、該変更によって本件特許発明1の本来の課題を達成することに支障をきたすことは明らかであるから、この変更には、適用阻害要因が存するものといえる。
上記のことから、刊行物1発明及び上記刊行物5に記載のもの或いは上記周知技術から当業者が、上記相違点2に係る本件特許発明1の構成とすることは困難なことといえる。
【相違点3】について
相違点3に係る構成は、審判請求人が主張する上記a.の第1の理由に挙げた各証拠中には記載も示唆も認められないし、周知の技術ともいえない。
したがって、刊行物1発明及び第1の理由に挙げた各証拠から上記相違点3に係る本件特許発明1の構成とすることは困難なことといえる。
なお、上記刊行物6には、本件特許発明1の「物品取付具」に相当する「物品取付装置」において、本件特許発明1の「一方の辺」に相当する「後当て部材9」と、本件特許発明1の「他方の辺」に相当する「張り出し部材8」とが、互いにルーバーの厚み以上の間隔をもって離間して対向するよう前方に延びる態様が実質的に記載されているが、上記後当て部材9と上記張り出し部材8は、本件特許発明1の「取付基部」に相当する「桟部材2」から延びるものではなく、また、上記後当て部材9と上記張り出し部材8は、ルーバーの奥行き方向に相対移動してルーバーを受け入れるものであるから、該相対移動を不可能とする上記相違点3に係る本件特許発明1の構成である「一方の辺及び他方の辺が、取付基部から互いに離間して対向するよう前方に延びる態様」とする変更或いは適用には、阻害要因が存するものである。
したがって、刊行物1発明に上記刊行物6に実質的に記載されている、物品取付具の一方の辺と他方の辺とが、互いに離間して対向するよう前方に延びる技術、を適用しても上記相違点3に係る本件特許発明の構成とすることは困難なことといえる。
【相違点4】について
相違点4に係る構成は、審判請求人が主張する上記a.の第1の理由に挙げた各証拠中には記載も示唆も認められない。
なお、フック等において、他方の辺を上記一方の辺より薄肉とした構成及び該構成において他方の辺が撓むことも周知であるとして、上記刊行物1発明に該周知技術を適用するとしても、刊行物1発明では、上片11及び下片12が長尺な弾性金属板を中央部で折曲してなるものであるから、該適用によりあらたに他方の辺が撓む構成とするものとはいえないから、刊行物1発明に該周知の技術を適用して上記相違点4に係る本件特許発明1の構成とすることは困難なことといえる。
したがって、刊行物1発明及び第1の理由に挙げた各証拠から上記相違点4に係る本件特許発明1の構成とすることは困難なことといえる。。
【相違点1乃至4】の関連について
本件特許発明1は、「物品取付具」において、上記相違点1に係る「上記一方の辺の遊端に形成されエアコン吹き出し口のルーバー後縁を包着可能としたフック部」を形成して、上記相違点3に係る「一方の辺及び他方の辺が、取付基部から互いに離間して対向するよう前方に延びる」、その離間して対向する一方の辺と他方の辺の間にルーバーがフック部で包着されるように取付けられるものであって、ルーバーを受け入れるためのルーバー挿入口の具体的態様が上記相違点4に係る「上記一方の辺のフック部における先端湾曲部と上記他方の辺の先端間に形成され前記他方の辺が前記一方の辺から離間する方向に撓んでルーバーを受け入れる」態様であり、上記相違点4に係るルーバー挿入口を構成する一方の辺と他方の辺の性質を上記相違点2に係る「上記他方の辺を上記一方の辺より薄肉とした」と規定してなるものといえる。
そして、本件特許発明1は、上記相違点1乃至4を上記のような関連をもって併せて備えることにより特許明細書に記載の「ルーバーに押し込むことにより簡単にルーバーに取付けでき、且つ、ルーバーを傾斜することで簡単に取り外すことができ、また、安価に作成できルーバーに傷をつけることがない等」(第2頁右欄第48行〜第3頁左欄第2行)の作用効果を奏するものであるが、上記刊行物2乃至5には、個々に開示された構成から上記のような関連をもって刊行物1発明と組み合わせて本件特許発明1に係る構成とするべき記載も示唆も特に見当たらない。
上記相違点1乃至4について検討したことから、本件特許発明1は、上記刊行物1に記載された発明、上記刊行物2乃至4に記載された発明及び上記刊行物5に記載された発明から当業者が容易に発明をすることができたものとすることはできない。
(4-4-2-1-2)a-2.について
本件特許発明2は、本件特許発明1に係る発明の構成を全て含み、さらに「上記他方の辺の先端に上記一方の辺から離間する方向に斜めに前方に延びる部分が形成されている」構成を付加したものに相当する。
そして、上記刊行物1発明の「上記上片11と上記下片12の先端が外向きに傾斜してなる」構成及び上記刊行物7発明の「上記挟着辺部22、22の各先端が外向きに傾斜してなる」構成は、共に本件特許発明2に付加された上記構成に相当するといえる。
しかしながら、上記刊行物7発明は、本件特許発明1と上記(4-4-2-1-1)に挙げた相違点のうち、少なくとも相違点2乃至4の点で相違し、さらに、一方の辺が、本件特許発明1では、上記一方の辺の遊端に形成されエアコン吹き出し口のルーバー後縁を包着可能としたフック部を備えるのに対し、そのようなフック部を備えていない点で相違するもの(詳しくは、下記(4-4-2-1-1)を参照のこと。)であって、上記(4-4-2-1-1)で説示したような各相違点の関連をもって、上記刊行物1及び上記刊行物2乃至4及び上記刊行物5に記載の発明と結びつけて本件特許発明1の構成とするような技術思想が、特に認められるものではない。
したがって、上記(4-4-2-1-1)で説示した理由と総合すると、本件特許発明2は、上記刊行物1に記載された発明、上記刊行物2乃至4に記載された発明、上記刊行物5に記載された発明及び上記刊行物7に記載された発明から当業者が容易に発明をすることができたものとすることはできない。
(4-4-2-1-3)a-3.について
本件特許発明3は、本件特許発明1又は本件特許発明2に係る発明の構成を全て含み、さらに「上記取付基部が棒状であり、その軸方向に互いに離間した、上記軸方向と直角方向に延びる2以上の溝を有し、この溝を有する部分が、被冷暖物ホルダーに形成した孔内に係合される」構成を付加したものに相当する。
そして、上記刊行物8発明の「基端に、外止13と連結溝14とからなるフック連結部に連結するための前後に所要の間隔に設けられた係合部15」の構成は、本件特許発明3に付加された上記構成に相当するといえる。
しかしながら、ルーバーへの取付の態様については、上記刊行物8発明は、本件特許発明3が備える「一方の辺」に対応する「ホールドフック10a」にフックが形成されている点で共通するにすぎず、本件特許発明3が備える「他方の辺」に相当するものは備えていない。
したがって、上記(4-4-2-1-1)乃至(4-4-2-1-2)で説示した理由と総合すると、本件特許発明3は、上記刊行物1に記載された発明、上記刊行物2乃至4に記載された発明、上記刊行物5に記載された発明、上記刊行物7に記載された発明及び上記刊行物8に記載された発明から当業者が容易に発明をすることができたものとすることはできない。
(4-4-2-2)上記(3-2-4-2)b.の第2の理由について
(4-4-2-1-1)b-1.について
本件特許発明1と上記刊行物7発明を対比すると、後者の「取付部」は前者の「取付基部」に、以下、順に、「その取付部から対向状に延びる」は「この取付基部から互いに」「対向するように前方に延びる」に、「エアコンの吹出し口14」は「エアコン吹き出し口」に、「ガイド板15」は、「ルーバー」に、「挟着片22」は「物品取付具」に、それらの機能及び構造からみて、相当する。
また、後者の2つの「挟着片部22」のいずれかが、前者の「一方の辺」に、その余の挟着部が、「他方の辺」に相当する。
さらに、後者の「挟着片22」と「ガイド板15」の関係は、相対的移動の関係にあり、後者の「ガイド板15」に対し、「挟着片22」を移動させれば、後者の「先端が外向きに傾斜してなる」部位が外側に開いて「ガイド板15」を受け入れることは明らかであるし、後者の「挟着片22」は挟着固定するものであるから、撓む性質を有することは明らかであり、挟着固定する際或いは逆に開く際に撓むものであることも明らかであるから、後者は、「挟着片部22、22」が撓んで「先端が外向きに傾斜してなる」部位を介して「ガイド板15」を受け入れる構成を有するから、前者の「撓んでルーバーを受け入れるエアコン吹き出し口のルーバー挿入口」の構成を備えるものといえる。
上記のことを考慮すると、上記刊行物7発明の「挟着片22」が備える構成と、本件特許発明1の「上記一方の辺のフック部における先端湾曲部と上記他方の辺の先端間に形成され前記他方の辺が前記他方の辺が前記一方の辺から離間する方向に撓んでルーバーを受け入れるエアコン吹き出し口のルーバー挿入口」の構成とは、「一方の辺の先端及び/又は他方の辺の先端が、相手となる辺から離間する方向に撓んでルーバーを受け入れるエアコン吹き出し口のルーバー挿入口」という点で共通するといえる。
したがって、両者は「取付基部と、この取付基部から対向するよう前方に延びる一方の辺及び他方の辺と、一方の辺の先端及び/又は他方の辺の先端が、相手となる辺から離間する方向に撓んでルーバーを受け入れるエアコン吹き出し口のルーバー挿入口とより成るエアコン吹き出し口のルーバーに対する物品取付具。」において一致し、下記の点で相違している。
【相違点1】:一方の辺が、本件特許発明1では、上記一方の辺の遊端に形成されエアコン吹き出し口のルーバー後縁を包着可能としたフック部を備えるのに対し、刊行物7発明では、そのようなフック部を備えていない点。
【相違点2】:上記一方の辺及び上記他方の辺の具体的態様が、本件特許発明1では、上記他方の辺を上記一方の辺より薄肉としたものであるのに対し、刊行物7発明では、挟着片部22、22が全体として挟着片である態様となっている点。
【相違点3】:取付基部から互いに対向するよう前方に延びる一方の辺及び他方の辺の具体的態様が、本件特許発明1では、一方の辺及び他方の辺が、取付基部から互いに離間して対向するよう前方に延びる態様であるのに対し、刊行物7発明では、挟着片部22、22が基部の上下縁から対向状に延びて遊端部側で互いに接触する態様となっている点。
【相違点4】:エアコン吹き出し口のルーバーに対する物品取付具が備える上記一方の辺の先端及び/又は上記他方の辺の先端が、相手となる辺から離間する方向に撓んでルーバーを受け入れるエアコン吹き出し口のルーバー挿入口の具体的態様について、本件特許発明1では、上記一方の辺のフック部における先端湾曲部と上記他方の辺の先端間に形成され前記他方の辺が前記一方の辺から離間する方向に撓んでルーバーを受け入れる態様であるのに対し、上記刊行物7発明では、上記挟着片部22、22が撓んでなるとともに上記挟着片部22、22の先端が外向きに傾斜してなる部位を介してガイド板15を受け入れる態様となっている点。
上記相違点について検討する。
【相違点1】について
相違点1に係る構成は、審判請求人が主張する上記b.の第2の理由に挙げた証拠中には記載も示唆も認められないが、上記a.の第1の理由の証拠として挙げた上記刊行物2及び刊行物4から、上記相違点1に相当する「エアコン吹き出し口のルーバー後縁を包着可能としたフック部」が周知の技術であるとして、この周知技術を上記刊行物7発明の挟着片部22、22の一方の挟着片部22の遊端に適用することを想定すると、上記遊端に上記「エアコン吹き出し口のルーバー後縁を包着可能としたフック部」を形成することとなる。
ここで、上記刊行物7発明では、上記挟着片部22は、全体として挟着片22を構成するもので基部の上下縁から対向状に延びて遊端部側で互いに接触するものであり、挟着片部22、22が上記遊端部側でガイド板15を挟着するものであるし、外向きに傾斜してなる部位を介してルーバーを受け入れるものであるから、外向きに傾斜してなる部位の一方の挟着片部22に対する「フック部」の設置によってルーパーの受け入れが妨げられるとともに、挟着片部22、22の挟着固定の作用と上記「フック部」の包着の作用とが重なってガイド板15を制限するものとなるから、ガイド板15のの受け入れ、ガイド板15からの取り出しが著しく困難となる。
なお、本件特許発明1の「他方の辺」の撓みは「一方の辺から離間する方向」の撓みであるから、上記刊行物7発明における「挟着片22」の挟着の方向とは反対方向であるし、一方の辺及び他方の辺が、取付基部から互いに離間して対向するよう前方に延びる態様を前提とするものであるので、上記のような問題は生じないといえる。
したがって、上記刊行物7発明の「挟着辺部22,22」による挟着固定とフック部の形成による包着は両立しないといえる。
上記のことから、当業者が、上記刊行物1発明に上記周知技術を適用して上記相違点1に係る本件特許発明1の構成とすることは困難なことといえる。
【相違点2】について
相違点2に係る構成は、審判請求人が主張する上記b.の第2の理由に挙げた証拠中には記載も示唆も認められないが、「他方の辺を上記一方の辺より薄肉とした」構成が一般的に周知技術だとして、その周知の構成に変更することを想定したとしても、上記刊行物7発明は、ガイド板15を挟着固定により着脱可能としてなる態様を基本とする構成で達成しているものであり、該変更によって、本件特許発明1の本来の目的を達成することに支障をきたすことは明らかであるから、この適用には、適用阻害要因が存するものといえる。
上記のことから上記刊行物7発明及び上記周知技術から上記相違点2に係る本件特許発明1の構成とすることは困難なことといえる。
【相違点3】について
相違点3に係る構成は、審判請求人が主張する上記b.の第2の理由に挙げた各証拠中には記載も示唆も認められないし、周知の技術ともいえない。
したがって、刊行物1発明及び第1の理由に挙げた各証拠から上記相違点3に係る本件特許発明1の構成とすることは困難なことといえる。
なお、上記刊行物6には、本件特許発明1の「物品取付具」に相当する「物品取付装置」において、本件特許発明1の「一方の辺」に相当する「後当て部材9」と、本件特許発明1の「他方の辺」に相当する「張り出し部材8」とが、互いにルーバーの厚み以上の間隔をもって離間して対向するよう前方に延びる態様が実質的に記載されているが、上記後当て部材9と上記張り出し部材8は、本件特許発明1の「取付基部」に相当する「桟部材2」から延びるものではなく、また、上記後当て部材9と上記張り出し部材8は、ルーバーの奥行き方向に相対移動してルーバーを受け入れるものであるから、該相対移動を不可能とする上記相違点3に係る本件特許発明1の構成である「一方の辺及び他方の辺が、取付基部から互いに離間して対向するよう前方に延びる態様」とする変更はできないものといわざる負えない。
また、上記刊行物7発明は、ガイド板15を挟着固定により着脱可能としてなる態様を基本とする構成で達成しているものであり、挟着固定するためには挟着片部22、22が遊端側で接触する構成は必須といえ、上記刊行物7発明のガイド板15を挟着固定により着脱可能とする構成を上記刊行物6発明の「互いにルーバーの厚み以上の間隔をもって離間して対向するよう前方に延びる」構成に変更することは、該変更によって、本件特許発明1の本来の目的を達成することに支障をきたすことは明らかであるから、この変更には、適用阻害要因が存するものといえる。
したがって、上記刊行物7発明から上記相違点3に係る本件特許発明の構成とすることは困難なことといえる。
【相違点4】について
相違点4に係る構成は、審判請求人が主張する上記b.の第2の理由に挙げた各証拠中には記載も示唆も認められない。
したがって、上記刊行物7発明から上記相違点4に係る本件特許発明1の構成とすることは困難なことといえる。
なお、フック等において、他方の辺を上記一方の辺より薄肉とした構成及び該構成において他方の辺が撓むことも周知であるとして、上記刊行物7発明に該周知技術を適用したとしても、上記刊行物7発明の挟着片部22,22はそれら自体が弾性変形するものであることは明らかであるから、該適用によりあらたに他方の辺が撓む構成とするものとはいえないから、刊行物7発明に該周知の技術を適用して上記相違点4に係る本件特許発明1の構成とすることは困難なことといえる。
【相違点1乃至4】の関連について
本件特許発明1は、「物品取付具」において、上記相違点1に係る「上記一方の辺の遊端に形成されエアコン吹き出し口のルーバー後縁を包着可能としたフック部」を形成して、上記相違点3に係る「一方の辺及び他方の辺が、取付基部から互いに離間して対向するよう前方に延びる」、その離間して対向する一方の辺と他方の辺の間にルーバーがフック部で包着されるように取付けられるものであって、ルーバーを受け入れるためのルーバー挿入口の具体的態様が上記相違点4に係る「上記一方の辺のフック部における先端湾曲部と上記他方の辺の先端間に形成され前記他方の辺が前記一方の辺から離間する方向に撓んでルーバーを受け入れる」態様であり、上記相違点4に係るルーバー挿入口を構成する一方の辺と他方の辺の性質を上記相違点2に係る「上記他方の辺を上記一方の辺より薄肉とした」と規定してなるものといえる。
そして、本件特許発明1は、上記相違点1乃至4を上記のような関連をもって併せて備えることにより特許明細書に記載の作用効果を奏するものであるが、上記周知技術等を考慮しても、上記のような関連をもって上記刊行物7発明と結びつけて本件特許発明1の構成とするべき点は、特に認められない。
上記相違点1乃至4について検討したことから、本件特許発明1は、上記刊行物7に記載された発明から当業者が容易に発明をすることができたものとすることはできない。
(4-4-2-2-2)b-2.について
本件特許発明2は、本件特許発明1に係る発明の構成を全て含み、さらに他の構成を付加したものに相当する。
そして、上記刊行物1発明の構成及び上記刊行物7発明の構成のうち、それぞれ上下片11,12と挟着辺部22の構成は、いずれも本件特許発明2に付加された上記他の構成に相当するものといえる。
しかしながら、上記刊行物1発明等から、又は上記刊行物7発明から本件特許発明1の構成とすることが困難であることは、上記(4-4-2-1-1)及び(4-4-2-2-1)で説示した理由から明らかである。
したがって、本件特許発明2は、上記刊行物7に記載された発明及び上記刊行物1に記載された発明から当業者が容易に発明をすることができたものとすることはできない。
(4-4-2-2-3)b-3.について
本件特許発明3は、本件特許発明1又は本件特許発明2に係る発明の構成を全て含み、さらに他の構成を付加したものに相当する。
そして、上記刊行物8発明の構成のうち係合部15についての構成は、上記(4-4-2-1-3)で説示したように、上記本件特許発明3に付加された他の構成に相当するものといえる。
しかしながら、ルーバーへの取付の態様については、上記刊行物8発明は本件特許発明3が備える「一方の辺」に対応する「ホールドフック10a」にフックが形成されている点で共通するにすぎず、本件特許発明3が備える「他方の辺」に相当するものは備えていない。
したがって、上記(4-4-2-2-1)及び上記(4-4-2-2-2)で説示した理由と総合すると、本件特許発明3は、上記刊行物7に記載された発明、上記刊行物1に記載された発明及び上記刊行物8に記載された発明から容易に発明をすることができたものとすることはできない。
(4-4-3)まとめ
以上検討したことから、本件特許発明1乃至3は、特許法第29条第2項の規定に違反しているとすることはできない。

5.むすび
以上のことから、本件発明1乃至3の特許は、上記無効理由及び証拠によっては取り消すことはできない。
また、他に本件発明1乃至3の特許を取り消すべき理由を発見しない。
る。
審判に関する費用については、特許法第169条第2項の規定で準用する民事訴訟法第61条の規定により、請求人が負担すべきものとする。
よって、結論のとおり審決する。
 
審決日 2004-10-15 
出願番号 特願平6-257282
審決分類 P 1 112・ 534- Y (B60N)
P 1 112・ 531- Y (B60N)
P 1 112・ 55- Y (B60N)
P 1 112・ 121- Y (B60N)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 中田 誠二郎  
特許庁審判長 増山 剛
特許庁審判官 岡田 孝博
田中 秀夫
登録日 2002-11-22 
登録番号 特許第3371345号(P3371345)
発明の名称 エアコン吹き出し口のルーバーに対する物品取付具  
代理人 大久保 操  
代理人 加藤 静富  
代理人 村上 友一  
代理人 入江 一郎  
代理人 野末 寿一  

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