• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 全部申し立て 特36 条4項詳細な説明の記載不備  C10G
審判 全部申し立て 2項進歩性  C10G
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  C10G
管理番号 1107877
異議申立番号 異議2003-73004  
総通号数 61 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 1996-02-20 
種別 異議の決定 
異議申立日 2003-12-09 
確定日 2004-10-06 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第3414861号「軽油留分の水素化精製処理方法」の請求項1、2に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 訂正を認める。 特許第3414861号の請求項1ないし2に係る特許を維持する。 
理由 1.手続の経緯
特許3414861号の請求項1及び2に係る発明についての出願は、平成6年9月16日(優先権主張 平成6年6月3日)に特許出願され、平成15年4月4日にその発明について特許権の設定登録がなされ、その後その特許について異議申立人鈴木サチエにより特許異議の申立てがなされ、取消しの理由が通知され、その指定期間内である平成16年8月12日に訂正請求がなされたものである。

2.訂正の適否についての判断
(1)訂正の内容
特許権者が求めている平成16年8月12日付け訂正請求による訂正の内容は、訂正請求書に添付した訂正明細書のとおりに訂正すること、即ち、以下のとおりである。
特許請求の範囲の請求項2において、「請求項1に記載の軽油留分に5〜30容量%の接触分解油を混合することを特徴とする請求項1に記載の軽油留分の水素化精製処理方法。」を「請求項1に記載の熱分解油が、ディレードコーキング法により得られた熱分解油であり、請求項1に記載の軽油留分に5〜30容量%の接触分解油を混合することを特徴とする請求項1に記載の軽油留分の水素化精製処理方法。」と訂正する。
(2)訂正の適否、新規事項の有無、及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否
上記訂正は、請求項1を引用する請求項2の水素化精製処理方法において、混合する熱分解油をディレードコーキング法により得られたものであることを特定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とする明細書の訂正に該当する。また、本件特許明細書段落[0007]には、「本発明にいう熱分解油とは、・・・例えば、ディレイドコーキング法、・・・等により得られる留分をいう。」、同[0014]には、「表1に示した性状を有する、・・・重質油のディレードコーキング法により得られた熱分解油(LFO)30容量%、・・・をそれぞれ混合して調製した原料油を、・・・水素化精製処理を行った。」と記載されているから、上記訂正の内容は新規事項を追加するものでなく、実質上特許請求の範囲を拡張・変更するものでもない。
(3)むすび
以上のとおりであるから、上記訂正は、特許法第120条の4第3項において準用する平成6年法律第116号による改正前の特許法第126条第1項ただし書、第2項及び第3項の規定に適合するので、当該訂正を認める。

3.特許異議の申立てについて
3-1.特許異議の申立ての理由の概要
異議申立人鈴木サチエは、下記甲第1〜4号証を提示し、訂正前の本件請求項1及び2に係る発明は、甲第1号証に記載された発明であるから特許法第29条第1項第3号に該当し、あるいは、訂正前の本件請求項1及び2に係る発明は、甲第2〜4号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、また、訂正前の本件請求項1及び2に係る発明の特許は、特許法第36条第4項に規定する要件を満たさない特許出願に対してなされたものであり、したがって、訂正前の本件請求項1及び2に係る発明の特許は取り消されるべきと主張する。
なお、当審で通知した取消しの理由の概要はこれと同様である。


甲第1号証:Mehmet Y,Asim et al.,"Hydrotreatment of light cycle oils for improved color and color stability",Akzo catalysts symposium '88 H-10,p.1-10
甲第2号証:M.D.Edgar,"Hydrotreating LCO/visbreaker gas oil mix
studied",TECHNOLOGY Oil & Gas Journal (1981),79(46),p.63-66
甲第3号証:井口充生、“多機能担持触媒によるLCO深度脱硫技術の研究開発”、軽油深度脱硫技術研究報告書(平成3年度技術開発基盤等整備事業)、財団法人石油産業活性化センター、平成4年3月、第69〜72頁
甲第4号証:「第18回精製パネル討論会会議録」、社団法人石油学会、平成5年3月2〜3日、セッション2灯軽油脱硫、第37頁、第51〜52頁

3-2.本件発明
上記2.で述べたように、上記訂正が認められるから、本件請求項1及び2に係る発明(以下、「本件発明1及び2」という。)は、当該訂正による訂正明細書の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1及び2に記載された次のとおりのものである。
「【請求項1】重質油を熱分解して得られる熱分解油を含む軽油留分を、硫黄分0.05重量%以下に水素化脱硫する方法において、前記軽油留分が直留軽油留分と熱分解油とを95:5〜20:80の容量比で混合したものであり、前記軽油留分に5〜45容量%の接触分解油を混合して水素化脱硫することを特徴とする軽油留分の水素化精製処理方法。
【請求項2】請求項1に記載の熱分解油が、ディレードコーキング法により得られた熱分解油であり、請求項1に記載の軽油留分に5〜30容量%の接触分解油を混合することを特徴とする請求項1に記載の軽油留分の水素化精製処理方法。」

3-4.甲号各証の記載事項
甲第1号証:
a)「ライトサイクルオイル(LCO)は、ガスオイルの流動接触分解(FCC)により得られる製品の一つである。」(2頁1〜2行)
b)「リファイナー“C” このリファイナーの粗原料は、重質メキシコ産、ベネズエラ産、北海産および中東産の混合物である。この精油処理では、強酸性、重質、芳香族原料を処理する。ストレート-ランディーゼル、ライトサイクルオイルおよび中間留分コーカー(mid-distillate coker)の組み合わせを水素処理するために、ケトゥジェンファイン(Ketjenfine)KF-840-1.3Qを用いた二つのサイクルについての原料油混合物の典型的な性質を表8にまとめる。」(7頁1〜9行)
c)最初のサイクルは24ヶ月続いた旨(7頁15〜17行)
d)「

」(7頁)
e)「

表10は、サイクル1およびサイクル2の間において、リファイナー“C”によって得られた水素処理生成物の性質を示している。二つのサイクルにおいて、脱硫は90%を超えているが、サイクル1における脱硫は、製品規格に合致する必要値よりも高い。」(9頁)

甲第2号証:
f)「ビスブレーカーガスオイルおよびライトサイクルオイルの50/50混合物のパイロットプラント水素処理試験によると、穏和な条件で高いレベルの脱硫処理を達成することができる。」(63頁左欄1〜5行)
g)「使用される供給油はビスブレーカーガスオイルとFCCライトサイクルオイルの体積50/50混合物であった。」(63頁左欄下から3行〜右欄1行)
h)表1 ビスブレーカーガスオイル/LCO混合物の性質として、硫黄、wt%が2.24である旨(65頁)
i)「これらの曲線は、高レベルの脱硫(例えば、98%以上)においては、NiMo触媒による優位的な窒素除去は、いくぶん減少することを示している。」(65頁中欄下から6〜末行)

甲第3号証:
j)「以上の背景から、本研究開発の目的は、・・・LCO30%を含む直留軽油(硫黄分1%)を原料とし、この軽油の硫黄分を0.05%以下、セタン価50以上になるように一段で深度脱硫、核水添することのできる触媒とそれを用いるプロセスを開発することである。」(69頁下から5〜末行)
k)「

」(71頁)

甲第4号証:
l)「今日は、実装置でのテストではなくて、パイロットテストの結果に基づいてコメントしたいと思います。・・・FCCの分解軽油、LCCOをどの程度直留軽油にブレンドして軽油の生産ができるかというテストを・・・実施しています。・・・LCOは、堺精油所FCCから出たLCCOを使っています。・・・製品のサルファは、LCOをブレンドした場合フィードサルファが下がりますので、リアクター温度を316℃でなくもっと引き下げることができます。」(51頁下から11行〜52頁14行)

3-4.対比・判断
(特許法第29条第1項第3号について)
上記摘記事項d)の表8中、サイクル1のMD-Cokerの平均、30日の体積%に関する記載によれば、当該30日の原料油の体積%の平均は、ストレート-ランディーゼル、ライトサイクルオイル及び中間留分コーカーについてそれぞれ、76、12、12である。したがって、上記摘記事項a)〜e)からみて、甲第1号証には、ストレート-ランディーゼル、ライトサイクルオイル及び中間留分コーカーを組み合わせたものを水素化処理による脱硫する方法において、24ヶ月継続するサイクルによって硫黄分が0.04〜0.23wt%に脱硫され、該サイクル中のある30日の原料油の体積%の平均は、ストレート-ランディーゼル、ライトサイクルオイル及び中間留分コーカーについて各々76、12、12であったことに関する発明が記載されている。

本件発明1と甲第1号証に記載された発明とを対比する。本件発明1における、重質油を熱分解して得られる熱分解油、直留軽油留分、接触分解油は、各々甲第1号証に記載された発明における、中間留分コーカー、ストレート-ランディーゼル、ライトサイクルオイルに相当する。したがって、本件発明1と甲第1号証に記載された発明とは「重質油を熱分解して得られる熱分解油を含む軽油留分を水素化脱硫する方法において、前記軽油留分が直留軽油留分と熱分解油とを混合したものであり、前記軽油留分に接触分解油を混合して水素化脱硫することを特徴とする軽油留分の水素化精製処理方法。」である点で一致する。
そして、本件発明1において直留軽油留分と熱分解油の混合割合が95:5〜20:80の容量比であり、軽油留分に対して接触分解油が5〜45容量%とされている点について、本件発明1においては、かかる容量割合に関する特定によって、供給される原料は定常的に該容量割合を満たすものであるが、甲第1号証に記載された発明においては、ある30日の原料油の体積%の平均が、ストレート-ランディーゼル、ライトサイクルオイル及び中間留分コーカーについて各々76、12、12であることが示されているに過ぎないのであって、甲第1号証に記載された原料油に含まれる3成分の容量割合は不明であるといわざるを得ない。このことは、上記摘記事項c)の表8中、LCO、MD-Cokerの体積%に関する0-90、0-15なる記載から、各成分が経時的に変動すると解することができることからも明らかである。したがって、少なくとも本件発明1はこの点において甲第1号証に記載された発明と相違するものである。

よって、その余の事項を検討するまでもなく、本件発明1は甲第1号証に記載された発明であるとはいえない。

また、本件発明2は、本件発明1を技術的にさらに限定するものであるから、本件発明1についての判断と同様の理由により、甲第1号証に記載された発明であるとはいえない。

(特許法第29条第2項について)
上記摘記事項h)、i)によれば、硫黄分2.24wt%の混合油が98%以上脱硫されるのであるから、脱硫後の硫黄分は0.045wt%以下であると計算される。したがって、上記摘記事項f)〜i)によれば、甲第2号証には、ビスブレーカーガスオイルおよびライトサイクルオイルの体積50/50混合物を硫黄分0.045wt%以下に水素化脱硫する方法に関する発明が記載されている。
本件発明1と甲第2号証に記載された発明とを対比する。本件発明1における、重質油を熱分解して得られる熱分解油、接触分解油は、甲第2号証に記載された発明における、ビスブレーカーガスオイル、ライトサイクルオイルに相当するから、本件発明1と甲第2号証に記載された発明とは、「重質油を熱分解して得られる熱分解油を含む軽油留分を、硫黄分0.05wt%以下に水素化脱硫する方法において、前記軽油留分に接触分解油を混合して水素化脱硫する軽油留分の水素化精製処理方法」である点で一致し、(1)本件発明1においては、軽油留分が直留軽油留分と熱分解油とを95:5〜20:80の容量比で混合したものであるのに対し、甲第2号証に記載された発明においては、直留軽油留分を混合するものではない点、(2)本件発明1においては、接触分解油は軽油留分に5〜45容量%混合したものであるのに対して、甲第2号証に記載された発明においては、ビスブレーカーガスオイル、即ち軽油留分とライトサイクルオイル、即ち接触分解油の体積割合が50/50である点で相違する。

上記相違点(1)及び(2)について検討する。
上記甲第3及び4号証には、直留軽油にLCO、すなわち接触分解油を混合し処理を行うこと、特に甲第3号証には、硫黄分0.05%以下になるように水素化脱硫することは記載されているが(上記摘記事項j)〜l)参照)、原料油に熱分解油を混合することは何ら記載されておらず、示唆もされていない。そして、甲第2号証に熱分解油と接触分解油の混合物を水素化脱硫することが、甲第3及び甲第4号証に直留軽油と接触分解油の混合物を水素化脱硫することが記載されているにしても、これらいずれの甲各号証にも上記3種の油を混合することが記載も示唆もされていない以上、本件発明1における、3種の油の混合油において、軽油留分が直留軽油留分と熱分解油とを95:5〜20:80の容量比で混合したものであること、即ち相違点(1)、及び、接触分解油を軽油留分に5〜45容量%混合したものであること、即ち相違点(2)はいずれも導き出すことができない。
そして、本件発明1は、相違点(1)及び(2)にかかる構成を採用することで熱分解油の処理量を増大することができるとともに、触媒活性の劣化を抑制し、深度脱硫、あるいは高度な脱窒素処理等の高度な水素化精製処理が可能となるという、本件明細書に記載の顕著な効果を奏するものである(本件明細書段落[0013]参照)。
したがって、本件発明1は甲第2〜4号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

なお、異議申立人は、甲第1号証には本件発明1の3種の油を本件発明1における比率で混合することが開示されていて、技術常識となっているから、本件特許の混合比率は当業者が容易に想到できる程度のものであるなどと主張するが(特許異議申立書、12頁2〜8行、14頁15〜22行)、既に示したように、甲第1号証には本件発明1における混合油の混合比率は示されておらず、また、該比率が技術常識であるとする根拠もないから、異議申立人のかかる主張は採用できない。

また、本件発明2は、本件発明1を技術的にさらに限定するものであるから、本件発明1に対する判断と同様の理由により、甲第2〜4号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(特許法第36条第4項について)
異議申立人は、本件発明1及び2において「硫黄分0.05重量%以下に水素化脱硫する」とされている点について、本件明細書の発明の詳細な説明の[課題を解決するための手段]、実施例には何ら記載されておらず、本件発明1及び2は発明の詳細な説明に明確かつ十分に記載されていない旨主張する。
しかしながら、本件明細書の発明の詳細な説明には、「本発明の目的は、・・・深度脱硫、あるいは高度な脱窒素処理ができる軽油留分の水素化精製処理方法を提供することにある。」(段落[0005])、「本発明の軽油留分の水素化精製処理方法は、・・・深度脱硫、あるいは高度な脱窒素処理等の高度な水素化精製処理が可能となる。」(段落[0013])と記載されているから、本件発明1及び2の水素化精製処理によって深度脱硫することが発明の詳細な説明に記載されているとすることができ、このことと、本件明細書の「最近環境保護の観点から硫黄分を0.05重量%以下まで低減させる、いわゆる深度脱硫・・・」(段落番号[0002])との記載を併せ考慮すると、本件発明1及び2は硫黄分0.05重量%以下に水素化脱硫するものであることが発明の詳細な説明に記載されているということができる。
そうすると、上記異議申立人の主張は採用できず、発明の詳細な説明には、当業者が容易に本件発明1及び2の実施をすることができる程度に、その発明の目的、構成及び効果が記載されていないとすることはできない。

3-5.むすび
以上のとおりであるから、特許異議の申立ての理由及び証拠によっては本件発明1及び2についての特許を取り消すことはできない。
また、他に本件発明1及び2についての特許を取り消すべき理由を発見しない。
したがって、本件発明1及び2についての特許は拒絶の査定をしなければならない特許出願に対してされたものと認めない。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
軽油留分の水素化精製処理方法
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】重質油を熱分解して得られる熱分解油を含む軽油留分を、硫黄分0.05重量%以下に水素化脱硫する方法において、前記軽油留分が直留軽油留分と熱分解油とを95:5〜20:80の容量比で混合したものであり、前記軽油留分に5〜45容量%の接触分解油を混合して水素化脱硫することを特徴とする軽油留分の水素化精製処理方法。
【請求項2】請求項1に記載の熱分解油が、ディレードコーキング法により得られた熱分解油であり、請求項1に記載の軽油留分に5〜30容量%の接触分解油を混合することを特徴とする請求項1に記載の軽油留分の水素化精製処理方法。
【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、熱分解油を含む軽油留分の水素化精製処理方法に関する。
【0002】
【従来の技術】軽油留分の脱硫、脱窒素等を行う水素化精製は、軽油留分をアルミナまたはシリカ-アルミナ等の担体上に周期律表第6族のモリブデンやタングステン或いは第8族非貴金属のコバルト、ニッケルから選択された活性金属を組合せて担持した触媒組成物と水素加圧下に接触させることにより行われている。この軽油留分の水素化精製においては、最近環境保護の観点から硫黄分を0.05重量%以下まで低減させる、いわゆる深度脱硫が、また高度な脱窒素処理が要請され、このための精製プロセスの確立が急がれている。
【0003】また、原油の重質化に伴い、重質油の分解により得られる軽油留分の割合が増加する傾向にあるが、この種の軽油留分は、原油の蒸留から直接得られる、いわゆる直留軽油留分と比較して組成等、性状が大幅に異なっており、水素化精製も難かしい場合がある。特に、ディレイドコーキング法等のプロセスにより重質油を熱分解して得られる、いわゆる熱分解油は、これ単独で上記触媒を用いて水素化精製を行うと、触媒活性を劣化させ、触媒の寿命を著しく短くするという問題があった。このため、このような熱分解油の水素化精製処理は、通常それ単独では行われず、一般的には直留軽油に、触媒活性の劣化が顕著にでない程度、熱分解油を混合して行なわれていた。
【0004】しかし、この方法では熱分解油の処理量が制限されるとともに、触媒活性の劣化は避けられず、深度脱硫、あるいは高度な脱窒素等の水素化精製処理上、問題となっていた。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】本発明は、上記問題を解決することを課題とするもので、本発明の目的は、熱分解油の処理量を増大することができるとともに、触媒活性の劣化を抑制し、深度脱硫、あるいは高度な脱窒素処理ができる軽油留分の水素化精製処理方法を提供することにある。
【0006】
【課題を解決するための手段】本発明は、重質油を熱分解して得られる熱分解油を含む軽油留分を、硫黄分0.05重量%以下に水素化脱硫する方法において、前記軽油留分が直留軽油留分と熱分解油とを95:5〜20:80の容量比で混合したものであり、前記軽油留分に5〜45容量%の接触分解油を混合して水素化脱硫することを特徴とする軽油留分の水素化精製処理方法である。
【0007】本発明にいう熱分解油とは、重質油に熱を加えて、ラジカル反応を主体にした反応により得られた軽質留分油で、例えば、ディレイドコーキング法、ビスブレーキング法或いはフルードコーキング法等により得られる留分をいう。これらの留分は、得られる全留分を熱分解油として用いてもよいが、留出温度が150〜520℃の範囲内にある留分(以下、沸点及び留出点は特に断わらない限り、JIS K 2254「燃料油蒸留試験方法」による)を用いることが好適である。この熱分解油中には、オレフィンが比較的多量含まれ、これが、水素化精製処理工程において、コーク化して触媒の活性金属表面を覆い、触媒活性を低下させるものと推測されている。
【0008】本発明は、この熱分解油を水素化精製処理する場合に関するものであるが、このとき、直留軽油留分と熱分解油とを95:5〜20:80の容量比で混合したものを用いる。これは、熱分解油が多くなり過ぎると本発明の効果である触媒劣化の抑制が顕著に現われず、熱分解油が少なすぎると熱分解油の処理量の増大化という本発明の目的を達成しなくなるためである。尚、この直留軽油留分とは、原油を常圧蒸留して得られる、おおよそ10%留出点が240〜280℃、50%留出点が280〜320℃、90%留出点が330〜370℃からなっているものである。
【0009】本発明では、この熱分解油を含む軽油留分に接触分解油を混合して水素化精製処理するものであるが、この接触分解油とは、中間留分や重質留分、特には減圧蒸留留分等をゼオライト系触媒と接触分解する際に得られる留分、特には高オクタン価ガソリン製造を目的とした流動接触分解装置において副生する分解軽油留分である。この留分は、一般に、沸点が相対的に低い軽質接触分解油と沸点が相対的に高い重質接触分解油とを別々に採取されているが、本発明においては、本発明では、これらの留分のいずれをも、用いることができるが、前者の軽質接触分解油、いわゆるライトサイクルオイル(LCO)を用いることが好ましい。このLCOは、一般に、10%留出点が220〜250℃、50%留出点が260〜290℃、90%留出点が310〜355℃の範囲にある。また重質接触分解油、いわゆるヘビーサイクルオイル(HCO)は、10%留出点が280〜340℃、50%留出点が390〜420℃、90%留出点が450℃以上にある。
【0010】この接触分解油は前記軽油留分の5〜45容量%、より好ましくは5〜30容量%添加する。5容量%以下では本発明の触媒活性の劣化抑制効果が顕著に現われず、また45容量%以上では、生成油の色相の悪化やセタン指数の低下等の問題が生じる。
【0011】本発明における水素化精製処理は、アルミナ担体に周期率表第6族金属元素の少なくとも1種、特に好ましくはモリブデンを金属元素換算で約5〜20重量%と、第8族非貴金属元素の少なくとも1種、特に好ましくはニッケルまたはコバルトのいずれかあるいはこの両元素をその合計量として金属元素換算で1〜10重量%担持させた、あるいはこれにさらに燐をリン元素換算で0.1〜8重量%担持した触媒を用いて行うとよい。
【0012】水素化精製処理の条件としては、220〜400℃の温度、20〜150kg/cm2・Gの水素圧力、0.1〜10hr-1の液空間速度、50〜1000l/lの水素-油比等、一般に行われている軽油留分の水素化精製処理条件下に行うことができる。
【0013】
【発明の効果】本発明の軽油留分の水素化精製処理方法は、熱分解油の処理量を増大することができるとともに、触媒活性の劣化を抑制し、深度脱硫、あるいは高度な脱窒素処理等の高度な水素化精製処理が可能となる。
【0014】
【実施例1】表1に示した性状を有する、直留軽油留分(LGO)60容量%、重質油のディレードコーキング法により得られた熱分解油(LFO)30容量%、流動接触分解装置から得られた軽質接触分解油(LCO)10容量%をそれぞれ混合して調製した原料油を、市販触媒(アルミナ担体にMoを10wt%、Coを2.5wt%、Pを2wt%担持したもの)を用いて反応温度340℃、水素圧力55kg/cm2、液空間速度1.5hr-1、水素オイル比250l/lで条件下に、約500時間に亘って水素化精製処理を行った。経過時間毎に採取した生成油中に含まれる硫黄分と窒素分から、脱硫と脱窒素の反応速度定数をそれぞれ1.5次式、1次式で計算し、

【0015】
【表1】

【0016】
【実施例2】実施例1で用いたものと同じ油を用い、直留軽油留分(LGO)35容量%、熱分解油(LFO)50容量%、軽質接触分解油(LCO)を15容量%をそれぞれ混合して調製した原料油の水素化精製処理を、実施例1で用いたのと同じ市販触媒を用いて、反応温度340℃、水素圧力70kg/cm2、液空間速度1.5hr-1、水素オイル比250l/lの条件下に約500時間、水素化精製処理を行った。経過時間毎に採取した生成油中に含まれる硫黄分と窒素分から、脱硫と脱窒素の反応速度定数をそれぞれ1.5次式、1次式で計算し、一番最初にサンプリン

【0017】
【比較例】実施例1で用いたものと同じ油を用い、直留軽油(LGO)70容量%、熱分解油(LFO)30容量%混合して調製した原料油の水素化精製処理を、実施例1で用いたのと同じ市販触媒を用いて、実施例1と全く同じ反応条件下で、約500時間、水素化精製処理を行った。経過時間毎に採取した生成油中に含まれる硫黄分と窒素分から、脱硫と脱窒素の反応速度定数をそれぞれ1.5次式、1次式で計算し、一番最初にサンプリングした生成油の反応速度定数を1として、脱

示した。
【0018】これらの結果から明らかなように、本発明の方法を用いると触媒活性の劣化を抑制でき、ひいては多量の熱分解油を水素化精製処理することができることが分かる。
【図面の簡単な説明】
【図1】実施例1の結果を示す触媒活性の相対変化のグラフ。
【図2】実施例2の結果を示す触媒活性の相対変化のグラフ。
【図3】比較例の結果を示す触媒活性の相対変化のグラフ。
【符号の説明】

 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2004-09-10 
出願番号 特願平6-246804
審決分類 P 1 651・ 121- YA (C10G)
P 1 651・ 531- YA (C10G)
P 1 651・ 113- YA (C10G)
最終処分 維持  
前審関与審査官 渡辺 陽子  
特許庁審判長 西川 和子
特許庁審判官 冨永 保
佐藤 修
登録日 2003-04-04 
登録番号 特許第3414861号(P3414861)
権利者 株式会社ジャパンエナジー
発明の名称 軽油留分の水素化精製処理方法  
代理人 小松 純  
代理人 酒井 正己  
代理人 加々美 紀雄  
代理人 藤吉 一夫  
代理人 加々美 紀雄  
代理人 小松 純  
代理人 酒井 正己  
代理人 藤吉 一夫  

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ