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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  H02K
管理番号 1107894
異議申立番号 異議2003-73206  
総通号数 61 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 1994-04-15 
種別 異議の決定 
異議申立日 2003-12-25 
確定日 2004-09-29 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第3430521号「回転電機の固定子」の請求項1に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 訂正を認める。 特許第3430521号の請求項1に係る特許を維持する。 
理由 第1.手続きの経緯

本件特許第3430521号に係る出願は、平成4年9月24日に特許出願され、平成15年5月23日にその発明について特許の設定登録がなされ、その後、西郷純一より特許異議の申立てがなされ、取消理由通知がなされ、その指定期間内である平成16年7月26日に訂正請求がなされたものである。

第2.訂正の適否について

1.訂正の内容
特許権者が求めている訂正の内容は、以下のa〜cのとおりである。
a.特許請求の範囲の請求項1において、
「継部と極歯を備えた極歯部を極歯単位毎に分割積層した積層鉄心と、この積層鉄心の極歯に施した巻線部と、所定個数の積層鉄心を円筒形状に組み合わせた円筒形状体の外周部に覆着され、前記積層鉄心を内径方向に押圧する環状構造物とを備え、隣接する積層鉄心の当接部に相係合する凹凸を形成した回転電機の固定子。」
とあるのを、
「継部と極歯を備えた極歯部を極歯単位毎に分割積層した積層鉄心と、この積層鉄心の極歯に施した巻線部と、所定個数の積層鉄心を、その周方向端面を互いに当接させて、円筒形状に組み合わせた円筒形状体の外周部に覆着され、前記積層鉄心を内径方向に押圧する環状構造物とを備え、隣接する積層鉄心の相当接する端面に相係合する凹凸を形成した回転電機の固定子。」
と訂正する。

b.段落【0011】において、
「【課題を解決するための手段】
この目的を達成するために本発明の回転電機の固定子は、継部と極歯を備えた極歯部を極歯単位毎に分割積層した積層鉄心と、この積層鉄心の極歯に施した巻線部と、所定個数の積層鉄心を円筒形状に組み合わせた円筒形状体の外周部に覆着され、前記積層鉄心を内径方向に押圧する環状構造物とを具備したものである。」
とあるのを、
「【課題を解決するための手段】
この目的を達成するために本発明の回転電機の固定子は、継部と極歯を備えた極歯部を極歯単位毎に分割積層した積層鉄心と、この積層鉄心の極歯に施した巻線部と、所定個数の積層鉄心を、その周方向端面を互いに当接させて、円筒形状に組み合わせた円筒形状体の外周部に覆着され、前記積層鉄心を内径方向に押圧する環状構造物とを備え、隣接する積層鉄心の相当接する端面に相係合する凹凸を形成したものである。」
と訂正する。

2.訂正の目的の適否、新規事項の有無及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否
上記訂正事項aは、発明の構成に欠くことのできない事項である「所定個数の積層鉄心を円筒形状に組み合わせた円筒形状体」を、「所定個数の積層鉄心を、その周方向端面を互いに当接させて、円筒形状に組み合わせた円筒形状体」という記載により下位概念に限定し、また「隣接する積層鉄心の当接部に相係合する凹凸」を、「隣接する積層鉄心の相当接する端面に相係合する凹凸」という記載により下位概念に限定するものである。そして、これら上記事項は、願書に添付された明細書の段落【0014】及び【0016】、並びに図1ないし3の記載に基づくものであるから、上記訂正事項aは、特許請求の範囲の減縮を目的とした明細書の訂正に該当し、新規事項の追加に該当せず、実質的に特許請求の範囲を拡張又は変更するものではない。
また、上記訂正事項bは、上記訂正事項aに伴い、発明の詳細な説明の記載を特許請求の範囲と整合させるためのもので、明りょうでない記載の釈明を目的とする訂正に該当し、新規事項の追加に該当せず、実質的に特許請求の範囲を拡張又は変更するものでもない。

3.むすび
したがって、上記訂正は、特許法等の一部を改正する法律(平成6年法律第116号)附則第6条第1項の規定によりなお従前の例によるとされる特許法第120条の4第3項において準用する平成6年法律第116号による改正前の特許法第126条第1項ただし書及び第2項の規定に適合するので、当該訂正を認める。

第3.特許異議申立てについての判断

1.本件発明
上記のとおり本件の訂正は認められるから、本件の請求項1に係る発明は、上記訂正請求に係る訂正明細書の特許請求の範囲の請求項1に記載された次のとおりのものである(以下「本件発明」という)。

「継部と極歯を備えた極歯部を極歯単位毎に分割積層した積層鉄心と、この積層鉄心の極歯に施した巻線部と、所定個数の積層鉄心を、その周方向端面を互いに当接させて、円筒形状に組み合わせた円筒形状体の外周部に覆着され、前記積層鉄心を内径方向に押圧する環状構造物とを備え、隣接する積層鉄心の相当接する端面に相係合する凹凸を形成した回転電機の固定子。」

2.申立の理由の概要
特許異議申立人西郷純一は、
本件発明は、甲第1号証(特開昭64-060254号公報、以下「刊行物1」という)、甲第2号証(特開昭61-030939号公報、以下「刊行物2」という)、及び甲第3号証(特開昭61-124241号公報、以下「刊行物3」という)に記載された発明に基づき、当業者が容易になし得たものであり、特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものである。故に、本件発明についての特許は、特許法第113条第1項第2号の規定により取り消すべきである。
旨主張している。

3.当審の判断
(1)当審が平成16年5月17日付けで通知した取消理由の概要は、本件の請求項1に係る発明は、上記刊行物1ないし3に記載された発明に基づき当業者が容易になし得たものであるから、特許法第29条第2項の規定に違反し、特許を受けることができないというものである。

(2)特許法第29条第2項の規定に適合しているかどうかについて
ア.刊行物
(ア)刊行物1:特開昭64-060254号公報(申立人の提出した甲第1号証)
A.刊行物1には、以下の記載がある。
(a)「本発明は、一般に電気モータに関するものであり、とりわけ、高トルクの可変磁気抵抗モータを扱ったものである。」(第4頁左上欄第6-8行)
(b)「従って、本発明の目的は、トルク対質量比が高く、既知の可変磁気抵抗モータに関連した欠点を克服する可変磁気抵抗モータを提供することにある。
本発明のもう一つの目的は、隣接する固定子部材を磁気的に互いに絶縁することによって、隣接する固定子部材間における磁束の漏れを防ぐようになっている可変磁気抵抗モータを提供することにある。
本発明のさらにもう一つの目的は、より安価で、製造しやすい可変磁気抵抗モータを提供することにある。」(第4頁右下欄第2-10行)
(c)「〔実施例〕 ここで図面を参照し、とりわけ第1図に関し考察するが、本発明は、可変磁気抵抗モータ10を例として説明する。このモータ10には、固定子アセンブリ12に対し、回転軸42のまわりを回転するように支持された回転子16の軸方向に配置された多数の固定子セグメント14、14から成る円筒状固定子アセンブリ12が含まれている。本発明は回転モータとして開示されているが、本発明の原理は、線形モータにも適用可能である。
各固定子セグメント14は、多数のラミネーションから構成され、巻線磁極部材の両側に横方向に間隔をあけて配置された巻線突極部材28及び二つの非巻線突極部材30、32を備えている。巻線突極部材28のそれぞれには、そのまわりに巻線34が取りつけられている。」(第5頁右上欄第10行-左下欄第5行)
(d)「非磁性ピンすなわち合わせくぎ18、18は、すぐ隣接した固定子セグメント14、14の向かい合った側部20、22に受けとめられて、協働し、隣接する固定子セグメント間に、一般に24で示された、半径方向に内側に突き出した連続した非磁性チャネルを形成する。各チャネル24、24は、固定子アセンブリ12の外周から内周へ充分に伸び、各固定子セグメントを互いに磁気的に完全に絶縁している。固定子セグメント間における磁気絶縁によって、固定子セグメントの一つの生じた磁束が漏れて、もう一つの隣接した固定子セグメントに発生した磁束から引き去られるのが防止され、この結果、加えられる所定の大きさの電流に対するトルクの低下は生じなくなる。
ほぼ環状の非磁性シェル26は、固定子セグメント14、14の外周に対して、同軸をなすように包囲して係合し、圧縮力を半径方向の内側に向けて、固定子アセンブリ12を構成する固定子セグメントの円筒状で、精密にアライメントのとれた配置が維持される。」(第5頁左下欄第20行-右下欄第18行)
(e)「各固定子セグメント14の背面の鉄領域は、一般に46で表示されているが、その幅48は巻線突極部材28の幅50の1/2になっている。非巻線突極部材30、32の幅52は、背面の鉄46の幅46に等しい。」(第6頁右下欄第1-5行)

B.刊行物1において、以下のことが明らかである。
上記(c)には、「各固定子セグメント14は、多数のラミネーションから構成され」との記載があること、及び固定子セグメント14は鉄などの磁性材料から構成されていることから、固定子セグメント14は積層鉄心であると言える。
図面の記載から、巻線突極部材28は継部と極歯を備えており、また非巻線突極部材30、32も継部と極歯を備えていることは明らかである。
C.以上から、刊行物1には次のとおりの発明が記載されていると認められる。
「継部と極歯を有する巻線突極部材28、及び継部と極歯を有する非巻線突極部材30、32を備えた突極部をセグメント毎に分割積層した積層鉄心14と、この積層鉄心14の巻線突極部材28に施した巻線34と、所定個数の積層鉄心14を、その周方向側部20、22との間に非磁性ピン18を配し各積層鉄心14を互いに磁気的に完全に絶縁して、円筒形状に組み合わせた円筒形状体の外周部に覆着され、前記積層鉄心14を内径方向に押圧する環状非磁性シェル26とを備え、隣接する積層鉄心14の側部20、22に非磁性ピン18が係合する凹所54を形成した可変磁気抵抗モータの固定子アセンブリ。」

(イ)刊行物2:特開昭61-030939号公報(申立人の提出した甲第2号証)
A.刊行物2には、以下の記載がある。
(a)「この発明は360°/N(但しNは2以上の整数)の円弧角を有する弓形のヨークと該ヨークの内周縁のほぼ中央部に一体に連設された1つの磁極片とを含む形状のピースをケイ素鋼板等の磁性鋼板からプレス等により打抜く工程と、上記ピースを所定枚数積重ねてコアセグメントを形成する工程と、該コアセグメントを上記ヨークの二等分線を中心として回転させながら上記磁極片の基端部側にコイル線を巻付けて励磁コイルを巻装する工程と、N層の上記コアセグメントを環状に配置して、互いに隣接するヨークの端部を接着剤もしくは溶接等により一体的に接合する工程とを備えていることに特徴を有している。」(第2頁右上欄第8-20行)
(b)「この発明によると、第1図に示されているように、例えば3極のステータコア10は、3つのコアセグメント11を組合わせることによりつくられる。各コアセグメント11は導磁性を有するピースの積層体からなり、その各々は第2図に例示されているように、120度の円弧角を有する弓形のヨーク12と、このヨーク12の内周縁のほぼ中央部に一体に連設された磁極片13とを備えている。この場合、ヨーク12の一端部の端面には凸部12aが突設されており、その他端部の端面には上記凸部12aに対して相補的な形状の凹部12bが穿設されている。また、磁極片13には・・・その基端部の両側には励磁コイルを巻装するための溝13b、13bが設けられている。上記コアセグメント11を構成する各ピースは、第3図に示されているように、例えばケイ素鋼板14からプレス等により打抜かれるのであるが、上記のような分割構造であるため・・・」(第2頁左下欄第3行-右下欄第2行)
(c)「3つのコアセグメント11は、上記ヨークの凸部12aを相手方のヨークの凹部12bに嵌合させるようにして環状に配置され、それらの継目部分を例えば適当な接着剤にて固着することにより第10図の如く、一体的に組合わせられる。」(第3頁右上欄第13-18行)

B.上記各記載、並びに図1ないし3及び10を参酌すると、刊行物2には次のとおりの発明が記載されていると認められる。
「継部と極歯を備えた磁極片13を備えた磁極片部を磁極片単位毎に分割積層した積層鉄心であるコアセグメント11と、このコアセグメント11の磁極片に施した励磁コイルと、所定個数のコアセグメント11を、その周方向端面を互いに当接させて、円筒形状に組み合わせ、隣接するコアセグメント11の相当接する端面に相係合する凹凸部12a,bを形成した回転電機の固定子。」

(ウ)刊行物3:特開昭61-124241号公報(申立人の提出した甲第3号証)
A.刊行物1には、以下の記載がある。
(a)「この目的を達成するため本発明は、ステータコアを複数に分割し、分離独立したポール部にステータ巻線を巻線し、その後、結合して環状のステータコアを構成したものである。」(第2頁右上欄第14-17行)
(b)「各ステータコア片11a、11b、11c、11dはポール部を中心に両側のスロット中心部を分割したもので、第2図に示す如く先端にステータ歯部12を有する巻線13が巻線されるポール部14と、このポール部14に連続する弧状のヨーク部15とにより構成され、ヨーク部の一端には凸部16が、他端には凸部が係合する形の凹部17が設けられている。」(第2頁左下欄第4-12行)
(c)「なお、巻線13は、第2図に示すステータコア片に矢印A方向より施すもので、ステータコア片を固定した状態で、巻線13は簡単に巻けることができる。よって、ポール部14に対し、巻線13は密接に巻けるばかりでなく、巻線を施されたステータコア片11a〜11dを第1図に示す如く結合することにより、従来の如く、挿入をすると言う作業も廃止することができる。
また、第3図の如く巻線13を施したステータコア片は、第1図に示す如く、ステータコア片の両端に構成された凸部16と凹部17を結合することにより磁気回路的導通を行う。」(第2頁左下欄第15行-右下欄第6行)

B.上記各記載、並びに図1ないし3を参酌すると、刊行物3には次のとおりの発明が記載されていると認められる。
「継部と極歯を備えたポール部14をポール単位毎に分割積層した積層鉄心であるステータコア片11a,b,c,dと、このステータコア片11a,b,c,dのポールに施した巻線と、所定個数のステータコア片11a,b,c,dを、その周方向端面を互いに当接させて、円筒形状に組み合わせ、隣接するステータコア片11a,b,c,dの相当接する端面に相係合する凹凸部16,17を形成した回転電機の固定子。」

イ.対比・判断
(ア)対比
本件発明と刊行物1記載の発明とを対比すると、後者の「突極部」「巻線34」「環状非磁性シェル26」「側部20、22」「凹所54」「可変磁気抵抗モータ」「固定子アセンブリ」は、それぞれ前者の「極歯部」「巻線部」「環状構造物」「端面」「凹」「回転電機」「固定子」に相当する。

したがって、両者は
[一致点]
「継部と極歯を備えた極歯部を単位毎に分割積層した積層鉄心と、この積層鉄心に施した巻線部と、所定個数の積層鉄心を円筒形状に組み合わせた円筒形状体の外周部に覆着され、前記積層鉄心を内径方向に押圧する環状構造物とを備え、隣接する積層鉄心端面に凹を形成した回転電機の固定子。」
である点で一致し、以下の点で相違する。
[相違点1]
本件発明の「積層鉄心」が極歯単位毎に分割されたもので、かつ極歯に対し巻線部が施されているのに対し、刊行物1記載の発明の「積層鉄心」は「巻線突極部材28」と「非巻線突極部材30、32」を備え、「巻線突極部材28」にのみ巻線が施されており、巻線が施される極歯単位毎に積層鉄心が分割されているとは言えない点。
[相違点2]
本件発明の「円筒形状体」が、所定個数の積層鉄心を、その周方向端面を互いに当接させて円筒形状に組合せ、かつ隣接する積層鉄心の相当接する端面に相係合する凹凸を形成しているのに対し、刊行物1記載の発明の「円筒形状体」は、所定個数の積層鉄心を、その周方向端部との間に非磁性ピン18を配し各積層鉄心を互いに磁気的に完全に絶縁して円筒形状に組み合わせ、かつ隣接する積層鉄心の端部に非磁性ピン18が係合する凹所54を形成している点。

(イ)判断
A.上記相違点1について検討する。
上記ア(イ)(ウ)によれば、刊行物2又は3には、回転電機子の固定子において、「継部と極歯を備えた極歯部を極歯単位毎に分割積層した積層鉄心と、この積層鉄心の極歯に施した巻線部を備えた」点が記載されている。しかしながら、この刊行物2又は3の固定子は、隣接する積層鉄心間を磁気的に結合することを前提とし、単位毎の積層鉄心内で磁束が閉じる構成は前提としていない。一方、刊行物1記載の発明は、隣接する積層鉄心間は磁気的に互いに絶縁し、積層鉄心間における磁束の漏れを防ぐことが目的であり、そもそも単位毎の積層鉄心内において磁束が閉じる固定子を前提としている。そのため、刊行物1記載の発明の単位毎の積層鉄心は、巻線が巻かれる「巻線突極部材28」と巻線を有しない「非巻線突極部材30、32」とを設け磁束が閉じる構成としているところ、当該磁束が閉じる単位毎の積層鉄心を、刊行物2又は3記載のお互いに磁気的に結合する極歯単位毎の積層鉄心とすることは、刊行物1記載の発明の本来の目的に反するものと認められる。したがって、上記相違点1に係る構成において、刊行物1記載の発明に刊行物2又は3記載の発明を適用することには、阻害要因が存在するというべきである。

B.上記相違点2について検討する。
上記ア(イ)(ウ)によれば、刊行物2又は3には、回転電機の固定子において、「所定個数の積層鉄心を、その周方向端面を互いに当接させて、円筒形状に組み合わせ、隣接する積層鉄心の相当接する端面に相係合する凹凸を形成した」点が記載されている。しかしながら、この刊行物2又は3の固定子は、隣接する積層鉄心間を磁気的に結合することを前提としており、そのため、「積層鉄心の周方向端面を互いに当接させ」かつ「隣接する積層鉄心の相当接する端面に相係合する凹凸を形成」という構成を採用しているものである。一方、刊行物1記載の発明は、隣接する積層鉄心間は磁気的に互いに絶縁し、積層鉄心間における磁束の漏れを防ぐことが目的であり、そもそも単位毎の積層鉄心内において磁束が閉じる固定子を前提としている。そのため、刊行物1記載の発明の「円筒形状体」は、「所定個数の積層鉄心を、その周方向端部との間に非磁性ピン18を配し各積層鉄心を互いに磁気的に完全に絶縁して円筒形状に組み合わせ、かつ隣接する積層鉄心の端部に非磁性ピン18が係合する凹所54を形成」することで積層鉄心間を磁気的に完全に絶縁しているところ、当該刊行物1記載の「円筒形状体」を、刊行物2又は3記載の積層鉄心同士が磁気的に結合されている円筒形状体とすることは、刊行物1記載の発明の本来の目的に反するものと認められる。したがって、上記相違点2に係る構成において、刊行物1記載の発明に刊行物2又は3記載の発明を適用することには、阻害要因が存在するというべきである。

C.また、訂正明細書の段落【0014】に「その後、積層鉄心12を所定数量、分割面16を組み合わせて円筒形状保持した後、締め代を有する環状構造体15に挿入し、積層鉄心12を内径方向に押圧することにより、必要な固定子剛性を有した一体構造としている。」と記載されているように、本件発明は、積層鉄心の端面同士を互いに当接させると共に端面に形成した凹凸を相結合させて円筒形状体を形成する、という構成と、円筒形状体に環状構造物を覆着し、各積層鉄心を内径方向に押圧する、という構成を組み合わせたことにより、強固かつ精密な機械的一体化が図られるとともに、積層鉄心間の強固な磁気的結合が図られる(訂正明細書に直接的記載はないものの、本件発明の構成から自明な作用効果である。)という、格別の作用効果を奏するものである。
したがって、本件発明が、刊行物1ないし3に記載された発明に基づき、当業者が容易になし得たものとは認めることができない。

(3)むすび
以上のとおりであるから、特許異議申立の理由及び証拠によっては、本件の請求項1に係る発明の特許を取り消すことはできない。
また、他に本件の請求項1に係る発明の特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
別掲 異議2003-73206訂正要旨
(1)訂正事項a
特許請求の範囲の請求項1において、
「継部と極歯を備えた極歯部を極歯単位毎に分割積層した積層鉄心と、この積層鉄心の極歯に施した巻線部と、所定個数の積層鉄心を円筒形状に組み合わせた円筒形状体の外周部に覆着され、前記積層鉄心を内径方向に押圧する環状構造物とを備え、隣接する積層鉄心の当接部に相係合する凹凸を形成した回転電機の固定子。」
とあるのを、
「継部と極歯を備えた極歯部を極歯単位毎に分割積層した積層鉄心と、この積層鉄心の極歯に施した巻線部と、所定個数の積層鉄心を、その周方向端面を互いに当接させて、円筒形状に組み合わせた円筒形状体の外周部に覆着され、前記積層鉄心を内径方向に押圧する環状構造物とを備え、隣接する積層鉄心の相当接する端面に相係合する凹凸を形成した回転電機の固定子。」
と訂正する。

(2)訂正事項b
明細書の段落【0011】において、
「【課題を解決するための手段】
この目的を達成するために本発明の回転電機の固定子は、継部と極歯を備えた極歯部を極歯単位毎に分割積層した積層鉄心と、この積層鉄心の極歯に施した巻線部と、所定個数の積層鉄心を円筒形状に組み合わせた円筒形状体の外周部に覆着され、前記積層鉄心を内径方向に押圧する環状構造物とを具備したものである。」
とあるのを、
「【課題を解決するための手段】
この目的を達成するために本発明の回転電機の固定子は、継部と極歯を備えた極歯部を極歯単位毎に分割積層した積層鉄心と、この積層鉄心の極歯に施した巻線部と、所定個数の積層鉄心を、その周方向端面を互いに当接させて、円筒形状に組み合わせた円筒形状体の外周部に覆着され、前記積層鉄心を内径方向に押圧する環状構造物とを備え、隣接する積層鉄心の相当接する端面に相係合する凹凸を形成したものである。」
と訂正する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
回転電機の固定子
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】 継部と極歯を備えた極歯部を極歯単位毎に分割積層した積層鉄心と、この積層鉄心の極歯に施した巻線部と、所定個数の積層鉄心を、その周方向端面を互いに当接させて、円筒形状に組み合わせた円筒形状体の外周部に覆着され、前記積層鉄心を内径方向に押圧する環状構造物とを備え、隣接する積層鉄心の相当接する端面に相係合する凹凸を形成した回転電機の固定子。
【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は主にモータの固定子の構成に関するものである。
【0002】
【従来の技術】近年、モータの小型・高性能化のために、巻線の高密度化と巻線端部の省スペース化の必要性が高まっている。特にロボットなどに使用されるサーボモータにおいては、ロボットの高速化,省スペース化,高出力化の流れに対応するには、モータの回転子に極めて磁束密度の高い磁石を使用すると共に、固定子の巻線密度も整列巻線の理論限界値である導体占積率70%を実現し、しかも巻線端部のスペースも最小にする必要がある。高密度化を実現する巻線技術として従来よりインサータ巻線があるが、巻線端部のスペースが極めて大きくなると言う課題を持っている。そこで最近では鉄心を分割し、巻線を外部で整列状に巻込むことにより高密度な巻線と巻線端部の省スペース化の両方を同時に可能にした固定子の構成が主流となっている。
【0003】以下に従来の固定子の構成について説明する。
【0004】図4は従来の巻線の高密度化と巻線端部の省スペース化を目的とした固定子の構成を示すものである。図4において、1は鉄心の外部を構成する第1鉄心である。2は鉄心の内部を構成する第2鉄心であり、3は第2鉄心2の隣接する極歯部を継ぐ継部である。4は絶縁体、5は巻線部であり、6は樹脂部である。
【0005】上記構成において、巻線部5は外部で絶縁体4に直交して整列状に高密度に巻き込まれ、第2鉄心2の極歯部に所定数量挿入される。その後、第2鉄心2を第1鉄心1の内径に挿入して固定子鉄心が構成される。さらにモールド等により樹脂部6を成形することにより一体構造として固定子が完成される。
【0006】次に、図5は従来の他の積層鉄心の外周部を出力軸方向に分割した代表的な固定子の構成を示すものである。図5(a)において7は積層鉄心で、分割直8により2分割されている。9は巻線部、図5(b)の10は樹脂部である。
【0007】上記構成において、巻線部9は2分割された積層鉄心7の外周部に直行して巻線が施され、その後積層鉄心7を分割面8で突き合わせ、樹脂部10により一体化される。
【0008】
【発明が解決しようとする課題】しかしながら上記従来の構成では、以下のような課題を有していた。
(1)固定子を構成する鉄心を極歯部外周部で分割しているために、第2鉄心2を構成維持するために極歯内径を継ぐ継部3が必要となる。
(2)上記(1)のため継部3においては、極歯間の磁気漏れが発生しモータ効率が5〜10%低下するという問題があり、継部3を極力薄くすることが必要である。
(3)従って、固定子構成の剛性を確保するために樹脂部6を成形する必要があるが、樹脂部6の成形にあたり巻線部5の絶縁被覆を破壊して線間短絡が発生するという問題点を有していた。
(4)さらに鉄心の大型化に伴って鉄心のプレス設備と成形設備が大型化し、生産効率が悪くなるという問題も有していた。
【0009】また、上記従来の他の構成では巻線部9を積層鉄心7の外周部に直角に巻き込むため整列状にはならず、導体占積率52〜55%が限界であった。さらに、巻線端部の省スペース化は可能であるが、外径方向へ巻線部が出るため外形が大型化するという問題点を有していた。
【0010】本発明は上記従来の問題点を解決するもので、外部での高密度な整列巻線を可能とした構造でありながら、巻線端部の省スペース化を図り、モータ効率低減の原因となる極歯間の継部を不要とすると共に、剛性を確保するための樹脂成形も不要とし、さらに小型のプレス設備での大型鉄心をも生産可能とする分割構造を有する回転子を提供することを目的としている。
【0011】
【課題を解決するための手段】この目的を達成するために本発明の回転電機の固定子は、継部と極歯を備えた極歯部を極歯単位毎に分割積層した積層鉄心と、この積層鉄心の極歯に施した巻線部と、所定個数の積層鉄心を、その周方向端面を互いに当接させて、円筒形状に組み合わせた円筒形状体の外周部に覆着され、前記積層鉄心を内径方向に押圧する環状構造物とを備え、隣接する積層鉄心の相当接する端面に相係合する凹凸を形成したものである。
【作用】この構成によって、
(1)極歯単位毎に分割積層した鉄心としたことで、鉄心毎に外部で極歯部に直交して整列状に高密度の巻線(導体占積率70%)を施すことが可能となり、巻線端部の省スペース化が可能となる。
(2)上記鉄心を所定数量組み合わせ円筒形状に保持した後、積層鉄心の分割面の外周部に連続した環状の構造物を設けることにより、必要な固定子の剛性を得ることが可能となるため、樹脂成形が不要となり線間短絡を防止できる。また、鉄心の構成維持に極歯部の継部が不用となるため、継部によるモータ効率の5〜10%の低下を防止することができる。
(3)極歯単位に分割したことにより鉄心が細分化され、小型のプレス設備でも大型鉄心の生産が可能となり、生産効率を著しく向上することができる。
【0012】
【実施例】以下、本発明の一実施例について図面を参照しながら説明する。
【0013】図1において、11は極歯単位に分割された積層鉄心12を環状に連結して構成した固定子で、この積層鉄心12の極歯部には絶縁部13を介して巻線部14が施されている。そして固定子11の外周には環状構造体15を覆着して、複数の積層鉄心12からなる固定子11の保形を図っている。
【0014】以上のように構成された回転電機の固定子11において、積層鉄心12は、小型のプレス設備により極歯単位毎に積層化された後、極歯部に絶縁部13を介在させ、外部巻線機により整列状に高密度に巻線部14を形成する。その後、積層鉄心12を所定数量、分割面16を組み合わせて円筒形状保持した後、締め代を有する環状構造体15に挿入し、積層鉄心12を内径方向に押圧することにより、必要な固定子剛性を有した一体構造としている。
【0015】このように本実施例によれば、極歯単位毎に積層鉄心を分割して積層鉄心12を形成し、極歯単位毎に高密度な整列状の巻線部14を施すことにより、導体占積率70%化が可能となる。また、積層鉄心12の外周部に環状構造体15を設け、積層鉄心12を内径方向に押圧して一体構造として構成することにより、図4の従来例に構成される継部が不用となり、モータ効率の5〜10%の低減を防止できる。また、樹脂部も不用となり、線間短絡のない安定した固定子が得られる。さらに、積層鉄心の分割細分化によりプレス設備が小型化され、生産効率を著しく向上させる効果もある。
【0016】なお、固定子11の剛性を一層高めるために、隣接する積層鉄心12の当接部において、図2のように相係合する凹凸17,18を形成するとともに、溶接部19で溶接するとともに、溶接部19で溶接することも考えられる。また溶接の代りに、図3のように接着部20を接着剤で接着してもよい。
【0017】
【発明の効果】以上のように本発明は、極歯単位毎に分割積層された鉄心と、前記鉄心の極歯部に直交して施した巻線とを備えた積層鉄心を所定数量保持して円筒形状を保持した後、前記積層鉄心の外周部に連続した環状の構造物を有する構成のため巻線の高密度化(導体占積率70%)と極歯間の継部廃止が可能となり、樹脂成形が不要なため巻線部の絶縁被覆を破壊することもなく、巻線端部の省スペース化とモータ効率の大幅な向上が実施でき、併せて積層鉄心の細分化により生産の安定性と効率をも著しく向上させた、従来にない優れた回転電機の固定子を実現できるものである。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の実施例における固定子の平面断面図
【図2】本発明の他の実施例における固定子の平面断面図
【図3】本発明のさらに他の実施例における固定子の平面断面図
【図4】従来の固定子の平面断面図
【図5】(a)は従来の他の樹脂封止前の固定子の外観斜視図
(b)は同固定子の側面断面図
【符号の説明】
11 固定子
12 積層鉄心
13 絶縁部
14 巻線部
15 環状構造体
17,18 凹凸
19 溶接部
20 接着部
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2004-09-06 
出願番号 特願平4-254321
審決分類 P 1 651・ 121- YA (H02K)
最終処分 維持  
前審関与審査官 下原 浩嗣  
特許庁審判長 城戸 博兒
特許庁審判官 大野 覚美
安池 一貴
登録日 2003-05-23 
登録番号 特許第3430521号(P3430521)
権利者 松下電器産業株式会社
発明の名称 回転電機の固定子  
代理人 石原 勝  
代理人 石原 勝  

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