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審決分類 |
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 A23L 審判 全部申し立て 2項進歩性 A23L 審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載 A23L |
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管理番号 | 1107923 |
異議申立番号 | 異議2002-71644 |
総通号数 | 61 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許決定公報 |
発行日 | 1999-07-06 |
種別 | 異議の決定 |
異議申立日 | 2002-07-05 |
確定日 | 2004-09-20 |
異議申立件数 | 3 |
訂正明細書 | 有 |
事件の表示 | 特許第3244264号「鉄強化飲食品」の請求項1ないし4に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 |
結論 | 訂正を認める。 特許第3244264号の請求項1に係る特許を維持する。 |
理由 |
I.手続の経緯 本件特許第3244264号の請求項1ないし4に係る発明についての出願は、平成9年12月22日に特願平9-364844号として特許出願され、平成13年10月26日にその特許の設定登録がなされ、その後、召田紀雄、太田和良、及び川田和美より特許異議申立がなされ、取消理由通知がなされ、訂正請求(後日取下げ)がなされた後、再度の取消理由通知がなされ、その指定期間内である平成16年7月9日に訂正請求がなされたものである。 II.訂正請求 1.訂正の内容 (1)特許請求の範囲の請求項1の「鉄剤としての3価鉄と、甘味成分としての非還元性糖質及び/又は高甘味度甘味料とを含有し、かつ3価鉄を還元する物質を使用していないことを特徴とする鉄味の発生が抑制された鉄強化飲食品。」を、「鉄剤として3価鉄と、甘味成分としての非還元性糖質及び/又は高甘味度甘味料とを含有し、3価鉄を還元する物質を使用せず、かつ、Fe2+濃度が2mg%以下であることを特徴とする鉄味の発生が抑制された鉄強化飲食品。」と訂正する。 (2)請求項2ないし請求項4を削除する。 (3)本件明細書の段落【0018】の「甘味成分として還元性糖質の砂糖を使用して・・・」における「還元性糖質の」を削除する。 2.訂正の目的の適否、新規事項の有無及び拡張・変更の存否 訂正事項(1)は、「Fe2+濃度が2mg%以下である」という事項を直列的に付加するものであるから、また、訂正事項(2)は、特許請求の範囲の請求項を削除するものであるから、いずれも特許請求の範囲の減縮を目的とした明細書の訂正に該当し、そして、訂正事項(3)は、明りょうでない記載の釈明を目的とした明細書の訂正に該当する。 また、訂正事項(1)ないし(3)は、いずれも新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、または変更するものではない。 3.むすび したがって、上記訂正は、特許法120条の4,2項及び同条3項で準用する126条2項及び3項の規定に適合するので、請求のとおり当該訂正を認める。 III.特許異議申立 1.本件発明 上記II.で示したように上記訂正が認められるから、本件の請求項1に係る発明(以下、「本件発明」という。)は、上記訂正に係る訂正明細書の特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される次のとおりのものである。 「鉄剤として3価鉄と、甘味成分としての非還元性糖質及び/又は高甘味度甘味料とを含有し、3価鉄を還元する物質を使用せず、かつ、Fe2+濃度が2mg%以下であることを特徴とする鉄味の発生が抑制された鉄強化飲食品。」 2.召田紀雄よりの特許異議申立 異議申立人は、甲第1号証ないし甲第4号証を提出し、(1)訂正前の請求項1ないし4に係る発明は、甲第1号証ないし甲第4号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである、或いは、(2)訂正前の本件明細書は特許法第36条に規定する要件を満たしていない、と主張している。 (1)特許法29条2項違反について A.甲各号証の記載内容 甲第1号証(特開平9-194356号公報)には、「有機鉄化合物及び、1種または2種以上の有機酸を0.05〜2.0重量%でかつ有機鉄化合物中の鉄成分1重量部に対して3〜300重量部になるよう配合し、pHが2.5〜5.0である鉄化合物配合内服液剤。」(特許請求の範囲の請求項1)、「本発明は鉄由来の金属味が軽減された鉄化合物配合内服液剤に関するものであり、医薬、食品の分野に応用できるものである。」(段落【0001】)、「従来より鉄分を補給するには、鉄由来の独特な味のため水溶液で経口的に補給するのには向いていなかった。本発明の目的は、鉄由来の不快な味をマスキングし、貧血の予防などに対して極めて有効な鉄分補給内服液剤を提供することである。」(段落【0003】)、「本発明において用いられる有機鉄化合物としては、クエン酸鉄、クエン酸鉄アンモニウム、クエン酸鉄ナトリウム、グルコン酸第一鉄、乳酸鉄などであり、中でもクエン酸鉄アンモニウムが好ましい。有機鉄化合物の摂取量は、有機鉄化合物中の鉄成分に換算して1日0.5〜18mgである。」(段落【0004】)、「甘味剤としては、砂糖、果糖、ブドウ糖、液糖、ソルビトール、キシリトール、マルチトール、エリスリトール、トレハロース、イノシトール、還元麦芽糖水飴、ステビア抽出物、アスパルテームなどを挙げることができる。」(段落【0009】)、及び「実施例15 グルコン酸カルシウム1000mg、クエン酸鉄アンモニウム100mg、・・・ステビア抽出物30mg、砂糖26000mg、安息香酸ナトリウム60mg、リンゴ酸ナトリウム100mg、クエン酸600mg、リンゴ酸適量、ミックスフレーバー微量、精製水 全量200ml (製造方法)実施例12と同様の方法で製造した(pH=3.5)。」と記載されている。 甲第2号証(「化学大辞典3縮刷版」昭和47年9月15日共立出版発行25頁)には、「くえんさんてつアンモニウム 拘櫞酸鉄-・・・2価および3価鉄の塩が知られている。[1]クエン酸鉄(II)アンモニウム、クエン酸第一鉄アンモニウム・・・きわめて分解しやすく固体で保存することはできない。 [2]クエン酸鉄(III)アンモニウム、クエン酸第二鉄アンモニウム・・・用途・・・2)医薬品:(6局)収載のものは無臭の透明な赤カッ色のウロコ状結晶、または粒あるいは帯カッ黄色の粉末。鉄含量16.5〜21.2%の規定。緩和な鉄剤で、鉄欠乏の貧血症に補血強壮の目的で水剤、丸剤または散剤として内用。用量1回0.3g.1日1g.」と記載されている。 甲第3号証(「食品添加物便覧1987年版」昭和62年6月20日食品と科学社発行)には、「クエン酸鉄」の「別名外国名」の項に「クエン酸第二鉄」(245頁)と記載され、「クエン酸鉄アンモニウム」の「別名外国名」の項に「Ferric ammonium citrate」(246頁)と記載されている。 甲第4号証(「ジャパンフードサイエンス」36巻11号41頁)には、「表1 トレハロースによる矯味・矯臭試験結果」として、鉄分(血液)の生臭味が減じたことが記載されている。 B.判断 本件発明は、2価鉄は非常に強い鉄味を呈するが、3価鉄は殆ど鉄味を呈しないこと、また、殆ど鉄味を呈しない3価鉄は、飲食品中において還元糖等の還元性成分の影響で還元されて2価鉄になり、鉄味を呈するようになるという知見に基づいて、「鉄剤として3価鉄と、甘味成分としての非還元性糖質及び/又は高甘味度甘味料とを含有し、3価鉄を還元する物質を使用せず、かつ、Fe2+濃度が2mg%以下である」と特定した鉄強化飲食品に関する発明である。 これに対して、甲第1号証に係る鉄分補給内服液剤は、有機鉄化合物に1種または2種以上の有機酸を0.05〜2.0重量%でかつ有機鉄化合物中の鉄成分1重量部に対して3〜300重量部になるよう配合し、pHを2.5〜5.0とすることにより、鉄由来の不快な味をマスキングするものであるから、本件発明とはその技術的思想を異にするものである。 すなわち、甲第1号証には、有機鉄化合物として「クエン酸鉄、クエン酸鉄アンモニウム、クエン酸鉄ナトリウム、グルコン酸第一鉄、乳酸鉄」が例示されているものの、本件発明のように、鉄味の発生を抑制するために、鉄剤として3価鉄を用いることについて言及するところはなく、また、併用し得る甘味剤として、「砂糖、果糖、ブドウ糖、液糖、ソルビトール、キシリトール、マルチトール、エリスリトール、トレハロース、イノシトール、還元麦芽糖水飴、ステビア抽出物、アスパルテーム」などが例示されているが、3価鉄が飲食品中において還元糖等の還元性成分の影響で還元されて2価鉄になり、鉄味を呈するようになるのを防止するために、本件発明のように、甘味成分として非還元性糖質及び/又は高甘味度甘味料を使用することについては、何ら教えるところはない。 また、甲第2号証には、医薬用に使用されるクエン酸鉄アンモニウムが3価の鉄からなるクエン酸第2鉄アンモニウムであることが、甲第3号証には、食品添加剤として使用されるクエン酸鉄が3価の鉄であることが、甲第4号証には、トレハロースが食品中の鉄分の「生臭味」の矯味・矯臭効果を有することが、それぞれ記載されているものの、これ以上、本件発明について教示するところはない。 そして、本件発明の効果をみると、本件明細書の特に「試験例1」及び「試験例2」によると、試料にクエン酸が添加されていなくても、鉄剤として3価鉄塩を使用した場合は、鉄味を呈さないということであるから、本件発明に係る効果は、甲第1号証ないし甲第4号証に記載された事項から予測されるところを超えて優れているというべきである。 したがって、本件発明は、甲第1号証ないし甲第4号証に記載の発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたということはできない。 (2)明細書の記載不備について 異議申立人は、(a)訂正前の請求項1には、2価鉄の含有の有無、及びその濃度に関して限定がない、(b)訂正前の請求項2において、2価鉄の濃度が限定されているが、2価鉄の濃度は、時々刻々変わるものであり、いつの時点での濃度であるかの限定がないので、訂正前の請求項2に係る発明は明確ではない、並びに(c)訂正前の請求項3に係る鉄強化菓子及び請求項4に係る鉄強化タブレットにおける2価の鉄濃度については、本件明細書のどこにも記載されていない、と主張している。 (a)について 上記訂正請求により、本件請求項1には、「Fe2+濃度が2mg%以下である」という事項が加入されたので、上記(a)の主張には、もはや理由がない。 (b)について 訂正前の請求項2は、上記訂正請求により削除されたが、訂正後の請求項1に、「Fe2+濃度が2mg%以下である」という事項が加入されたので検討するに、本件明細書の段落【0021】の「表4」によると、「実施例2」では、4週目に「1.95±0.13mg%」という数値であって、確かに「2mg%」を超えることもあり得るが、5週目以降どのようになるか異議申立人はデータを示しているわけではないこと、及び本件明細書の表4ないし6には、2価鉄濃度が2mg%以下のときには、「鉄味の発生が抑制される」ことが明確に示されていることを併せ考えると、いつの時点での濃度であるかの限定がないからといって、そのことが直ちに本件明細書の特許請求の範囲の記載を不明確にすることにはならない。したがって、異議申立人の上記主張は採用しない。 (c)について 上記訂正請求により、請求項3及び請求項4は削除されたので、上記(c)の主張には理由がない。 3.太田和良よりの特許異議申立 異議申立人は、甲第1号証ないし甲第2号証を提出し、訂正前の請求項1及び2に係る発明は、甲第1号証に記載された発明である、或いは、訂正前の請求項1、3及び4に係る発明は、甲第1号証及び甲第2号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである、と主張している。 A.甲各号証の記載内容 甲第1号証(特開平7-31407号公報)には、「鉄及び又はマグネシウム及び又はカルシウムのイオンの1種以上を含む溶液に、レバウディオサイドAを添加してなることを特徴とする該溶液の呈味性の改善された溶液。」(特許請求の範囲の請求項1)、「これ等の溶液は例えば、天然水、医薬液、獣医薬液あるいは機能性食品(鉄、マグネシウム及びまたはカルシウムを添加してなる溶液を健康の回復、増進ないし病気予防に資する食品をいう)として多用される。」(2頁1欄12行〜16行)及び「〔例1〕クエン酸第一鉄ナトリウム55mg/100mlの溶液に、レバウディオサイドA20mgを添加した溶液(35℃)について、金属味をパネル(・・・)で試験した。いずれの者も金属味を感じなかった。」(3頁3欄7行〜11行)と記載されている。 甲第2号証(特開平9-28305号公報)には、「本発明の蛋白質補給用食品に含有される前記乳蛋白質加水分解物以外の成分としては、甘味料、酸味料、香料、塩類、脂肪、その他の炭水化物等を例示することができる。これらの成分は、風味の調整を主要目的として配合されるものであって、前記乳蛋白質加水分解物自体が蛋白質補給用食品として許容される風味を有するものである場合には、配合する必要はなく、前記乳蛋白質加水分解物100%からなる蛋白質補給用食品とすることも可能である。好ましい甘味料としては、ステビア、ソーマチン、アスパルテーム等を例示することができる。好ましい酸味料としては、クエン酸、リンゴ酸、グルコン酸、アスコルビン酸等を例示することができる。」(段落【0031】ないし【0033】)、「好ましい塩類としては、カルシウム塩、鉄塩、マグネシウム塩等が例示され、より具体的には、リン酸カルシウム、ミルクカルシウム、ピロリン酸第2鉄等を例示することができる。」(段落【0035】)、及び「実施例2 1回分の組成として次に示す各成分の配合量を有する粉末飲料組成物を調製した。(単位はg) 参考例1のカゼイン加水分解物 11.6 サンスウィート(ステビア・ソーマチン混合物:三栄源FFI社製)0.1 アスパルテーム(味の素社製) 0.06 クエン酸(三栄源FFI社製) 2.1 ビタミンC(アスコルビン酸:第一製薬社製) 0.175 STフレーバー(シトラスフレーバー:三栄源FFI社製) 0.3 GFフレーバー(グレープフルーツフレーバー:長谷川香料社製)0.5 ピロリン酸第2鉄(冨田製薬社製) 0.03 上記粉末飲料組成物を350mlの水道水に溶解したところ、沈殿等を生じずに素早く溶解した。得られた飲料は風味が良好であり、飽きのこない風味であり、反復して飲用可能であった。」(段落【0088】ないし【0089】)と記載されている。 B.判断 甲第1号証には、「クエン酸第一鉄ナトリウム」と、本件発明に係る高甘味度甘味料に相当する「レバウディオサイドA」を配合してなる溶液が開示されており、これについて、金属味をパネル試験した結果、いずれの者も金属味を感じなかったことが記載されている。 しかし、「クエン酸第一鉄ナトリウム」は、2価鉄塩であり、また、実施例1に係る溶液を調製するに際して、「クエン酸第一鉄ナトリウム」が酸化されて3価の鉄になっているとも確認できず、また、甲第1号証には、鉄剤として3価の鉄を使用すれば、鉄味の発生が抑制されることについて教示するところは全くない。 そうすると、本件発明は、甲第1号証に記載された発明であるとはいえず、また、甲第1号証に記載された発明に基づき当業者が容易に発明をすることができたともいえない。 なお、異議申立人は、甲第1号証に係るクエン酸第一鉄ナトリウムは、製造工程において特段の処置を講じていないのであるから、製造工程において溶存酸素の酸化を受け、3価鉄になると判断される(申立書7頁)、と主張しているが、これは裏付けとなるデータ等により確認されたものではないので、この主張は採用できない。 甲第2号証には、その実施例2において、3価鉄であるピロリン酸第2鉄に、高甘味度甘味料であるアスパルテームを配合した粉末飲料組成物が開示されているが、該粉末飲料組成物には、ビタミンC(アスコルビン酸)も配合されている。 本件明細書の「試験例1」によると、還元剤のアスコルビン酸を添加した3価鉄塩のクエン酸鉄アンモニウム水溶液(試料3)では、Fe2+濃度が比較的高くなり強い鉄味を呈するのであるから、ビタミンC(アスコルビン酸)は、3価鉄を還元する物質であると解されることに照らし、甲第2号証には、3価鉄を還元する物質を使用しないという本件発明について教示するところはなく、しかも、3価の鉄であれば鉄味の発生を抑制することについて言及するところはない。 そうすると、本件発明は、甲第1号証及び甲第2号証に記載された発明に基づき当業者が容易に発明をすることができたということはできない。 4.川田和美よりの特許異議申立 異議申立人は、甲第1号証ないし甲第2号証を提出し、(1)訂正前の請求項1ないし4に係る発明は、甲第1号証又は甲第2号証に記載された発明である、若しくは、甲第1号証及び甲第2号証に記載された発明に基づき当業者が容易に発明をすることができたものである、或いは、(2)本件明細書の比較例1に還元性糖質として砂糖を記載し、あたかも「甘味成分としての非還元性糖質」に砂糖が属さない旨の主張をしているが、そうであれば、請求項1は、「甘味成分としての砂糖を除く非還元性糖質」とするべきであり、この点で明細書に記載不備がある、旨主張している。 (1)特許法29条1項3号若しくは2項違反について A.甲各号証の記載内容 甲第1号証(「ビバリッジジャパン」22巻6号12頁)には、「<ライト>は、無脂乳固形分8.2%、乳脂肪分0.1%。原材料表記は、脱脂粉乳、還元麦芽糖水あめ、ポリデキストロース、乳酸Ca、安定剤(ペクチン)、ピロリン酸鉄、香料、甘味料(アスパルテーム(L-フェニルアラニン化合物))、ビタミンD。」と記載されている。 甲第2号証(「’97ビタミンガイド 飲料・食品編」平成8年11月発行57,92,及び94頁)には、「ラピス カルシウムFeドリンク」の項に「原材料 液糖、グルコン酸カルシウム、ソルビット、精製ハチミツ、酸味料,CCP、クエン酸鉄ナトリウム、ビタミンD3、香料」、「ジョガーズ鉄」の項に「原材料 ブドウ糖、乳糖、砂糖、水飴、梅果汁、リンゴ酸、ピロリン酸第二鉄、乳化剤、植物性油脂、ゼラチン、香料、赤キャベツ、クチナシ、増量剤」、「豊年トールケアFe」の項に「原材料 澱粉、乳糖、還元麦芽糖、ココアパウダー、ピロリン酸鉄、乳化剤、リン酸カルシウム、香料」、及び「ウインダー・マルチタブ メガポリック」の項に「原材料 オートミール、カキ殻粉末、果糖、ハチミツ、昆布粉末、レモンピール、リン酸Ca、塩化マグネシウム、酵母エキス粉末、小麦胚芽油、ピロリン酸鉄、アセロラ粉末、野バラの実、レシチン、マルトデキストリン、ビートエキス、スギナ粉末、各種ビタミン、他」と記載されている。 B.判断 甲第1号証に係るピロリン酸鉄は、3価の鉄であると直ちにいえないが、例え3価の鉄であるとしても、還元性糖質である乳糖を含んだ脱脂乳が配合されており、また、甲第2号証に係る鉄剤が2価鉄か3価鉄かはさておき、「ラピス カルシウムFeドリンク」では、還元性糖質を含む精製ハチミツ、また、「ジョガーズ鉄」では、ブドウ糖、及び乳糖、「豊年トールケアFe」では、乳糖、並びに「ウインダー・マルチタブ メガポリック」では、果糖という還元性糖質を原材料として含むものである。 してみると、本件発明は、甲第1号証又は甲第2号証に記載された発明であるとはいえず、また、甲第1号証及び甲第2号証には、鉄剤として3価の鉄を使用すれば、鉄味の発生が抑制されることについて教えるところはないのであるから、本件発明は、甲第1号証及び甲第2号証に記載された発明に基づき当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。 (2)明細書の記載不備について 訂正前の本件明細書の段落【0018】には、「甘味成分として還元性糖質の砂糖を使用して、」との記載があったところ、上記訂正請求により、この「還元性糖質の」との語句が削除されたこと、並びに、特許権者が提出した参考文献1及び2には、砂糖は液の状態により還元性や非還元性を示すことが記載されていることを併せ考えると、本件の請求項1に「甘味成分としての砂糖を除く非還元性糖質」と記載する必要はないというべきである。 したがって、異議申立人の上記主張は採用しない。 5.まとめ 以上のとおりであるから、特許異議申立ての理由及び証拠によっては、本件請求項1に係る発明の特許を取り消すことはできない。 また、他に本件請求項1に係る発明の特許を取り消すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり決定する。 |
発明の名称 |
(54)【発明の名称】 鉄強化飲食品 (57)【特許請求の範囲】 【請求項1】 鉄剤として3価鉄と、甘味成分としての非還元性糖質及び/又は高甘味度甘味料とを含有し、3価鉄を還元する物質を使用せず、かつ、Fe2+濃度が2mg%以下であることを特徴とする鉄味の発生が抑制された鉄強化飲食品。 【発明の詳細な説明】 【0001】 【発明の属する技術分野】 本発明は、鉄剤としての3価鉄と、甘味成分としての非還元性糖質及び/又は高甘味度甘味料とを含有することで、鉄味の発生が抑制された鉄強化飲食品に関する。本発明の鉄強化飲食品は、製造や保存中における鉄味の発生が抑制されるという特徴を有するので、従来の鉄強化飲食品と比べて鉄味を呈することがなく良好な嗜好性を有する。 【0002】 【従来の技術】 現在、市販されている鉄強化飲食品の形態としては、飲料、菓子、タブレット等が主流である。そして、これらの鉄強化飲食品においては、鉄剤として、クエン酸第一鉄ナトリウム、クエン酸鉄アンモニウム、ピロリン酸第二鉄等が使用されており、また、糖質として、砂糖、果糖、ブドウ糖、乳糖等の糖類のみが使用されたり、これらの糖類とマルチトール等の糖アルコールが併用されたりしている。 ところで、クエン酸第一鉄ナトリウム、クエン酸鉄アンモニウム、ピロリン酸第二鉄等の鉄剤を配合した鉄強化飲食品では、鉄剤の配合量が少ないと鉄味を感じることは殆ど無いが、鉄剤の配合量が多くなると、鉄味が発生し嗜好性が低下するという問題がある。この問題は、クエン酸第一鉄ナトリウムやクエン酸鉄アンモニウム等の水溶性の鉄剤を使用した場合に顕著であるが、ピロリン酸第二鉄等の不溶性の鉄剤を使用した場合でも、酸や油脂等、他の食品成分の影響等で鉄剤が溶解し、鉄味が発生することがある。また、製造後、暫くの間は鉄味が発生することがなくとも、鉄が何らかの原因で酸化あるいは還元されて、保存中に徐々に鉄味が発生することもある。 【0003】 例えば、市販されている鉄強化飲料の場合、1本(100ml)当たりの鉄含量は1mg未満のものから1日の所要量である12mg以上のものまで様々であるが、一般的には鉄強化飲料中に含まれる鉄濃度が高くなる程、鉄味が強くなる傾向にある。 具体的には、鉄強化飲料1本当たりの鉄含量が1mg前後、もしくはそれ以下のものでは、殆ど鉄味は気にならないが、鉄含量が1日の所要量の1/3である4mg、もしくはそれ以上のものでは、鉄味が強くなり嗜好性に欠けるものとなる。また、市販されている鉄強化チュアブルタブレットの場合、1錠(1g)当たりの鉄含量は1mg前後のものから、1日の所要量の1/4である3mg、1日の所要量の1/3である4mg、1日の所要量の1/2である6mgのもの等がある。そして、使用した鉄剤やその他の原料等によっても異なるが、鉄強化チュアブルタブレット1錠当たりの鉄含量が3mg以上のものでは鉄味が気になる場合が多い。さらに、市販されている鉄強化ゼリー等では、1粒(10g)当たりの鉄含量は1mg前後のものが多いが、この程度の鉄含量でも鉄味が気になる場合が多い。 【0004】 【発明が解決しようとする課題】 本発明者らは、上述した鉄強化飲食品における鉄味の発生という問題を解決するべく鋭意研究を進めたところ、2価鉄は非常に強い鉄味を呈するが、3価鉄は殆ど鉄味を呈しないという知見を得た。また、殆ど鉄味を呈しない3価鉄は、飲食品中において還元糖等の還元性成分の影響で還元されて2価鉄になり、鉄味を呈するようになるという知見も得た。 そこで、本発明者らは、鉄強化飲食品を製造するに際し、鉄剤として、3価鉄塩又は製造工程中に酸化されて3価鉄となる2価鉄塩を使用し、また、甘味成分として、従来の鉄強化飲食品に使用されていた砂糖、ブドウ糖、果糖等の糖質に代えて非還元性糖質及び/又は高甘味度甘味料を使用して、3価鉄と非還元性糖質及び/又は高甘味度甘味料とを含有した鉄強化飲食品とすることにより、鉄味の発生を抑制することができることを見出し、本発明を完成するに至った。 したがって、本発明は、鉄味を呈することがなく良好な嗜好性を有する鉄強化飲食品を提供することを課題とする。 【0005】 【課題を解決するための手段】 本発明の鉄強化飲食品は、鉄剤として、3価鉄を含有しており、また、甘味成分として、非還元性糖質及び/又は高甘味度甘味料を含有している。 そして、本発明の鉄強化飲食品に3価鉄を含有させるためには、鉄剤として、クエン酸鉄アンモニウム、塩化第二鉄、ピロリン酸第二鉄等の3価鉄塩やクエン酸第一鉄ナトリウム、硫酸第一鉄等の製造工程中で酸化されて3価鉄となる2価鉄塩を使用すれば良い。また、本発明の鉄強化飲食品に非還元性糖質及び/又は高甘味度甘味料を含有させるためには、甘味成分として、エリスリトール、マルチトール、ソルビトール、パラチニット等の糖アルコール類、還元水飴、トレハロース等の安定な非還元性糖類やステビア、アスパルテーム等の高甘味度甘味料を使用すれば良い。 なお、高甘味度甘味料としては、上記した以外の甘味料であっても、非還元性を示すものであれば使用することができる。 【0006】 次に試験例を示し、鉄剤の種類による鉄味の発生の有無について説明する。 【試験例1】 鉄剤として使用する3価鉄塩と2価鉄塩のFe2+濃度と鉄味の発生との関係を調べた。 なお、3価鉄塩としてクエン酸鉄アンモニウムを使用し、2価鉄塩としてクエン酸第一鉄ナトリウムを使用した。 まず、それぞれの鉄塩を鉄として10mg%になるよう水に溶解して試料を調製した。また、3価鉄塩のクエン酸鉄アンモニウムについては、還元剤としてアスコルビン酸を50mg%濃度で添加した試料も調製した。 試料1:3価鉄塩のクエン酸鉄アンモニウム水溶液 試料2:2価鉄塩のクエン酸第一鉄ナトリウム水溶液 試料3:還元剤のアスコルビン酸を添加した3価鉄塩のクエン酸鉄アンモニウム水溶液 この試料1〜3について、水溶液中のFe2+濃度を測定すると共に、専門パネル5人による鉄味の官能評価を実施した。なお、Fe2+濃度の測定は、鉄測定キット(Fe C-テストワコー;和光純薬工業社製)を使用し、以下のように行った。 まず、試料1〜3をイオン交換水で10倍希釈した後、各0.2mlずつを試験管に分注し、次に、0.4M酢酸緩衝液(pH6.25)2.0mlを試験管に分注して十分混合し、さらに、発色試薬の22mM 2-ニトロソ-5-(N-プロピル-N-スルホプロピルアミノ)フェノール(Nitroso-PSAP)1滴を滴下して十分混合した。そして、この溶液を室温で5分間放置した後、2時間以内に750nmにおける吸光度を測定した。また、鉄の標準液(鉄濃度:0、50、100、150、200μg%)各0.2mlずつを試験管に分注し、次に、0.4M酢酸緩衝液(pH6.25)と還元剤の0.45Mチオグリコール酸を20:1(容積比率)の割合で混合した溶液2.0mlずつを試験管に分注して十分混合し、さらに、発色試薬の22mM 2-ニトロソ-5-(N-プロピル-N-スルホプロピルアミノ)フェノール(Nitroso-PSAP)1滴を滴下して十分混合した。そして、この溶液を室温で5分間放置した後、2時間以内に750nmにおける吸光度を測定し、この値から検量線を作成して各試料中のFe2+濃度を求めた。また、官能検査専門パネル10名によって各試料の官能評価を行った。 その結果を表1に示す。 【0007】 【表1】 【0008】 A:鉄味を呈しない。 B:かなり強い鉄味を呈する。 これによると、3価鉄塩のクエン酸鉄アンモニウム水溶液(試料1)は、Fe2+濃度が低く鉄味も呈しないが、2価鉄塩のクエン酸第一鉄ナトリウム水溶液(試料2)及びアスコルビン酸を添加して還元した3価鉄塩のクエン酸鉄アンモニウム水溶液(試料3)は、Fe2+濃度が比較的高くかなり強い鉄味を呈した。 【0009】 【試験例2】 3価鉄塩として塩化第二鉄を使用し、2価鉄塩として硫酸第一鉄を使用して試料を調製した。 試料1:3価鉄塩の塩化第二鉄水溶液 試料2:2価鉄塩の硫酸第一鉄水溶液 試料3:還元剤のアスコルビン酸を添加した3価鉄塩の塩化第二鉄水溶液 そして、試験例1と同様にして、Fe2+濃度と鉄味の発生との関係を調べた。 その結果を表2に示す。 【0010】 【表2】 【0011】 A:鉄味を呈しない。 B:かなり強い鉄味を呈する。 これによると、3価鉄塩の塩化第二鉄水溶液(試料1)は、Fe2+濃度が非常に低く鉄味も呈しないが、2価鉄塩の硫酸第一鉄水溶液(試料2)及びアスコルビン酸を添加して還元した3価鉄塩の塩化第二鉄水溶液(試料3)は、Fe2+濃度が非常に高くかなり強い鉄味を呈した。 【0012】 【試験例3】 3価鉄塩で水に不溶性のピロリン酸第二鉄を鉄として5mg%になるよう0.2%クエン酸水溶液に添加し、撹拌しながら90℃で5分間加熱することにより得られる透明で淡黄色の水溶液を試料として調製した。また、この試料に還元剤としてアスコルビン酸を50mg%濃度で添加した試料も調製した。 試料1:3価鉄塩のピロリン酸第二鉄-クエン酸水溶液 試料2:還元剤のアスコルビン酸を添加した3価鉄塩のピロリン酸第二鉄-クエン酸水溶液 そして、試験例1と同様にして、Fe2+濃度と鉄味の発生との関係を調べた。 その結果を表3に示す。 【0013】 【表3】 【0014】 A:鉄味を呈しない。 B:かなり強い鉄味を呈する。 これによると、3価鉄塩のピロリン酸第二鉄-クエン酸水溶液(試料1)は、Fe2+濃度が低く鉄味も呈しないが、アスコルビン酸を添加して還元した3価鉄塩のピロリン酸第二鉄-クエン酸水溶液(試料2)は、Fe2+濃度が高くかなり強い鉄味を呈した。 以上のように、鉄剤として、2価鉄塩を使用したり、製造中や保存中に還元されるような状態で3価鉄塩を使用した場合、鉄味が発生することが判った。したがって、鉄強化食品を製造するに際しては、クエン酸鉄アンモニウム、塩化第二鉄、ピロリン酸第二鉄等の3価鉄塩を使用し、製造中や保存中に3価鉄塩を還元するような物質を使用しないようにする必要がある。 【0015】 【発明の実施の形態】 本発明では、鉄強化飲食品を製造するに際し、鉄剤として、クエン酸鉄アンモニウム、塩化第二鉄、ピロリン酸第二鉄等の3価鉄塩やクエン酸第一鉄ナトリウム、硫酸第一鉄等の製造工程中で酸化されて3価鉄となる2価鉄塩を使用し、また、甘味成分として、エリスリトール、マルチトール、ソルビトール、パラチニット等の糖アルコール類、還元水飴、トレハロース等の安定な非還元性糖類やステビア、アスパルテーム等の高甘味度甘味料を使用する。そして、本発明では、鉄強化飲食品を製造するに際し、上記した鉄剤や甘味成分以外の原料として、還元性のない酸味料や香料等を必要に応じて使用することができる。 なお、鉄剤や甘味成分の配合量に特に制限はないが、鉄剤については、鉄強化の目的を達成できるよう配合する必要がある。例えば、所要量及び市販品の現状から判断して、鉄強化飲料の場合、1本100ml当たり鉄を2〜12mg配合することが好ましく、また、鉄強化ゼリーの場合、1粒10g当たり鉄を2〜12mg配合することが好ましく、さらに、鉄強化チュアブルタブレットの場合、1粒1g当たり鉄を2〜12mg配合することが好ましい。このようにして、保存中においても鉄味の発生が抑制された飲料、菓子、タブレット等の鉄強化飲食品を製造することができる。 次に実施例を示し、本発明をさらに詳しく説明する。 【0016】 【実施例1】 鉄剤として3価鉄塩のクエン酸鉄アンモニウムを使用し、甘味成分として糖アルコールのエリスリトールと高甘味度甘味料のステビアを使用して、鉄強化飲料を製造した。 すなわち、クエン酸鉄アンモニウム(純正化学社製)0.162〜2.16kg(この範囲で鉄濃度の異なる鉄強化飲料5種を製造した)を40℃のイオン交換水10kgで溶解した後、予め50℃に加温しておいたイオン交換水2,200kgに加えて撹拌し、さらに、エリスリトール(日研化学社製)300kgとステビア(丸善製薬社製)0.90kgを加えて撹拌し、溶解した。次に、上記した溶液にクエン酸(和光純薬工業社製)15kgを加えて撹拌し、40〜50℃の温度で一晩保持した後、フレーバー6kgを加えて20分以上撹拌し、常温のイオン交換水で3,000kgになるよう比重調整を行って原料ミックスを調製した。 この原料ミックス3,000kgをプレート殺菌機で加熱殺菌(85℃、15秒)し、瓶に充填し、85℃の熱水シャワーで後殺菌(15分)した後、40℃の温水シャワーで冷却(5分)して、鉄強化飲料を製造した。このようにして得られた鉄強化飲料は、鉄味を呈することがなく良好な風味を有しており、外観はクエン酸鉄アンモニウムのキレート色である淡黄色を呈していた。 【0017】 【実施例2】 鉄剤として2価鉄塩のクエン酸第一鉄ナトリウムを使用し、甘味成分として非還元性糖質のトレハロースと高甘味度甘味料のステビアを使用して、鉄強化飲料を製造した。 すなわち、クエン酸第一鉄ナトリウム(エーザイ社製)0.270〜3.60kg(この範囲で鉄濃度の異なる鉄強化飲料5種を製造した)を40℃のイオン交換水10kgで溶解した後、予め50℃に加温しておいたイオン交換水2,200kgに加えて撹拌し、さらに、トレハロース(林原社製)300kgとステビア(丸善製薬社製)1.20kgを加えて撹拌し、溶解した。次に、上記した溶液にクエン酸(和光純薬工業社製)15kgを加えて撹拌し、40〜50℃の温度で一晩保持した後、フレーバー6kgを加えて20分以上撹拌し、常温のイオン交換水で3,000kgになるよう比重調整を行って原料ミックスを調製した。 この原料ミックス3,000kgをプレート殺菌機で加熱殺菌(85℃、15秒)し、瓶に充填し、85℃の熱水シャワーで後殺菌(15分)した後、40℃の温水シャワーで冷却(5分)して、鉄強化飲料を製造した。このようにして得られた鉄強化飲料は、鉄味を呈することがなく良好な風味を有しており、外観も淡黄色を呈していた。 【0018】 【比較例1】 鉄剤として3価鉄塩のクエン酸鉄アンモニウムを使用し、甘味成分として砂糖を使用して、鉄強化飲料を製造した。 すなわち、クエン酸鉄アンモニウム(純正化学社製)0.162〜2.16kg(この範囲で鉄濃度の異なる鉄強化飲料5種を製造した)を40℃のイオン交換水10kgで溶解した後、予め50℃に加温しておいたイオン交換水2,200kgに加えて撹拌し、さらに、砂糖(大日本製糖社製)300kgを加えて撹拌し、溶解した。次に、上記した溶液にクエン酸(和光純薬工業社製)15kgを加えて撹拌し、40〜50℃の温度で一晩保持した後、フレーバー6kgを加えて20分以上撹拌し、常温のイオン交換水で3,000kgになるよう比重調整を行って原料ミックスを調製した。 この原料ミックス3,000kgをプレート殺菌機で加熱殺菌(85℃、15秒)し、瓶に充填し、85℃の熱水シャワーで後殺菌(15分)した後、40℃の温水シャワーで冷却(5分)して、鉄強化飲料を製造した。このようにして得られた鉄強化飲料は、鉄味を呈することがなく良好な風味を有しており、外観はクエン酸鉄アンモニウムのキレート色である淡黄色を呈していた。 【0019】 【比較例2】 鉄剤として3価鉄塩のクエン酸鉄アンモニウムを使用し、甘味成分として還元性糖質の果糖ブドウ糖液糖を使用して、鉄強化飲料を製造した。 すなわち、クエン酸鉄アンモニウム(純正化学社製)0.162〜2.16kg(この範囲で鉄濃度の異なる鉄強化飲料5種を製造した)を40℃のイオン交換水10kgで溶解した後、予め50℃に加温しておいたイオン交換水2,200kgに加えて撹拌し、さらに、果糖ブドウ糖液糖(昭和産業社製)420kgを加えて撹拌し、溶解した。次に、上記した溶液にクエン酸(和光純薬工業社製)15kgを加えて撹拌し、40〜50℃の温度で一晩保持した後、フレーバー6kgを加えて20分以上撹拌し、常温のイオン交換水で3,000kgになるよう比重調整を行って原料ミックスを調製した。 この原料ミックス3,000kgをプレート殺菌機で加熱殺菌(85℃、15秒)し、瓶に充填し、85℃の熱水シャワーで後殺菌(15分)した後、40℃の温水シャワーで冷却(5分)して、鉄強化飲料を製造した。このようにして得られた鉄強化飲料は、僅かに鉄味を呈しており、外観は僅かに薄くなった淡黄色を呈していた。 【0020】 【試験例4】 実施例1、実施例2、比較例1、比較例2で得られた各鉄強化飲料の中、鉄濃度が8mg%の各鉄強化飲料を50℃で4週間保存し、1週間毎にFe2+濃度と鉄味の発生との関係を調べた。 そして、Fe2+濃度の測定は、試験例1に記載したと同様の方法により行った。 その結果を表4に示す。なお、表中の数値は、5回繰り返して得られた測定値の平均値であり、単位はmg%である。 【0021】 【表4】 【0022】 a,b,c,d,e,f,g,hのラベルが異なる試料間に有意差あり(p<0.05) また、鉄味の官能評価は、表5に示す4段階の評価点で専門パネル20人により行った。 【0023】 【表5】 【0024】 その結果を表6に示す。 なお、表中の数値は、評価点の平均値である。 【0025】 【表6】 【0026】 a,bのラベルが異なる試料間に有意差あり(p<0.05) これによると、3価鉄塩のクエン酸鉄アンモニウムと非還元性糖質である糖アルコールのエリスリトール及び高甘味度甘味料のステビアを使用して製造した鉄強化飲料(実施例1)は、50℃の保存でもFe2+濃度は殆ど増加せず、鉄味の発生も殆ど見られない嗜好性の高い製品であった。また、2価鉄塩のクエン酸第一鉄ナトリウムと非還元性糖質のトレハロース及び高甘味度甘味料のステビアを使用して製造した鉄強化飲料(実施例2)は、実施例1の鉄強化飲料と比べるとFe2+濃度はやや高く経時的に僅かに増加する傾向にあったが、鉄味の発生に有意差はなかった。 なお、実施例2の鉄強化飲料を製造するに際しては、2価鉄塩のクエン酸第一鉄ナトリウムを使用しているが、製造直後のFe2+濃度は比較的小さく、製造中に溶存酸素等の影響で2価鉄の大部分が酸化され、3価鉄になったものと考えられる。 【0027】 一方、3価鉄塩のクエン酸鉄アンモニウムと還元性糖質の砂糖を使用して製造した鉄強化飲料(比較例1)は、50℃の保存でFe2+濃度が有意に増加しており、鉄味の発生も認められ、実施例の鉄強化飲料と比べて有意に強くなっていた。また、3価鉄塩のクエン酸鉄アンモニウムと還元性糖質の果糖ブドウ糖液糖を使用して製造した鉄強化飲料(比較例2)は、製造直後からFe2+濃度が高く、鉄味も発生しており、50℃の保存でFe2+濃度が有意に増加し、鉄味も実施例の鉄強化飲料と比べて有意に強くなっていた。 したがって、鉄強化飲料を製造するに際しては、鉄剤として、3価鉄塩又は製造工程中に酸化されて3価鉄となる2価鉄塩を使用し、また、甘味成分として、非還元性糖質及び/又は高甘味度甘味料を使用することにより、鉄味の発生を抑制することができる。そして、このようにして製造された鉄強化飲料は、鉄強化に必要な鉄濃度である2mg%以上の鉄を含有していても、鉄味が気にならない程度のFe2+濃度である2mg%以下のレベルにFe2+濃度が維持されている。 【0028】 【実施例3】 表7に示した配合で、鉄剤として3価鉄塩のクエン酸鉄アンモニウムを使用し、甘味成分として非還元性糖質である還元水飴、糖アルコールのエリスリトールとソルビトール、高甘味度甘味料のステビアを使用して、1粒5gの鉄強化ゼリーを製造した。 なお、製造は常法に従って行い、鉄含量は鉄として4mg/粒とした。 【0029】 【表7】 【0030】 得られた鉄強化ゼリーについては、機械適性、風味、組織等に特に問題はなかった。また、50℃の保存でも4週目までは鉄味の発生は認められなかった。 【0031】 【実施例4】 表8に示した配合で、鉄剤として3価鉄塩のピロリン酸第二鉄を使用し、甘味成分として非還元性糖質である糖アルコールのマルチトールとパラチニット及び高甘味度甘味料のアスパルテームを使用して、1粒500mgの鉄強化チュアブルタブレットを製造した。 なお、製造は常法に従って行い、鉄含量は鉄として6mg/粒とした。 【0032】 【表8】 【0033】 得られた鉄強化チュアブルタブレットについては、打錠適性、風味、組織等に特に問題はなかった。また、50℃の保存でも4週目までは鉄味の発生は認められなかった。 【0034】 【発明の効果】 本発明の鉄強化飲食品は、鉄剤としての3価鉄と、甘味成分としての非還元性糖質及び/又は高甘味度甘味料とを含有させることにより、鉄味の発生が抑制される。したがって、従来の鉄強化飲食品で問題となっていた鉄味を呈することがなく、風味の良好な嗜好性の高い鉄強化飲食品を提供することができる。 |
訂正の要旨 |
審決(決定)の【理由】欄参照。 |
異議決定日 | 2004-08-27 |
出願番号 | 特願平9-364844 |
審決分類 |
P
1
651・
537-
YA
(A23L)
P 1 651・ 121- YA (A23L) P 1 651・ 113- YA (A23L) |
最終処分 | 維持 |
前審関与審査官 | 鈴木 恵理子 |
特許庁審判長 |
田中 久直 |
特許庁審判官 |
柿沢 恵子 河野 直樹 |
登録日 | 2001-10-26 |
登録番号 | 特許第3244264号(P3244264) |
権利者 | 雪印乳業株式会社 |
発明の名称 | 鉄強化飲食品 |
代理人 | 児玉 喜博 |
代理人 | 長谷部 善太郎 |
代理人 | 小野 信夫 |
代理人 | 児玉 喜博 |
代理人 | 長谷部 善太郎 |