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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  C08L
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  C08L
審判 全部申し立て 発明同一  C08L
管理番号 1107937
異議申立番号 異議2003-73471  
総通号数 61 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 1998-05-19 
種別 異議の決定 
異議申立日 2003-12-25 
確定日 2004-09-29 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第3436464号「付加反応硬化型導電性シリコーン組成物および導電性シリコーン硬化物の製造方法」の請求項1ないし5に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 訂正を認める。 特許第3436464号の請求項1ないし5に係る特許を維持する。 
理由 1.手続の経緯
特許第3436464号の請求項1〜5に係る発明は、平成8年10月31日に特許出願され、平成15年6月6日に特許権の設定登録がなされ、その後特許異議申立人信越化学工業株式会社により特許異議の申立てがなされ、取消しの理由が通知され、訂正請求書及び異議意見書が提出された後、平成16年8月27日付けで再度取消しの理由が通知され、その指定期間内である平成16年9月2日付けで、上記訂正請求を取り下げると共に、新たな訂正請求書が提出されたものである。
2.訂正の適否についての判断
(1)訂正の内容
ア.訂正事項a
特許請求の範囲の請求項1において「この沸点は400℃以下である」を「この沸点は150℃〜400℃の範囲内である」に訂正する。
イ.訂正事項b
請求項1において、「揮発性溶剤」を「揮発性溶剤(但し、有機ケイ素化合物および200℃/4時間における熱減量が30%以下である炭化水素系油を除く。)」に訂正する。
ウ.訂正事項c
段落【0006】において、「この沸点は400℃以下である」を「この沸点は150℃〜400℃の範囲内である」に訂正する。
エ.訂正事項d
段落【0006】において、「揮発性溶剤」を「揮発性溶剤(但し、有機ケイ素化合物および200℃/4時間における熱減量が30%以下である炭化水素系油を除く。)」に訂正する。
オ.訂正事項e
段落【0016】において、「揮発性溶剤である。」を「揮発性溶剤である。但し、有機ケイ素化合物および200℃/4時間における熱減量が30%以下である炭化水素系油を除く。」に訂正する。
カ.訂正事項f
段落【0016】において、「20℃〜400℃の範囲内であり、より好ましくは、100℃〜400℃の範囲内であり、特に好ましくは、」を削除する。
キ.訂正事項g
段落【0016】において、「o-キシレン…p-キシレン(bp=138℃)、」を削除する。
ク.訂正事項h
段落【0016】において、「、シクロオクタン(bp=149℃)」を削除する。
ケ.訂正事項i
段落【0016】において、「ジブチルエーテル(bp=143℃)」を削除する。
コ.訂正事項j
段落【0016】において、「エーテル化合物;…等の有機ケイ素化合物、およにこれらの」を「エーテル化合物、およびこれらの」に訂正する。
(2)訂正の目的、訂正の範囲の適否、拡張変更の存否
上記訂正事項aは願書に添付した明細書の段落【0016】の記載に基づき訂正するものであり、上記訂正事項bの前段の「揮発性溶剤」から「有機ケイ素化合物」を除外する訂正は段落【0016】に記載された「有機ケイ素化合物」を削除するものであり、後段の「揮発性溶剤」から「200℃/4時間における熱減量が30%以下である炭化水素系油を除く」の訂正は願書に添付した明細書の「揮発性溶剤」から先願明細書に先行技術として記載された事項を除外する訂正なので、いずれも特許請求の範囲の減縮を目的とする訂正に該当し、その内容は願書に添付した明細書に記載した事項の範囲内であり、実質上特許請求の範囲を拡張又は変更するものではない。
また、上記訂正事項c〜jは、上記訂正事項a及びbと整合を図るものであるから、明りょうでない記載の釈明を目的とした明細書の訂正に該当し、いずれも願書に添付した明細書に記載した事項の範囲内であり、実質上特許請求の範囲を拡張又は変更するものではない。
(3)むすび
したがって、上記訂正は、特許法第120条の4第2項及び同条第3項で準用する第126条第2項から第4項までの規定に適合するので、当該訂正を認める。
3.特許異議の申立てについての判断
(1)本件発明
上記2.で示したように上記訂正が認められるから、訂正後の本件の請求項1〜5に係る発明(以下、それぞれ「本件発明1〜5」という。)は、上記訂正に係る訂正明細書の特許請求の範囲の請求項1〜5に記載された事項により特定される以下のとおりのものである。
本件発明1
【請求項1】
(A)一分子中に少なくとも2個のアルケニル基を有するオルガノポリシロキサン 100重量部、
(B)一分子中に少なくとも2個のケイ素原子結合水素原子を有するオルガノポリシロキサン(本組成物を硬化させるに十分な量)、
(C)導電性金属系微粉末 50〜2000重量部、
(D)白金系付加反応用触媒 触媒量、および(E)本組成物の硬化温度よりも高い沸点(但し、この沸点は150℃〜400℃の範囲内である)を有する揮発性溶剤(但し、有機ケイ素化合物および200℃/4時間における熱減量が30%以下である炭化水素系油を除く。){(A)成分〜(D)成分の合計量100重量部に対して0.1〜10重量部}からなる付加反応硬化型導電性シリコーン組成物。
本件発明2
【請求項2】 (C)成分が銀微粉末であることを特徴とする、請求項1記載の付加反応硬化型導電性シリコーン組成物。
本件発明3
【請求項3】 (E)成分の配合量が、(A)成分〜(D)成分の合計量100重量部に対して0.1〜5重量部であることを特徴とする、請求項1記載の付加反応硬化型導電性シリコーン組成物。
本件発明4
【請求項4】 請求項1記載の付加反応硬化型導電性シリコーン組成物を硬化させることにより導電性シリコーン硬化物を製造する方法において、この組成物の硬化途上もしくは硬化後に、(E)成分を除去することを特徴とする導電性シリコーン硬化物の製造方法。
本件発明5
【請求項5】 (E)成分の沸点より低い硬化温度で付加反応硬化型導電性シリコーン組成物を硬化させた後、常圧下で加熱することにより(E)成分を除去することを特徴とする、請求項4記載の導電性シリコーン硬化物の製造方法。
(2)特許異議申立の理由の概要
特許異議申立人信越化学工業株式会社は、以下の甲第1〜5号証を提出し、請求項1〜5に係る発明の特許は、1)甲第1〜3号証より、特許法第29条第1項第3号の規定に違反してなされたものであるから取り消すべき旨、2)甲第1〜4号証より、特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものであるから取り消すべき旨、3)甲第5号証より、特許法第29条の2の規定に違反してなされたものであるから取り消すべき旨主張している。
甲第1号証:特開昭61-62528号公報
甲第2号証:特開平7-133432号公報
甲第3号証:特開平3-170581号公報
甲第4号証:JACS Vol.68(1946),691〜696頁
甲第5号証:特願平7-201595号(特開平9-31331号公報参照)
(3)各甲号証の記載
1)甲第1号証:特開昭61-62528号公報
甲第1号証には、「1.(イ)25℃における粘度が少なくとも100センチストークスであるオルガノポリシロキサン 100重量部(ロ)導電性充填剤 30〜300重量部および(ハ)任意量の架橋剤とを混合する際、〔ただし、…添加してもよい。〕(ニ)重合度10以下の環状もしくは直鎖状のオルガノポリシロキサン 10〜300重量部で希釈しながら混合し、成形時または成形後、(ニ)成分を除去することを特徴とする導電性シリコーンゴムの製造方法(特許請求の範囲)」が記載され、(ニ)成分は、「本組成物に(ロ)成分の導電性充填剤、特にはカーボンブラックを多量に配合するための希釈剤であり(4頁右上欄)」と記載されている。
2)甲第2号証:特開平7-133432号公報
甲第2号証には、「【請求項1】 (A)一分子中に少なくとも2個のアルケニル基を有するオルガノポリシロキサン 100重量部、(B)一分子中に少なくとも2個のケイ素原子結合水素原子を有するオルガノポリシロキサン{(B)成分の配合量は、(A)成分のアルケニル基1個に対して(B)成分のケイ素原子結合水素原子が0.5〜3個となる量である。}、(C)121℃、2気圧、100%RHの条件下で20時間水中に抽出することにより求められる、銀粉末中のNH4+の含有量が10ppm以下であり、かつSO42-の含有量が5ppm以下である銀粉末 50〜2000重量部および(D)白金系触媒{本組成物を硬化させるに十分な量である。}からなる導電性シリコーンゴム組成物。(特許請求の範囲)」が記載され、段落【0019】に「本組成物は、上記(A)成分〜(D)成分を均一に配合することにより得られるが、得られた導電性シリコーンゴムの接着性を付与するための任意の成分として、(E)成分のケイ素原子結合アルコキシ基を有する有機ケイ素化合物を配合することが好ましい。(E)成分の有機ケイ素化合物として具体的には、テトラメトキシシラン,テトラエトキシシラン,ジメチルジメトキシシラン,メチルフェニルジメトキシシラン,メチルフェニルジエトキシシラン,フェニルトリメトキシシラン,メチルトリメトキシシラン,メチルトリエトキシシラン,ビニルトリメトキシシラン,アリルトリメトキシシラン,アリルトリエトキシシラン,3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン,3-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン等のアルコキシシランが例示され、さらに接着性に優れた導電性シリコーンゴム組成物を調製することができることから、下式で表される有機ケイ素化合物であることが好ましい。」と記載され、段落【0021】に「本組成物において、(E)成分の配合は任意であり、好ましくは(A)成分100重量部に対して20重量部以下であり、さらに好ましくは0.5〜8重量部の範囲である。これは、(E)成分を配合しない場合には、得られるシリコーンゴムの接着性を有しないためであり、また(E)成分の配合量が(A)成分100重量部に対して20重量部をこえると、得られた組成物の貯蔵安定性が低下し、さらに得られたシリコーンゴムの硬度が経時的に高くなるからである。」と記載されている。
3)甲第3号証:特開平3-170581号公報
甲第3号証には、「(1)200℃で10mmHg以上の蒸気圧を有する低分子シロキサンの含有量が500ppm以下である導電性付加反応硬化型シリコーンゴム組成物からなることを特徴とする、半導体ペレットとタブとを接合するための導電性接着剤 (2)導電性付加反応硬化型シリコーンゴム組成物が、(A)200℃で10mmHg以上の蒸気圧を有する低分子シロキサンの量が500ppm以下である、1分子中に2個以上のケイ素原子結合アルケニル基を有するオルガノポリシロキサン 100重量部、(B)1分子中に2個以上のケイ素原子結合水素原子を有するオルガノポリシロキサン、(A)成分のアルケニル基1個に対し本成分のケイ素原子結合水素原子を0.5〜3個供給し得るに充分な量、(C)式、-SiOR1(式中、R1は1価炭化水素基である。)で表される官能基を有し、かつ、ケイ素原子結合低級アルケニル基もしくはケイ素原子結合水素原子を有する有機ケイ素化合物 0〜10重量部、(D)白金系触媒 触媒量、(E)シリカ微粉末系フィラー 0〜100重量部、および(F)導電性フィラー 50〜2000重量部からなることを特徴とする特許請求の範囲第1項記載の導電性接着剤。(特許請求の範囲)」が記載され、「(C)成分は本発明の導電性接着剤に接着性を付与するための成分であり、式、-SiOR1(式中、R1はメチル基,エチル基,プロピル基,プロペニル基等の1価炭化水素基である。)で表される官能基を有し、かつ、低級アルケニル基もしくはケイ素原子結合水素原子を有する有機ケイ素化合物である。かかる有機ケイ素化合物の具体例としては、…が例示される。また、その配合量は(A)成分100重量部に対し、0〜10重量部の範囲であり、好ましくは0.5〜3.0重量部の範囲である。(4頁右上〜左下欄)」と記載されている。
4)甲第4号証:JACS Vol.68(1946),691〜696頁
甲第4号証には、直鎖状又は環状の低分子ジメチルポリシロキサンの蒸気圧-温度の相関について記載されている。
5)甲第5号証:特願平7-201595号(特開平9-31331号公報参照)
甲第5号証には、「【請求項1】(1)下記平均組成式(I)
R1nSiO(4-n)/2 …(I)
(但し、式中R1は同一又は異種の非置換又は置換の1価炭化水素基であり、nは1.98〜2.02の正数である。)で示され、1分子中に少なくとも2個の脂肪族不飽和基を有するオルガノポリシロキサン 100重量部(2)比表面積が50m2/g以上である補強性シリカ粉末 10〜50重量部(3)導電性付与物質 0.1〜300重量部(4)200℃/4時間における熱減量が30%以下である炭化水素系油 0.1〜20重量部(5)硬化剤 (1)成分のオルガノポリシロキサンを硬化させ得る量を含有してなることを特徴とする半導電性シリコーンゴム組成物。(特許請求の範囲)」が記載され、段落【0022】には「本発明では、第4必須成分として炭化水素系油を配合する。ここで、炭化水素系油としては、C-C結合をもつ不揮発性の液体又は高粘度品であれば如何なるものでもよいが、揮発性が200℃で4時間における熱減量(揮発分)が30%以下のものであり、好ましくは0〜20%、更に好ましくは0〜10%である炭化水素系油を用いることが望ましい。揮発分が30%より多いとシリコーンゴムの利点である耐熱性を悪化させる原因になり、またポストキュアーした場合に炭化水素系油が酸化して変性したり減量してしまい、特に半導電域の抵抗を安定させる本発明の効果が得られない。なお、揮発性の測定は直径60mmのアルミシャーレに炭化水素系オイル1mlを入れ、加熱前後の重量変化により求められる。」と記載され、段落【0023】には「このような炭化水素系油としては、上記の加熱減量を満たす炭化水素系油なら特に制限されず、直鎖状、分岐状、環状構造を含んでいてもよい。不飽和結合は、耐熱性を悪くしない範囲で少量含んでいてもよい。具体的には、パラフィン系オイル、ナフテン系オイル、上記オイルにアロマティックな構造を含むオイル、ポリαオレフィンオイル(PAO)等が例示される。」と記載されている。
(4)対比・判断
1)特許法第29条第1項3号及び同条第2項について
本件発明1について
本件発明1と上記甲第1〜3号証(甲第4号証は、甲第3号証に記載された比較例の低分子シロキサン沸点範囲を推測する間接的な証拠である。)に記載された発明とを比較すると、甲第1〜3号証に記載された発明は、揮発性溶剤として環状オルガノポリシロキサン、アルコキシシラン等の有機ケイ素化合物を使用するものであり、本件発明1を特定する事項である「(E)本組成物の硬化温度よりも高い沸点(但し、この沸点は150℃〜400℃の範囲内である)を有する揮発性溶剤(但し、有機ケイ素化合物および200℃/4時間における熱減量が30%以下である炭化水素系油を除く。)」の要件をいずれも備えていない点で本件発明1と相違する。
したがって、本件発明1は、甲第1〜3号証に記載された発明とはいえない。
また、甲第1号証における環状オルガノポリシロキサンは導電性充填剤を多量に配合するための希釈剤として用いられるものであり、甲第2〜3号証におけるアルコキシシラン等の有機ケイ素化合物は接着性を付与するために配合される成分であることから、各甲号証における上記成分の配合目的と本件発明1の(E)成分の配合目的は相違している。
さらに、上記各甲号証には、環状オルガノポリシロキサンやアルコキシシラン等の有機ケイ素化合物以外の揮発性溶剤を使用できることは記載も示唆もされておらず、導電性シリコーンゴム組成物において、本件発明1の溶剤が希釈剤や接着性を付与する成分として一般的なものとも、甲1〜4号証の記載からは言えない。
そして、本件発明1では上記(E)成分の配合により、電気抵抗値や電気抵抗率において明細書記載の効果を奏するものと認める。
したがって、本件発明1は、甲第1〜4号証に記載された発明に基づき、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
本件発明2〜3について
本件発明2〜3は本件発明1を引用しその技術的事項をさらに限定するものであるから、それらの発明は、本件発明1と同様の理由で、甲第1〜4号証に記載された発明とはいえないし、甲第1〜4号証に記載された発明に基づき、当業者が容易に発明をすることができたものともいえない。
本件発明4〜5について
本件発明4〜5は本件発明1を用いる導電性シリコーン硬化物の製造方法であり、本件発明1の特定事項(E)成分を発明特定事項とするものであるから、本件発明1と同様の理由で、甲第1〜4号証に記載された発明とはいえないし、甲第1〜4号証に記載された発明に基づき、当業者が容易に発明をすることができたものともいえない。
2)特許法第29条の2について
本件発明1について
本件発明1と先願明細書に相当する甲第5号証に記載された発明(以下、「先願発明」という)とを比較すると、本件発明1では先願発明の(4)成分である「200℃/4時間における熱減量が30%以下である炭化水素系油」が除かれており、その点で両者は相違するものと認める。
したがって、本件発明1と先願発明とは、同一のものとはいえない。
本件発明2〜5について
本件発明2〜3は本件発明1を引用しその技術的事項をさらに限定するものであり、本件発明4〜5は本件発明1を用いる導電性シリコーン硬化物の製造方法で、本件発明1の特定事項(E)成分を発明特定事項とするものであるから、本件発明1と同様の理由で、先願発明と同一のものとはいえない。
(5)むすび
以上のとおりであるから、特許異議申立の理由及び証拠によっては、本件請求項1〜5に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件請求項1〜5に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
付加反応硬化型導電性シリコーン組成物および導電性シリコーン硬化物の製造方法
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】 (A)一分子中に少なくとも2個のアルケニル基を有するオルガノポリシロキサン
100重量部、
(B)一分子中に少なくとも2個のケイ素原子結合水素原子を有するオルガノポリシロキサン(本組成物を硬化させるに十分な量)、
(C)導電性金属系微粉末 50〜2000重量部、
(D)白金系付加反応用触媒 触媒量、
および
(E)本組成物の硬化温度よりも高い沸点(但し、この沸点は150℃〜400℃の範囲内である。)を有する揮発性溶剤(但し、有機ケイ素化合物および200℃/4時間における熱減量が30%以下である炭化水素系油を除く。){(A)成分〜(D)成分の合計量100重量部に対して0.1〜10重量部}
からなる付加反応硬化型導電性シリコーン組成物。
【請求項2】 (C)成分が銀微粉末であることを特徴とする、請求項1記載の付加反応硬化型導電性シリコーン組成物。
【請求項3】 (E)成分の配合量が、(A)成分〜(D)成分の合計量100重量部に対して0.1〜5重量部であることを特徴とする、請求項1記載の付加反応硬化型導電性シリコーン組成物。
【請求項4】 請求項1記載の付加反応硬化型導電性シリコーン組成物を硬化させることにより導電性シリコーン硬化物を製造する方法において、この組成物の硬化途上もしくは硬化後に、(E)成分を除去することを特徴とする導電性シリコーン硬化物の製造方法。
【請求項5】 (E)成分の沸点より低い硬化温度で付加反応硬化型導電性シリコーン組成物を硬化させた後、常圧下で加熱することにより(E)成分を除去することを特徴とする、請求項4記載の導電性シリコーン硬化物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、付加反応硬化型導電性シリコーン組成物および導電性シリコーン硬化物の製造方法に関し、詳しくは、付加反応により硬化して、電気抵抗値や電気抵抗率が低く、この電気抵抗値の温度依存性が小さく、さらに、この電気抵抗値や電気抵抗率の経時変化が小さい導電性シリコーン硬化物を形成できる付加反応硬化型導電性シリコーン組成物、およびこのような導電性シリコーン硬化物を効率よく製造する方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
付加反応により硬化して、導電性のシリコーン硬化物を形成する付加反応硬化型導電性シリコーン組成物は周知であり、例えば、一分子中に少なくとも2個のアルケニル基を有するオルガノポリシロキサン、一分子中に少なくとも2個のケイ素原子結合水素原子を有するオルガノポリシロキサン、銀微粉末、および白金系付加反応用触媒からなる導電性シリコーンゴム組成物(特開平3-170581号公報および特開平7-133432号公報参照)が挙げられる。
【0003】
しかし、これらの付加反応硬化型導電性シリコーン組成物は、硬化して得られる導電性シリコーン硬化物の電気抵抗値や電気抵抗率が高かったり、この電気抵抗値の温度依存性が大きかったり、さらには、この電気抵抗値や電気抵抗率の経時変化が大きかったりするという問題があった。すなわち、硬化直後の硬化物は、室温における電気抵抗値が低いものの、高温における電気抵抗値が高くなったり、さらには経時変化によって、この電気抵抗値や電気抵抗率が大きくなるという問題があった。このため、付加反応硬化型導電性シリコーン組成物中の導電性金属系微粉末を増量するという方法があるが、得られる組成物の粘度が著しく高くなり、その取扱作業性が極めて悪くなるという問題があった。また、付加反応硬化型導電性シリコーン組成物中の導電性金属系微粉末を増量して、この組成物の粘度を低下させ、その取扱作業性を向上させるために揮発性溶剤を多量に配合する方法があるが、得られる組成物が不均一となったり、また、得られる硬化物が不均一となったりして、必ずしもこの硬化物の電気抵抗値や電気抵抗率が低くならず、この電気抵抗値や電気抵抗率の経時変化が小さい導電性シリコーン硬化物を形成することはできないという問題があった。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
本発明者らは、上記の課題を解決するために鋭意検討した結果、付加反応硬化型導電性シリコーン組成物中の導電性金属系微粉末を増量したり、これに多量の揮発性溶剤を配合することなく、従来の付加反応硬化型導電性シリコーン組成物に特定の揮発性溶剤を極少量配合して、付加反応による硬化途上もしくは硬化後に、得られる硬化物からこの揮発性溶剤を除去することにより、硬化物の体積収縮を起こさせ、この硬化物の電気抵抗値や電気抵抗率を低くし、この電気抵抗値の温度依存性を小さくし、さらには、この電気抵抗値や電気抵抗率の経時変化を小さくできることを見いだして本発明に到達した。
【0005】
すなわち、本発明の目的は、付加反応により硬化して、電気抵抗値や電気抵抗率が低く、この電気抵抗値の温度依存性が小さく、さらには、この電気抵抗値や電気抵抗率の経時変化が小さい導電性シリコーン硬化物を形成できる付加反応硬化型導電性シリコーン組成物、およびこのような導電性シリコーン硬化物を効率よく製造する方法を提供することにある。
【0006】
【課題を解決するための手段】
本発明の付加反応硬化型導電性シリコーン組成物は、
(A)一分子中に少なくとも2個のアルケニル基を有するオルガノポリシロキサン
100重量部、
(B)一分子中に少なくとも2個のケイ素原子結合水素原子を有するオルガノポリシロキサン(本組成物を硬化させるに十分な量)、
(C)導電性金属系微粉末 50〜2000重量部、
(D)白金系付加反応用触媒 触媒量、
および
(E)本組成物の硬化温度よりも高い沸点(但し、この沸点は150℃〜400℃の範囲内である。)を有する揮発性溶剤(但し、有機ケイ素化合物および200℃/4時間における熱減量が30%以下である炭化水素系油を除く。){(A)成分〜(D)成分の合計量100重量部に対して0.1〜10重量部}
からなることを特徴とする。
また、本発明の導電性シリコーン硬化物の製造方法は、上記の付加反応硬化型導電性シリコーン組成物の硬化途上もしくは硬化後に、上記の(E)成分を除去することを特徴とする。
【0007】
【発明の実施の形態】
はじめに、本発明の付加反応硬化型導電性シリコーン組成物を詳細に説明する。
(A)成分は本組成物の主剤であり、一分子中に少なくとも2個のアルケニル基を有するオルガノポリシロキサンである。(A)成分中のアルケニル基としては、ビニル基、アリル基、ブテニル基、ペンテニル基、ヘキセニル基、ヘプテニル基が例示され、特に、ビニル基であることが好ましい。このアルケニル基の結合位置としては、分子鎖末端、分子鎖側鎖、分子鎖末端と分子鎖側鎖が例示される。また、(A)成分中のアルケニル基以外のケイ素原子に結合する有機基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基等のアルキル基;フェニル基、トリル基、キシリル基等のアリール基;ベンジル基、フェネチル基等のアラルキル基;3-クロロプロピル基、3,3,3-トリフロロプロピル基等のハロゲン化アルキル基等の置換もしくは非置換の一価炭化水素基が例示され、特に、メチル基、フェニル基であることが好ましい。このような(A)成分の分子構造としては、直鎖状、一部分枝を有する直鎖状、分枝鎖状、網状が例示され、(A)成分としてはこれらの分子構造を有するオルガノポリシロキサンの二種以上の混合物であってもよい。また、(A)成分の25℃における粘度としては、50〜500,000mPa・sの範囲内であることが好ましく、特に、300〜10,000mPa・sの範囲内であることが好ましい。
【0008】
このような(A)成分のオルガノポリシロキサンとしては、分子鎖両末端トリメチルシロキシ基封鎖ジメチルシロキサン・メチルビニルシロキサン共重合体、分子鎖両末端トリメチルシロキシ基封鎖メチルビニルポリシロキサン、分子鎖両末端トリメチルシロキシ基封鎖メチルビニルシロキサン・メチルフェニルシロキサン共重合体、分子鎖両末端トリメチルシロキシ基封鎖ジメチルシロキサン・メチルビニルシロキサン・メチルフェニルシロキサン共重合体、分子鎖両末端ジメチルビニルシロキシ基封鎖ジメチルポリシロキサン、分子鎖両末端ジメチルビニルシロキシ基封鎖メチルビニルポリシロキサン、分子鎖両末端ジメチルビニルシロキシ基封鎖メチルフェニルポリシロキサン、分子鎖両末端ジメチルビニルシロキシ基封鎖ジメチルシロキサン・メチルビニルシロキサン共重合体、分子鎖両末端ジメチルビニルシロキシ基封鎖ジメチルシロキサン・メチルフェニルシロキサン共重合体、分子鎖両末端ジメチルビニルシロキシ基封鎖ジメチルシロキサン・ジフェニルシロキサン共重合体、R3SiO1/2単位とSiO4/2単位からなるオルガノポリシロキサン、RSiO3/2単位からなるオルガノポリシロキサン、R2SiO2/2単位とRSiO3/2単位からなるオルガノポリシロキサン、R2SiO2/2単位とRSiO3/2単位とSiO4/2単位からなるオルガノポリシロキサン、およびこれらのオルガノポリシロキサンの二種以上の混合物が例示される。上記のオルガノポリシロキサンの単位式中のRは置換もしくは非置換の一価炭化水素基であり、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、オクチル基等のアルキル基;ビニル基、アリル基、ブテニル基、ペンテニル基、ヘキセニル基等のアルケニル基;フェニル基、トリル基、キシリル基等のアリール基;ベンジル基、フェネチル基等のアラルキル基;3-クロロプロピル基、3,3,3-トリフロロプロピル基等のハロゲン化アルキル基が例示され、但し、上記の単位式からなるオルガノポリシロキサン中の少なくとも2個のRはアルケニル基であることが必要である。
【0009】
(B)成分は本組成物の硬化剤であり、一分子中に少なくとも2個のケイ素原子結合水素原子を有するオルガノポリシロキサンである。このケイ素原子結合水素原子の結合位置としては、分子鎖末端、分子鎖側鎖、分子鎖末端と分子鎖側鎖が例示される。また、(B)成分中のケイ素原子に結合する有機基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基等のアルキル基;フェニル基、トリル基、キシリル基等のアリール基;ベンジル基、フェネチル基等のアラルキル基;3-クロロプロピル基、3,3,3-トリフロロプロピル基等のハロゲン化アルキル基等のアルケニル基を除く置換もしくは非置換の一価炭化水素基が例示され、特に、メチル基、フェニル基であることが好ましい。このような(B)成分の分子構造としては、直鎖状、一部分枝を有する直鎖状、分枝鎖状、環状、網状が例示され、(B)成分としてはこれらの分子構造を有するオルガノポリシロキサンの二種以上の混合物であってもよい。また、(B)成分の25℃における粘度としては、1〜50,000mPa・sの範囲内であることが好ましく、特に、5〜1,000mPa・sの範囲内であることが好ましい。
【0010】
このような(B)成分のオルガノポリシロキサンとしては、分子鎖両末端トリメチルシロキシ基封鎖メチルハイドロジェンポリシロキサン、分子鎖両末端トリメチルシロキシ基封鎖ジメチルシロキサン・メチルハイドロジェンシロキサン共重合体、分子鎖両末端トリメチルシロキシ基封鎖メチルハイドロジェンシロキサン・メチルフェニルシロキサン共重合体、分子鎖両末端トリメチルシロキシ基封鎖ジメチルシロキサン・メチルハイドロジェンシロキサン・メチルフェニルシロキサン共重合体、分子鎖両末端ジメチルハイドロジェンシロキシ基封鎖ジメチルポリシロキサン、分子鎖両末端ジメチルハイドロジェンシロキシ基封鎖メチルハイドロジェンポリシロキサン、分子鎖両末端ジメチルハイドロジェンシロキシ基封鎖ジメチルシロキサン・メチルハイドロジェンシロキサン共重合体、分子鎖両末端ジメチルハイドロジェンシロキシ基封鎖ジメチルシロキサン・メチルフェニルシロキサン共重合体、分子鎖両末端ジメチルハイドロジェンシロキシ基封鎖メチルフェニルポリシロキサンが例示される。
【0011】
(B)成分の配合量は本組成物を硬化させるに十分な量であり、例えば、(A)成分中のアルケニル基1個に対して、(B)成分中のケイ素原子結合水素原子が0.5〜10個となるような範囲内の量であることが好ましい。これは、(A)成分中のアルケニル基1個に対して、(B)成分中のケイ素原子結合水素原子が0.5個未満となるような量である組成物は十分に硬化しなくなる傾向があり、一方、これが10個をこえるような量である組成物を硬化して得られる導電性シリコーン硬化物は、硬化途上で気泡を生じたり、また、耐熱性が低下する傾向があるからである。
【0012】
(C)成分は本組成物を硬化して得られる導電性シリコーン硬化物に導電性を付与するための導電性金属系微粉末である。この(C)成分としては、金、銀、ニッケル、銅等の金属微粉末;セラミック、ガラス、石英、有機樹脂等の微粉末の表面に金、銀、ニッケル、銅等の金属を蒸着またはメッキした微粉末が例示される。本組成物において、体積抵抗率が0.1Ω・cm以下である高導電性のシリコーン硬化物を得るためには、(C)成分として、金微粉末または銀微粉末を用いることが好ましく、実用的には銀微粉末を用いることが好ましい。この銀微粉末の形状としては、球状、フレーク状、フレーク樹枝状が例示され、体積抵抗率が1×10-3Ω・cm以下である高導電性のシリコーン硬化物を得るためには、フレーク状またはフレーク樹枝状であることが好ましい。このような(C)成分の平均粒子径としては、例えば、1〜10μmの範囲内であることが好ましい。
【0013】
(C)成分の配合量は、(A)成分100重量部に対して50〜2,000重量部の範囲内であり、好ましくは300〜1,000重量部の範囲内である。これは、(A)成分100重量部に対して、(C)成分の配合量がこの範囲未満である組成物を硬化して得られるシリコーン硬化物は十分な導電性を示さなくなる傾向があり、一方、この範囲をこえる組成物は、その取扱作業性が悪化する傾向があるからである。
【0014】
(D)成分は本組成物の付加反応による硬化を促進するための白金系付加反応用触媒であり、一般に、ヒドロシリル化反応用触媒として周知の白金もしくは白金化合物を用いることができる。このような(C)成分としては、白金黒、白金担持アルミナ粉末、白金担持シリカ粉末、白金担持カーボン粉末、塩化白金酸、塩化白金酸のアルコール溶液、白金のオレフィン錯体、白金のアルケニルシロキサン錯体、これらの白金系付加反応用触媒をメチルメタクリレート樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリスチレン樹脂、シリコーン樹脂等の熱可塑性樹脂中に分散させて微粒子化した触媒が例示される。
【0015】
(D)成分の配合量は、この組成物を付加反応により硬化させるに十分な触媒量であり、例えば、(A)成分と(B)成分の合計量に対して、(D)成分中の白金金属が重量単位で0.1〜1000ppmの範囲内となる量である。
【0016】
(E)成分は、本組成物を硬化して得られる硬化物の体積収縮を起こさせて、この硬化物の電気抵抗値や電気抵抗率を低くし、この電気抵抗値の温度依存性を小さくし、さらには、この電気抵抗値や電気抵抗率の経時変化を小さくするための揮発性溶剤である。但し、有機ケイ素化合物および200℃/4時間における熱減量が30%以下である炭化水素系油を除く。このような(E)成分は沸点が400℃以下であり、本組成物の硬化温度より高い沸点を有するものであればよく、好ましくは、この沸点が150℃〜400℃の範囲内であるものである。このような(E)成分は本組成物の硬化反応、すなわち、付加反応に関与したり、阻害しないものであればよく、1,2,4-トリメチルベンゼン(bp=170℃)、1,3,5-トリメチルベンゼン(bp=165℃)、1,2,4,5-テトラメチルベンゼン(bp=192℃)、n-ドデシルベンゼン(bp=331℃)、シクロヘキシルベンゼン(bp=237℃)等の芳香族炭化水素化合物;n-デカン(bp=174℃)、i-デカン(bp=180℃)、n-ウンデカン(bp=195℃)、n-ドデカン(bp=216℃)、n-トリデカン(bp=235℃)、n-テトラデカン(bp=253℃)等の鎖状もしくは環状の脂肪族炭化水素化合物もしくはこれらの二種以上の混合物からなる沸点が400℃以下のパラフィン系混合溶剤やイソパラフィン系混合溶剤;安息香酸エチル(bp=212℃)、フタル酸ジエチル(bp=296℃)等のエステル化合物;アニソール(bp=155℃)、フェネトール(bp=170℃)等のエーテル化合物、およびこれらの揮発性溶剤の二種以上の混合物が例示される。この(E)成分としては、(D)成分として、白金系付加反応用触媒をメチルメタクリレート樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリスチレン樹脂、シリコーン樹脂等の熱可塑性樹脂中に分散させて微粒子化した触媒を用いる場合には、これらの熱可塑性樹脂を溶解しないような揮発性溶剤を選択することが好ましい。
【0017】
(E)成分の配合量は、上記(A)成分〜(D)成分の合計100重量部に対して0.1〜10重量部の範囲内であり、好ましくは0.1〜7重量部の範囲内であり、さらに好ましくは0.1〜5重量部の範囲内であり、特に好ましくは0.1〜5重量部(但し、5重量部は含まない。)の範囲内である。これは、(E)成分の配合量が、上記(A)成分〜(D)成分の合計100重量部に対して0.1重量部未満である組成物は、得られる硬化物の電気抵抗値や電気抵抗率が高かったり、この電気抵抗値の温度依存性が大きかったり、さらには、この電気抵抗値や電気抵抗率の経時変化が大きかったりするからであり、一方、この範囲をこえる組成物は不均一となったり、また、この組成物を硬化して得られる硬化物が不均一となる傾向が大きくなり、さらにはこの硬化物の電気抵抗値や電気抵抗率が高くなる傾向があるからである。
【0018】
本組成物は、上記(A)成分〜(E)成分を均一に配合することにより得られるが、本組成物を硬化して得られる導電性シリコーン硬化物に良好な接着性を付与するための任意の成分として、一分子中にケイ素原子結合水素原子またはケイ素原子結合アルケニル基、およびケイ素原子結合アルコキシ基を有する有機ケイ素化合物を配合することができる。このような有機ケイ素化合物としては、ビニルトリメトキシシラン、アリルトリメトキシシラン、アリルトリエトキシシラン、さらには、次のような有機ケイ素化合物が例示される。
【化1】

【化2】

【化3】

【化4】

【化5】

(式中、aは1以上の整数であり、bは1以上の整数である。)
【0019】
これらの有機ケイ素化合物の配合量としては、例えば、(A)成分100重量部に対して20重量部以下であることが好ましく、特には、0.5〜8重量部の範囲内であることが好ましい。これは、この有機ケイ素化合物を配合しない場合には、得られる導電性シリコーン硬化物に優れた接着性を付与することができなくなるためであり、また、この配合量が(A)成分100重量部に対して20重量部をこえる組成物は貯蔵安定性が低下したり、さらにはこの組成物を硬化して得られるシリコーン硬化物の硬度が経時的に高くなる傾向があるからである。
【0020】
また、本組成物には、その取扱作業性を向上させるために、3-メチル-1-ブチン-3-オール、3,5-ジメチル-1-ヘキシン-3-オール、3-フェニル-1-ブチン-3-オール等のアルキンアルコール;3-メチル-3-ペンテン-1-イン,3,5-ジメチル-3-ヘキセン-1-イン等のエンイン化合物;1,3,5,7-テトラメチル-1,3,5,7-テトラビニルシクロテトラシロキサン、1,3,5,7-テトラメチル-1,3,5,7-テトラヘキセニルシクロトトラシロキサン、ベンゾトリアゾール等の付加反応抑制剤を配合することができる。この付加反応抑制剤の配合量としては、例えば、(A)成分100重量部に対して0.001〜5重量部の範囲内であることが好ましい。
【0021】
さらに、本組成物には、本組成物を硬化して得られる硬化物に適当な硬度や機械的強度を付与するために、ヒュームドシリカ、結晶性シリカ、焼成シリカ、湿式シリカ、フュームド酸化チタン、カーボンブラック等の無機質充填剤、これらの無機質充填剤の表面をオルガノアルコキシシラン、オルガノクロロシラン、オルガノジシラザン等の有機ケイ素化合物により疎水化処理した無機質充填剤、さらには、顔料、耐熱性付与剤等を配合することができる。これらの無機質充填剤の配合量としては、例えば、(A)成分100重量部に対して50重量部以下であることが好ましい。
【0022】
本組成物は、(E)成分の沸点より低い温度で硬化させることが必要であるが、これは、本組成物の硬化温度が、(E)成分の沸点かそれ以上の温度である場合には、本組成物が硬化完了する前に(E)成分が完全に除去してしまうために、得られる硬化物の電気抵抗値や電気抵抗率を十分に低くすることができず、また、この電気抵抗値の温度依存性を小さくしたり、さらには、この電気抵抗値や電気抵抗率の経時変化を小さくすることができなくなるからであり、甚だしい場合には、得られる硬化物中に気泡を生じたりするからである。このため、本組成物の硬化温度は、(E)成分の沸点より低い温度であることが必要であり、好ましくは、(E)成分の沸点に対して少なくとも20℃低い温度であり、より好ましく、(E)成分の沸点に対して少なくとも50℃低い温度であり、特に好ましくは、(E)成分の沸点に対して少なくとも80℃低い温度である。このようにして得られる硬化物の形態としては、ゲル状、ゴム状、硬質レジン状が例示され、好ましくはゴム状である。
【0023】
続いて、本発明の導電性シリコーン硬化物の製造方法を詳細に説明する。
本方法に用いる付加反応硬化型導電性シリコーン組成物は上記の通りである。本方法は、上記の組成物の硬化途上もしくは硬化後に、上記の(E)成分を除去することを特徴とする。(E)成分の除去は完全である必要はないが、得られる硬化物の電気抵抗値や電気抵抗率が小さく、また、この電気抵抗値の温度依存性が小さく、さらには、この電気抵抗値や電気抵抗率の経時変化が小さいくなる程度に除去される必要があり、特には、硬化物から(E)成分を完全に除去することが好ましい。上記組成物を硬化させる条件としては、例えば、室温で放置したり、これを加熱したりすることにより行われる。この組成物を加熱する場合には、この(E)成分の沸点より低い温度まで加熱することができるが、硬化途上に(E)成分が完全に除去しないような温度で行うことが好ましく、例えば、(E)成分の沸点に対して少なくとも20℃低い温度であり、より好ましくは、(E)成分の沸点に対して少なくとも50℃低い温度であり、特に好ましく、(E)成分の沸点に対して少なくとも80℃低い温度である。そして、このようにして得られた導電性シリコーン硬化物から、この(E)成分を除去する方法としては、得られた硬化物を常圧下で加熱したり、常温下で減圧したり、加熱下で減圧したりすることにより行われ、好ましくは、この硬化物を常圧下で加熱する方法である。また、この(E)成分を多量に除去しなければならない場合には、この硬化物をアルゴン、ヘリウム、窒素等の不活性ガス雰囲気中で加熱することが好ましい。
【0024】
本方法によると、得られる導電性シリコーン硬化物の電気抵抗率が1Ω・cm以下、好ましくは1×10-3Ω・cm以下である高導電性のシリコーン硬化物を形成できるので、チップ部品と回路基板の電極材の形成方法、これらの接着方法、半導体素子と回路基板、リードフレームの接着方法、電極材の形成方法等に使用することができる。
【0025】
【実施例】
本発明の付加反応硬化型導電性シリコーン組成物および導電性シリコーン硬化物の製造方法を実施例により詳細に説明する。なお、実施例中の粘度は25℃における値である。また、導電性シリコーン硬化物の電気抵抗値および電気抵抗率は、次のようにして測定した。付加反応硬化型導電性シリコーン組成物を減圧下で脱泡した後、幅7mmの電極を35mm間隔で配置した回路基板上に、これらの電極間を連結するように、この組成物を幅5mm、厚さ0.13mmの形に塗布した。その後、この組成物を所定の条件下で硬化させた後、必要により揮発性溶剤を除去して回路を作成した。この回路の25℃および150℃における電気抵抗値を測定し、さらに、この硬化物の25℃における電気抵抗率を4探針法により測定した。さらに、この回路を-40℃×30分、120℃×30分を1サイクルとする熱衝撃試験を1000サイクル行った後の25℃および150℃における電気抵抗値を測定し、さらに、この硬化物の25℃における電気抵抗率を4探針法により測定した。
【0026】
[実施例1]
(A)成分として、粘度が500mPa・sであり、分子鎖両末端ジメチルビニルシロキシ基封鎖ジメチルポリシロキサン(ビニル基の含有量=0.43重量%)61重量部、粘度が8,000mPa・sであり、分子鎖両末端ジメチルビニルシロキシ基封鎖ジメチルポリシロキサンと(CH3)3SiO1/2単位と(CH2=CH)(CH3)2SiO1/2単位とSiO4/2単位からなるオルガノポリシロキサンとの混合物(ビニル基の含有量=0.75重量%)25重量部、(B)成分として、粘度が30mPa・sであり、分子鎖両末端トリメチルシロキシ基封鎖メチルハイドロジェンポリシロキサン(ケイ素原子結合水素原子の含有量=1.5重量%)4重量部、(C)成分として、平均粒子径が5μmであるフレーク状還元銀微粉末400重量部、(D)成分として、白金の1,3-ジビニル-1,1,3,3-テトラメチルジシロキサン錯体を軟化点80〜90℃の熱可塑性シリコーン樹脂に分散してなる微粒子化した触媒(本組成物において、触媒中の白金金属が重量単位で15ppmとなる量である)、その他任意の成分として、式:
【化6】

で表されるオルガノポリシロキサン7重量部、疎水性ヒュームドシリカ3重量部、フェニルブチノール(本組成物において重量単位で200ppmとなる量)を均一に混合した組成物に、上記(A)成分〜(D)成分の合計量100重量部に対して(E)成分として、イソパラフィン系混合溶剤(日本石油株式会社製の日石アイソゾール400、bp=200〜250℃)2重量部を均一に混合して付加反応硬化型導電性シリコーンゴム組成物を調製した。
次に、この組成物を減圧下で脱泡し、上記の電極上に塗布し、これを120℃で30分間加熱することにより硬化させた。その後、この導電性シリコーンゴムを250℃で30分間、窒素気流中で加熱することにより、この導電性シリコーンゴム中のイソパラフィン系混合溶剤を除去した。このようにして得られた回路の初期および熱衝撃試験後の電気抵抗値、および導電性シリコーンゴムの初期および熱衝撃試験後の電気抵抗率を測定した。これらの測定結果を表1に示した。
【0027】
[実施例2]
実施例1で調製した付加反応硬化型導電性シリコーンゴム組成物を上記の電極上に塗布し、これを120℃で30分間加熱することにより硬化させた。その後、この導電性シリコーンゴムを150℃で1時間、空気中で加熱することにより、この導電性シリコーンゴム中のイソパラフィン系混合溶剤を除去した。このようにして得られた回路の初期および熱衝撃試験後の電気抵抗値、および導電性シリコーンゴムの初期および熱衝撃試験後の電気抵抗率を測定した。これらの測定結果を表1に示した。
【0028】
[実施例3]
実施例1で調製した付加反応硬化型導電性シリコーンゴム組成物において、イソパラフィン系混合溶剤の配合量を4重量部とした以外は実施例1と同様にして付加反応硬化型導電性シリコーンゴム組成物を調製した。この組成物を実施例1と同様にして硬化させた後、実施例1と同様にしてイソパラフィン系混合溶剤を除去して回路を作成した。このようにして得られた回路の初期および熱衝撃試験後の電気抵抗値、および導電性シリコーンゴムの初期および熱衝撃試験後の電気抵抗率を測定した。これらの測定結果を表1に示した。
【0029】
[実施例4]
(A)成分として、粘度が500mPa・sであり、分子鎖両末端ジメチルビニルシロキシ基封鎖ジメチルポリシロキサン(ビニル基の含有量=0.43重量%)61重量部、粘度が8,000mPa・sであり、分子鎖両末端ジメチルビニルシロキシ基封鎖ジメチルポリシロキサンと(CH3)3SiO1/2単位と(CH2=CH)(CH3)2SiO1/2単位とSiO4/2単位からなるオルガノポリシロキサンとの混合物(ビニル基の含有量=0.75重量%)25重量部、(B)成分として、粘度が30mPa・sであり、分子鎖両末端トリメチルシロキシ基封鎖メチルハイドロジェンポリシロキサン(ケイ素原子結合水素原子の含有量=1.5重量%)4重量部、(C)成分として、平均粒子径が5μmであるフレーク状還元銀微粉末400重量部、(D)成分として、白金の1,3-ジビニル-1,1,3,3-テトラメチルジシロキサン錯体(本組成物において、触媒中の白金金属が重量単位で10ppmとなる量である)、その他任意の成分として、式:
【化7】

で表されるオルガノポリシロキサン7重量部、疎水性ヒュームドシリカ3重量部、フェニルブチノール(本組成物において重量単位で800ppmとなる量)を均一に混合した組成物に、上記(A)成分〜(D)成分の合計量100重量部に対して(E)成分として、シクロヘキシルベンゼン(bp=237℃)2重量部を均一に混合して付加反応硬化型導電性シリコーンゴム組成物を調製した。
この組成物を実施例1と同様にして硬化させた後、実施例1と同様にしてシクロヘキシルベンゼンを除去して回路を作成した。このようにして得られた回路の初期および熱衝撃試験後の電気抵抗値、および導電性シリコーンゴムの初期および熱衝撃試験後の電気抵抗率を測定した。これらの測定結果を表1に示した。
【0030】
[比較例1]
実施例1で調製した付加反応硬化型導電性シリコーンゴム組成物において、イソパラフィン系混合溶剤を配合しない以外は実施例1と同様にして付加反応硬化型導電性シリコーンゴム組成物を調製した。この組成物を実施例1と同様にして硬化させて回路を作成した。このようにして得られた回路の初期および熱衝撃試験後の電気抵抗値、および導電性シリコーンゴムの初期および熱衝撃試験後の電気抵抗率を測定した。これらの測定結果を表1に示した。
【0031】
[比較例2]
実施例1で調製した付加反応硬化型導電性シリコーンゴム組成物において、イソパラフィン系混合溶剤の配合量を(A)成分〜(D)成分の合計量100重量部に対して15重量部とした以外は実施例1と同様にして付加反応硬化型導電性シリコーンゴム組成物を調製した。この組成物はかろうじて均一であったが、この組成物を実施例1と同様にして硬化させた後、実施例1と同様にしてイソパラフィン系混合溶剤を除去して得られた回路は、銀微粉末の層分離が観察され、均一ではなかった。このようにして得られた回路の初期の電気抵抗値を測定した。これらの測定結果を表1に示した。
【0032】
[比較例3]
実施例1で調製した付加反応硬化型導電性シリコーンゴム組成物において、イソパラフィン系混合溶剤の配合量を(A)成分〜(D)成分の合計量100重量部に対して30重量部とした以外は実施例1と同様にして付加反応硬化型導電性シリコーンゴム組成物を調製した。この組成物は直ちに層分離を生じて不均一であった。この組成物を実施例1と同様にして硬化させた後、実施例1と同様にしてイソパラフィン系混合溶剤を除去して得られた回路は、銀微粉末の層分離が観察され、均一ではなかった。このようにして得られた回路の初期の電気抵抗値を測定した。これらの測定結果を表1に示した。
【0033】
【表1】

【0034】
【発明の効果】
本発明の付加反応硬化型導電性シリコーン組成物は、付加反応により硬化して、電気抵抗値や電気抵抗率が低く、この電気抵抗値の温度依存性が小さく、さらに、この電気抵抗値や電気抵抗率の経時変化が小さい導電性シリコーン硬化物を形成できるという特徴があり、また、本発明の導電性シリコーン硬化物の製造方法は、このような導電性シリコーン硬化物を効率よく製造できるという特徴がある。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2004-09-08 
出願番号 特願平8-305670
審決分類 P 1 651・ 161- YA (C08L)
P 1 651・ 113- YA (C08L)
P 1 651・ 121- YA (C08L)
最終処分 維持  
前審関与審査官 辰己 雅夫  
特許庁審判長 松井 佳章
特許庁審判官 大熊 幸治
石井 あき子
登録日 2003-06-06 
登録番号 特許第3436464号(P3436464)
権利者 東レ・ダウコーニング・シリコーン株式会社
発明の名称 付加反応硬化型導電性シリコーン組成物および導電性シリコーン硬化物の製造方法  
代理人 重松 沙織  
代理人 石川 武史  
代理人 小林 克成  
代理人 小島 隆司  

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