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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  H02K
管理番号 1107956
異議申立番号 異議2003-73596  
総通号数 61 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 1996-03-08 
種別 異議の決定 
異議申立日 2003-12-25 
確定日 2004-10-29 
異議申立件数
事件の表示 特許第3420641号「密閉形圧縮機」の請求項1、2に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 特許第3420641号の請求項1ないし2に係る特許を取り消す。 
理由 【1】手続の経緯
本件特許第3420641号の請求項1、2に係る発明についての出願は、平成6年8月23日に特許出願され、平成15年4月18日にその発明について特許権の設定登録がなされ、同年6月30日にその特許公報が発行された。これに対し、平成15年12月25日に澤 新より、同年12月27日に臼谷 康より、それぞれ特許異議の申立てがなされ、当審において平成16年5月7日付けで取消理由を通知したところ、同年7月23日付けで特許異議意見書が提出されたものである。

【2】特許異議申立てについて
(1)本件発明
本件特許第3420641号の請求項1、2に係る発明は、本件特許明細書の特許請求の範囲の請求項1、2に記載された事項によって特定される、次のとおりのもの(以下、それぞれ「本件発明1」、「本件発明2」という。)と認められる。
【請求項1】 上部に吐出口を有する密閉ケースと、
この密閉ケース内の上部に設けられ、ステータおよびそのステータの内側のロータからなる直流モータと、
前記密閉ケース内の下部に設けられ、前記直流モータにより駆動されて冷媒を圧縮する圧縮機部と、
前記密閉ケース内の下部に収容された潤滑油と、
前記ステータよりも内周側に形成され、前記直流モータの上下両端を軸方向に連通する第1流路と、
前記ステータよりも外周側に形成され、前記直流モータの上下両端を軸方向に連通する第2流路とを備え、
前記第1流路の流路抵抗性を前記第2流路の流路抵抗性よりも小さく設定したことを特徴とする密閉形圧縮機。(「本件発明1」)
【請求項2】 請求項1に記載の密閉形圧縮機において、
第1流路は、ステータの内周面とロータの外周面との間に確保されるエアギャップ、ステータにおける巻線収容スロットの開口からステータの内周面にかけて形成される溝部、およびロータに形成される複数本の貫通孔であり、
第2流路は、ステータの外周面と密閉ケースの内周面との間に形成される油戻し用の流路である、
ことを特徴とする密閉形圧縮機。(「本件発明2」)

(2)特許異議の申立ての概要
申立人澤 新は、下記甲第1乃至4号証を提出し、本件請求項1、2に係る発明は、甲第1乃至4号証に記載された発明に基づき当業者ならば容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、特許法第113条第2号の規定により取り消すべきものである旨、同申立人臼谷 康は、下記甲第1乃至5号証を提出し、本件請求項1に係る発明は、甲第1号証に記載された発明ないし当該発明に基づいてその出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第1項第3号ないし第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、また、本件請求項2に係る発明は、甲第1号証及び甲第2号証に記載された発明に基づいてその出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、特許法第113条第1項第2号の規定により取り消すべきものである旨、それぞれ主張している。
(証拠方法)
A.申立人澤 新の提出した証拠:
甲第1号証:実願昭58-46512号(実開昭59-152961号)のマイクロフィルム
甲第2号証:実願平1-77177号(実開平3-17193号)のマイクロフィルム
甲第3号証:特開平3-31598号公報
甲第4号証:特開平3-31599号公報

B.申立人臼谷 康の提出した証拠
甲第1号証:実願昭63-87764号(実開平2-13190号)のマイクロフィルム
甲第2号証:特開平5-260699号公報
甲第3号証:実願昭62-1558号(実開昭63-110686号)のマイクロフィルム
甲第4号証:特開平5-115142号公報
甲第5号証:特開平6-205559号公報

(3)取消理由通知の概要
当審において通知した取消理由の概要は、引用刊行物として上記特開平5-260699号公報(申立人臼谷 康の提出した甲第2号証)並びに(周知技術として)特開昭63-314381号公報及び特開平3-31599号(申立人澤 新の提出した甲第4号証)を提示し、本件請求項1、2に係る発明は、これら刊行物に記載の事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない旨の理由により、本件請求項1、2に係る特許は取り消すべきものとした。

(4)引用刊行物(引用発明及び周知技術)
(4-1)引用発明
1.特開平5-260699号公報
1)当審が通知した取消理由に引用され、本件出願前に頒布された上記刊行物1(申立人臼谷 康の提出した甲第2号証。以下、「引用例」という。)には、図面と共に以下の記載がある。
a.「【産業上の利用分野】本発明は、永久磁石型回転子をもつモータを採用した圧縮機に関する。(【0001】)

b.「【従来の技術】従来、永久磁石型回転子をもつモータを採用した圧縮機としては、例えば特開昭59-11747号公報に載されたものが知られており、この公報記載の圧縮機は、図3で示したように、密閉ケーシングAの内方上部に、固定子Bと永久磁石型回転子Cとから成るモータDを配設すると共に、このモータDの下部側に、前記回転子Cから延びる駆動軸Eで回転駆動される圧縮要素Fを配設する一方、前記ケーシングAの上部側に吐出管Gを接続している。また、前記モータDを構成する永久磁石型回転子Cは、複数の薄肉鉄板を上下方向に積層して成る積層鉄板鉄心C1と、該鉄心C1の外周面に配設された部分円弧形状をなす複数の永久磁石C2と、これら各磁石C2の外周側に圧入された非磁性材料から成る外管C3とから構成されている。
そして、前記圧縮要素Fで圧縮されたガス流体は、該圧縮要素Fと前記モータDとの間に形成される一次空間S1へと吐出され、この一次空間S1から前記モータDの固定子Bと回転子Cとの間に設けられるエアギャップHや、前記固定子Bの外周側に設けられるコアカット部Iを経て、前記モータDの上部側に形成される二次空間S2に案内され、該二次空間S2に開口した前記吐出管Gから外部へと吐出されるのであって、前記圧縮要素Fから吐出されたガス流体に混入する油は、その一部が前記エアギャップHやコアカット部Iを通過する際に分離されたり、前記二次空間S2側において分離されるのであり、この分離油は前記コアカット部Iなどから前記一次空間S1を経て前記ケーシングAの底部油溜Jへと戻され、油分離されたガス流体が前記吐出管Gから外部に吐出されるのである。」(【0002】〜【0003】)

c.「【発明が解決しようとする課題】ところが、以上の圧縮機において、前記二次空間S2で分離された油は、前記コアカット部IやエアギャップHを介して油溜Jに戻るのであるが、前記圧縮要素Fから吐出されるガス流体は前記一次空間S1から前記エアギャップHやコアカット部Iを経て前記二次空間S2側に案内されるため、前記二次空間S2で分離された油が前記コアカット部Iなどを経て前記油溜J側に戻されるとき、前記コアカット部Iを通過する前記ガス流体によって前記油溜Jへの円滑な油戻りが阻害され、この結果、前記油溜J側での油面低下を招き、該油溜Jから前記駆動軸Eの各摺接部位などに供給される給油量が不足して、これら各摺接部位で潤滑不良を起こしたりする問題があった。」(【0004】)

2)以上の記載から、以下のことが明らかである。
(ア)記載bから、引用例の従来の技術における圧縮機は密閉形圧縮機であって、永久磁石回転子3を持つものであり、ロータに磁力を持たない交流モータに比べてその回転子3即ちロータは磁力が強いと解されるから、結局そのモータ4は直流モータであると認められる。
(イ)記載b及び図3(従来の技術)において、そのエアギャップHは、固定子B即ちステータよりも内周側に形成され、前記直流モータの上下両端を軸方向に貫通する第1流路を構成するといえる。
尚、上記第1流路は、上記エアギャップH即ちステータの内周面とロータの外周面との間に確保されるエアギャップと、少なくともステータにおける巻線収容スロットの開口からステータの内周面にかけて形成される溝部であるともいえることは技術常識から明らかである。
(ウ)同じく記載b及び図3において、そのコアカット部Iは、前記ステータよりも外周側に形成され、前記直流モータの上下両端を軸方向に連通する第2流路を構成するといえる。

3)以上のことから、上記引用例には、自明の事項も含め少なくとも次の2つの発明(以下、それぞれ「引用発明1」、「引用発明2」という。)が記載されているものと認められる。
(引用発明1)
「上部に吐出口を有する密閉ケースと、
この密閉ケース内の上部に設けられ、ステータおよびそのステータの内側のロータからなる直流モータと、
前記密閉ケース内の下部に設けられ、前記直流モータにより駆動されて冷媒を圧縮する圧縮機部と、
前記密閉ケース内の下部に収容された潤滑油と、
前記ステータよりも内周側に形成され、前記直流モータの上下両端を軸方向に連通する第1流路と、
前記ステータよりも外周側に形成され、前記直流モータの上下両端を軸方向に連通する第2流路とを備えたことを特徴とする密閉形圧縮機。

(引用発明2)
引用発明1の密閉形圧縮機において、
第1流路は、ステータの内周面とロータの外周面との間に確保されるエアギャップ、ステータにおける巻線収容スロットの開口からステータの内周面にかけて形成される溝部であり、
第2流路は、ステータの外周面と密閉ケースの内周面との間に形成される当該第2流路などから油が戻される流路である、
ことを特徴とする密閉形圧縮機。」

(4-2)周知技術
2.特開平3-31599号公報(申立人澤 新の提出した甲第4号証)
1)当審が通知した取消理由に引用され、本件出願前に頒布された上記刊行物2には、図面と共に以下の記載がある。
a.「産業上の利用分野
本発明は冷凍サイクル等に使用する圧縮機に関するものである。」(1頁下段左欄19-20行)

b.「第1図において、20はシャフト上端部軸受でシャフト8の上端部を支持している。また21はロータ内ガス通路でロータ2bの上部と下部を連通している。また22は遠心分離板でロータ2bとシャフト上端部軸受20の間に位置し、シャフト8に固定されている。また、23はシャフト上端部軸受ガス通路でシャフト上端部軸受20の上部と下部を連通するとともに遠心分離板22の外径より内側に位置している。
本実施例によれば、上部軸受4を潤滑し終えた油や、吐出口14から冷媒とともに吐出された油はミスト状になってロータ内ガス通路21を通って上方に流れ遠心分離板22に当たり、シャフトの回転にともなって発生する遠心力で油が分離して外側に飛び密閉ケーシング1壁面を伝って下方に流れ、さらにシャフト上端部軸受ガス通路23を遠心分離板22の外径より内側の位置に設けているため、重い油は遠心分離板の遠心力に打ち勝つことができずにシャフト上端部軸受ガス通路23には冷媒のみが流れて冷凍サイクルに吐出されるため、油流出を低減でき、摺動部の焼きつき、能力の低下を防止することができる。」(2頁下段左欄14行-同右欄15行)

2)以上の記載から、以下のことが明らかである。
(ア)記載b及び第1図から、そのロータ内ガス通路21は、モータ部2の上下両端を軸方向に連通する通路である。そして、密閉ケーシング内の上部空間に流れる圧縮冷媒および潤滑油は、少なくとも、ほぼこの通路21とステータ2aの内周面とロータ2bの外周面との間に確保されるエアギャップ(及びステータ2aにおける巻線収容スロットの開口からステータの内周面にかけて形成される溝部)とにより形成される通路(以下、便宜上この通路を「通路A」という。)を流れるといえることは明白である。また、前記通路Aは、前記ステータ2bよりも内周側に形成されたものであるといえる。
(イ)同じく記載bの特に「上部軸受4を潤滑し終えた油や、吐出口14から冷媒とともに吐出された油はミスト状になってロータ内ガス通路21を通って上方に流れ遠心分離板22に当たり、シャフトの回転にともなって発生する遠心力で油が分離して外側に飛び密閉ケーシング1壁面を伝って下方に流れ」との記載及び第1、2図から、ステータ2aと密閉ケーシング1壁面との間には、少なくとも遠心分離板22により分離した油が下方に流れるための通路が形成されていることも明白であり、この通路は、密閉圧縮機の上部空間から下部への油戻し用の流路であるといえる。そして、この油戻し用の流路は前記ステータ2aよりも外周側に形成されたものである。
(ウ)前記(ア)、(イ)から、前記(ア)の「通路A」は、少なくとも密閉ケーシング内の上部空間に流れる圧縮冷媒および潤滑油が流れる「第1流路」と、また、前記(イ)の「油戻し用の流路」は、油戻し用の「第2流路」と、それぞれ称することができる。

3)したがって、刊行物2には、密閉形圧縮機における以下の技術が記載されているものと認められる。
「上部に吐出口を有する密閉ケーシングと、
この密閉ケーシング内の上部に設けられ、ステータおよびそのステータの内側のロータからなるモータ部と、
前記密閉ケーシング内の下部に設けられ、前記モータにより駆動されて冷媒を圧縮する機械(圧縮機)部と、
前記密閉ケーシング内の下部に収容された潤滑油と、
前記ステータよりも内周側に形成され、前記モータの上下両端を軸方向に連通する第1流路と、
前記ステータよりも外周側に形成され、前記モータの上下両端を軸方向に連通する第2流路とを備え、
前記第1流路を圧縮冷媒および潤滑油が(密閉ケーシング内の上部空間に)流れる流路とし、前記第2流路を油戻し用の流路とした」技術。

3.実願昭62-1558号(実開昭63-110686号)のマイクロフィルム(申立人臼谷 康の提出した甲第3号証)
4)本願出願前に頒布された上記刊行物3には図面と共に以下の記載がある。
a.「(産業上の利用分野)
本考案は冷媒ガスに混合した潤滑油を油溜め部に円滑に戻させて潤滑性能を向上し得る回転式圧縮機に関する。」(1頁20行-2頁3行)

b.「(従来の技術)
回転式圧縮要素及び電動要素を高圧ドームとなる密閉筒状ケーシング内に圧入保持してなる回転式圧縮機において、冷媒ガスに混入している一部の潤滑油を分離すると共に、電動要素の上部空間で分離した潤滑油を下方の油溜め部に円滑に戻させるために、固定子のスロットのうちの一部に巻線を全く挿入しないでこのスロットを油の分離戻し通路とした構造のものが従来からあり、実公昭56-41103号公報によって公知である。
(考案が解決しようとする問題点)
冷媒ガスの通路は、この種の回転式圧縮機においては、電動要素(モータ)の固定子の外周と筒状ケーシングとの隙間と、・・(中略)・・必要トルクを得るための磁束を確保するために鉄心量を増すことが必要になる。
このような種々の不都合な問題点があるのに着目して本考案は案出されたものであって、モータの固定子におけるスロットの一部を収容巻線数が少ないものとすることによって、冷媒ガスの通路を確保すると共に、均衡のとれた回転磁界を作り出して、静粛かつ振動の少ない高速回転が得られ、インバータ制御に好適ならしめる回転式圧縮機を提供しようとする点に考案の目的が存する。」(2頁4行-4頁20行)

c.「(作用)
本考案は収容巻線数の少ないスロットを設定するに際し、異なる相の巻線が・・(中略)・・従って回転磁界に歪みが生じない。
さらに、回転子と固定子との間の空隙部に連なって特定のスロットに冷媒ガス通路がスペーサに囲尭されて形成されるのでガス通路断面積は十分に大となり、高速運転時でも分離された油の油溜め部への落下を円滑に行わせて潤滑性能を安定向上し得る。」(5頁16行-6頁14行)

d.「(実施例)
以下、本考案の実施例を添付図面により説明する。
第1図は回転式圧縮機を示していて、回転圧縮要素(1)と電動要素(2)とを軸(4)により直結して、前者(1)を下、後者(2)を上にさせた縦軸配置で高圧ドームとなる密閉された筒状ケーシング(3)内に圧入し保持させた周知の構造であり、前記ケーシング(3)内底部は油溜め部(5)となり、前記軸(4)内に設けた油通路を通って油溜め部(5)の油が汲み上げられ、各軸受部に送られて潤滑の用に供される。
一方、圧縮要素(1)で圧縮されフロントマフラ(6)から吐出された高圧冷媒ガスは下部空間(イ)で冷媒ガスに混和した潤滑油をある程度分離し、コアカット面(モータ固定子とケーシング(3)外周との隙間、数個所)の隙間を矢印の如く流通して上部空間に吹き出すようになる。
また、前記上部空間(ロ)においては該空間の大きさあるいは回転子に設けられた分離板等で潤滑油が分離され、コアカット面から下部空間(イ)に落下するようにもなるのである。」(6頁15行-7頁16行)

e.「(考案の効果)
本考案の効果を挙げると次の通りである。
(イ)スロット(8)の一部にスロット(8)断面の1/2〜1/4程度の連通路(11)が形成されるので、エアギャップ部(固定子内周)のガス通路が大きくなり、高速運転時にも上部空間の部分において分離された油が落下するようになり、円滑不良の問題がなくなる。」(15頁3-10行)

5)以上の記載から、以下のことが明らかである。
(ア)記載d、eから、スロットの一部に連通路(11)が形成されるので、エアギャップ(固定子内周)のガス通路が大きくなる。このガス通路が大きくなった、連通路(11)を含むエアギャップは、固定子即ちステータよりも内周側に形成され、モータの上下両端を軸方向に連通する「第1流路」と称することができる。
(イ)記載aないしd及び第1図から、そのコアカット面は、ステータよりも外周側に形成され、モータの上下両端を軸方向に連通する「第2流路」と称することができる。
(ウ)同じく記載aないしd及び第1図から、少なくとも、上記「第1流路」は圧縮冷媒および潤滑油が(密閉ケース内の上部空間(ロ)に)流れる流路であるといえ、また、上記「第2流路」は上部空間で分離された潤滑油が下部空間に落下する流路、即ち「油戻し用」の流路であるといえる。

6)したがって、刊行物3には、密閉形圧縮機における以下の技術が記載されているものと認められる。
「上部に吐出口を有する密閉状の筒状ケーシングと、
この筒状ケーシング内の上部に設けられ、ステータおよびそのステータの内側のロータからなるモータと、
前記筒状ケーシング内の下部に設けられ、前記モータにより駆動されて冷媒を圧縮する回転圧縮要素と、
前記筒状ケースシングの下部に収容された潤滑油と、
前記ステータよりも内周側に形成され、前記モータの上下両端を軸方向に連通する第1流路と、
前記ステータよりも外周側に形成され、前記モータの上下両端を軸方向に連通する第2流路とを備え、
前記第1流路を圧縮冷媒および潤滑油が(筒状ケーシング内の上部空間に)流れる流路とし、前記第2流路を油戻し用の流路とした」技術。

7)以上の刊行物2、3の記載から、密閉形圧縮機において、少なくとも以下の技術が本件出願前に周知であったものと認められる。
「上部に吐出口を有する密閉ケースと、
この密閉ケース内の上部に設けられ、ステータおよびそのステータの内側のロータからなるモータと、
前記密閉ケース内の下部に設けられ、前記モータにより駆動されて冷媒を圧縮する圧縮機部と、
前記密閉ケースの下部に収容された潤滑油と、
前記ステータよりも内周側に形成され、前記モータの上下両端を軸方向に連通する第1流路と、
前記ステータよりも外周側に形成され、前記モータの上下両端を軸方向に連通する第2流路とを備え、
前記第1流路を圧縮冷媒および潤滑油が(密閉ケース内の上部空間に)流れる流路とし、前記第2流路を油戻し用の流路とした」技術。

(5)本件発明1について;
(5-1)対比
上記本件発明1と引用発明1とを対比すると、両者は、少なくとも
「上部に吐出口を有する密閉ケースと、この密閉ケース内の上部に設けられ、ステータおよびそのステータの内側のロータからなる直流モータと、前記密閉ケース内の下部に設けられ、前記直流モータにより駆動されて冷媒を圧縮する圧縮機部と、前記密閉ケース内の下部に収容された潤滑油と、前記ステータよりも内周側に形成され、前記直流モータの上下両端を軸方向に連通する第1流路と、前記ステータよりも外周側に形成され、前記直流モータの上下両端を軸方向に連通する第2流路とを備えたことを特徴とする密閉形圧縮機。」の点で一致し、以下の点で相違する。
(相違点1)
本件発明1は「前記第1流路の流路抵抗性を前記第2流路の流路抵抗性よりも小さく設定した」との発明特定事項を備えるのに対し、引用発明1はかかる本件発明1が備える発明特定事項は備えない点。

(5-2)判断
(相違点1について);
上記相違点1につき検討すると、本件発明の作用に関し、本件明細書の段落【0013】に、「【作用】第1および第2の発明の密閉形圧縮機では、圧縮冷媒および潤滑油が、流路抵抗性の小さい方の第1流路に流入し易くなって、その分、第2流路には流入し難くなる。よって、密閉ケース内の上部空間に流れる圧縮冷媒および潤滑油はほぼ第1流路を通る分だけに制限され、同時に、第2流路が上部空間から下部への本来の油戻し用としてほぼ専用化される。」との記載が認められる。ところで、上記(4-2)に示したように、密閉形圧縮機において、上部に吐出口を有する密閉ケースと、この密閉ケース内の上部に設けられ、ステータおよびそのステータの内側のロータからなるモータと、前記密閉ケース内の下部に設けられ、前記モータにより駆動されて冷媒を圧縮する圧縮機部と、前記密閉ケースの下部に収容された潤滑油と、前記ステータよりも内周側に形成され、前記モータの上下両端を軸方向に連通する第1流路と、前記ステータよりも外周側に形成され、前記モータの上下両端を軸方向に連通する第2流路とを備え、前記第1流路を圧縮冷媒および潤滑油が(密閉ケース内の上部空間に)流れる流路とし、前記第2流路を油戻し用の流路とした技術が本件出願前に周知であったものと認められる。この周知技術は、必ずしも密閉ケース内の上部空間に流れる圧縮冷媒および潤滑油が第1流路を通る分だけに制限されることを示すものではないとしても、基本的に第1流路と第2流路とを設けることによって少なくとも第2流路を油戻し用の流路とする点では本件発明1とその軌を一にするものであるといえ、密閉ケース内の上部空間に流れる圧縮冷媒および潤滑油をほぼ第1流路を通る分だけに制限し、第2流路を油戻し用の流路として専用化するために、引用発明1において、特に本件発明1のようにその第1流路の流路抵抗性をその第2流路の流路抵抗性よりも小さく設定したことは、一般に流体工学の分野において、流路抵抗性(例えば「流体平均深さ」で表される。)の小さな流路の方が流路抵抗性の大きな流路よりも流体が流れやすいことは当業者の技術常識に属することと認められ(この技術常識に関し、例えば水力機械工学便覧編集委員会偏、「改訂 水力機械工学便覧」、株式会社コロナ社、昭和47年2月20日5版発行、P.32-33、等参照。)、このことを考慮すると、当業者が前記周知技術及び技術常識に基づく設計的事項として適宜容易になし得た程度の事項にすぎず、それにより格別の効果を奏するものとも認められない。よって、本件発明1の前記相違点1に係る発明特定事項は当業者が適宜容易に想到し得たものである。
{尚、特許異議申立人は、特許異議意見書において「・・すなわち、エアギャップの大きさはステータとロータ間の磁束の通りやすさに直接影響することから、前記エアギャップはできる限り小さくしてモータ効率を高めることが技術的常識であり、その流路抵抗性を考慮して大きさを決定するようなことは想定し得ない。」などと主張するが、本件発明(1、2)の第1流路は、その請求項2にも記載されているとおり、ステータの内周面とロータの外周面との間に確保されるエアギャップ、ステータにおける巻線収容スロットの開口からステータの内周面にかけて形成される溝部、およびロータに形成される複数本の貫通孔であることを少なくともその実施例とするものであり、そうである以上、引用例の従来技術(引用発明)も固定子B(ステータ)における巻線収容スロットの開口からステータの内周面にかけて形成される溝部を備えることは自明であると共に、その回転子C(ロータ)に複数本の貫通孔を形成することを何ら妨げるものではないから、引用発明において、その第1流路の流路抵抗性を考慮して大きさを決定することは十分に想定し得ることというべきである。異議申立人の前記主張は採用し得ない。}

(6)本件発明2について;
(6-1)対比
上記本件発明2と引用発明2とを対比すると、両者は、少なくとも
「上部に吐出口を有する密閉ケースと、この密閉ケース内の上部に設けられ、ステータおよびそのステータの内側のロータからなる直流モータと、前記密閉ケース内の下部に設けられ、前記直流モータにより駆動されて冷媒を圧縮する圧縮機部と、前記密閉ケース内の下部に収容された潤滑油と、前記ステータよりも内周側に形成され、前記直流モータの上下両端を軸方向に連通する第1流路と、前記ステータよりも外周側に形成され、前記直流モータの上下両端を軸方向に連通する第2流路とを備えた密閉形圧縮機(において)」の点で一致し、以下の点で相違する。
(相違点2)
本件発明2は「前記第1流路の流路抵抗性を前記第2流路の流路抵抗性よりも小さく設定した」との発明特定事項を備えるのに対し、引用発明2はかかる本件発明2が備える発明特定事項は備えない点。
(相違点3)
本件発明2では、第1流路は、ステータの内周面とロータの外周面との間に確保されるエアギャップ、ステータにおける巻線収容スロットの開口からステータの内周面にかけて形成される溝部、およびロータに形成される複数本の貫通孔であり、第2流路は、ステータの外周面と密閉ケースの内周面との間に形成される油戻し用の流路であるのに対し、引用発明2では、第1流路は、ステータの内周面とロータの外周面との間に確保されるエアギャップ、ステータにおける巻線収容スロットの開口からステータの内周面にかけて形成される溝部であり、第2流路は、ステータの外周面と密閉ケースの内周面との間に形成される当該第2流路などから油が戻される流路である点。

(6-2)判断
上記各相違点につき、以下に検討する。
(相違点2について);
上記相違点2は上記(5-1)対比における相違点1と同じである。したがって、相違点2についての判断も、上記(5-2)判断における相違点1についての判断と同じ理由により、本件発明2の上記相違点2に係る発明特定事項は、当業者が適宜容易に想到し得た程度のものである。
(相違点3について);
例えば上記刊行物2(及び引用例の第1図の実施例)には、「第1流路は、ステータの内周面とロータの外周面との間に確保されるエアギャップ、ステータにおける巻線収容スロットの開口からステータの内周面にかけて形成される溝部、およびロータに形成される複数本の貫通孔であり、第2流路は、ステータの外周面と密閉ケースの内周面との間に形成される油戻し用の流路である」との本件発明2の相違点3に係る発明特定事項が記載され、かかる発明特定事項は本件出願前周知の事項であると認められる。そして、引用発明2に上記(相違点1について)において示した設計的事項を適宜施すことによりその第1流路の流路抵抗性をその第2流路の流路抵抗性よりも小さく設定するに際し、前記周知の事項を引用発明2に適用することにより本件発明2の相違点3に係る上記発明特定事項を想到することは、当業者がごく容易になし得る程度のことにすぎない。

【3】むすび
以上のとおり、本件請求項1、2に係る発明は、上記引用発明と周知技術とに基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件請求項1、2に係る発明についての特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものである。
したがって、本件請求項1、2に係る発明についての特許は、特許法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。
よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2004-09-07 
出願番号 特願平6-198233
審決分類 P 1 651・ 121- Z (H02K)
最終処分 取消  
特許庁審判長 城戸 博兒
特許庁審判官 岩本 正義
安池 一貴
登録日 2003-04-18 
登録番号 特許第3420641号(P3420641)
権利者 東芝キヤリア株式会社
発明の名称 密閉形圧縮機  
代理人 鈴江 武彦  

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