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審決分類 審判 一部申し立て 2項進歩性  G03B
管理番号 1107973
異議申立番号 異議2003-70324  
総通号数 61 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 1996-01-19 
種別 異議の決定 
異議申立日 2003-02-04 
確定日 2004-11-11 
異議申立件数
事件の表示 特許第3310463号「レンチキュラーレンズシート」の請求項1に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 特許第3310463号の請求項1に係る特許を取り消す。 
理由 1.手続の経緯
特許第3310463号の請求項1に係る発明についての出願は、平成6年7月4日の出願であって、平成14年5月24日にその設定登録がなされ、その後、株式会社ディスクより特許異議申立てがなされ、取消理由通知がなされ、その指定期間内である平成15年6月16日に訂正請求がなされた後、訂正拒絶理由が通知され、訂正拒絶理由通知に対して意見書が提出されたものである。

2.訂正の適否についての判断
上記訂正請求の特許請求の範囲の請求項1についての訂正は、特許請求の範囲の減縮を目的とする訂正に該当するとして、【数1】に続いて「並びに0<C1/(d1・ρ1)≦32[cm2/g]」を追加することによる訂正を求めるものである。
しかしながら、当該訂正は次の理由により認められない。
「C1/(d1・ρ1)」という式についての数値範囲を表す構成は、願書に添付された明細書又は図面に記載されていないし、C1/(d1・ρ1)=32[cm2/g]である実施例についても願書に添付された明細書又は図面のいずれにも見あたらない。また、「0<C1/(d1・ρ1)≦32[cm2/g]」という数値範囲のみを意味すると認められる記載事項は、願書に添付された明細書又は図面のいずれにも見あたらない。
よって、このような訂正は、願書に添付された明細書又は図面の記載から自明な事項ではなく、願書に添付された明細書又は図面の記載事項の範囲内においてなされたものに該当しない。
これに対して特許権者は、特許異議意見書において「「C1/(d1・ρ1)」は一般に散乱断面積と呼ばれ、光拡散性微粒子による光拡散の機会を示すものであります。なお、その上限値である32[cm2/g]は本件特許明細書の実施例の記載に基づいております。すなわち、実施例では、段落0016に示すように、ポリメチルメタクリレート樹脂を基材層とする入射側レンズ層にd1=8μm(0.0008cm)である有機系材料の△n1=0なる微粒子を3重量%(C1=0.03)含有させており、また、前記有機系材料の微粒子は△n1=0ということから基材と同種のポリメチルメタクリレートであるので、その比重ρ1は1.19g/cm3であることより、C1/(d1・ρ1)=0.03/(0.0008×1.19)=32[cm2/g]なるレンチキュラーレンズシートが記載されております。」と主張しているが、有機系材料が△n1=0であることから有機系材料の微粒子は基材と同種のポリメチルメタクリレートであると認定することはできないから、願書に添付された明細書又は図面にC1/(d1・ρ1)の値が32[cm2/g]である実施例が記載されているとは認めることができない。よって、この主張は採用できない。
したがって、上記訂正は、特許法等の一部を改正する法律(平成6年法律第116号)附則第6条第1項の規定によりなお従前の例によるとされる、特許法第120条の4第3項において準用する平成6年法律第116号による改正前の特許法第126条第1項ただし書きで規定する要件に適合しないので当該訂正は認められない。

3.特許異議の申立てについて
(1)[申立ての理由の概要]
特許異議申立人株式会社ディスクは、下記甲第1、2号証を提出し、特許第3310463号の請求項1に係る発明は、甲第1、2号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明できたものであり、特許法第29条第2項の規定に違反して特許されたものである旨主張している。
甲第1号証:特開平5-61120号公報
甲第2号証:特開昭63-163445号公報

(2)[本件発明]
本件の請求項1に係る特許発明(以下、「本件発明」という。)は、特許明細書の特許請求の範囲に記載されたとおりの以下のものと認める。
「【請求項1】 複数の入射側レンズを有する入射側レンズ層と、入射側レンズによる光集光点またはその近傍に出射面が形成された複数の出射面を有する出射側層とを有し、該入射側レンズ層と出射側層とが実質的に透明な樹脂から形成され、さらに少なくとも出射側層には光拡散性微粒子が含有され、次式(I)及び(II)、
【数1】

を満足し、押出成形により得られるレンチキュラーレンズシートであって、式(I)において、C1≠0かつΔn1=0であり、光拡散性微粒子の一部が入射側レンズ表面に存在することを特徴とするレンチキュラーレンズシート。」

(3)[当審が通知した取消しの理由に引用された刊行物]
刊行物1:特開平5-61120号公報(甲第1号証)
刊行物2:特開昭63-163445号公報(甲第2号証)
刊行物1には、
「【請求項1】複数の入射側レンズを有する入射側レンズ層と、入射側レンズによる光集光点またはその近傍にレンズ面が形成された複数の出射側レンズを有する出射側レンズ層とを有する両面レンチキュラーレンズシートにおいて、該入射側レンズ層と出射側レンズ層とが実質的に透明な熱可塑性樹脂から形成され、さらに少なくとも出射側レンズ層には光拡散性微粒子が含有され、次式(I)および(II)
t1>t2>0 式(I)
【数1】

(式中、t1は入射側レンズ層の厚さ、t2は出射側レンズ層の厚さ、Δn1は入射側レンズ層における熱可塑性樹脂と光拡散性微粒子との屈折率の差、Δn2は出射側レンズ層における熱可塑性樹脂と光拡散性微粒子との屈折率の差、c1は入射側レンズ層における光拡散性微粒子の重量濃度、c2は出射側レンズ層における光拡散性微粒子の重量濃度、ρ1は入射側レンズ層における光拡散性微粒子の比重、ρ2は出射側レンズ層における光拡散性微粒子の比重、d1は入射側レンズ層中の光拡散性微粒子の平均粒径、d2は出射側レンズ層中の光拡散性微粒子の平均粒径を表す。)を満足することを特徴とするレンチキュラーレンズシート。」(特許請求の範囲の請求項1)、
「【請求項8】レンチキュラーレンズシートが、入射側レンズ層を形成する第1の樹脂シートと出射側レンズ層を形成する第2の樹脂シートを共押し出しし、所定の凹凸を有する金型ロール間を通すことにより成形された請求項1記載のレンチキュラーレンズシート。
【請求項9】入射側レンズ層を形成する第1の樹脂シートと出射側レンズ層を形成する第2の樹脂シートを共押し出しし、所定の凹凸を有する金型ロール間を通して成形する請求項1記載のレンチキュラーレンズシートの製造方法。」(特許請求の範囲の請求項8、9)
が記載されている。
刊行物2には、
「(1)透明熱可塑性樹脂からなるシート材料であって、その中に該透明熱可塑性樹脂と非相溶性であり且つ上記透明熱可塑性樹脂の屈折率と略等しい屈折率を有する透明非熱可塑性ビーズが混入されており、該透明非熱可塑性ビーズの混入によってレンチキュラーレンズ表面に球状凹凸形状が付与されていることを特徴とする透過型スクリーン用レンチキュラーレンズシート。」(特許請求の範囲)、
「一般にプロジェクションテレビは、赤、緑、青の三色のCRTから投写されるレンズを通して出射された映像をフレネルレンズによりほぼ平行光とし、その光を透過型スクリーンに入射してスクリーンにより視野角度を拡大する構造となっている。
(発明が解決しようとする問題点)
上記の視野角度を左右または上下に拡大するために、レンチキュラーレンズシートが使用されており、」(1頁右欄9行〜18行)、
「本発明の透過型スクリーン用レンチキュラーレンズシート10は、第1図示の如く、透明熱可塑性樹脂1からなるシート材料10であって、その中に上記透明熱可塑性樹脂1と非相溶性であり、且つ該透明熱可塑性樹脂1の屈折率と略等しい屈折率を有する透明非熱可塑性ビーズ2が混入されており、該非熱可塑性ビーズ2の混入によってレンチキュラーレンズ3表面に球状凹凸形状4が付与されていることを特徴とする透過型スクリーン用レンチキュラーレンズシート10である。」(2頁右上欄12行〜左下欄1行)、
「以上の如き材料からなり前記の如き構成を有する本発明の透過型スクリーン用レンチキュラーレンズシート10は、好ましくは第2図示の如き方法によって提供される。
まず、所望の割合の透明熱可塑性樹脂1と透明非熱可塑性ビーズ2とを押出機11のホッパー12中に供給し、押出機11中で溶融混練してダイス13より、任意の幅に押出し、一対の加熱されたレンチキュラーレンズ金型ロール14と15との間に通して加圧するとともに厚さを揃える。」(2頁右下欄17行〜3頁左上欄6行)、
「以上のようにして本発明の透過型スクリーン用レンチキュラーレンズシート10のレンズ3の表面にはビーズ2のサイズに対応したサイズの球状凹凸形状4が形成され、またビーズ2の混入量を変化させることで球状凹凸形状4のピッチ幅も変化させることができる。
一方、本発明の透過型スクリーン用レンチキュラーレンズシート10の裏面17は平滑でもよいし、レンチキュラーレンズ形状でもよいし、」(3頁右上欄19行〜左下欄7行)、
「この透過型スクリーン用レンチキュラーレンズシートのレンチキュラーレンズ表面は粗い球状凹凸形状を有し、裏面は細かい凹凸形状を有していた。このシートをプロジェクションテレビのフレネルレンズ面に粗い球状凹凸形状を有する面を対向させて配置し、」(4頁左下欄6行〜11行)
が記載されている。

(4)[対比・判断]
本件発明と刊行物1に記載された発明とを対比すると、刊行物1における「レンズ面が形成された複数の出射側レンズを有する出射側レンズ層」、「出射側レンズ層」は、各々、本件発明の「出射面が形成された複数の出射面を有する出射側層」、「出射側層」に相当する。
よって、両者は「【請求項1】 複数の入射側レンズを有する入射側レンズ層と、入射側レンズによる光集光点またはその近傍に出射面が形成された複数の出射面を有する出射側層とを有し、該入射側レンズ層と出射側層とが実質的に透明な樹脂から形成され、さらに少なくとも出射側層には光拡散性微粒子が含有され、次式(I)及び(II)、
【数1】

を満足し、押出成形により得られるレンチキュラーレンズシートであることを特徴とするレンチキュラーレンズシート。」の点で一致する。
そして、本件発明では「式(I)において、C1≠0かつΔn1=0であり、光拡散性微粒子の一部が入射側レンズ表面に存在する」であるのに対して、刊行物1に記載された発明ではそのような構成を有していない点で両者は相違する。
しかしながら、刊行物2には、「透明熱可塑性樹脂からなるシート材料であって、その中に該透明熱可塑性樹脂と非相溶性であり且つ上記透明熱可塑性樹脂の屈折率と略等しい屈折率を有する透明非熱可塑性ビーズが混入されており、該透明非熱可塑性ビーズの混入によってレンチキュラーレンズ表面に球状凹凸形状が付与されている」という構成が記載されており、これを刊行物1記載の発明に適用することに格別困難性を要するとは認められない。
したがって、刊行物2に示される前記技術思想を刊行物1に記載された発明に適用して本件発明のように構成することは当業者が容易に想到できるものと認められる。
また、上記相違点に係る本件発明の構成によってもたらされる効果も刊行物1、2から予測される範囲のものである。
よって、本件発明は刊行物1、2に基づいて当業者が容易に発明できたものである。

(5)[結び]
以上のとおり、本件の請求項1に係る発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものに対して特許されたものである。
したがって、本件の請求項1に係る発明の特許は特許法等の一部を改正する法律(平成6年法律第116号)附則第14条の規定に基づく、特許法等の一部を改正する法律の施行に伴う経過措置を定める政令(平成7年政令第205号)第4条第2項の規定により取り消されるべきものである。
よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2004-01-23 
出願番号 特願平6-152027
審決分類 P 1 652・ 121- ZB (G03B)
最終処分 取消  
前審関与審査官 星野 浩一  
特許庁審判長 森 正幸
特許庁審判官 柏崎 正男
青木 和夫
登録日 2002-05-24 
登録番号 特許第3310463号(P3310463)
権利者 株式会社クラレ
発明の名称 レンチキュラーレンズシート  
代理人 韮澤 弘  
代理人 青木 健二  
代理人 菅井 英雄  
代理人 米澤 明  
代理人 蛭川 昌信  
代理人 内田 亘彦  
代理人 阿部 龍吉  
代理人 白井 博樹  

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