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審決分類 審判 一部無効 2項進歩性 無効とする。(申立て全部成立) H01B
管理番号 1108892
審判番号 無効2004-35152  
総通号数 62 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 1998-06-26 
種別 無効の審決 
審判請求日 2004-03-19 
確定日 2004-12-08 
事件の表示 上記当事者間の特許第3471546号発明「絶縁電線およびこれを用いた電気機器」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 特許第3471546号の請求項1、2、5に係る発明についての特許を無効とする。 審判費用は、被請求人の負担とする。 
理由 1.手続の経緯
本件特許第3471546号は、平成8年12月16日の特許出願に係るものであって、平成15年9月12日に請求項1〜5に係る発明について特許権の設定の登録がなされたものであり、その後、請求項1、2、5に係る発明の特許について、平成16年3月19日に請求人 宇敷明泰により特許無効の審判請求がなされたので、平成16年4月8日付けで答弁書提出の機会を与えたが、その指定期間内に何ら応答がなかったものである。

2.本件発明
本件特許の請求項1、2、5に係る発明(以下、「本件発明1」、「本件発明2」、「本件発明5」という。)は特許明細書の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1、2、5に記載される事項により特定される次のとおりのものである。
「【請求項1】導体外周に、粒径が10〜50nmの乾式シリカを含有する絶縁塗料の塗布焼付層を具備してなることを特徴とする絶縁電線。
【請求項2】絶縁塗料中の乾式シリカの含有量が、樹脂分100重量部あたり2〜50重量部であることを特徴とする請求項1記載の絶縁電線。
【請求項5】請求項1乃至4のいずれか1項記載の絶縁電線からなる絶縁コイルを具備したことを特徴とする電気機器。」

3.請求人の主張及び証拠方法
3-1.請求人の主張
請求人は、本件発明1、2、5についての特許を無効とする、審判費用は被請求人の負担とするとの審決を求め、証拠方法として本件出願前に頒布された刊行物である甲第1〜2号証を提出して、その無効理由を概略次のように主張している。
(1)無効理由1
本件発明1、2、5は、いずれも甲第1号証に記載された発明であるから、特許法第29条第1項3号の規定に該当し、特許を受けることができない。
(2)無効理由2
本件発明1、2、5は、甲第1、2号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

3-2.証拠の記載事項
請求人が提出した証拠の記載事項は、次のとおりである。
3-2-1.甲第1号証:特公平3-31738号公報
(イ)「1 電気導体に・・・耐コロナ性絶縁物を形成するにあたり、前記電気導体の少なくとも一部を独特のコロナ抵抗を付与する効果的量の5-40重量%の添加剤・・・を含有するポリマー材料で被覆し、前記添加剤・・・を、オルガノアルミネート化合物、・・・0.005〜0.05ミクロンの粒度のシリカ・・・よりなる群から選択し、前記ポリマー材料は樹脂および熱可塑性フィルムよりなる群から選択されかつビニル樹脂を実質的に含まないことを特徴とする、方法。」(特許請求の範囲)
(ロ)「5 前記添加剤を0.005〜0.05ミクロンの粒度のヒュームドシリカよりなるシリカ粒子とし、・・・」(特許請求の範囲)
(ハ)「本発明によれば、耐コロナ樹脂を使用して導体または電線を被覆する・・・ことができ、これにより優れた電気絶縁系を実現できる。」(第3頁右欄第27〜30行)
(ニ)『本発明に有用な気相から形成される酸化物粒子は、ヒュームド酸化物とも称される。・・・ヒュームド酸化物の代表例には、・・・ Degussa,Inc.から商標名「Aerosil」(シリカ)・・・として製造販売されているものがある。』(第5頁左欄第19〜25行)

3-2-2.甲第2号証:特開平6一344490号公報
「【0001】【産業上の利用分野】本発明は、優れた耐熱性・・・を有し、かつ、可とう性も良好な耐熱塗膜を具備した・・・耐熱絶縁電線に関する。
【0002】【従来の技術】近年、ポリボロシロキサンやポリチタノシロキサンのような・・・無機ポリマーを主成分とする塗料が開発され、従来の有機系の耐熱塗料に比べ高い耐熱性を有する塗膜が形成されることから、巻線用電線をはじめ、・・・様々な用途への利用が進められている。」
「【0004】しかるに、上記無機ポリマーを含む塗料においては、十分に高温( 400℃以上)で焼成した場合に、耐熱性が高く、硬度も十分な塗膜が形成されるが、反面、可とう性に乏しくなり、たとえば巻線用電線に適用した場合にコイル巻きが困難になったり、・・・という問題があった。
【0005】そこで、この問題を解決するため、従来、400℃より低い温度で塗布焼付けたり、電線の用途には、さらに、その表面にポリエステルやポリエステルイミドなどの有機樹脂層を設け、コイル巻きなどの加工を行った後、 400℃以上の温度で加熱し、塗膜を完全焼成することが行われている。」
「【0018】次に、本発明の耐熱絶縁電線について説明する。
図2および図3はそれぞれ本発明の耐熱絶縁電線の構造例を示す断面図である。・・・図3に示す実施例は、上記保護層6上に、さらに、前述したような有機ポリマー系塗料による塗布焼付層7を設けて構成されている。」

4.当審の判断
請求人の主張する無効理由のうち、無効理由2について以下検討する。
4-1.本件発明1について
(甲第1号証に記載の発明について)
甲第1号証には、前記摘示したイ、ロの記載より、電気導体を5-40%の添加剤を含有するポリマー材料で被覆して、電気導体に耐コロナ性絶縁物を形成したものであって、添加剤を0.005〜0.05ミクロンの粒度のヒュームドシリカよりなるシリカ粒子としたものが記載されている。
そして、「0.005〜0.05ミクロン」の粒度は「5〜50nm」の粒径であることは明らかであり、摘示したニの記載より、「ヒユームドシリ力」は「乾式シリカ」であることもまた明らかである。また、摘示したハの、耐コロナ樹脂を電線に被覆する旨の記載を参照すると、甲第1号証には、電気導体に耐コロナ性絶縁物を形成したものとして絶縁電線についても記載されているものであり、さらに、耐コロナ性絶縁物は電気導体の外周を被覆する絶縁層といえるものである。
以上を総合すると、甲第1号証には、電気導体外周に、粒径が5〜50nmの乾式シリカを含有するポリマー材料で被覆して形成した絶縁層を具備してなる絶縁電線の発明が記載されているといえる。
(対比)
そこで、本件発明1と甲第1号証に記載の発明とを対比すると、前者における「絶縁塗料の塗布焼付層」も絶縁層といえるものであるから、両者は、「導体外周に、粒径が10〜50nmの乾式シリカを含有する絶縁層を具備してなる絶縁電線」である点で一致し、次の点で相違するものである。
相違点:絶縁層に関し、本件発明が、絶縁塗料の塗布焼付層としたものであるのに対し、甲第1号証に記載の発明では、ポリマー材料で被覆して形成したもので、どのように形成したのか不明である点。
(相違点の検討)
そこで、相違点について検討する。
甲第2号証には、前記摘記したように、従来の技術の例として、有機系の耐熱塗料により塗膜を形成させた絶縁電線(段落【0002】参照)や、電線の用途には、表面にポリエステルやポリエステルイミドなどの有機樹脂層を設け、400℃以上の温度で加熱し、塗膜を完全焼成することが記載されており(段落【0005】参照)、さらに、絶縁電線に有機ポリマー系塗料による塗布焼付層7を設けることも記載されている(段落【0018】参照)。このように、ポリマー材料による被覆の形成にあたり、ポリマー材料を塗料とし、それを電気導体に塗布焼き付けることは周知技術といえる。
そうすると、甲第1号証に記載の発明において、絶縁層の形成にあたり前記周知技術を単に採用して、この相違点にかかげられた本件発明1のようにすることは当業者が容易に想到できることである。しかも、そのようにしたことにより、本件発明1は格別の作用効果を奏するものではない。
したがって、本件発明1は、甲第1号証に記載の発明および周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件発明1に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである

4-2.本件発明2について
本件発明2は、本件発明1を引用して記載された発明であり、本件発明1において、「乾式シリカの含有量が、樹脂分100重量部あたり2〜50重量部であること」という事項をさらに追加特定したものであるが、甲第1号証には、前記のように、電気導体を被覆するポリマー材料が5-40重量%の添加剤を含有することが記載されている。この割合は、残部のポリマー材料60〜95重量%に対し5-40重量%の添加剤を含有するということであり、残部のポリマー材料100重量部に対する割合に換算すると、添加剤の含有量は約5〜67重量部と計算できる。そして、残部のポリマー材料は樹脂であり、添加剤は乾式シリカあることを考慮すると、甲第1号証に記載のものは、乾式シリカの含有量においても本件発明2と一致するものである。
そうすると、本件発明2と甲第1号証に記載の発明は、前記相違点においてのみ相違するものであり、前記本件発明1について検討した点を勘案すれば、本件発明2は、甲第1号証に記載の発明および周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。
よって、本件発明2に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。

4-3.本件発明5について
本件発明5は、請求項1〜4を引用して記載された発明であるから、本件発明1、2において特定される絶縁電線からなる絶縁コイルを具備したことを特徴とする電気機器を含む発明である。
そこで、本件発明5と甲第1号証に記載の発明とを対比すると、両者は、前記相違点で相違するとともに、後者が前者のように絶縁電線からなる絶縁コイルを具備した電気機器であるかどうか明らかでない点で相違する。
しかしながら、絶縁電線から絶縁コイルを形成してそれを電気機器に具備させることは周知技術であるから、甲第1号証に記載の発明の絶縁電線から絶縁コイルを形成してそれを電気機器に具備させることは当業者が適宜なし得ることである。
そうすると、前記本件発明1、2について検討した点をさらに勘案すれば、本件発明5は、甲第1号証に記載の発明および周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。
よって、本件発明5に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。

5.むすび
以上のとおりであるから、本件発明1、2、5に係る特許は、特許法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきものである。
審判に関する費用については、特許法第169条第2項の規定で準用する民事訴訟法第61条の規定により、被請求人が負担すべきものとする。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2004-10-13 
結審通知日 2004-10-15 
審決日 2004-10-26 
出願番号 特願平8-335626
審決分類 P 1 122・ 121- Z (H01B)
最終処分 成立  
前審関与審査官 吉水 純子冨士 美香  
特許庁審判長 中村 朝幸
特許庁審判官 綿谷 晶廣
酒井 美知子
登録日 2003-09-12 
登録番号 特許第3471546号(P3471546)
発明の名称 絶縁電線およびこれを用いた電気機器  
代理人 櫛渕 昌之  

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