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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H02K
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 H02K
管理番号 1109389
審判番号 不服2002-17038  
総通号数 62 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 1997-01-10 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2002-09-05 
確定日 2005-01-05 
事件の表示 平成 7年特許願第157354号「ディスク駆動装置」拒絶査定に対する審判事件[平成 9年 1月10日出願公開、特開平 9- 9568]について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本願は、平成7年6月23日の出願であって、平成14年7月29日付けで拒絶査定がなされ、平成14年9月5日に拒絶査定に対する審判請求がされるとともに、同年10月4日付けで手続補正がなされたものである。

2.平成14年10月4日付けの手続補正についての補正却下の決定
[補正却下の決定の結論]
平成14年10月4日付けの手続補正を却下する。

[理由]
(1)補正後の本願発明
平成14年10月4日付けの手続補正(以下「本件補正」という。)により、本願の明細書における特許請求の範囲の請求項1は、
「ステータ側に、ステータコイルを巻装したステータコアと、このステータコアの内周側に位置するスリーブとを備え、ロータ側に、ディスクを固定するハブと、このハブに前記ステータコアの周囲を取りまくようにして装着された駆動マグネットと、前記ハブの半径方向中央に一端が取り付けられるとともにハブが取り付けられる部分以外の外周残部が前記スリーブによって嵌挿される軸とを備え、軸又はスリーブのどちらか一方にヘリングボーンを形成し、軸とスリーブとの間に注入された潤滑油を介して回転可能な動圧流体軸受を構成し、軸径を3mm以下にするとともに、軸とスリーブとの半径隙間Rを、軸径Dに対する比(R/D)が0.0005から0.001の範囲になるようにしたスピンドルモータを有し、かつハブの外周に2.5インチ型ディスクを固定したことを特徴とするディスク駆動装置。」
と補正された。
これは、補正前の請求項1に記載した発明の構成事項である「軸とスリーブとの半径隙間Rの、軸径Dに対する比(R/D)」を、補正前の「0.0005から0.002」から、「0.0005から0.001」の範囲にさらに限定するものであり、平成6年法律第116号による改正前の特許法第17条の2第3項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
そこで、本件補正後の前記請求項1に記載された発明(以下「本願補正発明」という。)が、特許出願の際に独立して特許を受けることができるものであるかについて以下に検討する。

(2)引用例
(2)-1.引用刊行物1
ア.原査定の拒絶の理由に、本願発明の前提となる構成に対する周知例として引用された本願出願前に頒布された刊行物である特開平7-123633号公報(平成7年5月12日公開、以下「引用刊行物1」という。)には、次の事項が記載されている。

(ア)「図1(a)において、101は光磁気ディスク、202は前記光磁気ディスク101の回転中心の位置決めをしつつ係合し、かつ前記光磁気ディスク101と一体となって所定の回転数で回転するシャフト、203はその上端面に前記光磁気ディスク101を載置して高さ方向の位置決めをするディスク支持部、204は前記光磁気ディスク101の中央部に軟磁性材で形成された吸着板102を磁気吸着し、前記ディスク支持部203に前記光磁気ディスク101を固定するチャッキングマグネット、205は界磁マグネット、206は前記界磁マグネット205の磁路を形成する磁路ヨークである。前記磁路ヨーク206の中心部には前記シャフト202が、内周部には前記界磁マグネット205が、そして天面部には前記ディスク支持部203および前記チャッキングマグネット204がそれぞれ圧入,接着,かしめ等で固定され、全体としてロータ201を構成している。302はステータコア、303および304は駆動コイル、305はモータを駆動するIC等の素子ないし印刷パターンが実装されている回路基板で、前記回路基板305および前記ステータコア302は接着,圧入あるいはネジ止め等でハウジング306に固定され、全体としてステータ301を構成している。前記ロータ201はスリーブメタル104でラジアル方向に支承され、スラスト板501でスラスト方向に支承されている。前記シャフト202と前記スリーブメタル401の間、前記シャフトと前記スラスト板501の間にはそれぞれ潤滑流体(図示せず)、たとえば油が充鎮されている。前記シャフト202にはヘリングボーン溝202aが形成され、前記シャフト202の回転により前記潤滑流体中に圧力が発生して動圧流体軸受機構を構成する。」(段落【0010】)

(イ)「光磁気ディスク装置はディスクの交換を頻繁に行う装置であり、ディスクのチャッキング方式として磁気吸引力を利用するマグネットクランプ方式が3.5インチサイズの光磁気ディスク装置の標準規格として定められており、5.25インチサイズの光磁気ディスク装置においても代表的な方式となっている。したがってディスクの取り出し時には軸受のスラスト方向にディスクを前記チャッキング機構部から取り外す外力(3.5インチサイズでは510gf以上、5.25インチサイズでは1kgf以上)が働く。前記ラジアル動圧流体軸受はスラスト方向荷重を支承する能力およびスラスト方向の位置を保持する能力はなく、専用の軸受およびロータの抜け止めを設ける必要がある。」(段落【0003】)

イ.以上の(ア)の記載から、引用刊行物1には、次のとおりの発明が記載されていると認められる。
「ステータ側に、駆動コイル303,304を巻装したステータコア302と、このステータコア302の内周側に位置するスリーブメタル401とを備え、ロータ側に、ディスクを磁気吸着により固定するマグネットチャック204及びディスク支持部203と、このマグネットチャック204及びディスク支持部203を固定する磁路ヨーク206と、この磁路ヨーク206に前記ステータコア302の周囲を取りまくようにして装着された界磁マグネット205と、前記磁路ヨークヨーク206の半径方向中央に一端が取り付けられるとともに磁路ヨーク206が取り付けられる部分以外の外周残部が前記スリーブメタル401によって嵌挿されるシャフト202とを備え、シャフト202にヘリングボーンを形成し、シャフト202とスリーブメタル401との間に注入された潤滑油を介して回転可能な動圧流体軸受を構成したスピンドルモータを有し、かつ前記チャッキングマグネット204が吸着保持する吸着板102の外周にディスクを磁気吸着により固定したディスク駆動装置。」
(2)-2.引用刊行物2
ア.同じく、原査定の拒絶の理由に引用された本願出願前に頒布された刊行物である特開平6-173941号公報(平成6年6月21日公開、以下「引用刊行物2」という。)には、次の事項が記載されている。

(ア)「本発明は、多面鏡付きモータ、ファン付きモータ等の動圧型流体軸受回転装置に関するものである。」(段落【0001】)

(イ)「しかしながら上記のような構成では、次の様な問題点がある。第1の軸受21A、第2の軸受22A、魚骨溝21B、22Bは大変高精度な部品であり、高価な精密旋盤を用いて加工しなければならないが従来の構成ではケース21、カバー22の比較的大きな部品を高価な旋盤で加工するのでコストが高い。また、動圧型流体軸受は、軸受隙間が5ミクロンメータ程度と狭く、組み立ての際小さなゴミまで洗浄と除去を行う必要があり多量の洗浄液が必要である。」(段落【0005】)

(ウ)「図1は本発明の動圧型流体軸受回転装置の第1の実施例を示すものである。図1において、1は窓1Bを有するケースであり取り付け穴1Aにフランジ部2Cと軸受穴2B、魚骨状の動圧発生溝2Aを有する第1の軸受2を固定している。ケース1にはカバー3が取り付けられ、カバー3の取り付け穴3Aには、フランジ部4Cと軸受穴4B、魚骨状の動圧発生溝4Aを有する第2の軸受4が固定され、第2の軸受4またはカバー3には、らせん状の動圧発生溝5Aを有するスラスト軸受5が取り付けられている。軸6は上部に細径部6B、下部にも細径部6C、2個の細径部の間には大径部6Aを有しており2個のラジアル方向軸受2、3とスラスト方向のスラスト軸受5により回転自在に支えられている。軸6にはロータ磁石7と、多面鏡が固定され、またケースにはモータステータ8が内蔵され、3個の軸受溝2A、4A、5Aは潤滑剤9A、9B、9Cが保持されている。
以下その動作について説明する。まず、モータステータ8に通電がされると、ロータ磁石7は、軸6、多面鏡10とともに回転を始める。この回転により魚骨溝2A、4A、らせん溝5Aは潤滑剤9A、9B、9Cに圧力を与え、軸6は無接触回転をする。本発明においてはラジアル方向の流体軸受を構成する軸6の径細部6B、6Cはその直径が3ミリメートル程度と、非常に細く設計しており軸受損失トルクが小さく回転がスムーズであり、しかも3万RPM程度の高速回転させても周速は比較的低く発熱や、潤滑剤の飛散や劣化がない。」(段落【0008】【0009】)

イ.以上から、引用刊行物2には、「多面鏡付きモータ、ファン付きモータ等において、軸にヘリングボーンを形成し、潤滑剤を介して相対回転する動圧型流体軸受の軸の直径を3mm程度とすること、軸をこのように細くすることにより、軸受損失トルクを小さくすることができること」が記載されている。
また、動圧型流体軸受は、軸受隙間が5ミクロンメータ程度と狭いことが記載されている。

(2)-3.引用刊行物3
ア.同じく、原査定の拒絶の理由に引用された本願出願前に頒布された刊行物である特開平5-240241号公報(平成5年9月17日公開、以下「引用刊行物3」という。)には、次の事項が記載されている。

(ア)(従来のものにおいて)「支承部材36の内周部中央には円筒状のラジアルスリーブ39が、下方端面には円環状スラスト板37が固着している。ラジアルスリーブ39の内周面はラジアル軸受部材34と対向し、スラスト板37の下面はスラスト軸受板33の上面と対向しており、それぞれヘリングボーン溝によるラジアル動圧軸受と、スパイラル溝によるスラスト動圧軸受を構成している。」(段落【0005】)

(イ)「動圧軸受の弱い剛性を向上させる手段としては、使用回転数を上昇させる方法と、軸受クリアランスを小さくする方法が一般的であるが、前者はユーザにより規定され、高回転になる傾向があるが、現状は3600〜8000rpm程度であり、剛性向上の手段には十分でないのが現状である。後者は剛性向上の有力な手段となり得る。図9はモータ用動圧軸受の直径が(1)2.5″、(2)3.5″、(3)5.25″(審決注:丸数字を両括弧付き数字で記載し直した。)の3種類のハードディスク用スピンドルモータに使用される3種類の空気動圧ラジアル軸受のクリアランス(b+b’)と摺動部直径Bの比に対する軸受剛性の関係を示す線図であり、剛性は前述の3種類のスピンドルモータに一般的に使用されるボールベアリングの剛性の1/3を基準値1としての比を表す。なお、この線図の計算に用いた動圧軸受の回転数は、現状のスピンドルモータの回転数では一般的な3600rpmで計算している。
図9から明らかなように空気動圧軸受としては比較的低速な3600rpmで従来のボールベアリングの1/3程度の軸受剛性を得るためには、サイズの異なる3種類の軸受のいずれも略同様で(b+b’)/B<5/104程度であることが必要である。これは図9の回の曲線で、例えばB=9mmとすれば、クリアランス(b+b’)<0.0045mm、即ちラジアルクリアランスを4.5ミクロン以下にする必要がある。」(段落【0008】【0009】)

(ウ)図9には、「クリアランス(b+b’)/直径B」が小となるほどラジアル剛性比が大となっているグラフが記載されている。

イ.以上から、引用刊行物3には、「ハードディスク用スピンドルモータにおいて、空気を介して相対回転するヘリングボーン溝の動圧型軸受で、軸受クリアランスを小さくすることで軸受の剛性を向上させることが一般的であり、軸受クリアランスを直径で除したものが、小となるほど軸受のラジアル剛性比が大となること」が記載されている。
(3)対比
本願補正発明と引用刊行物1に記載の発明を比較すると、後者の「駆動コイル303,304」、「ステータコア302」、「スリーブメタル401」、「界磁マグネット205」、「シャフト202」は、前者の「ステータコイル」、「ステータコア」、「スリーブ」、「駆動マグネット」、「軸」にそれぞれ相当し、後者においては、「磁路ヨーク206」中心部にシャフトが取り付けられるとともに、この「磁路ヨーク206」に固定された「チャッキングマグネット204」,「ディスク支持部203」と「チャッキングマグネット204」に吸着される「吸着板102」によりディスクが支持されるものであり、また、これらの「磁路ヨーク206」、「チャッキングマグネット204」「ディスク支持部203」及び「吸着板102」は、全体として、ディスクの中央部に位置するものであって、これらを合わせたものが、前者の「ハブ」に相当することから、両者は、
「ステータ側に、ステータコイルを巻装したステータコアと、このステータコアの内周側に位置するスリーブとを備え、ロータ側に、ディスクを固定するハブと、このハブに前記ステータコアの周囲を取りまくようにして装着された駆動マグネットと、前記ハブの半径方向中央に一端が取り付けられるとともにハブが取り付けられる部分以外の外周残部が前記スリーブによって嵌挿される軸とを備え、軸又はスリーブのどちらか一方にヘリングボーンを形成し、軸とスリーブとの間に注入された潤滑油を介して回転可能な動圧流体軸受を構成したスピンドルモータを有し、かつハブの外周にディスクを固定したディスク駆動装置。」
である点で一致し、次の点で相違している。

(相違点1)
本願補正発明においては、固定されるディスクは、2.5インチ型であるのに対し、引用刊行物1には、3.5インチ型と5.25インチ型については言及されているが、2.5インチ型であることの特定はされていない点

(相違点2)
本願補正発明においては、軸径を3mm以下 にするとともに、軸とスリーブとの半径隙間Rの軸径Dに対する比(R/D)が0.0005から0.001の範囲にしたのに対し、引用刊行物1に記載の発明には、そのような特定はされていない点

(4)判断
(4)-1.相違点1について
ディスク駆動装置に固定されるディスクとして、2.5インチ型のものは周知であり、例えば、引用刊行物1及び本願補正発明と同じく動圧軸受を備えるモータから構成されるディスク装置である引用刊行物3にも、上記(2)-3.ア(イ)のとおり例示されているとおりである。
したがって、本願補正発明において、ディスクを2.5インチ型とした点に、格別の困難性を認めることはできない。

(4)-2.相違点2について
ア.引用刊行物1においては、軸径、及び軸とスリーブとの半径隙間Rの軸径Dに対する比(R/D)の数値範囲については、特定をしていない。
ところで、本願補正発明において、軸径を3mm以下としたのは、低消費電力化を達成するためにモータ電流を下げるには、軸の回転時の摩擦トルクを小さくする必要があることを主な目的にしている(本願明細書の段落【0019】〜【0021】参照。)ところ、引用刊行物2には、多面鏡付きモータ、ファン付きモータ等において、軸にヘリングボーンを形成し、潤滑剤を介して相対回転する動圧型流体軸受の軸の直径を3mm程度とすること、軸をこのように細くすることにより、軸受損失トルクを小さくすることができることについて記載されている。
これによると、本願補正発明と同じく、潤滑油等の潤滑剤を介する動圧型流体軸受においては、軸の径を小さくすれば回転時の摩擦トルクを下げることができるもので、また、その軸径として、3mm程度の値をとることもあり得るものであることが明らかである。
引用刊行物2に記載されたものは、ディスク駆動に係るものではないにしても、引用刊行物1及び本願補正発明とは、モータの軸にヘリングボーンを形成し、潤滑剤を介して相対回転する動圧型流体軸受を備えるものである技術において共通しているもので、引用刊行物1に記載されたものに対して、引用刊行物2に記載の技術を参酌して本願補正発明の構成の一部を構成することの妨げとなるものはない。

イ.また、本願補正発明において、軸径を3mm以下とすることにより、図6等に見られるように、摩擦トルクや負荷容量との関係において好ましい結果が得られるにしても、この3mmの値により臨界的な著しい作用効果の変化をもたらすものとまではいえない。

ウ.さらに、本願補正発明において、軸とスリーブとの半径隙間Rの軸径Dに対する比(R/D)を0.0005から0.001の範囲としたのは、この比を小さくすることにより、軸受の負荷容量を大きくするためであり、また、0.0005より小さいと熱膨張に起因して半径隙間がなくなることに依っている(本願明細書の段落【0021】参照。)。
ところで、引用刊行物3には、スピンドルモータの軸受であって、空気を介して相対回転するヘリングボーン溝の動圧型軸受において、軸受クリアランスを小さくすることで軸受の剛性を向上させることが一般的であり、軸受クリアランスを直径で除したものが、小となるほど軸受のラジアル剛性比が大となることが、一般的な技術として記載されている。
引用刊行物3においては、本願補正発明のように潤滑油を介在させずに空気による動圧軸受としたこともあり、具体的に開示されている数値は、0.001とは異なるものの、軸受の剛性すなわち負荷容量を向上させるためには、軸径Dとスリーブとの半径隙間Rの比(R/D)を所定の値よりも小さくすることが必要であることを開示している。
引用刊行物3に記載のものでは、空気を流体として用いる動圧軸受であるために、その数値自体を潤滑油を流体として用いる動圧軸受の場合の参考にはできないにしても、軸受クリアランスを直径で除したものが、小となるほど軸受のラジアル剛性比が大となるという定性的な知見については、潤滑油を用いる動圧軸受についても参考とすることができることはいうまでもない。
しかも、引用刊行物1及び本願補正発明のように、潤滑剤を用いた動圧軸受の場合、引用文献2には、軸受隙間が5ミクロンメータ程度が一般的であること及び軸径として3mm程度とすることが記載されていることから、軸とスリーブとの半径隙間Rの軸径Dに対する比(R/D)が0.0017程度のものが想定され、この値は、本願補正発明の上限値の0.001を上回るものの、それと大きくかけ離れるものでもなく、このことからしても、0.001以下とする数値が従来の技術から想定外のものともいえない。

エ.また、軸受の隙間に関する数値範囲が下限値を必要とすることは、当然であり、その際に熱膨張を考慮に入れるべきことも技術常識に過ぎないものであるから、下限値を本願補正発明のように、0.0005とした点にも格別の困難性は認められない。

オ.また、本願補正発明において、軸とスリーブとの半径隙間Rの軸径Dに対する比(R/D)を0.0005から0.001の範囲としたことが、図7等に見られるように、負荷容量との関係において好ましい結果が得られるにしても、これらの値において臨界的な著しい作用効果の変化をもたらすものとまではいえない。

カ.このように、本願補正発明における軸径及び軸とスリーブとの半径隙間Rの軸径Dに対する比(R/D)に関する範囲を限定した点については、負荷(相違点1に関するディスクの大きさ等にも関係する)や流体の種類等の一定の条件下において、実験的に好適な範囲を求めることにより、容易になし得たものと認められる。

(4)-3.そして、本願補正発明の全体の作用効果としても、各引用刊行物及び周知技術から、当業者が予測できる範囲のものである。
なお、審判請求人は、片持式の動圧流体軸受を有する2.5インチ型ディスク駆動装置に係る発明に対して、構成及び軸受特性の異なる潤滑油等の動圧型流体軸受と空気動圧軸受とに関する特性データと一般的な技術常識というバラバラで相互に無関係な知見を寄せ集めるだけで、顕著な作用効果を奏する本願補正発明を容易に想到することはできない旨の主張をしている(平成14年10月4日付けの審判請求の理由に関する手続補正書の4頁)。
しかしながら、引用刊行物1ないし3に記載された技術は、ヘリングボーン溝を形成する動圧型のモータ軸受の部分において共通するものであり、これらの技術を互いに適用することが困難であるとは認めることができない。
そして、本願補正発明における数値範囲の限定については、その課題に関した数値範囲を設定することは、各引用刊行物及び技術常識によって予測できるものであり、また、その具体的な数値については、与えられた所定の条件の下で実験的に求め得る範囲のものであることは、既に述べたとおりである。
したがって、本願補正発明は、引用刊行物1ないし3に記載の発明及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許出願の際に独立して特許を受けることができないものである。

(5)むすび
以上のとおり、本件補正は、平成6年法律第116号による改正前の特許法第17条の2第4項で準用する同法第126条第3項の規定に違反するものであり、同法第159条第1項で準用する同法第53条第1項の規定により却下されるべきものである。

3.本願発明について
(1)以上のとおり、平成14年10月4日付けの手続補正は却下されたため、本願の請求項1ないし3に係る発明は、平成14年3月11日付け手続補正書により補正された明細書及び出願当初の図面の記載からみて、その明細書の特許請求の範囲の請求項1ないし3に記載されたとおりのものと認められるところ、その請求項1に係る発明(以下「本願発明」という)は、次のとおりである。
「ステータ側に、ステータコイルを巻装したステーアコアと、このステータコアの内周側に位置するスリーブとを備え、 ロータ側に、ディスクを固定するハブと、このハブに前記ステータコアの周囲を取りまくようにして装着された駆動マグネットと、前記ハブの半径方向中央に一端が取り付けられるとともにハブが取り付けられる部分以外の外周残部が前記スリーブによって嵌挿される軸とを備え、
軸又はスリーブのどちらか一方にヘリングボーン溝を形成し、軸とスリーブとの隙間に注入された潤滑油を介して相対的に回転可能な動圧流体軸受を構成し、
軸径Dを3mm以下にするとともに、軸とスリーブとの半径隙間Rを、軸径Dに対する比(R/D)が0.0005から0.002の範囲になるようにしたスピンドルモータを有し、
かつハブの外周に2.5インチ型ディスクを固定したことを特徴とするディスク駆動装置。」

(2)引用刊行物
原査定の拒絶理由に引用された引用刊行物1ないし3には、上記2(2)のとおりのものが記載されている。

(3)対比、判断
本願発明は、上記2で検討した本願補正発明に対し、軸とスリーブとの半径隙間Rの軸径Dに対する比(R/D)の上限値を0.002と、広い範囲にしたものである。
そして、この0.002という値に格別の臨界的な意義が認められないことは、本願補正発明において、0.001の値の場合と同様である。
したがって、本願補正発明が、上記のとおり、引用刊行物1ないし3に記載の発明及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も、同様の理由により、当業者が容易に発明をすることができたものである。

(4)むすび
以上のとおり、本願発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2004-01-05 
結審通知日 2004-01-06 
審決日 2004-01-19 
出願番号 特願平7-157354
審決分類 P 1 8・ 575- Z (H02K)
P 1 8・ 121- Z (H02K)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 藤原 直欣▲高▼辻 将人  
特許庁審判長 城戸 博兒
特許庁審判官 村上 哲
岩本 正義
発明の名称 ディスク駆動装置  
代理人 石原 勝  

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