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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) G01N
管理番号 1109431
審判番号 不服2001-11021  
総通号数 62 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 1998-09-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2001-06-28 
確定日 2005-01-07 
事件の表示 平成 9年特許願第 72649号「分析方法、キット及び装置」拒絶査定に対する審判事件[平成10年 9月25日出願公開、特開平10-253632]について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.本願発明
本願は、平成9年3月10日の出願であって、その請求項1ないし29に係る発明は、平成15年3月14日付け手続補正書(平成15年4月1日付け方式補正)により補正された明細書の特許請求の範囲の請求項1ないし29に記載された事項により特定されるものであるところ、その請求項1に係る発明(以下、「本願発明1」という。)は、次のとおりのものである。
「【請求項1】 液体試料中に存在する2種類以上の分析物の量を測定あるいは有無を検定する分析方法であって、
(1)第一配位子にマーカーが結合されてなる2種類以上のマーカー標識化配位子を含み、且つ第二配位子に分析物の種類に応じて予め決定された塩基配列を有する核酸である結合子が結合されてなる2種類以上の結合子標識化配位子を含む試薬と、
2種類以上の分析物を含む液体試料を接触させて、特定の種類の分析物、該分析物に対して特異的に結合する特定の種類のマーカー標識化配位子、及び該分析物に対して特異的に結合する特定の種類の結合子標識化配位子からなる特定の種類の複合体を2種類以上形成させること、
(2)形成された2種類以上の複合体を、シート状の展開要素中に毛管現象により展開させること、
(3)前記複合体中の結合子に対して相補的な塩基配列を有する核酸からなる抗結合子が種類毎に独立して前記展開要素上に固定されてなる検出ゾーンにおいて、前記結合子と前記抗結合子間の相補的結合により分析物の種類毎に前記複合体を捕獲して各々独立した帯を形成させること、
(4)前記検出ゾーンで形成された帯に含まれるマーカーを測定又は検定することを含むこと、
からなる分析方法。」

2.引用刊行物の記載事項
(1)刊行物1(国際公開第94/27150号パンフレット)
当審において通知した拒絶理由に引用した刊行物1には、「一種類以上の免疫学的配位子の分析法、その分析試薬およびそのキット」の発明について、次の事項が記載されている。
(1a)技術分野(第1頁6〜9行)
「本発明は、抗原抗体反応を利用した免疫生体成分分析法に関し、一種類以上の抗原または一種類以上の抗体の分析が一度に無限に近い種類の組合せで行なうことができる一種類以上の抗原または一種類以上の抗体の分析法、その分析試薬およびそのキットに関する。」
(1b)背景技術(第1頁11〜17行)
「臨床検査の分野において免疫学的検出法は、微量の生体成分を定量、検出するために使用されている方法であり、種々の方法が開発されている。そのなかで蛍光物質、発光性物質、酵素等の非放射性物質を抗体の標識物として使用する免疫学的検出法は、標識物として放射性物質を用いた際のように特殊な施設を必要とせず、試薬の扱いやすさ、大量処理が可能などの点から生体成分分析法で広く利用されている。」
(1c)従来の免疫学的検出方法の問題点(第5頁13行〜22行)
「また、第1図で示される前記従来の免疫学的検出方法においては、標識された抗体が固相に捕捉される反応は抗原抗体反応であるので、その標識抗体が固相に捕捉されることに要する時間が比較的長く、時単位となっている。したがって、反応系に含まれている標識物導入体が固相に暴露される時間が長くなり、そのためその標識物導入体が直接固相に結合する、いわゆる非特異的反応が生じ、測定感度が低くなるという問題があった。
また、高感度な測定を実現するための従来の免疫複合体転移測定法は、操作工程数が多く操作も煩雑で、その反応に長時間が必要であることが最大の欠点であった。」
(1d)刊行物1発明の目的(第5頁23行〜第6頁2行)
「そこで、本発明の第1の目的は、反応系に加えられる標識物導入体が固相に非特異的に捕捉されることにより測定感度を低めるという問題点をできるだけ抑えることを目的とする。また、本発明の第2の目的は、前記第1の目的に加えて一種類以上の抗体または一種類以上の抗原の検出を一つの試薬で簡単な操作で行える分析試薬、キット、およびそれらを用いた測定方法を提供することを目的とする。」
(1e)免疫学的配位子の分析試薬(第6頁4行〜14行)
「前記した問題点を解決するために、本発明は次の物質群(A)および物質群(B)を同時に含む一種類以上の免疫学的配位子の分析試薬とするものである。
物質群(A):種類の異なる被測定物質である免疫学的配位子の各々に対応して特異的な免疫学的結合性を有する各々の免疫学的抗配位子に、前記免疫学的配位子の種類に応じた特定の且つそれぞれ任意に選択された塩基配列を有するヌクレオチドが結合されてなる一種類以上の免疫学的抗配位子-ヌクレオチド結合体、
物質群(B):種類の異なる被測定物質である免疫学的配位子の各々に対応して特異的な免疫学的結合性を有する各々の標識物導入体。」
(1f)免疫学的配位子分析キット(第6頁15行〜第7頁1行)
「また、本発明は次の物質群(A)および物質群(B)を同時に含む一種類以上の免疫学的配位子分析試薬と下記の固相(C)から構成される一種類以上の免疫学的配位子分析キットとするものである。
物質群(A):種類の異なる被測定物質である免疫学的配位子の各々に対応する特異的な免疫学的結合性を有する各々の免疫学的抗配位子に、前記免疫学的配位子の種類に応じて、特定の且つそれぞれ任意に選択された塩基配列を有するヌクレオチドが結合された、一種類以上の免疫学的配位子-ヌクレオチド結合体、
物質群(B):種類の異なる被測定物質である免疫学的配位子の各々に対応して特異的な免疫学的結合性を有する各々の標識物導入体、
固相(C):前記物質群(A)のヌクレオチドに対して、それぞれ相補的に結合できる塩基配列を有するヌクレオチドが水不溶性担体に結合されている固相-ヌクレオチド結合体。」
(1g)ヌクレオチドの結合(第7頁12行〜17行)
「抗体-ヌクレオチド結合体または抗原-ヌクレオチド結合体と、固相に固定されたヌクレオチドとの結合は、互いのヌクレオチドの塩基配列の相補的な結合による。互いのヌクレオチドの相補的塩基配例については、互いのヌクレオチド分子が結合可能な状態となる、相補的という点において部分的に対応しているものでもよく、また互いの相補的塩基配列が完全に一致しているものでもよい。」
(1h)刊行物1発明の利点(第7頁18行〜第8頁11行)
「ところで、一般的にヌクレオチドの相補的結合は非常に特異性が高く相補的な結合が形成されるのに要する時間は、抗原-抗体複合体が形成されるのに必要とされる時間に比較して極めて短くてもすむという特性がある。本発明によれば、上述した抗体-ヌクレオチド結合体または抗原-ヌクレオチド結合体をヌクレオチド結合固相と反応させる時間は、従来の免疫測定法である抗体結合固相-抗原複合体に対して標識物導入体を結合させる時間に比較して極めて短時間ですむ。その理由は、従来の免疫学的配位子、即ち、抗原または抗体の測定においては、標識物導入体が含まれる測定対象物が固相に捉えられる方法は、抗原-抗体反応によっており、その反応のため十分な時間が必要であったが、本発明の免疫学的配位子の測定においては、標識物導入体が含まれる測定対象物が固相に捉えられる方法は、ヌクレオチドの相補的な結合によっているので、前記抗原-抗体反応に比較して非常に短時間ですむという利点がある。
したがって、本発明では標識物導入体、例えば、標識抗体等が固相へ直接結合する十分な時間を与えないので、非特異的な反応を低減化することが可能となり高感度な測定系が実現できる。
また、本発明によれば、一つの試薬で一種類以上の免疫学的配位子、即ち、抗原または抗体を検出または測定することができるので、前記従来法に比べそれらを検出または測定する時間を飛躍的に短くすることができる。」
(1i)固相の材質
「本発明で使用される固相には、たとえば、ポリスチレンが好適に使用される。」(第9頁6行〜7行)と記載されているとともに、刊行物1の実施例1〜2では、複数種類の「ポリスチレンビーズ」が別々の試験管に入れられて使用されている(第16頁13行〜20行、第17頁24行〜第18頁4行、第19頁5行〜10行、第21頁1行〜9行)。
(1j)ヌクレオチドが結合した固相の一例(第10頁4行〜14行)
「第3図は、本発明の一種類以上の抗原の分析試薬と組み合わされて使用されるヌクレオチドが結合した固相の一例を示し、第3図(a)はヌクレオチドON1に相補的な塩基配列を有するヌクレオチド(ON)が結合された固相(抗原A用固相)、第3図(b)はヌクレオチドON2に相補的な塩基配列を有するヌクレオチド(ON)が結合された固相(抗原B用固相)、第3図(c)はヌクレオチドON3に相補的な塩基配列を有するヌクレオチド(ON)が結合された固相(抗原C用固相)をそれぞれ示す。これらの種類の異なる各固相は個別に独立して存在している。これらの各固相は、第2図に示される一種類以上の抗原の分析試薬と組み合されて使用され、これらは本発明の分析キットの1例を構成している。」
(1k)複合体の形成、固相への結合(第10頁15行〜第11頁6行)
「第2図に示される一種類以上の抗原の分析試薬に対して、抗原A、抗原B、抗原Cが含まれている被検試料の添加が行なわれると、一つの反応溶液中において抗原A、抗原B、抗原Cの各々について(抗体-ヌクレオチド結合体)-抗原-標識物導入体からなる複合体が形成される。この様子を第4図に示す。
つぎに、前記(抗体-ヌクレオチド結合体)-抗原-標識物導入体からなる複合体を含んでいる反応溶液を、個別に独立して存在する前記の抗原A用固相、抗原B用固相、抗原C用固相にそれぞれ接触させて、前記複合体に含まれるヌクレオチドと、そのヌクレオチドに相補的な塩基配列を有するヌクレオチドが結合された抗原A用固相、抗原B用固相および抗原C用固相のヌクレオチドとハイブリダイゼ-ションにより相補的に結合させる。
第5図、第6図、第7図に、ヌクレオチドのハイブリダイゼ-ションにより各固相に捕捉された複合体を示す。第5図は抗原A用固相に、ヌクレオチドの相補的結合により捕捉された、抗原Aを含む複合体を示す。第6図は抗原B用固相に、ヌクレオチドの相補的結合により捕捉された、抗原Bを含む複合体を示す。第7図は抗原C用固相に、ヌクレオチドの相補的結合により捕捉された、抗原Cを含む複合体を示す。」
(1m)固相での検出(第11頁7行〜18行)
「つぎに、前記の各固相に捕捉された複合体に対して、洗浄を行ない、固相に結合していない不純物、例えば、標識物導入体等を除く。第8図、第9図、第10図には、独立して存在する各固相に捕捉された3種類の複合体が洗浄されて不純物が除去された様子、即ち、第8図に示すように抗原A用固相には抗原Aを含む複合体が、第9図に示すように抗原B用固相には抗原Bを含む複合体が、第10図に示すように抗原C用固相には抗原Cを含む複合体が各々洗浄された後の状態を示している。この各固相に捕捉された複合体に含まれる標識物に対して、判定を行なう。例えば、それぞれの独立した反応系で酵素反応等を行ない、それぞれの色調などで判定する。標識物が蛍光体、色素、金属コロイド等である場合は、酵素反応を省略して判定を行なうことができる。」
(1n)刊行物1発明の効果(第21頁18行〜22頁4行)
「本発明によれば、免疫複合体-標識物導入体を含む混合物をヌクレオチド結合固相と反応させる時間は、従来法における固相との結合に抗原抗体反応を利用した反応時間と比較すると極めて短時間とすることができるので、標識物導入体が固相へ直接結合する、いわゆる非特異的な結合を低減化することが可能となり高感度な測定系が実現できる。
本発明によれは、一つの試薬で一種類以上の免疫学的配位子、即ち、一種類以上の抗原または一種類以上の抗体を同時に検出または測定することができるので、それらを検出または測定する時間を飛躍的に短くすることができる。
本発明によれば、相補的ヌクレオチドの塩基配列の組合せは理論的には無限大近くまで考えられるので、免疫学的ペアの各一方、即ち一種類以上の抗原または一種類以上の抗体の検出される組合せの種類数は無限大近くまでの組合せが可能である。」

(2)刊行物2(特開平8-94618号公報)
同じく当審拒絶理由に引用した刊行物2には、
(2a)分析対象物を簡便かつ迅速に測定する方法として、次の免疫学的測定方法が特許請求の範囲に記載されているとともに、
「【請求項1】2種類以上の色調の異なる着色ラテックス粒子を用いる免疫学的測定方法において、
a.あらかじめ、2種類以上の色調の異なる着色ラテックス粒子をインジケーター物質および1種類以上の免疫学的反応に授かる物質に各々個別に標識せしめ、
b.一方、同一支持体上の異なる位置に少なくとも2種類以上からなる免疫学的に反応する能力のある物質を、あらかじめ固相化し、
c.ついでインジケーター物質および1種類以上の免疫学的反応に授かる物質からなる標識着色ラテックス粒子の混合物と被検液中の特定の少なくとも1種類以上の免疫学的物質と反応せしめ、
d.ついで、インジケーター物質を標識した着色ラテックス粒子と免疫学的に形成させた標識着色ラテックス複合体との混合物に、被検液を媒体として展開・移動せしめ、
e.2種類以上の免疫学的に反応する能力を有する物質をあらかじめ固相化しておいた複数の位置に、それぞれ対応するインジケーター物質を標識せしめた着色ラテックス粒子と免疫学的に形成せしめた標識着色ラテックス複合体によって、別々の色調で着色することを特徴とする免疫学的測定方法。」
(2b)イムノクロマトグラフ法
あらかじめ支持体上に固相化した抗原もしくは抗体が存在し、支持体の端部から着色した標識微粒子が水などの溶媒を媒体として支持体のもつ毛細管現象の作用で順次拡散・移動し、その際、被分析対象成分と免疫的に形成せしめた複合体-着色標識粒子によって、先の抗原もしくは抗体を固相化しておいた位置にその複合体-微粒子が到達し、その場所で特異的に抗原-抗体反応を生じ、着色シグナルとして目視的に観察することができる方式の免疫学的測定法が、「イムノクロマトグラフ法」と呼ばれ、昭和年代から広く知られ、実施化されている技術であることが記載されており(【0002】〜【0011】)、イムノクロマトグラフ法で使用する支持体が、シート状の支持体であることも記載されている(段落【0012】)。

(3)刊行物3(特表平5-506095号公報)
同じく当審の拒絶理由に引用した刊行物3には、
(3a)請求の範囲の第1項に、次の発明が記載されているとともに、
「1. 水性試料における免疫学的に反応性の分析物を測定かつ検出する方法において、
第1の免疫反応性物質と検出可能種との結合生成物からなる水分散性標識成分を提供し、
捕獲可能の種と第2の免疫反応性物質との結合生成物からなる水分散性の捕獲可能成分を提供し、
捕獲可能の種を含有する反応生成物と相互作用し、検出ゾーンにおいて反応生成物を捕獲し、かつ集めることができ、多孔性担持材料の検出ゾーンにおいて局在化された捕獲成分を提供し、
分析物に対して分析すべき試料を含む水溶液と標識成分と捕獲可能成分とを接触させることにより前記試料と前記成分とを含有する液状反応混合物を形成し、前記第1と第2の物質は同じか、あるいは異なり、前記分析物の介在の機能として直接あるいは間接的に結合でき、そのため捕獲可能の成分を含有する拡散反応生成物を形成することができ、
前記液状反応混合物を前記検出ゾーンにおいて前記の捕獲成分と接触させることにより前記捕獲可能成分を含有する反応生成物が、前記捕獲成分との相互作用により前記ゾーンにおいて捕獲され、かつ集められ、
前記ゾーンで捕獲され、かつ集められた反応生成物における検出可能種の介在を評価することにより試料における分析物を測定即ち検出する方法。」
(3b)実施例として、第1、2図に図示された、セルローズ材料のような吸水性材料から形成される多孔性担体材料の細長い帯片の形態である基本要素12の一端に、芯材料14の分離した長方形断片14a,14bが要素12の両面に対して緊密に押圧されることにより、芯部材14と帯片12とが緊密で毛管現象により連通接触している材料の細長いブロックが形成された装置10とともに、妊娠を検出するために使用しうるように、帯片12のゾーン18に抗体2B2とビオチンの複合体が、ゾーン20に標識である金コロイド粒体と抗体2G9との結合反応物が、それぞれ帯片に溶液として付与された後乾燥されており、検出ゾーンとなるゾーン22には固体ラッテクス粒体と複合化されたストレプトアビジンが局在化されているものが記載されており、尿の流れに装置10の端部の芯14を直接位置させれば、尿は芯部材14の吸収作用により吸収され、要素12の孔が尿を端部16から端部32に向かう方向に毛管作用により帯片要素12に沿って移動するようにさせ、尿がゾーン18と20とを順次横行するにつれて、尿は乾燥した標識成分と捕獲可能成分と接触するようになりこれらの成分を再構成して、尿と、その中に拡散した成分とを含有する液体反応混合物を形成し、ゾーン18からの捕獲可能成分の2B2抗体がhCG分子の特定の部位に対して免疫反応し、かつゾーン20からの標識成分の2G9抗体がhCG分子の異なる特定部位に対して免疫反応するので、標識2G9成分と、hCGとビオチニラートした2B2成分とのサンドイッチからなる反応生成物が形成され、反応生成物を拡散させている尿は、その混合物が、ゾーン22で局在化されたラテックス粒体に結合されるストレプトアビジンと出合うまで毛管作用により帯片12に沿って拡散し、移動し続け、2G9抗体に結合された金コロイド標識を含む反応生成物における、ラテックス粒体に結合されたストレプトアビジンと2B2抗体に結合されたビオチンとの間の反応によりゾーン22において反応生成物が捕獲、収集された結果、金標識が濃縮され可視検出して確実な結果を指示しうる直ちに見える彩色を提供するものであることが記載されている(第6頁左下欄13行〜第9頁左下欄14行)。また、第1図では、ゾーン18とゾーン20は長手方向に隔離しているが、それらは重ねても、相対位置を反転してもよいことが記載されている(第7頁右上欄2行〜6行)。

3.本願発明1と刊行物1記載発明との対比
本願発明1における「配位子」も、本願明細書の段落【0017】の「配位子」の説明および実施例の記載から明らかなように、抗原または抗体である分析物と抗原抗体反応する抗体または抗原が代表的なものであって、抗原抗体反応を利用した刊行物1記載の発明における「配位子」と異なるものではない。
そこで、本願発明1と刊行物1に記載された発明とを対比すると、両者は次の点:
(一致点)
「液体試料中に存在する2種類以上の分析物の量を測定あるいは有無を検定する分析方法であって、
第一配位子にマーカーが結合されてなる2種類以上のマーカー標識化配位子を含み、且つ第二配位子に分析物の種類に応じて予め決定された塩基配列を有する核酸である結合子が結合されてなる2種類以上の結合子標識化配位子を含む試薬と、
2種類以上の分析物を含む液体試料を接触させて、特定の種類の分析物、該分析物に対して特異的に結合する特定の種類のマーカー標識化配位子、及び該分析物に対して特異的に結合する特定の種類の結合子標識化配位子からなる特定の種類の複合体を2種類以上形成させること、
前記複合体中の結合子に対して相補的な塩基配列を有する核酸からなる抗結合子が種類毎に独立した固相において、前記結合子と前記抗結合子間の相補的結合により分析物の種類毎に前記複合体を捕獲させること、
前記固相に捕獲された前記複合体に含まれるマーカーを測定又は検定することを含むこと、
からなる分析方法。」
で一致するが、次の点で相違する。
(相違点)
本願発明1では、形成された2種類以上の複合体を、シート状の展開要素中に毛管現象により展開させ、抗結合子が種類毎に独立した前記展開要素上に固定されてなる検出ゾーンにおいて、前記結合体を捕獲して各々独立した帯を形成させ、前記検出ゾーンで形成された帯に含まれるマーカーを測定又は検定するものであるのに対し、刊行物1には、抗結合子が種類毎に独立して固定される固相として、ポリスチレンビーズを使用することは記載されている(前記記載(1i)参照)が、形成された2種類以上の複合体をシート状の展開要素中に毛管現象により展開させ、抗結合子が種類毎に独立した前記展開要素上に固定されてなる検出ゾーンにおいて捕獲し、各々独立した帯を形成させ、前記検出ゾーンで形成された帯に含まれるマーカーを測定又は検定することは記載されていない点。
4.前記相違点についての検討
そこで、この相違点について検討する。
従来、試験管の中でのビーズ状の固相や容器内壁などの固相を用いて行われていた抗原抗体反応を利用した免疫学的分析法に代えて、シート状の展開要素中に免疫複合体を毛管現象により展開し、展開要素上に該免疫複合体を捕捉する成分を固定した検出ゾーンにおいて展開し移動してくる免疫複合体を捕獲して捕獲帯を形成し、該捕獲帯に含まれる免疫複合体中のマーカーを測定又は検定する、試験管や容器等を使用せずに抗原抗体反応を行わせる方法は、本願明細書の従来技術についての段落【0004】〜【0009】の記載や刊行物2にも見られるように、「イムノクロマト法」、「イムノクロマトグラフ法」などと呼ばれ、免疫学的分析法の分野においては簡易性など種々の利点のある方法として周知の方法である。
そして、刊行物3には、免疫複合体をその中に毛管現象により展開し、その上の検出ゾーンに捕獲するシート状の展開要素において、検出ゾーンで反応生成物を捕獲しかつ集めることができる帯として局在化された捕獲成分が該展開要素上に固定化されてなるものを使用し、標識抗体-抗原(分析物)-捕獲可能種結合抗体からなるサンドイッチ状の免疫複合体を毛管現象により展開し、捕獲成分により該サンドイッチ状の免疫複合体を捕獲し、検出ゾーンで形成された帯に含まれた標識、すなわちマーカーを測定することも記載されているし、2種類以上の分析物を測定しようとするイムノクロマト法において、展開し移動してくる免疫複合体を2種類以上の分析物の種類毎に各々独立して捕獲するようにして、分析物の種類毎にマーカーを含む免疫複合体の各々独立した捕獲された帯を形成させることも、刊行物2に記載されている。
そうすると、従来の抗原抗体反応を利用した免疫複合体の固相への捕獲に比べて極めて短時間とすることができ、非特異的な結合の低減化等が図れる(前記記載(1n)参照)、核酸の相補的結合を免疫複合体の固相への捕獲に利用し試験管内でのビーズなどの固相を用いて行う刊行物1記載の免疫学的分析法についても、イムノクロマト法を採用して、(1)第一配位子にマーカーが結合されてなる2種類以上のマーカー標識化配位子を含み、且つ第二配位子に分析物の種類に応じて予め決定された塩基配列を有する核酸である結合子が結合されてなる2種類以上の結合子標識化配位子を含む試薬と、2種類以上の分析物を含む液体試料を接触させて、特定の種類の分析物、該分析物に対して特異的に結合する特定の種類のマーカー標識化配位子、及び該分析物に対して特異的に結合する特定の種類の結合子標識化配位子からなる特定の種類の複合体を2種類以上形成させ、(2)形成された2種類以上の複合体を、シート状の展開要素中に毛管現象により展開させ、(3)前記複合体中の結合子に対して相補的な塩基配列を有する核酸からなる抗結合子が種類毎に独立して前記展開要素上に固定されてなる検出ゾーンにおいて、前記結合子と前記抗結合子間の相補的結合により分析物の種類毎に前記複合体を捕獲して各々独立した帯を形成させ、(4)前記検出ゾーンで形成された帯に含まれるマーカーを測定又は検定するように、分析方法を変更するようなことは、当業者が容易に想到できる事項である。
そして、核酸の相補的結合を利用したことによる高感度化等の効果は、刊行物1に記載された発明から予測できる範囲内の効果に過ぎない。

5.むすび
したがって、本願発明1は、刊行物1〜刊行物3に記載された発明及び周知事実に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2003-11-14 
結審通知日 2003-11-26 
審決日 2003-12-10 
出願番号 特願平9-72649
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (G01N)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 亀田 宏之  
特許庁審判長 後藤 千恵子
特許庁審判官 矢沢 清純
河原 正
発明の名称 分析方法、キット及び装置  
代理人 光来出 良彦  

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