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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  A01C
管理番号 1109539
異議申立番号 異議2003-70785  
総通号数 62 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2000-04-25 
種別 異議の決定 
異議申立日 2003-03-24 
確定日 2004-10-25 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第3327872号「乗用型水田走行作業機」の請求項1に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 訂正を認める。 特許第3327872号の請求項1に係る特許を維持する。 
理由 1.手続きの経緯
特許第3327872号の請求項1に係る発明についての出願は、平成4年8月27日に特許出願された特願平4-228854号の出願の一部を、新たな出願(特願平10-264242号)とし、さらにその出願の一部を、新たな出願(特願平11-221261)としたものであって、平成14年7月12日にその特許権の設定登録がなされ、その後、三菱農機 株式会社 及び ヤンマー農機 株式会社 より特許異議の申立てがなされ、取消しの理由が通知され、その指定期間内である平成16年5月10日に訂正請求がなされたものである。
2.訂正の適否についての判断
(1)訂正の内容
特許権者が求めている訂正の内容は以下のa〜cのとおりである。
ア.訂正事項a
特許請求の範囲の請求項1中の
「前記主クラッチを操作する操作具を乗車位置で操作可能に備え、前記主クラッチとブレーキを操作する単一の操作具を降車位置で操作可能として前記クラッチを操作する操作具とは別に備え、」を、
「前記主クラッチを操作する操作具を乗車位置で操作可能に備え、前記主クラッチとブレーキを操作する単一の操作具を降車位置で操作可能として前記主クラッチを操作する操作具とは別部材で独立操作可能に備え、前記単一の操作具を主クラッチを操作する操作具の近傍でそれよりエンジンを覆うボンネット側に配置してボンネット側に設けたガイドで案内自在とし、」と訂正する。
イ.訂正事項b
特許請求の範囲の請求項1中の
「前記ブレーキを、前記トランスミッションから延伸した後輪駆動軸に設けた」を、
「降車位置から操作される前記単一の操作具によって主クラッチとともに操作されるブレーキを、前記トランスミッションを収納するミッションケースから露出した後輪駆動軸部に設けた」と訂正する。
ウ.訂正事項c
明細書の段落番号【0006】中の
「前記主クラッチを操作する操作具を乗車位置で操作可能に備え、前記主クラッチとブレーキを操作する単一の操作具を降車位置で操作可能として前記クラッチを操作する操作具とは別に備え、前記ブレーキを、前記トランスミッションから延伸した後輪駆動軸に設けたこと」を、
「前記主クラッチを操作する操作具を乗車位置で操作可能に備え、前記主クラッチとブレーキを操作する単一の操作具を降車位置で操作可能として前記主クラッチを操作する操作具とは別部材で独立操作可能に備え、前記単一の操作具を主クラッチを操作する操作具の近傍でそれよりエンジンを覆うボンネット側に配置してボンネット側に設けたガイドで案内自在とし、降車位置から操作される前記単一の操作具によって主クラッチとともに操作されるブレーキを、前記トランスミッションを収納するミッションケースから露出した後輪駆動軸部に設けたこと」と訂正する。
(2)訂正の目的の適否、新規事項の有無、及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否
上記訂正事項a,bは、請求項1において、主クラッチを操作する操作具と主クラッチとブレーキを操作する単一の操作具のエンジンを覆うボンネットに対する位置関係、主クラッチを操作する操作具と主クラッチとブレーキを操作する単一の操作具の独立操作性、及びブレーキの配設位置とトランスミッションを収納するミッションケースとの関係を付加限定したものであって、願書に添付された明細書の段落番号【0016】〜【0019】、【0021】〜【0023】、及び【図1】、【図3】、【図4】に記載されている事項であるから、特許請求の範囲の減縮を目的とした明細書の訂正に該当し、また、上記訂正事項cは、上記訂正事項a,bと整合を図るものであるから、明りょうでない記載の釈明を目的とした明細書の訂正に該当し、いずれも、新規事項の追加に該当せず、実質的に特許請求の範囲を拡張又は変更するものではない。
(3)むすび
以上のとおりであるから、上記訂正は特許法等の一部を改正する法律(平成6年法律第116号。以下「平成6年改正法」という。)附則第6条第1項の規定によりなお従前の例によるとされる、特許法第120条の4第3項において準用する平成6年改正法による改正前の特許法第126条第1項ただし書、第2項及び第3項の規定に適合するので、当該訂正を認める。
3.特許異議の申立てについて
(1)申立ての理由の概要
A.特許異議申立人 三菱農機 株式会社 は、
甲第1号証:実願昭60-151256号(実開昭62-59526号)のマイクロフイルム(刊行物a)
甲第2号証:特開昭57-178959号公報(刊行物b)
甲第3号証:特開平1-132307号公報(刊行物c)
甲第4号証:実公昭53-31540号公報(刊行物d)
甲第5号証:実願平2-114814号(実開平4-70581号)のマイクロフイルム(刊行物e)
甲第6号証の1:実願昭51-59169号(実開昭52-150129号)のマイクロフイルム(刊行物f)
甲第6号証の2:実願昭51-59644号(実開昭52-150130号)のマイクロフイルム(刊行物g)
甲第6号証の3:実願昭51-159944号(実開昭53-76427号)のマイクロフイルム(刊行物h)
を提出して、
ア.特許第3327872号の請求項1に係る発明は、本件出願前に日本国内において頒布された刊行物に記載された発明に基づいて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることが出来ないものであって、請求項1に係る発明についての特許は、拒絶の査定をしなければならない特許出願に対してされたものであるから、
B.特許異議申立人 ヤンマー農機 株式会社 は、
甲第1号証:特開平3-246125号公報(刊行物i)
甲第2号証:特開昭62-96176号公報(刊行物j)
を提出して、
ア.特許第3327872号の請求項1に係る発明は、本件出願前に日本国内において頒布された刊行物に記載された発明に基づいて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることが出来ないものであって、請求項1に係る発明についての特許は、拒絶の査定をしなければならない特許出願に対してされたものであるから、
特許を取り消すべき旨主張している。
(2)請求項1に係る発明
上記2.で示したように上記訂正が認められるから、本件特許第3327872号の請求項1に係る発明は、上記訂正請求に係る訂正明細書の特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される以下のとおりのものである。
「【請求項1】エンジンからの動力をトランスミッションに断続させる主クラッチと、伝動系にブレーキを備えている乗用型水田走行作業機において、
前記主クラッチを操作する操作具を乗車位置で操作可能に備え、前記主クラッチとブレーキを操作する単一の操作具を降車位置で操作可能として前記主クラッチを操作する操作具とは別部材で独立操作可能に備え、前記単一の操作具を主クラッチを操作する操作具の近傍でそれよりエンジンを覆うボンネット側に配置してボンネット側に設けたガイドで案内自在とし、
降車位置から操作される前記単一の操作具によって主クラッチとともに操作されるブレーキを、前記トランスミッションを収納するミッションケースから露出した後輪駆動軸部に設けたことを特徴とする乗用型水田走行作業機。 」
(3)刊行物
刊行物a:実願昭60-151256号(実開昭62-59526号)のマイクロフイルム(特許異議申立人 三菱農機 株式会社 提出の甲第1号証)には、「エンジン(22)の出力プーリ(23)と、前車輪(24)及び後車輪(25)に対するギアートランスミッション(26)の入力プーリ(27)とにわたり、第1伝動ベルト(28)と第2伝動ベルト(29)を伝動減速比が異なる状態で巻回し、一対の前記伝動ベルト(28),(29)に各別に作用する一対のテンション輪体(30),(31)を、支持アーム(32)または(33)を介して軸芯(P2)周りで各別に揺動するように機体部分に取付けると共に、一対の前記支持アーム(32),(33)をリンク機構(34)を介して1本の手動式操作レバー(35)に連動させて、走行用副変速装置に兼用のベルトテンション式の主クラッチ(36)を構成し、操作レバー(35)を第1操作位置(N)に操作すると、第1伝動ベルト(28)及び第2伝動ベルト(29)のいずれもが非伝動状態に弛緩されて伝動切りの状態になり、操作レバー(35)を第2操作位置(H)に操作すると、第1伝動ベルト(28)のみが伝動状態に緊張操作されて高速側の伝動入り状態になり、操作レバー(35)を第3操作位置(L)に操作すると、第2伝動ベルト(29)のみが伝動状態に緊張操作されて低速側の伝動入り状態になるとともに、前記主クラッチ(36)の切り操作に連係してブレーキ(37)が自動的に入り作動するように主クラッチ(36)とブレーキ(37)とを連係させ、かつ、操縦部(2)から降りて機体操縦する際には、主クラッチ(36)の切り操作に連係して摩擦ブレーキ(37)が自動的に入り作動する状態に自動的になり、操縦部(2)に乗って機体操縦する際には主クラッチ(36)の切り操作をしても摩擦ブレーキ(37)が入り作動しない状態に自動的になるように電磁ソレノイド(40)によって切り換えられるように構成してなる乗用型田植機。」が記載されている。
刊行物b:特開昭57-178959号公報(特許異議申立人 三菱農機 株式会社 提出の甲第2号証)には、「機体前部に歩行操縦用の前ハンドル(32)を固設し、エンジン(4)からの動力を機体前部のレバー(21)によって操作されるテンション方式の主クラッチ(22)を装備したベルト伝動機構を介してミッションケース(5)の入力軸(23)に伝え、変速レバー(24)によってシフトされる第2軸(25)の大径シフトギヤ(26)をギヤ(27)に咬合させて前進第1速、小径シフトギヤ(28)をギヤ(29)に咬合させて前進第2速、又、大径シフトギヤ(26)をバックギヤ(30)に咬合させて後進を得るよう構成し、又、第2軸(25)の前端には内拡式の駐車用ブレーキ(31)を装備し、前記前ハンドル(32)の近傍に座席(2)から操作できない状態で設けたグリップレバー(33)の握り操作によって制動操作され、畦越え、車輌への積み降ろし等においては、前ハンドル(32)をもって歩行状態で運転するようにしてなる乗用田植機。」が記載されている。
刊行物c:特開平1-132307号公報(特許異議申立人 三菱農機 株式会社 提出の甲第3号証)には、「エンジン(2)からプーリ(3)、メインベルト(4)、プーリ(5)を介して後部ギアボックス(6)を駆動する動力伝動系統を構成し、主クラッチペダル(41)を踏み込み、テンションクラッチプーリ(49)を移動させ、メインベルト(4)の緊張を解除し、車体の動力伝動系統を停止し、主クラッチレバー(81)を路上走行、植付、後退の三段階に切り替えることにより、シフター(82)を作動させて、後部ギアボックス(6)内の歯車機構の歯車の切り替えを行い、運転者が車体前方より主クラッチベダル(41)を手で操作可能なように補助レバー(51)を車体前部に設け、補助レバー(51)の先端を主クラッチペダル(41)のアーム(42)に挿通して、乗用による運転操作が危険である時運転者が車体から降りて、車体前方からの運転操作を可能とした四輪の乗用タイプの田植機。」が記載されている。
刊行物d:実公昭53-31540号公報(特許異議申立人 三菱農機 株式会社 提出の甲第4号証)には、「機体前部左側にかじ取り用丸ハンドル8を、かじ取り用丸ハンドル8の後方に運転座席9を配置し、エンジン4の出力軸10にプーリ11を固定し、トランスミッション装置5の入力軸12にプーリ13を固定し、ベルト14を、プーリ11とプーリ13との間に巻き掛け、トランスミッション装置5には変速レバー6を設け、運転座席9の前方下方に配置したクラッチシャフト16から、ペダルアーム18,リフトアーム19,テンショナーアーム20の三つのアームを突設させ、テンショナーアーム20の先端には、テンションプーリ21を回転自在に取付け、運転座席9の右前方に配置したハンドクラッチシャフト23から手動用ハンドクラッチレバー22、アーム25を突設させ、アーム25の先端に彎曲したリンク26を枢着し、リンク26とリフトアーム19とを引張バネ29で連結し、エンジン4とトランスミッション装置5との間で、プーリ11,ベルト14,プーリ13,テンションプーリ21とにより動力伝達の断続を行なうクラッチ機構を構成し、通常の乗用運転時には、ハンドクラッチレバー22を手動で前方に倒すと、引張バネ29の引張力により、クラッチシャフト16を軸として、リフトアーム19,ペダルアーム18,テンショナーアーム20の三つのアームが回動し、テンショナーアーム20の先端のテンションプーリ21が、ベルト14に張りを与え、動力伝達を可能にし、この乗用運転時にペダルアーム18を足で踏込めば、クラッチシャフト16を軸としてペダルアーム18とテンショナーアーム20が一体となって回動し、テンショナーアーム20の先端のテンションプーリ21は、ベルト14をたるませる方向に移動し、ベルト14と各プーリ11,13との間にスリップが生じて、動力伝達を断ち(もしくは不完全にし、)、ハンドクラッチレバーを前方に倒した状態ですでに引張力の生じていた引張バネ29は、このペダルアーム18の踏込みによりリフトアーム19もまた回動するため、更に引伸ばされ、一方、急峻な坂路や狭い崖道などで乗用運転が危険な場合、あるいは田畑などでごく短距離移動する毎に荷物の揚降ろしをするような場合に、運転者が車から降りて歩行で車両の操作をするときは、ハンドクラッチレバー22を後方に倒し、引張バネ29の引張力を失わせ、クラッチシャフト16を軸として、テンショナーアーム20,リフトアーム19,ペダルアーム18等を重さで回動させ、ベルト14に張りを与えていたテンショナーアーム20の先端のテンションプーリ21を、ベルト14をたるませる方向に移動させ、動力伝達を断っておき、運転者がトランスミッション装置5の変速位置を後進にし、車両から降り、後方に倒していたハンドクラッチレバーを手前に引き倒すと、乗用運転時のペダルアーム18を踏み込まない状態と同じになり、引張バネ29の引張力でテンションプーリ21はベルト14に張りを与えることになり、動力伝達がはじまり、車両が後進で発進し、ハンドクラッチレバー22を再度機体後方に向って倒せば動力伝達が断たれ、車両が停止するようにした乗用型運搬車。」が記載されている。
刊行物e:実願平2-114814号(実開平4-70581号)のマイクロフイルム(特許異議申立人 三菱農機 株式会社 提出の甲第5号証)には、「エンジンと、ミッションと、ブレーキ21を備え、エンジン側Vプーリ20b及びミッション側Vプーリ20cにVベルト20aを緩く巻き掛け、支持アーム20eにテンションプーリ20dを支持させて、クラッチ20を構成し、搭乗運転者によって操作されるレバー11は、アーム13、リンク14、ワイヤー30及び連結具27を介し、支持アーム20eと一体の第2延出アーム26に連結されているとともに、連結具27と第2延出アーム26とは、一定の遊びを有し、連結具27に繋げたばね28が第2延出アーム26を連結具27に対して遊ばせる方向に付勢されていて、レバー11を矢符F方向に押すと、連結具27がばね28の力に抗して引っ張られ、第2延出アーム26が矢符Dのように押し下げられ、クラッチ20が入状態になるとともにブレーキ21が制動解除状態になり、逆に、レバー11を矢符R方向に引くと、ワイヤー30が緩められ、連結具27がばね28に引っ張られて、連結具27と第2延出アーム26との間に遊びが形成され、クラッチ20が切状態になるとともにブレーキ21が制動状態になり、歩行運転者が操作可能な把手10aは、操作ロッド10、ロッド9、アーム15、リンク17、ワイヤー31及び連結具27を介し、支持アーム20eと一体の第2延出アーム26に連結されているとともに、連結具27と第2延出アーム26とは、一定の遊びを有し、連結具27に繋げたばね28が第2延出アーム26を連結具27に対して遊ばせる方向に付勢されていて、把手10aを手でもって矢符X方向に回転させると、操作ロッド10と共にロッド9がX方向に回転し、アーム15及びリンク17が矢符X1方向に動いてワイヤー31と共に連結具27がばね28の力に抗して引っ張られ、第2延出アーム26が矢符Dのように押し下げられ、クラッチ20が入状態になるとともにブレーキ21が制動解除状態になり、逆に、把手10aを手で持って矢符Y方向に回転させると、操作ロッド10と共にロッド9がY方向に回転し、ワイヤー31が緩むために連結具27と第2延出アーム26とに遊びが形成され、クラッチ20が切状態になるとともにブレーキ21が制動状態になるようにした動力運搬車。」が記載されている。
刊行物f:実願昭51-59169号(実開昭52-150129号)のマイクロフイルム(特許異議申立人 三菱農機 株式会社 提出の甲第6号証の1)には、「走行伝動系途中に介装されるクラッチ機構を内装するクラッチケース(2)から突出の出力軸(4)にイナーシャブレーキ(5)を設け、他方、前記ケース(2)から突出し、かつ出力軸芯(P)に直交する軸芯を持つクラッチ機構操作用のクラッチ軸(6)に、クラッチ軸操作用リンク部材(7)及びクラッチ入り状態付勢用スプリング(8)を介して足踏み操作具(9)を設け、前記クラッチ機構とブレーキ(5)との間に、クラッチ機構が切れた状態でブレーキ(5)がかかる状態になるように、可逆的に連動連結する連動機構(10)を設けると共に、この連動機構(10)中に前記ブレーキ(5)に押圧力を付与するスプリング(11)を介装して構成されているクラッチ機構及びブレーキの操作用伝動装置(1)を備えた土工機や建設機械、産業車両。」が記載されている。
刊行物g:実願昭51-59644号(実開昭52-150130号)のマイクロフイルム(特許異議申立人 三菱農機 株式会社 提出の甲第6号証の2)には、「走行伝動系途中に介装されるクラッチ機構を内装するクラッチケース(2)から突出の出力軸(4)にイナーシャブレーキ(5)を設け、他方、前記ケース(2)から突出し、かつ出力軸芯(P)に直交する軸芯を持つクラッチ機構操作用のクラッチ軸(6)に、クラッチ軸操作用リンク部材(7)及びクラッチ入り状態付勢用スプリング(8)を介して足踏み操作具(9)を設け、前記クラッチ機構とブレーキ(5)との間に、クラッチ機構が切れた状態でブレーキ(5)がかかる状態になるように、可逆的に連動連結する連動機構(10)を設けると共に、この連動機構(10)中に前記ブレーキ(5)に押圧力を付与するスプリング(11)を介装して構成されているクラッチ機構及びブレーキの操作用伝動装置(1)を備えた土工機や建設機械、産業車両。」が記載されている。
刊行物h:実願昭51-159944号(実開昭53-76427号)のマイクロフイルム(特許異議申立人 三菱農機 株式会社 提出の甲第6号証の3)には、「走行伝動系途中に介装されるクラッチ機構を内装するクラッチケース(1)から出力軸(2)を突出すると共に、この出力軸(2)の軸芯に直交する方向に、クラッチ機構操作用のクラッチ軸(3)を突出し、前記クラッチ軸(3)にクラッチレバー(4)を嵌着すると共に、このレバー(4)にロッド(5)を介してクラッチペダル(6)を連結し、クラッチペダル(6)に対する足踏み操作によりクラッチ機構を切り操作するべくクラッチ操作機構(7)を構成するとともに、前記出力軸(2)にイナーシャブレーキ(8)を設け、このイナーシャブレーキ(8)にそれを操作するためのブレーキレバー(9)を付設し、このブレーキレバー(9)と前記クラッチレバー(4)とをロッド(10)を介して連動連結してイナーシャブレーキ操作機構(11)を構成し、クラッチ切り操作に伴ってイナーシヤブレーキ(8)の制動作用を自動的に行わせるように構成してある土工機。」が記載されている。
刊行物i:特開平3-246125号公報(特許異議申立人 ヤンマー農機 株式会社 提出の甲第1号証)には、「エンジンの出力軸1と車体2の入力軸3とに伝動比が異なる2組の調車4,5および6,7を固定し、それぞれにベルト8,9をゆるく巻き掛け、作動軸12を出力軸1と並行に車体2に支え、一対のレバー13,14をその作動軸12に回動出来るように取付け、前記ローラ10,11をそれぞれのレバー13,14の先端に軸で回転するように取付け、このレバー13,14が、それぞれのばね15,16を介してワイヤーやロッドで引かれると、ローラ10,11がベルト8,9に当ってこれを緊張し、ベルト8,9がそれぞれの調車4,5および6,7に接触するようにして一対の伝動装置とし、走行車体を前進させながら植付装置で苗を移植するときは、ばね15を介してレバー13を引き、ローラ10をベルト8に当てこれを緊張し、エンジンの出力軸1の回転が、調車4・ベルト8および調車5の順に伝わって入力軸3に達し、そののちの変速器や減速器で所期の回転数に調整されて車輪と植付装置に達するようにし、また、上記の引かれたばね15を元に戻したのち、ばね16を引き、ローラ10をベルト8から離すと、ベルト8がゆるんで調車4,5から離れ、前記の動力伝達が断たれ、ばね16で引かれたレバー14が作動軸12の回りに回り、先のローラ11をベルト9に当てこれを緊張し、調車6,7に押し付け、出力軸1の回転が、調車6・ベルト9および調車7の順に伝わり、調車7も減速されて入力軸3に達するようにし、さらに、レバー26の下端を横軸27に取付け、レバー26の上端にオペレータが踏み込むペタル31を取付け、レバー26の先から、オペレータが地上で走行車体の前から操作する手動レバー33を先に伸ばし、前記ペタル31を踏むと、レバー26が横軸27を中心に回り、動力伝達にたずさわっている側のレバー14の作動部14a(又はレバー13の作動部13a)を作動軸12の回りに押し回し、ローラ11(又はローラ10)がベルト9(又は8)から離れ、これをゆるめて伝達動力を断つとともに、入力軸3の回転を制動するようにした苗植機。」が記載されている。
刊行物j:特開昭62-96176号公報(特許異議申立人 ヤンマー農機 株式会社 提出の甲第2号証)には、「操縦席(5)の下の原動機(10)からの動力が、伝動ベルト(11)、軸(12)、ベルト無段変速装置(13)、主クラッチ(14)等を介して、ミッションケース(9)の入力軸(15)に伝動され、ミッションケース(9)の後側に走行出力軸(16)が設けられて、さらに該走行出力軸(16)から前輪伝動ケース(22)中央部の差動ギヤ機構(23)に伝動され、該差動ギヤ機構(23)からは軸(27)を介し後輪伝動ケース(24)中央部の差動ギヤ機構(26)に伝動されるように構成し、該走行出力軸(16)又は軸(27)上に安全ブレーキ(3)を設け、また、後輪伝動ケース(24)に内装されている後輪伝動機構(25)に走向クラッチ(2)、及び走向ブレーキ(28)を設け、操縦ハンドル(6)の下方に、ペタル軸(35)により枢支され、回動片(31)及び連結片(33)により連動連結される、左右の走向クラッチペタル(29)(30)、及びブレーキペタル(36)を設け、左側の走向クラッチペタル(29)を踏んで左側後車輪(1)の走向クラッチ(2)、及びブレーキ(28)を操作するように構成し、又、右側の走向クラッチペタル(30)を踏んで右側後車輪(1)の走向クラッチ(2)、及び走向ブレーキ(28)を操作するように構成し、さらに、連結片(33)を左右の走向クラッチペタル(29)(30)に亘って係合させて連結した状態で、これらいずれかの走向クラッチペタル(29)(30)を踏めば、回動片(31)によってブレーキペタル(36)を押して安全ブレーキ(3)を働かせるようになっている乗用田植機。」が記載されている。
(4)対比・判断
請求項1に係る発明(以下、本件発明という。)は、「乗用型水田走行作業機」に関するものであって、「主クラッチを操作する操作具を乗車位置で操作可能に備え、前記主クラッチとブレーキを操作する単一の操作具を降車位置で操作可能として前記主クラッチを操作する操作具とは別部材で独立操作可能に備え」ていることを構成要件の一部としている。
すなわち、本件発明は、「主クラッチの操作を、乗車位置で操作するための操作具と、降車位置で操作するための単一の操作具とをそれぞれ備え、かつ、降車位置で操作するための単一の操作具を、乗車位置で操作するための操作具に対し、独立操作可能になされている」ものである。
そこで、この点について刊行物a〜刊行物jを見てみるが、刊行物a〜刊行物jには、「乗用型水田走行作業機」に関するものと、「乗用型水田走行作業機」に関するものではないものとがあるので、まず、「乗用型水田走行作業機」に関するものではない、刊行物d〜刊行物hについて見てみる。
刊行物dには、上記の通りの「乗用型運搬車」が記載されていて、「ハンドクラッチレバー22を手動で前方に倒すと、引張バネ29の引張力により、クラッチシャフト16を軸として、リフトアーム19,ペダルアーム18,テンショナーアーム20の三つのアームが回動し」、また「ハンドクラッチレバー22を後方に倒し、引張バネ29の引張力を失わせ」、「ベルト14に張りを与えていたテンショナーアーム20の先端のテンションプーリ21を、ベルト14をたるませる方向に移動させ、動力伝達を断」つ場合には、「クラッチシャフト16を軸として、テンショナーアーム20,リフトアーム19,ペダルアーム18等を重さで回動させ」るものであって、ハンドクラッチレバー22の動きにペダルアーム18の動きが連動しているから、刊行物dに記載されたものは、本件発明の「主クラッチの操作を、乗車位置で操作するための操作具と、降車位置で操作するための単一の操作具とをそれぞれ備え」ることに相当する構成は備えているものの、「降車位置で操作するための単一の操作具を、乗車位置で操作するための操作具に対し、独立操作可能になされている」ことに相当する構成は備えていない。しかも、刊行物dに記載されたものは、「乗用型運搬車」であって、刊行物dに「乗用型運搬車」を「乗用型水田走行作業機」に変更することについての記載はなく、「乗用型運搬車」を「乗用型水田走行作業機」に、無媒介に変更することは容易なことではない。
刊行物eには、上記の通りの「動力運搬車」が記載されていて、本件発明の「主クラッチの操作を、乗車位置で操作するための操作具と、降車位置で操作するための単一の操作具とをそれぞれ備え、かつ、降車位置で操作するための単一の操作具を、乗車位置で操作するための操作具に対し、独立操作可能になされている」ことに相当する構成、すなわち、「クラッチ20の操作を、乗車位置で操作するためのレバー11と、降車位置で操作するための操作ロッド10とをそれぞれ備え、かつ、降車位置で操作するための操作ロッド10を、乗車位置で操作するためのレバー11に対し、独立操作可能になされている」構成を備えている。しかしながら、刊行物eに記載されたものは、「動力運搬車」であって、刊行物eに「動力運搬車」を「乗用型水田走行作業機」に変更することについての記載はなく、「動力運搬車」を「乗用型水田走行作業機」に、無媒介に変更することは容易なことではない。
刊行物fには、上記の通りの「土工機や建設機械、産業車両」が記載されていて、「足踏み操作具(9)」は、乗車位置で操作するものと考えられるから、刊行物fに記載されたものは、本件発明の「主クラッチの操作を、乗車位置で操作するための操作具を備え」ることに相当する構成は備えているものの、「主クラッチの操作を」、「降車位置で操作するための単一の操作具を備え」ること、及び「降車位置で操作するための単一の操作具を、乗車位置で操作するための操作具に対し、独立操作可能になされている」ことに相当する構成は備えていない。しかも、刊行物fに記載されたものは、「土工機や建設機械、産業車両」であって、刊行物fに「土工機や建設機械、産業車両」を「乗用型水田走行作業機」に変更することについての記載はなく、「土工機や建設機械、産業車両」を「乗用型水田走行作業機」に、無媒介に変更することは容易なことではない。
刊行物gには、上記の通りの「土工機や建設機械、産業車両」が記載されていて、「足踏み操作具(9)」は、乗車位置で操作するものと考えられるから、刊行物gに記載されたものは、本件発明の「主クラッチの操作を、乗車位置で操作するための操作具を備え」ることに相当する構成は備えているものの、「主クラッチの操作を」、「降車位置で操作するための単一の操作具を備え」ること、及び「降車位置で操作するための単一の操作具を、乗車位置で操作するための操作具に対し、独立操作可能になされている」ことに相当する構成は備えていない。しかも、刊行物gに記載されたものは、「土工機や建設機械、産業車両」であって、刊行物gに「土工機や建設機械、産業車両」を「乗用型水田走行作業機」に変更することについての記載はなく、「土工機や建設機械、産業車両」を「乗用型水田走行作業機」に、無媒介に変更することは容易なことではない。
刊行物hには、上記の通りの「土工機」が記載されていて、「クラッチペダル(6)」は、乗車位置で操作するものと考えられるから、刊行物hに記載されたものは、本件発明の「主クラッチの操作を、乗車位置で操作するための操作具を備え」ることに相当する構成は備えているものの、「主クラッチの操作を」、「降車位置で操作するための単一の操作具を備え」ること、及び「降車位置で操作するための単一の操作具を、乗車位置で操作するための操作具に対し、独立操作可能になされている」ことに相当する構成は備えていない。しかも、刊行物hに記載されたものは、「土工機」であって、刊行物hに「土工機」を「乗用型水田走行作業機」に変更することについての記載はなく、「土工機」を「乗用型水田走行作業機」に、無媒介に変更することは容易なことではない。
次に、「乗用型水田走行作業機」に関するもののうち、クラッチの操作を、複数の操作具で行っている、刊行物c、刊行物i及び刊行物jについて見てみる。
刊行物cには、上記のとおりの「四輪の乗用タイプの田植機」が記載されていて、「主クラッチレバー(81)」は、その名称にかかわらず、歯車式の変速機の操作具であって、本件発明の「主クラッチの操作具」とは相違し、「主クラッチペダル(41)」と、「先端を主クラッチペダル(41)のアーム(42)に挿通し」た「補助レバー(51)」とが、本件発明の「主クラッチの操作具」に相当し、乗車位置で操作するための「主クラッチペダル(41)」と、降車位置で操作するための「補助レバー(51)」とは、一体に連動するものと考えられるから、刊行物cに記載されたものは、「降車位置で操作するための補助レバー(51)を、乗車位置で操作するための主クラッチペダル(41)に対し、独立操作可能になされていない」構成である。そうすると、刊行物cに記載されたものは、本件発明の「主クラッチの操作を、乗車位置で操作するための操作具と、降車位置で操作するための単一の操作具とをそれぞれ備え」ることに相当する構成は備えているものの、「降車位置で操作するための単一の操作具を、乗車位置で操作するための操作具に対し、独立操作可能になされている」ことに相当する構成は備えていない。
ところで、先に見たとおり刊行物eに記載されたものは、本件発明の「主クラッチの操作を、乗車位置で操作するための操作具と、降車位置で操作するための単一の操作具とをそれぞれ備え、かつ、降車位置で操作するための単一の操作具を、乗車位置で操作するための操作具に対し、独立操作可能になされている」ことに相当する構成を備えていたから、「降車位置で操作するための単一の操作具を、乗車位置で操作するための操作具に対し、独立操作可能になされている」ことに相当する構成、すなわち、「降車位置で操作するための操作ロッド10を、乗車位置で操作するためのレバー11に対し、独立操作可能になされている」構成を備えている。そこで、刊行物cに記載されたものの「降車位置で操作するための補助レバー(51)を、乗車位置で操作するための主クラッチペダル(41)に対し、独立操作可能になされていない」構成と、刊行物eに記載されたものの「降車位置で操作するための操作ロッド10を、乗車位置で操作するためのレバー11に対し、独立操作可能になされている」構成との置換容易性について検討する。
刊行物cに記載されたものの「補助レバー(51)」は、「主クラッチペダル(41)を手で操作可能なよう」にするためのものとされている。つまり、「主クラッチペダル(41)」と「補助レバー(51)」の関係は、幹となる一個目の操作具に対し、二個目の操作具が、枝分かれして設けられた態様といえる。したがって、枝分かれした二個目の操作具は、幹となる一個目の操作具を操作対象とし、また、幹となる一個目の操作具自身、枝分かれした二個目の操作具の動きを伝える伝動系の一部となっている。そして、いずれにしろ、一個目の操作具は、二個目の操作具の動きに伴い、連動する。しかし、二個の操作具をもちながら、幹となる一個目の操作具と枝分かれした二個目の操作具という関係から、伝動系は単一の伝動系で済んでいる。
一方刊行物eに記載されたものの「乗車位置で操作するためのレバー11と、降車位置で操作するための操作ロッド10と」は、それぞれ別個にクラッチに至る伝動系を持っており、二個の操作具は、幹と枝との関係で配置されているのではなく、いわば独立して並列に配置されていて、それぞれの伝動系を持っているから、二個の操作具相互の空間配置の自由度及び二個の操作具相互の動きの自由度は高い。
したがって、「降車位置で操作するための補助レバー(51)を、乗車位置で操作するための主クラッチペダル(41)に対し、独立操作可能になされていない」構成と、「降車位置で操作するための操作ロッド10を、乗車位置で操作するためのレバー11に対し、独立操作可能になされている」構成とには、それぞれ独自の設計思想が認められ、この相違する構成を置換した例は見あたらない。
そうすると、刊行物cに記載されたものの「降車位置で操作するための補助レバー(51)を、乗車位置で操作するための主クラッチペダル(41)に対し、独立操作可能になされていない」構成を、刊行物eに記載されたものの「降車位置で操作するための操作ロッド10を、乗車位置で操作するためのレバー11に対し、独立操作可能になされている」構成で置換することは、相互の構成の置換例がなく、それぞれに独自の設計思想がある以上、容易なことではない。
刊行物iには、上記のとおりの「苗植機」が記載されていて、「レバー26の上端に」、「オペレータが踏み込む」ように「取付け」た「ペタル31」と、「レバー26の先から、オペレータが地上で走行車体の前から操作する手動レバー33」とが、本件発明の「主クラッチの操作具」に相当し、乗車位置で操作するための「ペタル31」と、降車位置で操作するための「手動レバー33」とは、一体に連動するものと考えられるから、刊行物iに記載されたものは、「降車位置で操作するための手動レバー33を、乗車位置で操作するためのペタル31に対し、独立操作可能になされていない」構成である。そうすると、刊行物iに記載されたものは、本件発明の「主クラッチの操作を、乗車位置で操作するための操作具と、降車位置で操作するための単一の操作具とをそれぞれ備え」ることに相当する構成は備えているものの、「降車位置で操作するための単一の操作具を、乗車位置で操作するための操作具に対し、独立操作可能になされている」ことに相当する構成は備えていない。
ところで、先に見たとおり刊行物eに記載されたものは、本件発明の「主クラッチの操作を、乗車位置で操作するための操作具と、降車位置で操作するための単一の操作具とをそれぞれ備え、かつ、降車位置で操作するための単一の操作具を、乗車位置で操作するための操作具に対し、独立操作可能になされている」ことに相当する構成を備えていたから、「降車位置で操作するための単一の操作具を、乗車位置で操作するための操作具に対し、独立操作可能になされている」ことに相当する構成、すなわち、「降車位置で操作するための操作ロッド10を、乗車位置で操作するためのレバー11に対し、独立操作可能になされている」構成を備えている。そこで、刊行物iに記載されたものの「降車位置で操作するための手動レバー33を、乗車位置で操作するためのペタル31に対し、独立操作可能になされていない」構成と、刊行物eに記載されたものの「降車位置で操作するための操作ロッド10を、乗車位置で操作するためのレバー11に対し、独立操作可能になされている」構成との置換容易性について検討する。
刊行物iに記載されたものの「手動レバー33」は、「上端にオペレータが踏み込むペタル31を取付け」た「レバー26の先から」先に伸ばしたものであるから、「レバー26」が「オペレータが地上で走行車体の前から操作する手動レバー33」により操作されることによって、初めて、「手動レバー33」により「伝達動力を断つ」ことができるものである。つまり、「ペタル31」と「手動レバー33」の関係は、幹となる一個目の操作具に対し、二個目の操作具が、枝分かれして設けられた態様といえる。したがって、枝分かれした二個目の操作具は、幹となる一個目の操作具を操作対象とし、また、幹となる一個目の操作具自身、枝分かれした二個目の操作具の動きを伝える伝動系の一部となっている。そして、いずれにしろ、一個目の操作具は、二個目の操作具の動きに伴い、連動する。しかし、二個の操作具をもちながら、幹となる一個目の操作具と枝分かれした二個目の操作具という関係から、伝動系は単一の伝動系で済んでいる。
一方刊行物eに記載されたものの「乗車位置で操作するためのレバー11と、降車位置で操作するための操作ロッド10と」は、それぞれ別個にクラッチに至る伝動系を持っており、二個の操作具は、幹と枝との関係で配置されているのではなく、いわば独立して並列に配置されていて、それぞれの伝動系を持っているから、二個の操作具相互の空間配置の自由度及び二個の操作具相互の動きの自由度は高い。
したがって、「降車位置で操作するための手動レバー33を、乗車位置で操作するためのペタル31に対し、独立操作可能になされていない」構成と、「降車位置で操作するための操作ロッド10を、乗車位置で操作するためのレバー11に対し、独立操作可能になされている」構成とには、それぞれ独自の設計思想が認められ、この相違する構成を置換した例は見あたらない。
そうすると、刊行物iに記載されたものの「降車位置で操作するための手動レバー33を、乗車位置で操作するためのペタル31に対し、独立操作可能になされていない」構成を、刊行物eに記載されたものの「降車位置で操作するための操作ロッド10を、乗車位置で操作するためのレバー11に対し、独立操作可能になされている」構成で置換することは、相互の構成の置換例がなく、それぞれに独自の設計思想がある以上、容易なことではない。
刊行物jには、上記のとおりの「乗用田植機」が記載されていて、「走向クラッチペタル(29)(30)」は、乗車位置でのクラッチ操作具ではあるものの、「主クラッチの操作をするための操作具」とは相違するものと考えられるから、刊行物jに記載されたものは、「クラッチの操作を、乗車位置で操作するための操作具を備え」る構成は備えているものの、本件発明の「主クラッチの操作を、乗車位置で操作するための操作具と、降車位置で操作するための単一の操作具とをそれぞれ備え、かつ、降車位置で操作するための単一の操作具を、乗車位置で操作するための操作具に対し、独立操作可能になされている」ことに相当する構成は備えていない。そして、刊行物jに記載されたものに、刊行物eに記載されたものの「クラッチ20の操作を、乗車位置で操作するためのレバー11と、降車位置で操作するための操作ロッド10とをそれぞれ備え、かつ、降車位置で操作するための操作ロッド10を、乗車位置で操作するためのレバー11に対し、独立操作可能になされている」構成を無媒介に付加することは、容易なことではない。
最後に、「乗用型水田走行作業機」に関するもののうち、クラッチの入り切り操作を、単一の操作具で行っている、刊行物a及び刊行物bについて見てみる。
刊行物aには、上記のとおりの「乗用型田植機」が記載されていて、「操縦部(2)から降りて機体操縦する際には、主クラッチ(36)の切り操作に連係して」、「操縦部(2)に乗って機体操縦する際には主クラッチ(36)の切り操作をしても」と、乗降両位置で主クラッチ(36)を入り切りすることが記載されているが、主クラッチ(36)の操作具としては、「1本の手動式操作レバー(35)」しか記載されていない。そうすると、「1本の手動式操作レバー(35)」は、乗降両用と考えられ、また、刊行物aに記載されたものの「1本の手動式操作レバー(35)」は、「一対の支持アーム(32),(33)をリンク機構(34)を介して1本の手動式操作レバー(35)に連動させ」ることによって、「高速側の伝動入り状態」及び「低速側の伝動入り状態」を実現する変速操作具でもあると考えられる。したがって、刊行物aに記載されたものは、「主クラッチの操作をするための操作具を備え」る構成は備えているものの、本件発明の「主クラッチの操作を、乗車位置で操作するための操作具と、降車位置で操作するための単一の操作具とをそれぞれ備え、かつ、降車位置で操作するための単一の操作具を、乗車位置で操作するための操作具に対し、独立操作可能になされている」ことに相当する構成は備えていない。
そして、刊行物aに記載されたものに、刊行物eに記載されたものの「クラッチ20の操作を、乗車位置で操作するためのレバー11と、降車位置で操作するための操作ロッド10とをそれぞれ備え、かつ、降車位置で操作するための操作ロッド10を、乗車位置で操作するためのレバー11に対し、独立操作可能になされている」構成を無媒介に付加することは、容易なことではない。
刊行物bには、上記の通りの「乗用田植機」が記載されていて、「前ハンドル(32)」が「歩行操縦用」であり、「グリップレバー(33)」が「座席(2)から操作できない状態で設けた」ものであるのに対し、とくにこのような操作位置の特定のない「テンション方式の主クラッチ(22)を」操作する「機体前部のレバー(21)」は、乗車位置で操作されるものと考えられる。そうすると、刊行物bに記載されたものは、本件発明の「主クラッチの操作を、乗車位置で操作するための操作具を備え」ることに相当する構成は備えているものの、「主クラッチの操作を」、「降車位置で操作するための単一の操作具を備え」ること、及び「降車位置で操作するための単一の操作具を、乗車位置で操作するための操作具に対し、独立操作可能になされている」ことに相当する構成は備えていない。そして、刊行物bに記載されたものの「機体前部のレバー(21)」に、「主クラッチ(22)の操作を、降車位置で操作するための単一の操作具を備え、かつ、降車位置で操作するための単一の操作具を、機体前部のレバー(21)に対し、独立操作可能になされている」構成を無媒介に付加すること、あるいは、刊行物bに記載されたものの「機体前部のレバー(21)」を、刊行物eに記載されたものの「クラッチ20の操作を、乗車位置で操作するためのレバー11と、降車位置で操作するための操作ロッド10とをそれぞれ備え、かつ、降車位置で操作するための操作ロッド10を、乗車位置で操作するためのレバー11に対し、独立操作可能になされている」構成で無媒介に置換することは、容易なことではない。
そして、本件発明は、「主クラッチの操作を、乗車位置で操作するための操作具と、降車位置で操作するための単一の操作具とをそれぞれ備え、かつ、降車位置で操作するための単一の操作具を、乗車位置で操作するための操作具に対し、独立操作可能になされている」点により訂正明細書に記載の作用効果を奏するものである。
よって、請求項1に係る発明は、刊行物a〜刊行物jに記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
(5)むすび
以上のとおりであって、請求項1に係る発明についての特許は、特許異議の申立ての理由及び証拠によっては取り消すことはできない。
また、他に請求項1に係る発明についての特許を取り消すべき理由を発見しない。
したがって、請求項1に係る発明についての特許は拒絶の査定をしなければならない特許出願に対してされたものではない。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
乗用型水田走行作業機
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】 エンジンからの動力をトランスミッションに断続させる主クラッチと、伝動系にブレーキを備えている乗用型水田走行作業機において、
前記主クラッチを操作する操作具を乗車位置で操作可能に備え、前記主クラッチとブレーキを操作する単一の操作具を降車位置で操作可能として前記主クラッチを操作する操作具とは別部材で独立操作可能に備え、前記単一の操作具を主クラッチを操作する操作具の近傍でそれよりエンジンを覆うボンネット側に配置してボンネット側に設けたガイドで案内自在とし、
降車位置から操作される前記単一の操作具によって主クラッチとともに操作されるブレーキを、前記トランスミッションを収納するミッションケースから露出した後輪駆動軸部に設けたことを特徴とする乗用型水田走行作業機。
【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】
本発明は、乗用型の田植機、湛水直播機等の乗用型水田走行作業機に関する。
【0002】
【従来の技術】
例えば、乗用型田植機においては、圃場への出し入れやトラックへの歩み板を介しての積み降ろしをするとき、機体が前後に傾斜した状態になる。
この傾斜状態のとき機体を停止するためにクラッチを切るときがある。
従来農業機械(乗用型田植機)の主クラッチ装置はクラッチが切れるだけであるから、前述した傾斜状態のときクラッチを切っても機体が自重で動くことがあり、機体を他物に衝突させて損傷させてしまう恐れがある。
【0003】
先行技術として開示されている、実開平2-150448号公報で開示の移動農機(乗用型田植機)では、クラッチペダルのクラッチ切り操作に連動してベルト伝動装置のプーリーが制動されるように構成したものがある(従来例の1)。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
前述した従来例の1の構成によると、傾斜地等においてクラッチペダルのクラッチ切り操作に連動してベルト伝動装置のプーリーをブレーキ作動状態にしているが、この状態で主変速レバーを操作したニュートラル位置となった場合には、ブレーキ作動が解除された状態となって操縦者の意に反して機体が動き出すおそれがあった。
また、従来例の1のブレーキ手段は、ベルト伝動装置におけるプーリーに巻掛けしたベルトをブレーキシュとしているため、ブレーキ作動時に滑りが発生し易く、確実な制動力が確保でき難く、前・後輪を確実に停止でき難いという課題があった。
また、圃場への出し入れやトラックへの歩み板を介しての積み降ろしをするとき、機体が前後に傾斜した状態になるため、乗車位置での操作(操縦)では、作業者が不安感や恐怖感を感じることがあった。
さらに、前輪及び後輪の全てに作用するブレーキを設けるに当たり、ミッションケースを大型化させず、ミッションケースのシール性の低下防止、ブレーキのメンテナンス性を向上させる必要があった。
【0005】
本発明は、このような課題を解決した乗用型水田走行作業機を提供することが目的である。
【0006】
【課題を解決するための手段】
本発明における課題解決のための具体的手段は、エンジンからの動力をトランスミッションに断続させる主クラッチと、伝動系にブレーキを備えている乗用型水田走行作業機において、
前記主クラッチを操作する操作具を乗車位置で操作可能に備え、前記主クラッチとブレーキを操作する単一の操作具を降車位置で操作可能として前記主クラッチを操作する操作具とは別部材で独立操作可能に備え、前記単一の操作具を主クラッチを操作する操作具の近傍でそれよりエンジンを覆うボンネット側に配置してボンネット側に設けたガイドで案内自在とし、
降車位置から操作される前記単一の操作具によって主クラッチとともに操作されるブレーキを、前記トランスミッションを収納するミッションケースから露出した後輪駆動軸部に設けたことを特徴とするものである。
【0007】
【作用】
本発明によると、乗用型水田走行作業機(以下、単に乗用型田植機という)を畦越え(圃場への出入り)させるとき、操縦者は、降車して、操作具を操作し、クラッチやブレーキの操作を行う。また、単一の操作具をクラッチを操作する操作具と別に備えることで、単一の操作具を降車位置にて操作しやすい位置に配置することができた。
【0008】
また、前記ブレーキを、前記トランスミッションから延伸した後輪駆動軸に取りつけているため、構造簡単でありながらブレーキを確実に作動させることができたのである。
【発明の効果】
以上詳述した本発明によれば、乗用型水田走行作業機を圃場に出し入れするとき等に、降車位置にて主クラッチとブレーキを操作する操作具を操作できるので、安全作業ができる。また、ブレーキを確実に作動させ確実に機体を停止させることができる。
さらに、主クラッチとブレーキを操作する単一の操作具を降車位置で操作可能として前記クラッチを操作する操作具とは別に備えたので、単一の操作具の配置に自由度を持たせ、降車位置にて操作しやすい位置に配置することができる。
更に、トランスミッション内にブレーキを設けていないので、トランスミッションを大型化させず、また、既存の後輪駆動軸を利用してブレーキを設けるため構造が簡単にな、ミッションケースのシール性を低下させることがない。
更に、トランスミッションから外部に露出している後輪駆動軸を利用してブレーキを設けるため、ブレーキのメンテナンス等も容易に行うことができる。
【0009】
【実施例】
以下、本発明の実施例を図面に基づいて説明する。
図4において、1は乗用型水田走行作業機としての乗用型田植機であり、前輪2と後輪3とを装備した2軸4車輪形の走行車体4の前部にエンジン5が搭載されている。走行車体4の前後中間には、操縦ハンドル6および運転席7で構成されている操縦部8が備えられ、操縦部8の後方には、昇降シリンダ9及び昇降リンク機構10を介して苗植付装置11が昇降自在に連結されている。12はエンジン5を覆うボンネット、13は運転席7の左右側方の後輪フェンダをそれぞれ示している。
【0010】
図1〜4に示す第1実施例において、エンジン5の出力軸15の動力は、副変速装置としての多段式ベルト変速装置16を介してミッションケース17の入力軸となっている伝動軸18に伝達され、ミッションケース17内の主変速装置等のトランスミッションを介して前輪2及び後輪3に伝達されると共に、苗植付装置11等にも伝達される。
すなわち、エンジン5からの動力をトランスミッションを介して前輪2及び後輪3に伝達して前輪2及び後輪3を駆動可能に構成している。
【0011】
前記多段式ベルト変速装置16はダブルテンション方式を示しており、エンジン5の出力軸15とミッションケース17の伝動軸18とにはそれぞれ2組のプーリ20、21が設けられており、プーリ20L、21Lとそれらに巻き掛けられたベルト22Lとは低速用であり、プーリ20H、21Hとそれらに巻き掛けられたベルト22Hとは高速用であり、各ベルト22L、22Hにはテンションプーリ23L、23Hが押し付け可能になっている。
各テンションプーリ23L、23Hを取り付けたテンションアーム26L、26Hは支持軸27に枢支されており、各テンションアーム26L、26Hには支持軸27の前後位置にピン28、29が突設されていて、各前ピン28には切り換えリンク30L、30Hの一端の長孔30Aが嵌合し、各後ピン29には戻しバネ31L、31Hとクラッチリンク32の各一端が連結されている。
【0012】
前記各テンションプーリ23、テンションアーム26、戻しバネ31等によって、ベルト変速装置16のベルト22にテンションを付与するテンション付与手段24が構成されている。
また、前記支持軸27には上部にグリップ35Aを有する変速レバー35も枢支されており、その長手方向中途には係合ピン36が設けられている。37は支軸38に枢支された切り換え具で、2本のピン39L、39Hを突設し、この2本のピン39L、39H間に長孔40が形成されており、この長孔40は変速レバー35の係合ピン36に嵌合している。前記2本のピン39L、39Hにはそれぞれ切り換えリンク30L、30Hの他端が連結されている。
【0013】
図1は低速動力伝達状態を示しており、低速側テンションアーム26Lは戻しバネ31Lの引っ張り力によってテンションプーリ23Lを低速側ベルト22Lに押し付けている。この状態から変速レバー35を反時計方向(図1矢印A方向)に揺動すると、切り換え具37が支軸38を中心に回動して低速側切り換えリンク30Lを引き上げ、戻しバネ31Lに抗して低速側テンションアーム26Lを持ち上げ、ベルト22Lのテンションを減少して動力を切る。
これと同時に、高速側切り換えリンク30Hは下降可能になり、戻しバネ31Hによって高速側テンションアーム26Hは回動し、ベルト22Hにテンションプーリ23Hを押し付けることになり、ベルト22Hにはテンションが付与されて高速動力を伝達するようになる。
【0014】
クラッチリンク32の一端には高低両速のテンションアーム26の後ピン29に遊嵌した遊嵌部32Aが形成され、他端はクラッチペダル42と連動連結されている。
クラッチを入り切り操作するペダル42はステップ44の下方において走行車体4に固定の枢支軸43にその基部(ボス部)が踏込み自在として枢支され、ステップ44から上方へ突出しており、そのボス部から爪部42Aが突出している。また、枢支軸43にはリンク45が枢支され、その先端はクラッチリンク32に連結され、このリンク45に前記爪部42Aが上から係合可能になっている。
【0015】
前記クラッチペダル42を踏み込むことにより、爪部42Aが回動してリンク45に上から係合し、クラッチリンク32を図1下方向Bに引っ張り、戻しバネ31に抗して低速側と高速側の両テンションアーム26を持ち上げ方向に回動して、高低速両方の動力を切ることができるようになっており、ここに、ベルト変速装置16は、エンジン動力をミッションに断続させるベルトテンション式のクラッチを構成している。
ここに、エンジン5の動力をトランスミッションに入り・切りする主クラッチが設けられ、この主クラッチは乗用位置においてはクラッチペダル42に操作可能とされている。
【0016】
46は枢支軸43に枢支されたひとつの操作具(操作部材)で、その上部のグリップ46Bは変速レバー35より充分に前側に位置し、降車した作業員(運転者)が容易に回動操作可能な位置に配置されている。
すなわち、操作具46は前記ステップ44の前方位置でかつ乗降の障害とならない位置に、本実施の形態では降車位置にて人為操作可能なレバーで構成して備えられている。
この操作具46は、上部にグリップ46Bを有し、基部のボス部には、クラッチペダル42と同様に爪部46Aが突出されており、この爪部46Aもリンク45に上方から係合して、クラッチリンク32を図1下方向に引っ張り、戻しバネ31に抗して低速側と高速側の両テンションアーム26を持ち上げ方向に回動して、高低速両方の動力を切ることが可能になっている。
【0017】
すなわち、操作具46を手動(人為操作)にてクラッチ及びブレーキ(ブレーキについては後述)を操作するとき、下向回動操作によりクラッチ切り、ブレーキ作動としていることから、押さえつけ方向の操作となって操作し易くされているのである。
また、クラッチ及びブレーキを降車位置にて操作する操作具46は、操縦ハンドル6から遠ざかる方向側への回動、実施例では図1の矢符Cで示す前方回動により、クラッチ切り、ブレーキ作動となるように構成されており、これによって、一方の手をハンドル6に他方の手を操作具46にかけて、相反する方向への操作でクラッチ切り、ブレーキ作動となるために確実な降車状態での操作ができるのである。
【0018】
47は操作具46のガイド部材を示しており、ボンネット12等に固定されていて、人為操作可能なレバー構成した操作具46を各操作位置にて保持可能としている。
前記持ち上げるテンションアーム26は、実際には、テンションプーリ23がベルト22を弾圧している入り側だけであり、テンションアーム26の持ち上げ量を調整することにより、テンションプーリ23によるベルト22の張り具合を変更できる。
【0019】
操作具46を図3のガイド部材47の入り位置に配置(保持)していると、テンションアーム26はテンションプーリ23を正規の力でベルト22に弾圧して、低速又は高速の動力を正常に伝達可能にし、ガイド部材47の1位置に配置(保持)すると、テンションプーリ23によるベルト22を押圧する力が減少し、ベルト22の張りを緩めてスリップを生じさせることになり、同じくガイド部材47の2位置では更にベルト22の張りを緩めてスリップ率が多くなるようになっており、このスリップにより、ベルト変速装置16が伝達する動力が減少し、走行速度が変速レバー35で設定された速度より減速側に調整され、ここに、通常作業速度(例えば植付速度は0.4m/sec〜1.0m/secである)とは別に、圃場への出し入れ(畦越え)、トラックへの積み降し等の低速走行状態、例えば0.07m/sec〜0.1m/secの速度が可能とされている。
【0020】
更に、操作具46を切り位置まで回動すると、両テンションプーリ23はベルト22から離れ、クラッチペダル42を踏み込むのと同じように、ベルト変速装置16による動力伝達を切る状態が得られる(主クラッチの切り操作)。
従って、乗用型田植機を圃場に出し入れするため、運転者が降車位置でベルト変速装置16を低速側にしてゆっくりと乗用型田植機を移動しているときに、操作具46を操作すると移動速度をさらに低速にしたり又は停止したりできるのであり、この降車位置での操作具46の操作は、そのグリップ46Bが操縦ハンドル6の下方位置に備えられていることから、一方の片手はグリップ46B、他方の片手は操縦ハンドル6に掛けた状態で田植機1を操縦(操向)しながらの畦越え作業等が安定した姿勢の下で実施できるのである。
【0021】
図1,3,4には動力伝達系のブレーキ装置(制動装置)51が示されている。このブレーキ装置51はミッションケース17から後輪デフ装置52へ動力を伝達する回転軸53を制動するブレーキ手段54と、このブレーキ手段54を操作具46で操作する操作手段55とを有していて、操作具46による主クラッチ16の切り操作に連動して前輪2及び後輪3に作動する制動装置を設けているのである。
すなわち、乗車位置でクラッチを操作するペダル42と、降車位置で操作可能なクラッチ及びブレーキ51を操作する操作具46を設けており、この操作具46により操作されるブレーキ51を、前記ミッションから延伸した後輪駆動軸(動力伝達軸)53に設けており、これによって簡単な構成にてブレーキを作動させて田植機1を停止できる4輪停止ブレーキとされているのである。
【0022】
具体的に説明すると、 前記ブレーキ手段54は走行車体4に取り付けられたバンドブレーキ又はディスクブレーキであり、その操作レバー56は操作手段55のボーデンワイヤ57で回動操作される。このボーデンワイヤ57のインナワイヤ57Aの一端は操作具46に固定の作動体58に挿通され、先端の掛止具59が作動体58と掛止可能になっている。
従って、操作具46をクラッチの切り位置以上に回動してブレーキ位置にすると(図3参照)、作動体58が掛止具59を介してインナワイヤ57Aを引っ張り、操作レバー56を介してブレーキ手段54を作動させ、動力伝達軸53を制動することができ、降車位置で人為操作可能な操作具46で走行車体4の停止(4輪停止ブレーキ)を行うことができるようになる。
【0023】
第1実施例について従来例と対比してその作用を説明する。
すなわち、主クラッチの切り操作に連動して前輪及び後輪に作動する制動装置を設けているのであり、より具体的には、主クラッチの入り切りと、この主クラッチの切り操作により前輪及び後輪に作動する制動装置を制動操作する1つの操作部材46を設けているのであり、該操作部材46は降車位置にて操作可能な位置に設けることによって、圃場への出し入れ、トラックへの積み降ろしが一層簡易に、安全に行えるのである。
【0024】
図5は第2実施例を示しており、操作具46は変速レバー35と同様に支持軸27に枢支されており、この操作具46には係合体48が突出され、この係合体48は高低両テンションアーム26の後ピン29と係合可能であり、クラッチリンク32を介さずに高低両テンションアーム26の位置を変更して、ベルト22の張力を微調整し、走行車体4の変速操作をすることが可能になる。尚、この第2実施例でも主クラッチの切り操作に連動して前輪2及び後輪3に作動する前記ブレーキ装置51を併設することが可能である。
【0025】
また、クラッチペダル42とクラッチ及びブレーキを操作する操作具46は、リンク45にそれぞれの爪部42A,46Aが上方から係合可能であることから、それぞれ操作するとき他方は連携しないように、爪部42A,46Aがリンク45に接当するのであり、それぞれを操作しても他方(ペダル又は操作具)が動かないため、不用意に操作具が動いて手を挟む危険はないのである。
また、ペダル42の近傍に操作具46を設けることによって、ペダル42によるクラッチ操作と、手動によるクラッチ切りの操作関係を連携しやすくなるのである。
【0026】
図6、7は第3実施例を示しており、この操作具46は支持軸27に枢支されていて、長手方向中途部に支持軸27を中心とする円弧状の板49が固着され、この円弧板49には係止孔49Aが形成されており、変速レバー35には係止孔49Aと係脱可能な係止ピン50が突設されている。この第3実施例の操作具46は若干左右に揺動可能であり、円弧板49を移動して係止孔49Aを係止ピン50に対向させかつ係合させると、操作具46を回動することにより変速レバー35を回動操作することができる。
【0027】
即ち、降車位置から変速レバー35を操作するのと同様に、レバーで示す操作具46でベルト変速装置16を変速操作でき、しかも変速レバー35に手が届かない背の低い人でも容易に操作できる。
図7に示すガイド部材47には、変速レバー35用のガイド溝47Aの他に操作具46用のガイド溝47Bが形成され、ガイド溝47Bにはガイド溝47Aと同様に高速、低速及び中立の各作用位置に保持可能であるとともに、、円弧板49を移動して係止孔49Aを係止ピン50に離脱させかつ離脱位置で退避させてこの位置で保持させておく退避位置が形成されている。
【0028】
尚、本発明は前記実施例に限定されるものではなく、種々変形することができる。例えば、ベルト変速装置16はベルト伝動手段が3組あるトリプルテンション型ベルト変速装置又は、割プーリを使ったベルト伝動手段が1組だけの無段変速型のベルト変速装置でも良い。
また、降車位置でクラッチ及びブレーキを人為操作するレバーによる操作具46はボンネット12の前側、フェンダ13の近傍等に配置することも可能であり、変速レバー35は降車位置から最も操作し難い位置に配置されているので、この変速レバー35から離れた位置にあれば、ほとんどの場合、変速レバー35よりも降車位置から操作し易い位置となる。
【図面の簡単な説明】
【図1】
本発明の第1実施例の要部を示す側面図である。
【図2】
同ベルト変速装置の分解斜視図である。
【図3】
同要部の分解斜視図である。
【図4】
乗用型田植機の側面図である。
【図5】
第2実施例を示す側面図である。
【図6】
第3実施例の側面図である。
【図7】
図6のX-X線断面図である。
【符号の説明】
1 乗用型田植機
2 前輪
3 後輪
5 エンジン
15 出力軸
16 ベルト変速装置(主クラッチ)
17 ミッションケース
18 伝動軸
23 テンションプーリ
26 テンションアーム
35 変速レバー
42 クラッチペダル
46 操作具
51 ブレーキ(制動装置)
53 後輪駆動軸
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2004-09-30 
出願番号 特願平11-221261
審決分類 P 1 651・ 121- YA (A01C)
最終処分 維持  
前審関与審査官 山田 昭次  
特許庁審判長 藤井 俊二
特許庁審判官 前田 建男
渡部 葉子
登録日 2002-07-12 
登録番号 特許第3327872号(P3327872)
権利者 株式会社クボタ
発明の名称 乗用型水田走行作業機  
代理人 安田 敏雄  
代理人 安田 敏雄  

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