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審決分類 審判 全部申し立て 5項1、2号及び6項 請求の範囲の記載不備  G03G
審判 全部申し立て 2項進歩性  G03G
審判 全部申し立て 特36 条4項詳細な説明の記載不備  G03G
管理番号 1109560
異議申立番号 異議2003-71978  
総通号数 62 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2001-10-26 
種別 異議の決定 
異議申立日 2003-08-04 
確定日 2004-10-18 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第3372941号「トナー粒子の製造方法」の請求項1、2に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 訂正を認める。 特許第3372941号の請求項1、2に係る特許を維持する。 
理由 1.手続の経緯
特許第3372941号の請求項1、2に係る発明は、平成3年9月9日に出願した特願平3-255908号出願の一部を新たな特許出願として出願され、平成14年11月22日にその特許の設定登録がなされた。
本件特許公報は平成15年2月4日に発行され、その特許に対して、山田敬子(以下、「申立人」という。)より特許異議の申立てがなされ、取消理由通知がなされ、その指定期間内である平成16年7月20日に訂正請求がなされた。

2.訂正の適否についての判断
2-1.訂正の内容
特許権者が、本件特許明細書に関して訂正を請求する事項は、次のとおりである。
(1)訂正事項a
特許請求の範囲の請求項1中の、「トナー粒子中の溶媒および重合性単量体が1%以下になるまで該水性懸濁液中にあるいは過飽和の水蒸気存在下に保持した後、濾過して水性懸濁液中よりトナー粒子を取り出し、減圧下において脱気処理を行う」との記載を、「トナー粒子中の溶媒および重合性単量体が1%以下になるまで該水性懸濁液中に保持した後、濾過して水性懸濁液中よりトナー粒子を取り出し、減圧下において脱気処理を行う」と訂正する。

(2)訂正事項b
明細書の段落【0017】中の、「トナー粒子中の溶媒および重合性単量体が1%以下になるまで該水性懸濁液中にあるいは過飽和の水蒸気存在下に保持した後、濾過して水性懸濁液中よりトナー粒子を取り出し、減圧下において脱気処理を行う」との記載を、「トナー粒子中の溶媒および重合性単量体が1%以下になるまで該水性懸濁液中に保持した後、濾過して水性懸濁液中よりトナー粒子を取り出し、減圧下において脱気処理を行う」と訂正する。

2-2.訂正の目的の適否、新規事項の有無及び拡張・変更の存否
訂正事項aは、発明を特定する事項である「減圧下において脱気処理を行う」ための前工程で適用される操作方法の選択肢を減少させるものであるから、発明の範囲を縮小するものであり、特許請求の範囲の減縮を目的とする明細書の訂正に該当する。
訂正事項bは、訂正事項aにより生じた、特許請求の範囲と、発明の詳細な説明との不一致の解消を図るものであるから、明りょうでない記載の釈明を目的とする明細書の訂正に該当する。
そして、訂正事項a、bは、いずれも、新規事項の追加に該当せず、実質的に特許請求の範囲を拡張又は変更するものではない。

2-3.訂正の適否の結論
以上のとおりであるから、上記訂正請求は、特許法等の一部を改正する法律(平成6年法律116号)附則第6条第1項の規定によりなお従前の例によるとされる、特許法第120条の4第3項において準用する平成6年法律第116号による改正前の特許法第126条第1項ただし書き及び第2項の規定に適合するので、当該訂正を認める。

3.特許異議の申立てについての判断
3-1.申立ての理由の概要
申立人は、甲第1号証(特開平3-198064号公報)、甲第2号証(特開昭63-155156号公報)、甲第3号証(特開平1-244471号公報)、甲第4号証(便覧「ゴム・プラスチック配合薬品〔改訂第二版〕」348頁 株式会社ラバーダイジェスト社、1993年10月30日発行)、甲第5号証(特開昭63-198075号公報)、甲第6号証(「天然ワックスと低分子量ポリエチレン」1〜5頁 三井石油化学工業株式会社、1983年2月発行)を提出して、
(1)請求項1、2に係る発明は、甲号各証に記載された発明に基づいて本件特許出願前にその発明の属する技術分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、また、
(2)本件特許明細書には記載上の不備があるため、特許法第36条第4項又は第5項の規定に違反して特許されたものであるから、
その特許を取り消すべき旨主張する。

3-2.本件請求項1、2に係る発明
上記2.で示したように訂正が認められるから、本件請求項1、2に係る発明(以下、「本件発明1」「本件発明2」という)は、上記訂正に係る訂正明細書の特許請求の範囲の請求項1、2に記載された次のとおりのものである。
【請求項1】 水性懸濁液中にトナー粒子径の重合性単量体及びワックスを含む液滴を形成した後、50〜90℃の重合温度で該重合性単量体を重合せしめてトナー粒子を製造するトナー粒子の製造方法であって、該重合性単量体が、少なくともスチレン又はスチレン誘導体を含有しており、該ワックスが軟化点30〜130℃であり、且つパラフィン、ポリオレフィン系ワックス、パラフィン変性物、ポリオレフィン系ワックス変性物、高級脂肪酸、高級脂肪酸の金属塩、高級脂肪族アルコール、高級脂肪族エステル及び脂肪族アミドワックスからなる群より選ばれるワックスであり、該ワックスの含有量が重合性単量体100重量部当り1〜100重量部であり、トナー粒子中の溶媒および重合性単量体が1%以下になるまで該水性懸濁液中に保持した後、濾過して水性懸濁液中よりトナー粒子を取り出し、減圧下において脱気処理を行うことによってトナー粒子中の溶媒および/あるいは重合性単量体を低減することを特徴とするトナー粒子の製造方法。
【請求項2】 重合性単量体100重量部当り7.5乃至30重量部のワックスが含有されることを特徴とする請求項1に記載のトナー粒子の製造方法。

3-3.各証拠の記載事項
(1)甲第1号証には、次の事項が記載されている。
a.「1.着色剤又はこれとトナー特性向上剤の存在下に、フェライトを分散安定剤として、重合性単量体を懸濁重合することを特徴とする静電荷像現像用トナーの製造法。」(特許請求の範囲第1項)
b.「懸濁重合は・・・20〜120℃の温度で行うのが好ましく、特に、50〜80℃の温度で行うのが好ましい。」(3頁左下欄14〜16行)
c.「本発明で使用できる重合性単量体としては、スチレン・・・使用できる。これらの重合性単量体の中でスチレン又はスチレン誘導体を好ましくは重合性単量体の総量に対して40〜90重量%使用すると、トナーを電子写真複写装置で紙に複写した時に定着性が非常に優れたものとなる。」(3頁右下欄17行〜4頁左下欄5行)
d.ワックスを含むオフセット防止剤として、軟化点が100〜180℃の低分子量オレフィン重合体をトナー総重量に対して0〜30重量%の割合で使用すること(6頁左上欄4行〜右上欄18行)
e.「懸濁重合は、重合率が99重量%以上になるまで進めるのが好ましく、特に99.9重量%以上になるまで進めるのが好ましい。重合率が低く、残存モノマーが多くなると、トナーの特性、特に保存安定性が劣る傾向にある。」(3頁左下欄17行〜右下欄1行)
f.実施例1には、カーボンブラック、スチレン、メタクリル酸ブチル、荷電制御剤、オフセット防止剤ビスコール660P(三洋化成工業(株))及び重合開始剤としてベンゾイルパーオキサイドを入れ撹拌分散したものに、イオン交換水に分散安定剤として、ステアリン酸亜鉛で表面処理した、平均粒径0.1μmの鉄フェライトAを分散させた液を加え分散させたこと、この分散液を、窒素ガス気流下、80℃で7時間重合させ、重合率は99.8%以上であったこと、得られた懸濁重合液を遠心脱水機で脱水し、温風乾燥機で乾燥してトナー粒子を得たこと(7頁左上欄15行〜左下欄6行)
g.「(発明の効果) 本発明に係る静電荷像現像用トナーの製造法によれば、重合法トナーの欠点であったトナーの流動性、キャリアへの付着、感光体への付着等が解消される為、解像度、画像濃度及び階調性に優れているとともに、耐ブロッキング性、帯電安定性、耐久性及び耐湿性にも優れたトナーを得ることができる。」(9頁左下欄)

以上の記載から、甲第1号証には、次の発明(本件発明1の構成に対応して記載する)が記載されている。
「水性懸濁液中にトナー粒子径の重合性単量体及びワックスを含む液滴を形成したのち、20〜120℃、特に好ましくは50〜80℃の重合温度で該重合性単量体を重合せしめてトナー粒子を製造するトナー粒子の製造方法であって(a,b,f)、該重合性単量体が、少なくともスチレン又はスチレン誘導体を含有しており(c,f)、該ワックスが軟化点100〜180℃であり(d,f)、且つ、ポリオレフィン系ワックスであり(d,f)、該ワックスの含有量がトナー総重量に対して0〜30重量%(実施例では2重量%)であり(d,f)、トナー粒子中の重合性単量体が1%以下(重合率が99%以上)、好ましくは0.1%以下(実施例では0.2%以下)になるまで該水性懸濁液中に保持したのち(e)、濾過して水性懸濁液中よりトナー粒子を取り出し(f)、乾燥する(f)ことによってトナー粒子中の重合性単量体を低減する(e)トナー粒子の製造方法。」

(2)甲第2号証には、次の事項が記載されている。
h.「1.少なくとも1種の重合性単量体中に帯電防止剤、着色剤を分散したのち、水性媒体中で懸濁重合するに際して、懸濁剤として難水溶性のリン酸塩と、下記一般式(I)、(II)、・・・・で表わされるスルホコハク酸ジエステル塩の1種または2種以上の存在下で懸濁重合することを特徴とする静電荷像現像用トナーの製造方法。」(特許請求の範囲)
i.「発明の目的は、難水溶性リン酸塩を分散剤として懸濁重合法によりトナーを得る方法において、分散剤の量を低減し、かつ懸濁重合時の分散安定性、重合安定性を改良することにある。」(3頁左上欄12〜15行)
j.「本発明に用いられる重合性単量体としては、重合可能な炭素数3〜25の単量体が使用でき、例えば、スチレン、p-クロルスチレン、p-メチルスチレン、・・・・などが単独或いは混合して用いられる。」(5頁左上欄14行〜右上欄7行)
k.「本発明のトナーは、いわゆる離型剤として知られている低分子量オレフィン重合体をオフセット防止、流動性改良、定着性の改良などの目的で含有することができる。・・・・本発明のトナーに使用される低分子量オレフイン重合体としては、ポリエチレン、ポリプロピレン・・・・などが挙げられる。 上記の低分子量オレフィン重合体の使用量はトナーの樹脂成分100重量部当たり1〜20重量部、好ましくは3〜15重量部であり」(5頁左下欄6行〜右下欄3行)
l.実施例1には、スチレン、n-ブチルアクリレート、カーボンブラック、低分子量ポリエチレン(三井石油化学工業(株)製、三井ハイワックス210P)及び帯電制御剤の混合物からなる分散液に、2,2’-アゾビスイソブチロニトリルを溶解した後、第3リン酸カルシウム、スルホコハク酸ジエステル塩の水溶液中に加え、撹拌したこと、この懸濁液を窒素雰囲気下、75℃、8時間重合反応を行わせたこと、重合終了後、100メッシュの金属網に通し、塩酸洗浄、水洗を行った後、40℃にて減圧乾燥機で一晩乾燥させたこと、リコーFT4060にて画像出しを行ったところ、カブリのない鮮明な画像が得られ、一万枚複写後も帯電量はほとんど変化がなく、またカブリの発生も認められず、初期画質と変わらぬ高品位の画像が得られたこと、また、転写効率は平均83〜87%と良好であったこと(6頁右上欄9行〜右下欄5行)

(3)甲第3号証には、次の事項が記載されている。
m.「(1)(a)ラジカル重合性単量体とカーボンブラックとをパーオキサイド系重合開始剤の存在下に撹拌して、上記単量体中にカーボンブラックを微細且つ一様に分散させる工程、(b)上記ラジカル重合性単量体と粉末状帯電制御剤とをこの単量体に溶解させた分散剤の存在下に撹拌して、上記単量体中に帯電制御剤を微細且つ一様に分散させる工程、(c)上記ラジカル重合性単量体にアゾビス系重合開始剤を加えた後、懸濁安定剤としてポリビニルアルコールを含有する水相に懸濁させて、上記単量体を重合させる工程、(d)得られた球状重合体を含む水性懸濁液にアルカリ又は酸を加え、加熱して、上記ポリビニルアルコールをケン化する工程、及び(e)得られた球状重合体を分離し、乾燥する工程
を有することを特徴とする静電潜像現像用トナーの製造方法。」(特許請求の範囲第1項)
n.「本発明が解決しようとする課題 本発明者らは、重合性単量体の懸濁重合による従来のトナーの製造における上記した種々の問題、特に、懸濁安定剤としてのポリビニルアルコールの存在下に単量体油相を懸濁重合して得られるトナーが感湿性を有する問題を解決するために鋭意研究した結果、単量体油相の重合後、ポリビニルアルコールをアルカリケン化することによって、上記問題を解決することができ、感湿性がなく、環境安定性にすぐれるトナーを得ることができることを見出して、本発明に至ったものである。」(3頁右上欄17行〜左下欄7行)、
o.「本発明において、ラジカル重合性単量体は、特に限定されるものではなく・・・・特に、スチレンや、スチレンとアクリル酸エステル、メタクリル酸エステルとの混合物が好ましく用いられる。」(3頁右下欄15行〜4頁右上欄3行)
p.実施例1には、スチレン、ラウリルパーオキサイド、カーボンブラックを加え混合、分散し、次に分散剤としてのエチレン-酢酸ビニル共重合体及び負帯電制御剤としての染料「スピロンブラックTRH」(保土谷化学工業(株)製)を加えて混合、分散させ、得られた混合物に、スチレン、2-エチルヘキシルアクリレート及びジビニルベンゼンを新たに加え、更に、オフセット防止剤としてのポリプロピレンワックスを加えたこと、このようにして得られた単量体油相をポリビニルアルコールと塩化ナトリウムとを含む水溶液中に分散させて得られた分散液を、70℃で5時間撹拌した後、更に、90℃で1時間撹拌して単量体を重合させたこと、ポリビニルアルコールをケン化後、得られた球状重合体粒子を遠心分離し、これを水で洗浄し、塩酸を含む水で水酸化ナトリウムを中和すると共に、重合体粒子を洗浄し、この後、減圧下に乾燥して、トナーを得たこと、このトナーについて、その表面疎水性、帯電量(ブローオフ法)、逆帯電量及び静電複写機(三洋電機(株)製1102Z)を用いて、温度25℃、相対湿度35%の条件下で複写性能を評価したこと(9頁左下欄2行〜10頁左上欄14行)

(4)甲第4号証には、次の事項が記載されている。
q.三洋化成株式会社製「ビスコール660P」が低分子量ポリプロピレンであること。

(5)甲第5号証には、次の事項が記載されている。
r.単量体組成物を重合する方法であって、単量体組成物から着色剤を除いた組成物と分散媒体との間の界面張力Aと、単量体組成物から着色剤を除いた組成物とイオン交換水との間の界面張力Bとの関係に着目した重合トナーの製造方法に関する発明(特許請求の範囲)
s.懸濁重合法によるトナーの製造方法において、アニオン界面活性剤の如き界面活性剤は、水による洗浄によっても取り除き難いため、トナー粒子表面に残存する傾向が強く、トナー現像特性の低下を引き起こし易いという欠点を有すること、本発明の目的は、その点を解決し、さらに粒度分布がシャープで現像特性の良好な重合トナーの収率の良い製造方法を提供にあること(2頁右下欄9行〜3頁左上欄4行)
t.「単量体組成物には、熱圧ローラ定着における定着性および耐オフセット性を改善するために、パラフィンワックスの如きワックス類、低分子量ポリエチレン及び低分子量ポリプロピレンの如き低分子量ポリオレフィン等の離型性を有する低軟化点化合物(軟化点が好ましくは50〜130℃)を加えることが好ましい。この場合、この低軟化点化合物の添加量は、重合体単量体100重量部に対して1〜300重量部が好ましい。」(9頁左上欄13行〜右上欄1行)

(6)甲第6号証には、次の事項が記載されている。
u.三井石油化学工業株式会社の「三井ハイワックス」は低分子量ポリエチレンであること、そのうち、「三井ハイワックス210P」は、軟化点が120℃であること(3頁表4)

3-4.判断
(1)特許法第29条第2項違反について
本件発明1と、甲第1号証に記載された発明とを対比すると、
本件発明1が、濾過して水性懸濁液中よりトナーを取り出した後、「減圧下において脱気処理を行う」ことを規定するのに対して、
甲第1号証では、「温風乾燥機で乾燥して」トナー粒子を得ている、
点で少なくとも相違する。
相違点について検討する。
甲第2号証には、懸濁重合法により合成したトナー粒子を、懸濁液から取り出したのち、40℃にて減圧乾燥機で一晩乾燥させたこと(l)が記載され、甲第3号証には、減圧下に乾燥したこと(p)が記載されている。
ところで、甲第2、3号証に記載された発明の目的とするところは、
難水溶性リン酸塩を分散剤として懸濁重合法によりトナーを得る方法において、分散剤の量を低減し、且つ懸濁重合時の分散安定性、重合安定性を改良すること(i)、あるいは、
懸濁安定剤としてのポリビニルアルコールの存在下に単量体油相を懸濁重合して得られるトナーが感湿性を有する問題を解決すること(n)、
であり、減圧乾燥は、乾燥手段として記載されているにすぎず、トナー粒子の重合の程度との関係は示されていない。
一方、本件発明1は、「特にトナーの現像性を低下させがちな低極性成分、低表面エネルギー成分」(段落【0019】)、「トナーの現像性に悪影響を与えるトナー中の低分子量成分やワックス、オイルの類」(段落【0021】)との記載に見られるとおり、トナー中に添加されるワックスやオイルはトナー粒子の表面に存在することは望ましくないこと、ところが、重合が進みトナーが系外に取り出せるほど硬化してくると、つまり重合性単量体や重合性単量体あるいは重合開始剤や着色剤または樹脂成分中に混入あるいは残留している溶媒成分の可塑化作用が低下し高分子重合体中を移動し難くなるので、この状態で水中から取り出してもすぐには内部の成分が出てくることはないが、減圧乾燥操作を行なうと、重合性単量体を始めとする溶媒成分がワックスあるいは重合体中の低分子成分やシリコーンオイル等の低分子化合物の類を表面に運んでくるのを促進するためにトナーの現像性が急激に劣化する(段落【0022】)という認識に基づいて、その余の構成と共に、特に、「トナー粒子中の溶媒および重合性単量体が1%以下になるまで該水性懸濁液中に保持したのち、濾過して水性懸濁液中よりトナー粒子を取り出し、減圧下において脱気処理」することにより、それを解決することを目的とするものである。
してみれば、甲第1号証の発明に対して、トナー粒子の乾燥手段として甲第2、3号証に記載された減圧乾燥を適用することがあり得たとしても、本件発明の技術思想に到達するとは認められない。
さらに、甲第4号証〜甲第6号証のいずれにも、そのような技術課題に対する認識は認められない。
そして、本件発明1は、現像性に優れたトナーを得ることができるという明細書記載の特有の作用効果を奏するものである。
したがって、本件発明1は、甲第1〜6号証に記載された発明に基づいて特許出願前にその発明の属する技術分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものとすることはできない。
また、本件発明1の構成を全て引用して、さらに技術的限定を加える本件発明2についても同様である。

(2)特許法第36条違反について
申立人が、本件明細書の記載不備を申し立てる趣旨は、次の(イ)〜(ハ)のとおりである。
(イ)本件請求項1には、「トナ一粒子中の溶媒および重合性単量体が1%以下になるまで該水性懸濁液中にあるいは過飽和の水蒸気存在下に保持した後、濾過して水性懸濁液中よりトナー粒子を取り出し、」と規定するのに対し、実施例及び比較例では、懸濁重合反応終了後、塩酸を加えて分散剤を溶解させ、濾過、水洗、乾燥して重合トナーを得たのち、残留している重合性単量体の量を測定しており、濾過の前に残留重合性単量体を定量していないから、操作上の不一致があり、発明の構成が明りょうでない。
(ロ)本件請求項1に記載された、「過飽和の水蒸気存在下に保持した後」とは、「何を」過飽和の水蒸気存在下に「如何なる形態で」保持するのかが不明であるから、発明の構成が明りょうに示されていない。
(ハ)本件請求項1には、「濾過して水性懸濁液中よりトナー粒子を取り出し、減圧下において脱気処理を行うことによってトナー粒子中の溶媒および/あるいは重合性単量体を低減する」と規定するのに対し、実施例・比較例では、トナー粒子を取り出してのち、分散剤の洗浄、乾燥処理を経てから減圧下で脱気処理しているから、操作上の不一致があり、発明の構成が明りょうでない。
以下検討する。
〈(イ)について〉
本件請求項1では、「トナ一粒子中の溶媒および重合性単量体が1%以下になるまで該水性懸濁液中にあるいは過飽和の水蒸気存在下に保持した後、濾過して水性懸濁液中よりトナー粒子を取り出し」、そののち、減圧下に脱気処理することを要件としているものであるから、具体例においても、水性懸濁液中に保持した少なくとも終期には、トナ一粒子中の溶媒および重合性単量体が1%以下に達していたものと推定される。具体例において示されている、濾過、水洗、乾燥して重合トナーを得た後の残留重合性単量体の量は、それを推定させるための参考値にすぎないから、測定時点が異なることをもって、発明の構成が不明りょうであるとするには当たらない。

〈(ロ)について〉
本件明細書は、上記のとおり訂正され、請求項1における「過飽和の水蒸気存在下に保持した後」とする点は削除されたので、(ロ)の記載不備は解消した。

〈(ハ)について〉
特許請求の範囲には、発明を特定すべき必須の要素を記載すれば足り、慣用事項まで記載すべきものとは、必ずしも求められることではない。本件発明1において、「濾過して水性懸濁液中よりトナー粒子を取り出し、減圧下において脱気処理を行う」ことは発明の必須の要件である。それに対して、一般に、重合法トナーの製造において、懸濁液中のトナー粒子を取り出し、分散剤の洗浄、乾燥処理を行ってから、その後の処理を行うことは、いわば、当然に近く広くに行われていることであるから、それが発明の構成・効果上、特段の意味を有しない限り、特許請求の範囲中に明記しなければならないものではない。

4.むすび
以上のとおりであるから、特許異議申立の理由及び証拠によっては本件請求項1、2に係る発明の特許を取り消すことはできない。
また、他に本件請求項1、2に係る発明の特許を取り消すべき理由を発見しない。
したがって、本件請求項1、2に係る発明の特許は、拒絶の査定をしなければならない特許出願に対して付与されたものと認めないから、特許法等の一部を改正する法律(平成6年法律第116号)附則第14条の規定に基づく、特許法等の一部を改正する法律の施行に伴う経過措置を定める政令(平成7年政令第205号)第4条第2項の規定により、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
トナー粒子の製造方法
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】 水性懸濁液中にトナー粒子径の重合性単量体及びワックスを含む液滴を形成した後、50〜90℃の重合温度で該重合性単量体を重合せしめてトナー粒子を製造するトナー粒子の製造方法であって、
該重合性単量体が、少なくともスチレン又はスチレン誘導体を含有しており、
該ワックスが軟化点30〜130℃であり、且つパラフィン、ポリオレフィン系ワックス、パラフィン変性物、ポリオレフィン系ワックス変性物、高級脂肪酸、高級脂肪酸の金属塩、高級脂肪族アルコール、高級脂肪族エステル及び脂肪族アミドワックスからなる群より選ばれるワックスであり、該ワックスの含有量が重合性単量体100重量部当り1〜100重量部であり、
トナー粒子中の溶媒および重合性単量体が1%以下になるまで該水性懸濁液中に保持した後、濾過して水性懸濁液中よりトナー粒子を取り出し、減圧下において脱気処理を行うことによってトナー粒子中の溶媒および/あるいは重合性単量体を低減することを特徴とするトナー粒子の製造方法。
【請求項2】 重合性単量体100重量部当り7.5乃至30重量部のワックスが含有されることを特徴とする請求項1に記載のトナー粒子の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】
本発明は、潜像を顕像化する方法に用いられるトナー粒子の製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
記録体上の電気的、あるいは磁気的潜像等を顕像化するために、トナーと称される検電性、あるいは感磁気性の微粒子を該潜像に吸着せしめて可視像とする画像形成方法がある。
【0003】
その代表例である電子写真法としては、例えば米国特許第2,297,691号明細書等に記載されている如く多数の方法が知られている。この電子写真法においては、一般には、光導電性物質を利用し、種々の手段で感光体上に電気的潜像を形成し、次いで該潜像をトナーを用いて現像してトナー像を形成し、必要に応じて紙等の転写材にこのトナー画像を転写した後、加熱、加圧あるいは溶剤蒸気等を用いてトナー画像を該転写材等に定着することにより、複写物を得る。
【0004】
従来、これらの目的に用いるトナーは、一般に熱可塑性樹脂中に染・顔料あるいは磁性体等からなる着色材を混合・溶融し、着色材を均一に分散させた後、微粉砕、分級することにより、所望の粒径を有するトナーとして製造されてきた。この方法は技術として比較的安定しており、各材料、各工程の管理も比較的容易に行なうことが出来る。
【0005】
しかしこの方法では材料を混合、固定化するために一旦結着樹脂とともに溶融させること、更に溶融物を冷却した後機械的に粉砕すること等エネルギーの効率が悪い。またトナーの微粒子化を機械的な粉砕によるために粒度が広くなり易く、後の分級工程で所望の粒度分布に整える必要があり、製品収率を高められないという難点もある。こうした問題点を解消するためあらたなる製造方法として、所謂重合法によるトナー製造方法が提案されている。
【0006】
例えば特公昭36-10231号公報、特公昭47-51830号公報、特公昭51-14895号公報、特開昭53-17735号公報、特開昭53-17736号公報、及び特開昭53-17737号公報等に記載の所謂懸濁重合法によるトナー製造方法がある。懸濁重合法においては、結着樹脂、染料や顔料などの着色剤、磁性体、カーボンブラック、荷電制御剤、ワックスやシリコーンオイルなどの離型剤等トナー中に内包することを要求される物質を、必要に応じて重合開始剤や分散剤等とともに重合性単量体中に均一に溶解、あるいは分散せしめて重合性組成物とし、この重合性組成物を分散安定剤を含有する水系連続相に分散機を使用して微粒子を形成した後、重合反応を起こさせて固化し、重合終了時に所望の粒径のトナー粒子を、一気に得ようと言うものである。
【0007】
本方法によれば、溶融工程、粉砕工程ばかりでなく、その後の分級工程の省略をも望むものであり、エネルギーの節約、時間の短縮、工程収率の向上等、コスト削減効果が大きい。
【0008】
懸濁重合法は、懸濁重合法トナーも含めてその反応形態は重合が進むにつれて重合反応系の粘度が上がり、ラジカル及び重合性単量体の移動が困難になるため重合体中に重合性単量体成分が多く残留しがちである。特に懸濁重合法トナーの場合には、重合性単量体系中に染料、顔料(特にカーボンブラック)、荷電制御剤、磁性体等重合反応を抑制する可能性のある成分が重合性単量体以外に多量に存在するために、なおさら未反応の重合性単量体が残存しやすい。トナー中に重合性単量体に限らず結着樹脂に対して溶媒として働く成分があると、トナーの流動性を低下させ画質を悪くするほか、耐ブロッキング性の低下を招く。トナーとして直接関わりあう性能のほかにも、特に感光体として有機半導体を使用した場合にはドラムへのトナーの融着現象以外にもメモリーゴーストや画像のボケといった感光体の劣化現象を生じることがある。こうした製品の性能に係わる事項以外にも、定着時に重合性単量体成分等が揮発して悪臭を発したりするという問題点がある。
【0009】
残留重合性単量体量を減らす手段としては、先ず重合性単量体の重合転化率自体の向上が挙げられる。その一方法として重合時の重合開始剤を増量することは極めて効果的であるが、得られるトナーの分子量分布が低分子量化し所望の分子量分布(スチレン・アクリル系の場合は、分子量1万〜5万の領域が定着開始温度と、定着強度やトナーの強度とのバランスが良い)が得られない。半減期の異なる複数種の重合開始剤を用いて、重合開始時のラジカル種の発生量を押えつつ全体の開始剤量は多いという形にすると、低分子化は押えられるし分子量分布を拡げる(熱ロール定着を採用する時には大きな意味を持つ)効果があるが、結局粘度の壁を乗り越えられず必ずしも充分とは言えない。
【0010】
重合体の粘度を低下させて重合性単量体の移動度を上げる方法として▲1▼溶媒を添加する、▲2▼可塑剤を添加する、▲3▼連鎖移動剤を添加する、▲4▼温度を上げる等が考えられる。しかし▲1▼、▲2▼は重合終了時のトナーに問題が残る。▲3▼は粘度に効く高分子側の重合体の生成量を抑制し、同時にラジカルの量は減らさないとするものであるが今のところ充分な結果を得ていない。▲4▼は熱によって重合体を溶融させるとともに熱重合も起こさせるものであり、このとき高温で分解してラジカル種を発生する重合開始剤を共存させておくと尚一層効果的に重合性単量体を消費出来る。しかしこの方法では、重合トナーの場合には分散の安定と凝集の防止の点で困難がある。
【0011】
そこで重合度を上げて重合性単量体を消費することから、重合性単量体蒸気を懸濁液中より回収しトナー中の残存重合性単量体をトナー系外に追い出すことにより残留重合性単量体量を減らすことが考えられるが、水中を通しての有機溶媒の拡散であるので非常に長時間を要する。時間を短縮するために、懸濁系を強く撹拌して拡散面積を増加させようとすると、空気を巻き込み泡を発生し、泡に付着する形でトナー粒子が懸濁液界面に浮上するため、トナー粒子同士の凝集、重合条件の変化等により、不良なトナーが発生する危険がある。
【0012】
工程時間を短縮する方法として、特開平1-70765号公報中に、懸濁重合後、得られる樹脂のTg以上の温度で加熱し、重合終了時の水量に対して5〜50重量%の水を溜去するトナー用樹脂の製造方法が提案されている。この方法によれば、確かに短時間中に樹脂中の残存重合性単量体量を減らすことが出来るが、エネルギーのロスは大きく、重合トナーの製法に用いた場合には粒子の凝集防止の点で特開平1-70765号公報のトナー用樹脂を得るのと違って粒度上の厳格な規制があり、この方法をこのままの形で採用することには困難がある。
【0013】
この他製造時間を短縮するための方法として、特開平1-303450号公報においては、懸濁重合法により得られた重合生成物を重合途上で単量体成分は溶解するが、重合体成分は溶解しない揮発性の高い有機溶媒中に浸漬して撹拌した後、該溶媒中から重合生成物を取り出し、乾燥する方法が提案されている。しかし、この方法は有機溶媒に可溶な成分をトナー中に入れることができない欠点を有する。
【0014】
【発明が解決しようとする課題】
本発明の目的は、上述のごとき問題を解決したトナー粒子の製造方法を提供することにある。
【0015】
本発明の別の目的は、現像性に優れ、残存重合性単量体の少ないトナー粒子の製造方法を提供することにある。
【0016】
本発明の他の目的は、粒度分布が狭く、流動性が高く、耐ブロッキング性の良好な、画質の良いトナーを効率よく製造する方法を提供することにある。
【0017】
【課題を解決するための手段】
本発明は、水性懸濁液中にトナー粒子径の重合性単量体及びワックスを含む液滴を形成した後、50〜90℃の重合温度で該重合性単量体を重合せしめてトナー粒子を製造するトナー粒子の製造方法であって、
該重合性単量体が、少なくともスチレン又はスチレン誘導体を含有しており、
該ワックスが軟化点30〜130℃であり、且つパラフィン、ポリオレフィン系ワックス、パラフィン変性物、ポリオレフィン系ワックス変性物、高級脂肪酸、高級脂肪酸の金属塩、高級脂肪族アルコール、高級脂肪族エステル及び脂肪族アミドワックスからなる群より選ばれるワックスであり、該ワックスの含有量が重合性単量体100重量部当り1〜100重量部であり、
トナー粒子中の溶媒および重合性単量体が1%以下になるまで該水性懸濁液中に保持した後、濾過して水性懸濁液中よりトナー粒子を取り出し、減圧下において脱気処理を行うことによってトナー粒子中の溶媒および/あるいは重合性単量体を低減することを特徴とするトナー粒子の製造方法に係る。
【0018】
【発明の実施の形態】
以下に本発明を詳述する。
【0019】
懸濁状態であれば、僅かな力でトナー粒子を浮遊させることが出来、残留する重合性単量体を揮散させるに有効な熱を加えても凝集の危険性を低く出来る。また、重合は界面から進むことから低分子量成分を内包化出来る。懸濁媒体が水性媒体であると、特にトナーの現像性を低下させがちな低極性成分、低表面エネルギー成分を内包化出来るので、可能な限り懸濁段階で処理を済ませることが望まれる。反面、重合性単量体蒸気の拡散は、懸濁重合の性格上遅いものとなり、拡散速度を速めようとすると懸濁安定性を壊すことは前述した通りである。
【0020】
本発明については次の知見により完成に至ったものである。
【0021】
水性媒体中で懸濁重合を行なうと重合中は界面から重合が進行し界面付近が高分子量で中心部は低分子量物からなる構造が出来、界面から水蒸気が重合性単量体中に入り込もうとするので表面エネルギーの差から疎水性成分は中心部に集まろうとする力が働き、トナーの現像性に悪影響を与えるトナー中の低分子量成分やワックス、オイルの類が表面に出てこない状態で重合が進行する。
【0022】
重合が進みトナーが系外に取り出せるほど硬化してくると、つまり重合性単量体や重合性単量体あるいは重合開始剤や着色剤または樹脂成分中に混入あるいは残留している溶媒成分の可塑化作用が低下し高分子重合体中を移動し難くなるので、この状態で水中から取り出してもすぐには内部の成分が出てくることはないが、溶媒で洗浄したり減圧乾燥操作を行なうと、重合性単量体を始めとする溶媒成分がワックスあるいは重合体中の低分子成分やシリコーンオイル等の低分子化合物の類を表面に運んでくるのを促進するためにトナーの現像性が急激に劣化すると考えられる。
【0023】
ここで周囲に水を存在させた状態で更に重合を進めるか、重合性単量体を始めとする溶媒成分を水相を通して系外に除去し、少なくともトナー粒子中の溶媒及び/あるいは重合性単量体量が1%以下となるまでトナーを硬化させてから懸濁液中より回収し、残留重合性単量体等の除去処置を採ると、上述の劣化現象を起こすことなくトナー中の残重合性単量体の少ないトナー粒子を得ることを見出したものである。
【0024】
本発明の方法においては、重合転化率が少なくとも90%以上に達した時点で、外部で発生させた、新たな懸濁液媒体蒸気を懸濁液中に導入し、同時に気相の蒸気を溜去することにより重合性単量体を反応系外に排出し、最終的には、残留重合性単体量を1,000ppm以下、臭気を発しない様にとの配慮からは、好ましくは100ppm以下となるまで操作することが望ましい。この懸濁液媒体蒸気は、多孔質の管等を介して、全体的に且細かな気泡の形で供給すると、よい結果を得る。また、反応操作は、反応系が沸騰しないよう調整することが望まれる。
【0025】
懸濁液媒体蒸気に代えて、水溶性溶媒蒸気、或いは乾燥した水溶性気体を用いる場合にも、同様に懸濁液中に導入し、同様の配慮を払うことが望ましい。本発明に使用する水溶性溶媒としては、水に可溶な種々の溶媒が使用出来るが、水への溶解度が高く、揮発性の高いものが発明の目的から言って好ましく、メタノール、エタノール、プロパノール等の低級アルコール、アセトン等の低級ケトンの類が、水と任意の割合で混和し、且つ低沸点であるので好都合である。水溶性の気体としては、炭酸ガス等の酸性ガス、アンモニア等の塩基性ガスが挙げられる。これらの水溶性溶媒蒸気、或は水溶性気体は多孔質の管等を介して、全体的に且細かな気泡の形で供給すると、よい結果を得る。また、反応操作は、反応系が沸騰しないよう調整することが望まれる。更に、操作中に溜去される水に見合う量の水を補給し水量が変化しないよう配慮することが望ましい。
【0026】
本発明に使用される重合性単量体系を構成する重合性単量体、及び着色剤等のトナー特性付与剤としては以下のものが挙げられる。
【0027】
重合性単量体としては、スチレン・o-メチルスチレン・m-メチルスチレン・p-メチルスチレン・p-メトキシスチレン・p-エチルスチレン等のスチレン系単量体、アクリル酸メチル・アクリル酸エチル・アクリル酸n-ブチル・アクリル酸イソブチル・アクリル酸n-プロピル・アクリル酸n-オクチル・アクリル酸ドデシル・アクリル酸2-エチルヘキシル・アクリル酸ステアリル・アクリル酸2-クロルエチル・アクリル酸フェニル等のアクリル酸エステル類、メタクリル酸メチル・メタクリル酸エチル・メタクリル酸n-プロピル・メタクリル酸n-ブチル・メタクリル酸イソブチル・メタクリル酸n-オクチル・メタクリル酸ドデシル・メタクリル酸2-エチルヘキシル・メタクリル酸ステアリル・メタクリル酸フェニル・メタクリル酸ジメチルアミノエチル・メタクリル酸ジエチルアミノエチル等のメタクリル酸エステル類その他のアクリロニトリル・メタクリロニトリル・アクリルアミド等の単量体が挙げられる。
【0028】
これらの単量体は単独、または混合して使用し得る。上述の単量体の中でも、スチレンまたはスチレン誘導体を単独で、あるいはほかの単量体と混合して使用することがトナーの現像特性及び耐久性の点から好ましい。
【0029】
本発明では、単量体系に樹脂を添加して重合しても良い。例えば、単量体では水溶性のため水性懸濁液中では溶解して乳化重合を起こすため使用できないアミノ基、カルボン酸基、水酸基、スルフォン酸基、グリシジル基等含有の単量体成分をトナー中に導入したい時には、これらとスチレンあるいはエチレン等とのランダム共重合体、ブロック共重合体、あるいはグラフト共重合体等、共重合体の形にして使用が可能となる。また、単量体を重合して得られるトナーの分子量範囲とは異なる分子量の重合体を単量体中に溶解して重合すれば、分子量分布の広い、耐オフセット性の高いトナーを得ることが出来る。
【0030】
本発明で用いられる着色剤としては、公知のものが使用出来、カーボンブラック、鉄黒、C.I.ダイレクトレッド1、C.I.ベーシックレッド1、C.I.モーダントレッド30、C.I.ダイレクトブルー1、C.I.ダイレクトブルー2、C.I.アシッドブルー15、C.I.ベーシックブルー3、C.I.ベーシックブルー5、C.I.モーダントブルー7、C.I.ダイレクトグリーン6、C.I.ベーシックグリーン4、C.I.ベーシックグリーン6等の染料;黄鉛、カドミウムイエロー、ミネラルファーストイエロー、ネーブルイエロー、ナフトールイエローS、ハンザイエローG、パーマネントイエローNCG、タートラジンレーキ、モリブデンオレンジGTR、ベンジジンオレンジG、カドミウムレッド4R、ウォッチングレッドカルシウム塩、ブリリアントカーミン3B、ファストバイオレットB、メチルバイオレットレーキ、紺青、コバルトブルー、アルカリブルーレーキ、ビクトリアブルーレーキ、キナクリドン、ローダミンレーキ、フタロシアニンブルー、ファストスカイブルー、ピグメントグリーンB、マラカイトグリーンレーキ、ファイナルイエローグリーンG等の顔料がある。本発明においては重合法を用いてトナーを得るため、着色剤の持つ重合阻害性や水相移行性に注意を払う必要があり、好ましくは表面改質、例えば重合阻害の無い物質による疎水化処理を施しておいたほうが良い。特に、染料系やカーボンブラックは重合阻害性を有しているものが多いので、使用の際には注意を要する。染料系を表面処理する好ましい方法としては、予めこれらの染料の存在下に重合性単量体を重合せしめる方法が挙げられる。
【0031】
カーボンブラックについては、上記染料と同様の処理の他、カーボンブラックの表面官能基と反応する物質、例えばポリオルガノシロキサンあるいはポリエチレングリコール等とグラフト化処理を行なうのも良い。他の顔料類は、カーボンブラック程重合阻害性の強いものは少ないが、重合性単量体への分散を考えても同様の処理をしたほうが良い。
【0032】
本発明では磁性体を添加して磁性トナーとすることが出来るが、これも表面処理を行なって用いるのが好ましい。
【0033】
本発明においては、トナーの帯電性を制御する目的でトナー材料中に荷電制御剤を添加しておくことが出来る。荷電制御剤としては、重合阻害性や水相移行性の無い事が望まれるが、例えば正荷電制御剤としてはニグロシン系染料、トリフェニルメタン系染料、四級アンモニウム塩、アミン系あるいはイミン系の化合物、重合体が挙げられ、負荷電制御剤としてはサリチル酸あるいはアルキルサリチル酸の金属錯塩、含金モノアゾ系染料、カルボン酸あるいはスルフォン酸官能基を有する重合体、ニトロフミン酸等のフミン酸及び塩類等が挙げられる。
【0034】
本発明の懸濁重合法では、低温定着性を良くするために、あるいは熱ロール定着器と組み合わせた時に離型性を良くするために、トナー中にワックス等の低分子量重合体、可塑剤、液状ゴム、シリコンオイル等の低温流動化成分、低表面エネルギー物質を含有させることが出来る。
【0035】
ワックスとしては、例えばパラフィン・ポリオレフィン系ワックス及び、これらの変成物、例えば酸化物やグラフト処理物の他、高級脂肪酸、及びその金属塩、高級脂肪族アルコール、高級脂肪族エステル、脂肪族アミドワックスなどが挙げられる。これらワックスは環球法(JIS K2531)による軟化点が30〜130℃、好ましくは50〜100℃を有するものが望ましい。また、重合性単量体に溶解することが望ましい。軟化点が30℃以下ではトナー中にこれを保持しておくことが困難となり、130℃以上では重合性単量体への溶解が困難となりワックスの分散が不均一化しやすく、また重合体組成物の粘度を上げるため造粒時に粒度分布が広くなるので好ましくない。これらワックスの添加量としては、一般に重合性単量体100重量部当り1〜100重量部使用出来るが、10重量部以上にすると充分な離型性と低温定着性とを得る。
【0036】
他に離型性を高める手段としてシリコーンオイルを単独、あるいは併せて使用出来る。本発明に用いられるシリコーンオイルとしては、25℃における粘度が100〜10万センチストークスの範囲のものが好ましい。この範囲外では離型効果が低下し、トナーの保持性、造粒性の点でワックスと同様の問題を生ずる。シリコーンオイルの添加量としては、一般に重合性単量体100重量部当り0.1〜10重量部使用するのが適当である。10重量部以上使用しても既に離型性は充分発揮されており、画像面がべたつくだけであるのでそれ以上の添加は要しない。
【0037】
本発明に使用する重合開始剤としては重合反応時に半減期(以降[t1/2]と略記する)0.5〜30時間であるものを、重合性単量体の0.5〜20重量%の添加量で重合反応を行なうと、分子量1万〜10万の間に極大を有する重合体を得、トナーに望ましい強度と適当な溶融特性を与えることが出来る。重合開始剤例としては、2,2’-アゾビス-(2,4-ジメチルバレロニトリル)、2,2’-アゾビスイソブチロニトリル、1,1’-アゾビス(シクロヘキサン-1-カルボニトリル)、2,2’-アゾビス-4-メトキシ-2,4-ジメチルバレロニトリル、アゾビスイソブチロニトリル等のアゾ系またはジアゾ系重合開始剤;ベンゾイルパーオキサイド、メチルエチルケトンパーオキサイド、ジイソプロピルパーオキシカーボネート、クメンヒドロパーオキサイド、2,4-ジクロロベンゾイルパーオキサイド、ラウロイルパーオキサイド等の過酸化物系重合開始剤が挙げられる。
【0038】
本発明では、架橋剤を添加しても良く、好ましい添加量としては、0.001〜15重量%である。
【0039】
本発明のトナー製造方法では、一般に上述のトナー組成物、すなわち重合性単量体中に着色剤、離型剤、可塑剤、結着剤、荷電制御剤、架橋剤、磁性体等トナーとして必要な成分及びその他の添加剤、例えば重合反応で生成する重合体の粘度を低下させるために入れる有機溶媒、分散剤等を適宜加えて、ホモジナイザー、ボールミル、コロイドミル、超音波分散機等の分散機に依って均一に溶解または分散せしめた単量体系を、分散安定剤を含有する水系媒体中に懸濁する。この時、高速撹拌機もしくは超音波分散機のような高速分散機を使用して一気に所望のトナー粒子のサイズとするほうが、得られるトナー粒子の粒径がシャープになる。重合開始剤添加の時期としては、重合性単量体中に他の添加剤を添加する時同時に加えても良いし、水系媒体中に懸濁する直前に混合しても良い。また、造粒直後、重合反応を開始する前に重合性単量体あるいは溶媒に溶解した重合開始剤を加えることも出来る。
【0040】
造粒後は、通常の撹拌機を用いて、粒子状態が維持され且粒子の浮遊・沈降が防止される程度の撹拌を行なえば良い。
【0041】
本発明の懸濁重合法においては、分散安定剤として公知の界面活性剤や有機・無機分散剤が使用出来、中でも無機分散剤が有害な超微粉を生じ難く、その立体障害性により分散安定性を得ているので反応温度を変化させても安定性が崩れ難く、洗浄も容易でトナーに悪影響を与え難いので、好ましく使用出来る。こうした無機分散剤の例としては、燐酸カルシウム、燐酸マグネシウム、燐酸アルミニウム、燐酸亜鉛等の燐酸多価金属塩、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム等の炭酸塩、メタ硅酸カルシウム、硫酸カルシウム、硫酸バリウム等の無機塩、水酸化カルシウム、水酸化マグネシウム、水酸化アルミニウム、シリカ、ベントナイト、アルミナ等の無機酸化物が挙げられる。
【0042】
これらの無機分散剤は、重合性単量体100重量部に対して、0.2〜20重量部を単独で使用する事が望ましいが、超微粒子を発生し難いもののトナーの微粒化はやや苦手であるので、0.001〜0.1重量部の界面活性剤を併用しても良い。
【0043】
界面活性剤としては、例えばドデシルベンゼン硫酸ナトリウム、テトラデシル硫酸ナトリウム、ペンタデシル硫酸ナトリウム、オクチル硫酸ナトリウム、オレイン酸ナトリウム、ラウリル酸ナトリウム、ステアリン酸ナトリウム、ステアリン酸カリウム等が挙げられる。
【0044】
これら無機分散剤を用いる場合には、そのまま使用しても良いが、より細かい粒子を得るため、水系媒体体中にて該無機分散剤粒子を生成させることが出来る。例えば、燐酸カルシウムの場合、高速撹拌下、燐酸ナトリウム水溶液と塩化カルシウム水溶液とを混合して、水不溶性の燐酸カルシウムを生成させることが出来、より均一で細かな分散が可能となる。この時、同時に水溶性の塩化ナトリウム塩が副生するが、水系媒体中に水溶性塩が存在すると、重合性単量体の水への溶解が抑制されて、乳化重合に依る超微粒トナーが発生し難くなるので、より好都合である。重合反応終期に残存重合性単量体を除去する時には障害となることから、水系媒体を交換するか、イオン交換樹脂で脱塩したほうが良い。無機分散剤は、重合終了後酸あるいはアルカリで溶解して、ほぼ完全に取り除くことが出来る。
【0045】
前記重合工程においては、重合温度は50〜90℃の温度に設定して重合を行なう。この温度範囲で重合を行なうと、内部に封じられるべき離型剤やワックスの類が、相分離により析出して内包化がより完全となる。分子量を低く調整するために、重合開始時、一時的に130℃以上の温度とし、初期のラジカル濃度を上昇させ、その後温度を前記温度に設定して、重合反応を進める方法をとることも出来る。残存する重合性単量体を消費するために、重合反応終期ならば、反応温度を90〜150℃にまで上げる事は可能である。またこの時、単量体系中に極性物質を共存させておくと、より相分離が促進される。特に、極性物質が極性高分子重合体の場合には、より効果的である。
【0046】
前記条件下では重合転化率90%まではほぼ直線的に転化率は上がるが、トナーが固形化する90%以上では重合度の上昇が鈍り、重合転化率95%以上では非常に遅くなる。この時点で、トナーとしては既に充分な分子量範囲にあるので、重合性単量体の除去作業を進めるほうが効率的である。最終的には少なくとも1000ppm以下、より望ましくは100ppm以下にする。
【0047】
重合転化率、残留重合性単量体量、及び残留有機溶媒量の定量は、ガスクロマトグラフィーにて以下の条件で各物質のピーク面積を求めて測定した。測定は、試料中に重合禁止剤を添加し、芒硝乾燥後0.2gをTHF4mlに溶解して行なった。
【0048】
G.C.条件
測定装置:島津GC-15A(キャピラリー付き)
キャリア:N2,2Kg/cm2 50ml/min.
Split 10ml/13s
カラム :ULBON HR-1 50m×0.25mmφ
昇 温 :50℃ 5min.保持
↓ 10℃/min.
100℃
↓ 20℃/min.
200℃ 保持
試料量 :2μl
標示物質:トルエン
【0049】
本発明における粒度測定は、測定装置としてコールターカウンターTA-II(コールター社製)を用い、個数分布、体積分布を出力するインターフェイス(日科機製)及びCX-1パーソナルコンピューター(キヤノン製)を接続し、電解液は1級塩化ナトリウムを用いて1%NaCl水溶液を調製する。
【0050】
前記電解水溶液100〜150ml中に分散剤として界面活性剤、好ましくはアルキルベンゼンスルフォン酸ソーダを0.1〜5ml加え、更に測定試料を0.5〜50mg加えて、超音波分散器で約1〜3分間分散処理を行ない、試料液を調製する。
【0051】
前記コールターカウンターTA-II型により、アパチャーとして100μmアパチャーを用いて、2〜40μmの粒子の粒度分布を測定し、求めた個数分布、体積分布より長さ平均径、重量平均径、及びそれぞれの変動係数を、測定チャンネルの中央値を代表径として算出した。
【0052】
以下、実施例及び比較例に基づき本発明を具体的に説明する。
【0053】
【実施例】
実施例1
イオン交換水709gに、0.1M-Na3PO4水溶液451gを投入し、60℃に加温した後、1.0M-CaCl2水溶液67.7gを徐々に添加してCa3(PO4)2を含む水系媒体を得た。
【0054】
スチレン 170g
2-エチルヘキシルアクリレート 30g
C.I.ピグメントブルー15:3 10g
スチレン-メタクリル酸-メタクリル酸メチル(85:5:10)分子量(Mw=5万8000)
5g
パラフィンワックス(mp.70℃) 30g
ジ-t-ブチルサリチル酸クロム錯体 5g
上記処方を60℃に加温し、TK式ホモミキサー(特殊機化工業製)を用いて12,000rpmにて均一に分散、溶解した。これに、重合開始剤2,2’-アゾビス(2,4-ジメチルバレロニトリル)[t1/2=140min.at60℃]10g、及びジメチル-2,2’-アゾビスイソブチレート[t1/2=1,270min.at60℃、t1/2=80min.at80℃]1gを溶解し、重合性単量体系を調製した。
【0055】
前記水系媒体中に上記重合性単量体系を投入し、60℃,N2雰囲気下においてTK式ホモミキサーにて10,000rpmで20分間撹拌し、トナー粒子サイズの懸濁液滴を造粒した。その後、パドル撹拌翼で撹拌しつつ、60℃で3時間反応させた。この時点での重合添加率は90%であった。その後、水蒸気の還流を止めて、液温を80℃とし更に5時間撹拌を続けた。反応終了後、懸濁液を冷却し、塩酸を加えてCa3(PO4)2を溶解し、濾過、水洗、乾燥して重量平均径=8.2μmの重合トナーを得た。この時点で、残留している重合性単量体量は4,000ppm(残留溶媒0ppm)であった。次ぎに、このトナーを45℃、50mmHgの減圧下で、12時間脱気処理を行なった。この時点での残留している重合性単量体量は90ppmであった。
【0056】
得られたトナー100重量部に対して、BET法による比表面積が200m2/gである疎水性シリカ0.7重量部を外添した。この外添トナー7重量部に対して、アクリル樹脂で被覆したフェライトキャリア93重量部を混合し、現像剤とした。
【0057】
この現像剤及び外添トナーを用いて、キヤノン製フルカラー複写機CLC-500を用いて画出しを行なった。鮮映で、濃度の高い画像を得た。
【0058】
定着も良好で、オフセット現象も見られなかった。
【0059】
この現像剤を35℃/80%RHの環境に1か月間放置したが、初期と変わらぬ良好な画質であった。
【0060】
比較例1
実施例1において、反応3時間後も同じ状態を保ち、計5時間後、重合添加率が97.5%に達した時点で、トナーを取り出して分散剤の洗浄、乾燥処理を行なった。この時点で、残留重合性単量体量は18,000ppmであった。このトナーを実施例1と同様にして現像剤を調製し画出しを行なったところ、実施例1と変わらぬ良好な画像であった。しかし、定着装置周辺より悪臭がした。このトナーを35℃/80%RHの環境下に1か月間放置したところ、トナートリボが極めて低下し、非常にカブリの多い画像となった。
【0061】
比較例2
比較例1のトナーを、実施例1と同条件で減圧乾燥して残留重合性単量体量250ppmのものを得た。定着時の異臭はほとんど無くなったもののトナートリボが低下して、かぶりの多い画像となった。
【0062】
参考例
実施例1と同様にして水系媒体を調製した。
【0063】
スチレン 170g
2-エチルヘキシルアクリレート 30g
グラフト化カーボンブラック 10g
スチレン-メタクリル酸-メタクリル酸メチル(85:5:10)分子量(Mw=5万8000)
5g
パラフィンワックス(mp.70℃) 15g
ジメチルシリコーンオイル(300cst) 5g
ジ-t-ブチルサリチル酸クロム錯体 5g
上記処方を、コロイドミルにて均一に分散、溶解した。60℃に昇温した後、これに重合開始剤2,2’-アゾビス(2,4-ジメチルバレロニトリル)[t1/2=140min.at60℃]10g、及びジメチル-2,2’-アゾビスイソブチレート[t1/2=1,270min.at60℃、t1/2=80min.at80℃]1.5gを溶解し、重合性単量体系を調製した。
【0064】
前記水系媒体中に上記重合性単量体系を投入し、60℃,N2雰囲気下においてTK式ホモミキサーにて10,000rpmで20分間撹拌し、トナー粒子サイズの懸濁液滴を造粒した。その後、パドル撹拌翼で撹拌しつつ、60℃で5時間反応させた。この時点での重合添加率は95%であった。その後、水蒸気の還流を止めて、液温を80℃とし更に5時間撹拌を続けた。反応終了後、懸濁液を冷却し、塩酸を加えてCa3(PO4)2を溶解し、濾過、水洗、乾燥して重量平均径=8.5μmの重合トナーを得た。この時点で、残留重合性単量体量は7,000ppm(残留溶媒0ppm)であった。次ぎに、このトナーを4倍量のメタノール中に分散し20分間撹拌した後濾過、乾燥した。この時点での残留重合性単量体量は180ppmであった。このトナーを実施例1と同様にして外添トナー、現像剤を調製し、同様に画出しを行なった。鮮映で、濃度の高い画像を得た。定着も良好で、オフセット現象も見られなかった。この現像剤を35℃/80RHの環境に1か月間放置したが、初期と変わらぬ良好な画質であった。
【0065】
比較例3
参考例において、重合添加率が95%に達した時点でトナーを取り出した後、処理操作を行ない、同様にメタノール洗浄を行なった。この時点での残留している重合性単量体量は250ppmであった。このトナーを参考例と同様にして現像剤化したところ、キャリアとの馴染が悪く、トナー飛散が大であった。
【0066】
実施例2
実施例1と同様にして水系媒体を得た。
【0067】
スチレン 160g
2-エチルヘキシルアクリレート 40g
2,9-ジメチルキナクリドン 8g
C.I.ソルベントレッド49:P-アルキルフェノール・ホルムアルデヒド(1:1)
2g
スチレン-マレイン酸モノブチル(90:10)分子量(Mw=5万1000)
5g
ドデシルベンゼンスルフォン酸ソーダ 1g
パラフィンワックス(mp.75℃) 60g
ジ-t-ブチルサリチル酸クロム錯体 5g
上記処方を60℃に加温し、TK式ホモミキサー(特殊機化工業製)を用いて12,000rpmにて均一に分散、溶解した。これに、重合開始剤2,2’-アゾビス(2,4-ジメチルバレロニトリル)[t1/2=140min.at60℃]8g、及びジメチル-2,2’-アゾビスイソブチレート[t1/2=1,270min.at60℃、t1/2=80min.at80℃]2gを溶解し、重合性単量体系を調製した。
【0068】
前記水系媒体中に上記重合性単量体系を投入し、60℃,N2雰囲気下においてTK式ホモミキサーにて10,000rpmで20分間撹拌し、トナー粒子サイズの懸濁液滴を造粒した。その後、パドル撹拌翼で撹拌しつつ、60℃で3時間反応させた。この時点での重合添加率は90%であった。その後、水蒸気の還流を止めて、液温を80℃とし更に5時間撹拌を続けた。反応終了後、懸濁液を冷却し、塩酸を加えてCa3(PO4)2を溶解し、濾過、水洗、乾燥して重量平均径=6.4μmの重合トナーを得た。この時点で、残留している重合性単量体量は2,800ppm(残留溶媒0ppm)であった。次ぎに、このトナーを45℃、50mmHgの減圧下で、12時間脱気処理を行なった。この時点での残留している重合性単量体量は50ppmであった。
【0069】
得られたトナー100重量部に対してBET法による比表面積が200m2/gである疎水性シリカ1.0重量部を外添した。この外添トナー5重量部に対して、アクリル樹脂で被覆したフェライトキャリア95重量部を混合し、現像剤とした。
【0070】
この現像剤及び外添トナーを用いて、キヤノン製フルカラー複写機CLC-500を用いて画出しを行なった。鮮映で、濃度の高い画像を得た。
【0071】
定着も良好で、オフセット現象も見られなかった。
【0072】
この現像剤を35℃/80%RHの環境に1か月間放置したが、初期と変わらぬ良好な画質であった。
【0073】
【発明の効果】
本発明によれば、残存重合性単量体が少なく、現像性に優れたトナーを得ることができる。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2004-09-28 
出願番号 特願2001-77668(P2001-77668)
審決分類 P 1 651・ 534- YA (G03G)
P 1 651・ 121- YA (G03G)
P 1 651・ 531- YA (G03G)
最終処分 維持  
前審関与審査官 菅野 芳男  
特許庁審判長 山口 由木
特許庁審判官 六車 江一
秋月 美紀子
登録日 2002-11-22 
登録番号 特許第3372941号(P3372941)
権利者 キヤノン株式会社
発明の名称 トナー粒子の製造方法  
代理人 渡邉 敬介  
代理人 渡邉 敬介  
代理人 山口 芳広  
代理人 山口 芳広  

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