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審決分類 |
審判 全部申し立て 特36 条4項詳細な説明の記載不備 G03G 審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載 G03G 審判 全部申し立て 5項1、2号及び6項 請求の範囲の記載不備 G03G 審判 全部申し立て 2項進歩性 G03G |
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管理番号 | 1109561 |
異議申立番号 | 異議2003-71692 |
総通号数 | 62 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許決定公報 |
発行日 | 1994-06-24 |
種別 | 異議の決定 |
異議申立日 | 2003-07-04 |
確定日 | 2004-10-18 |
異議申立件数 | 3 |
訂正明細書 | 有 |
事件の表示 | 特許第3367127号「導電性ロール」の請求項1ないし4に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 |
結論 | 訂正を認める。 特許第3367127号の請求項1ないし3に係る特許を維持する。 |
理由 |
1.手続の経緯 特許第3367127号の請求項1ないし4に係る発明は、平成4年12月1日に出願され、平成14年11月8日に特許の設定登録がなされた。 本件特許公報は、平成15年1月14日に発行され、その特許に対して、田崎俊勝、吉田恵子及び境恒徳よりそれぞれ特許異議の申立があり、取消理由通知がなされ、その指定期間内である平成16年7月27日に訂正請求がなされた。 2.訂正の適否についての判断 2-1.訂正の内容 特許権者が、本件特許明細書に関して訂正を請求する事項は、次のとおりである。 (1)訂正事項a 特許請求の範囲の請求項1の記載を、 「【請求項1】 シャフトと、該シャフトの外周に形成された導電性のベース層と、該ベース層上に形成された導電膜層とを具備してなり、電子写真記録装置の感光ドラムに直接接触して該感光ドラムに所定極性の電位を付与することにより、該感光ドラムを帯電又は除電する導電性ロールにおいて、上記導電膜層を、溶剤に可溶な非晶性フッ素樹脂(ただし、フッ素ゴムを除く)に導電材を配合して形成したことを特徴とする導電性ロール。」と訂正する。 (2)訂正事項b 特許請求の範囲の請求項3を削除する。 (3)訂正事項c 特許請求の範囲の請求項4の記載中の「【請求項4】」及び「請求項1〜3のいずれか1項に」を、それぞれ「【請求項3】」及び「請求項1又は2に」と訂正する。 (4)訂正事項d 明細書の段落【0001】中の、「現像用、帯電用、除電用、転写用等として好適に」との記載を、「帯電用、除電用として」と訂正する。 (5)訂正事項e 同じく【0006】中の、「良好な画像を確実に再現することができる導電性ロール」との記載を、「良好な画像を確実に再現することができる感光ドラムの帯電用又は除電用の導電性ロール」と訂正する。 (6)訂正事項f 同じく【0007】及び【0008】中の、「被帯電体に接触しながら該被帯電体に所定極性の電位を付与する」との記載を、それぞれ、「電子写真記録装置の感光ドラムに直接接触して該感光ドラムに所定極性の電位を付与することにより、該感光ドラムを帯電又は除電する」と訂正する。 (7)訂正事項g 同じく【0009】中の、「本発明の導電性ロールは、上述したように」及び「感光ドラム等の被帯電体」との記載を、それぞれ「本発明の導電性ロールは、電子写真記録装置の感光ドラムに直接接触して該感光ドラムに所定極性の電位を付与することにより、該感光ドラムを帯電又は除電するものである、上述したように」及び「感光ドラム」と訂正する。 (8)訂正事項h 同じく【0012】中の、「感光ドラム等の被帯電体」との記載を、「感光ドラム」と訂正する。 2-2.訂正の目的の適否、新規事項追加の有無、及び特許請求の範囲の実質上の拡張又は変更の存否 訂正事項aは、請求項1に記載された導電性ロールが、感光ドラムを帯電又は除電するために使用されるものに限定するものであるから、発明の包含する範囲を縮小するものであり、特許請求の範囲の減縮を目的とする明細書の訂正に該当する。 訂正事項bは、列記されていた請求項のうちの1つの項を削除するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とする明細書の訂正に該当する。 訂正事項cは、訂正事項a、bによって生じた請求項番号の不一致を正すものであるから、明りょうでない記載の釈明を目的とする明細書の訂正に該当する。 訂正事項d〜hは、それまで請求項1において特に規定されていなかった感光ドラムの適用対象が、訂正事項aによって限定されたことに対応して、発明の詳細な説明の記載を合わせるものであるから、明りょうでない記載の釈明を目的とする明細書の訂正に該当する。 そして、訂正事項a〜hは、いずれも願書に添付した明細書に記載した事項の範囲内の訂正であり、しかも特許請求の範囲を実質的に拡張し又は変更するものでもない。 2-3.訂正の適否の結論 以上のとおりであるから、上記訂正請求は、特許法等の一部を改正する法律(平成6年法律116号)附則第6条第1項の規定によりなお従前の例によるとされる、特許法第120条の4第3項において準用する平成6年法律第116号による改正前の特許法第126条第1項ただし書き及び第2項の規定に適合するので、当該訂正を認める。 3.本件請求項1〜3に係る発明 上記のとおり訂正が認められるから、本件の請求項1〜3に係る発明(以下、本件発明1〜3という)は、前記訂正後の特許請求の範囲の請求項1〜3に記載された次のとおりのものである。 【請求項1】 シャフトと、該シャフトの外周に形成された導電性のベース層と、該ベース層上に形成された導電膜層とを具備してなり、電子写真記録装置の感光ドラムに直接接触して該感光ドラムに所定極性の電位を付与することにより、該感光ドラムを帯電又は除電する導電性ロールにおいて、上記導電膜層を、溶剤に可溶な非晶性フッ素樹脂(ただし、フッ素ゴムを除く)に導電材を配合して形成したことを特徴とする導電性ロール。 【請求項2】 溶剤に可溶な非晶性フッ素樹脂が、テトラフルオロエチレン成分にフッ素化アルキルビニルエーテル成分を導入した共重合体である請求項1記載の導電性ロール。 【請求項3】 導電膜層が、上記非晶性フッ素樹脂を溶剤に溶解し、これに導電材を添加した塗料を塗工することにより形成したものである請求項1又は2に記載の導電性ロール。 4.特許異議の申立てについての判断 4-1.特許異議申立の理由の概要及び当審における取消理由通知 特許異議申立人 田崎俊勝(以下、申立人1という)は、 理由a:本件請求項1、2、4に係る発明は、本件出願前に日本国内でまたは外国で頒布されたことが明らかな、特開昭63-183469号公報(以下、刊行物1という)に記載された発明に基づいて、本件特許の出願前にその発明の属する技術分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、また、 理由b:本件明細書には記載上の不備があるため、特許法第36条の規定により、 その特許を取り消すべき旨主張する。 特許異議申立人 吉田恵子(以下、申立人2という)は、 理由c:本件請求項1〜4に係る発明は、本件出願前に日本国内でまたは外国で頒布されたことが明らかな、特開平3-213881号公報(以下、刊行物2という)、有機合成化学協会誌42巻9号841〜849頁(以下、刊行物3という)、特開平3-246566号公報(以下、刊行物4という)及び特開平2-266109号公報(以下、刊行物5という)に記載された発明に基づいて、本件特許の出願前にその発明の属する技術分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、 その特許を取り消すべき旨主張する。 特許異議申立人 境恒徳(以下、申立人3という)は、 理由d:本件請求項1〜4に係る発明は、本件出願前に日本国内でまたは外国で頒布されたことが明らかな、特開平3-293682号公報(以下、刊行物6という)及び特開昭64-52180号公報(以下、刊行物7という)に記載された発明に基づいて、本件特許の出願前にその発明の属する技術分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、 その特許を取り消すべき旨主張する。 当審では、 理由e:請求項1に係る発明は、刊行物1、2、7に記載された発明であり、請求項3に係る発明は、刊行物4、5、6に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号の規定により特許を受けることができないものであることを理由として取消理由を通知した。 4-2.各証拠の記載事項 (1)刊行物1には、次の事項が記載されている。 ア.「1.潜像担持体上の静電荷像と接触、又は近接して、前記静電荷像をトナー現像するトナー担持体、前記トナー担持体へトナーを供給するトナー供給部材、及び前記トナー担持体上へ供給されたトナーを均一な薄層とするためのトナー規制部材を設けた一成分非磁性現像剤を使用する現像装置において、前記トナー担持体の表面層が含フッ素樹脂バインダー中に無機化合物粉末及び導電性粉末を含有せしめたものを含むことを特徴とするトナー担持体。」(特許請求の範囲) イ.「本発明に好都合な含フッ素樹脂バインダーの例としては、ポリテトラフルオロエチレン(TFE)、テトラフルオロエチレン-パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)、テトラフルオロエチレン-ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)、テトラフルオロエチレン-エチレン共重合体(ETFE)、ポリビニリデンフルオライト(VDF)、ポリクロロトリフルオロエチレン(CTFE)等が挙げられる。」(4頁左下欄17行〜右下欄5行) ウ.「フッ素樹脂塗料としては旭硝子KKよりルミフロンという商標にて市販されている。」(4頁右下欄10〜11行) エ.「製造例1 A 含フッ素化合物 ルミフロン601c固形分 100重量部 TiO2 150重量部 カーボンブラック MA-8 7重量部 トルエン 200重量部 B 硬化剤 イソシアネート化合物 10重量部 製造例2 A 含フッ素化合物 ルミフロン601c固形分 100重量部 ZnS 200重量部 カーボンブラック MA-8 20重量部 トルエン 150重量部 キシレン 150重量部 B 硬化剤イソシアネート化合物 10重量部 前記A剤を混合し、ボールミルにて48時間混合した後.ボールミル容器より混合液を取り出し、Bの硬化剤を加えて充分攪拌した後、第2図Bのトナー担持体電極層4-1-4上にデイッピングにより塗布を行ないトナー担持層を形成した。」(5頁左上欄1〜21行) オ.「本発明のトナー担持体は、一成分非磁性現像剤を使用する現像プロセスにおいて、トナー担持層へのトナーフィルミングの防止、トナー担持層の耐久性向上、トナー担持体上へのトナー供給性の増大、トナ-担持体への均一な薄層形成を実現し、高画質、画質の安定を実現する。」(6頁右下欄7〜11行) (2)刊行物2には、次の事項が記載されている。 カ.「(1)薄層形成部材により非磁性1成分トナーの薄層を表面に形成した現像ロールによって静電潜像を現像する装置において、前記現像ロールが下記一般式で示される繰り返し単位を有するフルオロシリコーンポリマーを含有する事を特徴とする静電潜像の現像装置。(一般式は省略)」(特許請求の範囲第1項) キ.「第2図(c)、(d)にはフルオロシリコ-ンポリマー層の表面特性、例えば、トナー帯電性、トナ-離型性、滑性、耐摩耗性等のいずれか一部もしくは全てを改善する為に表面コーティング層を設けた例である。 コーティング樹脂としては、ポリ塩化ビニル、ポリビニルブチラール、ポリビニルアルコール.ポリ塩化ビニリデン、ポリ酢酸ビニル.ポリビニルホルマールなどのビニル系樹脂、ポリスチレン、スチレン-アクリロニトリル共重合体、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン共重合体などのポリスチレン系樹脂、ポリエチレン、エチレン-酢酸ビニル共重合体などのポリエチレン系樹脂、ポリメチルメタクリレート、ポリメチルメタクリレート-スチレン共重合体などのアクリル系樹脂、ポリアセタール、ポリアミド、セルロ-ス、ポリカーボネ-ト、フェノキシ樹脂、ポリエステル、フッ素樹脂、ポリウレタン、フエノール樹脂、尿素樹脂、メラミン樹脂、エポキシ樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、シリコ-ン樹脂等の樹脂材料等が用いられる。 これらのコーティング層には現像特性を改善する為に、アルミニウム、ニッケル、銅等の金属粒子、カーボン、酸化スズ、酸化亜鉛等の無機導電粒子、若しくはこれらの粒子表面に樹脂コーティングしたものなども分散可能である。」(5頁右下欄15行〜6頁左上欄20行) ク.「実施例3 実施例1で得た現像ロールの層表面をトリクレンにより洗浄した後、チタネート系カツプリング剤(松本製薬社製:TA-25)の1%キシレン溶液を塗布し、30分間乾燥後、下記の表面層形成成分をスプレ一コーティングし、100℃/1時間の条件下で硬化させ、膜厚2μmの表面層を形成し、第2図(c)に示されるような現像ロールを作製した。 〔表面層形成成分〕 フッ素系共重合体樹脂(固形分50%) (旭硝子(株)社製:ルミフロン601C) 100重量部 コロネートEH(50%) 20重量部 Fz1260 (東洋アルミニウム社製: アクリルコートアルミニウムペースト) 5重量部 トルエン 200重量部 キシレン 200重量部 ついで、実施例1と同様な試験を行なった。その結果を表-5及び第5図に示す。」(7頁左上欄9行〜右上欄7行) (3)刊行物3には、次の事項が記載されている。 ケ.「ここに紹介する塗料用フッ素樹脂ルミフロンは・・・・通常の塗料と同じようにシンナー系溶剤に溶け易く・・・・社会的ニーズに応える目的で開発されたものである。」(841頁右欄10〜15行) コ.「既存のフッ素樹脂は,表1に示すように,耐候性をはじめとする優れた耐環境性を有しているが,裏を返せば融点が高く,溶媒に溶け難いということになる。加えて・・・・顔料の分散が難しいなどの塗料用樹脂としては重大な欠点を有している。・・・・上記の欠点を解消した含フッ素高分子を開発すべく,分子設計を進め,フルオロオレフィンと炭化水素系ビニルエーテルモノマーとの交互共重合体を基本骨格とする図1に示す分子構造を有する新しい含フッ素高分子を得るに至った。」(841頁右欄17行〜842頁左欄7行) サ.「特にルミフロンの場合には,溶剤に溶け易いポリマー構造としている」(842頁右欄8行) シ.「表2に樹脂の基本特性を示す。樹脂は45〜50℃にガラス転移点を持つ透明な非晶質ポリマーで,そのフッ素含有量は25〜30%と比較的低い。」(843頁右欄32行〜844頁右欄2行) (4)刊行物4には、次の事項が記載されている。 ス.「電子写真感光体に帯電部材が当接している画像形成装置において、該帯電部材が感光体に当接する電気抵抗層である上部層と該上部層の下層として、導電性及び弾性を兼備する下部層とによって構成され、該下部層の端部における電気抵抗が中央部のそれに比較して10〜1000倍であることを特徴とする接触帯電装置。」(特許請求の範囲第1項) セ.「例えば、第1図に図示するように、電子写真感光体ドラム1に帯電部材である帯電ローラ5を接触従動回転させ、これに交流電圧Vacと直流電圧Vdcを重畳した電圧(Vac+Vdc)3を帯電ローラ5に印加することによって感光ドラム1を均一に帯電することができる。」(2頁左上欄2〜8行) ソ.「第2図(1)において、51は帯電器5を形成する下部層であって、ゴム等の弾性体基材中にカーボンブラック等を分散させて導電性を付与したものであり、52は上部層であって、合成樹脂又は熱可塑性エラストマー基材中にカーボンブラック等を分散させて導電性を付与したものである。」(2頁右下欄3〜8行) タ.「即ち、本発明に用いられる帯電器の抵抗層は弾性層上に設けられた場合に、その抵抗値が通常104〜109〔Ω〕かつ、(塗布後の抵抗値)/(塗布前の抵抗値)=10〜1000になるように、しかも、その膜厚が通常5〜50[μm]となるように塗布して作製される。この範囲を満足させる物質であれば、何れでも好適に用いることができる。 例えば、ポリアミド、ポリイミド、弗素樹脂、シリコンゴム、PVA、ポリエステル等の常温において柔軟性を有する物質中に、カーボンフラック、酸化亜鉛、酸化チタン又は金属粉等の導電性物質を分散させて抵抗値を調整することができるが、これらに限定されるものではない。」(3頁左下欄10行〜右下欄3行) チ.「実施例1 ・・・・外径12mm長さ225mmの弾性層付き帯電器を得た。・・・・この弾性層の上に積層する抵抗層用被膜材料として、次のものを用いた: ・メチロール化ナイロン(帝国化学社製) 100重量部 ・カーボンブラック[商品名(ケッチェンブラック)] 3重量部 をメタノールに溶解した被膜用液を作成し、上記の弾性層が形成された帯電器を同液中に浸潰してディピング法で膜厚20μmの電気抵抗層を形成させることによって、接触帯電器5を得た。」(4頁左上欄12行〜右上欄20行) (5)刊行物5には、次の事項が記載されている。 ツ.「(1)弾性体からなるローラー本体と、ローラー本体の端面も含む表面に設けた導電性ポリマーからなる表面層とで構成される導電性ローラー。(2)請求項1の導電性ローラーを製造するに際し、溶剤もしくは加熱等により適度な粘度とした導電性ポリマーを、弾性体からなるローラー本体表面にコーティングし、固化させることにより、ローラー本体表面に導電性ポリマーからなる表面層を形成することを特徴とする、導電性ローラーの製造方法。」(特許請求の範囲) テ.「この発明は、事務機器をはじめとする電子、電気機器等の本体あるいはそれらの使用機材における静電気除去、帯電防止用として、あるいは複写機、ファクシミリ、レーザープリンター等における感光体への電荷チャ-ジャ一用として用いられる導電性ローラーと、その導電性ローラーの製造方法に関する。」(1頁左下欄17行〜右下欄3行) ト.「そこでこの発明は、前記の問題点を解決するためになされたもので、静電気除去、帯電防止機能に優れる導電性ローラーとして、あるいは電荷チャージを均一かつ高速に行える導電性ローラーとして好適な、軽量性、弾力性および耐久性に優れる導電性ローラー、およびその導電性ローラーの製造方法を提供せんとするものである。」(2頁右上欄4〜10行) ナ.「導電性ポリマーは、後に示すベースポリマーに導電性付与物質を分散させてなるものである。そのベースポリマーは一種類以上のポリマーからなり・・・・。このポリマーとしては、ポリウレタンエラストマー、ポリエチレンエラストマー、ポリエステルエラストマー、合成ゴム等のエラストマーが上げられる。このベースポリマー中に分散されて導電性を付与する物質、すなわち導電性付与物質としては、カーボンブラック・・・・金属コーティングした材料等を用いることができる。」(3頁左上欄3〜15行) (6)刊行物6には、次の事項が記載されている。 ニ.「(1)電子写真感光体に接触して該感光体を帯電させる帯電方法に用いる帯電用部材において、前記帯電用部材の表面にフッ素系樹脂の粒子を含有することを特徴とする帯電用部材。」(特許請求の範囲第1項) ヌ.「実際には感光体を上記のような接触帯電法により帯電処理しても感光体表面の各部均-な帯電はなされず、斑点状帯電ムラを生じる。・・・・出力画像は斑点状帯電ムラに対応した斑点状黒点画像となり、高品位な画像は得られていない。・・・・更に、帯電部材が感光体に直接接触しているため、感光体表面に付着している現像剤が帯電部材に移行し、帯電ムラやクリーニング不良による画像ムラ、画像汚れ等を生じる原因となっている。従って、本発明の目的は、前述の如き欠点を解決し、感光体表面のトナーが付着することによるクリーニング不良や画像汚れ等が防止された帯電用部材を提供することにある。」(2頁左上欄2行〜右上欄3行) ネ.「帯電用部材の材質としては、アルミニウム、鉄、銅等の金属、ポリアセチレン、・・・・等の導電性高分子材料、カーボンなどを分散させて導電性処理したイソプレンゴム、クロロプレンゴム等のゴムやポリカーボネート、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ塩化ビニル、ポリエチレンテレフタレート、アクリル樹脂等の樹脂などを用いることができる。」(3頁左上欄6〜13行) ノ.「また感光体に絶縁破壊等の欠陥がある場合に過剰電流が流れて電圧降下が生じるのを低減させるために、帯電用部材の表面層をたとえばアルコキシメチル化ナイロンなどのような体積抵抗106〜1012Ω・cm程度の樹脂層とし多層構成とすることもできる。」(3頁左上欄17行〜右上欄2行) ハ.「本発明の帯電用部材は、例えば第1図に示すような電子写真装置に適用することができる。この装置は、電子写真感光体1の周面上にローラー形状帯電用部材2、・・・・が配置されている。電子写真感光体1上に接触配置されている帯電用部材2に、外部電源11より・・・・印加し」(3頁右上欄11〜20行) ヒ.「実施例1 クロロプレンゴム100重量部に導電性カーボン5重量部を溶融混練し、中心にφ8×360mmのステンレス軸を通して成型し、帯電用部材の基層を設けた。・・・・次にエトキシメチル化ナイロン-6 10重量部とメタノール90重量部に、前記PTFEの粒子(粒径約0.3μm)を0.1重量部、0.5 重量部、2重量部それぞれ添加し、帯電用部材基層の上に浸漬塗工し、乾燥後膜厚200μmの表面層を形成しφ20×340mmのローラー形状帯電用部材を製造した。それぞれ帯電ローラーを1,2,3とする。」(4頁左上欄11行〜右上欄6行) (7)刊行物7には、次の事項が記載されている。 フ.「1.支持体上に弾性体よりなる第一被覆層と、さらにその上に可撓性の合成樹脂よりなる第二被覆層とを有することを特徴とする静電潜像保持体と接触して静電潜像をトナ-により顕像化するための現像部材。」(特許請求の範囲第1項) ヘ.「5.第二被覆層が溶剤可溶性フッ素樹脂と導電性材料からなる特許請求の範囲第2項記載の現像部材。」(特許請求の範囲第5項) ホ.「第二被覆層について 現像部材の最上層であり、トナーと接触する層であるからトナーに対して離型性がよく、体積固有抵抗ρが弾性体層と同レベルの・・・・で、可撓性を有する厚さ・・・・の合成樹脂層が好ましい。」(3頁左上欄6〜11行) マ.「第二被覆層形成のために、とくに好ましい樹脂としては,溶剤可溶性フッ素樹脂である。溶剤可溶性フッ素樹脂は、フルオロオレフィンと炭化水素系ビニルエーテル(必要ならば複数のビニルエーテルを使用する)との共重合反応によって得られる非品質ポリマ-であり、その詳細は小島,山辺,有機合成化学協会誌42(8),841(1984)、・・・・を参照することができる。」(3頁右上欄13行〜左下欄3行) ミ.「これらの樹脂を中抵抗性にするためには、抵抗調整剤として、カーボンブラック、金属粒子、または酸化すず、酸化チタンなどの金属酸化物粒子を分散させればよい」(3頁右下欄18行〜4頁左上欄2行)、 ム.「第二被覆層の形成方法は前記樹脂と抵抗調整剤とをボールミル、サンドミルなどの分散機で処理した後、溶剤、硬化剤等を加えて塗装液の粘度を調整した後、スプレー法、ロールコータ法あるいはデッピング法などの方法により第一被覆層上に第二被覆層を5〜70μmの厚さに形成する。」(4頁右上欄13〜19行) メ.「1-2 第二被覆層の形成例 ・・・・ (ロ)変性フッ素樹脂-カーボンブラック分散系を用いる場合 配合:変性フッ素樹脂→ルミフロンLF-601-C (旭硝子社の商品名) 50g カーボンブラック→ブラックパールL (キャボット社の商品名) 20g トルエン → 25g キシレン → 25g 上記配合をボールミル分散してマスタバッチを作成した。・・・・上記F/R比のカーボンブラック分散樹脂溶液をアルミニウム蒸着ポリエステルフィルム上に塗布した後100℃、2時間で硬化させた。」(5頁右下欄17行〜6頁右上欄3行) 4-3.判断 (1)特許法第29条第1項第3号違反(理由e)について 刊行物1、2、7は、刊行物3の記載(ケ、コ、サ、シ)を参考にすると、溶剤可溶性フッ素樹脂を使用する導電膜層を有する導電性ロール(ウ、エ、ク、マ、ミ、メ)が記載されていることが認められる。 しかしながら、それらの導電性ロールは、いずれも現像ロール(ア、カ、フ)であり、感光体に帯電・除電をするためのロールではない点で、本件発明1と相違する。 したがって、本件発明1は、刊行物1、2、7に記載された発明ではないから、特許法第29条第1項第3号の規定に該当しない。 なお、上記の訂正により、訂正前の請求項3は削除されたので、刊行物4、5、6に記載された発明であるとする申立の対象が無くなった。 (2)特許法第29条第2項違反(理由a、c、d)について 本件発明1は、導電性ロールによる感光ドラムの帯電が不均一になることで、低湿環境下において画像に網目模様が発現する(本件段落【0005】【0007】)という、感光体に直接接触して帯電させるためのロールに特有の課題を認識し、それを防止するために本件発明1の構成を創出したものである。 それに対して、刊行物4、5、6には、感光体に直接接触する帯電ロールとして、感光体に対して均一な帯電を与えること(セ、ト、ヌ)、特に、刊行物6には、感光体に生じる斑点状の帯電ムラを防止し、均一な帯電を与えること(ヌ)が認識されているが、いずれも、導電膜層に溶剤可溶性フッ素樹脂を使用するものではなく(チ、ナ、ノ)、それぞれ、本件発明1とは異なる方法で解決しているものである。 一方、刊行物1、2、7には、表面層として溶剤可溶性非晶性フッ素樹脂と導電材とよりなる表面層を有するロール(ウ、エ、ク、マ、ミ、メ)が記載されているが、いずれも感光体に帯電・除電をするためのロールではなく、現像ロール(ア、カ、フ)であって、トナー担持層面の耐フィルミング性・離型性、耐久性・耐摩耗性、トナー供給性、トナー薄層の均一性、トナーの帯電性、トナーの滑性等、現像ロールとしての特性改善(セ、ト、ヌ)の認識しかなされていない。 してみると、刊行物4、5、6に記載の発明に基づき、感光体に直接接触する帯電ロールに起因する課題について認識したとしても、刊行物4、5、6に記載の発明に、刊行物1、2、7に記載の発明を適用すべき動機付けがないし、刊行物1、2、7に記載されているロールの、溶剤可溶性非晶性フッ素樹脂と導電材とよりなる表面層を適用することで、低湿環境下において画像に網目模様が発現することを防止できるという格別の作用効果に結びつけるべき理由が全くない。 また、刊行物3には、「溶剤可溶性塗料用フッ素樹脂」についての記載があるのみである。 したがって、本件発明1は、この発明の出願前にこの発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が、刊行物1〜7に記載された発明に基づいて容易に発明をすることができたものではないから、特許法第29条第2項の規定に該当しない。 また、本件発明1の構成をすべて引用してさらに限定を加える本件発明2、3についても同様である。 (3)特許法第36条違反(理由b)について 申立人1が、本件明細書について記載不備を申し立てる趣旨は、次の通りである。 (A)請求項1、2、4において、導電膜層は、溶剤に可溶な非晶性フッ素樹脂(ただし、フッ素ゴムを除く)に導電材を配合して形成するとし、その具体的な方法として、段落【0019】には、可溶性フッ素樹脂を硬化させて三次元化した被膜を得ることが記載されているが、どの様に三次元化するのか、記載がないから、当業者が実施不能である。 (B)訂正前の請求項3は、電子写真記録装置の感光ドラムに直接接触して該感光ドラムに所定極性の電位を付与することにより、該感光ドラムを帯電又は除電するものである導電性ロールを構成とするが、導電性ロールの材質に関する限定が全くされていないため、従来技術そのものを記載したに過ぎず、発明の詳細な説明に記載された発明でない。 以下に検討する。 〈(A)について〉 本件明細書に記載された実施例には、導電膜層を形成するための原材料、その配合比、混合条件等が明記されているから、追試を試みようとすれば、容易になしうることである。そして、三次元化は発明の要件ではなく、その実現が明確に記載されていないとしても、実施例に示されている操作に基づいて、特許請求の範囲に記載された発明を実施することは可能であるから、明細書の記載が明りょうでないために当業者が実施できないとすることはできない。 〈(B)について〉 上記の訂正により、訂正前の請求項3は削除されたので、記載不備とする申立の対象が無くなった。 5.むすび 以上のとおりであるから、特許異議申立の理由及び証拠によっては本件請求項1〜3に係る発明の特許を取り消すことはできない。 また、他に本件請求項1〜3に係る発明の特許を取り消すべき理由を発見しない。 したがって、本件請求項1〜3に係る発明の特許は、拒絶の査定をしなければならない特許出願に対して付与されたものと認めないから、特許法等の一部を改正する法律(平成6年法律第116号)附則第14条の規定に基づく、特許法等の一部を改正する法律の施行に伴う経過措置を定める政令(平成7年政令第205号)第4条第2項の規定により、結論のとおり決定する。 |
発明の名称 |
(54)【発明の名称】 導電性ロール (57)【特許請求の範囲】 【請求項1】 シャフトと、該シャフトの外周に形成された導電性のベース層と、該ベース層上に形成された導電膜層とを具備してなり、電子写真記録装置の感光ドラムに直接接触して該感光ドラムに所定極性の電位を付与することにより、該感光ドラムを帯電又は除電する導電性ロールにおいて、上記導電膜層を、溶剤に可溶な非晶性フッ素樹脂(ただし、フッ素ゴムを除く)に導電材を配合して形成したことを特徴とする導電性ロール。 【請求項2】 溶剤に可溶な非晶性フッ素樹脂が、テトラフルオロエチレン成分にフッ素化アルキルビニルエーテル成分を導入した共重合体である請求項1記載の導電性ロール。 【請求項3】 導電膜層が、上記非晶性フッ素樹脂を溶剤に溶解し、これに導電材を添加した塗料を塗工することにより形成したものである請求項1又は2に記載の導電性ロール。 【発明の詳細な説明】 【0001】 【産業上の利用分野】 本発明は、電子写真記録装置の帯電用,除電用として使用される導電性ロールに関する。 【0002】 【従来の技術】 複写機やレーザービームプリンタなどに広く使用されている電子写真記録装置は、一般にドラム状の感光体(以下、感光ドラムという)を備えており、この感光ドラムに対して帯電、露光を行って静電潜像を形成し、その後感光ドラム上の潜像に応じてトナーを付着させて現像し、次いでその感光ドラム上のトナーを記録紙等の記録媒体に転移させて転写し、その後感光ドラムを所定の電位に除電すると共に、感光ドラム上に残留するトナーを清掃し、次の記録に備えるようになっている。また、転写によって記録媒体に担持されたトナーは溶融圧着されることにより記録媒体に定着し、これにより一連の作業が終了する。 【0003】 この電子写真記録装置の感光ドラムに対してその帯電領域に所定電位を付与する帯電手段や、転写後の感光ドラムにおいてその帯電領域を一定電位に均一化させる除電手段としては、従来から導電性ゴムローラを感光ドラムに直接接触させて所定電位を印加するように構成したローラ型の接触帯電器、即ち導電性ロールが知られている。 【0004】 この導電性ロールは、通常良導電性のシャフトと、その外周に形成された良導電性のゴムからなるベース層と、ロールの電気抵抗調節あるいは感光ドラムの汚染防止のためにベース層上に形成される導電膜層とから構成されており、従来導電膜層としては、主にN-メトキシメチル化共重合ナイロン等が用いられている。 【0005】 【発明が解決しようとする課題】 しかしながら、従来の導電性ロールにあっては、低湿環境下において、画像に網目模様が発現するといった問題点がある。この網目模様の発現は、導電性ロールによる感光ドラムの帯電が不均一であることに起因するものであり、このため従来の技術ではロール状の帯電器を用いた接触帯電方式を採用することが難く、特に複写機ではブラシ状の帯電器を用いたり、あるいはコロナ放電による非接触式の帯電方式が採用されている。 【0006】 本発明は、上記事情に鑑みなされたもので、低湿環境下においても画像に網目模様が発現するようなことがなく、また複写機に採用してもこのような問題を生じることなく、良好な画像を確実に再現することができる感光ドラムの帯電用又は除電用の導電性ロールを提供することを目的とする。 【0007】 本発明者は、上記目的を達成するため、鋭意検討を行った結果、シャフトと、該シャフトの外周に形成された導電性のベース層と、該ベース層上に形成された導電膜層とを具備してなり、電子写真記録装置の感光ドラムに直接接触して該感光ドラムに所定極性の電位を付与することにより、該感光ドラムを帯電又は除電する導電性ロールにおいて、従来のN-メトキシメチル化共重合ナイロンに代えて、溶剤に可溶な非晶性フッ素樹脂(ただし、フッ素ゴムを除く)を用い、これに導電材を配合して上記導電膜層を形成することにより、この導電性ロールを用いて感光ドラムを帯電させ、電子写真画像を得た場合、低湿下においても帯電の不均一性に起因する網目模様等を発現させることなく良好な画像を確実に得ることができ、特に複写機に用いた場合でも良好な画像を確実に再現することができることを見出し、本発明をなすに至ったものである。 【0008】 従って、本発明は、シャフトと、該シャフトの外周に形成された導電性のベース層と、該ベース層上に形成された導電膜層とを具備してなり、電子写真記録装置の感光ドラムに直接接触して該感光ドラムに所定極性の電位を付与することにより、該感光ドラムを帯電又は除電する導電性ロールにおいて、上記導電膜層を、溶剤に可溶な非晶性フッ素樹脂(ただし、フッ素ゴムを除く)に導電材を配合して形成したことを特徴とする導電性ロールを提供するものである。 【0009】 以下、本発明について更に詳しく説明する。本発明の導電性ロールは、電子写真記録装置の感光ドラムに直接接触して該感光ドラムに所定極性の電位を付与することにより、該感光ドラムを帯電又は除電するものであり、上述したように、感光ドラムと接触する表面の導電膜層を導電材を配合した可溶性フッ素樹脂により形成したもので、具体的には、図1に示した導電性ロールが例示される。 【0010】 即ち、図1は本発明導電性ロールの一例を示すもので、ステンレススチール、めっき処理した鉄、黄銅、導電性プラスチック等の良導電性材料からなるシャフト1の外周に導電性の弾性材料からなるベース層2を設け、更にこのベース層2の外周に導電材を配合して導電性を付与した可溶性フッ素樹脂からなる導電膜層3を被覆形成したものである。 【0011】 ここで、上記ベース層2を構成する導電性を有する弾性材料としては、導電材を配合した無発泡又は発泡導電性ゴム組成物及び導電性ポリウレタンフォームを用いることができる。 【0012】 無発泡の導電性ゴム組成物を構成するゴム成分としては、ニトリルブタジンゴム、クロロプレンゴム、スチレンブタジエンゴム、ブタジエンゴム、エチレンプロピレンゴム、イソプレンゴム、ポリノルボルネンゴム等の通常のゴム又はスチレン-ブタジエン-スチレン(SBS)、スチレン-ブタジエン-スチレンの水添加物(SEBS)等の熱可塑性ゴムを使用することができ、特に制限されるものではないが、これらのゴム、特に固形ブタジエンゴム/液状ポリイソプレンゴムを10/90〜50/50程度の比率で混合し、これに導電材を配合してベース層2を形成することが好ましく、これにより硬度が低く、圧縮永久歪が少ないベース層2を得ることができ、ロールと感光ドラムとの密着性を向上させることができる。 【0013】 また、発泡導電性ゴムとしては、特に制限されるものではないが、エチレンプロピレンゴムに導電材を配合したもの、エピクロルヒドリンとエチレンオキサイドとの共重合ゴムの発泡体又はエピクロルヒドリンとエチレンオキサイドとの共重合ゴムに導電材を配合したものの発泡体を好適に使用することができる。 【0014】 これらゴム組成物に配合する導電材としては、カーボンブラック、黒鉛、金属、導電性の各種金属酸化物(酸化錫,酸化チタン等)などの導電性粉体やカーボンファイバー、金属酸化物の短繊維等の各種導電性繊維を用いることができる。その配合量は、全ゴム成分100重量部に対して2〜70重量部、特に3〜30重量部とすることができ、これによりベース層2の体積抵抗を101〜107Ω・cm程度に調整することが好ましい。なお、このベース層2の形成は、公知の加硫成形法により行うことができ、その厚さはロールの用途等に応じて適宜設定されるが、通常1〜5mmとされ、またその硬度はアスカーC20〜70、特に30〜60とすることが好ましい。 【0015】 本発明の導電性ロールは、上記ベース層2上に導電材の配合により導電性を付与した可溶性フッ素樹脂で導電膜層3を形成したものであるが、この場合可溶性フッ素樹脂は、溶剤に可溶な非晶性フッ素樹脂が用いられ、具体的にはテトラフルオロエチレン成分にフッ素化アルキルビニルエーテル成分を導入した共重合体などを使用することができ、具体的には、旭硝子(株)のルミフロン、サイトップ、ルミフロンを塗料化した日本油脂(株)のベルフロンやデュポン社のテフロンAF等が好適に用いられる。 【0016】 また、これら可溶性フッ素樹脂に導電性を付与するために配合する導電材としては、導電性酸化チタン、カーボン、導電性酸化錫等の一般に使用されている種々の導電性材料を使用することができ、その配合量は、特に制限されるものではないが、フッ素樹脂100重量部に対して30〜300重量部程度とすることができ、これにより導電性ロールの導電膜層として適当な電気抵抗値である108〜1010Ω・cmとすることができる。 【0017】 この導電膜層3は、溶剤に溶解されて塗料状に調製された上記可溶性フッ素樹脂に上記導電材を添加し、これをディップ、ハケ塗又はスプレー等の通常の塗装法で上記ベース層2上にコーティングした後、自然乾燥、真空引きもしくは加熱処理等の強制乾燥を行うことにより、容易に形成することができる。 【0018】 また、この導電膜層3を上記ベース層2上に形成するに際し、導電性ロールの電気抵抗値を調整するため、図2に示したようにベース層2と導電膜層3との間に下塗層4を形成することもできる。この場合、下塗層4としては、特に制限されないが、ポリエステル系ウレタン、例えば1,4ブタンジオール、エチレングコールとアジピン酸のエステルのジオールとをMDI(メチレンジフェニルイソシアネート)で鎖延長したウレタンに各種カーボンブラック又は導電性酸化チタン、導電性錫を分散させたものなどが好適に用いられる。また、従来導電膜層として用いられているN-メトキシメチル化共重合ナイロン(商品名,トレジン)に導電剤を配合して導電性を付与したものも下塗層4として好適に使用することができる。 【0019】 本発明の導電性ロールは、表面の導電膜層を導電性を付与した可溶性フッ素樹脂で形成したことにより、低湿下でも網目模様の発現などの不都合を生じることなく、かつ複写機の電子写真プロセスにも好適に使用されるものであるが、それ以外にも、導電膜の水分に対する親和性が低く、抵抗の環境依存性が少ない、可溶性フッ素樹脂を硬化させて分子構造が3次元化した皮膜を得ることが可能であり、優れた耐溶剤性を得ることができる、導電膜の機械的強度が高いので耐摩耗性に優れ、傷を受けにくい、導電膜がフッ素樹脂からなるので、表面に汚れがつきにくい、感光ドラムに密着したり、感光ドラムを汚染したりすることがない等の利点を得ることができる。 【0020】 【実施例】 以下、実施例,比較例を示して本発明を具体的に説明するが、本発明は下記実施例に制限されるものではない。 [実施例1] スチール製シャフトに下記処方の導電性ゴム組成物を用いて、加硫条件160℃×5分で3mm厚のベース層を形成した。得られたベース層の硬度はアスカーC50であり、その体積抵抗は8×105Ω・cmであった。 【0021】 導電性ゴム組成物処方 シス-1,4-ポリブタジエン(日本合成ゴム(株)製 BR02LL) 60重量部 液状ポリイソプレン(クラレ(株)製 クラレイソプレンLIR30) 40重量部 ケッチェンブラックEC 10重量部 亜鉛華 10重量部 有機過酸化物 0.8重量部 【0022】 次に、ベース層上に、アジピン酸と1,4ブタンジオールのポリエステルジオールをMDI(メチレンジフェニルイソシアネート)で鎖延長したウレタン(商品名P22S、日本ミラクトラン製)100重量部にカーボンを30重量部分散させてなる下塗層を200μm厚に形成し、更にフルオロオレフィン・ビニルエーテル共重合体として、下記式(1)に示した化学構造を持つ旭硝子(株)のルミフロンを塗料化したものである日本油脂(株)製のベルフロンを用い、このベルフロン100重量部に対して導電性酸化チタンを170重量部分散させて導電性を付与し、これを上記ベース層と下塗層からなるロールにディップし、ロール表面に厚さ5μmの導電膜層を形成して導電性ロールを得た。得られたロールの電気抵抗は、8×108Ωであった。なお、電気抵抗は図3に示したように、1cm幅の銅板6をロール5に巻き付け、HIOKI-1MΩテスタを用い、シャフト1と銅板6との間に1000Vの電圧を印加して測定した。 【0023】 【化1】 【0024】 なお、本実施例で用いた可溶性フッ素樹脂ベルフロンは比較的低温(rt.〜150℃)で架橋するタイプのものであり、イソシアネートを添加して硬化させる2液タイプのものである。 【0025】 得られた導電性ロールを帯電ロールとして複写機にセットし、温度20℃,湿度15%の低湿条件下で複写テストを行ったところ、網目模様の発生等の不都合なく、良好な画像が得られた。 【0026】 [実施例2] スチール製シャフトに下記処方の導電性ゴムスポンジを用いて、230℃×3分の加硫条件で3mm厚のベース層を形成した。得られたベース層の硬度はアスカーC45であり、その体積抵抗は6×103Ω・cmであった。 【0027】 導電性ゴムスポンジ処方 EPDM(日本合成ゴム(株)製 T7201EF) 100重量部 オイル(出光石油(株)製 PW380) 70重量部 ポリエチレングリコール(日本油脂製 PEG4000) 1重量部 発泡剤(永和(株)製 ビニホールAcNo.3又はネオセルボンN5000) 3重量部 【0028】 次に、ベース層上に、アジピン酸と1,4ブタンジオールのポリエステルジオールをMDI(メチレンジフェニルイソシアネート)で鎖延長したウレタン(商品名P22S、日本ミラクトラン製)100重量部にカーボンを30重量部分散させてなる下塗層を200μm厚に形成し、更に旭硝子(株)のルミフロンを塗料化したものである日本油脂(株)製のベルフロン100重量部に対して導電性酸化錫を170重量部分散させて導電性を付与し、これを上記ベース層と下塗層からなるロールにディップし、ロール表面に厚さ5μmの導電膜層を形成して導電性ロールを得た。得られたロールの電気抵抗は、6×105Ωであった。 【0029】 なお、本実施例で用いたベルフロンは末端がメチロール化メラミンになっている1液硬化型のもので、120〜180℃に加温することにより、脱水反応が起こって3次元化するものである。 【0030】 得られた導電性ロールを帯電ロールとして複写機にセットし、温度20℃,湿度15%の低湿条件下で複写テストを行ったところ、網目模様の発生等の不都合なく、良好な画像が得られた。 【0031】 [比較例1] 実施例1と同様のベース層をシャフト外周に形成し、該ベース層上にアジピン酸と1,4ブタンジオールのポリエステルジオールをMDI(メチレンジフェニルイソシアネート)で鎖延長したウレタン(商品名P22S、日本ミラクトラン製)100重量部にカーボン30重量部を添加配合してなる導電膜層(厚さ200μm)を形成して導電性ロールを得た。 【0032】 得られた導電性ロールについて、実施例1及び2と同様の複写テストを行ったところ、網目模様が発生し、良好な画像が得られなかった。 【0033】 [比較例2] 比較例1と同様のウレタン層上にN-メトキシメチル化共重合ナイロン100重量部に導電性酸化チタン30重量部を添加混合してなる導電膜層5μmを形成して導電性ロールを得た。 【0034】 得られた導電性ロールについて、実施例1及び2と同様の複写テストを行ったところ、網目模様が発生し、良好な画像が得られなかった。 【0035】 このように、可溶性フッ素樹脂からなる導電膜層を有する実施例1及び実施例2の導電性ロールは、低湿環境下で複写機の帯電ロールとして用いた場合でも網目模様が生じるようなことがなく、良好な画像を確実に得ることができるものである。 【0036】 【発明の効果】 以上説明したように、本発明の導電性ロールによれば、電子写真装置の帯電ロール等として低湿下においても網目模様を生じる等の不都合なくきれいな画像を得ることができ、特に複写機の帯電ロールとしても好適に使用することができるものである。 【0037】 また、本発明の導電性ロールは、表面の導電膜層として、可溶性フッ素樹脂からなる導電膜を用いたことにより、画出し性の他にも従来のN-メトキシメチル化重合ナイロンを用いたロールに比べて、以下の利点を得ることが可能である。 (1)導電膜の水分に対する親和性が低く、抵抗の環境依存性が少ない。 (2)導電膜を3次元化させ、耐溶剤性に優れたロールを得る。 (3)導電膜の機械的強度が高いので耐摩耗性に優れ、傷を受けにくい。 (4)導電膜がフッ素樹脂からなるので、表面に汚れがつきにくい。 (5)感光ドラムに密着したり、感光ドラムを汚染したりすることがない。 【図面の簡単な説明】 【図1】 本発明の一実施例にかかる導電性ロールを示す断面図である。 【図2】 本発明の他の実施例にかかる導電性ロールを示す断面図である。 【図3】 ロールの電気抵抗の測定方法を説明する概略斜視図である。 【符号の説明】 1 シャフト 2 ベース層 3 導電膜層 4 下塗層 5 導電性ロール 6 銅板 |
訂正の要旨 |
審決(決定)の【理由】欄参照。 |
異議決定日 | 2004-09-28 |
出願番号 | 特願平4-345380 |
審決分類 |
P
1
651・
531-
YA
(G03G)
P 1 651・ 113- YA (G03G) P 1 651・ 121- YA (G03G) P 1 651・ 534- YA (G03G) |
最終処分 | 維持 |
前審関与審査官 | 唐 強 |
特許庁審判長 |
山口 由木 |
特許庁審判官 |
六車 江一 秋月 美紀子 |
登録日 | 2002-11-08 |
登録番号 | 特許第3367127号(P3367127) |
権利者 | 株式会社ブリヂストン |
発明の名称 | 導電性ロール |
代理人 | 小島 隆司 |
代理人 | 重松 沙織 |
代理人 | 小島 隆司 |
代理人 | 石川 武史 |
代理人 | 小林 克成 |
代理人 | 小林 克成 |
代理人 | 重松 沙織 |
代理人 | 石川 武史 |