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審決分類 審判 一部申し立て 1項3号刊行物記載  B41J
審判 一部申し立て 2項進歩性  B41J
管理番号 1109666
異議申立番号 異議2001-70852  
総通号数 62 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2000-02-22 
種別 異議の決定 
異議申立日 2001-03-17 
確定日 2005-01-04 
異議申立件数
事件の表示 特許第3088421号「印刷機の熱源に対する電力供給制御方法及びその電力供給制御装置」の請求項1、5、6に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 特許第3088421号の請求項1、5、6に係る特許を取り消す。 
理由 第1 手続の経緯
本件の出願からの主だった経緯を箇条書きにすると次のとおりである。
・平成11年8月4日 本件出願(優先権主張平成10年8月7日)
・平成12年7月14日 特許第3088421号として設定登録(請求項1〜10)
・平成13年3月17日 請求項1,5,6に係る特許に対して、特許異議申立人阿部正一より特許異議申立
・同年8月16日付け 当審にて取消理由通知(請求項1,5,6に係る特許に対して)
・同年11月28日 特許権者より特許異議意見書及び訂正請求書提出
・平成15年4月17日付け 当審にて訂正拒絶理由通知
・同年7月30日 特許権者より意見書提出
・平成16年4月9日付け 当審にて再度の訂正拒絶理由通知
・同年7月20日 特許権者より意見書提出

第2 訂正の許否の判断
1.訂正事項
平成13年11月28日付けの訂正請求は、訂正前請求項5記載の「前記第1群と前記第2群の両方に同時に電力が投入される期間が発生しないように前記各熱源相互間の電力投入オン時期を調整する電力供給制御部」を、「所定の第1時間の間前記第2群に属する熱源への電力投入を遮断しながら、前記第1群に属する熱源の温度制御のために前記第1群に属する熱源への電力供給及び遮断を制御し、前記第1時間が過ぎた後の所定の第2時間の間前記第1群に属する熱源への電力投入を遮断し、前記第2群に属する熱源の温度制御のために前記第2群に属する熱源への電力供給及び遮断を制御する電力供給制御部」(以下「本件訂正事項」という。)と訂正することを訂正事項に含んでいる。

2.本件訂正事項についての判断
本件訂正事項は「電力供給制御部」につき、「所定の第1時間の間前記第2群に属する熱源への電力投入を遮断しながら、前記第1群に属する熱源の温度制御のために前記第1群に属する熱源への電力供給及び遮断を制御し、前記第1時間が過ぎた後の所定の第2時間の間前記第1群に属する熱源への電力投入を遮断し、前記第2群に属する熱源の温度制御のために前記第2群に属する熱源への電力供給及び遮断を制御する」と、すなわち、第2群に属する熱源への電力投入を遮断する期間に第1群に属する熱源の温度制御を行い、第1群に属する熱源への電力投入を遮断する期間に第2群に属する熱源の温度制御を行う旨限定するものであるが、この限定は請求項5だけでなく、請求項5を引用する請求項6〜請求項10にも及ぶものである。
訂正前請求項6に係る発明の「電力供給制御部」は、「・・・熱源への電力遮断を要求する第1信号を出力し、・・・電力供給を要求する第2信号を前記各熱源に対応して備えられた出力チャンネルを通じて出力する温度制御部と、・・・入力された信号が全て前記第2信号であれば、内部的に設定された信号変換方法により入力された第2信号の中から一部を第1信号に変更して前記スイッチ部に出力する信号調整部」とを備えている。
本件訂正後の「所定の第1時間の間前記第2群に属する熱源への電力投入を遮断しながら、前記第1群に属する熱源の温度制御のために前記第1群に属する熱源への電力供給及び遮断を制御し、前記第1時間が過ぎた後の所定の第2時間の間前記第1群に属する熱源への電力投入を遮断し、前記第2群に属する熱源の温度制御のために前記第2群に属する熱源への電力供給及び遮断を制御する電力供給制御部」そのものが、願書に添付した明細書(以下、添付図面を含めて「特許明細書」という。)の「相互区分した各群に対してその温度制御のための電力供給時期が相互重ならないように、まず、所定の第1時間の間には前記第2群に属する熱源への電力投入を遮断しながら、前記第1群に属する熱源の温度制御のために前記第1群に属する熱源への電力供給を制御する。」(段落【0018】)及び「次に前記第1時間が過ぎると、所定の第2時間の間前記第1群に属する熱源への電力投入を遮断し、前記第2群に属する熱源の温度制御のために前記第2群に属する熱源への電力供給を制御する。第2時間が経過すると、再び第1時間の間第1群に属する熱源への電力供給を制御する。このような過程は前記第1時間と第2時間を一サイクルとして反復される。・・・前記第2群への電力投入が遮断される前記第1時間の間には温度制御のために、第1群に属する制御対象熱源への電力供給及び/または遮断がなされるようにスイッチ部80を制御する。前記第2時間の間には同じ方法で前記第2群に属する熱源への電力供給及び/または遮断がなされるようにスイッチ部80を制御する。」(段落【0019】)との各記載、並びに【図4】からみて、特許明細書に記載されていることは認める。
しかし、これら段落【0018】,段落【0019】及び【図4】は、「入力された信号が全て前記第2信号であれば、内部的に設定された信号変換方法により入力された第2信号の中から一部を第1信号に変更して前記スイッチ部に出力する信号調整部」を前提としない場合の実施例であり、第1群及び第2群の信号が電力遮断を要求する第1信号であるのか、電力供給を要求する第2信号であるのかに関係なく、第1時間においては第2群への電力投入の遮断と第1群への電力供給及び/または遮断が行われ、第2時間においては第1群への電力投入の遮断と第2群への電力供給及び/または遮断が行われる旨記載されているのであるから、第1時間及び第2時間の設定が「内部的に設定された信号変換方法」に当たると解することはできない。
逆に「入力された信号が全て前記第2信号であれば、内部的に設定された信号変換方法により入力された第2信号の中から一部を第1信号に変更して前記スイッチ部に出力する信号調整部」を前提とする場合に、本件訂正事項を採用しなければならない理由もない。実際、「入力された信号が全て前記第2信号であれば、内部的に設定された信号変換方法により入力された第2信号の中から一部を第1信号に変更して前記スイッチ部に出力する信号調整部」の例が【図7】に示されているところ、同図の説明として「さらに他の方法として、まず、第2ヒーター22aを第1群に定め、第1ヒーター21a、第3ヒーター19b及び第4ヒーター19cを第2群に定めた後、第2群の電力制御に優先権を付与し、第2群中少なくとも2つ以上のヒーターへの電力が供給される時期には、前記第2ヒーター22aへの電力投入を温度制御要求と関係なく遮断する回路が図7に示されている。」(段落【0026】、下線は当審にて付加。)とあり、「第2群の電力制御に優先権を付与し」ているのだから、第1時間及び第2時間の設定はされていない。
すなわち、段落【0018】、段落【0019】及び【図4】は請求項6に係る発明の実施例ではありえない。

特許権者は、「請求項6は・・・段落番号〔0018〕の「各スイッチ素子81、82、83、84が全てオンになる時期が発生しないように各ヒーター21a 、22a 、19b 、19c への電力供給時期を調整しながら各熱供給対象の温度制御を遂行する」旨の記載に基づく請求項であり」(平成16年7月20日付け意見書3頁18〜22行)及び「請求項6に記載の・・・温度制御部は、例えば・・・段落番号〔0021〕に記載の「下限値温度以下に下がれば、第2ヒーター22a(H2)への電力が供給され」る旨の記載、及び、「定着ローラの表面温度が設定された上限値目標温度に到達すると、スイッチ素子82をオフさせて第2ヒーター22a(H2)への電力供給を遮断」する旨の記載、並びに、「第2ヒーター22a(H2)用スイッチ素子82はオフされ、第1ヒーター21a(H1)、第3ヒーター19b(H3)及び第4ヒーター19c(H4)の各々に対する電力制御が、第2ヒーター22a(H2)に対する温度制御に対して前述した方法と同じ方法により独立的に第2時間T2の間熱供給対象体の温度調節のために遂行される」旨の記載から明らかである。」(同書同頁26行〜4頁12行)と主張する。
しかし、上記説示は「内部的に設定された信号変換方法により入力された第2信号の中から一部を第1信号に変更して前記スイッチ部に出力する信号調整部」の有無に基づく判断であって、「温度制御部」の有無に基づく判断でない。特許権者の主張は、要するに請求項6の「温度制御部」が段落【0018】及び段落【0021】に記載されているとの主張にすぎないから、的を射た主張ではない。ちなみに段落【0021】には「図4に示したように」とあるとおり、第2群への電力供給を遮断する第1時間と、第1群への電力供給を遮断する第2時間が予め設定された実施例であるから、「信号調整部」を備える実施例ではない。加えて、請求項6を更に引用する請求項7には、「前記第2群に属する熱源に対して前記温度制御部から出力される信号はそのまま前記スイッチ部に出力し、前記第1群に属する熱源に対して前記温度制御部から出力される信号に対しては、前記第2群に属する熱源中少なくとも2つ以上の熱源に対して前記温度制御部から前記第2信号が出力されれば、前記第1群に対して前記温度制御部から入力された信号と関係なく前記第1群に対応する前記スイッチ素子を全てオフさせる前記第1信号を前記スイッチ部に出力し、前記第2群に属する熱源中1つ以下の熱源に対してのみ前記温度制御部から前記第2信号が出力されれば、前記第1群に対して前記温度制御部から入力された信号をそのまま前記スイッチ部に出力する」との記載があるところ、この記載は第2群に属する熱源を優先的に制御することを意味するものであり、前記段落【0026】の「第2群の電力制御に優先権を付与し、第2群中少なくとも2つ以上のヒーターへの電力が供給される時期には、前記第2ヒーター22aへの電力投入を温度制御要求と関係なく遮断する回路が図7に示されている。」と実質的に同旨であるから、請求項7の限定として本件訂正事項が特許明細書に記載されていないことはなお一層明らかである。したがって、特許権者の主張は到底採用できない。

したがって、本件訂正事項は、請求項6(及び請求項6をさらに引用する請求項7〜請求項10)に係る限定事項としては、特許明細書に記載されていないといわなければならず、本件訂正が願書に添付した明細書・図面に記載された事項の範囲内でされたとはいえない。
よって、本件訂正は、平成15年改正前特許法120条の4第3項で準用する同法126条2項の規定に違反するから、本件訂正を認めることはできない。

第3 特許異議申立についての判断
以下では、「発明を特定するための事項」という意味で「構成」との用語を用いる。
1.本件発明の認定
訂正が認められないから、本件の請求項1,5,6に係る発明(以下、請求項番号に応じて「本件発明1」、「本件発明5」及び「本件発明6」という。)は、特許明細書の記載からみて、その特許請求の範囲【請求項1】,【請求項5】及び【請求項6】に記載された事項によって特定されるものとと認める。ただし、【請求項5】については、その末尾が「電力供給制御方法」とあるものの、個々の構成は「発熱部」、「電源供給装置」、「スイッチ部」、「感熱センサー」及び「電力供給制御部」であり、請求項5を引用する請求項6〜請求項10の末尾がすべて「電力供給制御装置」であることからみて、「電力供給制御方法」は「電力供給制御装置」の自明な誤記であるとして認定する。なお、本件訂正を認めることはできないが、訂正後の【請求項5】の末尾が「電力供給制御装置」となっていることも、この認定が妥当であることを裏付けるものである。また、取消理由では、請求項5の末尾が「電力供給制御方法」となっていることを理由に、請求項5,6の特許は平成15年改正前特許法113条4号の規定により取り消されるべき旨通知しており、仮にこの認定が妥当でなく、請求項5に係る発明が真実「電力供給制御方法」の発明であるとするならば、同理由により、請求項5,6の特許は取り消されなければならない。
「【請求項1】 多数の熱源を有する発熱部と、電源供給装置と、前記電源供給装置から前記発熱部への電力供給を制御する電力供給制御部とを備える印刷機の熱源に対する電力供給制御方法において、
(一) 前記発熱部に属する多数の熱源のうち印刷作業時最大の電力を要求する所定の熱源を第1群に定め、前記発熱部を構成する熱源中前記第1群に属しない残りの熱源の全部またはその一部を第2群に定める段階と、
(二) 所定の第1時間の間前記第2群に属する熱源への電力投入を遮断しながら、前記第1群に属する熱源の温度制御のために前記第1群に属する熱源への電力供給を制御する段階と、
(三) 前記第1時間が過ぎると、所定の第2時間の間前記第1群に属する熱源への電力投入を遮断し、前記第2群に属する熱源の温度制御のために前記第2群に属する熱源への電力供給を制御する段階と、
(四) 前記(二)段階と前記(三)段階を少なくとも1回以上繰り返す段階とを含むことを特徴とする印刷機の熱源に対する電力供給制御方法。
【請求項5】 多数の熱源を有する発熱部と、
電源供給装置と、
前記電源供給装置から前記熱源の各々への電力を供給及び遮断できるように設けられた多数のスイッチ素子を有するスイッチ部と、
前記熱源の各々に対応される熱供給対象体に対する発熱温度を感知してそれに対応する信号を出力する感熱センサーと、
前記熱源と対をなす前記感熱センサーの出力信号を判読して、前記熱供給対象体の発熱温度が各々設定された温度範囲内で維持されうるように前記スイッチ部を制御し、前記発熱部に属する多数の熱源のうち印刷作業時最大の電力を要求する所定の熱源を第1群に定め、前記発熱部を構成する熱源中前記第1群に属しない残りの熱源の全部またはその一部を第2群に定め、前記第1群と前記第2群の両方に同時に電力が投入される期間が発生しないように前記各熱源相互間の電力投入オン時期を調整する電力供給制御部とを備えることを特徴とする印刷機の熱源に対する電力供給制御装置。
【請求項6】 前記電力供給制御部は、
前記各熱源と対を成す感熱センサーの出力信号から前記熱供給対象体の表面温度が各々設定された上限値目標温度になると前記熱源への電力遮断を要求する第1信号を出力し、前記熱供給対象体の表面温度が各々設定された下限値目標温度になると電力供給を要求する第2信号を前記各熱源に対応して備えられた出力チャンネルを通じて出力する温度制御部と、
前記温度制御部の出力チャンネルを通じて出力される信号が入力され、入力された信号が全て前記第2信号であれば、内部的に設定された信号変換方法により入力された第2信号の中から一部を第1信号に変更して前記スイッチ部に出力する信号調整部とを備えることを特徴とする請求項5に記載の印刷機の熱源に対する電力供給制御装置。」

2.引用刊行物の記載事項
取消理由に引用した特開平9-311580号公報(特許異議申立人の提出した甲第2号証。以下「引用例」という。)には、以下のア〜シの記載が図示とともにある。
ア.「定着手段の予め設定された点灯優先度を有するそれぞれヒータが内蔵された少なくとも2つ以上のヒートローラと、読取手段の露光ランプのオン、オフを検知する手段と、各ヒートローラの温度を検出する手段と、この温度検出出力と、前記点灯優先度と、露光ランプのオン、オフ検知出力とに対応してそれぞれのヒータのオン、オフ信号を出力する温度制御部と、このオン、オフ信号によってそれぞれのヒータのオン、オフを行うヒータ制御部とを具えた画像形成装置において、各ヒートローラの目標温度を設定する目標温度設定手段を設け、露光ランプがオンされている時、全てのヒートローラの温度が第1目標温度よりも低くなった際、目標温度設定手段が温度制御部に点灯優先度の高いヒートローラについて第1目標温度よりも高い温度の第2目標温度を設定し、設定された第2目標温度及び第1目標温度と、露光ランプのオン信号と、ヒートローラの温度とに対応して温度制御部がヒータ制御部を介して、第1目標温度または第2目標温度に基づいて点灯優先度の高いヒートローラのヒータのオフまたはオンと、このオフに対応して点灯優先度の低いヒートローラのヒータのオンまたは第1目標温度に基づいてそのオフとを交互に行うことを特徴とする画像形成装置。」(【請求項2】)
イ.「定着手段の予め設定された点灯優先度を有するそれぞれヒータが内蔵された少なくとも2つ以上のヒートローラと、読取手段の露光ランプのオン、オフを検知する手段と、各ヒートローラの温度を検出する手段と、この温度検出出力と、前記点灯優先度と露光ランプのオン、オフ検知出力とに対応してそれぞれのヒータのオン、オフ信号を出力する温度制御部と、このオン、オフ信号によってそれぞれのヒータのオン、オフを行うヒータ制御部とを具えた画像形成装置において、温度制御部に予め点灯優先度の高いヒートローラのヒータの点灯許可時間と、点灯優先度の低いヒートローラのヒータの点灯許可時間とを設定し、露光ランプがオンされている時、全てのヒートローラの温度が目標温度よりも低くなった際、露光ランプのオン信号に対応して温度制御部はヒータ制御部を介して、前記点灯許可時間によって前記両ヒータを交互にオン、オフすることを特徴とする画像形成装置。」(【請求項3】)
ウ.「第1実施形態を示す図1,2において、・・・予め設定された点灯優先度を有する上ヒートローラ3及び下ヒートローラ4と、上ヒートローラ3の熱源である上ヒータ5と、下ヒートローラ4の熱源である下ヒータ6と、上ヒートローラ3の表面温度を検出するサーミスタからなる第1温度検出手段7と、下ヒートローラ4の表面温度を検出するサーミスタからなる第2温度検出手段8と、第1,2温度検出手段7,8の出力が入力され、各ヒートローラ3,4の温度情報を出力するとともに、各ヒートローラ3,4の目標温度を設定する目標温度設定手段9を有していて、CPU11を介して露光ランプ20のオン信号が入力された際、上ヒートローラ3と下ヒートローラ4とが所定の温度を維持するように上ヒータ5と下ヒータ6とのオン、オフ信号を出力する温度制御部10と、このオン、オフ信号が入力されて上ヒータ5と下ヒータ6とのオン、オフを行うヒータ制御部12とを具えたものである。また、上ヒートローラ3と下ヒートローラ4とに対応する点灯優先度を温度制御部10に記憶させている。」(段落【0009】)
エ.「点灯優先度はトナーを直接加熱する上ヒートローラ3が下ヒートローラ4より高いものとしてある。」(段落【0011】)
オ.「CPU11は、温度制御部10に上ヒータ5と下ヒータ6とを同時に点灯させることを禁止させて、いずれか一方のヒータの点灯を許可し」(段落【0012】)
カ.「第2実施形態は第1実施形態において、第3目標温度の設定を行わないようにしたものである。」(段落【0017】)
キ.「ヒータ5,6のオン、オフを制御するタイミングチャート(図6)、及び動作フロー図(図7,8)にそれぞれ示すようであって、上ヒートローラ温度と下ヒートローラ温度とが第1目標温度を下回った場合(ステップ7-3,7-4)、優先度の高い上ヒートローラ3の第1目標温度を変更して、第2目標温度に設定し(ステップ7-5)、温度制御部10は上ヒートローラ温度が第1目標温度以上になるように上ヒータオン、下ヒータオフの要求をヒータ制御部12に出力して(ステップ7-7,7-8)、上ヒータ5をオンして発熱させる。」(段落【0018】)
ク.「上ヒートローラ温度>第1目標温度になったら(ステップ7-3 NO)、目標温度設定手段9が第2目標温度を変更して、第1目標温度に設定し直して(ステップ8-3,8-8)、その設定値が入力された温度制御部10は、上ヒートローラ3の温度が第1目標温度以下になるように、上ヒータオフ要求(ステップ8-4)と、下ヒータオン要求(ステップ8-5)とをヒータ制御部14に出力して、下ヒートローラ4の温度が第1目標温度になるように下ヒータ6をオンして発熱させる。」(段落【0019】)
ケ.「下ヒートローラ4の温度が第1目標温度に達したら(ステップ7-4 NO)、温度制御部10は、上ヒートローラ温度<第1目標温度ならば上ヒータオン要求(ステップ7-12)と下ヒータオフ要求(ステップ7-13)とをヒータ制御部12に出力して上ヒータ5をオンし、下ヒータ6をオフする。このように上ヒータ5をオンさせることで優先度の高い上ヒートローラ3の温度を安定し、良好な定着が可能になる。この時、上ヒートローラ温度≧第1目標温度ならば、下ヒータオフ要求のみをヒータ制御部12に出力する。」(段落【0020】)
コ.「もし、下ヒートローラ温度が目標温度に達する前に、上ヒートローラ温度<第1目標温度になった場合、目標温度設定手段9が第1目標温度を第2目標温度に再度変更し、その設定値が入力された温度制御部10は、上ヒータオン要求と下ヒータオフ要求をヒータ制御部12に出力する。」(段落【0021】)
サ.「第3実施形態は、第1実施形態において、目標温度設定手段9を除去し、予めヒータ5,6の適当な点灯比率を図9に示すように設定して温度制御部10に記憶させておき、露光ランプ20がオンされている時、上ヒートローラ3と下ヒートローラ4との温度が定着可能の第1目標温度を下回った際、露光ランプ20のオン信号と、第1温度検出手段7で検出した上ヒートローラ温度と、第2温度検出手段8で検出した下ヒートローラ温度と、設定されたヒータ5,6の点灯許可時間とに対応して温度制御部10が前記点灯許可時間に従って上ヒータ5の点灯を許可する要求信号、または下ヒータ6の点灯を許可する要求信号とを交互に出力し、ヒータ制御部12を介して上下ヒータ5,6のオン、オフを交互に行わせるものである。」(段落【0023】)
シ.「このようなものにおけるヒータ5,6のオン、オフのタイミングチャート(図9)、及び動作フロー図(図10〜13)にそれぞれ示すようであって、露光ランプ20がオンされている時(ステップ10-2)、上ヒートローラ3と下ヒートローラ4との温度が第1目標温度を下回った場合(ステップ10-3,10-4)、CPU11の割り込み機能を使用するか、またはCPU11のタイマーを使用して、定められた時間が経過する毎に、温度制御部10が上ヒータオン要求(ステップ10-6)と下ヒータオフ要求(ステップ10-7)とを、または上ヒータオフ要求(ステップ11-3)と下ヒータオン要求(ステップ11-4)とをヒータ制御部12に出力して前記のように設定された時間間隔をもって上ヒータ5のオン(またはオフ)と、下ヒータ6オフ(またはオン)とを交互に行って、上ヒートローラ3の温度と下ヒートローラ4の温度とを所望の第1目標温度に近づけて維持することが可能になり、定着の安定化とともに、露光ランプ20の光量安定化と省電力化をはかることができる。」(段落【0024】)

3.引用例記載の発明の認定
(1)引用例の第3実施形態に基づく発明の認定
引用例の第3実施形態では、それぞれのヒータには点灯許可時間が定められており、一方のヒータが点灯許可とされている期間、他方のヒータが点灯禁止状態にあることは明らかである。
したがって、引用例の第3実施形態の画像形成装置(【請求項3】記載の発明の実施例と認める。)を用いた上ヒートローラ及び下ヒートローラの加熱制御方法は次のようなものと認めることができる。
「上ヒータを有する上ヒートローラ及び下ヒータを有する下ヒートローラを備えた画像形成装置の、上ヒートローラ及び下ヒートローラの各ヒータに対する加熱制御方法であって、
各ヒータに対して点灯許可時間を定め、
各ヒートローラの検出温度が目標温度を下回った場合に、上ヒータに対する点灯許可時間の間、上ヒータをオンかつ下ヒータをオフとし、その後下ヒータに対する点灯許可時間の間、下ヒータをオンかつ上ヒータをオフとすることを交互に行う加熱制御方法。」(以下「引用発明1」という。)

(2)引用例の第2実施形態に基づく発明の認定
引用例の記載キ,クにおいて、「上ヒートローラ温度が第1目標温度以上になるように」及び「上ヒートローラ温度>第1目標温度になったら」とあるけれども、その前段階で「優先度の高い上ヒートローラ3の第1目標温度を変更して、第2目標温度に設定し(ステップ7-5)」(記載キ)ているのだから、実際には上記記載中、上ヒートローラ温度と比較されるのは第2目標温度である。
そうすると、第2実施形態においては、優先度の高い上ヒートローラが第1目標温度を下回れば上ヒータがオンされ、第2目標温度を上回れば上ヒータがオフされ、上ヒートローラが第2目標温度に達した後、上ヒータがオフされている期間に、下ヒートローラが第1目標温度を下回るか上回るかに応じて、下ヒータがオン又はオフされるものである。
したがって、引用例の第2実施形態の両ヒータに対する加熱制御装置は次のようなものと認めることができる。
「画像形成装置の上ヒートローラ及び下ヒートローラの加熱制御装置であって、
上ヒートローラは上ヒータを、下ヒートローラは下ヒータをそれぞれ有し、
各ヒートローラには各ヒートローラの表面温度を検出する温度検出手段が備わっており、
第1目標温度及びそれよりも高い第2目標温度が設定され、
上ヒートローラが第1目標温度を下回れば下ヒータをオフ、上ヒータをオンとし、上ヒートローラが第2目標温度を上回れば上ヒータがオフされ、上ヒートローラが第2目標温度に達した後、上ヒータがオフされている期間に、下ヒートローラが第1目標温度を下回るか上回るかに応じて、下ヒータがオン又はオフされるように制御する加熱制御装置。」(以下「引用発明2」という。)

4.本件発明1と引用発明1との対比
特許明細書には「発熱部を成す熱源の数及びその熱供給対象体は印刷機の印刷方法によって異なる場合がある。例えば、現像剤として固体状態のトナーのみを使用する乾式印刷機の場合には転写ローラと定着ローラ加熱用ヒーターだけで発熱部が構成されうる。少なくとも2つ以上の熱源を採用する印刷機に対して本発明の電力供給制御方法及びその装置が適用され」(段落【0013】)との記載があるから、本件発明1の「多数の熱源」については、その数が2のものを含む。そして、引用発明1の「上ヒートローラ及び下ヒートローラ」は熱源たる「上ヒータ」及び「下ヒータ」を有する発熱部といえる。
引用発明1の熱源は「上ヒータ」及び「下ヒータ」の2つであり、熱源数が2の場合、その一方は「印刷作業時最大の電力を要求する所定の熱源」(引用発明1の「画像形成装置」は本件発明1の「印刷機」に相当するから、「印刷作業時」との限定は問題にならない。)といえ、それは本件発明1の「第1群」に相当し、他方のヒータは本件発明1の「第2群」に相当する(「第1群に属しない残りの熱源の全部またはその一部」とあるうちの「全部」に当たる。)。本件発明1は、「第1群に定め、・・・第2群に定める段階」を構成要件としているが、熱源数が2の場合は、2つの熱源を区別することが「段階」に相当し、その構成は引用発明1も備えている。
仮に、「印刷作業時最大の電力を要求する」との意味が、「所定の熱源」が他のどの熱源よりも大きな電力を要求するとの意味(最大の電力を要求する熱源が1つに限られる)であるとすると、熱源数が2であっても、そのことだけでは一方の熱源が「印刷作業時最大の電力を要求する所定の熱源」であることにはならない。しかし、引用例の第3実施形態のヒータ点灯タイミングチャート図である【図9】では、上ヒータの点灯許可時間が下ヒータのそれよりも長くなっており、上ヒータと下ヒータの印刷作業時の電力に差をつけ、上ヒータの電力を下ヒータの電力よりも大きくしておくことは設計事項に属する。そのことも考慮し、以下では引用発明1の「上ヒータ」が本件発明1の「第1群」に相当するものとして議論をすすめる。
引用発明1が「電源供給装置と、前記電源供給装置から前記発熱部への電力供給を制御する電力供給制御部とを備える印刷機の熱源に対する電力供給制御方法」であることはいうまでもない。
引用発明1において、上ヒータの点灯許可時間においては、下ヒータには電力が投入されず、上ヒータだけに電力供給され、その電力供給は上ヒータの温度制御のためにされるのだから、上ヒータの点灯許可時間は本件発明1の「所定の第1時間」に相当し、かかる時間を準備することは、本件発明1の「所定の第1時間の間前記第2群に属する熱源への電力投入を遮断しながら、前記第1群に属する熱源の温度制御のために前記第1群に属する熱源への電力供給を制御する段階」と異ならない。
同様に、引用発明1の下ヒータの点灯許可時間は本件発明1の「所定の第2時間」に相当し、かかる時間を準備することは、本件発明1の「所定の第2時間の間前記第1群に属する熱源への電力投入を遮断しながら、前記第2群に属する熱源の温度制御のために前記第2群に属する熱源への電力供給を制御する段階」と異ならない。
引用発明1において、「上ヒータに対する点灯許可時間の間、上ヒータをオンかつ下ヒータをオフとし、その後下ヒータに対する点灯許可時間の間、下ヒータをオンかつ上ヒータをオフとすることを交互に行う」ことと、本件発明1において「前記(二)段階と前記(三)段階を少なくとも1回以上繰り返す段階とを含むこと」に相違はない。
したがって、本件発明1と引用発明1とは、
「多数の熱源を有する発熱部と、電源供給装置と、前記電源供給装置から前記発熱部への電力供給を制御する電力供給制御部とを備える印刷機の熱源に対する電力供給制御方法において、
(一) 前記発熱部に属する多数の熱源のうち印刷作業時最大の電力を要求するを第1群に定め、前記発熱部を構成する熱源中前記第1群に属しない残りの熱源の全部またはその一部を第2群に定める段階と、
(二) 所定の第1時間の間前記第2群に属する熱源への電力投入を遮断しながら、前記第1群に属する熱源の温度制御のために前記第1群に属する熱源への電力供給を制御する段階と、
(三) 前記第1時間が過ぎると、所定の第2時間の間前記第1群に属する熱源への電力投入を遮断し、前記第2群に属する熱源の温度制御のために前記第2群に属する熱源への電力供給を制御する段階と、
(四) 前記(二)段階と前記(三)段階を少なくとも1回以上繰り返す段階とを含むことを特徴とする印刷機の熱源に対する電力供給制御方法。」である点で一致し、両者に相違点はない。仮に、上記のとおり「第1群」を「多数の熱源のうち印刷作業時最大の電力を要求する」かどうかが相違点になるとしても、設計事項程度の微差であり、進歩性を左右するほどのものではない。
すなわち、本件発明1は引用発明1と実質的に同一であり、特許法29条1項3号に該当するか、引用発明1に基づいて当業者が容易に発明できたものであるから、請求項1に係る特許は特許法29条1項又は2項の規定に違反してされた特許である。

5.本件発明5と引用発明2との対比
本件発明5の「多数の熱源」の数が2の場合を含むことは、4.で述べたと同様であり、引用発明2の「上ヒータ」及び「下ヒータ」が本件発明5の「多数の熱源」に、並びに「上ヒートローラ及び下ヒートローラ」が「発熱部」及び「熱供給対象体」にそれぞれ相当する。
引用発明2の「温度検出手段」は本件発明5の「前記熱源の各々に対応される熱供給対象体に対する発熱温度を感知してそれに対応する信号を出力する感熱センサー」に相当し、当然引用発明2においては「前記熱源と対をなす前記感熱センサーの出力信号を判読して」いる。
4.で述べたと同様に、引用発明1の「上ヒータ」及び「下ヒータ」の一方が本件発明5の「第1群」に、他方が「第2群」にそれぞれ相当し、以下では4.同様「上ヒータ」が「第1群」に相当するものとして議論をすすめる。「第1群」についての「印刷作業時最大の電力を要求する所定の熱源」との限定が相違点となりうるとしても、設計事項程度の微差であることも、4.で述べたと同様である。
引用発明2が「電源供給装置」及び「前記電源供給装置から前記熱源の各々への電力を供給及び遮断できるように設けられた多数のスイッチ素子を有するスイッチ部」を有することは自明である(ここでも「多数」は2でよく、引用発明2において各ヒータがオンオフ制御される以上、スイッチ素子は不可欠であり、「スイッチ部」とはスイッチ素子を配した部のことであるから、引用例【図2】の符番12で示される「ヒータ制御部」がこれに当たる。)。
引用発明2において、上ヒータは「第1の目標温度」を上回り「第2の目標温度」を下回るように制御されており、下ヒータは「第1の目標温度」近傍となるように制御されているといえ、このことと本件発明5でいう「前記熱供給対象体の発熱温度が各々設定された温度範囲内で維持されうるように前記スイッチ部を制御」とに実質的相違はない。仮に、「各々設定された温度範囲内」との用語が、第1群・第2群ともに、温度の上限値・下限値を上限値>下限値となるように設定することを意味するのだとすると、引用発明2では上限値=下限値となる(下ヒータについて)ように設定されている点で相違点となる。
引用発明2においては、上ヒータと下ヒータが同時にオンされることはないから、引用発明2は、本件発明5の「前記第1群と前記第2群の両方に同時に電力が投入される期間が発生しないように前記各熱源相互間の電力投入オン時期を調整する電力供給制御部」を備えるといえる。
そして、引用発明2の「画像形成装置」及び「加熱制御装置」は、それぞれ本件発明5の「印刷機」及び「電力供給制御装置」に相当する。
したがって、本件発明5と引用発明2は、
「多数の熱源を有する発熱部と、
電源供給装置と、
前記電源供給装置から前記熱源の各々への電力を供給及び遮断できるように設けられた多数のスイッチ素子を有するスイッチ部と、
前記熱源の各々に対応される熱供給対象体に対する発熱温度を感知してそれに対応する信号を出力する感熱センサーと、
前記熱源と対をなす前記感熱センサーの出力信号を判読して、前記熱供給対象体の発熱温度が各々設定された温度範囲内で維持されうるように前記スイッチ部を制御し、前記発熱部に属する多数の熱源のうち印刷作業時最大の電力を要求する所定の熱源を第1群に定め、前記発熱部を構成する熱源中前記第1群に属しない残りの熱源の全部またはその一部を第2群に定め、前記第1群と前記第2群の両方に同時に電力が投入される期間が発生しないように前記各熱源相互間の電力投入オン時期を調整する電力供給制御部とを備えることを特徴とする印刷機の熱源に対する電力供給制御装置。」である点で一致し、両者に相違点は存在しない。
4.で述べたと同様に、「第1群」を「多数の熱源のうち印刷作業時最大の電力を要求する」かどうかが相違点になるとしても、設計事項程度の微差であり、進歩性を左右するほどのものではない。
また、第2群について「設定された温度範囲内で維持されうるように前記スイッチ部を制御」することが、上限値と下限値を異ならせる趣旨であると解すると、引用発明2においては、下ヒートローラに対しては上限値と下限値を異ならせていない点が相違点となる。しかし、引用発明2において、上ヒートローラ同様に下ヒートローラに対しても、下ヒータを加熱した際の上限温度を「第1目標温度」よりもやや高い温度に設定して不都合な理由はない。なぜなら、そのやや高い温度に達する前に、優先度の高い上ヒートローラ温度が第1目標温度を下回った場合、「上ヒータオン要求と下ヒータオフ要求をヒータ制御部12に出力する」(記載コ)ため、上限温度を高めにしても優先度の高い上ヒータローラの温度制御に支障を来すことはないからである。すなわち、上記相違点があるとしても、当業者にとって想到容易な相違点でしかない。
以上によれば、本件発明5は引用発明2と同一であるか、仮にそうでないとしても、引用発明2に基づいて当業者が容易に発明できたものであるから、請求項5に係る特許は、特許法29条1項又は2項の規定に違反してされた特許である。

6.本件発明6と引用発明2との対比
本件発明6は本件発明5の「電力供給制御部」を限定した発明である。
引用発明2の「第2目標温度」は上ヒートローラに対しての「上限値目標温度」であり、「第1目標温度」は上ヒートローラに対しての「下限値目標温度」であるとともに、下ヒートローラに対しての「上限値目標温度」及び「下限値目標温度」であり、引用発明2において「前記各熱源と対を成す感熱センサーの出力信号から前記熱供給対象体の表面温度が各々設定された上限値目標温度になると前記熱源への電力遮断を要求する第1信号を出力」していることは明らかである。また、引用発明2では、上ヒートローラの表面温度が設定された下限値目標温度(第1目標温度)になると電力供給を要求する第2信号を上ヒータに対して出力しているとはいえるが、下ヒートローラの表面温度が設定された下限値目標温度(第1目標温度)になっても、上ヒータがオンの状態であれば、下ヒータへの電力供給を要求する第2信号が出力されているとはいえず、上ヒータがオフの状態のみ、下ヒータへの電力供給を要求する第2信号が出力されているといえる。
したがって、本件発明5についての対比に加えて、本件発明6と引用発明2とは、
「前記電力供給制御部は、
前記各熱源と対を成す感熱センサーの出力信号から前記熱供給対象体の表面温度が各々設定された上限値目標温度になると前記熱源への電力遮断を要求する第1信号を出力し、第1群の前記熱供給対象体の表面温度が設定された下限値目標温度になると、電力供給を要求する第2信号を第1群に対応して備えられた出力チャンネルを通じて出力する温度制御部を備える」点でさらに一致するものの、次の点で相違する。
〈相違点〉本件発明6の「温度制御部」は、第2群の前記熱供給対象体の表面温度が設定された下限値目標温度になった場合も、電力供給を要求する第2信号を第2群に対応して備えられた出力チャンネルを通じて出力するものであり、本件発明6はさらに「前記温度制御部の出力チャンネルを通じて出力される信号が入力され、入力された信号が全て前記第2信号であれば、内部的に設定された信号変換方法により入力された第2信号の中から一部を第1信号に変更して前記スイッチ部に出力する信号調整部とを備えるのに対し、引用発明2の「温度制御部」は、下ヒートローラの表面温度が設定された下限値目標温度(第1目標温度)になった場合、上ヒータがオフの状態(第2信号を出力していない状態)のみ、下ヒータへの電力供給を要求する第2信号をスイッチ部に出力する点。(なお、この認定は、引用発明2の「上ヒータ」が「第1群」に相当するとした場合の認定であり、逆に「下ヒータ」が「第1群」に相当する場合は、上記追加した一致点及び相違点における「第1群」と「第2群」を入れ換えることになるが、後記相違点の判断には影響しない。)

7.上記相違点についての判断及び本件発明6の進歩性の判断
本件発明6と引用発明2は上記相違点を有するものの、すべての熱供給対象体の表面温度が各々設定された下限値目標温度になった場合に、第1群及び第2群すべてに電力供給がされるようにスイッチ部が制御されるのではなく、そのうちの一部(引用発明2では下ヒータ)は、電力遮断を要求する信号が出力されたかのようにスイッチ部が制御される点では異ならない。
要するに、本件発明6では、すべての熱供給対象体を加熱すべきかどうかの信号を「温度制御部」から「信号調整部」に一旦供給し、「信号調整部」において、すべての熱供給対象体に対する信号が加熱すべき第2信号である場合、そのうちの一部を遮断すべき第1信号に変換しているのであるが、引用発明2では、上ヒートローラに対する信号が第1信号であるのか第2信号であるのかを優先判断事項とし、それが第2信号である場合には、下ヒートローラに対する信号が第1信号であるのか第2信号であるのか判断していないだけのことである。
そして、同時には実行できない複数の要求が競合した場合に、すべての要求を受け付けた後、優先度に従って一部の要求のみ実行することは周知であり(例えば、特開昭64-35568号公報、特開平2-79148号公報、特開平3-102441号公報、特開平3-171362号公報、特開平4-346140号公報又は特開平7-281942号公報参照。)、この周知技術を引用発明2に採用することに困難性がないこと、及びそうすれば相違点に係る本件発明6の構成に至る(例えば、前掲特開平2-79148号公報第3図において、A0及びA1がハイレベル(本件発明6の「第2信号」相当)である場合、出力B0はハイレベルであるが、B1はローレベルに変更されている。)ことは明らかである。
また、この相違点に係る構成を採用したことによる格別の作用効果を認めることもできない。
したがって、本件発明6は引用発明2及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明できたものであるから、請求項6に係る特許は特許法29条2項の規定に違反してされた特許である。

第4 むすび
以上述べたとおり、請求項1,5及び6に係る特許は特許法29条1項又は2項の規定に違反してされた特許であるから、平成15年改正前特許法113条2号の規定に該当するものとして取り消されなければならない。
よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2004-08-10 
出願番号 特願平11-220973
審決分類 P 1 652・ 113- ZB (B41J)
P 1 652・ 121- ZB (B41J)
最終処分 取消  
前審関与審査官 名取 乾治  
特許庁審判長 小沢 和英
特許庁審判官 清水 康司
津田 俊明
登録日 2000-07-14 
登録番号 特許第3088421号(P3088421)
権利者 三星電子株式会社
発明の名称 印刷機の熱源に対する電力供給制御方法及びその電力供給制御装置  
代理人 伊東 忠彦  

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