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審決分類 審判 全部無効 特36 条4項詳細な説明の記載不備 訂正を認める。無効とする(申立て全部成立) C12N
審判 全部無効 4項(5項) 請求の範囲の記載不備 訂正を認める。無効とする(申立て全部成立) C12N
管理番号 1110377
審判番号 無効2001-35427  
総通号数 63 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 1989-06-29 
種別 無効の審決 
審判請求日 2001-10-01 
確定日 2004-11-12 
訂正明細書 有 
事件の表示 上記当事者間の特許第2728275号発明「免疫活性ポリペプチド及びその製法」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 訂正を認める。 特許第2728275号の請求項1〜7に係る発明についての特許を無効とする。 審判費用は、被請求人の負担とする。 
理由 I.手続の経緯
(1)本件特許第2728275号の請求項1〜7に係る発明についての出願は、昭和63年11月2日(パリ条約による優先権主張1987年11月2日、イタリア)に出願され、平成9年12月12日にその発明について特許権の設定登録がなされ、この特許に対して、平成13年10月1日付けで、アヴェンティス パスツール リミテッドより特許無効審判が請求され、延長された答弁期間内である平成14年5月21日付で被請求人より答弁書並びに訂正請求書が提出され、平成14年7月25日に口頭審理を行って事件の争点整理をした後、平成14年9月17日付で、請求人から弁駁書が、また、被請求人から上申書が、それぞれ提出され、これについて当審は平成15年9月17日付で両当事者に無効理由を通知し、これに対し被請求人より平成16年3月22日付で意見書が提出されたものである。

II.訂正の適否
1.訂正の内容
被請求人は本件特許明細書を訂正請求書に添付した訂正明細書のとおり訂正することを求めているところ、その内容は以下のとおりである。
ア.特許請求の範囲の請求項1「【請求項1】 抗百日咳ワクチンの調製に使用される毒性のない又は毒性が低減された免疫活性ポリペプチドであって、該免疫活性ポリペプチドは、アミノ酸1から180までのS1領域における1又はそれ以上の位置で、アミノ酸を、免疫特性を変質させることなくS1の毒性を破壊又は低減させ得る他のアミノ酸で直接変異誘発置換することによって変性せしめた百日咳毒素のサブユニットS1を含有し、ここで、少なくとも129位グルタミン酸が他のアミノ酸に置換される、免疫活性ポリペプチド。」を、
「【請求項1】 抗百日咳ワクチンの調製に使用される毒性のない又は毒性が低減された免疫活性ポリペプチドであって、該免疫活性ポリペプチドは、アミノ酸1から180までのS1領域における1又はそれ以上の位置で、アミノ酸を、免疫特性を変質させることなくS1の毒性を破壊又は低減させ得る他のアミノ酸で直接変異誘発置換することによって変性せしめた百日咳毒素のサブユニットS1を含有し、ここで、少なくとも129位グルタミン酸がグリシンに置換され、該免疫活性ポリペプチドはさらに、百日咳毒素のサブユニットS2、S3、S4及びS5を、天然の百日咳毒素に存在するものと同じ配列で含有する、免疫活性ポリペプチド。」と訂正する。
イ.特許請求の範囲の請求項2〜4を削除する。
ウ.特許請求の範囲の請求項5「【請求項5】請求項1に記載のポリペプチドの製法において、
a)DNA分子の1又はそれ以上の位置において、129位グルタミン酸をコードづけする塩基配列を異なるアミノ酸をコードづけする塩基配列で置換することによって抗百日咳毒素のサブユニットS1をコードづけする遺伝子を直接変異誘発により変性させ、
b)該変性サブユニットS1をコードづけする遺伝子を含有するDNAフラグメントをクローニングベクターに結合させてハイブリッドプラスミドを構成し、
c)前記工程b)で得られたハイブリッドプラスミドによって宿主微生物を形質転換させ、
d)炭素源、窒素源及び無機塩の存在下、適切な培地中で形質転換微生物を培養し、
e)培地又は菌体から、変性サブユニットS1を含有するポリペプチドを採集すること、
を特徴とする、免疫活性ポリペプチドの製法。」を、
「【請求項2】請求項1に記載のポリペプチドの製法において、
a)129位グルタミン酸をコードづけする塩基配列をグリシンをコードづけする塩基配列で置換するように前記百日咳毒素のサブユニットS1をコードづけする遺伝子を直接変異誘発することにより変性させる工程、
b)該変性サブユニットS1をコードづけする遺伝子を含有するDNAフラグメントをクローニングベクターに結合させてハイブリッドプラスミドを構成する工程であって、該フラグメントは、百日咳毒素オペロン内に該百日咳毒素のサブユニットS2、S3、S4及びS5をコードする遺伝子をさらに含有する、工程、
c)前記工程b)で得られたハイブリッドプラスミドによって宿主微生物を形質転換させる工程、
d)炭素源、窒素源及び無機塩の存在下、適切な培地中で形質転換微生物を培養する工程、
e)培地又は菌体から、変性サブユニットS1を含有するポリペプチドを採集する工程、
を特徴とする、免疫活性ポリペプチドの製法。」と訂正する。
エ.特許請求の範囲の請求項6〜8を削除する。
オ.特許請求の範囲の請求項9「【請求項9】 請求項5に記載の製法において、前記工程c)で使用する微生物が、大腸菌、桿菌及び酵母でなる群から選ばれるものである、免疫活性ポリペプチドの製法。」を、
「【請求項3】 請求項2に記載の製法において、前記工程c)で使用する微生物が、桿菌及び酵母でなる群から選ばれるものである、免疫活性ポリペプチドの製法。」と訂正する。
カ.特許請求の範囲の請求項10を削除する。
キ.特許請求の範囲の請求項11「【請求項11】 形質転換微生物E.coli K12-△H1-△trp(PTE 255-22)ATCC 67542,E.coli K12-△H1-△trp(PTE 255-28)ATCC 67543,E.coli K12-△H1-△trp(PTE 255-41)ATCC 67544。」を、
「【請求項4】 形質転換微生物E.coli K12-△H1-△trp(PTE 255-28)ATCC 67543。」と訂正する。
ク.特許請求の範囲の請求項12「【請求項12】 請求項1から4のいずれかに記載の免疫活性ポリペプチドをコードづけする遺伝子。」を、
「【請求項5】 抗百日咳ワクチンの調製に使用される毒性のない又は毒性が低減された免疫活性ポリペプチドをコードづけする遺伝子であって、該免疫活性ポリペプチドは、アミノ酸1から180までのS1領域における1又はそれ以上の位置で、アミノ酸を、免疫特性を変質させることなくS1の毒性を破壊又は低減させ得る他のアミノ酸で直接変異誘発置換することによって変性せしめた百日咳毒素のサブユニットS1を含有し、ここで、少なくとも129位グルタミン酸がグリシンに置換される、免疫活性ポリペプチドをコードづけする遺伝子。」と訂正する。
ケ.特許請求の範囲の請求項13「【請求項13】 請求項12に記載の遺伝子を含むハイブリッドプラスミド。」を、
「【請求項6】 請求項5に記載の遺伝子を含み、さらに、百日咳毒素オペロン内に該百日咳毒素のサブユニットS2、S3、S4及びS5をコードづけする遺伝子を含有する、ハイブリッドプラスミド。」と訂正する。
コ.特許請求の範囲の請求項14「【請求項14】 請求項13に記載のハイブリッドプラスミドで形質転換された微生物。」を、
「【請求項7】 請求項6に記載のハイブリッドプラスミドで形質転換された微生物。」と訂正する。
サ.特許掲載公報第6欄第13〜14行および第10欄第3行の「抗百日咳毒素」を「百日咳毒素」と訂正する。
(下線部は上記訂正請求により訂正される個所を示す。)

2.訂正の目的の適否、新規事項の有無及び拡張・変更の存否
上記アの訂正事項に関連する記載として、本件訂正前の願書に添付した明細書(以下、「特許明細書」という。)の特許請求の範囲の請求項4に、「請求項1に記載のポリペプチドにおいて、S1領域の129位グルタミン酸がグリシンで置換されてなる、免疫活性ポリペプチド。」と、同請求項2に、「請求項1に記載のポリペプチドにおいて、百日咳毒素のサブユニットS2,S3,S4およびS5の少なくとも1つをさらに含有してなる、免疫活性ポリペプチド。」と、また同請求項3に、「請求項2に記載のポリペプチドにおいて、前記サブユニットS2,S3,S4およびS5が天然の百日咳毒素に存在するものと同じ配列を有するものである、免疫活性ポリペプチド。」と記載され、発明の詳細な説明には、「…このような変性サブユニットを含有するポリペプチドは抗百日咳ワクチンの調製に適している。変性サブユニットS1に加えてPTサブユニットS2,S3,S4およびS5の少なくとも1つを含有するポリペプチドが好適である。特に、抗百日咳毒素によって示されるものと同じ配列および配置を有するサブユニットS2,S3,S4およびS5を有するポリペプチドが好適である。」(特許掲載公報9欄48行〜10欄5行)と記載されている。
してみると、上記アの訂正は、特許明細書に記載された事項の範囲内において、請求項1の構成要件である「他のアミノ酸」を「グリシン」に限定するとともに、所定の変性サブユニットS1を含有する「免疫活性ポリペプチド」を更に「サブユニットS2,S3,S4およびS5を天然の百日咳毒素に存在するものと同じ配列で含有する」ものに限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮に該当するものであって、また、新規事項を追加するものではない。
ウの訂正は、訂正前の請求項5の構成要件である(i)129位の「異なるアミノ酸」を「グリシン」に限定し、(ii)「抗百日咳毒素」を「百日咳毒素」に訂正し、(iii)「変性サブユニットS1をコードづけする遺伝子を含有するDNAフラグメント」が「百日咳オペロン内に百日咳毒素のサブユニットS2,S3,S4およびS5をコードする遺伝子をさらに含有する」ものであることを限定するものであるところ、(i)は、上記アで述べたとおり、特許明細書に記載された範囲内の事項であり、(ii)については、「抗百日咳毒素」が「百日咳毒素」の誤りであることは明らかであり、また、(iii)については、特許明細書の特許請求の範囲の請求項6に、「請求項5に記載の製法において、前記工程(a)で使用するサブユニットS1をコードづけする遺伝子が百日咳毒素オペロン内に含有されたものである、免疫活性ポリペプチドの製法。」と、同請求項7に、「請求項5に記載の製法において、前記工程(b)で使用するDNAフラグメントが、百日咳毒素サブユニットS2,S3,S4又はS5をコードづけする少なくとも1つの遺伝子をさらに含有するものである、免疫活性ポリペプチドの製法。」と、また同請求項8に、「請求項7に記載の製法において、前記遺伝子が百日咳毒素をコードづけするオペロンに分類されるものである、免疫活性ポリペプチドの製法。」と記載され、発明の詳細な説明には、「このような好適なポリペプチドは、PTオペロン内に含有されるS1をコードづけする遺伝子を変性させ、変性サブユニットS1及びサブユニットS2,S3,S4及びS5の1又はそれ以上を含有するポリペプチドをコードづけするプラスミドを構成せしめることによって調製される。」(特許掲載公報10欄6〜11行)と記載されているから、(i)と同様に、特許明細書に記載された範囲内の事項と認められる。
してみると、上記ウの訂正は、特許請求の範囲の減縮ならびに誤記の訂正に該当するものであって、新規事項を追加するものではない。
オの訂正は、訂正前の請求項9の構成要件である、形質転換工程で使用する微生物を、「大腸菌、桿菌及び酵母でなる群から選ばれるもの」から「桿菌及び酵母でなる群から選ばれるもの」に限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮に該当するものであって、新規事項を追加するものではない。
キの訂正は、訂正前の請求項11の構成要件である、3種の形質転換微生物を、「E.coli K12-△H1-△trp(PTE 255-28)ATCC 67543。」1種のみに限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮に該当するものであって、新規事項を追加するものではない。
クの訂正は、訂正前の請求項12における「請求項1に記載の免疫活性ポリペプチドをコードづけする遺伝子」の構成要件である請求項1の「他のアミノ酸」を「グリシン」に限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮に該当するものであり、また、アの訂正と同様に、特許明細書に記載された事項の範囲内においてなされたものであって、新規事項を追加するものではない。
ケの訂正は、訂正前の請求項13の構成要件である「請求項12に記載の遺伝子を含むハイブリッドプラスミド」が「さらに、百日咳毒素オペロン内に該百日咳毒素のサブユニットS2、S3、S4及びS5をコードづけする遺伝子を含有する」ことを限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮に該当するものであり、また、ウの訂正と同様に、特許明細書に記載された事項の範囲内においてなされたものであって、新規事項を追加するものではない。
そして、イ、エおよびカの訂正は、特許請求の範囲の請求項を削除するものであるから、特許請求の範囲の減縮に該当するものであって、新規事項を追加するものではない。
また、オ、ケおよびコの引用請求項の番号を変更する訂正は、上記請求項の削除によって生じる記載の不備を正すものであるから、明瞭でない記載の釈明に該当するものであって、新規事項を追加するものではない。
更に、サの訂正は、誤記の訂正に該当するものであって、新規事項を追加するものではない。
そして、上記いずれの訂正も実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。

3.むすび
以上のとおりであるから、上記訂正は、特許法第134条第2項及び同条第5項において準用する第126条第2項及び第3項の規定に適合するので、当該訂正を認める。

III.当事者の主張の概要
1.請求人の主張の概要
請求人は、訂正前の本件特許の請求項1〜14に係る各発明に対する特許について、「これらの特許を無効とする。審判費用は、被請求人の負担とする。」との審決を求め、証拠方法として下記の甲第1号証ないし甲第6号証及び参考資料1を提出して、その理由を、概略、次のとおり主張している。
本件特許の請求項1〜14に係る特許発明に関し、当該特許出願の明細書の記載は、昭和62年改正特許法第36条第3項又は第4項(第2号を除く。)及び第5項に規定する要件を満たしておらず、当該請求項1〜14に係る発明の特許は、特許法第123条第1項第4号に該当し、無効とすべきである。

甲第1号証:Rappuoli,R及びSilvestri,S.,Chimicaoggi,5月(maggio)p.46-48(1997)(Rino Rappuoli and Sergio Silvestri,Chimicaoggi-maggio 1987,p.46-48)
甲第2号証:W.J.Black et al.Ann.Sclavo,1986,n.1-2,pp.175-182
甲第3号証:Camille Locht and Jerry M.Keith,Science Vol.232:p.1258-1264(1986)
甲第4号証:A.Nicosia et al,Proc.Natl.Acad.Sci.USA Vol.83,pp.4631-4635,July 1986
甲第5号証:Mariagrazia Pizza,Antonella Bartoloni,Anna Prugnola,Sergio Silvestri,and Rino Rappuoli,Proc.Natl.Acad.Sci.USA Vol.85,pp.7521-7525,October 1988
甲第6号証:A.Nicosia,A.Bartoloni,M.Pergini,and R.Rappuoli,Infection and Immunity,Vol.55,No.4,p.963-967,April 1987
参考資料1:Rappuoli et al.,TIBTECH,July 1991,Vol.9,p.232-237

2.被請求人の主張の概要
被請求人は、本件特許明細書について上述のとおり訂正を請求するとともに、「本件審判は成り立たない。審判費用は、請求人の負担とする。」との審決を求め、証拠方法として下記の乙第1号証ないし乙第15号証を提出している。

乙第1号証:Stibitz et al.,Gene 50:133-140(1986)
乙第2号証:Loosemore et al.,Infection and Immunity(1990)58(11):3653-3662
乙第3号証:Rappuoli,R et al.Chemicaoggi-maggio 1987,p.46-48(請求人の提出した甲第1号証)
乙第4号証:Black,W.J.et al.,Ann.Sclavo,1986,n.1-2,pp.175-182(請求人の提出した甲第2号証)
乙第5号証:Nicosia,A.et al.,Infect. and Immun.,55,963-967,April 1987(請求人の提出した甲第6号証)
乙第6号証:Munoz et al.,Infect.Immun.(1981)32,243-260
乙第7号証:Sato&Sato,Infect.Immun.(1984)46:415-421
乙第8号証:Fershi A.,Enzyme Structure and Mechanism 2nd Ed.(1985)323-324,345
乙第9号証:Lau FTら,Biochem 1987(Jun),26,4143-4118
乙第10号証:Hartman FCら,J.Biol.Chem.1987(Mar),262,3496-3501
乙第11号証:Inglis MMら,J.Gen.Virol.,1987(Jan),68,39-46
乙第12号証:Rubino SDら,J.Biol.Chem.1986,261,11320-11327
乙第13号証:Pluh JLら,J.Biol.Chem.1985,260,1889-1894
乙第14号証:Wilkinson AJら,Biochem.,1983,22,3581-3586
乙第15号証:Darnell JEら,Molecular Cell Biology(1986),54-55

IV.当審の判断
1.本件発明
上述のとおり、平成14年5月21日付けの訂正請求は適法なものであるから、本件請求項1〜7に係る発明(以下、それぞれ、本件発明1〜7という。)は、当該訂正請求書に添付した全文訂正明細書の特許請求の範囲の請求項1〜7に記載された、上述のとおりのものである。
そして、この訂正により、本件発明1に「該免疫活性ポリペプチドはさらに、百日咳毒素のサブユニットS2,S3,S4及びS5を、天然の百日咳毒素に存在するものと同じ配列で含有する」という記載が追加された。この記載は、本件特許明細書の「…このような変性サブユニットを含有するポリペプチドは抗百日咳ワクチンの調製に適している。…特に、抗百日咳毒素によって示されるものと同じ配列および配置を有するサブユニットS2,S3,S4およびS5を有するポリペプチドが好適である。」という記載と比べると、サブユニットの配置について記載されていない点で異なる。
しかしながら、被請求人は、答弁書並びに平成14年9月17日付の上申書において、本件発明1における上記記載は、ホロ毒素を意味するものであると釈明しており、このことからみて、本件発明1の免疫活性ポリペプチドは、特許明細書の上記記載と同様に、少なくとも129位のグルタミン酸がグリシンに置換された変性サブユニットS1と、サブユニットS5により結合されたダイマーD1(S2+S4)及びD2(S3+S4)とからなる、変性ホロ毒素を意味するものであると認める。

2.当審が通知した無効理由
(2-1)これについて、当審は、平成15年9月17日付で、両当事者に対し、概略以下のような無効理由を通知した。
[当審の無効理由I.]
本件明細書の発明の詳細な説明は、少なくとも129位のグルタミン酸がグリシンに置換された変性サブユニットS1を含有する変性ホロ毒素を容易に得ることができる程度に記載されているものとはいえない。
従って、本件発明1〜7についての特許は、特許法第36条第3項に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第123条第1項第4号に該当し、無効とすべきものである。
[当審の無効理由II.]
本件明細書の発明の詳細な説明には、少なくとも129位のグルタミン酸がグリシンに置換された変性サブユニットS1を含有する変性ホロ毒素等について実質的に開示されているものと認められない。
従って、本件発明1〜7についての特許は、特許法第36条第4項に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第123条第1項第4号に該当し、無効とすべきものである。

(2-2)これに対し、被請求人は、平成16年3月22日付で意見書を提出した。

3.当審の無効理由Iについての判断
3-1.本件発明1について
(3-1-1)本件発明
訂正後の本件発明1は、「抗百日咳ワクチンの調製に使用される毒性のない又は毒性が低減された免疫活性ポリペプチドであって、該免疫活性ポリペプチドは、アミノ酸1から180までのS1領域における1又はそれ以上の位置で、アミノ酸を、免疫特性を変質させることなくS1の毒性を破壊又は低減させ得る他のアミノ酸で直接変異誘発置換することによって変性せしめた百日咳毒素のサブユニットS1を含有し、ここで、少なくとも129位グルタミン酸がグリシンに置換され、該免疫活性ポリペプチドはさらに、百日咳毒素のサブユニットS2、S3、S4及びS5を、天然の百日咳毒素に存在するものと同じ配列で含有する、免疫活性ポリペプチド。」というものである。
(3-1-2)特許明細書の記載
本件特許明細書には、百日咳毒素について「百日咳毒素(PT)は5つの異なるサブユニットを含有するタンパク質であり、その毒性は、真核生物の細胞膜を介してのメッセージの伝達に関与するGTPと結合するタンパク質のADP-リボシレーションによる。該PTは異なる官能性を有する2つのフラクションを含有する。その1つ(A)はサブユニットS1を含有し、他方(B)は相互にサブユニットS5によって結合された2つのダイマーD1(S2+S4)及びD2(S3+S4)内に位置するサブユニットS2,S3,S4及びS5を含有する。フラクションAは酵素的に活性な部分、すなわちPTの有毒性部分を代表するものであり、一方、フラクションBは真核生物細胞膜リセプターに結合され、その中にサブユニットS1を導入し得る。特開昭62-228286号には、該サブユニットをコードづけする遺伝子のクローニング、シーケンス及び発現が開示されており、この遺伝子が主オペロンに分類されることが記載されている。」(特許掲載公報5欄2〜18行)と記載され、また、サブユニットS1及びその変性体について「…サブユニットS1のADP-リボシレーション活性は、…このサブユニットがPTに匹敵する酵素活性を有することが知られている。従って、百日咳毒素の免疫特性及び保護特性を有するが、無毒性又は毒性が低減されているタンパク質を得るために、該タンパク質の酵素活性に関する位置及び基礎となるアミノ酸を確認した。特に、下記の位置及びアミノ酸であることが判明した:…、129位グルタミン酸、…。これらアミノ酸の1又はそれ以上を異種の各種アミノ酸で置換することにより、異なった毒性のタンパク質が得られることを見出し、本発明に至った。本発明によれば、アミノ酸1から80(注.他の個所の記載からみて180の誤記と認められる。)までのS1領域における1又はそれ以上の部位で、アミノ酸を、免疫特性を変質させることなくその酵素活性を破壊又は低減させ得る他のアミノ酸で直接変異誘発置換することによって変性せしめた百日咳毒素のサブユニットS1を含有するポリペプチドが合成される。」(同5欄19〜41行)と記載され、当該ポリペプチドを合成し活性を調べる具体的な手法について、「S1をコードづけする遺伝子を含有する600塩基対のDNAフラグメントを…直接変異誘発によって変性して、インビトロにおいて、DNA分子の所定部位で変異を生じさせ、該変異の効果をインビトロ又はインビボでテストした。」(同7欄9〜14行)、「28:プライマー…を使用して、グルタミン酸(129)をグリシンに置換させた。」(同8欄38〜39行)、「変性遺伝子を含有するベクターを…発現プラスミドでクローン化した。」(同9欄18〜21行)、「このハイブリッドプラスミドを使用して、大腸菌、枯草菌及び酵母の中から選ばれる宿主微生物を形質転換させた。特に、本発明では、プラスミドPEx34及びE.coli K12-△H1-△trpを使用した。」(同9欄22〜28行)と記載され、それにより得られた結果について、「タンパク質を含有する溶菌生成物を分析して、その酵素活性を測定した。得られた結果は、…129位のアミノ酸を置換させることによってサブユニットS1の酵素活性が完全に消失した。」(同9欄34〜44行)と記載され、実施例として、129位のGluをGlyに置換したS1(変性サブユニット28)が、ADPリボシレーション活性が0%であることが記載されており(同7〜9欄の実施例3及び同9欄第2表)、また、変性サブユニット28の免疫活性に関連して、「このサブユニットは、インビボにおいて特殊な抗体を生じさせ、抗PT保護モノクローナル抗体と反応し得る(サブユニット28)。」(同9欄45〜47行)と記載されている(具体的な抗体、データ等は示していない。)。
一方、ホロ毒素に関しては、発明の詳細な説明に、上記「このサブユニットは、インビボにおいて特殊な抗体を生じさせ、抗PT保護モノクローナル抗体と反応し得る(サブユニット28)。」という記載に続いて「従って、このような変性サブユニットを含有するポリペプチドは抗百日咳ワクチンの調製に適している。変性サブユニットS1に加えてPTサブユニットS2,S3,S4及びS5の少なくとも1つを含有するポリペプチドが好適である。特に、抗百日咳毒素によって示されるものと同じ配列及び配置を有するサブユニットS2,S3,S4及びS5を有するポリペプチドが好適である。このような好適なポリペプチドは、PTオペロン内に含有されるS1をコードづけする遺伝子を変性させ、変性サブユニットS1及びサブユニットS2,S3,S4及びS5の1又はそれ以上を含有するポリペプチドをコードづけするプラスミドを構成せしめることによって調製される。」(同9欄45行〜10欄11行)と記載され、また、訂正請求前の特許請求の範囲の旧請求項6〜10に、旧請求項5「請求項1に記載のポリペプチドの製法において、a)DNA分子の1又はそれ以上の位置において、129位グルタミン酸をコードづけする塩基配列を異なるアミノ酸をコードづけする塩基配列で置換することによって抗百日咳毒素のサブユニットS1をコードづけする遺伝子を直接変異誘発により変性させ、b)該変性サブユニットS1をコードづけする遺伝子を含有するDNAフラグメントをクローニングベクターに結合させてハイブリッドプラスミドを構成し、c)前記工程b)で得られたハイブリッドプラスミドによって宿主微生物を形質転換させ、d)炭素源、窒素源及び無機塩の存在下、適切な培地中で形質転換微生物を培養し、e)培地又は菌体から、変性サブユニットS1を含有するポリペプチドを採集すること、を特徴とする、免疫活性ポリペプチドの製法。」を引用して、「請求項5に記載の製法において、前記工程(a)で使用するサブユニットS1をコードづけする遺伝子が百日咳毒素オペロン内に含有されたものである、免疫活性ポリペプチドの製法。」(旧請求項6)、「請求項5に記載の製法において、前記工程(b)で使用するDNAフラグメントが、百日咳毒素サブユニットS2,S3,S4又はS5をコードづけする少なくとも1つの遺伝子をさらに含有するものである、免疫活性ポリペプチドの製法。」(旧請求項7)、「請求項7に記載の製法において、前記遺伝子が百日咳毒素をコードづけするオペロンに分類されるものである、免疫活性ポリペプチドの製法。」(旧請求項8)、「請求項5に記載の製法において、前記工程c)で使用する微生物が、大腸菌、桿菌及び酵母でなる群から選ばれるものである、免疫活性ポリペプチドの製法。」(旧請求項9)、及び「請求項9に記載の製法において、前記微生物が大腸菌である、免疫活性ポリペプチドの製法。」(旧請求項10)と記載されてはいるが、具体的に変性サブユニットS1およびサブユニットS2,S3,S4,S5とからなる変性ホロ毒素を製造したことは記載されておらず、変性ホロ毒素を製造する際のハイブリッドプラスミドの具体的な構成も選択すべき具体的な宿主名も記載されていない。

(3-1-3)当審の判断
上述のとおり、本件特許明細書には、変性ホロ毒素について、実施例等の具体的な記載はなく、少なくとも129位のグルタミン酸がグリシンに置換された変性サブユニットS1が、他のサブユニットS2〜S5とともに本願発明1の変性ホロ毒素を構成すること、そして当該変性ホロ毒素が保護免疫源として機能することを直接確認する記載はない。
これにつき、被請求人は、答弁書において、「1)百日咳毒素が保護免疫源であることは周知であった。2)アセンブルしたホロ毒素は保護免疫に必要であることは周知であった。3)ホロ毒素は、変異S1サブユニットを用いてもアセンブルすることも周知であった。4)本件特許明細書は、Glu129→Glyの変異によりS1の毒性酵素活性を消失させることを教示する。5)本件特許明細書は、S1サブユニットの変異体がサブユニットS2-S5とともに発現されることも教示する。6)当業者は、本件特許明細書から、Glu129→GlyのS1変異体がS2-S5とアセンブルすること(アセンブルしたものを、以下Glu129→Glyホロ毒素という)を合理的に理解する。7)当業者は、Glu129→Glyホロ毒素が、免疫原性を保持することを合理的に理解する。8)本件の優先権主張日において、当業者は、Glu129→Glyホロ毒素が保護免疫源としての百日咳毒素と同様の構成をとるが、毒素としての百日咳毒素とは異なる構成をとることを合理的に理解する。9)当業者が毒素の変異体をつくることができる技術は、本件特許の優先権主張日において、周知慣用技術であった。10)本件特許発明の上記特徴事項は、乙第2号証において示されるように、本件特許明細書の記載に基づいて実施可能であることが、実際に確認された。」と主張し、このことをもって、本件明細書に実施例等の記載がなくとも、本件の優先権主張日当時の技術水準を加味すれば、変性ホロ毒素に関する本件特許発明は、本件明細書において実施可能に記載されているといえる旨、主張している。
そこで、以下、被請求人の上記主張が妥当なものであるか、否かを検討する。

(3-1-3-1)変性ホロ毒素の形成について
被請求人は、上記答弁書で主張した「3)ホロ毒素は、変異S1サブユニットを用いてもアセンブルすることも周知であった。」、「6)当業者は、本件特許明細書から、Glu129→GlyのS1変異体がS2-S5とアセンブルして、Glu129→Glyホロ毒素を形成することを合理的に理解する。」ことの裏付けとして、また、「7)当業者は、Glu129→Glyホロ毒素が、免疫原性を保持することを合理的に理解する。」、「8)本件の優先権主張日において、当業者は、Glu129→Glyホロ毒素が保護免疫源としての百日咳毒素と同様の構成をとるが、毒素としての百日咳毒素とは異なる構成をとることを合理的に理解する。」ことの裏付けとして、本件優先日前に刊行された乙第4号証刊行物の「本研究者らの予備的データは、S1変異体(4アミノ酸が挿入)が、マウスの脳内投与モデルにおいて、機能的なホロ毒素で見られるものより少ないとはいえ、顕著なレベルの免疫保護特性を保持することを示した。」(180頁下3〜1行)という記載を引用し、また、同じく本件優先日前に刊行された乙第5号証刊行物の「一旦サブユニットがネイティブタンパク質へとアセンブルすると、PT活性の中和に必須である新たな配置の抗原決定基が生成される。」(965頁右欄下8〜5行)という記載を引用して、保護抗原の生成は、ホロ毒素複合体において見出されたエピトープの形成に付随して起こるものであるから、乙第4号証の上記記載は、S1サブユニット変異体が正確な構成をとり、ホロ毒素を形成することを示すものである旨主張し、また、本件発明における変異S1サブユニット28(Glu129→Gly)は抗PT保護モノクローナル抗体と反応し得るものであるから、当業者は、当該サブユニット28がホロ毒素複合体の残りの部分とアセンブルするために必要な正しい配置を保持していたことを認識する、と主張している。
しかしながら、乙第4号証には、上記記載の直前に、「我々は、目下、TOX3201(注.4アミノ酸が挿入された上記S1変異体をコードするDNAを含む百日咳オペロンを有する百日咳菌)により生産される毒素が野生型の毒素と同様にヘテロ-ヘキサメリック構造に組み立てられているかどうかを決定するための試験を行っているところである。…我々のデータは、S1サブユニットをコードする遺伝子への簡単なコドンの挿入によって百日咳毒素のこれらの毒作用に実質的な影響を及ぼし得ることを示唆している。…それでもなお、それ以外の重要な疑問点は手つかずのままである。例えば、…変異トキシンは適正にアセンブルされているか、また、そのインビトロでの安定性はどうか?…毒性が減じられた変異体はヒトにおいて免疫保護応答を生じさせるであろうか?これは、以下の二つの理由から重要な事項である。i)活性百日咳毒素は免疫調節能を有し、百日咳の免疫においてアジュバントとしての役割を果たす。S1サブユニットのリボシルトランスフェラーゼ活性がこの免疫刺激作用にとって必要であるのかどうかは、現在のところ推測の域を出ない。酵素的に不活性な百日咳毒素は免疫保護応答にとって不十分な免疫刺激作用しか有さないかもしれないことも、想像できる。ii)…」(178頁18行〜180頁下4行)と記載されており、4アミノ酸が挿入されたS1変異体がホロ毒素を構成するとは記載されていない。
一方、本件明細書の「このサブユニットは、…抗PT保護モノクローナル抗体と反応し得る(サブユニット28)。」という記載は、単に、単独の変異S1サブユニット(サブユニット28)自体にPT毒素の中和抗体を認識する抗原決定基が存在することを意味するものであると解するのが相当である。そして、このような、変異S1サブユニットにもPT中和抗体を認識する抗原決定基が存在するとの知見からみて、乙第4号証の4アミノ酸が挿入されたS1変異体についても、それ自体にPT中和抗体を認識する抗原決定基が存在し、それに基づいてS1変異体単独で免疫保護特性を有していた可能性もあり得るから、直ちに、「一旦サブユニットがネイティブタンパク質へとアセンブルすると、PT活性の中和に必須である新たな配置の抗原決定基が生成される。」という、天然のホロ毒素に対する乙第5号証の筆者の認識を適用することはできない。
いずれにしても、乙第4号証の上記記載は、被請求人の主張するように、4アミノ酸が挿入された当該S1サブユニット変異体が正確な構成をとり、ホロ毒素を形成することを示すものであるとは一概にはいえず、まして、一般にS1サブユニット変異体がホロ毒素を形成することを示すものであるとは到底いえない。
また、本件の変性サブユニット28は、野生のPT毒素に対する抗PT保護モノクローナル抗体と反応し得るものであり、その抗原決定基を保持するものではあるが、同時にADPリボシレーション活性を失っていることから、相応の立体構造の変化を受けているものでもあるということができ、当該立体構造の変化がホロ毒素の形成に必要な立体構造に影響を与えることが有り得ることは十分想定できることである。
そうすると、変性サブユニット28が抗PT保護モノクローナル抗体に対する抗原決定基を保持していることをもって、直ちに当該サブユニット28がホロ毒素複合体の残りの部分とアセンブルするために必要な正しい配置を保持していることを立証したことにはならない。そして、変性サブユニット28がADPリボシレーション活性を失うことに伴いどのような立体構造の変化を受けたかについて、本件特許明細書には何も明らかにされていないから、当業者は、本件特許明細書の記載に基づき、サブユニット28がホロ毒素複合体の残りの部分とアセンブルするために必要な正しい配置を保持していたことを認識するとはいえない。
これについて、被請求人は、平成14年9月17日付上申書において、乙第8号証乃至乙第15号証を引用し、部位特異的変異誘発法を用いてマイナーなアミノ酸置換により立体構造を変えずに酵素活性を変化させることは本件優先日時点で技術常識を構成していた旨主張しているが、被請求人の引用する上記乙第8号証乃至乙第15号証からいえることは、部位特異的変異誘発法を用いてマイナーなアミノ酸置換により立体構造を変えずに酵素活性を変化させることができる場合があるということに止まり、1乃至数個程度のマイナーなアミノ酸置換であればどのようなものでも立体構造を変えずに酵素活性を変化させることができることを意味するものではないことは明らかなことである。
してみると、乙第4号証の記載に基づいて、変異S1サブユニットを用いてもホロ毒素がアセンブルすることが周知であったとはいえないし、乙第4号証および本件特許明細書の記載に基づいて、当業者が、Glu129→GlyのS1変異体がS2-S5とアセンブルし、Glu129→Glyホロ毒素を形成することを合理的に理解するとはいえず、まして、形成するかどうかも不明の当該Glu129→Glyホロ毒素が免疫原性を保持することを合理的に理解するとは到底いえない。

(3-1-3-2)百日咳オペロンの発現による変性ホロ毒素の製造について
被請求人は、更に、「9)当業者が毒素の変異体をつくることができる技術は、本件特許の優先権主張日において、周知慣用技術であった」ことの裏付けとして、本件優先日前に刊行された乙第1号証刊行物を引用し、また、本件出願後に刊行された乙第2号証刊行物を引用して、「10)本件特許発明の上記特徴事項は、乙第2号証において示されるように、本件特許明細書の記載に基づいて実施可能であることが、実際に確認された」と主張している。
しかしながら、乙第1号証は組み換え百日咳菌に係るものであり、また、乙第2号証も変異ホロ毒素をコードする変異百日咳毒素オペロンを組み込んだ組み換え百日咳菌において、変異ホロ毒素が産生されたことを報じるものであるところ、本件の当初明細書には、本件の変性せしめた百日咳毒素のサブユニットS1、あるいは当該変性サブユニットS1と百日咳毒素のサブユニットS2、S3、S4及びS5を天然の百日咳毒素に存在するものと同じ配列で含有する免疫活性ポリペプチドを発現させる宿主としては、大腸菌、桿菌および酵母から選ばれたものを使用するとのみ記載され、宿主として百日咳菌を用いることについては何も記載されていない。そして、本件明細書には、実際に百日咳毒素オペロンをこれらの宿主により発現させて変性ホロ毒素を産生させたことは記載されておらず、本件明細書における唯一の発現実施例は、変性サブユニットS1の発現を大腸菌を宿主として行うものであるところ、請求人の引用する甲第1号証に、「大腸菌中でのPT(百日咳毒素)オペロンの発現は見られない」(48頁右欄10〜13行)と記載されているように、大腸菌については、本件の出願時には、これを宿主とする百日咳毒素オペロンの発現は失敗しており、大腸菌により当該オペロンを発現させてホロ毒素を得ることが本件出願時の技術水準であったとは認められない。また、その他の桿菌一般や酵母を宿主として百日咳毒素オペロンを発現させてホロ毒素を得ることも本件出願時の技術水準であったとは認められない。
これについて、被請求人は、乙第1号証に記載されているように、百日咳菌を宿主として変性ホロ毒素を産生させることは本件出願時には周知慣用の技術であるから、本件特許明細書に百日咳菌を宿主として用いることが記載されていなくても、当業者は当該技術を採用することができ、当該周知慣用の技術を用いれば本件発明1の変性ホロ毒素が得られる旨、主張する。
しかしながら、乙第1号証は百日咳菌の百日咳毒素をコードする遺伝子座に変異を導入することを記載するものであって、これにより常に変性されたペプチドがホロ毒素の形態で産生されることを記載するものではない。そして、サブユニットを変性させた場合にはアセンブルに必要な立体構造が変化する場合もあり得、乙第4号証について上述したとおり、ホロ毒素としてアセンブルするかどうかは明らかではないというのが、本願出願時の状況であったと認められる。事実、本願出願後に頒布された乙第2号証には、「83個の変異PTオペロンがBordetella parapertussisに導入され、その結果として得られる毒素のアナログが、発現のレベル、酵素活性、残存毒性、及び抗原性についてスクリーニングされた。変異体の半数以上が、余り分泌されず、または、組み立てられないことが見出される一方、その他は完全に組み立てられ、多くが高度に解毒化されていた。」(3653頁上欄4〜7行、3656頁右欄のRESULTの項の1行〜3657頁左欄6行にも同趣旨の記載がある)と、多種類の変異S1サブユニットをコードする遺伝子を含む百日咳毒素オペロンを百日咳菌において発現させたところ、その半数がホロ毒素を形成しなかったことが記載されている。
してみると、本件の優先日において、百日咳毒素オペロンを変異させ、これにより百日咳菌を形質転換することが公知であったといっても、この手法によれば、必ず変性サブユニットS1を有する変性ホロ毒素が産生されるとはいえないものと認められるから、このことをもって、百日咳菌を宿主として変異百日咳毒素オペロンを発現させる方法が、変異ホロ毒素を確実に産生させる方法として周知であったとはいえないし、また、本件の変性サブユニット28であれば実際に発現を確かめなくとも確実にこの方法で変異ホロ毒素が形成されるといえる合理的な根拠があるとはいえない。
被請求人は、これにつき、平成16年3月22日付の意見書において、本件出願日の約1年後に頒布された、Science 246(1989):497-500を引用し、当該文献に、変異百日咳毒素オペロンを百日咳菌で発現し、変異タンパク質を得たことについて記載されていることをもって、「本件特許明細書の記載のとおり本件特許発明を実施したところ、ホロ毒素が形成され、ワクチン効果が証明された」旨、主張している(5頁3〜4行)が、上述のとおり、そもそも、変異した百日咳毒素オペロンを百日咳菌で発現することは本件特許明細書には記載されておらず、また、変異ホロ毒素を確実に産生させる方法として周知の技術であったともいえないから、被請求人のこの主張は、「本件特許明細書の記載のとおり本件特許発明を実施した」という前提がすでに誤っているというべきである。

(3-1-3-3)まとめ
以上のとおりであるから、本件明細書の発明の詳細な説明は、本件出願時の技術水準を考慮しても、変性サブユニット28を有し、免疫活性を有する変性ホロ毒素を形成させること、また、変異した百日咳毒素オペロンにより形質転換した宿主により変性サブユニット28を有し、免疫活性を有する変性ホロ毒素を産生させることが十分な技術的裏付けをもって記載されていたとはいえない。
従って、本件明細書の発明の詳細な説明は、変性サブユニット28を有し、免疫活性を有する変性ホロ毒素について、容易に得ることができる程度に記載されているものとはいえず、少なくとも129位のグルタミン酸がグリシンに置換された変性サブユニットS1を含有し、免疫活性を有する変性ホロ毒素を容易に得ることができる程度に記載されているものとはいえないから、当業者が当該変性ホロ毒素に係る本件発明1を容易に実施できる程度に、その発明の目的、構成、効果が記載されているものとはいえない。
よって、本件特許出願はこれらの点において特許法第36条第3項に規定する要件を満たしていない。

3-2.本件発明2、3について
(3-2-1)本件発明2、3
訂正後の本件発明2は、
「請求項1に記載のポリペプチドの製法において、a)129位グルタミン酸をコードづけする塩基配列をグリシンをコードづけする塩基配列で置換するように前記百日咳毒素のサブユニットS1をコードづけする遺伝子を直接変異誘発することにより変性させる工程、b)該変性サブユニットS1をコードづけする遺伝子を含有するDNAフラグメントをクローニングベクターに結合させてハイブリッドプラスミドを構成する工程であって、該フラグメントは、百日咳毒素オペロン内に該百日咳毒素のサブユニットS2、S3、S4及びS5をコードする遺伝子をさらに含有する、工程、c)前記工程b)で得られたハイブリッドプラスミドによって宿主微生物を形質転換させる工程、d)炭素源、窒素源及び無機塩の存在下、適切な培地中で形質転換微生物を培養する工程、e)培地又は菌体から、変性サブユニットS1を含有するポリペプチドを採集する工程、を特徴とする、免疫活性ポリペプチドの製法。」というものであり、
訂正後の本件発明3は、「請求項2に記載の製法において、前記工程c)で使用する微生物が、桿菌及び酵母でなる群から選ばれるものである、免疫活性ポリペプチドの製法。」というものである。

(3-2-2)当審の判断
上述のとおり、本件明細書の発明の詳細な説明は、変性サブユニット28を有し、免疫活性を有する変性ホロ毒素を、当該変性サブユニット28をコードづけする遺伝子と百日咳毒素のサブユニットS2,S3,S4及びS5をコードづけする遺伝子を含有する百日咳毒素オペロンを含むハイブリッドプラスミドで形質転換された宿主微生物により容易に産生させることができる程度に記載されているものとはいえず、少なくとも129位のグルタミン酸がグリシンに置換された変性サブユニットS1を含有し、免疫活性を有する変性ホロ毒素を当該方法により容易に産生させることができる程度に記載されているものとはいえないから、当業者が当該変性ホロ毒素の当該方法による製法に係る本件発明2及び3を容易に実施できる程度に、その発明の目的、構成、効果が記載されているものとはいえない。
よって、本件特許出願はこれらの点において特許法第36条第3項に規定する要件を満たしていない。

3-3.本件発明4について
(3-3-1)本件発明4
訂正後の本件発明4は、「形質転換微生物E.coli K12-△H1-△trp(PTE 255-28)ATCC 67543。」というものである。

(3-3-2)当審の判断
被請求人は平成14年9月17日付の上申書において、本件発明4の微生物について、「例えば、組み換え百日咳菌を作製するために使用することができる。本件特許においては、変異誘発したポリペプチドをコードする核酸を含む系を、例えば、興味のある部分の核酸部分を切り出すことなどにより直接または間接に使用して、実際のホロ毒素の発現系を構築することが可能であり、そのような実際のホロ毒素の発現において請求項4に係る発明が有用であることに疑念があるということはできない。」と、変性ホロ毒素の発現系を構築する上で有用である旨を主張している。
しかしながら、上述のとおり、本件明細書の発明の詳細な説明は、本件出願時の技術水準を考慮しても、変性サブユニット28を有し、免疫活性を有する変性ホロ毒素を形成させること、また、変異した百日咳毒素オペロンにより形質転換した宿主により変性サブユニット28を有し、免疫活性を有する変性ホロ毒素を産生させることが十分な技術的裏付けをもって記載されていたとはいえない。
してみると、本件明細書の発明の詳細な説明は、上記変性ホロ毒素の発現系を構築することについても十分な技術的裏付けをもって記載されていたとはいえないから、当該変性ホロ毒素の発現系を構築するという点で本件発明4の微生物が有用であるとの被請求人の主張は成り立たない。そして、本件特許明細書には、他にどのような点で本件発明4の微生物が有用であるか記載されていないから、本件明細書の発明の詳細な説明は、当業者が本件発明4に係る形質転換微生物を容易に使用することができる程度に、その発明の目的、構成、効果が記載されているものとはいえない。
よって、本件特許出願はこの点において特許法第36条第3項に規定する要件を満たしていない。
3-4.本件発明5について
(3-4-1)本件発明5
訂正後の本件発明5は、「抗百日咳ワクチンの調製に使用される毒性のない又は毒性が低減された免疫活性ポリペプチドをコードづけする遺伝子であって、該免疫活性ポリペプチドは、アミノ酸1から180までのS1領域における1又はそれ以上の位置で、アミノ酸を、免疫特性を変質させることなくS1の毒性を破壊又は低減させ得る他のアミノ酸で直接変異誘発置換することによって変性せしめた百日咳毒素のサブユニットS1を含有し、ここで、少なくとも129位グルタミン酸がグリシンに置換される、免疫活性ポリペプチドをコードづけする遺伝子。」というものである。

(3-4-2)当審の判断
本件発明5には、免疫活性ポリペプチドをコードづけする遺伝子が「さらに、百日咳毒素オペロン内に該百日咳毒素のサブユニットS2、S3、S4及びS5をコードづけする遺伝子を含有する」ことは記載されていない。しかしながら、当該遺伝子によりコードされる免疫活性ポリペプチドは抗百日咳ワクチンの調製に使用される免疫活性を有するものであるところ、被請求人は答弁書等において「保護抗原の生成は、ホロ毒素複合体において見出されたエピトープの形成に付随して起こるものである。」と主張し、「抗百日咳ワクチンの調製に使用される毒性のない又は毒性が低減された免疫活性ポリペプチド」とは変性ホロ毒素を指す旨主張しており、また、上申書において「訂正後の請求項5には、「免疫活性ポリペプチドをコードづけする」遺伝子であると特定されている。この記載は、ホロ毒素を形成したときに免疫活性を発揮することを意味することは本件特許明細書の趣旨からも明らかである。」と主張していることからみると、本件発明5の遺伝子は変性ホロ毒素をコードづけするものであり、それゆえ、実質的には、「百日咳毒素オペロン内に変性されたサブユニットS1をコードする遺伝子と百日咳毒素のサブユニットS2、S3、S4及びS5をコードする遺伝子を含有する」、当該百日咳毒素オペロンを意味しているものと認められる。
してみると、本件発明5に係る免疫活性ポリペプチドをコードづけする遺伝子は本件発明1の変性ホロ毒素をコードする百日咳毒素オペロンを含有するものであり、本件発明2の方法により変性ホロ毒素を産生するために用いるものであるから、本件明細書の発明の詳細な説明が上記方法を容易に実施できる程度に記載されているといえない以上、本件明細書の発明の詳細な説明は、当業者が、本件発明5の遺伝子を容易に使用できる程度に記載されているものとはいえない。
また、仮に、本願発明5が、変性されたサブユニットS1をコードする遺伝子のみからなるものであるとすると、当該遺伝子がコードづけするポリペプチドは「抗百日咳ワクチンの調製に使用される免疫活性ポリペプチド」ではないから、当業者は当該遺伝子を適当な宿主で発現させてもそのような免疫活性を有するポリペプチドを得ることができないので、本件明細書の発明の詳細な説明は、当業者が、本件発明5の遺伝子を容易に使用できる程度に記載されているものとはいえない。
よって、本件特許出願はこれらの点において特許法第36条第3項に規定する要件を満たしていない。

3-5.本件発明6、7について
(3-5-1)本件発明6、7
訂正後の本件発明6は、「請求項5に記載の遺伝子を含み、さらに、百日咳毒素オペロン内に該百日咳毒素のサブユニットS2、S3、S4及びS5をコードづけする遺伝子を含有する、ハイブリッドプラスミド。」というものであり、
訂正後の本件発明7は、「請求項6に記載のハイブリッドプラスミドで形質転換された微生物。」というものである。

(3-5-2)当審の判断
本件発明6に係るハイブリッドプラスミド及び当該ハイブリッドプラスミドで形質転換された本件発明7に係る微生物は本件発明1の変性ホロ毒素をコードする百日咳毒素オペロンを含有するものであり、本件発明2の方法により変性ホロ毒素を産生するために用いるものであるから、本件明細書の発明の詳細な説明が上記方法を容易に実施できる程度に記載されているといえない以上、本件明細書の発明の詳細な説明は、当業者が、本件発明6のハイブリッドプラスミド及び本件発明7の形質転換微生物を容易に使用できる程度に記載されているものとはいえない。
よって、本件特許出願はこれらの点において特許法第36条第3項に規定する要件を満たしていない。

なお、被請求人は、本件に特許法第36条第3項を適用することについて、上記平成14年9月17日付上申書において、東京高等裁判所の平成10年(行ケ)95判決中の、「特許法36条3項に違反する場合とは、(1)その特許請求の範囲に包含されるすべてのペプチド等につきその有用性が明細書に記載されているか、技術常識から当業者にとって明らかであるとはいえない場合であり、かつ、(2)その特許請求の範囲に包含されるすべてのペプチド等の中から、有用性のあるもののみを当業者が容易に選択することができるように明細書中に記載されていない場合を指す」との記載を引用し、本件特許発明はこれに該当しないから特許法第36条第3項に違反するものではない旨主張しているが、当該判決の事案は、基本的に合成等により製造が可能であるペプチドに関するものであり、物(この場合変性ホロ毒素)の製造自体の困難性が問題になっている本件の場合とは全く事情が異なるから、被請求人のこの主張は採用できない。

4.当審の無効理由IIについての判断
上述のとおり、本件明細書の発明の詳細な説明には、本件出願時の技術水準を考慮しても、変性サブユニット28を有し、免疫活性を有する変性ホロ毒素を形成させること、また、変異した百日咳毒素オペロンを含有するハイブリッドプラスミドで形質転換した宿主により変性サブユニット28を有し、免疫活性を有する変性ホロ毒素を産生させることが十分な技術的裏付けをもって記載されていたとはいえないから、当該変性ホロ毒素、当該変性ホロ毒素の製法、当該変性ホロ毒素をコードづけする遺伝子およびハイブリッドプラスミド、並びに、当該ハイブリッドプラスミドで形質転換された微生物について実質的に開示されているものと認められないので、これらに係る本件発明1〜7は発明の詳細な説明に記載されたものとはいえず、本件特許出願はこの点において特許法第36条第4項第1号に規定する要件も満たしていない。
5.むすび
以上のとおりであるから、本件発明1〜7についての特許は、特許法第36条第3項及び第4項に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであり、同法第123条第1項第4号に該当し、無効とすべきものである。
審判に関する費用については、特許法第169条第2項の規定で準用する民事訴訟法第61条の規定により、被請求人が負担すべきものとする。
よって、結論のとおり審決する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
免疫活性ポリペプチド及びその製法
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】 抗百日咳ワクチンの調製に使用される毒性のない又は毒性が低減された免疫活性ポリペプチドであって、該免疫活性ポリペプチドは、アミノ酸1から180までのS1領域における1又はそれ以上の位置で、アミノ酸を、免疫特性を変質させることなくS1の毒性を破壊又は低減させ得る他のアミノ酸で直接変異誘発置換することによって変性せしめた百日咳毒素のサブユニットS1を含有し、ここで、少なくとも129位グルタミン酸がグリシンに置換され、該免疫活性ポリペプチドはさらに、百日咳毒素のサブユニットS2、S3、S4及びS5を、天然の百日咳毒素に存在するものと同じ配列で含有する、免疫活性ポリペプチド。
【請求項2】 請求項1に記載のポリペプチドの製法において、
a)129位グルタミン酸をコードづけする塩基配列をグリシンをコードづけする塩基配列で置換するように前記百日咳毒素のサブユニットS1をコードづけする遺伝子を直接変異誘発することにより変性させる工程、
b)該変性サブユニットS1をコードづけする遺伝子を含有するDNAフラグメントをクローニングベクターに結合させてバイブリッドプラスミドを構成する工程であって、該DNAフラグメントは、百日咳毒素オペロン内に該百日咳毒素のサブユニットS2、S3、S4及びS5をコードする遺伝子をさらに含有する、工程、
c)前記工程b)で得られたハイブリッドプラスミドによって宿主微生物を形質転換させる工程、
d)炭素源、窒素源及び無機塩の存在下、適切な培地中で形質転換微生物を培養する工程、
e)培地又は菌体から、変性サブユニットS1を含有するポリペプチドを採集する工程、
を特徴とする、免疫活性ポリペプチドの製法。
【請求項3】 請求項2に記載の製法において、前記工程c)で使用する微生物が、桿菌および酵母でなる群から選ばれるものである、免疫活性ポリペプチドの製法。
【請求項4】 形質転換微生物E.coli K12-ΔH1-Δtrp(PTE 255-28)ATCC 67543。
【請求項5】 抗百日咳ワクチンの調製に使用される毒性のない又は毒性が低減された免疫活性ポリペプチドをコードづけする遺伝子であって、該免疫活性ポリペプチドは、アミノ酸1から180までのS1領域における1又はそれ以上の位置で、アミノ酸を、免疫特性を変質させることなくS1の毒性を破壊又は低減させ得る他のアミノ酸で直接変異誘発置換することによって変性せしめた百日咳毒素のサブユニットS1を含有し、ここで、少なくとも129位グルタミン酸がグリシンに置換される、免疫活性ポリペプチドをコードづけする遺伝子。
【請求項6】 請求項5に記載の遺伝子を含み、さらに、百日咳毒素オペロン内に前記百日咳毒素のサブユニットS2、S3、S4及びS5をコードづけする遺伝子を含有する、ハイブリッドプラスミド。
【請求項7】 請求項6に記載のハイブリッドプラスミドで形質転換された微生物。
【発明の詳細な説明】
本発明は、抗百日咳ワクチンの調製に使用される毒性のない又は毒性が低減された免疫活性ポリペプチドに係る。
さらに、本発明は、該ポリペプチドの製法及び該ポリペプチドの少なくとも1を治療上の有効量で含有してなる抗百日咳ワクチンにも係る。
百日咳は、桿菌である百日咳菌(Bordetella pertusis)によって起る呼吸器系の病気であり、カタル期又は発作の間に、呼吸器系を介して、患者から罹患し易い健康者に伝染する。
百日咳は痙攣、大脳障害を生ずることがあり、時には、特に幼児及び母性の抗百日咳抗体が欠けた新生児では死亡する場合があるため、このような病気に対して有効なワクチンが望まれている。
現在では、マーシオレートで殺菌し、56℃で処理した病原菌を含有する抗百日咳ワクチンが使用されているが、この場合、たとえ永久免疫を与えることができるとしても、望ましくない副作用があること又はその調製及び精製に由来する問題があること等のため、完全には満足できるものでない。
かかる理由から、欠点のない抗百日咳ワクチンの調製が熱望されている。
百日咳菌は、それ自体、毒性を有しておらず、その毒性は、第I期(毒性期)の間における各種物質、すなわち溶血素(Hls)、アデニルサイクラーゼ(Adc)、皮膚壊死毒素(Dnc)、繊維性血球凝集素(Fha)及び百日咳毒素(PT)の合成に相関することが知られている。特にPTは、百日咳菌によって生ずる主な毒性ファクターである[Weiss A.ら「Infect,Immun.」42,331-41(1983);Weiss A.ら「J.Inf.Dis.」150,219-222(1984)]だけでなく、該細菌によって生ずる感染に対する主な保護抗原の1つでもある。
事実、菌体ワクチンによって免疫された者では抗PT抗体が見出され[Ashworth L.A.Eら「Lancet」10月号,878-881(1983)]、ホルムアルデヒドにより無毒化したPTを使用し、エーロゾルを介して又は小脳を経由して感染させたマウスでは保護免疫が獲得されている[Sato Y.ら「Inf.and Imm.」41,313(1983)]。百日咳毒素が新たな抗百日咳ワクチンの調製における必須の成分ではあっても、その使用は、毒性に関連する多くの欠点によって制限される。
実際問題として、PTは、リンパ球増加、ヒスタミン感受性、低血糖、エピネフリンの血糖上昇効果に対する不応性及びランゲルハンス島の活性化の如き望ましくない病態生理学上の効果を誘発する。
さらに、現在使用されているワクチンにおけるPTの存在は、発熱、水庖、神経系の変調及び死亡等の副作用の主原因であり、このため、最近ではワクチンの使用が激減し、新たな百日咳の流行を招いている。
ホルムアルデヒドによるPTの無毒化処理では、毒性のない免疫原性タンパク質が得られる(Satoらの上記文献参照)が、該タンパク質は純粋、再現性かつ安定な形では得られないことによるいくつかの欠点がある。
発明者らは、従来法の欠点を解消できると共に、簡単かつ経済的に実施可能な方法によって純粋なものとして得られるポリペプチドを見出し、本発明に従った。従って、本発明の目的は、抗百日咳ワクチンの調製に使用される毒性のない又は毒性が低減された免疫活性ポリペプチドにある。
本発明の他の目的は、該ポリペプチドの製法にある。
本発明のさらに他の目的は、該ポリペプチドの少なくとも1を治療上の有効量で含有してなるワクチンにある。
本発明の他の目的は、以下の記載及び実施例から明らかになるであろう。
百日咳毒素は5つの異なるサブユニットを含有するタンパク質であり、その毒性は、真核生物の細胞膜を介してのメッセージの伝達に関与するGTPと結合するタンパク質のADP-リボリシレーション(ribosilation)による。該PTは異なる官能性を有する2つのフラクションを含有する。その1つ(A)はサブユニットS1を含有し、他方(B)は相互にサブユニットS5によって結合された2つのダイマーD1(S2+S4)及びD2(S3+S4)内に位置するサブユニットS2、S3、S4及びS5を含有する。
フラクションAは酵素的に活性な部分、すなわちPTの有毒性部分を代表するものであり、一方、フラクションBは真核生物細胞膜リセプターに結合され、その中にサブユニットS1を導入し得る。
特開昭62-228286号には、該サブユニットをコードづけする遺伝子のクローニング、シーケンス及び発現が開示されており、この遺伝子が主オペロンに分類されることが記載されている。
さらに、サブユニットS1のADP-リボシレーション活性は、ハイブリッドプラスミドPTE225によって形質転換された微生物を培養することによって測定されており、このサブユニットがPTに匹敵する酵素活性を有することが知られている。
従って、百日咳毒素の免疫特性及び保護特性を有するが、無毒性又は毒性が低減されているタンパク質を得るために、該タンパク質の酵素活性に関する位置及び基礎となるアミノ酸を確認した。特に、下記の位置及びアミノ酸であることが判明した:8位チロシン、9位アルギニン、50位フェニルアラニン、53位トレオニン、129位グルタミン酸、121位グリシン、124位アラニン、109位アスパラギン酸、99位グリシン、135位アルギニン、159位トレオニン及び111位チロシン。
これらアミノ酸の1又はそれ以上を異種の各種アミノ酸で置換することにより、異った毒性のタンパク質が得られることを見出し、本発明に至った。
本発明によれば、アミノ酸1から80までのS1領域における1又はそれ以上の部位で、アミノ酸を、免疫特性を変質させることなくその酵素活性を破壊又は低減させ得る他のアミノ酸で直接変異誘発置換することによって変性せしめた百日咳毒素のサブユニットS1を含有するポリペプチドが合成される。
特に、かかる合成ポリペプチドとしては、下記の如き置換することによって変性せしめた百日咳毒素のサブユニットS1を含有するものである。
-8位チロシン及び9位アルギニンが、それぞれアスパラギン酸及びグリシンによって置換されたもの
-50位フェニルアラニン及び53位トレオニンが、それぞれグルタミン酸及びイソロイシンで置換されたもの
-129位グルタミン酸がグリシンで置換されたもの
-121位グリシンがグルタミン酸で置換されたもの
-124位アラニンがアスパラギン酸で置換されたもの
-109位アスパラギン酸及び124位アラニンが、それぞれグリシン及びアスパラギン酸で置換されたもの
-99位グリシンがグルタミン酸で置換されたもの
-109位アスパラギン酸がグリシンで置換されたもの-135位アルギニンがグルタミン酸で置換されたもの
-159位トレオニンがリシンで置換されたもの
-111位チロシンがグリシンで置換され、かつ113位にアミノ酸Asp Thr Gly Glyが挿入されたもの
特に、本発明によるポリペプチドは、
a)DNA分子の1又はそれ以上の位置において、所定のアミノ酸をコードづけする塩基配列を所望のアミノ酸をコードづけする塩基配列で置換することによって百日咳毒素のサブユニットS1をコードづけする遺伝子を直接変異誘発により変性させ、
b)該変性サブユニットS1をコードづけする遺伝子を含有するDNAフラグメントをクローニングベクターに結合させてハイブリッドプラスミドを構成し、
c)前記工程b)で得られたハイブリッドプラスミドによって宿主微生物を形質転換させ、
d)炭素源、窒素源及び無機塩の存在下、適切な培地中で形質転換微生物を培養し、
e)培地又は菌体から、変性サブユニットS1を含有するポリペプチドを採取することからなる方法によって調製される。
本発明に従い、タンパク質の酵素活性に関連するS1のアミノ酸領域を確認するため、S1をコードづけする遺伝子を制限酵素(異なる部位で切断する)で処理した。得られたDNAフラグメント(異なる長さの3′及び/5′末端配列が欠けている)を、公知の一般的方法に従って操作して、発現プラスミド内でクローン化させた。ついで、削除された配列のDNAフラグメントを含有するベクターを使用して、大腸菌(Escherichia coli)の形質転換を行った。
選択培地で菌体をスクリーニングすることによって得られた陽性の形質転換体を、適切な培地中、温度30℃ないし40℃で20分間ないし5時間培養した。
この時間の経過後、培地から菌体を回収し、リゾチーム処理及び音波処理によって溶菌せしめた。
このようにして抽出したタンパク質について酵素活性を測定するため分析に供した。
このタンパク質のADP-リボソレーション活性を、Manningらによる方法[「ジャーナル・オブ・バイオロジカル・ケミストリー(J.Biol.Chem.)」259,749-756(1984)]に従って操作してテストした。
得られた結果(後述の実施例2の第1表に示す)は、179位のアミノ酸に続くS1配列は、初めのアミノ酸10個とは異なり、ADP-リボシレーションには必要でないことを示した。
従って、サブユニットS1の酵素的に活性な領域はアミノ酸1から180までで構成される。
本発明によれば、この領域に存在する活性部位の同定を行ったところ、これら部位の少なくとも1つが変換されていた。
実際問題として、S1をコードづけする遺伝子はプラスミドPTE255から単離されており、その構造は制限酵素EcoR I及びHind IIIでの消化によって明らかにされ、特開昭62-228286号に報告されている。
S1をコートづけする遺伝子を含有する600塩基対(bp)のDNAフラグメントをゲル電気泳動によって消化混合物から分離し、電気溶出した後、直接変異誘発によって変性して、インビトロにおいて、DNA分子の所定部位で変異を生じさせ、該変異の効果をインビトロ又はインビボでテストした。
この方法による所望塩基の置換は、下記の手法の1つに従って実施される。
-DNAにおける所定部位で塩基類似体を取込ませること
-誤った方式でヌクレオチドを取込ませること
-限定された配列を有するオリゴヌクレオチドのインビトロでの合成の間に変異を生じさせること
-DNAの塩基と反応する化学的変異誘発物質(たとえば亜硫酸水素ナトリウム)を使用すること
本発明では、S1をコードづけする遺伝子を、Zoller M.J.らの方法[「DNA」3,479-488(1984)]に従って操作して、限定された配列を有する合成オリゴヌクレオチドを使用して変性させた。
実施にあたり、600bpのDNAフラグメントをベクターでクローン化し、該DNAのシングルら線クローンフラグメントを単離した。この目的に適するベクターは、Bluescript SK(Stratagene)、pEMBL[Denteら「ヌクレイック・アシッズ・リサーチ(Nucleic Acids Research)」11,1645-1655(1983)]又はM13ファージ[Viera及びMessing「ジーン(Gene)」19,263(1982)」から選ばれる。本発明では、市販のBluescript SKベクターを使用した。
該ベクターを好適な制限酵素で処理し、ついで、T4DNAリガーゼの存在下、リガーゼ混合物中の600pb DNAフラグメントに結合させた。
得られた混合物を使用して大腸菌の形質転換を行い、アンピシリンを含有する培地上で形質転換体を選別した。
ベクター及び600pb DNAフラグメントを包含するハイブリッドプラスミドを含有する陽性のクローンを、ファージが存在する液状媒体に懸濁化させ、温度30ないし40℃に2ないし10時間維持した。
この時間の経過後、ファージを沈殿させ、遠沈によって溶液から分離し、pH7.5の緩衝液中に再度懸濁化させ、水-エチルエーテル飽和フェノールで抽出し、ついでエタノール及び酢酸アンモニウムで抽出したシングルら線DNAを沈殿させた。
ついで、このDNAの一定量を使用し、直接変異誘発によってS1を変性させた。この目的のため、1-180 S1領域の所定部位に存在する1又はそれ以上のアミノ酸をコードづけする塩基を、異なるアミノ酸をコードづけする他の塩基で置換するヌクレオチド約20でなるオリゴヌクレオチドを合成させた。特に、S1をコードづけする遺伝子の下記変異体を調製し得るオリゴヌクレオチドを合成した。
41:プライマーGTCATAGCCGTCTACGGTを使用して、チロシン(8)及びアルギニン(9)をそれぞれアスパラギン酸及びグリシンに置換させた。相当する遺伝子は、このような変性により、その配列が620-CGCCACCGTATACCGCTATGACTCCCGCCCG-650から620-CGCCACCGTAGACGGCTATGACTCCCGCCCG-650に変化した。
22:プライマーTGGAGACGTCAGCGCTGTを使用して、フェニルアラニン(50)及びトレオニン(53)をそれぞれグルタミン酸及びイソロイシンに置換させた。相当する遺伝子は、このような変性により、その配列が750-AGCGCTTTCGTCTCCACCAGC-770から750-AGCGCTGACGTCTCCATCAGC-770に変化した。
25:プライマーCTGGCGGCTTCGTAGAAAを使用して、グリシン(99)をグルタミン酸に置換させた。相当する遺伝子は、このような変性により、その配列が910-TACGGCGCCGC-920から910-TACGAAGCCGC-920に変化した。
17:プライマーCTGGTAGGTGTCCAGCGCGCCを使用して、アスパラギン酸(109)をグリシンに置換させた。相当する遺伝子は、このような変性により、その配列が930-GTCGACACTTA-940から930-GTCGGCACTTA-940に変化した。
27:プライマーGCCAGCGCTTCGGCGAGGを使用して、グリシン(121)をグルタミン酸に置換させた。相当する遺伝子は、このような変性により、その配列が956-GCCGGCGCGCT-966から956-GCCGAAGCGCT-966に変化した。
16:プライマーGCCATAAGTGCCGACGTATTCを使用して、アラニン(124)をアスパラギン酸に置換させた。相当する遺伝子は、このような変性により、その配列が976-TGGCCACCTAC-984から976-TGGACACCTAC-986に変化した。
1716:16及び17の変異を併せて包含する。
28:プライマーGCCAGATACCCGCTCTGGを使用して、グルタミン酸(129)をグリシンに置換させた。相当する遺伝子は、このような変性により、その配列が990-AGCGAATATCT-1000から990-AGCGGGTATCT-1000に変化した。
29:プライマーGCGGAATGTCCCGGTGTGを使用して、アルギニン(135)をグルタミン酸に置換させた。相当する遺伝子は、このような変性により、その配列が1010-GCGCATTCCGC-1020から1010-GGACATTCCGC-1020に変化した。
31:プライマーTACTCCGTTTTCGTGGTCを使用して、トレオニン(159)をリシンに置換させた。相当する遺伝子は、このような変性により、その配列が1070-GCATCACCGGCGAGACCACGACCACGGAGTA-1090から1070-GCATCACCGGCGAGACCACGAAAACGGAGTA-1090に変化した。
26:プライマーCGCCACCAGTGTCGACGTATTCGAを使用して、チロシン(111)をグリシンに置換させた。さらに、プライマーフラグメントの部分複製によって、113位においてアミノ酸Asp Thr Gly Glyの挿入が生じた。相当する遺伝子は、このような変性により、その配列が930-GTCGACACTTATGGCGACAAT-950から930-GTCGACACTGGTGGCGACACTGGTGGCGACAAT-950に変化した。
上記オリゴヌクレオチドを、プライマー中に存在する変異部取込みベクターのすべてのヌクレオチド配列を複製するDNAポリメラーゼ用プライマーとして使用した。
プローブとしてプライマー自体を使用するハイブリダイゼーション法によって、所望の変性を受けたS1遺伝子を包含するベクターを単離した。
ついで、Sanger F.らの方法[「P.N.A.S.」74,5463(1977)]によって、変性遺伝子の正確なヌクレオチド配列を確認した。
変性遺伝子を含有するベクターを、制限酵素EcoR I及びHind IIIで消化して、変性S1をコードづけする遺伝子を含有するDNAフラグメントを公知のものの中から選ばれる発現プラスミドでクローン化した。
このハイブリッドプラスミドを使用して、大腸菌、枯草菌(Bacillus subtilis)及び酵母の中から選ばれる宿主微生物を形質転換させた。
特に、本発明では、プラスミドPEx34(Center for Molecular Biology、ハイデルベルグ、西独)及びE.coli K12-△H1-△trp[Remant E.ら「Gene」15,81-93(1981)]を使用した。
ついで、形質転換せしめた微生物を、液状培地中、炭素、窒素及び無機塩の存在下、温度30ないし45℃で20分ないし5時間培養した。
この時間の経過後、遠沈によって菌体を培地から採取し、常法によって溶菌化した。
タンパク質を含有する溶菌生成物を分析して、その酵素活性を測定した。
得られた結果(後述の実施例3に報告する)は、S1の配列において109位(17位)及び124位(16位)(これらのいずれか一方又は両方)及び121位(27位)のアミノ酸を置換することによって、ADP-リボシレーション活性の良好な低減(5-80%)、従って毒性の良好な低減が達成されたことを示した。さらに、8位及び9位(41位)、50位及び53位(22位)及び129位(28位)のアミノ酸を置換させることによってサブユニットS1の酵素活性が完全に消失した。
このサブユニットは、インビボにおいて特殊な抗体を生じさせ、抗PT保護モノクローナル抗体と反応し得る(サブユニット28)。
従って、このような変性サブユニットを含有するポリペプチドは抗百日咳ワクチンの調製に適している。
変性サブユニットS1に加えてPTサブユニットS2,S3,S4及びS5の少なくとも1つを含有するポリペプチドが好適である。
特に、百日咳毒素によって示されるものと同じ配列及び配置を有するサブユニットS2,S3,S4及びS5を有するポリペプチドが好適である。
このような好適なポリペプチドは、PTオペロン内に含有されるS1をコードづけする遺伝子を変性させ、変性サブユニットS1及びサブユニットS2,S3,S4及びS5の1又はそれ以上を含有するポリペプチドをコードづけするプラスミド(変性S1遺伝子はその領域を含有する)を構成せしめることによって調製される。
本発明によれば、それぞれS1変性サブユニット22、28及び41をコードづけする遺伝子を含有するプラスミドPTE 255-22、PTE 255-28及びPTE 255-41は、E.coli(PTE 255-22)、E.coli(PTE 255-28)及びE.coli(PTE 255-41)として、アメリカン・タイプ・カルチャー・センターに寄託されている(各寄託番号;ATCC 67542、ATCC 67543及びATCC 67544)。
以下の実施例は本発明を説明するためのものであり、限定するものではない。
実施例1
ADP-リボシレーション活性に相関するS1サブユニット領域の同定
A.3′末端部を削除することによる変性S1コードづけ遺伝子含有ハイブリッドプラスミドの構成
プラスミドPTE 255 10μgを緩衝溶液(50mM Tris-HCl(pH7.4)、10mM MgCl2、100mM NaCl)100μに懸濁化させ、制限酵素Xba I(BRL)30単位(U)により37℃で2時間消化し、消化混合物のそれぞれ10μを酵素Nco I、Bal I、Nru I、Sal I及びSph Iの1つ(各3U)により37℃で2時間以上処理した。
このようにして消化したDNA混合物(それぞれ75bp Xba I-Nco I、377bp Xba I-Bal I、165bp Xba I-Nru I、355bp Xba I-SAl I及び503bp Xba I-Sph Iフラグメントを含有する)に、Klenewポリメラーゼラージフラグメント3U及びデゾキシヌクレオチドdATP、dTTP、dCTP及びdGTPの各50mMを含有する溶液2μを添加して分子末端を修繕した。
混合物を室温(20-25℃)に15分間及び65℃にさらに30分間維持し、酵素ポリメラーゼを不活性化した。この時間の経過後、混合物をリガーゼ緩衝液(66mM Tris-HCl(pH7.6)、1mM ATP、10mM MgCl2、10mMジチオトレイトール)で200μに希釈し、T4DNAリガーゼ1Uの存在下、15℃に1夜維持して、上記フラグメントを失ったDNA分子を再度相互に結合させた。ついで、リガーゼ混合物を使用して、50mM CaCl2での処理[Mandel M.及びHiga「I.Mol.Biol」53,154(1970)]によって調製したK12-HL trp大腸菌を形質転換させた。アンピシリン30μg/mlを含有するLBアーガー[10g/Bacto Tryptone(DIFCO)、5g/Bacto Yeast extract(DIFCO)、5g/NaCl]上に菌体を置き、30℃で18時間インキュベートすることによって形質転換を選別した。正確なヌクレオチド配列を特定するため、組換えプラスミドを分析に供した。
これにより、以下のハイブリッドプラスミドが同定された。
PTE NCO
S1遺伝子は、アミノ酸255から211まででなるサブユニットS1のカルボキシ末端配列をコードづけする部分を失っている。
PTE NRU
S1遺伝子は、アミノ酸255から180まででなるサブユニットS1のカルボキシ末端配列をコードづけする部分を失っている。
PTE BAL
S1遺伝子は、アミノ酸255から124まででなるサブユニットS1のカルボキシ末端配列をコードづけする部分を失っている。
PTE SAL
S1遺伝子は、アミノ酸255から110まででなるサブユニットS1のカルボキシ末端配列をコードづけする部分を失っている。
PTE SPH
S1遺伝子は、アミノ酸255から68まででなるサブユニットS1のカルボキシ末端配列をコードづけする部分を失っている。
B.5′末端部を削除することにより変性S1コードづけ遺伝子含有ハイブリッドプラスミドの構成
プラスミドPTE 255 3プローブ(各10μg)を、緩衝溶液(50mM Tris-HCl(pH7.4)、10mM MgCl2、50mM NaCl)100μ中、37℃、3時間で、それぞれ制限酵素Sph I、Sal I及びBal I(各30U)で消化した。
各溶液に、デゾキシヌクレオチドdATP、dTTP、dCTP及びdGTPの各50mMを含有する溶液2μと共に、Klenowラージフラグメントポリメラーゼ3Uを添加し、20-25℃に15分間維持した後、65℃に30分間維持して酵素を不活性化させた。
ついで、各溶液に、制限酵素Hind III 30Uを添加し、得られた混合物を37℃に3時間し、ついで1.5%アガロースゲル上に負荷し、70Vで3.5時間泳動させた。
このようにして、各混合物について2つのバンドが分離され、1つはS1の削除部分を含有し、他はPEx34プラスミド及びS1の部分を含有していた。
その後、Maniatisの方法[「モレキュラー・クローニング:ア・ラボラトリー・マニュアル(Molecular Cloning:a laboratory manual)」Cold Spring Harbor,1982]によって、520bp Sph I-Hind III、372bp Sal I-Hind III及び394bp Bal I-Hind IIIフラグメントを電気溶出した。これらフラグメントの各100ngを、リガーゼ混合物30μ中、T4リガーゼ1Uの存在下で、予め制限酵素BamH Iで消化し、ポリメラーゼ及びデゾキシヌクレオチド溶液で処理しかつ制限酵素Hind IIIで消化したプラスミドPEx34と結合させた。リガーゼ混合物を使用して、大腸菌K12-△HL-△trpを形質転換させ、前記A.で述べた如く、アンピシリンを含有するLBアーガー上で形質転換体を選別した。
陰性クローンから抽出したプラスミドの中で、適当なフレームにクローン化フラグメントを含有するものについて、抗百日咳毒素抗体を使用するウエスタンブロット法によって同定を行った。
これらのプラスミド(PTE SPH/HIND、PTE 255/SAL及びPTE 255/BALと略称する)は、それぞれアミノ酸1-67、1-109及び1-123でなるサブユニットのアミノ末端部をコードづけするS1遺伝子配列を失っていた。
C.3′及び5′末端部を削除することにより変性S1コードづけ遺伝子含有ハイブリッドプラスミドの構成
上記A.の如くして得られたプラスミドPTE NCOのサンプル2つ(10μg)を、緩衝溶液(50mM Tris-HCl(pH7.4)、10mM MgCl2、50mM NaCl)100μ中、それぞれBstN1(BRL)30U及びBal I(BRL)30Uにより37℃、3時間で消化した。
ついで、消化混合物を、dATP、dGTP及びdTTP 2mMの存在下、Klenewポリメラーゼ3Uにより20-25℃で15分間処理して末端部を補完し、65℃で30分間インキュベートした後、DNAを再度制限酵素Hind III 30Uにより37℃、3時間で切断した。
消化混合物を1.5%アガロースゲル上に負荷し、70Vで3.5時間泳動し、上述の如くして、527bp BstN1-Hind III及び279bp Bal I-Hind IIIフラグメントを電気溶出した。
これらフラグメント100ngを、リガーゼ混合物中、T4DNAリガーゼ7Uの存在下、15℃、18時間で、前記B.で述べた如く予め処理したプラスミドPEx34に結合させた。ついで、上述の如くして、大腸菌の形質転換及び形質転換体の選別を行った。陽性のクローンから抽出した組換えプラスミドの中で、正しいフレームに挿入されたフラグメントを同定した。
該プラスミド(PTE 34A及びPTE NCO/BAL)は、それぞれアミノ酸1-52及び255-211でなるサブユニットS1の一部分をコードづけする遺伝子及びアミノ酸1-124及び255-211でなる部分をコードづけする遺伝子を失ったS1遺伝子を含有していた。
D.PTE 16-A及び18-Bプラスミドの構成
プラスミドPTE 255 10μgを、緩衝溶液(100mM Tris-HCl、50mM、NaCl、10mM MgSO4)100μ中、EcoR I 30Uで、ついで緩衝溶液(10mM CaCl2、10mM MgCl2、0.2M NaCl、20mM Tris-HCl(pH8)、1mM EDTA)中、Bal31(BRL)1Uで37℃において消化した。混合物の一定量を1、3、5及び10分後に取出し、ついで5′末端部の削除フラグメントをHind IIIで切断し、ゲル電気泳動によって精製し、溶出後、上述の如くしてプラスミドPEx34に結合させた。得られたリガーゼ混合物を使用して大腸菌を形質転換させ、上述の如く操作して、形質転換体を選別した。
陽性のクローンから抽出したプラスミドから、正しいフレームに挿入されたS1遺伝子フラグメントを含有するプラスミド(そのヌクレオチド配列を分析によって確認)を単離した。
このようにして得られたプラスミドから、S1アミノ末端部をコードづけする配列を持たないS1遺伝子を含有するプラスミドを選別した。
特に、プラスミドPTE 16-Aは最初のアミノ酸10個をコードづけするヌクレオチドが欠けており、従って、アミノ酸11-235を含有するタンパク質をコードづけするものであり、一方、プラスミドPTE 18-Aはアミノ酸149-235を含有するタンパク質をコードづけするものである。
実施例2
変性サブユニットS1の発現及びそのADP-リボシレーション活性の測定
A.前記実施例1の如くして調製したプラスミドで形質転換させた大腸菌K12-△HL-△trpを、液状LB培地20ml中から、滑らかに撹拌しながら30℃で1夜培養した。
各培地10mlをLB培地400mlに接取し、30℃で2時間、42℃で2.5時間培養した。
その後、培養物を4℃において10000回転の速度で15分間遠心分離し、上澄み液を排出し、菌体を回収し、溶液(2.5%ショ糖、10mM Tris-HCl(pH8.0)、1mM EDTA)3.2ml中に再度懸濁させた。
この溶液にリゾチーム溶液(40mg/ml)0.1ml及び0.5M EDTA 0.8mlを添加し、ついで37℃で30分間反応させた。
各溶液に細胞溶解緩衝液(1%、Triton-X 100、50mM Tris-HCl(pH6.0)、63mM EDTA)8mlを加え、0℃に15分間、37℃に30分間維持した。
音波処理を1分間行った後、溶融した菌体及び含まれていた部分を含有する混合物を10000回転の速度で10分間遠心分離し、上澄み液を排出し、沈殿物を1M尿素50ml中に再度懸濁化させ、37℃に30分間維持した。
混合物を再度遠心分離し、沈殿物及び含まれていた部分を回収し、リン酸塩緩衝液(PBS)5ml中に溶解し、-20℃で保存した。
B.ADP-リボシレーション活性の分析
ADP-リボシレーションテストを実施する前に、含まれていた部分を含有する溶液を遠心分離し、沈殿物を8M尿素100μ中に再度懸濁化させた。
Manningらによる方法[「J.Biol.Chem.」259,749-756(1984)]に従ってADP-リボシレーションテストを行った。
実施にあたり、各溶液10μを100mMジチオトレイトール溶液20μと共に20-25℃で30分間プレインキュベートし、ついで牛の網膜のホモゲネート(ROS)10μ、水80μ、Tris-HCl(pH7.5)5μ、100mM ATP溶液1μ、10mM GTP溶液1μ、チミジン10ml及び32PNAD 1μ(1nCi)を添加した。
ついで、混合物を室温(20-25℃)で30分間反応させ、遠心分離後、ROSを含有する残渣を回収し、亜硫酸ドデシルナトリウム(SDS)緩衝液30μ中に溶解させ、12.5%ポリアクリルアミドゲル上に負荷した。25mAで4時間電気泳動させた後、ゲルを温度80℃において減圧乾燥させ、オートラジオグラフィーに供した。放射線活性のバンドをゲルから分離し、シンチレーション(Econofluor、NEN)によって液5mlに懸濁化させ、ベーターカウンターで計数した。
このようにして、変性タンパク質のADP-リボシレーションを定量した。
得られた結果を第1表に示す。

この表から明らかなように、サブユニットS1のADP-リボシレーション活性に関しては、5′末端配列とは逆に、Nru部位(179位)に続く配列は必ずしも必要ではない。
実施例3
サブユニットS1の1-180領域の活性部位の同定及び変異誘発
プラスミドPTE255 10μgを緩衝液[10mM Tris-HCl(pH7.5)、50mM NaCl、10mM MgCl2]100μ中に懸濁化させ、制限酵素EcoR I及びHind IIIの各30Uにより37℃、3時間で消化した。
ついで、消化混合物を1.3%アガロースに負荷し、80mA、3時間で溶出した。
このようにして操作することにより、2つのバンドが分離された。1つはベクターを含有する3500bpであり、他方はサブユニットS1をコードづけする遺伝子を含有する600bpである。
600bpのバンドを電気溶出し、このフラグメント0.2μg及び予め制限酵素EcoR I及びHind IIIで消化したプラスミドBluescript SK(Stratagene、サンディエゴ、カリフォルニア)0.3ngを、緩衝溶液(66mM Tris-HCl(pH7.5)、1mM ATP、10mM MgCl2、10mMジチオトレイトール)20μ中に懸濁化させ、T4DNAリガーゼ1Uの存在下、15℃、18時間で相互に結合させた。
ついで、リガーゼ混合物を使用して大腸菌JM101(安定させたもの)を形質転換させ、アンピシリン100μg/ml、IPTG(イソプロピル-β-D-チオガラクトピラノシド)20μg/ml及びX-Gal(5-ブロモ-4-クロロ-3-インドリル-D-ガラクトピラノシド)20μg/mlを含有するLBアーガー上で形質転換体を選別した。
恒温室において37℃で18時間培地をインキュベートした。Bluescript SKベクター及び600bp DNAフラグメントを包含するハイブリッドプラスミドを含有する白色の菌体を使用し、下記の如く操作してクローン化フラグメントをシングルら線DNAを単離した。
すなわち、白色の菌体を、LB液体培地1.5ml中で、590mmにおける光学密度(OD)が約0.15に達するまで培養した。
つづいて、この培養物に、F1ファージ(Stratagen)のLB懸濁液(5×1012ファージ/ml)10μを添加し、得られた溶液を37℃に6-8時間維持した。
その後、遠沈によって菌体を培地から分離し、上澄み液を回収した。この上澄み液1mlに20%ポリエチレングリコール(PEG)及び2.5mM NaClを添加してファージを沈殿させた。
室温(20-25℃)に15分間維持した後、Eppendorf遠心分離機において、20℃、12000gで5分間遠心分離し、このようにして得られたファージをTE緩衝液(10mM Tris-HCl(pH7.5)、1mM EDTA)100μ中に懸濁化させた。
ついで、この溶液を、1容の水-飽和フェノールで1回、エチルエーテルで2回抽出処理し、ファージ水溶液にエタノール250μ及び3M酢酸アンモニウム10μを添加してシングルら線DNAを沈殿させた。遠沈によってDNAを混合物から分離し、TE緩衝液20μに再度懸濁させ、直接変異誘発[Zollerら「DAN」3,479-488(1984)]に使用した。
この目的のため、所望のアミノ酸の少なくとも1つをコードづけする塩基を他のアミノ酸をコードづけするように変化させたオリゴヌクレオチドを、自動装置1 Plus DNA Synthesizer System(Beckman)によって合成した。
該オリゴヌクレオチド(プラスミドBluescript SK内でクローン化されたシングルら線DNA内に存在する配列に対して相補的である〉は、プライマー内に存在する変異部分を取込む全Bluescriptヌクレオチド配列を転写するDNAポリメラーゼ用のプライマーとして使用される。
実際には、合成オリゴヌクレオチド3mMに、10mM ATP 2μ、Kinase 10X(550mM Tris-HCl)(pH8.0)、100mM MgCl2)緩衝液2μ、100mMジチオトレイトール(DTT)1μ及びKinaseポリヌクレオチド(Bochringer)5Uを添加し、最終容量を20μとした。
混合物を37℃で30分間インキュベートし、70℃に10分間維持して酵素を不活性化させた。
Kinase 10X 1容中にシングルフィラメント(マトリックスとして使用)1μg、1mM Tris-HCl(pH8.0)-10mM MgCl2緩衝液1μを含有する液をプライマー2μに添加した。
混合物を80記号に約3分間維持し、ついで室温に約1時間維持した。
1mM Tris-HCl(pH8.0)-10mM MgCl2緩衝液10μ、0.05mM ATP、1mM DTT、4種類のデゾキシヌクレオチド0.5mM、T4DNAリガーゼ1U及びI DNAポリメラーゼ(Fragment Klenow)2.5Uを順次添加した。
混合物を15℃で1夜インキュベートし、ついで上述の如き大腸菌JM101の形質転換に使用した。
変異誘発に使用したプライマーをプローブとして使用するハイブリッドプラスミド法によって、変異S1遺伝子を含有するプラスミドを確認した(32Pと符号づけする)。実施にあたっては、形質転換された培養物を含有するニトロセルロースフィルターを、6×SSC(1×SSC=0.015M NaCl、0.015Mクエン酸ナトリウム、pH7)10x Denhardt(1%BSA、1%Fioll、1%ポリビニルピロリドン)及び0.2%硫酸ドデシルナトリウム(DSD)中、20-25℃、18時間でハイブリダイズし、6×SSC中、下記の温度で2時間洗浄した。
25及び26位の変異体45℃
28、22及び29位の変異体48℃
27位の変異体54℃
31及び41位の変異体46℃
Sanger F.らの方法「「P.N.A.S.」74,5463(1977)]に従って遺伝子のヌクレオチド配列の分析を行うことによって、変異の誘発を確認した。
上述の如く操作することにより、変性S1をコードづけする遺伝子を含有する下記のプラスミドを調製した。
41:プライマーGTCATAGCCGTCTACGGTを使用して、チロシン(8)及びアルギニン(9)をそれぞれアスパラギン酸及びグリシンに置換させた。相当する遺伝子は、このような変性により、その配列が620-CGCCACCGTATACCGCTATGACTCCCGCCCG-650から620-CGCCACCGTAGACGGCTATGACTCCCGCCCG-650に変化した。
22:プライマーTGGAGACGTCAGCGCTGTを使用して、フェニルアラニン(50)及びトレオニン(53)をそれぞれグルタミン酸及びイソロイシンに置換させた。相当する遺伝子は、このような変性により、その配列が750-AGCGCTTTCGTCTCCACCAGC-770から750-AGCGCTGACGTCTCCATCAGC-770に変化した。
25:プライマーCTGGCGGCTTCGTAGAAAを使用して、グリシン(99)をグルタミン酸に置換させた。相当する遺伝子は、このような変性により、その配列が910-TACGGCGCCGC-920から910-TACGAAGCCGC-920に変化した。
17:プライマーCTGGTAGGTGTCCAGCGCGCCを使用して、アスパラギン酸(109)をグリシンに置換させた。相当する遺伝子は、このような変性により、その配列が930-GTCGACACTTA-940から930-GTCGGCACTTA-940に変化した。
27:プライマーGCCAGCGCTTCGGCGAGGを使用して、グリシン(121)をグルタミン酸に置換させた。相当する遺伝子は、このような変性により、その配列が956-GCCGGCGCGCT-966から956-GCCGAAGCGCT-966に変化した。
16:プライマーGCCATAAGTGCCGACGTATTCを使用して、アラニン(124)をアスパラギン酸に置換させた。相当する遺伝子は、このような変性により、その配列が976-TGGCCACCTAC-984から976-TGGACACCTAC-986に変化した。
1716:16及び17の変異を併せて包含する。
28:プライマーGCCAGATACCCGCTCTGGを使用して、グルタミン酸(129)をグリシンに置換させた。相当する遺伝子は、このような変性により、その配列が990-AGCGAATATCT-1000から990-AGCGGGTATCT-1000に変化した。
29:プライマーGCGGAATGTCCCGGTGTGを使用して、アルギニン(135)をグルタミン酸に置換させた。相当する遺伝子は、このような変性により、その配列が1010-GCGCATTCCGC-1020から1010-GGACATTCCGC-1020に変化した。
31:プライマーTACTCCGTTTTCGTGGTCを使用して、トレオニン(159)をリシンに置換させた。相当する遺伝子は、このような変性により、その配列が1070-GCATCACCGGCGAGACCACGACCACGGAGTA-1090から1070-GCATCACCGGCGAGACCACGAAAACGGAGTA-1090に変化した。
26:プライマーCGCCACCAGTGTCGACGTATTCGAを使用して、チロシン(111)をグリシンに置換させた。さらに、プライマーフラグメントの部分複写によって、113位においてアミノ酸Asp Thr Gly Glyの挿入が生じた。相当する遺伝子は、このような変性により、その配列が930-GTCGACACTTATGGCGACAAT-950から930-GTCGACACTGGTGGCGACACTGGTGGCGACAAT-950に変化した。
S1遺伝子を含有するプラスミドを、制限酵素EcoR I及びHind IIIで再度消化し、ゲル電気泳動によって、消化混合物から上記変異部分を有するDNAフラグメントを分離し、電気溶出し、上述の如く操作して、リガーゼ混合物中、PEx34Bベクター内でクローン化した。
リカーゼ混合物を使用して、大腸菌K12-△H1-△trpを形質転換させ、アンピシリン30μg/mlを含有するLBアーガー培地上、30℃で形質転換体を単離した。
ついで、変異プラスミドを含有する陽性のクローンを、実施例2に記載の如くしてLB液体培地中で培養し、溶菌処理後、得られたサブユニットS1のADP-リボシレーション活性を測定した。
結果を第2表に示す。

BppBは百日咳菌のSal Iまでの遺伝子部分を含有するハイブリッドである。
上述の結果から、変異体28では、唯1つのアミノ酸の置換によって酵素活性が完全に失なわれており、特に興味深いものであることが理解される。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
審理終結日 2004-06-17 
結審通知日 2004-06-21 
審決日 2004-07-05 
出願番号 特願昭63-276322
審決分類 P 1 112・ 532- ZA (C12N)
P 1 112・ 531- ZA (C12N)
最終処分 成立  
前審関与審査官 鵜飼 健高堀 栄二  
特許庁審判長 種村 慈樹
特許庁審判官 河野 直樹
佐伯 裕子
登録日 1997-12-12 
登録番号 特許第2728275号(P2728275)
発明の名称 免疫活性ポリペプチド及びその製法  
代理人 山本 秀策  
代理人 金田 暢之  
代理人 山本 秀策  
代理人 伊藤 克博  
代理人 石橋 政幸  

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