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審決分類 審判 全部無効 発明同一  C12M
管理番号 1110551
審判番号 無効2004-80056  
総通号数 63 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 1991-07-25 
種別 無効の審決 
審判請求日 2004-05-25 
確定日 2005-01-04 
事件の表示 上記当事者間の特許第1964868号発明「保存兼組織培養用容器」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。 
理由 1.手続の経緯
(1)本件特許第1964868号の請求項1〜5に係る発明についての出願は、平成1年11月30日に出願され(特願平1-311657号)、平成6年12月7日に出願公告され(特公平6-97986号)、平成7年8月25日にその発明について特許権の設定登録がなされたものである。
(2)これに対して、請求人は、平成16年5月25日に本件特許無効審判を請求し、審判請求書において、証拠方法として甲第1号証を提出して、本件請求項1〜5に係る発明は、本件出願日前の平成1年3月28日に特許出願され、本件出願日後の平成2年10月15日に出願公開された、特願平1-75996号(以下、先願という。)の願書に最初に添付した明細書又は図面に記載された発明と同一であり、その発明をした者は本件請求項1〜5に係る発明の発明者と同一の者ではなく、本件出願時に本件出願人と先願の出願人とは同一の者ではないから、本件請求項1〜5に係る発明の特許は、特許法第29条の2の規定に違反してされたものであり、特許法第123条第1項第2号の規定により無効とされるべきものである旨、主張している。
(3)これに対して、被請求人は、平成16年8月11日付で答弁書を提出し、本件審判の請求は成り立たない、審判費用は請求人の負担とする、との審決を求めている。
(4)これにつき、当審が被請求人の上記答弁書を請求人に送付したところ、請求人は平成16年10月13日付で弁駁書を提出した。

2.本件発明
本件請求項1〜5に係る発明(以下、それぞれ「本件発明1〜5」という。)は、特許明細書の特許請求の範囲の請求項1〜5に記載された、以下のとおりのものである。
「【請求項1】内部に、組織培養用培地を収容した通気性の組織培養用密封容器を、非通気性材料で包装密封して成り、該非通気性材料は、組織培養時に除去されるものであることを特徴とする保存兼組織培養用容器。
【請求項2】該通気性の組織培養用密封容器は、炭酸ガス及び酸素透過性である請求項1記載の保存兼組織培養用容器。
【請求項3】該通気性の組織培養用密封容器を、組織培養時に除去される2枚のシート状の柔軟な非通気性材料で挟み、空気の排除された重合する該非通気性材料面の外周縁を封口結着して包装密封して成る請求項1記載の保存兼組織培養用容器。
【請求項4】該通気性の組織培養用密封容器を、袋状の柔軟な非通気性材料内に収容し、その間の空気を排除しその口部を封口結着して包装密封して成る請求項1記載の保存兼組織培養用容器。
【請求項5】該通気性の組織培養用密封容器とこれを包装密封して成る外装密封容器との間に、炭酸ガス又は不活性ガスを封入して成る請求項3又は4記載の保存兼組織培養用容器。」

3.甲第1号証の記載
請求人の提出した甲第1号証(特開平2-255077号公報、平成2年10月15日公開)は、先願の公開公報であり、先願の願書に最初に添付した明細書及び図面(以下、先願明細書等という。)を掲載するものであるところ、甲第1号証には、以下の事項が記載されている。
(3-1)「細胞を培養する培養バッグであって、二重構造のシートで形成されている袋状本体とその上部に複数の口部とゴムボタン部及び注入チューブが装着され、前記注入チューブの途中には滅菌フィルタが配置されており、前記二重構造のシートは、ガス透過性シートとガス不透過性シートにより形成されていることを特徴とする培養バッグ。」(特許請求の範囲)
(3-2)「本発明は、細胞培養を行う際に使用する培養バッグであって、研究用、工業生産用をとわず、細胞、微生物の培養を行う際に使用されるものである。」(1頁左欄下6行〜下3行)
(3-3)「現在、培養容器として使用されている培養バッグ…を構成するシートは、ガス透過性がよく、培養細胞に酸素等が供給できるようになっている。しかし、ガス透過性が良いため培地を袋状本体に注入しておくと、培地のPH維持するために添加している炭酸ガスがシートを介して袋状本体の外部に拡散してしまいPH等が変化して、培地が細胞の培養に使用できなくなっていた。…またガス不透過性シートによって形成した培地バッグは、バッグ内へ培地を注入し、保存しておいても酸素、二酸化炭素等がシートを通過できないためにPH等を一定の値に維持でき、培地の長期間保存が可能であるが、細胞の培養に必要な酸素等をシートを介して供給することができず、細胞培養することが大変困難であった。」(1頁左下欄下1行〜2頁左上欄1行)
(3-4)「ガス透過性シートで形成された培養バッグをガス不透過性シートによって覆うことにより培地を培養バッグへ注入したまま長期保存することができ、また外側のガス不透過性シートを取り去りガス透過性シートを露出させることによって細胞を培養するのに好適な培養バッグとして使用することが可能である。」(2頁左上欄下8行〜下2行)
(3-5)「第1図は本発明の培養バッグ1の概略図を示す。培養バッグ1は基本的に二重構造のシートにより形成された袋状本体2と、該袋状本体2の上部に培養細胞の注入やサンプリングを行うゴムボタン部3と培地の注入に使用する注入チューブ4と、培地及び培養細胞を導出するための口部5によって構成されている。…注入チューブ4の途中には滅菌フィルター7が設けられている。」(2頁右上欄1行〜12行)
(3-6)「2重構造のシートとは、一方を…等のガス透過性シート、もう一方は…等のガス不透過性シートを加圧接着もしくは糊付けにより形成されたシート、またはガス透過性シートをガス不透過性シートで覆って形成されたシートのことである。」(2頁右上欄13行〜左下欄1行)
(3-7)「次に本発明の使用方法について第2図を用いて詳細に説明する。まず、容器12内の培地8をポンプ13によって注入チューブ4を介して袋状本体2内へ注入する。…その後、第3図のように培地8を注入した培養バッグ9は外側をガス不透過性シート10で覆っているのでPH等の値を一定に維持することができるので培地の長期保存を行うことができる。」(2頁左下欄2行〜下5行)
(3-8)「該培養バッグを用いて細胞等の培養を行う場合は、二重構造のシートのうち、外側のガス不透過性シートを取り去ることにより第4図に示すようにバッグ内側のガス透過性シート11が露出され、ゴムボタン部3から培養細胞を注入するだけで簡単に細胞の培養を行うことができる。」(2頁左下欄下4行〜右下欄3行)
(3-9)「このほかにも例えば、第5図のようにガス透過性シートによって形成された培養バッグをガス不透過性シートで形成した袋21の中に入れ、脱酸素剤により袋内の酸素を取り除くことにより同等の効果を得られる。」(2頁右下欄8行〜12行)
(3-10)「本発明は、培地をバッグ内へ注入する際、コンタミネーションを発生させず、長期間に亘ってPH等を変化させずに培地を保存でき、しかも、外側を覆っているガス不透過性シートを簡単に取り去ることによってそのまま素早く簡単に培養を行うことができる。」(2頁右下欄下7行〜下1行)

4.当審の判断
(4-1)本件発明1について
本件発明1は、「内部に、組織培養用培地を収容した通気性の組織培養用密封容器を、非通気性材料で包装密封して成り、該非通気性材料は、組織培養時に除去されるものであることを特徴とする保存兼組織培養用容器。」というものである。そして、一般に「包装する」、すなわち「包む」とは、「ものを覆って中に容れる」ことであり、「密封する」とは「隙間なく堅く封をする」ことである(以上、広辞苑参照)から、本件発明1において、「組織培養用培地を収容した通気性の組織培養用密封容器を、非通気性材料で包装密封して成り」とは、当該組織培養用密封容器を非通気性材料で覆って、その中に入れ、隙間なく堅く封をすること、すなわち、当該容器全体を非通気性材料で覆い、開口部を残さないように封ずることを意味するとするのが相当である。本件特許明細書に記載された本件発明の実施例および当該実施例を示す本件第1図〜第4図も、組織培養用培地を収容した組織培養用密封容器全体を非通気性材料で覆い、開口部を残さないように封じたものである。
そこで、まず、本件発明1を甲第1号証の特許請求の範囲に記載された発明(上記(3-1))および第1図に記載されたその実施の態様(上記(3-5)および(3-6))と比較すると、上記(3-4)および(3-8)によれば、甲第1号証に記載された培養バッグは培地を注入したまま長期保存するものであり、培養時には外側のガス不透過性シートを取り去って使用するものであるから、本件発明1の保存兼組織培養容器と軌を一にするものであり、また、当該バッグに用いられる二重構造のシートは、上記(3-6)によれば、通気性のシートを非通気性のシートで覆って形成したものであり、当該バッグの袋状本体が当該二重構造のシートで形成されるということは、当該二重構造のシートのうちの通気性のシートで形成される内側の培地を入れる袋状本体が非通気性のシートで覆われていることにほかならないから、両者は、「内部に、通気性の組織培養用密封容器を、非通気性材料で覆って成り、該非通気性材料は、組織培養時に除去されるものであることを特徴とする培地保存用を兼ねる組織培養用容器。」である点で一致するが、本件発明1が、「組織培養用培地を収容した通気性の組織培養用密封容器を、非通気性材料で包装密封して成る」もの、すなわち、「組織培養用培地を収容した組織培養用密封容器全体を非通気性材料で覆い、開口部を残さないように封じた」ものであるのに対し、甲第1号証に記載された上記発明は、培養バッグの袋状本体を二重構造のシートで形成することにより、通気性の組織培養用密封容器を、非通気性材料で覆って成るものであり、すなわち、非通気性材料で覆われるのは通気性の組織培養用密封容器の袋状本体に当たる部分だけであり、袋状本体の上部に設けられた複数の口部とゴムボタン部、及び注入チューブは非通気性材料で覆われていない点、及び、上記(3-7)に記載されるように、培地は培養バッグが形成された後、注入チューブを介して袋状本体内へ注入される点で、両者は相違している。
甲第1号証には、また、「ガス透過性シートによって形成された培養バッグをガス不透過性シートで形成した袋21の中に入れる」態様も記載されている(上記(3-9))が、これを図示した第5図によれば、この場合も培養バッグは注入チューブを具備し、そして当該注入チューブはガス不透過性シートで形成した袋内に収容されていないから、当該態様は、「組織培養用密封容器全体を非通気性材料で覆い、開口部を残さないように封じた」ものとはいえず、また、第1図の態様と同様に、培養バッグが形成された後、培地を注入チューブを介して袋状本体内へ注入するものであるとするのが相当であるから、「組織培養用培地を収容した通気性の組織培養用密封容器を、非通気性材料で包装密封して成る」ものとはいえない。
そして、甲第1号証には、通気性の組織培養用密封容器を非通気性材料で覆うことについて、これ以上の記載はなく、組織培養用容器を、組織培養用培地をあらかじめ収納した状態で、かつ、外部から培地の注入ができない状態で、包装密封する点については、記載も示唆もない。
この点につき、請求人は弁駁書において、「あらかじめ」なる文言は特許請求の範囲に存在していない点を指摘し、しかも意味不明であると主張し、また、甲第1号証の発明において、培地を注入した段階における培養バッグは本件発明と同一であると主張する。
しかしながら、本件発明1が、通気性の組織培養用容器を非通気性材料で「包装密封」するものである以上、当該包装密封以前に「あらかじめ」組織培養用容器には組織培養用培地が収容されていなければならないことは当然のことである。また、甲第1号証の発明は、培地を注入した段階においても非通気性材料で包装密封されていないことに変わりはなく、この点で本件発明1と相違するものである。
してみると、請求人の引用する先願明細書等には、本件発明1の構成要件の1つである「組織培養用培地を収容した通気性の組織培養用密封容器を、非通気性材料で包装密封して成る」ことは記載されていない。そして、先願明細書等に記載された発明の培養バッグは培地注入用の注入チューブを具備することを特徴の1つとするものであり、培養バッグ形成後に当該チューブを用いて培地を袋状本体に注入するものであるから、少なくとも当該チューブは非通気性材料中に密閉されてはならず、外部容器中の培地に接し、これを吸引することができるように、非通気性材料の外部に開放されていなければならないと認められる。してみると、そのような外部から本体への培地の注入を不可能にするような、本件発明1の当該「組織培養用培地を収容した通気性の組織培養用密封容器を、非通気性材料で包装密封して成る」という構成は、先願明細書等に記載された発明を具体化する際に生じた、先願明細書等に記載された発明との微差に該当するものともいえない。
従って、本件発明1は、請求人の引用する甲第1号証である、上記先願明細書等に記載された発明と実質的に同一のものであるとはいえないから、本件発明1は、特許法第29条の2の規定に違反して特許されたものではない。

(4-2)本件発明2〜5について
これらの発明は、いずれも本件発明1を直接、あるいは間接的に引用し、これに新たな構成を付け加えることにより、本件発明1をさらに限定するものであるから、本件発明1と同様の理由により、先願明細書等に記載された発明と実質的に同一であるとはいえず、特許法第29条の2の規定に違反して特許されたものであるとはいえない。

5.むすび
以上のとおりであるから、請求人の主張及び証拠方法によっては、本件発明1〜5の特許を無効とすることはできない。
審判に関する費用については、特許法第169条第2項の規定で準用する民事訴訟法第61条の規定により、請求人が負担すべきものとする。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2004-10-29 
結審通知日 2004-11-01 
審決日 2004-11-18 
出願番号 特願平1-311657
審決分類 P 1 113・ 161- Y (C12M)
最終処分 不成立  
特許庁審判長 種村 慈樹
特許庁審判官 鵜飼 健
佐伯 裕子
登録日 1995-08-25 
登録番号 特許第1964868号(P1964868)
発明の名称 保存兼組織培養用容器  
代理人 吉村 公一  

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