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審決分類 審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  G03G
審判 全部申し立て 2項進歩性  G03G
管理番号 1111067
異議申立番号 異議2003-71714  
総通号数 63 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 1994-11-15 
種別 異議の決定 
異議申立日 2003-07-08 
確定日 2004-11-15 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第3363514号「電子写真感光体及び電子写真装置」の請求項1ないし4に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 訂正を認める。 特許第3363514号の請求項1ないし4に係る特許を維持する。 
理由 I 手続の経緯
本件特許第3363514号の請求項1ないし4に係る発明は、平成5年4月30日に特許出願され、平成14年10月25日に設定登録がなされ、その後、吉田春男より特許異議の申立てがなされ、取消理由通知がなされ、その指定期間内である平成16年6月1日に訂正請求がなされたものである。

II 訂正の適否についての判断
1 訂正の内容
本件訂正請求は、本件特許明細書を訂正明細書のとおりに訂正することを求めるものであり、訂正の内容は次のとおりである。
(a)特許請求の範囲の請求項1の「該感光体の表面層がバインダー樹脂および電荷輸送物質を含有し」の記載を、「該感光体の表面層がバインダー樹脂および電荷輸送物質を含有し(但し、該表面層が下記式(1)
【化6】

[式(1)中、Ar1,Ar2は置換されていてもよい芳香環基、R1,R2は水素原子又はアルキル基、R3は水素原子、ハロゲン原子又はアルキル基である]で表わされる化合物を含有する場合を除く)」と訂正する。
(b)同請求項2における「前記表面層が電荷輸送層である」の記載を、「前記表面層が電荷輸送層であり、かつ、前記電荷輸送物質として下記化合物
【化7】

または下記化合物
【化8】

を含有する層である」と訂正する。
(c)同請求項3における「該感光体の表面層がバインダー樹脂および電荷輸送物質を含有し」の記載を、「該感光体の表面層がバインダー樹脂および電荷輸送物質を含有し(但し、該表面層が下記式(1)
【化9】

[式(1)中、Ar1,Ar2は置換されていてもよい芳香環基、R1,R2は水素原子又はアルキル基、R3は水素原子、ハロゲン原子又はアルキル基である]で表わされる化合物を含有する場合を除く。)」と訂正する。
(d)同請求項4における「前記表面層が電荷輸送層である」の記載を、「前記表面層が電荷輸送層であり、かつ、前記電荷輸送物質として下記化合物
【化10】

または下記化合物
【化11】

を含有する層である」と訂正する。
(e)明細書の段落【0017】における「バインダー樹脂および電荷輸送物質を含有し」を、「バインダー樹脂および電荷輸送物質を含有し(但し、該表面層が下記式(1)
【化12】

[式(1)中、Ar1,Ar2は置換されていてもよい芳香環基、R1,R2は水素原子又はアルキル基、R3は水素原子、ハロゲン原子又はアルキル基である]で表わされる化合物を含有する場合を除く。)」と訂正する。
(f)明細書の段落【0018】における「バインダー樹脂および電荷輸送物質を含有し」を、「バインダー樹脂および電荷輸送物質を含有し(但し、該表面層が下記式(1)
【化13】

[式(1)中、Ar1,Ar2は置換されていてもよい芳香環基、R1,R2は水素原子又はアルキル基、R3は水素原子、ハロゲン原子又はアルキル基である]で表わされる化合物を含有する場合を除く。)」と訂正する。

2 訂正の目的の適否、新規事項の有無、及び特許請求の範囲の実質上の拡張又は変更の存否
訂正(a)、(c)は、感光体の表面層から、式(1)で表わされる化合物を含む表面層を除くものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とする訂正に該当する。
訂正(b)、(d)は電荷輸送層が含む電荷輸送物質を、特定の2つの化合物に限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とする訂正に該当する。
訂正(e)、(f)は、訂正(a)〜(d)による特許請求の範囲の減縮に伴ない、特許請求の範囲と発明の詳細な説明との間に生じる不整合を正すものであるから、明りょうでない記載の釈明を目的とする訂正に該当する。
そして、上記訂正(a)〜(f)は、願書に添付された明細書に記載の事項の範囲内の訂正であり、実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものではない。

3 訂正の適否に関する結論
以上のとおりであるから、上記訂正請求は、特許法等の一部を改正する法律(平成6年法律116号)附則第6条第1項の規定によりなお従前の例によるとされる、特許法第120条の4第3項において準用する平成6年法律第116号による改正前の特許法第126条第1項ただし書及び第2項の規定に適合するので、当該訂正を認める。

III 特許異議申立について
1 本件特許発明
上記のように訂正が認められるから、本件の請求項1ないし4に係る発明は、上記訂正請求書に添付された訂正明細書の特許請求の範囲、請求項1ないし4に記載された次のとおりものである。
「【請求項1】 交流電圧が重畳された直流電圧が印加される帯電ローラを接触帯電部材として用いた接触帯電方式による帯電、露光、現像、転写およびクリーニングの工程を経て画像形成を行う電子写真装置に用い、かつ導電性支持体上に感光層を有する電子写真感光体において、該感光体の表面層がバインダー樹脂および電荷輸送物質を含有し(但し、該表面層が下記式(1)
【化6】

[式(1)中、Ar1,Ar2は置換されていてもよい芳香環基、R1,R2は水素原子又はアルキル基、R3は水素原子、ハロゲン原子又はアルキル基である]で表わされる化合物を含有する場合を除く。)、該表面層のガラス転移点が95℃以上であることを特徴とする電子写真感光体。
【請求項2】 前記表面層が電荷輸送層であり、かつ、前記電荷輸送物質として下記化合物
【化7】

または下記化合物
【化8】

を含有する層である請求項1に記載の電子写真感光体。
【請求項3】 交流電圧が重畳された直流電圧が印加される帯電ローラを接触帯電部材として用いた接触帯電方式による帯電、露光、現像、転写およびクリーニングの工程を経て画像形成を行い、かつ導電性支持体上に感光層を有する電子写真感光体を有する電子写真装置において、該感光体の表面層がバインダー樹脂および電荷輸送物質を含有し(但し、該表面層が下記式(1)
【化9】

[式(1)中、Ar1,Ar2は置換されていてもよい芳香環基、R1,R2は水素原子又はアルキル基、R3は水素原子、ハロゲン原子又はアルキル基である]で表わされる化合物を含有する場合を除く。)、該表面層のガラス転移点が95℃以上であることを特徴とする電子写真装置。
【請求項4】 前記表面層が電荷輸送層であり、かつ、前記電荷輸送物質として下記化合物
【化10】

または下記化合物
【化11】

を含有する層である請求項3に記載の電子写真装置。」
なお、上記請求項1ないし4に係る発明を、以下、番号順に「本件発明1」、「本件発明2」・・・「本件発明4」のように言う。

2 異議申立の理由の概要
異議申立人・吉田春男は、
甲第1号証:特開平4-320269号公報(以下「刊行物1」という。)、
甲第2号証:特開昭58-32372号公報(以下「刊行物2」という。)
甲第3号証:特開平2-124576号公報(以下「刊行物3」という。)、
甲第4号証:特開平2-277071号公報(以下「刊行物4」という。)
甲第5号証:特開昭63-149668号公報(以下「刊行物5」という。)
参考資料1:特開平6-317915号公報
参考資料2:キャノン環境報告書 「Environmental Report 2000」
を提出し、
(i)訂正前の本件請求項1ないし4に係る発明は、甲第1号証に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号の規定により特許を受けることができない、
(ii)訂正前の本件請求項1ないし4に係る発明は甲第1号証ないし甲第5号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない、
として本件請求項1ないし4に係る発明の特許は取り消されるべきものである旨主張している。
当審においては、刊行物1(甲第1号証)ないし刊行物5(甲第5号証)及び上記参考資料2を引用して、異議の申立ての理由と同様の取消理由を通知した。

3 刊行物の記載事項
取消理由に引用された刊行物1(特開平4-320269号公報)には、次の事項が記載されている。
(1a)「【請求項1】導電性支持体上に少なくとも電荷発生層と電荷輸送層を順に積層して成る電子写真感光体において、該電荷輸送層が下記一般式(1)で表される化合物を含有し、かつ該電荷輸送層の摩耗量が該電荷輸送層を構成するバインダー樹脂から成る層の摩耗量の1.15〜2.0倍であることを特徴とする電子写真感光体、
【化1】

[式中、Ar1,Ar2は置換されていてもよい芳香環基、R1,R2は水素原子又はアルキル基、R3は水素原子、ハロゲン原子又はアルキル基である]。
【請求項2】前記電荷輸送層を構成するバインダー樹脂がポリカーボネート樹脂であることを特徴とする請求項1記載の電子写真感光体。
【請求項3】前記ポリカーボネート樹脂の粘度平均分子量が21000〜150000であることを特徴とする請求項2記載の電子写真感光体。
【請求項4】請求項1ないし3記載の電子写真感光体を備えた電子写真装置。
【請求項5】帯電方式が直接帯電方式である請求項4記載の電子写真装置。」(特許請求の範囲)、
(1b)「・・・従来、繰り返し使用するとクリーニング処理などで常に機械的外力が感光ドラム表面に直接加えられるため、トナーが感光体表面に融着し、感光ドラム表面を汚染するといった欠点があり、複写機、プリンターにおいて、画像品質が低下するといった欠点が指摘されていた。」(段落【0004】)、
(1c)「最近、電子写真装置の帯電方式として一般的なコロナ帯電に変わってが直接帯電を用いた装置が実用化されてきている。この方法は・・・、一方で電子写真感光体に直接帯電する部材が増えたことにより、上記のようなトナー融着が発生しやすい状況になっていることも事実である。このようなことから、融着を起こしにくい電子写真感光体の設計が望まれていた。」(段落【0005】)、
(1d)「電荷輸送層に用いるバインダー樹脂としては、ポリカーボネート樹脂、アクリル樹脂、ポリアミド樹脂、ポリアクリルアミド樹脂など公知のものが用いられ、ポリカーボネート樹脂が好ましい。
特に好ましくは、ポリアリレート樹脂、具体的にはポリカーボネート樹脂、さらに具体的には、ビスフェノールAを構成単位として含有する高分子化合物、およびビスフェノールZを構成単位として含有する高分子化合物であり、粘度平均分子量が21000〜150000の範囲、・・・のものが電荷輸送層に用いるバインダー樹脂として特に機械的特性が優れている。」(段落【0016】〜【0017】)
(1f)実施例1ないし7では、導電性支持体上に下引層、電荷発生層を形成し、その上に、粘度平均分子量40000又は80000のポリカーボネート樹脂と、電荷輸送物質として下記構造式の化合物
【化4】(実施例1、2、5〜7)

【化6】(実施例3)

または
【化7】(実施例4)

とからなる、乾燥後の膜厚が20μmの電荷輸送層を形成した電子写真感光体が記載され、これらの電子写真感光体をキャノン製LBP-LXにて連続プリントし、融着の発生の検討を行ったこと(段落【0036】〜【0045】、【0047】〜【0050】、【0053】、【0055】〜【0057】)、その結果、実施例1ないし7の電子写真感光体は、10000枚プリントしても融着が発生しなかったこと(段落【0058】、「表1」)。

刊行物2(特開昭58-32372号公報)には、次の事項が記載されている。
(2a)「下から順に(a)導電性基層と、(b)該基層上の層内へ正孔を注入することができる物質の層と、(c)該正孔注入物質の層と接触している正孔移送層と、(d)この正孔移送層と接触している電荷発生物質の層と、(e)この電荷発生物質層を被覆している絶縁性有機樹脂層とから構成され、前記正孔移送層は、高絶縁性の有機樹脂と、該樹脂中に分散された電気的に活性な物質であって、一般式

(但し、Xは、オルトCH3、メタCH3、パラCH3、オルトCl、メタClまたはパラClである)を有する窒素含有物質の小分子との組合せから成り、この樹脂と窒素含有物質との組合せが、可視光線に対して実質的に無吸収性であるが、該移送層に接触する前記電荷発生層から光励起によって発生した正孔と、注入物質層から電気的に誘起された正孔とを注入することができるようになっていることを特徴とする静電写真複写用層状感光装置。」(特許請求の範囲)、
(2b)「この装置の動作は第2a図ないし第2e図により示されている。・・・装置の表面は、負極性のコロトロンを用いて一次帯電される。次に、反極性のコロトロンを用いて二次帯電し、同時に・・・像露光する。・・・全面照射により絶縁物質の層の両面に現像可能なコントラスト電位が形成される。」(4頁8欄11〜23行)、
(2c)「実施例1 本発明による感光装置は、次のように形成される。
厚さ0.2μの金の薄層がアルミニウム基体上に真空蒸着され正孔注入界面を形成する。50重量パーセントの小分子N・N’-ジフェニル-N・N’-ビス(4-メチルフェニル)-[1.1’-ビフェニル]-4.4’-ジアミンをマクロロン(Makrolon)ポリカーボネートが、この金注入層上に溶剤被覆される。・・・3μの電荷発生層が溶剤付着技術により電荷移送層上に加えられる。マイラー(Mylar)ポリエステルの厚さ2.5μの層が、積層により電荷発生層上に加えられて絶縁被覆層として作用する。」(4頁8欄25行〜40行)、

刊行物3(特開平2-124576号公報)には、次の事項が記載されている。
(3a)「電荷発生層を形成する工程と、電荷輸送層を形成する工程を具備し、電荷輸送層を形成する工程が、ポリカーボネートZ樹脂及び下記式(I)で示される電荷輸送剤を溶剤に溶解した塗布液を、浸漬塗布することよりなる機能分離型電子写真感光体の製造方法において、ポリカーボネートZ樹脂として、分子量19000〜70000のものを使用し、該電荷輸送剤と該ポリカーボネートZ樹脂との混合比が30:70〜60:40の範囲にあり、かつ粘度を200〜2000cpに調整してなる塗布液を使用することを特徴とする機能分離型電子写真感光体の製造方法。

(式中、R1はアルキル基を示し、R2及びR3は、それぞれ水素原子、アルキル基、アルコキシ基、ハロゲン原子、アルコキシカルボニル基又は置換アミノ基を示す。)」(特許請求の範囲)、
(3b)実施例1には、ナイロン樹脂を塗布したアルミニウムパイプ状に電荷発生層用の塗布液を塗布し、電荷輸送剤としてN,N’-ジフェニル-N,N’-ビス(3-メチルフェニル)-[1、1’-ビフェニル]-4、4’-ジアミン3部を分子量19000のポリカーボネートZ樹脂7部と共に、モノクロルベンゼン35部に溶解した電荷輸送層形成用の塗布液を、上記電荷発生層の上に塗布し、乾燥して、膜厚20μmの電荷輸送層を形成し、電子写真感光体を得たこと(4頁右下欄15行〜4頁右上欄8行)、
(3c)実施例等で得られた電子写真感光体について、スコロトロンによって帯電させた後、7erg/cm3のハロゲンランプで露光し表面電位を測定したこと(5頁右下欄7〜11行)。

刊行物4(特開平2-277071号公報)には、次の事項が記載されている。
(4a)「導電性支持体上に感光層を有する電子写真感光体において、感光層が下記一般式[I]で示されるビフェニル化合物を含有することを特徴とする電子写真感光体。

(ただし式中、R1及びR2はアルキル基、アルコキシ基、ハロゲン原子又は水素原子を示す。Ar1及びAr3はフェニル基を示し、Ar2及びAr4はビフェニル基を示す。)」(特許請求の範囲第1項)、
(4b)「感光層の構成として、例えば以下の形態が挙げられる。
(1)電荷発生物質を含有する層/電荷輸送物質を含有する層・・・」(6頁左上欄2〜5行)、
(4c)一般式[I]で示される化合物について代表例を挙げる。・・・

(3頁右上欄1〜5行)、
(4d)実施例1には、アルミシート上に電荷発生層を形成し、次に電荷輸送物質として例示化合物(8)10gとポリカーボネート樹脂(重量平均分子量20000)10gをモノクロルベンゼン70gに溶解し、この液を先の電荷発生層の上にマイヤーバーで塗布し乾燥膜厚が20μmの電荷輸送層を設け積層構造の電子写真感光体を製造したこと、この様にして製造した電子写真感光体をコロナ帯電し、帯電特性を調べたこと(7頁左下欄1行〜右下欄5行)、
(4e)実施例2においては、前記実施例1で用いた電荷輸送物質として例示化合物No.(8)の代りに例示化合物No.(1)を用い、実施例1と同様の方法によって電子写真感光体を製造し、各感光体の電子写真特性を実施例1と同様の方法によって測定したこと、また比較のために、下記構造の化合物を電荷輸送物質として用いて同様の方法によって電子写真感光体を製造し、電子写真特性を測定したこと。
比較化合物

(8頁左上欄表下1行〜右下欄最下行)、

刊行物5(特開昭63-149668号公報)には、
(5a)「被帯電体表面に当接させた導電性部材に電圧を印加して帯電を行う接触帯電方法において、前記導電性部材は被帯電体表面に当接する面領域と・・・徐々に離間する面領域を具備させ、該導電性部材に対して帯電開始電圧の2倍以上のピーク間電圧を有する脈流電圧を印加することにより該部材の前記離間面領域と被帯電体面間で振動電界を形成させ荷電を行わせることを特徴とする接触帯電方法。」(特許請求の範囲第1項)、
(5b)「[実施例] 第1図に於いて、1は被帯電体としての電子写真感光ドラムの一部であり、ドラム基体1aの外周面に感光体層1b(有機半導体、アモルファスシリコン・セレン等の光導電性半導体材料層)を形成してなるもので、・・・2は上記の感光ドラム1面に所定圧力をもって接触させた導電性部材としての導電性ローラであり、」(2頁右下欄7〜16行、第1図)、
(5c)「B.本発明の接触帯電手段の場合(脈流電圧印加)
・・・OPC感光ドラム・・・について、導電性ローラ2に直流VDCにVP-Pのピーク間電圧を有する交流VACを重畳した脈流電圧(VDC+VAC)を印加してa-Si感光ドラムを接触帯電処理したときのピーク間電圧に対する感光体帯電電位の関係を夫々測定した。」(4頁左上欄17行〜右上欄4行)、

4 異議申立の理由についての判断
(1)本件発明1について
i)第29条第1項違反について
刊行物1には、「感光体の表面層がバインダー樹脂及び電荷輸送物質として一般式(1)で表される化合物を含有する電子写真感光体」が記載され、実施例1〜7においては、該感光体を「キャノン製LBP-LX」にて用い連続プリントしたことが記載されている(1f)。
この「キャノン製LBP-LX」は、本件発明の実施例において「融着性」を調べるために用いた「キャノン製レーザビームプリンタLBP-LX」(本件明細書、段落【0054】)と同じものである。また、LBP-LXは明らかに刊行物1の請求項5に記載の「帯電方式が直接帯電方式である請求項4記載の電子写真装置」(1c)の1例であるから、刊行物1の実施例においても、連続プリントにおいて帯電ローラを用いた接触帯電方式のレーザビームプリンタが採用されたと解せられる。
そして、このレーザープリンタLBP-LXが、交流と直流を重畳した電圧を導電性ローラに印加するローラ帯電方式を採用したものであること、及びレーザビームプリンタLBP-LXでの画像形成が帯電、露光、現像、転写およびクリーニングの工程を経ることは本件出願前周知であるから(申立人提出の参考資料2参照)、刊行物1に記載の「キャノン製LBP-LX」は、本件発明1に係る電子写真感光体が用いられる電子写真装置であると認められる。
そこで、本件発明1と刊行物1に記載された発明を対比すると、刊行物1に記載の「電荷輸送層」は表面層であるから、両者は、交流電圧が重畳された直流電圧が印加される帯電ローラを接触帯電部材として用いた接触帯電方式(以下、「接触帯電方式」という。)による帯電、露光、現像、転写およびクリーニングの工程を経て画像形成を行う電子写真装置に用い、かつ導電性支持体上に感光層を有する電子写真感光体において、該感光体の表面層がバインダー樹脂および電荷輸送物質を含有する電子写真感光体である点で一致するが下記の点で相違する。
相違点1:本件発明1では、表面層が本件の請求項1において「式(1)示される化合物」(以下「化合物a」という。)を含まないのに対し、刊行物1の発明では、該刊行物の実施例1、3、4に記載された【化4】、【化6】、【化7】の化合物(いずれも「化合物a」の1例)を含む点。
相違点2:本件発明1では表面層のガラス転移点が95℃以上であるのに対し、刊行物1にはこのことが記載されていない点。
刊行物1に記載の発明は、融着に対する抵抗性が優れた感光体を得るため、表面層に「化合物a」を含有させることを不可欠とするものであるから、該相違点1は、本質的な成分の差異である。
したがって、本件発明1は、刊行物1に記載された発明ではない。

ii)第29条第2項違反について
本件発明1と刊行物1との相違点1、2が、刊行物1の記載から容易になし得たかどうかについて検討する。
刊行物1に記載の発明は、融着に対する抵抗性が優れた感光体を得るため、「電荷輸送物層」(実施例では表面層となる。)に「化合物a」を含有させること、及び基準と比較したときの電荷輸送層の「摩耗量」の規定が不可欠であるとするものである。
また、本件発明においては、表面層のガラス転移点が95℃以上となるようにするため、実施例においては、分子量20000のポリカーボネートZ樹脂を使用することが記載されているところ、刊行物1には、感光体の表面層のバインダーの例として、粘度平均分子量が40000以上のポリカーボネートZ樹脂を用いることが記載されており、表面層のガラス転移点が95℃以上となるものの含まれる可能性はあるが、刊行物1記載の発明は、電荷輸送物質として「化合物a」を含有させることにより、トナー融着等の課題を解決しようとするものであって、表面層のガラス転移点とトナー融着の関連については示されていないから、刊行物1に記載の発明から、トナー融着を防止するために、「化合物a」を含有させることなく、感光体表面層のガラス転移点を、特に95℃以上にすることが当業者にとって容易になしえたとすることはできない。

次に他の刊行物について検討する。
刊行物5には、ドラム基体の外周に感光体層を形成した感光体に当接させた帯電性ローラ(導電性部材)に脈流電圧を印加して、被帯電体表面の帯電が行われるように構成した電子写真装置、すなわち本件発明1と同様の接触帯電方式を採用した電子写真装置が記載されているが、感光体の表面層の構成については具体的に記載されていないし、接触帯電部材を採用した場合の問題点についても記載されていない。
刊行物2には、下から順に導電性基層、正孔注入層、高絶縁性の有機樹脂(バインダーに相当する)と特定化合物(電荷移送物質に相当する)を含有する正孔移送層、電荷発生層、絶縁性有機樹脂層を設けてなる静電写真複写用の層状感光体が記載されているが、接触帯電方式の電子写真感光装置に使用することは記載されていないし、表面層をバインダー樹脂および電荷輸送物質を含有する層とすることも、表面層のガラス転移点を95℃以上とすることも示されていない。
刊行物3には、導電性支持体上に、電荷発生層と、ポリカーボネートZ樹脂(バインダー)及び式[1]で示される特定の電荷輸送物質(「化合物a」に相当しない)を含有する電荷輸送層(表面層)を設けてなる電子写真感光体が記載され、表面層のバインダーとして、分子量19000〜70000ののポリカーボネートZ樹脂を採用することが記載されている。
また、刊行物4には、バインダー樹脂及び特定のフェニル化合物(電荷輸送物質)を含有する電荷輸送層を表面層とする電子写真感光体が記載され、実施例として、分子量20000のポリカーボネートZ樹脂を使用することが記載されている。
しかし、刊行物3、4には、帯電方式として、「スコロトロン」による帯電、或いは「コロナ放電」による帯電が記載されているだけであり、接触帯電方式を使用する電子写真装置で使用することは記載されていない。また、刊行物3、4には分子量20000以上のポリカーボネートZ樹脂をバインダーとして用いることが示され、これらの中には表面層のガラス転移点が95℃以上となるものが含まれる可能性はあるが、トナー融着と表面層のガラス転移点の関連について全く記載がなく、感光体表面層のガラス転移点を、特に95℃以上に限定することまでは示されていない。
そうすると、接触帯電方式を採用した電子写真装置が刊行物1、5に記載されているとしても、このような電子写真装置の感光体として、特に、表面層がバインダー樹脂及び電荷輸送物質(「化合物a」を除く)を含有し、表面層のガラス転移点が95℃以上となる感光体を採用することが刊行物1ないし5に記載された発明から当業者に容易に想到しえたとすることはできない。
そして、本件発明1では、接触帯電方式を採用し、感光体の表面層にバインダー樹脂および電荷輸送物質を含有させ、表面層のガラス転移点を95℃以上とすることにより、トナー融着に起因する画像品質の低下を防止できるという効果が奏されるものである。
したがって、本件発明1は、刊行物1ないし5に記載された発明に基づき当業者が容易に発明をすることができたものではない。

なお、異議申立人は本件と同一出願人が同日に出願した特願平5-124818号の公開公報を参考資料1として提出し、表面層のガラス転移点とトナーの融着性との間に因果関係を有しているとするには、実施例および比較例の数が少なすぎる、旨主張しているが、本件明細書の実施例及び比較例には、ガラス転移点が高いほど、連続プリント枚数が多くトナーの融着が少ないことが示されているのであり、ガラス転移点とトナーの融着性との間に因果関係を有していないとすることはできない。また、参考資料1は、電荷輸送物質の酸化電位とトナーの融着に因果関係があるとするもので、バインダーを含めた表面層の物性については着目しておらず、本件発明と参考資料1の記載は何ら矛盾するものではなく、参考資料1によっても上記判断は左右されない。

(2)本件発明2について
本件発明2は、本件発明1の構成をすべて引用した上で、電荷輸送物質を特定の2つの化合物に限定するものであるので、上記(1)で述べたのと同様な理由により、本件発明2は、刊行物1に記載された発明ではなく、また刊行物1ないし5に記載された発明に基づき当業者が容易に発明をすることができたものでもない。

(3)本件発明3について
本件発明3は電子写真装置の発明であり本件発明1とはカテゴリーが異なるが、本件発明1の必須の構成、すなわち
「交流電圧が重畳された直流電圧が印加される帯電ローラを接触帯電部材として用いた接触帯電方式による帯電、露光、現像、転写およびクリーニングの工程を経て画像形成を行う」構成、及び
「感光体の表面層がバインダー樹脂および電荷輸送物質を含有し(但し、該表面層が下記式(1)
【化6】

[式(1)中、Ar1,Ar2は置換されていてもよい芳香環基、R1,R2は水素原子又はアルキル基、R3は水素原子、ハロゲン原子又はアルキル基である]で表わされる化合物を含有する場合を除く。)、該表面層のガラス転移点が95℃以上である」構成、
を備えるものである。
したがって、上記(1)で述べたのと同様な理由により、本件発明3は、刊行物1に記載された発明ではなく、また刊行物1ないし5に記載された発明に基づき当業者が容易に発明をすることができたものでもない。

(4)本件発明4について
本件発明4は、本件発明3の構成をすべて引用した上で、更に電荷輸送物質を特定の化合物に限定するものであるので、上記(3)で述べたのと同様な理由により、本件発明4は、刊行物1に記載された発明ではなく、刊行物1ないし5に記載された発明に基づき当業者が容易に発明をすることができたものでもない。

IV むすび
以上のとおりであるから、特許異議申立の理由及び証拠によっては本件の請求項1ないし4に係る発明の特許を取り消すことはできない。
また、他に本件の請求項1ないし4に係る発明の特許を取り消すべき理由を発見しない。
したがって、本件請求項1ないし4に係る発明の特許は、拒絶の査定をしなければならない特許出願に対して付与されたものと認めないから、特許法等の一部を改正する法律(平成6年法律第116号)附則第14条の規定に基づく、特許法等の一部を改正する法律の施行に伴う経過措置を定める政令(平成7年政令第205号)第4条第2項の規定により、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
電子写真感光体及び電子写真装置
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】 交流電圧が重畳された直流電圧が印加される帯電ローラを接触帯電部材として用いた接触帯電方式による帯電、露光、現像、転写およびクリーニングの工程を経て画像形成を行う電子写真装置に用い、かつ導電性支持体上に感光層を有する電子写真感光体において、該感光体の表面層がバインダー樹脂および電荷輸送物質を含有し(但し、該表面層が下記一般式(1)
【化6】

[式(1)中、Ar1,Ar2は置換されていてもよい芳香環基、R1,R2は水素原子又はアルキル基、R3は水素原子、ハロゲン原子又はアルキル基である]で表わされる化合物を含有する場合を除く。)、該表面層のガラス転移点が95℃以上であることを特徴とする電子写真感光体。
【請求項2】 前記表面層が電荷輸送層であり、かつ、前記電荷輸送物質として下記化合物
【化7】

または下記化合物
【化8】

を含有する層である請求項1に記載の電子写真感光体。
【請求項3】 交流電圧が重畳された直流電圧が印加される帯電ローラを接触帯電部材として用いた接触帯電方式による帯電、露光、現像、転写およびクリーニングの工程を経て画像形成を行い、かつ導電性支持体上に感光層を有する電子写真感光体を有する電子写真装置において、該感光体の表面層がバインダー樹脂および電荷輸送物質を含有し(但し、該表面層が下記一般式(1)
【化9】

[式(1)中、Ar1,Ar2は置換されていてもよい芳香環基、R1,R2は水素原子又はアルキル基、R3は水素原子、ハロゲン原子又はアルキル基である]で表わされる化合物を含有する場合を除く。)、該表面層のガラス転移点が95℃以上であることを特徴とする電子写真装置。
【請求項4】 前記表面層が電荷輸送層であり、かつ、前記電荷輸送物質として下記化合物
【化10】

または下記化合物
【化11】

を含有する層である請求項3に記載の電子写真装置。
【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】
本発明は、電子写真複写機、レーザビームプリンタ、CRTプリンタ、電子写真式製版システムなどの電子写真装置で接触帯電を用いたものに用いることのできる電子写真感光体に関するものである。また、本発明は、上記電子写真感光体を有する電子写真装置である。
【0002】
【従来の技術】
本発明の電子写真感光体は接触帯電方式の電子写真装置に装着することを目的としている。
【0003】
図1に接触帯電方式の電子写真装置の一例を示した。本例は転写式複写機もしくはプリンタである。
【0004】
1は本発明の対象となっている電子写真感光体でドラム型のものである。この電子写真感光体1は矢印Aの時計方向に所定の周速度(プロセススピード)をもって回転駆動される。
【0005】
2は帯電手段としての接触帯電部材である帯電ローラである。この帯電ローラ2は該帯電ローラに圧設した感光体1の回転に従動して回転し、バイアス電源2AからAC電圧を重畳されたDC電圧が印加される。この帯電ローラ2により感光体1の周面が所定の極性・電位にかつ一様に接触帯電方式で帯電処理される。その感光体1の帯電処理面に不図示の露光手段(原稿像の結像露光手段、レーザービームスキャナなど)により目的画像情報の露光3がなされて感光体1面に目的画像情報に対応した静電潜像が形成されていく。
【0006】
その形成静電潜像は現像器4の荷電粒子(トナー)5で正規現像または反転現像により可転写粒子像(トナー像)5aとして顕画化される。
【0007】
次いでそのトナー像は感光体1と該感光体に圧設している転写手段としての転写ローラ7とのニップ部(転写部)に給紙カセット9から給紙ローラ10およびレジストローラ11により所定のタイミングで一枚づつ給送された用紙6に転写5bされる。転写ローラ7にはバイアス電源7Aからトナー5の保有電荷とは逆極性のバイアス電圧が印加されている。
【0008】
トナー像転写を受けた用紙6は感光体1面から分離されて不図示の定着手段へ搬送されてトナー像の定着処理を受ける。
【0009】
トナー像転写後の感光体1面はクリーナー(クリーニング装置)8により転写残りトナーなどの付着汚染の除去を受けて洗浄面化されて繰返して作像に供される。
【0010】
感光体1を帯電処理する帯電装置として上記例のもののように感光体1に対して電圧を印加する帯電材料としての帯電ローラ2を接触させることで行う接触帯電装置は、帯電装置として従来一般に利用されているコロナ放電装置との対比において、電源の低電圧化が図れる、オゾンの発生を見ても極々微量であるなどの長所を有している。接触帯電の帯電メカニズム、手法および装置はすでに知られており、また各種提案されている。
【0011】
例えば直流電圧を帯電部材に印加したときの被帯電体の帯電開始電圧の2倍以上のピーク間電圧を有する振動電界(交互電界、交流電界など時間とともに電圧値が周期的に変化する電界または電圧)を帯電部材と被帯電体との間に形成する方式は帯電ムラのない均一な帯電処理をすることができ有効である。振動電界の波形としては正弦波・矩形波・三角波など適宜使用可能である。また直流電源を周期的にオン-オフすることによって形成された矩形波であってもよい。
【0012】
【発明が解決しようとする課題】
しかし、上記のような接触帯電方式を用いた電子写真装置は、感光体1面をクリーニングするクリーナー8において除去しきれずにクリーナーをすり抜けて通過する微量の残留トナーが、感光体1とこれに接触している接触帯電部材としての帯電ローラ2との圧接ニップ部に持ち運ばれて感光体面にこすりつけられ長期の間には遂に該感光体表面に強固に付着蓄積して一種のクリーニング不良(以下トナー融着と称する)となり、出力画像に欠陥(ベタ白上の黒斑点ないしはベタ黒上の白斑点)を生じる現象が見られた。
【0013】
この現象は、連続のプリントモードで発生し、間欠のプリントモードでは発生しない。これは、間欠のプリントモードでは連続のプリントモードより多くのクリーニングプロセスが入ることに起因すると考えられる。
【0014】
またこの現象は高画像を実現すべくトナー5の粒径を小さくした場合に特に目立つ。
【0015】
さらに接触帯電部材に振動電圧成分を含むバイアス電圧を印加して帯電を実行する構成の場合は接触帯電部材が印加振動電圧成分に応じて感光体1面をたたくごとく振動するので上記のトナー融着現象が助長されやすい。
【0016】
この発明の目的は、上述した問題点に鑑み、接触帯電方式の電子写真装置においてトナー融着に基づく出力画像上の欠陥の発生を防止することのできる電子写真用感光体および電子写真装置を提供することにある。
【0017】
【課題を解決するための手段】
すなわち、本発明は、交流電圧が重畳された直流電圧が印加される帯電ローラを接触帯電部材として用いた接触帯電方式による帯電、露光、現像、転写およびクリーニングの工程を経て画像形成を行う電子写真装置に用い、かつ導電性支持体上に感光層を有する電子写真感光体において、該感光体の表面層がバインダー樹脂および電荷輸送物質を含有し(但し、該表面層が下記一般式(1)
【化12】

[式(1)中、Ar1,Ar2は置換されていてもよい芳香環基、R1,R2は水素原子又はアルキル基、R3は水素原子、ハロゲン原子又はアルキル基である]で表わされる化合物を含有する場合を除く。)、該表面層のガラス転移点が95℃以上であることを特徴とする電子写真感光体である。
【0018】
また、本発明は、交流電圧が重畳された直流電圧が印加される帯電ローラを接触帯電部材として用いた接触帯電方式による帯電、露光、現像、転写およびクリーニングの工程を経て画像形成を行い、かつ導電性支持体上に感光層を有する電子写真感光体を有する電子写真装置において、該感光体の表面層がバインダー樹脂および電荷輸送物質を含有し(但し、該表面層が下記一般式(1)
【化13】

[式(1)中、Ar1,Ar2は置換されていてもよい芳香環基、R1,R2は水素原子又はアルキル基、R3は水素原子、ハロゲン原子又はアルキル基である]で表わされる化合物を含有する場合を除く。)、該表面層のガラス転移点が95℃以上であることを特徴とする電子写真装置である。
【0019】
このような表面層を構成する手段としては、表面層が電荷輸送層の場合は電荷輸送物質やバインダー樹脂を適宜選択することにより、さらにそれらの比率を調整することにより達成される。また、保護層を設けてもよい。
【0020】
一例として、保護層を設けないタイプの詳しい構成を以下に示す。
【0021】
導電性支持体としては、アルミニウム、ステンレス等の金属、紙、プラスチックなどの円筒状シリンダーまたはフィルム等が用いられる。
【0022】
これらの支持体の上には、バリヤー機能と接着機能を持つ下引層を設けることができる。
【0023】
下引層の材料としては、ポリビニルアルコール、ポリ-N-ビニルイミダゾール、ポリエチレンオキシド、エチルセルロース、メチルセルロース、エチレン-アクリル酸コポリマー、カゼイン、ポリアミド、共重合ナイロン、ニカワ、ゼラチンなどが知られている。これらはそれぞれに適した溶剤に溶解されて支持体上に塗布、乾燥して形成される。その膜厚は、0.2〜2μm程度である。
【0024】
さらに支持体と下引層との間に、支持体のむらや欠陥の被覆および画像入力がレーザーの場合には散乱による干渉縞防止を目的とした導電層を設けることが好ましい。これはカーボンブラック、金属粒子、金属酸化物などの導電製粉体をバインダー樹脂中に分散し、塗布、乾燥して形成することができる。導電層の膜厚は、5〜40μm、好ましくは、10〜30μm程度である。
【0025】
本発明の電子写真感光体の感光層は電荷発生物質と電荷輸送物質とが混合された単層型、あるいは電荷発生物質を含む電荷発生層と、電荷輸送物質を含む電荷輸送層を積層した機能分離型などの形態をとる。特に、機能分離型の感光層が好ましく、以下、機能分離型の感光層について説明する。
【0026】
電荷発生層に用いる電荷発生物質としては、セレン-テルル、ピリリウム、チオピリリウム系染料、フタロシアニン系顔料、アントアントロン顔料、ジベンズピレンキノン顔料、ピラントロン顔料、トリスアゾ顔料、ジスアゾ顔料、アゾ顔料、インジゴ顔料、キナクリドン系顔料、非対称キノシアニン、キノシアニンあるいは特開昭54-14365号広報に記載のアモルファスシリコンなどが挙げられる。
【0027】
電荷発生層に用いるバインダー樹脂としては、ポリスチレン、ポリ塩化ビニル、ポリ酢酸ビニル、塩化ビニル-酢酸ビニル共重合体、ポリビニルアセタール、アルキド樹脂、アクリル樹脂、ポリアクリルニトリル樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリアミド樹脂、ケトン樹脂、ポリアクリルアミド樹脂、ブチラール樹脂、ポリエステル樹脂、ポリウレタン樹脂、エポキシ樹脂、フェノール樹脂など公知のものが用いられる。
【0028】
電荷発生層は、一般に電荷発生物質とバインダ樹脂とを混合分散し、塗布、乾燥して形成する。
【0029】
電荷発生層の膜厚は0.01〜15μm、好ましくは0.05〜5μmである。
【0030】
電荷輸送層に用いる電荷輸送物質としては、トリフェニルメタン誘導体、トリフェニルアミン誘導体、オキサジアゾール誘導体、ピラゾリン誘導体、ヒドラゾン誘導体、エナミン誘導体、ブタジエン誘導体などが知られている。
【0031】
また、電荷輸送層に用いるバインダー樹脂としてはポリカーボネート樹脂、アクリル樹脂、ポリアミド樹脂、ポリアクリルアミド樹脂など公知のものが用いられ、特にポリカーボネート樹脂が好ましい。
【0032】
電荷輸送層は、電荷輸送物質とバインダー樹脂とをそれぞれに適した溶剤に溶解させて支持体上に塗布、乾燥して形成される。その膜厚は、5〜50μm、好ましくは8〜30μmである。
【0033】
本発明における表面層とは、この場合電荷輸送層となる。また、このような感光層の上にさらに保護層を設けても良く、その場合は保護層が表面層となる。これら表面層の物性と接触帯電におけるトナー融着の関係を調べたところ、以下のような知見を得た。
【0034】
すなわち、該電子写真感光体の表面層のガラス転移点が高いものほどトナー融着を起こしにくく、具体的にはガラス転移点が95℃以上であればトナー融着に起因する画像品質の低下を防止することが可能になる。
【0035】
この感光体の表面層のガラス転移点の違いによりトナー融着に差がでる理由は、良く分かっていないが、該表面層の熱的な安定度に起因するものと考えられる。
【0036】
【実施例】
以下に、本発明に最適な実施例と比較例とを挙げて説明する。
【0037】
実施例および比較例で示されているガラス転移点は以下の条件で熱機械分析により測定した。
【0038】
実施例および比較例の表面層(電荷輸送層)については、熱機械分析により2段の軟化点を示す。各サンプルの針の変位の微分曲線をとり、1段目の軟化点の微分曲線のピークトップ位置をガラス転移点とした。
分析装置 :セイコー電子工業製 TMA10
荷 重 :5g
昇温レート:10℃/min
針 径 :1mm
サンプル :膜厚20μmのシート状に形成した表面層を3枚重ねてサンプルとした。
【0039】
<実施例1>
下記表1に示す組成の溶液を用いて浸漬コーティング法により導電性支持体である30Φアルミニウム製パイプ表面に導電層を形成させ、140℃で30分間乾燥させた。導電層の膜厚は18μmであった。
【0040】
【表1】

【0041】
次にこの導電層上に、ポリアミド樹脂(商品名:アミランCM-8000、東レ製)の5%メタノール溶液を用いて浸漬コーティング法により中間層を塗工して、90℃で10分間乾燥させた。中間層の膜厚は1μmであった。
【0042】
さらにこの中間層上に、下記化合物を10重量部、ポリビニルブチラール樹脂
【0043】
【化1】

(商品名:エスレックBL-S、積水化学製)4重量部、及びシクロヘキサノン200重量部を1Φガラスビーズを用いたサンドミル装置で50時間分散し、これにテトラヒドロフラン300〜400(適宜)重量部を加えた溶液を用いて浸漬コーティング法により電荷発生層を塗工して、80℃で10分間乾燥させた。電荷発生層の膜厚は0.15μmであった。
【0044】
最後に電荷発生層上に、トリアリールアミン系電荷輸送物質である下記化合物
【0045】
【化2】

を10重量部と平均分子量2万のビスフェノールZ型ポリカーボネート樹脂を10重量部とジクロロメタンを30重量部とモノクロロベンゼンを90重量部よりなる組成の溶液を用いて浸漬コーティング法により電荷輸送層を塗工して、120℃で60分間乾燥させた。電荷輸送層の膜厚は22μmであった。この感光体の表面層である電荷輸送層のガラス転移点は、100.9℃であった。
【0046】
<実施例2>
電荷輸送物質として下記化合物を用いた以外は実施例1と同様にして電子写真
【0047】
【化3】

感光体を作製した。電荷輸送層の膜厚は20μmであった。この感光体の表面層である電荷輸送層のガラス転移点は、123.9℃であった。
【0048】
<実施例3>
電荷輸送層のバインダー樹脂として平均分子量2万のビスフェノールA型ポリカーボネート樹脂を用いた以外は実施例1と同様にして電子写真感光体を作製した。電荷輸送層の膜厚は21μmであった。電荷輸送層のガラス転移点は、104.2℃であった。
【0049】
<比較例1>
電荷輸送物質として下記化合物を用いた以外は実施例1と同様にして電子写真
【0050】
【化4】

感光体を作製した。電荷輸送層の膜厚は21μmであった。電荷輸送層のガラス転移点は、91.3℃であった。ガラス転移点は実施例1と同様にして測定した。
【0051】
<比較例2>
電荷輸送物質として下記化合物を用いた以外は実施例1と同様にして電子写真
【0052】
【化5】

感光体を作製した。電荷輸送層の膜厚は20μmであった。電荷輸送層のガラス転移点は、73.1℃であった。ガラス転移点は実施例1と同様にして測定した。
【0053】
<比較例3>
電荷輸送物質の重量部を13とした以外は実施例1と同様にして電子写真感光体を作製した。電荷輸送層の膜厚は20μmであった。電荷輸送層のガラス転移点は、88.0℃であった。ガラス転移点は実施例1と同様にして測定した。
【0054】
実施例1〜3及び比較例1〜3の電子写真感光体の耐トナー融着性を調べるためにキャノン製の接触帯電方式のレーザビームプリンタLBP-LXの中に入れて連続プリントモードでプリントアウトを行った。結果を表2に示す。
【0055】
実施例ではトナー融着が発生していないのに対し、比較例では2000枚から6000枚の間でトナー融着を起こしていることが分かる。
【0056】
【表2】

【0057】
【発明の効果】
本発明による電子写真感光体は接触帯電方式の電子写真装置に用いれば、トナー融着に起因する画像品質の低下を防止することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【図1】
本発明の電子写真装置の一例の概略構成図である。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2004-10-22 
出願番号 特願平5-124819
審決分類 P 1 651・ 113- YA (G03G)
P 1 651・ 121- YA (G03G)
最終処分 維持  
前審関与審査官 淺野 美奈  
特許庁審判長 山口 由木
特許庁審判官 秋月 美紀子
六車 江一
登録日 2002-10-25 
登録番号 特許第3363514号(P3363514)
権利者 キヤノン株式会社
発明の名称 電子写真感光体及び電子写真装置  
代理人 山下 穣平  
代理人 山下 穣平  

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