• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  A01C
管理番号 1111077
異議申立番号 異議2003-70783  
総通号数 63 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 1999-06-08 
種別 異議の決定 
異議申立日 2003-03-24 
確定日 2004-11-15 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第3327846号「乗用型水田走行作業機」の請求項1に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 訂正を認める。 特許第3327846号の請求項1に係る特許を維持する。 
理由 1.手続きの経緯
特許第3327846号の請求項1に係る発明についての出願は、平成4年8月27日に特許出願された特願平4-228854号の出願の一部を、新たな出願(特願平10-264240号)としたものであって、平成14年7月12日にその特許権の設定登録がなされ、その後、ヤンマー農機 株式会社 より特許異議の申立てがなされ、取消しの理由が通知され、その指定期間内である平成16年5月10日に訂正請求がなされ、再度取消しの理由が通知され、その指定期間内である平成16年9月1日に、先の訂正請求を取り下げたうえ、訂正請求がなされたものである。
2.訂正の適否についての判断
(1)訂正の内容
特許権者が求めている訂正の内容は以下のa,bのとおりである。
ア.訂正事項a
特許請求の範囲の請求項1中の
「前輪と後輪とを装備した走行車体にエンジンが搭載され、前記走行車体には操縦ハンドルおよび運転席を含む操縦部が備えられ、動力伝達系に変速装置が設けられ、且つ、前記運転席から前記変速装置を操作して走行速度を設定する変速レバーが設けられた乗用型水田走行作業機において、
前記変速装置を操作する操作具が、前記変速レバーとは別に降車位置から操作可能な位置に設けられている」を、
「前輪と後輪とを装備した走行車体にエンジンが搭載され、前記走行車体には操縦ハンドルおよび運転席を含む操縦部が備えられ、動力伝達系に変速装置が設けられ、且つ、前記運転席から前記変速装置を操作して走行速度を設定する変速レバーと伝達動力を断接するペダルとが設けられた乗用型水田走行作業機において、
前記変速レバーの高低変速操作の動きとペダルの断接操作の動きとを妨げることなく前記変速装置を操作して伝達動力を変化させる操作具が、前記変速レバーとペダルとは別に降車位置から操作可能な位置に設けられ、前記運転席から変速レバー又はペダルを操作するとき前記降車位置から操作可能な操作具は連係しないように構成されている」と訂正する。
イ.訂正事項b
明細書の段落番号【0007】中の
「前輪と後輪とを装備した走行車体にエンジンが搭載され、前記走行車体には操縦ハンドルおよび運転席を含む操縦部が備えられ、動力伝達系に変速装置が設けられ、且つ、前記運転席から前記変速装置を操作して走行速度を設定する変速レバーが設けられた乗用型水田走行作業機において、
前記変速装置を操作する操作具が、前記変速レバーとは別に降車位置から操作可能な位置に設けられている」を、
「前輪と後輪とを装備した走行車体にエンジンが搭載され、前記走行車体には操縦ハンドルおよび運転席を含む操縦部が備えられ、動力伝達系に変速装置が設けられ、且つ、前記運転席から前記変速装置を操作して走行速度を設定する変速レバーと伝達動力を断接するペダルとが設けられた乗用型水田走行作業機において、
前記変速レバーの高低変速操作の動きとペダルの断接操作の動きとを妨げることなく前記変速装置を操作して伝達動力を変化させる操作具が、前記変速レバーとペダルとは別に降車位置から操作可能な位置に設けられ、前記運転席から変速レバー又はペダルを操作するとき前記降車位置から操作可能な操作具は連係しないように構成されている」と訂正する。
(2)訂正の目的の適否、新規事項の有無、及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否
上記訂正事項aは、請求項1において、変速装置を操作して伝達動力を断接するペダルが乗用型水田走行作業機の部分品として有ることを追加するとともに、該ペダル及び変速レバーと降車位置から操作可能な位置に設けられている変速装置を操作する操作具とが非連係の関係にあることを追加するものであり、願書に添付された明細書の段落番号【0017】〜【0021】及び【0030】に記載され、又は【図1】〜【図3】から把握される事項であるから、特許請求の範囲の減縮を目的とした明細書の訂正に該当し、また、上記訂正事項bは、上記訂正事項aと整合を図るものであるから、明りょうでない記載の釈明を目的とした明細書の訂正に該当し、いずれも、新規事項の追加に該当せず、実質的に特許請求の範囲を拡張又は変更するものではない。
(3)むすび
以上のとおりであるから、上記訂正は特許法等の一部を改正する法律(平成6年法律第116号。以下「平成6年改正法」という。)附則第6条第1項の規定によりなお従前の例によるとされる、特許法第120条の4第3項において準用する平成6年改正法による改正前の特許法第126条第1項ただし書、第2項及び第3項の規定に適合するので、当該訂正を認める。
3.特許異議の申立てについて
(1)申立ての理由の概要
特許異議申立人 ヤンマー農機 株式会社 は、
甲第1号証:特開平2-306832号公報(刊行物a)
甲第2号証:特開平1-132307号公報(刊行物b)
甲第3号証:特開平3-246125号公報(刊行物c)
を提出し、
甲第4号証:特願平10-264235号(特許第3354879号公報参照。)(出願a)
を引用して、
ア.特許第3327846号の請求項1に係る発明は、本件出願前に日本国内において頒布された刊行物に記載された発明に基づいてその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることが出来ないものであって、請求項1に係る発明についての特許は、拒絶の査定をしなければならない特許出願に対してされたものであるから、
イ.特許第3327846号の請求項1に係る発明は、特願平10-264235号(特許第3354879号公報参照。)の請求項1に係る発明と同一で、同日に特許出願されたものであり、もはやその発明について特許を受けることができる一の特許出願人を定める協議をすることができないから、いずれも、特許法第39条第2項の規定により特許を受けることが出来ないものであって、請求項1に係る発明についての特許は、拒絶の査定をしなければならない特許出願に対してされたものであるから、
ウ.特許第3327846号の請求項1に係る発明の特許は、その明細書の特許請求の範囲の記載が、特許法第36条第5項に規定する要件を満たしておらず、拒絶の査定をしなければならない特許出願に対してされたものであるから、
特許を取り消すべき旨主張している。
(2)請求項1に係る発明
上記2.で示したように上記訂正が認められるから、本件特許第3327846号の請求項1に係る発明は、上記訂正請求に係る訂正明細書の特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される以下のとおりのものである。
「【請求項1】前輪と後輪とを装備した走行車体にエンジンが搭載され、前記走行車体には操縦ハンドルおよび運転席を含む操縦部が備えられ、動力伝達系に変速装置が設けられ、且つ、前記運転席から前記変速装置を操作して走行速度を設定する変速レバーと伝達動力を断接するペダルとが設けられた乗用型水田走行作業機において、
前記変速レバーの高低変速操作の動きとペダルの断接操作の動きとを妨げることなく前記変速装置を操作して伝達動力を変化させる操作具が、前記変速レバーとペダルとは別に降車位置から操作可能な位置に設けられ、前記運転席から変速レバー又はペダルを操作するとき前記降車位置から操作可能な操作具は連係しないように構成されていることを特徴とする乗用型水田走行作業機。」
(3)特許法第36条第5項違反について
特許異議申立人が、明細書の特許請求の範囲の記載が、特許法第36条第5項に規定する要件を満たしていないと主張する、具体的申立の理由は、
「前記変速装置を操作する操作具」とは、何なのか不明であり、発明を明確に特定できない、というものである。
ところが、これは訂正前の明細書の特許請求の範囲の記載であり、訂正明細書の特許請求の範囲の記載では、当該部分は、「前記変速レバーの高低変速操作の動きとペダルの断接操作の動きとを妨げることなく前記変速装置を操作して伝達動力を変化させる操作具」となっている。
そして、この表現が何を意味するかは明らかなことであり、特許異議申立人の主張するような明細書の記載の不備はない。
(4)特許法第29条第2項違反について
A.引用刊行物
刊行物a:特開平2-306832号公報(甲第1号証)には、「操縦フレーム11に、上端に操縦ハンドル13を備えたハンドルポスト12を内装し、操縦フレーム11の上端部を覆う操作パネル11aの上部のハンドルポスト12の左側にチェンジレバー15、副変速を兼ねるクラッチレバー16を、クラッチレバー16を外側にして並設し、主変速を兼ねる主クラッチレバー17を操縦フレーム11の右側或いは左側に設け、搭乗して作業したり、路上運行時には、右手でハンドル13を操作しながら左手で変速、クラッチ作業し、トラックに歩み板を掛けて積み込んだり、降ろしたりする場合や、水田に路面から入ったり、出たりする危険操縦時には、操縦者は降車して牽引車Aの前側で操縦し、このとき、左手でハンドル13を操作しながら右手で変速、クラッチ操作をする田植機。」が記載されている。
刊行物b:特開平1-132307号公報(甲第2号証)には、「エンジン(2)からプーリ(3)、メインベルト(4)、プーリ(5)を介して後部ギアボックス(6)を駆動する動力伝動系統を構成し、主クラッチペダル(41)を踏み込み、テンションクラッチプーリ(49)を移動させ、メインベルト(4)の緊張を解除し、車体の動力伝動系統を停止し、主クラッチレバー(81)を路上走行、植付、後退の三段階に切り替えることにより、シフター(82)を作動させて、後部ギアボックス(6)内の歯車機構の歯車の切り替えを行い、運転者が車体前方より主クラッチベダル(41)を手で操作可能なように補助レバー(51)を車体前部に設け、補助レバー(51)の先端を主クラッチペダル(41)のアーム(42)に挿通して、乗用による運転操作が危険である時運転者が車体から降りて、車体前方からの運転操作を可能とした四輪の乗用タイプの田植機。」が記載されている。
刊行物c:特開平3-246125号公報(甲第3号証)には、「エンジンの出力軸1と車体2の入力軸3とに伝動比が異なる2組の調車4,5および6,7を固定し、それぞれにベルト8,9をゆるく巻き掛け、作動軸12を出力軸1と並行に車体2に支え、一対のレバー13,14をその作動軸12に回動出来るように取付け、前記ローラ10,11をそれぞれのレバー13,14の先端に軸で回転するように取付け、このレバー13,14が、それぞれのばね15,16を介してワイヤーやロッドで引かれると、ローラ10,11がベルト8,9に当ってこれを緊張し、ベルト8,9がそれぞれの調車4,5および6,7に接触するようにして一対の伝動装置とし、走行車体を前進させながら植付装置で苗を移植するときは、ばね15を介してレバー13を引き、ローラ10をベルト8に当てこれを緊張し、エンジンの出力軸1の回転が、調車4・ベルト8および調車5の順に伝わって入力軸3に達し、そののちの変速器や減速器で所期の回転数に調整されて車輪と植付装置に達するようにし、また、上記の引かれたばね15を元に戻したのち、ばね16を引き、ローラ10をベルト8から離すと、ベルト8がゆるんで調車4,5から離れ、前記の動力伝達が断たれ、ばね16で引かれたレバー14が作動軸12の回りに回り、先のローラ11をベルト9に当てこれを緊張し、調車6,7に押し付け、出力軸1の回転が、調車6・ベルト9および調車7の順に伝わり、調車7も減速されて入力軸3に達するようにし、さらに、レバー26の下端を横軸27に取付け、レバー26の上端にオペレータが踏み込むペタル31を取付け、レバー26の先から、オペレータが地上で走行車体の前から操作する手動レバー33を先に伸ばし、前記ペタル31を踏むと、レバー26が横軸27を中心に回り、動力伝達にたずさわっている側のレバー14の作動部14a(又はレバー13の作動部13a)を作動軸12の回りに押し回し、ローラ11(又はローラ10)がベルト9(又は8)から離れ、これをゆるめて伝達動力を断つとともに、入力軸3の回転を制動するようにした苗植機。」が記載されている。
B.対比・判断
請求項1に係る発明(以下本件発明という。)は、「運転席から変速装置を操作して走行速度を設定する変速レバーと伝達動力を断接するペダルとが設けられ」ていること、及び「変速レバーの高低変速操作の動きとペダルの断接操作の動きとを妨げることなく変速装置を操作して伝達動力を変化させる操作具が、前記変速レバーとペダルとは別に降車位置から操作可能な位置に設けられ、変速レバー又はペダルを操作するとき前記降車位置から操作可能な操作具は連係しない」ことを、発明の構成要件の一部としている。
すなわち、本件発明は、「運転席から変速装置を操作して伝達動力を断接するペダルと、降車位置から変速装置を操作して伝達動力を変化させる操作具とを備え、ペダルを操作するとき操作具を連係することなく、かつ、操作具を操作するときペダルの断接操作の動きを妨げることがない」ように構成されているものである。
そこで、この点について刊行物a〜刊行物cを見てみると、
刊行物aには、上記のとおりの「田植機」が記載されていて、乗車位置及び降車位置の双方で操作するチェンジレバー15及びクラッチレバー16を備える構成であるが、乗車位置及び降車位置のそれぞれに、変速装置を操作して伝達動力を変更する操作具を備える構成ではない。
刊行物bには、上記のとおりの「四輪の乗用タイプの田植機」が記載されていて、主クラッチペダル(41)と、主クラッチペダル(41)を運転者が車体から降りて手で操作する補助レバー(51)を備えた構成である。したがって、クラッチ操作具として、刊行物bに記載されたものの、「主クラッチペダル(41)」及び「補助レバー(51)」は、本件発明の「ペダル」及び「操作具」に対応する。しかしながら、刊行物bに記載されたものの補助レバー(51)は、主クラッチペダル(41)を降車位置から手で操作しようとするものであって、補助レバー(51)によるクラッチ操作は、主クラッチペダル(41)を介して行われ、補助レバー(51)と主クラッチペダル(41)とは、一体に連動するものである。そうすると、刊行物bに記載されたものは、本件発明の「ペダルを操作するとき操作具を連係することなく、かつ、操作具を操作するときペダルの断接操作の動きを妨げることがない」ことに相当する構成を備えていない。
刊行物cには、上記のとおりの「苗植機」が記載されていて、レバー26の上端にオペレーターが踏み込むペタル31を取付け、レバー26の先から、オペレーターが地上で走行車体の前から操作する手動レバー33を先に延ばし、ペタル31を踏み伝達動力を断つ構成である。したがって、クラッチ操作具として、刊行物cに記載されたものの、「ペタル31」及び「手動レバー33」は、本件発明の「ペダル」及び「操作具」に対応する。しかしながら、刊行物cに記載されたもののは、上端にペタル31を取付けたレバー26の先から先に延ばしたものであり、手動レバー33とペタル31とは、レバー26とともに一体に連動するものである。そうすると、刊行物bに記載されたものは、本件発明の「ペダルを操作するとき操作具を連係することなく、かつ、操作具を操作するときペダルの断接操作の動きを妨げることがない」ことに相当する構成を備えていない。
以上見たとおり、刊行物a〜刊行物cのいずれにも、本件発明の構成要件の一部である「ペダルを操作するとき操作具を連係することなく、かつ、操作具を操作するときペダルの断接操作の動きを妨げることがない」ことについて記載されていない。また、「ペダルを操作するとき操作具を連係することなく、かつ、操作具を操作するときペダルの断接操作の動きを妨げることがない」ことを示唆する記載もない。
そして、本件発明は、この点により訂正明細書に記載の作用効果を奏するものである。
よって、請求項1に係る発明は、刊行物a〜刊行物cに記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
(5)特許法第39条第2項違反について
A.引用出願
出願a:特願平10-264235号(特許第3354879号公報参照。)(甲第4号証)の請求項1に係る発明(以下、引用発明という。)は特許明細書の特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される以下のとおりのものである。
「【請求項1】 エンジンの動力を前輪および後輪へ伝動する動力伝達系にクラッチ、ブレーキ及び主変速装置を備えた乗用型水田走行作業機において、
主変速装置にて設定する通常作業速度およびこの作業速度とは別に、圃場への出し入れ等用の低速走行変速状態が可能な副変速装置を備え、前記副変速装置を乗車位置にて操作可能な変速レバーとは別に前記圃場への出し入れ等用の低速走行変速操作が可能な単一の操作具を、降車位置から操作できるように備えていることを特徴とする乗用型水田走行作業機。」
B.対比・判断
本件発明と引用発明はともに、「乗用型水田走行作業機」である点で共通しているが、本件発明と引用発明を対比すると、本件発明は「変速装置を操作して伝達動力を断接するペダルが設けられ」ているが、このようなペダル部品は、引用発明にはない。また、本件発明は「変速レバー又はペダルを操作するとき操作具を連係することなく、かつ、操作具を操作するとき変速レバーの高低変速操作の動きとペダルの断接操作の動きとを妨げることがない」ものであるが、このような変速レバーと操作具の関係規定及びペダルと操作具の関係規定は、引用発明にはない。
上記の、本件発明が、引用発明に対して別個に備える構成要件から、ペダルと操作具との関係規定を抽出すると、「ペダルを操作するとき操作具を連係することなく、かつ、操作具を操作するときペダルの断接操作の動きを妨げることがない」という構成になる。
ところが、この構成は、「(4)特許法第29条第2項違反について」で見た、本件発明の特徴的構成部分に等しく、当業者が容易に想起できるものではないと判断される。
そうすると、「(4)特許法第29条第2項違反について」で見た、本件発明の特徴的構成部分「ペダルを操作するとき操作具を連係することなく、かつ、操作具を操作するときペダルの断接操作の動きを妨げることがない」という構成を含む「本件発明が、引用発明に対して別個に備える構成要件」全体もまた、当業者が容易に想起できるものではない。
そして、「本件発明が、引用発明に対して別個に備える構成要件」が、当業者が容易に想起できるものではない以上、これを微差とすることはできない。
本件発明と、引用発明との間には、「本件発明が、引用発明に対して別個に備える構成要件」があり、これを微差とすることができないものである以上、本件発明と、引用発明とは、同一ではない。
(6)むすび
以上のとおりであって、請求項1に係る発明についての特許は、特許異議の申立ての理由及び証拠によっては取り消すことはできない。
また、他に請求項1に係る発明についての特許を取り消すべき理由を発見しない。
したがって、請求項1に係る発明についての特許は拒絶の査定をしなければならない特許出願に対してされたものではない。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
乗用型水田走行作業機
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】 前輪と後輪とを装備した走行車体にエンジンが搭載され、前記走行車体には操縦ハンドルおよび運転席を含む操縦部が備えられ、動力伝達系に変速装置が設けられ、且つ、前記運転席から前記変速装置を操作して走行速度を設定する変速レバーと伝達動力を断接するペダルとが設けられた乗用型水田走行作業機において、
前記変速レバーの高低変速操作の動きとペダルの断接操作の動きとを妨げることなく前記変速装置を操作して伝達動力を変化させる操作具が、前記変速レバーとペダルとは別に降車位置から操作可能な位置に設けられ、前記運転席から変速レバー又はペダルを操作するとき前記降車位置から操作可能な操作具は連係しないように構成されていることを特徴とする乗用型水田走行作業機。
【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】
本発明は、乗用型の田植機、湛水直播機等の乗用型水田走行作業機に関する。
【0002】
【従来の技術】
例えば、乗用型田植機において、エンジンからトランスミッションへの動力伝達は、テンション付与手段を有するベルト式変速装置(テンション式クラッチ)で行われており、操縦ハンドルの側方に配置した変速レバーでこのベルト変速・テンションクラッチを操作し、さらに操縦席左側に設けたクラッチペダルにてもテンションクラッチを入り切り操作できるようになっている。
【0003】
また、操縦席右側には左右の後車輪のブレーキ操作を行うブレーキペダルが設けられている。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
乗用型水田走行作業機は通常、水田走行作業及び移動等の路上走行は乗車したまま行うが、圃場への出入り及びトラックへの積み降ろし等を運転者が乗車したままで行うと、不安感や恐怖感を与えることがある。
これは、乗用型水田走行作業機が圃場での回向半径を小さくするため前後車輪の軸間距離を狭めて構成されているため、機体が前後に大きく傾斜することがあるためである。
【0005】
この為圃場への出入りやトラックへの積み降ろしを降車して行う方がやり易いことがある。
しかしながら本来備えられている変速レバー等は、乗車位置にて操作しやすい位置に設けられているため、降車して操縦する場合には操作しにくく、操作が遅れて走行車体を他物に衝突させて損傷させてしまう恐れがある。
【0006】
本発明は、乗車位置(操縦席に乗って操縦する)から操作する変速レバー等とは別個に、降車位置で変速装置を操作できるようにした乗用型水田走行作業機を提供することを目的とする。
【0007】
【課題を解決するための手段】
本発明における課題解決のための具体的手段は、前輪と後輪とを装備した走行車体にエンジンが搭載され、前記走行車体には操縦ハンドルおよび運転席を含む操縦部が備えられ、動力伝達系に変速装置が設けられ、且つ、前記運転席から前記変速装置を操作して走行速度を設定する変速レバーと伝達動力を断接するペダルとが設けられた乗用型水田走行作業機において、
前記変速レバーの高低変速操作の動きとペダルの断接操作の動きとを妨げることなく前記変速装置を操作して伝達動力を変化させる操作具が、前記変速レバーとペダルとは別に降車位置から操作可能な位置に設けられ、前記運転席から変速レバー又はペダルを操作するとき前記降車位置から操作可能な操作具は連係しないように構成されていることを特徴とするものである。
【0008】
【0009】
【作用】
本発明によると、乗用型水田走行作業機で水田走行作業を行うときは、乗車位置で変速レバーにより変速装置を操作して走行速度を設定する。一方、乗用型水田走行作業機を畦越えさせたり、トラック等に積み降ろしを行う場合には、運転者は走行車体から降りた乗降位置において、前記変速レバーとは別の操作具により前記変速装置を操作する。
【0010】
これ故、作業者が感じる乗車状態での不安感や恐怖感は解消される。
【発明の効果】
以上詳述した本発明によれば、変速装置を乗車位置にて操作できる変速レバーと降車位置で操作できる操作具とを個別に備えているので、乗用型水田走行作業機を圃場に出し入れするとき等に作業者は降車位置から変速装置を操作することで恐怖感を感じる傾斜状態の乗用型水田走行作業機に乗車することなく安定した状態で変速装置を操作し、乗用型水田走行作業機を畦越えさせたり、トラック等に積み降ろしを行うことができる。
【0011】
【実施例】
以下、本発明の実施例を図面に基づいて説明する。
図4において、1は乗用型水田走行作業機としての乗用型田植機であり、前輪2と後輪3とを装備した2軸4車輪形の走行車体4の前部にエンジン5が搭載されている。走行車体4の前後中間には、操縦ハンドル6および運転席7で構成されている操縦部8が備えられ、操縦部8の後方には、昇降シリンダ9及び昇降リンク機構10を介して苗植付装置11が昇降自在に連結されている。12はエンジン5を覆うボンネット、13は運転席7の左右側方の後輪フェンダをそれぞれ示している。
【0012】
図1〜4に示す第1実施例において、エンジン5の出力軸15の動力は、副変速装置としての多段式ベルト変速装置16を介してミッションケース17の入力軸となっている伝動軸18に伝達され、ミッションケース17内の主変速装置等のトランスミッションを介して前輪2及び後輪3に伝達されると共に、苗植付装置11等にも伝達される。
【0013】
前記多段式ベルト変速装置16はダブルテンション方式を示しており、エンジン5の出力軸15とミッションケース17の伝動軸18とにはそれぞれ2組のプーリ20、21が設けられており、プーリ20L、21Lとそれらに巻き掛けられたベルト22Lとは低速用であり、プーリ20H、21Hとそれらに巻き掛けられたベルト22Hとは高速用であり、各ベルト22L、22Hにはテンションプーリ23L、23Hが押し付け可能になっている。
【0014】
各テンションプーリ23L、23Hを取り付けたテンションアーム26L、26Hは支持軸27に枢支されており、各テンションアーム26L、26Hには支持軸27の前後位置にピン28、29が突設されていて、各前ピン28には切り換えリンク30L、30Hの一端の長孔30Aが嵌合し、各後ピン29には戻しバネ31L、31Hとクラッチリンク32の各一端が連結されている。
【0015】
前記各テンションプーリ23、テンションアーム26、戻しバネ31等によって、ベルト変速装置16のベルト22にテンションを付与するテンション付与手段24が構成されている。
また、前記支持軸27には上部にグリップ35Aを有する変速レバー35も枢支されており、その長手方向中途には係合ピン36が設けられている。37は支軸38に枢支された切り換え具で、2本のピン39L、39Hを突設し、この2本のピン39L、39H間に長孔40が形成されており、この長孔40は変速レバー35の係合ピン36に嵌合している。前記2本のピン39L、39Hにはそれぞれ切り換えリンク30L、30Hの他端が連結されている。
【0016】
図1は低速動力伝達状態を示しており、低速側テンションアーム26Lは戻しバネ31Lの引っ張り力によってテンションプーリ23Lを低速側ベルト22Lに押し付けている。この状態から変速レバー35を反時計方向(図1矢印A方向)に揺動すると、切り換え具37が支軸38を中心に回動して低速側切り換えリンク30Lを引き上げ、戻しバネ31Lに抗して低速側テンションアーム26Lを持ち上げ、ベルト22Lのテンションを減少して動力を切る。
【0017】
これと同時に、高速側切り換えリンク30Hは下降可能になり、戻しバネ31Hによって高速側テンションアーム26Hは回動し、ベルト22Hにテンションプーリ23Hを押し付けることになり、ベルト22Hにはテンションが付与されて高速動力を伝達するようになる。
クラッチリンク32の一端には高低両速のテンションアーム26の後ピン29に遊嵌した遊嵌部32Aが形成され、他端はクラッチペダル42と連動連結されている。
【0018】
クラッチを入り切り操作するペダル42はステップ44の下方において走行車体4に固定の枢支軸43にその基部(ボス部)が踏込み自在として枢支され、ステップ44から上方へ突出しており、そのボス部から爪部42Aが突出している。また、枢支軸43にはリンク45が枢支され、その先端はクラッチリンク32に連結され、このリンク45に前記爪部42Aが上から係合可能になっている。
【0019】
前記クラッチペダル42を踏み込むことにより、爪部42Aが回動してリンク45に上から係合し、クラッチリンク32を図1下方向Bに引っ張り、戻しバネ31に抗して低速側と高速側の両テンションアーム26を持ち上げ方向に回動して、高低速両方の動力を切ることができるようになっており、ここに、ベルト変速装置16は、エンジン動力をミッションに断続させるベルトテンション式のクラッチを構成している。
【0020】
46は枢支軸43に枢支された操作具で、その上部のグリップ46Bは変速レバー35より充分に前側に位置し、降車した作業員(運転者)が容易に回動操作可能な位置に配置されている。
すなわち、操作具46は前記ステップ44の前方位置でかつ乗降の障害とならない位置に、本実施の形態では降車位置にて人為操作可能なレバーで構成して備えられている。
【0021】
この操作具46は、上部にグリップ46Bを有し、基部のボス部には、クラッチペダル42と同様に爪部46Aが突出されており、この爪部46Aもリンク45に上方から係合して、クラッチリンク32を図1下方向に引っ張り、戻しバネ31に抗して低速側と高速側の両テンションアーム26を持ち上げ方向に回動して、高低速両方の動力を切ることが可能になっている。
【0022】
すなわち、操作具46を手動(人為操作)にてクラッチ及びブレーキ(ブレーキについては後述)を操作するとき、下向回動操作によりクラッチ切り、ブレーキ作動としていることから、押さえつけ方向の操作となって操作し易くされているのである。
また、クラッチ及びブレーキを降車位置にて操作する操作具46は、操縦ハンドル6から遠ざかる方向側への回動、実施例では図1の矢符Cで示す前方回動により、クラッチ切り、ブレーキ作動となるように構成されており、これによって、一方の手をハンドル6に他方の手を操作具46にかけて、相反する方向への操作でクラッチ切り、ブレーキ作動となるために確実な降車状態での操作ができるのである。
【0023】
47は操作具46のガイド部材を示しており、ボンネット12等に固定されていて、人為操作可能なレバー構成した操作具46を各操作位置にて保持可能としている。
前記持ち上げるテンションアーム26は、実際には、テンションプーリ23がベルト22を弾圧している入り側だけであり、テンションアーム26の持ち上げ量を調整することにより、テンションプーリ23によるベルト22の張り具合を変更できる。
【0024】
操作具46を図3のガイド部材47の入り位置に配置(保持)していると、テンションアーム26はテンションプーリ23を正規の力でベルト22に弾圧して、低速又は高速の動力を正常に伝達可能にし、ガイド部材47の1位置に配置(保持)すると、テンションプーリ23によるベルト22を押圧する力が減少し、ベルト22の張りを緩めてスリップを生じさせることになり、同じくガイド部材47の2位置では更にベルト22の張りを緩めてスリップ率が多くなるようになっており、このスリップにより、ベルト変速装置16が伝達する動力が減少し、走行速度が変速レバー35で設定された速度より減速側に調整され、ここに、通常作業速度(例えば植付速度は0.4m/sec〜1.0m/secである)とは別に、圃場への出し入れ(畦越え)、トラックへの積み降し等の低速走行状態、例えば0.1m/secの速度が可能とされている。
【0025】
更に、操作具46を切り位置まで回動すると、両テンションプーリ23はベルト22から離れ、クラッチペダル42を踏み込むのと同じように、ベルト変速装置16による動力伝達を切る状態が得られる。
従って、乗用型田植機を圃場に出し入れするため、運転者が降車位置でベルト変速装置16を低速側にしてゆっくりと乗用型田植機を移動しているときに、操作具46を操作すると移動速度をさらに低速にしたり又は停止したりできるのであり、この降車位置での操作具46の操作は、そのグリップ46Bが操縦ハンドル6の下方位置に備えられていることから、一方の片手はグリップ46B、他方の片手は操縦ハンドル6に掛けた状態で田植機1を操縦(操向)しながらの畦越え作業等が安定した姿勢の下で実施できるのである。
【0026】
図1,3,4には動力伝達系のブレーキ装置51が示されている。このブレーキ装置51はミッションケース17から後輪デフ装置52へ動力を伝達する回転軸53を制動するブレーキ手段54と、このブレーキ手段54を操作具46で操作する操作手段55とを有している。
すなわち、乗車位置でクラッチを操作するペダル42と、降車位置で操作可能なクラッチ及びブレーキ51を操作する操作具46を設けており、この操作具46により操作されるブレーキ51を、クラッチペダル42の近くの動力を伝達する回転部(回転軸53)に設けており、これによってミッションケース内等のブレーキを利用することなく、簡単な連結構成にてブレーキを作動させて田植機1を停止できるのである。
【0027】
具体的に説明すると、 前記ブレーキ手段54は走行車体4に取り付けられたバンドブレーキ又はディスクブレーキであり、その操作レバー56は操作手段55のボーデンワイヤ57で回動操作される。このボーデンワイヤ57のインナワイヤ57Aの一端は操作具46に固定の作動体58に挿通され、先端の掛止具59が作動体58と掛止可能になっている。
【0028】
従って、操作具46をクラッチの切り位置以上に回動してブレーキ位置にすると(図3参照)、作動体58が掛止具59を介してインナワイヤ57Aを引っ張り、操作レバー56を介してブレーキ手段54を作動させ、回転軸53を制動することができ、降車位置で人為操作可能な操作具46で走行車体4の停止を行うことができるようになる。
【0029】
図5は第2実施例を示しており、操作具46は変速レバー35と同様に支持軸27に枢支されており、この操作具46には係合体48が突出され、この係合体48は高低両テンションアーム26の後ピン29と係合可能であり、クラッチリンク32を介さずに高低両テンションアーム26の位置を変更して、ベルト22の張力を微調整し、走行車体4の変速操作をすることが可能になる。尚、この第2実施例でも前記ブレーキ装置51を併設することが可能である。
【0030】
また、クラッチペダル42とクラッチ及びブレーキを操作する単一の操作具46は、リンク45にそれぞれの爪部42A,46Aが上方から係合可能であることから、それぞれ操作するとき他方は連携しないように、爪部42A,46Aがリンク45に接当するのであり、それぞれを操作しても他方(ペダル又は操作具)が動かないため、不用意に操作具が動いて手を挟む危険はないのである。
【0031】
また、ペダル42の近傍に操作具46を設けることによって、ペダル42によるクラッチ操作と、手動によるクラッチ切りの操作関係を連携しやすくなるのである。
図6、7は第3実施例を示しており、この操作具46は支持軸27に枢支されていて、長手方向中途部に支持軸27を中心とする円弧状の板49が固着され、この円弧板49には係止孔49Aが形成されており、変速レバー35には係止孔49Aと係脱可能な係止ピン50が突設されている。この第3実施例の操作具46は若干左右に揺動可能であり、円弧板49を移動して係止孔49Aを係止ピン50に対向させかつ係合させると、操作具46を回動することにより変速レバー35を回動操作することができる。
【0032】
即ち、降車位置から変速レバー35を操作するのと同様に、レバーで示す操作具46でベルト変速装置16を変速操作でき、しかも変速レバー35に手が届かない背の低い人でも容易に操作できる。
図7に示すガイド部材47には、変速レバー35用のガイド溝47Aの他に操作具46用のガイド溝47Bが形成され、ガイド溝47Bにはガイド溝47Aと同様に高速、低速及び中立の各作用位置に保持可能であるとともに、、円弧板49を移動して係止孔49Aを係止ピン50に離脱させかつ離脱位置で退避させてこの位置で保持させておく退避位置が形成されている。
【0033】
尚、本発明は前記実施例に限定されるものではなく、種々変形することができる。例えば、ベルト変速装置16はベルト伝動手段が3組あるトリプルテンション型ベルト変速装置又は、割プーリを使ったベルト伝動手段が1組だけの無段変速型のベルト変速装置でも良い。
また、降車位置でクラッチ及びブレーキを人為操作するレバーによる操作具46はボンネット12の前側、フェンダ13の近傍等に配置することも可能であり、変速レバー35は降車位置から最も操作し難い位置に配置されているので、この変速レバー35から離れた位置にあれば、ほとんどの場合、変速レバー35よりも降車位置から操作し易い位置となる。
【図面の簡単な説明】
【図1】
本発明の第1実施例の要部を示す側面図である。
【図2】
同ベルト変速装置の分解斜視図である。
【図3】
同要部の分解斜視図である。
【図4】
乗用型田植機の側面図である。
【図5】
第2実施例を示す側面図である。
【図6】
第3実施例の側面図である。
【図7】
図6のX-X線断面図である。
【符号の説明】
1 乗用型水田走行作業機
5 エンジン
15 出力軸
16 ベルト変速装置(テンションベルト式クラッチ)
17 ミッションケース
18 伝動軸
23 テンションプーリ
26 テンションアーム
35 変速レバー
42 クラッチペダル
46 操作具
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2004-10-27 
出願番号 特願平10-264240
審決分類 P 1 651・ 121- YA (A01C)
最終処分 維持  
前審関与審査官 山田 昭次  
特許庁審判長 藤井 俊二
特許庁審判官 前田 建男
渡部 葉子
登録日 2002-07-12 
登録番号 特許第3327846号(P3327846)
権利者 株式会社クボタ
発明の名称 乗用型水田走行作業機  
代理人 安田 敏雄  
代理人 安田 敏雄  

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ