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審決分類 |
審判 全部申し立て 5項1、2号及び6項 請求の範囲の記載不備 A01C 審判 全部申し立て その他 A01C 審判 全部申し立て 2項進歩性 A01C |
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管理番号 | 1111078 |
異議申立番号 | 異議2003-72739 |
総通号数 | 63 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許決定公報 |
発行日 | 1997-01-07 |
種別 | 異議の決定 |
異議申立日 | 2003-11-07 |
確定日 | 2004-11-15 |
異議申立件数 | 1 |
訂正明細書 | 有 |
事件の表示 | 特許第3418039号「水田作業機」の請求項1、2に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 |
結論 | 訂正を認める。 特許第3418039号の請求項1ないし2に係る特許を維持する。 |
理由 |
第1.手続の経緯 特許第3418039号の請求項1及び2に係る発明についての出願は、平成7年6月16日に特許出願され、平成15年4月11日にその発明について特許権の設定登録がなされ、その後、その特許について、異議申立人井関農機株式会社より特許異議の申立てがなされ、取消しの理由が通知され、その指定期間内である平成16年8月30日に特許異議意見書が提出されると共に訂正請求がなされたものである。 第2.訂正の適否についての判断 1.訂正の内容 ア.訂正事項a(下線部訂正箇所) 特許明細書の特許請求の範囲の【請求項1】の記載について、「又、前記操作具(21)の下方操作姿勢(D)への操作で前記下降制御を開始した後、該操作具(21)が再度下方操作姿勢(D)に操作された場合には、この操作を検出して走行機体(3)から作業装置(A)に対して動力を伝えるクラッチ機構(C)を入り操作するクラッチ操作手段(F)を備えている」とあるのを、「又、前記操作具(21)の下方操作姿勢(D)への操作で前記下降制御が開始されるとともにフラグの値がセットされ、前記操作具(21)の下方操作姿勢(D)への操作で前記下降制御を開始した後、該操作具(21)が再度下方操作姿勢(D)に操作された場合には、この操作を検出してフラグの値から前記操作具(21)が再度の下降操作姿勢(D)に操作されたことを判別し、この判別結果に基づいて直ちに走行機体(3)から作業装置(A)に対して動力を伝えるクラッチ機構(C)を入り操作するクラッチ操作手段(F)を備えている」と訂正する。 イ.訂正事項b 特許明細書の段落番号【0006】の記載について、「又、前記操作具の下方操作姿勢への操作で前記下降制御を開始した後、該操作具が再度下方操作姿勢に操作された場合には、この操作を検出して走行機体から作業装置に対して動力を伝えるクラッチ機構を入り操作するクラッチ操作手段を備えている」とあるのを、「又、前記操作具の下方操作姿勢への操作で前記下降制御が開始されるとともにフラグの値がセットされ、前記操作具の下方操作姿勢への操作で前記下降制御を開始した後、該操作具が再度下方操作姿勢に操作された場合には、この操作を検出してフラグの値から前記操作具が再度の下降操作姿勢に操作されたことを判別し、この判別結果に基づいて直ちに走行機体から作業装置に対して動力を伝えるクラッチ機構を入り操作するクラッチ操作手段を備えている」と訂正する。 ウ.訂正事項c 特許明細書の段落番号【0008】の記載について、「操作具を中立姿勢から下方操作姿勢に操作した場合には制御手段が作業装置を作業高さまで下降させるものとなり、更に、この下降状態で操作具を再度下方操作姿勢に操作した場合にはクラッチ操作手段がクラッチ機構の入り操作を行うものとなる。」とあるのを、「操作具を中立姿勢から下方操作姿勢に操作した場合には制御手段が作業装置を作業高さまで下降させるとともにフラグの値がセットされ、更に、この下降状態で操作具を再度下方操作姿勢に操作した場合にはフラグの値から操作具が再度の下降操作姿勢に操作されたことを判別し、この判別結果に基づいて直ちにクラッチ操作手段がクラッチ機構の入り操作を行うものとなる。」と訂正する。 エ.訂正事項d 特許明細書の段落番号【0009】の記載について、「又、作業装置を下降させた後、操作具を下方操作姿勢に操作することでクラッチ機構が入り操作される」とあるのを、「又、作業装置を下降させた後、操作具を下方操作姿勢に操作することでフラグの値から操作具が再度の下降操作姿勢に操作されたことを判別し、この判別結果に基づいて直ちにクラッチ機構が入り操作される」と訂正する。 オ.訂正事項e 特許明細書の段落番号【0020】に記載の「基づいてに」を、「基づいて」と訂正する。 2.訂正の目的の適否、新規事項の有無及び拡張・変更の存否 (1)上記訂正事項aは、請求項1において、クラッチ操作手段に関連して、 ア.下降制御が開始されるとフラグの値がセットされるものであり、フラグの値から操作具の操作が再度のものであるかを判別するものに限定し、 イ.クラッチ機構の入り操作が、操作具の操作の判別結果に基づいて直ちに行われるものであることに限定するものであるから、上記訂正事項aは、特許請求の範囲の減縮を目的とした明細書の訂正に該当する。 そして、上記訂正事項a、は本件特許明細書の段落番号【0022】及び【0023】の記載、並びに図面の図5の記載に基づくものであるから、新規事項の追加に該当しない。 したがって、上記訂正事項aは、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。 (2)上記訂正事項bないしdは、上記訂正事項aと整合を図るものであるから、明りょうでない記載の釈明を目的とした明細書の訂正に該当し、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。 (3)上記訂正事項eは、誤記の訂正を目的とした明細書の訂正に該当し、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。 3.むすび 以上のとおりであるから、上記訂正は、特許法等の一部を改正する法律(平成6年法律第116号)附則第6条第1項の規定によりなお従前の例によるとされる、特許法第120条の4第3項において準用する平成6年法律第116号による改正前の特許法第126条第1項ただし書、第2項及び第3項の規定に適合するので、当該訂正を認める。 第3.特許異議の申立てについての判断 1.本件の請求項1及び2に係る発明 上記第2.で示したように上記訂正が認められるから、本件の請求項1及び2に係る発明(以下、「本件発明1及び2」という。)は、上記訂正に係る訂正明細書の特許請求の範囲の請求項1及び2に記載された事項により特定される以下のとおりのものである。 【請求項1】 走行機体(3)に対してアクチュエータ(8)の駆動で昇降自在に作業装置(A)を連結し、作業高さにある作業装置(A)をアクチュエータ(8)の駆動で所定高さまで上昇させる上昇制御と、この所定高さまで上昇させた作業装置(A)を作業高さまで下降させる下降制御とを行わせる操作具(21)を備えた水田作業機であって、前記操作具(21)を中立姿勢(N)と、この中立姿勢(N)から上方に変位した上方操作姿勢(U)と、この中立姿勢(N)から下方に変位した下方操作姿勢(D)とに切換自在、かつ、中立姿勢(N)に復帰付勢して構成すると共に、この操作具(21)の中立姿勢(N)から上方操作姿勢(U)への操作を検出して前記上昇制御を行わせ、この操作具(21)の中立姿勢(N)から下方操作姿勢(D)への操作を検出して前記下降制御を行わせる制御手段(E)を備え、又、前記操作具(21)の下方操作姿勢(D)への操作で前記下降制御が開始されるとともにフラグの値がセットされ、前記操作具(21)の下方操作姿勢への操作で前記下降制御を開始した後、該操作具(21)が再度下方操作姿勢(D)に操作された場合には、この操作を検出してフラグの値から前記操作具(21)が再度の下降操作姿勢(D)に操作されたことを判別し、この判別結果に基づいて直ちに走行機体(3)から作業装置(A)に対して動力を伝えるクラッチ機構(C)を入り操作するクラッチ操作手段(F)を備えている水田作業機。 【請求項2】 前記操作具(21)が、基端部を中心としてレバー端を上下方向に操作自在に構成したレバーで構成されると共に、このレバーを上下への操作方向と直交する方向へ操作自在に構成し、この直交方向への両操作端への操作によって、走行機体(3)の側方位置の圃場面に対して次行程における走行指標を描く左右のマーカ(25)の何れかを、格納姿勢から圃場面に突入する作用姿勢に切換えるマーカ操作手段(G)を備えている請求項1記載の水田作業機。 2.特許異議申立て理由の概要 申立人・井関農機株式会社は、 (1)甲第1号証(特許第3418182号公報)及び甲第3号証(特許第3418183号公報)を提示し、訂正前の本件特許の請求項1及び2に係る発明は、本件特許出願と同日の特許出願に係る発明である特許第3418182号の請求項1に係る発明及び特許第3418183号の請求項1に係る発明とそれぞれ実質的に同一であるから、その特許は、特許法第39条第2項の規定に違反してなされたものであり、 (2)訂正前の本件特許は、特許法第36条第3項ないし第5項に規定する要件を満たしていない特許出願に対してなされたものであり、 (3)また、甲第2号証の1(特開平7-46914号公報)、甲第2号証の2(特開平2-100607号公報)、甲第4号証(特開平5-260825号公報)、甲第5号証(特開平5-244804号公報)、甲第6号証(特開平7-31231号公報)を提示し、訂正前の本件特許の請求項1及び2に係る発明は、当業者が甲第2号証の1及び2、甲第4ないし6号証に記載された各発明に基いてそれぞれ容易に発明をすることができたものであるから、その特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものであり、 取り消されるべきものである、旨主張している。 3.特許法第39条第2項について (1)同日特許出願の発明 出願ア:特願2001―84391号(特許第3418182号) (甲第1号証) 出願イ:特願2001―84392号(特許第3418183号) (甲第3号証) 同日出願である上記出願アに係る特許第3418182号発明は、平成15年4月11日に設定登録がなされたものであり、その請求項1に係る発明は、次のとおりのものである。 【請求項1】 走行機体(3)に作業装置(A)をアクチュエータ(8)により昇降自在に連結し、前記作業装置(A)に動力を伝達するクラッチ機構(C)を備えて、中立姿勢(N)より上方操作姿勢(U)及び下方操作姿勢(D)に人為的に操作される操作具(21)を、ステアリングハンドル(20)の下方に備えると共に、前記操作具(21)を中立姿勢(N)に復帰付勢して構成すると共に、この操作具(21)の中立姿勢(N)から上方操作姿勢(U)への操作により、前記作業装置(A)をアクチュエータ(8)により所定高さまで上昇させる上昇制御が行われ、前記操作具(21)の中立姿勢(N)から下方操作姿勢(D)への操作により、前記作業装置(A)をアクチュエータ(8)により作業高さまで下降させる下降制御が行われるように構成し、前記操作具(21)が一度下方操作姿勢(D)に操作されてから再び下方操作姿勢(D)に操作されると、前記クラッチ機構(C)の入り操作の制御が行われるように構成してある水田作業機。(以下、「出願ア発明」という。) また、同日出願である上記出願イに係る特許第3418183号発明は、平成15年4月11日に設定登録がなされたものであり、その請求項1に係る発明は、次のとおりのものである。 【請求項1】 走行機体(3)に作業装置(A)をアクチュエータ(8)により昇降自在に連結し、走行機体(3)の側方位置の圃場面に次行程の走行指標を描く作用姿勢及び格納姿勢に姿勢変更自在な左右のマーカ(25)と、走行機体(3)に備えられた作業装置(A)に動力を伝達するクラッチ機構(C)とを備え、人為的に操作される操作具(21)をステアリングハンドル(20)の下方に備えて、前記操作具(21)を中立姿勢(N)に復帰付勢し、この中立姿勢(N)より上下方向及び前後方向に操作自在に構成すると共に、前記操作具(21)の中立姿勢(N)から上方向への操作により、前記作業装置(A)をアクチュエータ(8)により所定高さまで上昇させる上昇制御が行われ、前記操作具(21)の中立姿勢(N)から下方向への操作により、前記作業装置(A)をアクチュエータ(8)により作業高さまで下降させる下降制御が行われ、更に前記操作具(21)が一度下方操作姿勢(D)に操作されてから再び下方操作姿勢(D)に操作されると、前記クラッチ機構(C)の入り操作の制御が行われるように構成し、前記操作具(21)の中立姿勢(N)から前後方向への操作により、前記左右のマーカ(25)の姿勢変更の選択が行われるように構成してある水田作業機。(以下、「出願イ発明」という。) (2)対比・判断 ア.本件発明1について 本件発明1と出願ア発明とを対比すると、両者は少なくとも以下の相違点aにおいて相違する。 相違点a:上昇制御及び下降制御が行われる際の作業装置の高さに関して、本件発明1においては、上昇制御が行われる際の作業装置の高さが作業高さであり、下降制御が行われる際の作業装置の高さが所定高さであるのに対し、出願ア発明においては作業装置の高さが特定されていない点。 上記相違点aについて検討する。 出願ア発明において、上昇制御及び下降制御が行われる際の作業装置の高さが特定されていないことは、任意の高さにある作業装置に対して上昇制御及び下降制御が可能であることを意味するものと認められる。 よって、上記相違点aは設計上の微差であるとは認められず、本件発明1と出願ア発明とが実質的に同一であるとすることはできない。 イ.本件発明2について 本件発明2と、出願イ発明とを対比すると、両者は少なくとも以下の相違点bにおいて相違する。 相違点b:上昇制御及び下降制御が行われる際の作業装置の高さに関して、本件発明2においては、上昇制御が行われる際の作業装置の高さが作業高さであり、下降制御が行われる際の作業装置の高さが所定高さであるのに対し、出願イ発明においては作業装置の高さが特定されていない点。 上記相違点bについて検討する。 出願イ発明において、上昇制御及び下降制御が行われる際の作業装置の高さが特定されていないことは、任意の高さにある作業装置に対して上昇制御及び下降制御が可能であることを意味するものと認められる。 よって、上記相違点bは設計上の微差であるとは認められず、本件発明2と出願イ発明とが実質的に同一であるとすることはできない。 4.特許法第29条第2項について (1)刊行物記載の発明 刊行物ア:特開平5-260825号公報(甲第4号証) 刊行物イ:特開平7-46914号公報(甲第2号証の1) 刊行物ウ:特開平2-100607号公報(甲第2号証の2) 刊行物エ:特開平5-244804号公報(甲第5号証) 刊行物オ:特開平7-31231号公報(甲第6号証) ア.刊行物アに記載された発明 上記刊行物アには、次の事項が記載されている。 (ア-1)「走行機体に駆動昇降自在に苗植付装置(2)を連結し、走行機体側から植付クラッチ(21)を介して断続自在に前記苗植付装置(2)に動力を供給するよう構成するとともに、前記苗植付装置(2)の左右両側に外方に突出する作用姿勢と機体内方側に引退する格納姿勢とに切り換え自在に一対の線引きマーカ(23R),(23L)を設け、各線引きマーカ(23R),(23L)を格納姿勢でロック保持するロック機構(27R),(27L)を各別にロック解除させて、選択的に線引きマーカ(23R),(23L)を作用姿勢に切り換えるよう構成し、かつ、前記苗植付装置(2)を強制上昇させる状態と接地下降させる状態とに切り換え自在な昇降操作スイッチ(SW1)を備えてある田植機であって、前記昇降操作スイッチ(SW1)の操作形態を判別する操作形態判別手段(C)を備え、この操作形態判別手段(C)の判別結果に基づいて、前記苗植付装置(2)の下降作動に伴って前記植付クラッチ(21)を自動で入り操作させる」(第2ページ第1欄第22〜39行) (ア-2)「苗植付装置2は前後軸芯Y周りで回動自在にフレーム兼用の植付伝動ケース4に支持され、この植付伝動ケース4に、一定ストロークで往復横移動する苗のせ台5、苗のせ台5の下端部から一株づつ植付け用苗を取り出して圃場に植付ける複数の植付機構6、左右に並列配備した3個の接地フロート7等を備えてなり、油圧シリンダ10の伸縮駆動により昇降作動するよう構成してある。」(第3ページ第4欄第6〜13行) (ア-3)「操縦部パネル17に設けた押し操作式昇降スイッチSW1により、上昇作動と下降作動とを交互に現出できるよう構成してある。」(第3ページ第4欄第20〜22行) (ア-4)「制御装置13は以下のように制御を実行する。図4、図5に植付け作業における制御フローチャートを示す。」(第4ページ第5欄第24〜26行) (ア-5)「〔別実施例〕前記昇降操作スイッチSW1は押し操作式のものに代えて揺動操作式に構成してもよく、このとき前記ステップ5及びステップ9における操作形態の判別は、操作方向の違いによって判別するようにしてもよい。」(第4ページ第6欄第16〜20行) 上記摘記事項(ア-1)ないし(ア-5)並びに図4及び5の記載から、上記刊行物アには、以下の発明が記載されているものと認められる。 「走行機体に対して油圧シリンダ10の駆動で昇降自在に苗植付装置2を連結し、作業高さにある苗植付装置2を油圧シリンダ10の駆動で所定高さまで上昇させる上昇制御と、この所定高さまで上昇させた苗植付装置2を作業高さまで下降させる下降制御とを行わせる昇降操作スイッチSW1を備えた田植機であって、この昇降操作スイッチSW1の一方側への揺動操作を検出して前記上昇制御及び下降制御を行わせ、前記昇降操作スイッチSW1の他方側への揺動操作で前記下降制御に伴って自動的に走行機体から苗植付装置2に対して動力を伝える植付クラッチ21を入り操作させる制御装置13を備えている田植機。」(以下、「刊行物ア発明」という。) イ.刊行物イに記載された発明 上記刊行物イには、次の事項が記載されている。 (イ-1)「図15に対地作業機の一例である乗用型田植機を示している。」(第3ページ第3欄第23〜25行) (イ-2)「機体操縦部におけるステアリングハンドル23の左下方側に第2操作具36が設けられ、この第2操作具36は戻し付勢された中立位置から上方側に揺動操作すると、昇降操作スイッチ35が入り作動し、その入り作動毎に、苗植付装置3を接地下降させる状態と、最大上昇位置まで苗植付装置3を上昇させる状態とを交互に現出させることができる。尚、この第2操作具36を中立位置から下方側に揺動操作すると、植付クラッチ12を入り状態に切り換えるためのクラッチスイッチ25を操作するよう構成してある。」(第3ページ第4欄第50行〜第4ページ第5欄第9行) 上記摘記事項(イ-1)及び(イ-2)から、上記刊行物イには、以下の発明が記載されているものと認められる。 「中立位置と、この中立位置から上方に変位した上方操作姿勢と、この中立位置から下方に変位した下方操作姿勢とに切換自在、かつ、前記中立位置に復帰付勢して構成された第2操作具36を備え、前記第2操作具36の中立位置から上方操作姿勢への操作毎に、苗植付装置3を接地下降させる状態と、最大上昇位置まで前記苗植付装置3を上昇させる状態とを交互に現出させ、前記第2操作具36の中立位置から下方操作姿勢への操作により、植付クラッチ12を入り状態に切り換えるようにした乗用型田植機。」(以下、「刊行物イ発明」という。) ウ.刊行物ウに記載された発明 上記刊行物ウには、次の事項が記載されている。 (ウ-1)「本発明の実施例を農作業機の1つである乗用型田植機により図面に基づいて説明する。」(第2ページ左下欄第6〜7行) (ウ-2)「操作レバー(8)を上昇位置(U)に操作すると、制御装置(12)により油圧シリンダ(6)に対する制御弁(9)が作動油供給側に操作され苗植付装置(4)が上昇操作されるのであり、操作レバー(8)を下降位置(D)に操作すると制御弁(9)が排油側に操作されて苗植付装置(4)が下降して行く。又、(N)は中立停止位置である。」(第2ページ左下欄第19行〜右下欄第6行) (ウ-3)「操作レバー(8)を植付位置(A)に操作すると切換弁(14)がクラッチ入側(14b)(排油側)に操作されて、シフト部材(18)がスプリング(21)の付勢力で紙面右方に移動して行く。この場合に、切換弁(14)からの排油路(23)に絞り部(24)が設けられて、油室(18b)から排油される作動油が絞り作用を受けるようにしている。これにより、シフト部材(18)は紙面左方(植付クラッチ(13)切側)への移動速度よりも低速で紙面右方に移動して行き、シフト部材(18)の凸部(18a)がベベルギヤ(17)の凸部(17a)に咬み合って植付クラッチ(13)が入状態となるのである。」(第3ページ右上欄第19行〜左下欄第11行) 上記摘記事項(ウ-1)ないし(ウ-3)及び第2図の記載から、上記刊行物ウには、以下の発明が記載されているものと認められる。 「操作レバー(8)の中立停止位置(N)から上昇位置(U)への操作を検出して苗植付装置(4)を上昇させ、この操作レバー(8)の中立停止位置(N)から下降位置(D)への操作を検出して前記苗植付装置(4)を下降させる制御手段を備え、また、操作レバー(8)が下降位置(D)を越えて植付位置(A)に操作された場合には、この操作を検出して走行機体から苗植付装置(4)に対して動力を伝える植付クラッチ(13)を入操作させる切換弁(14)を備えた乗用型田植機。」(以下、「刊行物ウ発明」という。) エ.刊行物エに記載された発明 上記刊行物エには、次の事項が記載されている。 (エ-1)「図4に乗用型田植機を示している。」(第3ページ第3欄第15〜16行) (エ-2)「苗植付装置2は、・・・操縦部パネル17に設けた押し操作式昇降操作スイッチSW1により、上昇作動と下降作動とを交互に現出できるよう構成してある。」(第3ページ第3欄第19〜36行) (エ-3)「前記苗植付装置2が接地下降している状態において前記昇降操作スイッチSW1の操作により苗植付装置2を上昇させる上昇制御手段Aと、苗植付装置2が上昇位置にある状態からの昇降操作スイッチSW1の操作に基づいて苗植付装置2を下降させる下降制御手段Bと、前記上昇制御手段Aの作動に伴って植付クラッチ22を切り操作させ、かつ、前記下降制御手段Bの作動後における昇降操作スイッチSW1の操作に基づいて前記植付クラッチ22を入り作動させるクラッチ操作手段Cとを備えてある。」(第3ページ第4欄第18〜27行) 上記摘記事項(エ-1)ないし(エ-3)から、上記刊行物エには、以下の発明が記載されているものと認められる。 「苗植付装置2が接地下降している状態において押し操作式の昇降操作スイッチSW1の操作により苗植付装置2を上昇させる上昇制御手段Aと、前記苗植付装置2が上昇位置にある状態からの前記昇降操作スイッチSW1の操作に基づいて苗植付装置2を下降させる下降制御手段Bと、前記下降制御手段Bの作動後における前記昇降操作スイッチSW1の操作に基づいて植付クラッチ22を入り作動させるクラッチ操作手段Cとを備えた田植機。」(以下、「刊行物エ発明」という。) オ.刊行物オに記載された発明 上記刊行物オには、次の事項が記載されている。 (オ-1)「走行機体に対して昇降自在に苗植付装置(2)を連結し、走行機体側から作業クラッチ(8)を介して前記苗植付装置(2)に動力を伝達するよう構成するとともに、前記苗植付装置(2)の左右両側に次回作業行程における圃場面に走行指標を描く線引きマーカ(12),(12)を外方突出する作用姿勢に設定可能な作用状態と機体内方に引退する姿勢に保持する格納状態とに切り換え自在に設けてある田植機の操作構造であって、走行機体の操縦部(46)に、中立位置から所定方向の正逆揺動操作によって前記各線引きマーカ(12),(12)のうちのいずれかを選択的に作用状態に切り換えるとともに、前記所定方向と交差する方向に揺動操作することによって、前記作業クラッチ(8)を入り操作する操作具(31)を備えてある田植機の操作構造。」(第2ページ第1欄第2〜16行) (オ-2)「操作具31は、ハンドルポスト33に固定のブラケット34に縦軸芯Y周りで回動自在に支持された回動支軸35に対して異径嵌合によって一体回動自在並びに上下方向に相対回動自在に握り部36を連係させてあり、回動支軸35に一体形成したアーム37が、横軸芯X2周りで回動自在にブラケット34に支持されたマーカ操作具38に接当係合により連動回動させるよう構成してある。そして、中立位置から前記回動支軸35の軸芯周りでの正逆回動操作で、マーカ操作具38に引き操作によって操作ワイヤ39,39を介して連係される左右ロック機構30,30が選択的に解除操作されるよう構成してある。 【0011】そして、この操作具31は、前記回動支軸35の軸芯周りでの正逆回動操作と交差する方向、即ち、上下方向の回動操作によって作業クラッチ8の入り切り操作を行えるよう構成してある。」(第3ページ第4欄第2〜17行) 上記摘記事項(オ-1)及び(オ-2)から、上記刊行物オには、以下の発明が記載されているものと認められる。 「操作具31が、基端部を中心としてレバー端を上下方向に操作自在に構成したレバーで構成されると共に、このレバーを上下への操作方向と直交する方向へ操作自在に構成し、この直交方向への両操作端への操作によって、走行機体の側方位置の圃場面に対して次行程における走行指標を描く左右の線引きマーカ21の何れかを、格納姿勢から圃場面に突入する作用姿勢に切換えるマーカ操作手段を備えている田植機。」(以下、「刊行物オ発明」という。) (2)対比・判断 ア.本件発明1について 本件発明1と刊行部ア発明とを対比すると、刊行物ア発明における「走行機体」、「油圧シリンダ10」、「苗植付装置2」、「上昇制御」、「下降制御」、「昇降操作スイッチSW1」、「田植機」、「植付クラッチ21」が、本件発明1における「走行機体」、「アクチュエータ」、「作業装置」、「上昇制御」、「下降制御」、「操作具」、「水田作業機」、「クラッチ機構」にそれぞれ対応する。 そして、刊行部ア発明における「制御装置13」と本件発明1における「制御手段及びクラッチ操作手段」とは、作業装置(苗植付装置2)の上昇制御及び下降制御並びにクラッチ機構(植付クラッチ21)の入り操作を行う点において共通している。 よって、両者の間には、少なくとも以下の相違点がある。 相違点:操作具の操作に関して、本件発明1においては、上昇制御に対して中立姿勢から上方操作姿勢への操作を行い、下降制御及びクラッチ機構の入り操作に対して中立姿勢から下方操作姿勢への操作を行うのに対し、刊行物ア発明においては、上昇制御及び下降制御に対して一方側への揺動操作を行い、クラッチ機構の入り操作に対して他方側への揺動操作を行う点。 上記相違点について検討する。 刊行物イ発明は、刊行物ア発明と同様に、上昇制御及び下降制御に対して一方側への揺動操作を行い、クラッチ機構の入り操作に対して他方側への揺動操作を行うものである。 刊行物ウ発明は、上昇制御に対して中立姿勢から上方操作姿勢への操作を行い、下降制御に対して中立姿勢から下方操作姿勢への操作を行うものであるが、クラッチ機構の入り操作については、下降制御のための下降位置(D)を越えて植付位置(A)に操作するものであり、中立姿勢から下方操作姿勢への操作を行うものではない。 刊行物エ発明は、上昇制御、下降制御、クラッチ機構の入り操作の全てに対して同様の押し操作を行うものである。 刊行物オ発明は、上昇制御、下降制御、クラッチ機構の入り操作を、単一の操作具の操作により行うものではない。 すなわち、上記相違点における本件発明1が有する構成は、上記刊行物イないしオには記載されていない。 また、上記刊行物アないしオには、下降制御、クラッチ機構の入り操作のための操作具の操作を同一のものとし、上昇制御のための前記操作具の操作を異なるものとすることを示唆する記載もないので、上記相違点における本件発明1が有する構成を、上記刊行物ア発明ないし刊行物オ発明から、当業者が容易に想到することができたとは認められない。 そして、本件発明1は、上記相違点における本件発明1が有する構成により明細書記載の「ワンタッチの操作で作業装置を昇降させるという良好な面を損なうことなく、誤操作を発生させずに苗植付装置の昇降を確実に行い、又、クラッチ機構の操作で任意のタイミングで作業装置の駆動を開始して能率の高い作業を可能にする」(訂正明細書段落【0011】参照。)という顕著な効果を奏するものと認められる。 したがって、本件発明1は刊行物ア発明ないし刊行物オ発明に基づいて当業者が容易に発明できたものとすることができない。 イ.本件発明2について 本件発明2は、本件発明1の構成にさらに限定を加えたものに相当するから、上記ア.で説示したと同様の理由により、刊行物ア発明ないし刊行物オ発明に基づいて当業者が容易に発明できたものとすることができない。 5.特許法第36条について (1)第5項第1号について 請求項1の「作業高さにある作業装置(A)をアクチュエータ(8)の駆動で所定高さまで上昇させる上昇制御と、この所定高さまで上昇させた作業装置(A)を作業高さまで下降させる下降制御」という記載から、本件発明1の上昇制御、下降制御における作業装置の移動範囲は、作業高さから所定高さまでの上昇、所定高さから作業高さまでの下降をそれぞれ意味するものと認められ、任意の高さからの上昇、下降を含むものとは認められない。 よって、「操作具(21)の中立姿勢(N)から上方操作姿勢(U)への操作を検出して」行われる「前記上昇制御」、「操作具(21)の中立姿勢(N)から下方操作姿勢(D)への操作を検出して」行われる「前記下降制御」も、任意の高さからの上昇、下降を含むものとは認められない。 したがって、本件発明1が発明の詳細な説明に記載されたものではないとすることはできない。 (2)第4項について 訂正明細書段落【0021】の「切換レバー21が上方操作姿勢Uに操作された場合には・・・上昇処理を行い・・・(♯101〜♯105ステップ)」という記載から、制御動作のフローチャートを示した図6において、♯102「レバーを上方に操作?」がYesの場合に♯104「上昇処理」に繋がる流れとなるべきであることは明らかである。 よって、図6の♯102「レバーを上方に操作?」に記載された「Yes」と「No」とが、本来の記載とは逆に記載された誤記であることは明らかである。 したがって、発明の詳細な説明が、本件発明1を当業者が実施できる程度に記載されていないとすることはできない。 6.むすび 以上のとおりであるから、特許異議申立ての理由によっては本件発明1及び2についての特許を取り消すことはできない。 また、他に本件発明1及び2についての特許を取り消すべき理由を発見しない。 したがって、本件発明1及び2についての特許は拒絶の査定をしなければならない特許出願に対してされたものと認めない。 よって、特許法等の一部を改正する法律(平成6年法律第116号)附則第14条の規定に基づく、特許法等の一部を改正する法律の施行に伴う経過措置を定める政令(平成7年政令第205号)第4条第2項の規定により、結論のとおり決定する。 |
発明の名称 |
(54)【発明の名称】 水田作業機 (57)【特許請求の範囲】 【請求項1】 走行機体(3)に対してアクチュエータ(8)の駆動で昇降自在に作業装置(A)を連結し、作業高さにある作業装置(A)をアクチュエータ(8)の駆動で所定高さまで上昇させる上昇制御と、この所定高さまで上昇させた作業装置(A)を作業高さまで下降させる下降制御とを行わせる操作具(21)を備えた水田作業機であって、前記操作具(21)を中立姿勢(N)と、この中立姿勢(N)から上方に変位した上方操作姿勢(U)と、この中立姿勢(N)から下方に変位した下方操作姿勢(D)とに切換自在、かつ、中立姿勢(N)に復帰付勢して構成すると共に、この操作具(21)の中立姿勢(N)から上方操作姿勢(U)への操作を検出して前記上昇制御を行わせ、この操作具(21)の中立姿勢(N)から下方操作姿勢(D)への操作を検出して前記下降制御を行わせる制御手段(E)を備え、又、前記操作具(21)の下方操作姿勢(D)への操作で前記下降制御が開始されるとともにフラグの値がセットされ、前記操作具(21)の下方操作姿勢への操作で前記下降制御を開始した後、該操作具(21)が再度下方操作姿勢(D)に操作された場合には、この操作を検出してフラグの値から前記操作具(21)が再度の下降操作姿勢(D)に操作されたことを判別し、この判別結果に基づいて直ちに走行機体(3)から作業装置(A)に対して動力を伝えるクラッチ機構(C)を入り操作するクラッチ操作手段(F)を備えている水田作業機。 【請求項2】 前記操作具(21)が、基端部を中心としてレバー端を上下方向に操作自在に構成したレバーで構成されると共に、このレバーを上下への操作方向と直交する方向へ操作自在に構成し、この直交方向への両操作端への操作によって、走行機体(3)の側方位置の圃場面に対して次行程における走行指標を描く左右のマーカ(25)の何れかを、格納姿勢から圃場面に突入する作用姿勢に切換えるマーカ操作手段(G)を備えている請求項1記載の水田作業機。 【発明の詳細な説明】 【0001】 【産業上の利用分野】 本発明は、走行機体に対してアクチュエータの駆動で昇降自在に作業装置を連結し、作業高さにある作業装置をアクチュエータの駆動で所定高さまで上昇させる上昇制御と、この所定高さまで上昇させた作業装置を作業高さまで下降させる下降制御とを行わせる操作具を備えた水田作業機に関し、詳しくは、操作具による制御動作の改良に関する。 【0002】 【従来の技術】 従来、上記のように構成された水田作業機として特開平6-237612号公報に示されるものが存在し、この従来例ではステアリングハンドルの近傍位置の揺動レバー式の昇降操作スイッチの操作によって作業装置としての苗植付装置を最大上昇位置まで強制上昇させる状態と、接地下降させる状態とに切換え自在に構成されている。 【0003】 【発明が解決しようとする課題】 従来例では、運転座席の側部位置の昇降レバーの揺動操作で苗植付装置の昇降を行えるよう構成されると共に、前述のように苗植付装置の上昇と下降とを可能にする専用の昇降操作スイッチを備えることによって、例えば、枕地での機体旋回開始時には昇降操作スイッチのワンタッチ操作で苗植付装置の上昇を開始しながらステアリング操作を可能にし、又、旋回終了時には昇降操作スイッチのワンタッチ操作で苗植付装置の下降を開始しながらステアリング操作を可能にするので、昇降レバーのよう苗植付装置の昇降を行う際にも決まったストロークの操作を行わずに済み、操作が単純で作業能率を向上できるという良好な面を有するものとなっている。又、この昇降操作スイッチによって苗植付装置を下降させた際にマーカスイッチが操作されていると、苗植付装置が接地すると同時に植付けクラッチを入り操作して苗植付装置を駆動できるように構成されている。 【0004】 しかし、従来例のように昇降操作スイッチの反復操作によって苗植付装置が昇降するものでは、昇降操作スイッチの操作時に苗植付装置が上昇するのか、苗植付装置が下降するのか判別し難い面がある。特に、走行機体の後端に苗植付装置を連結したものでは作業姿勢の作業者からは苗植付装置が上昇位置にあるのか下降位置にあるのか認識するのに困難な面があり、例えば、枕地での旋回終了時に苗植付装置の下降を行ったにも拘らず、作業者が下降操作を行ったことを忘れ、昇降スイッチを再び操作して苗植付装置を上昇させることもあり改善の余地がある。又、田植機では、苗列の端部を揃える目的からも苗植付装置の駆動を開始するタイミングを任意に設定したい場合もあり、この点も改善の余地がある。 【0005】 本発明の目的は、ワンタッチの操作で作業装置を昇降させるという良好な面を損なうことなく、誤操作を発生させずに苗植付装置の昇降を確実に行い能率の高い作業を可能にする水田作業機を合理的に構成する点にある。 【0006】 【課題を解決するための手段】 本発明の特徴(請求項1)は冒頭に記したように、走行機体にアクチュエータで昇降自在に作業装置を連結し、作業高さにある作業装置をアクチュエータで所定高さまで上昇させる上昇制御と、この所定高さまで上昇させた作業装置を作業高さまで下降させる下降制御とを行わせる操作具を備えた水田作業機において、前記操作具を中立姿勢と、この中立姿勢から上方に変位した上方操作姿勢と、この中立姿勢から下方に変位した下方操作姿勢とに切換自在、かつ、中立姿勢に復帰付勢して構成すると共に、この操作具の中立姿勢から上方操作姿勢への操作を検出して前記上昇制御を行わせ、この操作具の中立姿勢から下方操作姿勢への操作を検出して前記下降制御を行わせる制御手段を備え、又、前記操作具の下方操作姿勢への操作で前記下降制御が開始されるとともにフラグの値がセットされ、前記操作具の下方操作姿勢への操作で前記下降制御を開始した後、該操作具が再度下方操作姿勢に操作された場合には、この操作を検出してフラグの値から前記操作具が再度の下降操作姿勢に操作されたことを判別し、この判別結果に基づいて直ちに走行機体から作業装置に対して動力を伝えるクラッチ機構を入り操作するクラッチ操作手段を備えている点にあり、その作用、及び、効果は次の通りである。 【0007】 又、本発明は前記操作具が、基端部を中心としてレバー端を上下方向に操作自在に構成したレバーで構成されると共に、このレバーを上下への操作方向と直交する方向へ操作自在に構成し、この直交方向への両操作端への操作によって、走行機体の側方位置の圃場面に対して次行程における走行指標を描く左右のマーカの何れかを、格納姿勢から圃場面に突入する作用姿勢に切換えるマーカ操作手段を備えている点にも特徴(請求項2)を有し、その作用、及び、効果は次の通りである。 【0008】 【作用】 上記特徴(請求項1)によると、操作具を中立姿勢から上方操作姿勢に操作した場合には制御手段が作業装置を所定の高さまで上昇させ、操作具を中立姿勢から下方操作姿勢に操作した場合には制御手段が作業装置を作業高さまで下降させるとともにフラグの値がセットされ、更に、この下降状態で操作具を再度下方操作姿勢に操作した場合にはフラグの値から操作具が再度の下降操作姿勢に操作されたことを判別し、この判別結果に基づいて直ちにクラッチ操作手段がクラッチ機構の入り操作を行うものとなる。 【0009】 つまり、操作具の操作方向と作業装置の昇降方向とが一致するので誤操作を生じ難く、例えば、操作具の操作によって作業装置を下降させた後に誤って作業装置を下降させる操作を行った場合にも操作方向が等しい下方に向かう方向なので作業装置を上昇させることもない。又、作業装置を下降させた後、操作具を下方操作姿勢に操作することでフラグの値から操作具が再度の下降操作姿勢に操作されたことを判別し、この判別結果に基づいて直ちにクラッチ機構が入り操作されるので、任意のタイミングで作業装置の駆動を開始できるものとなる。 【0010】 請求項2によると、操作具を上下方向と直交する方向の操作端に操作することによって、マーカ操作手段がその操作位置に対応した側のマーカを作用姿勢に切換えるものとなる。つまり、必要な側のマーカを作用姿勢に切換える場合にも操作具から手を放さずに済み、該操作具以外にスイッチ等を備えるものと比較すると、マーカの操作を楽に行えるものとなり、又、マーカを必要としない場合には操作具を操作しないことで済む。 【0011】 【発明の効果】 従って、ワンタッチの操作で作業装置を昇降させるという良好な面を損なうことなく、誤操作を発生させずに苗植付装置の昇降を確実に行い、又、クラッチ機構の操作で任意のタイミングで作業装置の駆動を開始して能率の高い作業を可能にする水田作業機が合理的に構成された(請求項1)。 【0012】 又、マーカが必要な場合にも、簡便な操作で任意のタイミングで任意の側のマーカを使用できるものとなった(請求項2)。 【0013】 【実施例】 以下、本発明の実施例を図面に基づいて説明する。図1に示すように、ステアリング操作される駆動型の前車輪1、及び、駆動型の後車輪2を備えた走行機体3の前部にエンジン4を搭載すると共に、この走行機体3の後部にエンジン4からの動力が伝えられる静油圧式の無段変速装置5、及び、ミッションケース6を配置し、又、走行機体3の中央部に運転座席7を配置し、走行機体3の後端部に対しアクチュエータの一例としての昇降シリンダ8で駆動昇降するリンク機構9を介して作業装置Aの一例としての苗植付装置Anを連結して水田作業機の一例としての田植機を構成する。 【0014】 前記運転座席7の右側部に苗植付装置Anの昇降制御とクラッチ機構としての植付クラッチCの入り切り操作とを行う昇降レバー10を備え、又、運転座席7の左側部には変速レバー11を備えている。又、前記植付クラッチCは、前記ミッションケース6に内蔵され、このミッションケース6から苗植付装置Anに対して動力を伝える伝動軸12が決まった回転位相にある場合にのみ切り操作を許容して苗植付装置Anの植付アーム(後述する)が圃場面との接触を回避した姿勢で動力を遮断するよう構成されている。 【0015】 苗植付装置Aはマット状苗Wを載置し、かつ、その上端側が走行機体3の前方側に傾斜する姿勢の苗載せ台13、前記伝動軸12からの動力が伝えられる伝動ケース14、この伝動ケース14からチェーンケース15を介して伝えられる動力で回転するロータリケース16、このロータリケース16に一対ずつ備えられた植付アーム17、複数の整地フロート18夫々を備えて複数条植用に構成されると共に、左右の両側部位置にラインマーカ25,25を備えている。 【0016】 又、運転座席7の前方位置のステアリングハンドル20のポスト部の右側面には操作具としての切換レバー21を備えており、この切換レバー21は図2に示すように、略水平の中立姿勢Nとなるようバネ(図示せず)で復帰する方向に付勢されると共に、この中立姿勢Nを基準にその端部を上方に変位させた上方操作姿勢Uと、その端部を下方に変位させた下方操作姿勢Dと、その端部を後方に変位させた左マーカ操作姿勢Lと、その端部を前方に変位させた右マーカ操作姿勢Rとに操作自在となるように、その基端部を中心として十字方向に揺動自在に構成されている。 【0017】 昇降レバー10は図3に示すようにガイド22に形成された経路に沿って操作するよう構成され、該昇降レバー10を経路内の「下降」位置より前方側に設定すると苗植付装置Anを下降させ、「上昇」位置より後方側に設定すると苗植付装置Anを上昇させ、「中立」位置に設定すると苗植付装置Anをそのレベルに維持するよう制御系と連係し、又、該昇降レバー10を「入」位置に設定すると植付クラッチCを入り操作すると共に、苗植付装置Anに備えた整地フロート18が接地する状態で所定の対圃場高さを維持する自動昇降制御が行われ、「切」位置に設定すると植付クラッチCを切り操作し、更に、該昇降レバー10を「自動」位置に設定すると前記切換レバー21の操作に従って苗植付装置Anの昇降を許容すると同時に苗植付装置Anの上昇時には植付クラッチCを自動的に切り操作する。 【0018】 図4に示すように、前記左右のラインマーカ25,25は苗植付装置Anのフレーム部26に対して前後向き姿勢の支軸27周りに揺動自在に支承されると共に、倒伏状態の作用姿勢に保持するバネ28と、のバネ28の付勢力に抗して起立状態の格納姿勢に保持するようラインマーカ25のピン29に係合する揺動型のロック部材30とを有し、又、苗植付装置Anの上昇時に前記リンク機構9の後端位置の部材と苗植付装置Anとの相対姿勢の変化を利用して左右夫々のものとも格納姿勢に切換えるワイヤ31、及び、ロック部材30をロック解除姿勢に切換える左右一対の電磁ソレノイド32,32夫々を備えている。 【0019】 図1に示すように、運転座席7の下方位置にマイクロプロセッサを備えた制御装置33が配置され、図5に示すように、この制御装置33には昇降レバー10の操作位置を検出するレバーセンサ34、昇降レバー10が「自動」位置に操作されたことを検出する自動スイッチ35、切換レバー21の上方操作姿勢Uへの操作を検出する上昇スイッチ36、該切換レバー21の下方操作姿勢Dへの操作を検出する下降スイッチ37、該切換レバー21の左マーカ操作姿勢Lへの操作を検出する左マーカスイッチ38、該切換レバー21の右マーカ操作姿勢Rへの操作を検出する右マーカスイッチ39、図1に示す如く、リンク機構9の基端部に備えられ作業装置の対機体高さを計測するポテンショメータ型のリンクセンサ40、苗植付装置Anの自動昇降制御感度を設定するポテンショメータ型の制御感度設定器41、前記整地フロート18のうち左右方向での中央のものの前部の昇降方向への傾斜姿勢を計測するポテンショメータ型のフロートセンサ42夫々からの信号が入力される。尚、図5に示す如く、前記整地フロート18のうち左右方向で中央位置のものはその後部を横向き姿勢の軸43周りで揺動自在に苗植付装置Anに支持されると共に、その前端を屈折型のリンク片44を介して苗植付装置Anに支持され、又、このフロート前部の上下方向への揺動量を前記フロートセンサ42で計測するものとなっている。 【0020】 又、この制御装置33は油圧シリンダ8を制御する電磁弁45、植付クラッチCを操作する電動モータ46を制御するリレー47、左側、及び、右側のラインマーカ25に対する電磁ソレノイド32夫々に対する出力系を有し、昇降レバーを「入」位置に設定した状態では、制御感度設定器41で設定される整地フロート18の軸43周りでの揺動姿勢が維持されるようフロートセンサ42からの信号をフィードバックしながら苗植付装置Anの昇降制御を行うことで苗植付装置Anの対圃場面高さを維持する自動昇降制御が行われる。又、この制御装置33では、切換レバー21の操作によって苗植付装置Anの昇降、ラインマーカ25,25の操作、植付クラッチCの入り操作を行えるものであり、その制御動作を以下のフローチャートに基づいて説明する。 【0021】 つまり、この制御では自動スイッチ35からの信号に基づいて昇降レバー10が「自動」位置に設定されていると判別した場合に、上昇スイッチ36、下降スイッチ37、左マーカスイッチ38、右マーカスイッチ39夫々からの信号に基づいて切換レバー21の姿勢を判別し、切換レバー21が上方操作姿勢Uに操作された場合にはフロートセンサ42からの信号に基づいて苗植付装置Anが作業高さにある場合にのみ苗植付装置Anを上昇させる上昇処理を行い、フラグを「0」にセットする(#101〜#105ステップ)。尚、この上昇処理では電磁弁45の操作で昇降シリンダ8に圧油を供給して苗植付装置Anの上昇を行うと共に、リンクセンサ40からの信号に基づいて苗植付装置Anの対機体高さが、予め設定された限界としての上限高さに達したことが判別されると上昇制御を終了する制御が行われる。 【0022】 次に、切換レバー21が下方操作姿勢Dに操作された場合には、タイマを作動させ、フラグが「0」であり、リンクセンサ40からの信号に基づいて苗植付装置Anが上限高さにある場合にのみ苗植付装置Anを下降させる下降処理を行いフラグを「1」にセットし(#106〜#111ステップ)、この下降時においても切換レバー21が3秒以上下方操作姿勢Dに操作され続けたことをタイマのカウント結果から判別できた場合には苗植付装置Anの整地フロート18が接地したことをフロートセンサ42からの信号で検出したタイミングで植付クラッチCを入り操作する(#112、#113ステップ)。尚、この下降処理では電磁弁45の操作で昇降シリンダ8から排油を行って苗植付装置Anの下降を行うと共に、フロートセンサ42からの信号に基づいて整地フロート18が圃場面に接する作業高さまで下降すると下降制御を終了する制御が行われる。そして、苗植付装置Anの上昇処理を行う#104ステップ、及び、苗植付装置Anの下降処理を行う#110ステップ夫々で制御手段Eが構成されている。 【0023】 又、切換レバー21が下方操作姿勢Dに操作されて苗植付装置Anの下降制御が開始された後に切換レバー21が再度下方操作姿勢Dに操作された場合にはフラグの値からこの操作を判別して、切換レバー21の下方操作姿勢Dへの操作のタイミングで植付クラッチCを入り操作する(#114ステップ)。尚、この#114ステップでクラッチ操作手段Fが構成されている。 【0024】 又、切換レバー21が左マーカ操作姿勢L、あるいは、右マーカ操作姿勢Rの何れかの姿勢に操作された場合には、操作に対応した側の電磁ソレノイド32を操作して、その側のラインマーカ25を作用姿勢に切換える制御を行う(#115、#116ステップ)。又、昇降レバー10が「自動」位置以外に位置に操作された場合にはフラグを初期値「0」に設定する制御も行われる(#117ステップ)。尚、この#116ステップでラインマーカ25を作業姿勢に切換えるマーカ操作手段Gが構成されている。 【0025】 尚、苗植付装置Anが上昇操作された場合には、作用姿勢のラインマーカ25はワイヤ31の張力によって起立操作され、かつ、ロック部材30によって格納姿勢に保持され、又、ロックの解除を行った際に苗植付装置Anが下降していれば、その側のラインマーカ25は作用姿勢に切り換わるものの、苗植付装置Anが完全に下降していない場合には、苗植付装置Anが完全に下降した時点でラインマーカ25は適性な作用姿勢に切換わる。 【0026】 〔別実施例〕 本発明は苗植付装置以外に、圃場面に溝を形成する溝切り装置を走行機体の後端に昇降自在に連結した水田作業機に適用することが可能である。又、このように圃場面に接触する形態で作業を行うものでは、その高さが作業高さとなる。尚、操作具によって作業機を上昇させる高さを任意に変更できるよう構成することも可能である。 【0027】 又、本発明は上記実施例以外に、例えば、図7に示すように、走行機体3の後端に苗植付装置に変えて作業装置Aの一例としての防除機Abを昇降自在に連結したものに適用することも可能である。つまり、防除機Abは、液状の薬剤を貯留するタンク56を上部に備え、後部に横方向に張出すアーム状のノズル57を備え、タンク56の下方にタンク56からの薬剤をノズル57に送るユニット58を備えて構成され、又、この防除機Abを走行機体3に連結した場合には、防除機Abを昇降レバー10の操作位置に対応した対機体高さまで昇降するポジション制御を行うよう構成されると共に、切換レバー21の上下方向への操作に従って、該防除機Abの昇降を行えるよう制御動作が切り換え得るようになっており、その昇降時の制御動作は図8に示すフローチャートに従って行われる。 【0028】 つまり、昇降制御が開始されるとフラグを初期値「0」にセットし、フラグの状態を判別した後、昇降レバー10の操作量をレバーセンサ34からの信号に基づいて計測し、かつ、この信号値に対応する対機体高さまで防除機Abを昇降させるようリンクセンサ40からの信号をフィードバックしながらポジョション制御を行う(#201〜#203ステップ)。次に、このポジション制御状態で切換レバー21が上方操作姿勢Uに操作された場合には、リンクセンサ40からの信号をメモリ等に記憶して、該防除機Abを上限まで上昇させる上昇処理を行い、フラグを「1」にセットする(#204〜#207ステップ)。尚、この制御では昇降レバー10で設定される防除機Abの対機体高さが作業高さとなり、上限の高さは予め設定された限界の対機体高さとなる。 【0029】 又、このように防除機Abが上限高さまで上昇した状態では切換レバー21が下方操作姿勢Dに操作された場合に、メモリに記憶した高さまで防除機Abを下降させフラグを初期値「0」に戻してポジション制御を可能にする動作をリセットされるまで繰り返して行うように設定されている。尚、このフローチャートではクラッチ機構Cの操作については詳述しなかったが、このクラッチ機構Cの入り切り操作は前記実施例と同様に防除機Abが作業高さに向けて下降制御された後に切換レバー21を下方操作姿勢Dに操作することによって行われ、クラッチ機構Cの切り操作は切換レバー21の上方操作姿勢Uへの操作時に防除機Abの上昇制御と同時に行われるようになっている。 【0030】 尚、特許請求の範囲の項に図面との対照を便利にするために符号を記すが、該記入により本発明は添付図面の構成に限定されるものではない。 【図面の簡単な説明】 【図1】 田植機の全体側面図 【図2】 切換レバーの操作方向を示す側面図 【図3】 昇降レバーの操作経路の平面図 【図4】 マーカの操作系の後面図 【図5】 制御系のブロック図 【図6】 制御動作のフローチャート 【図7】 別実施例の防除機を連結した走行機体後部の側面図 【図8】 別実施例の制御動作のフローチャート 【符号の説明】 3 走行機体 8 アクチュエータ 21 操作具 25 マーカ A 作業装置 C クラッチ機構 E 制御手段 F クラッチ操作手段 G マーカ操作手段 N 中立姿勢 U 上方操作姿勢 D 下方操作姿勢 |
訂正の要旨 |
審決(決定)の【理由】欄参照。 |
異議決定日 | 2004-10-26 |
出願番号 | 特願平7-149959 |
審決分類 |
P
1
651・
534-
YA
(A01C)
P 1 651・ 121- YA (A01C) P 1 651・ 5- YA (A01C) |
最終処分 | 維持 |
前審関与審査官 | 小野 忠悦 |
特許庁審判長 |
藤井 俊二 |
特許庁審判官 |
渡戸 正義 川島 陵司 |
登録日 | 2003-04-11 |
登録番号 | 特許第3418039号(P3418039) |
権利者 | 株式会社クボタ |
発明の名称 | 水田作業機 |
代理人 | 北村 修一郎 |
代理人 | 北村 修一郎 |