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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  C08L
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  C08L
管理番号 1111087
異議申立番号 異議2002-72411  
総通号数 63 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 1994-04-12 
種別 異議の決定 
異議申立日 2002-09-30 
確定日 2004-11-22 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第3271325号「ガラス繊維強化ポリアミド樹脂組成物およびその成形品」の請求項1、2に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 訂正を認める。 特許第3271325号の請求項1、2に係る特許を維持する。 
理由 [1]手続の経緯

本件特許第3271325号は、出願日が平成4年9月21日であって、平成14年1月25日に特許権の設定登録がなされ、市村文弘より特許異議の申立てがなされ、第1回目の取消理由を通知したところ、第1回目の訂正請求がなされるとともに意見書が提出され、次いで、第2回目の取消理由を通知したところ、第2回目の訂正請求がなされるとともに、第1回目の訂正請求は取り下げられたものである。

[2]訂正の適否

1.訂正事項
第2回目の訂正請求における訂正事項は以下のとおりである。
・訂正事項1:特許請求の範囲の
「【請求項1】 分子構成単位に芳香族環を含むポリアミド樹脂100重量部と平均繊維径が6〜11μのガラス繊維25〜130重量部とからなり、該ガラス繊維が無水マレイン酸および/またはその残基を含む表面処理剤で処理されていることを特徴とするガラス繊維強化ポリアミド樹脂組成物。
【請求項2】分子構成単位に芳香族環を含むポリアミド樹脂100重量部と平均繊維径が6〜11μのガラス繊維25〜130重量部とからなり、該ガラス繊維が無水マレイン酸および/またはその残基を含む表面処理剤で処理されているガラス繊維強化ポリアミド樹脂組成物を成形してなるガラス繊維強化ポリアミド樹脂成形品。」を、
「【請求項1】分子構成単位にヘキサメチレンテレフタラミドを含むポリアミド樹脂100重量部と平均繊維径が6〜11μのガラス繊維25〜130重量部とからなり、該ガラス繊維が無水マレイン酸および/または『マレイン酸のジアンモニウム塩またはジ金属塩』を含む表面処理剤で処理されていることを特徴とするガラス繊維強化ポリアミド樹脂組成物。
【請求項2】分子構成単位にヘキサメチレンテレフタラミドを含むポリアミド樹脂100重量部と平均繊維径が6〜11μのガラス繊維25〜130重量部とからなり、該ガラス繊維が無水マレイン酸および/または『マレイン酸のジアンモニウム塩またはジ金属塩』を含む表面処理剤で処理されているガラス繊維強化ポリアミド樹脂組成物を成形してなるガラス繊維強化ポリアミド樹脂成形品。」と訂正する。
・訂正事項2:段落【0008】中の「分子構成単位に芳香環を含むポリアミド樹脂100重量部と平均繊維径が6〜11μのガラス繊維25〜130重量部とからなり、該ガラス繊維が無水マレイン酸および/またはその残基を含む表面処理剤で処理されている」を、「分子構成単位にヘキサメチレンテレフタラミドを含むポリアミド樹脂100重量部と平均繊維径が6〜11μのガラス繊維25〜130重量部とからなり、該ガラス繊維が無水マレイン酸および/または『マレイン酸のジアンモニウム塩またはジ金属塩』を含む表面処理剤で処理されている」と訂正する。
・訂正事項3:段落【0009】中の「本発明で用いられる「分子構成単位に芳香族環を含むポリアミド」とは、芳香族化合物のみから得られる芳香族ポリアミド、脂肪族ジアミンと芳香族ジカルボン酸との等モル塩を重合した半芳香族ポリアミドあるいは脂肪族ポリアミドと芳香族ポリアミドまたは半芳香族ポリアミドとの共重合ポリアミドなど、分子を構成する主鎖に芳香族環が含まれるポリアミドである。」を、「本発明で用いられる「分子構成単位中にヘキサメチレンテレフタラミドを含むポリアミド」とは、脂肪族ジアミンと芳香族ジカルボン酸との等モル塩を重合した半芳香族ポリアミドあるいは脂肪族ポリアミドと半芳香族ポリアミドとの共重合ポリアミドなどのうち、分子を構成する主鎖にヘキサメチレンテレフタラミドが含まれるポリアミドである。」と訂正する。
・訂正事項4:段落【0012】の「脂肪族ポリアミド(A)と芳香族ポリアミドまたは半芳香族ポリアミド(B)との共重合比はとくに制限しないが、(A)/(B)=75/25〜35/65重量%比が好ましい。本発明で用いられる芳香族環を含むポリアミド樹脂の重合度はとくに制限はないが成形性の点で、98%硫酸の溶液で測定した相対粘度(ηr)が2.0〜3.2の範囲にあるものが好ましい。」を、「脂肪族ポリアミド(A)と半芳香族ポリアミド(B)との共重合比はとくに制限しないが、(A)/(B)=75/25〜35/65重量%比が好ましい。本発明で用いられるヘキサメチレンテレフタラミドを含むポリアミド樹脂の重合度はとくに制限はないが成形性の点で、98%硫酸の溶液で測定した相対粘度(ηr)が2.0〜3.2の範囲にあるものが好ましい。」と訂正する。
・訂正事項5:段落【0013】中の「無水マレイン酸およびまたはその残基を含む表面処理剤で処理したガラス繊維が用いられる。無水マレイン酸残基を含む表面処理剤とはマレイン酸のジアンモニウム塩、ジ金属塩等を含む表面処理剤をいう。」を、「無水マレイン酸および/またはその残基を含む表面処理剤で処理したガラス繊維が用いられる。無水マレイン酸残基を含む表面処理剤とはマレイン酸のジアンモニウム塩またはジ金属塩を含む表面処理剤をいう。」と訂正する。
・訂正事項6:段落【0014】中の「分子構成単位に芳香族環を含むポリアミド樹脂」を、「分子構成単位にヘキサメチレンテレフタラミドを含むポリアミド樹脂」と訂正する。

2.訂正の目的・範囲の適否、拡張・変更の有無
訂正事項1は、「分子構成単位に芳香族環を含むポリアミド樹脂」を「分子構成単位にヘキサメチレンテレフタラミドを含むポリアミド樹脂」とする訂正(以下「訂正事項1-1」という。)、及び、「無水マレイン酸および/またはその残基を含む表面処理剤」を「無水マレイン酸および/またはマレイン酸のジアンモニウム塩、ジ金属塩を含む表面処理剤」とする訂正(以下「訂正事項1-2」という。)からなるものである。
訂正事項1-1は、段落【0011】の、「半芳香族ポリアミドとしてはポリヘキサメチレンテレフタラミド(ナイロン6Tと略称する。Tはテレフタル酸の略、以下同じ。)・・・等がある。また共重合ポリアミドとしてナイロン66/6T(/印は共重合を意味する)、・・・等があり、とくにナイロン66/6T、・・・が好ましい。」との記載、及び、段落【0027】の実施例1、段落【0029】の実施例2でナイロン66/6Tが使用されていることを根拠として、「分子構成単位に芳香族環を含むポリアミド樹脂」をより下位概念のものに限定するものであるから、願書に添付した明細書に記載した事項の範囲内において特許請求の範囲を減縮するものである。
訂正事項1-2は、訂正前の段落【0013】の「無水マレイン酸残基を含む表面処理剤とはマレイン酸のジアンモニウム塩、ジ金属塩等を含む表面処理剤をいう。」との記載を根拠として、表面処理剤を限定する訂正であるから、願書に添付した明細書に記載した事項の範囲内において特許請求の範囲を減縮するものである。
訂正事項2〜6は、訂正事項1の訂正に伴って、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載が整合しなくなることを解消する為の訂正であるから、明りょうでない記載の釈明を目的とするものであり、また、訂正事項1と同様に願書に添付した明細書に記載した事項の範囲内においてなされたものである。
また、訂正事項1〜6は、実質上特許請求の範囲を拡張し、または変更するものでもない。

3.むすび
以上のとおりであるから、上記訂正は、特許法等の一部を改正する法律(平成6年法律第116号。以下「平成6年改正法」という。)附則第6条第1項の規定によりなお従前の例によるとされる、特許法第120条の4第3項において準用する平成6年改正法による改正前の特許法第126条第1項ただし書、第2項の規定に適合するので、当該訂正を認める。

[3]本件発明

本件の請求項1、2に係る発明(以下「本件発明1」、「本件発明2」という。)は、訂正明細書の請求項1、2に記載された次のとおりのものと認める。
「【請求項1】分子構成単位にヘキサメチレンテレフタラミドを含むポリアミド樹脂100重量部と平均繊維径が6〜11μのガラス繊維25〜130重量部とからなり、該ガラス繊維が無水マレイン酸および/または『マレイン酸のジアンモニウム塩またはジ金属塩』を含む表面処理剤で処理されていることを特徴とするガラス繊維強化ポリアミド樹脂組成物。
【請求項2】分子構成単位にヘキサメチレンテレフタラミドを含むポリアミド樹脂100重量部と平均繊維径が6〜11μのガラス繊維25〜130重量部とからなり、該ガラス繊維が無水マレイン酸および/または『マレイン酸のジアンモニウム塩またはジ金属塩』を含む表面処理剤で処理されているガラス繊維強化ポリアミド樹脂組成物を成形してなるガラス繊維強化ポリアミド樹脂成形品。」

[4]特許異議の申立ての理由の概要

特許異議申立人は、証拠として、甲第1号証(特開平1-278544号公報)、甲第2号証(特開昭60-46951号公報)、甲第3号証(特開昭60-44535号公報)、甲第4号証(米国特許第4,603,166号明細書)、甲第5号証(特開昭63-168456号公報)を提出し、概略、次の理由a、bを主張している。
理由a:訂正前の請求項1、2に係る発明は、甲第1号証に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号の規定に違反して特許されたものである。
理由b:訂正前の請求項1、2に係る発明は、甲第1〜5号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定に違反して特許されたものである。

[5]特許異議の申立てに対する判断

本件発明1、2は、ガラス繊維として、「無水マレイン酸および/または『マレイン酸のジアンモニウム塩またはジ金属塩』を含む表面処理剤」(以下「本件表面処理剤」という。)で処理されているものを使用することを構成要件として具備する発明であり、本件表面処理剤で処理されていることにより、段落【0013】に記載されたとおり、ポリアミド樹脂とガラス繊維との密着性が高まるという効果を奏するものと認められる。
これに対して、甲第1号証には、シラン系カップリング剤と、カルボキシル基または酸無水物基を有するポリマーからなる結束剤とで表面処理したガラス繊維を、ポリアミド樹脂を含む組成物に配合することが記載されており、甲第2号証には、無水マレイン酸とCnH2n(ただしn=2〜5)で示されるエチレン系炭化水素又は酢酸ビニルとの共重合体およびシラン系カップリング剤で表面処理したプラスチック強化用ガラス繊維が記載されており、甲第3号証には、無水マレイン酸と不飽和単量体との共重合体およびシラン系カップリング剤で表面処理したガラス繊維で熱可塑性樹脂を強化してなるガラス繊維強化熱可塑性樹脂が記載され、甲第4号証には、ポリアミドに対する追加の補強材としてガラス繊維が記載され、甲第5号証にもポリアミド樹脂にガラス繊維を配合することが記載されているが、これら甲第1〜5号証には、本件表面処理剤で処理されたガラス繊維については記載も示唆もされていない。
したがって、本件発明1、2は、甲第1号証に記載された発明であるとも、甲第1〜5号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとも認められない。
ゆえに、主張a、bは採用できない。

[6]取消理由の概要、及び、取消理由に対する判断

当審が通知した第1回目の取消理由の概要は、上記主張a、bと同趣旨であり、該取消理由は上記のとおり解消したものと認める。
当審が通知した第2回目の取消理由の概要は、第1回目の訂正請求後の請求項1、2の記載が不備であるから、特許法第36条第4項、第5項及び第6項に規定する要件を満たしていないというものであるが、該取消理由は訂正によって解消したものと認める。

[7]むすび

以上のとおりであるから、特許異議の申立ての理由および取消理由によっては本件発明1、2についての特許を取り消すことはできない。
また、他に本件発明1、2についての特許を取り消すべき理由を発見しない。
したがって、本件発明1、2についての特許は拒絶の査定をしなければならない特許出願に対してされたものと認めない。
よって、特許法等の一部を改正する法律(平成6年法律第116号)附則第14条の規定に基づく、特許法等の一部を改正する法律の施行に伴う経過措置を定める政令(平成7年政令第205号)第4条第2項の規定により、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
ガラス繊維強化ポリアミド樹脂組成物およびその成形品
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】分子構成単位にヘキサメチレンテレフタラミドを含むポリアミド樹脂100重量部と平均繊維径が6〜11μのガラス繊維25〜130重量部とからなり、該ガラス繊維が無水マレイン酸および/または「マレイン酸のジアンモニウム塩またはジ金属塩」を含む表面処理剤で処理されていることを特徴とするガラス繊維強化ポリアミド樹脂組成物。
【請求項2】分子構成単位にヘキサメチレンテレフタラミドを含むポリアミド樹脂100重量部と平均繊維径が6〜11μのガラス繊維25〜130重量部とからなり、該ガラス繊維が無水マレイン酸および/または「マレイン酸のジアンモニウム塩またはジ金属塩」を含む表面処理剤で処理されているガラス繊維強化ポリアミド樹脂組成物を成形してなるガラス繊維強化ポリアミド樹脂成形品。
【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、剛性、強靱性、耐薬品性および耐熱水性に優れるガラス繊維強化ポリアミド樹脂組成物およびその成形品に関し、さらに詳しくは、特に液冷式内燃機関の冷却水の凍結防止に使用するグリコール類、水および腐蝕抑制剤とからなる不凍液に対する耐久性および道路凍結防止剤の塩化カルシウムに対する耐久性にすぐれたガラス繊維強化ポリアミド樹脂組成物およびその成形品に関する。
【0002】
【従来の技術】ポリアミド樹脂は、すぐれた耐熱性、耐油性、成形性、剛性、強靱性などの特徴を有しているため、最近ではとくに自動車の室外部品、たとえば、クーリングファン、ラジエータータンクのトップおよびベース、ヒータコアタンクのトップおよびベース、シリンダーヘッドカバー、キャニスター、ギヤ、コネクター、バルブ、オイルタンク類、ブレーキ配管、燃料配管用チューブ、結束用バンド、排ガス系統部品などの種々の機能部品への応用、あるいは展開がなされている。
【0003】
ポリアミド樹脂の内で、ナイロン6・10、ナイロン6・12、ナイロン11、ナイロン12に代表される高級ポリアミドは、強靱性、寸法安定性、耐薬品性などが良好で、しかも塩化カルシウム、塩化マグネシウムなどの道路凍結防止剤に対する耐性がすぐれているので前記した自動車の室外部品用素材として大きな関心が寄せられ、すでに一部の特殊部品に使用されているが、金属代替材料としては耐熱性、剛性が不足していることなどから用途拡大が制限されているのが実情である。
【0004】
一方、ナイロン6やナイロン66などの比較的アミド基濃度の高いポリアミドは耐熱性、剛性が高く、かつ安価なため自動車アンダーフード部品用材料として相当の使用実績があるが、吸水量が大きく寸法安定性に乏しいこと、塩化カルシウム、塩化マグネシウムなどの路面凍結防止剤に侵されてひび割れを発生することなどの欠点を有しているため必ずしも満足すべき材料とはいえない。
【0005】
そこで、ナイロン6あるいはナイロン66等の低級ポリアミドとナイロン11、ナイロン12等の高級ポリアミドをブレンドして、双方の欠点を補おうとする試みもなされている(特開昭57-212252号公報、特開昭57-80448号公報、特開昭57-80449号公報等参照)。また細径(φ3μ〜φ8μ)のガラス繊維を混練強化して、耐衝撃性などの強靱性を向上させる例もみられる(特開昭60-38459号公報参照)。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】低級ポリアミドと高級ポリアミドをブレンドする方法は確かにある程度の互助作用があり、それなりの効果は得られるが、融点の低い高級ポリアミドの影響が強く、耐熱性が悪くなってしまう欠点がある。また、低温と高温の繰り返しを行なう、いわゆる冷熱繰り返し性およびそのような過酷な条件での耐塩化カルシウム性が不十分である。
【0007】
また混練強化するガラス繊維を細径にすることで、強靱性が向上することは公知であるが、高温の不凍液にさらされた場合、クラックを生じ、従って、ガラス繊維を細径化するだけでは耐薬品性などの耐久性向上効果は、ほとんどない。一方、自動車の室外部品の要求性能を見るとエンジンによる高温に耐え、ラジエータのように冷却と加熱の繰り返しにも耐え、かつ高温の不凍液あるいは熱水、水蒸気にも耐え、また、道路凍結防止剤として散布される塩化カルシウム等のハロゲン化金属の付着によるクラック発生を防止する必要があり、なおかつ、成形部品としての耐熱剛性、靱性、寸法安定性に優れていなければならない。したがって、このような機械特性と化学特性の両方を兼備した樹脂組成物あるいは成形品を提供することが課題となっていた。
【0008】
【課題を解決するための手段】上記課題を解決するため、本発明は、次の手段をとるものである。即ち、本発明のガラス繊維強化ポリアミド樹脂組成物は、分子構成単位にヘキサメチレンテレフタラミドを含むポリアミド樹脂100重量部と平均繊維径が6〜11μのガラス繊維25〜130重量部とからなり、該ガラス繊維が無水マレイン酸および/または「マレイン酸のジアンモニウム塩またはジ金属塩」を含む表面処理剤で処理されていることを特徴とするガラス繊維強化ポリアミド樹脂組成物およびそれからなる成形品である。
【0009】
また本発明の成形品とは、上記樹脂組成物を成形したものである。本発明で用いられる「分子構成単位にヘキサメチレンテレフタラミドを含むポリアミド」とは、脂肪族ジアミンと芳香族ジカルボン酸との等モル塩を重合した半芳香族ポリアミドあるいは脂肪族ポリアミドと半芳香族ポリアミドとの共重合ポリアミドなどのうち、分子を構成する主鎖にヘキサメチレンテレフタラミドが含まれるポリアミドである。
【0010】
ここで用いられる脂肪族ジアミンの炭素原子数は4〜8が好ましくは、更に好ましくは6である。また脂肪族ポリアミドとしてはナイロン4、ナイロン6、ナイロン46、ナイロン66が好ましく、特にナイロン6、ナイロン66が好ましい。芳香族ジカルボン酸としてはテレフタル酸およびイソフタル酸が好ましい。用いられる芳香族ポリアミドとしてはp-フェニレンテレフタラミド、p-フェニレンイソフタラミド等がある。
【0011】
また、半芳香族ポリアミドとしてはポリヘキサメチレンテレフタラミド(ナイロン6Tと略称する。Tはテレフタル酸の略、以下同じ。)、ナイロン6I(Iはイソフタル酸の略)、ナイロン4T、ナイロン4I等がある。また共重合ポリアミドとしてナイロン66/6T(/印は共重合を意味する)、ナイロン66/6I、ナイロン6/6T、ナイロン6/6I、ナイロン66/6T/6I、ナイロン6/6T/6I、ナイロン46/6T、ナイロン46/6I等があり、特にナイロン66/6T、ナイロン66/6Iが好ましい。
【0012】
脂肪族ポリアミド(A)と半芳香族ポリアミド(B)との共重合比はとくに制限しないが、(A)/(B)=75/25〜35/65重量%比が好ましい。本発明で用いられるヘキサメチレンテレフタラミドを含むポリアミド樹脂の重合度はとくに制限はないが成形性の点で、98%硫酸の溶液で測定した相対粘度(ηr)が2.0〜3.2の範囲にあるものが好ましい。
【0013】
本発明における強化材は平均繊維径6〜11μのガラス繊維が用いられるが、好ましくは、平均繊維径8〜10μのガラス繊維である。そして、本発明のガラス繊維は、ポリアミド樹脂と、ガラス繊維との密着性を高めるために、無水マレイン酸および/またはその残基を含む表面処理剤で処理したガラス繊維が用いられる。無水マレイン酸残基を含む表面処理剤とはマレイン酸のジアンモニウム塩またはジ金属塩を含む表面処理剤をいう。
【0014】
ここでいう表面処理剤の、ガラス繊維への付着量は特に制限されないが、通常、ガラス繊維の重量に対して0.1〜2.0重量%であり、好ましくは0.3〜1.2重量%である。本発明のガラス繊維の添加量は分子構成単位にヘキサメチレンテレフタラミドを含むポリアミド樹脂100重量剤に対し、25〜130重量部であり、25重量部未満では耐熱剛性、機械的強度、耐塩化カルシウム性、耐不凍液性および寸法安定性が低下し、すぐれた諸特性を兼備した成形品を得ることができない。
【0015】
一方、ガラス繊維が130重量部を越えるとむしろ強靱性が低下して、もろくなるとともに成形流動性、外観が低下し、成形品としての機能が損なわれる。本発明に使用するガラス繊維は長繊維タイプ(ロービング)から短繊維タイプ(チョップドストランド)まで、任意に使用可能であるが、特に好ましくはチョップドストランドである。
【0016】
ガラス繊維を表面処理剤で処理する方法は特に制限されず、ガラス繊維の製造(紡糸)時に表面処理する方法、あるいはガラス繊維と表面処理剤をブレンド処理方法等が用いられる。また、上記表面処理剤で処理する前に、ガラス繊維をシランカップリング剤で表面処理しておくことも可能であり、その場合のシランカップリング剤としてはアミノシラン系カップリング剤が好ましい。
【0017】
ポリアミド、ガラス繊維の混合方法は、特に限定されず通常公知の方法を採用することができる。すなわちポリアミドおよびガラス繊維を高速攪拌機で均一混合した後、十分な混練能力のある押出機で溶融混練する方法、ドライブレンド射出または押出成形する方法など、いずれの方法も採ることができる。本発明の成形品は、射出成形、押出成形、ブロー成形、トランスファー成形、真空成形など一般に熱可塑性樹脂の公知の形成方法により成形される。
【0018】
本発明の成形品の用途としては、その耐塩化カルシウム性、耐不凍液性から、自動車の室外部品に特に適している。自動車用室外部品とは自動車のボンネット内に配設される部品または自動車の室外で車体に直接配設される部品であり、人が入る室の中の部品および車体自身を構成する板状部品以外の部品を意味する。これらの部品は高温の不凍液に直接接触したり、水蒸気にさらされたり、またエンジンの熱で加熱され、またエンジン停止時には外気に直接触れて冷却され、これが繰り返される。あるいは冬期あるいは寒冷地を走行中塩化カルシウム、塩化マグネシウム等の道路凍結防止剤が水溶液または雪と混ざってシャーベット状になり、その飛沫が付着する。
【0019】
自動車室外部品の具体例としてはクーリングファン、ラジエータータンク、ヒーターコアタンク、シリンダーヘッドカバー、キャニスター、オイルパン、ギヤ、バルブ、チューブ、パイプ、ドアミラー部品などがある。なお本発明における成形品は塗装、蒸着、接着などの二次加工を行なうこともできる。また本発明の樹脂組成物には、その成形性、物性を損なわない限りにおいて他の成分、たとえば顔料、染料、耐熱剤、酸化防止剤、耐候剤、滑剤、結晶核剤などを添加導入することができる。
【0020】
【実施例】
以下に実施例を挙げて本発明をさらに詳しく説明する。なお実施例および比較例に記した成形品および対応する試験片の物性は次に述べる方法で測定評価した。
(1)相対粘度:JIS K6810
(2)引張特性:ASTM D638
(3)曲げ特性:ASTM D790
(4)アイゾット衝撃強度:ASTM D256
(5)熱変形温度:ASTM D648
(6)耐不凍液性
射出成形したASTM1号ダンベル片を自動車用不凍液(トヨタ純正ロングライフクーラント)の50%濃度水溶液に浸漬し、130℃に加熱温調し、500時間処理後の引張り強さを測定した。
【0021】
また約50mmb×120mml×2mmt箱形のヒータ・コア・タンク成形品を用い、50%濃度不凍液水溶液中、130℃で加熱、浸漬処理を行い、成形品表面に肉眼で観察できる程度のクラックを生じるまでの時間を測定した。
(7)耐道路凍結防止剤性:
ヒータ・コア・タンク成形品を80℃で24時間温水処理した後、5%塩化カルシウム水溶液を全面塗布し、100℃ギヤオープン中に1hr放置、次いで-30℃雰囲気下に1hr放置、次いで室温下で30分放置した後、5%塩化カルシウム水溶液を全面塗布する冷熱処理/塩カル液塗布処理を1サイクルとして評価を行い、成形品にひび割れが発生するまでのサイクル数を測定した。
【0022】
【0023】
【0024】
【0025】
【0026】
【0027】
実施例1
相対粘度2.55のナイロン66/6T(66/6T=65/35重量%)共重合体100重量部に平均繊維径φ9.2μ、および無水マレイン酸0.5重量%で表面処理されたチョップドストランドガラス繊維35重量部を加え、攪拌機で均一に混合したものを、φ45mm口径の2軸タイプ押出機で溶融混練しペレット化した。ここで得られたペレットを80℃で真空乾燥した後、射出成形機によりシリンダー温度315℃、金型温度105℃条件で、自動車用ヒータ・コア・タンクおよびASTM1号ダンベル片を成形した。得られたダンベル片およびヒータ・コア・タンク成形品について絶乾時の機械的強度、耐不凍液性および耐塩化カルシウム性を評価した。機械的物性測定結果は次の通りであり、とくに強靱性が向上した成形品であることが判明した。
【0028】
引張強度 1,870kg/cm2
曲げ弾性率 80,000kg/cm2
アイゾット衝撃強度 81kg・cm/cm2
熱変形温度 250℃
耐不凍液性および耐塩化カルシウム性は、表1に比較例1と併せて示すが、高温不凍液に対しすぐれた耐久強度およびすぐれた耐クラック性を有することが確認できた。
【0029】
また耐塩化カルシウム性は、前記したサイクルテストを50サイクル以上続けても全くひび割れを生じないすぐれた特性を有することが確認できた。
実施例2
相対粘度2.56のナイロン66/6T(66/6T=69/31重量%)共重合体100重量部にアンモニウム塩残基マレイン酸0.6重量%で、表面処理された平均繊維径φ10μのチョップドストランドガラス繊維45重量部を加えた溶融混合物を実施例1と同条件下で成形して得られたダンベル片およびヒータ・コア・タンク成形品について絶乾時の機械的強度、耐不凍液性および耐塩化カルシウム性を評価した。機械的物性測定結果は次の通りであり、とくに強靱性と剛性にバランスにすぐれる成形品であることが判明した。
【0030】
引張強度 2,150kg/cm2
曲げ弾性率 90,000kg/cm2
アイゾット衝撃強度 76kg・cm/cm2
熱変形温度 256℃
耐不凍液性および耐塩化カルシウム性は、表1に比較例1と併せて示すが、高温不凍液に対し、すぐれた耐久強度およびすぐれた耐クラック性を有することが確認できた。
【0031】
また耐塩化カルシウム性は、前記したサイクルテストを実施したところ50サイクル以上まで全くひび割れを生じないすぐれた特性を有することが確認できた。
比較例1
相対粘度2.9のナイロン66 100重量部に、市販のポリアミド樹脂用チョップドストランドガラス繊維(平均径φ12.6μ)を45重量部加えた溶融混合物を実施例1と同条件下で成形して得られたダンベル片およびヒータ・コア・タンク成形品について耐不凍液性および耐塩化カルシウム性を評価した。
【0032】
結果を表1に示すが、耐不凍液性については耐久強度が小さく、とくに耐クラック性は早い時間に表面割れを生じる。また耐塩化カルシウム性は僅か1サイクル目で成形品の表面が白化し、無数の細かいひび割れを生じた。
【0033】
【表1】

【0034】
【0035】
【0036】
【0037】
【0038】
【0039】
【発明の効果】
本発明のガラス繊維強化ポリアミド樹脂組成物およびその成形品は強度、強靱性および剛性のバランスにすぐれ、かつ、高温の耐不凍液性に対する耐久強度が高く、また、道路凍結防止剤の塩化カルシウムに対する耐久性に極めてすぐれるものである。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2004-10-29 
出願番号 特願平4-251577
審決分類 P 1 651・ 113- YA (C08L)
P 1 651・ 121- YA (C08L)
最終処分 維持  
前審関与審査官 宮本 純原田 隆興  
特許庁審判長 宮坂 初男
特許庁審判官 船岡 嘉彦
石井 あき子
登録日 2002-01-25 
登録番号 特許第3271325号(P3271325)
権利者 東レ株式会社
発明の名称 ガラス繊維強化ポリアミド樹脂組成物およびその成形品  

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