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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  C08L
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  C08L
管理番号 1111128
異議申立番号 異議2003-71670  
総通号数 63 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 1995-08-01 
種別 異議の決定 
異議申立日 2003-07-04 
確定日 2004-11-29 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第3362489号「液晶性樹脂組成物および成形品」の請求項1ないし6に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 訂正を認める。 特許第3362489号の請求項1ないし5に係る特許を維持する。 
理由 1.手続きの経緯
特許第3362489号に係る発明についての出願は、平成5年12月28日に特許出願され、平成14年10月25日に特許権の設定登録がなされ、その後、特許異議申立人 白木 大太郎(以下、「特許異議申立人」という。)より特許異議の申立てがなされ、取消理由が通知され、その指定期間内である平成15年12月25日に特許異議意見書と訂正請求書が提出されたものである。

2.訂正の適否
2-1.訂正の内容
全文訂正明細書の記載からみて、特許権者の求める訂正は以下のとおりと認められる。
訂正事項a
請求項1の
「(A)異方性溶融相を形成する液晶性ポリエステルおよび液晶性ポリエステルアミドから選ばれた1種以上の液晶性樹脂100重量部に対して、PHが5〜8のカーボンブラック0.01〜10重量部を含有せしめてなる液晶性樹脂組成物。」を
「(A)異方性溶融相を形成する、下記(I)、(II)、(III)および(IV)の構造単位からなる液晶性ポリエステル、(I)、(III)および(IV)の構造単位からなる液晶性ポリエステルおよび液晶性ポリアミドから選ばれた1種以上の液晶性樹脂100重量部に対して、PHが5〜8のカーボンブラック0.01〜10重量部を含有せしめてなる液晶性樹脂組成物。

(ただし式中のR1は

から選ばれた一種以上の基を示し、R2は、

から選ばれた一種以上の基を示す。また、式中Xは水素原子または塩素原子を示し、構造単位(II)および(III)の合計と構造単位(IV)は実質的に等モルである。)」と訂正する。
訂正事項b
請求項2を削除する。
訂正事項c
請求項3、4、5及び6の項番を1つずつ繰り上げ、新請求項2(旧請求項3)の「請求項1または2のいずれか記載の」を「請求項1記載の」と、新請求項3(旧請求項4)の「請求項1〜3のいずれか記載の」を「請求項1または2記載の」と、そして新請求項4(旧請求項5)の「請求項4記載の」を「請求項3記載の」と訂正する。
訂正事項d
新請求項5(旧請求項6)の
「(A)異方性溶融相を形成する液晶性ポリエステルおよび液晶性ポリエステルアミドから選ばれた1種以上の液晶性樹脂100重量部に対して、PHが5〜8のカーボンブラック0.01〜10重量部を含有せしめてなる液晶性樹脂成形品。」を
「(A)異方性溶融相を形成する、下記(I)、(II)、(III)および(IV)の構造単位からなる液晶性ポリエステル、(I)、(III)および(IV)の構造単位からなる液晶性ポリエステルおよび液晶性ポリアミドから選ばれた1種以上の液晶性樹脂100重量部に対して、PHが5〜8のカーボンブラック0.01〜10重量部を含有せしめてなる液晶性樹脂成形品。

(ただし式中のR1は

から選ばれた一種以上の基を示し、R2は、

から選ばれた一種以上の基を示す。また、式中Xは水素原子または塩素原子を示し、構造単位(II)および(III)の合計と構造単位(IV)は実質的に等モルである。)」と訂正する。
訂正事項e
段落【0009】の
「すなわち、本発明は(A)異方性溶融相を形成する液晶性ポリエステルおよび液晶性ポリエステルアミドから選ばれた1種以上の液晶性樹脂100重量部に対して、PHが5〜8のカーボンブラック0.01〜10重量部を含有せしめてなる液晶性樹脂組成物、上記液晶性樹脂が下記(I)、(II)および(IV)、または、(I)、(II)、(III) および(IV)、または、(I)、(III) および(IV)の構造単位からなる液晶ポリエステルである上記液晶性樹脂組成物、」を
「すなわち、本発明は(A)異方性溶融相を形成する、下記(I)、(II)、(III)および(IV)の構造単位からなる液晶性ポリエステル、(I)、(III)および(IV)の構造単位からなる液晶性ポリエステルおよび液晶性ポリアミドから選ばれた1種以上の液晶性樹脂100重量部に対して、PHが5〜8のカーボンブラック0.01〜10重量部を含有せしめてなる液晶性樹脂組成物、」と訂正する。
訂正事項f
段落【0009】の
「さらに有機臭素化物05〜60重量部を」を
「さらに有機臭素化物0.5〜60重量部を」と訂正する。
訂正事項g
段落【0011】の
「異方性溶融相を形成する液晶性ポリエステルの例としては、好ましくは上記の(I)、(II)および(IV)の構造単位からなる異方性溶融相を形成する液晶性ポリエステル、または、(I)、(II)、(III)および(IV)の構造単位からなる異方性溶融相を形成する液晶性ポリエステル、または、(I)、(III)および(IV)の構造単位からなる異方性溶融相を形成する液晶性ポリエステルなどが挙げられる。」を
「本発明で用いる異方性溶融相を形成する液晶性ポリエステルとしては、上記(I)、(II)、(III)および(IV)の構造単位からなる異方性溶融相を形成する液晶性ポリエステル、または、(I)、(III)および(IV)の構造単位からなる異方性溶融相を形成する液晶性ポリエステルである。」と訂正する。
訂正事項h
段落【0014】の
「本発明に好ましく使用できる液晶性ポリエステルは上記構造単位(I)、(II)および(IV)からなる共重合体、または、(I)、(II)、(III)および(IV)からなる共重合体であり、上記構造単位(I)、(II)、(III)および(IV)の共重合量は任意である。しかし流動性の点から次の共重合量であることが好ましい。」を
「本発明に好ましく使用できる液晶性ポリエステルは、上記(I)、(II)、(III)および(IV)からなる共重合体であり、上記構造単位(I)、(II)、(III)および(IV)の共重合量は任意である。しかし流動性の点から次の共重合量であることが好ましい。」と訂正する。
訂正事項i
段落【0016】の記載を削除する。
訂正事項j
段落【0019】の
「例えば、上記の好ましく用いられる液晶性ポリエステルの製造において、上記構造単位(III)を含まない場合は(1)および(2)、構造単位(III)を含む場合は(3)の製造方法が好ましく挙げられる。」を
「例えば、上記の好ましく用いられる液晶性ポリエステルの製造において、上記構造単位(III)を含む場合は(3)の製造方法が好ましく挙げられる。」と訂正する。
訂正事項k
段落【0059】の表2の最下欄の「比較例」を「比較例7」と訂正する。
訂正事項l
段落【0060】の「実施例2〜9」を「実施例2〜7」と訂正する。
訂正事項m
段落【0063】の表3中の「実施例3」および「実施例5」を削除し、「実施例4」を「実施例3」と、「実施例6」を「実施例4」と、「実施例7」を「実施例5」と、「実施例8」を「実施例6」と、そして「実施例9」を「実施例7」と訂正する。
訂正事項n
段落【0064】の「実施例10〜15」を「実施例8〜13」と訂正する。
訂正事項o
段落【0066】の表4中の「実施例10」を「実施例8」と、「実施例11」を「実施例9」と、「実施例12」を「実施例10」と、「実施例13」を「実施例11」と、「実施例14」を「実施例12」と、そして「実施例15」を「実施例13」と訂正する。

2-2.訂正の目的の適否、訂正の範囲の適否及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否
訂正事項a及びdは、訂正前の請求項2に記載された「上記液晶性樹脂が下記(I)、(II)および(IV)、または、(I)、(II)、(III) および(IV)、または、(I)、(III) および(IV)の構造単位からなる」との記載に基づいて請求項1及び新請求項5(旧請求項6)の「液晶性ポリエステル」をより限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
訂正事項bは請求項を削除するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
訂正事項cは、訂正事項bによる請求項2の削除に伴って、請求項3以降を繰り上げ項番を整理するとともに、引用請求項の項番を訂正後のものに改めるものであるから、明りょうでない記載の釈明を目的とするものである。
訂正事項e、g、h、i及びjは、訂正事項a、b及びdによる特許請求の範囲の訂正に伴って、対応する発明の詳細な説明の記載をこれと整合させるための訂正であるから、明りょうでない記載の釈明を目的とするものである。
訂正事項fは、訂正前の請求項4の「有機臭素化物0.5〜60重量部」という記載に基づいて、段落【0009】の「有機臭素化物05〜60重量部」という記載中の明らかな誤記である「05」を「0.5」に改めるものであるから、誤記の訂正を目的をするものである。
訂正事項kは、段落【0059】の表2の実施例、比較例の列において、・・・、「比較例4」、「比較例5」、「比較例6」に続く最下行の「比較例 」を「比較例7」とするものであるが、訂正前の段落【0057】の「実施例1、比較例1〜7 ・・・。これらの結果を表2に示した。」との記載からみても「比較例 」が「比較例7」の誤記であることは明らかであるから、この訂正は誤記の訂正を目的をするものである。
訂正事項l〜oは、訂正事項a、b及びdによる特許請求の範囲の訂正に伴って、対応する発明の詳細な説明の実施例の記載をこれと整合させるための訂正であるから、明りょうでない記載の釈明を目的とするものである。

そして、これらの訂正は、いずれも願書に添付した明細書に記載した事項の範囲内においてされたものであり、実質上特許請求の範囲を拡張又は変更するものではない。

2-3.むすび
以上のとおりであるから、上記訂正は、特許法等の一部を改正する法律(平成6年法律第116号)附則第6条第1項の規定によりなお従前の例によるとされる、特許法第120条の4第3項において準用する平成6年法律第116号による改正前の特許法第126条第1項ただし書、第2項及び第3項の規定に適合するので、当該訂正を認める。

3.本件発明
上記の結果、訂正後の本件請求項1〜5に係る発明(以下、「本件発明1」〜「本件発明5」という。)は、訂正された明細書(以下、「訂正明細書」という。)の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1〜3に記載された事項により特定される次のとおりのものである。
「【請求項1】 (A)異方性溶融相を形成する、下記(I)、(II)、(III)および(IV)の構造単位からなる液晶性ポリエステル、(I)、(III)および(IV)の構造単位からなる液晶性ポリエステルおよび液晶性ポリアミドから選ばれた1種以上の液晶性樹脂100重量部に対して、PHが5〜8のカーボンブラック0.01〜10重量部を含有せしめてなる液晶性樹脂組成物。

(ただし式中のR1は

から選ばれた一種以上の基を示し、R2は、

から選ばれた一種以上の基を示す。また、式中Xは水素原子または塩素原子を示し、構造単位(II)および(III)の合計と構造単位(IV)は実質的に等モルである。)
【請求項2】 (A)液晶性樹脂100重量部に対して、さらに充填剤400重量部以下を含有せしめてなる請求項1記載の液晶性樹脂組成物。
【請求項3】 (A)液晶性樹脂100重量部に対して、さらに有機臭素化物0.5〜60重量部を含有せしめてなる請求項1または2記載の液晶性樹脂組成物。
【請求項4】 有機臭素化物が臭素化スチレンモノマから製造した下記構造単位の1種以上を主要構成成分とする重量平均分子量が1×103 〜120×104 のポリ臭素化スチレンである請求項3記載の液晶性樹脂組成物。

【請求項5】 (A)異方性溶融相を形成する、下記(I)、(II)、(III)および(IV)の構造単位からなる液晶性ポリエステル、(I)、(III)および(IV)の構造単位からなる液晶性ポリエステルおよび液晶性ポリアミドから選ばれた1種以上の液晶性樹脂100重量部に対して、PHが5〜8のカーボンブラック0.01〜10重量部を含有せしめてなる液晶性樹脂成形品。

(ただし式中のR1は

から選ばれた一種以上の基を示し、R2は、

から選ばれた一種以上の基を示す。また、式中Xは水素原子または塩素原子を示し、構造単位(II)および(III)の合計と構造単位(IV)は実質的に等モルである。)

4.特許異議の申立てについての判断
4-1.特許異議申立人の主張
特許異議申立人は、甲第1〜5号証及び参考文献1〜4を提出して、概略、次の理由により本件請求項1〜6に係る特許は取り消されるべきである旨、主張する。
(1)本件請求項1〜6に係る発明は、甲第1〜5号証に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。
(2)本件請求項1〜6に係る発明は、甲第1〜5号証の記載に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができない。

4-2.判断
4-2-1.取消理由
当審において、次の(1)及び(2)の取消理由を通知した。引用した刊行物は以下のとおりである。
(1)本件請求項1〜3及び6に係る発明は、刊行物1に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。
(2)本件請求項4及び5に係る発明は、刊行物1及び2の記載に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができない。
(註:上記4-1.及び4-2-1.の「請求項」とは訂正前のものを指す。)

<刊行物>
刊行物1; 特開平1-156360号公報(特許異議申立人が提出した甲第1号証)
刊行物2; 特開平4-298561号公報(同甲第3号証)
刊行物3; 「CARBON BLACK年鑑」,カーボンブラック協会,H.5.7.30,p.79-81(同甲第5号証)

4-2-2.刊行物1〜3の記載事項
刊行物1には、少なくとも約35重量%の完全に芳香族のポリエステルおよび約1〜5重量%のカーボンブラックを含んでなるポリエステル成形組成物であって、前記カーボンブラックは、高温における成形の間、前記組成物が発泡しないか、あるいは望ましくない溶融粘度の減少を示さないように、最少量の固有の揮発性物質を含有することを特徴とする前記組成物(請求項1)が記載されており、請求項7には、「完全に芳香族のポリエステル」として、「次の式:

式中、Xは-O-、-S-、-CO-または-SO2-であり、mおよびnは独立に0または1であり、そして整数p+q+r+s+t+uの合計はほぼ3〜約800である、から選択される反復部分からなる」ポリエステルが記載されており、また、「完全に芳香族のポリエステルは、懸濁重合および塊状重合を包含する、種々の方法によって製造できるしかしながら、これらのポリエステルは、脂肪族ポリエステルまたは混合脂肪族/芳香族ポリエステル、例えば、ポリエチレンテレフタレート、に比較して、高い融点を有するので、完全に芳香族のポリエステルをそれらの溶融状態に保持するためには、非常に高い温度を必要とする」(第2頁右下欄第13〜20行)こと、カーボンブラックとして、実施例においては、7種の商業的に入手可能なカーボンブラックである、レーベン2000、レーベン1020、レーベン850、レーベン410、リーガル330、リーガル99、スターリングR(いずれも商品名;第7頁表I)が用いられたこと、およびこの発明は、「慣用方法によって、均一な色を有する、強い、熱的に安定な、物品に成形できる、黒色に着色された完全に芳香族のポリエステルの組成物を生成する」(第11頁左上欄第8〜11行)ことが記載されている。
刊行物2には、「(A)下記構造単位(I)、(II)、(III)および(IV)からなる液晶ポリエステル100重量部に対して(B)有機臭素化合物0.5〜30重量部、(C)分子量500以上でかつ芳香族環を1個以上含有するフェノール化合物および/またはホスファイト化合物0.001〜5重量部を含有せしめた難燃液晶ポリエステル組成物。

」(請求項1)が記載されており、上記有機臭素化物として、重量平均分子量が1×103 〜30×104 の下記(b)または(c)式で表される臭素化スチレン単位を有するポリ臭素化スチレンが例示(第4頁右欄第10〜30行)されており、

この組成物には、染料(たとえばニトロシンなど)および顔料(たとえば硫化カドミウム、フタロシアニン、カーボンブラックなど)を含む着色剤を添加することができること(第6頁右欄第17〜28行)が記載されている。
刊行物3の第79頁の各社銘柄別の特性の項のコロンビヤン・インダストリアル・ブラックの基礎(物理・化学)的特性表には、品名Raven2000、Raven1020、Raven850およびRaven410のPH価がそれぞれ6.0、6.8、7.0および8.3であることが記載されており、第81頁のキャボットスペシャルブラック物性一覧表(その1.日本製品)には、種々のMONARCH製品のPH価が7.5〜8.5であり、製品名REGAL330およびREGAL99のPH価が、それぞれ8.5および8.0であることが記載されている。

4-2-3.対比、判断
(1)本件発明1および5
刊行物1の請求項1に記載された「完全に芳香族のポリエステル」は、その第2頁右下欄第13〜20行の記載および請求項7の記載からみて、主鎖に芳香族基を含み、脂肪族基を含まないポリエステルを意味するものと認められる。これに対し、本件発明1における液晶性ポリエステルは、主鎖に、必須構成要件として、式(III)の構造単位を含み、したがって、脂肪族基であるエチレン基を含むものであるから、刊行物1記載の「完全に芳香族のポリエステル」とは相違する。
したがって、刊行物3の記載から、刊行物1の実施例において用いられたカーボンブラックのPH価が6.0〜8.5であることが認められ、これが本件発明1におけるカーボンブラックのPH範囲と一致するとしても、刊行物1に記載されたポリエステル自体が本件発明1におけるポリエステルとは全く別異の樹脂である以上、液晶性樹脂組成物に係る本件発明1および該樹脂組成物からなる成形品に係る本件発明5は、刊行物3の記載を参酌しても、刊行物1に記載された発明であるとも、刊行物1に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるともいうことができない。

(2)本件発明2
本件発明2は、本件発明1をさらに技術的に限定したものであるから、本件発明1についての上記判断と同様の理由により、刊行物1に記載された発明であるとも、刊行物1に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるともいうことができない。

(3)本件発明3および4
本件発明3および4と刊行物2に記載された発明とは、ともに有機臭素化合物を含有する液晶性ポリエステル組成物である点で一致し、さらに、本件発明3および4における液晶性ポリエステル(本件発明1における液晶性ポリエステルと同じ)と刊行物2に記載の液晶性ポリエステルとは、本件発明1における式(II)のR1がビフェニレンで、式(IV)のR2がフェニレン、ビスフェニレンオキシまたはナフタレンで、刊行物2における、式(III)のXがエチレンで、式(IV)のYがフェニレン、ビスフェニレンオキシまたはナフタレンのときに一致する。しかしながら、刊行物2には、顔料としてカーボンブラックを用いることができることが記載されているだけで、カーボンブラックのPH価については何等記載がない。また、刊行物1には、強い、熱的に安定な、物品に成形できる、黒色に着色された完全に芳香族のポリエステル組成物を得るために、最少量の固有の揮発性物質を有するカーボンブラックを用いることが記載されているものの、このような特性を得る為のカーボンブラックのPH価については何等記載がなく、また、刊行物3にはカーボンブラックの銘柄とPH価の対応関係が示されているにすぎない。
そして、本件発明3および4は、特定の液晶性ポリエステルにPHが5〜8のカーボンブラックを配合することにより、訂正明細書に記載された所定の効果を奏するものであるから、刊行物1〜3に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明することができたものであるということができない。

4-2-4.甲第2号証及び甲第4号証に記載された発明との対比
特許異議申立人が提出した甲第2号証及び甲第4号証は取消理由には引用していないが、本件発明1〜5とこれらの証拠に記載された発明とを以下に対比、検討する。
甲第2号証には、液晶ポリエステルに顔料用カーボンブラックを配合して導電性を与える際にカーボンブラックの添加量を少なくするために、ポリアルキレンエーテル化合物を配合することを特徴とする発明が記載されており、顔料用カーボンブラックとして通常のものが用いられることが記載されているが、そのPHについては何等記載がないし、実施例にも、カーボンブラックとしてキャボット社のMONARCH(製品名)が用いられたことが記載されているだけである。また、刊行物3の記載によれば、MONARCHにも種々の製品があって、そのPHも7.5〜8.5のものがあるので、具体的にどのMONARCH製品が用いられたのか不明であり、したがって、甲第2号証の実施例において用いられたカーボンブラックのPHも不明である。
また、甲第4号証には、刊行物1(甲第1号証)の実施例1で引用されている「完全に芳香族のポリエステル:キシダー(Xydar)STR-300樹脂」が記載されているにすぎず、これは、エチレン基を含む式(III)の構造単位を有する本件発明1とは全く相違する樹脂である。
そして、本件発明1〜5は、特定の液晶性ポリエステルに、特定のPHのカーボンブラックを配合することにより所定の効果を奏し得たものであるから、甲第2号証又は甲第4号証に記載された発明であるということができないばかりでなく、これらの証拠に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明することができたものとすることもできない。

5.むすび
以上のとおりであるから、特許異議申立の理由及び証拠によっては、本件発明1〜5についての特許を取り消すことができない。
また、他に本件発明1〜5についての特許を取り消すべき理由を発見しない。
したがって、本件発明1〜5についての特許は拒絶の査定をしなければならない特許出願に対してなされたものでない。
よって、特許法等の一部を改正する法律(平成6年法律第116号)附則第14条の規定に基づく、特許法等の一部を改正する法律の施行に伴う経過処置を定める政令(平成7年政令第205号)第4条第2項の規定により、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
液晶性樹脂組成物および成形品
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】 (A)異方性溶融相を形成する、下記(I)、(II)、(III)および(IV)の構造単位からなる液晶性ポリエステル、(I)、(III)および(IV)の構造単位からなる液晶性ポリエステルおよび液晶性ポリエステルアミドから選ばれた1種以上の液晶性樹脂100重量部に対して、PHが5〜8のカーボンブラック0.01〜10重量部を含有せしめてなる液晶性樹脂組成物。
【化1】

(ただし式中のR1は、
【化2】

から選ばれた一種以上の基を示し、R2は、
【化3】

から選ばれた一種以上の基を示す。また、式中Xは水素原子または塩素原子を示し、構造単位(II)および(III)の合計と構造単位(IV)は実質的に等モルである。)
【請求項2】(A)液晶性樹脂100重量部に対して、さらに充填剤400重量部以下を含有せしめてなる請求項1記載の液晶性樹脂組成物。
【請求項3】(A)液晶性樹脂100重量部に対して、さらに有機臭素化物0.5〜60重量部を含有せしめてなる請求項1または2記載の液晶性樹脂組成物。
【請求項4】有機臭素化物が臭素化スチレンモノマから製造した下記構造単位の1種以上を主要構成成分とする重量平均分子量が1×103〜120×104のポリ臭素化スチレンである請求項3記載の液晶性樹脂組成物。
【化4】

【請求項5】 (A)異方性溶融相を形成する、下記(I)、(II)、(III)および(IV)の構造単位からなる液晶性ポリエステル、(I)、(III)および(IV)の構造単位からなる液晶性ポリエステルおよび液晶性ポリエステルアミドから選ばれた1種以上の液晶性樹脂100重量部に対して、PHが5〜8のカーボンブラック0.01〜10重量部を含有せしめてなる液晶性樹脂成形品。
【化5】

(ただし式中のR1は、
【化6】

から選ばれた一種以上の基を示し、R2は、
【化7】

から選ばれた一種以上の基を示す。また、式中Xは水素原子または塩素原子を示し、構造単位(II)および(III)の合計と構造単位(IV)は実質的に等モルである。)
【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】
本発明は耐熱性、機械的特性および成形性が優れ熱的、化学的に安定で分解ガスなどの発生がなく、黒着色された液晶性樹脂組成物および成形品に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
近年プラスチックの高性能化に対する要求がますます高まり、種々の新規性能を有するポリマが数多く開発され、市場に供されているが、中でも分子鎖の平行な配列を特徴とする光学異方性の液晶性ポリマが優れた流動性、耐熱性、機械的性質を有する点で注目されている。
【0003】
異方性溶融相を形成するポリマとしては、例えばp-ヒドロキシ安息香酸にポリエチレンテレフタレートを共重合した液晶性ポリマ(特開昭49-72393号公報)、p-ヒドロキシ安息香酸と6-ヒドロキシ-2-ナフトエ酸を共重合した液晶性ポリマ(特開昭54-77691号公報)、また、p-ヒドロキシ安息香酸に4,4’-ジヒドロキシビフェニルとテレフタル酸、イソフタル酸を共重合した液晶性ポリマ(特公昭57-24407号公報)、6-ヒドロキシ-2-ナフトエ酸、p-アミノフェノールとテレフタル酸から生成した液晶性ポリマ(特開昭57-172921号公報)、p-ヒドロキシ安息香酸、4,4’-ジヒドロキシビフェニルとテレフタル酸、p-アミノ安息香酸およびポリエチレンテレフタレートから生成した液晶性ポリマ(特開昭64-33123号公報)などが開示されている。
【0004】
これらの液晶性ポリマは機械的異方性および寸法異方性が大きいという欠点を有するが、例えば液晶性ポリマにガラス繊維を添加する方法(ラバーダイジェスト27巻、8号、7〜14頁、(1975))、液晶性ポリマにマイカ、タルク、グラファイトに代表される板状粉体を配合する方法(特開昭63-146959号公報)などにより、異方性を緩和すると同時に機械的強度、耐熱性、成形性および寸法安定性などが更に向上し、エンジニアリングプラスチックとして自動車、電気・電子、精密機械、事務機など各種部品に広範な用途に使用されている。
【0005】
特に、液晶性樹脂製の成形品はその耐熱性が優れることから高温雰囲気下で使用されることが多く、このとき変色を防止する目的で黒色に着色される。
【0006】
液晶性樹脂を黒色に着色する方法は他の樹脂と同様にカーボンブラックを添加する手法が一般的であるが液晶性樹脂はその配向しやすいなどの特性のため着色されにくく、他の樹脂に比較して多くのカーボンブラックを添加する必要があり、また、成形が高温で行なわれるため機械的特性が低下し、特に、ウェルド強度が低下したり、分解ガスなどが発生しやすくなって耐ハンダ性が低下するなど、機能的な用途に使用できないなどの問題が指摘されるようになってきている。この問題は、エチレンジオキシ単位を含有する液晶性ポリマを使用する場合において特に顕著である。
【0007】
【発明が解決しようとする課題】
よって本発明は、上述の問題を解消し、分解ガスなどの発生がなく、耐熱性、機械的特性および成形性が均衡して優れた黒色に着色された液晶性樹脂組成物および成形品の取得を課題とする。
【0008】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、本発明に到達した。
【0009】
すなわち、本発明は(A)異方性溶融相を形成する、下記(I)、(II)、(III)および(IV)の構造単位からなる液晶性ポリエステル、(I)、(III)および(IV)の構造単位からなる液晶性ポリエステルおよび液晶性ポリエステルアミドから選ばれた1種以上の液晶性樹脂100重量部に対して、PHが5〜8のカーボンブラック0.01〜10重量部を含有せしめてなる液晶性樹脂組成物、
【化8】

(ただし式中R1は
【化9】

から選ばれた一種以上の基を示し、R2は
【化10】

から選ばれた一種以上の基を示す。また、式中Xは水素原子または塩素原子を示し、構造単位(II)および(III)の合計と構造単位(IV)は実質的に等モルである。)
上記液晶性樹脂100重量部に対して、さらに充填剤300重量部以下を含有せしめてなる上記の液晶性樹脂組成物、上記液晶性樹脂100重量部に対して、さらに有機臭素化物0.5〜60重量部を配合してなる上記の液晶性樹脂組成物および有機臭素化物が臭素化スチレンモノマから製造した下記構造単位の1種以上を主要構成成分とする重量平均分子量が1×103〜120×104のポリ臭素化スチレンである上記の液晶性樹脂組成物および成形品を提供するものである。
【0010】
【化11】

本発明で用いる(A)液晶性樹脂における異方性溶融相を形成する液晶性ポリエステルおよび液晶性ポリエステルアミドとは、芳香族オキシカルボニル単位、芳香族ジオキシ単位、芳香族ジカルボニル単位、エチレンジオキシ単位などから選ばれた構造単位からなる異方性溶融相を形成する液晶性ポリエステルであり、また、上記構造単位と芳香族イミノカルボニル単位、芳香族ジイミノ単位、芳香族イミノオキシ単位などから選ばれた構造単位からなる異方性溶融相を形成する液晶性ポリエステルアミドである。
【0011】
本発明で用いる異方性溶融相を形成する液晶性ポリエステルとしては、上記(I)、(II)、(III)および(IV)の構造単位からなる異方性溶融相を形成する液晶性ポリエステル、または、(I)、(III)および(IV)の構造単位からなる異方性溶融相を形成する液晶性ポリエステルである。
【0012】
上記構造単位(I)はp-ヒドロキシ安息香酸から生成したポリエステルの構造単位であり、構造単位(II)は4,4’-ジヒドロキシビフェニル、3,3’,5,5’-テトラメチル-4,4’-ジヒドロキシビフェニル、ハイドロキノン、t-ブチルハイドロキノン、フェニルハイドロキノン、2,6-ジヒドロキシナフタレン、2,7-ジヒドロキシナフタレン、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパンおよび4,4’-ジヒドロキシジフェニルエーテルから選ばれた芳香族ジヒドロキシ化合物から生成した構造単位を、構造単位(III)はエチレングリコールから生成した構造単位を、構造単位(IV)はテレフタル酸、イソフタル酸、4,4’-ジフェニルジカルボン酸、2,6-ナフタレンジカルボン酸、1,2-ビス(フェノキシ)エタン-4,4’-ジカルボン酸、1,2-ビス(2-クロルフェノキシ)エタン-4,4’-ジカルボン酸および4,4’ジフェニルエーテルジカルボン酸から選ばれた芳香族ジカルボン酸から生成した構造単位を各々示す。
【0013】
また、液晶性ポリエステルアミドの例としては、6-ヒドロキシ-2-ナフトエ酸、p-アミノフェノールとテレフタル酸から生成した液晶性ポリエステルアミド、p-ヒドロキシ安息香酸、4,4’-ジヒドロキシビフェニルとテレフタル酸、p-アミノ安息香酸およびポリエチレンテレフタレートから生成した液晶性ポリエステルアミド(特開昭64-33123号公報)などが挙げられる。
【0014】
本発明に好ましく使用できる液晶性ポリエステルは、上記(I)、(II)、(III)および(IV)からなる共重合体であり、上記構造単位(I)、(II)、(III)および(IV)の共重合量は任意である。しかし、流動性の点から次の共重合量であることが好ましい。
【0015】
すなわち、上記構造単位(III)を含む場合は、耐熱性、難燃性および機械的特性の点から上記構造単位(I)および(II)の合計は構造単位(I)、(II)および(III)の合計に対して60〜95モル%が好ましく、75〜93モル%がより好ましい。また、構造単位(III)は構造単位(I)、(II)および(III)の合計に対して40〜5モル%が好ましく、25〜7モル%がより好ましい。また、構造単位(I)の(II)に対するモル比[(I)/(II)]は耐熱性と流動性のバランスの点から好ましくは75/25〜95/5であり、より好ましくは78/22〜93/7である。また、構造単位(IV)は構造単位(II)および(III)の合計と実質的に等モルである。
【0016】
【0017】
なお、本発明で好ましく使用できる上記液晶性ポリエステルを重縮合する際には上記構造単位(I)〜(IV)を構成する成分以外に3,3’-ジフェニルジカルボン酸、2,2’-ジフェニルジカルボン酸などの芳香族ジカルボン酸、アジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ドデカンジオン酸などの脂肪族ジカルボン酸、ヘキサヒドロテレフタル酸などの脂環式ジカルボン酸、クロルハイドロキノン、メチルハイドロキノン、4,4’-ジヒドロキシジフェニルスルホン、4,4’-ジヒドロキシジフェニルスルフィド、4,4’-ジヒドロキシベンゾフェノン等の芳香族ジオール、1,4-ブタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、ネオペンチルグリコール、1,4-シクロヘキサンジオール、1,4-シクロヘキサンジメタノール等の脂肪族、脂環式ジオールおよびm-ヒドロキシ安息香酸、2,6-ヒドロキシナフトエ酸などの芳香族ヒドロキシカルボン酸およびp-アミノフェノール、p-アミノ安息香酸などを本発明の目的を損なわない程度の少割合の範囲でさらに共重合せしめることができる。
【0018】
本発明における(A)液晶性樹脂の製造方法は、特に制限がなく、公知のポリエステルの重縮合法に準じて製造できる。
【0019】
例えば、上記の好ましく用いられる液晶性ポリエステルの製造において、上記構造単位(III)を含む場合は(3)の製造方法が好ましく挙げられる。
【0020】
(1)p-アセトキシ安息香酸および4,4’-ジアセトキシビフェニル、4,4´-ジアセトキシベンゼンなどの芳香族ジヒドロキシ化合物のジアシル化物とテレフタル酸などの芳香族ジカルボン酸から脱酢酸重縮合反応によって製造する方法。
(2)p-ヒドロキシ安息香酸および4,4’-ジヒドロキシビフェニル、ハイドロキノンなどの芳香族ジヒドロキシ化合物、テレフタル酸などの芳香族ジカルボン酸に無水酢酸を反応させて、フェノール性水酸基をアシル化した後、脱酢酸重縮合反応によって製造する方法。
(3)ポリエチレンテレフタレートなどのポリエステルのポリマ、オリゴマまたはビス(β-ヒドロキシエチル)テレフタレートなど芳香族ジカルボン酸のビス(β-ヒドロキシエチル)エステルの存在下で(1)または(2)の方法により製造する方法。
【0021】
これらの重縮合反応は無触媒でも進行するが、酢酸第一錫、テトラブチルチタネート、酢酸カリウムおよび酢酸ナトリウム、三酸化アンチモン、金属マグネシウムなどの金属化合物を添加した方が好ましいときもある。
【0022】
本発明における(A)液晶性樹脂は、ペンタフルオロフェノール中で対数粘度を測定することが可能なものもあり、その際には0.1g/dlの濃度で60℃で測定した値で0.5dl/g以上が好ましく、特に上記構造単位(III)を含む場合は1.0〜3.0dl/gが好ましく、上記構造単位(III)を含まない場合は2.0〜10.0dl/gが好ましい。
【0023】
また、本発明における(A)液晶性樹脂の溶融粘度は10〜20,000ポイズが好ましく、特に20〜10,000ポイズがより好ましい。
【0024】
なお、上記の溶融粘度は融点(Tm)+10℃の条件で、ずり速度1,000(1/秒)の条件下で高化式フローテスターによって測定した値である。
【0025】
ここで、融点(Tm)とは示差熱量測定によりポリマを室温から20℃/分の昇温条件で測定した際に観測される吸熱ピーク温度Tm1の観測後、Tm1+20℃の温度でまで昇温し、同温度で5分間保持した後、20℃/分の降温条件で室温まで一旦冷却した後、再度20℃/分の昇温条件で測定した際に観測される吸熱ピーク温度を指す。
【0026】
本発明で用いるカーボンブラックはチャネルブラック系、ハーネスブラック系、ランプブラック系などが挙げられ、このらのうち特にランプブラック系のものが好ましく使用できる。
【0027】
カーボンブラックのPHは5〜8、好ましくは6〜8、更に好ましくは6.5〜7.8の範囲であり、PHが5未満では、耐衝撃性に代表される機械的特性およびウエルド強度が大きく低下し好ましくない。また、PHが8を越えると、耐衝撃性やウエルド強度が低下するばかりでなく、成形時の滞留安定性が不良となり、物性低下や分解ガスが発生して成形品の外観が不良となり好ましくない。なかでもエチレンジオキシ単位を有する液晶性ポリマを用いる場合は特にこれらの物性低下が大きい。
【0028】
上記のPHはカーボンブラック1gを蒸留水20mlに分散せしめた水性懸濁液を作成し、該懸濁液のPHを測定した値である。
【0029】
本発明において用いることができる充填剤としては、ガラス繊維、炭素繊維、芳香族ポリアミド繊維、チタン酸カリウム繊維、石膏繊維、黄銅繊維、ステンレス繊維、スチール繊維、セラミック繊維、ボロンウィスカー繊維、アスベスト繊維、マイカ、タルク、シリカ、炭酸カルシウム、ガラスビーズ、ガラスフレーク、ガラスマイクロバルーン、クレー、二硫化モリブデン、ワラステナイト、酸化チタン、ポリリン酸カルシウム、グラファイトなどの繊維状、粉状、粒状あるいは板状のフィラーが挙げられる。上記充填剤中、ガラス繊維が好ましく使用される。
【0030】
ガラス繊維の種類は、一般に樹脂の強化用に用いるものなら特に限定はなく、例えば長繊維タイプや短繊維タイプのチョップドストランド、ミルドファイバーなどから選択して用いることができる。
【0031】
上記の充填剤の添加量は液晶性樹脂100重量部に対し400重量部以下であり、好ましくは50〜250重量部、より好ましくは70〜200重量部である。
なお、本発明に使用する上記の充填剤はその表面を公知のカップリング剤(例えば、シラン系カップリング剤、チタネート系カップリング剤など)、その他の表面処理剤で処理して用いることもできる。
【0032】
また、ガラス繊維はエチレン/酢酸ビニル共重合体などの熱可塑性樹脂、エポキシ樹脂などの熱硬化性樹脂で被覆あるいは集束されていてもよい。
【0033】
本発明において使用される有機臭素化合物は、通常難燃剤として使用されている公知の有機臭素化合物を含み、特に臭素含有量20重量%以上のものが好ましい。具体的にはヘキサブロモベンゼン、ペンタブロモトルエン、ヘキサブロモビフェニル、デカブロモビフェニル、ヘキサブロモシクロデカン、デカブロモジフェニルエーテル、オクタブロモジフェニルエーテル、ヘキサブロモジフェニルエーテル、ビス(ペンタブロモフェノキシ)エタン、エチレン-ビス(テトラブロモフタルイミド)、テトラブロモビスフェノールAなどの低分子量有機臭素化合物、臭素化ポリカーボネート(例えば臭素化ビスフェノールAを原料として製造されたポリカーボネートオリゴマーあるいはそのビスフェノールAとの共重合物)、臭素化エポキシ化合物(例えば臭素化ビスフェノールAとエピクロルヒドリンとの反応によって製造されるジエポキシ化合物や臭素化フェノール類とエピクロルヒドリンとの反応によって得られるものエポキシ化合物)、ポリ(臭素化ベンジルアクリレート)、臭素化ポリフェニレンエーテル、臭素化ビスフェノールA、塩化シアヌルおよび臭素化フェノールの縮合物、臭素化ポリスチレン、架橋臭素化ポリスチレン、架橋臭素化ポリα-メチルスチレンなどのハロゲン化されたポリマーやオリゴマーあるいは、これらの混合物が挙げられ、なかでもエチレンビス(テトラブロモフタルイミド)、臭素化エポキシオリゴマーまたはポリマー、臭素化ポリスチレン、架橋臭素化ポリスチレン、臭素化ポリフェニレンエーテルおよび臭素化ポリカーボネートが好ましく、臭素化ポリスチレンが最も好ましく使用できる。
【0034】
上記の好ましい有機臭素化物についてさらに詳しく述べると、臭素化エポキシポリマーとしては下記一般式(i)で表わされるものが好ましい。
【0035】
【化12】

【0036】
上記一般式(i)中の重合度nは好ましくは15以上、さらに好ましくは50〜80である。
【0037】
本発明に用いる臭素化ポリスチレンとしてはラジカル重合またはアニオン重合によって得られたポリスチレンを臭素化することによって製造された臭素化ポリスチレンおよび架橋臭素化ポリスチレン、あるいは臭素化スチレンモノマをラジカル重合またはアニオン重合、好ましくはラジカル重合によって製造された(ii)および/又は(iii)式で表わされる臭素化スチレン単位を有するポリ臭素化スチレンなどが挙げられるが、とりわけ臭素化スチレンモノマから製造した下記(ii)および/又は(iii)式で示される構造単位を主要構成成分とする重量平均分子量が1×103〜120×104のポリ臭素化スチレンが好ましい。
【0038】
【化13】

【0039】
ここでいう臭素化スチレンモノマとはスチレンモノマ1個あたり、その芳香環に2〜3個の臭素原子が置換反応により導入されたものが好ましく、二臭素化スチレンおよび/又は三臭素化スチレンの他に一臭素化スチレンなどを含んでいてもよい。
【0040】
上記ポリ臭素化スチレンは二臭素化スチレンおよび/又は三臭素化スチレン単位を60重量%以上含有しているものが好ましく、70重量%以上含有しているものがより好ましい。二臭素化スチレンおよび/又三臭素化スチレン以外に一臭素化スチレンを40重量%以下、好ましくは30重量%以下共重合したポリ臭素化スチレンであってもよい。このポリ臭素化スチレンの重量平均分子量は1×104〜15×104がより好ましい。なお、この重量平均分子量はゲル浸透クロマトグラフを用いて測定した値であり、ポリスチレン分子量基準の相対値である。
【0041】
架橋臭素化ポリスチレンとしては、ジビニルベンゼンで架橋された多孔質ポリスチレンを臭素化したポリスチレンが好ましい。
【0042】
臭素化ポリカーボネートとしては、下記一般式(iv)で表わされるものが好ましい。
【0043】
【化14】

(R1、R2は置換あるいは無置換のアリール基を示し、p-t-ブチルフェニル基が最も好ましい。)
【0044】
上記一般式(iv)中の重合度nとしては4以上のものが好ましく、8以上のもの、とりわけ8〜25がより好ましく使用できる。
【0045】
これらの有機臭素化物の配合量は、液晶性樹脂100重量部当り、0.5〜60重量部、特に1〜30重量部が好適である。
【0046】
また、本発明の液晶性樹脂組成物において有機臭素化物は組成物中に平均径25μm以下で分散していることが好ましく、2.0μm以下で分散していることがより好ましい。
【0047】
本発明の液晶性樹脂組成物には、酸化防止剤および熱安定剤(たとえばヒンダードフェノール、ヒドロキノン、ホスファイト類およびこれらの置換体など)、紫外線吸収剤(たとえばレゾルシノール、サリシレート、ベンゾトリアゾール、ベンゾフェノンなど)、滑剤および離型剤(モンタン酸およびその塩、そのエステル、そのハーフエステル、ステアリルアルコール、ステアラミドおよびポリエチレンワックスなど)、染料(たとえばニグロシンなど)および顔料(たとえば硫化カドミウム、フタロシアニンなど)を含む着色剤、可塑剤、難燃助剤、帯電防止剤などの通常の添加剤や他の熱可塑性樹脂(フッ素樹脂など)を添加して、所定の特性を付与することができる。
【0048】
本発明の液晶性樹脂組成物および成形品の製造方法は特に限定されるものではないが、溶融混練により製造することが好ましく、溶融混練には公知の方法を用いることができる。例えば、バンバリーミキサー、ゴムロール機、ニーダー、単軸もしくは二軸押出機などを用い、200〜400℃の温度で溶融混練して組成物とし、かくして得られた本発明の液晶性樹脂組成物を射出成形、押出成形、ブロー成形などの通常の成形方法により成形品とする方法などが挙げられる。
【0049】
また、本発明に用いるカーボンブラックを高濃度に配合したマスターペレットを作成し、これを成形加工時に無着色ペレットに混合してから成形する方法なども好ましく使用できる。かくして得られた組成物および成形品は優れた耐熱性、成形性、機械的特性、表面外観を有する三次元成形品、シート、容器パイプなどに加工することが可能であり、例えば、各種ギヤー、各種ケース、センサー、LEPランプ、コネクター、ソケット、抵抗器、リレーケーススイッチコイルボビン、コンデンサー、バリコンケース、光ピックアップ、発振子、各種端子板、変成器、プラグ、プリント配線板、チューナー、スピーカー、マイクロフォン、ヘッドフォン、小型モーター、磁気ヘッドベース、パワーモジュール、ハウジング、半導体、液晶、FDDキャリッジ、FDDシャーシ、モーターブラッシュホルダー、パラボラアンテナ、コンピューター関連部品などに代表される電気・電子部品;VTR部品、テレビ部品、アイロン、ヘアードライヤー、炊飯器部品、電子レンジ部品、音響部品、オーディオ・レーザーディスク・コンパクトディスクなどの音声機器部品、照明部品、冷蔵庫部品、エアコン部品、タイプライター部品、ワードプロセッサー部品などに代表される家庭、事務電気製品部品、オフィスコンピューター関連部品、電話機関連部品、ファクシミリ関連部品複写機関連部品、洗浄用治具、オイルレス軸受、船尾軸受、水中軸受、などの各種軸受、モーター部品、ライター、タイプライターなどに代表される機械関連部品、顕微鏡、双眼鏡、カメラ、時計などに代表される光学機器、精密機械関連部品;オルタネーターターミナル、オルタネーターコネクター、ICレギュレーター、ライトディヤー用ポテンショメーターベース、排気ガスバルブなどの各種バルブ、燃料関係・排気系・吸気系各種パイプ、エアーインテークノズルスノーケル、インテークマニホールド、燃料ポンプ、エンジン冷却水ジョイント、キャブレターメインボディー、キャブレタースペーサー、排気ガスセンサー、冷却水センサー、油温センサー、ブレーキパットウェアーセンサー、スロットルポジションセンサー、クランクシャフトポジションセンサー、エアーフローメーター、ブレーキバット磨耗センサー、エアコン用サーモスタットベース、暖房温風フローコントロールバルブ、ラジエーターモーター用ブラッシュホルダー、ウォーターポンプインペラー、タービンベイン、ワイパーモーター関係部品、デュストリビュター、スタータースィッチ、スターターリレー、トランスミッション用ワイヤーハーネス、ウィンドウオッシャーノズル、エアコンパネルスイッチ基板、燃料関係電磁気弁用コイル、ヒューズ用コネクター、ホーンターミナル、電装部品絶縁板、ステップモーターローター、ランプソケット、ランプリフレクター、ランプハウジング、ブレーキピストン、ソレノイドボビン、エンジンオイルフィルター、点火装置ケースなどの自動車・車両関連部品、その他各種用途に有用である。
【0050】
【実施例】
以下、実施例により本発明をさらに詳述する。
【0051】
参考例1
p-ヒドロキシ安息香酸994重量部、4,4’-ジヒドロキシビフェニル126重量部、テレフタル酸112重量部、固有粘度が約0.6dl/gのポリエチレンテレフタレート216重量部及び無水酢酸960重量部を撹拌翼、留出管を備えた反応容器に仕込み、重縮合を行い、重縮合を完結させ樹脂(A)を得たこの樹脂の融点(Tm)は314℃であり、324℃、ずり速度1000/秒での溶融粘度は400ポイズであった。
【0052】
参考例2
p-ヒドロキシ安息香酸994重量部、4,4’-ジヒドロキシビフェニル222重量部、2,6-ジアセトキシナフタレン147重量部、無水酢酸1078重量部およびテレフタル酸299重量部を撹拌翼、留出管を備えた反応容器に仕込み、重縮合を行い、重縮合を完結させ樹脂(B)を得た。
この樹脂の融点(Tm)は336℃であり、346℃、ずり速度1000/秒での溶融粘度は520ポイズであった。
【0053】
参考例3
特開昭49-72393号公報記載の製造方法に従って、p-アセトキシ安息香酸1296重量部と固有粘度が約0.6dl/gのポリエチレンテレフタレート346重量部を撹拌翼、留出管を備えた反応容器に仕込み、重縮合を行い、樹脂(C)を得たこの樹脂の融点(Tm)は283℃であり、293℃ずり速度1000/秒での溶融粘度は1,200ポイズであった。
【0054】
参考例4
特開昭54-77691号公報記載の製造方法に従って、p-アセトキシ安息香酸921重量部と6-アセトキシーナフトエ酸435重量部を撹拌翼、留出管を備えた反応容器に仕込み、重縮合を行い、樹脂(D)を得た。この樹脂の融点(Tm)は283℃であり、293℃、ずり速度1000/秒での溶融粘度2,000ポイズであった。
【0055】
参考例5
本発明に用いた有機臭素化物の構造を表1に示す。
【0056】
【表1】

【0057】
実施例1、比較例1〜7
参考例1〜4で得た液晶性樹脂に表2に示したカーボンブラックを表2に示した割合でドライブレンドした後、シリンダ温度を各々の液晶性樹脂の融点に設定した30mmφの2軸押出機を用いて溶融混練してペレットとした。
【0058】
このペレットを住友ネスタールプロマット40/25射出成形機(住友重機械工業(株)製)に供し、シリンダー温度を融点+10℃、金型温度90℃の条件で、両端にゲートを有し、試験片中央部にウエルドラインを形成する厚み1mmの曲げ試験片を成形し、ウエルド強度を測定した。これらの結果を表2に示した。
【0059】
【表2】

LB:ランプブラック系(LB[PH7.5]=デグッサ社製”ランプブラック101”)
CB:チャネルブラック系
HB:ハーネスブラック系
【0060】
実施例2〜7,比較例8〜17
参考例1〜4で得た液晶性樹脂に表3に示した充填剤、カーボンブラック、その他の添加物を表3に示した割合でドライブレンドした後、シリンダ温度を各々の液晶性樹脂の融点に設定した30mmφの2軸押出機を用いて溶融混練してペレットとした。
【0061】
このペレットを住友ネスタールプロマット40/25射出成形機(住友重機械工業(株)製)に供し、シリンダー温度を融点+10℃、金型温度90℃の条件で2・1/2”(幅)×1/2”×(長さ)×1/4”(厚み)の衝撃試験片および両端にゲートを有し、試験片中央部にウエルドラインを形成する厚み1mmの曲げ試験片を成形し、衝撃強度およびウエルド強度を測定した。
また、このペレットを東芝IS55EPN射出成形機(東芝機械プラスチックエンジニアリング(株)製)に供し、シリンダー温度を融点+15℃、金型温度90℃において、成形滞留時間を4分間と20分間に変えた2条件でASTM1号ダンベル試験片を成形し、引張強度を測定して、成形滞留時間20分間の時の引張強度/成形滞留時間4分間の時の引張強度×100を引張強度保持率として求めた。
【0062】
90℃の条件で、成形滞留時間を変えてASTM1号ダンベル試験片を成形し、引張強度を測定した。これらの成形品についてその黒色度および外観について目視観察した。これらの結果を表3に示した。
【0063】
【表3】

【0064】
実施例8〜13
実施例2において更に表1に示した有機臭素化物を液晶性樹脂100重量部に対し表4に示した割合に配合した以外は実施例4と同様にして組成物のペレットを製造した。このペレットを住友ネスタール射出成形機プロマット40/25(住友重機械工業(株)製)に供し、シリンダー温度を融点+10℃、金型温度を90℃の条件にて0.5mm(厚み)×12.7mm×127mmの燃焼試験片を成形し、該燃焼試験片を用いてUL94規格に従い垂直型燃焼テストを実施し、難燃性を評価した以外は実施例2と同様に行った。
【0065】
これらの結果を表4に示した。
【0066】
【表4】

【0067】
【発明の効果】
本発明の液晶性樹脂組成物および成形品は黒色に着色され、優れた耐熱性、機械特性を有するので電気・電子関連機器、精密機械関連機器、事務用機器、自動車・車両関連部品など、その他各種用途に好適である。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2004-11-09 
出願番号 特願平5-338238
審決分類 P 1 651・ 121- YA (C08L)
P 1 651・ 113- YA (C08L)
最終処分 維持  
前審関与審査官 森川 聡  
特許庁審判長 井出 隆一
特許庁審判官 船岡 嘉彦
佐野 整博
登録日 2002-10-25 
登録番号 特許第3362489号(P3362489)
権利者 東レ株式会社
発明の名称 液晶性樹脂組成物および成形品  

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