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審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 B41J
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 B41J
管理番号 1112120
審判番号 不服2003-19528  
総通号数 64 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2001-03-21 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2003-10-03 
確定日 2005-02-14 
事件の表示 特願2000-163169「記録ヘッド、該記録ヘッド用基体及び記録装置」拒絶査定不服審判事件〔平成13年 3月21日出願公開、特開2001- 71500〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成12年5月31日の出願(優先権主張 平成11年6月7日及び平成11年7月2日)であって、平成15年8月27日付けで拒絶の査定がされたため、これを不服として同年10月3日付けで本件審判請求がされるとともに、同月31日付けで明細書についての手続補正(平成14年改正前特許法17条の2第1項3号の規定に基づく手続補正であり、以下「本件補正」という。)がされたものである。

第2 補正の却下の決定
[補正の却下の決定の結論]
平成15年10月31日付けの手続補正を却下する。

[理由]
1.補正事項及び補正目的
本件補正前後の特許請求の範囲の記載を比較すると、本件補正後の【請求項1】は実質上補正前の【請求項1】に、補正前【請求項2】の「前記発熱素子が発生する熱エネルギーを利用して液体を吐出して記録を行う発熱素子である」旨の限定、及び補正前【請求項9】の「前記MIM素子が前記発熱素子を兼ねる」旨の限定を加えたものである。
上記した補正事項だけを考慮するなら、本件補正後の【請求項1】は補正前の【請求項1】、【請求項2】又は【請求項9】の何れを限定したものとも解釈できるが、本件補正後の【請求項2】及び【請求項3】の限定事項は、補正前の【請求項5】及び【請求項7】の限定事項と同一であり、これら補正前の請求項は補正前請求項1だけを引用しており、補正前請求項2,9を引用していないから、【請求項2】又は【請求項9】を限定したものと解すると補正目的の点で不合理を生ずる。したがって、本件補正後の【請求項1】は補正前の【請求項1】を限定したものとして、特許法17条の2第4項2号に該当する。
そこで、本件補正後の請求項1に係る発明(以下「補正発明」という。)の独立特許要件について検討する。

2.補正発明の認定
補正発明は、本件補正により補正された明細書及び図面の記載からみてその特許請求の範囲【請求項1】に記載された事項によって特定されるとおりの次のものと認める。
「絶縁非金属基板または表面が絶縁された金属基板上に設けられた複数の発熱素子が発生させる熱エネルギーを利用して液体を吐出して記録を行う記録ヘッドであって、
前記複数の発熱素子は、絶縁層と該絶縁層を挟持する一対の導電層とを有し、前記複数の発熱素子を選択的に駆動するための素子を兼ねる複数のMIM素子であり、該複数のMIM素子と、
前記複数の発熱素子としての前記複数のMIM素子を複数のグループに分けその各々のグループに設けられた第1の接続部と、
前記複数の発熱素子を選択的に駆動するための素子としての前記複数のMIM素子を前記発熱素子のグループとは異なる複数のグループに分けその各々のグループに設けられた第2の接続部と、
を有し、前記第1の接続部と第2の接続部とを用いて前記各発熱素子をマトリクス駆動して記録を行うことを特徴とする記録ヘッド。」

3.引用刊行物記載の発明
原査定の拒絶の理由に引用された特開平3-246044号公報(以下「引用例1」という。)には、
「インクを吐出する為の吐出口を有する吐出部と、
該吐出口に供給されたインクを吐出する為に利用される熱エネルギを発生する為の電気熱変換素子と、該電気熱変換素子に電気的に接続された駆動用の機能素子と、が設けられた基体とを具え、
前記電気熱変換素子が前記機能素子の一部として形成されていることを特徴とする記録ヘツド。」(1頁左下欄特許請求の範囲第1項)
との発明(以下「引用発明1」という。)が記載されており、その説明又は実施例として以下のア〜オの記載又は図示がある。
ア.「[従来の技術〕 従来、記録ヘツドの構成は電気熱変換素子アレイを単結晶シリコン基板上に形成し、この電気熱変換素子の駆動回路としてシリコン基板外部にトランジスタアレイ、ダイオードアレイ等の電気熱変換素子駆動用機能素子を配置し、電気熱変換素子とトランジスタアレイ等機能素子との間の接続をフレキシブルケーブルやワイヤーボンデイング等によつて行う構成としていた。」(2頁左上欄12行〜右上欄1行)
イ.「[作 用] 本発明では、電気熱変換素子をその駆動用機能素子の一部として、例えば機能素子としてのMOS構造のトランジスタのチャネル部分を電気熱変換領域として用いることで、電気熱変換素子と駆動素子とを一体化することが可能である。そして、一体化することでチップ面積が小さくなり、また構造も簡略化する。」(2頁右下欄10〜17行)
ウ.「第1図(c)はかかるMOS型トランジスタアレーおよび配線状態の等価回路であり、本図を用いて制御対象となる電気熱変換素子をかねたMOS型トランジスタに単独に電流供給を行うための基本動作を説明する。
第1図(c)において、MOS型トランジスタの各ドレイン電極は正電位VDDにバイアスし、シリコン基板1は、シリコン基板上のp+領域を通して接地状態とする。今、同時駆動に係るセグメント19に電流を供給する場合を考える。セグメント19に電流供給するためには画像信号に応じてスイツチ10A〜10Dを閉とし、MOS型トランジスタ11のゲート電極にしきい値電圧以上の電位VG1をスイツチ14を介してバイアスすることによりチャネルを形成すれば、ソース電極に電流が流れて目的を達成できる。ここで注意すべきことは、この状態において例えばセグメント19に隣接するMOS型トランジスタ12に電流が流れることのないように配慮することである。もし、MOS型トランジスタ12のゲート電位がフローティング状態であると、MOS型トランジスタ12のドレイン電極には正電位VDDがバイアスされているので、ゲート電極とシリコン基板とで構成されるキャパシタのノイズによる電位や配線容量による電位がMOS型トランジスタ12のしきい値電圧を越えるようになると、チャネルが形成される電流が供給され、誤動作が生じるおそれがある。
このような隣接するMOS型トランジスタの電気的相互干渉を防止するには、第1図(c)に示すように、MOS型トランジスタ12のゲート電位を接地状態にすることが有効である。すなわち、ゲート電位をスイツチ15を通して零電位(VG2=0V)にクリツプすることでゲート直下にチャネルが形成されず、ターンオン動作することなく、同一チップ内のMOS型トランジスタの相互干渉を防ぐことができる。
上記の如くMOS型トランジスタの各ドレイン電極に共通の電位をバイアスし、更に各ゲート電極に、それぞれ共通するゲート電極を与えることで、同一チップ内のMOS型トランジスタが相互干渉することなく電流を供給できる。」(3頁右上欄12行〜右下欄7行)
エ.「[発明の効果] 以上説明したように、本発明によれば、例えば半導体基板もしくは、絶縁基板上の半導体膜に複数個のMOSトランジスタを、電気的に相互干渉をもたないように作り込み、更に、MOSトランジスタのチャネル領域を吐出エネルギ発生素子としての電気熱変換素子としても利用するようにしたことによつて、従来電気熱変換素子と駆動用機能素子(MOSトランジスタ、ダイオード等)を分けて作つていたことに比べ、大幅にチップ面積を小さくでき、かつ、構造を簡単にできるので、高歩留りおよびコストダウンが可能となり、所期の目的を達成できた。」(10頁右上欄末行〜左下欄12行)
オ.第1図(c)には、8個のMOSトランジスタのドレイン電極をすべて正電位VDDに接続し、左から順に1個目から4個目のMOSトランジスタのゲートをまとめてスイッチ14を介してVG1に接続し、5個目から8個目のMOSトランジスタのゲートをまとめてスイッチ14を介してVG2に接続し、3個置き(例えば1個目と5個目)のMOSトランジスタのソースをまとめてスイッチ10A〜10Dを介して接地することが図示されている。

4.補正発明と引用発明1との一致点及び相違点の認定
補正発明の「MIM素子」は引用発明1の「駆動用の機能素子」の1種であるといえ、引用発明1の「電気熱変換素子」と補正発明の「発熱素子」に相違はない。
引用発明1において「前記電気熱変換素子が前記機能素子の一部として形成されていること」と、補正発明において発熱素子が「複数の発熱素子を選択的に駆動するための素子を兼ねる」ことにも相違はない。なお、引用発明1では電気熱変換素子が機能素子の一部であることを相違点として主張するかもしれないので、念のため検討すると、補正発明の機能素子であるMIM素子において発熱するのは中間の絶縁層であるから、発熱部は機能素子の一部である。要するに、現実に発熱する部分だけを電気熱変換素子と捉えるのか、それとも現実に発熱する部分を含む素子全体を発熱素子として捉えるのかの、捉え方の相違にすぎず、実質的な相違点にはなりえない。
引用発明1には、「電気熱変換素子」(機能素子でもある)が複数存する旨の限定はないけれども、これが単数であれば機能素子を設ける意味がなくなる(引用例1の記載アに「電気熱変換素子アレイ」、「トランジスタアレイ」及び「ダイオードアレイ」とあるとおりである。)ばかりか、実施例では複数あるから、引用発明1において「電気熱変換素子」(を兼ねる機能素子)は複数存すると認める。そうである以上、引用発明1の「機能素子」も「複数の発熱素子を選択的に駆動するための素子を兼ねる」素子であり、引用発明1が「複数の発熱素子が発生させる熱エネルギーを利用して液体を吐出して記録を行う記録ヘッド」であることは自明である。
したがって、補正発明と引用発明1とは、
「複数の発熱素子を有し、前記複数の発熱素子が発生させる熱エネルギーを利用して液体を吐出して記録を行う記録ヘッドであって、
前記複数の発熱素子は、前記複数の発熱素子を選択的に駆動するための素子を兼ねる複数の機能素子である記録ヘッド。」である点で一致し、以下の各点で相違する。
〈相違点1〉補正発明が、複数の機能素子(複数の発熱素子でもある)を複数のグループ(以下「第1グループ」という。)に分けその各々のグループに設けられた第1の接続部と、複数の機能素子を前記第1グループとは異なる複数のグループ(以下「第2グループ」という。)に分けその各々の第2グループに設けられた第2の接続部と、を有し、前記第1の接続部と第2の接続部とを用いて前記各発熱素子をマトリクス駆動して記録を行う」のに対し、引用発明1ではこれらの点が明らかでない点。
〈相違点2〉補正発明の機能素子は「絶縁非金属基板または表面が絶縁された金属基板上に設けられた」「絶縁層と該絶縁層を挟持する一対の導電層とを有」する「MIM素子」であるのに対し、引用発明1では特段の限定が付されておらず、引用例1全体においても、トランジスタアレイやダイオードアレイが例示されているにとどまる点。

5.相違点についての判断及び補正発明の独立特許要件の判断
以下、本審決では「発明を特定するための事項」という意味で「構成」との用語を用いることがある。
(1)相違点1について
引用例1の記載又は図示ウ,オによると、駆動用の機能素子をMOSトランジスタとした実施例では、MOSトランジスタの3端子のうち、ゲート及びソースを異なるグループ(補正発明の「第1グループ」及び「第2グループ」に相当する。)に分け、それぞれのグループ毎に接続部(補正発明の「第1の接続部」及び「第2の接続部」に相当する。)を設けていると認めることができる。そして、第1(又は第2の)グループの1つを選択し、第2(又は第1の)グループに対して共通の記録データを与え、第1(又は第2の)グループ内の機能素子を駆動すればマトリクス駆動といえるから、引用発明1の実施例ではマトリクス駆動して記録を行っているといえる。
また、原査定の拒絶の理由に引用された特開平7-164632号公報(以下「引用例2」という。)には、「改良された回路の1つが、インクジェット記録システムに関するMatsumoto等の欧州特許出願第91301019.5号に開示されている。図14は、・・・ダイオードマトリクス駆動回路を示すものである。デコード処理にダイオードマトリクスを使用することにより、必要とされる接続が削減され、これに対応して、その回路に必要とされるシリコン面積が縮小される。」(段落【0004】)との記載があり、「ダイオードマトリクス駆動回路」とあるように、【図14】には、ダイオードの1つの端子(コレクタ及びベース端子)が補正発明でいう「第1のグループ」(又は「第2のグループ」)に分けられ、各々のグループに設けられた第1の接続部を有すること、ダイオードの他の端子(エミッタ端子)が補正発明でいう「第2のグループ」(又は「第1のグループ」)に分けられ、各々のグループに設けられた第2の接続部を有することが図示されている。なお、上記記載中の「欧州特許出願第91301019.5号」は、本件請求人の出願に係るものであって、欧州特許出願公開第0441635号明細書として頒布されている。
引用例1の記載アに機能素子の例として例示された「ダイオードアレイ」が、引用例2【図14】のようなものを含むことは当業者には明らかである。その場合、引用発明1では、機能素子であるダイオード自体が発熱素子を兼ねるのであるから、引用例2【図14】の抵抗(これが発熱素子であることは、引用例2の全記載から自明である。)は省略されることになる。すなわち、引用例1及び引用例2の両者に接した当業者であれば、引用発明1の機能素子を「ダイオードアレイ」とした場合にも、相違点1に係る補正発明の構成を採用することが設計事項であることは直ちに看取できる。
以上述べたことを総合すれば、引用発明1の機能素子が3端子型のトランジスタであっても、2端子型のダイオードであっても、相違点1に係る補正発明の構成は設計事項ということであり、相違点1に係る補正発明の構成を採用することには何の困難性もない。

(2)相違点2について
2端子型の機能素子としては、ダイオードのほかにMIM素子があることは、原査定の拒絶の理由に引用された特開昭57-182451号公報(以下「引用例3」という。)及び特開平6-230435号公報等により周知である。とりわけ、引用例3には、マトリクス駆動して記録を行う記録ヘッドにMIM素子を用いることが記載されている(引用例3の第2図及びその説明を参照。)。もっとも、引用例3記載の記録ヘッドは、「液体を吐出して記録を行う記録ヘッド」である点では、補正発明、引用発明1及び引用例2記載の発明と共通するけれども、熱エネルギーを利用するものではなく、圧電素子の変形により加圧室の内容積を変化させる点で上記各発明とは相違する。MIM素子に圧電素子の機能を兼ねさせることもできない。
しかし、引用例3に「選択された圧電素子P〔j,k〕においては直列に接続されたMIM素子M〔j,k〕に第3図に示すVon以上の電圧がかかり圧電素子P〔j,k〕を駆動するに充分な電流が流れて圧電素子P〔j,k〕が駆動される。一方非選択の圧電素子P〔j’,k’〕では直列に接続されたMIM素子M〔j’,k’〕にかかる回り込みの電圧が第3図に示したVoff以下であるようにMIM素子の特性を選べば回り込み電流は殆んど流れず非選択の圧電素子P〔j’,k’〕は駆動されない。」(2頁右下欄13行〜3頁左上欄2行)と記載があるとおり、MIM素子は選択圧電素子に電流を流し、非選択圧電素子に電流を流さないようにするために設けられた機能素子であるといえ、電流を流すか流さないかという点を採り上げれば、熱エネルギーを利用するのか圧電素子の変形を利用するのかは関係がない。前掲特開平6-230435号公報等に見られるように、多くのマトリックス駆動の液晶表示装置においてMIM素子が用いられているのも、MIM素子がこのような機能を有するがゆえんである。さらに、MIM素子は絶縁層と該絶縁層を挟持する一対の導電層とを有する素子であり、中間の絶縁層に電流が流れれば同層が発熱するから、引用発明1に相違点1に係る補正発明の構成を採用することを維持したまま、MIM素子が引用発明1の「駆動用の機能素子」となり得る素子であることは明らかである。
もちろん、MIM素子が発熱するからといって、「インクを吐出する為に利用される熱エネルギを発生する」のに適した発熱量となるのかどうかは直ちに判明するわけではないし、インク吐出のためのエネルギ発生素子(発熱素子や圧電素子)を別途設けない場合には、MIM素子を流れる電流が過剰となり素子破壊を起こす可能性も考慮しなければならないであろう。しかし、本願明細書を精査しても、「インクを吐出する為に利用される熱エネルギを発生する」のに適した発熱量とするために、格別の創意工夫が施されていると理解することはできないし、発熱量は絶縁層の材料や厚さを選択すること(MIM素子の発熱量が絶縁層の材料や厚さによって定まることは、本願明細書の段落【0044】に「MIM素子104の発熱量は、(式1)〜(式3)に示すように絶縁体102の厚みと材料定数だけに依存し」と記載されているとおりである。)、あるいはMIM層を積層すること(積層することは、原査定の拒絶の理由に引用された特開昭63-146464号公報に記載されている。)により調整可能であるから、結局のところ、MIM素子に「インクを吐出する為に利用される熱エネルギを発生する」発熱素子を兼ねさせることは、材料・厚さ・積層数等を選択した実験等を行うことによりたやすく実現できることであって、ここに克服すべき問題点があるということもできない。
そうである以上、引用発明1の「駆動用の機能素子」を、絶縁層と該絶縁層を挟持する一対の導電層とを有するMIM素子とすることは当業者にとって想到容易といわざるを得ない。
ところで、発熱素子を用いた記録ヘッドは、通常適宜の基板に発熱素子を形成し、その発熱素子の部分に流路を形成するものであるから、発熱素子をMIM素子に兼ねさせる場合にもそのようにすべきである。そして、基板にMIM素子を形成する場合、基板上に導電層(MIMの一方のM)が形成されるべきであるが、複数のMIM素子を第1及び第2のグループに分ける以上、その導電層と接触する基板が導電性であったのでは不都合なことは明らかである。さらに、引用例3にはソーダライムガラス製(絶縁性と認める。)の基板1と同材質の振動板7上にMIM素子を形成することが記載されている(1頁右下欄17行〜2頁左上欄7行及び第1図参照。)。そうであれば、引用発明1の「駆動用の機能素子」をMIM素子とする際に、それを絶縁非金属基板または表面が絶縁された金属基板上に設けることは設計事項といわなければならない。
したがって、相違点2に係る補正発明の構成は当業者が容易に採用できた構成というべきである。

(3)補正発明の独立特許要件の判断
相違点1及び相違点2に係る補正発明の構成をなすことは、設計事項であるか当業者にとって想到容易であり、これら構成を採用したことによる格別の作用効果を認めることもできない。
したがって、補正発明は引用発明1、引用例2,3に記載の発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができない。

[補正の却下の決定のむすび]
補正発明が特許出願の際独立して特許を受けることができないから、本件補正は平成15年改正前特許法17条の2第5項で準用する同法126条4項の規定に違反している。
したがって、平成14年改正前特許法159条1項で読み替えて準用する同法53条1項の規定により、本件補正は却下されなければならない。
よって、補正の却下の結論のとおり決定する。

第3 本件審判請求についての当審の判断
1.本願発明の認定
平成15年10月31日付けの手続補正は却下されたから、本願の請求項9に係る発明(以下「本願発明」という。)は、平成15年7月7日付けで補正された明細書及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲【請求項1】及び【請求項9】に記載された事項によって特定されるとおりのものであって、これら請求項の記載は次のとおりである。
「【請求項1】 絶縁非金属基板または表面が絶縁された金属基板上に設けられ、記録を行うための熱エネルギーを発生する複数の発熱素子と、
前記基板上に前記複数の発熱素子にそれぞれ対応して設けられ、絶縁層と該絶縁層を挟持する一対の導電層とを有する複数のMIM素子と、
前記複数の発熱素子を複数のグループに分けその各々のグループに設けられた第1の接続部と、
前記複数のMIM素子を複数のグループに分けその各々のグループに設けられた第2の接続部と、
を有し、前記第1の接続部と第2の接続部とを用いて前記各発熱素子をマトリクス駆動して記録を行うことを特徴とする記録ヘッド。
【請求項9】 前記MIM素子が前記発熱素子を兼ねる請求項1に記載の記録ヘッド。」
そして、【請求項9】に「前記MIM素子が前記発熱素子を兼ねる」と限定があることを考慮すれば、【請求項1】に「発熱素子」とあるものと「MIM素子」とあるものは同一視できるから、本願発明を独立形式で記述すれば、実質上次のとおりの発明と認める。
「絶縁非金属基板または表面が絶縁された金属基板上に設けられ、記録を行うための熱エネルギーを発生する複数の発熱素子を兼ね、絶縁層と該絶縁層を挟持する一対の導電層とを有する複数のMIM素子と、
前記複数のMIM素子を複数のグループに分けその各々のグループに設けられた第1の接続部と、
前記複数のMIM素子を複数のグループに分けその各々のグループに設けられた第2の接続部と、
を有し、前記第1の接続部と第2の接続部とを用いて前記各発熱素子を兼ねる各MIM素子をマトリクス駆動して記録を行うことを特徴とする記録ヘッド。」

2.本願発明の進歩性の判断
本願発明と引用発明1とは、「複数の発熱素子を有し、前記複数の発熱素子は、前記複数の発熱素子を選択的に駆動するための素子を兼ねる複数の機能素子である記録ヘッド。」である点で一致し、「第2[理由]4」で述べた相違点1及び相違点2において相違する(「補正発明」を「本願発明」と読み替える。)。
そして、相違点1及び相違点2に係る本願発明の構成を採用することが設計事項又は当業者にとって想到容易であること、並びにこれら構成を採用したことによる格別の作用効果を認めることができないことは「第2[理由]5」で述べたとおりである(「補正発明」を「本願発明」と読み替える。)。
したがって、本願発明は引用発明1、引用例2,3に記載の発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。

第4 むすび
本件補正は却下されなければならず、本願発明が特許を受けることができない以上、本願のその余の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶を免れない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2004-12-07 
結審通知日 2004-12-08 
審決日 2004-12-21 
出願番号 特願2000-163169(P2000-163169)
審決分類 P 1 8・ 575- Z (B41J)
P 1 8・ 121- Z (B41J)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 後藤 時男  
特許庁審判長 砂川 克
特許庁審判官 谷山 稔男
津田 俊明
発明の名称 記録ヘッド、該記録ヘッド用基体及び記録装置  
代理人 伊藤 克博  
代理人 宮崎 昭夫  
代理人 金田 暢之  
代理人 石橋 政幸  

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