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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 B41J
審判 査定不服 4項4号特許請求の範囲における明りょうでない記載の釈明 特許、登録しない。 B41J
管理番号 1112312
審判番号 不服2003-21995  
総通号数 64 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2005-04-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2003-11-13 
確定日 2005-02-16 
事件の表示 平成 8年特許願第525562号「サーマルプリントヘッドの駆動制御方法および装置ならびに駆動ICチップ」拒絶査定不服審判事件〔平成 8年 8月29日国際公開、WO96/26073〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、1996年(平成8年)2月21日(優先権主張 1995年2月23日、日本国)を国際出願日とする出願であって、平成15年10月2日付けで拒絶の査定がされたため、これを不服として同年11月13日付けで本件審判請求がされるとともに、同年12月15日付けで明細書についての手続補正(平成14年改正前特許法17条の2第1項3号の規定に基づく手続補正であり、以下「本件補正」という。)がされたものである。

第2 補正の却下の決定
[補正の却下の決定の結論]
平成15年12月15日付けの手続補正を却下する。

[理由]
1.補正事項
本件補正は、特許の請求の範囲の請求項1,2,4,5,9及び10において、補正前に「次回印字情報が「1」である場合」とあったのを、「当該発熱ドットの次回印字情報が「1」である場合」と補正するものである。

2.補正目的
本件補正は一見すると、「次回印字情報が「1」である場合」の「次回印字情報」を「当該発熱ドットの次回印字情報」と限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものに思える。
しかし、本件補正前の請求項1,2,4,5,9及び10は、「当該発熱ドットを駆動するに際し、当該発熱ドットの所定回前までの履歴印字情報と、当該発熱ドットに隣接する隣接発熱ドットの所定回前までの履歴印字情報と、当該発熱ドットの次回印字情報とに基づいて、当該発熱ドットに対する印字エネルギを設定する場合において」であることを前提とした上で「次回印字情報が「1」である場合」と記載したのであるから、当該発熱ドットに対する印字エネルギを設定する際に考慮すべき「次回印字情報」が「当該発熱ドットの次回印字情報」であることは明らかであると同時に、「次回印字情報」が当該発熱ドット以外の次回印字情報であると解することは技術常識に反する。
したがって、本件補正が特許請求の範囲の減縮を目的とすると認めることはできないし、請求項削除や誤記の訂正を目的とするものでないことも明らかである。
上記のとおり、本件補正前においても「次回印字情報が「1」である場合」が「次回印字情報」を「当該発熱ドットの次回印字情報」の意味であることは明らかであるから、明りょうでない記載の釈明にも該当しない。百歩譲って、より明りょうな記載にすると意味で、明りょうでない記載の釈明に該当するとしても、特許法17条の2第4項4号は、明りょうでない記載の釈明を目的とした補正を無条件に認めているのではなく、「拒絶理由通知に係る拒絶の理由に示す事項についてするものに限る。」との条件を付しているところ、「次回印字情報が「1」である場合」が不明りょうである旨の拒絶理由は通知されていない。
したがって、本件補正は特許法17条の2第4項1号〜4号のいずれを目的とするものでもないから、同項の規定に違反している。

[むすび]
以上のとおりであるから、平成14年改正前特許法159条1項で読み替えて準用する同法53条1項の規定により、本件補正は却下されなければならない。
よって、補正の却下の決定の結論のとおり決定する。

第3 本件審判請求についての当審の判断
1.本願発明の認定
平成15年12月15日付けの手続補正は却下されたから、本願の請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、平成15年7月18日付け(特許庁受入は同月22日)で補正された明細書及び図面の記載からみて、その請求の範囲1項(【請求項1】)に記載された事項によって特定される次のとおりのものと認める。なお、本件補正前後において、請求項1に係る発明に実質的変更はないことから、本件補正によって追加された「当該発熱ドットの」との文言を括弧書きで付すことにする。
「複数の発熱ドットが並設され、入力される印字情報にしたがって上記発熱ドットが選択駆動されるサーマルプリントヘッドの駆動制御方法であって、
当該発熱ドットを駆動するに際し、当該発熱ドットの所定回前までの履歴印字情報と、当該発熱ドットに隣接する隣接発熱ドットの所定回前までの履歴印字情報と、当該発熱ドットの次回印字情報とに基づいて、当該発熱ドットに対する印字エネルギを設定する場合において、当該発熱ドットの上記履歴印字情報と隣接発熱ドットの上記履歴印字情報とがすべて「0」であり、(当該発熱ドットの)次回印字情報が「1」である場合には、当該発熱ドットの今回印字情報が「0」であっても、当該発熱ドットに所定の印字エネルギを付与することを特徴とする、サーマルプリントヘッドの駆動制御方法。」

2.引用刊行物
原査定の拒絶の理由に引用された特開昭60-139465号公報(以下「引用例1」という。)には、以下のア〜カの記載が図示とともにある。
ア.「サーマルヘツドを用いた記録装置や表示装置は熱エネルギを利用して記録または表示(以下単に記録という。)を行うものである以上、このエネルギに過不足が生じれば画像の濃淡に影響し、画質を低下させることにもなる。このような画質低下の危険性は、印字の単位プロセス(印字の繰り返し周期)が例えば10mS以下というように高速化したり、記録密度が高密度化するほど大きくなつてくる。」(2頁左上欄18行〜右上欄6行)
イ.「従来提案されたサーマルヘツド駆動装置では、印字速度の高速化とともに十分な蓄熱制御が行われないようになり、サーマルヘツドの蓄熱が一時的に進行する場合があった。このような場合には、本来印字の行われない背景(地色)部分まで部分的に印字が行われることがあり、いわゆる“かぶれ”が発生することがあった。また熱転写記録方式を用いた記録装置では、印字部分のインクのみならずその周囲のインクまでが尾を引くように記録紙(普通紙)に転写され、いわゆる“尾引き”を発生させることがあった。」(3頁左上欄16行〜右上欄6行)
ウ.「本発明では、サーマルヘツドの1または複数の単位発熱体を印字の単位プロセスごとに繰り返し選択的に駆動して画データの記録または表示を行う記録あるいは表示装置において、第3図に原理的に示すように画データ11を前記印字の単位プロセスの複数分だけ順次記憶する記憶手段12と、未来の印字の単位プロセスにおけるサーマルヘツドの印字状態を記憶手段12に時間的に遅れて記憶された画データ13から判別する未来情報判別手段14と、過去の印字の単位プロセスにおけるサーマルヘツドの印字状態を記憶手段12に時間的に遅れて記憶された画データ15から判別する過去情報判別手段16と、記憶手段12に時間的に挟まって記憶された現在の画データ17を基にして求められるべき現在の印字の単位プロセスにおける単位発熱体の印加エネルギを、未来情報判別手段14および過去情報判別手段16によつて判別された未来及び過去の印字状態を勘案して設定する印加エネルギ設定手段18と、設定された印加エネルギ19で単位発熱体の駆動を行うサーマルヘツド駆動手段21とをサーマルヘツド駆動装置に具備させる。」(3頁左下欄4行〜右下欄5行)
エ.「現在印字を行っているラインをiラインと呼び、次に印字を行うライン(1ライン未来)をi+1 ライン、直前に印字を行ったライン(1ライン過去)をi-1 ライン、またこれより更に1つ前に印字を行ったライン(2ライン過去)をi-2 ラインと呼ぶことにする。バッファメモリ23はi+1〜i-2 ラインの画データを記憶する。このバッファメモリ23からは図示しないクロック信号に同期して、各ラインの画データ24i+1〜24i-2が一斉に1ビットずつ読み出され、ラッチ回路25に供給される。
ラッチ回路25内には、前記したクロックに同期した4つのラッチ26〜29が配置面されている。2ライン過去の画データ24i-2は、図示しない遅延素子で1ビットだけ遅延され、ラッチ26に供給される。1ライン過去の画データ24i-1および現在印字を行おうとする画データ24iは、3段のシフトレジスタから成るラッチ27または28に供給される。1ライン未来の両データ24i+1は、図示しない遅延素子で同様に1ビットだけ遅延され、ラッチ29に供給される。
ラッチ26に保持された画データは、ROM(リ-ド・オンリ・メモリ)31のアドレス端子A7に供給される。ラッチ27に保持された3ビットの画データは、シリアル-パラレル変換され、1番古いデータから順にROM31のアドレス端子A6〜A4に供給される。ラッチ28に保持された3ビットの画データは、同じくシリアル-パラレル変換され、1番古いデータがROM31のアドレス端子A3に、また1番新しいデータがROM31の他のアドレス端子A2にそれぞれ供給される。ラッチ29に保持された画データは、ROM31のアドレス端子A1に供給される。
第5図はこのラッチ回路25から出力される画データの各印字位置とROM31のアドレス端子との関係を表わしたものである。図中×印で示された画データは、印加エネルギを演算するための着目デ-夕である。
ROM31はこのような周囲の画データをアドレス情報として、着目データに対応する単位発熱体の蓄熱状態を演算する。次の第2表は、ROM31に書き込まれた変換テ-ブルの内容を表わしたものである。」(4頁左上欄12行〜左下欄15行)
オ.「この表で画データ(アドレス端子)の欄に示した数字“1”は印字を行う画データ(黒の画データ)を表わし、数字“0”は印字を行わない画データ(白の画データ)を表わしている。周囲の画データに応じて、着目データに対応する単位発熱体の印加パルス幅(mS)が決定され、印加パルス幅データ32としてサーマルヘツド駆動回路33に供給される。」(4頁右下欄本文1〜8行)
カ.「印加エネルギを決定するために参照する画データの数や、参照するラインの数も特に制限されない。記録の高速化や要求される画質に応じてこれらを適宜設定することができる。」(7頁右上欄末行〜左下欄3行)

3.引用例1記載の発明の認定
引用例1の記載エ及び第5図によると、アドレス端子A1〜A7に供給されるデータは次のとおりである。着目データに対応する単位発熱体を「着目発熱体」と略記する。
A1:着目発熱体の1ライン後の画データ
A2,A3:着目発熱体に隣接する単位発熱体の現在印字ラインの画データ
A4,A6:着目発熱体に隣接する単位発熱体の1ライン前の画データ
A5:着目発熱体の1ライン前の画データ
A7:着目発熱体の2ライン前の画データ

引用例1の第4図によれば、単位発熱体の蓄熱状態を演算するROM31の入力端子はA1〜A7だけであり、着目発熱体の現在印字ラインの画データは入力されていないが、着目発熱体の現在印字ラインの画データは当然印字データの場合と非印字データの場合とがあり、これら2つの場合において印加エネルギを同じくすることは考えられない。記載イによれば、引用例1記載の発明は“かぶれ”や“尾引き”を防止することを課題とした発明であり、着目発熱体の現在印字ラインの画データが印字データである場合の、印加エネルギをA1〜A7の画データに基づいて演算すると解すべきであり、着目発熱体の現在印字ラインの画データが非印字データである場合には、エネルギを印加しないと解すべきである。請求人も同旨の主張をしており、この主張自体に誤りはない。
引用例1の記載カによれば、記載エは例示であって、着目発熱体に隣接する単位発熱体の過去画データはA4,A6だけでなく、例えば過去2ライン分であってもよい。すなわち、引用例においては、着目発熱体の現在印字ラインの画データが印字データである場合に、着目発熱体の所定回前までの過去画データ、着目発熱体に隣接する単位発熱体の所定回前までの過去画データ、着目発熱体に隣接する単位発熱体の現在印字ラインの画データ及び着目発熱体の1ライン後の画データに基づいて、現在印字ラインの着目発熱体に印加すべきエネルギを決定することが記載されているものと認められる。
したがって、記載ア〜カを含む引用例1の全記載及び図示によれば、引用例1にはサーマルヘッドの駆動制御方法として、次のような発明が記載されているものと認定できる。
「着目発熱体の現在印字ラインの画データが印字データである場合に、着目発熱体の所定回前までの過去画データ、着目発熱体に隣接する単位発熱体の所定回前までの過去画データ、着目発熱体に隣接する単位発熱体の現在印字ラインの画データ及び着目発熱体の1ライン後の画データに基づいて、現在印字ラインの着目発熱体に印加すべきエネルギを決定し、
着目発熱体の現在印字ラインの画データが非印字データである場合には、現在印字ラインの着目発熱体にエネルギを印加しないサーマルヘッドの駆動制御方法。」(以下「引用発明1」という。)

4.本願発明と引用発明1の一致点及び相違点の認定
引用発明1の「単位発熱体」、「着目発熱体」及び「サーマルヘッド」は、本願発明の「発熱ドット」、「当該発熱ドット」及び「サーマルプリントヘッド」に相当し、引用発明1が制御対象とするものが「複数の発熱ドットが並設され、入力される印字情報にしたがって上記発熱ドットが選択駆動されるサーマルプリントヘッド」であることは自明である。
請求項1の「当該発熱ドットの上記履歴印字情報と隣接発熱ドットの上記履歴印字情報とがすべて「0」であり、・・・当該発熱ドットの今回印字情報が「0」であっても」との記載は、「履歴印字情報」が「今回印字情報」を含まないとしない限り合理的に解釈できない。本願発明の実施例において、当該発熱ドットに隣接する隣接発熱ドットの今回印字情報を用いていないことも上記解釈の妥当性を裏付けるものである。したがって、引用発明1の「着目発熱体の所定回前までの過去画データ」、「着目発熱体に隣接する単位発熱体の所定回前までの過去画データ」及び「着目発熱体の1ライン後の画データ」は、本願発明の「当該発熱ドットの所定回前までの履歴印字情報」、「当該発熱ドットに隣接する隣接発熱ドットの所定回前までの履歴印字情報」及び「当該発熱ドットの次回印字情報」にそれぞれ相当する。なお、「履歴印字情報」が「今回印字情報」を含むと仮にすれば、後記相違点1として認定するものが相違点でなくなるだけのことである。
本願発明において、印字情報が「1」又は「0」と称していることは、引用発明1において「印字データ」又は「非印字データ」と称していることと異ならない。
したがって、本願発明と引用発明1とは、
「複数の発熱ドットが並設され、入力される印字情報にしたがって上記発熱ドットが選択駆動されるサーマルプリントヘッドの駆動制御方法であって、
当該発熱ドットを駆動するに際し、当該発熱ドットの所定回前までの履歴印字情報と、当該発熱ドットに隣接する隣接発熱ドットの所定回前までの履歴印字情報と、当該発熱ドットの次回印字情報とを含む情報に基づいて、当該発熱ドットに対する印字エネルギを設定するサーマルプリントヘッドの駆動制御方法。」である点で一致し、以下の各点で相違する。
〈相違点1〉当該発熱ドットに対する印字エネルギを設定するに際し、本願発明が「当該発熱ドットの所定回前までの履歴印字情報と、当該発熱ドットに隣接する隣接発熱ドットの所定回前までの履歴印字情報と、当該発熱ドットの次回印字情報」とに基づくとしているのに対し、引用発明1がそれら情報だけでなく、「着目発熱体に隣接する単位発熱体の現在印字ラインの画データ」、すなわち当該発熱ドットに隣接する隣接発熱ドットの今回印字情報にも基づくとしている点。
〈相違点2〉本願発明では「当該発熱ドットの上記履歴印字情報と隣接発熱ドットの上記履歴印字情報とがすべて「0」であり、(当該発熱ドットの)次回印字情報が「1」である場合には、当該発熱ドットの今回印字情報が「0」であっても、当該発熱ドットに所定の印字エネルギを付与する」のに対し、引用発明1では当該発熱ドットの今回印字情報が「0」である場合には、それ以外のデータの如何にかかわらず、当該発熱ドットに印字エネルギを付与しない点。

5.相違点についての判断及び本願発明の進歩性の判断
(1)相違点1について
本願発明の「当該発熱ドットの所定回前までの履歴印字情報と、当該発熱ドットに隣接する隣接発熱ドットの所定回前までの履歴印字情報と、当該発熱ドットの次回印字情報とに基づいて」との構成が、ここに記載された印字情報のみに基づくという意味であるのか、それともそれ以外の情報(当該発熱ドットの今回印字情報は、当然必要な情報として含まれるから、それ以外という意味である。)を含んでいることを許容するのかは、請求項1の記載のみからは明らかでない。後者であるとすると、相違点1は存在しないことになるので、前者であるとして検討をすすめる。
当該発熱ドットに隣接する隣接発熱ドットが発熱したとしても、当該発熱ドットを昇温させるには熱伝達に起因する若干の時間が必要であることは自明である。そして、印字が高速化すればするほど、各発熱ドットによる印字期間は短くなるから、現在印字中のラインにおいて隣接発熱ドットが発熱することによる影響は小さくなる。そうでないならば、本願発明が当該発熱ドットに隣接する隣接発熱ドットの今回印字情報を当該発熱ドットに対する印字エネルギ設定に利用していない理由を理解することができない。
ところで、引用例1は本願優先日のはるか以前に頒布された刊行物であるから、本願優先日当時においては、引用例1頒布当時よりも相当に印字が高速化されているものと考えられ、隣接発熱ドットの発熱が今回の当該発熱ドットの発熱状態に及ぼす影響は小さくなっているものと考えられる。
そうであれば、当該発熱ドットに対する印字エネルギを設定する情報の1つとして引用発明1に用いられている「着目発熱体に隣接する単位発熱体の現在印字ラインの画データ」、すなわち当該発熱ドットに隣接する隣接発熱ドットの今回印字情報を省略することは当業者にとって想到容易といわざるを得ない。
要するに、隣接発熱ドットについては、熱伝達により当該発熱ドットにどの程度影響を及ぼすのかを勘案しつつ、今回印字情報を含めるのかどうか、あるいは過去の情報について何ライン前まで採用するかを定めればよいことであり、ここに困難性があるとは到底認めることができない。

(2)相違点2について
原査定の拒絶の理由に引用された特開平4-71864号公報(以下「引用例2」という。)には、次のキ及びクの各記載がある。
キ.「印字ドットパターンに基づいて発熱体をドット単位で通電、非通電制御し、発熱体の発熱により印字を行うサーマルヘッドにおいて、発熱体へのドットデータが現データまでn(n≧1)ドット連続して無印字ドットでかつ次データが印字ドットの場合、現データの無印字ドットに対して発熱体を印字が為されない程度に予通電することを特徴とするサーマルヘッドの発熱体制御方法。」(1頁左下欄特許請求の範囲2項)
ク.「[発明が解決しようとする課題] この発熱体への通電制御では過去2ラインうち1ラインでも黒印字があれば今回の発熱体への通電パルス幅はt2又はt3となり、この幅は発熱体の蓄熱作用があるため比較的短いが、過去2ラインとも白印字のときは今回の印字が発熱体の温度が低下している状態で開始されるため今回の発熱体への通電パルス幅であるt1はt2、t3に比べてかなり長い時間となる。従って高速印字を実現するために印字周期を短くしようとすると時間t1の設定が困難となり、時間t1を短くすると高速印字はできても印字品質が低下する問題があり、また印字品質を上げようとすると充分な高速印字ができなくなる問題があった。そこで本発明は、印字品質を低下すること無く高速印字が容易に実現できるサーマルヘッドの発熱体制御方法を提供しようとするものである。」(2頁左上欄〜右上欄)
引用例2の記載クでは、1つの特定の発熱体(本願発明の「当該発熱ドット」に相当する。)に対して過去2ラインとも白印字(印字情報が「0」と同義と認める。)のときは、同発熱体の温度が低下していることを指摘しているのであるが、引用例1の記載からも明らかなように、1つの特定の発熱体の温度はその発熱体の印字履歴だけでなく、隣接発熱体の印字履歴にも左右されるものである。そして、特定の発熱体だけでなく、隣接発熱体までもが、過去2ライン発熱していない(当該発熱ドットの履歴印字情報と隣接発熱ドットの履歴印字情報とがすべて「0」に相当する。)のであれば、なお一層特定発熱体の温度が低下しているはずである。
そうであれば、引用発明1においても、着目発熱体の温度が低下しており、かつ次の画データが印字データである場合に、引用例2の記載キ同様、印字が為されない程度に予通電するように変更することは当業者にとって想到容易といわざるを得ない。また、当該発熱ドットの履歴印字情報と隣接発熱ドットの履歴印字情報とがすべて「0」であり、かつ当該発熱ドットの今回印字情報が「0」である場合には着目発熱体の温度が低下しているのだから、これを条件として「(当該発熱ドットの)次回印字情報が「1」である場合には、当該発熱ドットに所定の印字エネルギを付与する」こと、すなわち相違点2に係る本願発明の構成をなすことは当業者にとって想到容易である。
この点請求人は、「引用文献3(審決注;引用例2)の制御方法では、・・・隣接ドットの直前の印字情報が「1」であっても、着目ドットの今回印字情報及び履歴印字情報が「0」であり、次回印字情報が「1」であるという条件さえ充足されれば、当該着目ドットが予備加熱されることになるため、着目ドットを次回の印字に備えて予備加熱しなくてよい場合であっても、不必要に(或いは過剰に)予備加熱が行われる事態が発生する。これに対して、本願発明では、着目ドットと隣接ドットの過去の履歴印字情報及び着目ドットの今回印字情報が全て「0」であり、着目ドットの次回印字情報が「1」であるという条件が充足されてはじめて、当該着目ドットの予備加熱が行われるので、そのような問題は生じない。」(平成15年12月15日付け手続補正書(方式)3頁38〜47行)と主張するが、本願発明は着目ドットと隣接ドットの過去の履歴印字情報及び着目ドットの今回印字情報が全て「0」であり、着目ドットの次回印字情報が「1」であるという条件が充足された場合に、当該着目ドットの予備加熱を行うものではあることは認めるが、その条件を充足しない場合、例えば過去の履歴印字情報が「1」であり他の条件を充足する場合に、当該着目ドットの予備加熱を行わないことまでは限定していない。そればかりか、本願発明の実施例では、隣接ドットの過去の履歴印字情報は印字エネルギの設定に用いているものの、隣接ドットの今回印字情報は用いておらず、次回印字の際の着目ドットの温度を左右する要因としては、隣接ドットの過去の履歴印字情報よりも今回印字情報の方がより重要であることは明らかである。そうである以上、本願発明は、着目ドットと隣接ドットの過去の履歴印字情報及び着目ドットの今回印字情報が全て「0」であるとの条件を充足せず、着目ドットの次回印字情報が「1」であるという条件を充足する場合には、着目ドットを予備加熱するものもしないものも包含すると解すべきである。すなわち、上記請求人の主張は、本願発明の要旨に基づく主張ではなく到底採用できない。
百歩譲って、本願発明を請求人主張のとおり、「着目ドットと隣接ドットの過去の履歴印字情報及び着目ドットの今回印字情報が全て「0」であり、着目ドットの次回印字情報が「1」であるという条件が充足されてはじめて、当該着目ドットの予備加熱が行われる」と解する余地があるとしても、隣接ドットの過去の履歴印字情報が着目ドットの温度に影響を及ぼすことは引用例1の記載から当業者には明らかであるから、どのような条件が充足されたときに予備加熱を行うのかは、隣接ドットの発熱が当該ドットの温度に及ぼす影響を考慮することにより、当業者が適宜選択すべき設計事項にすぎない。

(3)本願発明の進歩性の判断
相違点1及び相違点2は、実質的には相違点でないか、それとも当業者にとって想到容易な相違点ばかりであり、これら相違点に係る本願発明の構成を採用したことによる格別の作用効果を認めることもできない。
したがって、本願発明は引用発明1及び引用例2記載の発明に基づいて当業者が容易に発明できたものであるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。

第4 むすび
本願発明が特許を受けることができない以上、本願のその余の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶を免れない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2004-11-29 
結審通知日 2004-12-07 
審決日 2004-12-20 
出願番号 特願平8-525562
審決分類 P 1 8・ 574- Z (B41J)
P 1 8・ 121- Z (B41J)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 菅藤 政明  
特許庁審判長 番場 得造
特許庁審判官 清水 康司
津田 俊明
発明の名称 サーマルプリントヘッドの駆動制御方法および装置ならびに駆動ICチップ  
代理人 吉田 稔  
代理人 田中 達也  

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