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審決分類 審判 全部無効 5項1、2号及び6項 請求の範囲の記載不備 無効としない B60N
審判 全部無効 2項進歩性 無効としない B60N
審判 全部無効 特36 条4項詳細な説明の記載不備 無効としない B60N
審判 全部無効 特174条1項 無効としない B60N
管理番号 1112448
審判番号 無効2004-35075  
総通号数 64 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 1996-04-09 
種別 無効の審決 
審判請求日 2004-02-06 
確定日 2005-02-24 
事件の表示 上記当事者間の特許第3371345号発明「エアコン吹き出し口のルーバーに対する物品取付具」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。 
理由 1.手続の経緯
本件特許第3371345号の請求項1乃至3に係る発明は、平成6年9月28日に特許出願され、平成14年11月22日にその発明についての特許権の設定登録がされたものである。

2.本件発明について
本件特許の請求項1乃至3に係る発明は、特許明細書及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1乃至3に記載された次のとおりのものである。
「【請求項1】 取付基部と、この取付基部から互いに離間して対向するよう前方に延びる一方の辺及び他方の辺と、上記一方の辺の遊端に形成されエアコン吹き出し口のルーバー後縁を包着可能としたフック部と、上記一方の辺のフック部における先端湾曲部と上記他方の辺の先端間に形成され前記他方の辺が前記一方の辺から離間する方向に撓んでルーバーを受け入れるエアコン吹き出し口のルーバー挿入口とより成り、上記他方の辺を一方の辺より薄肉としたことを特徴とするエアコン吹き出し口のルーバーに対する物品取付具。(以下、「本件特許発明1」という。)
【請求項2】 上記他方の辺の先端に上記一方の辺から離間する方向に斜めに前方に延びる部分が形成されている請求項1記載のエアコン吹き出し口のルーバーに対する物品取付具。(以下、「本件特許発明2」という。)
【請求項3】 上記取付基部が棒状であり、その軸方向に互いに離間した、上記軸方向と直角方向に延びる2以上の溝を有し、この溝を有する部分が、被冷暖物ホルダーに形成した孔内に係合される請求項1または2記載のエアコン吹出口のルーバーに対する物品取付具。(以下、「本件特許発明3」という。)」

3.請求人の主張
審判請求人は、下記(3-1)の証拠及び下記(3-2)の理由から、「特許第3371345号を無効とする。審判費用は被請求人の負担とする。との審決を求める。」(請求の趣旨)と主張する。
(3-1)証拠
甲第1号証:本件特許公報(第3371345号)
甲第2号証:本件の願書に最初に添付した明細書及び図面
甲第3号証:本件特許に係る平成11年10月12日付けの拒絶理由通知書
甲第4号証:実願平4-93572号(実開平6-53287号公報のCD-ROM)
甲第5号証:実願平5-8399号(実開平6-61571号公報のCD-ROM)
甲第6号証:実願平5-7741号(実開平6-61572号のCD-ROM)
甲第7号証:本件特許に係る平成11年12月20日付けの意見書
甲第8号証:実願昭63-161663号(実開平2-81907号のマイクロフィルム)
甲第9号証:実願昭61-197437号(実開昭63-103489号のマイクロフィルム)
甲第10号証:実願平3-33995号(実開平4-105613号のマイクロフィルム)
甲第11号証:実願平4-23227号(実開平6-19668号のCD-ROM)
甲第12号証:意匠公報839524号公報
甲第13号証:実願昭58-23579号(実開昭59-129569号のマイクロフィルム)
甲第14号証:実願平3-86869号(実願平5-30515号のCD-ROM)
甲第15号証:実願昭56-62180号(実開昭56-163906号のマイクロフィルム)
甲第16号証:実願平3-97498号(実願平5-46369号のCD-ROM)
甲第17号証:実願平4-19080号(実開平5-71059号のCD-ROM)
甲第18号証:本件特許に係る平成12年6月9日付けの拒絶査定
甲第19号証:本件特許に係る平成12年7月17日付けの拒絶査定不服審判請求書
(3-2)理由
審判請求人の主張する理由の概要は次のとおりである。
本件特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものであり(理由1)、特許法第17条第2項の規定に違反してなされたものであり(理由2)、特許法第36条第4項の規定に違反してなされたものであり(理由3)、同条第5項第2号の規定に違反してなされたものである(理由4)から、特許法第123条第1項第1号乃至第2号又は第4号の規定により無効にすべきものである。
(3-2-1)理由1(特許法第29条第2項違反)
a.本件特許発明1に対して
本件特許発明1は、甲第4号証に記載された発明、甲第5号証に記載された発明及び甲第8号証乃至甲第17号証に記載されているような周知技術から当業者が容易に発明をすることができたものである。
b.本件特許発明2に対して
本件特許発明2は、甲第4号証に記載された発明、甲第5号証に記載された発明及び甲第8号証乃至甲第17号証に記載されているような周知技術から当業者が容易に発明をすることができたものである。
c.本件特許発明3に対して
本件特許発明3は、甲第4号証に記載された発明、甲第5号証に記載された発明、甲第6号証に記載された発明及び甲第8号証乃至甲第17号証に記載されているような周知技術から当業者が容易に発明をすることができたものである。
(3-2-2)理由2(特許法第17条第2項違反)
補正された特許請求の範囲請求項1の「上記他方の辺を一方の辺より薄肉としたことを特徴」の補正は、願書に最初に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内のものではない。
(3-2-3)理由3(特許法第36条第4項違反)
本件特許の出願の願書に添付した明細書又は図面(以下、「特許明細書等」という。)の発明の詳細な説明には、発明の効果として、「ルーバー12の面」を「斜め上方に傾ければ」「上記物品取付具4を上記ルーバー12から取り外すことができるようになる。」(明細書、段落【0014】)との記載があるが、上記特許明細書等の図面の図8及び図9において、ルーバー12の面を手動により斜め上方に傾けると、「相対的に物品取付具4の上記辺6bが上記辺6aから離間する方向に撓む」前に、挟持されているルーバー12が物品取付具4のフック部における先端湾曲部の最先端部に引っかかり、上記6bをルーバー12によって撓ませることができないから、上記物品取付具4を上記ルーバー12から取り外すことは不可能といえる。
したがって、上記特許明細書等の発明の詳細な説明には、当業者が本件特許発明を実施することができる程度に、その発明の目的、構成及び効果を記載してない。
(3-2-4)理由4(特許法第36条第5項第2号違反)
a.請求項1には、「一方の辺の遊端に形成されエアコン吹き出し口のルーバー後縁を包着可能としたフック部」について、「フック部」、「包着可能としたフック部」及び「フック部における先端湾曲部」と、同じ請求項に同一内容の事項が重複してあり、記載が必要以上に冗長しているものであるから、請求項1の記載は、発明の構成に欠くことのできない事項のみを記載したものといえない。
b.本件特許発明の効果である「安定保持機能はフック部付きの辺が果たす機能」及び「簡単にルーバーに取り付けることができる」という効果を発揮するためには、「他方の辺6bのみが撓む」ことは、本件特許発明に欠くことのできない事項であるが、それが、上記特許明細書等の特許請求の範囲に記載されていない。
したがって、上記特許明細書等の特許請求の範囲には、発明の構成に欠くことのできない事項が記載されていない。

4.本件特許発明1乃至3に係る発明に係る特許の無効理由の存否について
(4-1)上記(3-2-1)の理由1について
(4-1-1)刊行物記載事項について
(4-1-1―1)甲第4号証(以下、「刊行物1」という。)
本件特許の出願日前に公知の刊行物である刊行物1には、次の事項が記載されている。
(4-1-1-1―1)
「【請求項1】自動車車室内のエアコンディショナー吹出口に設けられたルーバーへ物品を取り付けるための装置であって、
前記ルーバーの長手方向に沿い、かつ、前記物品への取付部を有する桟部材と、前記桟部材に対してルーバーの前後方向に移動可能にして取り付けられ、後端に上向き爪部を有してルーバーの下面と奥端を受ける後当て部材と、前記後当て部材をルーバーの前後方向前方へ移動させる前進手段と、
からなり、前記後当て部材の上向き爪部と桟部材とにより、ルーバーの前後方向に可変長のルーバー保持部が設けられていることを特徴とする自動車エアコンディショナー吹出口への物品取付装置。
【請求項2】上記前進手段は、後当て部材をルーバーの前後方向前方に付勢するばねである請求項1記載の自動車エアコンディショナー吹出口への物品取付装置。
【請求項3】上記前進手段は、後当て部材に設けた螺子部とこの螺子部に螺合して回転可能なナット体からなるものである請求項1に記載の自動車エアコンディショナー吹出口への物品取付装置。」
(実用新案登録請求の範囲)
(4-1-1-1-2)
「上述したように従来の物品取付装置においては、上舌片と下舌片とを有するクリップによってルーバーを咥え込むようにする構造である。このため、ルーバーの奥行幅寸法が大きい場合に備えてこのクリップの咥え込み量を大きくしておくと、保持力が低下するとともに、奥行幅寸法の小さいルーバーに取り付けようとした場合には、ガタ付が大きくなる。また、奥行幅寸法の小さいルーバーに対応したクリップを用い、これを奥行幅寸法の大きいルーバーに取り付けようとした場合には、その取付状態が不安定になるという不都合があり、このような点からルーバー側の寸法に対応した数種のクリップを用意する必要性が生じている。
一方、これら各種の奥行幅寸法のルーバー全てを一種のクリップで対応しようとすると、そのクリップは最大公約数的な寸法設定となり、実際の使用においてはルーバーの保持状態が甘くなる場合が多く、物品の取付状態が不安定になる。
【0005】
さらに、上舌片と下舌片とを有してなるこの金属製のクリップでルーバーを咥え込むようにすることから、取り付け時や取り外し時にルーバーの上下面が傷つき易く、このため、保護を目的としたシール6を予めルーバー側に貼着した後にクリップを咥えさせており、よって、この保護材を要するという不経済な点もあった。さらに、取り付け時や取り外し時に際してルーバー自体が折損することがあるという問題点もあった。
そして、クリップを桟部材に対して移動可能にして止め付けるようにしたビス7をクリップにカシメ固定していることから、物品取付装置の組立作業が煩雑になるという問題もあった。
【0006】
そこで本考案は上記した事情に鑑みて、ルーバーの上下方向からの挟み込みを行うことなく、そして、奥行幅寸法が変わる各タイプのルーバーにあってもこれを確実に保持できるようにすることを課題とし、ルーバー側に損傷を与えることなく確実にカップホルダーをセットできるようにすることを目的とする。」(明細書、第6頁第2行〜第6頁第27行)
(4-1-1-1-3)
「本考案においては、後当て部材と桟部材とでなるルーバー保持部は、前記後当て部材がホルダー本体の前後方向に移動可能で、この後当て部材を前進手段が前方に移動させることから、大きく開いた状態からこの間隔を小さくしていくことにより、ルーバーの奥行寸法に係わりなくこのルーバーを前後方向から保持するようになる。
【0009】
【実施例】
つぎに本考案を図1から図8に示す実施例に基づいて詳細に説明する。なお、図9に示す従来例と構成が重複する部分は同符号を付してその説明を省略する。すなわち、本考案における物品取付装置1は、図1から図5に示すように、ホルダー本体bの開口c側に位置する桟部材2と、この桟部材2の所定位置に桟部材2の前面から上端縁にかけて断面略L型材8aを配置することによって後方に突出してなる張り出し部材8と、この張り出し部材8から下方にほぼルーバーAの厚さ分の位置にあって前記桟部材2と断面略L型材8aとを貫通するように配置されてルーバーAの前後方向に移動可能に設けられるとともに、桟部材2の長孔2a通ってこの桟部材2の長手方向に移動可能とした後当て部材9と、この後当て部材9をルーバーAの前後方向前方に押し出すように移動させる前進手段10とからなるものである。
【0010】
図3と図4に示すように、上記後当て部材9は後端を上方に曲げ起こすようにしてなる上向き爪部11を備える。そして上記前進手段10は桟部材2の前面側に位置して後当て部材9の上記貫通部分に設けられたばね10aからなるもので、このばね10aにより前記後当て部材9が前方側に付勢されて移動するようになっており、前記上向き爪部11と上記張り出し部材8を有する桟部材2とで図5に示すようにルーバーAを前後方向から保持するルーバー保持部12が形成されている。このようにルーバー保持部12はルーバーAを前後方向から保持するとともに、張り出し部材8がルーバーAの上面を、後当て部材9がルーバーAの下面をそれぞれ受けるようになり、この物品取付装置1がルーバーAに確実に取り付けられ、すなわちカップホルダーaがルーバーAに確実に取り付けられる。
なお、図4にしめすように後当て部材9の軸部分に設けた突条9aを断面略L型材の挿通孔8bに案内させて、後当て部材9が軸回りに回転しないように設けられている。
【0011】
図6から図8は第2の実施例を示している。この第2の実施例は第1の実施例とでは前進手段10の構成が異なっている。すなわち、後当て部材9における上記桟部材2を貫通する部分には螺子部10bが設けられているとともに、桟部材2の前面側にはこの螺子部10bに螺着して回転自由なナット体10cが配置され、このナット体10cと前記螺子部10bとで前進手段10が構成されており、ナット体10cの一方向の回転操作により後当て部材9が前方に移動するようになる。
【0012】
上記した構造によってこの第2の実施例においても上記第1の実施例と同様に、ルーバーAの前後方向に可変長のルーバー保持部12が形成され、物品取付装置1の締付操作(ナット体10cの締付回転操作)によって後当て部材9が前進して奥行幅寸法が異なる各種のルーバーを保持することができるように設けられている。」(明細書、第7頁第12行〜第8頁第28行)
(4-1-1-1-4)
「また実施例では、桟部材に別部材の断面略L型部材を配置することにより張り出し部材が得られるようにしたが、この桟部材の裏面上縁に亘って後方に突出する張り出し部材を一体に形成するようにしても良い。」(明細書、第9頁第3行〜第6行)
(4-1-1-1-5)
図面の図2には、張り出し部材8と後当て部材9が平行して配置されて同じ方向に延びる態様が示されており、図3、図4、図7には、要部の説明図において、上向き部材11のルーバーを保持する側がえぐられた形状の部位とされていることが示されている。
また、図5には、第1の実施例において張り出し部材8と後当て部材9がルーバーを挟み込んだ態様を示す説明図が示されている。
(4-1-1-1-6)
上記(4-1-1-1―1)乃至(4-1-1-1-4)及び上記(4-1-1-1-5)の図示内容を総合すると、刊行物1には、下記の発明(以下、「刊行物1発明」という。)が記載されているものと認められる。
「ルーバーの上下方向からの挟み込みを行うことなく、奥行幅寸法が変わる各タイプのルーバーにあってもこれを確実に保持できるようにすることを課題とする物品取付装置であって、桟部材2と、この桟部材2の所定位置に桟部材2の前面から上端縁にかけて断面略L型材8aを配置することによって後方に突出してなる張り出し部材8と、前記張り出し部材8に対し、ほぼルーバーAの厚さ分の位置に平行して配置されて同じ方向に延びる後当て部材9とを備え、前記後当て部材9は後端を上方に曲げ起こすようにしてなる上向き爪部11を有し、前記上向き爪部11のルーバーAを保持する側がえぐられた形状の部位とされており、前記後当て部材9の上向き爪部11におけるえぐられた形状の部位と前記張り出し部材8の先端間の間隔を寸法の異なるルーバーAの奥行幅に応じて後当て部材の移動により大きく開いた状態にさせ、該大きく開いた状態から後ろ当て部材9と張り出し部材8を有する桟部材2との間隔を小さくしていくことにより、前記後当て部材9がエアコンディショナー吹出口のルーバーA下面と奥端を受け、上記張り出し部材8を有する桟部材2とでエアコンディショナー吹出口のルーバーAを前後方向から保持するルーバー保持部が形成されて成るエアコンディショナー吹出口のルーバーAに対する物品取付装置。」
(4-1-1-2)甲第5号証(以下、「刊行物2」という。)
本件特許の出願日前に公知の刊行物である刊行物2には、次の事項が記載されている。
(4-1-1-2-1)
「【請求項1】 清涼飲料水等のドリンク容器を支持する支持皿およびこの支持皿に一体あるいは固定的に取付けられた後方に開口部が形成され、前方に透孔が形成された支持体とからなるドリンクホルダ―本体と、このドリンクホルダ―本体に取付けられた後方へ突出し、自動車のエアコンの吹出し口のガイド板に着脱可能に取付けることができる取付け具と、前記ドリンクホルダ―本体に取付けられ、前記エアコンからの送風が通過する透孔を有する芳香剤を収納することができる芳香剤収納ケ―スとを備えたことを特徴とするドリンクホルダ―。」(実用新案登録請求の範囲請求項1)
(4-1-1-2-2)
「図1ないし図7の本考案の第1の実施例において、1は清涼飲料水等の缶や瓶等の大・小のドリンク容器2が収納支持されるドリンクホルダ―本体で、このドリンクホルダ―本体1は合成樹脂材で成形された前記大・小のドリンク容器2を支持する段部3を有する支持皿4と、この支持皿4と一体成形された後方に開口部5が形成され、前方に格子状の透孔6が形成された支持体7と、この支持体7の上面に嵌合固定された合成樹脂材製の上縁板8とから構成されている。」(明細書、第8頁第17行〜第22行)
(4-1-1-2-3)
「13は前記ドリンクホルダ―本体1に取付けられた自動車のエアコンの吹出し口14のガイド板15に着脱可能に取付けることができる取付け具で、この取付け具13はコ字状で、両先端部が前記支持体7の凹部10、10および前記上縁板8のカバ―板12、12との間の隙間16、16に挿入される支持板17と、この支持板17の両先端部に形成された上下方向の弾性を持たせるための切欠溝18、18と、前記支持板17の先端部の上面に前記係合部11、11と任意の位置で係合する係合片19、19と、前記支持板17の先端部寄りの内壁面に突出形成された前記長孔9、9とそれぞれスライド可能に係合する係合ピン20、20と、前記支持板17の後端部にカシメピン21、21等で取付けられた前記ガイド板15に挟着固定する挟着片22、22とから構成されている。」(明細書、第9頁第1行〜第10行)
(4-1-1-2-4)
「しかる後、自動車のエアコンの吹出し口14のガイド板15に取付け具13の挟着片22、22を図1に示すように挟着させるとともに、ドリンクホルダ―本体1を押込むことにより、ガイド板15の先端部との間に大きな隙間が生じることなく、ドリンクホルダ―本体1をガイド板15に取付けることができる。…中略…次に図8ないし図16に示す本考案の異なる実施例につき説明する。」(明細書、第10頁第6行〜第22行)
(4-1-1-2-5)
図面の図1乃至7には、第1の実施例が、図8乃至10には、第2の実施例が、図11乃至13には、第3の実施例が、図14乃至16には、第4の実施例がそれぞれ示されており、それらの図から、挟着片22の基部から2つの挟着辺部が互いに対向するように延び、遊端側で接触している態様、挟着片部22、22が上記遊端部側でガイド板15を挟着してなる態様及び、挟着片22の2つの挟着辺部の先端が外向きに傾斜してなる態様が読みとれる。
(4-1-1-2-6)
上記(4-1-1-2-1)乃至(4-1-1-2-4)の記載事項及び上記(4-1-1-2-5)の図示内容等を総合すると、刊行物2には、下記の発明(以下、「刊行物2発明」という。)が記載されているものと認められる。
「基部と、その基部から対向状に延び遊端側で互いに接触している一方の挟着辺部22と他方の挟着辺部22を備える挟着片22であって、上記挟着片部22、22が上記遊端部側でガイド板15を挟着固定するものであり、上記挟着辺部22、22の各先端が外向きに傾斜してなる上記挟着片22。」
なお、上記刊行物2発明の認定に当たって、上記刊行物2では、全体としての挟着片22とその2つの部分である挟着片22、22を区別せず挟着片22としているので、2つの部分である挟着片22,22を「挟着片部22」とし、全体を表現した「挟着片22」と区別した。
(4-1-1-3)甲第6号証(以下、「刊行物3」という。)
本件特許の出願日前に公知の刊行物である刊行物3には、次の事項が記載されている。
(4-1-1-3-1)
「【請求項1】 吹出口に対応して保温または保冷をするドリンクなどに風を通す形状の縫いぐるみ部から設けられる自動車のヒーター・エアコン吹出口取付用ドリンクホルダー。」(実用新案登録請求の範囲請求項1)
(4-1-1-3-2)
「ドリンクホルダー1にはホールドフック10を設け、このホールドフック10を自動車のヒーター・エアコンのルーバー11に引掛け、吹出口3に対面支持する。
【0016】
ドリンクホルダー1aは、この考案ドリンクホルダーの第2の実施例であって、図12乃至図14に示すように、芯枠12を、例えば合成樹脂により設け、これを縫いぐるみ部2に接着するものであって、芯枠12の一部は外面に露出して吹出口3と対応し、下縁に外止13を夫々設けた連結溝14を左右櫛歯状に設け、フック連結部を構成している。」(明細書、第7頁第5行〜第13行)
(4-1-1-3-3)
図面の図14には、芯枠とホールドフックとの連結例が、図15には、同じくホールドフックと自動車のヒーター・エアコン吹出口への取り付け状態を示す側面図が示されている。
(4-1-1-3-4)
上記(4-1-1-3-1)乃至(4-1-1-3―2)の記載事項及び上記(4-1-1-3-3)の図示内容等を総合すると、刊行物3には、下記の発明(以下、「刊行物3発明」という。)が記載されているものと認められる。
「基端に、外止13と連結溝14とからなるフック連結部に連結するための前後に所要の間隔に設けられた係合部15を備え、ヒーター・エアコン側に、そのルーバー11に引掛けるホールドフック10aを備えるホールドフック10」
(4-1-1-4)甲第8号証(以下、「刊行物4」という。)
本件特許の出願日前に公知の刊行物である刊行物4には、次の事項が記載されている。
(4-1-1-4-1)
「被装着体に対し着脱可能な構成とされており、装着時において該被装着体にこれを挟持した状態で係止される一対の係止部を両端に形成してなるアーム部と、該アーム部に一体的に形成されており使用時に変位されるクリップ部とより構成されるクリップにおいて、
該アーム部に、該クリップの変位に伴い該クリップの変位方向に向け可撓するよう他の部分に比べ肉薄とされた可撓部を形成してなる構成のクリップ。」(実用新案登録請求の範囲)
(4-1-1-4-2)
「本考案になるクリップ7は、アーム部8に可撓部13を形成したことを特徴とする。この可撓部13はアーム部8のクリップ部11の形成位置近傍に設けられており、アーム部8の他の部分の肉厚寸法に比べて肉薄となるよう構成されている。(明細書、第5頁17行〜第6頁第1行)
(4-1-1-4-3)
「第4図に示す従来のクリップ1では、アーム部2の肉厚が均一で厚い寸法とされていたため、この付勢力が印加されてもアーム部2は可撓せず、従ってクリップ部5のみが可撓変位する構成であった。」(明細書、第6頁17行〜第7頁第1行)
(4-1-1-4-4)
図面の第1図には、実施例のクリップが被着体とともに示されている斜視図が、第2図には、クリップの装着状態を示す図が、第4図には、従来のクリップの一例が示されており、アーム部2の肉厚が、クリップ部5の肉厚よりも厚いことが読み取れる。
(4-1-1-4-5)
上記(4-1-1-4-1)乃至(4-1-1-4-3)の記載及び上記(4-1-1-4-4)の図面の図示内容を総合すると、刊行物4には、被装着体に対し着脱可能な構成とされており、装着時において該被装着体にこれを挟持した状態で係止される一対の係止部を両端に形成してなるアーム部2と、該アーム部2に一体的に形成されており、使用時に変位されるクリップ部5とより構成されるクリップにおいて、アーム部2の肉厚が均一で厚い寸法であり、クリップ部5の厚肉がそれより薄い寸法であって、付勢力が印加されても、アーム部2は可撓せず、クリップ部5のみが可撓変位する構成を備えたクリップ、が記載されているものと認められる。
(4-1-1-5)甲第9号証(以下、「刊行物5」という。)
本件特許の出願日前に公知の刊行物である刊行物5には、次の事項が記載されている。
(4-1-1-5-1)
「カーテンレールにカーテンをスライド可能に保持するカーテン用フックであつて、弾性挟持片を有するカーテン取付部と、カーテンレール内を自在にスライド可能なランナー部とを一体に設けたことを特徴とするカーテン用フック。」(実用新案登録請求の範囲)
(4-1-1-5-2)
「カーテン取付部5は、ランナー部3から連続してU字状に形成され、その自由端部側が弾性挟持片5aとなっている。この弾性挟持片5aには、カーテン4からの脱落防止用に内側下方向に向けて、複数の山状の凸部5bが形成され、凸部5bの頂点は取付部5の対向する表面に弾接している。」(明細書、第3頁第18行〜第4頁第4行)
(4-1-1-5-3)
図面の第1図には、実施例のカーテン用フックの斜視図が示されており、第2図には、実施例のカーテン用フックをカーテンに取り付けた状態を示す斜視図が示されており、両図からカーテン取付部5の自由端部側の弾性挟持片5aの肉厚がカーテン取付部5の自由端部側の反対側の肉厚に比べ厚く形成されていることが読み取れる。
(4-1-1-5-4)
上記(4-1-1-5-1)乃至(4-1-1-5-2)の記載及び上記(4-1-1-5-3)の図面の図示内容を総合すると、刊行物5には、カーテン用フックにおいて、そのカーテン取付部がU字状に形成されその自由端部側が弾性挟持片5aとなるものであって、該弾性挟持片5aの肉厚がカーテン取付部5の自由端部側と反対側の肉厚に比べ厚く形成されているもの、が記載されているものと認められる。
(4-1-1-6)甲第10号証(以下、「刊行物6」という。)
本件特許の出願日前に公知の刊行物である刊行物6には、次の事項が記載されている。
(4-1-1-6-1)
「ベルトに付ける為のフックを備えたクリップ。」(実用新案登録請求の範囲請求項1)
(4-1-1-6-2)
「クリップ2で傘をはさみ、フック1でベルトに引っ掛ければ手を使わなくてもすみます。」(明細書、第3頁第19行〜第20行)
(4-1-1-6-3)
図面の図2には、使用図が、第5図には、実施例の断面図が示されており、両図から、フックが内側の厚肉部分と外側の薄肉部分を有し、その厚肉部分と薄肉部分の間でベルトを引っ掛ける態様が読み取れる。
(4-1-1-6-4)
上記(4-1-1-6-1)乃至(4-1-1-6-2)の記載及び上記(4-1-1-6-3)の図面の図示内容を総合すると、刊行物6には、ベルトに付ける為のフック1を備えたクリップにおいて、該フックの内側部分と外側部分の間でベルトを引っ掛けることができるものであり、該内側部分が厚肉に外側部分が薄肉に形成されてなるもの、が記載されているものと認められる。
(4-1-1-7)甲第11号証(以下、「刊行物7」という。)
本件特許の出願日前に公知の刊行物である刊行物7には、次の事項が記載されている。
(4-1-1-7-1)
「背面下部に上向き鉤状のカーテン吊持体(4)の基部(5)を取り付け、前面を溝条(2)とした横断面チャンネル状を呈する縦長の本体(1)と、本体(1)の相対する内側壁に相対向して形成した下向きの鋸歯状段部(3)と、本体(1)の周囲を上下方向への摺動自在に抱持した方形状のスライダー(6)と、スライダー(6)の内側上方に一体的に形成され、溝条(2)内を経て外方に突出した下向き鉤状のフック体(7)と、スライダー(6)の下方部を溝条(2)内において延長形成した支持部(8)と、支持部(8)に一端部が取り付けられ、他端部が外方への弾性を有して両側の下向きの鋸歯状段部(3)に係合される一対のストッパー(9)と、夫々のストッパー(9)に形成され、本体(1)の溝条(2)から外方に突出した操作部(10)とからなるカーテンフック。」(実用新案登録請求の範囲請求項1)
(4-1-1-7-2)
図面の図2には、側面図が示されており、図3には、正面図が示されており、カーテンフックにおいて横断面チャンネル状を呈する本体側面の厚さがカーテン吊持体の厚さよりも大きいことが示されている。
(4-1-1-7-3)
上記(4-1-1-7-1)の記載及び上記(4-1-1-7-2)の図面の図示内容を総合すると、刊行物7には、横断面チャンネル状を呈する本体側面の厚さがカーテン吊持体の厚さよりも大きいカーテンフック、が記載されているものと認められる。
(4-1-1-8)甲第12号証(以下、「刊行物8」という。)
本件特許の出願日前に公知の刊行物である刊行物8には、次の事項が記載されている。
(4-1-1-8-1)
「本物品は、上下に開閉するカーテンの幅方向を緊張するために、該カーテンの幅方向に張架する緊張棒の取付具である。」との記載及び平面図、使用状態を示す参考斜視図が説明の欄に記載及び図示されており、該平面図及び参考斜視図には該緊張棒の取付具がフック形状部分を有していることが読み取れる。
(4-1-1-8-2)
上記(4-1-1-8-1)の記載及び図示内容を総合すると、刊行物8には、フック形状部分を有するカーテンの幅方向に張架する緊張棒の取付具、が記載されているものと認められる。
(4-1-1-9)甲第13号証(以下、「刊行物9」という。)
本件特許の出願日前に公知の刊行物である刊行物9には、次の事項が記載されている。
(4-1-1-9-1)
「(イ)弾性のある一枚板を折り曲げ、上板(1)の先端部分をまた曲げて中バネ(2)とし、その中間辺に穴(3)をあける。
(ロ)上板(1)下部に、穴あけ棒(4)の上端を取り付け、その下端を半円状刃(5)にして中バネ(2)の穴(3)の一部に挿入する。
(ハ)下板(6)に、穴あけ棒(4)が出入りする穴(7)をあける。
(ニ)上板(1)の表面にメモリ(8)を付ける。
以上の如く構成された穴あけクリップ。」(実用新案登録請求の範囲)
(4-1-1-9-2)
「(ホ)上板(1)をうすくして、下板(6)を厚くする。」(明細書、第2頁第16行)
(4-1-1-9-3)
「このようにして本案は、紙を挟み置くのと同時に穴をあけられる効果があり、書類や伝票類の整理には非常に便利である。」
(明細書、第3頁第14行〜第16行)
(4-1-1-9-4)
図面の第1図には、斜視図が、第2図には、第1図のA-A縦断側面図が、第4図には、実施態様の縦断側面図が、第6図には、他の実施態様の縦断側面図が示されている。
(4-1-1-9-5)
上記(4-1-1-9-1)乃至(4-1-1-9-3)の記載及び上記(4-1-1-9-4)の図面の図示内容を総合すると、刊行物9には、弾性のある一枚板を折り曲げ、上板(1)の先端部分をまた曲げて中バネ(2)とし、上板(1)をうすくして、下板(6)を厚くした紙を挟み置くのと同時に穴をあけられる穴あけクリップ、が記載されているものと認められる。
(4-1-1-10)甲第14号証(以下、「刊行物10いう。)
本件特許の出願日前に公知の刊行物である刊行物10には、次の事項が記載されている。
(4-1-1-10-1)
「携帯用機器を保持するケースと該ケース背面板上に設けたクリップ部とから成るホルダに於いて、前記背面板適所にU字状のスリットを設けることによって前記背面板と一体的に舌状弾性片を形成すると共に該舌状弾性片を前記ケース外側に突出させる一方前記クリップを、長板状のクリップ片にその長手方向に沿った2条のスリットの一端同士を結合した実質上コの字形のスリットを穿設し、これによって内外片に分離された前記クリップ片の内片先端と前記背面板適所とを前記クリップ片長手方向に弾性変形可能な板状弾性片を介して一体的に結合すると共に前記クリップ片の外片の前記背面板側表面適所に前記板状弾性片とほぼ同じ高さの突起を一体的に突設して構成したことを特徴とする携帯用機器のホルダ。」(実用新案登録請求の範囲請求項1)
(4-1-1-10-2)
「上述の如く構成したホルダをズボン等のベルトに取り付ける場合、従来と同様に図4(a)に示す如くクリップ片8の図中上方を指で抓むことによって突起13が背面板3に当接し、これを支点として前記板状弾性片12が変形しクリップ片8の図中下方が図中矢印B方向へ開放するからこれをベルト6裏面に差し込めばよく、挿入後、指をクリップ片8から離せば前記板状弾性片12は元の形状に復帰するから、図4(b)に示す如くベルト6を舌状弾性片16、17に押圧する。従って舌状弾性片16、17はベルト6を介してクリップ片8から力が伝達されるため弾性変形すると共にその弾性に応じた力でベルト6を逆にクリップ方向に押圧するから、ベルト6がクリップ片8と背面板3との間隙より薄くてもクリップ片8と舌状弾性片16、17との間にしっかりと挟持され、ホルダが確実に固定できる。さらに図4(c)に示す如くホルダに図中上向きの外力が作用した場合であってもベルト6は舌状弾性片16、17によってクリップ片8に押しつけられるから、脱落防止のため従来からクリップ片8の図中下端部に設けられていた折り返し部と確実に当接し脱落防止の機能も向上する」(明細書、第6頁第15行〜第28行)
(4-1-1-10-3)
「以上本考案を保持ケースの背面板にH字状のスリットを設けることによって2個の舌状弾性片を形成するものを実施例として説明したが、本考案はこれのみに限定されるものではなく、例えば図5に示す如く保持ケース2の背面板3にU字状のスリット20を設けることによって1個の舌状弾性片21を形成したものであっても同様の機能が得られること自明であり、前述の実施例はこの舌状弾性片21を2個組み合わせたものに等しく、背面板の材質及び板厚からバネ性を考慮してさらに舌状弾性片を増加してもよいこと言うまでもない。
また、クリップ片8を開放する際の支点となる突起13をクリップ片8上に立設したものを実施例として説明したが、本考案はこれのみに限定されるものではなく、例えば、図6に示す如くクリップ片8と対向する背面板3上に突起13を形成したものであっても同様の機能が得られること自明である。」(明細書、第7頁第6行〜第16行)
(4-1-1-10-4)
図面の図1には、一実施例の分解斜視図及び断面図が、図4には第1図のホルダをベルトに取り付けたときの状態を示す側面図が、図6には、他の実施例が示されている。
(4-1-1-10-5)
上記(4-1-1-10-1)乃至(4-1-1-10-3)の記載及び上記(4-1-1-10-4)の図面の図示内容を総合すると、刊行物10には、背面板3適所にU字状のスリット9を設けることによって前記背面板3と一体的に舌状弾性片21を形成すると共に該舌状弾性片を前記ケース外側に突出させる一方クリップを、長板状のクリップ片8にその長手方向に沿った2条のスリット20の一端同士を結合した実質上コの字形のスリットを穿設し、これによって内外片に分離された前記クリップ片8の内片先端と前記背面板3適所とを前記クリップ片8長手方向に弾性変形可能な板状弾性片12を介して一体的に結合すると共に前記クリップ片8の外片の前記背面板側3表面適所に前記板状弾性片12とほぼ同じ高さの突起13を一体的に突設して構成し、舌状弾性片16、17とクリップ片8の間にベルト6を挟持することができる携帯用機器のホルダ、が記載されているものと認められる。
(4-1-1-11)甲第15号証(以下、「刊行物11という。)
本件特許の出願日前に公知の刊行物である刊行物11には、次の事項が記載されている。
(4-1-1-11-1)
「当該いずれか一方には突部を、同じく他方には該突部と布地とを挿填する凹部を具備した、当該一端を連結し同他端に布地導入口を外設の自己挟持性を有す挟持主体と、当該必要な厚さ・広さを有す挟持性増強用兼布地支持用の挟持従体とから成る、布地用挟持具。」(実用新案登録請求の範囲)
(4-1-1-11-2)
図面の第7図には、利用状態の他例を示す斜視図が示されており、第8図には、第7図の他例の主体1と従体2との組合せ構成を略一体化した態様の斜視図が示されている。
(4-1-1-11-3)
上記(4-1-1-11-1)の記載及び上記(4-1-1-11-2)の図面の図示内容を総合すると、刊行物11には、挟持主体11と、挟持性増強用兼布地支持用の挟持従体12とが一体化した布地用挟持具、が記載されているものと認められる。
(4-1-1-12)甲第16号証(以下、「刊行物12という。)
本件特許の出願日前に公知の刊行物である刊行物12には、次の事項が記載されている。
(4-1-1-12―1)
「線材にて形成された棚枠を有する棚と、棚支柱と、この棚支柱に取り付けられて前記棚をストッパーにより制止しながら保持する棚受けとからなる棚装置において、前記棚受けを挾持する挾持部と、この挾持部の上部に設けられ、上部に開口を有し、この開口から圧接挿入された前記棚枠を挾持し水平保持する弾性を有した棚固定部とからなる棚固定具を備えたことを特徴とする棚装置。」(実用新案登録請求の範囲)
(4-1-1-12―2)
「一方、棚固定具13は、棚9を固定するためこの棚受け12のストッパ14と棚支柱10との間に取り付けられるものであり、棚受け12の保持部12aを挾持する挾持部15と、この挾持部15に上面に設けられた棚固定部16とからなっている。
【0017】
ここで、挾持部15は硬質の樹脂で成形され、棚受け12のストッパ14と棚支柱10との幅よりもやや狭い横幅を有すると共に、棚受け12の保持部12aを挾持するための挾持空間15aを有するよう断面略コ字状に形成されている。
そして、この挾持部15の上下の辺部の一方の辺部の端部、例えば上端部15bは、保持部12aを挾持空間15aに容易に嵌入できるよう上向きに折曲されている。また、他辺部の端部には、一旦挾持空間15aに嵌入された保持部12aが振動により外れることを防ぐ係止部15cが形成されている。」(明細書、第6頁第17行〜第28行)
(4-1-1-12―3)
図面の図3には、挟持部15の上端部15bと係止部の肉厚はほぼ等しく、該上端部15bの上面の一部に設けられた棚固定部の下面が重なってなる態様が示されている。
(4-1-1-12―4)
上記(4-1-1-12-1)乃至(4-1-1-12-2)の記載及び上記(4-1-1-12-3)の図面の図示内容を総合すると、刊行物12には、棚受け12の保持部12aを挾持するための挾持空間15aを有するよう断面略コ字状に形成され、この挾持部15の上下の辺部の一方の辺部の端部のうち、他辺部の端部には、一旦挾持空間15aに嵌入された保持部12aが振動により外れることを防ぐ係止部15cが形成されており、挟持部15の上端部15bと係止部の肉厚はほぼ等しく、該上端部15bの上面の一部に設けられた棚固定部の下面が重なっている棚固定具13、が記載されているものと認められる。
(4-1-1-13)甲第17号証(以下、「刊行物13」という。)
本件特許の出願日前に公知の刊行物である刊行物13には、次の事項が記載されている。
(4-1-1-13―1)
「自動車の本体側に組付けられるバンパーを該本体側に仮留めするためのクリップであって、該クリップが、基板と、この基板の上部側で連設されて該基板の面に略平行に垂設され該基板との間で第1の係止溝を構成する弾性支承片と、この弾性支承片の設けられている基板の背面側から該基板の上方を通って前記弾性支承片の設けられている側の基板の面に対向して延び該基板との間で第2の係止溝を構成する弾性アーム片とよりなることを特徴とするバンパーの仮留め用クリップ。」(実用新案登録請求の範囲)
(4-1-1-13―2)
「次いで前記第1の係止溝T内の基板1の面には、下方から上方に向けて漸次隆起し、且つ上端が水平方向の段面とされている係止突起7が設けてあると共に、この係止突起7に対応する弾性支承片2の面には、該支承片2の幅方向に亘って溝8が設けてあり、前記係止突起7の型抜き成形に適する構成としてある。」(明細書、第8頁第16行〜第19行)
(4-1-1-13―3)
図面の図2には、実施例の正面図が示されている。
(4-1-1-13-4)
上記(4-1-1-13-1)乃至(4-1-1-13-2)の記載及び上記(4-1-1-13-3)の図面の図示内容を総合すると、刊行物12には、第1の係止溝T内の基板1の面には、係止突起7が設けてあると共に、この係止突起7に対応する弾性支承片2の面に、該弾性支承片2の幅方向に亘って溝8が設けてあるバンパーの仮留め用クリップ、が記載されているものと認められる。
(4-1―2)対比・判断
(4-1-2-1)理由1のa.本件特許発明1について
請求人が主張する上記(3―2―1)理由1のa.本件特許発明1について、検討する。
先ず、本件特許発明1と上記刊行物1発明を対比すると、前者の「桟部材2」は後者の「取付基部」に、以下、順に、「後当て部材9」は「一方の辺」に、「張り出し部材8」は「他方の辺」に、「後方に」は「前方に」に、「後端」は「遊端」に、「エアコンディショナー吹出口」は「エアコン吹き出し口」に、「ルーバーA」は「ルーバー」に、「後端を上方に曲げ起こすようにしてなる上向き爪部11」は「フック部」に、「えぐられた形状の部位」は「先端湾曲部」に、それらの機能及び構造からみて、相当する。
また、後者の「桟部材2と、この桟部材2の所定位置に桟部材2の所定位置に桟部材2の全面から上端縁にかけて断面略L字型部材8aを配置することによって後方に突出してなる張り出し部材8と、前記張り出し部材8に対し、ほぼルーバーAの厚さ分の位置に平行して配置されて同じ方向に延びる後当て部材9」における張り出し部材8と後当て部材9の位置関係は、機能及び構造からみて、前者の「互いに離間して対向するよう前方に延びる一方の辺及び他方の辺」で規定される前者の「一方の辺」と「他方の辺」の位置関係と等価といえ、後者において「この桟部材2の所定位置に桟部材2の所定位置に桟部材2の全面から上端縁にかけて断面略L字型部材8aを配置することによって後方に突出してなる張り出し部材8」ということは、機能及び構造からみて。前者における「他方の辺」が「前方に延びる」ことを意味するものといえる。
さらに、後者にあっても「後当て部材9の移動により大きく開いた状態にさせ」ことが規定されているから、前者の「ルーバーを受け入れるエアコン吹き出し口のルーバー挿入口」に相当するものが「えぐられた形状の部位」と「張り出し部材8の先端間」に形成されているものといえ、また、後者の「後当て部材9」の「えぐられた形状の部位」を備える「上向き爪部11」は、「上記一方の辺の遊端に形成されエアコン吹き出し口のルーバー後縁を包着可能としたフック部」に相当するものといえる。
さらにまた、後者の「後当て部材9の移動」も、前者の「前記他方の辺が前記一方の辺から離間する方向に撓んで」も共に「他方の辺」と「一方の辺」の相対的移動・変形という概念で共通する。
したがって、両者は「取付基部と、互いに離間して対向するよう前方に延びる一方の辺及び他方の辺と、上記一方の辺の遊端に形成されエアコン吹き出し口のルーバー後縁を包着可能としたフック部と、上記一方の辺のフック部における先端湾曲部と上記他方の辺の先端間に形成され前記他方の辺と前記一方の辺が離間する方向に相対的移動・変形してルーバーを受け入れるエアコン吹き出し口のルーバー挿入口とより成るエアコン吹き出し口のルーバーに対する物品取付具。」において一致し、下記の点で相違している。
【相違点1】:ルーバーを受け入れるエアコン吹き出し口のルーバー挿入口の受け入れるための相対的移動・変形が、本件特許発明1においては、上記他方の辺を上記一方の辺より薄肉とした態様であって、上記他方の辺が上記一方の辺から離間する方向に撓んでなるものであるのに対し、上記刊行物1発明では、上記後当て部材9を移動してなるものである点。
【相違点2】:互いに離間して対向するように前方に延びる一方の辺と他方の辺について、本件特許発明1では、一方の辺も他方の辺も取付基部から延びる態様であるのに対し、上記刊行物1発明では、上記桟部材2の所定位置に上記桟部材2の前面から上端縁にかけて上記断面略L型材8aを配置することによって前方に延びる上記張り出し部材8と、上記張り出し部材8に対し、互いに離間して対向するように上記後当て部材9に前方に延びる態様である点。

上記相違点について検討する。
【相違点1】について
先ず、上記刊行物2発明について検討する。
本件特許発明1と上記刊行物2発明を対比すると、後者の「基部」は前者の「取付基部」に、以下、順に、「その基部から対向状に延びる」は「この取付基部から互いに」「対向するように前方に延びる」に、「エアコンの吹出し口14」は「エアコン吹き出し口」に、「ガイド板15」は、「ルーバー」に、「挟着片22」は「物品取付具」に、それらの機能及び構造からみて、相当する。
また、上記刊行物2発明の2つの「挟着部片部22」のいずれかは、本件前者の「一方の辺」に、その余の挟着部は、「他方の辺」に相当する。
さらに、後者の「挟着片22」と「ガイド板15」の関係は、相対的移動の関係にあり、後者の「ガイド板15」に対し、「挟着片22」を移動させれば、後者の「先端が外向きに傾斜してなる」部位が外側に開いて「ガイド板15」を受け入れることは明らかであるし、後者の「挟着片22」は挟着固定するものであるから、撓む性質を有することは明らかであり、挟着固定する際或いは逆に開く際に撓むものであることも明らかであるから、後者は、「挟着片部22、22」が撓んで「先端が外向きに傾斜してなる」部位を介して「ガイド板15」を受け入れる構成を有するから、前者の「撓んでルーバーを受け入れるエアコン吹き出し口のルーバー挿入口」の構成を備えるものといえる。
上記のことを考慮すると、上記刊行物2発明は、「一方の辺の先端及び/又は他方の辺の先端が、相手となる辺から離間する方向に撓んでルーバーを受け入れる」点を備えるものといえる。
次に、上記刊行物4乃至6及び上記刊行物8乃至13に記載の事項について検討する。
上記刊行物4の上記(4-1-1-4-5)に記載のクリップの「アーム部2」と「クリップ部5」はそれぞれ、本件特許発明1の「一方の辺」と「他方の辺」に対応するといえるから、上記刊行物4には、他方の辺が一方の辺より薄肉に形成されて、被装着体を挟持するに際し他方の辺が一方の辺から撓むものが記載されているものといえる。
なお、上記刊行物4について、審判請求人は審判請求書において、第1図乃至第2図をもって、他方の辺を一方の辺より薄肉としている構造が表されている旨主張するが、第1図乃至第2図において薄肉とされていると主張する可撓部は、本件特許発明1の一方の辺に相当するアーム部8における可撓部13についてのものであり、本件特許発明1の一方の辺に相当するアーム部8と、同じく本件特許発明1の他方の辺に相当するクリップ部11について、それらの肉厚を比較したものとはいえないので、上記刊行物4に記載のものについての認定は、審判請求人の上記主張の第1図乃至第2図に基づくものではなく、上記(4-1-1-4-5)に記載したように、第4図に示された従来例に基づくものとした。
上記刊行物5の上記(4-1-1-5-4)に記載のカーテン取付部5を備えるカーテン用フックの該カーテン取付部5の「弾性挟持片5a」と「弾性挟持片5aと反対側の片」はそれぞれ、本件発明1の「一方の辺」と「他方の辺」に対応するといえるから、上記刊行物5には、他方の辺が一方の辺より薄肉に形成されているものが記載されているものといえる。
上記刊行物6の上記(4-1-1-6-4)に記載のフック1を備えたクリップの該フック1の「内側部分」と「外側部分」はそれぞれ、本件特許発明1の「一方の辺」と「他方の辺」に対応するといえるから、上記刊行物4には、他方の辺が一方の辺より薄肉に形成されているものが記載されているものといえる。
審判請求人は、上記刊行物8乃至13にも他方の辺が一方の辺より薄肉に形成されている技術が記載又は図示されている旨、主張するが、これらの刊行物には、フック又はクリップ等における一般的な技術が記載又は図示されているとはいえるが、審判請求人が主張するような技術が特に記載又は図示されているものとはいえない。
したがって、上記刊行物4乃至6から2つの辺部位を有するクリップあるいはフックを構成するものにおいて、本件特許発明1における「他方の辺」及び「一方の辺」に相当する辺のうち他方の辺を一方の辺より薄肉としたものは、周知であるといえる。
上記検討を踏まえ、上記刊行物1発明に上記刊行物2発明及び上記周知の
他方の辺を一方の辺より薄肉とする技術を適用することについて検討する。
上記刊行物1発明は、従来のルーバーを挟み、ドリンクホルダーを固定するものの問題点である、取り付け時や取り外し時にルーバーの上下面が傷つき易い、あるいはルーバー自体が折損することがある等の点を解消し、奥行幅寸法が変わる各タイプのルーバーにあってもこれを確実に保持できるようにするとの課題を上記後当て部材9の上記張り出し部材8に対する移動により達成するものであるが、上記刊行物2発明は、刊行物1発明がその改良の対象とした従来のルーバーの上下方向からの挟み込みを行う型式のものであり、それを挟着片22、22の挟着固定により達成するものであるから、上記刊行物1発明に上記刊行物2発明を適用すると上記刊行物1発明の目的に反するものとなることは明らかであるので、この適用には、適用阻害要因が存するものといえ、該移動によるものと、該挟着固定によるものは両立するものとはいえず、当業者が、上記刊行物1発明に上記刊行物2発明を適用することは困難なことといえる。
まして、上記刊行物2発明、及び上記周知技術の適用において、上記刊行物1発明の後ろ当て部材9を一方の辺とし、上記刊行物1発明の張り出し部材8を他方の辺としたうえで、その際張り出し部材8を後当て部材9より薄肉とするような具体的適用を想到することは、当業者において困難なことといえる。
また、たとえそのような具体的適用を行うとしても、上記刊行物1発明は、奥行幅寸法が変わる各タイプのルーバーにあってもこれを確実に保持できるようにする課題を、ルーバーAの奥行き幅に応じて後当て部材9の移動を行うことで解決するものであるから、適用する際、後当て部材9の移動を行うことについての構成は変更することはできず、そうすると、上記刊行物1発明の物品取付装置の後ろ当て部材9の移動についての構成はそのままで、張り出し部材8を後当て部材より薄肉として、後当て部材8が張り出し部材8から離間する方向に撓んでルーバーAを受け入れるものとなるといえる。
そして、上記具体的適用の結果できたものは、上記刊行物1発明と同じように、「大きく開いた状態から後ろ当て部材9と張り出し部材8を有する桟部材2との間隔を小さくしていくことにより、前記後当て部材9がエアコンディショナー吹出口のルーバーA下面と奥端を受け、上記張り出し部材8を有する桟部材2とでエアコンディショナー吹出口のルーバーAを前後方向から保持する」構成を備えるものであるから、上記相違点1に係る本件特許発明1の構成とは異なり、本件特許発明1の作用効果である上記特許明細書等に記載の「ルーバーに押し込むことにより簡単にルーバーに取付けでき、且つ、ルーバーを傾斜することで簡単に取り外すことができ、また、安価に作成できルーバーに傷をつけることがない等」(段落【0015】)の作用効果を有するものとはいえない。
したがって、上記刊行物1発明に、上記刊行物2発明及び上記周知の技術を適用して、上記相違点1に係る本件特許発明1の構成を達成することは困難なことといえる。
【相違点2】について
相違点2の上記刊行物1発明の「上記桟部材2の所定位置に上記桟部材2の前面から上端縁にかけて断面略L型材8aを配置することによって前方に延びる上記張り出し部材8と、上記張り出し部材8に対し、上記後当て部材9が離間して対向するように前方に延びる態様」は、上記刊行物1発明の「奥行幅寸法が変わる各タイプのルーバーにあってもこれを確実に保持できるようにすることを課題」を達成するために、後ろ当て部材9を張り出し部材8に対し相対移動させるための前提として必要な構成であり、それを、相違点2に係る本件特許発明1のように「一方の辺も他方の辺も取付基部から延びる態様」に変更すると、該相対移動は制限されることになる上記刊行物1発明の課題を達成できなくなることは明らかであるので、この変更には適用阻害要因が存するものといえるから、当業者が、上記刊行物1発明及び上記刊行物2発明から上記相違点2に係る本件特許発明1の構成とすることは困難なことといえる。
なお、ここで、上記検討した刊行物の組合せとは逆に、上記刊行物2発明に上記刊行物1発明及び上記周知の技術を適用して、相違点1乃至2に係る本件特許発明1の構成とすることができるかどうかについて簡単に検討すると、本件特許発明1と上記刊行物2発明は、下記の点で相違しているといえる。
【相違点1】:一方の辺が、本件特許発明1では、上記一方の辺の遊端に形成されエアコン吹き出し口のルーバー後縁を包着可能としたフック部を備えるのに対し、刊行物2発明では、そのようなフック部を備えていない点。
【相違点2】:上記一方の辺及び上記他方の辺の具体的態様が、本件特許発明1では、上記他方の辺を上記一方の辺より薄肉としたものであるのに対し、刊行物2発明では、挟着片部22、22が全体として挟着片である態様となっている点。
【相違点3】:取付基部から互いに対向するよう前方に延びる一方の辺及び他方の辺の具体的態様が、本件特許発明1では、一方の辺及び他方の辺が、取付基部から互いに離間して対向するよう前方に延びる態様であるのに対し、刊行物2発明では、挟着片部22、22が基部の上下縁から対向状に延びて遊端部側で互いに接触する態様となっている点。
【相違点4】:エアコン吹き出し口のルーバーに対する物品取付具が備える上記一方の辺の先端及び/又は上記他方の辺の先端が、相手となる辺から離間する方向に撓んでルーバーを受け入れるエアコン吹き出し口のルーバー挿入口の具体的態様について、本件特許発明1では、上記一方の辺のフック部における先端湾曲部と上記他方の辺の先端間に形成され前記他方の辺が前記一方の辺から離間する方向に撓んでルーバーを受け入れる態様であるのに対し、刊行物2発明では、上記挟着片部22、22が撓んでなるとともに上記挟着片部22、22の先端が外向きに傾斜してなる部位を介してガイド板15を受け入れる態様となっている点。
そして、本件特許発明1は、「物品取付具」において、上記相違点1に係る「上記一方の辺の遊端に形成されエアコン吹き出し口のルーバー後縁を包着可能としたフック部」を形成して、上記相違点3に係る「一方の辺及び他方の辺が、取付基部から互いに離間して対向するよう前方に延びる」、その離間して対向する一方の辺と他方の辺の間にルーバーがフック部で包着されるように取付けられるものであって、ルーバーを受け入れるためのルーバー挿入口の具体的態様が上記相違点4に係る「上記一方の辺のフック部における先端湾曲部と上記他方の辺の先端間に形成され前記他方の辺が前記一方の辺から離間する方向に撓んでルーバーを受け入れる」態様であり、上記相違点4に係るルーバー挿入口を構成する一方の辺と他方の辺の性質を上記相違点2に係る「上記他方の辺を上記一方の辺より薄肉とした」と規定してなるものといえ、本件特許発明1は、上記相違点1乃至4を上記のような関連をもって併せて備えることにより特許明細書に記載の作用効果を奏するものであるが、上記刊行物1発明等には、上記のような関連をもって、上記刊行物2発明と結びつけて本件特許発明1の構成とするべき技術思想は、特に認められないうえ、上記刊行物2発明に上記刊行物1発明等の技術を適用すると、上記刊行物2発明の目的に反するものとなることは明らかであるので、この適用には、適用阻害要因が存するものといえる。
したがって、本件特許発明1は、上記刊行物1に記載された発明、上記刊行物2に記載された発明及び上記刊行物4乃至上記刊行物13に記載されているような周知技術から当業者が容易に発明をすることができたものとすることはできない。
(4-1-2-2)理由1のb.本件特許発明2について
本件特許発明2は、本件特許発明1に係る発明の構成を全て含み、さらに他の構成を付加したものに相当するから、上記(4-1-2-1)で説示したと同様の理由により、上記刊行物1に記載された発明、上記刊行物2に記載された発明及び上記刊行物4乃至上記刊行物13に記載されているような周知技術から当業者が容易に発明をすることができたものとすることはできない。
(4-1-2-3)理由1のc.本件特許発明3について
本件特許発明3は、本件特許発明1又は本件特許発明2に係る発明の構成を全て含み、さらに「上記取付基部が棒状であり、その軸方向に互いに離間した、上記軸方向と直角方向に延びる2以上の溝を有し、この溝を有する部分が、被冷暖物ホルダーに形成した孔内に係合される」構成を付加したものに相当する。
そして、上記刊行物3発明の「基端に、外止13と連結溝14とからなるフック連結部に連結するための前後に所要の間隔に設けられた係合部15」の構成は、本件特許発明3に付加された上記構成に相当するといえる。
しかしながら、ルーバーへの取付の態様については、上記刊行物3発明は、本件特許発明3が備える「一方の辺」に対応する「ホールドフック10a」にフックが形成されている点で共通するにすぎず、本件特許発明3が備える「他方の辺」に相当するものは備えていない。
したがって、上記(4-1-2-1)乃至(4-1-2-2)で説示した理由と総合すると、本件特許発明3は、上記刊行物1に記載された発明、上記刊行物2に記載された発明、上記刊行物3に記載された発明及び上記刊行物4乃至上記刊行物13に記載されているような周知技術から当業者が容易に発明をすることができたものとすることはできない。
(4-1-3)まとめ
以上検討したことから、本件特許発明1乃至3は、特許法第29条第2項の規定に違反しているとすることはできない。
(4-2)上記(3-2-2)の理由2について
本件特許に係る願書に最初に添付した明細書又は図面(以下、「当初明細書等」という。)には、「上記他方の辺を一方の辺より薄肉とした」点に関して、直接的にそれを示す記載はないが、上記当初明細書等の特許請求の範囲請求項1には、「一方の辺及び他方の薄肉辺」との記載があり、さらに続けて、該「他方の薄肉辺」を受けた「他方の辺」との記載がある。
また、上記当初明細書等の段落【0015】には、「図7,図8に示すようにエアコン吹き出し口11のルーバー12の端面に上記物品取付具4をその他方の薄肉辺6bの傾斜部分8を当て押し込むと上記他方の薄肉辺6bが上記一方の辺6aから離間する方向に撓み、」との記載があり、同じく上記当初明細書等の図面の図7には、該「他方の薄肉片」に当たる6bで示される部位が該「一方の辺」に当たる6aで示される部位よりも、全体的に薄肉であることが示されている。
そして、上記当初明細書等の記載事項及び図面の図示内容に加え、一方の辺と他方の辺を有する部材において、両辺の間に扁平状のものを挿入すれば、肉厚が薄い辺が撓むというよく知られた技術常識からみて、該請求項1の「一方の辺」と該「他方の辺」のうち、該「他方の辺」のみを「他方の薄肉片」とする意味は、該請求項1において、単に「他方の辺」が「薄肉」であることを規定したものではなく、「他方の辺」の肉厚を、「一方の辺」の肉厚よりも「薄」いものとしたものであることは明らかである。
してみると、上記当初明細書等には、「上記他方の辺を一方の辺より薄肉とした」点が記載されていたに等しいといえることから、「上記他方の辺を一方の辺より薄肉とした」は、新規事項といえない。
また、特許文献における図面は、一般に、その詳細な説明で説明する範囲での具体性をもって描かれているものであるから、必ずしも全ての図面で具体的に描かれていなくても問題とならない。そして、図7等に、上記したように、該「他方の薄肉片」に当たる6bで示される部位が該「一方の辺」に当たる6aで示される部位よりも、全体的に薄肉であることが示されているのであるから、他の図面に、肉厚差が顕著に示されていないからといって、上記当初明細書等には、「上記他方の辺を一方の辺より薄肉とした」点が記載されていないとすることはできない。
なお、審判請求人は、上記当初明細書等の図1、図8,図9はどれも辺の厚みに顕著な差がみられず、また、図6、図7において、「一方の辺」の厚みは一定でなく、先端湾曲部に向かってテーパーが施される構成となっており、特に図6では、このテーパーが施された先端部は「他方の辺」より「薄肉」となっているから、どの部分がどの部分に比べて薄いのか理解が困難であるので、「上記他方の辺を一方の辺より薄肉とした」点は新規事項である旨、主張するが、上記「他方の辺を一方の辺より薄肉とした」における「肉」の厚さと薄さの意義は、上記当初明細書等の段落【0015】に「上記物品取付具4をその他方の薄肉辺6bの傾斜部分8を当て押し込むと上記他方の薄肉辺6bが上記一方の辺6aから離間する方向に撓み、」と記載され、上記特許明細書等の段落【0014】に「上記ルーバー12の面を手動によって斜め上方に傾ければ相対的に物品取付具4の上記辺6bが上記辺6aから離間する方向に撓むようになるから」と記載されている「撓む」ことをもたらす、上記辺6bと上記辺6aの「肉」の厚さと薄さについてのものであることが明らかであるから、そのような意味での厚さと薄さに実質的に関与しないフック部の先端の先細り部の厚さを問題とする必要はない。
したがって、上記「上記他方の辺を一方の辺より薄肉とした」補正は、願書に最初に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内においてされたものであるから、本件特許発明1乃至3に係る特許は、特許法第17条第2項に規定する要件を満たさない特許出願に対してされたものであるとすることはできない。
(4-3)上記(3-2-3)の理由3について
審判請求人が、物品取付具4をルーバー12から取り外すことが不可能と主張する根拠は、図8及び図9に示される実施例について、図面に示された物品取付具の各部位の位置的あるいは寸法的限定を前提にしてのものであるが、当業者においては、上記特許明細書等の段落【0014】から特許請求の範囲の請求項1乃至3に記載の物品取付具の取り外し方の概略及び要点は把握できるものといえるから、たとえ、図8及び図9に多少の不備があり、図面のとおりの物品取付具の各部位の位置的あるいは寸法的限定では、取り外すことが困難と考えられる場合でも、当業者が段落【0014】で把握した取り外し方の概略及び要点に基づき、該請求項1乃至3に記載された物品取付具の構成中、物品取付具を構成する各部位の位置的あるいは寸法的条件を当業者が適宜、設定し直すことによって取り外すことができる条件を見出すことは容易といえるから、本件特許明細書及び図面には、当業者が容易にその実施をすることができる程度に、その発明の構成等が記載されているものといえる。
したがって、本件特許発明1乃至3に係る特許は、特許法第36条第4項に規定する要件を満たさない特許出願に対してされたものとすることはできない。
(4-4)上記(3-2-4)の理由4について
(4-4-1)a.について
本件特許明細書の特許請求の範囲請求項1には、フック部については、「一方の辺の遊端に形成されエアコン吹き出し口のルーバー後縁を包着可能としたフック部」と先ず該「フック部」について規定する記載があり、この記載を受けて、該「フック部」をもって先端湾曲部を規定するために、「フック部における先端湾曲部」との記載が続いている。このことからみると、「フック部」に関しては、計2箇所で記載があるが、それは、上記請求項1に係る物品取付具を規定するために必要な記載であって、審判請求人が主張するような「記載が必要以上に冗長しているものである。」ということには当たらない。
そして、該フック部に関する物品取付具の規定による構成により、上記特許明細書等に記載の「ルーバーに押し込むことにより簡単にルーバーに取付けでき」(段落【0015】)るという作用効果を達成するものであるから、本件特許の特許請求の範囲の構成は、その作用効果を達成するに必要な程度の具体性をもって記載されているものと認められる。
(4-4-2)b.について
本件特許明細書の請求項1には、「上記一方の辺のフック部における先端湾曲部と上記他方の辺の先端間に形成され前記他方の辺が前記一方の辺から離間する方向に撓んでルーバーを受け入れるエアコン吹き出し口のルーバー挿入口」との記載及び「他方の辺を一方の辺より薄肉としたこと」との記載があり、それによって、「物品取付具」の「一方の辺」と「他方の辺」についての構成が規定されている。そして、審判請求人が本件特許発明を特定するために必要な構成として主張する「他方の辺6bのみが撓む」点は、他方の辺を一方の辺より薄肉とすることにより、他方の辺が一方の辺から離間する方向に撓むことが技術常識であることを参酌すれば、上記特許明細書等からみて本件特許の目的、作用効果を奏するに際し、他方の辺6bのみが撓み、一方の辺は全く撓まないことまで要求されているものとはいえないと考えることが妥当といえるから、本件特許発明を特定するために必要とはいえない。
そして、上記のように規定された構成により、上記(4-4-2)a.で説示したと同様に、上記特許明細書等に記載の作用効果を達成するものであるから、本件特許の特許請求の範囲の構成は、その作用効果を達成するに必要な程度の具体性をもって記載されているものと認められる。
(4-4-3)まとめ
したがって、本件特許発明1乃至3に係る特許は、特許法第36条第5項第2号に規定する要件を満たさない特許出願に対してされたものとすることはできない。
6.むすび
以上のことから、本件特許発明1乃至3の特許は、上記無効理由及び証拠によっては取り消すことはできない。
また、他に本件特許発明1乃至3の特許を取り消すべき理由を発見しない。
審判に関する費用については、特許法第169条第2項の規定で準用する民事訴訟法第61条の規定により、請求人が負担すべきものとする。
よって、結論のとおり審決する。
 
審決日 2004-10-15 
出願番号 特願平6-257282
審決分類 P 1 112・ 121- Y (B60N)
P 1 112・ 534- Y (B60N)
P 1 112・ 55- Y (B60N)
P 1 112・ 531- Y (B60N)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 中田 誠二郎  
特許庁審判長 増山 剛
特許庁審判官 田中 秀夫
岡田 孝博
登録日 2002-11-22 
登録番号 特許第3371345号(P3371345)
発明の名称 エアコン吹き出し口のルーバーに対する物品取付具  
代理人 井澤 幹  
代理人 井沢 洵  
代理人 大久保 操  
代理人 村上 友一  

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