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審決分類 審判 査定不服 4項1号請求項の削除 特許、登録しない。 E02D
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 E02D
審判 査定不服 4項4号特許請求の範囲における明りょうでない記載の釈明 特許、登録しない。 E02D
審判 査定不服 4号2号請求項の限定的減縮 特許、登録しない。 E02D
審判 査定不服 (159条1項、163条1項、174条1項で準用) 特許、登録しない。 E02D
審判 査定不服 4項3号特許請求の範囲における誤記の訂正 特許、登録しない。 E02D
管理番号 1112790
審判番号 不服2004-9805  
総通号数 64 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2000-07-18 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2004-04-08 
確定日 2005-03-07 
事件の表示 平成10年特許願第378363号「既存既製杭撤去兼砂杭造成装置と該装置の使用方法」拒絶査定不服審判事件〔平成12年7月18日出願公開、特開2000-199226〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成10年12月28日に出願された特願平10-378363号の特許出願であって、平成15年6月5日付の原審における拒絶理由通知に対して平成15年7月16日付で意見書が提出され、平成16年2月26日付で拒絶査定がなされたところ、前記拒絶査定を不服として、平成16年4月8日に拒絶査定に対する審判が請求されるとともに、平成16年4月15日付で手続補正書が提出されて明細書についての補正がなされたものである。

第2 平成16年4月15日付の手続補正についての補正の却下の決定

[補正の却下の決定の結論]
平成16年4月15日付の手続補正を却下する。

[理由]
1.補正の適否の検討
上記本件補正は、前記拒絶査定に対する審判の請求の日から30日以内になされた補正であるから、特許法第17条の2第1項第3号に該当する補正であることは明らかである。
そこで、平成16年4月15日付の手続補正による前記補正が、特許法第17条の2第3項ないし第5項に規定する要件を満たしているか否かについて、次に検討する。

2.補正の内容
平成16年4月15日付の手続補正は、出願当初の明細書の
「【特許請求の範囲】
【請求項1】 ケーシングの回転とケーシング先端からの圧力水噴射とでケーシングの貫入・引き抜きを容易にするようにした砂杭造成装置におけるケーシングの上端を開口し、この開口に開閉自在の蓋を設けるとともに、上方から吊り下げた既存既製杭引き抜き用のワイヤが前記開口を通ってケーシングに出入できるようにしたことを特徴とする既存既製杭撤去兼砂杭造成装置。
【請求項2】 撤去する既存既製杭の上方に同心状に位置させたケーシング内に既存既製杭引き抜き用のワイヤを降ろし、ケーシングの下端から出た前記ワイヤの先端を既存既製杭の上端に結着した後、ケーシングをその内部に既存既製杭が納まる深度まで地中に貫入し、次いで、前記ワイヤを巻き上げ、既存既製杭を引き抜いて撤去し、それから、ケーシングを引き抜き、かつ、その跡にケーシングを通して土砂を密に充填することを特徴とする請求項1記載の既存既製杭撤去兼砂杭造成装置の使用方法。」
の記載を、
「【特許請求の範囲】
【請求項1】 撤去する既存既成杭の上方に同心状に位置させた無振動・無騒音式の砂杭造成装置のケーシング内に、該ケーシングの上端に設けた開閉蓋付きの開口を通して、前記砂杭造成装置のリーダーの上端から吊り下げた既存既成杭引き抜き用のワイヤを降ろし、ケーシングの下端から出た前記ワイヤの先端を既存既成杭の上端に結着した後、ケーシングをその内部に既存既成杭が納まる深度まで貫入し、次いで、前記ワイヤを巻き上げ、既存既成杭を引き抜いて撤去し、それから、ケーシングの上端の開口を閉じ、ケーシング内に圧気を供給するようにしながら、ケーシングを引き抜き、かつ、その跡にケーシングを通して土砂を密に充填することを特徴とする砂杭造成装置を用いて既存既成抗を撤去する方法。」
と補正する(以下、この補正を「本件補正」ということがある。)ことを含むものである。

3.補正の目的の適否について
先ず、本件補正のうちの、補正前の特許請求の範囲から請求項1を削除する補正は、特許法第17条の2第4項第1号の「請求項の削除」を目的とするものに該当する。
また、本件補正のうちの、「既存既製杭」を「既存既成杭」とする補正は、特許法第17条の2第4項第3号の「誤記の訂正」を目的とするものに該当する。
しかしながら、本件補正のうちの、補正前の請求項2の「砂杭造成装置」を「無振動・無騒音式の砂杭造成装置」と限定する補正後の請求項1における補正は、出願当初の明細書の発明の詳細な説明の段落【0008】に「図示の装置は、従来の砂杭造成装置と同様の機能を備えており、すなわち、ケーシング内に圧気を供給する装置等も当然に備えており、通常は、これを用いて特開平8-284146号公報に開示されている無振動・無騒音式締め固め砂杭造成工法を実施することができる。」と記載されている事項の範囲内でする補正であるから、新規事項の追加には該当しないところ、しかるに、本件補正のうちの、補正前の請求項1を引用することにより限定して表記していた補正前の請求項2中の「砂杭造成装置」の記載を、補正後の請求項1において単に「無振動・無騒音式の砂杭造成装置」とする補正は、補正前の請求項1に「ケーシングの回転とケーシング先端からの圧力水噴射とでケーシングの貫入・引き抜きを容易にするようにした砂杭造成装置」と記載されていることにより限定されていた「砂杭造成装置」の概念が、本件補正においては、「ケーシングの回転とケーシング先端からの圧力水噴射とでケーシングの貫入・引き抜きを容易にするようにした」の限定が外され、その代わりに「無振動・無騒音式の砂杭造成装置」と補正されたことにより、「『ケーシングの回転』及び『ケーシング先端からの圧力水噴射』の2つの手段からなるケーシングの貫入・引き抜きを容易にするようにした砂杭造成装置」が、前記段落【0008】に記載されているところの、単に「無振動・無騒音式とするための手段としての『ケーシング内に圧気を供給する装置』を備えた砂杭造成装置」をも包含する、より広い概念の「砂杭造成装置」に補正されることとなった。
そうすると、本件補正における「砂杭造成装置」の概念を拡張する前記補正は、「請求項の削除」、「特許請求の範囲の減縮」、「誤記の訂正」又は「明りようでない記載の釈明」の事項を目的とする補正の何れにも該当しないから、当該補正は、特許法第17条の2第4項第1号ないし第4号に掲げる事項を目的とするものに該当するということができない。
さらに、本件補正における、補正前の請求項2の「既存既製杭撤去兼砂杭造成装置の使用方法」の発明を、補正後の請求項1の「砂杭造成装置を用いて既存既成抗を撤去する方法」の発明に変更する補正は、補正前の請求項2の発明においては「装置」が方法の発明の客体(対象)であったのに対して、補正後の請求項1の発明においては「既存既成抗」が方法の発明の客体(対象)に変更されているのであり、このように方法の発明の客体(対象)を変更する本件補正における前記補正は、「請求項の削除」、「特許請求の範囲の減縮」、「誤記の訂正」又は「明りようでない記載の釈明」の事項を目的とする補正の何れにも該当しないことは明らかであるから、当該補正は、特許法第17条の2第4項第1号ないし第4号に掲げる事項を目的とするものに該当するということができない。

4.むすび
以上のとおりであり、本件補正は、少なくとも特許法第17条の2第4項第1号ないし第4号に掲げる事項を目的とする補正に該当しない補正を含んでいるので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

第3 本願発明について
1.本願発明
平成16年4月15日付の手続補正は上記のとおり却下されたので、当審が審理すべき本願発明は、出願当初の明細書の特許請求の範囲の請求項1ないし請求項2に記載された事項により特定されるとおりのものであり、このうちの請求項1に係る発明は、次のとおりのもの(以下、これを「本願発明1」という。)である。
「【請求項1】 ケーシングの回転とケーシング先端からの圧力水噴射とでケーシングの貫入・引き抜きを容易にするようにした砂杭造成装置におけるケーシングの上端を開口し、この開口に開閉自在の蓋を設けるとともに、上方から吊り下げた既存既製杭引き抜き用のワイヤが前記開口を通ってケーシングに出入できるようにしたことを特徴とする既存既製杭撤去兼砂杭造成装置。」

2.引用刊行物及び該引用刊行物の記載事項
(1)原審における拒絶査定の理由に引用された本願の特許出願前に頒布された刊行物である特開昭62-121231号公報(以下、「引用刊行物1」という。)には、「地中杭の引抜工法」に関し、次の事項が記載されている。
「2.特許請求の範囲
1 地中に埋設された杭の外径より内径の大きいケーシングパイプに振動を付与すると共にウオータージェットカッター等により前記杭の先端に向け水を圧送しながら該ケーシングパイプを前記杭を中心にして地盤に打込み、該ケーシングパイプの先端が前記杭の先端に達したところで、再び該ケーシングパイプに振動を付与すると共に杭の先端付近に水または空気を噴出させながら、クレーン等により前記杭を引抜くことを特徴とする地中杭の引抜工法。」(1頁左欄4行〜14行)
「〔産業上の利用分野〕本発明は地中に埋設された杭を引抜く方法に関するものである。」(1頁左欄16行〜18行)
「〔問題点を解決するための手段〕本発明は上述のような従来技術の問題点を解決することを目的としてなされたもので、その構成は、地中に埋設された杭の外径より内径の大きいケーシングパイプに振動を付与すると共にウオータージェットカッター等により前記杭の先端に向け水を圧送しながら該ケーシングパイプを前記杭を中心にして地盤に打込み、該ケーシングパイプの先端が前記杭の先端に達したところで、再び該ケーシングパイプに振動を付与すると共に杭の先端付近に水または空気を噴出させながら、クレーン等により前記杭を引抜くことを特徴とするものである。」(2頁左上欄14行〜同頁右上欄6行)
「〔作用〕即ち、本発明は振動杭打機とウオータージェットカッターを併用することにより、ケーシングパイプの打込みを容易にすると共に騒音を少なくし、且つ地盤を軟化させて、クレーン等により容易に地中に埋設されている杭を引抜こうとする工法であって、杭を引抜くと共にケーシングパイプにより前記杭の引抜きにより生じる杭穴の崩壊を防ぎ、杭穴に土砂等の地盤改良材を投入して該穴を埋戻すことにより地盤の改良を図ることができるようにしたのである。」(2頁右上欄7行〜17行)
「〔実施例〕次に本発明工法の実施の一例を図に拠り説明する。
Gは引抜くべき杭1を埋設した地盤、2は前記杭1の外径より内径の大きいケーシングパイプ、3は該ケーシングパイプ2の上端部にその下部を取付け、上部をクレーンフック4に掛吊した振動杭打機、5はウオータージェットカッターの本体、6はケーシングパイプ2に取付けた前記ウオータージェットカッターのノズル管で、ケーシングパイプ2を前記杭1を中心にして地盤G上に配し、前記振動杭打機3を駆動してケーシングパイプ2に振動を与えながら該パイプ2を地盤Gに打込むと共に、ウオータージェットカッターを駆動してそのノズル管6のノズルから杭1の先端に向け水を圧送し、前記ケーシングパイプ2の先端が前記杭1の先端付近に達したところで、振動杭打機3を一旦ケーシングパイプ2から取外してそれを該パイプ2の上端部周壁に取付け、杭1の上端部に杭引抜用のワイヤ7を取付けると共に該ワイヤ7をクレーンフック8に掛吊し、振動杭打機3によりケーシングパイプ2に振動を与えると共に前記ノズル管6のノズルから水を噴出させながら、クレーンフック8の装備されたクレーンを駆動してにより杭1を引抜くのである。
尚、杭1の引抜時にノズル管6から水を噴出させるのは、杭1の引抜きにより該杭1の先端付近に生じるバキューム現象を打消すためで、水に代え、空気を噴出させるようにしてもよい。
上記のようにして杭1を引抜いたら、その後に生じる穴を埋めるために、振動杭打機3によりケーシングパイプ2に振動を与えながら前記穴に地盤改良材9を投入し、それが終ったら、振動杭打機3をケーシングパイプ2の上端に取付け、該振動杭打機3によりケーシングパイプ2に振動を与えながら、クレーンフック4を装備したクレーンを駆動してケーシングパイプ2を引抜くのである。」(2頁右上欄18行〜同頁右下欄14行)
「〔発明の効果〕本発明は上述の通りであって、ケーシングパイプを地中に埋設された杭の回りに打込むのに、振動杭打機とウオータージェットカッターを併用するようにしたから、従来の工法に比して打込作業が容易に行なわれると共に騒音等の発生も比較的少なく、また杭の引抜時にもケーシングパイプに振動を与えながら水を噴射させるから、杭の先端付近にバキューム現象を生じさせるおそれなく杭を比較的容易に引抜くことができるし、更に、杭の引抜きにより生じる杭穴はケーシングパイプで保護されるので、地盤の崩壊を防ぐことができて安全性が高く、サンドパイル等による地盤の改良も容易に行なうことができる。」(2頁右下欄15行〜3頁左欄8行)
そして、引用刊行物1の第1図ないし第4図には、発明の詳細な説明に記載された本発明の地中杭の引抜方法についての説明を裏付ける図面が図示されており、特に、第2図には、ケーシングパイプ2上端部に取付けられた振動杭打機3及びケーシングパイプ2の先端に取付けられたノズル管6のノズルからの圧送噴出水により地中に打込まれたケーシングパイプ2によって周囲をとり囲まれ、前記ケーシングパイプ2の上端部の開口に臨んでいる地中杭1の頭部を、ケーシングパイプ2の上端部の開口の上方から掛吊したクレーンフック8にワイヤ7を結着して引抜く作業の工程が図示されている。
そうすると、上記引用刊行物1における前記摘記事項及び添付図面における記載からみて、引用刊行物1には、次の発明(以下、これを「引用発明1」という。)の記載が認められる。
「ケーシングパイプ2を地中杭1を中心にして地盤G上に配し、振動杭打機3を駆動してケーシングパイプ2に振動を与えながら該ケーシングパイプ2を地盤Gに打込むと共に、ウオータージェットカッターを駆動してそのノズル管6のノズルから地中杭1の先端に向け水を圧送し、前記ケーシングパイプ2の先端が前記地中杭1の先端付近に達したところで、振動杭打機3を一旦ケーシングパイプ2から外してそれを該パイプ2の上端部周壁に取付け、地中杭1の上端部に地中杭引抜用のワイヤ7を取付けると共に、該ワイヤ7をクレーンフック8に掛吊し、振動杭打機3によりケーシングパイプ2に振動を与えると共に前記ノズル管6のノズルから水を噴出させながら、クレーンフック8の装備されたクレーンにより地中杭1を引抜き、地中杭1を引抜いたら、その後に生じる杭穴を埋めるために、振動杭打機3によりケーシングパイプ2に振動を与えながら前記杭穴に地盤改良材9を投入し、それが終わったら、振動杭打機3をケーシングパイプ2の上端に取付け、該振動杭打機3によりケーシングパイプ2に振動を与えながら、クレーンフック4を装備したクレーンを駆動してケーシングパイプ2を引き抜くようにした地中杭1の引抜工法に用いるための地中杭引抜装置であって、
ケーシングパイプ2の振動とケーシングパイプ2先端からのウオータージェットカッターのノズル管6のノズルからの圧送噴出水とでケーシングパイプ2の打込み・引抜きを容易にするようにした地中杭引抜装置におけるケーシングパイプ2の上端部が開口されており、この開口の上方から掛吊した地中杭1の引抜き用のワイヤ7がケーシングパイプ2の上端部の前記開口を通ってケーシングパイプ2に出入できるようになっていて、地中杭の引抜き後の杭穴に地盤改良材9を投入してサンドパイルを造成する地中杭引抜装置」

(2)原審における拒絶査定の理由に周知技術文献として引用された本願の特許出願前に頒布された刊行物である特開平8-284146号公報(以下、「引用刊行物2」という。)には、「無振動・無騒音式締め固め砂杭造成工法」に関し、図面の図示とともに次の事項が記載されている。
「【特許請求の範囲】
【請求項1】 ケーシングを支持用のリーダーに沿って地中の所定深度まで貫入した後、ケーシングを適宜長引き抜く工程とケーシングを再貫入する工程とを順次、地表に至るまで繰り返して、軟弱地盤に締め固め砂抗を造成する際に、外周面に螺旋羽根が付けられていないケーシングを用い、該ケーシングを回動させて地盤との摩擦を切りながら、貫入時と引き抜き時にリーダーからの反力が得られるケーシング昇降装置でケーシングの貫入と引き抜きを行うことを特徴とする無振動・無騒音式締め固め砂杭造成工法。」
「【0010】 ケーシング3の上端はスイーベル機構けき[当審注:「付き」の誤記と認める。]のケーシング回動装置4を介して非回動部5に回動自在に接続され、非回動部5には砂洪給用のホッパー6とケーシング昇降装置7のケーシング側機構部8が設けられている。」
「【0013】 締め固め砂杭造成作業は、ケーシング3を地中の所定深度まで貫入した後、ケーシング3を適宜長引き抜く工程と、ケーシング3を再貫入する工程とを、順次地表に至るまで繰り返し、この間、引き抜き工程でケーシング3内の砂を排出し、再貫入工程でこの砂に圧縮力を加える、という態様でなされるが、ケーシング3の貫入時(初期貫入時および再貫入時)と引き抜き時には、ケーシング3の外周面と地盤との摩擦を切ってケーシング3の貫入と引き抜きを容易にするために、ケーシング3を回動させる。」
「【0014】 ケーシング3の先端に掘削ビットを取り付けない場合と、取り付けてもこれに方向性がない場合(図示の掘削ビット9は棒状で方向性がない)は、ケーシング3の貫入時と引き抜き時の回動方向は任意であり、往復回動でもよいが、方向性がある掘削ビットを取り付ける場合は、少なくともケーシング3の初期貫入時の回動は正転方向(掘削ビットが掘削機能を発揮する方向)にする。」

3.対比及び一致点・相違点
ここで、本願発明1と前記引用発明1とを対比すると、引用発明1における「ケーシングパイプ2」「ケーシングパイプ2先端からのウオータージェットカッターのノズル管6のノズルからの圧送噴出水」「ケーシングパイプ2の打込みと引抜き」「地中杭1」「ケーシングパイプ2の上端部の開口」「地中杭1の引抜き用のワイヤ7」が、本願発明1の「ケーシング」「ケーシング先端からの圧力水噴射」「ケーシングの貫入・引き抜き」「既存既製杭」「ケーシングの上端の開口」「既存既製杭引き抜き用のワイヤ」にそれぞれ対応するから、引用発明1における「ケーシングパイプ2の上端が開口されており、この開口の上方から掛吊した地中杭1の引抜き用のワイヤ7がケーシングパイプ2の上端の前記開口を通ってケーシングパイプ2に出入できるようになっていて、」が、本願発明1の「ケーシングの上端を開口し、上方から吊り下げた既存既製杭引き抜き用のワイヤが前記開口を通ってケーシングに出入できるようにした」に対応する。
また、引用発明1の「地中杭の引抜き後の杭穴に地盤改良材9を投入してサンドパイルを造成する地中杭引抜装置」と、本願発明1の「既存既製杭撤去兼砂杭造成装置」とは、共に「既存既製杭撤去作業と砂杭造成作業とが施工可能な装置」である点で、両者は共通している。
してみると、本願発明1と引用発明1との両者は、「ケーシング先端からの圧力水噴射でケーシングの貫入・引き抜きを容易にするようにした既存既製杭撤去作業と砂杭造成作業とが施工可能な装置におけるケーシングの上端を開口し、上方から吊り下げた既存既製杭引き抜き用のワイヤが前記開口を通ってケーシングに出入できるようにした既存既製杭撤去作業と砂杭造成作業とが施工可能な装置」である点で、両者の構成が一致し、次の点で相違する。
相違点1:本願発明1が「ケーシングの回転」によりケーシングの貫入・引き抜きを容易にするようにしたものであるのに対し、引用発明1は、振動による点。
相違点2:本願発明1が「ケーシングの上端の開口に開閉自在の蓋を設ける」のに対し、引用発明1は、ケーシングの上端の開口に、開閉自在の蓋が設けられているかが不明である点。
相違点3:本願発明1の既存既製杭撤去兼砂杭造成装置が、「既存既製杭撤去装置」であって、かつ、それが「砂杭造成装置」を兼ねているのに対し、引用発明1の地中杭の引抜き後の杭穴に地盤改良材9を投入してサンドパイルを造成する地中杭引抜装置は、地中杭引抜き作業に引き続きサンドパイル造成作業を連続して施工可能な装置であるが、サンドパイル造成専用の作業用途の「砂杭造成装置」を兼ねているか否かが不明である点。

4.相違点についての判断
(1)相違点1についての検討
「ケーシングの回転によりケーシングの貫入・引き抜きを容易にする」技術は、原審における拒絶査定の理由に周知技術文献として引用された前記引用刊行物2の段落【0013】に「ケーシング3の貫入時(初期貫入時および再貫入時)と引き抜き時には、ケーシング3の外周面と地盤との摩擦を切ってケーシング3の貫入と引き抜きを容易にするために、ケーシング3を回動させる。」と記載され、また、実願平3-7711号(実開平6-8440号)のCD-ROMにも「【0006】……さらにケーシング本体1の頂部には、ケーシング本体1に回転力と推進力を伝える公知の推進機に連結するための角柱状の継手4が突設してある。……」及び「【0007】……そして、ケーシング本体1の既設杭9の上部に被せ、ケーシング本体1に回転を与え、同時に流体の供給を開始して既設杭1の周囲の地盤を掘削する。……」と記載されているように、本願の特許出願時の周知技術である。
そうすると、引用発明1に前記周知技術を適用することにより、本願発明1の上記相違点1に係る構成を得ることは、当業者が困難性を要せずに容易になし得ることである。

(2)相違点2についての検討
「ケーシングの上端の開口に開閉自在の蓋を設ける」ことは、本願の特許出願時の周知技術(周知例として、実公昭56-15242号公報の「砂ぐい打設用ホッパ装置」の考案に係る「ケーシング内を気密にする開閉自在な蓋15」の記載、及び特開昭63-272813号公報の「パックドレーン工法」の発明に係る「各ケーシングパイプ3の上端部に開閉自在に取付けられた上蓋14」の記載を参照)である。
そうすると、引用発明1に前記周知技術を適用することにより、本願発明1の上記相違点2に係る構成を得ることは、当業者が困難性を要せずに容易になし得ることである。

(3)相違点3についての検討
引用刊行物1の3頁左上欄7行〜8行に「サンドパイル等による地盤の改良も容易に行なうことができる。」と記載されているとおり、引用発明1の「地中杭の引抜き後の杭穴に地盤改良材9を投入してサンドパイルを造成する地中杭引抜装置」は、サンドパイル等による地盤の改良の作業ができることは明らかであるが、引用発明1の前記地中杭引抜装置を、サンドパイル等による地盤の改良の作業のためだけに、地中杭引抜作業とは切り離して、サンドパイル造成のための「砂杭造成装置」の用途に単独で使用できるようにもしておくことは、当業者が困難性を要せずに容易に変更できることである。

そして、本願発明1の奏する作用・効果は、上記引用発明1及び周知技術から予測できる範囲のものであって、格別顕著のものということができない。

(4)まとめ
したがって、本願発明1は、上記引用発明1及び周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。

5.むすび
以上のとおり、本願発明1は、上記引用刊行物1及び周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであり、本願発明1は特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、本願の他の請求項に係る発明を検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2004-12-22 
結審通知日 2005-01-04 
審決日 2005-01-17 
出願番号 特願平10-378363
審決分類 P 1 8・ 571- Z (E02D)
P 1 8・ 574- Z (E02D)
P 1 8・ 121- Z (E02D)
P 1 8・ 56- Z (E02D)
P 1 8・ 572- Z (E02D)
P 1 8・ 573- Z (E02D)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 田畑 覚士吉村 和彦山田 昭次  
特許庁審判長 木原 裕
特許庁審判官 ▲高▼橋 祐介
佐藤 昭喜
発明の名称 既存既製杭撤去兼砂杭造成装置と該装置の使用方法  
代理人 染谷 廣司  

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