• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 全部申し立て 5項1、2号及び6項 請求の範囲の記載不備  C08F
審判 全部申し立て 特36 条4項詳細な説明の記載不備  C08F
管理番号 1112917
異議申立番号 異議2003-72440  
総通号数 64 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 1996-12-03 
種別 異議の決定 
異議申立日 2003-10-03 
確定日 2004-12-22 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第3393631号「エチレン系重合体」の請求項1ないし4に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 訂正を認める。 特許第3393631号の請求項1ないし2に係る特許を取り消す。 
理由 1.手続の経緯
特許第3393631号の請求項1〜4に係る発明についての出願は、平成7年5月26日に特許出願され、平成15年1月31日に特許権の設定登録がなされ、その後三井化学株式会社より特許異議の申立てがなされ、取消しの理由が通知され、その指定期間内である平成16年7月12日に特許異議意見書の提出と訂正請求がなされ、更に平成16年9月1日付けで上申書が提出されたものである。
2.訂正の適否についての判断
(1)訂正の内容
a.訂正事項a
訂正前の請求項1を削除し、請求項4を請求項1と訂正して、その記載を独立形式に書き直し、かつ(イ)のポリエチレン換算の重量平均分子量(Mw)「3,000〜1,000,000」の記載を「3,000〜700,000」と訂正し、(ハ)溶融流動の活性化エネルギー(ΔEa)「31〜84kJ/モル」の記載を「31〜75kJ/モル」と訂正し、(ニ)の「DR≧0.09×(Mw/Mn)+1.20」の記載を「2.5≧DR≧0.09×(Mw/Mn)+1.26」と訂正する。
b.訂正事項b
訂正前の請求項2を削除し、これに伴い訂正前の請求項3を請求項2と訂正する。
(2)訂正の目的、訂正の範囲の適否及び拡張・変更の存否
上記訂正事項aは、要件(イ)、(ハ)、(ニ)の数値範囲を狭める訂正であり、その内容は明細書の段落【0010】の17〜19行、段落【0011】の7〜9行、段落【0011】の25行にそれぞれ記載されているから、特許請求の範囲の減縮を目的とした明細書の訂正に該当し、また、上記訂正事項bは、請求項の削除に伴い番号を繰り上げるものなので、明りょうでない記載の釈明を目的とした明細書の訂正に該当し、いずれも願書に添付した明細書に記載した事項の範囲内の訂正であり、実質上特許請求の範囲を拡張又は変更するものではない。
(3)むすび
したがって、上記訂正は、特許法等の一部を改正する法律(平成6年法律第116号)附則第6条第1項の規定によりなお従前の例によるとされる、特許法第120条の4第3項で準用する平成6年法律第116号による改正前の特許法第126条第1項ただし書、第2項及び第3項の規定に適合するので、当該訂正を認める。
3.特許異議申立についての判断
(1)本件発明
上記2.で示したように上記訂正が認められるから、本件の請求項1及び2に係る発明(以下、「本件発明1」及び「本件発明2」という)は、上記訂正に係る訂正明細書の特許請求の範囲の請求項1及び請求項2に記載された事項により特定される以下のとおりのものである。
本件発明1
「エチレンの単独重合体又はエチレンと他のエチレン性不飽和結合を有する単量体の少なくとも一種との共重合体において、(イ)ゲルパーミエーションクロマトグラフィー法(GPC法)によって測定したポリエチレン換算の重量平均分子量(Mw)が3,000〜700,000の範囲にあること、(イ-1)該重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)との比Mw/Mnが1.5〜4の範囲にあること、(ロ)樹脂密度(d)が850〜970kg/m3の範囲にあること、(ハ)溶融流動の活性化エネルギー(ΔEa)が31〜75kJ/モルの範囲にあること、及び(ニ)GPC法によって測定したポリエチレン換算の重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)との比Mw/Mnと、ダイスウェル比(DR)との関係が、式2.5≧DR≧0.09×(Mw/Mn)+1.26を満たすことを特徴とするエチレン系重合体。」
本件発明2
「エチレン性不飽和結合を有する単量体が、炭素数3〜20のα-オレフィン類、スチレン類、環状オレフィン類及びジオレフィン類の中から選ばれた少なくとも一種である請求項1記載のエチレン系重合体。」
(2)取消し理由の内容
当審が平成16年4月28日付けで通知した取消理由2は、以下のとおりである。
取消理由2
1)本件に係る平成14年10月15日付意見書、本件に係る平成14年7月23日起案拒絶理由通知書および関係図(それぞれ特許異議申立の甲第3〜5号証)を参酌すれば、訂正前の本件明細書には特許異議申立書9頁8行〜14頁末行に記載されているとおりの不備があり、本件請求項1〜4に係る特許は特許法第36条第4項に規定する要件を満足しない出願に対してなされたものである。
2)訂正前の本件請求項1〜4に係る発明は重量平均分子量、樹脂密度、溶融流動の活性化エネルギー、Mw/Mnとダイスウェル比との関係式、引張衝撃強度とダイスウェル比との関係式で規定されるエチレン系重合体に関するものである。
上記の規定の内容を検討すると、重合体としてはエチレン単独重合体も含むものであり、その重量平均分子量も100万程度まで、すなわち超高分子量ポリエチレン領域までも包含するものとなっている。これらの領域のエチレン重合体の成形加工性が実施例1,2で示されている重量平均分子量10万程度の成形加工性とは大きく異なることは良く知られていることであるが、それらの態様についての具体的な説明は本件明細書に記載されていない。
また、溶融流動の活性化エネルギーについても類似のΔEa値のものが二例記載されているだけで、ΔEa値を増減させるための具体的な手段も記載されていない。
二つの関係式についても、下限を規定しただけの広い範囲に対して僅かに二例の実施例のみであり、それ以外の範囲について、例えば、Mw/Mnを固定したときにDRを増減するための手段、DRを固定したときにEimpを増減させるための手段も具体的には記載されておらず、上記実施例を補う内容は記載されていない。
結局、訂正前の本件明細書の記載は、出願時の技術常識を参考にしたとしても、どの条件をどのように変えれば本件請求項1〜4で規定される範囲を満たすものを製造できるかが当業者にとって不明であり、発明の詳細な説明、特に実施例に開示された内容を請求項1〜4に係る発明の範囲まで、拡張ないし一般化できるとはいえない。
したがって、訂正前の本件請求項1〜4に係る特許は、特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載されたものとはいえないので、特許法第36条第5項第1号及び第6項に規定する要件を満足しない出願に対してなされたものである。
3)訂正前の本件請求項1〜4に係る特許は上記ii)に示すとおりであるが、各規定について、その規定のみが範囲を外れた場合の影響を示す例が記載されておらず、各規定の有効性が確認できない。
また、請求項1の関係式においてDRとMw/Mnとが技術的にどのような関連を持ち互いに影響を及ぼすのかが本件明細書では説明されていない上に、甲第4号証の(b)では、Mw/Mnの値とは無関係にDR値を増減できる旨の特許権者の説明があり、請求項1記載の関係式の技術的意義がどのような点に存在するのかが不明である。
同様にEimpとDRとの関係でも、両者が技術的にどのような関連を持ち互いに影響を及ぼすのかが本件明細書では説明されていない上に、甲第4号証の(c)では、DRの値とは無関係にEimpの値を増減できる旨の特許権者の説明があり、請求項2の関係式の技術的意義がどのような点に存在するのかが不明である。
結局、二つの関係式も含め各規定は、その技術的な意義が不明であり、発明の構成が明瞭に記載されていない。
したがって、訂正前の本件請求項1〜4に係る特許は、特許法第36条第4項に規定する要件を満足しない出願に対してなされたものである。
(3)特許異議意見書の概略
1)について
明細書においては、本件発明の要件(イ)〜(ニ)の全てを満たすための具体的手段が記載されていれば十分であり、本件明細書には、課題を解決するための手段として、重合体の組成、触媒の組成、重合方法などが詳細に記載され、実施例も示されており当業者が本件発明を実施することは困難なことではない。
また、ΔEa増減手段としての、1)触媒及びその量の選択、2)第2のコモノマー及びその量の選択、3)メチルアルミノキサンを水と反応させた助触媒における水の量の選択、及びDR増減手段としての上記1)と3)はいずれも本件明細書に記載された手段であり、実施例1,2及び比較例1,2などの比較から容易に理解される。
なお、明細書に多数の例示があるとしても、本件発明を実現するための指針が、明細書に記載されており、その具体的化合物、方法等も記載されている以上、これらを適宜組み合わせて、本件発明をなし遂げることは、当業者であれば通常行う試行の範囲である。
2)について
イ)重量平均分子量の上限について
重量平均分子量を3,000〜700,000と訂正し、その上限付近の領域のエチレン系重合体について、比較実験を行い実験証明書の形で提出する予定である。
ロ)ΔEa値の増減手段について
甲第3号証でΔEa値32のエチレン系重合体の例を示すと共に、実施例の値よりも更に高い値にあるエチレン系重合体についても実験成績証明書にその結果を示すことにより、ΔEa値の増減方法は明確になった。
以上より、本件明細書の記載、あるいはこれに出願時の技術常識を参考にすれば、訂正後の本件本件請求項1,2で規定される範囲を満たすものを製造することは当業者であれば容易である。
3)について
1)各規定の有効性について
比較例2にΔEa及びDRが規定の範囲外になる例が示されており、DRとMw/Mnの関係式のみが規定の範囲を外れる例について実験成績証明書として提出する予定である。
2)請求項1の関係式におけるDRとMw/Mnとの関係について
同一組成のポリマーにおいては、ダイスウェル比(DR)はMw/Mnの値に相関して大きくなると考えられ、これらを独立に調整することは容易ではない。本件発明においては、狭い分子量分布を有するエチレン系重合体において、その狭い分子量分布に起因するすぐれた機械的物性を維持しつつ、望ましい成形加工性を得るべくDRの値を調整し、2.5以下、〔0.09×(Mw/Mn)+1.26〕以上の値を得るものであり、このために前述のようなDRを増減するための手段を用いたものである。この点は段落【0004】、【0011】、【0012】の記載、実施例の記載等から当業者であれば容易に理解できることである。
3)EimpとDRとの関係について
訂正前の請求項2を削除したことにより、この点での取消し理由は解消した。
(4)当審の判断
1)特許法第36条第4項違反について
i)要件(ハ)ΔEa値の範囲について
本件発明1〜2の構成要件(イ)〜(ニ)の内、要件(ハ)の「溶融流動の活性化エネルギー(ΔEa)が31〜75kJ/モルの範囲にあること」については、ΔEa値が高分子分野で一般的に使用される物性値ではなく、その値を達成する手段が技術常識とは認められないにもかかわらず、そのΔEa値を増減するための手段が明細書に記載されていない。
この点につき、特許権者はΔEa値を増減するための手段として、1)触媒及びその量の選択、2)第2のコモノマー及びその量の選択、3)助触媒における水の量の選択を挙げ、それらのことは実施例1,2及び比較例1,2などの比較から容易に理解できる旨主張している(特許異議意見書5頁11行〜7頁5行)。
しかし、実施例1と比較例1とはメチルアルミノキサンを水と反応させる点、エチレン分圧、反応時間が相違しており、実施例1と比較例2とはオクテン-1の量、メチルアルミノキサンの量、遷移金属触媒成分の種類及びその量、反応温度、水素添加の有無、エチレン分圧、反応時間が相違しており、実施例1と実施例2とは5-ビニルノルボルネン添加の有無で相違している。
以上から、実施例1と比較例1及び比較例2との比較では触媒、助触媒の相違だけでなく、種々の相違点があり、そこからΔEa値の増減について法則性を導き出すことは困難である。また、実施例1と実施例2の比較では、第2のコモノマーの添加によりΔEa値は変化しているものの、その差はわずかであり、又コモノマーの種類によってΔEa値がどのように変化するのかも推測できないし、選択対象となるコモノマーの種類は段落【0007】〜【0009】に多数のモノマーが記載されており、その中からどのような基準でモノマー種類や使用量を選択するのかも明細書では説明されておらず、それらの選択は当業者が通常行う試行錯誤の程度とは認められない。
結局、ΔEa値については、実施例に記載されたものは実施可能であるとしても、特許請求の範囲で規定されている範囲全体についてどのようにすれば実施できるかが不明であり、その点で本件明細書には当業者が本件発明1〜2を容易に実施できる程度に記載されていない記載不備があると言える。
また、特許権者は構成要件(イ)〜(ニ)の全ての要件を満たすための具体的手段が記載されていれば十分であり、各要件を個別に調整する手段が記載されていないことは明細書の記載不備にあたらない旨も主張する。
しかし、仮に、構成要件の全ての要件を満たすための手段が明細書に記載されているとしても、ΔEaの範囲が特許請求の範囲に規定されている以上、他の構成要件を満たすと同時に、その範囲内のΔEa値については当業者が容易に実施できる程度の記載が必要であることには変わりがなく、その点の記載がない本件明細書は記載不備があると言わざるを得ない。
ii)要件(ニ)式2.5≧DR≧0.09×(Mw/Mn)+1.26について
特許権者が主張するように、同一組成のポリマーにおいてはダイスウェル比(DR)はMw/Mnの値に相関して大きくなり、これらを独立に調整することは容易ではない(特許異議意見書9頁16行〜末行)のであれば、同一組成のポリマーを用いた場合にはダイスウェル比(DR)はMw/Mnの値により一義的に決まり、Mw/Mnの値を固定した場合はダイスウェル比(DR)を変化させることはできなくなり、この関係式を充足する範囲を実施するためにはポリマー組成を変化させることが必要になる。
しかし、ポリマー組成をどのように変化させればダイスウェル比(DR)とMw/Mnの関係式を充足する範囲での実施が可能かについて明細書には記載されておらず(係数の「0.09」や定数の「1.26」がポリマー組成からどのようにして導かれたかも記載されていない。)、実施例1,2及び比較例1,2をみても、ポリマー組成を変更した実施例1と実施例2とでのダイスウェル比(DR)の変化は少なく、助触媒又は触媒を変更した実施例1と比較例1,2との方がダイスウェル比(DR)の変化は大きい値となっている。
したがって、ポリマー組成をどのようにすればダイスウェル比(DR)とMw/Mnの関係を満たす範囲での実施が可能なのか明細書の記載からは明らかではなく、実施例のものは可能であるとしても、上記の範囲の中の実施例以外の部分をどのようにすれば達成できるかが、当業者に理解できる程度には明細書に記載されていない。
以上、本件明細書の発明の詳細な説明には、当業者が容易にその発明を実施できる程度に記載されておらず、特許法第36条第4項に規定する要件を満たしていない。
2)特許法第36条第5項違反について
上記1)のとおり、本件明細書の記載は、出願時の技術常識を参考にしたとしても、要件(ハ)のΔEa値の範囲及び要件(ニ)の式2.5≧DR≧0.09×(Mw/Mn)+1.26の範囲全体については当業者が容易に実施できる程度に発明の詳細な説明に記載されていないので、本件発明1〜2が発明の詳細な説明に記載されたものということはできない。
したがって、本件特許請求の範囲の請求項1の記載は、特許法第36条第5項第1号及び第6項に規定する要件を満たしておらず、請求項1を引用する請求項2の記載も同様である。
また、特許権者は、甲第3号証記載の実験や平成16年9月1日付け上申書記載の実験に基づく主張もするが、それらの実験は本件の出願後に実施されたものであり、その内容は技術常識を考慮しても当業者にとって自明な事項ではなく、本件明細書の記載に基づく主張とは言えないので、本件の明細書記載要件を判断する際に参酌することはできない。
なお、前記(3)特許異議意見書の概略に記載した提出予定とされている比較実験等の一部は提出されていない。
(5)むすび
以上のとおりであるから、本件発明1〜2に係る特許は特許法第36条第4項、第5項及び第6項に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであり、取り消されるべきものである。
したがって、特許法等の一部を改正する法律(平成6年法律第116号)附則第14条の規定に基づく、特許法等の一部を改正する法律の施行に伴う経過措置を定める政令(平成7年政令第205号)第4条第2項の規定により、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
エチレン系重合体
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
エチレンの単独重合体又はエチレンと他のエチレン性不飽和結合を有する単量体の少なくとも一種との共重合体において、(イ)ゲルパーミエーションクロマトグラフィー法(GPC法)によって測定したポリエチレン換算の重量平均分子量(Mw)が3,000〜700,000の範囲にあること、(イ-1)該重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)との比Mw/Mnが1.5〜4の範囲にあること、(ロ)樹脂密度(d)が850〜970kg/m3の範囲にあること、(ハ)溶融流動の活性化エネルギー(ΔEa)が31〜75kJ/モルの範囲にあること、及び(ニ)GPC法によって測定したポリエチレン換算の重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)との比Mw/Mnと、ダイスウエル比(DR)との関係が、式
2.5≧DR≧0.09×(Mw/Mn)+1.26
を満たすことを特徴とするエチレン系重合体。
【請求項2】
エチレン性不飽和結合を有する単量体が、炭素数3〜20のα-オレフィン類,スチレン類,環状オレフィン類及びジオレフィン類の中から選ばれた少なくとも一種である請求項1記載のエチレン系重合体。
【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】
本発明はエチレン系重合体に関し、さらに詳しくは、溶融流動性が高く、成形安定性(ダイスウエル比)に優れるとともに、良好な機械物性(引張衝撃強度など)を有するエチレンの単独重合体又は共重合体に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
従来、ポリエチレンやエチレン-α-オレフィン共重合体などのエチレン系重合体は、汎用樹脂として多くの分野において幅広く用いられている。しかしながら、このエチレン系重合体は、以下(1)〜(3)に示すような問題点を有している。すなわち、(1)線状低密度ポリエチレン(L-LDPE)及び高密度ポリエチレン(HDPE)は、溶融流動の活性化エネルギー(ΔEa)が小さく、低密度ポリエチレン(LDPE)と比較して樹脂流動性が低いために成形性に劣り、特に高分子量体の成形性が顕著に劣る。また、同様に溶融状態でのダイスウエル比が小さく、LDPEと比較して成形安定性に劣る。(2)LDPEは良好な成形加工特性を示すが、機械物性がL-LDPEやHDPEと比較して劣る。(3)近年、均一系メタロセン系触媒が開発され、このものはオレフィン間の共重合性に優れ、得られる重合体の分子量分布が狭く、かつ従来のバナジウム系触媒と比較して極めて高い触媒活性を示すことが明らかになってきた。しかし、一方でこのメタロセン系触媒で得られた重合体は、その分子量分布が狭いために、成形加工特性に問題が多く、ブロー成形,インフレーション成形,キャスト成形などの際には制限を免れない。
【0003】
このような問題を解決するために、長鎖分岐を導入したオレフィン系重合体が種々開示されている。例えば(1)α,ω-ジエン、環式エンドメチレン系ジエンを用いた長鎖分岐を有するオレフィン系共重合体(特開昭47-34981号公報)、(2)非共役ジエンとオレフィンとを共重合させる際、重合を2段階で行い、高分子量体部の非共役ジエン含有量が、低分子量体部のそれより多い共重合体の製造方法(特開昭59-56412号公報)、(3)メタロセン/アルミノキサン系触媒を用いた、エチレン/α-オレフィン/1,5-ヘキサジエン共重合体(特表平1-501555号公報)、(4)0価又は二価のニッケル化合物と特定のアミノビス(イミノ)化合物を触媒とし、α,ω-ジエンをエチレンと共重合することにより、長鎖分岐を導入する方法(特開平2-261809号公報)、(5)上記(4)と同一の触媒成分を用い、エチレンのみを重合することによって得られる短鎖分岐,長鎖分岐の双方を含むポリエチレン(特開平3-277610号公報)などが開示されている。しかしながら、上記(1)の共重合体においては、ジエン成分が長鎖分岐の形成に関与すると同時に、架橋反応を併発し、フィルム成形時にゲルが発生したり、また溶融特性が逆に低下し、制御範囲が極端に狭い上、共重合反応性も低く、低分子量体の生成に基づく物性低下などの問題がある。(2)の共重合体の製造方法においては、高分子量成分に長鎖分岐を導入するために、架橋による分子量の増大が著しく、不溶不融化やゲル化を併発するおそれがあり、制御範囲がせまい上、共重合反応性も低く、低分子量体の生成に基づく物性低下などの問題がある。また、(3)の共重合体においては、分子量分布が狭く、ブロー成形やフィルム成形などに対して不利である上、1,5-ヘキサジエンの環化反応の進行によって分岐点を形成するための有効モノマー濃度が低いなどの欠点がある。さらに、(4)の長鎖分岐を導入する方法はゲルの発生や物性の制御範囲がせまいなどの問題を有している。また、(5)のポリエチレンは、エチル分岐,ブチル分岐を全く含まない重合体であり、物性の制御、例えば密度の制御をメチル分岐で行うため、機械物性が低下しやすいなどの問題点を有している。
【0004】
また、共重合方法により加工特性を付与したエチレン系重合体の製造方法、例えば予備重合により高分子量体(〔η〕=10〜20デシリットル/g)を製造したのち、本重合によってエチレン/α-オレフィン共重合体を製造する方法が開示されている(特開平4-55410号公報など)。しかしながら、この方法においては、得られる共重合体の溶融特性を変化させ、溶融張力を増加させる効果を示すものの、フィルムゲルが発生しやすいという欠点がある。さらに、メタロセン系触媒を用いたエチレン系重合体やその製造方法、例えば(1)拘束幾何型触媒を用いてエチレン系重合体を製造する方法及びそれによって得られるエチレン系共重合体(特開平3-163088号公報、WO93/08221号公報)、(2)多孔質無機酸化物(アルミニウム化合物)を担体として用いた、担持メタロセン触媒によるポリオレフィンの製造方法(特開平4-100808号公報)、(3)特定のハフニウム系触媒によって、エチレンとα-オレフィンとから誘導される分子量分布が狭く、溶融流動特性を向上させたエチレン/α-オレフィン共重合体(特開平2-276807号公報)が開示されている。しかしながら、上記(1)の技術においては、得られるエチレン系共重合体が分子量分布及び組成分布共に狭いものであり、この両方を個別に制御することができない。さらに、このエチレン系共重合体には、長鎖分岐が存在し、加工特性、すなわち溶融流動特性に優れる旨の記載があるが、まだ不充分であり、他の重要な加工特性、とりわけ成形安定性(スウエル比、溶融張力など)に関する具体的な記述もない。また、上記(2)の製造方法においては、得られるエチレンとα-オレフィンとの共重合体はダイスウエル比が大きいとされているが、ここに開示されたエチレン/ブテン-1共重合体の融点に対するダイスウエル比の関係をみると、融点の上昇に伴い、ダイスウエル比が低下することは明らかである。したがって、フィルムやシート成形時に問題となるネックインに関係するダイスウエル比を融点範囲の広い領域で制御した共重合体を提供することはできない。一方、(3)に開示されているものは、α-オレフィン単位を必須単位として含む共重合体であり、さらに樹脂密度0.92g/cm3を超える共重合体は含まれていない。また(1)と同様に分子量分布及び組成分布は狭く、この両方を個別に制御することはできない。
【0005】
【発明が解決しょうとする課題】
本発明は、このような状況下で、溶融流動性が高く、成形安定性(ダイスウエル比)に優れるとともに、良好な機械物性(引張衝撃強度など)を有するエチレン系重合体を提供することを目的とするものである。
【0006】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、前記の性状を有するエチレン系重合体を開発すべく鋭意研究を重ねた結果、エチレンの単独重合体又はエチレンと他のエチレン性不飽和結合を有する単量体の少なくとも一種との共重合体であって、分子量,密度及び溶融流動の活性化エネルギーが特定の範囲にあり、かつ分子量分布とダイスウエル比とが特定の関係にあるものが、その目的に適合しうることを見出した。本発明は、かかる知見に基づいて完成したものである。すなわち、本発明は、エチレン単独重合体又はエチレンと他のエチレン性不飽和結合を有する単量体の少なくとも一種との共重合体において、(イ)ゲルパミエーションクロマトグラフィー法(GPC法)によって測定したポリエチレン換算の重量平均分子量(Mw)が3,000〜1,000,000の範囲にあること、(ロ)樹脂密度(d)が850〜970kg/m3の範囲にあること、(ハ)溶融流動の活性化エネルギー(ΔEa)が31〜84kJ/モルの範囲にあること、及び(ニ)GPC法によって測定したポリエチレン換算の重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)との比Mw/Mnと、ダイスウエル(DR)との関係が、式
DR≧0.09×(Mw/Mn)+1.20
を満たすことを特徴とするエチレン系重合体を提供するものである。本発明のエチレン系重合体は、エチレンの単独重合体又はエチレンと他のエチレン性不飽和結合を有する単量体の少なくとも一種との共重合体である。共重合体において、コモノマーとして用いられるエチレン性不飽和結合を有する単量体としては、炭素数3〜20のα-オレフィン類,スチレン類,環状オレフィン類及びジオレフィン類が好ましく挙げられる。
【0007】
上記炭素数3〜20のα-オレフィンとしては、例えばプロピレン;1-ブテン-;1-ペンテン;4-メチル-1-ペンテン;1-ヘキセン;1-オクテン;1-デセン,1-ドテセン;1-テトラデセン;1-ヘキサデセン;1-オクタデセン;1-エイコセンなどが挙げられる。スチレン類としては、例えばスチレンやα-メチルスチレンをはじめ、p-メチルスチレン;o-メチルスチレン;m-メチルスチレン;2,4-ジメチルスチレン;2,6-ジメチルスチレン;3,5-ジメチルスチレン;p-tert-ブチルスチレンなどのアルキルスチレン,p-クロロスチレン;o-クロロスチレン;m-クロロスチレン;p-ブロモスチレン;o-ブロモスチレン;m-ブロモスチレン;p-フルオロスチレン;o-フルオロスチレン;m-フルオロスチレン;o-メチル-p-フルオロスチレンなどのハロゲン化スチレン,4-ビニルビフェニル;3-ビニルビフェニル;2-ビニルビフェニルなどのビニルフェニル類,1-(4-ビニルフェニル)-ナフタレン;2-(4-ビニルフェニル)-ナフタレン;1-(3-ビニルフェニル)-ナフタレン;2-(3-ビニルフェニル)-ナフタレン;1-(2-ビニルフェニル)-ナフタレン;2-(2-ビニルフェニル)-ナフタレンなどのビニルフェニルナフタレン類などが挙げられる。また、環状オレフィン類としては、炭素数3〜20のものが好ましく、具体的には、シクロペンテン;シクロヘキセン;ノルボルネン;1-メチルノルボルネン;5-メチルノルボルネン;7-メチルノルボルネン;5,6-ジメチルノルボルネン;5,5,6-トリメチルノルボルネン;5-エチルノルボルネン;5-プロピルノルボルネン;5-フェニルノルボルネン;5-ベンジルノルボルネンなどが挙げられる。
【0008】
一方、ジオレフィン類としては、α-オレフィン残基、スチレン残基及び環状オレフィン残基の中から選ばれた少なくとも2個の同種又は異種の残基から形成された化合物及び環状ジエン化合物の中から選ばれた多官能性単量体が好ましく用いられる。このような多官能性単量体としては、例えば直鎖又は分岐の非環式ジエン化合物、単環脂環式ジエン化合物、多環脂環式ジエン化合物、シクロアルケニル置換アルケン類、芳香族環を有するジエン化合物、一分子中にα-オレフィン残基とスチレン残基を有するジエン化合物などが挙げられる。該直鎖又は分岐の非環式ジエン化合物としては、例えば1,4-ペンタジエン、1,4-ヘキサジエン、1,5-ヘキサジエン、1,6-オクタジエン、1,7-オクタジエン、1,9-デカジエン、1,11-ドデカジエン、2-メチル-1,4-ペンタジエン、2-メチル-1,5-ヘキサジエン、3-エチル-1,7-オクタジエンなどが挙げられ、単環脂環式ジエン化合物としては、例えば1,3-シクロペンタジエン、1,4-シクロヘキサジエン、1,5-シクロオクタジエン、1,5-シクロドデカジエン、1,2-ジビニルシクロヘキサン、1,3-ジビニルシクロヘキサンなどが挙げられる。また、多環脂環式ジエン化合物としては、例えばジシクロペンタジエン、ノルボルナジエン、テトラヒドロインデン、メチルテトラヒドロインデン、ビシクロ-(2,2,1)-ヘプタ-2,5-ジエン、5-メチル-2,5-ノルボルナジエン、さらにはアルケニル、アルキリデン、シクロアルケニル及びシクロアルキリデンのノルボルネンであって、例えば5-メチル-2-ノルボルネン、5-エチリデン-2-ノルボルネン、5-イソプロピリデン-2-ノルボルネン、5-ビニルノルボルネン、5-ブテニルノルボルネン、5-(4-シクロペンテニル)-2-ノルボルネン、5-シクロヘキシリデン-2-ノルボルネンなどが挙げられる。
【0009】
さらに、シクロアルケニル置換アルケン類としては、例えばアリルシクロヘキセン、ビニルシクロオクテン、アリルシクロデセン、ビニルシクロドデセンなどが挙げられ、芳香族環を有するジエン化合物としては、例えばp-ジビニルベンゼン、m-ジビニルベンゼン、o-ジビニルベンゼン、ジ-(p-ビニルフェニル)メタン、1,3-ビス(p-ビニルフェニル)プロパン、1,5-ビス(p-ビフェニル)ペンタンなどが挙げられる。一方、一分子中にα-オレフィン残基としてスチレン残基とを有するジエン化合物としては、例えばp-(2-プロペニル)スチレン、m-(2-プロペニル)スチレン、p-(3-ブテニル)スチレン、m-(3-ブテニル)スチレン、o-(3-ブテニル)スチレン、p-(4-ペンテニル)スチレン、m-(4-ペンテニル)スチレン、o-(4-ペンテニル)スチレン、p-(7-オクテニル)スチレン、p-(1-メチル-3-ブテニル)スチレン、p-(2-メチル-3-ブテニル)スチレン、m-(2-メチル-3-ブテニル)スチレン、o-(2-メチル-3-ブテニル)スチレン、p-(3-メチル-3-ブテニル)スチレン、p-(2-エチル-4-ペンテニル)スチレン、p-(3-ブテニル)-α-メチルスチレン、m-(3-ブテニル)-α-メチルスチレン、o-(3-ブテニル)-α-メチルスチレン、4-ビニル-4’-(3-ブテニル)ビフェニル、4-ビニル-3’-(3-ブテニル)ビフェニル、4-ビニル-4’-(4-ペンテニル)ビフェニル、4-ビニル-2’-(4-ペンテニル)ビフェニル、4-ビニル-4’-(2-メチル-3-ブテニル)ビフェニルなどが挙げられる。
【0010】
これらのコモノマーは一種用いてもよく、二種以上を組み合わせて用いてもよい。エチレン系共重合体において、上記コモノマー単位の含有量は0.01〜45モル%の範囲が好ましく、また、ジオレフィン単位を含有する場合は、このジオレフィン単位の含有量は、通常1モル%以下、好ましくは0.8モル%以下、より好ましくは0.6モル%以下、特に好ましくは0.4モル%以下である。このジオレフィン単位の含有量が1モル%を超えると架橋によるゲル化の問題が生じる場合がある。本発明のエチレン系重合体は、次に示す性状を有することが要求される。まず、(イ)ゲルパーミエーションクロマトグラフィー法(GPC法)によって測定したポリエチレン換算の重量平均分子量(Mw)が3,000〜1,000,000の範囲にあることが必要である。このMwが3,000未満では力学的物性の発現が不充分であり、1,000,000を超えると成形加工性が低下する。力学的物性及び成形加工性の面から、Mwの好ましい範囲は5,000〜800,000、より好ましい範囲は7,000〜700,000である。また、(ロ)樹脂密度(d)が850〜970kg/m3の範囲にあることが必要である。この樹脂密度(d)は、コモノマー単位の含有量を増減することにより、上記範囲で任意に制御することができる。なお、この密度は、190℃の温度においてプレスシートを作成し、急冷したものをJIS K-6760に準拠して、23℃の密度勾配管により測定した値である。
【0011】
次に、(ハ)溶融流動の活性化エネルギー(ΔEa)が31〜84kJ/モル(7.5〜20kcal/モル)の範囲にあることが必要である。このΔEaが31kJ/モル未満では充分な溶融流動性が得られない。溶融流動性の面から、好ましい溶融流動の活性化エネルギー(ΔEa)は33〜79kJ/モル(8.0〜19kcal/モル)の範囲であり、特に36〜75kJ/モル(8.5〜18kcal/モル)の範囲が好適である。なお、この溶融流動の活性化エネルギー(ΔEa)は、温度150℃,170℃,190℃,210℃,230℃における動的粘弾性の周波数依存性(10-2〜102rad/sec)を測定し、170℃を基準温度として温度-時間換算則を用い、それぞれの温度におけるG’,G”のシフトファクターと絶対温度の逆数からアレニウスの式により算出した値である。さらに、(ニ)GPC法によって測定したポリエチレン換算の重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)との比Mw/Mnと、ダイスウエル比(DR)との関係が、式
DR≧0.09×(Mw/Mn)+1.20
を満たすことが必要である。このDRが〔0.09×(Mw/Mn)+1.20〕未満では充分なスウエルが得られず、押出成形時にネックインなどの問題が生じるおそれがある。成形安定性の面から、Mw/Mnとダイスウエル比(DR)とが、式
2.5≧DR≧0.09×(Mw/Mn)+1.26
の関係を満たすのが好ましく、特に式
2.0≧DR≧0.09×(Mw/Mn)+1.33
の関係を満たすのが好ましい。
【0012】
ここで、ダイスウエル比(DR)は、東洋精機製作所製のキャピログラフを用いて、キャピラリーノズル〔直径(D0)=1.0mm,長さ(L)=10.0mm,L/D0=10,流入角=90°〕より押出速度2.0mm/分(剪断速度24.3sec-1),温度190°の条件で押出して得られたストランドの直径を、キャピラリー出口から1cmの位置でレーザー光により測定することによって求めた。また、上記Mw及びMnは、装置:ウォーターズALC/GPC 150C、カラム:TSK HM+GMH6×2、流量:1.0ミリリットル/分、溶媒:1,2,4-トリクロロベンゼンの条件でGPC法により求めたポリエチレン換算の値である。さらに、本発明のエチレン系重合体は、引張衝撃強度(Eimp〔kJ/m2〕)とダイスウエル比(DR)との関係が式
logEimp≧-1.2×DR+5.0
を満たすものが好ましい。logEimpが〔-1.2×DR+5.0〕未満では機械物性が不充分であり、機械物性の面からEimpとDRとの関係が、式
logEimp≧-1.2×DR+5.2
を満たすものが特に好適である。なお、この引張衝撃強度(Eimp)は、ASTM D-1822に準拠し、アイゾット試験器に引張衝撃強度測定用の治具を取り付けて測定した値である。また、本発明のエチレン系重合体は、GPC法によって測定したポリエチレン換算の重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)との比Mw/Mnが1.5〜4の範囲にあるものが好ましい。このMw/Mnが1.5未満では分子量分布が狭すぎて成形加工特性に問題が生じ、4を超えると機械物性が不充分となる。成形加工特性及び機械物性などの面から、Mw/Mnのより好ましい範囲は1.6〜3.5であり、特に1.6〜3.3の範囲が好適である。
【0013】
本発明のエチレン系重合体は、他の熱可塑性樹脂に混合して用いることができる。他の熱可塑性樹脂としては、例えばポリオレフィン系樹脂,ポリスチレン系樹脂,縮合系高分子重合体,付加重合系高分子重合体などが挙げられる。該ポリオレフィン系樹脂の具体例としては、高密度ポリエチレン;低密度ポリエチレン;ポリ-3-メチルブテン-1;ポリ-4-メチルペンテン-1;コモノマー成分としてブテン-1;ヘキセン-1;オクテン-1;4-メチルペンテン-1;3-メチルブテン-1などを用いて得られる直鎖状低密度ポリエチレン、エチレン-酢酸ビニル共重合体,エチレン-酢酸ビニル共重合体けん化物,エチレン-アクリル酸共重合体,エチレン-アクリル酸エステル共重合体,エチレン系アイオノマー,ポリプロピレンなどが挙げられる。ポリスチレン系樹脂の具体例としては、汎用ポリスチレン,アイソタクチックポリスチレン,ハイインパクトポリスチレン(ゴム変性)などが挙げられる。縮合系高分子重合体の具体例としては、ポリアセタール樹脂,ポリカーボネート樹脂,ナイロン6,ナイロン6・6などのポリアミド樹脂、ポリエチレンテレフタレート,ポリブチレンテレフタレートなどのポリエステル樹脂、ポリフェニレンエーテル樹脂,ポリイミド樹脂,ポリスルホン樹脂,ポリエーテルスルホン樹脂,ポリフェニレンスルフィド樹脂などが挙げられる。付加重合系高分子重合体としては、例えば極性ビニルモノマーから得られた重合体やジエン系モノマーから得られた重合体、具体的にはポリメチルメタクリレート,ポリアクリロニトリル,アクリロニトリル-ブタジエン共重合体,アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン共重合体、ジエン鎖を水添したジエン系重合体、さらには熱可塑性エラストマーなどが挙げられる。本発明のエチレン系重合体と他の熱可塑性樹脂とを混合する場合、本発明のエチレン系重合体100重量部に対し、他の熱可塑性樹脂を、2〜500重量部、好ましくは3〜300重量部の割合で混合するのが望ましい。
【0014】
次に、本発明のエチレン系重合体の製造方法については、前記性状を有するエチレン系重合体が得られる方法であればよく、特に制限されず、様々な方法を用いることができる。特に、重合用触媒として、(A)遷移金属化合物と(B)アルミニウムオキシ化合物とを必須成分として含有するものを用い、エチレンの単独重合又はエチレンと他のエチレン性不飽和結合を有する単量体との共重合を行う方法が有利である。上記(A)成分の遷移金属化合物としては、一般式(I)
CpMLX-1・・・(I)
で表されるものが好ましく用いられる。
【0015】
上記一般式(I)において、Mは周期律表第3〜10族又はランタノイド系列の金属元素を示す。CpはMとη5-結合様式でп結合により配位するシクロペンタジエニル又は置換シクロペンタジエニル骨格を有する炭素数5〜30の環状化合物基を示し、Lはσ結合により該Mに配位するσ配位子を示す。Lが複数ある場合、各Lは同一でも異なっていてもよい。このσ配位子としては、例えば、R’,OR’,SR’,SO3R’,NR’R”,NO2,ハロゲン原子,1-ピロリル基及び1-ピロリジニル基を好ましく挙げることができる。ここで、R’及びR”は、それぞれ炭素数1〜20の炭化水素基を示し、NR’R”において、R’及びR”はたがいに同一でも異なっていてもよい。このσ配位子が複数ある場合は、各配位子は同一でも異なっていてもよいが、その少なくとも二つが同じであることが好ましい。そして、σ配位子の二つあるいは三つがOR’又はNR’R”であることがより好ましい。さらに、共重合性の点からは、σ配位子の二つあるいは三つが同一のOR’であることが特に好ましい。また、xはMの価数を示す。
【0016】
前記のMとη5-結合様式でп結合により配位するシクロペンタジエニル又は置換シクロペンタジエニル骨格を有する炭素数5〜30の環状化合物からなる基は、一つであり、また置換シクロペンタジエニル骨格上の置換基同士がたがいに結合して新たな環状構造を形成していても差し支えない。すなわち、インデニル骨格、置換インデニル骨格、フルオレニル骨格、置換フルオレニル骨格を有する基も、該環状化合物基に包含される。また、前記のR’及びR”において、炭素数1〜20の炭化水素基としては、例えば、アルキル基、シクロアルキル基、アリール基、アラルキル基などが挙げられる。アルキル基としては、例えば、メチル基,エチル基,n-プロピル基,イソプロピル基,n-ブチル基,イソブチル基,sec-ブチル基,t-ブチル基,ペンチル基,ヘキシル基,オクチル基,デシル基,ドデシル基などを、シクロアルキル基としては、例えば、シクロペンチル基やシクロヘキシル基などを、アリール基としては、例えば、フェニル基やトリル基などを、アラルキル基としては、例えば、ベンジル基やフエネチル基などを挙げることができる。また、OR’の具体例としては、メトキシ基,エトキシ基,n-プロポキシ基,イソプロポキシ基,n-ブトキシ基,イソブトキシ基,sec-ブトキシ基,t-ブトキシ基,ペントキシ基,ヘキソキシ基,オクトキシ基,シクロヘキソキシ基などのアルコキシ基、フェノキシ基などのアリーロキシ基などを挙げることができる。また、SR’の具体例としては、メチルチオ基,エチルチオ基,シクロヘキシルチオ基,フェニルチオ基などを挙げることができる。そして、SO3R’の具体例としては、メタンスルホニル基,エタンスルホニル基,n-プロパンスルホニル基,イソプロパンスルホニル基,n-ブタンスルホニル基,sec-ブタンスルホニル基,t-ブタンスルホニル基,イソブタンスルホニル基などのアルキルスルホニル基、ベンゼンスルホニル基などのアリールスルホニル基などを挙げることができる。さらに、NR’R”の具体例としては、ジメチルアミノ基,ジエチルアミノ基,ジ(n-プロピル)アミノ基,ジイソプロピルアミノ基,ジ(n-ブチル)アミノ基,ジイソブチルアミノ基,ジ(sec-ブチル)アミノ基,ジ(t-ブチル)アミノ基,ジペンチルアミノ基,ジヘキシルアミノ基,ジオクチルアミノ基,ジフェニルアミノ基,ジベンジルアミノ基などを挙げることができる。また、ハロゲン原子としては、塩素,臭素,ヨウ素を挙げることができる。
【0017】
前記一般式(I)で表される遷移金属化合物としては、例えば、シクロペンタジエニルチタントリメチル;シクロペンタジエニルチタントリエチル;シクロペンタジエニルチタントリ(n-プロピル);シクロペンタジエニルチタントリイソプロピル;シクロペンタジエニルチタントリ(n-ブチル);シクロペンタジエニルチタントリイソブチル;シクロペンタジエニルチタントリ(sec-ブチル);シクロペンタジエニルチタントリ(t-ブチル);メチルシクロペンタジエニルチタントリメチル;1,2-ジメチルシクロペンタジエニルチタントリメチル;1,2,4-トリメチルシクロペンタジエニルチタントリメチル;1,2,3,4-テトラメチルシクロペンタジエニルチタントリメチル;ペンタメチルシクロペンタジエニルチタントリメチル;ペンタメチルシクロペンタジエニルチタントリエチル;ペンタメチルシクロペンタジエニルチタントリ(n-プロピル);ペンタメチルシクロペンタジエニルチタントリイソプロピル;ペンタメチルシクロペンタジエニルチタントリ(n-ブチル);ペンタメチルシクロペンタジエニルチタントリイソブチル;ペンタメチルシクロペンタジエニルチタントリ(sec-ブチル);ペンタメチルシクロペンタジエニルチタントリ(t-ブチル);シクロペンタジエニルチタントリメトキシド;シクロペンタジエニルチタントリエトキシド;シクロペンタジエニルチタントリ(n-プロポキシド);シクロペンタジエニルチタントリイソプロポキシド;シクロペンタジエニルチタントリフェノキシド;メチルシクロペンタジエニルチタントリメトキシド;(n-ブチル)シクロペンタジエニルチタントリメトキシド;ジメチルシクロペンタジエニルチタントリメトキシド;ジメチルシクロペンタジエニルチタントリエトキシド;ジメチルシクロペンタジエニルチタントリ(n-プロポキシド);ジメチルシクロペンタジエニルチタントリイソプロポキシド;ジメチルシクロペンタジエニルチタントリフェノキシド;ジ(t-ブチル)シクロペンタジエニルチタントリメトキシド;ジ(t-ブチル)シクロペンタジエニルチタントリエトキシド;ジ(t-ブチル)シクロペンタジエニルチタントリ(n-プロポキシド);ジ(t-ブチル)シクロペンタジエニルチタントリイソプロポキシド;ジ(t-ブチル)シクロペンタジエニルチタントリフェノキシド;ビス(ジメチルシリル)シクロペンタジエニルチタントリメトキシド;ビス(ジメチルシリル)シクロペンタジエニルチタントリエトキシド;ビス(ジメチルシリル)シクロペンタジエニルチタントリ(n-プロポキシド);ビス(ジメチルシリル)シクロペンタジエニルチタントリイソプロポキシド;ビス(ジメチルシリル)シクロペンタジエニルチタントリフェノキシド;トリメチルシクロペンタジエニルチタントリメトキシド;トリメチルシクロペンタジエニルチタントリエトキシド;トリメチルシクロペンタジエニルチタントリ(n-プロポキシド);トリメチルシクロペンタジエニルチタントリイソプロポキシド;トリメチルシクロペンタジエニルチタントリフェノキシド;トリエチルシクロペンタジエニルチタントリメトキシド;〔ビス(ジメチルシリル),メチル〕シクロペンタジエニルチタントリメトキシド;〔ジ(t-ブチル,メチル)〕シクロペンタジエニルチタントリエトキシド;テトラメチルシクロペンタジエニルチタントリメトキシド;テトラメチルシクロペンタジエニルチタントリエトキシド;テトラメチルシクロペンタジエニルチタントリ(n-プロポキシド);テトラメチルシクロペンタジエニルチタントリイソプロポキシド;テトラメチルシクロペンタジエニルチタントリ(n-ブトキシド);テトラメチルシクロペンタジエニルチタントリイソブトキシド;テトラメチルシクロペンタジエニルチタントリ(sec-ブトキシド);テトラメチルシクロペンタジエニルチタントリ(t-ブトキシド);テトラメチルシクロペンタジエニルチタントリフェノキシド;〔テトラメチル,4-メトキシフェニル〕シクロペンタジエニルチタントリメトキシド;〔テトラメチル,4-メトキシフェニル〕シクロペンタジエニルチタントリエトキシド;〔テトラメチル,4-メトキシフェニル〕シクロペンタジエニルチタントリ(n-プロポキシド);〔テトラメチル,4-メトキシフェニル〕シクロペンタジエニルチタントリイソプロポキシド;〔テトラメチル,4-メトキシフェニル〕シクロペンタジエニルチタントリフェノキシド;〔テトラメチル,4-メチルフェニル〕シクロペンタジエニルチタントリメトキシド;〔テトラメチル,4-メチルフェニル〕シクロペンタジエニルチタントリエトキシド;〔テトラメチル,4-メチルフェニル〕シクロペンタジエニルチタントリ(n-プロポキシド);〔テトラメチル,4-メチルフェニル〕シクロペンタジエニルチタントリイソプロポキシド;〔テトラメチル,4-メチルフェニル〕シクロペンタジエニルチタントリフェノキシド;〔テトラメチル,ベンジル〕シクロペンタジエニルチタントリメトキシド;〔テトラメチル,ベンジル〕シクロペンタジエニルチタントリエトキシド;〔テトラメチル,ベンジル〕シクロペンタジエニルチタントリ(n-プロポキシド);〔テトラメチル,ベンジル〕シクロペンタジエニルチタントリイソプロポキシド;〔テトラメチル,ベンジル〕シクロペンタジエニルチタントリフェノキシド;〔テトラメチル,2-メトキシフェニル〕シクロペンタジエニルチタントリメトキシド;〔テトラメチル,2-メトキシフェニル〕シクロペンタジエニルチタントリエトキシド;〔テトラメチル,2-メトキシフェニル〕シクロペンタジエニルチタントリフェノキシド;〔テトラメチル,エチル〕シクロペンタジエニルチタントリメトキシド;〔テトラメチル,エチル〕シクロペンタジエニルチタントリエトキシド;〔テトラメチル,エチル〕シクロペンタジエニルチタントリ(n-プロポキシド);〔テトラメチル,エチル〕シクロペンタジエニルチタントリイソプロポキシド;〔テトラメチル,エチル〕シクロペンタジエニルチタントリフェノキシド;〔テトラメチル,n-ブチル〕シクロペンタジエニルチタントリメトキシド;〔テトラメチル,n-ブチル〕シクロペンタジエニルチタントリエトキシド;〔テトラメチル,n-ブチル〕シクロペンタジエニルチタントリ(n-プロポキシド);〔テトラメチル,n-ブチル〕シクロペンタジエニルチタントリイソプロポキシド;〔テトラメチル,n-ブチル〕シクロペンタジエニルチタントリフェノキシド;〔テトラメチル,フェニル〕シクロペンタジエニルチタントリメトキシド;〔テトラメチル,フェニル〕シクロペンタジエニルチタントリエトキシド;〔テトラメチル,フェニル〕シクロペンタジエニルチタントリフェノキシド;〔テトラメチル,ジメチルシリル〕シクロペンタジエニルチタントリメトキシド;〔テトラメチル,ジメチルシリル〕シクロペンタジエニルチタントリフェノキシド;ペンタメチルシクロペンタジエニルチタントリメトキシド;ペンタメチルシクロペンタジエニルチタントリエトキシド;ペンタメチルシクロペンタジエニルチタントリ(n-プロポキシド);ペンタメチルシクロペンタジエニルチタントリイソプロポキシド;ペンタメチルシクロペンタジエニルチタントリ(n-ブトキシド);ペンタメチルシクロペンタジエニルチタントリイソブトキシド;ペンタメチルシクロペンタジエニルチタントリ(sec-ブトキシド);ペンタメチルシクロペンタジエニルチタントリ(t-ブトキシド);ペンタメチルシクロペンタジエニルチタントリ(シクロヘキソキシド);ペンタメチルシクロペンタジエニルチタントリフェノキシド;シクロペンタジエニルチタントリベンジル;インデニルチタントリメトキシド;インデニルチタントリエトキシド;インデニルチタントリメチル;インデニルチタントリベンジル;シクロペンタジエニルチタントリ(メタンスルホニル);トリメチルシクロペンタジエニルチタン(トリベンゼンスルホニル);テトラメチルシクロペンタジエニルチタントリ(エタンスルホニル);ペンタメチルシクロペンタジエニルチタントリ(メタンスルホニル);シクロペンタジエニルチタントリス(ジメチルアミン);トリメチルシクロペンタジエニルチタントリス(ジメチルアミン);ペンタメチルシクロペンタジエニルチタントリス(ジベンジルアミン);シクロペンタジエニルチタントリ(ニトロ);ペンタメチルシクロペンタジエニルチタントリ(ニトロ)など、並びにこれらの化合物におけるチタンをジルコニウム,ハフニウム,クロムなど、さらには周期律表第8〜10族及びランタノイド系列の金属元素に置換した化合物が挙げられる。
【0018】
さらには、シクロペンタジエニルチタンジメチルモノクロリド;シクロペンタジエニルチタンモノエチルジクロリド;シクロペンタジエニルチタンジ(n-プロピル)モノクロリド;シクロペンタジエニルチタンジイソプロピルモノクロリド;シクロペンタジエニルチタンジ(n-ブチル)モノクロリド;シクロペンタジエニルチタンジイソブチルモノクロリド;シクロペンタジエニルチタンジ(sec-ブチル)モノクロリド;シクロペンタジエニルチタンジ(t-ブチル)モノクロリド;1,2-ジメチルシクロペンタジエニルチタンジメチルモノクロリド;1,2,4-トリメチルシクロペンタジエニルチタンジメチルモノクロリド;1,2,3,4-テトラメチルシクロペンタジエニルチタンジメチルモノクロリド;ペンタメチルシクロペンタジエニルチタンジメチルモノクロリド;シクロペンタジエニルチタンモノクロロジメトキシド;シクロペンタジエニルチタンジクロロモノエトキシド;シクロペンタジエニルチタンモノクロロジ(n-プロポキシド);シクロペンタジエニルチタンモノクロロジイソプロポキシド;シクロペンタジエニルチタンモノクロロジフェノキシド;ジメチルシクロペンタジエニルチタンモノクロロジメトキシド;ジメチルシクロペンタジエニルチタンモノクロロジエトキシド;ジメチルシクロペンタジエニルチタンモノクロロジ(n-プロポキシド);ジメチルシクロペンタジエニルチタンモノクロロジイソプロポキシド;ジメチルシクロペンタジエニルチタンモノクロロジフェノキシド;ジ(t-ブチル)シクロペンタジエニルチタンモノクロロジメトキシド;ビス(ジメチルシリル)シクロペンタジエニルチタンモノクロロジメトキシド;トリメチルシクロペンタジエニルチタンモノクロロジメトキシド;トリメチルシクロペンタジエニルチタンモノクロロジフェノキシド;トリエチルシクロペンタジエニルチタンモノクロロジメトキシド;〔ビス(ジメチルシリル),メチル〕シクロペンタジエニルチタンモノクロロジメトキシド;テトラメチルシクロペンタジエニルチタンモノクロロジメトキシド;テトラメチルシクロペンタジエニルチタンモノクロロジ(n-ブトキシド);テトラメチルシクロペンタジエニルチタンモノクロロジイソブトキシド;テトラメチルシクロペンタジエニルチタンモノクロロジ(sec-ブトキシド);テトラメチルシクロペンタジエニルチタンモノクロロジ(t-ブトキシド);〔テトラメチル,4-メトキシフェニル〕シクロペンタジエニルチタンモノクロロジメトキシド;〔テトラメチル,4-メチルフェニル〕シクロペンタジエニルチタンモノクロロジメトキシド;〔テトラメチル,ベンジル〕シクロペンタジエニルチタンモノクロロジメトキシド;〔テトラメチル,ベンジル〕シクロペンタジエニルチタンモノクロロジフェノキシド;〔テトラメチル,2-メトキシフェニル〕シクロペンタジエニルチタンモノクロロジメトキシド;〔テトラメチル,エチル〕シクロペンタジエニルチタンモノクロロジメトキシド;〔テトラメチル,エチル〕シクロペンタジエニルチタンモノクロロジエトキシド;〔テトラメチル,n-ブチル〕シクロペンタジエニルチタンモノクロロジエトキシド;〔テトラメチル,n-ブチル〕シクロペンタジエニルチタンモノクロロジ(n-プロポキシド);〔テトラメチル,n-ブチル〕シクロペンタジエニルチタンモノクロロジイソプロポキシド;〔テトラメチル,フェニル〕シクロペンタジエニルチタンモノクロロジメトキシド;〔テトラメチル,ジメチルシリル〕シクロペンタジエニルチタンモノクロロジメトキシド;ペンタメチルシクロペンタジエニルチタンモノクロロジメトキシド;ペンタメチルシクロペンタジエニルチタンモノクロロジエトキシド;ペンタメチルシクロペンタジエニルチタンモノクロロジ(シクロヘキソキシド);ペンタメチルシクロペンタジエニルチタンモノクロロジフェノキシド;インデニルチタンモノクロロジメトキシド;シクロペンタジエニルチタンモノクロロジ(メタンスルホニル);ペンタメチルシクロペンタジエニルチタンモノクロロビス(ジエチルアミン);ペンタメチルシクロペンタジエニルチタンモノクロロビス〔ジ(n-ブチル)アミン〕など、並びにこれらの化合物におけるチタンをジルコニウム,ハフニウム,クロムなど、さらには周期律表第8〜10族及びランタノイド系列の金属元素に置換した化合物が挙げられる。
【0019】
本発明の重合用触媒においては、上記(A)成分の遷移金属化合物は一種用いてもよく、二種以上を組み合わせて用いてもよい。本発明における重合用触媒において、(B)成分として用いられるアルミニウムオキシ化合物としては、一般式(II)
【0020】
【化1】

【0021】
で表される鎖状アルミノキサン、及び一般式(III)
【0022】
【化2】

【0023】
で表される環状アルミノキサンを好ましく挙げることができる。上記一般式(II)及び(III)において、R1は炭素数1〜20、好ましくは1〜12のアルキル基,アルケニル基,アリール基,アリールアルキル基などの炭化水素基を示し、n及びpは、それぞれ3〜50、好ましくは7〜40の整数を示す。また、分子内に存在する複数のR1は同一でも異なっていてもよい。前記アルミノキサンの製造法としては、アルキルアルミニウムと水などの縮合剤とを接触させる方法が挙げられるが、その手段については特に限定はなく、公知の方法に準じて反応させればよい。例えば、有機アルミニウム化合物を有機溶剤に溶解しておき、これを水と接触させる方法、金属塩などに含有されている結晶水、無機物や有機物の吸着水を有機アルミニウム化合物と反応させる方法、テトラアルキルジアルミノキサンにトリアルキルアルミニウムを反応させ、さらに水を反応させる方法などがある。この(B)成分のアルミニウムオキシ化合物は一種用いてもよく、二種以上を組み合わせて用いてもよい。本発明における重合用触媒は、上記(A)成分及び(B)成分と共に、所望により(C)成分として有機アルミニウム化合物を含有するものであってもよい。ここで、(C)成分の有機アルミニウム化合物としては、一般式(IV)
R2rAlQ3-r・・・(IV)
〔式中、R2は炭素数1〜10のアルキル基、Qは水素原子,炭素数1〜20のアルコキシ基,炭素数6〜20のアリール基又はハロゲン原子を示し、rは1〜3の整数である。〕で表される化合物が用いられる。
【0024】
前記一般式(IV)で示される化合物の具体例としては、トリメチルアルミニウム,トリエチルアルミニウム,トリイソプロピルアルミニウム,トリイソブチルアルミニウム,ジメチルアルミニウムクロリド,ジエチルアルミニウムクロリド,メチルアルミニウムジクロリド,エチルアルミニウムジクロリド,ジメチルアルミニウムフルオリド,ジイソブチルアルミニウムヒドリド,ジエチルアルミニウムヒドリド,エチルアルミニウムセスキクロリドなどが挙げられる。これらの中で、特にトリメチルアルミニウム,トリエチルアルミニウム及びトリブチルアルミニウムが、触媒活性及び入手の容易さなどの点から好適である。この(C)成分の有機アルミニウム化合物は一種用いてもよく、二種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0025】
本発明に用いる重合用触媒における前記(A)触媒成分と(B)触媒成分との使用割合については、(A)成分の金属原子がチタンである場合には、(B)成分/(A)成分モル比が2〜1,000、好ましくは5〜200の範囲になるように選ぶのが有利である。また、(A)成分の金属原子がチタン以外、例えばジルコニウムやハフニウムなどである場合には、(B)成分/(A)成分モル比が10〜1,000、好ましくは20〜500の範囲になるように選ぶのが有利である。さらに、(C)触媒成分を使用する場合には、(C)成分/(A)成分モル比が0.01〜100、好ましくは0.1〜50の範囲になるように(C)成分を用いるのが望ましい。この(C)触媒成分を用いることにより、遷移金属当たりの重合活性を向上させることができるが、あまり多いと有機アルミニウム化合物が無駄になるとともに、重合体中に多量に残存し、好ましくない。本発明の方法においては、触媒成分の少なくとも一種を、例えば、炭化水素系溶媒に不溶の固体状の無機担体や有機担体に担持して用いることができる。無機担体としては、例えば、SiO2,Al2O3,MgO,ZrO2,TiO2,Fe2O3,B2O3,CaO,ZnO,BaO,ThO2やこれらの混合物、例えば、シリカアルミナ,ゼオライト,フェライト,セピオライト,グラスファイバーなど、さらにはMgCl2やMg(OC2H5)2などのマグネシウム化合物などが挙げられる。
【0026】
一方、有機担体としては、例えば、ポリスチレン,スチレン-ジビニルベンゼン共重合体,ポリエチレン,ポリプロピレン,置換ポリスチレン,ポリアリレートなどの重合体やスターチ,カーボンなどが挙げられる。なお、気相重合法などにおいては、特に炭化水素系溶媒に不溶である担体に限定されない。これらの担体の中では、特にMgCl2,Mg(OC2H5)2,SiO2,Al2O3などが好適である。また、担体の平均粒径は1〜300μm、好ましくは10〜200μm、より好ましくは20〜100μmの範囲が望ましい。重合条件については、重合温度は触媒活性が損なわれない範囲で高い方が好ましく、通常-100〜300℃、好ましくは-50〜200℃、より好ましくは10〜180℃の範囲で選ばれる。また重合圧力は常圧〜150kg/cm2G、好ましくは常圧〜100kg/cm2Gの範囲がよい。
【0027】
重合方法については、特に制限はなく、スラリー重合法、気相重合法、塊状重合法、溶液重合法、懸濁重合法などのいずれの方法を用いてもよい。重合溶媒を用いる場合、例えば、ベンゼン,トルエン,キシレン,エチルベンゼンなどの芳香族炭化水素、シクロペンタン,シクロヘキサン,メチルシクロヘキサンなどの脂環式炭化水素,ペンタン,ヘキサン,ヘプタン,オクタンなどの脂肪族炭化水素、クロロホルム,ジクロロメタンなどのハロゲン化炭化水素などを用いることができる。これらの溶媒は一種を単独で用いてもよく、二種以上のものを組み合わせてもよい。また、α-オレフィンなどのモノマーを溶媒として用いてもよい。なお、重合方法によっては無溶媒で行うことができる。
【0028】
また、エチレンと他のモノマーとを共重合させる場合は、各モノマーの仕込み割合は、所望の樹脂密度に応じて、適宜選ばれる。さらに、重合体の分子量の調節方法としては、水素などの連鎖移動剤の使用量,各触媒成分の種類,使用量,重合温度及びエチレン圧力の選択などが挙げられる。例えばモノマーと重合用触媒の使用割合は、モノマー/(A)触媒成分モル比が、通常10〜1×107、好ましくは100〜1×106の範囲になるように選ばれる。
【0029】
【実施例】
次に、本発明を実施例によりさらに詳しく説明するが、本発明は、これらの例によってなんら限定されるものではない。なお、エチレン系重合体の物性は明細書本文に記載した方法に従い測定した。
実施例1
(1)メチルアルミノキサンの調製
窒素置換した内容積500ミリリットルのガラス製容器に、アルベマール社製メチルアルミノキサン(トルエン溶液)200ミリリットルを入れ、内容量100ミリリットルのガラス製容器中の水に窒素ガスを流通させることにより得られる微量の水を含む窒素ガスを流通させながら、80時間攪拌を続けた。水の重量減少から算出した反応に要した水の量はメチルアルノキサンのアルミニウム原子に対し、24モル%であった。
(2)エチレン/オクテン-1共重合体の製造
内容量1リットルの耐圧ステンレス製オートクレーブに、窒素気流下に脱水トルエン390ミリリットル,脱水オクテン-1 10ミリリットル及び上記(1)で調製したメチルアルミノキサン1ミリモル(アルミニウム原子換算)を投入し、攪拌状態で60℃まで昇温した。この状態で5分間保持したのち、ペンタメチルシクロペンタジエニルチタニウムトリメトキシド〔Cp*Ti(OMe)3〕10マイクロモルを添加し、65℃まで昇温した。その後、水素を圧力計で0.5kg/cm2G導入し、次いでエチレンを圧力計で4kg/cm2Gの一定圧で60分間導入し続けた。重合反応終了後、脱圧し、重合体をメタノールに再沈してろ過により回収した。次いで、減圧乾燥することにより重合体37.8gが得られた。
【0030】
(3)エチレン/オクテン-1共重合体の評価
上記(2)で得られたエチレン/オクテン-1共重合体は、樹脂密度(d)が909kg/m3であり、GPC法により測定したポリエチレン換算の重量平均分子量(Mw)が85,000、数平均分子量(Mn)が35,900、分子量分布Mw/Mnが2.37であった。また、溶融流動の活性化エネルギー(ΔEa)が40.2kJ/モル(9.6kcal/モル)、ダイスウエル比(DR)が1.72、引張衝撃強度(Eimp)が1410kJ/m2であった。
【0031】
実施例2
実施例1において、脱水オクテン-1を投入後、5-ビニルノルボルネン0.2ミリモルを添加した以外は、実施例1と同様にして共重合体を製造した。減圧乾燥終了後、重合体28.4gを得た。この共重合体の物性評価結果を第1表に示す。
比較例1
実施例1において、アルベマール社製メチルアルミノキサン(トルエン溶液)をそのまま重合に用い、重合反応時のエチレン分圧を8kg/cm2G、反応時間を120分とした以外は、実施例1と同様にして共重合体を製造した。減圧乾燥終了後、重合体18.4gを得た。この共重合体の物性評価結果を第1表に示す。
比較例2
内容量1リットルの耐圧ステンレス製オートクレーブに、窒素気流下脱水トルエン300ミリリットル,脱水オクテン-1 100ミリリットル及び実施例1-(1)で調製したメチルアルミノキサン2ミリモル(アルミニウム原子換算)を投入し、攪拌状態で60℃まで昇温した。この状態で5分間保持したのち、ジシクロペンタジエニルジルコニウムジクロリド(Cp2ZrCl2)1.0マイクロモルを添加し、80℃まで昇温した。その後、エチレンを圧力計で8kg/cm2Gの一定圧で30分間導入し続けた。重合反応終了後、脱圧し、重合体をメタノールに再沈してろ過により回収した。減圧乾燥終了後、重合体42.5gを得た。この共重合体の物性評価結果を第1表に示す。
【0032】
【表1】

【0033】
【表2】

【0034】
【発明の効果】
本発明のエチレン系重合体は、エチレンの単独重合体又は共重合体であって、溶融流動性が高く、成形安定性(ダイスウエル比)に優れるとともに、良好な機械物性(引張衝撃強度など)を有しており、従来のL-LDPEでは成形加工が困難であった中空成形やキャスト成形の分野において好適に用いられる。また、LDPEなどのブレンドが不要なため、高い物性を有する成形品が得られ、かつプロセスの簡略化が可能でコスト面においても有利である。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2004-10-29 
出願番号 特願平7-127933
審決分類 P 1 651・ 531- ZA (C08F)
P 1 651・ 534- ZA (C08F)
最終処分 取消  
前審関与審査官 小出 直也  
特許庁審判長 松井 佳章
特許庁審判官 船岡 嘉彦
石井 あき子
登録日 2003-01-31 
登録番号 特許第3393631号(P3393631)
権利者 出光興産株式会社
発明の名称 エチレン系重合体  
代理人 鈴木 俊一郎  
代理人 大谷 保  
代理人 大谷 保  
代理人 牧村 浩次  
代理人 東平 正道  
代理人 東平 正道  

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ