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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  B60J
管理番号 1112921
異議申立番号 異議2003-70912  
総通号数 64 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 1999-12-14 
種別 異議の決定 
異議申立日 2003-04-11 
確定日 2004-11-24 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第3334619号「ガラスラン」の請求項1及び2に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 訂正を認める。 特許第3334619号の請求項1及び2に係る特許を取り消す。 
理由 第1 手続の経緯
特許第3334619号(以下、本件特許という。)の請求項1及び請求項2に係る発明は、平成10年6月1日に特許出願され、平成14年8月2日にその特許権の設定登録がされ、その後、特許異議申立人北村学及び宮首一生より特許異議の申立てがなされ、取消の理由が通知され、その指定期間内である平成16年4月12日に訂正請求(後日取下げ)がなされた後、再度、取消しの理由が通知され、その指定期間内である平成16年8月9日に訂正(以下、本件訂正という。)請求がなされたものである。

第2 本件訂正の適否についての判断
1.本件訂正の内容
特許権者が求めている訂正の内容は、以下の(1)訂正事項a.ないし(3)訂正事項c.のとおりである。
(1)訂正事項a.
特許請求の範囲の請求項1について、
(1a)「基底部及び側壁部からなるチャンネル部と、前記側壁部の自由端からチャンネル部の内側へ延びる二つのシールリップ部と、前記基底部の表面に被覆された基底部摺動材と、前記シールリップ部の表面に被覆されたリップ部摺動材とを備えたガラスランにおいて、
前記チャンネル部と前記シールリップ部とがスプリング硬さHs60°〜80°(JIS A)の熱可塑性エラストマーで、前記基底部摺動材がショア硬さD45°〜60°の熱可塑性エラストマー又は樹脂で、前記リップ部摺動材がショア硬さD30°〜45°の熱可塑性エラストマー又は樹脂(前記基底部摺動材の熱可塑性エラストマー又は樹脂とは材料の配合比率が異なる)で、押出成形により形成されてなることを特徴とするガラスラン。」
を、
(1b)「基底部及び側壁部からなるチャンネル部と、前記側壁部の自由端からチャンネル部の内側へ延びる二つのシールリップ部と、前記基底部の表面に被覆された基底部摺動材と、前記シールリップ部の表面に被覆されたリップ部摺動材とを備えたガラスランにおいて、
前記チャンネル部と前記シールリップ部とがスプリング硬さHs70°〜80°(JIS A)のオレフィン系熱可塑性エラストマーで、前記基底部摺動材がショア硬さD50°〜60°のオレフィン系熱可塑性エラストマーで、前記リップ部摺動材がショア硬さD30°〜40°のオレフィン系熱可塑性エラストマー(前記基底部摺動材のオレフィン系熱可塑性エラストマーとは材料の配合比率が異なる)で、押出成形により形成されてなることを特徴とするガラスラン。」
と訂正する。
(2)訂正事項b.
特許請求の範囲の請求項2について、
(2a)「基底部及び側壁部からなるチャンネル部と、前記側壁部から延びるシールリップ部と、前記基底部の表面に被覆された基底部摺動材と、前記シールリップ部の表面に被覆されたリップ部摺動材とを備えたガラスランにおいて、
前記チャンネル部がスプリング硬さHs70°〜90°(JIS A)の熱可塑性エラストマーで、前記シールリップ部がスプリング硬さHs50°〜70°(JIS A)の熱可塑性エラストマー(前記チャンネル部の熱可塑性エラストマーとは材料の配合比率が異なる)で、前記基底部摺動材がショア硬さD45°〜60°の熱可塑性エラストマー又は樹脂で、前記リップ部摺動材がショア硬さD30°〜45°の熱可塑性エラストマー又は樹脂(前記基底部摺動材の熱可塑性エラストマー又は樹脂とは材料の配合比率が異なる)で、押出成形により形成されてなることを特徴とするガラスラン。」
を、
(2b)「基底部及び側壁部からなるチャンネル部と、前記側壁部の自由端からチャンネル部の内側へ延びる二つのシールリップ部と、前記基底部の表面に被覆された基底部摺動材と、前記シールリップ部の表面に被覆されたリップ部摺動材とを備えたガラスランにおいて、
前記チャンネル部がスプリング硬さHs75°〜85°(JIS A)のオレフィン系熱可塑性エラストマーで、前記シールリップ部がスプリング硬さHs50°〜65°(JIS A)のオレフィン系熱可塑性エラストマー(前記チャンネル部のオレフィン系熱可塑性エラストマーとは材料の配合比率が異なる)で、前記基底部摺動材がショア硬さD50°〜60°のオレフィン系熱可塑性エラストマーで、前記リップ部摺動材がショア硬さD30°〜40°のオレフィン系熱可塑性エラストマー(前記基底部摺動材のオレフィン系熱可塑性エラストマーとは材料の配合比率が異なる)で、押出成形により形成されてなることを特徴とするガラスラン。」
と訂正する。
(3)訂正事項c.
上記a.及びb.の訂正に伴い、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載との整合をとるため、明りょうでない記載の釈明を目的として、明細書の段落【0009】ないし【0015】、及び【0026】を訂正するものである。

2.訂正の目的の可否、新規事項の有無、及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否
本件訂正の訂正事項a.及びb.は、平成15年改正前の特許法第120条の4第2項第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とする明細書の訂正に該当するものであり、訂正事項c.は、同項第3号に規定する明瞭でない記載の釈明を目的とした明細書の訂正に該当するものである。
そして、訂正事項a.〜c.は、願書に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないから、同法第120条の4第3項において準用する同法第126条第2項及び第3項の規定に適合するものである。

3.むすび
本件訂正の請求は、認められるものである。

第3 特許異議の申立ての概要
1.申立人北村学は、甲第1号証(特開平9-76765号公報)、甲第2号証(特開昭63-151516号公報)、甲第3号証(特開昭62-241725号公報)、甲第4号証(特開昭62-255217号公報)、甲第5号証(特開平10-129273号公報)、及び甲第6号証(実願昭54-141424号(実開昭56-61575号)のマイクロフィルム)を提出し、本件特許の請求項1の発明は、甲第1号証ないし甲第5号証に記載された発明に基いて、請求項2の発明は、甲第1号証ないし甲第6号証に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであるから、特許法第113条第2号に該当し、取り消されるものである旨、主張している。
2.申立人宮首一生は、甲第1号証(特開昭63-137018号公報)、甲第2号証(特開平9-76765号公報)、及び甲第3号証(特開昭62-241725号公報)を提出し、本件特許の請求項1ないし請求項2の発明は、甲第1号証ないし甲第3号証に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであるから、特許法第113条第2号に該当し、取り消されるものである旨、主張している。

第4 本件発明
上記第2で検討したように、本件訂正は認められるものであるから、その訂正明細書の請求項1及び請求項2に係る発明(以下、それぞれ、本件発明1及び本件発明2という。)は、訂正明細書の特許請求の範囲の請求項1及び請求項2に記載された事項により特定されるとおりのものであって、その内容は、それぞれ、第2の1.(1)における(1b)及び第2の1.(2)における(2b)に記載されたものである。

第5 当審の取消理由通知における引用刊行物及びその記載事項
1.引用刊行物
刊行物1:国際公開第97/8005号パンフレット
刊行物2:特開昭63-137018号公報
刊行物3:特開平9-76765号公報
刊行物4:実願平4-43148号(実開平5-93940号)の願書に最初に添付した明細書及び図面の内容を記録したCD-ROM
刊行物5:特開平10-129273号公報
刊行物6:特開平5-1186号公報
以下、刊行物5及び刊行物6は、この決定に関係しないので、刊行物1〜4について、検討を行う。

2.引用刊行物の記載事項
(1)刊行物1の記載事項
(a)「As shown in FIG.3, the glass run 1 for an an automobile is formed by extrusion molding and is configured to be mounted on a door frame 12 of an automobile door 11. As shown in FIG.1, the glass run 1 includes an elongated main body 2 having a flared U-shaped configuration in transverse cross section and having a longitudinally extending guide channel to guide a peripheral edge of a door glass 4. The main body 2 has a substantially uniform cross-sectional configuration over the entire length thereof and is constituted mainly of a pair of opposed side walls 21 and a bottom wall 22 interconnecting the side walls 21. The glass run 1 also includes a pair of opposed lips 3 extending along the main body 2. The lips 3 are integrally formed with distal or upper ends of the side walls 21 of the main body 2 and have wedge-shaped peripheral edges. As will be apparent, the lips 3 project inwardly from the side walls 21 and incline to the bottom wall 22 at acute angles.
The lips 3 include contact areas on outer surfaces 34 thereof (upper surfaces of the lips 3 in FIG. 1) for contacting side surfaces 4a of the movable door glass 4. Each contact area of the lips 3 is provided with a contact layer 31 over the entire length and width thereof in a manner that total thickness of the lip 3 and the contact layer 31 is substantially equal. Also, the bottom wall 22 of the main body 2 includes a contact area on an inner surface 24 thereof (upper surface of the bottom wall 22 in FIG. 1) for contacting an upper end edge surface 4b of the movable door glass 4. Similarly, the contact area of the bottom wall 22 is provided with a contact layer 23.」(第5頁第17行-第6頁第20行)
(b)「The main body 2 and the lips 3 are formed of desired materials, for example, polyolefinic thermoplastic elastomer. The contact layers 23 and 31 are formed of desired lubricative synthetic resinous materials, for example, highly polymerized polyolefinic composition. Further, the contact layers 23 and 31 are simultaneously formed by coextrusion molding during extrusion molding of the main body 2 and the lips 3.」(第8頁第12-19行)
(c)「the main body and the lips may be formed of other materials, for example, thermoplastic olefin resin (TPO) and soft PVC (vinyl chrolide resin) having a JIS (Japanese Industrial Srandard) A hardness from 60° to 80°. Moreover, the cantact layers may be formed of superiorly adhesive lubricative materials, for example, thermoplastic olefin resin (TPO) having a Shore D hardness of 50° and containing powdered Teflon.」(第15頁第14-21行)

上記記載事項(a)、(b)及び(c)については、刊行物1の内容を日本国内で公表した公報である特表平10-513416号公報があり、その対応部分の記載は、それぞれ以下の(a′)、(b′)及び(c′)である。
(a′)図3に示されるように、自動車用のガラスラン1は押出成形によって形成され、自動車のドア11のドアフレーム12に取り付け可能な形状に成形されている。図1に示されるように、ガラスラン1は長尺状の本体2を有し、この本体2はその横断面においてフレアー状のU字形に形成され、ドアガラス4の周縁をガイドするための長手方向に延びる案内溝を有する。本体2はその全長にわたってほぼ均一な断面形状を有し、対向する一対の側壁21とこれらの側壁21を連結する底壁22とを主体として構成されている。ガラスラン1は本体2に沿って延びる対向する一対のリップ3も有している。リップ3は本体2の側壁21の末端すなわち上端に一体状に形成され、楔形の端縁を有する。明らかなように、リップ3は側壁21から内向きに突出し、底壁22に向かって鋭角状に傾斜している。
リップ3は可動式のドアガラス4の側面4aに接触する接触領域をその外面34(図1におけるリップ3の上面)に有している。リップ3の各接触領域にはその全長及び全幅にわたって接触層31が形成されている。この場合において、リップ3と接触層31との厚さの合計が一定になるように設定されている。また、本体2の底壁22は可動式のドアガラス4の上縁面4bに接触する接触領域をその内面24(図1における底壁22の上面)に有している。同様に、底壁22の接触領域には接触層23が形成されている。(第6頁第19行-第7頁第9行)
(b′)本体2及びリップ3は所望の材料、たとえば、ポリオレフィン系熱可塑性エラストマーで形成されている。接触層23及び31は所望の催滑性合成樹脂材、たとえば、超高分子量ポリオレフィン組成物で形成されている。さらに、接触層23及び31は本体2及びリップ3の押出成形時に共押出によって同時成形されている。(第8頁第8-12行)
(c′)本体及びリップは他の材料、たとえば、熱可塑性オレフィン樹脂(TPO)やJIS(日本工業規格)のA硬度60〜80°の軟質PVC(塩化ビニル樹脂)で形成することもできる。さらに、接触層は接着性の高い催滑性材料、たとえば、ショアーD硬度50°の熱可塑性オレフィン樹脂(TPO)にテフロン(商標名)の粉末を加えたもので形成することもできる。(第12頁第10-15行)

したがって、刊行物1には、
「底壁22及び側壁21からなる本体部と、側壁の末端から本体部の内向きに突出する一対のリップ3と、底壁の上面のドアガラスとの接触領域に形成された接触層23と、リップ部のドアガラスとの接触領域に形成された接触層31とを備えたガラスランにおいて、
本体とリップがポリオレフィン系熱可塑性エラストマーで、底壁の接触層とリップの接触層が、催滑性合成樹脂材である超高分子量ポリオレフィン組成物や、接着性の高い催滑性材料であるショアーD硬度50°の熱可塑性オレフィン樹脂(TPO)にテフロン(商標名)の粉末を加えたもので形成し、押出成形により形成されるガラスラン」について、記載されており、また、「本体及びリップをJIS(日本工業規格)のA硬度60〜80°の軟質PVC(塩化ビニル樹脂)で形成する」ことが記載されている。

(2)刊行物2の記載事項
(d)「ポリオレフイン系エラストマー製の基材の各被摺接面に滑性塗膜が形成されてなるチヤンネル型の自動車用ガラスランにおいて、ガラス端面が摺接する溝底部の滑性塗膜が、超高分子量ポリエチレンを前記基材に熱融着させて形成されていることを特徴とする自動車用ガラスラン。」(特許請求の範囲,第1頁左下欄第5-11行)
(e)「・・・ガラスGの端面及び両側面と摺接する各被摺接面に形成される滑性塗膜3,5が、高密度ポリエチレンなどのポリオレフイン系樹脂を熱融着させて形成されたものが特公昭59-40994号公報に記載されている。」(第1頁右下欄第4-8行)
(f)「・・・ベンデイングリツプ部1b上の滑性塗膜5には、溝底部1aにおける滑性塗膜3ほどの耐摩耗性が要求されない(∵前者がガラス側面と摺接するのに対し、後者がガラス端面と摺接するため)。」(第2頁左下欄第5-9行)

(3)刊行物3の記載事項
(g) 自動車の窓枠に装着するための本体部と,開閉される窓ガラスに摺動接触する摺動部とを一体的に有する自動車用ウェザーストリップにおいて,上記本体部は,オレフィン系樹脂とゴムとよりなるオレフィン系熱可塑性エラストマーにより構成し,一方,上記摺動部は,ポリオレフィン系樹脂と熱可塑性エラストマーとの混合体により構成してなることを特徴とする自動車用ウェザーストリップ。(【請求項1】,第2頁第1欄第2-9行)
(h) 請求項1において,上記混合体に用いる熱可塑性エラストマーは,スチレン系熱可塑性エラストマー,又は該スチレン系熱可塑性エラストマーとオレフィン系熱可塑性エラストマーとの混合エラストマーのいずれかよりなることを特徴とする自動車用ウェザーストリップ。(【請求項2】,第2頁第1欄第10-15行)
(i)図1に示すごとく,本例の自動車用ウェザーストリップ1は,前述の図5に示すごとく,自動車8の窓枠82に装着するためのグラスランチャンネルであって,横断面U字形の本体部11と,開閉される窓ガラス81に摺動接触する摺動部10とを一体的に有する。(段落番号0023,第3頁第4欄第47行-第4頁第5欄第2行)
(j)上記U字形の本体部11の先端には,その内側方向へ延設したガラスリップ12が設けてあり,上記摺動部10は該ガラスリップ12の表面に設けてある。また,上記U字形の本体部11の内側底面100においても,上記摺動部10が設けてある。(段落番号0024,第4頁第5欄第3-7行)
(k)また,上記ウェザーストリップ1の製造に当たっては,押出機を用い,まず本体部11及びガラスリップ12よりなる基体部を押し出し成形し,その口金より出てきた基体部のガラスリップ12及び内側底面100の表面に摺動部10の材料を押し出し,一体的に成形した。(段落番号0025,第4頁第5欄第8-13行)
(l)上記本体部11は,オレフィン系樹脂とゴムとよりなるオレフィン系熱可塑性エラストマーにより構成し,一方,上記摺動部12は,ポリオレフィン系樹脂と熱可塑性エラストマーとの混合体により構成してなる。(段落番号0026,第4頁第5欄第14-18行)
記載事項(l)において、「摺動部12」は、その他の部分の記載からみて、「摺動部10」の誤記であるものと認める。

(4)刊行物4の記載事項
(m)「実施例について説明すると、本考案のグラスランチャンネルは次のように構成される。10は断面コの字状の本体であって、その少なくとも大部分はJIS(A)硬度30〜80度、好ましくは60〜75度の軟質材料Sよりなり、21,22はその本体10の開口端両側から中央線に向かって突設したリップであって、その少なくとも一部、例えばリップ21,22の付け根を除くガラス30と弾接する部分のいずれか一方はJIS(A)硬度70〜100度、好ましくは85〜95度の硬質材料Hよりなる。なお、本体10の底部分(全体、あるいは表面だけ)を硬質材料Hにしてもよい。さらに、リップ21,22の表面の少なくとも一方に軟質材料Sよりなる層23を形成してもよい。」(段落番号0006,第4頁第12-20行)
(n)【図4】〜【図7】には、上記(m)の記載事項が図示されており、特に、【図5】〜【図7】には、リップの表面に軟質材料よりなる層23を形成したことと、大部分は軟質材料からなる本体の底部分の全体あるいは表面だけを硬質材料Hにしたことが図示されている。

第6 特許異議申立てについての判断
1.本件発明1の特許の要件について
(1)刊行物1との対比
本件発明1と刊行物1に記載の発明とを対比する。
刊行物1の記載事項(a)〜(c)に記載の「bottom wall(底壁)22」、「side walls(側壁)21」、「main body(本体)2」、「lips(リップ)3」、「contact layer(接触層)23」、「contact layer(接触層)31」、「glass run(ガラスラン)1」、「polyolefinic thermoplastic elastomer(ポリオレフィン系熱可塑性エラストマー」、「JIS (Japanese Industrial Srandard) A hardness(JIS(日本工業規格)のA硬度)」、「Shore D hardness(ショアーD硬度)」は、それぞれ、本件発明1の「基底部」、「側壁部」、「チャンネル部」、「シールリップ部」、「基底部摺動材」、「リップ部摺動材」、「ガラスラン」、「オレフィン系熱可塑性エラストマー」、「スプリング硬さHs(JIS A)」、「ショア硬さD」に相当する。
したがって、両者は、以下の点で一致し、相違する。

【一致点】
基底部及び側壁部からなるチャンネル部と、前記側壁部の自由端からチャンネル部の内側へ延びる二つのシールリップ部と、前記基底部の表面に被覆された基底部摺動材と、前記シールリップ部の表面に被覆されたリップ部摺動材とを備えたガラスランにおいて、前記チャンネル部と前記シールリップ部とがオレフィン系熱可塑性エラストマーで、押出成形により形成されてなるガラスラン。

【相違点】
(A)本件発明1においては、基底部摺動材が、オレフィン系熱可塑性エラストマーであるのに対し、刊行物1においては、所望の催滑性合成樹脂材(たとえば、超高分子量ポリオレフィン組成物)、あるいは接着性の高い催滑性材料(たとえば、ショアーD硬度50°の熱可塑性オレフィン樹脂(TPO)にテフロン(商標名)の粉末を加えたもの)である点。
(B)本件発明1においては、リップ部摺動材が、基底部摺動材の熱可塑性エラストマーとは材料の配合比率が異なるオレフィン系熱可塑性エラストマーであるのに対し、刊行物1においては、リップ部摺動部材が、所望の催滑性合成樹脂材(たとえば、超高分子量ポリオレフィン組成物)あるいは接着性の高い催滑性材料(たとえば、・・・熱可塑性オレフィン樹脂(TPO)にテフロン(商標名)を加えたもの)であり、加えて、基底部摺動材との材料の配合比率の関係について、記載がない点。
(C)本件発明1においては、チャンネル部とシールリップ部の硬度について、スプリング硬さHs70°〜80°(JIS A)と数値限定されているのに対し、刊行物1においては、当該硬度について、60°〜80°(JIS A)とすることも可能であるとされている点。
(D)本件発明1においては、基底部摺動材及びリップ部摺動材の硬度について、それぞれショア硬さD50°〜60°、及び30°〜40°と数値限定されているのに対し、刊行物1においては、基底部摺動材及びリップ部摺動材双方の硬度について、ショア硬さD50°にできるとされている点。

(2)判断
ア.相違点(A)
相違点(A)について、刊行物3の記載事項(h)〜(l)には、本件発明1の基底部摺動材に相当する内側底面100の表面に設けられた摺動部10を、スチレン系熱可塑性エラストマーとオレフィン系熱可塑性エラストマーとの混合エラストマーで構成することが、すなわち、基底部摺動材に、オレフィン系熱可塑性エラストマーを使用することが記載されており、刊行物1にも摺動部を接着性の高い催滑性材料で形成することが記載されているから、刊行物1に記載された基底部摺動材に、刊行物3に記載されているように、オレフィン系熱可塑性エラストマーを使用することは、当業者が容易に想到しうる程度のことである。
また、ガラスランの摺動材として、オレフィン系熱可塑性エラストマーを用いる自体が、周知技術(必要であれば、特開平9-176408号公報の、特に【0010】〜【0012】、及び【0025】〜【0027】のオレフィン系熱可塑性エラストマーを成分とするウェザーストリップの表皮部材用ポリオレフィン樹脂組成物に関する記載、あるいは特開平10-71649号公報の、特に【0001】〜【0002】、【0008】のガラスランのドアガラス摺接部に使用されるオレフィン系等の熱可塑性エラストマーむ含む樹脂層を備えたテープ部材に関する記載等を参照。)であって、このうち、本特許権者の出願に係る特開平10-71649号公報において、その【0008】の記載ではオレフィン系熱可塑性エラストマーが樹脂に含まれるものとして扱われているから、この周知技術を刊行物1の基底部摺動材への適用を阻害する要因は認められない。

イ.相違点(B)
相違点(B)について、刊行物3の記載事項(h)〜(l)には、本件発明1のリップ部摺動材に相当するガラスリップ12の表面に設けられた摺動材10を、スチレン系熱可塑性エラストマーとオレフィン系熱可塑性エラストマーとの混合エラストマーで構成することが、すなわち、リップ部摺動材に、オレフィン系熱可塑性エラストマーを使用することが記載されており、刊行物1にも摺動部を接着性の高い催滑性材料で形成することが記載されているから、刊行物1に記載されたリップ部摺動材に、刊行物3に記載されているように、オレフィン系熱可塑性エラストマーを使用することは、当業者が容易に想到しうる程度のことである
さらに、上記ア.で検討したように、また、ガラスランの摺動材として、オレフィン系熱可塑性エラストマーを用いる自体が、周知技術であると認められ、その刊行物1のリップ部摺動材への適用を阻害する要因は認められない。
また、リップ部摺動材と基底部摺動材の材料の配合比率が異なる点については、刊行物2の記載事項(f)には、本件発明1のシールリップ部に相当するベンディンググリップ部の摺動部については、たわみ性が阻害されることが望ましくないことから、より硬度の低い樹脂により塗膜を形成することが記載され、基底部摺動材よりもリップ部摺動材に硬度の低い材料を使用することが示唆されている。両者の硬度が異なれば、その材料の配合比率は、必然的に異なるものであり、この点に、格別の創意が存在するものとは認められない。
この硬度についての刊行物2の示唆に関する認定が誤りである旨、特許権者は意見書において主張するが、一般的に硬度と耐摩耗性に正の相関関係があることは、技術常識(例えば、特開平9-295377号公報【0012】「熱可塑性樹脂エラストマーの高度が低いと、一般的に耐摩耗性が低下し」の記載を参照。)であり、仮に、例外が存在するとしても、リップ部摺動材より基底部摺動材にドアガラスが強く摺接するという自動車において普通に起きる現象に対して、基底部摺動材の硬度を高くするという手段を講じることは、当業者が当然に行うべき程度のことである。
さらに、刊行物4においても、本体部分の底部分の表面を硬質材料Hとし、リップの表面に軟質材料Sよりなる層を形成することが記載されており、刊行物2と同様の理由で、両摺動材の材料の配合比率を異ならせることを示しているものと認められる。

ウ.相違点(C)
チャンネル部とシールリップ部の硬度の数値に係る相違点(C)については、本件発明1の数値と刊行物1に記載された数値は、合致する部分が存在し、また、合致しない部分においても、その部分が格別の臨界的意義を奏するものとも認められないから、当業者が、適宜選択しうる設計的事項の域を出ないものである。
また、特許権者は、意見書において、「特定の材料に対する硬度の数値範囲として○○〜○○」という前提条件が必須である旨主張するが、既に検討したとおり、材料としての熱オレフィン系熱可塑性エラストマーの採用は、当業者にとって容易になし得ることであるから、たとえ、材料について合わせて考えても、この数値範囲を選択することに困難性は認められない。

エ.相違点(D)
摺動材の硬度の数値に係る相違点(D)について、本件発明1の基底部摺動材の硬度は、刊行物1に記載された数値と合致する部分が存在し、また、合致しない部分においても、その部分が格別の臨界的意義を奏するものとも認められないから、当業者が適宜選択しうる設計的な事項の域を出ないものである。
そしてリップ部摺動材の硬度に関しては、上記刊行物4の記載事項(m)からは、本体の底部分の全体あるいは表面だけを、JIS(A)硬度70〜100度の硬質材料Hとし、同じ硬質材料Hで構成されたリップの表面に、その少なくとも大部分はJIS(A)硬度30〜80度の軟質材料Sよりなる層を形成したことが認識でき、この軟質材料Sの硬度は、特許庁のウェブサイト
(http://www.jpo.go.jp/shiryou/s_sonota/hyoujun_gijutsu/golf_ball/page147.htm)
で閲覧可能で、本決定書に別表として添付した特許庁標準技術集「ゴルフボール」7-B-3-d 硬さ比較(目安)の項に掲載された硬さデータ比較表(以下、硬さデータ比較表という。)によれば、JIS K 6301A(JIS-A)JA型の30〜80°は、JIS K 6253D(ショアD)D型の30°〜40°と一部合致するものである。
すなわち、刊行物4には、本件発明1のリップ部摺動材に相当する構成として、リップ部の表面に軟質材料Sからなる層であって、その硬度の数値範囲が一部合致するものが記載されており、本件発明1の基底部摺動材に相当する本体の底部分の表面が、当該軟質材料より硬度の高い硬質材料Hで形成されているものが記載されている。(JIS(A)硬度70〜100度という硬質材料Hの硬度も、上記硬さデータ比較表によれば、本件発明1の基底部摺動材のショア硬さD50°〜60°と一部合致するものと推認される。)
さらに、上記イ.でも検討したように、リップ部摺動材より基底部摺動材にドアガラスが強く摺接するという自動車において普通に起きる現象に対して、基底部摺動材の硬度を高くするという手段を講じることは、当業者が当然に行うべき程度のことでもあるから、刊行物1に記載されたガラスランにおいて、リップ部摺動材の硬度として刊行物4に記載のものを採用することに、格別の創意はないものと認められる。
そして、本件発明1のリップ部摺動材の硬度のうち、刊行物4に記載されたものと合致しない部分についても、その部分が格別の臨界的意義を奏するものとも認められないから、当業者が適宜選択しうる設計的な事項の域を出ないものである。
特許権者は、JIS(A)硬度とショアD硬度の換算が技術的にナンセンスと主張するが、上記硬さデータ比較表は、当業者間の標準的な知識として認識され、特許庁標準技術集に掲載されているものであり、この換算を不当であるとする根拠が認められない。

(3)小括(本件発明1)
以上により、本件発明1は、刊行物1〜4に記載された発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものと認められる。

2.本件発明2の特許の要件について
(1)刊行物1との対比
本件発明2と刊行物1に記載の発明とを対比する。
刊行物1の記載事項(a)〜(c)に記載の「bottom wall(底壁)22」、「side walls(側壁)21」、「main body(本体)2」、「lips(リップ)3」、「contact layer(接触層)23」、「contact layer(接触層)31」、「glass run(ガラスラン)1」、「polyolefinic thermoplastic elastomer(ポリオレフィン系熱可塑性エラストマー」、「JIS (Japanese Industrial Srandard) A hardness(JIS(日本工業規格)のA硬度)」、「Shore D hardness(ショアーD硬度)」は、それぞれ、本件発明2の「基底部」、「側壁部」、「チャンネル部」、「シールリップ部」、「基底部摺動材」、「リップ部摺動材」、「ガラスラン」、「オレフィン系熱可塑性エラストマー」、「スプリング硬さHs(JIS A)」、「ショア硬さD」に相当する。
したがって、両者は、以下の点で一致し、相違する。

【一致点】
基底部及び側壁部からなるチャンネル部と、前記側壁部の自由端からチャンネル部の内側へ延びる二つのシールリップ部と、前記基底部の表面に被覆された基底部摺動材と、前記シールリップ部の表面に被覆されたリップ部摺動材とを備えたガラスランにおいて、前記チャンネル部がオレフィン系熱可塑性エラストマーで、押出成形により形成されてなることを特徴とするガラスラン。

【相違点】
(E)本件発明2においては、基底部摺動材が、オレフィン系熱可塑性エラストマーであるのに対し、刊行物1においては、所望の催滑性合成樹脂材(たとえば、超高分子量ポリオレフィン組成物)、あるいは接着性の高い催滑性材料(たとえば、ショアーD硬度50°の熱可塑性オレフィン樹脂(TPO)にテフロン(商標名)の粉末を加えたもの)である点。
(F)本件発明2においては、リップ部摺動材が、基底部摺動材の熱可塑性エラストマーとは材料の配合比率が異なるオレフィン系熱可塑性エラストマーであるのに対し、刊行物1においては、リップ部摺動部材が、所望の催滑性合成樹脂材(たとえば、超高分子量ポリオレフィン組成物)あるいは接着性の高い催滑性材料(たとえば、・・・熱可塑性オレフィン樹脂(TPO)にテフロン(商標名)を加えたもの)であり、加えて、基底部摺動材との材料の配合比率の関係について、記載がない点。
(G)本件発明2においては、チャンネル部及びシールリップ部の硬度について、それぞれスプリング硬さHs75°〜85°及び50°〜65°(JIS A)と数値限定されており、両者のオレフィン系熱可塑性エラストマーの材料の配合比率が異なるのに対し、刊行物1においては、チャンネル部及びシールリップ部両方の硬度について、60°〜80°(JIS A)とすることも可能であるとされ、両者のオレフィン系熱可塑性エラストマーの材料の配合比率については、特定されていない点。
(H)本件発明2においては、基底部摺動材及びリップ部摺動材の硬度について、それぞれショア硬さD50°〜60°、及び30°〜40°と数値限定されているのに対し、刊行物1においては、基底部摺動材及びリップ部摺動材双方の硬度について、ショア硬さD50°にできるとされている点。

(2)判断
ア.相違点(E)
相違点(E)についても、相違点(A)を検討したのと同様であって、刊行物1におけるガラスランの基底部摺動材の耐摩耗性樹脂として、熱可塑性オレフィン樹脂に代えて、刊行物3に記載され、またガラスランの摺動材への適用が周知であるオレフィン系熱可塑性エラストマーを用いることは、当業者が容易に想到しうる程度のことであると認められる。

イ.相違点(F)
相違点(F)についても、相違点(B)で説示したのと同様であって、刊行物1のリップ部摺動材として、刊行物3記載のオレフィン系熱可塑性樹脂を使用することに格別の困難性はなく、リップ部摺動材と基底部摺動材の材料の配合比率が異なる点に格別の創意が存在するものとは認められない。

ウ.相違点(G)
チャンネル部とシールリップ部の硬度の数値に係る相違点(G)については、本件発明2の数値と刊行物1に記載された数値は、合致する部分が存在し、また、合致しない部分においても、その部分が格別の臨界的意義を奏するものとも認められないから、当業者が適宜選択しうる設計的な事項の域を出ないものであると認められる。
また、本件発明2においては、チャンネル部とシールリップ部で異なる数値を採り、チャンネル部の方がシールリップ部よりも硬度が高くなっているが、チャンネル部とシールリップ部を有する形式のガラスランにおいて、このように硬度を設定することは周知技術(必要であれば、特開平5-57820号公報の、特に【0026】の「図7に示したように・・・成形体51の外面上にシール部のゴム材より硬質の熱可塑性樹脂で成る基部43が付着形成した形状のグラスラン40が複合成形体33として得られる。」の記載、あるいは特開平3-255135号公報の、特に、第1頁右下欄第8-14行の「ウェザーストリップは、窓ガラスの昇降を許しながら、窓ガラスの周辺から雨水などが侵入しないようにするために取り付けられるもので、窓ガラスの外形に合うよう枠状に形成された硬質部分と、窓ガラスに向かって突出して窓ガラスに密接する軟質部分とが、一体に成形されたものである。」の記載等を参照すること。)であって、刊行物1に記載されたガラスランのチャンネル部とシールリップ部について、当該周知技術のように硬度を設定することが、困難であるという理由はない。
そして、チャンネル部及びシールリップ部のオレフィン系熱可塑性エラストマーの材料の配合比率が異なる点については、両者の硬度が異なれば、その材料の配合比率は、必然的に異なるものであり、この点に、格別の創意が存在するものとは認められない。

エ.相違点(H)
基底部摺動材とリップ部摺動材の硬度の数値に係る相違点(H)についても、相違点(D)について検討したのと同様であって、本件発明2の基底部摺動材の硬度及びリップ部摺動材の硬度に関して、刊行物4の数値を採用することは、当業者の通常の創作能力の発揮に過ぎないものと認められる。

(3)小括(本件発明2)
以上により、本件発明2は、刊行物1〜4に記載された発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものと認められる。

第7 むすび
特許異議の申し立てられた請求項1及び請求項2に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであって、平成15年改正前の特許法第113条第2号に該当すると認められるから、同法第114条第2項の規定により、結論のとおり決定する。







(別表)特許庁標準技術集「ゴルフボール」
7-B-3-d 硬さ比較(目安)
「硬さデータ比較表」

 
発明の名称 (54)【発明の名称】
ガラスラン
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基底部及び側壁部からなるチャンネル部と、前記側壁部の自由端からチャンネル部の内側へ延びる二つのシールリップ部と、前記基底部の表面に被覆された基底部摺動材と、前記シールリップ部の表面に被覆されたリップ部摺動材とを備えたガラスランにおいて、
前記チャンネル部と前記シールリップ部とがスプリング硬さHs70°〜80°(JIS A)のオレフィン系熱可塑性エラストマーで、前記基底部摺動材がショア硬さD50°〜60°のオレフィン系熱可塑性エラストマーで、前記リップ部摺動材がショア硬さD30°〜40°のオレフィン系熱可塑性エラストマー(前記基底部摺動材のオレフィン系熱可塑性エラストマーとは材料の配合比率が異なる)で、押出成形により形成されてなることを特徴とするガラスラン。
【請求項2】
基底部及び側壁部からなるチャンネル部と、前記側壁部の自由端からチャンネル部の内側へ延びる二つのシールリップ部と、前記基底部の表面に被覆された基底部摺動材と、前記シールリップ部の表面に被覆されたリップ部摺動材とを備えたガラスランにおいて、
前記チャンネル部がスプリング硬さHs75°〜85°(JIS A)のオレフィン系熱可塑性エラストマーで、前記シールリップ部がスプリング硬さHs50°〜65°(JIS A)のオレフィン系熱可塑性エラストマー(前記チャンネル部のオレフィン系熱可塑性エラストマーとは材料の配合比率が異なる)で、前記基底部摺動材がショア硬さD50°〜60°のオレフィン系熱可塑性エラストマーで、前記リップ部摺動材がショア硬さD30°〜40°のオレフィン系熱可塑性エラストマー(前記基底部摺動材のオレフィン系熱可塑性エラストマーとは材料の配合比率が異なる)で、押出成形により形成されてなることを特徴とするガラスラン。
【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、移動するガラスの外周縁部と摺接してガラスの移動をガイドするとともに、ガラスとの間をシールするガラスランに関するものである。
【0002】
【従来の技術】
図5及び図6並びに図7及び図8は、自動車のドアサッシュ21に取り付けられてドアガラス22の外周縁部をシールする、従来の2種類のガラスラン51,61を示している。いずれのガラスラン51,61も、基底部52,62及び二つの側壁部53,63からなる断面略コ字形のチャンネル部54,64と、両側壁部53,63の先端からチャンネル部54,64内へ延びる二つのシールリップ部55,65とを備えている。
【0003】
チャンネル部54,64は適度に硬くないとドアサッシュ21への挿入容易性が低下する(挿入時に側壁部53,63がたわんでドアサッシュ21の奥の方まで挿入しづらい)とともに、基底部52,62の両側端部のドアサッシュ21内面への弾接による嵌合力が低下する。一方、シールリップ部55,65は適度に軟らかくないとシール性及び耐へたり性が低下するため、材料の選択が重要である。また、基底部52,62の表面にはドアガラス22の外周縁端面が摺接し、シールリップ部55,65の表面にはドアガラス22の外周縁両面が摺接するため、いずれの表面も摩耗を防止して耐久性を向上させる必要がある。
【0004】
図5及び図6のガラスラン51はEPDMゴムを基材とするもので、チャンネル部54とシールリップ部55とがスプリング硬さHs70°〜90°(JIS A)のEPDMゴムでそれぞれ所定の肉厚に押出成形され、加硫硬化された後、基底部52の表面に接着剤層を介して植毛57が施され、シールリップ部55の表面にスプリング硬さHs90°(JIS A)程度のポリウレタン樹脂よりなる厚さ50μm程度の摺動膜58が塗布形成されて、形成されている。
【0005】
図7及び図8のガラスラン61は熱可塑性エラストマー(以下、TPEという。)を基材とするもので、チャンネル部64とシールリップ部65とがスプリング硬さHs70°〜90°(JIS A)のオレフィン系TPE(以下、TPOという。)で肉厚約1〜2mmに押出成形されると同時に、基底部62の表面に基底部摺動材67がショア硬さD30°〜45°のポリエチレン樹脂で肉厚約50μm〜約1mmに押出成形され、シールリップ部65の表面にリップ部摺動材68が同じくショア硬さD30°〜45°のポリエチレン樹脂で押出成形されて、形成されている。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
図5及び図6のガラスラン51は、ガラスランにとって好ましい機械的性質(特に、弾性、ヒステリシス等)を持つEPDMゴムで形成されているため、チャンネル部54とシールリップ部55とに同一硬さのEPDMゴムを使用しても、チャンネル部54のドアサッシュ21への挿入容易性及び嵌合力向上と、シールリップ部55のシール性及び耐へたり性とを両立させることができる。しかし、ゴムの加硫工程、植毛工程等の製造工程数が多く、コストが高くなるという問題があった。
【0007】
図7及び図8のガラスラン61は、図5及び図6のガラスラン51よりは製造工程数が少なく、コストを下げることができる。しかし、TPOの機械的性質(特に、弾性、ヒステリシス等)が現時点ではEPDMゴムに及ばないため、チャンネル部64とシールリップ部65とに同一硬さのTPOを使用して、チャンネル部64のドアサッシュ21への挿入容易性及び嵌合力向上とシールリップ部65のシール性及び耐へたり性とを両立させようとすると、シールリップ部65の弾性が不足気味になる。また、基底部摺動材67とリップ部摺動材68とに同一硬さのポリエチレン樹脂を使用して耐摩耗性を確保しようとすると、ドアガラス22が強く摺接する基底部摺動材67のために硬いポリエチレン樹脂を使用する必要があるので、リップ部摺動材68が必要以上に硬くなる。こうして、弾性が不足気味のシールリップ部65の表面に必要以上に硬いリップ部摺動材68が形成されると、シールリップ部65が異常に変形したりドアガラス22への追従性が低下したりして、シール切れが起こるおそれがあった。
【0008】
本発明の目的は、上記課題を解決し、製造工程数が少なく、コストを下げることができるとともに、チャンネル部のサッシュへの挿入容易性及び嵌合力向上と、シールリップ部のシール性及び耐へたり性とを容易に両立させることができ、また、シールリップ部の表面にリップ部摺動材を形成してもシール切れが起こらないようにできるガラスランを提供することにある。
【0009】
【課題を解決するための手段】
第一の発明は、基底部及び側壁部からなるチャンネル部と、側壁部の自由端からチャンネル部の内側へ延びる二つのシールリップ部と、基底部の表面に被覆された基底部摺動材と、シールリップ部の表面に被覆されたリップ部摺動材とを備えたガラスランにおいて、チャンネル部とシールリップ部とがスプリング硬さHs70°〜80°(JIS A)のTPOで、基底部摺動材がショア硬さD50°〜60°のTPOで、リップ部摺動材がショア硬さD30°〜40°のTPO(前記基底部摺動材のTPOとは材料の配合比率が異なる)で、押出成形により形成されてなることを特徴とする。
【0010】
【0011】
第一の発明において、チャンネル部とシールリップ部のTPOのスプリング硬さはHs70°〜80°(JIS A)である。基底部摺動材のTPO又は樹脂のショア硬さはD50°〜60°である。リップ部摺動材のTPOのショア硬さはD30°〜40°である。基底部摺動材は硬めに、リップ部摺動材は柔らかめに、それぞれ振れることが好ましい。
【0012】
第二の発明は、基底部及び側壁部からなるチャンネル部と、側壁部の自由端からチャンネル部の内側へ延びる二つのシールリップ部と、基底部の表面に被覆された基底部摺動材と、シールリップ部の表面に被覆されたリップ部摺動材とを備えたガラスランにおいて、チャンネル部がスプリング硬さHs75°〜85°(JIS A)のTPOで、シールリップ部がスプリング硬さHs50°〜65°(JIS A)のTPO(前記チャンネル部の熱可塑性エラストマーとは材料の配合比率が異なる)で、基底部摺動材がショア硬さD50°〜60°のTPOで、前記リップ部摺動材がショア硬さD30°〜40°のTPO(前記基底部摺動材のTPOとは材料の配合比率が異なる)で、押出成形により形成されてなることを特徴とする。
【0013】
【0014】
第二の発明において、チャンネル部のTPOのスプリング硬さはHs75°〜85°(JIS A)である。シールリップ部のTPOのスプリング硬さはHs50°〜65°(JIS A)である。基底部摺動材のTPO又は樹脂のショア硬さはD50°〜60°である。リップ部摺動材のTPOのショア硬さはD30°〜40°である。基底部摺動材は硬めに、リップ部摺動材は柔らかめに、それぞれ振れることが好ましい。
【0015】
第一及び第二の各発明において、チャンネル部及びシールリップ部のTPEは、オレフィン系(TPO)である。基底部摺動材及びリップ部摺動材のTPEは、オレフィン系(TPO)である。
【0016】
【発明の実施の形態】
図1及び図2は本発明の第一実施形態のガラスラン1を示しており、図3に示すように、自動車のドアサッシュ21に取り付けられてドアガラス22の外周縁部をシールするものである。このガラスラン1は、基底部2及び二つの側壁部3からなるチャンネル部4と、両側壁部3の自由端からチャンネル部4の内側へ延びる二つのシールリップ部5と、基底部2の表面に被覆された基底部摺動材7と、シールリップ部5の表面に被覆されたリップ部摺動材8とを備えている。
【0017】
このガラスラン1は、チャンネル部4がスプリング硬さHs70°〜90°(JIS A)のTPOで、シールリップ部5がスプリング硬さHs50°〜70°(JIS A)のTPO(チャンネル部4のTPOとは材料の配合比率が異なる)で、基底部摺動材7がショア硬さD45°〜60°のTPOで、リップ部摺動材8がショア硬さD30°〜45°のTPO(基底部摺動材7のTPOとは材料の配合比率が異なる)で、同時押出成形により形成されてなる。従って、製造工程数が少なく、コストを下げることができる。
【0018】
このガラスラン1は、図2に示すように、ドアサッシュ21に長手方向に挿入されて取り付けられる。チャンネル部4は、スプリング硬さHs70°〜90°(JIS A)のTPOで適度に硬く形成されているので、ドアサッシュ21に容易に挿入することができる。
【0019】
また、チャンネル部4は、図1に示すように両側壁部3が逆ハ字状に開いた状態で押出成形され、図2に示すように両側壁部3が弾性に抗して略平行に寄せられた状態でドアサッシュ21に嵌合される。チャンネル部4は、前記の通り適度に硬く形成されているので、基底部2の両側端部が適度な弾性によりドアサッシュ21の内面に当接し、十分な嵌合力が得られる。
【0020】
両シールリップ部5は、上下動(図2では紙面に対して垂直方向)するドアガラス22の外周縁両面を挟む。シールリップ部5はスプリング硬さHs50°〜70°(JIS A)のTPOで適度に軟らかく形成されているので、EPDMゴムに近い機械的性質(特に、弾性、ヒステリシス等)を示し、優れたシール性及び耐へたり性が得られる。また、シールリップ部5は適度に柔らかく形成されているので、ドアサッシュ21の開口側端縁と弾接して、両者の間を密にシールする。
【0021】
基底部摺動材7には、上下動するドアガラス22の外周縁端面が摺接し、しばしば強く摺接することがある。しかし、基底部摺動材7はショア硬さD45°〜60°のTPOで硬く形成されているので、摩耗が防止され高い耐久性が得られる。
【0022】
リップ部摺動材8には、上下動するドアガラス22の外周縁両面が摺接する。リップ部摺動材8はショア硬さD30°〜45°のTPOで必要最小限の硬さに形成されているので、摩耗が防止されるだけでなく、前記シールリップ部5の機械的性質を損なうことが軽微である。従って、シールリップ部5の異常変形やドアガラスへの追従性低下を招かず、シール切れを起こさない。
【0023】
図4は、本発明の第二実施形態のガラスラン11を示しており、チャンネル部4とシールリップ部5とをスプリング硬さHs60°〜80°(JIS A)のTPOで押出成形により一体的に形成した点においてのみ、第一実施形態と相違している。
【0024】
このガラスラン11においては、図7及び図8のガラスラン61と同じく、チャンネル部4のドアサッシュ21への挿入容易性及び嵌合力向上とシールリップ部5のシール性及び耐へたり性とを両立させることが多少難しくなるが、図7及び図8のガラスラン61と異なり、基底部摺動材7がショア硬さD45°〜60°のTPOで硬く形成され、リップ部摺動材8がショア硬さD30°〜45°のTPOで必要最小限の硬さに形成されるので、シールリップ部5の異常変形やドアガラスへの追従性低下を招かず、シール切れが起こらない。
【0025】
なお、本発明は前記実施形態に限定されるものではなく、例えば以下のように、発明の趣旨から逸脱しない範囲で適宜変更して具体化することもできる。
【0026】
(1)本発明を車両の側面又は後部のスライドガラス用のガラスランに適用すること。
(2)本発明を車両のルーフ部に設けられたスライディングルーフ用のスライド部分のガラスラン(ウエザストリップ)に適用すること。
【0027】
【発明の効果】
以上詳述した通り、第一の発明に係るガラスランによれば、製造工程数が少なく、コストを下げることができるとともに、シールリップ部の表面にリップ部摺動材を形成してもシール切れが起こらない、という優れた効果を奏する。
【0028】
また、第二の発明に係るガラスランによれば、製造工程数が少なく、コストを下げることができるとともに、チャンネル部のサッシュへの挿入容易性及び嵌合力向上と、シールリップ部のシール性及び耐へたり性とを容易に両立させることができ、また、シールリップ部の表面にリップ部摺動材を形成してもシール切れが起こらない、という優れた効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の第一実施形態のガラスランを示す断面図である。
【図2】図1のガラスランをドアサッシュに嵌合したときの断面図である。
【図3】図1のガラスランを適用する自動車の部分側面図である。
【図4】本発明の第二実施形態のガラスランをドアサッシュに嵌合したときの断面図である。
【図5】従来例のガラスランを示す断面図である。
【図6】図5のガラスランをドアサッシュに嵌合したときの断面図である。
【図7】別の従来例のガラスランを示す断面図である。
【図8】図7のガラスランをドアサッシュに嵌合したときの断面図である。
【符号の説明】
1 ガラスラン
2 基底部
3 側壁部
4 チャンネル部
5 シールリップ部
7 基底部摺動材
8 リップ部摺動材
11 ガラスラン
21 ドアサッシュ
22 ドアガラス
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2004-09-30 
出願番号 特願平10-169336
審決分類 P 1 651・ 121- ZA (B60J)
最終処分 取消  
前審関与審査官 島田 信一  
特許庁審判長 藤井 俊明
特許庁審判官 鈴木 久雄
田々井 正吾
登録日 2002-08-02 
登録番号 特許第3334619号(P3334619)
権利者 豊田合成株式会社
発明の名称 ガラスラン  
代理人 平田 忠雄  
代理人 平田 忠雄  

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