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審決分類 |
審判 全部申し立て 特36 条4項詳細な説明の記載不備 C09J 審判 全部申し立て 発明同一 C09J 審判 全部申し立て 2項進歩性 C09J 審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載 C09J |
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管理番号 | 1112931 |
異議申立番号 | 異議2003-72273 |
総通号数 | 64 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許決定公報 |
発行日 | 1994-12-20 |
種別 | 異議の決定 |
異議申立日 | 2003-09-10 |
確定日 | 2004-12-27 |
異議申立件数 | 1 |
訂正明細書 | 有 |
事件の表示 | 特許第3385711号「耐熱性接着材料」の請求項1ないし11に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 |
結論 | 訂正を認める。 特許第3385711号の請求項1ないし10に係る特許を維持する。 |
理由 |
理 由 1.手続の経緯 本件特許第3385711号の請求項1ないし11に係る発明は、平成6年4月11日(優先権主張 平成5年4月13日)に出願され、平成15年1月10日に特許権の設定登録がなされ、その後、特許異議申立人能田好壽(以下、「申立人」という。)から特許異議の申立てがなされ、取消しの理由が通知され、その指定期間内である平成16年9月6日付けで訂正請求がなされたものである。 2.訂正の適否についての判断 (ア)訂正の内容 訂正請求は、本件特許明細書を訂正請求書に添付した訂正明細書のとおりに訂正しようとするものであって、その訂正の内容は次の(a)〜(h)のとおりである。 (a)特許請求の範囲請求項1に、「厚みが0.1μm以上15μm以下」とあるのを、「厚みが1μm以上3μm以下」と、「熱可塑性耐熱性接着剤層Aのガラス転移点が」とあるのを、「該熱可塑性耐熱性接着剤層Aがシロキサン系ジアミンを5モル%以上含むジアミン成分と芳香族テトラカルボン酸とを反応させて得られるものであり、ガラス転移点が」と訂正する。 (b)特許請求の範囲請求項2に、「厚みが0.1μm以上15μm以下」とあるのを、「厚みが1μm以上3μm以下」と、「熱可塑性耐熱性接着剤層Aがポリイミド系樹脂」とあるのを、「熱可塑性耐熱性接着剤層Aがシロキサン系ジアミンを5モル%以上含むジアミン成分と芳香族テトラカルボン酸とを反応させて得られるポリイミド系樹脂」と訂正する。 (c)特許請求の範囲請求項3を削除し、「請求項4〜11」の項番号を、「請求項3〜10」と一つずつ繰り上げる。 (d)特許請求の範囲の訂正後の請求項3に、「請求項3記載の」とあるのを「請求項2記載の」と、同請求項4に、「請求項3または4記載の」とあるのを「請求項2記載の」と、 同請求項8に、「請求項1〜8のいずれか記載の」とあるのを「請求項1〜7のいずれか記載の」と、 同請求項9に、「請求項1〜9のいずれかに記載の」とあるのを「請求項1〜8のいずれかに記載の」と、同請求項10に、「請求項10記載の」とあるのを「請求項9記載の」とそれぞれ訂正する。 (e)明細書段落【0012】に、「厚みが0.1μm以上15μm以下」(2ヶ所)とあるのを、「厚みが1μm以上3μm以下」と、「熱可塑性耐熱性接着剤層Aのガラス転移点が」とあるのを、「該熱可塑性耐熱性接着剤層Aがシロキサン系ジアミンを5モル%以上含むジアミン成分と芳香族テトラカルボン酸とを反応させて得られるものであり、ガラス転移点が」と、「熱可塑性耐熱性接着剤層Aがポリイミド系樹脂」とあるのを、「熱可塑性耐熱性接着剤層Aがシロキサン系ジアミンを5モル%以上含むジアミン成分と芳香族テトラカルボン酸とを反応させて得られるポリイミド系樹脂」とそれぞれ訂正する。 (f)明細書段落【0013】、【0035】に、「0.1μm以上15μm以下」とあるのを、「1μm以上3μm以下」とそれぞれ訂正する。 (g)明細書段落【0015】に、「その厚みは0.1μm以上15μm以下であることが重要である。より好ましくは0.5μm以上12μm以下であるが、」とあるのを、「その厚みは1μm以上3μm以下であることが重要である。」と訂正する。 (h)明細書段落【0057】、【0059】に、「実施例3」、「比較例1」とあるのを、「比較例1」、「比較例2」とそれぞれ訂正する。 (イ)訂正の目的の適否、新規事項の追加の有無及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否 上記訂正事項(a)、(b)は、厚みを「0.1μm以上15μm以下」から「1μm以上3μm以下」に限定し、熱可塑性耐熱性接着剤層Aを、特定の成分の反応により得られるものに特定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。そして、厚みの限定は、実施例1及び2の記載に、熱可塑性耐熱性接着剤層Aの特定は、訂正前の請求項3及び明細書段落【0017】、【0019】の記載に基づくものである。また、訂正事項(c)は、請求項を削除し、それ以降の項番号を繰り上げるものであるから、特許請求の範囲の減縮及び明りょうでない記載の釈明を目的とするものである。 さらに、訂正事項(d)は、各請求項において引用する請求項の番号を訂正後の番号に整合させるものであり、訂正事項(e)〜(g)は、発明の詳細な説明の記載を訂正後の特許請求の範囲の記載に整合させるものであり、訂正事項(h)は、特許請求の範囲の減縮により本件発明の実施例ではなくなったものを比較例とし、比較例の番号を整理するものであるから、明りょうでない記載の釈明を目的とするものである。 そして、上記訂正(a)〜(h)は、いずれも新規事項を追加するものではなく、実質的に特許請求の範囲を拡張又は変更するものでもない。 (ウ)むすび 以上のとおりであるから、上記訂正は、特許法第120条の4第3項において準用する平成6年法律第116号による改正前の特許法第126条第1項ただし書及び第2項の規定に適合するので、当該訂正を認める。 3.特許異議の申立てについての判断 (ア)本件発明 前述のように、本件訂正は適法なものであるので、本件の請求項1〜10に係る発明は、上記訂正に係る訂正明細書の特許請求の範囲請求項1〜10に記載された次のとおりのものである。 「【請求項1】 耐熱性樹脂層Bの少なくとも片面に熱可塑性耐熱性接着剤層Aを有する耐熱性接着材料であって、該熱可塑性耐熱性接着剤層Aの厚みが1μm以上3μm以下であり、かつ該熱可塑性耐熱性接着剤層Aの200℃における弾性率が106dyn/cm2以上109dyn/cm2以下であり、該熱可塑性耐熱性接着剤層Aがシロキサン系ジアミンを5モル%以上含むジアミン成分と芳香族テトラカルボン酸とを反応させて得られるものであり、ガラス転移点が50℃以上200℃以下であることを特徴とする耐熱性接着材料。 【請求項2】 耐熱性樹脂層Bの少なくとも片面に熱可塑性耐熱性接着剤層Aを有する耐熱性接着材料であって、該熱可塑性耐熱性接着剤層Aの厚みが1μm以上3μm以下であり、かつ該熱可塑性耐熱性接着剤層Aの200℃における弾性率が106dyn/cm2以上109dyn/cm2以下であり、熱可塑性耐熱性接着剤層Aがシロキサン系ジアミンを5モル%以上含むジアミン成分と芳香族テトラカルボン酸とを反応させて得られるポリイミド系樹脂であることを特徴とする耐熱性接着材料。 【請求項3】 ジアミン成分がシロキサン系ジアミンを50モル%以上含むことを特徴とする請求項2記載の耐熱性接着材料。 【請求項4】シロキサン系ジアミンが次の一般式[I]で表わされるものであることを特徴とする請求項2記載の耐熱性接着材料。 【化1】 (ただし、式中nは1以上の整数を示す。またR1およびR2は、それぞれ同一または異なって、低級アルキレン基またはフェニレン基を示し、R3、R4、R5およびR6は、それぞれ同一または異なって、低級アルキル基、フェニル基またはフェノキシ基を示す。) 【請求項5】耐熱性樹脂層Bの250℃における弾性率が108dyn/cm2以上1010dyn/cm2以下であることを特徴とする請求項1または2記載の耐熱性接着材料。 【請求項6】耐熱性樹脂層Bがポリフェニレンスルフィド系樹脂、ポリイミド系樹脂またはポリアラミド系樹脂であることを特徴とする請求項1または2記載の耐熱性接着材料。 【請求項7】加熱温度100℃以上300℃以下における発生ガス量が500ppm以下であることを特徴とする請求項1または2記載の耐熱性接着材料。 【請求項8】請求項1〜7のいずれか記載の耐熱性接着材料を耐熱性樹脂フィルムの片面または両面に積層したことを特徴とする耐熱性接着材料。 【請求項9】リードフレーム周辺材料であることを特徴とする請求項1〜8のいずれかに記載の耐熱性接着材料。 【請求項10】リードフレーム固定用接着テープ、リードオンチップ用接着テープまたはヒートスプレッダー用接着テープであることを特徴とする請求項9記載の耐熱性接着材料。」 (以下、「本件発明1」〜「本件発明10」といい、まとめて「本件発明」ともいう。) (イ)申立ての理由の概要 申立人は、甲第1号証〜甲第3号証を提出し、本件出願の優先権主張の基礎となった出願(特願平5-86116号)の願書に最初に添付した明細書(甲第1号証)に記載される耐熱性接着材料は、「熱可塑性耐熱性接着剤層Aの厚みが0.1μm以上5μm以下」、かつ、「250℃における弾性率が107dyn/cm2以上109dyn/cm2未満」であるのに対し、本件の訂正前の請求項1及び2に係る発明は、「厚みが0.1μm以上15μm以下」、「200℃における弾性率が106dyn/cm2以上109dyn/cm2以下」であり、該出願に記載されていなかった新たな発明を構成する部分を含むので、優先権の利益を享受することができないものである。そうしてみると、訂正前の請求項1〜11に係る発明は、本件出願の実際の出願日(平成6年4月11日)より前に頒布された甲第2号証(特開平5-335379号公報;公開日平成5年12月17日)に記載された発明であるか、甲第2号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたもので、当該請求項に係る発明は特許法第29条第1項第3号に該当するか、同条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、また、訂正前の請求項1、2、6、7、8、10、11に係る発明は、本件出願の出願前の特許出願であって、その出願後に出願公開がされた特許出願(特願平5-303708号;出願日平成5年12月3日;特開平6-218880号(甲第3号証)参照)の願書に最初に添付された明細書又は図面に記載された発明と同一であり、しかも、この出願の発明者がその出願前の特許出願に係る上記の発明をした者と同一ではなく、またこの出願の時において、その出願人が上記特許出願の出願人と同一でもないので、特許法第29条の2の規定により特許を受けることができないものであるから、取り消されるべきであると主張している。さらに、本件明細書の発明の詳細な説明は、当業者が容易に発明を実施し得る程度に記載されておらず、特許法第36条第4項に規定する要件を満たしていないので、本件特許は取り消されるべきと主張している。 (ウ)当審で通知した取消しの理由 当審において通知した取消しの理由の概要は、上記請求人の主張と同趣旨である。 (エ)証拠及びその記載内容 申立人1の提出した甲第1号証〜甲第3号証には、以下の事項が記載されている。 (a)甲第1号証(特願平5-86116号の願書に最初に添付した明細書) 甲第1号証には、「耐熱性樹脂層Bの少なくとも片面に熱可塑性耐熱性接着剤層Aを有する耐熱性接着材料であって、該熱可塑性耐熱性接着剤層Aの厚みが0.1μm以上5μm以下であり、かつ該熱可塑性耐熱性接着剤層Aの250℃における粘弾性率が107 dyn/cm2以上109dyn/cm2未満であることを特徴とする耐熱性接着材料。」(特許請求の範囲請求項1)が記載されている。 また、ワニスの合成として、ビス(3-アミノプロピル)テトラメチルジシロキサン、p-フェニレンジアミン、3,3´,4,4´-ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物を反応させポリアミック酸ワニスAを得、該ワニスAから製造されたフィルムの250℃の粘弾性率を測定したところ、2×108dyn/cm2であったことが記載されている(段落【0048】、【0049】)。 (b)甲第2号証(特開平5-335379号公報) 甲第2号証には、「耐熱性絶縁フィルムと、該耐熱性絶縁フィルムの少なくとも片面に形成されたポリイミド系樹脂層とからなり、該ポリイミド系樹脂層の酸成分がベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物を主成分とする芳香族テトラカルボン酸二無水物であり、ジアミン成分がシロキサン系ジアミンを主成分として、かつパラフェニレンジアミンを2.5モル%〜19モル%含むものからなり、しかも、該ポリイミド系樹脂層の、加熱温度100℃以上300℃以下における発生ガス量が250ppm以下であることを特徴とする耐熱性接着材料。」(特許請求の範囲請求項1)が記載されている。 耐熱性絶縁フィルムに形成されるポリイミド系樹脂層の厚みについて、「耐熱性樹脂フィルム上に5〜30μmのポリアミック酸のイミド化した薄膜を形成する。」(段落【0020】)と記載され、実施例において、20μm(実施例1)、10μm(実施例2)、12μm(実施例3)の膜厚のものが製造されている。 (c)甲第3号証(特願平5-303708号の公開公報である特開平6-218880号公報) 甲第3号証には、「絶縁性基体上の両面又は片面に熱可塑性ポリイミドを必須成分とする熱可塑性重合体の層を有し、該熱可塑性重合体のガラス転移温度が180℃〜280℃の温度範囲であり、弾性率が、25℃に於いて1010〜1011dyne/cm2の範囲であり、250〜300℃において102〜109dyne/cm2の範囲であることを特徴とする接着性絶縁テープ」(特許請求の範囲請求項1)が記載されている。 熱可塑性重合体に含まれる熱可塑性ポリイミドとして、1,3-ビス(3-アミノフェノキシ)ベンゼン、4,4´-ビス(3-アミノフェノキシ)ビフェニルをジアミン成分として含有する構造単位からなるものが挙げられている(特許請求の範囲請求項6、8、10)。また、ポリイミドの構成成分である芳香族ジアミンの一部を他の芳香族ジアミンと置き換えても問題無いとして、置き換え可能な芳香族ジアミンが多数例示されている(段落【0037】〜【0040】)。 (オ)対比・判断 (1)特許法第29条第1項第3号、同条第2項について (i)本件発明1について 甲第2号証には、「耐熱性絶縁フィルムと、該耐熱性絶縁フィルムの少なくとも片面に形成されたポリイミド系樹脂層とからなり、該ポリイミド系樹脂層の酸成分がベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物を主成分とする芳香族テトラカルボン酸二無水物であり、ジアミン成分がシロキサン系ジアミンを主成分として、かつパラフェニレンジアミンを2.5モル%〜19モル%含むもの」からなる耐熱性接着材料の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されている。 ここで、本件発明1の耐熱性接着材料と引用発明のものとを比べてみると、引用発明の耐熱性接着材料における、「耐熱性絶縁フィルム」、「酸成分がベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物を主成分とする芳香族テトラカルボン酸二無水物であり、ジアミン成分がシロキサン系ジアミンを主成分として、かつパラフェニレンジアミンを2.5モル%〜19モル%含むものからなるポリイミド系樹脂層」は、ポリイミド系樹脂層がガラス転移温度を特に限定していないことから、それぞれ、本件発明1における、「耐熱性樹脂層B」、「シロキサン系ジアミンを5モル%以上含むジアミン成分と芳香族テトラカルボン酸とを反応させて得られるものであり、ガラス転移点が50℃以上200℃以下の熱可塑性耐熱性接着剤層A」に相当するものである。そうしてみると、甲第2号証には、本件発明1でいう「耐熱性樹脂層Bの少なくとも片面に熱可塑性耐熱性接着剤層Aを有する耐熱性接着材料」の発明が記載されている。 しかしながら、該熱可塑性耐熱性接着剤層の厚みについて、甲第2号証には、「耐熱性樹脂フィルム上に5〜30μmのポリアミック酸のイミド化した薄膜を形成する。」(段落【0020】)と記載され、実施例においても、20μm(実施例1)、10μm(実施例2)、12μm(実施例3)の膜厚のものが製造されているにすぎず、本件発明1のように熱可塑性耐熱性接着剤層の厚みを「1μm以上3μm以下」とすることはなんら記載されるものではない。また、このような厚みの設定が甲第2号証に記載されているに等しい事項とすることもできない。 したがって、本件発明1は、甲第2号証に記載された発明であるとすることはできない。 また、本件発明1は、熱可塑性耐熱性接着剤層の厚みを「1μm以上3μm以下」と特定することにより、さらに、やはり甲第2号証には記載も示唆もされない熱可塑性耐熱性接着剤層の200℃における弾性率を特定することにより、高温度において接着性が良好で、しかも、ワイヤボンディングが良好に行えるという格別の効果を奏したものである。 したがって、本件発明1は、甲第2号証に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたとされるものでもない。 (ii)本件発明2について 本件発明2の耐熱性接着材料と引用発明のものとを比べてみると、引用発明の耐熱性接着材料における、「耐熱性絶縁フィルム」、「酸成分がベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物を主成分とする芳香族テトラカルボン酸二無水物であり、ジアミン成分がシロキサン系ジアミンを主成分として、かつパラフェニレンジアミンを2.5モル%〜19モル%含むものからなるポリイミド系樹脂層」は、それぞれ、本件発明2における、「耐熱性樹脂層B」、「シロキサン系ジアミンを5モル%以上含むジアミン成分と芳香族テトラカルボン酸とを反応させて得られるポリイミド系樹脂である熱可塑性耐熱性接着剤層A」に相当するものである。そうしてみると、甲第2号証には、本件発明2でいう「耐熱性樹脂層Bの少なくとも片面に熱可塑性耐熱性接着剤層Aを有する耐熱性接着材料」の発明が記載されている。 しかしながら、上記「(i)本件発明1について」で述べたように、甲第2号証には、熱可塑性耐熱性接着剤層の厚みを「1μm以上3μm以下」とすることはなんら記載されておらず、熱可塑性耐熱性接着剤層の200℃における弾性率も特定されていない。したがって、同様に、本件発明2は、甲第2号証に記載された発明であるとも、甲第2号証に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたとされるものでもない。 (iii)本件発明3〜10について 本件発明3〜7は、本件発明1、2の構成をさらに限定するものであり、また、本件発明8〜10は、実質的に本件発明1、2の耐熱性接着材料を利用する耐熱性接着材料であるから、本件発明1、2が上記のとおり甲第2号証に記載された発明であるとも、甲第2号証に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたとされるものでもないことからすれば、本件発明3〜7、8〜10も同様に、甲第2号証に記載された発明であるとも、甲第2号証に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたとされるものではない。 (2)特許法第29条の2について (i)本件発明1、2について 甲第3号証には、特願平5-303708号の願書に最初に添付した明細書及び図面(以下、「先願明細書」という。)の内容が記載されていると認められるが、甲第3号証に記載の接着性絶縁テープにおける、「絶縁性基体」、「熱可塑性ポリイミドを必須成分とする熱可塑性重合体の層」は、本件発明1、2における「耐熱性樹脂層B」、「熱可塑性耐熱性接着剤層A」にそれぞれ相当するものである。甲第3号証における熱可塑性重合体をみてみると、その必須成分である熱可塑性ポリイミドの構造単位におけるジアミン成分について、1,3-ビス(3-アミノフェノキシ)ベンゼンまたは4,4´-ビス(3-アミノフェノキシ)ビフェニルが挙げられ、さらに、ポリイミドの構成成分である芳香族ジアミンの一部を他の芳香族ジアミンと置き換えても問題ないと記載されている(段落【0037】)。しかしながら、置き換え可能な芳香族ジアミンとして多数例示されている具体的な化合物に、シロキサン系ジアミンは含まれておらず、また、シロキサン系ジアミンが含まれることが技術常識であるとされるものでもない。 そうしてみると、先願明細書には、本件発明1、2における、「シロキサン系ジアミンを5モル%以上含むジアミン成分と芳香族テトラカルボン酸とを反応させて得られるものであり、ガラス転移点が50℃以上200℃以下である」もしくは「シロキサン系ジアミンを5モル%以上含むジアミン成分と芳香族テトラカルボン酸とを反応させて得られるポリイミド系樹脂である」熱可塑性重合体の層を有する接着性絶縁テープの発明は記載されていないといえる。 したがって、本件発明1、2は、先願明細書に記載された発明と同一ではない。 (ii)本件発明3〜10について 本件発明3〜10は、実質的に本件発明1、2を引用するものであるから、同様に先願明細書に記載された発明とは同一ではない。 (3)特許法第36条第4項について 申立人は、本件発明において、熱可塑性樹脂層Aを形成する熱可塑性樹脂として、本件明細書の実施例では「ワニスA」が合成され、そのガラス転移点は92℃であり、200℃における弾性率は2×108dyn/cm2であると記載されているが(段落番号【0050】)、本件出願の優先権主張の基礎となる出願の明細書(甲第1号証)にも同一の組成および反応方法で調製した「ワニスA」が記載され、この「ワニスA」は250℃における粘弾性率(弾性率)が2×108dyn/cm2であることが記載されており(段落【0048】〜【0049】)、熱可塑性樹脂においては、ガラス転移温度以上の温度では、ゴム状態となり、弾性率が急速に減少することは技術常識であるから、前記「ワニスA」のような挙動をとる熱可塑性樹脂は技術常識に反するものであり、このような熱可塑性樹脂をどのようにして調製すればよいのかわからず、当業者は本件発明を容易に実施することはできない旨を述べて、本件明細書の発明の詳細な説明は、当業者が容易に本件発明を実施することができる程度に、その発明の目的、構成及び効果が記載されているとはいえず、本件出願は、特許法第36条第4項に規定する要件を満たしていないと主張する。 確かに、熱可塑性樹脂は、ガラス転移温度以上の温度で弾性率が減少するとされているが、その減少の程度がどのようであるかは、個々の熱可塑性樹脂により相違するものであると考えられる。本件発明の熱可塑性樹脂は、ガラス転移点が92℃であり、200℃及び250℃における弾性率の測定値が小数点以下を丸めた場合に2×108dyn/cm2となるにすぎない弾性率の変化を示すものであるが、そのような熱可塑性樹脂の存在を、申立人は技術常識に反するというものの、そのことを具体的な文献・実験資料等をもって裏付けているわけではないので、そのような熱可塑性樹脂の存在をただちに否定し得るものではない。 そうしてみると、本件明細書の発明の詳細な説明の記載が不備であるとする申立人の主張は採用することができない。 4.むすび 以上のとおりであるから、特許異議の申立ての理由及び証拠によっては、本件発明1〜10に係る特許を取り消すことはできない。 また、他に本件発明1〜10に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。 したがって、本件発明1〜10についての特許は拒絶の査定をしなければならない特許出願に対してなされたものと認めない。 よって、結論のとおり決定する。 |
発明の名称 |
(54)【発明の名称】 耐熱性接着材料 (57)【特許請求の範囲】 【請求項1】耐熱性樹脂層Bの少なくとも片面に熱可塑性耐熱性接着剤層Aを有する耐熱性接着材料であって、該熱可塑性耐熱性接着剤層Aの厚みが1μm以上3μm以下であり、かつ該熱可塑性耐熱性接着剤層Aの200℃における弾性率が106dyn/cm2以上109dyn/cm2以下であり、該熱可塑性耐熱性接着剤層Aがシロキサン系ジアミンを5モル%以上含むジアミン成分と芳香族テトラカルボン酸とを反応させて得られるものであり、ガラス転移点が50℃以上200℃以下であることを特徴とする耐熱性接着材料。 【請求項2】耐熱性樹脂層Bの少なくとも片面に熱可塑性耐熱性接着剤層Aを有する耐熱性接着材料であって、該熱可塑性耐熱性接着剤層Aの厚みが1μm以上3μm以下であり、かつ該熱可塑性耐熱性接着剤層Aの200℃における弾性率が106dyn/cm2以上109dyn/cm2以下であり、熱可塑性耐熱性接着剤層Aがシロキサン系ジアミンを5モル%以上含むジアミン成分と芳香族テトラカルボン酸とを反応させて得られるポリイミド系樹脂であることを特徴とする耐熱性接着材料。 【請求項3】ジアミン成分がシロキサン系ジアミンを50モル%以上含むことを特徴とする請求項2記載の耐熱性接着材料。 【請求項4】シロキサン系ジアミンが次の一般式[I]で表わされるものであることを特徴とする請求項2記載の耐熱性接着材料。 【化1】 (ただし、式中nは1以上の整数を示す。またR1およびR2は、それぞれ同一または異なって、低級アルキレン基またはフェニレン基を示し、R3、R4、R5およびR6は、それぞれ同一または異なって、低級アルキル基、フェニル基またはフェノキシ基を示す。) 【請求項5】耐熱性樹脂層Bの250℃における弾性率が108dyn/cm2以上1010dyn/cm2以下であることを特徴とする請求項1または2記載の耐熱性接着材料。 【請求項6】耐熱性樹脂層Bがポリフェニレンスルフィド系樹脂、ポリイミド系樹脂またはポリアラミド系樹脂であることを特徴とする請求項1または2記載の耐熱性接着材料。 【請求項7】加熱温度100℃以上300℃以下における発生ガス量が500ppm以下であることを特徴とする請求項1または2記載の耐熱性接着材料。 【請求項8】請求項1〜7のいずれか記載の耐熱性接着材料を耐熱性樹脂フィルムの片面または両面に積層したことを特徴とする耐熱性接着材料。 【請求項9】リードフレーム周辺材料であることを特徴とする請求項1〜8のいずれかに記載の耐熱性接着材料。 【請求項10】リードフレーム固定用接着テープ、リードオンチップ用接着テープまたはヒートスプレッダー用接着テープであることを特徴とする請求項9記載の耐熱性接着材料。 【発明の詳細な説明】 【0001】 【産業上の利用分野】本発明は耐熱性接着材料に関するものであり、さらに詳しくは、リードフレーム周辺材料として使用される耐熱性接着材料に関するものである。 【0002】 【従来の技術】 電子機器のより小型、高性能化が進む中で半導体実装分野でも、小型、薄型、軽量、高密度のパッケージが求められてきている。 【0003】 この半導体実装技術のなかで、部品同志を接合するための高性能な耐熱性接着テープの開発が求めらるようになってきた。 【0004】 例えば、リードフレーム上にICチップを両面接着テープで固定するLOC(lead on chip)用接着テープ、またICチップの放熱のためICチップと金属の放熱板を接着するヒートスップレッダー用接着テープなどである。 【0005】 現在この接着テープは、一般にリードフレームメーカで、リードフレーム上にテ-ピングされた後、半導体メ-カでICチップと熱圧着し、さらにチップとリードフレームを超音波をかけながら250℃前後の温度でワイヤボンディングし、約180℃乃至200℃前後の温度で樹脂封止される。その後、250℃前後の温度の半田リフローによって実装される。このため、接着テープには電気特性は勿論のことテーピング直後の十分な室温接着力、ICチップとの接着力、ワイヤボンディング特性さらに半田耐熱性などの総合特性の良好なことが要求される。 【0006】 【発明が解決しようとする課題】 現在、この接着テープとしては、ポリイミドフィルムの両面にエポキシ系の熱硬化性接着剤を塗工したものが使用されている。しかしながら、このエポキシ系樹脂を、例えばLOC用接着テープに使用する場合は、NIKKEI MICRODEVICES 1989年9月号などに記載されているごとく、キュア時の発生ガスが基板金属表面を汚染し、接着力低下やパッケージクラックの発生などの問題がある。 【0007】 また、接着テープには、低温で部品同志の接合(ラミ)ができるという特性が要求される。すなわち、Cuなどの部品と接合(ラミ)を300℃をこえる温度で行うと、Cuが酸化され接着力などの特性が低下してしまうため、300℃以下の低温で部品同志の接合(ラミ)ができる接着剤が望まれているのである。 【0008】 このような状況の中で最近、熱可塑性接着剤を用いて、キュア時の発生ガスを抑制し、低温ラミを可能とする方法が検討されるようになった。 【0009】 従来、熱可塑性接着剤(いわゆるホットメルト接着剤)は被着体同志を合わせ加熱、加圧だけで容易に接着できキュア不要ですぐに使用できるため各種分野に広範囲に使用されているのは周知のとおりである。例えば、製本分野、包装紙器、木工・合板、製靴・アッセンブラーなどである。これらの、ベースポリマは、エチレン-酢酸ビニル、ポリアミド、ポリエステル、ポリカーボネート、ポリビニルアセタールなど用途、目的によって種々のものが使用されている。 【0010】 しかしながら、LOCやヒートスプレッダー用となどの接着テープには半田リフロー時や樹脂封止時の高温で接着力が低下しないという特性も要求されるため、これらの熱可塑性接着剤(ホットメルト接着剤)をポリイミド樹脂フィルムに塗工した接着剤材料は、半導体実装分野には耐熱性不足のため使用できない。なぜなら、通常の熱可塑性接着剤は、部品同志の接合(ラミ)の温度をこえると、接着剤は可塑化し接着力を失うからである。いいかえると、部品同志の接合(ラミ)の温度以上の高温度で半田リフローや樹脂封止を行うことは不可能であった。 【0011】 本発明は、かかる従来技術の諸欠点に鑑み、接着剤層および耐熱性樹脂層を特定することによって創案されたものであって、その目的とするところは、熱可塑性樹脂を使用したものでありながら、低温度で部品同志が接合(ラミ)でき、かつ半田リフロー時や樹脂封止時の高温度で接着力低下が少ないという、相矛盾するような特性を有する高性能耐熱性接着材料で、加熱時に発生するガス量が極めて少なく、しかも優れた接着性、耐薬品性および寸法安定性を有する耐熱性接着材料を提供するところにある。 【0012】 【課題を解決するための手段】 かかる本発明の目的は、耐熱性樹脂層の少なくとも片面に熱可塑性耐熱性接着剤層Aを有する耐熱性接着材料であって、該熱可塑性耐熱性接着剤層Aの厚みが1μm以上3μm以下であり、かつ該熱可塑性耐熱性接着剤層Aの200℃における弾性率が106dyn/cm2以上109dyn/cm2以下であり、該熱可塑性耐熱性接着剤層Aがシロキサン系ジアミンを5モル%以上含むジアミン成分と芳香族テトラカルボン酸とを反応させて得られるものであり、ガラス転移点が50℃以上200℃以下であることを特徴とする耐熱性接着材料により達成される。また、本発明の目的は、耐熱性樹脂層Bの少なくとも片面に熱可塑性耐熱性接着剤層Aを有する耐熱性接着材料であって、該熱可塑性耐熱性接着剤層Aの厚みが1μm以上3μm以下であり、かつ該熱可塑性耐熱性接着剤層Aの200℃における弾性率が106dyn/cm2以上109dyn/cm2以下であり、熱可塑性耐熱性接着剤層Aがシロキサン系ジアミンを5モル%以上含むジアミン成分と芳香族テトラカルボン酸とを反応させて得られるポリイミド系樹脂であることを特徴とする耐熱性接着材料によっても達成される。 【0013】 すなわち、従来は、耐熱性樹脂層の少なくとも片面に形成される接着剤層は、厚みが20μm程度と分厚いものであったのを、本発明においては1μm以上3μm以下と薄くし、かつ特定の弾性率を有する材質を用いることによって本発明の目的を達成したものである。 【0014】 本発明の耐熱性接着材料における熱可塑性耐熱性接着剤層Aは、200℃における弾性率が106dyn/cm2以上109dyn/cm2以下であることが重要である。より好ましくは5×107dyn/cm2以上5×108dyn/cm2以下である。200℃における弾性率が109dyn/cm2をこえる場合は、耐熱性接着材料を、例えばLOC用両面接着テープとして使用する場合、リードフレームとのラミネート可能になる温度が300℃を越える高温度になるため、例えばヒートスプレッダー用途の銅系の金属と張り合わせる場合に金属が酸化され接着力低下などが問題になる。また、106dyn/cm2未満の場合は、半田リフロー時の接着力低下が大きい。 【0015】 該熱可塑性耐熱性接着剤層Aは、耐熱性樹脂層Bの少なくとも片面に塗工されるが、その厚みは1μm以上3μm以下であることが重要である。超音波併用によるワイヤボンディングを行う場合には接着力が実用レベルを満足する範囲内で、できるだけ薄いほうが好ましい。15μmをこえる場合は、ワイヤボンディング時の超音波による加熱効率が減少する。0.1μm未満では接着力が確保できない。 【0016】 熱可塑性耐熱性接着剤層Aのガラス転移点は、50℃以上200℃以下であることが好ましい。ガラス転移点が50℃未満の場合は、接合(ラミ)可能温度は低いが、半田リフロー時や樹脂封止温度での接着力低下が大きくなるので好ましくない。また、200℃をこえる場合には、接合(ラミ)可能温度が300℃以上となるので好ましくない。 【0017】 熱可塑性耐熱性接着剤層Aの材料としては、ポリイミド系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリアミドイミド系樹脂、ポリエーテルサルホン系樹脂などが挙げられるが、耐熱性の点から、ポリイミド系樹脂が好ましい。さらに、ポリイミド系樹脂が、シロキサン系ジアミンを5モル%以上含むジアミン成分と芳香族テトラカルボン酸よりなるポリアミック酸をイミド化して得られる薄膜であることが好ましい。 【0018】 芳香族テトラカルボン酸としては、3,3′,4,4′-ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、2,2′,3,3′-ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、2,2′,3,3′-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、ピロメリット酸二無水物、3,3′,4,4′-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、2,2′,3,3′-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、2,2-ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)プロパン二無水物、2,2-ビス(2,3-ジカルボキシフェニル)プロパン二無水物、ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)エ-テル二無水物、ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)スルホン二無水物、1,1-ビス(2,3-ジカルボキシフェニル)エタン二無水物、ビス(2,3-ジカルボキシフェニル)メタン二無水物、2,3,6,7-ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、1,4,5,8-ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、1,2,5,6-ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、1,2,3,4-ベンゼンテトラカルボン酸二無水物、3,4,9,10-ペリレンテトラカルボン酸二無水物、2,3,6,7-アントラセンテトラカルボン酸二無水物、1,2,7,8-フェナントレンテトラカルボン酸二無水物などが用いられる。これらは単独または2種以上混合して用いられる。 【0019】 ジアミン成分としては、上述のようにジアミン成分中にシロキサン系ジアミンを5モル%以上含むものが好ましい。より好ましくは10モル%以上96モル%以下であり、さらに好ましくは50モル%以上94モル%以下である。 【0020】 シロキサン系ジアミンとしては、次の一般式[I]で表わされるものが挙げられる。 【0021】 【化2】 (ただし、式中nは1以上の整数を示す。またR1およびR2は、それぞれ同一または異なって、低級アルキレン基またはフェニレン基を示し、R3、R4、R5およびR6は、それぞれ同一または異なって、低級アルキル基、フェニル基またはフェノキシ基を示す)一般式[I]で表されるものの具体例としては、1,1,3,3-テトラメチル-1,3-ビス(4-アミノフェニル)ジシロキサン、1,1,3,3-テトラフェノキシ-1,3-ビス(4-アミノエチル)ジシロキサン、1,1,3,3,5,5-ヘキサメチル-1,5-ビス(4-アミノフェニル)トリシロキサン、1,1,3,3-テトラフェニル-1,3-ビス(2-アミノエチル)ジシロキサン、1,1,3,3-テトラフェニル-1,3-ビス(3-アミノプロピル)ジシロキサン、1,1,5,5-テトラフェニル-3,3-ジメチル-1,5-ビス(3-アミノプロピル)トリシロキサン、1,1,5,5-テトラフェニル-3,3-ジメトキシ-1,5ビス(4-アミノブチル)トリシロキサン、1,1,5,5-テトラフェニル-3,3-ジメトキシ-1,5ビス(5-アミノペンチル)トリシロキサン、1,1,3,3-テトラメチル-1,3-ビス(2-アミノエチル)ジシロキサン、1,1,3,3-テトラメチル-1,3-ビス(3-アミノプロピル)ジシロキサン、1,1,3,3-テトラメチル-1,3-ビス(4-アミノブチル)ジシロキサン、1,3-ジメチル-1,3-ジメトキシ-1,3-ビス(4-アミノブチル)ジシロキサン、1,1,5,5-テトラメチル-3,3-ジメトキシ-1,5-ビス(2-アミノエチル)トリシロキサン、1,1,5,5-テトラメチル-3,3-ジメトキシ-1,5-ビス(4-アミノブチル)トリシロキサン、1,1,5,5-テトラメチル-3,3-ジメトキシ-1,5-ビス(5-アミノペンチル)トリシロキサン、1,1,3,3,5,5-ヘキサメチル-1,5-ビス(3-アミノプロピル)トリシロ>キサン、1,1,3,3,5,5-ヘキサエチル-1,5-ビス(3-アミノプロピル)トリシロキサン、1,1,3,3,5,5-ヘキサプロピル-1,5-ビス(3-アミノプロピル)トリシロキサンなどが挙げられる。 【0022】 これらのシロキサン系ジアミンは、単独または二種以上混合して用いられる。また、シロキサン系ジアミン以外のジアミン成分として、従来公知のジアミン成分を併用することができる。 【0023】 上記芳香族テトラカルボン酸とジアミンとの反応は、従来公知の方法に準じて行うことができる。例えば、略化学量論量の酸成分とジアミン成分とを、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、N-メチル-2ピロリドン等の有機溶媒中で、0〜80℃の温度で反応させれば良い。これらの溶媒は、単独あるいは2種以上混合して用いられ、ポリアミック酸が折出しない程度であれば、ベンゼン、トルエン、ヘキサン、シクロヘキサン、テトラヒドロフラン、メチルエチルケトン等を加えても良い。 【0024】 ポリアミック酸ワニス濃度は、特に限定されず、塗工する装置あるいは塗工する膜厚などによって適宜選定すれば良い。 【0025】 耐熱性樹脂層Bとしては、250℃における弾性率が108dyn/cm2以上1010dyn/cm2以下の範囲のものが好ましい。250℃における弾性率が108dyn/cm2未満のものは、耐熱性が不足であり、例えばLOC用接着テープとして使用した場合にはICチップとリードフレームを超音波をかけながらワイヤボンディングする工程において樹脂が軟化してボンディング不良の原因になるので好ましくない。また、1010dyn/cm2をこえる場合は、熱可塑性耐熱性接着剤層Aと被着体の間に数μm〜15μm程度のシリコンウエハ粉など洗浄で取り除けなかった異物などが存在する場合には、この異物を「包み込む」ような緩衝効果がないため接着不良の問題が生じやすいので好ましくない。 【0026】 耐熱性樹脂層Bの例として、ポリフェニレンスルフィド系樹脂、ポリエーテルエーテルケトン系樹脂、ポリイミド系樹脂、ポリアラミド系樹脂、ポリアミドイミド系樹脂ポリエーテルイミド系樹脂、ポリパラバン酸系樹脂、ポリスルホン系樹脂、エポキシ系樹脂などの熱硬化系または熱可塑系樹脂などが挙げられるが、吸水率、寸法安定性、耐熱性、接着性などの点からポリフェニレンサルファイド樹脂、ポリイミド系樹脂、ポリアラミド系樹脂などが好ましい。これらの樹脂には無機および有機フィラーなどを必要に応じて添加することもできる。 【0027】 また、耐熱性樹脂層Bは必要に応じて、上記樹脂が単独あるいは積層して使用されても良い。 【0028】 さらに、これらの樹脂はコロナ放電、低温プラズマ、樹脂コーティングなど周知の接着性改良などの表面処理が施されていることが好ましい。 【0029】 例えば、減圧下で行う低温プラズマ処理の方法としては、ドラム状電極と複数の棒状電極からなる対極電極を有する内部電極型の放電処理装置内に被処理基材をセットし、前記処理ガスを0.01〜10Torr、好ましくは、0.02〜1Torrに調整した状態で電極間に直流あるいは交流の高電圧を印加して放電を行い、前記ガスのプラズマ発生させ、該プラズマに基材表面を晒して処理すればよい。低温プラズマ処理の条件は、処理装置、ガスの種類、圧力、電源の周波数などによって異なるので適宜最適条件を選択すれば良い。 【0030】 低温プラズマ処理に用いるガスとしては、Ar,N2,He,CO2,CO,空気、水蒸気、O2などのガスが単独または混合して使用でき、特に限定されるものではない。 【0031】 本発明の耐熱性接着材料は、目的に応じ、耐熱性樹脂フィルムの片面または両面に積層して使用される。耐熱性樹脂フィルムの例としては、ポリフェニレンスルフィド系樹脂、ポリエーテルエテルケトン系樹脂、ポリイミド系樹脂、ポリアラミド系樹脂、ポリアミドイミド系樹脂、ポリエーテルイミド系樹脂、ポリパラバン酸系樹脂、ポリスルホン系樹脂、フッソ系樹脂などの公知のフィルムが挙げられる。当然のことながら、これらの樹脂は前述の耐熱性樹脂層Bと同様にコロナ放電、低温プラズマ、樹脂コーティングなど周知の接着性改良などの表面処理が施されていることが好ましい。 【0032】 本発明の耐熱性接着材料は、加熱温度100〜300℃において発生するガス量が500ppm以下の条件を満足することが好ましい。より好ましくは250ppm以下、さらに好ましくは100ppm以下である。発生ガス量の少ないものほど、金属箔、耐熱樹脂などと接着した場合の発泡を少なくすることができる。 【0033】 ここで、耐熱接着材料の加熱温度100〜300℃において発生するガス量とは該耐熱接着材料のサンプルについて後述するDT・DTG-MS法 TG:Thermogravimetoric Analysis(熱重量分析) DTG:Derivative Thermogravimetoric Analysis(微分熱重量分析) MS:Mass Spectorometory(質量分析)」 により測定して求めたものである。 【0034】 次に、本発明の耐熱性接着材料の具体的な例として2軸配向ポリ-p-ポリフェニレンスルフィド樹脂フィルムをベースとした例の製造方法を次にあげる。 【0035】 すなわち低温プラズマ処理したポリフェニレンスルフィド樹脂フィルム上に、上記ポリアミック酸ワニスを5〜40重量%含む溶媒溶液を乾燥後の膜厚が1μm以上3μm以下になるように塗工する。この塗工方法としてはロールコータ、ナイフコータ、密封コータ、コンマコータ、ドクターブレードフロートコータなどによるものが挙げられる。 【0036】 次に上記のように耐熱性樹脂フィルムに塗工した溶液の溶媒を、通常60℃以上190℃程度の温度で連続的または断続的に10〜60分間で加熱除去した後、さらに必要によってはイミド化するための加熱処理を行なう。イミド化するための加熱処理としては180〜300℃の範囲で0.5〜15分程度の加熱処理を行うことが好ましい。 【0037】 このようにして作製された耐熱性接着材料の熱可塑性耐熱性接着剤層Aの弾性率、ガラス転移点、耐熱性樹脂層Bの弾性率は、接着剤層、樹脂層等を削りとり、分析することにより測定することができる。 【0038】 本発明にかかる耐熱性接着材料の使用例の一部として、耐熱樹脂フィルム同志の積層、金属との積層、例えば銅箔と積層するフレキシブルプリント基板用途、TAB用キャリアテープおよびリードフレーム固定用接着テープ、LOC用接着テープ、ヒートスプレッダー用接着テープなどのリードフレーム周辺材料など種々あげられる。 【0039】 具体例として、LOC用両面接着テープに使用する場合には、本発明品を使用目的の幅にスリットしたあと、熱可塑性耐熱性接着剤上の保護フィルムを剥がし吸着水分を除去後、リードフレームと重ね合わせ150℃以上300℃程度の温度で加熱圧着し、さらにICチップを接着固定すれば良い。接着力向上のためにはさらに加熱キュアを施したほうが好ましい。圧着の温度、圧力および加熱キュアの条件は樹脂の組成、膜厚、などによって適宜選定すればよい。また、加熱圧着の方法は、ヒートプレス、加熱ロールなど製造工程によって好ましく選定すれば良い。 【0040】 【実施例】 以下、本発明を実施例に基づいて詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。なお、以下の説明で弾性率、加熱時の発生ガス量、接着力、膜厚およびワイヤボンディング性はそれぞれ次の方法で評価および測定したものである。 【0041】 [弾性率]試料(4mm×40mm)を23℃、50%RHで、24時間以上調節後測定した。 【0042】 測定機および測定条件はつぎのとおりである。 【0043】 測定機;RHEO VIBRON DDV-II-EA[(株)ORIENTEC製] 測定温度;室温〜280℃(測定温度間隔;2℃) 駆動周波数;110Hz [発生ガス量]イミド化した薄膜を有する試料約100mgを精密科学天秤で秤量後、DT・DTG-MS法によって測定した。 【0044】 DT・DTG-MS法とは、TG装置にMS装置を直結して、重量変化と同時に、加熱時に試料から発生するガスの濃度変化を温度の関数として追跡する手法である。測定機および測定条件はつぎのとおりである。 【0045】 測定機;島津製作所(株)製TG(マクロ天秤)-MS同時測定装置 データ処理;東レリサーチセンター製データ処理システム “THADAP-TGMS” 測定精度;10ppm 測定モード;試料を白金製容器に入れてあらかじめ50℃で6時間真空乾燥した後、TG装置にセット後、乾燥ヘリウムを50ml/分で12時間以上流してから、10℃/分で昇温を開始し、400℃までのTG-MS曲線を測定し、150℃から300℃の発生ガスの総量を求めた。 【0046】 [接着力]JIS C-6481に準拠し、幅2mmの試料を90°剥離をテンシロンにて、引張り速度50mm/分で測定した。実用的には、0.8kg/cm以上の接着力が必要とされる。 【0047】 [膜厚]ベースフィルム、耐熱性樹脂層および熱可塑性耐熱性接着剤層の厚みは次の装置で測定した。 【0048】 測定機;表面粗さ形状測定機 「サ-フコム1500A」(株)東京精密製 (測定精度;nm〜μm) [ワイヤボンディング性]セカンドボンディング後のリードフレーム(42アロイ)上の金線のつぶれの状態を光学顕微鏡で観察した。 【0049】 試験機;NTC BONDER WA-1472;海上電気(株)製 ボンディング条件;基板加熱温度;250℃ 超音波周波数;60kHz(5W) 金線径;30μm ワニスの合成 [ワニスA]温度計、攪拌装置、還流コンデンサおよび乾燥N2吹込口を供えた300mlの4口フラスコに反応装置にN,N-ジメチルアセトアミド146g入れ窒素気流下でビス(3-アミノプロピル)テトラメチルジシロキサン14.0g(90mol%)およびp-フェニレンジアミン0.68g(10mol%)を溶解したあと、3,3′,4,4′-ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物20.3g(100mol%)を加え、10℃で1時間攪拌を続けた。その後50℃で3時間攪拌して反応させポリアミック酸ワニスAを得た。 【0050】 該ワニスAを銅箔(35μm)鏡面上に乾燥後の膜厚が約20μmになるようにバーコータで塗工後、80℃で10分乾燥し、さらに、150℃で10分乾燥さらに、250℃で30分加熱処理を施した。その後銅箔をエッチング除去し、水洗、乾燥したフィルムの発生ガス量を測定したところ60ppm以下であった。200℃の弾性率は、2×108dyn/cm2であった。ガラス転移点は92℃であった。 【0051】 [ワニスB]温度計、攪拌装置、還流コンデンサおよび乾燥N2吹込口を供えた300mlの4口フラスコにN,N-ジメチルアセトアミド146g入れ窒素気流下でビス(3-アミノプロピル)テトラメチルジシロキサン3.73g(30mol%)および4,4′-ジアミノジフェニルエーテル10.30g(70mol%)を溶解したあと、3,3′,4,4′-ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物16.11g(100mol%)を加え、10℃で1時間攪拌を続けた。その後50℃で3時間攪拌して反応させポリアミック酸ワニスBを得た。 【0052】 該ワニスBを銅箔(35μm)鏡面上に乾燥後の膜厚が約20μmになるようにバーコータで塗工後、80℃で10分乾燥し、さらに、150℃で10分乾燥さらに、250℃で30分加熱処理を施した。その後銅箔をエッチング除去し、水洗、乾燥したフィルムの発生ガス量を測定したところ60ppm以下であった。250℃の弾性率は、2×109dyn/cm2であった。 【0053】 実施例1 ワニスBを、あらかじめAr雰囲気中で低温プラズマ処理した50μmのポリイミド樹脂フィルム(“ユーピレックス”50S(宇部興産(株)製)に乾燥後の膜厚が20μmになるように塗工し80℃で10分乾燥し、さらに、130℃で10分乾燥さらに、160℃で15分乾燥した。該塗工品の上に上記ワニスAを乾燥後の膜厚が3μmになるように塗工し80℃で10分乾燥し、さらに、150℃で10分乾燥さらに、イミド化のため250℃で30分加熱処理を施した。該フィルムの発生ガス量を測定したところ60ppm以下であった。 【0054】 上記作製フィルムを、幅30mmにスリット加工し、リードフレーム用金属箔として用いられている42合金と重ね合わせ、表面温度220℃に加熱したプレスで圧力7kg/cm2、加熱時間5秒で張り合わせた。ラミネートした物の発泡は認められなく、接着力1.6kg/cmであった。ワイヤボンディング後の金線のつぶれ性も良好であった。LOC用接着テープ、ヒートスプレッダー用接着テープ、リードフレーム固定用接着テープとして実用レベルを十分満足するものであった。 【0055】 実施例2 ワニスAを実施例1と同様に低温プラズマ処理した70μmのポリフェニレンサルファイド樹脂フィルム(“トレリナ”東レ(株)製250℃の弾性率;3×109dyn/cm2)に乾燥後の膜厚が1μmになるように塗工し80℃で10分乾燥し、さらに、120℃で10分乾燥さらに、150℃で15分乾燥し、さらに210℃で5分加熱処理を施した。該フィルムの発生ガス量を測定したところ60ppm以下であった。 【0056】 上記作製フィルムの樹脂塗工面と、200μmのリードフレーム用42アロイと重ね合わせ表面温度250℃に加熱した加熱プレスで圧力30kg/cm2、加熱時間5秒で張り合わせた。接着力は1.7kg/cmであり接着力の強い張り合せ品が得られた。ワイヤボンディング後の金線のつぶれ性も良好であった。LOC用接着テープ、ヒートスプレッダー用接着テープ、リードフレーム固定用接着テープとして実用レベルを十分満足するものであった。 【0057】 比較例1 ワニスAを実施例1と同様に低温プラズマ処理した70μmのポリフェニレンサルファイド樹脂フィルム(“トレリナ”東レ(株)製250℃の弾性率;3×109dyn/cm2)に乾燥後の膜厚が10μmになるように塗工した80℃で10分乾燥し、さらに、120℃で10分乾燥さらに、150℃で15分乾燥し、さらに220℃で5分間熱処理を施した。該フィルムの発生ガス量を測定したところ100ppm以下であった。 【0058】 上記作製フィルムの樹脂塗工面と、200μmのリードフレーム用42アロイと重ね合せ表面温度220℃に加熱した加熱プレスで圧力7kg/cm2、加熱時間5秒で張り合わせた。接着力は1.5kg/cmであり接着力の強い張り合わせ品が得られた。ワイヤボンディング後の金線のつぶれ性も良好であった。LOC用接着テープ、ヒートスプレッダー用接着テープ、リードフレーム固定用接着テープとして実用レベルを十分満足するものであった。 【0059】 比較例2 ワニスAを実施例1と同様に低温プラズマ処理した70μmのポリフェニレンサルファイド樹脂フィルム(“トレリナ”東レ(株)製250℃の弾性率;3×109dyn/cm2)に乾燥後の膜厚が20μmになるように塗工し80℃で10分乾燥し、さらに、120℃で10分乾燥さらに、150℃で15分乾燥し、さらに210℃で5分加熱処理を施した。該フィルムの発生ガス量を測定したところ60ppm以下であった。 【0060】 上記作製フィルムの樹脂塗工面と、200μmのリードフレーム用42アロイと重ね合わせ表面温度250℃に加熱した加熱プレスで圧力30kg/cm2、加熱時問5秒で張り合わせた。接着力は1.7kg/cmであり接着力の強い張り合せ品が得られたが、ワイヤボンディング後の金線のつぶれが不良でありLOC用接着テープ、ヒートスプレッダー用接着テープ、リードフレーム固定用接着テープとしては使用できないレベルであった。 【0061】 【発明の効果】 本発明は、上述のごとく構成したので、300℃以下の温度で金属、耐熱性樹脂などと接着可能な上、しかも高温度での接着力低下がなく、張り合わせ後の発泡がなく、さらに接着性、耐熱性、電気特性、耐薬品性が優れた耐熱性接着材料をを確実に得ることができる。 |
訂正の要旨 |
審決(決定)の【理由】欄参照。 |
異議決定日 | 2004-12-07 |
出願番号 | 特願平6-72243 |
審決分類 |
P
1
651・
531-
YA
(C09J)
P 1 651・ 113- YA (C09J) P 1 651・ 121- YA (C09J) P 1 651・ 161- YA (C09J) |
最終処分 | 維持 |
前審関与審査官 | 山田 泰之 |
特許庁審判長 |
板橋 一隆 |
特許庁審判官 |
井上 彌一 後藤 圭次 |
登録日 | 2003-01-10 |
登録番号 | 特許第3385711号(P3385711) |
権利者 | 東レ株式会社 |
発明の名称 | 耐熱性接着材料 |