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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  H01H
管理番号 1112954
異議申立番号 異議2003-70478  
総通号数 64 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 1995-08-29 
種別 異議の決定 
異議申立日 2003-02-18 
確定日 2004-12-03 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第3317061号「スタータ」の請求項1ないし3に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 訂正を認める。 特許第3317061号の請求項1ないし3に係る特許を取り消す。 
理由 1.手続の経緯
特許第3317061号(請求項の数3)に係る発明についての出願は、平成6年12月21日(優先権主張平成5年12月24日)に特許出願され、平成14年6月14日にその発明について特許権の設定登録がなされ、その後、全請求項に係る特許について、申立人・澤新より特許異議の申立がなされ、平成15年10月24日付けで取消しの理由が通知され、その指定期間内である平成15年12月18日に訂正請求がされたものである。

2.訂正の適否についての判断
(1)訂正の内容
訂正事項a
特許請求の範囲の請求項1における「前記バッテリケーブルと」を「前記バッテリケーブルが周囲360度方向から組付け可能であるように、前記バッテリケーブルと」に訂正する。

(2)訂正の目的の適否、新規事項の有無及び拡張・変更の存否
上記訂正事項aは、特許明細書の段落【0022】の「バッテリケーブル30が周囲360度方向から容易にバッテリ接続端子27cに組付け可能である」との記載に基づいて、バッテリケーブルの組付け態様を限定すると共に明確にしたものであるから、特許請求の範囲の減縮及び明りょうでない記載の釈明を目的とした明細書の訂正に該当し、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。

(3)むすび
以上のとおりであるから、上記訂正は、特許法等の一部を改正する法律(平成6年法律第116号)附則第6条第1項の規定によりなお従前の例によるとされる、特許法第120条の4第3項において準用する平成6年法律第116号による改正前の特許法第126条第1項ただし書及び第2項の規定に適合するので、当該訂正を認める。

3.特許異議の申立てについての判断
(1)本件発明
上記2.で示したように上記訂正が認められるから、本件の請求項1ないし3に係る発明(以下、「本件発明1ないし3」という。)は、上記訂正に係る訂正明細書の特許請求の範囲の請求項1ないし3に記載された次のとおりのものである。
「【請求項1】 軸線に沿って移動自在なプランジャ及びこのプランジャの外周部を取り巻くように配設された励磁コイルが内周部に配置された筒状のマグネットスイッチケーシングと、
このマグネットスイッチケーシングと並列に配置されるとともに内周部に磁束を発生する界磁装置が設けられた筒状のモータケーシングと、
前記プランジャの移動に伴って移動される可動接点及びこの可動接点と接離しバッテリケーブルが接続されるバッテリ接続端子と導通する固定接点が内周部に配置され、かつ前記バッテリ接続端子を軸方向に貫通させて支持するとともに前記マグネットスイッチケーシングの一端部を覆う有底筒状のマグネットスイッチカバーと、
前記モータケーシングの一端部を覆う有底筒状のモータカバーと、
前記マグネットスイッチカバーに当接し、前記バッテリ接続端子に係合されるワッシャと、
前記バッテリケーブルが周囲360度方向から組付け可能であるように、前記バッテリケーブルと前記ワッシャが当接するワッシャ座面は前記モータカバーの端部より軸方向に突出させたことを特徴とするスタータ。
【請求項2】 前記マグネットスイッチケーシングと前記モータケーシングを磁性体材料で一体形成し、前記マグネットスイッチカバーと前記モータカバーを耐熱樹脂材料で一体形成したことを特徴とする請求項1項記載のスタータ。
【請求項3】 前記ワッシャが設けられた前記マグネットスイッチカバーの取り付け座面(3b)は、前記モータカバーの端部(3a)より軸方向に突出させたことを特徴とする請求項1記載のスタータ。」

(2)引用刊行物に記載された発明
ア.当審が通知した取消しの理由で引用した実公昭49-14890号公報(異議申立人の提出した甲第1号証、以下「刊行物1」という。)には、スタータのピニオン移送用電磁装置に関して、第1図ないし第4図と共に以下の事項が記載されている。
・「第1図において1はスタータのモータ部」(第1頁左欄第35〜36行)
・「電磁装置10の固定鉄心11とコイルヨーク12および蓋体13で構成するコイル外体内部に巻装された電磁コイルは、その中心部より吸引用コイル14、保持用コイル15、無誘導コイル16の順序で巻装され」(第1頁右欄第8〜12行)
・「プランジヤー17の固定鉄心11を貫通した小径部17′の後端部には可動接点20・・・が装着してある」(第1頁右欄第18〜21行)
・「21は固定接点兼主ターミナル22,23を固着した合成樹脂等で成形したスイッチケースであり」(第1頁右欄第21〜23行)
・「吸引用コイル14の他端は固定接点兼主ターミナル23を介してモータ部1のモータターミナル24、アマチヤー29、フイールドコイル30に直列にそれぞれ接続される」(第1頁右欄第31〜35行)
・「吸引用および保持用の両コイル14,15の吸引力によりプランジヤー17が第3図に示すように吸引され、シフトレバー9を介してピニオン3がエンジンのリングギヤー8に噛合うと同時に可動接点20が固定接点兼主ターミナル22,23に接触し、バツテリー26の電流は吸引用コイル14を通ることなく可動接点20を経てモータ部1にバツテリー26の電圧とほぼ同じ電圧が印加され、アマチヤー29は全力で回転しエンジンを起動させる」(第2頁左欄第6〜15行)
・「後端に固定接点兼主ターミナル22,23と接触する可動接点20をそれぞれ装着したプランジヤー17、およびそのプランジヤー17を作動させる一端が固定接点兼主ターミナル23を介してモータ部1のアマチヤー29に接続され他端がスタータスイツチ27を介して直流電源26に接続されている吸引用コイル14と、一端が接地され吸引用コイル14と並列に接続されている保持用コイル15を備えた電磁装置」(実用新案登録請求の範囲)
・また、第1図ないし第4図には、モータ部1及び電磁装置10の構成、特に、該モータ部1と電磁装置10が並列に配置された構成、有底筒状のスイッチケース21に当接するとともに固定接点兼主ターミナル22に係合されるナットにより、バッテリー26からのバッテリーケーブルが該固定接点兼主ターミナル22に接続された構成、該ナットが当接するナット座面は該モータ部1の有底筒状のカバーの端部より軸方向に突出した構成及び固定接点兼主ターミナル22の固定接点部がスイッチケース21の内周部に配置された構成が示されている。
上記記載事項及び図示内容を総合すると、上記刊行物1には、以下の発明(以下、「引用発明1」という。)が記載されているものと認められる。
「軸線に沿って移動自在なプランジヤー17及びこのプランジヤー17の外周部を取り巻くように配設された吸引用及び保持用の両コイル14,15が内周部に配置された筒状のコイルヨーク12と、このコイルヨーク12と並列に配置されるとともに内周部に磁束を発生するフイールドコイル30が設けられた筒状のモータ部1のケーシングと、前記プランジヤー17の移動に伴って移動される可動接点20及びこの可動接点20と接離しバッテリーケーブルが接続される固定接点兼主ターミナル22の固定接点部が内周部に配置され、かつ前記固定接点兼主ターミナル22を軸方向に貫通させて支持するとともに前記コイルヨーク12の一端部を覆う有底筒状のスイッチケース21と、前記モータ部1のケーシングの一端部を覆う有底筒状のモータ部1のカバーと、前記スイッチケース21に当接し、前記固定接点兼主ターミナル22に係合されるナットと、前記バッテリーケーブルと前記ナットが当接するナット座面は前記モータ部1のカバーの端部より軸方向に突出させたスタータ。」

イ.同じく引用した特開昭60-222560号公報(同甲第2号証、以下「刊行物2」という。)には、スタータに関して、第1図ないし第12図と共に以下の事項が記載されている。
・「スタータモータとマグネットスイッチとを並列的に配置してなるスタータにおいて、前記モータのヨークと前記スイッチのヨークとを、8字状に一体形成した複数の積層鋼板を積層して構成したスタータ」(特許請求の範囲)
・「各積層鋼板4および11は複数枚積層されて第5図に示すようにピン12により、あるいは、第6図に示すような溶接(13は溶接部)等により相互に固定され、一体化されたヨーク10を形成する」(第2頁左上欄第8〜12行)
・「第9図にスイッチ部とモータ部とを一体形成したエンドカバー5の斜視図を示し」(第2頁右上欄第17〜18行)
上記記載事項及び各図面に示された内容を総合し、かつ、「積層鋼板」は「磁性体材料」であることを考慮すると、上記刊行物2には、以下の発明(以下「引用発明2」という。)が記載されているものと認められる。
「スイッチのヨークとモータのヨークを磁性体材料で一体形成し、エンドカバーのスイッチ部と前記エンドカバーのモータ部を一体形成したスタータ。」

ウ.同じく引用した米国特許第3021715号明細書(同甲第3号証、以下「刊行物3」という。)には、MOTOR VEHICLE ENGINE STARTING APPARATUS(自動車機関の始動装置)に関して、Fig.1ないしFig.4に、始動電動機22のハウジング50(38)とソレノイド68の位置関係、及び、ソレノイド68のカバーの取り付け座面に座が設けられた構成が示されている。
上記図示内容を勘案し、かつ、「始動装置」は「スタータ」であることを考慮すると、上記刊行物3には、以下の発明(以下、「引用発明3」という。)が記載されているものと認められる。
「座が設けられたソレノイドのカバーの取り付け座面は、始動電動機のハウジングの端部より軸方向に突出させたスタータ。」

(3)対比・判断
ア.本件発明1について
本件発明1と引用発明1とを対比すると、後者における「プランジヤー17」がその作用・機能からみて前者における「プランジャ」に相当し、以下同様に、「吸引用及び保持用の両コイル14,15」が「励磁コイル」に、「コイルヨーク12」が「マグネットスイッチケーシング」に、「フイールドコイル30」が「界磁装置」に、「モータ部1のケーシング」が「モータケーシング」に、「バッテリーケーブル」が「バッテリケーブル」に、「固定接点兼主ターミナル22」が「バッテリ接続端子」に、「固定接点兼主ターミナル22の固定接点部」が「バッテリ接続端子と導通する固定接点」に、「スイッチケース21」が「マグネットスイッチカバー」に、「モータ部1のカバー」が「モータカバー」に、それぞれ相当している。
また、前者における「ワッシャ」と後者における「ナット」は、共に、バッテリ接続端子に係合され、バッテリケーブルが当接する「座」という概念で共通している。
してみれば、両者は、
「軸線に沿って移動自在なプランジャ及びこのプランジャの外周部を取り巻くように配設された励磁コイルが内周部に配置された筒状のマグネットスイッチケーシングと、
このマグネットスイッチケーシングと並列に配置されるとともに内周部に磁束を発生する界磁装置が設けられた筒状のモータケーシングと、
前記プランジャの移動に伴って移動される可動接点及びこの可動接点と接離しバッテリケーブルが接続されるバッテリ接続端子と導通する固定接点が内周部に配置され、かつ前記バッテリ接続端子を軸方向に貫通させて支持するとともに前記マグネットスイッチケーシングの一端部を覆う有底筒状のマグネットスイッチカバーと、
前記モータケーシングの一端部を覆う有底筒状のモータカバーと、
前記マグネットスイッチカバーに当接し、前記バッテリ接続端子に係合される座と、
前記バッテリケーブルと前記座が当接する座面は前記モータカバーの端部より軸方向に突出させたスタータ」
である点で一致し、次の点で相違する。
(相違点1)
本件発明1では、座として「ワッシャ」を用いているのに対して、引用発明1では、「ナット」を用いている点。
(相違点2)
本件発明1では、「バッテリケーブルが周囲360度方向から組付け可能であるように」構成されているのに対して、引用発明1では、そのような構成とされていない点。
上記相違点について検討する。
・相違点1について
引用発明1における「ナット」は、マグネットスイッチカバーに当接し、バッテリ接続端子に係合するとともに、バッテリケーブルと当接する座面を有するものであって、前記バッテリーケーブルを固定するための座としての機能を有するものであることは明らかであるから、引用発明1における「ナット」を、部材を固定する座として周知慣用されている「ワッシャ」に置き換えることは、当業者が容易に想到し得たことである。
・相違点2について
ところで、本件特許明細書の段落【0002】には、「従来のマグネットスイッチを有するスタータには、例えば実公平1-24830号公報の第4図ないし第7図に示されるものがある。・・・マグネットスイッチ24のキャップ25はバッテリケーブル接続端子2の固着座面25aと直流電動機入力端子26の固着座面25bとが段差を有して形成されており、これらの固着座面25a、25bにそれぞれバッテリ接続端子2および直流電動機入力端子26がワッシャ27を介してカシメ固着されている。そして、この固着座面25aが固着座面25bより突出しているため、バッテリケーブル3を周囲360度自在の方向から装着することができる構成が開示されている。」と記載されており、バッテリケーブルとワッシャが当接するワッシャ座面を軸方向に突出させることにより、バッテリケーブルを周囲360度方向からバッテリケーブル接続端子に組付け可能とすることは、本件特許権者も熟知している周知技術であるといえる。
そうすると、かかる周知技術を引用発明1に適用して、相違点2に係る本件発明1の構成とする程度のことは、当業者が必要に応じて適宜なし得ることというべきである。

そして、本件発明1により奏される効果も、引用発明1及び上記周知技術から当業者が予測し得る範囲内のものである。
したがって、本件発明1は、引用発明1及び上記周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものというべきである。

イ.本件発明2について
本件発明2は、本件発明1に「マグネットスイッチケーシングとモータケーシングを磁性体材料で一体形成し、マグネットスイッチカバーとモータカバーを耐熱樹脂材料で一体形成した」構成をさらに限定したものである。
しかしながら、「マグネットスイッチケーシングとモータケーシングを磁性体材料で一体形成した」構成及び「マグネットスイッチカバーとモータカバーを一体形成した」構成は、上記引用発明2に、「スイッチのヨーク(マグネットスイッチケーシング)とモータのヨーク(モータケーシング)を磁性体材料で一体形成し、エンドカバーのスイッチ部(マグネットスイッチカバー)とエンドカバーのモータ部(モータカバー)を一体形成した」構成として具備されているものである。
上記引用発明2は、スタータとして引用発明1と同一の技術分野に属するものであるとともに、引用発明2を引用発明1に適用することに何ら阻害要因を見出すことはできないから、引用発明1のマグネットスイッチケーシング、モータケーシング、マグネットスイッチカバー及びモータカバーに、引用発明2の上記構成を適用することは当業者が容易に想到し得たことである。
また、マグネットスイッチカバー及びモータカバーを形成する材料として「耐熱樹脂材料」を採用することは、例えば、実公平1-24830号公報(異議申立人の提示した参考資料1)に、キャップ(マグネットスイッチケーシング)の材料として耐熱樹脂材料であるフエノール樹脂の使用が開示されている(第2頁右欄第38行参照)ように、この種の分野における周知の技術であって、当業者が適宜選択採用し得る設計的事項にすぎない。
そして、本件発明2により奏される効果も、引用発明1、2及び上記周知技術から当業者が予測し得る範囲内のものである。
したがって、本件発明2は、上記ア.での検討内容を踏まえれば、引用発明1、2及び上記周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものというべきである。

ウ.本件発明3について
本件発明3は、本件発明1に「ワッシャが設けられたマグネットスイッチカバーの取り付け座面は、モータカバーの端部より軸方向に突出させた」構成をさらに限定したものである。
しかしながら、かかる限定された構成は、上記引用発明3に、「座が設けられたソレノイドのカバー(マグネットスイッチカバー)の取り付け座面は、始動電動機のハウジング(モータカバー)の端部より軸方向に突出させた」構成として具備されているものである。
上記引用発明3は、スタータとして引用発明1と同一の技術分野に属するものであるとともに、引用発明3を引用発明1に適用することに何ら阻害要因を見出すことはできないから、引用発明1のマグネットスイッチカバーに引用発明3の上記構成を適用することは当業者が容易に想到し得たことである。
そして、本件発明3により奏される効果も、引用発明1、3及び上記周知技術から当業者が予測し得る範囲内のものである。
したがって、本件発明3は、上記ア.での検討内容を踏まえれば、引用発明1、3及び上記周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものというべきである。

(4)むすび
以上のとおりであるから、本件発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、本件発明についての特許は、拒絶の査定をしなければならない特許出願に対してされたものと認める。
よって、特許法等の一部を改正する法律(平成6年法律第116号)附則第14条の規定に基づく、特許法等の一部を改正する法律の一部の施行に伴う経過措置を定める政令(平成7年政令第205号)第4条第2項の規定により、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
スタータ
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】 軸線に沿って移動自在なプランジャ及びこのプランジャの外周部を取り巻くように配設された励磁コイルが内周部に配置された筒状のマグネットスイッチケーシングと、
このマグネットスイッチケーシングと並列に配置されるとともに内周部に磁束を発生する界磁装置が設けられた筒状のモータケーシングと、
前記プランジャの移動に伴って移動される可動接点及びこの可動接点と接離しバッテリケーブルが接続されるバッテリ接続端子と導通する固定接点が内周部に配置され、かつ前記バッテリ接続端子を軸方向に貫通させて支持するとともに前記マグネットスイッチケーシングの一端部を覆う有底筒状のマグネットスイッチカバーと、
前記モータケーシングの一端部を覆う有底筒状のモータカバ-と、
前記マグネットスイッチカバーに当接し、前記バッテリ接続端子に係合されるワッシャと、
前記バッテリケーブルが周囲360度方向から組付け可能であるように、前記バッテリケーブルと前記ワッシャが当接するワッシャ座面は前記モータカバーの端部より軸方向に突出させたことを特徴とするスタータ。
【請求項2】 前記マグネットスイッチケーシングと前記モータケーシングを磁性体材料で一体形成し、前記マグネットスイッチカバーと前記モータカバーを耐熱樹脂材料で一体形成したことを特徴とする請求項1項記載のスタータ。
【請求項3】 前記ワッシャが設けられた前記マグネットスイッチカバーの取り付け座面(3b)は、前記モータカバーの端部(3a)より軸方向に突出させたことを特徴とする請求項1記載のスタータ。
【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、内燃機関始動用として用いられるスタータのマグネットスイッチに関するものである。
【0002】
【従来の技術】従来のマグネットスイッチを有するスタータには、例えば実公平1ー24830号公報の第4図ないし第7図に示されるものがある。これはマグネットスイッチ24が値流電動機7の上部に配置され、フロントブラケット10に螺子11により螺着されている。そして、バッテリ接続端子2の固着座面25aは直流電動機7の後端部に対して軸方向内側に位置している。また、マグネットスイッチ24のキャップ25はバッテリケーブル接続端子2の固着座面25aと直流電動機入力端子26の固着座面25bとが段差を有して形成されており、これらの固着座面25a、25bにそれぞれバッテリ接続端子2および直流電動機入力端子26がワッシャ27を介してカシメ固着されている。そして、この固着座面25aが固着座面25bより突出しているため、バッテリケーブル3を周囲360度自在の方向から装着することができる構成が開示されている。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】しかしながら、上記のマグネットスイッチを有するスタータにおいて、特に直流電動機の界磁装置として磁石を用いる低トルク型減速式スタータに関しては、バッテリ接続端子の固着座部が値流電動機の後端部より内側方向に位置しているため、バッテリケーブルが直流電動機の上部に配線され、この状態でバッテリケーブルに電流が印加されると、これによりバッテリケーブルの周囲に磁界が生じ、この磁界によって界磁装置の磁石の磁束が変化し、スタータ性能がその分低下する現象が生じている。さらに、上記スタータではバッテリケーブルが周囲360度自在の方向からバッテリ接続端子に装着できるが、直流電動機の上部にバッテリケーブルが配置されるので、車両より振動を受けた場合、最悪時にバッテリケーブルが直流電動機に接触し、バッテリケーブルの絶縁皮膜が剥がれる可能性がある。
【0004】そこで本発明は、バッテリケーブルに電流が印加される時に発生する磁界に対し、直流電動機の磁界装置の磁束変化を防止すると共に車両が振動を受けた際、上記ケーブルと直流電動機との接触を防止するスタータのマグネットスイッチを提供することを目的とする。
【0005】
【課題を解決するための手段】上記目的を達成するために、請求項1では、軸線に沿って移動自在なプランジャ及びこのプランジャの外周部を取り巻くように配設された励磁コイルが内周部に配置された筒状のマグネットスイッチケーシングと、このマグネットスイッチケーシングと並列に配置されるとともに内周部に磁束を発生する界磁装置が設けられた筒状のモータケーシングと、前記プランジャの移動に伴って移動される可動接点及びこの可動接点と接離しバッテリケーブルが接続されるバッテリ接続端子と導通する固定接点が内周部に配置され、かつ前記バッテリ接続端子を軸方向に貫通させて支持するとともに前記マグネットスイッチケーシングの一端部を覆う有底筒状のマグネットスイッチカバーと、前記モータケーシングの一端部を覆う有底筒状のモータカバーと、前記マグネットスイッチカバーに当接し、前記バッテリ接続端子に係合されるワッシャと、バッテリケーブルが360度方向から組み付け可能とすべく、前記バッテリケーブルと前記ワッシャが当接するワッシャ座面は前記モータカバーの後端部より軸方向に突出させた構成としている。
【0006】
【0007】また、請求項2では、請求項1のスタータに対して、前記マグネットスイッチケーシングと前記モータケーシングを磁性体材料で一体形成し、前記マグネットスイッチカバーと前記モータカバーを耐熱樹脂材料で一体形成した構成としている。また、請求項3では、請求項2のスタータにおいて、前記ワッシャが設けられた前記マグネットスイッチカバーの取り付け座面(3b)は、前記モータカバーの端部(3a)より軸方向に突出させた構成としている。
【0008】
【0009】また、請求項1では、マグネットスイッチカバーにあるバッテリケーブルの取り付けられるワッシャ座面がモータカバーの端部より軸方向に突出しているため、ワッシャ座面とモータカバーの後端部との距離を長く設定でき、モータ界磁装置の磁束の変化が良好に防止でき、スタータ出力が低下することはなく、さらに、車両が振動を受けてもバッテリケーブルが直流電動機の収納ケーシングと接触することを容易に防止できる効果がある。
【0010】さらに、請求項2では、マグネットスイッチケーシングとモータケーシングを磁性体材料で一体形成し、さらに、マグネットスイッチカバーとモータカバーを耐熱樹脂材料で一体形成したため、部品点数の低減が図れるとともにスタータ体格が小型化できる優れた効果もある。
【0011】
【実施例】以下、本発明を図に示す第1実施例に基づいて説明する。図1は本発明の第1実施例を示す断面図、図2は第1実施例のスタータケーシングの正面図、図3は第1実施例のバッテリケーブルの装着状況を示す説明図である。1は磁性体材料で一体形成されたスタータケーシングであり、マグネットスイッチ18を収納するマグネットスイッチケーシング1aと回転駆動されるアーマチャ2を収納するモータケーシング1bとを備えている。3は耐熱樹脂材料で一体形成されたスタータカバーであり、マグネットスイッチケーシング1aの開口部を覆うスイッチカバー3cとモータケーシング1bの開口部を覆うモータカバー3dとを備えている。また、モータ34はモータケーシング1bとモータカバー3d内に配置される後述するアーマチャ2を備える。
【0012】モータケーシング1bの内周部には界磁装置をなす磁石32が配置され、さらにその内周部にアーマチャ2が配置されている。このアーマチャ2は、電機子コア2aとこの電機子コア2aの外周部に埋設された図示されない電機子コイル及び電機子コア2aに圧入固定されたアーマチャシャフト2bから形成されている。
【0013】アーマチャシャフト2bの一方はスタータカバー3の軸受け3eにより回転自在に支持され、他方は後述する回転出力軸5の凹部に配設した軸受け6により回転自在に支持されている。また、アーマチャシャフト2bの一方にはコンミテータ2cが固定され、このコンミテータ2cの外周部には螺子26により第二の固定接点28を介してスタータカバー3に固定されたピグテール4aを有するブラシ4が摺動可能に設置されている。アーマチャシャフト2bの他方部は、外周にサンギヤ2dが形成されている。さらに、このアーマチャシャフト2bの他方部側には、アーマチャシャフト2bと同一軸上に位置する回転出力軸5が配置されており、この回転出力軸5の一端はハウジング8に固設されたセンターベアリング12に設けた軸受け12bにより可動自在に支持されているとともに、この回転出力軸5の他端は軸受け7を介してハウジング8に軸支されている。
【0014】上記回転出力軸5の一端には、外周方向に突出したフランジ形の突出部5aが形成されており、この突出部5aには周方向に複数の貫通穴5bが設けられ、この貫通穴5bと係合するピン10が配置されており、これらピン10には軸受け9を介して遊星歯車11が回転自在に保持されている。そして、これら遊星歯車11は上記サンギヤ2dの外周に噛み合っている。
【0015】さらに、上記フランジ形突出部5aの外周にはセンターベアリング12の内周面にインターナルギヤ12aが配置されている。従って、上記サンギヤ2d,遊星歯車11、インターナルギヤ12aにより減速機構を構成している。回転出力軸5のハウジング8側には、車両側に図示されないオートマチックトランスミッションとともに装着されたトルクコンバータ13があり、このトルクコンバータ13に配置されたリングギヤ14と噛み合うピニオンギヤ15aが設けられたオーバランニングクラッチ15は回転出力軸5の図示されないヘリカルスプラインに係合されている。そして、シフトレバー16は、一端がオーバランニングクラッチ15に取り付けられた環状部材17に係合し、他端がプランジャ19のジョイント部19aに係合している。
【0016】また、回転出力軸5はハウジング8により覆われており、このハウジング8とスタータカバー3との間にはスルーボルト33で連結されている。次に、マグネットスイッチケーシング1aの内周部にはプランジャ19が配置され、このプランジャ19は黄銅等の非磁性材料によって構成した円筒状のスリ-ブ20の内部に、このスリ-ブ20によってガイドされるように軸方向移動自在に設定され、さらに、このスリ-ブ20の外周に励磁コイル25が配設されている。
【0017】このスリ-ブ20の端部には、磁性体材料によって構成されたステ-ショナリコア21が嵌め込み設定されており、このステ-ショナリコア21の中央部には、プランジャ19の端面から突出した駆動軸22が貫通する開口が形成されている。そして、このステーショナリコア21のプランジャ19と反対側の面に対向して、可動接点23が設けられ、この可動接点23が駆動軸22と一体的に結合されるようにしている。ここで、プランジャ19とステーショナリコア21との間には圧縮スプリング24が介在され、このスプリング24によってプランジャ19は常時ステーショナリコア21から離れる位置に設定されるようにしている。
【0018】ステーショナリコア21の端部は、上記スタータカバー3で覆われ、このスタータカバー3の内部に可動接点23に対向して一対の第一の固定接点27及び第二の固定接点28が設けけられている。第一の固定接点27はバッテリ接続端子27aを備え、このバッテリ接続端子27aがスタータカバー3に嵌合され、ワッシャ29はスタータカバー3の取り付け座面3bと当接し、バッテリ接続端子27aに係合されている。そして、バッテリ接続端子27aはバッテリケーブル30をナット31で連結している。また、スタータカバー3の取り付け座面3b上にあるワッシャ29のワッシャ座面29aはスタータカバー3の後端部3aより軸方向に長さLだけ突出している。
【0019】次に、上記構成において、その作動を説明する。図示されないキ-スイッチをONすると、励磁コイル25に通電され、プランジャ19が吸引される。そして、ジョイント19aに係合したシフトレバ-16が図中時計方向に回動される。このシフトレバ-16の回動により、回転出力軸5の図示されないヘリカルスプラインに案内されてオーバランニングクラッチ15が前進し、さらに、可動接点23と第一の固定接点27及び第二の固定接点28が閉じ、ブラシ4を介してアーマチャ2に通電される。そして、磁石32の励磁磁束により、アーマチャ2が回転する。このアーマチャ2の回転はアーマチャシャフト2bのサンギヤ5aを介してインタ-ナルギヤ12との間に噛み合っている遊星歯車11を減速して旋回させ、回転出力軸5の突出部5bを減速して回転させる。
【0020】この減速された回転が回転出力軸5の図示されないヘリカルスプラインを介してオーバランニングクラッチ15に伝えられ、そして、オーバランニングクラッチ15が回転出力軸15上を摺動し、ピニオンギヤ15aがリングギヤ14と噛み合い、リングギヤ14が回転し、エンジンが始動する。エンジン始動後、リングギヤ14によってピニオンギヤ15aが逆付勢されると、オ-バ-ランニングクラッチ15の作用によってリングギヤ14からの回転が伝達されなくなり、アーマチャ2が過回転になることが防止される。始動の完了によってキ-スイッチがOFFされると、マグネットスイッチ18への給電が停止され、プランジャ19がスプリング24により戻り、これに伴い可動接点23と第一の固定接点27及び第二の固定接点28が開き、アーマチャ2への給電が停止される。そして、ピニオンギヤ15aはリングギヤ14から離脱する。
【0021】次に、図4は本発明の第2実施例を示すものであり、この実施例では、アーマチャを収納するモータカバー3dとマグネットスイッチを収納するマグネットスイッチカバー3cを分離したものである。また、マグネットスイッチカバー3cの取り付け座面3b上にはワッシャ29が配設され、ワッシャ29はバッテリ入力端子27aに係合されている。バッテリケーブルが当接するワッシャ座面29aはスタータカバー3の後端部3aより軸方向に長さLだけ突出している。
【0022】上述した実施例によれば、マグネットスイッチカバー3cにあるバッテリケーブル30が当接するワッシャ座面29aはモータカバー3dの後端部3aより軸方向に長さLだけ突出しているため、バッテリケ-ブル30と界磁装置32間の距離が長くとれるので、バッテリケーブル30に電流が印加される時に発生する磁界に対し、界磁装置32の磁束の変化(減磁)と整流の悪化が防止でき、スタータ出力が低下することはない。さらに、バッテリケーブル30が周囲360度方向から容易にバッテリ接続端子27cに組付け可能であるとともにバッテリケ-ブル30がモータ34上に配置されないので、車両が振動を受けてもバッテリケーブル30がモータ34と接触することを防止できる効果がある。
【0023】また、図1に示す本発明の一実施例のようにモータカバー3dとマグネットスイッチカバー3cを一体形成したスタータカバー3とすれば、部品点数の低減が図れるとともにスタータ体格が小型化できる格別な効果もある。また、図1の実施例のように、マグネットスイッチを後退させ、マグネットスイッチ18部後端とモータ34部後端を同一とし、スタータカバー3を一体化させることも可能となり、第二の固定端子28から直接内部においてブラシ4と接続できる構成が可能となり、モータリード線が廃止でき、モータリード線の発錆によるスタータの作動不良が防止できる。
【0024】さらに、上記各実施例においては、マグネットスイッチ18全体がモータ34部の後端側に移動することから、マグネットスイッチ18前部とエンジン取り付け部とのスペースが空けられ、ピニオンの静止位置が大きく設定でき、スタータの装着性が向上でき、特にトルクコンバータ付車両に対しても容易に装着できる。
【0025】
【0026】
【0027】
【0028】
【0029】
【0030】
【0031】
【0032】
【0033】
【0034】
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の第1実施例を示す断面図である。
【図2】図1のスタータケーシングの正面図である。
【図3】図1のバッテリーケーブルの装着状況を示す説明図である。
【図4】本発明の第2実施例を示す部分側面図である。
【符号の説明】
1 スタータケーシング
1a マグネットスイッチケーシング
1b モータケーシング
3 スタータカバー
3a モータカバーの後端部
3b マグネットスイッチカバーのワッシャ取り付け座面
3c マグネットスイッチカバー
3d モータカバー
18 マグネットスイッチ
19 プランジャ
23 可動接点
25 励磁コイル
27 第一の固定接点
27a バッテリ接続端子
28 第二の固定接点
29 ワッシャ
29a ワッシャ座面
30 バッテリケーブル
32 界磁装置(磁石)
34 モータ
100 スタータモータ
118 マグネットスイッチ
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2004-10-14 
出願番号 特願平6-318205
審決分類 P 1 651・ 121- ZA (H01H)
最終処分 取消  
前審関与審査官 岸 智章  
特許庁審判長 田中 秀夫
特許庁審判官 山本 信平
和泉 等
登録日 2002-06-14 
登録番号 特許第3317061号(P3317061)
権利者 株式会社デンソー
発明の名称 スタータ  
代理人 伊藤 高順  
代理人 碓氷 裕彦  
代理人 碓氷 裕彦  
代理人 加藤 大登  
代理人 加藤 大登  
代理人 伊藤 高順  

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