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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  H01L
審判 全部申し立て 特123条1項8号訂正、訂正請求の適否  H01L
管理番号 1112962
異議申立番号 異議2003-72874  
総通号数 64 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 1995-05-23 
種別 異議の決定 
異議申立日 2003-11-25 
確定日 2004-12-27 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第3410202号「ウェハ貼着用粘着シートおよびこれを用いた半導体装置の製造方法」の請求項1、2に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 訂正を認める。 特許第3410202号の請求項1、2に係る特許を維持する。 
理由 第1.手続の経緯
本件特許第3410202号の請求項1、2に係る発明は、平成6年3月31日(優先権主張平成5年4月28日)に特許出願され、平成15年3月20日にそれらの特許権の設定登録がなされ、平成15年11月25日に請求項1、2に係る特許に対して特許異議申立人中西綾より特許異議の申立てがなされ、平成16年9月7日付けで取消しの理由が通知され、その指定期間内である平成16年11月16日に訂正請求がなされたものである。

第2.訂正の適否についての判断
1.訂正の内容
特許権者が求めている訂正の内容は以下のとおりである。
〈訂正事項1〉
本件特許の設定登録時の願書に添付した明細書又は図面(以下、「本件特許明細書」という。)の特許請求の範囲の請求項1に記載される、
「【請求項1】 基材フィルムと、この上に形成された放射線硬化型粘着剤層とからなり、その表面に回路が形成されるウェハの裏面を前記放射線硬化型粘着剤層に貼付し、この状態で前記ウェハをチップ単体にダイシングし、洗浄し、乾燥し、放射線を照射して前記放射線硬化型粘着剤層を硬化させ、必要に応じてエキスパンドし、前記チップを互いに離間させ、その後、前記チップをピックアップして、リードフレームにマウントし、ボンディングし、モールドして、前記チップ裏面の一部または全部がパッケージ成型用モールド樹脂に接する構造の半導体装置を製造する際に用いられるウェハ貼着用粘着シートであって、
該放射線硬化型粘着剤層が、アクリル酸エステルとOH基含有重合性単量体とを共重合してなるアクリル系粘着剤:100重量部と、不飽和結合を2個以上有する放射線重合性化合物:50〜200重量部とからなり、前記不飽和結合を2個以上有する放射線重合性化合物の内、20〜80重量%が、不飽和結合を4個以上有し、かつ
放射線硬化後における弾性率が1×109 dyn/cm2 以上であることを特徴とするウェハ貼着用粘着シート。」を、
「【請求項1】 基材フィルムと、この上に形成された放射線硬化型粘着剤層とからなり、その表面に回路が形成されるウェハの裏面を前記放射線硬化型粘着剤層に貼付し、この状態で前記ウェハをチップ単体にダイシングし、洗浄し、乾燥し、放射線を照射して前記放射線硬化型粘着剤層を硬化させ、必要に応じてエキスパンドし、前記チップを互いに離間させ、その後、前記チップをピックアップして、リードフレームにマウントし、ボンディングし、モールドして、前記チップ裏面の一部または全部がパッケージ成型用モールド樹脂に接する構造の半導体装置を製造する際に用いられるウェハ貼着用粘着シートであって、
該放射線硬化型粘着剤層が、アクリル酸エステルとOH基含有重合性単量体とを共重合してなり、OH基含有重合性単量体単位の割合が8〜30モル%であるアクリル系粘着剤:100重量部と、不飽和結合を2個以上有する放射線重合性化合物:50〜200重量部とからなり、前記不飽和結合を2個以上有する放射線重合性化合物の内、20〜80重量%が、不飽和結合を4個以上有し、かつ
放射線硬化後における弾性率が1×109 dyn/cm2 以上であることを特徴とするウェハ貼着用粘着シート。」と訂正する。
なお、下線は、訂正個所を明確化するために、当審で付したものである。以下、同様。
〈訂正事項2〉
本件特許明細書の特許請求の範囲の請求項2に記載される、
「【請求項2】 基材フィルムと、この上に形成された放射線硬化型粘着剤層とからなり、該放射線硬化型粘着剤層が、アクリル酸エステルとOH基含有重合性単量体とを共重合してなるアクリル系粘着剤:100重量部と、不飽和結合を2個以上有する放射線重合性化合物:50〜200重量部とからなり、前記不飽和結合を2個以上有する放射線重合性化合物の内、20〜80重量%が、不飽和結合を4個以上有し、かつ
放射線硬化後における弾性率が1×109 dyn/cm2 以上であるウェハ貼着用粘着シートの放射線硬化型粘着剤層に、
その表面に回路が形成されるウェハ裏面を貼付し、この状態で前記ウェハをチップ単体にダイシングし、洗浄し、乾燥し、放射線を照射して前記放射線硬化型粘着剤層を硬化させ、必要に応じてエキスパンドし、前記チップを互いに離間させ、その後、前記チップをピックアップして、リードフレームにマウントし、ボンディングし、モールドして、前記チップ裏面の一部または全部がパッケージ成型用モールド樹脂に接する構造の半導体装置を製造することを特徴とする半導体装置の製造方法。」を、
「【請求項2】 基材フィルムと、この上に形成された放射線硬化型粘着剤層とからなり、該放射線硬化型粘着剤層が、アクリル酸エステルとOH基含有重合性単量体とを共重合してなり、OH基含有重合性単量体単位の割合が8〜30モル%であるアクリル系粘着剤:100重量部と、不飽和結合を2個以上有する放射線重合性化合物:50〜200重量部とからなり、前記不飽和結合を2個以上有する放射線重合性化合物の内、20〜80重量%が、不飽和結合を4個以上有し、かつ
放射線硬化後における弾性率が1×109 dyn/cm2 以上であるウェハ貼着用粘着シートの放射線硬化型粘着剤層に、
その表面に回路が形成されるウェハ裏面を貼付し、この状態で前記ウェハをチップ単体にダイシングし、洗浄し、乾燥し、放射線を照射して前記放射線硬化型粘着剤層を硬化させ、必要に応じてエキスパンドし、前記チップを互いに離間させ、その後、前記チップをピックアップして、リードフレームにマウントし、ボンディングし、モールドして、前記チップ裏面の一部または全部がパッケージ成型用モールド樹脂に接する構造の半導体装置を製造することを特徴とする半導体装置の製造方法。」と訂正する。
〈訂正事項3〉
本件特許明細書の段落【0016】に記載される、
「・・・アクリル酸エステルとOH基含有重合性単量体とを共重合してなるアクリル系粘着剤・・・」を、
「・・・アクリル酸エステルとOH基含有重合性単量体とを共重合してなり、OH基含有重合性単量体単位の割合が8〜30モル%であるアクリル系粘着剤・・・」と訂正する。
〈訂正事項4〉
本件特許明細書の段落【0017】に記載される、
「・・・アクリル酸エステルとOH基含有重合性単量体とを共重合してなるアクリル系粘着剤・・・」を、
「・・・アクリル酸エステルとOH基含有重合性単量体とを共重合してなり、OH基含有重合性単量体単位の割合が8〜30モル%であるアクリル系粘着剤・・・」と訂正する。
〈訂正事項5〉
本件特許明細書の段落【0027】に記載される、
「・・・該共重合体中におけるOH基含有重合性単量体単位の割合は通常は0.5〜30モル%程度であり、好ましくは8〜30モル%、・・・」を、
「・・・該共重合体中におけるOH基含有重合性単量体単位の割合は 8〜30モル%、・・・」と訂正する。

2.訂正の目的の適否、新規事項の有無、及び、拡張・変更の存否
上記訂正事項1、2は、本件特許明細書の段落【0027】の「・・・該共重合体中におけるOH基含有重合性単量体単位の割合は・・・・好ましくは8〜30モル%」との記載の基づいて、「アクリル酸エステルとOH基含有重合性単量体とを共重合してなるアクリル系粘着剤」を、OH基含有重合性単量体単位の割合が特定されたものに限定するものであるから、上記訂正事項1、2は特許請求の範囲の減縮を目的とする明細書の訂正に該当し、新規事項の追加に該当しない。また、訂正事項3〜5は、上記訂正事項1、2との整合を図るものであるから、明りょうでない記載の釈明を目的とする明細書の訂正に該当し、新規事項の追加に該当しない。そして、訂正事項1〜5は、いずれも実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

3.むすび
以上のとおりであるから、上記訂正は、特許法等の一部を改正する法律(平成6年法律第116号)附則第6条第1項の規定によりなお従前の例によるとされる、特許法第120条の4第3項において準用する平成6年法律第116号による改正前の特許法第126条第1項ただし書及び第2項の規定に適合するので、当該訂正を認める。

第3.特許異議の申立てについての判断
1.特許異議申立ての理由の概要
特許異議申立人は、下記に示す甲第1〜4号証を提示し、
(i)本件発明1、2は、甲第1〜4号証記載の発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり、また、
(ii)本件特許明細書の特許請求の範囲の請求項1、2の「放射線硬化後における弾性率が1×109 dyn/cm2 以上である」との事項に関して、
(イ)上記弾性率が、圧縮弾性率及びせん断弾性率のいずれであるか、また、貯蔵弾性率、損失弾性率及び複素弾性率のいずれであるかが明らかでなく、
(ロ)放射線硬化後の弾性率は、高圧水銀灯下にサンプルを置く際の高圧水銀灯の高さ等放射線硬化の条件、また、昇温速度、加振振幅、初期変位等の測定条件によって変化するにもかかわらず、それらの条件が十分示されていないから、
請求項1、2の上記の事項は明確でない。
したがって、本件の請求項1、2に係る特許は、特許法第29条第2項及び特許法第36条第6項第2号の規定に違反してなされたものであり、取り消すべきである、旨主張している。
なお、当審が通知した取消しの理由も、上記理由と概略同じものである。
甲第1号証:特開昭61-28572号公報
甲第2号証:特開平3-66772号公報
甲第3号証:特開昭62-138576号公報
甲第4号証:特開平4-7848号公報

2.特許法第36条第6項第2号違反についての判断
本件特許明細書の段落【0026】には、「ここで、弾性率は以下の手法により決定される値である。すなわち、層3を構成する放射線硬化型粘着剤を長さ50mm、幅4mm、厚さ0.2mmの粘着剤小片とし、これを80W/cmの高圧水銀灯下に置き、1秒間放射線を照射し、硬化後の小片の弾性率を、粘弾性測定装置(レオバイブロン:DDV-II-EP、オリエンテック(株)製)を用いて3.5Hzで測定して得られるグラフより、25℃の値を読み取って弾性率とする。」と、本件特許の請求項1、2に係る発明における「放射線硬化後における弾性率」が定義付けられている。
そこで、異議申立人の弾性率についての主張を検討するに、
(イ)弾性率の測定対象が「長さ50mm、幅4mm、厚さ0.2mm」というフィルムであること、及び、特許権者が参考資料として提示した特開2001-152015号公報、特開2002-226807号公報、特開2003-183608号公報、特開平6-122280号公報の記載からみて、上記段落【0026】に記載される弾性率が引張りモードの貯蔵弾性率であることは明らかであること、
(ロ)弾性率は、放射線硬化後の粘着剤層を対象とするものであるから、放射線硬化の条件は、「放射線硬化後の弾性率」に直接影響を及ぼすと考え難いこと、
(ハ)弾性率測定時の昇温速度等の条件は、例えばサンプルの比熱といったサンプルの性質等によって異なるので一義的に特定できるものではなく、サンプルに応じて当業者が容易に決定し得る事項であることから、
弾性率の種類、放射線硬化の条件及び弾性率測定の一部の条件を特定していないことをもって、放射線硬化後の弾性率に関する請求項1、2の記載が不明確であるとはいえない。
したがって、請求項1、2の「放射線硬化後の弾性率」の記載に不備があるとすることはできない。

3.特許法第29条第2項違反についての判断
(1)本件発明
上記第2.で示したように上記訂正が認められ、また、上記第3.2.で示したように請求項1、2の記載に不備はないから、本件特許の請求項1、2に係る発明(以下それぞれを、「本件発明1」、「本件発明2」という。)は、上記訂正に係る訂正明細書の特許請求の範囲の請求項1、2にそれぞれ記載された次のとおりのものと認める。
「【請求項1】 基材フィルムと、この上に形成された放射線硬化型粘着剤層とからなり、その表面に回路が形成されるウェハの裏面を前記放射線硬化型粘着剤層に貼付し、この状態で前記ウェハをチップ単体にダイシングし、洗浄し、乾燥し、放射線を照射して前記放射線硬化型粘着剤層を硬化させ、必要に応じてエキスパンドし、前記チップを互いに離間させ、その後、前記チップをピックアップして、リードフレームにマウントし、ボンディングし、モールドして、前記チップ裏面の一部または全部がパッケージ成型用モールド樹脂に接する構造の半導体装置を製造する際に用いられるウェハ貼着用粘着シートであって、
該放射線硬化型粘着剤層が、アクリル酸エステルとOH基含有重合性単量体とを共重合してなり、OH基含有重合性単量体単位の割合が8〜30モル%であるアクリル系粘着剤:100重量部と、不飽和結合を2個以上有する放射線重合性化合物:50〜200重量部とからなり、前記不飽和結合を2個以上有する放射線重合性化合物の内、20〜80重量%が、不飽和結合を4個以上有し、かつ
放射線硬化後における弾性率が1×109 dyn/cm2 以上であることを特徴とするウェハ貼着用粘着シート。
【請求項2】 基材フィルムと、この上に形成された放射線硬化型粘着剤層とからなり、該放射線硬化型粘着剤層が、アクリル酸エステルとOH基含有重合性単量体とを共重合してなり、OH基含有重合性単量体単位の割合が8〜30モル%であるアクリル系粘着剤:100重量部と、不飽和結合を2個以上有する放射線重合性化合物:50〜200重量部とからなり、前記不飽和結合を2個以上有する放射線重合性化合物の内、20〜80重量%が、不飽和結合を4個以上有し、かつ
放射線硬化後における弾性率が1×109 dyn/cm2 以上であるウェハ貼着用粘着シートの放射線硬化型粘着剤層に、
その表面に回路が形成されるウェハ裏面を貼付し、この状態で前記ウェハをチップ単体にダイシングし、洗浄し、乾燥し、放射線を照射して前記放射線硬化型粘着剤層を硬化させ、必要に応じてエキスパンドし、前記チップを互いに離間させ、その後、前記チップをピックアップして、リードフレームにマウントし、ボンディングし、モールドして、前記チップ裏面の一部または全部がパッケージ成型用モールド樹脂に接する構造の半導体装置を製造することを特徴とする半導体装置の製造方法。」

(2)甲各号証記載の発明
甲第1〜4号証には、以下の発明が記載されていると認められる。
(i)甲第1号証記載の発明
「基材フィルムと、この上に形成された放射線硬化型粘着剤層とからなり、その表面にウェハの裏面を前記放射線硬化型粘着剤層に貼付し、この状態で前記ウェハをチップ単体にダイシングし、洗浄し、乾燥し、放射線を照射して前記放射線硬化型粘着剤層を硬化させ、必要に応じてエキスパンドし、前記チップを互いに離間させ、その後、前記チップをピックアップして、リードフレームにマウントして半導体装置を製造する際に用いられるウェハ貼着用粘着シートであって、
該放射線硬化型粘着剤層が、アクリル酸エステルとOH基含有重合性単量体とを共重合してなるアクリル系粘着剤65部と、不飽和結合を2個以上有する放射線重合性化合物35部とからなるウェハ貼着用粘着シート。」
(ii)甲第2号証記載の発明
「基材フィルムと、この上に形成された放射線硬化型粘着剤層とからなり、その表面に回路が形成されるウェハの裏面を前記放射線硬化型粘着剤層に貼付し、この状態で前記ウェハをチップ単体にダイシングし、放射線を照射して前記放射線硬化型粘着剤層を硬化させ、必要に応じてエキスパンドし、前記チップを互いに離間させる際に用いられるウェハ貼着用粘着シートであって、
該放射線硬化型粘着剤層が、アクリル系粘着剤100重量部と炭素-炭素二重結合を有する(イソ)シアヌレート化合物10〜200重量部と炭素-炭素二重結合を有するウレタンアクリレート化合物5〜100重量部とを含有し、
アクリル系粘着剤はアクリル酸エステルとOH基含有重合性単量体との共重合体でよく、
(イソ)シアヌレート化合物は、より好ましくは放射線重合性炭素-炭素二重結合を2〜6個有するのがよく、
ウレタンアクリレート化合物は、放射線重合性炭素-炭素二重結合を2個有するものであること。」
(iii)甲第3号証記載の発明
「基材フィルムと、この上に形成された放射線硬化型粘着剤層とからなり、半導体ウェハを切断する際に用いられるウェハ貼着用粘着シートであって、
該放射線硬化型粘着剤層が、アクリル系共重合体100重量部と放射線硬化する多官能液状樹脂50〜200重量部とからなり、
アクリル系共重合体はアクリル酸エステルとOH基含有重合性単量体との共重合体でよく、
多官能液状樹脂のうち特に効果の大きいのは、アクリロイル基が4個以上のものであること。」
(iv)甲第4号証記載の発明
「半導体チップをリードフレームにマウント後、ボンディングし、モールドして、前記チップ裏面の一部または全部がパッケージ成型用モールド樹脂に接する構造の半導体装置を製造すること。」

(3)対比・判断
本件発明1と甲第1号証記載の発明とを対比すると、両者は、以下の点で相違し、残余の点で一致する。
〈相違点1〉前者は、チップをリードフレームにマウントした後、ボンディングし、モールドして、前記チップ裏面の一部または全部がパッケージ成型用モールド樹脂に接する構造の半導体装置を製造するものであるのに対して、後者は、マウントした後、ボンディングし、モールドして、前記チップ裏面の一部または全部がパッケージ成型用モールド樹脂に接する構造の半導体装置を製造するものであるか否かが明らかではない点。
〈相違点2〉前者は、OH基含有重合性単量体単位の割合が8〜30モル%であるのに対して、後者は、OH基含有重合性単量体単位の割合について明らかではない点。
〈相違点3〉前者は、不飽和結合を2個以上有する放射線重合性化合物の内、20〜80重量%が、不飽和結合を4個以上有するのに対して、後者は、不飽和結合を2個以上有する放射線重合性化合物の内、20〜80重量%が、不飽和結合を4個以上有するものでない点。
〈相違点4〉前者は、放射線硬化型粘着剤層の放射線硬化後における弾性率が1×109 dyn/cm2 以上であるのに対して、後者は、放射線硬化型粘着剤層の放射線硬化後における弾性率について明らかではない点。
そこで、相違点2及び相違点4について検討するに、本件発明1において、「OH基含有重合性単量体単位の割合が8〜30モル%である」こと、及び、「放射線硬化型粘着剤層の放射線硬化後における弾性率が1×109 dyn/cm2 以上である」ことの技術的意義は、チップ裏面の一部または全部がパッケージ成型用モールド樹脂に接する構造の半導体装置におけるパッケージ・クラックの発生を防止することにある(例えば、訂正明細書の実施例及び比較例の記載を参照)。
ところで、甲第2〜4号証にも、「OH基含有重合性単量体単位の割合が8〜30モル%である」こと、及び、「放射線硬化型粘着剤層の放射線硬化後における弾性率が1×109 dyn/cm2 以上である」ことのいずれについても記載されておらず、また、「半導体装置におけるパッケージ・クラックの発生を防止する」ことについて記載も示唆もされていない。
そうすると、相違点1及び相違点3について検討するまでもなく、本件発明1は、甲第1〜4号証記載の発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである、とすることはできない。

また、本件発明2と甲第1号証記載の発明とを対比すると、両者は、上記相違点1〜4と実質上同一の点で相違する。
そうすると、本件発明2も、本件発明1と同様の理由から、甲第1〜4号証記載の発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである、とすることはできない。

4.むすび
以上のとおりであるから、特許異議申立ての理由及び証拠によっては、本件の請求項1、2に係る特許は拒絶の査定をしなければならない特許出願に対してされたものとは認めることができない。
また、他に、本件の請求項1、2に係る特許が拒絶の査定をしなければならない特許出願に対してされたものと認めるべき理由を発見しない。
よって、特許法等の一部を改正する法律(平成6年法律第116号)附則第14条の規定に基づく、特許法等の一部を改正する法律の施行に伴う経過措置を定める政令(平成7年政令第205号)第4条第2項の規定により、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
ウェハ貼着用粘着シートおよびこれを用いた半導体装置の製造方法
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材フィルムと、この上に形成された放射線硬化型粘着剤層とからなり、その表面に回路が形成されるウェハの裏面を前記放射線硬化型粘着剤層に貼付し、この状態で前記ウェハをチップ単体にダイシングし、洗浄し、乾燥し、放射線を照射して前記放射線硬化型粘着剤層を硬化させ、必要に応じてエキスパンドし、前記チップを互いに離間させ、その後、前記チップをピックアップして、リードフレームにマウントし、ボンディングし、モールドして、前記チップ裏面の一部または全部がパッケージ成型用モールド樹脂に接する構造の半導体装置を製造する際に用いられるウェハ貼着用粘着シートであって、
該放射線硬化型粘着剤層が、アクリル酸エステルとOH基含有重合性単量体とを共重合してなり、OH基含有重合性単量体単位の割合が8〜30モル%であるアクリル系粘着剤:100重量部と、不飽和結合を2個以上有する放射線重合性化合物:50〜200重量部とからなり、前記不飽和結合を2個以上有する放射線重合性化合物の内、20〜80重量%が、不飽和結合を4個以上有し、かつ放射線硬化後における弾性率が1×109dyn/cm2以上であることを特徴とするウェハ貼着用粘着シート。
【請求項2】
基材フィルムと、この上に形成された放射線硬化型粘着剤層とからなり、該放射線硬化型粘着剤層が、アクリル酸エステルとOH基含有重合性単量体とを共重合してなり、OH基含有重合性単量体単位の割合が8〜30モル%であるアクリル系粘着剤:100重量部と、不飽和結合を2個以上有する放射線重合性化合物:50〜200重量部とからなり、前記不飽和結合を2個以上有する放射線重合性化合物の内、20〜80重量%が、不飽和結合を4個以上有し、かつ
放射線硬化後における弾性率が1×109dyn/cm2以上であるウェハ貼着用粘着シートの放射線硬化型粘着剤層に、
その表面に回路が形成されるウェハ裏面を貼付し、この状態で前記ウェハをチップ単体にダイシングし、洗浄し、乾燥し、放射線を照射して前記放射線硬化型粘着剤層を硬化させ、必要に応じてエキスパンドし、前記チップを互いに離間させ、その後、前記チップをピックアップして、リードフレームにマウントし、ボンディングし、モールドして、前記チップ裏面の一部または全部がパッケージ成型用モールド樹脂に接する構造の半導体装置を製造することを特徴とする半導体装置の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の技術分野】
本発明は、半導体ウェハ(以下ウェハという)貼着用粘着シートおよびこれを用いた半導体装置の製造方法に関し、さらに詳しくは、ウェハを素子小片(以下チップという)に分離し、該チップ裏面の一部または全部がパッケージ成型用のモールド樹脂に接触する構造の半導体装置を製造する一連の工程においてウェハプロセス終了後の、複数のチップが形成されたウェハを一つ一つのチップ毎に切断し、分割する際に使用するウェハ固定用のウェハ貼着用粘着シートならびにこれを用いた半導体装置の製造方法に関する。
【0002】
【発明の技術的背景】
近年、半導体装置において、メモリーの高集積化に伴い、高速化、低消費電流化、さらには出力の語構成やパッケージのバリエーションの拡大等ユーザーのニーズは多様化している。このような多様なニーズに対応するにはフレキシブルなパッケージ設計が必要になる。
【0003】
このような要求に応えるため、LOC(lead on chip)構造の半導体装置が提案されている(たとえば、NIKKEI MICRODEVICES1991年2月号89〜97頁あるいは特開平2-246125号公報参照)。LOC構造の利点としては、小型化、高速化、雑音の減少、レイアウトの容易さ等があげられ、今後開発が予想される大規模半導体装置においては、LOC構造の採用が有力と言われている。
【0004】
LOC構造は、図7に示すように、チップの回路形成面上に、半導体装置用リードフレーム(以下リードフレームという)の複数のインナーリードが、前記チップと電気的に絶縁する絶縁テープを介在して接着され、該インナーリードとチップとがそれぞれボンディングワイヤで電気的に接続されてなる構造であり、半導体装置はモールド樹脂により封止されており、チップ裏面がモールド樹脂に接触する構造である。
【0005】
LOC構造には、上記のように種々の利点があるが、従来のパッケージと全く違う構造であるため、さまざまな課題を克服する必要がある。解決されるべき課題として、チップと封止樹脂との界面の剥離や、パッケージクラックの発生等による信頼性の低下があげられる。
【0006】
またこのようなパッケージクラックの発生に伴う信頼性の低下は、上記LOC構造の半導体装置に固有の問題ではなく、図8〜9に示すような、チップ裏面の一部または全部がモールド樹脂に接触する構造の半導体装置全般において、極めて深刻な問題である。図8は、ダイパットにスリットのある構造の半導体装置を示し、図9は、COL(chip on Lead)構造の半導体装置を示す。
【0007】
前述したチップと封止樹脂の剥離、パッケージクラックの発生するメカニズムは現在、様々に報告されている。ICパッケージに侵入する水分の経路として大別すると次のようである。
【0008】
1)リードフレームと樹脂との界面より侵入
2)樹脂中に充填されるフイラーと樹脂の界面より侵入
3)樹脂のバルクから侵入
これらは、毛管現象や拡散によるものであるが、ICパッケージが放置される環境温度が高いほど、そして湿度が高いほど吸湿し易い。また環境温度が高いほど初期段階の水分拡散速度は速く、吸湿飽和点に早く達し、85℃/85%RH(RH:相対湿度)の環境下にICパッケージを放置し吸湿させた結果では、約168時間で飽和点の80〜90%に達しているとの報告がある。また、常温で75%RHという通常の環境下でもICパツケージの樹脂封止材である例えばエポキシ樹脂に容易に水分が浸透する。
【0009】
SOJやQFPなどのICパッケージでは半田付けする場合、量産性の高い赤外線により加熱するIRリフローや不活性液体を蒸発させてその高温蒸気にさらす蒸気リフローが使われる。前者のIRリフローでは240〜250℃という高温にさらされ、ICパッケージ内に前述したように侵入した水がリフロー時の高温下で爆発的に膨張するためエポキシ樹脂とリードフレームの界面に水蒸気圧が加わり界面剥離を起こしパッケージクラックへと至る。
【0010】
パッケージ内部のリードフレームの形状やチップ面積などにもよるが、168時間位の常温環境下放置でも、IRリフローによるパッケージクラックが観察されることがしばしばある。
【0011】
界面剥離を助長する因子の一つに、パッケージ用封止樹脂材として使用する例えばエポキシ樹脂とチップ接触面との接着強度の低下がある。接着強度は被接着表面部の清浄度に大きく左右され、その表面に残存するオングストロームレベルの異物膜にも敏感に反応し接着強度を低下させ水分の侵入、保持を容易にし、最終的にパッケージクラックに至らしめることになる。
【0012】
ところで、シリコン、ガリウムヒ素などの半導体ウェハは大径の状態で製造され、このウェハはチップに切断分離(ダイシング)された後に次の工程であるマウント工程に移されている。この際、半導体ウェハは予じめ粘着シートに貼着された状態でダイシング、洗浄、乾燥し、粘着シート面側に放射線を照射して放射線硬化型粘着剤層を硬化させる工程が加えられ、次いで必要に応じシートのエキスパンドを行った後、チップのピックアップ、マウントの各工程が加えられている。
【0013】
このようなウェハのダイシング工程からピックアップ工程に至る工程で用いられる粘着シートとしては、ダイシング工程からエキスパンド工程までではウェハおよび/またはチップに対して充分な接着力を有しており、ピックアップ工程ではウェハチップに粘着剤が付着しない程度の接着力を有しているものが望まれている。このようなウェハ貼着用粘着シートとしては、たとえば特公平1-56112号公報に記載のシート等が汎用されており、従来型の半導体装置の製造においては、何ら問題なく使用できた。
【0014】
ところが、上記したチップ裏面の一部または全部がモールド樹脂に接触する構造の半導体装置製造に際しては、パッケージ・クラックが発生する等の支障が見られ、信頼性の低下を招いた。
【0015】
【発明の目的】
本発明は、上記のような従来技術に鑑みてなされたものであって、チップ裏面の一部または全部がパッケージ成型用のモールド樹脂に接触する構造の半導体装置の製造に際して用いられ、パッケージ・クラック等の発生を防止し、信頼性を向上することができるウェハ貼着用粘着シートならびにこれを用いた半導体装置の製造方法を提供することを目的としている。
【0016】
【発明の概要】
本発明に係るウェハ貼着用粘着シートは、基材フィルムと、この上に形成された放射線硬化型粘着剤層とからなり、その表面に回路が形成されるウェハの裏面を前記放射線硬化型粘着剤層に貼付し、この状態で前記ウェハをチップ単体にダイシングし、洗浄し、乾燥し、放射線を照射して前記放射線硬化型粘着剤層を硬化させ、必要に応じてエキスパンドし、前記チップを互いに離間させ、その後、前記チップをピックアップして、リードフレームにマウントし、ボンディングし、モールドして、前記チップ裏面の一部または全部がパッケージ成型用モールド樹脂に接する構造の半導体装置を製造する際に用いられるウェハ貼着用粘着シートであって、該放射線硬化型粘着剤層が、アクリル酸エステルとOH基含有重合性単量体とを共重合してなり、OH基含有重合性単量体単位の割合が8〜30モル%であるアクリル系粘着剤:100重量部と、不飽和結合を2個以上有する放射線重合性化合物:50〜200重量部とからなり、かつ放射線硬化後における弾性率が1×109dyn/cm2以上であることを特徴としている。
【0017】
本発明に係る半導体装置の製造方法においては、基材フィルムと、この上に形成された放射線硬化型粘着剤層とからなり、該放射線硬化型粘着剤層が、アクリル酸エステルとOH基含有重合性単量体とを共重合してなり、OH基含有重合性単量体単位の割合が8〜30モル%であるアクリル系粘着剤:100重量部と、不飽和結合を2個以上有する放射線重合性化合物:50〜200重量部とからなり、かつ放射線硬化後における弾性率が1×109dyn/cm2以上であるウェハ貼着用粘着シートを用い、該シートの放射線硬化型粘着剤層に、その表面に回路が形成されるウェハ裏面を貼付し、この状態で前記ウェハをチップ単体にダイシングし、洗浄し、乾燥し、放射線を照射して前記放射線硬化型粘着剤層を硬化させ、必要に応じてエキスパンドし、前記チップを互いに離間させ、その後、前記チップをピックアップして、リードフレームにマウントし、ボンディングし、モールドして、前記チップ裏面の一部または全部がパッケージ成型用モールド樹脂に接する構造の半導体装置を製造することを特徴としている。
【0018】
本発明においては、上記不飽和結合を2個以上有する放射線重合性化合物の内、20〜80重量%が、不飽和結合を4個以上有する放射線重合性化合物であることが好ましい。
【0019】
【発明の具体的説明】
以下本発明に係るウェハ貼着用粘着シートならびにこれを用いた半導体装置の製造方法を具体的に説明する。
【0020】
図3〜図6に示すように、本発明に係るウェハ貼着用粘着シート1は、基材フィルム2と、この上に形成された放射線硬化型粘着剤層3とからなり、ウェハプロセス終了後のウェハAを放射線硬化型粘着剤層3に貼付し、この状態でウェハを一つ一つのチップ毎にダイシング(切断)し複数のチップとし、洗浄し、乾燥し、ウェハ貼着用粘着シート1の放射線硬化型粘着剤層3に放射線を照射して硬化させて粘着力を低減し、必要に応じシートをエキスパンドし、チップを互いに離間させ、その後、チップを放射線硬化型粘着剤層3からピックアップし、所定の基台上、例えばリードフレームにマウントし、樹脂でモールドして、チップ裏面の一部または全部がモールド樹脂に接触する構造の半導体装置を製造する際に用いられる。
【0021】
本発明に係るウェハ貼着用粘着シート1は、その断面図が図1に示されるように、基材フィルム2とこの表面に形成された放射線硬化型粘着剤層3とからなっており、使用前にはこの放射線硬化型粘着剤層3を保護するため、図2に示すように放射線硬化型粘着剤層3の上面に剥離性シート4を仮貼着しておくことが好ましい。
【0022】
本発明に係るウェハ貼着用粘着シート1の形状は、テープ状、ラベル状などあらゆる形状をとりうる。基材フィルム2としては、耐水性および耐熱性に優れているものが適し、特に合成樹脂フィルムが適する。本発明のウェハ貼着用粘着シートでは、後記するように、その使用に当り、電子線(EB)や紫外線(UV)などの放射線照射が行われているので、EB照射の場合は、該基材フィルム2は透明である必要はないが、UV照射をして用いる場合は、有色であっても透明な材料である必要がある。
【0023】
このような基材フィルム2としては、具体的には、ポリエチレンフィルム、ポリプロピレンフィルム、ポリ塩化ビニルフィルム、ポリエチレンテレフタレートフィルム、ポリブチレンテレフタレートフィルム、ポリブテンフィルム、ポリブタジエンフィルム、ポリウレタンフィルム、ポリメチルペンテンフィルム、エチレン-酢酸ビニル共重合体フィルム、エチレン-(メタ)アクリル酸共重合体フィルム、エチレン-(メタ)アクリル酸メチル共重合体フィルム、エチレン-(メタ)アクリル酸エチル共重合体フイルム等が用いられる。またこれらの積層フイルムであってもよい。基材フィルム2の膜厚は、通常は10〜300μm程度であり、好ましくは50〜200μm程度である。
【0024】
ウェハのダイシング後にエキスパンド処理をする必要がある場合には、従来と同様のポリ塩化ビニル、ポリエチレン等の長さ方向および幅方向に延伸性を有する合成樹脂フィルムを基材として用いることが好ましい。
【0025】
本発明に係るウェハ貼着用粘着シート1は、上記のような基材フィルム2と、この基材フィルム2上に形成された放射線硬化型粘着剤からなる層3とから構成されている。放射線硬化型粘着剤層3は、放射線硬化後に、1×109dyn/cm2以上、好ましくは1×109〜1×1010dyn/cm2の弾性率を有する。
【0026】
ここで、弾性率は以下の手法により決定される値である。すなわち、層3を構成する放射線硬化型粘着剤を長さ50mm、幅4mm、厚さ0.2mmの粘着剤小片とし、これを80W/cmの高圧水銀灯下に置き、1秒間放射線を照射し、硬化後の小片の弾性率を、粘弾性測定装置(レオバイブロン:DDV-II-EP、オリエンテック(株)製)を用いて3.5Hzで測定して得られるグラフより、25℃の値を読み取って弾性率とする。
【0027】
基材フィルム2上に形成されている放射線硬化型粘着剤層3は、粘着剤と放射線重合性化合物からなる。粘着剤としては、アクリル酸エステルとOH基含有重合性単量体とを共重合してなるアクリル系粘着剤が用いられる。このアクリル系粘着剤は、アクリル酸エステルから導かれる繰り返し単位と、OH基含有重合性単量体から導かれる繰り返し単位を主たる構成単位とする共重合体である。該共重合体中におけるOH基含有重合性単量体単位の割合は8〜30モル%、特に好ましくは20〜30モル%である。
【0028】
アクリル酸エステルとしては、たとえば、炭素数1〜10のアルキルアルコールのアクリル酸エステル、炭素数1〜10のアルキルアルコールのメタクリル酸エステル等が用いられる。
【0029】
OH基含有重合性単量体としては、2-ヒドロキシエチルアクリレート、2-ヒドロキシエチルメタクリレート、ヒドロキシプロピルアクリレート、ヒドロキシプロピルメタクリレート等が用いられ、好ましくは2-ヒドロキシエチルアクリレート、2-ヒドロキシエチルメタクリレートが用いられる。
【0030】
これらのモノマーを重合して得られる共重合体の分子量は、1.0×105〜10.0×105であり、好ましくは4.0×105〜8.0×105である。また、この他にも、本発明の目的を損なわない範囲で、酢酸ビニル、アクリロニトリル、ビニルアルキルエーテル等から導かれる構成単位が、アクリル系粘着剤中に含有されていてもよい。
【0031】
上記のようなアクリル系粘着剤は、架橋剤を使用することにより接着力と凝集力とを任意の値に設定することができる。このような架橋剤としては、多価イソシアネート化合物、多価エポキシ化合物、多価アジリジン化合物、キレート化合物等がある。多価イソシアネート化合物としては、具体的にはトルイレンジイソシアネート、ジフェニルメタンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネートおよびこれらのアダクトタイプのもの等が用いられる。多価エポキシ化合物としては、具体的にはエチレングリコールジグリシジルエーテル、テレフタル酸ジグリシジルエステル等が用いられる。多価アジリジン化合物としては、具体的にはトリス-2,4,6-(1-アジリジニル)-1,3,5-トリアジン、トリス〔1-(2-メチル)-アジリジニル〕ホスフィンオキシド、ヘキサ〔1-(2-メチル)-アジリジニル〕トリホスファトリアジン等が用いられる。またキレート化合物としては、具体的にはエチルアセトアセテートアルミニウムジイソプロピレート、アルミニウムトリス(エチルアセトアセテート)等が用いられる。
【0032】
また放射線硬化型粘着剤層3に用いられる放射線重合性化合物としては、たとえば特開昭60-196,956号公報および特開昭60-223,139号公報に開示されているような光照射によって三次元網状化しうる分子内に光重合性炭素-炭素二重結合を少なくとも2個以上有する低分子量化合物が広く用いられ、具体的には、トリメチロールプロパントリアクリレート、テトラメチロールメタンテトラアクリレート、ペンタエリスリトールトリアクリレート、ペンタエリスリトールテトラアクリレート、ジペンタエリスリトールモノヒドロキシペンタアクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサアクリレートあるいは1,4-ブチレングリコールジアクリレート、1,6-ヘキサンジオールジアクリレート、ポリエチレングリコールジアクリレート、市販のオリゴエステルアクリレートなどが用いられる。
【0033】
さらに放射線重合性化合物として、上記のようなアクリレート系化合物のほかに、ウレタンアクリレート系オリゴマーを用いることもできる。ウレタンアクリレート系オリゴマーは、ポリエステル型またはポリエーテル型などのポリオール化合物と、多価イソシアネート化合物たとえば2,4-トリレンジイソシアネート、2,6-トリレンジイソシアネート、1,3-キシリレンジイソシアネート、1,4-キシリレンジイソシアネート、ジフェニルメタン4,4-ジイソシアネートなどを反応させて得られる末端イソシアネートウレタンプレポリマーに、ヒドロキシル基を有するアクリレートあるいはメタクリレートたとえば2-ヒドロキシエチルアクリレートまたは2-ヒドロキシエチルメタクリレート、2-ヒドロキシプロピルアクリレート、2-ヒドロキシプロピルメタクリレート、ポリエチレングリコールアクリレート、ポリエチレングリコールメタクリレートなどを反応させて得られる。
【0034】
このようなウレタンアクリレート系オリゴマーとして、特に分子量が3000〜30000、好ましくは3000〜10000、さらに好ましくは4000〜8000であるものを用いると、ウェハ裏面が粗い場合にも、チップのピックアップ時にチップ裏面に粘着剤が付着することがないため好ましい。またウレタンアクリレート系オリゴマーを放射線重合性化合物として用いる場合には、特開昭60-196,956号公報に開示されたような分子内に光重合性炭素-炭素二重結合を少なくとも2個以上有する低分子量化合物を単独で用いた場合と比較して、粘着シートとして極めて優れたものが得られる。すなわち粘着シートの放射線照射前の接着力は充分に大きく、また放射線照射後には接着力が充分に低下してチップのピックアップ時にチップ裏面に粘着剤が残存することはない。
【0035】
さらに本発明においては、複数の放射線重合性化合物を組み合わせて使用することが好ましい。たとえば、不飽和結合を2個以上有する放射線重合性化合物の内、20〜80重量%程度、好ましくは30〜70重量%程度が不飽和結合を4個以上有する放射線重合性化合物であることが望ましい。不飽和結合を4個以上有する放射線重合性化合物の具体的な例としては、ペンタエリスリトールテトラアクリレート、1,6-ビス(グリセリルウレタン)ヘキサン-テトラメタクリレート(化1)
【0036】
【化1】

【0037】
ビス(グリセリルウレタン)イソホロン-テトラメタクリレート(化2)
【0038】
【化2】

【0039】
ビス(グリセリルウレタン)トルエン-テトラメタクリレート(化3)
【0040】
【化3】

【0041】
等があげられる。このような不飽和結合を4個以上有する放射線重合性化合物を20〜80重量%程度用いることにより、放射線照射により充分に硬化するとともに、粘着剤としての凝集力が低下することも無くなる。
【0042】
また不飽和結合を2個以上有する放射線重合性化合物の内、20〜80重量%、好ましくは30〜70重量%が不飽和結合を4個以上有する放射線重合性化合物であり、20〜60重量%、好ましくは30〜50重量%が不飽和結合を6個以上有する放射線重合性化合物である組み合わせも特に好ましい。不飽和結合を6個以上有する放射線重合性化合物の具体的な例としては、ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサメタクリレート1,6-ビス(ペンタエリスリトールウレタン)ヘキサン-ヘキサアクリレート(化4)
【0043】
【化4】
(CH2=CH-COOCH2)3CCH2OCONH-C6H12-NHCOOCH2C(CH2OCOCH=CH2)3
【0044】
ビス(ペンタエリスリトールウレタン)イソホロン-ヘキサアクリレート(化5)
【0045】
【化5】

【0046】
ビス(ペンタエリスリトールウレタン)トルエン-ヘキサアクリレート(化6)
【0047】
【化6】

【0048】
等があげられる。
【0049】
このような放射線重合性化合物の特に好ましい組み合わせの例としては、1.2官能ウレタンアクリレート系オリゴマー+ペンタエリスリトールテトラアクリレート2.2官能ウレタンアクリレート系オリゴマー+ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート3.2官能ウレタンアクリレート系オリゴマー+1,6-ビス(ペンタエリスリトールウレタン)ヘキサン-ヘキサアクリレート等があげられるが、これらに限定されない。
【0050】
粘着剤中のアクリル系粘着剤と放射線重合性化合物との配合比は、アクリル系粘着剤100重量部に対して放射線重合性化合物は50〜200重量部、好ましくは50〜150重量部、特に好ましくは70〜120の範囲の量で用いられることが望ましい。この場合には、得られる粘着シートは初期の接着力が大きく、しかも放射線照射後には粘着力は大きく低下し、容易にチップを該粘着シートからピックアップすることができる。
【0051】
放射線重合性化合物の割合が50重量部未満では、放射線硬化後に、チップ裏面に多量の粘着剤が付着してしまい、樹脂で封止するとパッケージクラックが発生してしまう。一方200重量部を超えると、パッケージクラックの発生は抑えられるが、粘着剤の凝集力が低下し、他の問題(フレームからの粘着シートの離脱)を誘発してしまう。
【0052】
上記のような基材フィルム2と放射線硬化型粘着剤層3とからなるウェハ貼着用粘着シート1は、放射線照射前には被着体に対して充分な接着力を有し、放射線照射後には接着力が著しく減少する。具体的には、たとえば鏡面処理したステンレスに対し、放射線照射前には、200g/25mm以上の接着力を有し、放射線照射後には、20g/25mm以下に減少する。
【0053】
また必要に応じては、放射線硬化型粘着剤層3中に、上記のような粘着剤と放射線重合性化合物とに加えて、放射線照射により着色する化合物を含有させることもできる。このような放射線照射により、着色する化合物を放射線硬化型粘着剤層3に含ませることによって、粘着シートに放射線が照射された後には該シートは着色され、したがって光センサーによってチップを検出する際に検出精度が高まり、チップのピックアップ時に誤動作が生ずることがない。また粘着シートに放射線が照射されたか否かが目視により直ちに判明するという効果が得られる。
【0054】
放射線照射により着色する化合物は、放射線の照射前には無色または淡色であるが、放射線の照射により有色となる化合物であって、この化合物の好ましい具体例としてはロイコ染料が挙げられる。ロイコ染料としては、慣用のトリフェニルメタン系、フルオラン系、フェノチアジン系、オーラミン系、スピロピラン系のものが好ましく用いられる。具体的には3-[N-(p-トリルアミノ)]-7-アニリノフルオラン、3-[N-(p-トリル)-N-メチルアミノ]-7-アニリノフルオラン、3-[N-(p-トリル)-N-エチルアミノ]-7-アニリノフルオラン、3-ジエチルアミノ-6-メチル-7-アニリノフルオラン、クリスタルバイオレットラクトン、4,4’,4”-トリスジメチルアミノトリフェニルメタノール、4,4’,4”-トリスジメチルアミノトリフェニルメタンなどが挙げられる。
【0055】
これらロイコ染料とともに好ましく用いられる顕色剤としては、従来から用いられているフェノールホルマリン樹脂の初期重合体、芳香族カルボン酸誘導体、活性白土などの電子受容体が挙げられ、さらに、色調を変化させる場合は種々公知の発色剤を組合せて用いることもできる。
【0056】
このような放射線照射によって着色する化合物は、一旦有機溶媒などに溶解された後に接着剤層中に含ませてもよく、また微粉末状にして放射線硬化型粘着剤層中に含ませてもよい。この化合物は、放射線硬化型粘着剤層中に0.01〜10重量%好ましくは0.5〜5重量%の量で用いられることが望ましい。該化合物が10重量%を超えた量で用いられると、粘着シートに照射される放射線がこの化合物に吸収されすぎてしまうため、放射線硬化型粘着剤層の硬化が不十分となることがあり、一方該化合物が0.01重量%未満の量で用いられると放射線照射時に粘着シートが充分に着色しないことがあり、チップのピックアップ時に誤動作が生じやすくなることがある。
【0057】
また場合によっては、放射線硬化型粘着剤層3中に上記のような粘着剤と放射線重合性化合物とに加えて、光散乱性無機化合物粉末を含有させることもできる。このような光散乱性無機化合物粉末を放射線硬化型粘着剤層3に含ませることによって、たとえウェハなどの被接着面が何らかの理由によって灰色化あるいは黒色化しても、該粘着シートに紫外線などの放射線を照射すると、灰色化あるいは黒色化した部分でもその接着力が充分に低下し、したがってチップのピックアップ時にチップ裏面に粘着剤が付着してしまうことがなく、しかも放射線の照射前には充分な接着力を有しているという効果が得られる。
【0058】
この光散乱性無機化合物は、紫外線(UV)あるいは電子線(EB)などの放射線が照射された場合に、この放射線を乱反射することができるような化合物であって、具体的には、シリカ粉末、アルミナ粉末、シリカアルミナ粉末、マイカ粉末などが例示される。この光散乱性無機化合物は、上記のような放射線をほぼ完全に反射するものが好ましいが、もちろんある程度放射線を吸収してしまうものも用いることができる。
【0059】
光散乱性無機化合物は粉末状であることが好ましく、その粒径は1〜100μm好ましくは1〜20μm程度であることが望ましい。この光散乱性無機化合物は、放射線硬化型粘着剤層中に0.1〜10重量%好ましくは1〜4重量%の量で用いられることが望ましい。該化合物を放射線硬化型粘着剤層中に10重量%を越えた量で用いると、放射線硬化型粘着剤層の接着力が低下したりすることがあり、一方0.1重量%未満であると、ウェハの被接着面が灰色化あるいは黒色化した場合に、その部分に放射線照射しても、接着力が充分に低下せずピックアップ時にチップ裏面に粘着剤が残ることがある。
【0060】
放射線硬化型粘着剤層中に光散乱性無機化合物粉末を添加することによって得られる粘着シートは、ウェハの被接着面が何らかの理由によって灰色化あるいは黒色化したような場合に用いても、この灰色化あるいは黒色化した部分に放射線が照射されると、この部分においてもその接着力が充分に低下するのは、次のような理由であろうと考えられる。すなわち、本発明で用いられる粘着シート1は放射線硬化型粘着剤層3を有しているが、この放射線硬化型粘着剤層3に放射線を照射すると、放射線硬化型粘着剤層3中に含まれる放射線重合性化合物が硬化してその接着力が低下することになる。ところがウェハ面に何らかの理由によって灰色化あるいは黒色化した部分が生ずることがある。このような場合に放射線硬化型粘着剤層3に放射線を照射すると、放射線は放射線硬化型粘着剤層3を通過してウェハ面に達するが、もしウェハ面に灰色化あるいは黒色化した部分があるとこの部分では放射線が吸収されて、反射することがなくなってしまう。このため本来放射線硬化型粘着剤層3の硬化に利用されるべき放射線が、灰色化あるいは黒色化した部分では吸収されてしまって放射線硬化型粘着剤層3の硬化が不充分となり、接着力が充分には低下しないことになる。したがってウェハチップのピックアップ時にチップ面に粘着剤が付着してしまうのであろうと考えられる。
【0061】
ところが放射線硬化型粘着剤層3中に光散乱性無機化合物粉末を添加すると、照射された放射線はウェハ面に達するまでに該化合物と衝突して方向が変えられる。このため、たとえウェハチップ面に灰色化あるいは黒色化した部分があっても、この部分の上方の領域にも乱反射された放射線が充分に入り込み、したがってこの灰色化あるいは黒色化した部分も充分に硬化する。このため、放射線硬化型粘着剤層中に光散乱性無機化合物粉末を添加することによって、たとえウェハ面に何らかの理由によって灰色化あるいは黒色化した部分があっても、この部分で放射線硬化型粘着剤層の硬化が不充分になることがなく、したがってチップのピックアップ時にチップ裏面に粘着剤が付着することがなくなる。
【0062】
さらに本発明では、基材フィルム中に砥粒が分散されていてもよい。この砥粒は、粒径が0.5〜100μm好ましくは1〜50μmであって、モース硬度は6〜10好ましくは7〜10である。具体的には、グリーンカーボランダム、人造コランダム、オプティカルエメリー、ホワイトアランダム、炭化ホウ素、酸化クロム(III)、酸化セリウム、ダイヤモンドパウダーなどが用いられる。このような砥粒は無色あるいは白色であることが好ましい。このような砥粒は、基材フィルム2中に0.5〜70重量%好ましくは5〜50重量%の量で存在している。このような砥粒は、切断ブレードをウェハのみならず基材フィルム2にまでも切り込むような深さで用いる場合に、特に好ましく用いられる。
【0063】
上記のような砥粒を基材フィルム中に含ませることによって、切断ブレードが基材フィルム中に切り込んできて、切断ブレードに粘着剤が付着しても砥粒の研磨効果により、目づまりを簡単に除去することができる。
【0064】
さらに上記の粘着剤中に、UV照射用の場合には、UV開始剤を混入することにより、UV照射による重合硬化時間ならびにUV照射量を少なくなることができる。
【0065】
このようなUV開始剤としては、具体的には、ベンゾイン、ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインエチルエーテル、ベンゾインイソプロピルエーテル、ベンジルジフェニルサルファイド、テトラメチルチウラムモノサルファイド、アゾビスイソブチロニトリル、ジベンジル、ジアセチル、β-クロールアンスラキノンなどが挙げられる。
【0066】
本発明に係る半導体装置の製造方法においては、上記のようなウェハ貼着用粘着シートを用いて、ウェハプロセス終了後の半導体ウェハをダイシングしてチップを製造し、このチップを用いて半導体装置を製造する。
【0067】
以下、上記ウェハ貼着用粘着テープを用いた半導体装置の製造方法について説明する。粘着シート1の上面に剥離性シート4が設けられている場合には、該シート4を除去し、次いで粘着シート1の放射線硬化型粘着剤層3を上向きにして載置し、図3に示すようにして、この放射線硬化型粘着剤層3の上面にダイシング加工すべきウェハAを貼着する。この貼着状態でウェハAにダイシング、洗浄、乾燥の諸工程が加えられる。この際、放射線硬化型粘着剤層3によりチップは粘着シート1に充分に接着保持されているので、ウェハのダイシング、洗浄、乾燥等の各工程の間にチップが脱落することはない。
【0068】
次に、各ウェハチップを粘着シートからピックアップして所定の基台上例えばリードフレームにマウントするが、この際、ピックアップに先立ってあるいはピックアップ時に、図4に示すように、紫外線(UV)あるいは電子線(EB)などの電離性放射線Bを粘着シート1の放射線硬化型粘着剤層3に照射し、放射線硬化型粘着剤層3中に含まれる放射線重合性化合物を重合硬化せしめる。このように放射線硬化型粘着剤層3に放射線を照射して放射線重合性化合物を重合硬化せしめると、粘着剤の有する接着力は大きく低下し、わずかの接着力が残存するのみとなる。
【0069】
粘着シート1への放射線照射は、基材フィルム2の放射線硬化型粘着剤層3が設けられていない面から行なうことが好ましい。したがって前述のように、放射線としてUVを用いる場合には基材フィルム2は光透過性であることが必要であるが、放射線としてEBを用いる場合には基材フィルム2は必ずしも光透過性である必要はない。
【0070】
このようにウェハチップA1,A2……が設けられた部分の放射線硬化型粘着剤層3に放射線を照射して、放射線硬化型粘着剤層3の接着力を低下せしめた後、必要あらば、所定の倍率でエキスパンドする。エキスパンドを行うことによりチップ間隔が広がり、チップのピックアップが容易になる。次いで、図5に示すように、常法に従って基材フィルム2の下面から突き上げピン5によりピックアップすべきチップA1……を突き上げ、このチップA1……をたとえば吸引コレット6によりピックアップし、これを所定の基台上例えばリードフレームにマウントする。このようにしてウェハチップA1,A2……のピックアップを行なうと、簡単にピックアップすることができ、汚染のない良好な品質のチップが得られる。なお放射線照射は、ピックアップステーションにおいて行なうこともできる。
【0071】
放射線照射は、ウェハAの貼着面の全面にわたって1度に照射する必要は必ずしもなく、部分的に何回にも分けて照射するようにしてもよく、たとえば、ピックアップすべきウェハチップA1,A2……の1個ごとに、これに対応する裏面にのみ照射する放射線照射管により照射しその部分の粘着剤のみの接着力を低下させた後、突き上げピン5によりウェハチップA1,A2……を突き上げて順次ピックアップを行なうこともできる。図6には、上記の放射線照射方法の変形例を示すが、この場合には、突き上げピン5の内部を中空とし、その中空部に放射線発生源7を設けて放射線照射とピックアップとを同時に行なえるようにしており、このようにすると装置を簡単化できると同時にピッアップ操作時間を短縮することができる。
【0072】
本発明に係る半導体装置の製造方法においては、上記のようにして製造されたチップを、所定の基台上例えばリードフレームにマウントし、ボンディング後、常法にしたがって樹脂で封止して、図7〜図9に示すようなチップ裏面の一部または全部がモールド樹脂に接触する構造の半導体装置を製造する。このような本発明に係る半導体装置の製造方法によれば、パッケージクラック等が発生せず、信頼性を向上することができる。
【0073】
なお、この際に用いる封止樹脂としては、クレゾールノボラック型エポキシ、ナフタレン型エポキシ、ビフェニル型エポキシあるいは芳香族多官能型エポキシを主原料とし、フェノールノボラック等の一般に用いられる硬化剤およびシリカ、シリコーン、カーボン、フィラー等を混合した樹脂が好ましく用いられる。
【0074】
【発明の効果】
本発明に係るウェハ貼着用粘着シートは、ウェハプロセス終了後のウェハを貼付し、ダイシング加工してチップとし、このチップを用いてLOC構造に代表されるようなチップ裏面の一部または全部がモールド樹脂に接触する構造の半導体装置を製造するために用いられる。このような本発明によれば、製造された半導体装置にパッケージクラック等が発生せず、製品の信頼性を向上できるようになる。
【0075】
【実施例】以下本発明を実施例により説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0076】
なお、以下の実施例および比較例において、「弾性率」および「パッケージ・クラック発生率」は次のようにして評価した。
弾性率
放射線硬化型粘着剤を長さ50mm、幅4mm、厚さ0.2mmの粘着剤小片とし、これを80W/cmの高圧水銀灯下に置き、1秒間放射線を照射し、硬化後の小片の弾性率を、粘弾性測定装置(レオバイブロン:DDV-II-EP、オリエンテック(株)製)を用いて3.5Hzで測定して得られるグラフより、25℃の値を読み取って弾性率とする。
パッケージクラック発生率
ダイシング後、放射線照射した粘着テープからチップを取り出し、リードフレームにマウントし、ボンディング後、所定のモールド樹脂(オルソクレゾール型エポキシ樹脂)で高圧封止する。175℃、5時間を要してその樹脂を硬化させ、パッケージとして完成させた後、85℃、85%RHの環境下に504時間放置する。その後、245℃のIRリフロー(所要時間:1分間)を3回行ない、走査型超音波探傷機SAT(scanning acomostic tomography)で封止樹脂のクラックを検査する。投入検体数に対するクラック発生体数の比率をパッケージクラック発生率とする。
【0077】
【実施例1】
「放射線硬化型粘着剤の調製」アクリル系粘着剤(ヒドロキシエチルアクリレートとブチルアクリレートとの共重合体:ヒドロキシエチルアクリレート含量=9重量%(9.8モル%))100重量部と、分子量約6000の2官能ウレタンアクリレート系オリゴマー(大日精化工業社製)70重量部と、4官能ポリエステル系オリゴマー30重量部、芳香族イソシアナート(東洋インキ製造(株)製)10重量部とを混合して放射線硬化型粘着剤を調製した。
【0078】
この放射線硬化型粘着剤を用いて、「弾性率」を評価した。結果を表1に示す。「ウェハ貼着用粘着シートの作製」厚さ100μmのポリエチレンフィルム上に、上記の放射線硬化型粘着剤を塗布量10g/m2となるように塗布して放射線硬化型粘着剤層を設けた。この放射線硬化型粘着剤層上に、剥離シートとして、シリコーン処理した厚さ38μmのPETフィルムを積層してウェハ貼着用粘着シートを作製した。
「LOC構造半導体装置の作製」上記で得られたウェハ貼着用粘着シートを用いて、テスト・チップからなる6インチシリコンウェハをフラットフレームに貼付し、12.2mm×21.3mmにダイシングし、チップとした。このチップを用いてLOC封止構造の半導体装置を作製した。「パッケージクラック発生率」を表1に示す。
【0079】
【実施例2】
実施例1において、4官能ポリエステル系オリゴマー30重量部に代えて、6官能ポリエステルアクリレート系オリゴマー(日本化薬社製)30重量部を用いた以外は、実施例1と同様の操作を行った。結果を表1に示す。
【0080】
【実施例3】
実施例1において、実施例1のアクリル系粘着剤をヒドロキシエチルアクリレートとブチルアクリレートとの共重合体(ヒドロキシエチルアクリレート含量:25重量%(26.9モル%))に代えた以外は、実施例1と同様の操作を行った。結果を表1に示す。
【0081】
【実施例4】
「放射線硬化型粘着剤の調製」アクリル系粘着剤(ヒドロキシエチルアクリレートとブチルアクリレートとの共重合体:ヒドロキシエチルアクリレート含量=25重量%(26.9モル%))100重量部と、分子量約6000の2官能ウレタンアクリレート系オリゴマー(大日精化工業社製)70重量部と、6官能ポリエステル系オリゴマー30重量部(日本化薬社製)、芳香族イソシアナート(東洋インキ製造(株)製)10重量部とを混合して放射線硬化型粘着剤を調製した。
【0082】
この放射線硬化型粘着剤を用いて、「弾性率」を評価した。結果を表1に示す。次いで実施例1において、実施例1のアクリル系粘着剤の代わりに、上記のような放射線硬化型粘着剤を用いた以外は、実施例1と同様の操作を行った。結果を表1に示す。
【0083】
【比較例1】
実施例1において、アクリル系粘着剤として、アクリル酸とブチルアクリレートとの共重合体(アクリル酸含量=9重量%)100重量部を用いた以外は、実施例1と同様の操作を行った。結果を表1に示す。
【0084】
【比較例2】
実施例1において、2官能ウレタンアクリレート系オリゴマーの使用量を100重量部とし、4官能ポリエステルオリゴマーを全く含まずそれ以外は、実施例1と同様の操作を行った。結果を表1に示す。
【0085】
【表1】

【図面の簡単な説明】
【図1】本発明で用いるウェハ貼着用粘着シートの概略断面図である。
【図2】本発明で用いるウェハ貼着用粘着シートの概略断面図である。
【図3】ウェハ貼着用粘着シートにウェハを貼付した状態を示す。
【図4】貼付したウェハをダイシングし、シートをエキスパンドし、放射線を照射した状態を示す。
【図5】チップのピックアップの状態を示す。
【図6】チップのピックアップの状態を示す。
【図7】LOC構造の半導体装置の断面図である。
【図8】ダイパットにスリットのある構造の半導体装置の断面図である。
【図9】COL(chip on Lead)構造の半導体装置の断面図である。
【符号の説明】
1…ウェハ貼着用粘着シート
2…基材フィルム
3…放射線硬化型粘着剤層
4…剥離性シート
5…突き上げピン
6…吸引コレット
7…放射線発生源
A…ウェハ
B…放射線
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2004-12-07 
出願番号 特願平6-62610
審決分類 P 1 651・ 831- YA (H01L)
P 1 651・ 121- YA (H01L)
最終処分 維持  
前審関与審査官 小松 竜一  
特許庁審判長 西川 恵雄
特許庁審判官 岡野 卓也
上原 徹
登録日 2003-03-20 
登録番号 特許第3410202号(P3410202)
権利者 リンテック株式会社 日本テキサス・インスツルメンツ株式会社
発明の名称 ウェハ貼着用粘着シートおよびこれを用いた半導体装置の製造方法  
代理人 鈴木 亨  
代理人 鈴木 俊一郎  
代理人 高畑 ちより  
代理人 高畑 ちより  
代理人 牧村 浩次  
代理人 鈴木 亨  
代理人 鈴木 俊一郎  
代理人 鈴木 俊一郎  
代理人 高畑 ちより  
代理人 牧村 浩次  
代理人 牧村 浩次  
代理人 鈴木 亨  

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