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審決分類 審判 全部無効 2項進歩性 訂正を認める。無効とする(申立て全部成立) E04H
管理番号 1113865
審判番号 無効2003-35342  
総通号数 65 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 1988-07-27 
種別 無効の審決 
審判請求日 2003-08-25 
確定日 2004-07-26 
訂正明細書 有 
事件の表示 上記当事者間の特許第1917178号発明「雪庇発生防止装置」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 訂正を認める。 特許第1917178号の請求項1に係る発明についての特許を無効とする。 審判費用は、被請求人の負担とする。 
理由 第1.手続の経緯

昭和62年 1月19日 出願(特願昭62-11089号)
平成 3年 6月20日 出願公告(特公平3-40783号公報)
平成 3年 8月27日 特許異議の申立
平成 4年 5月 6日 手続補正書
平成 6年 8月18日 特許異議の決定(理由がない。)
平成 7年 3月23日 登録(特許1917178号)
平成15年 8月25日 本件無効審判請求
平成15年12月18日 答弁書
平成16年 2月12日 無効理由通知
平成16年 3月19日 意見書、訂正請求書
平成16年 5月11日 弁駁書

第2.請求人の請求の趣旨、無効理由及び被請求人の答弁の趣旨

1.請求人は、特許第1917178号の特許を無効とする、審判費用は被請求人の負担とする旨の審決を求め、審判請求の理由及び弁駁書において、本件特許発明及び訂正後の発明は、甲第1号証、甲第2号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明することができたものであり、特許法第29条第2項の規定に該当し、無効理由を有すると主張し、証拠方法として甲第1号証、甲第2号証を提出した。
・甲第1号証:特開昭61-179974号公報
・甲第2号証:特開昭60-159248号公報

2.一方、被請求人は、本件審判請求は成り立たない、審判費用は請求人の負担とする旨の審決を求め、答弁及び無効理由に対する意見として、請求人主張の無効理由はなく、また、訂正後の発明にも無効理由はないと主張した。

第3 訂正事項及び訂正の適否の判断

1.平成16年3月19日付けでされた訂正請求は、特許請求の範囲の減縮及び明細書の誤記の訂正を目的として、次のように訂正するものである。
(ア)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1の
「1 建築物におけるパラペット、笠木、高架鉄道や高架道路における防護壁、工作物(広告塔、看板、信号機等)などの構造物の上縁部分2の長手方向に沿う直上位置に、横断面が上記構造物の外側から内側に向って低く傾斜する傾斜面3Cを有する三角形状に形成された吹上げ部3が形成されているとともに、この吹上げ部3の頂部に沿って上方に突出する雪切り板3Dが植設されていることを特徴とする雪庇発生防止装置。」を、
「1 建築物におけるパラペット、笠木、高架鉄道や高架道路における防護壁、工作物(広告塔、看板、信号機等)などの構造物の上縁部分2の長手方向に沿う直上位置に、横断面が上記構造物の外側から内側に向って低く傾斜する傾斜面3Cを有する三角形状に形成された吹上げ部3が形成されているとともに、この吹上げ部3の頂部に沿って垂直に突出する雪切り板3Dが植設されていることを特徴とする雪庇発生防止装置。」
と訂正する。
(イ)訂正事項2
本件公告公報の「補1」頁右欄4行の「上方に」を、「垂直に」と訂正する。
(ウ)訂正事項3
本件公告公報3欄19行の「板状体」を、「吹上げ部」と訂正する。

2.訂正の適否について
訂正事項1は、特許請求の範囲の請求項1の減縮を目的とするものであり、また、訂正事項2、及び3は、特許請求の範囲の訂正に伴い明りょうでない記載の釈明を目的とするもの、及び明白な誤記の訂正を目的とするものと認められる。
そして、上記訂正事項はいずれも、願書に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内であり、実質上特許請求の範囲を拡張し、変更するものでもない。
したがって、上記訂正は、特許法第134条第2項ただし書き及び同条第5号で準用する平成15年改正前の特許法第126条第2項ないし第4項の要件を満たし、適法なものといえる。
(以下、訂正後の請求項1に係る発明を「本件訂正発明」という。)

第4 無効理由について

1.無効理由通知の要旨
平成16年2月12日付けで通知した無効理由の要旨は、訂正前の請求項1に係る発明(本件発明)について、
(1)実願昭60-50332号(実開昭61-166014号公報)のマイクロフィルム
(2)特開昭60-159248号公報(請求人提出の甲第2号証)
を示して、本件発明は、刊行物1、2記載の発明から当業者が容易に発明できたものであり、特許法第29条第2項に該当し、特許法第123条第1項第2号の規定に該当する、というものであった。
上記第3に記載したように平成16年3月19日付けの訂正請求は適法なものであることから、本件訂正発明についてなお無効理由があるかどうか以下検討する。

2.本件特許出願前に頒布された刊行物及びそこに記載された事項
(1)実願昭60-50332号(実開昭61-166014号公報)のマイクロフィルム(以下、刊行物1という。)
(ア)実用新案登録請求の範囲
「下記の条件を具備する雪庇防止覆具本体Aから成ることを特徴とする雪庇防止覆具。
(イ)屋根面Xと破風面Yが連設している軒の線上から垂直に立ち上がり、適度の巾をもち、適数箇所に適切な直接の孔の通通孔Eを穿孔し、垂直面Bを成形する。
(ロ)屋根面Xと破風面Xが連接している線から適度な巾をもち、斜めに立ちあがり、その上端を垂直Bの上端に連接させて成る斜面Cを成形する。
(ハ)雪庇防止覆具本体Aは、家屋の屋上の両側に位置し、一辺は屋根面Xに接し、一辺は破風面Yに並列に接し、一辺は屋根面Xに傾斜状に接するよう取付ける前記本体の両端は、三角面Dの形状より成る構造。」
(イ)「産業上の利用分野」の項(明細書2頁3〜4行)
「この考案は屋根の周囲に雪庇ができるのを防止する雪庇防止覆具に関するものである。」
(ウ)「従来の技術」の項(同2頁6〜20行)
「北海道地方の住宅の屋根の形状は、一家根ごとに、又は数棟の屋根面Xと、その周辺から下に連接して位置する破風面Yによって形成された形状のものが多いので、積雪時には屋根面の風下側に屋根面Xより外側にはり出して、破風面Yによつて垂れ下がる雪庇Zを作る現象が多く発生している。
平らな面の、ぎりぎり外側まで雪が積もる事により、雪庇Zの支えとなる部分を与えていた。
又、風が屋根に積もった雪の表面を横切る事によって、湿気を含み、冷やされて重くなり、破風面Yにそつて下方へまきこむ。この場合、運ばれた雪が下方へ雪庇Zを成長させている。
雪庇Zが形成される箇所の下を車や、人の通行がある場合には危険である。」
(エ)「問題を解決するための手段」の項(同3頁7行〜4頁2行)
「この考案を図面に基ずいて説明すると、雪庇防止覆具本体Aは素材を金属性、合成樹脂、木材等を用い、全体を三角状とし、その一辺に当る垂直面Bは家屋の屋根である屋根面Xと破風面Yが連接している軒の線上から垂直に立ちあがるように設け、その巾は適当を寸法を成形し、適数箇所に適当な直径の孔を穿孔した通気孔Eをもって構成されている。
斜面Cは屋根面Xと破風面Yが連接している線から、適度に屋根面Xの中央方向に入つた線上から斜めに立ちあがり、その面の上端は垂直面Bの上端に連接されている。
雪庇防止覆具本体Aは、家屋の屋上の両側に位置し、一辺は屋根面Xに接し、一辺は破風面Yに並列に接し、一辺は屋根面Xに傾斜状に接するよう取付ける。」
(オ)「作用、実施例」の項(同4頁4〜16行)
「実施態様の一例を図面に基ずいて説明するならば、本考案を取付けた家屋を正面から見た図が第2図である。図示の如く、破風面Yと垂直面Bが屋根の平面より高くなる。第3図は取付けた状態を正面から見た図で、第4図は屋根側から見た図で、雪庇の支えとなる部分は斜面Cと垂直面Bによつて切断されることによって、雪庇の発生が出来なくなる。又、斜面Cを設けたことによって、第5図に示すように破風面Yにそって、屋根より下方に吹く風Fを上向に変えてやることにより、雪庇Zが形成されない効果を発揮する。第7図は従来の危険な状態を示した図である。」
上記記載を含む明細書全体の記載及び図面を参照すると、刊行物1には、次の発明が記載されていると認められる。
「住宅の屋根の屋根面Xと破風面Yとが接している線上から垂直に設けられた垂直面と、屋根面Xと破風面Yとが接している線上から屋根面の中央方向に入った線上から斜めに設けられ、その面の上端は垂直面の上端に連接された斜面とを有する全体を三角形状とした雪庇防止覆具本体。」
(以下、刊行物1記載の発明という。)

(2)特開昭60-159248号公報(請求人提出の甲第2号証)(以下、刊行物2という。)
(ア)特許請求の範囲
「(1)省略
(2)家屋の屋根の軒先部分に軒先に平行に水勾配を付け、該軒先部分に通気口を設け、ルーフ本体を軒先に平行に該軒先部分上に取り付け、前記ルーフ本体の上部にスノーカツト板を固定し、前記ルーフ本体の軒先中央部に排水溝を設け、前記ルーフ本体の両側面にサイド・カバーを固定し、該ルーフ本体の中央部排水溝側面に排水溝側面カバーを固定し、該排水溝に板状ヒータを取り付けたことを特徴とするスノーストツプ・ルーフ。」
(イ)2頁右上欄5〜15行
「第3図に示すように、新築または既設家屋のカラー長尺屋根10の上に軒先部分と平行に水勾配11を付け、軒先部分の野地板12(第4図)に小屋裏換気用の通気口13を明け、ルーフ本体14を軒先と平行に取り付ける。ルーフ本体14の軒先中央部には排水溝15を設け、そこに板状ヒータ16を取り付ける。
第4図に示すように、ルーフ本体14の軒先部は釘止め141とし、鼻母屋24の上部は既設のトタン17と巻はぜ納め142としてルーフ本体14を屋根10に固定する。」
(ウ)2頁左下欄3〜7行
「ルーフ本体14の上部には、スノーカツト板22が取り付けられる。このスノーカツト板22は、雪が屋根に積つてきたとき、軒先部と屋根面とを分けて、軒先側の雪を円滑に軒下に落す働きをする。」
(エ)第4図には、屋根の外側から内側に向かって低く傾斜する傾斜面と、屋根の内側から外側に向かって低く傾斜する傾斜面と、該2つの傾斜面からなる角部に微小平面を有する略三形状に形成された三角形状部が形成されているとともに、この三角形状部の頂部に沿って外側に斜め上方に突出するスノーカツト板22が取り付けられているルーフ本体14が記載されている。
上記記載を含めた明細書全体の記載及び第3〜5図の記載から、甲第2号証には、次の発明が記載されているものと認められる。
「家屋の屋根の軒先部分上で軒先に平行に、横断面が上記屋根の外側から内側に向って低く傾斜する傾斜面と、角部に微小平面を有する略三形状に形成された三角形状部が形成されているとともに、この三角形状部の頂部に沿って外側に斜め上方に突出するスノーカツト板が取り付けられているルーフ本体。」
(以下、刊行物2記載の発明という。)

3.対比、判断
(1)対比に先立ち、本件訂正発明において、「吹上げ部3」及び「垂直」がどのようなものか検討する。
(ア)本件明細書には、「吹上げ部3」に関し、特許請求の範囲以外には、発明の効果として「屋上積雪の少ない場合は、上記吹上げ部3の吹き払い効果だけで、雪庇の発生防止が可能である。」(特公平3-40783号公報4欄15〜17行参照。なお、平成4年5月6日付け手続補正により「板状体」が「吹上げ部」に補正された。)との記載があるのみである。そして、これは、積雪の少ない場合に、構造物の内側から外側に向って風が吹くと、その風は、構造物の外側から内側に向って低く傾斜する傾斜面3Cに当たり、上方へ誘導され(吹き上げられ)、そのことによって傾斜面の上方の雪を払うことをいうものと考えられる。
(イ)本件訂正発明の雪切り板3Dは、「吹上げ部3の頂部に沿って垂直に突出する」ものであるが、何に対して「垂直」なのか明細書には記載されておらず、明確でない。しかしながら、図面において、雪切り板3Dは、水平な地面に対して垂直、つまり「鉛直」であることを念頭にして、記載されていると解されるから、本件訂正発明において、「垂直」は「鉛直」を意味する用語として用いられていると解される。
(2)一方、刊行物1記載の発明の斜面Cは、屋根面の外側から内側に向って低く傾斜する傾斜面3Cであって、「斜面Cを設けたことによって、第5図に示すように破風面Yにそって、屋根より下方に吹く風Fを上向に変えてやることにより、雪庇Zが形成されない効果を発揮する」(上記2、(1)、(オ)参照)ものであり、屋根面Xから破風面Yに向かって吹く風は、該斜面Cによって上向きに変えられ、雪を払うのであるから、本件訂正発明の「吹き上げ部」と同様に吹き上げられているということができる。
(3)上記検討を踏まえ本件訂正発明と刊行物1記載の発明とを対比すると、刊行物1記載の発明の「斜面」、「雪庇防止覆具本体」は、本件訂正発明の「吹上げ部」、「雪庇発生防止装置」に相当し、刊行物1記載の発明の「家屋の屋根」と、本件訂正発明の「建築物におけるパラペット、笠木、高架鉄道や高架道路における防護壁、工作物(広告塔、看板、信号機等)などの構造物」とは、いずれも「構造物」である点で共通するから、両発明は、
「構造物の上に、横断面が上記構造物の外側から内側に向って低く傾斜する傾斜面を有する三角形状に形成された吹上げ部が形成されている雪庇発生防止装置。」
の点で一致しており、以下の点で相違しているものと認められる。
相違点1:雪庇発生防止装置の取付位置に関し、本件訂正発明は、建築物におけるパラペット、笠木、高架鉄道や高架道路における防護壁、工作物(広告塔、看板、信号機等)などの構造物の上縁部分の長手方向に沿う直上位置であるに対し、刊行物1記載の発明では、家屋の屋根面と破風面とが接している部分の長手方向に沿う位置である点。
相違点2:本件訂正発明は、吹き上げ部の頂部に沿って垂直に突出する雪切り板が植設されているのに対し、刊行物1記載の発明には、雪切り板が設けられていない点。
(4)判断
(ア)上記相違点1について
本件明細書には「従来、降雪地方における建築物におけるパラペツトの上縁部分、笠木の上縁部分、高架鉄道や高架道路における防護壁の上縁部分、工作物(広告塔、看板、信号機等)の上縁部分などは、吹き付ける風によつてこれら上縁部分における風下側に雪庇が発生し増大し、さらに落下する。」(特公平3-40783号公報1欄23〜28行参照。)と記載されている。そして、建築物におけるパラペット、笠木、高架鉄道や高架道路における防護壁、工作物(広告塔、看板、信号機等)などの構造物の上縁部分に雪庇が発生すること、家屋の軒先に雪庇が発生することは、いずれも、降雪地方でしばしば経験され、周知の事項である。
そうすると、雪庇が発生する可能性のある場所である家屋の屋根面と破風面とが接している部分の長手方向に沿う位置に、雪庇発生防止装置を取り付けることが記載されている刊行物1に接した当業者が、同じく、雪庇が発生する可能性のある場所である上記相違点1に係る位置(建築物におけるパラペット、笠木、高架鉄道や高架道路における防護壁、工作物(広告塔、看板、信号機等)などの構造物の上縁部分の長手方向に沿う直上位置)に、雪庇発生防止装置を取り付けようと思い到ることは当然のことであり、上記相違点1に係る構成のようにすることは当業者が容易になし得る程度のことである。
(イ)相違点2について
刊行物2には上記したように、「家屋の屋根の軒先部分上で軒先に平行に、横断面が上記屋根の外側から内側に向って低く傾斜する傾斜面と、角部に微小平面を有する略三形状に形成された三角形状部が形成されているとともに、この三角形状部の頂部に沿って外側に斜め上方に突出するスノーカツト板が取り付けられているルーフ本体。」の発明が記載されており、刊行物2記載の発明の「スノーカツト板」は、「雪が屋根に積つてきたとき、軒先部と屋根面とを分けて、軒先側の雪を円滑に軒下に落す働きをする。」(上記2、(2)、(ウ)参照)ものであるから、「スノーカツト板」の上部に雪が積もった時には、積もった雪を軒先部と屋根面とを分けて、軒先側の雪を軒下に落すものであって、本件訂正発明の「雪切り板」と同様に、「雪切り板によって雪の粘着性を軽減し、雪庇が成長する前に落下させる」(本件特許公報4欄11行〜13行参照)という作用を奏するものである。
そして、刊行物2記載の発明の「スノーカツト板」を、本件訂正発明のように「鉛直」に突出させることは、雪庇が成長する前に落下させるために当業者が必要により適宜できる事項にすぎない。
そうすると、刊行物2記載の発明の「スノーカツト板」を、刊行物1記載の発明の雪庇発生防止装置に適用して上記相違点2に係る構成とすることは、当業者が容易になし得る程度のことである。

(ウ)さらに、本件訂正発明の構成によって奏する作用効果も、刊行物1記載の発明及び刊行物2記載の発明から当業者が容易に予測しうる程度のものである。
したがって、本件訂正発明は、刊行物1、2記載の発明から当業者が容易に発明できたものであり、特許法第29条第2項に該当するものである。

4.被請求人の主張について
被請求人は、平成16年3月19日付け意見書において次のように主張する。
(ア)刊行物2記載の「スノーカット板」は、熱を利用するものであって、本件訂正発明の「雪切り板」のように雪の重みを利用するものではないから、刊行物2記載の「スノーカット板」を本件訂正発明の「雪切り板」に相当するとした点は誤りである。
(イ)刊行物2記載の「スノーカット板」を刊行物1記載の雪庇発生防止装置に適用し得るとした点は誤っている。
しかしながら、(ア)の主張については、刊行物2記載の発明の「スノーカット板」は、熱を利用しているかどうかは別として、「スノーカツト板」の上部に雪が積もった時には、積もった雪を軒先部と屋根面とを分けて、軒先側の雪を軒下に落すものであって、その場合には雪の重みを利用しているといえる。
次に、(イ)の主張については、刊行物1記載の発明の雪庇防止覆具本体の斜面は、本件訂正発明の吹き上げ部と同様に、積雪が少ない時には雪を吹き払う作用を奏し、また、刊行物2記載の発明の「スノーカット板」は、上記したように「スノーカツト板」の上部に雪が積もった時には、積もった雪を軒先部と屋根面とを分けて、軒先側の雪を軒下に落すものであるから、本件訂正発明の「雪切り板」と同様に積雪が多い場合に、積雪の沈降作用によって積雪を切るものである。そして、刊行物2記載の発明の「スノーカット板」を、刊行物1記載の発明の雪庇防止覆具本体の上部に適用することを阻害すべき理由もない。
したがって、被請求人の主張は採用できない。

第5 まとめ

以上のように、本件訂正発明(訂正後の請求項1記載の発明)の特許は、特許法第29条2項の規定に違反してなされたものであって、特許法第123条第1項第2号の規定に該当し、無効にすべきものである。
審判に関する費用については、特許法第169条第2項の規定で準用する民事訴訟法第61条の規定により被請求人が負担すべきものとする。
よって、結論のとおり審決する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
雪庇発生防止装置
(57)【特許請求の範囲】
1. 建築物におけるパラペット、笠木、高架鉄道や高架道路における防護壁、工作物(広告塔、看板、信号機等)などの構造物の上縁部分2の長手方向に沿う直上位置に、横断面が上記構造物の外側から内側に向って低く傾斜する傾斜面3Cを有する三角形状に形成された吹上げ部3が形成されているとともに、この吹上げ部3の頂部に沿って垂直に突出する雪切り板3Dが植設されていることを特徴とする雪庇発生防止装置。
2. 上記雪切り板3Dは、上記吹上げ部3の長手方向に対して、所定間隔Dをもって点在せしめた特許請求の範囲第1項記載の雪庇発生防止装置。
【発明の詳細な説明】
A 発明の目的
a 産業上の利用分野
本発明は、建築物におけるパラペットの上縁部分、笠木の上縁部分、高架鉄道や高架道路における防護壁の上縁部分、工作物(広告塔、看板、信号機等)の上縁部分などに発生しようとする雪庇を防止する装置に関するものである。
b 従来の技術とその問題点
従来、降雪地方における建築物におけるパラペットの上縁部分、笠木の上縁部分、高架鉄道や高架道路における防護壁の上縁部分、工作物(広告塔、看板、信号機等)の上縁部分などは、吹き付ける風によってこれら上縁部分における風下側に雪庇が発生し増大し、さらには落下する。
そこで、雪庇の発生原理を説明すると、下記の通りである。
屋上の雪庇6は、第5図に示すように屋根面を吹く風7で運ばれてきた飛雪が、笠木を吹き越す際、その粘着性により付着しながら風下に向かって成長し発達する。従って、降雪だけでは雪庇の発生は問題とならず、吹雪の時に限って発生する。図中、6Aはつららである。
このようなことから、建築物において、この雪庇が発生した場合は、雪庇が発生し増大すると軒下などに落下するなどして、通行人等に危害を与える危険性がある。また、上記防護壁の上縁部分などに雪庇が発生した場合も、同様な心配があると共に高架鉄道や高架道路内外に落下した場合は、交通の障害になるなどの問題がある。
B 発明の構成
a 問題を解決しようとする手段
本発明では、下記の構成のものによって上述した問題を解決しようとするものである。すなわち、本発明のものは
建築物におけるパラペット、笠木、高架鉄道や高架道路における防護壁、工作物(広告塔、看板、信号機等)などの構造物の上縁部分2の長手方向に沿う直上位置に、横断面が上記構造物の外側から内側に向かって低く傾斜する傾斜面3Cを有する三角形状に形成された吹上げ部3が形成されているとともに、この吹上げ部3の頂部に沿って垂直に突出する雪切り板3Dが植設されている雪庇発生防止装置である。
b 発明の実施例
1は本発明の雪庇発生防止装置である。
2は上記雪庇発生防止装置1が取付けられるべき建築物におけるパラペットの上縁部分、笠木の上縁部分、高架鉄道や高架道路における防護壁の上縁部分などである。
そこで、上記雪庇発生防止装置1は上記建築物におけるパラペット、笠木、高架鉄道や高架道路における防護壁、工作物(広告塔、看板、信号機等)上縁部分2などに当該上縁部分2の長手方向をもって添設された所定巾3Aと所定厚さ3Bを有する吹上げ部3となっているとともに、この吹上げ部3には上記構造物の外側から内側に向けて低く傾斜する傾斜面3Cが形成されている。そして、この吹上げ部3の頂部に沿って上方に突出する雪切り板3Dが植設されている。
なお、上記雪切り板3Dは、上記吹上げ部3の長手方向に対して、所定間隔Dをもって点在せしめてもよい。
なお、上記吹上げ部3の長さと、上記雪切り板3Dの長さとの関係は必ずしも同じ長さでなくてもよく、上記雪切り板の長さは任意の長さを選定出来る。
この場合、上記吹上げ部3は上述の如く、上記上縁部分2と一体に構成しても、また別造りもの3-1を上記上縁部分2の上部に取付けてもよい。
又、使用する素材については、例えばフッ素樹脂をコーティングした素材セラミックス、アルミ、ステンレス、カラー鋼板、木材等の如く雪の付着しずらい素材及び塗料など巾広い素材を使用する。
c 作用
第4図を参照して
(イ) θ=45°程度から風下に発生する渦が壁面から離れる。従って、θ≧45°とする必要がある。
(ロ) 傾斜面に雪が積った場合、雪切り板によって雪の粘着性を軽減し、雪庇が成長する前に落下させる。
C 発明の効果
a 屋上積雪の少ない場合は、上記吹上げ部3の吹き払い効果だけで、雪庇の発生防止が可能である。
b 既存の建築物及び高架鉄道、高架道路における雪庇発生を軽減する場合は、上記吹上げ部3を取付けることにより効果がある。
【図面の簡単な説明】
第1図は略図的斜視図、第2図、第3図は他の実施例の斜視図、第4図は作用を示す側面図、第5図は雪庇発生原理を説明する略図的断面図である。
1…雪庇発生防止装置、2…上縁部分、3…吹上げ部、3D…雪切り仮。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
審理終結日 2004-06-02 
結審通知日 2004-06-03 
審決日 2004-06-15 
出願番号 特願昭62-11089
審決分類 P 1 112・ 121- ZA (E04H)
最終処分 成立  
前審関与審査官 伊波 猛渡戸 正義  
特許庁審判長 田中 弘満
特許庁審判官 新井 夕起子
山田 忠夫
登録日 1995-03-23 
登録番号 特許第1917178号(P1917178)
発明の名称 雪庇発生防止装置  
代理人 細井 貞行  
代理人 石渡 英房  
代理人 長南 満輝男  
代理人 瀬川 幹夫  
代理人 瀬川 幹夫  

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